【文献】
野竹 孝志,外4名,波長可変テラヘルツ波光源を用いた分光ストークス偏光計測システムの開発,第59回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,2012年,16p-E8-9,p.04-201
【文献】
南出 泰亜,外4名,連続周波数可変リング型THz波パラメトリック発振器,レーザー研究,2001年11月,第29巻第11号,pp.744−748
【文献】
ELEZZABI et al.,Optical activity in an artificial chiral media: a terahertz time-domain investigation of Karl F. Lindman's 1920 pioneering experiment,Optics Express,2009年,Vol. 17, No. 8,pp. 6600-6612
【文献】
HANGYO,Development and Versatile Applications of Terahertz Time-Domain Spectroscopy,2014 39th International Conference on Infrared, Millimeter, and Terahertz waves (IRMMW-THz),2012年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
励起用パルスレーザ光を受けて光キャリアを生成する光伝導膜と前記光伝導膜上に形成されたアンテナ電極膜を備え、前記励起用パルスレーザ光の照射により遠赤外波長域の波長を含むパルス光を放射する放射手段と、
生体組織が保持される保持手段と、
前記保持手段を振動させる振動装置と、
光伝導膜とアンテナ電極膜を備え、前記生体組織で反射した反射パルス光または前記生体組織を透過した透過パルス光の時系列信号を得る検出手段と、
前記検出手段からから得た信号に基づいて振動円二色性スペクトルおよび/または偏光分光スペクトルをもとに前記生体組織の前記力学的物性量を観測する制御手段と、
を有する生体組織力学的物性量観測装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
再生軟骨のような再生組織製品は、破壊的な検査をすることができないという特有の問題がある。そのため、再生組織は品質が評価されることなしに移植されているのが現状である。したがって、再生組織を非侵襲で評価する技術の開発が求められている。
【0006】
軟骨組織は、軟骨細胞と細胞外マトリックスで構成されている。細胞外マトリックスには、コラーゲン、ヒアルロン酸、硫酸化グルコサミノグリカンなどの巨大分子が存在する。細胞外マトリックスは、多くの水分子をトラップすることで高含水性の組織を構築し、軟骨組織の高い粘弾性などを実現している。
【0007】
再生軟骨は、生体から採取し培養した軟骨細胞を用い、3次元培養担体と軟骨細胞そして軟骨細胞が産生したマトリックスにより構成される。
【0008】
軟骨組織などの生体組織および再生軟骨などの再生組織は、構造が複雑であり、その分析は困難である。特許文献1には、従来の分光法では測定が困難であった生体高分子などの被測定物を計測する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1では、軟骨組織などの生体組織および再生軟骨等の再生組織を評価できるに至っていない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、軟骨組織などの生体組織や再生軟骨などの再生組織を評価することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、遠赤外波長域の波長を含むパルス光を生体組織に照射して、振動光学活性分光法により生体組織の力学的物性量を観測する生体組織力学的物性量観測方法であって、前記パルス光を前記生体組織に照射する際に前記生体組織を振動させる生体組織力学的物性量観測方法を提供する。
【0011】
軟骨組織は、多くの水を含有した組織である。細胞外マトリックスにトラップされている水分子は、自由水ではなく細胞外マトリックスなどの巨大分子に配向してトラップされた状態にある拘束水として存在する。
【0012】
本願発明者らは、水分子の拘束が、軟骨組織に負荷される圧縮応力による変形に対抗する粘性として現れることに着目し、軟骨組織内の水分子の状態を計測することで軟骨組織の組織形成度および力学的物性を推定できるのではないかと考え、検討を重ねた。
【0013】
振動光学活性(Vibration Optical Activity、略称VOA)分光法は、光学活性分子の示す左右の円偏光に対するスペクトルの差を測定し、振動スペクトルの情報と合わせて、分子の立体的な情報を調べる方法である。
【0014】
テラヘルツ波は、遠赤外の領域にあり、生体組織への透過性が良好である。テラヘルツ波は、分子間振動、分子内振動のエネルギー帯とオーバーラップするため、軟骨組織を含む生体組織の組織形成に関する情報を得ることが可能である。
【0015】
テラヘルツ波は光子エネルギーが低く、強度やエネルギーのスペクトルではノイズに紛れて検出しにくい。本発明者らは鋭意研究の結果、テラヘルツ帯における振動光学活性分光法であれば水分子の運動モード(遅いデバイ緩和モード、早いデバイ緩和モード、分子間伸縮振動モード、分子間偏角振動モード)に帰属可能なスペクトルが得られることを見出した。
【0016】
生体組織にパルス光を照射する際に、生体組織を振動させることとした。このように生体組織を強制的に加振して振動させることによって、加振した振動数に応じた分光計測が可能となり、生体組織の分子レベルでの情報をより多く得ることができる。加振振動数は、所定の範囲内で掃引することが好ましい。
例えば、力学的物性量として生体組織の緩和時間を得る場合には、緩和時間の振動周波数依存性が分かり、生体組織の構造解明に寄与することができる。
【0017】
上記発明の一態様では、パルス励起光を受けて光キャリアを生成する光伝導膜と、前記光伝導膜上に形成され、間隙を介して対向する一対のアンテナ電極膜とを有し、パルスレーザ光照射により遠赤外波長域の波長を含むパルス光を放射する放射手段を用い、前記生体組織を振動させながら前記放射手段から前記パルス光を照射し、前記生体組織で反射した反射パルス光または前記生体組織を透過した透過パルス光の時系列信号から得た振動円二色性スペクトルおよび/または偏光分光スペクトルをもとに前記生体組織の前記力学的物性量を観測する。
【0018】
また、本発明は、励起用パルスレーザ光を受けて光キャリアを生成する光伝導膜と前記光伝導膜上に形成されたアンテナ電極膜を備え、前記励起用パルスレーザ光の照射により遠赤外波長域の波長を含むパルス光を放射する放射手段と、生体組織が保持される保持手段と、前記保持手段を振動させる振動装置と、光伝導膜とアンテナ電極膜を備え、前記生体組織で反射した反射パルス光または前記生体組織を透過した透過パルス光の時系列信号を得る検出手段と、前記検出手段からから得た信号に基づいて振動円二色性スペクトルおよび/または偏光分光スペクトルをもとに前記生体組織の前記力学的物性量を観測する制御手段とを有する生体組織力学的物性量観測装置を提供する。
【0019】
生体組織を保持する保持手段を振動装置によって強制的に加振する。これにより、加振した振動数に応じた分光計測が可能となり、生体組織の分子レベルでの情報を得ることができる。加振振動数は、所定の範囲内で掃引することが好ましい。
例えば、力学的物性量として生体組織の緩和時間を得る場合には、緩和時間の振動周波数依存性が分かり、生体組織の構造解明に寄与することができる。
加振装置としては、例えば、PZT素子等の圧電素子が用いられる。
【0020】
好ましくは、保持手段にメタマテリアルを設けることが好ましい。これにより、測定感度を上げることができる。メタマテリアルは、「単位素子」と呼ばれる微小単位が電磁波の波長に比べて充分小さな距離で人為的に等間隔をもって配置され、電磁波に対して均質な媒質として振舞うように構成された物質である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、テラヘルツ波を用いて得られた振動光学活性に基づいて軟骨組織等の生体組織や再生軟骨等の再生組織の組織形成度および力学的物性を観測する技術を提供できる。
また、パルス光を照射する際に前記前記生体組織を振動させることとしたので、加振した振動数に応じた分光計測が可能となり、生体組織の分子レベルでの情報をより多く得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に、本実施形態に係る生体組織力学的物性量観測装置の一例を示す。
【0024】
生体組織力学的物性量観測装置は、パルスレーザ光源1を備えている。パルスレーザ光源1には極短パルスレーザが用いられる。極短パルスレーザは、フェムト秒ファイバーレーザまたはフェムト秒モード同期チタンサファイアレーザなどである。
【0025】
フェムト秒ファイバーレーザは、例えば、1.55μm帯のエルビウム(Er)ドーピングのファイバーレーザをレーザゲイン媒体とするLD励起の受動型モード同期ファイバーレーザが用いられる。フェムト秒ファイバーレーザは、1.06μm付近で比較的広い帯域と高い量子効果を持つイッテルビウム(Yb)ドープファイバーであってもよい。
【0026】
フェムト秒ファイバーレーザは、例えば、中心発振波長(第2高調波出力)780nm、パルス幅120から75fs(フェムト秒)、平均出力30mW、繰り返し周波数40MHz前後で用いられる。
【0027】
フェムト秒モード同期チタンサファイアレーザでは、Ti:Al
2O
3(チタンドープ・サファイア)結晶がレーザ媒質に用いられる。チタンドープ・サファイア結晶は、フェムト秒パルスの安定発振を得る上で優れている。
【0028】
フェムト秒モード同期チタンサファイアレーザは、例えば、中心発振波長780nm、パルス幅100から45fs、平均出力100mW、繰り返し周波数40から80MHz程度で用いられる。
【0029】
フェムト秒ファイバーレーザは、フェムト秒モード同期チタンサファイアレーザと比べて、小型軽量・簡易安定作動・低コスト・低消費電力など実用面で優れた利点がある。一方、フェムト秒モード同期チタンサファイアレーザは、フェムト秒ファイバーレーザと比べてスペクトル帯域幅が比較的広く、超短パルス光発振に優れ、高出力発振が容易であるという利点がある。
【0030】
生体組織力学的物性量観測装置は、さらに、パルスレーザ光源1から放射されたフェムト秒レーザ光(パルスレーザ光)L
1を、励起用パルスレーザ光L
2と検出用パルスレーザ光L
3とに分割するビームスプリッタ(分割手段)2を備えている。
【0031】
生体組織力学的物性量観測装置は、さらに、励起用パルスレーザ光L
2の照射により遠赤外波長域の波長を含むパルス光を放射するテラヘルツ波発生素子(放射手段)3と、テラヘルツ波発生素子3からのパルス光が照射された生体組織からの透過パルス光(あるいは反射パルス光)の電界強度の時系列信号を検出する検出素子(検出手段)4と、を備えている。テラヘルツ波発生素子3の光放射側、および検出素子4の光入射側には、それぞれ超半球シリコンレンズ5,6が
図1のように配置されている。
【0032】
テラヘルツ波発生素子3および検出素子4は、光伝導アンテナ(Photoconductive Antenna、略称PCA)素子である。PCA素子は、光伝導膜およびアンテナ電極膜を備えている。
【0033】
光伝導膜は、例えば、半絶縁性ヒ化ガリウム(Semi−Insulating GaAs、略称SI−GaAs)基板上に低温成長させたヒ化ガリウム(略称LT−GaAs)の薄膜が積層されたものである。
【0034】
アンテナ電極膜はLT−GaAs光伝導膜上に積層されている。アンテナ電極膜の材質は、金(Au)等である。アンテナ電極膜は、蒸着法によってLT−GaAs薄膜上に形成され得る。
【0035】
図2に、本実施形態に係るアンテナ電極膜のパターンの平面図を示す。アンテナ電極膜は、間隙8を介して対向配置された一対の第1アンテナ電極膜7a、および、間隙8を介して対向配置された一対または複数対の第2アンテナ電極膜7bで構成されている。間隙8は、第1アンテナ電極膜7aと第2アンテナ電極膜7bとの共有となっている。
【0036】
一対の第2アンテナ電極膜7bは、一対の第1アンテナ電極膜7aに対して角度を有するよう配置されている。
図2では、一対の第1アンテナ電極膜7aに対し、平面視して略90°向きが異なるように(略直交するように)第2アンテナ電極膜7bが配置されている。すなわち、アンテナ電極膜において、一対の第1アンテナ電極膜7aおよび一対の第2アンテナ電極膜7bは、直交2軸構造となっている。
【0037】
第1アンテナ電極膜7aおよび第2アンテナ電極膜7bは、それぞれ伝導性伝送路9および放電用電極10で構成されている。放電用電極10の先端は間隙8に向いている。
【0038】
アンテナ電極膜のパターンは、放射するテラヘルツ波の周波数帯域に応じて適宜決定され得る。例えば、伝導性伝送路9の外路間隔d
1は30μm、向かい合う放電用電極10の間隙d
2はそれぞれ3μmとする。
【0039】
第1アンテナ電極膜7aの伝導性伝送路9には、一対の第1アンテナ電極膜7aへ電圧を印加できるよう第1リード11が接続されている。第2アンテナ電極膜7bの伝導性伝送路9には、一対の第2アンテナ電極膜7bへ電圧を印加できるよう第2リード12が接続されている。第1リードおよび第2リードの他端は、
図1に示す変調手段13に接続されている。
【0040】
変調手段13は、第1アンテナ電極膜7aおよび第2アンテナ電極膜7bにそれぞれ独立にバイアス電圧を印加できる電圧発生装置(電圧発生部)を有する。変調手段13は、制御手段14からの信号を受信し、位相、振幅、繰り返し周波数を変調できる。
【0041】
テラヘルツ波発生素子3と検出素子4との間には、観測部光学系30内に、生体組織(試料)を保持する保持手段15が設けられている。生体組織との用語には、軟骨組織等の生体組織および再生軟骨等の再生組織が含まれる。
【0042】
図4には、観測部光学系30の一例が示されている。なお、
図4では、
図1と異なり光軸が縦方向となっているが、
図1のように光軸を横方向にしても適用可能である。観測部光学系30は、
図4に示されているようにカセグレン式となっている。保持手段15に対向する側(同図において上方)には、主鏡31と副鏡32とが配置されている。図において上方から入射したパルス光は、副鏡32にて反射した後に主鏡31で反射して保持手段15へと向かう。保持手段15の位置で焦点が結ばれており、この位置に試料となる生体組織が配置されている。生体組織にて透過した透過パルス光は、保持手段15を透過して下方へ向かい、検出側光路へと導かれる。なお、生体組織にて反射した反射パルス光を用いる場合には、反射パルス光は、主鏡31及び副鏡32で反射した後に入射側(図において上方)に向かい、検出側光路へと導かれる。
【0043】
図5には、保持手段15の具体的構成が示されている。同図に示すように、保持手段15は、支持基板40と、支持基板40上に設置されたメタマテリアル41と、メタマテリアル41上に設置されたSiO
2等の絶縁膜42とを備えている。また、絶縁膜42上の側部には、PZT素子等の圧電素子(振動装置)43が設けられている。同図には、絶縁膜42上に載置された試料(生体組織)Sも示されている。試料Sは、例えば、数μmから数十μm程度の厚さに切断されている。
【0044】
メタマテリアル41は、「単位素子」と呼ばれる微小単位が電磁波の波長に比べて充分小さな距離で人為的に等間隔をもって配置され、電磁波に対して均質な媒質として振舞うように構成された物質である。
【0045】
圧電素子43は、図示しない給電ケーブル及び制御信号ケーブルが接続されており、制御手段14によって制御される。圧電素子43は、制御手段14の指令によって、例えば、数kHzから数百Hzまでのように所定範囲内の加振周波数f[kHz]で掃引されるようになっている。測定時における圧電素子43の加振周波数は、経過時間とともに制御手段14の記憶領域に取り込まれる。なお、
図5では、絶縁膜42の両側に圧電素子43が設けられているが、試料Sを加振できるのであれば個数は1つでも3つ以上でも良く、また設置位置も側部に限定させるものではない。
【0046】
図1に示すように、ビームスプリッタ2から検出素子4までの検出側光路には、時間原点調整用の光学的遅延手段16および時系列信号測定用の光学的遅延手段17が配置されている。時間原点調整用の光学的遅延手段16と時系列信号測定用の光学的遅延手段17との配置順は逆であってもよい。
【0047】
各光学的遅延手段16,17は、それぞれ2個のコーナーキューブ鏡18を備えている。コーナーキューブ鏡18は、1軸駆動の自動送りステージに固定され、そのステージ送りによりビームスプリッタ2から検出素子4までの光路長をステップ状に(あるいは連続的に)変化させる。ステージの移動はHe−Neレーザ19により測定できる。
【0048】
上記構成の光学的遅延手段16,17は、1個のコーナーキューブ鏡の場合と比較して、コーナーキューブ鏡の走査に対して2倍の光路長の変更が可能となるという特徴を有する。従って、迅速な時間原点調整及び時系列信号測定用の設定が可能となるという効果を奏する。
【0049】
時間原点調整用の光学的遅延手段16および時系列信号測定用の光学的遅延手段17には自動で走査する駆動装置(トリガー発生回路)20が接続され、さらにこの駆動装置20を自動的に制御する制御手段14が接続されている。
【0050】
テラヘルツ波発生素子3と保持手段15との間の入射側光路には、光学要素として、楕円鏡(非球面鏡)21と平面鏡22とが設置されている。楕円鏡21は、テラヘルツ波発生素子3からのパルス光を集光する。平面鏡22は、テラヘルツ波発生素子3と楕円鏡21との光路間に配置されており、テラヘルツ波発生素子3からのパルス光を折り返す機能を果たす。なお、楕円鏡21及び平面鏡22は、本実施形態のように1つずつとしても良いが、複数を組み合わせて用いることもできる。
【0051】
検出素子4と保持手段15との間の検出側光路には、光学要素として、楕円鏡(非球面鏡)23と平面鏡24とが設置されている。楕円鏡23は、試料からの透過パルス光を集光する。平面鏡24は、楕円鏡23と検出素子4との光路間に配置されており、楕円鏡23からの透過パルス光を折り返す機能を果たす。なお、楕円鏡23及び平面鏡24は、本実施形態のように1つずつとしても良いが、複数を組み合わせて用いることもできる。
【0052】
検出素子4には、検出素子4で検出した電流信号を電圧信号へと変換する電流電圧変換手段(AVC)25が接続されている。
【0053】
変調手段13および電流電圧変換手段25には、直接およびロックインアンプ26を介して制御手段14が接続されている。制御手段14は、変調手段13によるアンテナ電極膜への電圧の印加を制御できる。
【0054】
制御手段14は、A/D変換器14a、情報処理部14b、入出力部14cを備えている。情報処理部14bは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等である。
制御手段14は、生体組織力学的物性量観測装置を制御するとともに、計測によって取得したデータを演算し、表示する機能も有している。
【0055】
次に、本実施形態の生体組織力学的物性量観測装置の動作について説明する。
パルスレーザ光源1から放射されたパルスレーザ光L
1は、ビームスプリッタ2によって励起用パルスレーザ光(ポンプパルス光)L
2と検出用パルスレーザ光(サンプリングパルス光)L
3とに分割される。
【0056】
励起用パルスレーザ光L
2はレンズ27を介してテラヘルツ波発生素子3に照射される。このとき励起用パルスレーザ光L
2は、アンテナ電極膜の間隙8にある光伝導膜上に集光される。アンテナ電極膜にバイアス電圧をかけた状態で、光伝導膜上に励起用パルスレーザ光L
2が照射されると瞬間的に光励起による電流が流れ、遠赤外電磁波パルス(パルス光)を放射する。
【0057】
このとき変調手段13は情報処理部14bからの指令により、第1アンテナ電極膜7aと第2アンテナ電極膜7bに同時に且つ位相をずらして同一の振幅・周期を有するバイアス電圧を印加してパルス光を円偏光に変調させる(
図3の(a)(b)参照)。
【0058】
第2アンテナ電極膜7bに印加する正弦波電圧の位相だけでなく振幅も異ならせるようにすれば、楕円偏光とされたパルス光が放射されることになる。このような使用により、振動円二色性の計測を行うことができる。
【0059】
このパルス光は、平面鏡22によってその光路を折り返された後に、楕円鏡21へと導かれ、集光されて試料Sに照射される。このとき、試料Sは、圧電素子43によって強制的に加振されている。制御手段14は、所定範囲内の加振周波数f[kHz]で掃引する。メタマテリアル41の存在下でパルス光が試料Sに照射されるので、より多くの光学的情報が透過ないし反射される。
【0060】
試料Sの光学的情報を含んで試料を透過した透過パルス光(または試料で反射された反射パルス光)は、楕円鏡23で反射された後に、平面鏡24で折り返され、さらに検出素子4へ導光される。このとき、反射又は透過パルス光は、アンテナ電極膜の間隙8にある光伝導膜上に集光される。
【0061】
ビームスプリッタ2で分割された検出用パルスレーザ光L
3は、時間原点調整用の光学的遅延手段16および時系列信号測定用の光学的遅延手段17により所定の時間間隔ずつ遅延時間差が付与され、検出素子4へ導光される。このとき検出用パルスレーザ光L
3は、アンテナ電極膜の間隙8にある光伝導膜上に集光され、試料の反射又は透過パルス光と重畳する。
【0062】
光伝導膜上に検出用パルスレーザ光L
3が照射された瞬間だけ、検出素子4は導電性となる。よって、トリガーをかけ、導電性になった瞬間に到達した試料からの反射又は透過パルス光の電場強度および位相進みを電流信号として検出する。
【0063】
検出素子4で検出した電流信号は、電流電圧変換手段25により電圧信号に変換されるとともに増幅されてロックインアンプ26に渡される。テラヘルツ波発生素子3から照射されるパルス光は変調手段13により変調がかけられており、ロックインアンプ26では変調されたパルス光の繰り返し周波数を参照信号とし、参照信号に同期した電圧のみを周波数フィルターで拾い上げ、背景ノイズの影響を小さくして信号が検出される。
【0064】
ロックインアンプ26で増幅した電圧信号は、A/D変換器14aでデジタル信号に変換される。情報処理部14bは、デジタル信号をフーリエ変換して、試料の反射又は透過パルス光の電場強度の振幅及び位相の分光スペクトルを算出する。
【0065】
制御手段14では、得られた分光スペクトルを試料のないときのスペクトルでそれぞれ規格化または差分をとることで、偏光スペクトルが得られる。制御手段14では、得られた分光スペクトルの左右偏光の差分をとることで振動円二色性スペクトル(VCDスペクトル:Vibrational Circular Dichroism Spectrum)が得られる。制御手段14では、得られた偏光スペクトルおよび振動円二色性スペクトルをもとに試料の力学的物性量を得て、これを観測することができる。力学的物性量は、弾性率(η)、誘電率(ε)、緩和時間(T1)、屈折率などである。
【0066】
図6には、上述の生体組織力学的物性量観測装置によって取得された光学活性量ないし光学物性量の一例である旋光分散α
*(σ)または円偏光二色性楕円率θ
*(σ)のVCDスペクトルが示されている。ここで、σは波数を表す。同図において横軸が時間t、縦軸が旋光分散α
*(σ)または円偏光二色性楕円率θ
*(σ)、奥行き軸が波数σ[cm
−1]である。
図6に示したグラフは、制御手段14にて演算され、表示することができる。
【0067】
同図から分かるように、計測当初は極大及び極小が明確に分かれていた波形が時刻の経過につれて徐々に減衰していく。そして、極大値を示す波数σ1及びσ2の減衰から緩和時間Tを得ることができる。例えば、旋光分散α
*(σ)の緩和時間Tは、以下の式から得ることができる。
α
*(σ)=exp(t/T)
ここで、tは経過時間である。
【0068】
次に、二次元相関分光法を用いたデータ処理について説明する。なお、二次元相関分光法についての一般的な理解については、「赤外分光測定法−基礎と最新手法」(田隈三生編著 社団法人日本分光学会編集委員会,株式会社エス・ティ・ジャパン,2012年4月)の「第II部 各種測定法 21.二次元相関分光法」(158頁−165頁)が参照できる。
図6に示したデータを、圧電素子43によって試料Sを加振周波数f[kHz]で加振した際の周波数ごとに得る。これにより、加振周波数fに応じた光学活性量を計測することができる。
そして、
図7に示すように、同時相関スペクトル(
図7(a))及び異時相関スペクトル(
図7(b))を得る。
図7の各図には、旋光分散α
*(σ)または円偏光二色性楕円率θ
*(σ)のスペクトルを各グラフの右側と上側に描いている。
図7に示した各グラフは、制御手段14にて演算され、表示することができる。
同時相関スペクトルの等高線を示した
図7(a)を見ると、対角線D1に対して対称となっている。これに対して、異時相関スペクトルの等高線を示した
図7(b)を見ると、対角線D1に対して対称性が崩れていることが分かる。これから、特定の加振周波数fにおいてある波数で何らかの構造的変化が生じたと判断することができる。このようにして、生体組織の例えば水分子に関連する構造を解明する基礎データを提供することができる。
以上の通り、外部から強制的に加振して弾性波を与えることにより、複数の生体組織の力学的摂動変動の差異を光学的活性量ないし光学的物性量に出現する変化量として観測することができる。
【0069】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
生体組織である試料Sにパルス光を照射する際に、生体組織を圧電素子43によって振動させることとした。このように生体組織を強制的に加振して振動させることによって、加振した振動数に応じた分光計測が可能となり、生体組織の分子レベルでの情報をより多く得ることができる。
【0070】
圧電素子43による加振振動数を所定範囲内で掃引することとしたので、種々の周波数に対応する生体分子の構造を特定することができる。
【0071】
力学的物性量として生体組織の緩和時間Tを得る場合には、緩和時間Tの振動周波数依存性が分かり、生体組織の構造解明に寄与することができる。