【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「無充電で長期間使用できる究極のエコIT機器の実現」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Fe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1つを含む第1元素と、Ir及びOsからなる群から選択された少なくとも1つを含む第2元素と、を含む第1層と、
非磁性の第2層と、
を備え、
前記第2層の面積抵抗は、100Ωμm2以上であり、
前記第1層における前記第2元素の濃度は、3原子パーセント以上25原子パーセント以下であり、
前記第1層の厚さは、0.26ナノメートル以上5ナノメートル以下である、磁気素子。
Fe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1つを含む第1元素と、Ir及びOsからなる群から選択された少なくとも1つを含む第2元素と、を含む第1層と、
非磁性の第2層と、
を備え、
前記第1層は、
第1領域と、
前記第1領域と前記第2層との間に位置する第2領域と、
を含み、
前記第2領域における前記第2元素の濃度は、前記第1領域における前記第2元素の濃度よりも低い、または、前記第2領域は前記第2元素を含まず、
前記第1層における前記第2元素の濃度は、3原子パーセント以上25原子パーセント以下であり、
前記第1層の厚さは、0.26ナノメートル以上5ナノメートル以下である、磁気素子。
前記第2層は、Mg、Si、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、Zn、Sr及びBaからなる群から選択された少なくとも1つを含む第3元素の酸化物、前記第3元素の窒化物、及び、前記第3元素のフッ化物の少なくともいずれか含む、請求項1〜5のいずれか1つに記載の磁気素子。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚さと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る磁気素子を例示する模式的斜視図である。
図1に示すように、本実施形態に係る磁気素子110は、第1層10及び第2層20を含む。この例では、第3層30、第1導電層41及び第2導電層42がさらに設けられている。
【0010】
第1層10は、第1元素及び第2元素を含む。第1元素は、Fe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1つを含む。第2元素は、Ir及びOsからなる群から選択された少なくとも1つを含む。第1層10は、例えば、FeIrを含む。第1層10は、例えば、FeIr合金である。第1層10における第2元素の濃度は、3原子パーセント以上25原子パーセント以下である。第1層10は、例えば、強磁性層である。
【0011】
第2層20は、例えば、第3元素の酸化物、第3元素の窒化物、および、第3元素のフッ化物の少なくともいずれかを含む。第3元素は、例えば、Mg、Si、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、Zn、Sr及びBaからなる群から選択された少なくとも1つを含む。第2層20は、例えば、酸化マグネシウム(MgO)を含む。第2層20は、例えば、非磁性である。例えば、第2層20は、第1層10と接する。
【0012】
例えば、第1導電層41と第2導電層42の間に、第1層10が設けられる。第1層10と第2導電層42の間に、第2層20が設けられる。第2層20と第2導電層42との間に、第3層30が設けられる。第1層10と第3層30との間に第2層20が位置する。第3層30は、例えば、強磁性である。第3層30は、例えば、強磁性体からなる。第3層30は、例えば、Fe、Co、Ni及びMnからなる群から選択された少なくとも1つを含む。第1導電層41は、第1層10と電気的に接続される。第2導電層42は、第3層30と電気的に接続される。例えば、これらの導電層を介して、第1層10、第2層20及び第3層30を含む積層体に電圧(例えば電圧パルス)が供給される。電圧パルスの印加の前後において、積層体の電気抵抗が変化する。
【0013】
第3層30は、例えば、強磁性層である。例えば、第3層30は、参照層として機能する。第3層30の磁化の向きは、例えば、電圧パルスの印加により実質的に変化しない。例えば、第1層10の少なくとも一部は、記憶層として機能する。第1層10の少なくとも一部の磁化の向きは、例えば、電圧パルスの印加により変化する。例えば、磁化の向きが反転する。電圧パルスの印加の前後における積層体の電気抵抗の変化は、例えば、第3層30の磁化の向きと、第1層10の少なくとも一部の磁化の向きと、の間の相対関係の変化に対応する。
【0014】
第1層10から第2層20に向かう第1方向をZ軸方向とする。Z軸方向に対して垂直な1つの方向をX軸方向とする。Z軸方向及びX軸方向に対して垂直な方向をY軸方向とする。第1層10及び第2層20などの層は、X−Y平面に実質的に平行に広がる。磁気素子110において、Z軸方向は、積層方向に対応する。
【0015】
各層の厚さは、Z軸方向に沿う長さである。例えば、第1層10の厚さtmは、Z軸方向に沿う第1層10の長さである。実施形態において、厚さtmは、例えば、0.26ナノメートル(nm)以上5nm以下である。0.26nmは、実質的に2原子層の厚さに対応する。第1層10の厚さが5nm以下であるときに、電圧または電流等の外部信号による磁化の向きの書き換えにおいて、良好な制御性が得られる。第1層10の厚さが2nm以下であるときに、例えば、外部信号による書き換えの際の消費電力を小さくすることができる。
【0016】
第1元素及び第2元素を含む第1層10において、後述するように、高い界面磁気異方性が得られることが分かった。実施形態によれば、例えば、安定した磁気異方性が得られる。実施形態によれば、動作安定性を向上できる磁気素子、磁気記憶装置及び磁気センサが提供できる。
【0017】
以下、磁気素子に関する実験結果について説明する。
図2(a)及び
図2(b)は、磁気素子の実験試料及を示す模式的断面図である。
図2(a)は、試料の複数の膜を成膜した後で熱処理(アニール処理)を行う前の試料110aの状態を例示している。
図2(b)は、成膜後のアニール処理の後の試料110bの状態を例示している。実験試料においては、第3層30が設けられていない。
【0018】
図2(a)に示すように、基板51の上に、第1導電層41となるCr膜が設けられる。基板51は、(001)配向のMgOである。Cr膜の厚さは、30nmである。第1導電層41の上に、Fe膜10pが設けられる。実験では、Fe膜10pの厚さtpは、0.5nm以上1.4nmの範囲で変更される。Fe膜10pの上に、Ir膜10qが設けられる。実験では、Ir膜10qの厚さtqが、0nm〜0.15nmの範囲で変更される。Ir膜10qの上に、第2層20となるMgO膜が設けられる。第2層20の厚さは、約2.3nmである。このMgO膜の上に、第2導電層42となるITO膜(Indium Tin Oxide)が設けられる。これらの膜は、分子線エピタクシー法、およびスパッタリングにより形成される。Ir膜10q及びMgO膜の形成は、室温(約25℃)で行われる。これらの積層膜を成膜した後に、350℃で20分の熱処理が行われる。
【0019】
図2(b)に示すように、熱処理後の試料110bにおいては、Fe膜10p及びIr膜10qから、FeIrの混合領域が形成される。これは、例えばIr膜10q中のIrがFe膜10pに拡散することによる。この混合領域(合金)が、第1層10に対応する。第1層10の少なくとも一部において、FeがIrにより置換される。第1層10において、体心立方格子(bcc)構造が維持される。FeIrの混合領域(第1層10)の厚さtmは、厚さtpと厚さtqとの和に実質的に対応する。
【0020】
このように、Ir膜10qの厚さtqが変更された複数の試料が作製される。複数の試料においては、Fe及びIrを含む領域(第1層10)におけるIr濃度が互いに異なる。実験では、Ir膜10qを設けない参考例の試料も作製される。この参考例の試料は、Ir濃度が0である試料に対応する。
【0021】
これらの試料に、Z軸方向(積層方向)に沿う外部磁界を印加し、外部磁界の強度を変化させて、Kerr回転角が測定される。
【0022】
図3(a)〜
図3(c)は、実験結果を示すグラフ図である。
図3(a)は、Ir膜10qが設けられない参考例の試料119に対応する。
図3(a)には、Fe膜10pの厚さtpが0.55nm以上1.00nm以下の試料の結果が示されている。
図3(b)は、Ir膜10qの厚さtqが0.05nmの試料110cに対応する。
図3(b)には、Fe膜10pの厚さtpが0.65nm以上1.20nm以下の試料の結果が示されている。
図3(c)は、Ir膜10qの厚さtqが0.15nmの試料110dに対応する。
図3(c)には、Fe膜10pの厚さtpが0.80nm以上1.40nm以下の試料の結果が示されている。これらの図の横軸は、外部磁界の強度MF(kOe)である。1Oeは、(1/4π)×10
3A/mに対応する。縦軸は、Kerr回転角KRA(任意単位)である。
【0023】
図3(a)〜
図3(c)に示すように、それぞれの試料において、Fe膜10pの厚さtpの特定の範囲において、磁気ヒステリシスが観測される。磁気ヒステリシスが観測されることは、第1層10(Fe及びIrを含む領域)における磁化容易軸がZ軸方向(面直方向)の成分を有することに対応する。
【0024】
試料119において、Fe膜10pの厚さtpが0.95nm以上であると、磁気ヒステリシスが観測されない。試料110cにおいて、Fe膜10pの厚さtpが1.1nm以上であると、磁気ヒステリシスが観測されない。試料110dにおいて、Fe膜10pの厚さtpが1.30nm以上であると、磁気ヒステリシスが観測されない。このように、Fe膜10pの厚さtpが厚くなると、磁気ヒステリシスが観測されない。すなわち、面内磁化膜の特性が得られる。この現象は、Fe膜とMgO膜との間の界面、または、FeIr膜とMgO膜との間の界面において生じる界面磁気異方性によると考えられる。
【0025】
試料119において、Fe膜10pの厚さtpが0.90nm以下において、磁気ヒステリシスが観測され、安定した垂直磁化異方性が得られる。試料110cにおいて、Fe膜10pの厚さtpが1.0nm以下において、磁気ヒステリシスが観測され、安定した垂直磁化異方性が得られる。試料110dにおいて、Fe膜10pの厚さtpが1.20nm以下において、磁気ヒステリシスが観測され、安定した垂直磁化異方性が得られる。このように、磁気ヒステリシスが観測される(すなわち安定した垂直磁化が得られる)上限の厚さ(厚さtp)が、互いに異なる。試料110cの垂直磁気異方性は、試料119の垂直磁気異方性よりも高いと考えられる。試料110dの垂直磁気異方性は、試料110cの垂直磁気異方性よりも高いと考えられる。
【0026】
例えば、実効的な垂直磁気異方性エネルギーK
effは、以下の式で表されると考えられる。
K
eff=(K
v−μ
0Ms
2/2)+K
i,0/t
上記の式において、K
vは、体積磁気異方性エネルギーである。μ
0は、真空の透磁率である。Msは、飽和磁化である。K
i,0は、界面磁気異方性である。tは、磁性層の厚さである。界面磁気異方性K
i,0は、磁性層の厚さがゼロのときを想定した場合に得られる、本質的な界面磁気異方性エネルギーに対応する。界面磁気異方性K
i,0が高いと、垂直磁気異方性を安定して得やすい。
【0027】
図3(a)〜
図3(c)に例示した磁気ヒステリシス曲線の特性から、パラメータ「K
eff・t」と、厚さtと、の関係のグラフが、求められる。このグラフにおいて、厚さtがゼロのときの切片から、界面磁気異方性K
i,0を求めることができる。
【0028】
上記の試料において、厚さtは、熱処理後の第1層10(Fe及びIrを含む領域)の厚さtmに対応する。既に説明したように、厚さtmは、各試料において、Fe膜10pの厚さtpと、Ir膜10qの厚さtqと、の和に対応する。
【0029】
図4(a)及び
図4(b)は、実験結果を示すグラフ図である。
図4(a)の横軸は、Ir膜10qの厚さtq(nm)である。
図4(b)の横軸は、第1層10におけるIrの組成比C(Ir)(原子パーセント:at%)である。これらの図の縦軸は、界面磁気異方性K
i,0(mJ/m
2)である。
図4(a)において、厚さtqが0のときの値は、Ir膜10qを設けない試料119に対応する。厚さtqが0.05nmのときの値は、試料110cに対応する。厚さtqが0.15nmのときの値は、試料110dに対応する。
【0030】
図4(a)に示すように、Ir膜10qを設けない試料119(厚さtqが0)においては、界面磁気異方性K
i,0は、約2mJ/m
2と低い。これに対して、Ir膜10qを設けると、高い界面磁気異方性K
i,0が得られる。例えば、Ir膜10qの厚さtqが0.05nmの試料110cにおいては、界面磁気異方性K
i,0は、3.7mJ/m
2と非常に高い。
図4(a)から、Ir膜10qの厚さtqが0.025nm以上0.15nm以下のときに、高い界面磁気異方性K
i,0が得られることが分かる。例えば、厚さtqが約0.07nmのとき、界面磁気異方性K
i,0は、2.8mJ/m
2である。
【0031】
図4(a)に示すように、Ir膜10qの厚さtqが0.2nmのときには、界面磁気異方性K
i,0は、負となる。厚さtqが0.15nm〜0.2nmの範囲における界面磁気異方性K
i,0の特性は、臨界的である。
【0032】
既に説明したように、実験試料においては、Fe膜10p及びIr膜10qを形成し、その後に熱処理を行うことで、Fe及びIrを含む領域(第1層10)が得られる。
図4(a)に例示する試料において、Ir膜10qの厚さtqが0.05nmの試料において、第1層10の厚さtmは、約0.70nm〜1.25nmである。Ir膜10qの厚さtqが0.15nmの試料において、第1層10の厚さtmは、約0.95nm〜1.55nmである。
【0033】
実施形態において、Fe及びIrを含む領域(第1層10)の厚さtmが0.26nm以上2nm以下のときに、高い垂直磁気異方性エネルギーK
effが得られる。
【0034】
約0.13nmの厚さtmは、1原子層の厚さ(1ML:monoatomic layer)に対応する。実施形態において、例えば、Fe及びIrを含む領域(第1層10)の厚さtmが2原子層に対応する厚さのときに、高い界面磁気異方性K
i,0が得られる。
【0035】
上記の実験試料において、Ir膜10qの厚さtqは、Fe及びIrを含む領域(第1層10)におけるIrの組成比に実質的に対応する。
図4(b)は、
図4(a)に例示した複数の試料について、第1層10におけるIrの組成比C(Ir)と、界面磁気異方性K
i,0と、の関係を示している。
図4(b)に示すように、第1層10におけるIrの組成比C(Ir)が3at%以上25at%以下のときに、高い界面磁気異方性K
i,0が得られる。
【0036】
実施形態においては、第1層10における第2元素(例えばIr)の濃度は、3at%以上25at%以下である。これにより、高い界面磁気異方性K
i,0が得られる。実施形態において、第1層10における第2元素(例えばIr)の濃度は、5at%以上20at%以下でも良い。より高い界面磁気異方性K
i,0が得られる。実施形態において、第1層10における第2元素(例えばIr)の濃度は、5at%以上12at%以下でも良い。より高い界面磁気異方性K
i,0が安定して得られる。
【0037】
上記の実験においては、Ir膜10qの厚さtqを変更することで、Fe及びIrを含む領域(第1層10)におけるIr組成比が変更される。このため、第1層10において、Irの組成比は、厚さ方向(Z軸方向)において変化する場合があっても良い。例えば、第1層10のうちで第2層20に近い領域におけるIrの組成比は、第1層10のうちで第2層20から遠い領域におけるIrの組成比よりも高い。実施形態において、第1層10におけるIrの組成比が実質的に一定でも良い。
【0038】
図5(a)〜
図5(d)は、試料の解析結果を例示する模式図及び写真像である。
図5(b)〜
図5(d)は、上記の試料110cのSTEM−EDS(Scanning transmission electron microscopy-Energy dispersive spectroscopy)元素マッピングである。
図5(b)〜
図5(d)は、Mg、Fe、及びIrにそれぞれ対応する。
図5(b)〜
図5(d)におけるZ軸方向における位置は、
図5(a)に例示する位置に対応する。
【0039】
これらの図から分かるように、第1層10は、第2層20と実質的に接している。
図5(c)及び
図5(d)から、Irの分布は、Feの分布と実質的に等しいことが分かる。Irは、第1層10中において、比較的均一に分散して存在する。
【0040】
図6(a)及び
図6(b)は、試料の解析結果を例示する写真像及び模式図である。
図6(a)は、第1層10のZ-contrast HAADF(High-Angle Annular Dark Field )STM像である。
図6(a)において、明るい点状部分が、Ir原子に対応する。明るさが低い点状領域が、Fe原子に対応する。
図6(b)は、
図6(a)を基に描かれた模式図である。
【0041】
これらの図から分かるように、Irは、第1層10において、実質的にランダムに分散されている。Irは、第1層10において、実質的に均一に存在する。結晶格子の位置のFeがIrにより置換されている。
【0042】
実施形態において、第1層10の形成方法として、例えば、第1元素(Fe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1つ)と、第2元素(Ir及びOsからなる群から選択された少なくとも1つ)と、を含む膜を形成しても良い。例えば、分子線エピタクシー法またはスパッタ法などにより、第1元素と第2元素とを含む膜を基体上に形成できる。この場合には、形成された膜中における第2元素の組成比を比較的均一にできる。このような成膜の後に、必要に応じて熱処理が行われても良い。
【0043】
例えば、第1元素と第2元素とを含む膜を基体上に形成する方法により第1層10を形成した場合には、第1層10における第2元素(例えばIr)の組成比は、3at%以上25at%以下でも良い。このような組成比において、高い界面磁気異方性K
i,0が得られる。
【0044】
高い界面磁気異方性K
i,0により、安定した垂直磁気異方性が得られる。これにより、動作安定性を向上できる磁気素子が提供できる。例えば、動作安定性を向上できる磁気記憶装置及び磁気センサが提供できる。
【0045】
以下、磁気異方性の電圧による制御の例について説明する。
図7(a)及び
図7(b)は、磁気異方性の電圧制御に関する実験を示す模式図である。
図7(a)は、実験の試料を示す断面図である。
図7(b)は、実験結果を示す
グラフ図である。
【0046】
図7(a)に示すように、試料110eにおいては、基板51((001)配向のMgO)の上に、第1導電層41となるCr膜(厚さが30nm)が設けられる。第1導電層41の上に、Fe膜10p(厚さtpは0.77nm)が形成され、さらに、その上に、Ir膜10q(厚さtqは0.05nm)が設けられる。この上に、第2層20となるMgO膜(厚さが約2.3nm)が設けられる。このMgO膜の上に、第3層30となるFe膜(厚さが約10nm)が設けられる。この上に、第2導電層42となる、Ta膜(厚さが5nm)及びRu膜(厚さが7nm)が設けられる。Ru膜とMgO膜との間にTa膜が位置する。このような積層膜を成膜した後に、350℃で20分の熱処理が行われる。これにより、Fe膜10p及びIr膜10qから、Fe及びIrを含む領域(第1層10)が形成される。この例では、第3層30となるFe膜は、面内磁化膜である。第3層30は、参照層として機能する。
【0047】
積層膜が、フォトリソグラフィー、及び、Arによるイオンミリングにより加工される。これにより、素子試料が得られる
。素子試料のX軸方向の長さは、約2μmである。素子試料のY軸方向の長さは、約6μmである。
【0048】
この素子試料の磁気抵抗効果が測定される。測定においては、素子試料に面内磁界が印加され、直流2端子測定が行われる。測定においては、素子試料への印加電圧(第1導電層41及び第2導電層42の間の電圧)の強度が変更される。これにより、FeIr膜(第1層10)の磁気異方性の印加電圧による変化の程度が見積もられる。
【0049】
図7(b)は、パラメータ「K
eff・t」の特性の測定結果を例示している。
図7(b)の横軸は、印加される電圧に基づく電界強度EF(mV/nm)である。電界強度EFが正のとき、第2導電層42の電位は、第1導電層41の電位よりも高い。このとき、第2導電層42から第1導電層41に向けて電流が流れることが可能である。電界強度EFは、印加電圧/「MgO膜の厚さである2.3nm」である。
【0050】
図7(b)の縦軸は、パラメータ「K
eff・t」である。厚さtは、第1層10の厚さtmに対応し、この例では、厚さtは、Fe膜10pの厚さtp(0.77nm)と、Ir膜10qの厚さtq(0.05nm)と、の和である。
【0051】
図7(b)に示すように、パラメータ「K
eff・t」は、電界強度EFに依存して変化する。例えば、電界強度EFが正のとき、パラメータ「K
eff・t」は、電界強度EFに対して実質的に線形に変化する。電界強度EFが正のときのパラメータ「K
eff・t」の変化から、パラメータ「K
eff・t」の傾きが320fJ/Vmであると見積もられる。
【0052】
実施形態に係る磁気素子110においては、上記の第1層10を用いることで、パラメータ「K
eff・t」が電界強度EFに応じて変化することが分かった。そして、パラメータ「K
eff・t」の傾きは、320fJ/Vmと高い。この傾きは、Irを含まないFe膜とMgO膜とを含む試料における傾きの約3倍である。実施形態においては、磁気異方性を印加電圧により高い制御性で制御できる。
【0053】
このように、実施形態に係る磁気素子110においては、高い界面磁気異方性K
i,0が得られる。さらに、磁気素子110においては、磁気異方性を電圧により制御性良く制御できる。例えば、電圧制御型の磁気記憶装置において安定した動作が得られる。
【0054】
実施形態によれば、例えば、キャッシュメモリなどに対応可能な電圧制御型のMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)のスケーラビリティを実現できる。
【0055】
実施形態において、第3層30として、面内磁化膜または垂直磁化膜が用いられる。例えば、第3層30として垂直磁化膜を用いて、電圧誘起ダイナミック磁化反転による情報の書き変えが可能である。磁気抵抗効果による情報の読み出しが可能である。
【0056】
実施形態において、第1層10における主成分は、上記の第1元素である。第1層10は、第2元素を含む。第1層10は、第1元素を含む層(領域)と、第2元素を含む層(領域)と、を含んでも良い。第1層10が第2元素を含むことで、例えば、第2層20(例えばMgO)との界面における界面磁気異方性が高くなる。このような第1層10により、大きい電圧効果が得られる。実施形態によれば、例えば、電圧制御型のMRAMにおいて、良好な特性が得られる。
【0057】
第1層10における第2元素の組成比は、例えば、3at%以上25at%以下である。これにより、例えば、室温において良好な強磁性が得られる。
【0058】
例えば、第1層10は、体心立方(bcc)構造を有する。第1層10は、例えば、単結晶及び多結晶の少なくともいずれかを含む。この多結晶は、例えば、(001)面に優先配向している。例えば、多結晶に含まれる複数の結晶粒において、統計的に特定の方向(この例では、(001)面の方向)を示す。例えば、第1層10の少なくとも一部の(001)面は、Z軸方向(積層方向)に対して垂直な面に沿う。(001)面と、Z軸方向(積層方向)に対して垂直な面と、の間の角度は、(001)面と、Z軸方向と、の間の角度よりも小さい。例えば、1つの磁気記憶装置に複数の磁気素子(メモリセル)が設けられる。複数の磁気素子のそれぞれに第1層10が設けられる。1つの磁気記憶装置に含まれる複数の第1層10を1つの層と見なした時に、この層が、例えば多結晶を含む。この1つの層(複数の第1層10)は、例えば、(001)面に優先配向している。例えば、複数の第1層10のそれぞれに結晶が含まれる。複数の結晶(第1層10)の方位の分布に偏りがある。複数の結晶(複数の第1層10)の方位についての統計的な優先の方向((001)面に対して垂直な方向)と、Z軸方向と、の間の角度が45度未満である。
【0059】
例えば、第1層10となる膜がアモルファス構造を有しても良い。熱処理(ポストアニール処理)により固相エピタクシープロセスを経ることで、第1層10となる膜が結晶化して、結晶性を有する第1層10が形成されても良い。この場合も、第1層10の少なくとも一部は、bcc構造を有する。例えば、B(ホウ素)を含む材料により、アモルファス膜が得られ、熱処理により、bcc構造が得られる。
【0060】
実施形態において、第1層10の厚さtmは、例えば、2原子層に対応する厚さ以上である。第1層10の厚さtmは、2nm以下である。このような厚さtmにより、例えば、界面効果が適切に得られる。これにより、例えば、磁気異方性の電圧による制御が効果的に得られる。
【0061】
第2層20は、例えば、第1層10と共に用いられることで、電圧による磁気異方性の変化を誘起する。第2層20は、単結晶及び多結晶の少なくともいずれかを含む。この多結晶は、例えば、(001)面に優先配向している。第2層20が単結晶である場合、単結晶の(001)面は、Z軸方向に対して垂直な面に沿う。(001)面と、Z軸方向(積層方向)に対して垂直な面と、の間の角度は、(001)面と、Z軸方向と、の間の角度よりも小さい。例えば、第1層10と第2層20との間において、良好な結晶性が得られる。
【0062】
第2層20の面積抵抗(RA:Resistance area product)は、例えば、10Ωμm
2以上である。これにより、例えば、電圧制御動作において、低い消費電力が得られる。第2層20の面積抵抗は、例えば、20Ωμm
2よりも大きくてもよい。これにより、例えば、電流書き込み動作の場合の1/2の、低い消費電力が得られる。第2層20の面積抵抗は、例えば、100Ωμm
2以上でもよい。これにより、例えば、電流書き込み動作の場合の1/10の、さらに低い消費電力が得られる。第2層20の面積抵抗が20Ωμm
2以下になると、書き込みに要するエネルギーが急激に増大する。第2層20の面積抵抗が10Ωμm
2未満になると、書き込みに要するエネルギーの増大は、さらに加速する。
【0063】
図8(a)及び
図8(b)は、第1実施形態に係る別の磁気素子を例示する模式的断面図である。
図8(a)に示すように、本実施形態に係る別の磁気素子111においては、第2層20は、第1部分領域21と、第2部分領域22と、を含む。第2部分領域22は、第1部分領域21と第1層10との間に設けられる。第1部分領域21は、例えば、Mg、Si、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、Zn、Sr及びBaからなる群から選択された少なくとも1つを含む第3元素の酸化物、この第3元素の窒化物、及び、この第3元素のフッ化物の少なくともいずれか含む。第2部分領域22は、例えば、Mg、Si、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、Zn、Sr及びBaからなる群から選択された少なくとも1つを含む第4元素を含む。第2部分領域22における第4元素の濃度は、第1部分領域21における第4元素の濃度よりも高い。例えば、第1部分領域21は、上記の第3元素と、第5元素と、を含む。第5元素は、酸素、窒素及びフッ素の少なくともいずれかである。第1部分領域21における第5元素の濃度は、第2部分領域22における第5元素の濃度よりも高い。
【0064】
例えば、第1部分領域21がMgO膜であるとき、第2部分領域22は、例えば、Mg膜である。例えば、第1部分領域21がMgO膜であるとき、第2部分領域22はAl膜でも良い。第2部分領域22の厚さ(Z軸方向に沿った長さ)は、例えば、0.3nm以下である。
【0065】
第2部分領域22により、例えば、第1層10と第2層20と間の界面において、膜の形成時の酸化等の影響によって特性が劣化することが抑制される。この例では、第1層10は、第2層20と接する。
【0066】
図8(b)に示すように、本実施形態に係る別の磁気素子112は、第1層10及び第2層20に加えて、中間領域20Rをさらに含む。中間領域20Rは、第1層10と第2層との間に設けられる。第2層20は、例えば、Mg、Si、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、Zn、Sr及びBaからなる群から選択された少なくとも1つを含む第3元素の酸化物、この第3元素の窒化物、及び、この第3元素のフッ化物の少なくともいずれか含む。中間領域20Rは、例えば、Mg、Si、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、Zn、Sr及びBaからなる群から選択された少なくとも1つを含む第4元素を含む。中間領域20Rにおける第4元素の濃度は、第2層20における第4元素の濃度よりも高い。例えば、第2層20は、上記の第3元素と、第5元素と、を含む。第5元素は、酸素、窒素及びフッ素の少なくともいずれかである。第2層20における第5元素の濃度は、中間領域20Rにおける第5元素の濃度よりも高い。
【0067】
中間領域20Rにより、例えば、第1層10と第2層20と間の界面において、膜の形成時の酸化等の影響によって特性が劣化することが抑制される。この例では、中間領域20Rは、第1層10及び第2層20と接する。
【0068】
以下、第1層10及び第2層20を含む積層体における磁気異方性についてのシミュレーション結果の例について説明する。シミュレーションにおいては、第1原理計算が行われる。シミュレーションのモデルの構造について説明する。
【0069】
図9(a)〜
図9(d)は、シミュレーションのモデルを例示する模式図である。
図9(a)に示す構造ST01においては、5原子層のMgO層20aと、5原子層のMgO層20bと、の間に、5原子層のFe層11が設けられる。
【0070】
図9(b)に示す構造ST02においては、5原子層のMgO層20aと、5原子層のMgO層20bと、の間に、5原子層のFeIr層12が設けられる。構造ST02において、5原子層のFeIr層12の全体におけるIrの組成比は、6.25at%である。Ir原子の位置は、同一のFeIr面内において、6.25%の組成比を維持しつつ、ランダムに配置される。
【0071】
図9(c)に示す構造ST03においては、5原子層のMgO層20aと、5原子層のMgO層20bと、の間に、1原子層のFe層11と、1原子層のFeIr層12と、が交互に設けられる。Fe層11の数は3であり、FeIr層12の数は2である。構造ST03において、3つのFe層11及び2つのFeIr層12を含む領域の全体におけるIrの組成比は、6.25at%である。Ir原子の位置は、同一のFeIr面内において、6.25%の組成比を維持しつつ、ランダムに配置される。
【0072】
図9(d)に示すように、1つのMgO層20a(またはMgO層20b)においては、Z軸方向に対して垂直な平面に沿って、Mg原子と、O原子と、が並ぶ。1つのFe層11において、Z軸方向に対して垂直な平面に沿って、複数のFe原子(第1元素E1)が並ぶ。1つのFeIr層12においては、Fe原子(第1元素E1)と、Ir原子(第2元素E2)と、が、Z軸方向に対して垂直な平面に沿って並ぶ。1つのFeIr層12において、Z軸方向に対して垂直な平面に沿って第1元素E1から第2元素E2に向かう方向は、Z軸方向(積層方向)に対して交差(例えば、垂直)である。
【0073】
このような構造のそれぞれにおいて、垂直磁気異方性MAE(mJ/m
2)が第1原理計算により求められる。垂直磁気異方性MAEの高低は、
図4に関して説明した界面磁気異方性K
i,0(測定値)の高低に対応する。以下では、構造ST01における垂直磁気異方性MAEを1として規格化した値を、他の構造における垂直磁気異方性MAEとする。
【0074】
構造ST01における垂直磁気異方性MAE(規格化値)は、1である。
構造ST02における垂直磁気異方性MAE(規格化値)は、1.11である。
構造ST03における垂直磁気異方性MAE(規格化値)は、1.51である。
【0075】
構造ST01においては、第2元素E2(この例ではIr)を含んでおらず、上記の試料119に対応する。構造ST02及び構造ST03は、第2元素E2を含んでおり、試料110c、110dまたは110eなどに対応する。
【0076】
このように、第2元素E2(上記の例ではIr)を含む第1層10を設けることで、高い垂直磁気異方性MAEが得られる。
【0077】
図10(a)及び
図10(b)は、シミュレーションの別のモデルを例示する模式図である。
図10(a)及び
図10(b)に示すモデルにおいては、1原子層のMgO層(第2層20)と、1原子層のFe層11と、1原子層のFeIr層12と、が設けられる。
図10(a)に示す構造ST04においては
、FeIr層12は、MgO層(第2層20)と、Fe層11と、の間に位置する。
図10(b)に示す構造ST05においては
、Fe層11は、MgO層(第2層20)と、FeIr層12と、の間に位置する。
【0078】
このような構造のそれぞれにおいて、垂直磁気異方性MAE(mJ/m
2)が第1原理計算により求められる。この場合も、FeIr層12を設けない場合の垂直磁気異方性MAEを1として規格化した値を、垂直磁気異方性MAEとする。
【0079】
構造ST04における垂直磁気異方性MAE(規格化値)は、2.43である。
構造ST05における垂直磁気異方性MAE(規格化値)は、1.85である。
【0080】
図11(a)及び
図11(b)は、シミュレーションの別のモデルを例示する模式図である。
図11(a)及び
図11(b)に示すモデルにおいては、1原子層のMgO層(第2層20)と、1原子層のFe層11と、1原子層のFeOs層13と、が設けられる。この例では、第2元素は、Osである。
図11(a)に示す構造ST14においては
、FeOs層13は、MgO層(第2層20)と、Fe層11と、の間に位置する。
図11(b)に示す構造ST15においては
、Fe層11は、MgO層(第2層20)と、FeOs層13と、の間に位置する。
【0081】
このような構造のそれぞれにおいて、垂直磁気異方性MAE(mJ/m
2)が第1原理計算により求められる。この場合も、FeOs層13を設けない場合の垂直磁気異方性MAEを1として規格化した値を、垂直磁気異方性MAEとする。
【0082】
構造ST14における垂直磁気異方性MAE(規格化値)は、2.68である。
構造ST15における垂直磁気異方性MAE(規格化値)は、3.77である。
【0083】
このように、第2元素E2としてOsを用いた場合も、高い垂直磁気異方性MAEが得られる。
【0084】
実施形態においては、第1層10は、第2元素E2として、Ir及びOsからなる群から選択された少なくとも1つを含む。これにより、高い垂直磁気異方性MAEが得られる。
【0085】
実施形態においては、構造ST03、ST04、ST05、ST14及びST15のように、例えば、第1元素E1の層(例えばFe層11)と、第1元素E1及び第2元素E2を含む層(例えば、FeIr層12またはFeOs層13など)と、が積層されても良い。
【0086】
例えば、構造ST04のように、FeIr層12とMgO層(第2層20)との間に、Fe層11が設けられる場合に、高い垂直磁気異方性MAEが得られる。
【0087】
図12は、第1実施形態に係る別の磁気素子を例示する模式的斜視図である。
図12に示すように、磁気素子112においても、第1層10及び第2層20が設けられる。この例では、第3層30、第1導電層41及び第2導電層42がさらに設けられている。磁気素子112においては、第1層10は、第1領域10a及び第2領域10bを含む。これ以外の構成は、例えば、磁気素子110と同様であるので説明を省略する。
【0088】
磁気素子112の第1層10において、第2領域10bは、第1領域10aと第2層20との間に位置する。第1領域10aは、第1元素E1(例えばFe)及び第2元素E2(例えばIr及びOsの少なくともいずれか)を含む。一方、第2領域10bは、第1元素E1を含む。第2領域10bにおける第2元素E2の濃度(組成比)は低い。第2領域10bは、例えば、第2元素E2を含まなくても良い。
【0089】
例えば、第2領域10bにおける第2元素E2の濃度は、第1領域10aにおける第2元素E2の濃度よりも低い。または、第2領域10bは第2元素E2を含まない。第1領域10
aは、例えばFeIr層12またはFeOs層13である。第2領域10bは、例えば、Fe層11である。
【0090】
例えば、第2領域10bの厚さは、0.3nm以下である。第2領域10bの厚さは、例えば、3原子層に対応する厚さ以下でも良い。例えば、第2領域10bは、第2層20と接する。
【0091】
このような第1領域10a及び第2領域10bを設けることで、上記の構造ST03、ST05及びST15に関して説明したように、高い垂直磁気異方性MAEが得られる。
【0092】
第1領域10aは、例えば、FeIr層12またはFeOs層13などに対応する。例えば、
図10(b)及び
図11(b)に示すように、第1領域10a(FeIr層12またはFeOs層13)に含まれる第1元素E1から第1領域10aに含まれる第2元素E2に向かう方向は、Z軸方向(第1領域10aから第2層20に向かう第1方向)に対して実質的に垂直な面に沿う。
【0093】
例えば、第1領域10aに含まれる第1元素E1から第1領域10aに含まれる第2元素E2に向かう方向と、Z軸方向(上記の第1方向)と、の間の角度の絶対値は、70度以上110度以下である。
【0094】
例えば、第2領域10b(例えば、第1元素E1を含む層)は、体心立方(bcc)構造を有する。第2領域10bの少なくとも一部は、実質的に(001)面配向の単結晶である。または、第2領域10bの少なくとも一部は、(001)面に優先配向した多結晶を含む。
【0095】
図13(a)〜
図13(f)は、第1実施形態に係る別の磁気素子を例示する模式的断面図である。
図13(a)、
図13(c)及び
図13(e)に示すように、磁気素子113a、113c及び113eにおいては、基板51と第2導電層42との間に、第1導電層41が設けられる。第1導電層41と第2導電層42との間に第1層10が設けられる。第1層10と第2導電層42との間に第2層20が設けられる。磁気素子113cにおいては、第1領域10aと第2層20との間に、第2領域10bが設けられる。
【0096】
図13(b)、
図13(d)及び
図13(f)に示すように、磁気素子113b、113d、113fにおいては、基板51と第1導電層41との間に、第2導電層42が設けられる。第1導電層41と第2導電層42との間に第1層10が設けられる。第1層10と第2導電層42との間に第2層20が設けられる。磁気素子113dにおいては、第1領域10aと第2層20との間に、第2領域10bが設けられる。
【0097】
図13(e)及び
図13(f)に示すように、磁気素子113e及び113fは、非磁性層25をさらに含む。非磁性層25と、第2層20との間に第1層10が位置する。非磁性層は、Mg、Si、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、Zn、Sr及びBaからなる群から選択された少なくとも1つを含む第6元素の酸化物、この第6元素の窒化物、及び、この第6元素のフッ化物の少なくともいずれか含む。非磁性層25は、例えば、MgO膜である。非磁性層25により、例えば、第1層10における磁気異方性を高くすることができる。磁気素子113e及び113fの例では、非磁性層25は、第1導電層41と第1層10と接している。
【0098】
磁気素子113a〜113fにおいて、第2層20と第2導電層42との間に、第3層30が設けられても良い。
【0099】
実施形態において、磁気素子に含まれる層は、例えば、MBE法により形成される。または、層は、例えば、スパッタ法などの物理的成膜法(PVD)により形成されても良い。または、層は、化学的成膜法(CVD)により形成されても良い。例えば、熱処理(アニール処理)による第2元素(例えばIr)の相互拡散を利用して第1層10が形成できる。第1層10は、第1元素(例えばFe)と第2元素(Ir)との同時蒸着法または同時スパッタ法により形成されても良い。これらの方法によれば、第1層10内での第2元素(例えばIrなど)の組成比等がより均一になりやすい。これらの方法は、例えば、量産に適している。
【0100】
第2層20は、例えば、単結晶のMgOを含む。このMgOは、例えば、実質的に(001)配向を有する。例えば、第2層20は、多結晶の酸化マグネシウムを含んでも良い。この多結晶においては、例えば、(001)結晶面が優先配向している。
【0101】
例えば、スパッタ法により形成した多結晶の層は、単結晶の層に比べて、製造コストの観点で有利である。
【0102】
磁気素子113a及び113cにおいて、第1導電層41は、例えば、下地層となる。適正な下地層を用いることで、例えば、第1層10において、良好な平坦性が得られる。例えば、下地層から第1層10に界面磁気異方性を付与することができる。これにより、高い垂直磁気異方性が得られる。下地層は、例えば、重金属膜を含む。重金属膜は、例えば、Ta、Ru、Ir、Mo及びHfからなる群から選択された少なくとも1つを含む。下地層は、低抵抗金属膜を含む。低抵抗金属膜は、例えば、Cu、Au及びAgからなる群から選択された少なくとも1つを含む。下地層は、上記の重金属膜と、上記の低抵抗金属膜と、を含む積層膜を含んでも良い。第1導電層41は、例えば、電極として機能する。
【0103】
磁気素子113a及び113cにおいて、第2導電層42は、例えば、電極として機能する。第2導電層42は、例えば、キャップ層として機能しても良い。キャップ層は、例えば、第1層10及び第2層20を含む積層体の劣化を抑制する。キャップ層は、例えば、Ta、Ru、Au、Ag及びCuか
らなる群から選択された少なくとも1つを含む。第2導電層42として、酸化物を用いても良い。酸化物は、例えば、ITOを含む。第2導電層42は、例えば、光透過性でも良い。
【0104】
既に説明したように、参照層となる第3層30を第2層20と第2導電層42との間に設けても良い。この場合、第2導電層42(キャップ層)は、第3層30を保護する。
【0105】
第3層30は、例えば、Fe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1つを含む磁性膜を含む。第3層30は、例えば、この磁性膜と、反強磁性膜と、を含んでも良い。例えば、第2層20と反強磁性膜との間に、上記の磁性膜が位置する。反強磁性膜は、例えば、IrMn及びPtMnからなる群から選択され少なくとも1つを含む。
【0106】
実施形態において、基板51は、任意である。基板51として、例えば、Si基板が用いられても良い。Si基板は、Si基体と、その上に設けられた熱酸化膜と、を含んでも良い。基板51として、例えば、単結晶基板またはプラスチック基板などが用いられても良い。任意の基板51の上に種々の適切な下地層を形成できる。下地層の上に、例えば、第1層10及び第2層20を含む積層体を形成できる。
【0107】
磁気素子113bにおける第2導電層42には、磁気素子113aにおける第1導電層41に関して説明した構成が適用できる。磁気素子113bにおける第1導電層41には、磁気素子113aにおける第2導電層42に関して説明した構成が適用できる。
【0108】
(第2実施形態)
本実施形態は、磁気記憶装置に係る。磁気記録装置は、第1実施形態に係る磁気素子及びその変形を含む。
【0109】
図14は、第2実施形態に係る磁気記憶装置を例示する模式図である。
図14に示すように、本実施形態に係る磁気記憶装置210は、第1実施形態に係る磁気素子110と、制御部70と、を含む。磁気素子110は、上記の第1層10、上記の第2層20及び上記の第3層30を含む。制御部70は、第1層10及び第3層30と電気的に接続される。この例では、磁気素子110は、第1導電層41及び第2導電層42
をさらに含む。第1導電層41は、第1層10と電気的に接続される。第2導電層42は、第3層30と電気的に接続される。
【0110】
制御部70は、第1導電層41及び第2導電層42と電気的に接続される。この例では、制御部70は、第1配線70aにより、第1導電層41と電気的に接続される。この例では、制御部70は、第2配線70bにより、第2導電層42と電気的に接続される。この例では、第1配線70aにおいて、スイッチ70sが設けられている。スイッチ70sは、例えば選択トランジスタなどである。このように、電流経路上にスイッチ70sなどが設けられている状態も、電気的に接続される状態に含まれる。以下の説明では、スイッチ70sがオン状態である。オン状態において、配線に電流が流れる。スイッチ70sは、第2配線70bに設けられても良い。
【0111】
図15(a)〜
図15(c)は、第2実施形態に係る磁気記憶装置の動作を例示する模式図である。
これらの図の横軸は、時間tiである。これらの図の縦軸は、第1配線70aと第2配線70bとの間に加わる信号S1に対応する。信号S1は、第1導電層41及び第2導電層42の間に加わる信号に実質的に対応する。信号S1は、第1層10及び第3層30の間に加わる信号に実質的に対応する。
【0112】
図15(a)に示すように、制御部70は、第1層10及び第3層30の間に、第1パルスP1(例えば書き変えパルス)を印加する第1動作OP1を実施する。例えば、第1動作OP1において、制御部70は、第1導電層41及び第2導電層42の間に、第1パルスP1を印加する。例えば、第1動作OP1において、制御部70は、第1配線70a及び第2配線70bの間に、第1パルスP1を供給する。
【0113】
第1パルスP1により、記憶された情報が書き換えられる。第1パルスP1により、磁気素子110の電気抵抗が変化する。
【0114】
例えば、第1動作OP1の後における第1層10と第3層30との間の第2電気抵抗は、第1動作OP1の前における第1層10と第3層30との間の第1電気抵抗とは、異なる。第1動作OP1の後における第1導電層41と第2導電層42との間の第2電気抵抗は、第1動作OP1の前における第1導電層41と第2導電層42との間の第1電気抵抗とは、異なる。
【0115】
この電気抵抗の変化は、例えば、第1パルスP1(書き変えパルス)による第1層10の少なくとも一部の磁化の向きの変化に基づく。第1層10と第3層30との間において、磁化の向きの相対関係が、第1パルスP1(書き変えパルス)により変化する。電気抵抗が異なる複数の状態が、記憶される情報に対応する。
【0116】
実施形態に係る磁気記憶装置210においては、高い界面磁気異方性が得られる。磁気記憶装置210においては、磁気異方性が書き変えパルスにより制御される。これにより、例えば、第1層10の磁化が書き変えパルスにより制御される。磁気記憶装置210においては、例えば、安定した動作が得られる。
【0117】
実施形態に係る磁気記憶装置210は、例えば、電圧トルク駆動型のMRAMである。
【0118】
磁気記憶装置210においては、記憶されている情報を書き換えるときに、制御部70は、上記の第1パルスP1(書き変えパルス)を磁気素子110に供給する。例えば、上記の第1動作OP1は、書き換え動作である。
【0119】
図15(a)に示すように、制御部70は、第2動作OP2をさらに実施しても良い。第2動作OP2においては、制御部70は、第1動作OP1の前に第1層10及び第3層30の間(第1導電層41及び第2導電層42の間に、すなわち、第1配線70aと第2配線70bとの間に)に、第2パルスP2(読み出しパルス)を印加する。読み出しパルスにより得られた第1層10と第3層30との間の第3電気抵抗は、第1動作の後の第1層10と第3層30との間の第2電気抵
抗とは異なる。第3電気抵抗は、書き換え前の電気抵抗である。第2電気抵抗は、書き換え後の電気抵抗である。第3電気抵抗は、第1電気抵抗と同じでも良い。
【0120】
例えば、第2パルスP2(読み出しパルス)の極性は、第1パルスP1(書き変えパルス)の極性に対して逆である。このような逆極性の第2パルスP2(読み出しパルス)を用いる場合、第2パルスP2の第2パルス高さH2の絶対値は、第1パルスP1(書き変えパルス)の第1パルス高さH1の絶対値よりも小さくても良く、同じでも良く、大きくても良い。磁性層の磁気異方性が電圧により制御される場合は、逆極性の読み出しパルスを用いることで、読み出し時に磁性層の磁化が変化することが抑制できる。
【0121】
磁気素子がこのような特性を有する場合には、以下のようになる。制御部70は、第1動作OP1において、第1層10と第3層30との間に、第1パルスP1を印加する。第1動作OP1の後における第1層10と第3層30との間の第2電気抵抗は、第1動作OP1の前における第1層10と第3層30との間の第1電気抵抗とは、異なる。第1パルスP1は、第1極性と、第1パルス幅T1と、第1パルス高さH1と、を有する。このとき、第1極性とは逆の第2極性と、第1パルス幅T1と、第1パルス高さH1と同じ絶対値のパルス高さと、を有する別のパルスを印加した場合に、以下となる。この別のパルスを第1層10と第3層30との間に印加した後の第1層10と第3層30との間の第3電気抵抗と、この別のパルスを第1層10と第3層30との間に印加する前の第4電気抵抗と、の差の絶対値は、第2電気抵抗と第1電気抵抗との差の絶対値よりも小さい。すなわち、第1パルスP1の印加により情報の書き換えが実行され、別のパルスの印加によっては情報の書き換えが生じない。
【0122】
第1層10と第3層30との間の電気抵抗は、第1層10と電気的に接続されている第1導電体と、第3層30と電気的に接続されている第2導電体と、の間の電気抵抗に対応する。電気抵抗の変化は、この第1導電体とこの第2導電体との間の電気抵抗の変化に対応する。
【0123】
記憶されている情報を書き換えないときには、
図15(b)に示すように、制御部70は、第2動作OP2の後に第3動作OP3を実施する。第3動作OP3においては、上記の第1パルスP1が印加されない。このときには、書き換えが生じない。
【0124】
適切な第1パルスP1が印加されたときに、情報の書き換えが可能になる。適切な第1パルスP1が印加されると、第1層10と第3層30との間の電気抵抗は、高抵抗状態から低抵抗状態に、または、低抵抗状態から高抵抗状態に、変化する。一方、適切ではないパルスが印加された場合は、高抵抗状態は、所望の低抵抗状態にならない。適切ではないパルスが印加された場合は、低抵抗状態は、所望の高抵抗状態にならない。
【0125】
適切ではないパルスのパルス幅は、例えば、適切な第1パルス幅T1の約2倍である。適切ではないパルスが第1層10と第3層30との間に印加された場合には、抵抗の変化が生じる確率が低い。
【0126】
例えば、制御部70は、第1動作OP1において、第1層10と第3層30との間に上記の第1パルスP1を印加する。第1パルスP1は、第1パルス幅T1と、第1パルス高さH1と、を有する。この第1パルスP1により、書き換えが適切に行われる。すなわち、第1動作OP1の後における第1層10と第3層30との間の第2電気抵抗は、第1動作OP1の前における第1層10と第3層30との間の第1電気抵抗とは、異なる。このとき、
図15(c)に示すような別のパルスP1xが印加される場合には、抵抗の変化が実質的に生じない。別のパルスP1xは、第1パルス幅T1の2倍のパルス幅と、第1パルス高さH1と、を有する。このような別のパルスP1xを第1層10と第3層30との間に印加した後の第1層10と第3層30との間の第3電気抵抗と、別のパルスP1xを第1層10と第3層30との間に印加する前の第4電気抵抗と、の差の絶対値は、第2電気抵抗と第1電気抵抗との差の絶対値よりも小さい。すなわち、別のパルスP1xを印加したときには、電気抵抗は実質的に変化しない。または、別のパルスP1xを印加したときの電気抵抗の変化は、第1パルスP1を印加したときの電気抵抗の変化よりも小さい。
【0127】
複数回の動作における平均値を用いることで、上記の電気抵抗の変化を、より確実に比較できる。例えば、上記の第1パルスP1を印加し、その前後の電気抵抗の変化を検出するプロセスを複数回実施する。このときの電気抵抗の変化の絶対値の平均値を求める。一方、上記の別のパルスP1xを印加し、その前後の電気抵抗の変化を検出するプロセスを複数回実施する。このときの電気抵抗の変化の絶対値の平均値を求める。上記の2つの平均値を比較することで、別のパルスP1xを印加したときの電気抵抗の変化が第1パルスP1を印加したときの電気抵抗の変化よりも小さいことが、より確実に分かる。
【0128】
実施形態に係る磁気素子110においては、例えば、上記の別のパルスP1xを印加したときの電気抵抗の変化が、上記の第1パルスP1を印加したときの電気抵抗の変化よりも小さい。
【0129】
上記の第1パルスP1(書き変えパルス)の第1パルス幅T1(パルス時間)は、パラメータ「π/(γ・μ
0・H
eff)」の絶対値の0.5倍以上1.5倍以下であることが好ましい。「π」は、3.14である。「γ」は、磁気回転比(rad/sT)である。「μ
0」は、真空の透磁率(H/m)である。「H
eff」は、第1層10に加わる有効磁界(A/m)である。
【0130】
第1パルス幅T1及び第1パルス高さH1を有する第1パルスP1を用いることで、安定した磁化の向きの制御(変化)が可能である。第1パルス幅T1は、パラメータ「π/(γ・μ
0・H
eff)」の絶対値の0.8倍以上1.2倍以下であることがさらに好ましい。第1パルス幅T1は、パラメータ「π/(γ・μ
0・H
eff)」の絶対値の0.9倍以上1.1倍以下であることが好ましい。このような第1パルス幅T1により、例えば、さらに安定した磁化の向きの制御(変化)が可能である。
【0131】
電圧による磁気異方性の制御では、例えば、強磁性層/誘電層/対向電極の構造を有する素子に電圧が印加される。例えば、界面への電荷蓄積による電子状態変化等の現象を通して、界面磁気異方性が変化する。例えば、強磁性層/誘電層の界面に電子が蓄積するような極性の電圧を印加することで、垂直磁気異方性が低下する。逆極性の電圧を印加することで、垂直磁気異方性が上昇する。垂直磁化膜においては、例えば、膜面に対して磁化が、「上向き」または「下向き」が安定である。このような垂直磁化膜に電圧を印加することで、磁化容易軸を面内方向に沿わせることができる。
【0132】
印加した電圧を除去すると、磁化容易軸は元の面直方向において安定となる。「上向き」と「下向き」とは、エネルギー的に等価である。このため、所望の向きに、磁化方向を制御することは困難である。このため、静電圧の印加では、磁化反転の制御は困難である。
【0133】
例えば、面内バイアス磁界を印加した状態で、所定のパルス電圧を素子に加えることで、電圧による磁気異方性の制御により、強磁性層の実効的な垂直磁気異方性を低減できる。例えば、磁化は、面内バイアス磁界の周りを歳差運動する。例えば、パルス電圧のパルス幅を、磁化が約180度反転したタイミングの長さに設定することで、磁化反転が制御できる。
【0134】
この方法は、例えば、電圧誘起ダイナミック磁化反転法に対応する。パルス電圧の立ち上がり時間、及び、パルス電圧の立ち上がり時間のそれぞれは、例えば、約500ps(ピコ秒)以下である。パルス電圧のパルス幅は、上記のパラメータ「π/(γ・μ
0・H
eff)」に基づく時間である。このパラメータは、例えば、第1層10及び第2層20を含む積層体における、第1層10の磁化の反転時間に対応する。
【0135】
パラメータ「π/(γ・μ
0・H
eff)」において、「H
eff」は、例えば、外部から印加される面内バイアス磁界である。例えば、磁気素子110に反強磁性層(第4層)がさらに設けられ、第4層と第2層20との間に第1層10が位置しても良い。例えば、第4層は、第1層10と接する。第4層から第1層10に磁界が加えられ、第1層10に、面内に沿う一方向異方性が与えられる。「H
eff」は、第4層から第1層10に加えられる磁界に対応する。この他、磁気素子に、面内磁化膜をさらに設けても良い。
【0136】
例えば、上記の第1パルスP1を用いて、例えば、電圧制御型のMRAMの書き込み動作が行われる。
【0137】
例えば、実施形態においては、大きな電圧磁気異方性変化により、例えば、実効的な垂直磁気異方性を低減させる。大容量化のために素子が微細化されると、高い垂直磁気異方性の構成が適用される。実施形態においては、例えば、高い界面磁気異方性と、大きい電圧効果と、が得られる。これにより、大容量化のために素子が微細化された場合においても、安定した動作が得られる。
【0138】
実施形態に係る磁気素子は、様々な電圧制御型の磁性デバイスに適用できる。例えば、実施形態は、スピン波または純スピン流を情報伝送に用いるデバイスに適用できる。実施形態によれば、例えば、電圧により、高効率なスピン波、または、高効率な純スピン流を生成することができる。実施形態は、これらのデバイスの低消費電力化に有効である。実施形態は、例えば、空間磁気光学変調器等の磁気光学素子の電圧制御にも適用できる。
【0139】
例えば、強磁性層(記憶層)/誘電体層/強磁性層(参照層)を含む磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunnel junction)素子を用いた記憶装置がある。例えば、MTJ素子に電流を流し、スピントランスファートルク効果を用いて記憶層の磁化を反転する方法がある。この例においては、電流を用いるため、駆動電力の低減に限界があると考えられる。
【0140】
一方、電圧制御による磁化反転が提案されている。例えば、約1原子層の厚さのFeなどの強磁性膜と、MgO膜と、を含む積層膜に電圧を印加すると、強磁性膜において、磁化の向きやすい方向(磁気異方性)が変化する。例えば、強磁性膜とMgO膜との間の界面における界面電荷蓄積の影響等により、強磁性膜の電子状態が界面で変調されることにより、スピン−軌道相互作用を通して、磁気異方性が変化すると考えられる。
【0141】
電圧による磁気異方性の制御を利用して、磁化反転を制御することができる。この場合の駆動電力は、電流制御の場合の駆動電力の1/10〜1/100と考えられる。
【0142】
例えば、磁気素子において、高い垂直磁気異方性が望まれる。磁気素子において、電圧磁気異方性の変化効率が高いことが望まれる。高い垂直磁気異方性により、例えば、熱揺らぎに対して、磁化の向きが安定になる。磁化の向きの安定性に関して、例えば、「(記録層の体積×記憶層の磁気異方性)/熱エネルギー」のパラメータが用いられる。高い磁気異方性を得ることで、記憶部(メモリセル)を微細化しても、良好な熱安定性が得られる。これにより、記憶装置の記憶密度を向上できる。
【0143】
電圧による磁気異方性の制御は、例えば、界面効果であると考えられる。例えば、強磁性層/誘電層の界面に特殊な構造を採用することで、高い界面磁気異方性が得られると考えられる。これは、例えば、特殊な構造において、特殊な非対称性等が生じ、この非対称性等が電圧磁気異方性制御に影響を与えると考えられる。
【0144】
例えば、電圧による磁気異方性の変化を利用した磁化反転においては、電圧により垂直磁気異方性が低下する。例えば、素子の微小化が進んで記憶層の垂直磁気異方性を高くしたときにも、大きな電圧効果により、磁気異方性を電圧によって良好に制御できる。
【0145】
例えば、界面磁気異方性により高い垂直磁気異方性が得られると、電圧制御型のMRAMにおけるスケーラビリティが維持できる。電圧効果の効率が高くなると、電圧制御型のMRAMにおけるスケーラビリティが維持できる。
【0146】
実施形態においては、上記の第1層10と、第2層20と、を含む積層構造により、高い垂直磁気異方性が得られる。実施形態においては、電圧効果において、高い効率が得られる。
【0147】
(第3実施形態)
本実施形態は、磁気センサに係る。
図16(a)及び
図16(b)は、第3実施形態に係る磁気センサを例示する模式図である。
図16(a)は、磁気センサ120を例示する模式的断面図である。
図16(b)は、磁気センサ120の特性を例示するグラフ図である。
【0148】
図16(a)に示すように、実施形態に係る磁気センサ120は、第1層10、第2層20及び第3層30を含む。この例では、第1導電層41及び第2導電層42がさらに設けられている。第1層10、第2層20、第3層30、第1導電層41及び第2導電層42については、第1実施形態において説明した構成が適用できる。
【0149】
磁気センサ120においては、磁気センサ120が受ける磁界を検出できる。例えば、磁気センサ120の電気抵抗は、磁気センサ120が受ける磁界に応じて変化する。この例では、検出部75が設けられる。検出部75は、第1導電層41及び第2導電層42と電気的に接続される。検出部75は、磁気センサ120の電気抵抗に対応する値(電圧、電流及び抵抗の少なくともいずれか)を出力可能である。
【0150】
図16(b)は、磁気センサ120の特性を例示している。
図16(b)の横軸は、外部磁界Hexの強度Hex1(エルステッド:Oe)である。縦軸は、磁気センサ120の電気抵抗R1(任意単位)である。磁気センサ120の電気抵抗は、第1導電層41と第2導電層42との間の電気抵抗に実質的に対応する。磁気センサ120の電気抵抗は、第1層10と第3層30との間の電気抵抗に実質的に対応する。この例では、外部磁界Hexは、第1層10と第2層20との積層方向に対して垂直である。
【0151】
この例では、第1導電層41は、Cr膜(厚さは30nm)である。第1層10は、FeとIrを含む。第1層10は、
図2(a)及び
図2(b)関して説明した方法により形成される。0.84nmの厚さのFe膜10pの上に、0.05nmの厚さのIr膜10qが形成される。この後、第2層20、第3層30及び第2導電層42を形成し、350℃で20分の熱処理が行われる。これにより得られるFeIr膜が第1層10となる。第2層20は、MgO膜(厚さは2.3nm)である。第3層30は、Fe膜(厚さは10nm)である。第2導電層42は、Ta膜(厚さが5nm)及びRu膜(厚さが7nm)を含む積層膜である。Ru膜とMgO膜との間にTa膜が位置する。
【0152】
図16(b)に示すように、外部磁界Hexの強度Hex1が0のときは、電気抵抗R1が高い。この状態は、第3層30の磁化が積層方向と交差し、第1層10の磁化が積層方向に対して垂直な状態に対応する。外部磁界Hexの強度Hex1の絶対値が大きいときは、電気抵抗R1が低い。この状態は、第1層10の磁化が、外部磁界Hexに沿っている状態に対応する。外部磁界Hexに対して、電気抵抗R1は、実質的に線形に変化する。実施形態に係る磁気素子は、磁気センサとして応用できる。動作安定性の高い磁気センサが提供できる。
【0153】
実施形態に係る磁気素子及び磁気記憶装置によれば、例えば、スピントロニクスデバイスにおける磁性層/中間層(MgO層)の界面における垂直磁気異方性が増大できる。実施形態によれば、高い熱安定性が得られる。例えば、スケーラビリティが維持できる。実施形態によれば、例えば、大きい電圧効果が得られる。実施形態によれば、例えば、高性能な電圧制御型のMRAMが提供できる。実施形態によれば、例えば、低消費電力の記憶装置が提供できる。
【0154】
実施形態に係る磁気素子は、電圧制御型のMRAMとは別の磁気記憶装置に適用されても良い。例えば、実施形態に係る磁気素子は、スピントルクMRAMに適用可能である。
【0155】
実施形態によれば、動作安定性を向上できる磁気素子、磁気記憶装置及び磁気センサを提供することができる。
【0156】
本願明細書において、電気的に接続される状態は、2つの導体が直接接する状態を含む。電気的に接続される状態は、2つの導体が、別の導体(例えば配線など)により接続される状態を含む。電気的に接続される状態は、2つの導体の間の経路の間にスイッチング素子(トランジスタなど)が設けられ、2つの導体の間の経路に電流が流れる状態が形成可能な状態を含む。
実施形態は、以下の構成を含んでも良い。
(構成1)
Fe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1つを含む第1元素と、Ir及びOsからなる群から選択された少なくとも1つを含む第2元素と、を含む第1層と、
非磁性の第2層と、
を備えた、磁気素子。
(構成2)
前記第1層における前記第2元素の濃度は、3原子パーセント以上25原子パーセント以下である、構成1記載の磁気素子。
(構成3)
前記第1層の厚さは、0.26ナノメートル以上5ナノメートル以下である、構成1または2に記載の磁気素子。
(構成4)
前記第1層は、
第1領域と、
前記第1領域と前記第2層との間に位置する第2領域と、
を含み、
前記第2領域における前記第2元素の濃度は、前記第1領域における前記第2元素の濃度よりも低い、または、前記第2領域は前記第2元素を含まない、構成1〜3のいずれか1つに記載の磁気素子。
(構成5)
前記第1層は、体心立方(bcc)構造を有する、構成1〜4のいずれか1つに記載の磁気素子。
(構成6)
前記第1層は、(001)面に配向した単結晶、または、(001)面に優先配向した多結晶を含む、構成1〜5のいずれか1つに記載の磁気素子。
(構成7)
前記第2層は、Mg、Si、Al、Ti、Zr、Hf、Ta、Zn、Sr及びBaからなる群から選択された少なくとも1つを含む第3元素の酸化物、前記第3元素の窒化物、及び、前記第3元素のフッ化物の少なくともいずれか含む、構成1〜6のいずれか1つに記載の磁気素子。
(構成8)
前記第2層は、MgOを含む、構成1〜7のいずれか1つに記載の磁気素子。
(構成9)
前記第2層は、MgOを含み、
前記MgOは、(001)面に優先配向した、単結晶または多結晶を含む、構成1〜8のいずれか1つに記載の磁気素子。
(構成10)
前記第2層の面積抵抗は、10Ωμm
2以上である、構成1〜9のいずれか1つに記載の磁気素子。
(構成11)
前記磁気素子は、強磁性の第3層をさらに含み、
前記第1層と前記第3層との間に前記第2層が位置した、構成1〜10のいずれか1つに記載の磁気素子。
(構成12)
前記第3層は、Fe、Co、Ni及びMnからなる群から選択された少なくとも1つを含む、構成11記載の磁気素子。
(構成13)
構成1〜12のいずれか1つに記載の磁気素子と、
制御部と、
を備えた、磁気記憶装置。
(構成14)
構成11または12に記載の磁気素子を備えた、磁気センサ。
【0157】
本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれば良い。
【0158】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、磁気素子、磁気記憶装置及び磁気センサに含まれる第1〜第3層、導電層、制御部、配線及びスイッチなどの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0159】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0160】
その他、本発明の実施の形態として上述した磁気素子、磁気記憶装置及び磁気センサを基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての磁気素子、磁気記憶装置及び磁気センサも、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0161】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。