(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基板と前記第1アモルファスSe膜との間に、Te、Bi及びSbからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる下地膜を形成する下地膜形成工程をさらに有する請求項1又は2に記載の固体撮像素子の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、
図5は、結晶Seを用いた従来の固体撮像素子8の断面模式図である。
図5に示すように、結晶Seを用いた従来の固体撮像素子8は、下層側から順に、信号読み出し回路基板81と、Ga
2O
3膜82と、下地膜83と、結晶Se膜84と、ITO膜85と、を備える。この固体撮像素子8では、ITO膜85側から光が入射される。信号読み出し回路基板81には図示しない下部電極が設けられ、この下部電極とITO膜85とに電源が接続される。この信号読み出し回路基板81により、光電変換部としての結晶Se膜84から発生したキャリアは、画素毎にキャリアに応じた電圧に変換されて増幅器で増幅され、外部の電子機器の信号処理部に送信される。
【0007】
この固体撮像素子8は、例えば次のようにして製造される。
先ず、信号読み出し回路基板81上に、Ga
2O
3膜82をスパッタ法やPLD(パルスレーザー蒸着)法等で成膜する。次いで、下地膜(例えばTe膜)83を極めて薄く蒸着した後、アモルファスSe膜を蒸着する。そして、例えば200℃程度で加熱することによりアモルファスSe膜を結晶化させて結晶Se膜84を成膜した後、ITO膜85をスパッタ法等により成膜する。以上により、固体撮像素子8が製造される。
【0008】
この固体撮像素子8において、Ga
2O
3膜82はn型半導体として動作する一方で、結晶Se膜はp型半導体として動作し、両者の接合界面には空乏層が形成される。同時に、Ga
2O
3膜82膜は正孔障壁として機能し、結晶Se膜84は光を吸収してキャリアを生成する光電変換部として機能する。Ga
2O
3膜82は従来公知の成膜方法により、可視光域において透明化される。
【0009】
しかしながら、結晶Seを用いた従来の固体撮像素子8では、次のような種々の課題がある。
第一に、入射した光は、空乏層に到達する前に結晶Se膜84中で減衰するため、感度を十分に大きくできない。すなわち、空乏層以外の部分である結晶Se膜84中で吸収された光はキャリアを発生させるが、すぐに再結合して光の検出には寄与できないため、十分な感度が得られない。
【0010】
第二に、構造上、結晶Se膜84中に発生したキャリアのうち電子を信号として読み出すことしかできず、正孔(ホール)を信号として読み出すことができない。すなわち、結晶Se膜84中におけるキャリアの増倍作用は、正孔に比べて電子の方が小さいため、感度を十分に上げられない要因となっている。
【0011】
第三に、アモルファスSe膜を結晶化する際には、膜剥がれを防ぐために下層(Ga
2O
3膜82上)の上に下地膜83を成膜する必要がある。すなわち、結晶Se膜84とGa
2O
3膜82との境界の空乏層に隣接して下地膜83が配置されるため、下地膜83が結晶Se膜84内で不純物として振る舞う結果、暗電流が増加する。
【0012】
第四に、アモルファスSe膜を結晶化すると、結晶粒の発生により膜の厚みの均一性が失われる。膜の厚みが部分的に異なると、電圧を印加した際の膜中の電界が不均一となるため、取得する画像に固定ノイズパターンが含まれる結果となる。
【0013】
これに対して、Siの量子効率や光吸収係数を超える無機材料として、CIGS(Cu、In、Ga、Se又はSの化合物)を光電変換部に用いた固体撮像素子が提案されている(例えば、特許文献1〜3及び非特許文献4参照)。ここで、
図6は、CIGSを用いた従来の固体撮像素子9の断面模式図である。
図6に示すように、CIGSを用いた従来の固体撮像素子9は、下層側から順に、信号読み出し回路基板91と、CIGS膜92と、Ga
2O
3膜93と、ITO膜94と、を備える。この固体撮像素子9では、ITO膜94側から光が入射される。
【0014】
この固体撮像素子9は、例えば次のようにして製造される。
先ず、信号読み出し回路基板91上に、CIGS膜92をスパッタ法やMBE(分子線エピタキシー)法、多元蒸着法等で成膜する。次いで、Ga
2O
3膜93をスパッタ法やPLD法等で成膜した後、ITO膜をスパッタ法等により成膜する。以上により、固体撮像素子9が製造される。
【0015】
この固体撮像素子9において、Ga
2O
3膜93はn型半導体として動作する一方で、CIGS膜92はp型半導体として動作し、両者の接合界面には空乏層が形成される。同時に、Ga
2O
3膜93は正孔障壁として機能し、CIGS膜92は光を吸収してキャリアを生成する光電変換部として機能する。
【0016】
この固体撮像素子9は、上述の固体撮像素子8と比べると、n型半導体膜とp型半導体膜の位置が入れ替わっている。具体的には、n型半導体膜としてのGa
2O
3膜93が、p型半導体膜としてのCIGS膜92よりも、光が入射するITO膜94側(上層側)に配置されている。Ga
2O
3膜は可視光に対して透明であるため、ITO膜94側から入射した光は、減衰することなくn型半導体膜としてのGa
2O
3膜93を通過して空乏層に到達できる。従って、上述の第一の課題は生じず、感度を十分に高められる。
【0017】
また、p型半導体膜としてのCIGS膜92が、n型半導体膜としてのGa
2O
3膜93の下層側の読み出し回路基板91側に配置されるため、正孔読み出しが可能となり、上述の第二の課題は生じず、感度を十分に高められる。
さらには、下地膜を用いる必要が無いため、上述の第三の課題は生じず、暗電流が増加することもない。
【0018】
一方、CIGSを用いた従来の固体撮像素子9では、上述の固体撮像素子8における第四の課題とは理由は異なるものの、成膜時に結晶粒が発生して膜厚の均一性が失われる。また、CIGS膜92の成膜温度が300℃以上と高いため、信号読み出し回路基板91を劣化させるおそれがある。
【0019】
そこで、
図6に示したようなp型半導体膜がn型半導体膜の下層となる構造の固体撮像素子9において、その光電変換部であるp型半導体膜に結晶Se膜を適用することが考えられるが、実際には困難であった。これは、Ga
2O
3膜の透明性を高めるには、一般的に200℃以上の高い成膜温度を必要とするためである。非特許文献5に示されたように、成膜温度が高くなるにつれて透過率は高まる。成膜温度が550度の場合、緑色に相当する550nmにおける透過率は成膜温度が350℃の場合に比べて、約9.5倍高い。しかしながら、結晶Se膜の融点は200℃程度であるため、結晶Se膜上に透明なGa
2O
3膜を成膜することは不可能である。従って、従来の固体撮像素子では、
図5に示したようにGa
2O
3膜上に結晶Se膜を配置した構造を取らざるを得ないのが現状である。
【0020】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来よりも感度が高くノイズの少ない固体撮像素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る固体撮像素子(例えば、後述の固体撮像素子1,2)は、信号読み出し回路を有する基板(例えば、後述の信号読み出し回路基板11,21)と、前記基板上に配置され、結晶Seからなる結晶Se膜(例えば、後述の結晶Se膜13,23)と、前記結晶Se膜上に配置され、金属酸化物からなる金属酸化物膜(例えば、後述の金属酸化物膜14)又は金属酸化物基板(例えば、後述の金属酸化物基板24)と、を備える。
【0022】
前記金属酸化物は、Ga
2O
3であることが好ましい。
【0023】
前記基板と前記結晶Se膜との間に配置され、Te、Bi及びSbからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる下地膜(例えば、後述の下地膜12,22)と、を備えることが好ましい。
【0024】
また本発明に係る固体撮像素子(例えば、後述の固体撮像素子1,2)は、信号読み出し回路を有する基板(例えば、後述の信号読み出し回路基板11,21)上に形成された第1アモルファスSe膜(例えば、後述の第1アモルファスSe膜13a,23a)と、金属酸化物膜(例えば、後述の金属酸化物膜14)又は金属酸化物基板(例えば、後述の金属酸化物基板24)上に形成された第2アモルファスSe膜(例えば、後述の第2アモルファスSe膜13b,23b)と、を加圧接合した後に結晶化させて得られた結晶Se膜(例えば、後述の結晶Se膜13,23)を備える。
【0025】
また本発明に係る固体撮像素子の製造方法は、信号読み出し回路を有する基板(例えば、後述の信号読み出し回路基板11,21)上に第1アモルファスSe膜(例えば、後述の第1アモルファスSe膜13a)を形成する第1アモルファスSe膜形成工程と、金属酸化物膜(例えば、後述の金属酸化物膜14)又は金属酸化物基板(例えば、後述の金属酸化物基板24)上に第2アモルファスSe膜を形成する第2アモルファスSe膜形成工程と、前記基板上に形成された第1アモルファスSe膜と、前記金属酸化物膜又は金属酸化物基板上に形成された第2アモルファスSe膜と、を加圧接合する接合工程と、前記加圧接合されたアモルファスSe膜を結晶化して結晶Se膜を形成する結晶化工程と、を有する。
【0026】
前記基板と前記第1アモルファスSe膜との間に、Te、Bi及びSbからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる下地膜(例えば、後述の下地膜12,22)を形成する下地膜形成工程をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、従来よりも感度が高くノイズの少ない固体撮像素子及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、第2実施形態以後の説明において、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0030】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る固体撮像素子1の断面模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る固体撮像素子1は、下層側から順に、信号読み出し回路基板11と、下地膜12と、結晶Se膜13と、金属酸化物膜14と、ITO膜15と、透明基板16と、を備える。なお、信号読み出し回路基板11とITO膜15には、電源17が接続される。
【0031】
信号読み出し回路基板11は、Si基板上にCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor、相補型金属酸化膜半導体)構造が形成されたものである。信号読み出し回路基板11には、Al、W、Mo、Ti等で形成される図示しない下部電極が設けられており、この下部電極に電源17が接続される。この信号読み出し回路基板11により、光電変換部としての結晶Se膜13に蓄積された電荷は、画素毎に発生したキャリアに応じた電圧に変換されて増幅器で増幅され、外部の電子機器の信号処理部に送信される。
【0032】
下地膜12は、信号読み出し回路基板11と結晶Se膜13との間に配置される。この下地膜12は、信号読み出し回路基板11と結晶Se膜13との密着性を向上させる機能を有する。そのため、この下地膜12により、後述する結晶Se膜13形成用の第1アモルファスSe膜13aが信号読み出し回路基板11上で凝集するのを回避でき、第1アモルファスSe膜13aを確実に成膜できるようになっている。
【0033】
下地膜12は、Te、Bi及びSbからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる下地膜であることが好ましい。中でも、TeからなるTe膜がより好ましく用いられる。この下地膜12は、例えば真空蒸着により、信号読み出し回路基板11上に成膜される。下地膜12の膜厚は、0.001〜10nmの範囲が好ましい。この範囲内であれば、固体撮像素子1の感度等に悪影響を及ぼすことなく、信号読み出し回路基板11と結晶Se膜13との密着性を向上できる。
【0034】
結晶Se膜13は、信号読み出し回路基板11上に配置され、より詳しくは下地膜12と金属酸化物膜14との間に配置される。この結晶Se膜13は、p型半導体層として機能し、光電変換部を構成する。すなわち、この結晶Se膜13と、n型半導体層として機能する後述の金属酸化物膜14との境界には、図示しない空乏層が形成されている。ITO膜15側(
図1中の上側)から入射される光によって空乏層には多数のキャリアが生成され、キャリアのうち正孔(ホール)が、電源17に接続された信号読み出し回路基板11側に向かって結晶Se膜13中を走行する。
【0035】
また、正孔が空乏層側から信号読み出し回路基板11側に向かって走行する際に、結晶Se膜13中のSe原子に衝突することで、正孔が増倍される所謂キャリア増倍作用が生じる。この点、従来公知のアモルファスSe膜では、このような増倍作用を得るためには高電圧を印加する必要があり、耐電圧の観点から通常の読み出し回路基板の使用は不可能であったところ、結晶Se膜13であれば低電圧の印加でキャリア増倍作用が生じるため、通常の読み出し回路基板を用いることが可能となっている。
【0036】
また、結晶Seは優れた量子効率と光吸収係数を有するため、薄い膜厚でも可視光を十分吸収できる特性を有する。そのため、結晶Se膜13の膜厚は、薄くてよく、具体的には20〜1000nmの範囲が好ましい。
【0037】
また、結晶Se膜13は、後段で詳述するように、例えば真空蒸着法により信号読み出し回路基板11上に形成された第1アモルファスSe膜13aと、例えば真空蒸着法により金属酸化物膜14上に形成された第2アモルファスSe膜13bと、を加圧接合した後に結晶化することにより形成される。そのため、結晶Se膜13は、下地膜12側の表面及び金属酸化物膜14側の表面いずれも、従来の結晶Se膜と比べてより平滑化されている。膜の厚みが部分的に異なる膜に対して電圧を印加すると、電位V/距離d(結晶Se膜の膜厚)で表される膜中の電界Eが不均一となり、取得する画像に固定ノイズパターンが含まれてしまうところ、本実施形態によれば、膜厚が均一で電界Eが均一化されているため、ノイズが低減され、感度が向上している。
【0038】
金属酸化物膜14は、結晶Se膜13とITO膜15との間に配置される。この金属酸化物膜14は、n型半導体層として機能する。本実施形態の固体撮像素子1では、金属酸化物膜14が結晶Se膜13に対して光が入射されるITO膜15側(
図1中の上側)に配置されるところ、結晶Se膜13と異なり金属酸化物膜14は光を吸収しないため、空乏層に到達する前に光が減衰するのが回避される。
【0039】
金属酸化物膜14は、金属酸化物からなり、Ga
2O
3、ZnO、InZnO、CeO
2、Y
2O
3、In
2O
3等を用いることができる。中でも、Ga
2O
3からなるGa
2O
3膜を金属酸化物膜14として用いることが好ましい。金属酸化物膜14は、例えばPLD(パルスレーザー蒸着)法により、ITO膜15上に成膜される。金属酸化物膜14の膜厚は、2nm〜2μmの範囲が好ましい。
【0040】
また、金属酸化物膜14としては、例えば、キャリア濃度の調節の必要性に応じてSnをドープしたGa
2O
3:Sn膜を用いてもよい。また、金属酸化物膜14として、Ga
2O
3膜とGa
2O
3:Sn膜とを積層したものを用いてもよい。
【0041】
ITO膜15は、金属酸化物膜14と透明基板16との間に配置される。ITO膜15は、上部電極として機能し、電源17が接続される。ITO膜15は、例えば後述の透明基板16上に、真空蒸着法又はスパッタ法により成膜される。ITO膜15の膜厚は、5nm〜200nmの範囲が好ましい。また、ITO膜15は、そのシート抵抗が300Ω/cm
2以下であることが好ましい。
【0042】
透明基板16は、透明性を有する基板である。透明基板16としては、例えばソーダライムガラス、石英、無アルカリガラス、珪ホウ酸ガラス等が用いられる。
【0043】
次に、本実施形態に係る固体撮像素子1の製造方法について、
図2を参照しながら詳しく説明する。
図2は、本実施形態に係る固体撮像素子1の製造工程を示す図である。本実施形態に係る固体撮像素子1の製造方法は、第1アモルファスSe膜形成工程と、金属酸化物膜形成工程と、第2アモルファスSe膜形成工程と、接合工程と、結晶化工程と、を有する。
【0044】
先ず、
図2の(a)に示すように、Si基板上に形成された信号読み出し回路基板11上に、例えば真空蒸着法により膜厚0.001nm〜10nmの下地膜12を成膜する。次いで、該下地膜12上に、例えば真空蒸着法により膜厚10nm〜500nmの第1アモルファスSe膜13aを成膜する(第1アモルファスSe膜形成工程)。
なお、第1アモルファスSe膜13aの膜厚は、結晶Se膜13の膜厚の半分であることが好ましく、後述の第2アモルファスSe膜形成工程で成膜する第2アモルファスSe膜13bの膜厚と略同一であることが好ましい。
【0045】
一方、
図2の(b)に示すように、透明基板16上に、例えば真空蒸着法又はスパッタ法により膜厚5〜200nmのITO膜15を成膜する。次いで、該ITO膜15上に、例えばPLD(パルスレーザー蒸着)法により膜厚2nm〜2μmの金属酸化物膜14を成膜する。このとき、金属酸化物膜14の透過率を高める観点から、透明基板を30℃〜1000℃に加熱することが好ましく、200℃〜1000℃に加熱することがより好ましい。また、O
2分圧を1×10
−4Pa〜1×10
−2Paとすることが好ましい。
次いで、金属酸化物膜14上に、例えば真空蒸着法により膜厚10nm〜500nmの第2アモルファスSe膜13bを成膜する(第2アモルファスSe膜形成工程)。
なお、第2アモルファスSe膜13bの膜厚は、結晶Se膜13の膜厚の半分であることが好ましく、上述の第1アモルファスSe膜形成工程で成膜する第1アモルファスSe膜13aの膜厚と略同一であることが好ましい。
【0046】
次いで、
図2の(c)に示すように、信号読み出し回路基板11上に形成した第1アモルファスSe膜13aと、透明基板16上に形成した第2アモルファスSe膜13bと、を加圧接合する(接合工程)。具体的には、これらアモルファスSe膜13a,13b同士を接触させた後、0.01MPa〜100MPaの圧力で加圧接合する。このとき、アモルファスSe膜を軟化させるため、加圧前に必要に応じて加熱してもよい。ただし、このときの加熱温度は50℃以下とすることが好ましい。
【0047】
次いで、
図2の(d)に示すように、接合したアモルファスSe膜を結晶化させることにより結晶Se膜13を形成する(結晶化工程)。具体的には、例えばこれらの接合体を、100℃〜200℃に設定したホットプレート上に載置することで、アモルファスSeを結晶化させて結晶Seとする。
【0048】
以上により、本実施形態に係る固体撮像素子1が製造される。なお、
図2の(d)に示すように、信号読み出し回路基板11に設けられている図示しない下部電極とITO膜15には、電源17が接続される。
【0049】
本実施形態に係る固体撮像素子1及びその製造方法によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態に係る固体撮像素子1は、信号読み出し回路基板11と、信号読み出し回路基板11上に配置され、結晶Seからなる結晶Se膜13と、結晶Se膜13上に配置され、金属酸化物からなる金属酸化物膜14と、を備える。
また、信号読み出し回路基板11と結晶Se膜13との間に配置され、Te、Bi及びSbからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる下地膜12を備える。
【0050】
これにより、ITO膜15側から入射した光は、光を吸収しない金属酸化物膜14と通過する際に減衰することなく空乏層に到達する。そのため、キャリアを効率良く生成でき、十分大きな感度が得られる。
また、構造上、キャリアのうち正孔が電源17に接続された信号読み出し回路基板11側に向かって結晶Se膜13中を走行し、効率良く信号として読み出すことができる。また、正孔が空乏層側から信号読み出し回路基板11側に向かって走行する際に、結晶Se膜13中のSe原子に衝突することで、正孔が増倍される所謂キャリア増倍作用が生じる。この点、従来公知のアモルファスSe膜では、このような増倍作用を得るためには高電圧を印加する必要があり、耐電圧の観点から通常の読み出し回路基板の使用は不可能であったところ、結晶Se膜13であれば低電圧の印加でキャリア増倍作用が生じるため、通常の読み出し回路基板を用いつつ、感度を向上できる。
また、従来のように結晶Se膜84とGa
2O
3膜82との境界の空乏層に隣接して下地膜が配置されることがないため、下地膜が結晶Se膜内で不純物として振る舞い暗電流が増加することも無い。
【0051】
そして、本実施形態に係る固体撮像素子1は、信号読み出し回路基板11上に形成された第1アモルファスSe膜13aと、金属酸化物膜14上に形成された第2アモルファスSe膜13bと、を加圧接合した後に結晶化させて得られた結晶Se膜13を備える。
これにより、結晶Se膜13は、下地膜12側の表面及び金属酸化物膜14側の表面いずれも、従来の結晶Se膜と比べてより平滑化されている。膜の厚みが部分的に異なる膜に対して電圧を印加すると、電位V/距離d(結晶Se膜の膜厚)で表される膜中の電界Eが不均一となり、取得する画像に固定ノイズパターンが含まれてしまうところ、本実施形態によれば、膜厚が均一で電界Eが均一化されているため、ノイズが低減され、感度がさらに向上している。
【0052】
また本実施形態に係る固体撮像素子1の製造方法は、信号読み出し回路基板11上に第1アモルファスSe膜13aを形成する第1アモルファスSe膜形成工程と、ITO膜15上に金属酸化物からなる金属酸化物膜14を形成する金属酸化物膜形成工程と、金属酸化物膜14上に第2アモルファスSe膜を形成する第2アモルファスSe膜形成工程と、信号読み出し回路基板11上に形成された第1アモルファスSe膜13aと、金属酸化物膜14上に形成された第2アモルファスSe膜13bと、を加圧接合する接合工程と、加圧接合されたアモルファスSe膜を結晶化して結晶Se膜13を形成する結晶化工程と、を有する。
本実施形態に係る固体撮像素子1の製造方法によれば、上述の効果が確実に得られる。
【0053】
また、金属酸化物膜形成工程では、200℃以上に加熱して金属酸化物膜14を形成し、結晶化工程では、100℃〜200℃に加熱して結晶Se膜13を形成する。
そして、信号読み出し回路基板11と第1アモルファスSe膜13aとの間に、下地膜12を形成する下地膜形成工程をさらに有する。
これにより、上述の効果がより確実に得られる。
【0054】
[第2実施形態]
図3は、本発明の第2実施形態に係る固体撮像素子2の断面模式図である。
図3に示すように、本実施形態に係る固体撮像素子2は、第1実施形態に係る固体撮像素子1と比べて、金属酸化物膜14の代わりに金属酸化物基板24を用いる点と、透明基板16を備えていない点と、上部電極としてITO膜15の代わりにAu/Ti膜26を用いる点が相違する以外は同一の構成である。
【0055】
金属酸化物基板24は、金属酸化物膜14と同様にn型半導体として機能する。金属酸化物基板24としては、金属酸化物膜14に用いられるGa
2O
3、ZnO、InZnO、CeO
2、Y
2O
3、In
2O
3等の透明性を有する単結晶基板が用いられる。中でも、Ga
2O
3単結晶基板が好ましく用いられ、金属酸化物膜14よりも高い性能を有し、感度が向上している。金属酸化物基板24の厚みは、100μm〜1000μmの範囲が好ましい。
【0056】
また、本実施形態の固体撮像素子2では、上述した通り透明基板16を備えていない。これは、金属酸化物膜14の代わりに十分な厚み及び強度を有する金属酸化物基板24を用いることで、十分な強度が確保されるからである。
【0057】
Au/Ti膜26は、上部電極として機能し、電源27が接続される。Au/Ti膜26は、Au膜とTi膜の積層体であり、例えばスパッタ法により金属酸化物基板24上に形成される。具体的には、金属酸化物基板24側から順にTi層とAu層が形成される。Au/Ti膜26の膜厚は、それぞれ10nm〜200nmの範囲が好ましい。
【0058】
なお
図3に示すように、必要に応じてAu/Ti膜26を形成した金属酸化物基板24上に、ITO膜25を配置してもよい。
図3では便宜上、ITO膜25の一部にAu/Ti膜26を配置して示しているが、これに限定されない。このITO膜25は、ITO膜15と同様の構成であり、同様の手法により形成される。
【0059】
次に、本実施形態に係る固体撮像素子2の製造方法について、
図4を参照しながら詳しく説明する。
図4は、本実施形態に係る固体撮像素子2の製造工程を示す図である。本実施形態に係る固体撮像素子2の製造方法は、第1アモルファスSe膜形成工程と、第2アモルファスSe膜形成工程と、接合工程と、結晶化工程と、を有する。
【0060】
先ず、
図4の(a)に示すように第1アモルファスSe膜形成工程は、第1実施形態の第1アモルファスSe膜形成工程と同様である。
【0061】
一方、
図4の(b)に示すように第2アモルファスSe膜形成工程では、先ず、厚さ100μm〜1000μmの透明な金属酸化物基板24上に、例えばスパッタ法により各10〜200nmの膜厚を有するTi層とAu層とを順に成膜し、Au/Ti膜26を形成する。また、Au/Ti膜26を形成した金属酸化物基板24上に、必要に応じて、例えば真空蒸着法又はスパッタ法により膜厚5nm〜200nmのITO膜25を成膜する。
次いで、Au/Ti膜26及びITO膜25を形成した側とは反対側の金属酸化物基板24上に、例えば真空蒸着法により膜厚10nm〜500nmの第2アモルファスSe膜23bを成膜する。
【0062】
次いで、
図4の(c)に示すように接合工程では、信号読み出し回路基板21上に形成した第1アモルファスSe膜23aと、金属酸化物基板24上に形成した第2アモルファスSe膜23bと、を加圧接合する。加圧接合の条件は、第1実施形態に係る固体撮像素子1の製造方法における接合工程と同様である。
【0063】
次いで、
図4の(d)に示すように結晶化工程では、接合したアモルファスSe膜を結晶化させることにより結晶Se膜23を形成する。結晶化の条件は、第1実施形態に係る固体撮像素子1の製造方法における結晶化工程と同様である。
【0064】
以上により、本実施形態に係る固体撮像素子2が製造される。なお、
図4の(d)に示すように、信号読み出し回路基板21に設けられている図示しない下部電極とAu/Ti膜26には、電源27が接続される。
【0065】
以上説明した本実施形態に係る固体撮像素子2及びその製造方法によれば、第1実施形態と同様の効果が奏される。特に、金属酸化物膜14の代わりに金属酸化物基板24を用いることにより、感度をより向上させることができる。
【0066】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例】
【0067】
[実施例1]
上述の第1実施形態に係る固体撮像素子1を製造した。製造手順は、上述の第1実施形態に係る固体撮像素子1の製造手順に従った。
具体的には、先ず、信号読み出し回路基板上に、真空蒸着により膜厚0.01nmのTe膜を成膜した。次いで、該Te膜上に、真空蒸着により膜厚250nmの第1アモルファスSe膜を成膜した。
【0068】
一方、透明基板上に、真空蒸着又はスパッタ法により膜厚100nmのITO膜を成膜した。次いで、該ITO膜上に、PLD(パルスレーザー蒸着)法により膜厚1μmのGa
2O
3膜を成膜した。成膜は、加熱温度を600℃とし、O
2分圧を1×10
−3Paとして実施した。
次いで、該Ga
2O
3膜上に、真空蒸着法により膜厚250nmの第2アモルファスSe膜を成膜した。
【0069】
次いで、信号読み出し回路基板上に形成した第1アモルファスSe膜と、透明基板上に形成した第2アモルファスSe膜と、を加圧接合した。具体的には、これらアモルファスSe膜同士を接触させた後、2MPaの圧力で加圧接合した。
【0070】
次いで、接合したアモルファスSe膜を結晶化させて結晶Se膜を形成した。具体的には、これらの接合体を、200℃に設定したホットプレート上に載置することで、アモルファスSeを結晶化させて結晶Se膜を形成した。
以上により、上述の第1実施形態に係る固体撮像素子1を得た。
【0071】
[実施例2]
上述の第2実施形態に係る固体撮像素子2を製造した。製造手順は、上述の第2実施形態に係る固体撮像素子2の製造手順に従った。
具体的には、先ず、信号読み出し回路基板上に、真空蒸着により膜厚0.01nmのTe膜を成膜した。次いで、該Te膜上に、真空蒸着により膜厚250nmの第1アモルファスSe膜を成膜した。
【0072】
一方、厚さ500μmの透明なGa
2O
3単結晶基板上に、スパッタ法により各100nmの膜厚を有するTi層とAu層とを順に成膜したAu/Ti膜を形成した。また、Au/Ti膜を形成したGa
2O
3単結晶基板上に、真空蒸着法により膜厚100nmのITO膜を成膜した。
次いで、Au/Ti膜及びITO膜を形成した側とは反対側のGa
2O
3単結晶基板上に、真空蒸着法により膜厚250nmの第2アモルファスSe膜を成膜した。
【0073】
次いで、信号読み出し回路基板上に形成した第1アモルファスSe膜と、Ga
2O
3単結晶基板上に形成した第2アモルファスSe膜と、を加圧接合した。加圧接合の条件は、実施例1と同様とした。
【0074】
次いで、接合したアモルファスSe膜を結晶化させることにより結晶Se膜を形成した。結晶化の条件は、実施例1と同様とした。
以上により、上述の第2実施形態に係る固体撮像素子2を得た。
【0075】
[評価]
実施例1及び実施例2で得た各固体撮像素子について、感度の評価を実施した。
比較例として、上述の
図6に示した構造の固体撮像素子において、下層側のp型半導体膜として結晶Se膜を用い、上層側のn型半導体膜として低温の350℃で成膜したGa
2O
3膜を用いたものを作製して評価した。その結果、実施例1及び実施例2の固体撮像素子におけるGa
2O
3膜は、比較例の固体撮像素子におけるGa
2O
3膜と比べて、緑色に相当する550nmにおける透過率が約9.5倍高いことが分かった。従って、実施例1及び実施例2の固体撮像素子は、キャリアの増倍作用も加わることで、比較例の固体撮像素子よりも10倍以上高い感度を有することが確認された。