(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記波長λ1及び前記波長λ2は、酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンの吸光度の等しくなる波長であることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の計測装置。
前記入射光は白色光であり、前記散乱光の計測は前記波長λ1及び前記波長λ2を含む波長帯の分光測定によることを特徴とする請求項1乃至7のうちの1つに記載の計測装置。
【背景技術】
【0002】
凝固した血液の血管壁等への付着による血栓は、脳梗塞やエコノミー症候群等の循環器系の疾患の原因となることが知られている。また、人工心肺や血液透析等、血液を体外へ導いた装置内の血液流路を経由させる医療において、血液に凝固を生じると、血液を体内に戻したときに血栓となってしまうことがある。また、血液を凝固させてしまうと装置の血液流路内で滞留して装置に不調を生じさせてしまうこともある。そこで、血栓等の血液の凝固の有無について血管や血液流路の外部から推定できる方法が求められる。
【0003】
例えば、特許文献1では、血液の凝固の有無について推定する方法として、血液層に600〜1200nmの波長のレーザー光を入射させ、その透過光又は反射光の光量の変化を測定し、流動中の血液内を浮遊する血栓を血管の外部から検出する方法を開示している。血栓においては、部分的なヘモグロビンの密度の違いが透過光や反射光の光量の変化となって計測でき、これによって血栓を検出できる。なお、ヘマトクリットなどの血栓以外の血液組成は血液の流れによって変化し、これによっても光量を変化させ得るが、血液の流れによって移動する血栓による光量の変化に比べて緩やかな変化であり、血栓を識別できるとしている。
【0004】
また、特許文献2では、血液の凝固の有無について推定する方法として、血液流路に光学監視手段及び超音波監視手段を設置して流動中の血液の凝固による塊等の個体物を透過光の変化により検出する方法を開示している。光学監視手段は約805nmの波長の狭帯域の近赤外光を照射する光源と、血液流路を挟んだ反対側に設置される光学センサとを含み、光源からの透過光の変化によって血液の凝固による塊を検出するのである。かかる波長の近赤外光は赤血球におけるヘモグロビンによる吸収が極めて小さく、含有酸素と無関係であるため、血液の凝固による塊の検出に適するとしている。なお、血液中の空気泡も光学監視手段により検出されてしまうが、超音波監視手段によっても同時に検出されるので、血液の凝固による塊とは区別できる。
【0005】
特許文献1や2で開示の方法では、透過光又は反射光の光量の時間変化に基づき移動する血栓等を検出している。他方、光量の時間的な変化に関わらず血液の凝固の有無を推定できる方法も知られている。
【0006】
例えば、特許文献3では、血液の凝固の有無について推定する方法として、白色光源を用いて、600nm以上の波長であって670nmを挟んだ短波長側の参照波長と長波長側の測定波長との2つの波長の透過光又は散乱光(反射光)によって血液流路を連続的に撮像して、参照波長による画像に対する測定波長による画像の輝度の差分を得る方法を開示している。血液が凝固すると670nm以上の光の透過性が高くなる。すなわち、測定波長での透過光による画像の輝度が高くなり、反対に散乱光による画像の輝度は低くなり、これらのうちいずれかと参照波長による画像との差分を得ることで凝固した部分を検出できる。このように、異なる波長の透過光又は散乱光の強度の差分を用いるので、光量の時間的な変化によらず血液の凝固の有無を推定できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、血栓は、血液中のフィブリノーゲンから生成される繊維状のフィブリンが血液を凝固させて形成される。つまり、フィブリン量の変化を計測することで血液の凝固、ついては、血栓の形成やその発生確率などを推定できる。ここで、フィブリンも赤血球と同様にその量によって透過光や散乱光の強度変化を与えるため、散乱光強度を測定することでフィブリン量変化を計測でき得る。しかしながら、散乱光強度において、赤血球による散乱成分と干渉するため、フィブリン量の散乱成分だけを取り出して検出することは困難である。また、赤血球による散乱成分を除去するよう、赤血球の量を計測しようとしても、血液を取り出して遠心分離するなどの工程を必要とするため、フィブリン量変化を連続的に計測することは難しかった。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、血栓の形成やその発生確率などの情報を連続的に得るべく、フィブリン量変化を連続的に計測する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
584〜600nmの波長領域を挟んで、赤血球による散乱光の強度比は短波長側から長波長側へ向かって大きく低下することが知られている。この波長領域を挟んだ短波長側の波長λ1及び長波長側の波長λ2のそれぞれでの散乱光の強度比R
λ1及びR
λ2において、赤血球による散乱光の強度比は短波長側において長波長側よりも大きく、変化に対して非常に鋭敏である。一方、フィブリンによる散乱光の強度比はほぼ同一である。このため、測定される強度比の安定する長波長側において赤血球による散乱光への寄与を除去できれば、フィブリンによる散乱光を求め得る。しかしながら、長波長側では、赤血球及びフィブリンによる散乱光強度が接近し、分離が難しい。そこで赤血球による散乱光の強度比に関連するヘマトクリット値を長波長側での散乱光の強度比R
λ2から仮定し、これにより短波長側での散乱光の強度比R
λ1から赤血球による散乱光への寄与を除去することを考えたものである。
【0011】
つまり、本発明による計測方法は、血液を体内から取り出して再び体内へと戻す血液循環装置の流路内を流れる該血液のフィブリン量変化を連続的に計測する方法であって、前記流路の側方から入射光を与えて散乱してくる散乱光を計測し、584〜600nmの波長領域を挟む短波長側の波長λ1及び長波長側の波長λ2のそれぞれでの前記入射光に対する前記散乱光の強度比R
λ1及びR
λ2を連続的に計測する光学装置において、前記強度比R
λ2でのヘマトクリット値によって前記強度比R
λ1での赤血球による散乱光への寄与を除去し、前記フィブリン量変化を与えることを特徴とする。
【0012】
かかる発明によれば、フィブリン量変化を連続的に計測することができる。つまり、凝固に必要となるフィブリンの量の変化から、血栓の形成やその発生確率などの情報を連続的に得ることができるのである。
【0013】
上記した発明において、前記波長λ1でのヘマトクリット値Hに対する前記強度比R
λ1の関数をf、及び、前記波長λ2でのヘマトクリット値Hに対する前記強度比R
λ2の関数をgとすると、R
λ1=f(H)、及び、R
λ2=g(H)であり、前記強度比R
λ2でのヘマトクリット値は、g
−1(R
λ2)で表され、前記フィブリン量変化をR
λ1に対するf(g
−1(R
λ2))の変化によって与えることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、ヘマトクリット値を用いずとも散乱光の強度比からこれを表すことができ、フィブリン量変化を散乱光の強度比に対応させて連続的に計測できる。
【0014】
上記した発明において、前記フィブリン量変化は、f(g
−1(R
λ2))/R
λ1によって与えることを特徴としてもよい。また、上記した発明において、前記フィブリン量変化は、f(g
−1(R
λ2))−R
λ1によって与えることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、フィブリン量変化を散乱光の強度比から比較的容易に得ることができて、フィブリン量変化を連続的に計測することができる。
【0015】
上記した発明において、前記関数f及びgは、前記光学装置においてフィブリンを実質的に含まない既知のヘマトクリット値の基準血液を用いて与えられることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、関数f及びgを比較的容易に得ることができて、フィブリン量変化を連続的に計測することができる。
【0016】
上記した発明において、前記波長λ1及び前記波長λ2は、酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンの吸光度の等しくなる波長であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、血液の酸素飽和度に影響を受けずにフィブリン量変化を連続的に計測することができる。
【0017】
上記した発明において、前記波長λ1は420nm、前記波長λ2は810nmであることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、波長λ1及び波長λ2のいずれも当吸収波長とできて、血液の酸素飽和度に影響を受けずにフィブリン量変化を連続的に計測することができる。
【0018】
上記した発明において、前記入射光は白色光であり、前記散乱光の計測は前記波長λ1及び前記波長λ2を含む波長帯の分光測定によることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、波長λ1及び波長λ2の散乱光を比較的容易にかつ確実に得て、フィブリン量変化を連続的に計測することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の原理について
図1及び
図2を用いてその詳細を説明する。
【0021】
図1には、血栓等の凝固のない血液に白色光を照射し、その散乱光の分光スペクトルを得た場合の、波長ごとの散乱光の入射光に対する強度比を示す。この散乱光は、ほぼ赤血球によるものである。赤血球からの散乱光の強度比は、波長が長くなるにつれてなだらかに減少するが、584〜600nmの波長領域においては急激に減少する。この波長領域に対して短波長側の波長λ1及び長波長側の波長λ2をそれぞれ定める。つまり、波長λ1の散乱光の強度比は、波長λ2の散乱光の強度比に比べて赤血球の変化に対して鋭敏に変化し、他方波長λ2の散乱光の強度比は安定する。なお、波長λ1及び波長λ2の入射光の強度が同一であれば、散乱光について強度比ではなく強度をそのまま用いても同様にできる。
【0022】
ここで、血液中の赤血球の量を示すとされるヘマトクリット値と、散乱光の強度比との関係を波長λ1及び波長λ2においてそれぞれ検量しておくことで、その波長の散乱光の強度比を用いてヘマトクリット値を表すことができる。例えば、波長λ1における検量線関数を
R
λ1=f(H)
とする。ここで、Hはヘマトクリット値、Rは計測された散乱光の照射光に対する強度比として無次元量とする。同様に、長波長側の波長λ2における検量線関数を
R
λ2=g(H)
とできる。なお、ヘマトクリット値は血液中の血球の体積の割合を示すが、一般に血球の体積のうち赤血球がその96%を占めるため、赤血球の体積比にほぼ等しい値として用いられる。また、検量線関数を得る場合、ヘマトクリット値は、血液の一部を採取し遠心分離して測定される。
【0023】
図2には、血栓等の凝固部分を含む血液に白色光を照射し、その散乱光の分光スペクトルを得た場合の波長ごとの散乱光の強度比を示す。凝固部分を含む場合、血液中のフィブリノーゲンを前駆体として繊維状のフィブリンが生成されて赤血球を取り込んで血液を凝固させている。他方、上記した凝固のない血液では実質的にフィブリンを含まない。つまり、フィブリン量の変化を連続的に計測することで、例えば、血栓の形成やその発生確率などを推定するための血液の凝固に関する情報を連続的に得ることができる。
【0024】
また、フィブリンを含む血液においては、赤血球だけでなくフィブリンからも散乱光が得られる。つまり、計測される散乱光は、赤血球による散乱光とフィブリンによる散乱光とを合成したものである。ここで、フィブリンによる散乱光の強度比は、波長が長くなるにつれてなだらかに減少するが、赤血球のような波長による急激な変化はない。その結果、短波長側の波長λ1において、赤血球による散乱光強度比aに対するフィブリンによる散乱光強度比bは小さく(例えば、2割程度の大きさに)なり、これに比べて、長波長側の波長λ2において、赤血球による散乱光強度比cに対するフィブリンによる散乱光強度比dは大きく(例えば、ほぼ同等の大きさに)なる。
【0025】
ここで、測定される散乱光の強度比の安定する長波長側において赤血球による散乱光への寄与を除去できれば、フィブリンによる散乱光の強度比を求め得る。そこで、波長λ1及び波長λ2において計測された散乱光の強度比から、上記した凝固のない血液の検量線関数によってヘマトクリット値H
λ1及びH
λ2をそれぞれ求める。このとき、血液における真のヘマトクリット値は計測する波長に依らないため、波長λ1での赤血球の散乱光強度比aに対応する真のヘマトクリット値と、波長λ2での赤血球の散乱光強度比cに対応する真のヘマトクリット値は等しい。
【0026】
すなわち、
図3に示すように、このヘマトクリット値H
λ1及びH
λ2は、真のヘマトクリット値Hにフィブリンによる散乱光強度比b又はd(
図2参照)に対応する値Hb又はHdをそれぞれ加えた見かけのヘマトクリット値であり、真のヘマトクリット値Hより大きく算出される。また、上記したように、真のヘマトクリット値に対応する散乱光強度比(赤血球による散乱光強度比)に対するフィブリンによる散乱光強度比は長波長側において大きい。そのため、真のヘマトクリット値からのずれは、短波長側に比べ長波長側において大きくなる。つまり、凝固部分を含む血液であれば、H<H
λ1<H
λ2となる。なお、凝固のない血液であれば、検量した血液に対してフィブリンは増加しておらず、H=H
λ1=H
λ2である。
【0027】
ここで、例えば、波長λ1における散乱光強度比のうち赤血球による散乱光の強度比とフィブリンによる散乱光の強度比との比が1:0.2であり、同様に波長λ2における比が1:1であるとする。さらに、測定される散乱光の強度比の安定する波長λ2におけるヘマトクリット値H
λ2を波長λ1におけるヘマトクリット値H
λ1から減算し、H
λ1−H
λ2=ΔHを得れば、短波長側の波長λ1の赤血球による散乱光への寄与を除去できる。このとき、真のヘマトクリット値は互いに等しいのでこれが相殺され、つまり赤血球による散乱光への寄与を除去でき、フィブリンによる散乱光の強度比のおよそ0.8倍に相当する強度比に対応するヘマトクリット値の差ΔH(図面上の長さは負の値を表示出来ないので逆符号で表示する)を算出できることになる。つまり、H
λ1−H
λ2の絶対値が大きくなるほどフィブリンの量が多いことが判り、これによりフィブリン量の変化を計測することができる。
【0028】
以上のように、見かけのヘマトクリット値H
λ1及びH
λ2をそれぞれ算出し、これらのヘマトクリット値の差ΔHの変化を得ることで、血液中におけるフィブリン量の変化を計測できる。すなわち、上記したような散乱光強度比を連続的に計測することでヘマトクリット値の差ΔHを連続的に得ることができて、フィブリン量の変化を連続的に計測でき、血栓の形成やその発生確率などを推定できる血液の凝固に関する情報を連続的に得ることができる。なお、見かけのヘマトクリット値H
λ1を見かけのヘマトクリット値H
λ2で除して赤血球による散乱光への寄与を除去しても、その商は、ヘマトクリット値の差ΔHが大きくなるほど(つまり絶対値が小さくなるほど)大きくなるので、これによってもフィブリン量の変化を得ることができる。
【0029】
ここで、強度比R
λ2での見かけのヘマトクリット値H
λ2は、上記した検量線関数の逆関数でg
−1(R
λ2)と表せるから、これを波長λ1の検量線関数fに代入したf(g
−1(R
λ2))は波長λ1の検量線関数による見かけのヘマトクリット値H
λ2に対応する散乱光の強度比である。換言すれば、長波長側での強度比R
λ2により仮定したヘマトクリット値に対応する短波長側での散乱光の強度比である。つまり、上記したヘマトクリット値による比較と同様に散乱光の強度比R
λ1と比較でき、かかる比較によって、短波長側の強度比R
λ1から赤血球による寄与を除去でき、上記と同様にフィブリン量変化に対応する散乱光強度比を得ることができる。例えば、f(g
−1(R
λ2))−R
λ1とすればよい。このように、散乱光の強度比で表すことで、ヘマトクリット値を用いずにフィブリン量変化を表すことができる。また、上記と同様に、f(g
−1(R
λ2))/R
λ1のようにして商を得てもよい。
【0030】
このようにして、測定される強度比の安定する長波長側の強度比R
λ2によってヘマトクリット値を仮定し、短波長側での散乱光の強度比R
λ1から赤血球による散乱光への寄与を除去してフィブリン量変化を得るのである。
【0031】
次に、以上の原理を用い、血液を循環させる模擬循環回路のジャイロポンプ内の血液についてフィブリン量の変化を連続的に計測する試験装置について、
図4乃至
図6を用いて説明する。
【0032】
図4に示すように、模擬循環回路10には、ジャイロポンプ(遠心ポンプ)1と、血液のガス交換を行う人工肺2と、血液を貯留したリザーバ3と、リザーバ3を収容して血液を保温する恒温槽4(ウォーターチャンバー)とを含む。模擬循環回路10は、血液をリザーバ3からジャイロポンプ1を通過させて人工肺2に送りリザーバ3に戻すよう、それぞれを塩化ビニル製のチューブ等で接続している。さらに人工肺2にはバイパス路2’が設けられ、2つのクランプ5によって人工肺2を通過する経路とバイパス路2’を通過する経路とを切り換えられる。なお、血液として、ブタ血液900ccに対して、抗凝固剤である3.2%クエン酸ナトリウム溶液を100cc添加したものを使用した。また、回路には、血液を凝固させる凝固剤として塩化カルシウム溶液を添加するためのシリンジポンプ6が接続される他、適宜、圧力計や流量計も備えられる。
【0033】
さらに、ジャイロポンプ1には、その内部の血液のフィブリン量を計測する装置としてジャイロポンプ1内の血液に向けて白色光を照射するためのキセノンランプを含む光源21と、血液からの散乱光のスペクトルを得るための小型分光器を含む計測部25が取り付けられる。光源21には照射側光ファイバ22が接続され、ジャイロポンプ1内の所定の位置に向けて白色光を照射可能である。また、計測部25には、かかる所定の位置からの散乱光を受光するための受光側光ファイバ26が接続される。計測部25には、さらに計測した散乱光の強度からフィブリン量変化を計測するための演算を行う演算部27が接続される。
【0034】
図5及び
図6に示すように、ジャイロポンプ1は、透明な樹脂からなるケーシング16と、その内部で回転するインペラ12とを備え、インペラ12の回転軸をなす軸体13の上側端部を支持するピボットベアリング11をその頂部14に備える。ジャイロポンプ1の内部において、ピボットベアリング11と軸体13との隙間15に血栓が形成されやすい。よって、隙間15を含む領域を計測領域とし、この計測領域に向けて白色光を照射するよう、照射側光ファイバ22を頂部14の上部から下側の隙間15に向けて配置し、受光側光ファイバ26を隙間15に向けて頂部14の側面に配置する。これにより、隙間15の周囲の血液に白色光を照射でき、その散乱光を受光側光ファイバ26に入射させることができる。
【0035】
次に、模擬循環回路10において、フィブリン量の変化を計測する試験の方法について、
図4及び
図7を用いて説明する。なお、ここではジャイロポンプ1として、京セラメディカル株式会社製「Gyro C1E3 Pump」を用いた。かかるポンプは、ダブルピボット式遠心血液ポンプである。
【0036】
かかる試験に先立って、凝固のない血液についてのヘマトクリット値と散乱光の強度との関係についての検量を波長λ1及び波長λ2の2つの波長について行い、それぞれの検量線関数を得た。ここで、波長λ1及びλ2は、赤血球による散乱光強度が短波長側から長波長側へ向かって大きく低下する584〜600nmの波長領域よりも短波長側及び長波長側にそれぞれ420nm及び810nmで設定した。なお、これらの波長は、いずれも酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンとの吸光度の等しい等吸収波長であり、血液の酸素飽和度によって散乱光の強度に影響を与えない波長である。
【0037】
検量線関数は、散乱光強度からヘマトクリット値を算出する形式とし、H
λ1=αx+A、H
λ2=βx+Bの一次関数とした。ここで、H
λ1及びH
λ2はそれぞれ波長λ1及び波長λ2におけるヘマトクリット値、xは計測される散乱光の強度である。検量線関数の係数は、H
λ1について、A=136.99、α=6.4988であり、H
λ2について、B=33.634、β=4.5245であった。また、その相関係数R
2については、それぞれ0.97及び0.92であった。つまり、線形近似、すなわち一次関数によって検量した結果に高い相関を得た。
【0038】
試験用の血液は、あらかじめ人工肺2を通過させるよう循環させて酸素飽和度を100%に調整した。また、人工肺2内での血栓の生成を避けるため、以降において、血液がバイパス路2’のみを経由し人工肺2を経由しないよう、クランプ5により回路を切り換えた。なお、人工肺2中に血液は225cc保持され、残りの775ccを模擬循環回路10に循環させた。なお、恒温槽4の水温は37℃としている。
【0039】
図4に示すように、模擬循環回路10において血液を循環させつつ、シリンジポンプ6から2%塩化カルシウム溶液を添加し血液の凝固を促進する。ジャイロポンプ1は回転数2000rpm、流量2L/minにて動作させ、塩化カルシウムは7.75mL/minで1分間添加し、その後0.15mL/minにて連続添加した。また、照射側光ファイバ22から白色光を上記した計測領域に照射し、その散乱光を受光側光ファイバ26から受光し、計測部25の小型分光器によって散乱光のスペクトルを得て、波長λ1及びλ2の散乱光の強度をそれぞれ計測し所定の時間間隔で連続的に記録する。演算部27には上記した検量線関数が記憶されており、計測された波長λ1及びλ2の散乱光の強度に応じて検量線関数からヘマトクリット値H
λ1及びH
λ2をそれぞれ算出する。さらに、ΔHct(%)=(H
λ1−H
λ2)によって求めたΔHctと試験開始後の時刻との関係を
図7に示した。なお、散乱光のスペクトルは、ジャイロポンプ1に血液を充填させる前の散乱光のスペクトルに対する比で計測してジャイロポンプ1の構成部品からの散乱光の影響を取り除くとよい。
【0040】
図7に示すように、ΔHctは、試験開始後53分の前後において0%程度から−5%程度まで変化をしている。つまり、H
λ1及びH
λ2は、53分の以前においてはほぼ同値であり、53分以降においてH
λ2がH
λ1に対して大きくなったことが判る。すなわち、53分の前後において血液中のフィブリン量が増え、これによって散乱光の強度から求めた見かけのヘマトクリット値が真のヘマトクリット値より大きくなっているのである。このように、見かけのヘマトクリット値H
λ1からH
λ2を減算して波長λ1での散乱光の強度での赤血球の寄与を除去し、見かけのヘマトクリット値H
λ1に対する割合で示したΔHctの変化は、フィブリン量の変化を表す。つまり、計測領域におけるフィブリン量の変化を計測することができるのである。
【0041】
なお、ヘマトクリット値差によるフィブリン量の変化を得る計算式は、上記のΔHctに限らず、例えば、H
λ1−H
λ2としたり、H
λ1/H
λ2としたりしても、同様に、波長λ2でのヘマトクリット値によって波長λ1での散乱光の強度への赤血球の寄与を除去することができる。
【0042】
また、波長λ1及びλ2を等吸収波長としなくても、血液の酸素飽和度による散乱光への影響を補正することでフィブリン量の変化を検出できる。補正の方法として、例えば以下の方法がある。すなわち、上記した584〜600nmの波長領域よりも短波長側に波長λ1を設定し、長波長側に波長λ2及び波長λ3を設定する。酸素飽和度をSaとすると、分散光の強度Iを求める検量線関数hはI
λ1=h
λ1(H
λ1,Sa)、I
λ2=h
λ2(H
λ2,Sa)I
λ3=h
λ3(H
λ3,Sa)として得ることができる。ここで、波長λ2及びλ3の散乱光の強度において、赤血球による散乱光強度とフィブリンによる散乱光強度との比(
図2のcとdの比)は長波長側においてほぼ同値であるから、真のヘマトクリット値に対する見かけのヘマトクリット値のずれもほぼ同値となる。つまり、凝固を含む血液であっても、散乱光の強度から算出される見かけのヘマトクリット値H
λ2及びH
λ3は互いに同値(H
λ2=H
λ3)となる。すなわち、未知数は、H
λ1、H
λ2及びSaの3つとなり、λ1、λ2及びλ3の3つの波長の散乱光強度の計測により可解な連立方程式を得ることができ、酸素飽和度によらずフィブリンの量の変化を得ることができる。
【0043】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。