特許第6800019号(P6800019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800019
(24)【登録日】2020年11月26日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】メチルメタクリレートの生物生産
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20201207BHJP
   C12P 7/62 20060101ALI20201207BHJP
   C12P 7/42 20060101ALI20201207BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20201207BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20201207BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20201207BHJP
【FI】
   C12N1/19
   C12P7/62
   C12P7/42
   !C12N15/53
   !C12N15/54
   !C12N15/55
【請求項の数】8
【全頁数】104
(21)【出願番号】特願2016-568060(P2016-568060)
(86)(22)【出願日】2016年10月21日
(86)【国際出願番号】JP2016081345
(87)【国際公開番号】WO2017069267
(87)【国際公開日】20170427
【審査請求日】2019年7月5日
(31)【優先権主張番号】62/245,980
(32)【優先日】2015年10月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】オマリー,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ソロモン,ケビン
(72)【発明者】
【氏名】水無 渉
(72)【発明者】
【氏名】湯 不二夫
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−519561(JP,A)
【文献】 特表2010−528597(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/038214(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/038216(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0110693(US,A1)
【文献】 The Journal of Biological Chemistry,2004年,vol.279,no.16,p.16526-16534
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/19
C12P 7/42
C12P 7/62
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシルCoAデヒドロゲナーゼコードする遺伝子が導入された真核微生物であって、
アシルCoAデヒドロゲナーゼが、イソブチリルCoAデヒドロゲナーゼであり、
真核微生物が酵母であり、かつ
アシルCoAデヒドロゲナーゼがミトコンドリアにおいて機能を発現するように、アシルCoAデヒドロゲナーゼ遺伝子にシグナル配列が付加されている、前記真核微生物
【請求項2】
アシルCoAデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が、シュードモナス(Pseudomonas)属、バシラス(Bacillus)属、スフィンゴバクテリウム(Sphingobacterium)属、コマモナス(Comamonas)属、ブレバンディモナス(Brevundimonas)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、オクロバクテリウム(Ochrobactrum)属、ペドバクター(Pedobacter)属、パエニバシラス(Paenibacillus)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、シュワネラ(Shewanella)属、リストネラ(Listonella)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、メソリゾビウム(Mesorhizobium)属、リゾビウム(Rhizobium)属、パラコッカス(Paracoccus)属、キサントバクター(Xanthobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ゲオバシラス(Geobacillus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、カンディダ(Candida)属又はアスペルギルス(Aspergillus)属から選ばれる1種に由来する遺伝子である、請求項1記載の真核微生物。
【請求項3】
シグナル配列が配列番号1で示される配列を含む、請求項1または2に記載の真核微生物。
【請求項4】
さらに、分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、エノイルCoAヒドラターゼをコードする遺伝子チオエステラーゼをコードする遺伝子、及びアルコールアシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子から選ばれる少なくとも一種の外因性遺伝子を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の真核微生物。
【請求項5】
さらに、分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、及びアルコールアシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の真核微生物。
【請求項6】
さらに、分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、エノイルCoAヒドラターゼをコードする遺伝子、及びチオエステラーゼをコードする遺伝子を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の真核微生物。
【請求項7】
請求項4または6に記載の真核微生物を用いて、有機原料またはバイオマスから3−ヒドロキシイソ酪酸を製造する方法。
【請求項8】
請求項4または5に記載の真核微生物を用いて、有機原料またはバイオマスからメタクリル酸エステルを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、米国仮出願62/245980号(2015年10月23日出願)に基づく優先権を主張しており、この内容は本明細書に参照として取り込まれる。
[技術分野]
本発明は、アシルCoAデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入された組換え真核微生物、及び前記微生物を用いたメタクリル酸エステル及びその前駆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルメタクリレート(MMA)は、アクリルポリマーの製造において重要な原料である。MMAは、伝統的には環境に影響を与える危険原料(non-sustainable hazardous raw materials)、例えばアセトン及びシアン化水素から製造される。従って、環境にやさしい(sustainable)、無毒性の(non-toxic)製造方法に依存するMMA製造方法が、当該分野で必要とされている。
【0003】
そのような製造方法として、天然に存在する微生物を利用し、糖などの天然物からメタクリル酸の前駆体となる2−ヒドロキシイソ酪酸及び3−ヒドロキシイソ酪酸を生産する方法が提案されている(特許文献1、2及び非特許文献1参照)。しかし、これらの方法は、前駆体を脱水してメタクリル酸を生成する工程を依然として化学的な手法に依存するものである。
【0004】
また、複数の酵素遺伝子を導入した、天然に存在しない組換え微生物を用いてグルコースからメタクリル酸を生成する方法が提案されているが、これらは既知の酵素反応及びそれから類推される仮想の酵素反応を組み合わせたものであり、実証されたものではない(特許文献3〜5参照)。特に特許文献5には、一般的なエステル生成活性を有する多種の生体触媒(加水分解酵素、ワックスエステル合成酵素、アルコールアセチルトランスフェラーゼ)が例示されているが、当該生体触媒がメタクリル酸エステルの合成活性を有することは示されていない。
【0005】
発明者らは、これまで生体触媒によるメタクリリルCoAからのメタクリル酸エステルの製造方法(特許文献6)、及びメタクリル酸生産能を有する微生物にAATの作用を追加することにより、アルコール存在下でバイオマスからメタクリル酸エステルを製造する方法(特許文献7)を報告している。また、デヒドラターゼ遺伝子を導入した大腸菌を用いて3−ヒドロキシイソブチリルCoAからメタクリリルCoAを合成する方法(特許文献8)を報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2007/110394号
【特許文献2】WO2008/145737号
【特許文献3】WO2009/135074号
【特許文献4】WO2011/031897号
【特許文献5】WO2012/135789号
【特許文献6】WO2014/038214号
【特許文献7】WO2014/038216号
【特許文献8】WO2015/015784号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Green Chemistry, 2012, 14, 1942−1948
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、MMAなどのメタクリル酸エステルの新規な生物学的製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
大腸菌等の工業的に利用されている宿主では、外来性のメタクリリルCoA(MAA−CoA)生合成に関わる遺伝子を導入してもMAA−CoAを生成しない。これはMAA−CoAの生合成に関わる酵素のひとつであるアシルCoAデヒドロゲナーゼの電子受容体が大腸菌には存在しないことによると推定された。発明者らは、酵母細胞に外来性のアシルCoAデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入することで、MAA−CoAの生物学的製造に成功した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(10)に関する。
(1)アシルCoAデヒドロゲナーゼ(イソブチリルCoAデヒドロゲナーゼ)をコードする遺伝子が導入された真核微生物。
(2)アシルCoAデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が、シュードモナス(Pseudomonas)属、バシラス(Bacillus)属、スフィンゴバクテリウム(Sphingobacterium)属、コマモナス(Comamonas)属、ブレバンディモナス(Brevundimonas)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、オクロバクテリウム(Ochrobactrum)属、ペドバクター(Pedobacter)属、パエニバシラス(Paenibacillus)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、シュワネラ(Shewanella)属、リストネラ(Listonella)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、メソリゾビウム(Mesorhizobium)属、リゾビウム(Rhizobium)属、パラコッカス(Paracoccus)属、キサントバクター(Xanthobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ゲオバシラス(Geobacillus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、カンディダ(Candida)属又はアスペルギルス(Aspergillus)属から選ばれる少なくとも1種に由来する遺伝子である、(1)記載の真核微生物。
(3)アシルCoAデヒドロゲナーゼがミトコンドリアにて機能を発現するように、シグナル配列を付加されたアシルCoAデヒドロゲナーゼ遺伝子が導入された(1)又は(2)に記載の真核微生物。
(4)シグナル配列が配列番号1で示される配列を含む、(3)に記載の真核微生物。
(5)真核微生物が酵母である、(1)〜(4)のいずれかに記載の真核微生物。
(6)さらに、分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、エノイルCoAヒドラターゼをコードする遺伝子、ヒドロキシアシルCoAヒドロラーゼをコードする遺伝子、チオエステラーゼをコードする遺伝子、及びアルコールアシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子から選ばれる少なくとも一種の外因性遺伝子を含む、(1)〜(4)のいずれかに記載の真核微生物。
(7)(6)に記載の真核微生物を用いて、バリンからメタクリリルCoAを製造する方法。
(8)(6)に記載の真核微生物を用いて、バリンから3−ヒドロキシイソブチリルCoAを製造する方法。
(9)(6)に記載の真核微生物を用いて、バリンから3−ヒドロキシイソ酪酸を製造する方法。
(10)(6)に記載の真核微生物を用いて、バリンからメタクリル酸エステルを製造する方法。
【0011】
本願では、MMA又はMMA前駆体の製造を可能にする、アシルCoAデヒドロゲナーゼ遺伝子を含む一つ以上の酵素遺伝子が真核微生物に導入された組換え微生物によるMMA及びMMA前駆体の生物学的製造のための新規な方法が提供される。ここで、MMA又はMMA前駆体の製造を可能にするアシルCoAデヒドロゲナーゼ遺伝子を含む一つ以上の酵素遺伝子が微生物に導入されるが、任意には、一つ以上の酵素がミトコンドリアに標的化される。酵素のミトコンドリア標的化は、MMA又はMMA前駆体がミトコンドリアのエネルギー的、酵素的及びその他の好適な特徴を生かし、収率の高い生合成プロセスを可能にする。本発明の一実施形態において、バリン生合成及び分解に関わる様々な酵素遺伝子が、宿主真核微生物に導入され、一つ以上の酵素が任意にはミトコンドリアに標的化され、ここで一連の反応を通じてこれらがMMA前駆体又はMMAをバリンから生産される。本発明の目的は、宿主の形質転換用の新規な遺伝子ベクター、MMA前駆体又はMMAの合成を可能にする酵素を発現する新規な真核微生物菌株及び本発明の組換え微生物により生産されるMMAを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、メタクリリルCoA(MAA−CoA)などのメタクリル酸エステル前駆体の生物学的製造が提供される。MAA前駆体はMAAをはじめとするメタクリル酸エステルに生物学的に変換され、メタクリル酸エステルのバイオ一貫製造が可能になる。本発明の方法は、バイオマスなどの有機原料を用いた生物学的生産であるため、環境を破壊することなく無毒にメタクリル酸エステルを製造することができる。また、得られるメタクリル酸エステルは水に不溶性であるため、発酵生産物から容易に回収・精製でき、メタクリル酸エステルの低コスト製造を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、バリンからMMA前駆体又はMMAを生産するための合成経路の概要である。
図2図2は、実施例1に記載された発明の実施形態における合成経路及び実験結果を示す。ACD活性の比色分析。反応の進行は600nmにおける吸収の減少率でリアルタイムにモニターした。
図3図3は、実施例1に記載された発明の実施形態における合成経路及び実験結果を示す。縦軸は、細胞質(MMA)とミトコンドリア(mtMMA)における48時間発現/誘導後のS.セレビシエで発現させた組換えACD(acd1)の活性を示す。
図4図4は、実施例1に記載された発明の実施形態における合成経路及び実験結果を示す。BCKAD活性の分光学的分析。反応の進行は340nmにおける吸収の減少率でリアルタイムにモニターした。
図5図5は、実施例1に記載された発明の実施形態における合成経路及び実験結果を示す。縦軸は、細胞質(MMA)とミトコンドリア(mtMMA)における48時間発現/誘導後のS.セレビシエで発現させた組換えBDKAD(bkdA1、bkdA2、IpdV、bkdB)の活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1部:MMA及びMMA前駆体を生産することができる微生物
本発明は、様々な生合成経路によりメチルメタクリレート(MMA)などのメタクリル酸エステル又はその前駆体であるメタクリリルCoA(MAA−CoA)及び3−ヒドロキシイソ酪酸(3−HIB)等を生産する、組換え微生物を含む。メタクリル酸エステル及びその前駆体(例えば、MMA及びMMA前駆体)は、本願において“最終産物”と総称される。上記生合成経路は、下記に記載されるように、酵素機能(enzyme capabilities)の適切なセットを保有するように組換え微生物ではたらく数多くの酵素工程を含む。
【0015】
本発明において、「メタクリル酸」(IUPAC名:2−メチル−2−プロペン酸)は、その任意の塩あるいはイオン化した形態をも含む。メタクリル酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩などが挙げられる。
【0016】
「メタクリル酸エステル」とは、式1で示される化合物である。式1において、Rは直鎖あるいは分岐の炭素数1〜20の炭化水素基を表す。炭化水素基は、飽和又は不飽和の非環式であってもよく、飽和又は不飽和の環式であってもよい。好ましくは直鎖あるいは分岐鎖の炭素数1〜10の無置換のアルキル基、アラルキル基又はアリール基である。特に好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2−ヘキシル基、ジメチルブチル基、エチルブチル基、ヘプチル基、オクチル基及び2−エチルヘキシル基の炭素数1〜8のアルキル基、ベンジル基又はフェニル基である。
CH=C(CH)COO−R (式1)
【0017】
「メタクリル酸エステル前駆体」としては、メタクリリルCoA、3−ヒドロキシイソブチリルCoA、3−ヒドロキシイソ酪酸、イソブチリルCoAを挙げることができる。
【0018】
組換え微生物
本発明は、最終産物であるメタクリル酸エステルやその前駆体を生産する様々な組換え真核微生物を含む。あるいは、本発明の組換え真核微生物は、メタクリル酸エステルを直接生産する真核微生物を含み得る。
【0019】
微生物(宿主細胞)
本発明の組換え真核微生物は、下記に記載された様々な酵素機能に対する宿主として提供するための、“宿主”又は“宿主細胞”と称される細胞を含む。宿主細胞は、任意の種であり得る。宿主系の例には、酵母、糸状菌、藻類等を含む。宿主として提供され得る種の例には、サッカロマイセス・セレビシエ(Sacchromyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)などが含まれる。
【0020】
好ましい微生物(宿主細胞)は酵母である。酵母としては、たとえば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロマイセス(Saccharomyces)属菌、シゾサッカロマイセス(Shizosaccharomyces)属菌、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などのピキア(Pichia)属菌、キャンディダ・トロピカリス(Candidatropicalis)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lypolitica)、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)、キャンディダ・サケ(Candida sake)などのキャンディダ(Candida)属菌、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属菌、ウィリオプシス(Williopsis)属菌、デバリオマイセス(Debaryomyces)属菌、ガラクトマイセス(Galactomyces)属菌、トルラスポラ(Torulaspora)属菌、ロドトルラ(Rhodotorula)属菌、ヤロウィア(Yarrowia)属菌、ジゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属菌などが挙げられる。これらのなかでも、サッカロマイセス属菌が好ましく、サッカロマイセス・セレビシエがより好ましい。
【0021】
好ましい宿主種は、最終産物は大規模生産で合成でき、低費用で回収でき、それらの最終産物が生産された細胞から分離できるように、細胞培養が可能であるか、又は生物生産に適合しなければならない。
【0022】
形質転換方法
本発明の宿主細胞は、任意の個数の異なる酵素タンパク質、調節配列及びその他の遺伝子及び遺伝子産物を発現するように形質転換され得る。形質転換は、選別された宿主微生物で利用可能な当該分野で公知の任意の手段により実行しうる。例えば酵母では、アルカリ性カチオン性形質転換プロトコル、例えば一本鎖の担体DNA及びポリエチレングリコールと組み合せたリチウムアセテートを用いることができる。宿主細胞形質転換のために採用できるその他の形質転換技法の例としては、当該分野で公知の化学的形質転換方法(例えば、DEAE−デキストラン、ポリエチレンイミン、デンドリマー、ポリブレン、カルシウムホスフェート、リポフェクチン、DOTOP、リポフェクタミン又はCTAB/DOPE、DOTMA);又は物理的形質転換方法(例えば、注入、遺伝子衝撃、又はレーザー補助形質誘導、微細針、遺伝子銃など)が挙げられる。本発明の組換え微生物は一過性に形質転換されてもよいし、安定的に形質転換されてもよい。
【0023】
遺伝子構築物
宿主微生物に導入される酵素遺伝子及び/又は付随する調節配列は様々な方法で配置できる。宿主微生物における外来遺伝子の異種発現は、当該分野で公知のとおり、該当遺伝子が宿主で適切に転写及び翻訳されるようにコドン最適化及びその他の配列改変がなされる必要があることが理解される。また、局在シグナル、プロモータ及び酵素遺伝子配列と組み合わせられ得るその他の要素が、当該分野で公知のとおり、宿主微生物で有効に選別及び変更されなければならない。
【0024】
宿主微生物に導入される酵素遺伝子は、一般的にプロモータ配列の下流に連結される。一部の実施形態では、一定に高い水準の発現を保障するために、構成的プロモータが酵素遺伝子と共に用いられる。構成的プロモータの例としては、酵母に対するTEF1及びGDSプロモータ等が含まれる。あるいは、酵素遺伝子は、誘導可能なプロモータの制御下に配置してもよい。例えば、一部の実施形態では、最終産物製造において各酵素ステップを時系列的に作動させるために、宿主微生物で働く既知の誘導性プロモーターの制御下に置くことができる。例えば、GAL10及びGAL1ガラクトース誘導性プロモータが酵母で使用され得る。
【0025】
局在シグナル
また、宿主微生物に導入された酵素遺伝子は、特定の細胞区画への局在を指令するトラフィッキングシグナルを含み得る。例えば、酵素をミトコンドリア区画、細胞膜又は葉緑体に局在させるシグナルが、酵素タンパク質のコーディング遺伝子配列に連結され得る。本発明の範囲は、宿主に導入された一つ以上の酵素がミトコンドリア、例えばミトコンドリアのマトリックスに標的化されるように遺伝子操作された宿主を含む。酵母でこのような標的化を達成できるシグナル配列の例には、酵母ミトコンドリアATPaseのサブユニット9(Su9)のプレ配列(配列番号1)又は酵母シトクロムCオキシダーゼのサブユニットIV(Cox1)のプレ配列(文献[Avalos et al., Compartmentalization of metabolic pathways in yeast mitochondria improves the production of branched-chain alcohols. Nature Biotechnol. 2013, pr;31 (4 ):335-41.2013,pr;31(4):335−41]が含まれる。また、ミトコンドリア標的化配列の例には、ヒトNADHデヒドロゲナーゼ(ユビキノン)フラビンタンパク質2(NDUFV2)のプレ配列(残基19−40);インフルエンザウイルスタンパク質(PB2)のプレ配列(残基1−20)、酵母トリプトファニルtRNA−シンテターゼ(MSW)のプレ配列及び文献[Omura, "Mitochondria-Targeting Sequence, a Multi-Role Sorting Sequence Recognized at All Steps of Protein Import into Mitochondria," Journal of Biochemistry. 1998, Vol. 123 Issue 6, p1010-1016. 7p]に記載された配列が含まれる。一部の実施形態において、酵素の遺伝子は、細胞質において機能し、シグナル配列は用いられない。他の実施形態において、一つ以上の発現された酵素タンパク質は、細胞から分泌されるように設計され、このようなタンパク質をコードする遺伝子配列は、翻訳されたタンパク質が細胞外に向かうように分泌シグナルに連結されている。
【0026】
一部の実施形態において、終結配列が用いられる。例えば、酵母で、CYCT転写終結配列は、酵母細胞における適切な発現を強化する酵素タンパク質コーディング配列の下流に連結され得る。使用され得るその他の調節エレメントの例には大腸菌由来のrrnB(T1)エレメント、酵母由来のAdhTエレメント、及び酵母由来のTEF1エレメントが含まれる。
【0027】
下記に記載された酵素機能は、様々な核酸構築物を用いた宿主微生物の形質転換により導入され得ることが理解される。本発明の核酸構築物の例には、プラスミド及び直鎖状核酸が含まれ、これはクローニングベクター、発現カセット及び当該分野で公知のその他のDNA構築物を含み得る。
【0028】
二つ以上の酵素遺伝子の発現のために形質転換される、与えられた宿主微生物に対して、このような二つ以上の酵素遺伝子は、単一核酸構築物として微生物に導入され得るか、又は別々の核酸構築物で導入され得る。二つ以上の別々の核酸構築物が用いられる場合、微生物の形質転換は、二つ以上の核酸構築物を同時に形質転換する方法、又は二つ以上の核酸構築物を連続的に形質転換する方法が取られる。
【0029】
宿主微生物に導入される遺伝子は、異なるプロモータの制御下にあり得ることが理解される。例えば、酵素の相対的な割合が調整されなければならない場合、一部は弱いプロモータの制御下にあり、一部はさらに強力なプロモータの制御下にあるようにして、細胞内で酵素活性の所望のバランスをなすことができる。同様に、酵素活性は宿主微生物に導入される様々な酵素遺伝子のコピーの数を多様化して、バランスを取ることができる。例えば、遺伝子は、単一コピーとして、又は二、三、四又はそれ以上のコピーとして、例えば単一核酸構築物上の末端−対−末端コピーとして導入され得る。
【0030】
遺伝子等価物
本願では、様々な酵素遺伝子、タンパク質及びその他の遺伝性/タンパク性因子が用いられる。当業者は、本願に列挙又は言及された遺伝子及びタンパク質配列の代わりに、それらの等価物を用いることができる。例えば、核酸配列変異体及びペプチド配列変異体を含む、言及された配列の変異体が使用され得る。
例えば、1又は数個、たとえば1〜10個、1〜6個、1〜4個、1〜3個、1又は2個の置換、付加、挿入及び欠失を含むヌクレオチド及び/又はアミノ酸置換が列挙された配列に導入され得る。
【0031】
あるいは、言及された配列と60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の配列同一性を有する核酸配列又はアミノ酸配列を有する遺伝子やタンパク質が含まれる。
【0032】
本来配列のこのような変更は、ニュートラルでも、又は標的遺伝子の所望の酵素活性を変更(例えば、強化)するものであってもよい。また、遺伝子等価物には、その他の種由来の列挙された配列のオルトログ、パラログ及びホモログが含まれる。一実施形態において、本発明の等価遺伝子は、野生型類型配列及び変異体の間に90%以上の配列同一性又は類似性を有した遺伝子を含む。なお、列挙された遺伝子配列の機能的等価物が使用され得るが、そのような機能的等価物は酵素又は調節シグナルと同一の酵素機能を有するものであって、必ずしも配列類似性、同一性又は相同性を有するものではない。
【0033】
酵素機能
本発明の組換え微生物は、特定の“酵素機能”を含むものと本願に言及される。特定の酵素機能を有することは、微生物が特定の反応物から特定の産物を生産する能力を有することを意味し、このような能力は反応物を生成物に変換するように指令される一つ以上の酵素の発現により可能になり得る。
【0034】
一部の実施形態において、微生物により保有される一つ以上の酵素機能は、このような酵素機能に対する(例えば下記に記載されたような酵素機能2を含むマルチマーBCKAD酵素のような)必須的なタンパク質又は多重タンパク質を発現するように形質転換された微生物の結果である。一部の実施形態において、本発明の組換え微生物により保有される酵素機能全部が、遺伝子形質転換による必須タンパク質の導入により付与される。一部の実施形態において、本発明の組換え微生物により保有される一つ以上の酵素機能は、本来の酵素機能を含み、即ち、宿主微生物の本来の酵素機能は、導入される遺伝子による補充なく、活性を付与することができる。例えば、一部の微生物で、酵素機能2は、本来のBCKAD遺伝子の作用を通じて微生物により保有される。
【0035】
一実施形態において、形質転換により導入される一つ以上のタンパク質が、細胞区画又は細胞小器官に標的化される。一実施形態において、微生物への形質転換により導入されるタンパク質の一つ以上又は全部は、ミトコンドリアに標的化される。一実施形態において、ミトコンドリア−標的化タンパク質は、ミトコンドリアマトリックスに標的化される。一実施形態において、宿主細胞は酵母細胞であり、ミトコンドリア−標的化タンパク質は、Su9又はCox1ミトコンドリア標的化配列を含む標的化部分を含む。
【0036】
最終産物の形成のための経路は、図1に図示されるように大幅に重複する。
【0037】
例えば、三つの酵素ステップがバリンをMAA−CoAに変換させ、これは生体外で回収及び追加加工されてMMAを提供することができる。あるいは、MAA−CoA生産微生物は、MAA−CoAが3−HIB又はMMAに直接変換されるようにする追加的な酵素機能を含み得る。微生物により形成された3−HIBは、生体外で回収及び加工され、MMAを形成することができる。
【0038】
MMA及び3−HIBの効率的形成は、自然界の微生物では認められず、組換え微生物におけるこれらの合成経路は、広範囲な微生物で共通的なバリン合成及び異化経路を基盤とする。従って、所望の酵素機能を付与するために当業者が利用可能な様々な酵素セットがある。MMA及び3−HIBの形成を可能にする特異的酵素機能は、以後に詳細に記載される。
【0039】
酵素機能1:バリンから2−オキソイソ吉草酸の生産
バリンのMAA前駆体への変換における第1の酵素ステップは、バリンから2−オキソイソ吉草酸の形成である。これは分枝鎖アミノトランスフェラーゼ酵素(BCAT)の作用により実行され得る。一部の場合、内因性BCAT活性又は等価の酵素活性が存在し、MMA前駆体の合成のためにバリンから適切な2−オキソイソ吉草酸を生産するのに十分である。あるいは、宿主微生物は、一つ以上のBCAT又は同等な遺伝子の発現のために形質変換され得る。BCAT遺伝子の例には、サッカロマイセス・セレビシエのBAT1及びBAT2遺伝子が含まれる。使用され得る追加的なBCAT遺伝子には、表1に収録されたものが含まれる。
【0040】
【表1】
【0041】
酵素機能2:2−オキソイソ吉草酸のイソブチリルCoAへの脱カルボキシル化
バリンからMAA前駆体の生物生産における第2のステップは、2−オキソイソ吉草酸のイソブチリルCoAへの脱カルボキシル化である。このようなステップは、分枝鎖α−ケト酸デヒドロゲナーゼ(BCKAD)複合体により実行され得る。BCKAD複合体は、4つのサブユニット、E1サブユニット、E2サブユニット、E3サブユニット及びジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼを含む。
【0042】
一部の実施形態において、2−オキソイソ吉草酸をイソブチリルCoAに変換するのに、十分なBCKAD又は同等な活性が宿主微生物に存在する。例えば、実施例1に記載された通り、遺伝子操作された酵母細胞はBCKAD遺伝子の導入なしでも十分なMMA前駆体を生産し、十分な本来の活性が宿主に存在することを示している。
【0043】
あるいは、宿主は、2−オキソイソ吉草酸のイソブチリルCoAへの脱カルボキシル化を行う1以上の酵素を発現するように形質転換され得る。例えば、宿主微生物は、BCKAD複合体の4つの内容物を発現するように遺伝子操作され得る。例えば、シュードモナス・アエルギノーザBCKAD複合体をコードする4つの遺伝子が本来のBCKAD活性を付与するか、又は増幅するために宿主に導入され得る。これには下記のものが含まれる:E1をコードするbkdA1遺伝子(Genbankアクセッション番号NP250937)、E3をコードするbkdA2遺伝子(Genbankアクセッション番号NP_250938)、E2をコードするbkdB遺伝子(Genbankアクセッション番号NP250939)及びジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼをコードするIpdV遺伝子(Genbankアクセッション番号NP250940)。あるいは、宿主は、表2から選択されるbkdA1遺伝子、表3から選択されるbkdA2遺伝子、表4から選択されるbkdB遺伝子、及び表5から選択されるIpdV遺伝子を発現するように形質転換され得る。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】
酵素機能3:イソブチリルCoAのメタクリリルCoAへの酸化
MMA前駆体生物生産プロセスにおける第3のステップは、イソブチリルCoAのメタクリリルCoA(MAA−CoA)への酸化である。このようなステップは適合した酵素、例えばイソブチリルCoAデヒドロゲナーゼにより実行され得る。
【0049】
宿主微生物は、一つ以上のイソブチリルCoAデヒドロゲナーゼ又は同等な酵素を発現するように形質転換され得る。例えば、宿主微生物は、シュードモナス・アエルギノーザACD1遺伝子(Genbankアクセッション番号NP_249437)又は同等な遺伝子を発現するように遺伝子操作され得る。使用され得るその他のイソブチリルCoAデヒドロゲナーゼは、表6に収録されている。
【0050】
【表6】
【0051】
酵素機能4:MAA−CoAから3−ヒドロキシイソブチリルCoA
バリンから3−HIBの生物生産で、一つのステップは、MAA−CoAから3−ヒドロキシイソブチリルCoAへの変換である。これは、適合した酵素、例えばエノイルCoAヒドラターゼにより実行され得る。
【0052】
宿主微生物は、一つ以上のエノイルCoAヒドラターゼ(ECH)又は同等な酵素を発現するように形質転換され得る。例えば、宿主微生物は、シュードモナス・アエルギノーザechA遺伝子(Genbankアクセッション番号NP_249436)又は同等な遺伝子を発現するように遺伝子操作され得る。あるいは、表6から選択されるECH遺伝子が使用され得る。
【0053】
酵素機能5:3−ヒドロキシイソブチリルCoAから3−HIB
バリンから3−HIBの生物生産で、最終酵素ステップは、3−ヒドロキシイソブチリルからCoAを除去することによる3−ヒドロキシイソブチリルCoAから3−HIBへの変換である。これは適合した酵素、例えばチオエステラーゼにより実行され得る。
【0054】
宿主微生物は、3−ヒドロキシイソブチリルCoAからCoAを除去する一つ以上の酵素を発現するように形質転換され得る。例えば、宿主微生物は、CoAを3−ヒドロキシイソブチリルCoAから切断する一つ以上のチオエステラーゼ酵素(HCH遺伝子)を発現するように形質転換され得る。例えば、宿主微生物は、シュードモナス・アエルギノーザhchA遺伝子(Genbankアクセッション番号NP_249435)又は同等な遺伝子を発現するように遺伝子操作され得る。あるいは、表7から選択されるHCH遺伝子が使用され得る。
【0055】
【表7】
【0056】
酵素機能6:MAA−CoAからMMA
酵素機能6は、CoAをMAA−CoAから切断してMAA−CoAをMMAに変換する能力を含む。このような活性は、アルコールアシルトランスフェラーゼ(AAT)酵素により付与され得る。一実施形態において、AAT酵素はマルスプミラ(Malus pumila)AAT遺伝子によりコーディングされる。一実施形態において、宿主微生物は、酵母である。他の実施形態において、宿主微生物は、酵母であり、AAT遺伝子は、酵母における発現にコドン−最適化されたマルスプミラAAT遺伝子、例えば配列番号2を含むAAT遺伝子である。あるいは、表8から選択されるAAT遺伝子が使用され得る。
【0057】
【表8】
【0058】
酵素機能
本発明において、上記した酵素(酵素をコードする遺伝子)の由来としては、シュードモナス(Pseudomonas)属、バシラス(Bacillus)属、スフィンゴバクテリウム(Sphingobacterium)属、コマモナス(Comamonas)属、ブレバンディモナス(Brevundimonas)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、オクロバクテリウム(Ochrobactrum)属、ペドバクター(Pedobacter)属、パエニバシラス(Paenibacillus)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、シュワネラ(Shewanella)属、リストネラ(Listonella)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、メソリゾビウム(Mesorhizobium)属、リゾビウム(Rhizobium)属、パラコッカス(Paracoccus)属、キサントバクター(Xanthobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ゲオバシラス(Geobacillus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、カンディダ(Candida)属又はアスペルギルス(Aspergillus)が挙げられる。なかでも、シュードモナス属及びロドコッカス属微生物が好ましい。
【0059】
シュードモナス属に分類される微生物として、例えば、シュードモナス エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス アガリシ(Pseudomonas agarici)、シュードモナス アルカリゲネス(Pseudomonas alcaligenes)、シュードモナス アミグダレ(Pseudomonas amygdale)、シュードモナス アングイリセプチカ(Pseudomonas anguiliseptica)、シュードモナス アンチミクロビカ(Pseudomonas antimicrobica)、シュードモナス アスプレニ(Pseudomonas aspleni)、シュードモナス オーランチアカ(Pseudomonas aurantiaca)、シュードモナス オーレオファシエンス(Pseudomonas aureofaciens)、シュードモナス アベラナエ(Pseudomonas avellanae)、シュードモナス アゾトフォルマンス(Pseudomonas azotoformans)、シュードモナス バレアリカ(Pseudomonas balearica)、シュードモナス ベイジェリンスキイ(Pseudomonas beijerinsckii)、シュードモナス ベテリ(Pseudomonas beteli)、シュードモナス ボレオポリス(Pseudomonas boreopolis)、シュードモナス カルボキシヒドロゲナ(Pseudomonas carboxyhydrogena)、シュードモナス カリカパパヤエ(Pseudomonas caricapapayae)、シュードモナス シコリイ(Pseudomonas cichorii)、シュードモナス シッシコラ(Pseudomonas cissicola)、シュードモナス シトロネロリス(Pseudomonas citronellolis)、シュードモナス コロナファシエンス(Pseudomonas coronafaciens)、シュードモナス コルガテ(Pseudomonas corrugate)、シュードモナス ドゥードロフィイ(Pseudomonas doudoroffii)、シュードモナス エキノイズス(Pseudomonas echinoids)、シュードモナス エロンガテ(Pseudomonas elongate)、シュードモナス フィクセレクタエ(Pseudomonas ficuserectae)、シュードモナス フラベッセンス(Pseudomonas flavescens)、シュードモナス フレクテンス(Pseudomonas flectens)、シュードモナス フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス フラギ(Pseudomonas fragi)、シュードモナス フルバ(Pseudomonas fulva)、シュードモナス フスコバギナエ(Pseudomonas fuscovaginae)、シュードモナス ゲリディコラ(Pseudomonas gelidicola)、シュードモナス ゲニクラタ(Pseudomonas geniculata)、シュードモナス グラテイ(Pseudomonas glathei)、シュードモナス ハロフィラ(Pseudomonas halophila)、シュードモナス ヒビシコラ(Pseudomonas hibiscicola)、シュードモナス フッチエンシス(Pseudomonas huttiensis)、シュードモナス イネルス(Pseudomonas iners)、シュードモナス ランセロタ(Pseudomonas lancelota)、シュードモナス レモイグネイ(Pseudomonas lemoignei)、シュードモナス ルンデンシス(Pseudomonas lundensis)、シュードモナス ルテオラ(Pseudomonas luteola)、シュードモナス マルギナリス(Pseudomonas marginalis)、シュードモナス メリアエ(Pseudomonas meliae)、シュードモナス メンドシナ(Pseudomonas mendocina)、シュードモナス ムシドレンス(Pseudomonas mucidolens)、シュードモナス モンテイリ(Pseudomonas monteilli)、シュードモナス ナウチカ(Pseudomonas nautica)、シュードモナス ニトロレデュセンス(Pseudomonas nitroreducens)、シュードモナス オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)、シュードモナス オリジハビタンス(Pseudomonas oryzihabitans)、シュードモナス パーツシノゲナ(Pseudomonas pertucinogena)、シュードモナス フェナジニウム(Pseudomonas phenazinium)、シュードモナス ピクトルム(Pseudomonas pictorum)、シュードモナス シュードアルカリゲネス(Pseudomonas pseudoalcaligenes)、シュードモナス プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス ピロシニア(Pseudomonas pyrrocinia)、シュードモナス レシノボランス(Pseudomonas resinovorans)、シュードモナス ローデシアエ(Pseudomonas rhodesiae)、シュードモナス サッカロフィラ(Pseudomonas saccharophila)、シュードモナス サバスタノイ(Pseudomonas savastanoi)、シュードモナス スピノサ(Pseudomonas spinosa)、シュードモナス スタニエリ(Pseudomonas stanieri)、シュードモナス ストラミナエ(Pseudomonas straminae)、シュードモナス スツッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス シンキサンタ(Pseudomonas synxantha)、シュードモナス シリンガエ(Pseudomonas syringae)、シュードモナス シジギイ(Pseudomonas syzygii)、シュードモナス タエロレンス(Pseudomonas taetrolens)、シュードモナス トラアシイ(Pseudomonas tolaasii)、シュードモナス ベロニイ(Pseudomonas veronii)、シュードモナス ビリディフラバ(Pseudomonas viridiflava)、シュードモナス ブルガリス(Pseudomonas vulgaris)、シュードモナス ウィスコンシエンシス(Pseudomonas wisconsinensis)等が挙げられる。
【0060】
ロドコッカス属に分類される微生物としては、例えば、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodocrous)、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス エクイ(Rhodococcus equi)、ロドコッカス オパカス(Rhodococcus opacus)、ロドコッカス ジョスティイ(Rhodococcus jostii)、 ロドコッカス ピリジノボランス(Rhodococcus pyridinovorans)、ロドコッカス ロドニ(Rhodococcus rhodnii)、ロドコッカス コラリヌス(Rhodococcus corallinus)、ロドコッカス ルブロペルチンクタス(Rhodococcus rubropertinctus)、ロドコッカス コプロフィラス(Rhodococcus coprophilus)、ロドコッカス グロベルルス(Rhodococcus globerulus)、ロドコッカス クロロフェノリカス(Rhodococcus chlorophenolicus)、ロドコッカス ルテウス(Rhodococcus luteus)、ロドコッカス アイシェンシス(Rhodococcus aichiensis)、ロドコッカス チュブエンシス(Rhodococcus chubuensis)、ロドコッカス マリス(Rhodococcus maris)、ロドコッカス ファシエンス(Rhodococcus fascines)等が挙げられる。
【0061】
酵素をコードする遺伝子は、上記した微生物細胞より常法にしたがいRNAを抽出し、NCBI等の公共のデータベース等に公開されている(当該微生物又は近縁種の)前記酵素のアミノ酸配列や遺伝子配列に基づいてプライマーを設計し、これを用いてPCRを行うことで、目的とする酵素をコードする遺伝子を単離・増幅することができる。
【0062】
メタクリリルCoA生産微生物
本発明は、バリンからMAA−CoAを生産することができる組換え微生物を含む。本発明のこのような組換え微生物は、上記のような酵素機能1、酵素機能2、酵素機能3を保有する微生物を含む。
【0063】
酵素は、細胞質で生産され得るか、又は任意のその他の細胞区画に標的化され得る。一実施形態において、形質転換により導入されてMAA−CoA生産微生物により発現される酵素がミトコンドリアに標的化される。一実施形態において、ミトコンドリア−標的化酵素は、ミトコンドリアマトリックスに標的化される。一実施形態において、ミトコンドリア−標的化タンパク質はSu9又はCox1プレ配列を含む標的化部分を含む。一実施形態において、組換え微生物は、酵母である。一実施形態において、酵母はサッカロマイセス・セレビシエである。
【0064】
一実施形態において、組換え微生物は、一つ以上のアシルCoAデヒドロゲナーゼ(イソブチリルCoAデヒドロゲナーゼ)を発現するように形質転換される。例えば、MAA−CoA生産微生物は、シュードモナス・アエルギノーザACD1遺伝子を発現するように形質転換される。他の実施形態において、MAA−CoA生産微生物は、2−オキソイソ吉草酸のイソブチリルCoAへの脱カルボキシラーゼを触媒する一つ以上の酵素を発現するように形質転換される。例えば、MAA−CoA生産微生物は、BCKAD複合体の構成要素のうち一つ、一部又は全部を発現するように形質転換される。他の実施形態において、本発明のMAA−CoA生産微生物は、バリンから2−オキソイソ吉草酸の生成を触媒する一つ以上の酵素、例えば酵母由来のBCAT1又はBCAT2遺伝子を発現するように形質転換された微生物である。
【0065】
3−HIB−生産微生物
本発明の範囲はバリンから(S)−3−ヒドロキシイソ酪酸(3−HIB)を生産するように遺伝子操作された宿主微生物を含む。3−HIBは、当該分野で公知となった様々な方法を用いてMMAに容易に変換され得るMMA前駆体である。
【0066】
本発明の3−HIB生産微生物は、酵素機能1、酵素機能2、酵素機能3、酵素機能4、及び酵素機能5を保有する微生物である。
【0067】
一実施形態において、本発明の3−HIB−生産微生物は、ECH遺伝子、例えばシュードモナス・アエルギノーザ由来のechA遺伝子を発現するように形質転換された宿主細胞である。他の実施形態において、本発明の3−HIB生産微生物は、3−ヒドロキシイソブチリルCoAからCoAを切断する一つ以上のHCH酵素を発現するように形質転換された宿主細胞である。例えば、3−HIB生産微生物は、シュードモナス・アエルギノーザ由来のhchA遺伝子を発現する微生物を含み得る。一実施形態において、組換え微生物は、酵母である。一実施形態において、酵母はサッカロマイセス・セレビシエである。一実施形態において、形質転換により導入されてMAA−CoA生産微生物により発現された酵素はミトコンドリアに標的化される。一実施形態において、ミトコンドリア−標的化酵素は、ミトコンドリアマトリックスに標的化される。一実施形態において、ミトコンドリア−標的化タンパク質は、Su9又はCox1マトリックス−標的化プレ配列を含む標的化部分を含む。
【0068】
MMA生産微生物
一実施形態において、本発明の組換え微生物は、MMAを生産することができる。本発明のMMA生産微生物は、酵素機能1、酵素機能2、酵素機能3、及び酵素機能6を保有する微生物を含む。一実施形態において、本発明のMMA生産微生物は、アルコールアシルトランスフェラーゼ(AAT)を発現するように、例えばリンゴ(Malus pumila)のAAT遺伝子を発現するように形質転換される。一実施形態において、AAT遺伝子は、配列番号2によりコードされる。一実施形態において、MMA生産微生物は、酵母である。一実施形態において、酵母はサッカロマイセス・セレビシエである。一実施形態において、ミトコンドリア−標的化酵素は、ミトコンドリアマトリックスに標的化される。一実施形態において、ミトコンドリア−標的化タンパク質は、Su9プレ配列を含む標的化部分を含む。
【0069】
追加的な遺伝子改変
上記の酵素機能の様々な組み合わせに加え、本発明の組換え微生物は、最終産物の形成促進のための遺伝子改変をさらに含み得る。例えば、最終産物の生物生産のための出発材料はバリンである。従って、一実施形態において、本発明の微生物は、野生型水準を超えて、バリンの形成を増強する一つ以上の酵素を発現するように遺伝子操作される。例えば、文献[Wada et al.,2008, Enhanced Valine Production in Corynebacterium glutamicum with Defective H+ -ATPase and C-Terminal Truncated Acetohydroxyacid Synthase,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 72 (11):2959-65, 2008; Hasegawa et aI., 2013, Engineering of Corynebacterium glutamicum for high-yield L-valine production under oxygen deprivation conditions, Appl Environ Microbiol, 79(4 ):1250-7; and Park et al.,2007, Metabolic engineering of Escherichia coli for the production of L-valine based on transcriptome analysis and in silico gene knockout simulation, PNAS 104 (19) 7799-7802]に記載された通り、様々な微生物でバリンの形成を増強するための様々な遺伝子改変が当該分野で公知となっている。バリンの形成を増強するために微生物に挿入された酵素又は調節遺伝子は、構成的プロモータ又は誘導プロモータの制御下にあり得る。
【0070】
一部の培養条件、例えば高度に通気させた酵母培養と同じ条件で、生合成経路、例えばエーリッヒ経路(Erlich pathway)反応がMMA最終形成物の形成と競合する。一部の実施形態において、本発明の組換え微生物は、競合する生合成経路をダウンレギュレーション又は抹消するためにさらに遺伝子操作される。例えば、一実施形態において、本発明の生物組換え微生物が酵素機能1乃至6のうち任意のものと競合する酵素をダウンレギュレーションするか、又は標的化するmiRNA、又はその他の配列を発現するように遺伝子操作される。例えば、一実施形態において、本発明の微生物は、エーリッヒ経路反応を減少させる酵素又は調節遺伝子を用いて遺伝子操作される。他の実施形態において、宿主種に共に導入される酵素又は調節遺伝子は、バリン異化、例えばスクシニルCoAを3−HIB CoAから形成する反応を阻害する遺伝子を含む。このような遺伝子は、誘導可能なプロモータの制御下にあるようになり、培養が増殖され生物生産モードに転換された後、ダウンレギュレーションが誘導されるようにすることができる。
【0071】
他の実施形態において、本発明の組換え微生物は、NADH又はFADHのような補助因子の再生産を強化する酵素又は調節配列を発現するようにさらに遺伝子操作される。例えば、一実施形態において、本発明の組換え微生物は、高い水準のアルコールデヒドロゲナーゼを発現するように形質転換され、NADPHから、BCKAD複合体の作用に必須的な補助因子であるNADH形成を促進する。同様に、FADH2からACDの作用で補助因子であるFADの再生産速度を増加させる遺伝子改変が導入され得る。補助因子の取扱技法の例は、文献[Wang et al., "Engineering of cofactor regeneration enhances (2S,3S)-2,3-butanediol production from diacetyl," Sci Rep. 2013;3:2643. doi: 10.1 038/srep02643; Nikel et ai., "Elimination of D-Iactate synthesis increases poly(3-hydroxybutyrate) and ethanol synthesis from glycerol and affects cofactor distribution in recombinant Escherichia coli," Appl Environ Microbiol. 2010 Nov;76 (22):7400-6; Tseng and Prather, "Controlled biosynthesis of odd-chain fuels and chemicals via engineered modular metabolic pathways," Proc Natl Acad Sci USA. 2012 Oct 30;109(44 ):17925-30; and Lopez de Felipe et ai., "Cofactor Engineering: a Novel Approach to Metabolic Engineering in Lactococcus /actis by Controlled Expression of NADH Oxidase," J Bacteriol. 1998 Aug; 180(15): 3804-3808]に記載されている。
【0072】
メタクリル酸エステル及びその前駆体の製造
本発明の範囲は上記の組換え微生物を含み、MMAなどの最終産物生産のための、このような組換え微生物の使用方法をさらに含む。
【0073】
組換え微生物は、それらの微生物自体を増殖させ、メタクリル酸エステル又はその前駆体の最終産物を生産するように培養される。組換え微生物は、培養の持続的な増殖及び最終産物の同時回収のために連続培養条件下で培養できる。あるいは、微生物は、最終産物の形成のために慎重な培養(例えば、単一容器又は生物反応器)から回分式で培養後、最終産物回収のために加工できる。
【0074】
一部の実施形態において、組換え微生物の培養は、生長及び/又は増殖の第1ステップに続く生物生産ステップに、ステップ別に進行される。培養条件を変更しながら様々なステップが実行され得、ここで最初の生長及び増殖ステップは、組換え微生物の迅速な増殖及び生長を好む培地及び/又は培養条件の利用に続き、MMA最終産物の形成を好む培養条件における変化により実施できる。
【0075】
例えば、一実施形態において、本発明の組換え微生物は、酵母であり、酵母培養の迅速な増殖及び生長を好む培養条件、例えば増殖培地のうち高い水準の栄養と共に、通気性の良い条件下で、まず増殖させる。前記増殖ステップには、生物生産ステップが後続し、ここで培養には通気をあまりしないか、又は全くせず、培養培地には、1以上の栄養素(例えば、微量の栄養素又は増殖を促進する炭素供給源)が欠乏している。
【0076】
培養温度又は培養時間等の各種条件は原料、用いる微生物、目的とする最終産物に応じて適宜決定され、特に制限はないが、通常5〜80℃で、1分〜1週間反応させればよい。好ましくは、10〜70℃で、1分〜120時間であり、10分以上がより好ましい。このような条件で反応が終了する条件を選択することが好ましい。反応液のpHについても反応が効率良く進行すれば特に限定されないが、例えば、pH4〜10の範囲、好ましくはpH5.5〜8.5である。
【0077】
効率的に反応を進行させる目的で、あらかじめ、有機溶剤を添加した系で培養することも可能である。有機溶媒としては、例えば直鎖状、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和脂肪族炭化水素、飽和又は不飽和芳香族炭化水素等を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。具体的には、例えば、炭化水素系溶媒(例えばペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例えば塩化メチレン、クロロホルムなど)、エーテル系溶媒(例えばジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタンなど)、エステル系溶媒(例えばギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル)などが挙げられる。
【0078】
一実施形態において、生長及び増殖ステップに続いて、細胞が収集され、さらに高い生物生産を好む条件を有した培養容器に配置される。例えば、酵母細胞を遠心分離により生長及び増殖培養から分離した後、緩衝液中で洗浄し、新しい培養培地で再懸濁することができる。
【0079】
酵素機能を有する1以上のタンパク質が誘導可能なプロモータの制御下にある微生物で、誘導剤が生物生産ステップ時又は開始時に添加される。同様に、MMA最終産物の形成と競合するか又は減少させる代謝経路の活性を減少又は抑制するために、こうした遺伝子が誘導性プロモーター制御下にあるように遺伝子操作された微生物が作製される。これらの培養された細胞は増殖ステップから生物生産ステップへの転換時に誘導剤に曝される。
【0080】
一部の実施形態において、バリンから最終産物の形成を増強するために、バリンが培養培地に添加される。他の実施形態において、生物生産培養ステップへの転換時、バリンが培養培地に添加される。他の実施形態において、バリン前駆体が増殖培地に含まれてバリンの形成を改善し、最終産物の形成速度の増加を促進する。同様に、遺伝子導入によりバリン生成が増加するように組換えられ、このような遺伝子が誘導可能なプロモータの制御下にある微生物で、誘導体は、生物生産ステップ頃又は開始時に導入され、最終産物の形成のための前駆体の量を増加させる。一部の実施形態において、本発明の組換え微生物は、バリンを生産するその他の菌株又は微生物と共同培養され、培養培地中のバリンの濃度を増加させる。
【0081】
培養の間、連続製造システムの場合、又は回分式培養の場合において、生物生産ステップの完了時、最終産物が培養から回収される。これは、任意の手段により実行され得る。例えば、一実施形態において、酵素及び/又は物理的処理が適用されて細胞を溶解し、最終産物を遊離する。MMA最終産物は、遠心分離、蒸留、カラム分離、クロマトグラフィー及び当該分野で公知のその他の手段により細胞培養から分離できる。例えば、米国特許第8,907,121号(Johnson及びMorris、発明の名称は“Methyl methacrylate purification process”)に記載された方法論が採用できる。
【0082】
メタクリル酸エステル前駆体の場合、培養から回収された前駆体は、該前駆体をメタクリル酸エステルに変換するために、さらに処理され得る。3−HIBは、酵素で処理して、MMAに変換され得る。例えば、3−HIBのMMAへの脱水は、例えば文献[Nagai, "New Developments in the Production of Methyl Methacrylate," Applied Catalysis A: General 221 (2001) 367-377]に記載された通り達成できる。
【0083】
本発明の方法は、バイオマスからのメタクリル酸エステル又はその前駆体の製造にも利用できる。アシルCoAデヒドラターゼをコードする遺伝子に加えて、バイオマス等から目的とするメタクリル酸エステル又はその前駆体を合成しうる酵素遺伝子群を導入された形質転換体を用いることで、バイオマス等から代謝工学(発酵)的にメタクリル酸あるいはメタクリル酸エステルの直接合成が可能となる。
【0084】
本発明及び実施例1に記載された実験方法に関する追加的な詳細事項は、図2乃至5に提供されている。
【実施例】
【0085】
経路遺伝子のミトコンドリア発現
異種起源遺伝子をそのまま細胞質において発現させるか、又は配列番号1でコードされる酵母ミトコンドリアATPaseのサブユニット9(Su9)の最初の69個の残基を各遺伝子に付加し、ミトコンドリアに標的化して発現させた。
【0086】
続いて、このような遺伝子の発現及び正しい標的化は、プラスミドpYES(リーダペプチド、プラスミド、GAL1プロモータ、CYCTターミネータ及びGFP、全て以下の論文から提供:Westermann, B. and Neupert, W. (2000). Yeast 16: 1421-1427)内部のGAL1プロモータから発現されるC−末端GFP融合体を構築することによって評価した。このような構築物をサッカロマイセス・セレビシエ(CKY263)に形質転換し、ウラシル欠乏グルコース補充合成規定培地(SD−CAA)で一晩増殖させた。24時間目に、培養を100倍に希釈し、これらをガラクトース補充SD−CAAで24時間増殖させた。細胞を回収して、赤色蛍光ミトコンドリア−選別染料(Mito−ID Red detection kit−Cat# ENZ−51007−500,Enzo Life Sciences, Ann Arbor, Ml)を用いて染色した。続いて、共焦点顕微鏡を用いて蛍光を検出した−ミトコンドリア特異的赤色蛍光とオーバーラップする非拡散性緑色蛍光を観察する。
【0087】
標的化MMA経路遺伝子の組換え活性
最初の二つの酵素ステップ(BCKAAD及びACD)の活性を、GFPのない構築物を発現する細胞由来の粗酵素液を用いてインビトロの反応により確認した。ミトコンドリア(mtMMA)又は細胞質に(MMA)標的化されたMMA酵素発現カセット(BCKAD、ACD、ECH、HCH)を、pRS系ベクター(bkdA1、bkdA2、bkdB、IpdVを含むpBCKAD4−pRS315骨格(LEU);acd1があるpACD1−pRS316骨格(URA);及びechA及びhchAを含むpCoA2−pRS314骨格(TRP))を用いてクローニングした。これらのプラスミドを液胞プロテアーゼ−欠乏サッカロマイセス・セレビシエ菌株BJ5464に形質転換した。ウラシル、ロイシン及びトリプトファン欠乏ガラクトース補充SD−CAAで48時間の誘導期間後、細胞を回収し、トリス緩衝液で物理的に破砕し、溶菌液を遠心分離した。続いて、溶菌液を以下に記載されたように、リアルタイムに酵素活性を測定した。
【0088】
ACD検定法
100mM カリウムホスフェートpH8.0
1.0mM N−エチルマレイミド
0.03mM イソブチリルCoA
0.4mM フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)
1.6mM フェナジンメトスルフェート(PMS)
0.035mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)
+試料
室温培養
活性ACDがDCPIPを減少させ、A600を減少させる
【0089】
BCKAD検定法
100mM カリウムホスフェートpH7.0
1mM MgCl2
0.2mM チアミンピロリン酸(TPP)
4mM 2−オキソイソ吉草酸
0.2mM CoASH/2mM DTT
2mM NAD
2mM L−バリン
+試料
室温培養
活性BCKADはNADを減少させ、A340を増加させる
【0090】
3−ヒドロキシイソブチレートの製造
(mt)MMA経路からの生産性は、高圧液体クロマトグラフィーを用いて評価した。前記経路のミトコンドリア又は細胞質変異体を含むBJ5464細胞を、一晩非誘導条件下で増殖させた。続いて、前記培養を誘導SD−CAA培地中に約100倍に希釈し、48乃至72時間の間増殖させた。続いて、前記培養由来の上清を0.01 N H2SO4移動相を用いてICsep USP L−17があるAgilent 1100 series HPLC上で分析した。3−HIB産物をDAD検出器を用いて210mmで検出し、標準曲線を通じて定量した。これらの研究はミトコンドリア経路変異体を用いることで、72時間内にg/L力価(5.1±2.9g/L)の3−HIBの製造が可能であることを示唆する。
【0091】
本願に引用された全ての特許、特許出願及び公報は、各独立的特許、特許出願又は公報が参考文献として含まれるものであって、具体的かつ個別的に表示されたものと同一の程度で、本願にその全体が参考文献として含まれる。開示された実施例は、制限ではなく説明を目的に提示される。本発明が、その記載された実施例を参照にして説明される一方、当業者であれば全体として本発明の真意及び範囲を外れることなく、本発明の構造及び要素に改変が加えられ得ることを理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、MMAをはじめとするメタクリル酸エステル、及びその重合体であるアクリル樹脂の合成に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]