(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体、抗CTLA-4抗体、抗KIR抗体、抗CD137抗体、抗LAG-3抗体、抗OX40抗体、抗CD80抗体、抗CD86抗体、抗B7-H3抗体、抗B7-H4抗体、抗B7-H5抗体、抗TIM-3抗体、抗TIGIT抗体、及び抗BTLA抗体からなる群より選ばれるいずれか1又は2以上である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の医薬。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、センダイウイルスエンベロープ(HVJ-E)を有効成分とする、プリオノイドの蓄積を伴う認知機能障害及び/又は神経変性疾患を予防及び/又は治療するための医薬に関する。
【0015】
1.センダイウイルスエンベロープを含む医薬
「センダイウイルス(HVJ)」
「センダイウイルス(HVJ)」は、パラミクソウイルス科レスピロウイルス属の一本鎖マイナス鎖RNAウイルスで、マウスやラットに感染し、呼吸器病を引き起こす。ウイルス粒子の外側には、膜状構造であるエンベロープが存在し、ウイルスゲノム、カプシドタンパクを覆っている。エンベロープタンパク質は、ウイルスが宿主細胞に吸着・侵入する際の細胞融合活性を担う膜成分であり、免疫回避など、ウイルス感染において重要な役割を果たしている。
【0016】
「センダイウイルスエンベロープ(HVJ-E)」
本発明にかかる「センダイウイルスエンベロープ(HVJ-E)」とは、不活性化され、複製能力を失わせた不活性化センダイウイルスである(Kaneda et al., Hemagglutinating Virus of Japan (HVJ) Envelope Vector as a Versatile Gene Delivery System. Mol. Ther. 2002, 6, 219-226)。HVJ-Eでは、ウイルスのゲノムRNAは完全に不活化されているため、宿主における感染性や増殖性を有しない。
【0017】
HVJ-Eの膜上タンパク質であるHemagglutinin-Neuraminidase(HN)タンパク質とFusion(F)タンパク質は、ウイルスRNA不活性化後も細胞膜融合能を有している。そのため、不活性化したHVJのエンベロープ内に遺伝子や薬物を封入し、対象の細胞に送達することが可能となる。またHVJ-Eは、それ自体腫瘍免疫を増強させるアジュバント効果を有しているため、単独で、あるいはその内部に抗がん剤を封入して、癌の治療に用いることができる(前掲、WO2005/094878、WO2010/032764)。HVJ-Eがアルツハイマー病などのプリオノイドの蓄積を伴う認知機能障害や神経変性疾患に対する予防・治療効果を有することは本願以前には知られていない。
【0018】
「HVJ-Eの調製」
本発明のHVJ-Eは、HVJを不活性化することにより得ることができる。用いられるHVJは、医薬としての目的を損なわない限り、野生型であっても、適当な改変が加えられた変異型であってもよい。野生型HVJとしては、たとえば、ATCC(登録商標)VR-105
TM,ATCC(登録商標)VR-907
TM等を購入して使用することができる。ウイルスは、不活性化に先だって、遠心分離あるいは限外ろ過とイオン交換カラムの併用等により精製することが好ましい。
【0019】
変異型HVJとしては、例えば、mRNAに特異的なsiRNAを用いるなどしてHNを欠損させたHVJ-E;HVJ-Eを構成するHNタンパク質の特定領域のC末端側に所望のポリペプチドを連結させることにより改変HNタンパク質と所望のタンパク質との融合タンパク質をHVJ-Eの外側表面に発現するように改変されたHVJ-E(特開2011-050292参照);その他、膜タンパク質を改変したHVJ-E等を挙げることができる。
【0020】
ウイルスの不活性化は、宿主細胞、好ましくはヒト細胞内での、ウイルスの複製能力を失わせるものであればとくに限定されず、紫外線照射、γ線照射、化学処理(アルキル化剤処理)、熱処理等により行うことができるが、エンベロープの膜上タンパク質に対する影響が小さいという点で紫外線照射やγ線照射が好ましい。紫外線照射やγ線照射の場合、HVJの懸濁液に紫外線(通常90〜200ミリジュール/cm
2程度)又はγ線(通常5〜20グレイ程度)を照射することでウイルスを不活性化することができる。また、アルキル化剤処理の場合、HVJの懸濁液にβプロピオラクトンなどのアルキル化剤を添加し、インキュベートすることでウイルスを不活性化することができる。HVJ-Eの具体的な調製方法は、前掲Kaneda et al., 2002、WO01/57204(実施例8)、特開2002-065278号、WO03/014338などに詳述されている。
【0021】
「HVJ-Eを含む医薬」
本発明のHVJ-Eを含む医薬は、薬理学上許容される担体や添加物を含むものであってもよい。そのような担体や添加物としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、溶剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味剤、着色剤、緩衝剤、流動性促進剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体や添加物が適宜使用できる。
【0022】
具体的には、賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトールなどの糖類、でんぷん類、結晶セルロースなどのセルロース類などの有機系賦形剤、炭酸カルシウム、カオリンなどの無機系賦形剤などが挙げられる。
【0023】
結合剤としては、α化デンプン、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、D−マンニトール、トレハロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0024】
滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸塩などの脂肪酸塩、タルク、珪酸塩類などが挙げられる。
【0025】
溶剤としては、精製水、生理的食塩水、リン酸緩衝液などが挙げられる。
【0026】
崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、化学修飾されたセルロースやデンプン類などが挙げられる。
【0027】
溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0028】
懸濁化剤あるいは乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、アラビアゴム、ゼラチン、レシチン、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース類、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
【0029】
等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリン、尿素などが挙げられる。
【0030】
安定化剤としては、ポリエチレングリコール、デキストラン硫酸ナトリウム、その他のアミノ酸類などが挙げられる。
【0031】
無痛化剤としては、ブドウ糖、グルコン酸カルシウム、塩酸プロカインなどが挙げられる。
【0032】
防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
【0033】
抗酸化剤としては、水溶性抗酸化剤であるアスコルビン酸、システインハイドロクロライド、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、脂溶性抗酸化剤であるアスコルビルパルミテート、ブチル化ハイドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ハイドロキシトルエン(BHT)、レシチン、プロピルガレート、α−トコフェロール、及び金属キレート剤であるクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸が挙げられる。
【0034】
矯味矯臭剤としては、医薬分野において通常に使用される甘味料、香料などが、着色剤としては、医薬分野において通常に使用される着色料が挙げられる。
【0035】
上記のほか、ヒアルロン酸、ポリ乳酸、アルギン酸、ゼラチンなどのポリマーや、カチオン化ゼラチン(特開2008-308440)などのカチオン化剤とともにHVJ-Eを製剤化してもよい。
【0036】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口でも非経口投与でもよい。非経口投与としては、具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、骨髄内注射、髄腔内注射、皮内注射が例示できる。投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。
【0037】
本発明の医薬の投与量は、その使用目的、投与経路等によって適宜決定される。ヒトに投与する場合は、例えば、一回の投与につきHVJ-Eとして200mNAUから20,000mNAUの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり3,000〜60,000mNAU/bodyの範囲で投与量が選択できる。
【0038】
本発明の医薬は、本発明の目的を損なわない限り、他の薬剤と併用してもよい。前述のとおり、HVJ-Eの内部には核酸や薬剤などを封入することができる。本発明においても、本発明の目的を損なわない範囲において、認知機能障害又は神経変性疾患の治療に有用な薬剤等をHVJ-Eに封入してもよい。
【0039】
「認知機能障害及び/又は神経変性疾患」
HVJ-Eを含む医薬は、プリオノイドの蓄積を伴う認知機能障害及び/又はプリオノイドの蓄積を伴う神経変性疾患の治療及び/又は予防に有用である。
【0040】
「プリオノイド」とは、放出されたミスフォールディングタンパク質が近隣の細胞に伝播することで病巣の拡大を生じると考えられているタンパク質で、たとえば、アミロイドβ、αシヌクレイン、ハンチンチン、リン酸化タウ等を挙げることができる。プリオノイドの代表例は、後述する「アミロイドβ」と「αシヌクレイン」である。
【0041】
「アミロイドβ」とは、アルツハイマー型認知症の主要な病理変化である老人斑の主要構成成分であるペプチドである。アミロイドβ(以下、「Aβ」とも記載する)は、β-及びγ-セクレターゼにより前駆体蛋白(APP:Amyloid β protein precursor)から切り出されて生成する疎水性の高いペプチドで、40アミノ酸からなるAβ
1−40と42アミノ酸からなるAβ
1−42がある。Aβ
1−42はAβ
1−40よりも凝集しやすく、Aβ
1−42が凝集し、これを核としてAβ
1−40が凝集して線維形成を行うという説が提唱されているが、その蓄積には他の危険因子(アポE、プレセニリン1・2など)による修飾が必要と考えられている。Aβは神経細胞毒性を有し、ネクローシス等を引き起こす。
【0042】
「αシヌクレイン」とは、主として神経組織内にみられ、SNCA遺伝子によってコードされるアミノ酸140残基からなる機能不明のタンパク質である。αシヌクレインは、最初その断片がアルツハイマー病で蓄積するアミロイド中の成分として発見されたが、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患の原因であると考えられている。
【0043】
「プリオノイドの蓄積を伴う認知機能障害及び/又は神経変性疾患」としては、たとえば、アルツハイマー型認知症、軽度認知機能障害(MCI)、脳アミロイド血管症、ダウン症候群、黄斑変性、レビー小体型認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症、タウオパチー、前頭側頭葉変性症、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症、自閉症、糖尿病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、クロイツフェルト・ヤコブ病等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明において、「治療」という用語は本発明に係る医薬が被験者に投与されることによって、プリオノイドの蓄積を伴う認知機能障害及び/又は神経変性疾患に起因する様々な症状が改善されることを意味する。また、「予防」という語は、プリオノイドの蓄積を伴う認知機能障害及び/又は神経変性疾患の発症や憎悪を防止することを意味する。
【0045】
2.HVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤との組合せ
発明者らは、免疫チェックポイント阻害剤を、アルツハイマー病のモデルマウスに投与することで、行動学的改善が認められることを確認するとともに、その効果はHVJ-Eと併用することで、相乗的に効果を示すことも実証した。すなわち、本発明は、センダイウイルスエンベロープ(HVJ-E)と免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせて(併用または配合して)、プリオノイドの蓄積を伴う認知機能障害及び/又は神経変性疾患を予防及び/又は治療するための医薬も提供する。
【0046】
「HVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせて含む医薬」
本発明において、「HVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせて含む、プリオノイドの蓄積を伴う認知機能障害及び/又は神経変性疾患を予防及び/又は治療するための医薬」とは、HVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤を、神経変性疾患を予防及び/又は治療において、同時に、別々に、又は、順次に投与するために組み合わせた医薬を意味する。1つの実施形態において、本発明の医薬は、HVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤が共に含有される配合剤の形で提供される。また、別な実施形態において、本発明の医薬は、HVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤を含有する別々の薬剤の併用として提供され、同時に、又は順次に使用される。さらに、別な実施形態において、本発明の医薬は、HVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤を含有する薬剤から構成されるキットとして提供されてもよい。
【0047】
本発明において、HVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤との「併用」とは、HVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤とが共に投与又は使用されることを意味するものであって、投与の順番や投与間隔等が限定されて解釈されるものではない。また、HVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤の「配合剤」とは、HVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤を一定量で組み合わせて製剤化した医薬(fixed dose combination drug)を意味する。
【0048】
HVJ-E及び免疫チェックポイント阻害剤は、組み合わせて投与(使用)されることにより、いずれか一方が単独で用いられる投与量よりも、少ない投与量で投与され、したがって、副作用の可能性を低減することができる。
【0049】
「免疫チェックポイント阻害剤」
「免疫チェックポイント阻害剤」とは、免疫チェックポイントを阻害し、獲得免疫防御システムを抑制する物質・分子の作用を阻害することを意味する。免疫チェックポイントとは、がん細胞、細菌やウイルスなどの病原体に対する獲得免疫防御システムを抑制する分子であり、たとえば、エフェクターT細胞表面に発現するPD-1や、腫瘍細胞表面に発現するPD-L1やPD-L2、活性化T細胞あるいは抑制性T細胞Tregの表面に発現するCTLA-4、樹状細胞表面に発現するCD80(B7-1)やCD86(B7-2)のほか、B7-H3、B7-H4、B7-H5(VISTA)、KIR、CD137、LAG-3、TIM-3、TIGIT、OX40、BTLA等が挙げられる。
【0050】
上記免疫チェックポイント阻害剤のアミノ酸配列やこれをコードする遺伝子の塩基配列は既に公知であり、公共のデータベースにおいて公開されている(核酸配列: GenBank, DDBJ, EMBL、アミノ酸配列:SwissProt, PIR, PDB)。例えば、ヒトPD-1の遺伝子(Homo sapiens programmed cell death 1 (PDCD1), mRNA)については、GenBank Accession No. NM_005018として、タンパク(programmed cell death protein 1 precursor [Homo sapiens])については、Accession No. NP_005009として情報が公開されている(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NM_005018.2、及びhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/167857792)。後述する免疫チェックポイント阻害剤(例えば、アンチセンス核酸、siRNA, shRNA、抗体等)は、これらの公表された情報に基づき、当該分野で公知の技術を用いて設計し、取得することができる。以下に、免疫チェックポイント阻害剤に関する情報をまとめて示す。
【0052】
本発明において、「免疫チェックポイント阻害剤」は、上記免疫チェックポイントの発現又は活性を抑制する物質であれば特に制限されない。
【0053】
「免疫チェックポイントの発現を抑制する物質」は、免疫チェックポイントの遺伝子の転写レベル、転写後調節のレベル、タンパク質への翻訳レベル、翻訳後修飾のレベル等のいかなる段階で作用するものであってもよい。従って、免疫チェックポイントの発現を抑制する物質としては、例えば、該遺伝子の転写を阻害する物質、初期転写産物からmRNAへのプロセッシングを阻害する物質、mRNAの細胞質への輸送を阻害する物質、mRNAの分解を促進する物質、mRNAからタンパク質への翻訳を阻害する物質、免疫チェックポイントの翻訳後修飾を阻害する物質などが含まれる。いずれの段階で作用するものであっても好ましく用いることができるが、免疫チェックポイントの産生を直接的に阻害するという意味では、mRNAからタンパク質への翻訳を阻害する物質が好ましい。
【0054】
免疫チェックポイントのmRNAからタンパク質への翻訳を特異的に阻害する物質としては、たとえば、免疫チェックポイントをコードするmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含む核酸が挙げられる。
【0055】
免疫チェックポイントのmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列としては、
(a) 免疫チェックポイントをコードする塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列、又は
(b) 免疫チェックポイントをコードする塩基配列の相補鎖配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、免疫チェックポイントと実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードする塩基配列と、相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列が挙げられる。
【0056】
「実質的に相補的」とは、塩基配列間で約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相補性を有することをいう。また、「活性」とは、T細胞のがん細胞に対する抗腫瘍活性を抑制する作用などをいう。「実質的に同質」とは、それらの活性が定性的(例えば、生理学的又は薬理学的)に同じであることを示す。したがって、これらの活性の程度(例えば、約0.1〜約10培、好ましくは約0.5〜約2倍)やタンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。免疫チェックポイントの活性の測定は、自体公知の方法に準じて行なうことができる。
【0057】
ハイストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1% SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。
【0058】
「免疫チェックポイントのmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列の一部」とは、免疫チェックポイントのmRNAに特異的に結合することができ、且つ該mRNAからのタンパク質の翻訳を阻害し得るものであれば、その長さや位置に特に制限はないが、配列特異性の面から、標的配列に相補的もしくは実質的に相補的な部分を少なくとも10塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約20塩基以上含むものである。
【0059】
具体的には、免疫チェックポイントのmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含む核酸として、以下の(i)〜(iii)のいずれかのものが好ましく例示される。
(i) 免疫チェックポイントのmRNAに対するアンチセンス核酸
(ii) 免疫チェックポイントのmRNAに対するsiRNA
(iii) 免疫チェックポイントのmRNAに対するsiRNAを生成し得る核酸
【0060】
(i) 免疫チェックポイントのmRNAに対するアンチセンス核酸
本発明における、免疫チェックポイントのmRNAに対するアンチセンス核酸(本発明のアンチセンス核酸)とは、該mRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含む核酸であって、標的mRNAと特異的かつ安定した二重鎖を形成して結合することにより、タンパク質合成を抑制する機能を有するものである。アンチセンス核酸は、二本鎖DNA、一本鎖DNA、二本鎖RNA、一本鎖RNA、DNA:RNAハイブリッドのいずれであってもよい。
【0061】
アンチセンス核酸の標的領域は、該アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、結果として免疫チェックポイントの翻訳が阻害されるものであればその長さに特に制限はなく、これらタンパク質をコードするmRNAの全配列であっても部分配列であってもよく、短いもので約10塩基程度、長いものでmRNAもしくは初期転写産物の全配列が挙げられる。合成の容易さや抗原性、細胞内移行性の問題等を考慮すれば、約10〜約40塩基、特に約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましいが、それに限定されない。具体的には、免疫チェックポイントの遺伝子の5'端ヘアピンループ、5'端6−ベースペア・リピート、5'端非翻訳領域、翻訳開始コドン、タンパク質コード領域、ORF翻訳終止コドン、3'端非翻訳領域、3'端パリンドローム領域又は3'端ヘアピンループなどが、アンチセンス核酸の好ましい標的領域として選択しうるが、それらに限定されない。
【0062】
アンチセンス核酸を構成するヌクレオチド分子は、天然型のDNAもしくはRNAでもよいが、安定性(化学的及び/又は対酵素)や比活性(RNAとの親和性)を向上させるために、種々の化学修飾を含むことができる。アンチセンス核酸はアンチジーンの形態であってもよい。こうした各種修飾を含むアンチセンス核酸は、いずれも自体公知の手法により、化学的に合成することができる。
【0063】
(ii) 免疫チェックポイントのmRNAに対するsiRNA
本明細書においては、免疫チェックポイントのmRNAに相補的なオリゴRNAとその相補鎖とからなる二本鎖RNA、いわゆるsiRNAもまた、免疫チェックポイントのmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含む核酸に包含されるものとして定義される。siRNAは標的となるmRNAの塩基配列情報に基づいて、市販のソフトウェア(例:RNAi Designer; Invitrogen)を用いて適宜設計することができる。
【0064】
siRNAを構成するリボヌクレオチド分子もまた、安定性、比活性などを向上させるために、上記のアンチセンス核酸の場合と同様の修飾を受けていてもよい。但し、siRNAの場合、天然型RNA中のすべてのリボヌクレオチド分子を修飾型で置換すると、RNAi活性が失われる場合があるので、RISC複合体が機能できる最小限の修飾ヌクレオチドの導入が必要である。
【0065】
siRNAは、mRNA上の標的配列のセンス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、siRNAの前駆体となるショートヘアピンRNA(shRNA)を合成し、これをダイサー(dicer)を用いて切断することにより調製することもできる。
【0066】
(iii) 免疫チェックポイントのmRNAに対するsiRNAを生成し得る核酸
本明細書においては、生体内で上記の免疫チェックポイントのmRNAに対するsiRNAを生成し得るようにデザインされた核酸もまた、免疫チェックポイントのmRNAの塩基配列と相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列又はその一部を含む核酸に包含されるものとして定義される。そのような核酸としては、上記したshRNAやそれを発現するように構築された発現ベクターなどが挙げられる。shRNAは、mRNA上の標的配列のセンス鎖及びアンチセンス鎖を適当なループ構造を形成しうる長さ(例えば15から25塩基程度)のスペーサー配列を間に挿入して連結した塩基配列を含むオリゴRNAをデザインし、これをDNA/RNA自動合成機で合成することにより調製することができる。shRNAの発現カセットを含む発現ベクターは、上記shRNAをコードする二本鎖DNAを常法により作製した後、適当な発現ベクター中に挿入することにより調製することができる。shRNAの発現ベクターとしては、U6やH1などのPol III系プロモーターを有するものが用いられ得る。
【0067】
これらの核酸の免疫チェックポイント発現阻害活性は、免疫チェックポイントの遺伝子を導入した形質転換体、生体内や生体外の免疫チェックポイントの遺伝子発現系、又は生体内や生体外の免疫チェックポイント質のタンパク質翻訳系を用いて調べることができる。
【0068】
本発明における免疫チェックポイントの発現を抑制する物質は、上記のような核酸に限定されず、免疫チェックポイントの産生を直接的又は間接的に阻害する限り、低分子化合物などの他の物質であってもよい。
【0069】
本発明において、「免疫チェックポイントの活性を抑制する物質」とは、T細胞のがん細胞に対する抗腫瘍活性を制御する作用を抑制する限り、いかなるものであってもよい。
【0070】
具体的には、「免疫チェックポイントの活性を抑制する物質」としては、免疫チェックポイントに特異的な抗体が挙げられる。抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよい。これらの抗体は、自体公知の抗体又は抗血清の製造法に従って製造することができる。抗体のアイソタイプは特に限定されないが、好ましくはIgG、IgM又はIgA、特に好ましくはIgGが挙げられる。また、抗体は、標的抗原を特異的に認識し結合するための相補性決定領域(CDR)を少なくとも有するものであれば特に制限はなく、完全抗体分子のほか、Fab、Fab'、F(ab’)
2等のフラグメント、scFv、scFv-Fc、ミニボディー、ダイアボディー等の遺伝子工学的に作製されたコンジュゲート分子、あるいはポリエチレングリコール(PEG)等のタンパク質安定化作用を有する分子等で修飾されたそれらの誘導体などであってもよい。
【0071】
「免疫チェックポイント阻害剤」の好ましい例としては、例えば、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体、抗CTLA-4抗体、抗KIR抗体、抗CD137抗体、抗LAG-3抗体、抗OX40抗体、抗CD80抗体、抗CD86抗体、抗B7-H3抗体、抗B7-H4抗体、抗B7-H5抗体、抗TIM-3抗体、抗TIGIT抗体、及び抗BTLA抗体が挙げられる。なかでも、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体が好ましく、抗PD-1抗体がより好ましい。
【0072】
本発明で使用される「抗PD-1抗体」は、PD-1に結合し、その免疫チェックポイントとしての機能を阻害できるものであれば特に限定されない。抗PD-1抗体としては、既に医薬として承認販売されているものや、開発中のものがあり、これらを好適に利用することができる。そのような「抗PD-1抗体」としては、ニボルマブ(オプジーボ(GSK/小野薬品))、ヒト化IgG4型抗体であるペムブロリズマブ(MK-3475(Merck))、ジピリズマブ(CT-011(CureTech))、REGN-2810/SAR-439684(Regeneron)、PDR-001(Novartis)、AMP-514/MEDI-0680(Amplimmune)、TSR-042(AnaptyBio)、PF-06801591(Pfizer)、JS-001(Shanghai Junshi Biosciences)、IBI-308(Innovent Biologics)、BGB-A317(BeiGene)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
本発明で使用される「抗PD-L1抗体」は、PD-L1に結合し、その免疫チェックポイントとしての機能を阻害できるものであれば特に限定されない。抗PD-L1抗体としては、既に医薬として承認(販売)されているものや、開発中のものがあり、これらを好適に利用することができる。そのような「抗PD-L1抗体」としては、アテゾリズマブ(MPDL3280A/RG-7446(Roche/中外)、Durvalumab(MEDI4736(アストラゼネカ))、アベルマブ(MSB0010718C(Merck))、MED10680/AMP-514(Medimmune)、MDX-1105/BMS-936559(BMS)、INCAGN-1876(Agenus)、LY-3300054(Eli Lilly)、CA-170(Aurigene Discovery Tcehcnology)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
本発明で使用される「抗CTLA-4抗体」は、CTLA-4に結合し、その免疫チェックポイントとしての機能を阻害できるものであれば特に限定されない。抗CTLA-4抗体としては、既に医薬として承認(販売)されているものや、開発中のものがあり、これらを好適に利用することができる。そのような「抗CTLA-4抗体」としては、イピリムマブ(MDX-010)、トレメリムマブ(CP675/206(Pfizer))、AGEN-1884(4-Antibody)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
上記のほか、抗キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)抗体であるリリルマブ(IPH2102/BMS-986015)、抗CD137抗体であるウレルマブ(BMS-663513)、PF-05082566、抗LAG-3抗体であるBMS-986016;抗OX40抗体であるMEDI6469、PD-LAとTGF-βを標的としたbi-functionalな融合タンパクであるMSB0011359C/M-7824(Merck)等が、免疫チェックポイント阻害剤として開発中である。
【0076】
上記した抗体は、常法に基づいて作製してもよい。その場合、抗体は、ヒトに対する異種抗原性を低下させるために、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体であるか、あるいは完全ヒト抗体であることが好ましい。
【0077】
本発明の「免疫チェックポイント阻害剤」は、薬理学上許容される担体や添加物を含むものであってもよい。そのような担体や添加物としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、溶剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味剤、着色剤、緩衝剤、流動性促進剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体や添加物が適宜使用できる。担体や添加物の具体例は前述したとおりである。
【0078】
本発明の「免疫チェックポイント阻害剤」の投与経路は特に限定されないが、非経口投与が好ましく、具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射が例示できる。投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。
【0079】
本発明の医薬において、免疫チェックポイント阻害剤とHVJ-Eとが別々の薬剤に含有されて提供される場合には、これらの薬剤の剤型や投与経路は、同じであっても異なるものであってもよい。また、さらに異なる一種以上の製剤を組み合わせてもよい。
【0080】
本発明の「免疫チェックポイント阻害剤」の投与量は、その使用目的、投与経路等によって適宜決定される。目的とする最適な応答(例えば、治療応答)をもたらすように調整される。有効成分は抗体であるため、投与量は、約0.0001〜100mg/kg、一般的には0.01〜5mg/kg患者体重の範囲である。例えば、投与量は、約0.3mg/kg体重、1mg/kg体重、3mg/kg体重、5mg/kg体重又は10mg/kg体重であるか又は1〜10mg/kgの範囲である。典型的な治療方法には、例えば、週1回投与、2週間おきに1回投与、3週おきに1回投与、4週おきに1回投与、月1回投与、3ヶ月おきに1回投与又は3〜6ヶ月おきに1回投与などである。例えば、静注投与の場合、1mg/kg体重又は3mg/kg体重である。投与回数は、症状に応じて適宜設定され、単回のボーラスで投与してもよいし、数回に分けて時間をかけて投与してもよい。例えば、投与6回を4週おきに、次に3週おきで投与する場合もあれば、3週おきに投与する場合もあれば、3mg/kg体重を1回、次に3週おきに1mg/kg体重で投与される場合もある。
【0081】
本発明に係るHVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤を併用する場合、その投与の順番は限定されず、免疫チェックポイント阻害剤の投与後にHVJ-Eが投与されても、両者が同時に投与されても、HVJ-Eの投与後に免疫チェックポイント阻害剤が投与されてもよい。好ましくは、HVJ-Eの投与後に免疫チェックポイント阻害剤を投与する。
【0082】
HVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤が順次に投与される場合、HVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤の投与間隔は特に限定されず、投与経路や剤型、投与量、残留濃度等を考慮し、所望の併用効果が得られるように設定され得る。例えば、投与間隔は、0時間〜7日、好ましくは0時間〜3日、より好ましくは0〜24時間、さらに好ましくは0時間〜12時間である。投与間隔は、たとえば、患者における薬剤やその代謝物の血中濃度を公知の方法で分析した結果に基づいて決定することができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
実施例1:βアミロイド単回投与モデルマウスの学習障害に対する HVJ-E及び抗PD-1抗体の単剤及び併用投与における改善作用
1.材料及び方法
試験物質:
(1)HVJ-E(ロット番号:140523、ジェノミディア株式会社)
(2)LEAF
TM Purified anti-mouse CD279 (抗PD-1抗体、ロット番号:B203991、BioLegend Inc.)
陽性対照物質
アリセプト(登録商標)錠 5 mg(ドネペジル塩酸塩、ロット番号:61A53K、エーザイ株式会社)
媒体:
(1)メトローズ(登録商標)SM-100(メチルセルロース(以下 MC)、ロット番号:5065340、信越化学工業株式会社)
(2)注射用水(ロット番号:5C74N、株式会社大塚製薬工場)
5%トレハロース溶液(ロット番号:160523、ジェノミディア株式会社)
(3)リン酸緩衝塩(ロット番号:1259290、DSファーマバイオメディカル株式会社)
モデル作製用物質:
Amyloid - β Protein(25-35)(βアミロイド、ロット番号:AW14089、PolyPeptide Laboratories)
モデル作製用物質用媒体:
注射用水(ロット番号:K5F71、株式会社大塚製薬工場)
【0085】
投与検体:
媒体(0.5%MC)の調製
必要量のMCを秤量(電子天秤:XP205DR、PB3002-S/FACTのいずれかを使用、メトラー・トレド株式会社)後、注射用水で 0.5w/v%濃度となるよう撹拌調製する。調製後の 0.5%MC溶液は、冷蔵(管理温度:2.0〜8.0°C)の条件下で保管し、調製後7日以内に使用する。
媒体(PBS)の調製
リン酸緩衝塩 1錠あたり100 mL の注射用水で溶解し、0.22 μmのフィルター(MILLIPORE)でろ過滅菌する。
【0086】
被験物質(HVJ-E)の調製
必要数の被験物質を室温に戻し、バイアルからゴム栓だけを残してアルミキャップを完全に取りはずす。注射針(テルモ株式会社)を取り付けた 1 mLのポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)に注射用水を 1 mL充填する。ゴム栓の外側をエタノール綿で清拭した後、上記の注射針を取り付けた 1 mLのポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒をゴム栓に刺し、注射用水を壁面に伝わせるようにバイアルあたり1 mL加える。液が泡立たないよう且つゴム栓につかないように注意しながら、円を描くようにバイアルを回し、完全に溶解させ均一な白色の溶液とする。このときのHVJ-Eの濃度を10,000 mNAU/mL(5% トレハロース含有)とする。ゴム栓をはずし、液を泡立てないよう注意しながらマイクロピペットを用いて全量をポリプロピレン製のチューブに移す。
溶解液を移したチューブはただちに氷上に静置し、5%トレハロース水溶液を用いて所定濃度(2,000 mNAU/mL)の投与液を希釈調製する。調製後は氷上に保存し、投与直前に室温に戻す。
被験物質(抗PD-1抗体)の調製
そのまま(1バイアル:1 mg/mL)用いる。投与までは氷上に保存し、投与直前に室温に戻す。
【0087】
陽性対照物質の調製
塩換算をして調製する(換算係数:1.10)。
ドネペジルの必要錠数をメノウ乳鉢に入れてよく磨砕し、少量ずつ 0.5%MCを加えて、所定濃度とする。
【0088】
モデル作製用物質の調製
βアミロイドを注射用水で 2 mMとなるように溶解し、37°Cで 4日間インキュベーションしてβアミロイド溶液を調製する。なお、操作はクリーンベンチ内で行い、使用する器具及び容器は滅菌済みのものを使用する。
【0089】
調製頻度
0.5%MCは1週間に 1回以上、モデル作製用物質は投与4日前に1回、媒体(PBS)、被験物質及び陽性対照物質は用時とする。
【0090】
試験系
動物種及び系統
マウス(SPF):Slc: ddY
雄、5週齢、50匹
入手後1日の体重範囲(23〜28 g)
供給源:日本エスエルシー株式会社
【0091】
検疫及び馴化
入手した動物は 5日間の検疫期間、その後 4日間の馴化期間を設ける。この間に体重測定(電子天秤:PB3002、PG2002-S、PB3002-S/FACT、MS1602S/02のいずれかを使用、メトラー・トレド株式会社)を3 回及び一般状態の観察を1日1回行い検疫及び馴化とする。体重推移及び一般状態に異常の認められない動物を群分けに用いる。体重推移及び一般状態に異常の認められた動物は、炭酸ガスを用いて安楽死させる。
【0092】
群分け法
群分けはコンピュータシステム(IBUKI、株式会社日本バイオリサーチセンター)を用いて、体重を層別に分けたのち、無作為抽出法により各群の平均体重がほぼ等しくなるように行う。群分け後の残余動物は、群分け日に炭酸ガスを用いて安楽死させる。
【0093】
個体識別方法
動物は入手日に油性インクによる尾への記入法及び四肢への色素塗布法を併用して識別する。群分け後は、ケージラベルと同色(但し偽手術群は黒色)の油性インクを用いて尾へ動物番号の記入により識別する。各ケージには、検疫・馴化期間中は試験番号、入手年月日、検疫・馴化動物番号を記入したラベルを、群分け後は試験番号、群名称、投与量及び動物番号を記入し、群毎に色分けしたラベルを取り付ける。
【0094】
環境条件及び飼育方法
管理温度:20.0 〜 26.0°C、管理湿度:40.0 〜 70.0%、明暗各12時間(照明:午前6時 〜 午後6時)、換気回数:12回/時(フィルターを通した新鮮空気)に維持された飼育室(E棟9号室、但し検疫期間中はE棟10号室)で動物を飼育する。動物はオートクレーブ処理した床敷を入れたプラスチック製ケージ(W:310 × D:360 × H:175 mm)を用いて 1ケージあたり 10匹まで、群分け後は 1ケージあたり 5匹までの群飼育とする。給餌器の交換は 2週間に 1回以上行い、給水瓶、プラスチック製ケージの交換は 1 週間に 2回以上行う。動物飼育室の清掃・消毒は毎日行う。
【0095】
飼料
製造後5ヵ月以内の乳タンパク質を含まない固型飼料(MF、オリエンタル酵母工業株式会社)を、給餌器に入れ自由に摂取させる。使用した飼料の全ロットについて、飼料中の汚染物質濃度、細菌数及び栄養成分含量が試験施設の許容基準に適合していることを確認する。
【0096】
分析機関:Eurofins Scientific Analytics(汚染物質)及びオリエンタル酵母工業株式会社(細菌数及び栄養成分)
【0097】
投与経路
媒体(0.5%MC)及び陽性対照物質:経口
ディスポーザブルマウス用経口ゾンデ(有限会社フチガミ器械)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)を用いて強制経口投与する。投与操作時には、各投与検体を 1匹毎に転倒混和し、注射筒に吸引する。
投与液量:投与日の体重値より、10 mL/kgで算出する。
投与回数:1日 1回、合計 11回とする。
投与時刻:午前9時〜午前12時の間とする。但しβアミロイド注入日及び検査日は下記の如く行う。
βアミロイド注入日は、βアミロイド注入後(覚醒後)に投与する。
検査日は、測定の約 1時間(+ 10分)前に投与する。
選択理由:試験施設で用いられている通常の方法である。
【0098】
媒体(5%トレハロース溶液)及び HVJ-E:皮下(頸背部)
ディスポーザブル注射針(テルモ株式会社)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)を用いて頸背部に皮下投与する。投与操作時には、各投与検体を 1匹毎に転倒混和し、注射筒に吸引する。
投与液量:投与日の体重値より、5 mL/kgで算出する。
投与回数:隔日 1日 1回、合計 6回とする。
投与時刻:午前9時〜午前12時の間とする。但しβアミロイド注入日及び検査日は下記の如く行う。
βアミロイド注入日は、βアミロイド注入後(覚醒後)に投与する。
検査日は、測定の約 1時間(+ 10分)前に投与する。
【0099】
媒体(PBS)及び抗PD-1抗体:腹腔内
ディスポーザブル注射針(テルモ株式会社)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)を用いて腹腔内投与する。投与操作時には、各投与検体を 1匹毎に転倒混和し、注射筒に吸引する。
投与液量:1匹あたり0.25 mLを投与する。
投与回数:1日 1回、投与1日及び投与4日の合計2回とする。
投与時刻:午前9時〜午前12時の間とする。
選択理由:試験施設で用いられている通常の方法である。
【0100】
【表2】
【0101】
投与量設定の理由
HVJ-E及び抗PD-1抗体の投与量は十分な薬理作用が発現すると予想される用量を含め設定した。ドネペジルは試験施設のバックグラウンドデータに基づいて、十分な薬理作用を示す用量を設定した。
【0102】
観察及び検査項目
実験スケジュール
投与検体の投与開始日を 投与1日とし、投与 3日に βアミロイドを注入する。その後、投与 9日に Y迷路試験、投与 10 〜 11日に受動回避試験を行い、受動回避試験(保持試行)終了後に脳を摘出する。
【0103】
一般状態
一般状態は、1日1回、投与前に観察する。
なお、瀕死(自発運動が低下し、呼吸や脈拍の異常、体温低下、横臥、腹臥などの姿勢を取り、外部からの刺激への反応が低下した状態)がみられた場合を人道的エンドポイントとし、その動物については、炭酸ガスを用いて安楽死させる。
【0104】
体重測定
体重は、投与日毎に測定(電子天秤:PB3002、PG2002-S、PB3002-S/FACT、MS1602S/02のいずれかを使用、メトラー・トレド株式会社)する。体重測定は投与前に行う。
【0105】
βアミロイドの注入
動物をペントバルビタールナトリウム(東京化成工業株式会社)40 mg/kgで腹腔内投与(投与液量:10 mL/kg)し、麻酔する。麻酔後、頭皮に塩酸レボブピバカイン(ポプスカイン(登録商標)0.25%注、丸石製薬株式会社)を皮下投与(0.1 mL)する。動物の頭頂部の毛を刈り、頭部を脳定位固定装置に固定する。頭皮をヨードチンキで消毒後に切開して、頭蓋骨を露出させ、頭蓋骨上の結合組織を綿棒で取り除いたのち、ブロワーで乾燥させて bregmaの位置を見やすくする。歯科用ドリルを用いて bregmaより側方 1 mm(右側)、後方 0.2 mmの頭蓋骨にステンレスパイプ刺入用の穴を開ける。骨表面から 2.5 mmの深さまで外径 0.5 mmのシリコンチューブ及びマイクロシリンジに接続されたステンレスパイプを垂直に刺入する。脳室内に βアミロイド溶液 3 μL(6 μmol/3 μL)をマイクロシリンジポンプで 3分間かけて注入する。注入後は、ステンレスパイプを挿入したまま 3分間静置し、ステンレスパイプをゆっくりと外す。その後、ステンレスパイプを取り除き、頭蓋穴を非吸収性骨髄止血剤(ネストップ(登録商標)、アルフレッサファーマ株式会社)で塞ぎ、頭皮を縫合する。動物を脳定位固定装置から外し、飼育ケージに戻す。なお、ステンレスパイプ及びシリコンチューブは滅菌済みのものを使用する。
【0106】
Y迷路試験(自発的交替行動試験)
装置(
図1)
試験には、1本のアームの長さが 39.5 cm、床の幅が 4.5 cm、壁の高さが 12 cmで、3アームがそれぞれ 120度に分岐しているプラクチック製のY字型迷路(有限会社ユニコム)を用いる。測定前に、装置の床面の照度が 10〜40 Luxになるように調節する。
【0107】
測定方法
投与約 1時間後に行う。動物を Y字型迷路のいずれかのアームに置き、8分間迷路内を自由に探索させる。動物が測定時間内に移動したアームの順番を記録し、アームに移動した回数を数え、総エントリー数とする。次に、この中で連続して異なる 3つのアームを選択した組み合わせを調べ、この数を自発的交替行動数とする。更に下記の式を用いて自発的交替行動率を算出する。
自発的交替行動率(%)=[自発的交替行動数/(総エントリー数-2)]×100
【0108】
受動回避試験
試験には、中央のギロチンドアに仕切られた明室(W:100 × D:100 × H:300 mm)と床のグリッドから電気刺激を与える暗室(W:240 × D:245 × H:300 mm)を備えた step through型受動的回避反応装置(明暗箱:自社製、SHOCK SCRAMBLER:有限会社ユニコム)を用いる。動物を明室に入れて 10秒後にギロチンドアを静かに開け、動物が暗室に入るまでの時間(反応潜時)を測定する。
獲得試行(1日目)は、動物が暗室に入ると同時にギロチンドアを閉め電気刺激(0.2 mA、2sec、スクランブル方式)を与え、電気刺激負荷時の動物の鳴き声の有無を確認する。反応潜時は最高 300秒までとする。
保持試行(2日目)は、動物が暗室に入るか、明室で 300秒経過したら終了とする。
保持試行終了後の動物は、炭酸ガスを用いて安楽死させる。
【0109】
結果の解析
各評価項目において、各群の平均及び標準誤差を算出し、以下のとおり解析を行う。
統計解析方法
有意差検定は媒体対照群とHVJ-E群、媒体対照群と抗PD-1抗体群、媒体対照群とHVJ-E+抗PD-1抗体群、HVJ-E群とHVJ-E+抗PD-1抗体群、抗PD-1抗体群とHVJ-E+抗PD-1抗体群、媒体対照群とドネペジル群の 2群間比較検定を行う。
2群間比較検定は F検定による等分散性の検定を行い、等分散の場合は Studentのt検定、不等分散の場合は Aspin-Welch検定を行う。
有意水準は5%とし、5%未満(p<0.05)と1%未満(p<0.01)に分けて表示する。なお、有意差検定には、市販の統計プログラム(SASシステム、SAS Institute Japan株式会社)を使用する。
【0110】
結果
(1)Y迷路試験(自発的交替行動数、自発的交替行動率)
Y迷路試験の結果を
図2に示す。HVJ-E+抗PD-1抗体併用群は、媒体対照群に比較して、有意に高い自発的交換行動率を示し(P<0.01)、その数値はドネペジル群に匹敵するものであった。また、HVJ-E+抗PD-1抗体併用群の自発的交替行動率は、各単独投与(HVJ-E群又は抗PD-1抗体群)に比較して有意に高い自発的交換行動率を示し、Additive interactionとMultiplicative interactionにおいて正の相互作用が見られ、相乗的な効果を示した。
【0111】
(2)受動回避試験(反応潜時)
受動試験(反応潜時)の結果を
図3に示す。抗PD-1抗体群及びHVJ-E+抗PD-1抗体併用群では、ドネペジル群よりわずかに劣るものの、媒体対照群に比較して有意に高い効果を示した。また、HVJ-E+抗PD-1抗体併用群の反応潜時は、HVJ-E単独投与群に比較して有意な差を示した。
【0112】
考察
Schenkらは、Aβ過剰産生のアルツハイマーモデルマウスにAβ
1−42で免疫を行うことで病学的改善(前掲Nature 400: 173-, 1999)、及び行動学的改善(Nature 408: 979- and 982-, 2000)が認められること、さらに抗Aβ抗体を抹消投与することにより病理学的改善が認められることを報告している(Nature Med 6: 916-, 2000)。また、Baruchらは、アルツハイマーモデルマウスにPD-1抗体を投与することで病理学的改善が認められることを報告している(前掲Nature Med 22: 135- ,2016)。
【0113】
本実施例の結果と上記事実から、HVJ-Eと抗PD-1抗体(免疫チェックポイント阻害剤)は、いずれも自然及び獲得免疫を賦活化することで、異物であるAβを排除し、アルツハイマーの病態を改善させていると思われる。しかし、HVJ-Eと抗PD-1抗体の併用することで単独投与に比較して有意に高い効果が得られたことは、両者の作用機序が異なる可能性を示唆する。また、HVJ-Eが単独投与でも高い改善効果を示したことは、HVJ-Eが単に獲得免疫の賦活以外の経路で病態改善に寄与していることを示唆する。本実験により、HVJ-E単独あるいはHVJ-Eに免疫チェックポイント阻害剤を併用することにより、アルツハイマー型認知症をはじめとするAβ等のプリオノイドの蓄積を伴う認知機能障害や神経変性疾患のより効果的な治療が可能になることが期待できることが示された。
【0114】
実施例2:βアミロイド単回投与モデルマウスの学習障害に対する HVJ-E及び抗PD-1抗体の単剤及び併用投与における改善作用(HVJ-E皮下投与と経鼻投与の比較)
HVJ-Eを皮下投与する群に加えて、経鼻投与する群を設定する以外は、実施例1と同様の方法で、Y迷路試験を実施した。投与経路及び群構成を以下に示す。
【0115】
投与経路
媒体(0.5%MC)及び陽性対照物質:経口
実施例1のとおり
【0116】
媒体(5%トレハロース溶液)及び HVJ-E:鼻腔内又は皮下
経鼻投与は、マイクロピペット(エッペンドルフ株式会社)を用いて鼻腔内に投与する。皮下投与は、実施例1と同様に、ディスポーザブル注射針(テルモ株式会社)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)を用いて皮下に投与する。投与操作時には、各投与検体を 1匹毎に混和し、注射筒に吸引する。
経鼻投与は、以下の条件で投与を行なう。
投与液量:1匹あたり片鼻 5 μLの液量で両鼻腔内(10 μL/両鼻)に投与する。
投与回数:1日 1回、合計 9回とする。
皮下投与は、以下の条件で投与を行なう。
投与液量:投与日の体重値より、5 mL/kgで算出する。
投与回数:隔日 1日 1回、合計 6回とする。
経鼻投与と皮下投与のいれずについても投与時刻は、午前9時〜午前12時の間とする。但しβアミロイド注入日及び検査日は下記の如く行う。
βアミロイド注入日は、βアミロイド注入後(覚醒後)に投与する。
検査日は、測定の約 1時間(+ 10分)前に投与する。
【0117】
媒体(PBS)及び抗PD-1抗体:腹腔内
実施例1のとおり
【0118】
【表3】
【0119】
結果
Y迷路試験(自発的交替行動数、自発的交替行動率)
Y迷路試験の結果を
図4に示す。HVJ-E経鼻投与群は、媒体対照群に比較して、有意に高い自発的交換行動数(P<0.05)及び自発的交換行動率(P<0.01)を示し、その数値はドネペジル群に匹敵するものであった。一方、抗PD-1抗体との併用では、HVJ-E(経鼻投与)+抗PD-1抗体投与群は、媒体対照群と有意差が認められないのに対し、HVJ-E(皮下投与)+抗PD-1抗体投与群は、媒体対照群に比較して有意に高い自発的交換行動率(P<0.01)が認められた。
【0120】
考察
本実施例記載の試験において、媒体投与群と比べ、HVJ-E経鼻投与群(抗PD-1抗体が投与されていない群)では、マウスの学習障害が顕著に改善される、ことが確認された。また、本実施例記載の試験において、HVJ-Eと抗PD-1抗体との併用は、経鼻投与と皮下投与で効果に相違があることが確認された。HVJ-Eは腫瘍細胞や樹状細胞、マクロファージなどからのケモカイン産生誘導によって、NK細胞やCD4+ T cell、 CD8+ T cellを腫瘍巣に引き寄せ、Th1優位な形質転換を誘導し、NK細胞やEffector T cellの抗腫瘍効果を高めると考えられている(Cancer Res. 2007)。また、HVJ-Eは好中球に対しても作用し、N1優位な形質転換を誘導して抗腫瘍効果を高める事も報告されている(Chang CY, et al., Oncotarget. 2016 Jul 5;7(27):42195-42207)。PD-1は、主にT cell、B cellなどのリンパ球に加え、骨髄系細胞やマクロファージでも発現されていると考えられており(Yuan B, et al., Immunol Lett. 2016 Nov;179:114-121、HVJ-Eも上記のように多種類の免疫細胞に対して作用すると考えられるHVJ-EやHVJ-リポソームの経鼻投与では、粘膜免疫と全身性の免疫が同時に活性化されると考えられている事から(Yasuoka E, et al., J Mol Med (Berl). 2007 Mar;85(3):283-92, Sakaue G, et al., J Immunol. 2003 Jan 1;170(1):495-502)、経鼻投与と皮下投与の相違は、このHVJ-Eの作用機序に関連しているとも思われる。いずれにしても、製剤処方や投与経路を最適化することで、HVJ-Eはアルツハイマー型認知症をはじめとするAβ等のプリオノイド蓄積を伴う認知機能障害や神経変性疾患をより効果的に治療しうることが期待される。
【0121】
実施例3:βアミロイド単回投与モデルマウスの学習障害に対するHVJ-Eの単剤経鼻投与における改善作用(用量反応性試験)
実施例1及び2では、βアミロイドの脳室内単回投与により学習障害が誘発された動物にHVJ-E及び抗PD-1抗体の単剤及び併用投与したところ、HVJ-E単剤経鼻投与によりY迷路試験(短期記憶障害)に対して改善作用を示した。そこで今回、HVJ-E単剤経鼻投与による用量反応性を確認するためアルツハイマー病モデルであるβアミロイド脳室内単回投与マウスを用いて学習障害に対する各濃度のHVJ-E単剤経鼻投与における改善作用を、Y迷路試験を用いて評価した。
【0122】
HVJ-Eの投与量を変える以外は、実施例1と同様の方法で、Y迷路試験を実施した。投与経路及び群構成を以下に示す。
【0123】
投与経路
陽性対照物質:経口
実施例1のとおり
【0124】
媒体(5%トレハロース溶液)及び HVJ-E:鼻腔内
経鼻投与は、マイクロピペット(エッペンドルフ株式会社)を用いて鼻腔内に投与する。皮下投与は、実施例1と同様に、ディスポーザブル注射針(テルモ株式会社)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)を用いて皮下に投与する。投与操作時には、各投与検体を 1匹毎に混和し、注射筒に吸引する。
経鼻投与は、以下の条件で投与を行なう。
投与液量:1匹あたり片鼻 5 μLの液量で両鼻腔内(10 μL/両鼻)に投与する。
投与回数:1日 1回、合計 9回とする。
投与時刻は、午前9時〜午前12時の間とする。但しβアミロイド注入日及び検査日は下記の如く行う。
βアミロイド注入日は、βアミロイド注入後(覚醒後)に投与する。
検査日は、測定の約 1時間(+ 10分)前に投与する。
【0125】
【表4】
【0126】
結果
Y迷路試験(自発的交替行動数、自発的交替行動率)
Y迷路試験の結果を
図5に示す。実施例2の結果と同様に、HVJ-E(100 mNAU/body)経鼻投与群は、媒体対照群に比較して、有意に高い自発的交換行動率(P<0.01)を示し、その数値はドネペジル群に匹敵するものであった。
HVJ-E投与群とVehicle群との2群間のt検定を行なったところ、50mNAU/bodyと10mNAU/bodyのp値は、それぞれ0.0204と0.0515となり、50mNAU/bodyについては有意差があり、10mNAU/bodyについてもその傾向が認められた(100mNAU/bodyのp値は0.0000368)。以上より、HVJ-E単剤経鼻投与による用量依存的な効果が確認できた。さらに、投与量や投与経路を最適化することで、HVJ-Eの効果を高めることも期待できる。