特許第6798918号(P6798918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧

特許6798918リチウムイオン電池スクラップの処理方法
<>
  • 特許6798918-リチウムイオン電池スクラップの処理方法 図000004
  • 特許6798918-リチウムイオン電池スクラップの処理方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798918
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池スクラップの処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20201130BHJP
【FI】
   H01M10/54
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-68510(P2017-68510)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-170223(P2018-170223A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大塚 教正
【審査官】 杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−17832(JP,A)
【文献】 特開2014−199776(JP,A)
【文献】 特開2016−37661(JP,A)
【文献】 特開2016−69733(JP,A)
【文献】 特開2016−219401(JP,A)
【文献】 特開2017−36490(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0077564(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/52
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池スクラップを処理する方法であって、リチウムイオン電池スクラップに対して焙焼処理を施し、前記リチウムイオン電池スクラップに含まれるバインダーを分解する焙焼工程と、前記焙焼工程で焙焼したリチウムイオン電池スクラップを破砕する破砕工程と、破砕工程で得られた破砕物を篩別する篩別工程と、篩別工程で篩上に残った篩上物に対し、水又は酸性水溶液である液体を用いて、前記篩上物から金属粉を剥離させて分離させ、金属粉および分離後液を得る湿式剥離工程と、湿式剥離工程で得られる分離後液からリチウムを回収するリチウム回収工程とを有する、リチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項2】
湿式剥離工程で得られる分離後液のpHを、7〜10とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項3】
前記湿式剥離工程で、前記篩上物を前記液体に投入し、該液体中で前記篩上物から金属粉を剥離させて分離させる、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項4】
湿式剥離工程で得られる金属粉から、コバルト、ニッケルおよびマンガンからなる群から選択される少なくとも一種の金属を回収する、請求項1〜のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項5】
湿式剥離工程で、篩上物から金属粉を剥離させた後、金属粉と分離後液とを分離させる前に、ストレーナーにより分離された篩上物から銅および/またはアルミニウムを含む金属を回収する、請求項1〜のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオン電池スクラップの処理方法に関するものであり、特には、リチウムイオン電池スクラップからの所定の金属の回収率を向上させ、資源の更なる有効利用を図ることのできる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の電子デバイスをはじめとして多くの産業分野で使用されているリチウムイオン電池は、マンガン、ニッケルおよびコバルトを含有するリチウム金属塩を正極活物質として用い、その正極活物質を含む正極材及び負極材の周囲を、アルミニウムを含む筐体で包み込んだものであり、近年は、その使用量の増加および使用範囲の拡大に伴い、電池の製品寿命や製造過程での不良により廃棄される量が増大している状況にある。
かかる状況の下では、大量に廃棄されるリチウムイオン電池スクラップから、上記のニッケルおよびコバルト等の有価金属を、再利用するべく比較的低コストで容易に回収することが望まれる。
【0003】
有価金属の回収のために、廃棄等されたリチウムイオン電池スクラップを処理するには、はじめに、リチウムイオン電池スクラップを焙焼することによって、内部に含まれる有害な電解液を除去して無害化する焙焼工程、及び、その後に破砕、篩別を順に行って、筐体や正極基材に含まれるアルミニウムをある程度除去する破砕・篩別工程を実施する。
次いで、破砕・篩別工程の篩下に得られる粉末状の電池粉を浸出液に添加して浸出し、そこに含まれ得るリチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、アルミニウム等を溶液中に溶解させる浸出工程を行う。
【0004】
そしてその後、浸出工程で得られた浸出後液に溶解している各金属元素を分離させる回収工程を行う。ここでは、浸出後液に浸出しているそれぞれの金属を分離させるため、浸出後液に対し、分離させる金属に応じた複数段階の溶媒抽出もしくは中和等を順次に施し、さらには、各段階で得られたそれぞれの溶液に対して、逆抽出、電解、炭酸化その他の処理を施す。具体的には、まずアルミニウムを回収し、続いてマンガンおよび銅、そしてコバルト、その後にニッケルを回収して、最後に水相にリチウムを残すことで、各有価金属を回収することができる。
なお、特開2014−199776号公報には、「リチウムイオン電池用正極材を正極活物質と集電体に分離回収する方法において、正極活物質と集電体の高い分離回収効率を達成すること」を課題とし、「(A)集電体と正極活物質がバインダーにより接着している構成を有するリチウムイオン電池用正極材を準備する工程と、(B)前記正極材に観察視野1mm2当たりに複数の凹凸を付与する衝撃力を与える過程を通じて正極材を集電体と正極活物質に分離し、正極材の粉砕物を回収する工程と、(C)工程(B)の後、前記粉砕物を目開きが0.1〜1.0mmの篩で篩別して、篩上側に集電体、篩下側に正極活物質を回収する工程と、(D)篩上に回収した集電体を、誘電率が25〜50である非プロトン性極性溶媒と接触させ、バインダー成分を溶解することにより、集電体上に残存している正極活物質を分離する工程と、を含むリチウムイオン電池用正極材から集電体及び正極活物質を分離回収する方法」が提案されている。また、同公報には、「(A)集電体と正極活物質がバインダーにより接着している構成を有するリチウムイオン電池用正極材を準備する工程と、(G):前記正極材に対して塊状の粉砕媒体を用いて集電体及び正極活物質に分離する工程(G−1)と、篩別により篩上側に集電体を回収し、篩下側に主として正極活物質を回収する工程(G−2)とを同時に行うこと、(D)篩上に回収した集電体を、誘電率が25〜50である非プロトン性極性溶媒と接触させ、バインダー成分を溶解することにより、集電体上に残存している正極活物質を分離する工程と、を含むリチウムイオン電池用正極材から集電体及び正極活物質を分離回収する方法」についても記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の金属回収技術では、上述した篩別による篩下の電池粉に含まれ得るアルミニウムを可能な限り減らすとともに、篩上に活物質等の回収対象金属が残ってロスとならないように、破砕や篩別その他のアルミニウム除去処理等の条件を重視し、その改善が検討されているも、その多くは複雑な設備ないしプロセスを要し、大幅な投資が必要になる。
この一方で、篩上にも、ある程度の量の回収対象金属が含まれることが多く、この篩上物からも金属を回収することが、資源の更なる有効利用の観点から望ましい。
【0006】
この発明は、このような点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、リチウムイオン電池スクラップを破砕して得られた破砕物を篩別した際に、篩上に残留する篩上物から金属を回収して、資源の更なる有効利用を図ることのできるリチウムイオン電池スクラップの処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、リチウムイオン電池スクラップの破砕物を篩別して、篩上に残る篩上物に含まれ得る回収対象金属の状態等について鋭意検討した結果、液体を用いて篩上物を処理して、篩上物から金属粉を剥離させる湿式剥離工程を行うことが有効であることを見出した。
【0008】
このような知見の下、この発明のリチウムイオン電池スクラップの処理方法は、リチウムイオン電池スクラップを処理する方法であって、リチウムイオン電池スクラップに対して焙焼処理を施し、前記リチウムイオン電池スクラップに含まれるバインダーを分解する焙焼工程と、前記焙焼工程で焙焼したリチウムイオン電池スクラップを破砕する破砕工程と、破砕工程で得られた破砕物を篩別する篩別工程と、篩別工程で篩上に残った篩上物に対し、水又は酸性水溶液である液体を用いて、前記篩上物から金属粉を剥離させて分離させ、金属粉および分離後液を得る湿式剥離工程と、湿式剥離工程で得られる分離後液からリチウムを回収するリチウム回収工程とを有するものである。
【0009】
前記湿式剥離工程では、前記篩上物を前記液体に投入し、該液体中で前記篩上物から金属粉を剥離させて分離させることが好ましい。
【0010】
湿式剥離工程で得られる分離後液のpHは、7〜10とすることが好ましい。
【0012】
また、上述したリチウムイオン電池スクラップの処理方法では、湿式剥離工程で得られる金属粉から、コバルト、ニッケルおよびマンガンからなる群から選択される少なくとも一種の金属を回収することが好ましい。
【0013】
湿式剥離工程では、篩上物から金属粉を剥離させた後、金属粉と分離後液とを分離させる前に、ストレーナーにより分離された篩上物から銅及び/又はアルミニウムを含む金属を回収することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明のリチウムイオン電池スクラップの処理方法によれば、篩別工程で篩上に残った篩上物を該液体中で処理して、篩上物から金属粉を剥離させる湿式剥離工程を行うことにより、篩上に残留する篩上物から金属を回収することができるので、資源の更なる有効利用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の一の実施形態に係るリチウムイオン電池スクラップの処理方法を示すフロー図である。
図2】実施例の試験を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係るリチウムイオン電池スクラップの処理方法は、図1に例示するように、リチウムイオン電池スクラップを加熱して焙焼する焙焼工程と、リチウムイオン電池スクラップを破砕する破砕工程と、破砕工程で得られた破砕物を篩別する篩別工程と、篩別工程で篩上に残った篩上物を液体に投入し、該液体中で前記篩上物から金属粉を剥離させ、固液分離により金属粉および分離後液を得る湿式剥離工程とを有する。
【0017】
(リチウムイオン電池スクラップ)
この発明で対象とするリチウムイオン電池スクラップは、携帯電話その他の種々の電子機器、自動車等の様々な機械ないし装置で使用され得るリチウムイオン電池の廃棄物等である。より具体的は、たとえば、電池製品の寿命や製造不良またはその他の理由によって廃棄もしくは回収されたもの等であり、このようなリチウムイオン電池スクラップを対象とすることにより、資源の有効活用を図ることができる。
【0018】
リチウムイオン電池スクラップとしては、いわゆる電池滓とすることができ、この電池滓にアルミニウム箔付き正極材もしくは正極活物質を混合したものでもよく、また、電池滓を、必要に応じて焙焼し、化学処理し、破砕し、および/もしくは篩別したもの等とすることができる。
【0019】
電池滓には、マンガン、ニッケル及びコバルトを含有するリチウム金属塩である正極活物質の他、カーボン、鉄及び銅を含む負極材や、正極活物質が、たとえばポリフッ化ビニリデン(PVDF)その他の有機バインダー等によって塗布されて固着されたアルミニウム箔(正極基材)、リチウムイオン電池の周囲を包み込む外装としてのアルミニウムを含む筐体が含まれることがある。具体的には、リチウムイオン電池には、正極活物質を構成するリチウム、ニッケル、コバルト、マンガンのうちの一種の元素からなる単独金属酸化物および/または、二種以上の元素からなる複合金属酸化物、並びに、アルミニウム、銅、鉄、カーボン等が含まれ得る。
【0020】
筐体で包み込まれたリチウムイオン電池スクラップは、実質的に正方形もしくは長方形状の平面輪郭形状を有するものとすることができ、この場合、処理前の寸法として、たとえば、縦が40mm〜80mm、横が35mm〜65mm、厚みが4mm〜5mmのものを対象とすることができるが、このような寸法形状のものに限定されない。
【0021】
(焙焼工程)
焙焼工程では、上記のリチウムイオン電池スクラップに対して焙焼処理を施す。この焙焼工程は、リチウムイオン電池スクラップの温度を上昇させ、内部の電解液を除去して無害化すること、ならびに、一般には、アルミニウム箔と正極活物質を結着させているバインダーを分解し、破砕・篩別時のアルミニウム箔と正極活物質の分離を促進して篩下に回収される正極活物質の回収率を高くし、さらには、リチウムイオン電池スクラップに含まれる有価金属を、浸出工程で浸出させやすい形態に変化させること等を目的として行う。
但し、ここでは、篩上に残留する篩上物から、正極活物質等に含まれる有価金属を回収することを企図するものであるので、篩下の正極活物質の回収率向上を目的とした焙焼工程での過剰な設備投資等は必ずしも必要ではない。
【0022】
焙焼工程では通常、リチウムイオン電池スクラップを、450℃以上に維持して加熱する。それにより、正極活物質のリチウム金属塩(コバルト系の場合はLiCoO2)が分解され、多くのコバルトを、酸浸出しやすい酸化コバルト(CoO)や単体コバルトの形態とすることができる。一方、この際の温度が高すぎると、融点が660℃のアルミニウムが融解するので、温度は、たとえば、リチウムイオン電池スクラップの筐体の表面温度で測って、450℃〜650℃程度とし、この温度を20分〜120分程度維持することができる。
【0023】
(破砕工程)
次いで、主として、上述したように焙焼したリチウムイオン電池スクラップの筐体を破壊するとともに、正極活物質が塗布されたアルミニウム箔から正極活物質を選択的に分離させるため、破砕工程を行う。それにより、リチウムイオン電池スクラップが破砕されて、破砕物が得られる。
【0024】
ここでは、種々の公知の装置ないし機器を用いることができるが、特に、リチウムイオン電池スクラップを切断しながら衝撃を加えて破砕することのできる衝撃式の粉砕機を用いることが好ましい。この衝撃式の粉砕機としては、サンプルミル、ハンマーミル、ピンミル、ウィングミル、トルネードミル、ハンマークラッシャ等を挙げることができる。なお、粉砕機の出口にはスクリーンを設置することができ、それにより、リチウムイオン電池スクラップは、スクリーンを通過できる程度の大きさにまで粉砕されると粉砕機よりスクリーンを通じて排出される。
【0025】
(篩別工程)
破砕工程の後、適切な目開きの篩を用いて破砕物を篩別する篩別工程を行う。それにより、一般に、篩下には、上記の破砕工程でアルミニウムから分離された細かい粉状の正極活物質が多く存在し、この一方で、篩上には、それよりも大きな粒状のアルミニウム箔や銅箔が残留する。
【0026】
篩別工程では一般に、篩下物に含まれるアルミニウム品位が10質量%以下となるように、篩別に用いる篩の目開きを設定する。より典型的には、篩下物中のアルミニウム品位が6質量%以下とすることがある。また、コバルト回収率を高め、そのような篩下物のアルミニウム品位となるように、先述の焙焼工程、破砕工程と合わせて条件を総合的に制御する。
具体的には、たとえば目開きが1〜4mmの篩、典型的には1〜2mmの篩により篩別を行うことができる。これにより、篩下物中のアルミニウム及び鉄の量を少なくなって、篩下物の処理が良好になる。
【0027】
但し、上記のように篩の目開きを設定しても、篩上物に回収対象の金属がある程度含まれることは否めず、このような篩上物から金属を回収するべく以下の工程を実施する。篩上物にごく微量であっても回収対象の金属が含まれる場合は、この発明を適用することが有効であり、上述した条件に限定されるものではない。
【0028】
(湿式剥離工程)
篩別工程の篩上物として残留するアルミニウム箔や銅箔には、破砕工程で分離されなかった正極活物質等の有価金属がある程度付着しており、この発明では、このような篩上物から所定の金属を回収するため、篩上物に対して湿式剥離工程の処理を施す。
仮にリチウムイオン電池スクラップが三元系の正極材を有する物である場合、篩上物中には、たとえば、コバルトが10質量%〜50質量%、ニッケルが5質量%〜20質量%、マンガンが0.1質量%〜5質量%、リチウムが0.1質量%〜5質量%、アルミニウムが10質量%〜50質量%、銅が10質量%〜30質量%で含まれることがある。
【0029】
湿式剥離工程では、水、又は酸性水溶液の所定の液体を用いて、篩上物のアルミニウム箔や銅箔等に付着している金属を剥離させる。篩下物を洗った後の水溶液はリチウムが溶けてアルカリ性になるので、後述するように分離後液のpHが7〜10となるように、液体は、水又は酸性水溶液が望ましく、また、pH調整のため、湿式剥離工程後の水溶液に酸を加えてもよい。ここで、液体を用いるのは、液体により箔上の金属粉に作用する力に基き、該金属粉をアルミニウム箔等から分離させるためである。
【0030】
たとえば、液体を溜めた槽内に篩上物を投入し、たとえば、槽内の羽根ないしドラム等の回転による撹拌、振とう等により、液体の水流や、液体中での篩上物同士の衝突等による箔上の金属粉への力の作用により、篩上物のアルミニウム箔等から、そこに付着している金属を剥離させることができる。なお超音波を用いて液体を撹拌ないし振とうしてもよい。あるいは、篩上物に対して液体を噴射し、その衝撃力に基いて箔上の金属粉を剥離させることもできる。いずれにしても、液体を用いることにより、液体と篩上物を混合させることができる。篩上物と液体とが比較的大きな力で接触すれば、噴射、撹拌等といったその具体的な態様は問わない。
そしてその後、固液分離を行って金属粉と分離後液とを分離させ、それらをそれぞれ得ることができる。
【0031】
これにより、篩別工程の篩上に残った正極活物質等の有価金属を含む金属粉を、アルミニウム箔等から有効に分離できるので、リチウムイオン電池スクラップからの有価金属の回収率を高めることができて、リサイクルの観点から有利である。また、これまでに、篩上に有価金属ができる限り残らないようにしてロスを減らす種々の手法が提案されているも、この発明では、そのような手法に必要な設備やプロセスの複雑化、それによる大きな投資を要せずに、簡便なプロセスにて回収率向上を実現することができる。
【0032】
しかもここでは、液体を用いる湿式剥離とすることにより、特定化学物質であるニッケル、コバルト、マンガン等の粉塵が生じ難くなり、安全衛生の観点でも有効である。
さらに、湿式処理とすることにより、後述するように、篩上物に含まれることのあるリチウムが液体中に溶解し、リチウムを溶液で回収できるという利点もある。
【0033】
篩上物を投入した液体を撹拌ないし振とうすると、液体と篩上物とを有効に混合させることができるとともに、撹拌等による力ないし、篩上物を構成する粒子同士の衝突等による衝撃で、アルミニウム箔等から正極活物質を効果的に剥ぎ取ることができる。但し、この撹拌等によりアルミニウム箔や銅箔が細かく粉砕されてしまうと、得られる金属粉中の銅やアルミニウム品位が増加するので留意が必要である。
【0034】
このような撹拌等により、液体中で篩上物から金属粉を十分に剥離させた後は、当該液体をストレーナーで濾して、ストレーナーの篩上物から、そこに含まれる銅及びアルミニウムのうちの少なくとも一種を含む金属、たとえば、銅箔やアルミニウム箔等の銅滓、アルミニウム滓を回収することが好ましい。
ここで用いるストレーナーは、金属粉が篩下に、銅箔やアルミニウム箔等が篩上になるような篩目であればよく、例えば、最初の篩別工程の篩と同じ目であってもよいとすることが好適である。
【0035】
そしてその後、フィルタープレスやシックナー等の公知の装置及び方法を用いて固液分離を行い、金属粉と分離後液とに分離させる。それにより、金属粉からは銅やアルミニウムが十分に除去され、またリチウムも液体に溶けて除去される。
リチウムイオン電池スクラップが三元系の正極材を有する物である場合を例として述べると、この金属粉には、たとえば、コバルトが5質量%〜30質量%、ニッケルが5質量%〜30質量%、マンガンが5質量%〜30質量%、リチウムが1質量%〜15質量%、アルミニウムが1質量%〜30質量%、銅が1質量%〜30質量%で含まれる。
【0036】
(リチウム回収工程)
湿式剥離工程での上述したような処理により、液体中に、篩上物に含まれ得るリチウムが溶解したことにより、分離後液はリチウム溶解液となっていることがある。この場合、当該分離後液からリチウムを回収することが好ましい。分離後液のリチウム濃度は、たとえば0.5g/L〜10g/Lである場合がある。
【0037】
分離後液のpHは、7〜10であることが好ましい。pHが低すぎると、Co、Niなどを含む重金属やAlなどの不純物がLi浸出液中に溶出することとなり、またpHが高すぎると、AlがLi浸出液中に溶出するからである。それ故に、より好ましくは、分離後液のpHは8〜9である。
【0038】
分離後液からのリチウムの回収は、公知の様々な手法により行うことが可能であるが、たとえば、炭酸塩の添加ないし炭酸ガスの吹込み等によりリチウムを炭酸化して、炭酸リチウムとして回収することができる。
【0039】
(篩下物の処理)
篩下物に対しては一般的な方法により処理を施し、これからコバルト、ニッケル、マンガン等の有価金属を回収することができる。
その一例としては、篩上物を浸出液に添加して浸出し、その浸出後液に対して複数段階の溶媒抽出もしくは中和等を施し、各段階で得られた溶液に対して、逆抽出、電解、炭酸化等を行うことができる。
【実施例】
【0040】
次に、この発明を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は、単なる例示を目的とするものであって、それに限定されることを意図するものではない。
【0041】
図2に示すように、125gの篩上物を500mLの水に投入し、1000mLの容器に入れて振とうさせたところ、その状態ではpHは11.5だったため、硫酸を添加しpHを8.1に調整した。これに対し、ストレーナーとしての目開き850μmの篩で一次濾過を行った。それにより得られたスラリーを、5種Aの濾紙にて濾す二次濾過を行って、金属粉と濾液を得た。
金属粉の品位を表1に、濾液中の各物質の濃度を表2にそれぞれ示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
以上の結果より、篩上物からも有価金属を有効に回収できることが解かる。よって、この発明によれば、資源の更なる有効利用を図ることができることが解かった。
図1
図2