(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一般式(1)で表されるフェノール化合物のヒドロキシ基1モルに対し、一般式(2)で表される芳香族ビニル化合物0.1〜1.0モルを反応させることを特徴とする請求項4に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明の多価ヒドロキシ樹脂(DVBN−Pともいう。)の製造方法について説明する。本発明の製造方法では、上記一般式(1)で表されるフェノール化合物と、上記一般式(2)および(3)で表される芳香族ビニル化合物とを、10〜1000wtppmの酸触媒の存在下、反応温度40〜180℃で反応させて、上記一般式(4)で表される多価ヒドロキシ樹脂を製造する。
【0018】
本発明のDVBN−Pを製造する方法で用いるフェノール化合物は、上記一般式(1)で表されるフェノール化合物である。
一般式(1)において、R
1は水素又は炭素数1〜6の炭化水素基を示す。好適なフェノール化合物としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、エチルフェノール類、イソプロピルフェノール類、ターシャリーブチルフェノール類、アリルフェノール類、フェニルフェノール類などが挙げられる。これらのフェノール類は単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
反応に用いる芳香族ビニル化合物としては、上記一般式(2)および(3)で表されるジビニルベンゼン(DVB)とエチルビニルベンゼン(EVB)の両者である。
ここで、DVBとEVBはそれぞれ、メタ体、パラ体、オルソ体の単独でも、異性体混合物でもよい。DVBはメタ体を主成分とし、メタ体濃度はDVB全異性体中の40%以上が好ましい。より好ましくは、50%以上である。EVBはメタ体を主成分とし、メタ体濃度はEVB全異性体中の40%以上が好ましい。より好ましくは、50%以上である。
【0020】
芳香族ビニル化合物中のEVBの割合は、得られる樹脂の取り扱い性やエポキシ硬化物作成時の成形性、硬化性の物性バランスを考慮すると、全芳香族ビニル化合物中の10〜50wt%の範囲が好ましい。より好ましくは、15〜45wt%の範囲であり、更に好ましくは20〜40wt%の範囲である。DVBの割合は、全芳香族ビニル化合物中の50〜90wt%の範囲が好ましく、55〜85wt%の範囲である。
【0021】
また、上記一般式(1)で表されるフェノール化合物と、DVBの使用割合としては、得られる樹脂の取り扱い性やエポキシ硬化物作成時の成形性、硬化性の物性バランスを考慮すると、フェノール化合物1モルに対するDVBのモル割合が0.1〜1.0の範囲が好ましく、0.2〜1.0モルの範囲がより好ましく、更に好ましくは0.3〜0.8モルの範囲である。
【0022】
DVBは、上記一般式(4)において、フェノール環同士を結合する単位(α−ジメチルキシリレン単位)を与えるので、架橋剤として作用する。一方、EVBはフェノール環に置換する基R
2、すなわち式(a)で表される置換基(エチルスチレニル基)を与える。この置換基の置換位置は、主として、上記フェノール環のOH基に対し、空位のオルソ及び/又はパラ位である。
【0023】
上記フェノール化合物と、上記一般式(2)および(3)で表される芳香族ビニル化合物との反応は、酸触媒の存在下に行う。この酸触媒としては、周知の無機酸、有機酸から適宜選択することができる。例えば、塩酸、硫酸、燐酸等の鉱酸や、ギ酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等の有機酸や、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化鉄、三フッ化ホウ素等のルイス酸あるいはイオン交換樹脂、活性白土、シリカ−アルミナ、ゼオライト等の固体酸等が挙げられる。酸触媒の使用量は、上記フェノール化合物と、上記芳香族ビニル化合物の合計に対し、10〜1000wtppmの範囲とすることがよく、好ましくは50〜500wtppmの範囲である。
【0024】
また、この反応は通常、10〜250℃で1〜20時間行われる。更に、反応の際には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族化合物等を溶媒として使用することができる。
【0025】
この反応を実施する具体的方法としては、全原料を一括装入し、そのまま所定の温度で反応させるか、又はフェノール化合物と酸触媒を装入し、所定の温度に保ちつつ、芳香族ビニル化合物を滴下させながら反応させる方法が一般的である。この際、滴下時間は、通常、1〜10時間であり、5時間以下が好ましい。反応後、溶媒を使用した場合は、必要により、酸触媒成分を取り除いた後、溶媒と未反応物を留去させて本発明の多価ヒドロキシ樹脂を得ることができ、溶媒を使用しない場合は、未反応物を留去することによって目的物である上記一般式(4)で表される多価ヒドロキシ樹脂を得ることができる。
【0026】
本発明の製造方法で得られる多価ヒドロキシ樹脂(DVBN−P)は、2種類の芳香族ビニル化合物(DVBとEVB)の比率に応じて、水酸基当量を制御することができる。つまり、エポキシ樹脂硬化物においては、エポキシ基と水酸基との反応により生成するヒドロキシプロピル基が燃え易いとされているが、水酸基当量を高くすることで、エポキシ基由来の易燃成分の脂肪族炭素率は低くなり、高度な難燃性を発現させることができる。また、芳香族ビニル化合物中のEVBを付加させることにより、芳香族性はより一層向上し、流動性や耐湿性、低誘電性の向上にも効果的である。
【0027】
よって、このDVBN−Pを用いて高難燃性のエポキシ樹脂組成物、特に半導体封止材料や回路基板材料用エポキシ樹脂組成物が得られる。すなわち、流動性とともに、耐湿性や低弾性に優れた物性が発現された樹脂組成物得られ、これを用いて信頼性の高い半導体封止材料や回路基板材料が得られる。
【0028】
更に、本発明のDVBN−Pでは、EVBを付加することで、分子量は増加するが、柔軟鎖構造の導入からエポキシ硬化物作成等に適した溶融粘度範囲を維持できる。このことは半導体封止用材料として使用した場合、良流動性を示すことから良好な成形性が可能であり、回路基板用材料として使用した場合は、有機溶媒への溶解性の向上が可能である。また、それらは低官能基性に寄与して各種物性の向上、例えば、難燃性の向上や更なる低吸水性や低誘電性により信頼性に優れた材料が得られる。
【0029】
このようにして得られる本発明のDVBN−Pの水酸基当量は、200〜500g/eq.の範囲にあることがよく、より好ましくは230〜400g/eq.の範囲である。水酸基当量がこの範囲より低いと高度な難燃性は得られ難く、この範囲より高いと高度な難燃性は得られるが、硬化性に劣り、上記用途での使用が困難になる傾向がある。
【0030】
また、本発明のDVBN−Pの150℃における溶融粘度は0.01〜10.0Pa・sの範囲のものが好ましい。作業性の面からは、溶融粘度は上記範囲において、低い程好ましい。
【0031】
更には、軟化点は40〜150℃であることがよく、好ましくは50〜100℃の範囲である。ここで、軟化点は、JIS−K−2207の環球法に基づき測定される。これより低いと、これをエポキシ樹脂組成物に配合したとき、硬化物の耐熱性が低下し、これより高いと成形時の流動性が低下する。
【0032】
本発明の製造方法で得られるエポキシ樹脂は、上記一般式(4)で表される。一般式(1)、(4)及び(5)において、共通する記号は同様な意味を有する。
R
2は上記式(a)で表されるエチルスチレニル基を示す。なお、一般式(4)におけるR
3及びR
4の一方はHであり、他方はMeである。
pはOH基を有するベンゼン環1個あたりに置換するR
2の平均の数を表し、0.1〜3の範囲であり、好ましくは0.2〜2であり、より好ましくは0.3〜1.5の範囲である。1分子中のpの合計は、平均値として1以上であり、更に好ましくは2以上である。そして、1分子中のpの合計は、10以下であることが好ましい。
【0033】
nは繰り返し数であり、nが1〜20のいずれかの化合物単独又はこれらの混合物であるか、又は平均(数平均)として、0〜20であることを意味する。平均としてのnは、好ましくは2〜10である。また、平均(数平均)は、上記エポキシ当量から計算可能であるので、好ましいnもそれから理解される。
【0034】
そして、このDVBN−Pを、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;RI)で測定した時、一般式(5)における単価ヒドロキシ化合物が、その面積%で1%〜25%の範囲となることが好ましい。より好ましくは3%〜20%の範囲である。この単価ヒドロキシ化合物は、一般式(4)において、nが0である化合物に該当し、DVBにより架橋されていない化合物であると言える。この単価ヒドロキシ化合物の含有量が、この範囲より少ない場合は、官能基濃度に由来する性質が改良されないままの状態であり、この範囲より多い場合は、官能基密度が低くなり過ぎて硬化性が低下する傾向がある。本発明では、これら芳香族ビニル化合物中のEVBの使用量を変化させることにより、DVBN−Pの水酸基当量を200〜500g/eqに調整することが可能である。この結果、エポキシ樹脂組成物の難燃性、耐湿性、高温低弾性等の優れた物性を発現し、半導体封止材料や回路基板材料等の用途で難燃性及び信頼性等に優れた組成物を与える。このことは半導体封止用材料として使用した場合、流動性から良好な成形性が可能であり、回路基板用材料として使用した場合は、有機溶媒への溶解性の向上が可能である。その結果、各種物性の向上、例えば、難燃性の向上や更なる低吸水性や低誘電性により信頼性に優れた材料が得られる。
【0035】
次に、本発明の多価ヒドロキシ樹脂について説明する。
本発明の多価ヒドロキシ樹脂は、上記一般式(4)で表される。したがって、製造方法が特定されていない限り、本発明の製造方法で得られる多価ヒドロキシエポキシ樹脂と同様な説明となる。有利には、上記フェノール化合物と、一般式(2)および(3)で表される芳香族ビニル化合物を同時に反応させて得られる。
【0036】
すなわち、本発明の多価ヒドロキシ樹脂の水酸基当量、溶融粘度、軟化点及び上記単価ヒドロキシ化合物の含有量は、上記した範囲であることが好ましい。更に、一般式(4)における記号及び好ましい範囲又は基は、上記と同様である。
【0037】
次に、本発明のエポキシ樹脂について述べる。
本発明のエポキシ樹脂(DVBN−Eと略す)は、一般式(4)で表される多価ヒドロキシ樹脂(DVBN−P)のOH基をグリジルエーテル化することにより得ることができる。
【0038】
本発明のDVBN−Eは、DVBN−Pをエピクロルヒドリンと反応させる反応の他、DVBN−Pとハロゲン化アリルを反応させ、アリルエーテル化合物とした後、過酸化物と反応させる方法で得ることもできる。上記DVBN−Pをエピクロルヒドリンと反応させる反応は、通常のエポキシ化反応と同様に行うことができる。
【0039】
例えば、上記DVBN−Pを過剰のエピクロルヒドリンに溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下に、20〜150℃、好ましくは、30〜80℃の範囲で1〜10時間反応させる方法が挙げられる。この際のアルカリ金属水酸化物の使用量は、DVBN−Pの水酸基1モルに対して、0.8〜1.5モル、好ましくは、0.9〜1.2モルの範囲である。また、エピクロルヒドリンはDVBN−P中の水酸基1モルに対して過剰に用いられるが、通常、DVBN−P中の水酸基1モルに対して、1.5〜30モル、好ましくは、2〜15モルの範囲である。反応終了後、過剰のエピクロルヒドリンを留去し、残留物をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解し、濾過し、水洗して無機塩を除去し、次いで溶剤を留去することにより目的のエポキシ樹脂(DVBN−E)を得ることができる。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、少なくともエポキシ樹脂及び硬化剤を含むものであるが、次の3種類がある。
1)エポキシ樹脂の一部又は全部として前記DVBN−Eを配合した組成物。
2)硬化剤の一部又は全部として前記DVBN−Pを配合した組成物。
3)エポキシ樹脂及び硬化剤の一部又は全部として前記DVBN−EとDVBN−Pを配合した組成物。
【0041】
上記2)及び3)の組成物の場合、DVBN−Pの配合量は、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して2〜200重量部、好ましくは5〜120重量部の範囲である。これより少ないと難燃性及び耐湿性向上の効果が小さく、これより多いと成形性及び硬化物の強度が低下する問題がある。
【0042】
硬化剤の全量としてDVBN−Pを用いる場合、通常、DVBN−Pの配合量は、DVBN−PのOH基とエポキシ樹脂中のエポキシ基の当量バランスを考慮して配合する。エポキシ樹脂及び硬化剤の当量比は、通常、0.2〜5.0の範囲であり、好ましくは0.5〜2.0の範囲である。これより大きくても小さくても、エポキシ樹脂組成物の硬化性が低下するとともに、硬化物の耐熱性、力学強度等が低下する。
【0043】
硬化剤としてDVBN−P以外の硬化剤を併用することができる。その他の硬化剤の配合量は、DVBN−Pの配合量が、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して2〜200重量部、好ましくは5〜80重量部の範囲が保たれる範囲内で決定される。DVBN−Pの配合量がこれより少ないと低吸湿性、密着性及び難燃性向上の効果が小さく、これより多いと成形性及び硬化物の強度が低下する問題がある。
【0044】
DVBN−P以外の硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として知られているものはすべて使用でき、ジシアンジアミド、酸無水物類、多価フェノール類、芳香族及び脂肪族アミン類等がある。これらの中でも、半導体封止材等の高い電気絶縁性が要求される分野においては、多価フェノール類を硬化剤として用いることが好ましい。以下に、硬化剤の具体例を示す。
【0045】
酸無水物硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル無水ハイミック酸、無水ドデシニルコハク酸、無水ナジック酸、無水トリメリット酸等がある。
【0046】
多価フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4'−ビフェノール、2,2'−ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類、あるいは、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、ポリビニルフェノール等に代表される3価以上のフェノール類がある。更には、フェノール類、ナフトール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4'−ビフェノール、2,2'−ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−キシリレンジクロライド、ビスクロロメチルビフェニル、ビスクロロメチルナフタレン等の縮合剤により合成される多価フェノール性化合物等がある。
【0047】
アミン類としては、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルプロパン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン等の芳香族アミン類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、リエチレンテトラミン等の脂肪族アミン類がある。
上記組成物には、これら硬化剤の1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0048】
上記組成物に使用されるエポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有するもの中から選択される。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4'−ビフェノール、2,2'−ビフェノール、テトラブロモビスフェノールA、ハイドロキノン、レゾルシン等の2価のフェノール類、あるいは、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンや、フェノール、クレゾール、ナフトール等のノボラック樹脂、フェノール、クレゾール、ナフトール等のアラルキル樹脂等の3価以上のフェノール性化合物のグルシジルエーテル化物等がある。これらのエポキシ樹脂は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
上記1)及び3)の組成物の場合、このエポキシ樹脂組成物中には、エポキシ樹脂成分として、DVBN−E以外に別種のエポキシ樹脂を配合してもよい。この場合のエポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を2個以上有する通常のエポキシ樹脂はすべて使用できる。例を挙げれば、ビスフェノールA、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4'−ビフェノール、2,2'−ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン等の2価のフェノール類、あるいは、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック等の3価以上のフェノール類、フェノール系アラルキル樹脂類、ビフェニルアラルキル樹脂類、ナフトール系アラルキル樹脂類又はテトラブロモビスフェノールA等のハロゲン化ビスフェノール類から誘導されるグルシジルエーテル化物等がある。これらのエポキシ樹脂は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。そして、本発明のDVBN−Eを必須成分とする組成物の場合、DVBN−Eの配合量はエポキシ樹脂全体中、5〜100%、好ましくは60〜100%の範囲であることがよい。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物中には、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、石油樹脂、インデン樹脂、インデン・クマロン樹脂、フェノキシ樹脂等のオリゴマー又は高分子化合物を他の改質剤等として適宜配合してもよい。添加量は、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、2〜30重量部の範囲である。
【0051】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、無機充填剤、顔料、難然剤、揺変性付与剤、カップリング剤、流動性向上剤等の添加剤を配合できる。無機充填剤としては、例えば、球状あるいは、破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、又はマイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ等が挙げられ、半導体封止材に用いる場合の好ましい配合量は70重量%以上であり、更に好ましくは80重量%以上である。
【0052】
顔料としては、有機系又は、無機系の体質顔料、鱗片状顔料等がある。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系等を挙げることができる。
【0053】
更に、本発明のエポキシ樹脂組成物には必要に応じて硬化促進剤を用いることができる。例を挙げれば、アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン類、ルイス酸等があり、具体的には、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−へプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフイン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレートなどのテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などがある。添加量としては、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.1から5重量部の範囲である。
【0054】
更に必要に応じて、本発明の樹脂組成物には、カルナバワックス、OPワックス等の離型剤、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、三酸化アンチモン等の難燃剤、シリコンオイル等の低応力化剤、ステアリン酸カルシウム等の滑剤等を使用できる。
【0055】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、有機溶剤を溶解させたワニス状態とした後に、ガラスクロス、アラミド不織布、液晶ポリマー等のポリエステル不織布、等の繊維状物に含浸させた後に溶剤除去を行い、プリプレグとすることができる。また、場合により銅箔、ステンレス箔、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム等のシート状物上に塗布することにより積層物とすることができる。
【0056】
本発明のエポキシ樹脂組成物を加熱硬化させれば、エポキシ樹脂硬化物とすることができ、この硬化物は低吸湿性、高耐熱性、密着性、難燃性等の点で優れたものとなる。この硬化物は、エポキシ樹脂組成物を注型、圧縮成形、トランスファー成形等の方法により、成形加工して得ることができる。この際の温度は通常、120〜220℃の範囲である。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
樹脂の評価方法を次に示す。
【0058】
1)GPC測定
東ソー株式会社製 TSKgelG4000HXL×1本、TSKgelG2000HXL×3本を直列に備えたものを使用し、カラム温度は40℃にした。また、溶離液にはテトラヒドロフランを用い、1ml/minの流速とし、検出器はRI(示差屈折計)検出器を用いた。サンプル0.03gを10mlのTHFに溶解した。測定した分子量分布から一般式の各nに相当する面積百分率を求めた。各ピークの同定はFD−MS測定結果と関連させた。
【0059】
2)FD−MS
日本電子製JMS−AX505HA装置を用いて電解脱離イオン化質量分析法に従い測定した。得られたFD−MSスペクトルデータとゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定結果と併用して、分子量分布とその各ピークを同定した。
【0060】
3)軟化点
自動軟化点装置(明峰社製、ASP−M4SP)を用い、JIS−K−2207に従い環球法にて測定した。
【0061】
4)溶融粘度
BROOKFIELD製、CAP2000H型回転粘度計を用いて、150℃にて測定した。
【0062】
5)水酸基当量の測定
電位差滴定装置を用い、1,4−ジオキサンを溶媒に用い、1.5mol/L塩化アセチルで100℃、60分の反応条件でアセチル化を行い、過剰の塩化アセチルを水で分解して0.5mol/L−水酸化カリウムを使用して滴定した。
【0063】
6)エポキシ当量の測定
電位差滴定装置を用い、溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、電位差滴定装置にて0.1mol/L過塩素酸−酢酸溶液を用いて測定した。
7)溶剤溶解性
樹脂固形分が50wt%になるようにMEKを加えて溶解させた。一週間静置したときの溶解性を観察した。〇;均一溶解、△;溶液に濁り発生、×;沈殿物有り。
【0064】
実施例1
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた1Lの4口フラスコに、フェノール150g及び50%パラトルエンスルホン酸0.045gを加え、100℃まで昇温した。次に、100℃にて攪拌しながら、芳香族ビニル化合物として63%DVB148g(EVB55gを含む)を2時間かけて滴下し反応させた。更に、150℃に昇温保持により反応を完結させた。その後、85℃に降温して約4回水洗を行った。続いて、未反応物を減圧留去した後、多価ヒドロキシ樹脂252gを得た。その軟化点は59℃、150℃での溶融粘度は0.06Pa・s、水酸基当量は252g/eq.であり、単価ヒドロキシ樹脂(一般式(5)の単価ヒドロキシ樹脂)のGPC面積%は11.6であった。この多価ヒドロキシ樹脂をDVBN−P1という。DVBN−P1のGPCチャートを
図1、FD−MSチャートを
図2に示す。
【0065】
実施例2
フェノール150g及び50%パラトルエンスルホン酸0.03gと81%DVB115g(EVB21gを含む)を使用した他は、実施例1と同様にして、多価ヒドロキシ樹脂(DVBN−P2)206gを得た。DVBN−Pの軟化点は68℃、150℃での溶融粘度は0.11Pa・s、水酸基当量は211g/eq.であり、単価ヒドロキシ樹脂のGPC面積%は6.6であった。
【0066】
比較例1
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた1Lの4口フラスコに、フェノール150g及び50%パラトルエンスルホン酸0.03gを加え、100℃まで昇温した。次に、100℃にて攪拌しながら、96%DVB97g(EVB4gを含む)を使用した他は、実施例1と同様にして、多価ヒドロキシ樹脂(DVBN−P3)185gを得た。DVBN−P3の軟化点は76℃、150℃での溶融粘度は0.18Pa・s、水酸基当量は197g/eq.であり、単価ヒドロキシ樹脂のGPC面積%は1.0であった。DVBN−P3のGPCチャートを
図3、FD−MSチャートを
図4に示す。
【0067】
合成例1(実施例)
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた1Lの4口フラスコに、フェノール150g及び50%パラトルエンスルホン酸0.04gを加え、100℃まで昇温した。次に、100℃にて攪拌しながら、57%DVB255g(EVB99gを含む)を使用した他は、実施例1と同様にして、多価ヒドロキシ樹脂(DVBN−P4)373gを得た。DVBN−P4の軟化点は76℃、150℃での溶融粘度は0.40Pa・s、水酸基当量は314g/eq.であり、単価ヒドロキシ樹脂のGPC面積%は7.4であった。
【0068】
合成例2(実施例)
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた1Lの4口フラスコに、フェノール150g及び、50%パラトルエンスルホン酸0.04gを加え、100℃まで昇温した。次に、100℃にて攪拌しながら、63%DVB230g(EVB85gを含む)を使用した他は、実施例1と同様にして、多価ヒドロキシ樹脂(DVBN−P5)359gを得た。DVBN−P5の軟化点は77℃、150℃での溶融粘度は0.47Pa・s、水酸基当量は294g/eq.であり、単価ヒドロキシ樹脂のGPC面積%は7.2であった。
【0069】
合成例3(実施例)
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた1Lの4口フラスコに、フェノール150g及び、50%パラトルエンスルホン酸0.03gを加え、100℃まで昇温した。次に、100℃にて攪拌しながら、81%DVB179g(EVB32gを含む)を使用した他は、実施例1と同様にして、多価ヒドロキシ樹脂(DVBN−P6)296gを得た。DVBN−P6の軟化点は91℃、150℃での溶融粘度は1.37Pa・s、水酸基当量は241g/eq.であり、単価ヒドロキシ樹脂のGPC面積%は4.0であった。
【0070】
合成例4
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた1Lの4口フラスコに、フェノール150g及び、50%パラトルエンスルホン酸0.03gを加え、100℃まで昇温した。次に、100℃にて攪拌しながら、96%DVB151g(EVB6gを含む)を使用した他は、実施例1と同様にして、多価ヒドロキシ樹脂(DVBN−P7)262gを得た。DVBN−P7の軟化点は103℃、150℃での溶融粘度は4.37Pa・s、水酸基当量は213g/eq.であり、単価ヒドロキシ樹脂のGPC面積%は1.0であった。
【0071】
実施例3
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた1Lの4口フラスコに、合成例1で得たDVBN−P4を100g、エピクロルヒドリン411g、ジエチレングリコールジメチルエーテル62gを入れ撹拌溶解させた。均一に溶解後、130mmHgの減圧下65℃に保ち、48%水酸化ナトリウム水溶液32gを4時間かけて滴下し、この滴下中に還流留出した水とエピクロルヒドリンを分離槽で分離しエピクロルヒドリンは反応容器に戻し、水は系外に除いて反応した。反応終了後、濾過により生成した塩を除き、更に水洗したのちエピクロルヒドリンを留去し、エポキシ樹脂(DVBN−E1)106gを得た。得られた樹脂のエポキシ当量は354g/eq.、軟化点は64℃、150℃における溶融粘度は0.26Pa・sであった。DVBN−E1のGPCチャートを
図5、FD−MSチャートを
図6に示す。
【0072】
実施例4
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた1Lの4口フラスコに合成例2で得たDVBN−P5を100g、エピクロルヒドリン410g、ジエチレングリコールジメチルエーテル62gを入れ撹拌溶解させた。均一に溶解後、130mmHgの減圧下65℃に保ち、48%水酸化ナトリウム水溶液35gを4時間かけて滴下した他は、実施例3と同様にして、エポキシ樹脂(DVBN−E2)107gを得た。得られた樹脂のエポキシ当量は327g/eq.、軟化点は68℃、150℃における溶融粘度は0.34Pa・sであった。
【0073】
実施例5
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた1Lの4口フラスコに合成例3で得たDVBN−P6を100g、エピクロルヒドリン409g、ジエチレングリコールジメチルエーテル61gを入れ撹拌溶解させた。均一に溶解後、130mmHgの減圧下65℃に保ち、48%水酸化ナトリウム水溶液39gを4時間かけて滴下した他は、実施例3と同様にして、エポキシ樹脂(DVBN−E3)101gを得た。得られた樹脂のエポキシ当量は303g/eq.、軟化点は78℃、150℃における溶融粘度は0.69Pa・sであった。
【0074】
比較例2
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた1Lの4口フラスコに合成例4で得たDVBN−P7を100g、エピクロルヒドリン443g、ジエチレングリコールジメチルエーテル66gを入れ撹拌溶解させた。均一に溶解後、130mmHgの減圧下65℃に保ち、48%水酸化ナトリウム水溶液42gを4時間かけて滴下した他は、実施例3と同様にして、エポキシ樹脂(DVBN−E4)104gを得た。得られた樹脂のエポキシ当量は280g/eq.、軟化点は85℃、150℃における溶融粘度は1.14Pa・sであった。DVBN−E4のGPCチャートを
図7、FD−MSチャートを
図8に示す。
【0075】
実施例6〜10及び比較例3〜5
エポキシ樹脂成分としてo-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(OCNE;エポキシ当量202、軟化点74℃)を使用し、硬化剤として実施例1,2、比較例1、合成例1,2,3,4で得た多価ヒドロキシ樹脂、又はフェノールアラルキル樹脂(PA;OH当量175、軟化点67℃)を使用した。硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを表1に示す配合で混練しエポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物を用いて175℃にて成形し、200℃にて5時間ポストキュアを行い、硬化物試験片を得た後、各種物性測定に供した。結果を表2に示す。配合量の数字は重量部である。
【0076】
硬化物の評価方法
1)ゲルタイム(GT)
175℃に加熱しておいたゲル化試験機(日新科学(株)製)のプレート上にエポキシ樹脂組成物を添加し、フッ素樹脂棒を用いて一秒間に2回転の速度で攪拌し、エポキシ樹脂組成物が硬化するまでに要したゲル化時間を調べた。
【0077】
2)スパイラルフロー(SF)
トランスファー成形機を用いて、充填剤として球状シリカ(平均粒径 18μm)を配合したエポキシ樹脂組成物を175℃スパイラルフロー金型内に射出して、流れた距離を測定した。
【0078】
3)TMA測定によるガラス転移点(Tg)、線膨張係数(CTE)
セイコーインスツル製TMA120C型熱機械測定装置により、昇温速度10℃/分の条件で、Tgを求め、α1(Tg以下のCTE)は40〜60℃の範囲の平均値を、またα2(Tg以上のCTE)はTgプラス50℃〜70℃の範囲の平均値から求めた。
【0079】
4)DMA測定によるガラス転移点(Tg)、粘弾性(ε’)
セイコーインスツル製DMA熱機械測定装置により、昇温速度4℃/分の条件で、Tgを求め、40℃の粘弾性ε’と260℃の粘弾性ε’を求めた。
【0080】
5)TGDTA測定による5wt%重量減少温度(Td5)、10wt%重量減少温度(Td10)
セイコーインスツル製TGDTA熱機械測定装置により、昇温速度10℃/分の条件で、重量減少曲線より5wt%重量減少温度(Td5)、10wt%重量減少温度(Td10)を求めた。
【0081】
6)吸水率
25℃、相対湿度50%の条件を標準状態とし、85℃、相対湿度85%の条件で100時間吸湿させた後の重量変化率とした。
【0082】
7)容量法による誘電率(Dk)、誘電正接(Df)
Agilent社製インピーダンスマテリアルアナライザー装置を用い、25℃、湿度60%の恒温恒湿器内で保管後の硬化物を1GHzで誘電率および誘電正接を測定した。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
実施例11〜14及び比較例5〜7
エポキシ樹脂成分として、実施例3、4、5で得たDVBN−E1、DVBN−E2、DVBN−E3、比較例2で得たDVBN−E4、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(PA−E;エポキシ当量202、軟化点75℃)、又はビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(BPAR−E;エポキシ当量272、軟化点75℃)、硬化剤成分として、フェノールノボラック樹脂(PN;OH当量108、軟化点 90℃)、又は合成例2で合成したDVBN−P5を用いた。更に、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾールを用い、表3に示す配合でエポキシ樹脂組成物を得た。表中の数値は配合における重量部を示す。
【0086】
このエポキシ樹脂組成物を用いて175℃で成形し、更に200℃にて5時間ポストキュアを行い、硬化物試験片を得た後、各種物性測定に供した。結果を表4に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】