特許第6798970号(P6798970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6798970分割リング共振器およびメタマテリアル動的素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798970
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】分割リング共振器およびメタマテリアル動的素子
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/02 20060101AFI20201130BHJP
【FI】
   H01Q15/02
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-239418(P2017-239418)
(22)【出願日】2017年12月14日
(65)【公開番号】特開2019-106662(P2019-106662A)
(43)【公開日】2019年6月27日
【審査請求日】2019年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】来山 大祐
(72)【発明者】
【氏名】野坂 秀之
【審査官】 鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−041138(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0262766(US,A1)
【文献】 特開2015−231182(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0085711(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0206963(US,A1)
【文献】 来山 大祐,矢板 信野,野坂 秀之,単層分割リング共振器アレイを用いた透過強度分布の動的形成によるマイクロ波可変焦点レンズの基礎検討 Microwave variable-focal-length lens by dynamic control of intensity profile in varactor-loaded split-ring-resonator array,電子情報通信学会2017年エレクトロニクスソサイエティ大会講演論文集1 PROCEEDINGS OF THE 2017 IEICE ELECTRONICS SOCIETY CONFERENCE,一般社団法人電子情報通信学会,2017年 8月29日,p.44,ISSN 1349-1423
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00−25/04
H01P 1/00−11/00
H03J 1/00− 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の第1の導体部と、前記第1の導体部によって囲まれた空間内に形成された第2の導体部および第3の導体部と、前記第2の導体部と前記第3の導体部の間に形成された分割部とを備え、
前記第2および第3の導体部と前記第1の導体部の間の電気的接続は、
前記分割部の分割方向に対して垂直な方向に電界成分方向を有する入射電磁波により、前記第1の導体部の中心を含む面であって、前記入射電磁波の電界面と平行な面に対して非対称の周回電流が励起され、
前記非対称の周回電流により前記分割部に誘起される電気双極子によって放射される散乱波が、前記入射電磁波の前記電界成分方向と直交する第1の方向の電界成分を有する第1の状態と、前記第1の方向と逆向きの第2の方向の電界成分を有する第2の状態とが排他的に存在するように設定される
分割リング共振器。
【請求項2】
環状の第1の導体部と、
前記第1の導体部によって囲まれた空間内に、前記第1の導体部の2点と選択的に接続するように形成された第2の導体部および第3の導体部と、
前記第2の導体部と前記第3の導体部の間に形成された分割部とを備え、
第2の導体部および第3の導体部のそれぞれは、前記分割部を挟んで、前記第1の導体部の2点とそれぞれ第1のスイッチング素子、第2のスイッチング素子を介して選択的に接続され、
前記第1および第2のスイッチング素子のそれぞれは、前記分割部を挟んで、第2の導体部および第3の導体部における対角の位置に配置されており、
前記分割部の分割方向に対して垂直な方向に電界成分方向を有する入射電磁波により、前記第1の導体部の中心を含む面であって、前記入射電磁波の電界面と平行な面に対して非対称の周回電流が励起され、
前記非対称の周回電流により前記分割部に誘起される電気双極子によって放射される散乱波が、前記入射電磁波の前記電界成分方向と直交する第1の方向の電界成分を有する第1の状態と、前記第1の方向と逆向きの第2の方向の電界成分を有する第2の状態とが排他的に存在するように、前記第1および第2のスイッチング素子のON/OFF状態が設定されること
を特徴とする分割リング共振器。
【請求項3】
環状の第1の導体部と、
前記第1の導体部によって囲まれた空間内に、前記第1の導体部の2点とを接続するように形成された第2の導体部および第3の導体部と、
前記第2の導体部と前記第3の導体部の間に形成された分割部とを備え、
第2の導体部および第3の導体部のそれぞれは、前記分割部を挟んで、前記第1の導体部の2点とそれぞれ第1の可変抵抗素子、第2の可変抵抗素子を介して接続され、
前記第1および第2の可変抵抗素子のそれぞれは、前記分割部を挟んで、第2の導体部および第3の導体部における対角の位置に配置されており、
前記分割部の分割方向に対して垂直な方向に電界成分方向を有する入射電磁波により、前記第1の導体部の中心を含む面であって、前記入射電磁波の電界面と平行な面に対して非対称の周回電流が励起され、
前記非対称の周回電流により前記分割部に誘起される電気双極子によって放射される散乱波が、前記入射電磁波の前記電界成分方向と直交する第1の方向の電界成分を有する第1の状態と、前記第1の方向と逆向きの第2の方向の電界成分を有する第2の状態とが排他的に存在するように、前記第1および第2の可変抵抗素子の抵抗値が設定されること
を特徴とする分割リング共振器。
【請求項4】
前記第1の状態において、前記第1のスイッチング素子または前記第1の可変抵抗素子が電気的短絡状態、前記第2のスイッチング素子または前記第2の可変抵抗素子が電気的絶縁状態となるように設定され、前記第2の状態において、前記第1のスイッチング素子または第1の可変抵抗素子が電気的絶縁状態、前記第2のスイッチング素子または前記第2の可変抵抗素子が電気的短絡状態となるように設定されていること
を特徴とする請求項2または3記載の分割リング共振器。
【請求項5】
前記第1および第2のスイッチング素子または可変抵抗素子は、印加電圧または印加電流によってON状態又はOFF状態となるトランジスタで構成され、
前記第1の状態において、前記第1のスイッチング素子または第1の可変抵抗素子を構成する前記トランジスタはON状態、前記第2のスイッチング素子または第2の可変抵抗素子を構成する前記トランジスタはOFF状態となるように構成され、 前記第2の状態において、前記第1のスイッチング素子または第1の可変抵抗素子を構成するトランジスタはOFF状態、前記第2のスイッチング素子または第2の可変抵抗素子を構成するトランジスタはON状態となるように構成されていること、
を特徴とする請求項4記載の分割リング共振器。
【請求項6】
前記分割部は可変容量を備え、前記可変容量の容量値の値に応じて前記分割リング共振器の共振周波数が変更可能に構成されていること
を特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の分割リング共振器。
【請求項7】
請求項6に記載の分割リング共振器が単位セルを構成し、複数個の前記単位セルがアレー状に配置され、
前記単位セルの各々における前記第1の状態または前記第2の状態を、前記単位セルの位置に応じて切り替え、前記可変容量の容量値を、前記単位セルの位置に応じて変化させるように構成されていること
を特徴とするメタマテリアル動的素子。
【請求項8】
請求項6に記載の分割リング共振器が単位セルを構成し、複数個の前記単位セルがアレー状に配置され、
前記単位セルの各々における前記第1の状態または前記第2の状態を、前記単位セルの位置によらず一様に設定し、前記可変容量の容量値を、前記単位セルの位置によらず一様に変化させるように構成されていること
を特徴とするメタマテリアル動的素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割リング共振器を用いたメタマテリアル動的素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミリ波・テラヘルツ波は、その物質に対する透過性や高い分解能からイメージングやレーダー技術等への応用が期待されている。しかし、その高い周波数ゆえに、回路内での伝搬損失が大きい。例えば、非特許文献1では、100GHz以上の周波数で4×4の平面アレーアンテナを用いる場合10dB以上の損失が生じる。そのため、ミリ波・テラヘルツ波帯の信号を低損失に取り扱う技術が求められている。
【0003】
材料の屈折率を設計することにより、空間系にて低損失に超高周波信号を制御可能なメタマテリアル技術は、超高周波帯空間系デバイスを実現する技術として期待されている。例えば、非特許文献2では、メタマテリアル素子の単位セルとして用いられる分割リング共振器を用いて、分割部の寸法を変化させることにより共振周波数をシフトさせ、共振周波数から離れた周波数領域を動作周波数とする事で低損失に透過位相量分布を形成し、メタマテリアルを透過する電磁波の伝搬を設計している。
【0004】
図9に従来方式で用いられる代表的な分割リング共振器の構造を示す。分割部と平行なy軸方向の電界成分を有する入射波により、分割リング共振器に周回電流が励起される。この周回電流は、分割部およびリング部に由来する容量成分および誘導成分により決定されるLC共振周波数において最大となる。ここで、分割部のギャップGを変化させることにより共振周波数をシフトさせる場合、分割部のギャップGが大きい程容量成分が小さいため共振周波数は高い。一方、分割部のギャップGが小さいと容量成分が大きくなるため共振周波数も低くなる。
【0005】
こののように、分割リング共振器では、分割部のギャップGを変化させ、共振周波数をシフトさせることにより、共振周波数近傍における透過位相量変化を実現し、共振周波数より高く損失の少ない周波数領域において2次元の透過位相量分布を形成している。
【0006】
しかしながら、高利得のビームを形成する場合、波長に対して大きな開口面積が必要となり、任意の伝搬方向、ビーム幅、あるいは焦点距離を実現するのに必要な透過位相変化量が大きくなるため、2π[rad]の透過位相変化量が求められる。原理的に、散乱波の位相変化量は散乱体の共振周波数近傍において最大でπ[rad]であるため、散乱を受けずに透過する直接波と散乱波との足し合わせとして観測される透過波の位相変化量はπ[rad]以下となる。そのため、2π[rad]の透過位相量設計幅を実現するためにはメタマテリアルを、ある間隔で多層化しなければならないため、デバイスサイズが大きくなってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】W.Shin,et al.,“A 108-112 GHz 4×4 Wafer-Scale Phased Array Transmitter with High-Efficiency On-Chip Antennas”,proc.of IEEE RFIC,pp.199-202,2012
【非特許文献2】D.Kitayama,et.al.,“Laminated metamaterial flat lens at millimeter-wave frequencies”,OPTICS EXPRESS,Vol.23,No.18,pp.23348-23356,2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、特願2017−159094の発明(以下、「先願発明」という。)において、図7に示すような、捻じれ構造を導入した分割リング共振器20を提案している。分割リング共振器20に捻じれ構造を導入することで、分割部24より再放射される散乱波が入射電磁波の電界成分(Ein)の方向と直交するようにし、散乱波のみを伝搬設計に用いることで、理論通りπ[rad]の位相設計幅を実現している。
【0009】
さらに、図8に示すように、捻じれ方向を逆転することにより分割部に形成される電気双極子の極性を反転できるため、捻じれ方向の異なる分割リング共振器20を混在して配置することで、合計2π[rad]の位相設計幅を実現している。例えば、先願発明の構造の分割部24に可変容量素子を導入して、共振器の共振周波数を動的制御することによりπ[rad]の位相制御幅で透過波面の動的制御が可能となる。
【0010】
しかしながら、先願発明の構造をベースとして動的化する場合、捻じれ方向が片方向のみであるため位相制御幅はπ[rad]が最大となってしまう。大きなビームステアリング角度や集光機能の動的化を実現するには2π[rad]の透過位相量の制御幅を実現する必要があるので、先願発明の構造をベースとして動的化する場合には、単位セル構造を2層並べて積層する必要があり、これはデバイスサイズや実装難易度の点で不利益となる。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、従来に比べて透過位相量の制御幅が大きいメタマテリアル動的素子をより小さいデバイスサイズで実現し、実装容易性に優れるメタマテリアル動的素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本願発明の分割リング共振器では、環状の第1の導体部と、前記第1の導体部によって囲まれた空間内に形成された第2の導体部および第3の導体部と、前記第2の導体部と前記第3の導体部の間に形成された分割部とを備え、前記第2および第3の導体部と前記第1の導体部の間の電気的接続は、前記分割部の分割方向に対して垂直な方向に電界成分方向を有する入射電磁波により、前記第1の導体部の中心を含む面であって、前記入射電磁波の電界面と平行な面に対して非対称の周回電流が励起され、前記非対称の周回電流により前記分割部に誘起される電気双極子によって放射される散乱波が、前記入射電磁波の前記電界成分方向と直交する第1の方向の電界成分を有する第1の状態と、前記第1の方向と逆向きの第2の方向の電界成分を有する第2の状態とが排他的に存在するように設定される。
【0013】
上記課題を解決するために、本願発明の分割リング共振器では、環状の第1の導体部と、前記第1の導体部によって囲まれた空間内に、前記第1の導体部の2点と選択的に接続するように形成された第2の導体部および第3の導体部と、前記第2の導体部と前記第3の導体部の間に形成された分割部とを備え、第2の導体部および第3の導体部のそれぞれは、前記分割部を挟んで、前記第1の導体部の2点とそれぞれ第1のスイッチング素子、第2のスイッチング素子を介して選択的に接続され、前記第1および第2のスイッチング素子のそれぞれは、前記分割部を挟んで、第2の導体部および第3の導体部における対角の位置に配置されており、前記分割部の分割方向に対して垂直な方向に電界成分方向を有する入射電磁波により、前記第1の導体部の中心を含む面であって、前記入射電磁波の電界面と平行な面に対して非対称の周回電流が励起され、前記非対称の周回電流により前記分割部に誘起される電気双極子によって放射される散乱波が、前記入射電磁波の前記電界成分方向と直交する第1の方向の電界成分を有する第1の状態と、前記第1の方向と逆向きの第2の方向の電界成分を有する第2の状態とが排他的に存在するように、前記第1および第2のスイッチング素子のON/OFF状態が設定されることを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するために、本願発明の分割リング共振器では、環状の第1の導体部と、前記第1の導体部によって囲まれた空間内に、前記第1の導体部の2点とを接続するように形成された第2の導体部および第3の導体部と、前記第2の導体部と前記第3の導体部の間に形成された分割部とを備え、第2の導体部および第3の導体部のそれぞれは、前記分割部を挟んで、前記第1の導体部の2点とそれぞれ第1の可変抵抗素子、第2の可変抵抗素子を介して接続され、前記第1および第2の可変抵抗素子のそれぞれは、前記分割部を挟んで、第2の導体部および第3の導体部における対角の位置に配置されており、前記分割部の分割方向に対して垂直な方向に電界成分方向を有する入射電磁波により、前記第1の導体部の中心を含む面であって、前記入射電磁波の電界面と平行な面に対して非対称の周回電流が励起され、前記非対称の周回電流により前記分割部に誘起される電気双極子によって放射される散乱波が、前記入射電磁波の前記電界成分方向と直交する第1の方向の電界成分を有する第1の状態と、前記第1の方向と逆向きの第2の方向の電界成分を有する第2の状態とが排他的に存在するように、前記第1および第2の可変抵抗素子の抵抗値が設定されることを特徴とする。
【0015】
また、前記第1の状態において、前記第1のスイッチング素子または前記第1の可変抵抗素子が電気的短絡状態、前記第2のスイッチング素子または前記第2の可変抵抗素子が電気的絶縁状態となるように設定され、前記第2の状態において、前記第1のスイッチング素子または第1の可変抵抗素子が電気的絶縁状態、前記第2のスイッチング素子または前記第2の可変抵抗素子が電気的短絡状態となるように設定されていてもよい。
【0016】
前記第1および第2のスイッチング素子または可変抵抗素子は、印加電圧または印加電流によってON状態又はOFF状態となるトランジスタで構成され、前記第1の状態において、前記第1のスイッチング素子または第1の可変抵抗素子を構成する前記トランジスタはON状態、前記第2のスイッチング素子または第2の可変抵抗素子を構成する前記トランジスタはOFF状態となるように構成され、 前記第2の状態において、前記第1のスイッチング素子または第1の可変抵抗素子を構成するトランジスタはOFF状態、前記第2のスイッチング素子または第2の可変抵抗素子を構成するトランジスタはON状態となるように構成されていてもよい。
【0017】
また、前記分割部は可変容量を備え、前記可変容量の容量値の値に応じて前記分割リング共振器の共振周波数が変更可能に構成されていてもよい。
【0018】
上記課題を解決するために、本願発明のメタマテリアル動的素子では、分割リング共振器が単位セルを構成し、複数個の前記単位セルがアレー状に配置され、前記単位セルの各々における前記第1の状態または前記第2の状態を、前記単位セルの位置に応じて切り替え、前記可変容量の容量値を、前記単位セルの位置に応じて変化させるように構成されている。
【0019】
上記課題を解決するために、本願発明のメタマテリアル動的素子では、請求項6に記載の分割リング共振器が単位セルを構成し、複数個の前記単位セルがアレー状に配置され、前記単位セルの各々における前記第1の状態または前記第2の状態を、前記単位セルの位置によらず一様に設定し、前記可変容量の容量値を、前記単位セルの位置によらず一様に変化させるように構成されている。
【発明の効果】
【0020】
このように、本発明によれば、従来に比べて透過位相量の制御幅が大きいメタマテリアル動的素子をより小さいデバイスサイズで実現し、実装容易性に優れるメタマテリアル動的素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る分割リング共振器の構造を示す図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係る分割リング共振器のZ型SRRとS型SRRの切り替えを説明するための図である。
図3図3は、本発明の第1の実施形態に係る分割リング共振器の散乱波の強度および位相の特性を示す図である。
図4図4は、本発明の第1の実施形態に係る分割リング共振器の他の構造を示す図である。
図5図5は、本発明の第1の実施形態に係る分割リング共振器の散乱波の位相の特性を示す図である。
図6図6は、本発明の他の実施形態に係るメタマテリアル動的素子の構造を示す図である。
図7図7は、先願発明の捻じれ分割リング共振器の構造を示す図である。
図8図8は、先願発明の捻じれ分割リング共振器の散乱波の強度および位相の特性を示す図である。
図9図9は、従来の分割リング共振器の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本願発明の実施の形態について図面を用いて説明する。但し、本願発明は、多くの異なる形態で実施することが可能であり、以下に説明する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0023】
<捻じれ構造を有する分割リング共振器>
図9に示すように、従来の分割リング共振器30は、環状の第1の導体部31、第1の導体部内に形成された第2の導体部32、第3の導体部、および第2の導体部32と第3の導体部33の間に形成された分割部34によって構成されている。分割部34には、分割リング共振器に対して垂直に入射される電磁波の電界成分Einの方向に対して平行な方向の電解成分Esが形成されている。周回電流iが誘起されるLC共振モードが励起されると分割部に電気双極子が形成され、主に分割部34より再放射される散乱波と、散乱されずに透過した電磁波とが足しあわされて透過波として観測される。
【0024】
ここで、散乱されずに透過した電磁波と散乱波の電界成分の方向は一致しているため、両者を分離する事はできず、観測される透過波の位相変化は、散乱波の位相変化よりも小さくなってしまう。例えば、分割リング共振器の共振周波数近傍における散乱波の位相変化量はπ[rad]であるが、非特許文献2では、散乱されずに透過した電磁波と散乱波との足し合わせである透過波の位相変化の設計幅はπ/3[rad]となる。
【0025】
これに対して、図7の先願発明の分割リング共振器20の構造では、分割リング共振器20における分割部24が捻じれた構造をしており、分割部24の分割方向は入射電磁波の電界成分Einの方向に対して垂直となっている。
【0026】
さらに、図7の構造では、第1の導体部21の中心を含む面であって、入射電磁波の伝搬方向と電界成分Einの方向が形成する面と平行な面に対して、周回電流iが流れる経路が非対称となるように周回電流の経路が構成されているため、分割部24の分割方向と垂直な電界方向成分を有する電磁波によりLC共振モードが励起され、分割部24に電気双極子が誘起される。この電気双極子が放射する散乱波の電界成分の方向は入射電磁波の電界成分Einの方向と直交しているため、例えば、偏光板や偏波依存性の大きなアンテナ等を用いることで散乱波のみを観測することが可能である。
【0027】
先願発明における散乱波は共振周波数近傍においてπ[rad]の位相変化を生じるため、散乱波のみを観測することで、従来の図9の構造に比べて位相設計幅を大きくすることができる。さらに、分割部の捻じれ方向が図7(b)のように逆になると、分割部24に形成される電気双極子の極性が図7(a)に対して反転するため、図7(b)の分割部により再放射される散乱波の位相は図7(a)の分割部により再放射される散乱波の位相に対してπ[rad]ずれる。これにより、先願発明では、図8に示すように、図7(a)Z型SRR(Sprit Ring Resonator)の分割共振器の構造と図7(b)のS型SRRの分割共振器の構造の両方を用いることで、共振周波数近傍で2π[rad]の位相設計幅を実現することができる。
<第1の実施の形態>
【0028】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る分割リング共振器の構造を示す図である。図1の分割リング共振器10は、環状の第1の導体部11、第1の導体部11に囲まれた空間内に第1の導体部11に接続するように形成された第2の導体部12、第3の導体部13、および第2の導体部12と第3の導体部13の間に形成された分割部14によって構成されている。本発明は、第1の導体部11と、第2の導体部12および第3の導体部13との間の電気的な接続状態を制御することで、1つのメタマテリアル素子で図7(a)のZ型SRRと図7(b)のS型SRRの両方の機能を実現するものである。
【0029】
第2の導体部12は、分割部14を挟んで2つの可変抵抗素子15a、15bを介して第1の導体部11と接続されており、同様に、第3の導体部13は、分割部14を挟んで2つの可変抵抗素子15b、15aを介して第1の導体部11と接続されており、さらに、可変抵抗素子15a、15bは、分割部14を挟んで、対角の位置に配置されている。図1では、第2、第3の導体部と第1の導体部の間に設置された可変抵抗素子の抵抗値を制御することによって、第2の導体部12、第3の導体部13と第1の導体部11の間の電気的な接続状態を制御し、Z型SRRとS型SRRを電気的に切り替えるように構成されている。
【0030】
尚、図1では、分割リング共振器として、角環状の第1の導体部を用いた構成を説明したが、角環状の第1の導体部の代わりに、円環状の第1の導体部を用いても同様の機能を実現することができる。以下の説明においても同様である。
【0031】
また、図1の構成例では、第2の導体部12、第3の導体部13を第1の導体部11と可変抵抗素子を介して接続し、この可変抵抗素子の抵抗値を制御するように構成しているが、この可変抵抗素子の代わりにスイッチング素子を設置して、このスイッチング素子のON/OFF状態を制御することにより、Z型SRRとS型SRRを電気的に切り替えるように構成してもよい。
【0032】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る分割リング共振器のZ型SRRとS型SRRの切り替えを説明するための図である。図2において、対角の位置にある可変抵抗素子RVZ(15a)の値が、別の対角の位置にある可変抵抗素子RVS(15b)の値に対して十分小さい場合、例えば、トランジスタ等のスイッチ素子を用いて、可変抵抗素子RVZ(15a)が電気的短絡状態、可変抵抗素子RVS(15b)が電気的絶縁状態に設定した場合には、分割部14と垂直な電界成分を有する入射電磁波Einによって励起されるLC共振時に流れる周回電流iは、図7(a)のZ型SRRと同様となる。一方、RVSがRVZに対して十分小さい場合、例えば、可変抵抗素子RVZ(15a)が電気的絶縁状態、可変抵抗素子RVS(15b)が電気的短絡状態に設定した場合には、LC共振時に流れる周回電流iが、図7(b)で説明したS型SRRと同様となる。
【0033】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る分割リング共振器の散乱波の強度および位相の特性を示す図である。図3に示すように、RVZ≪RVSの時とRVZ≫RVSの時では、散乱波の位相がπ[rad]ずれるので、第1の導体部と第2、3の導体の間に設置された可変抵抗素子の抵抗値を制御することで、1つのメタマテリアル素子でZ型SRRとS型SRRの両方の機能を実現することができる。
【0034】
さらに、図4、5に示すように、本実施形態の分割リング共振器11の分割部14に可変容量素子CV(16)を導入することで、分割リング共振器11の共振周波数を変化させることができるので、CVおよびRVZ、RVSを制御することにより、2π[rad]の散乱波位相の制御幅を実現することができる。
【0035】
ここで、可変抵抗素子RVZ、RVSは、例えば、電界効果トランジスタ(FET)やバイポーラトランジスタ(BJT)を用いて実現することができる。FETを用いる場合には、ドレインとソース間の抵抗をゲートに印加する電圧により可変制御し、BJTを用いる場合には、コレクタとエミッタ間の抵抗をベースに流す電流により可変制御することができる。この場合、印加電圧または印加電流を制御することにより、可変抵抗素子RVZ、RVSの抵抗値を制御することができる。
【0036】
また、可変抵抗素子の代わりに設けられるスイッチング素子についても、同様に、電界効果トランジスタ(FET)やバイポーラトランジスタ(BJT)を用いて実現することができる、この場合には、印加電圧等によって、電界効果トランジスタ等のON/OFF状態を制御すればよい。
【0037】
また、可変容量素子CVは、例えば、ダイオードを用いて実現することができる。ダイオードのアノードとカソードに逆バイアスを印加することにより空乏層を発生させ、アノードとカソード間の電圧を制御することにより空乏層を変化させ、静電容量を可変制御することができる。
【0038】
なお、電磁波の発生および検出には直線偏波の電磁波を放出可能なアンテナ(Txアンテナ)および検出可能なアンテナ(Rxアンテナ)を用いればよい。本発明のメタマテリアル素子は、Txアンテナの前方において、Txアンテナが放出する入射波が本発明のメタマテリアル素子が形成されている面に対して垂直に入射するように配置する。入射波は本発明の素子により散乱され、当該散乱波は入射波の偏波と直交した偏波成分を有する。
【0039】
本発明では、この入射波の偏波と直交した偏波成分の散乱波を伝搬制御に用いる。Rxアンテナは、当該散乱波を検出するため、入射波の偏波と直交した偏波成分を検出可能な角度で配置する。Rxアンテナは、本発明のメタマテリアル素子を透過型として用いる場合は、本発明の素子を挟んでTxアンテナと反対側に配置すればよい。すなわち「Txアンテナ」−「メタマテリアル素子」−「Rxアンテナ」の順に配置すればよい。また、本発明の素子を反射型として用いる場合は、Txアンテナを挟んで本発明の素子と反対側に配置すればよい。すなわち「Rxアンテナ」−「Txアンテナ」−「メタマテリアル素子」の順に配置すればよい。
【0040】
以上述べたように、本発明の第1の実施の形態によれば、散乱波のみを検出することが可能な分割リング共振器の構造においてZ型とS型を電気的に切り替える事が可能となり、さらに、分割リング共振器の共振周波数を可変容量素子により変化させることで、散乱波位相を2π[rad]の範囲で動的に制御することが可能となる。これにより、1つの分割リング共振器により、2π[rad]の位相設計幅を実現することができるので、デバイスサイズが小さく、実装容易性に優れるメタマテリアル動的素子を提供することができる。
【0041】
<その他の実施の形態>
図6に示すように、本発明の分割リング共振器を端子セルとして、複数の単位セルを基板50上にアレー状に配置することにより2次元アレーを形成し、散乱波位相がπ[rad]異なる領域を動的に制御することにより、0/πのフレネルゾーンプレート型回折レンズの特性を制御できるメタマテリアル動的素子を実現することができる。
【0042】
また、本発明の分割リング共振器の構造を用いて2次元アレーを形成し、散乱波位相が式(1)になるように、可変容量素子およびS型SRR/Z型SRRの切り替えを制御すれば、2次元アレーにおいて入射電磁波の伝搬方向を偏向可能なメタマテリアル動的素子を実現することができる。ここで、xおよびyは本発明の単位セルがアレー化されている面における座標、Φ(x,y)は、座標(x,y)における散乱波位相、λは入射波の波長、θは偏向角である。
【0043】
【数1】
【0044】
また、散乱波の位相が式(2)になるように可変容量素子およびS型SRR/Z型SRRの切り替えを制御すると、本発明の構造がアレー化されている面から距離f0の位置に散乱波が集光するレンズ機能を動的に制御できるメタマテリアル動的素子を実現できる。
【0045】
【数2】
【0046】
また、2次元アレーにおける単位セルの各々を座標によらず一様に電圧制御し、共振周波数をシフトさせることで、共振周波数においては入射電磁波の偏波が90°回転し、共振周波数から外れた周波数領域においては偏波が回転しないといった動的偏波スイッチ機能を有するメタマテリアル動的素子を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、分割リング共振器を用いたメタマテリアル動的素子に適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10、10a〜10d、20、30…分割リング共振器、11、12、13…第1の導体部、12、22、32…第2の導体部、13、23、33…第3の導体部、14、24、34…分割部、15a、15b…可変抵抗素子、16…可変容量素子、50…基板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9