【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0027】
(ラマン分光測定方法)
以下に記載する検証例及び実施例においては、ラマン散乱分光スペクトルの測定を行った。測定装置は(株)堀場製作所製XploRA型機であり、励起用レーザーの波長は638nm、レーザービームのスポットサイズは直径1μm、分光器のグレーティングは600本、レーザー源の出力は9.8mWで、減光器は使用しなかった。アパーチャーは300μm、スリットは100μm、対物レンズは100倍とした。露光時間は5秒間で5回の測定を積算してスペクトルを得た。
2Dバンド、Gバンド、Dバンド、およびD’バンドのピーク位置は、グラフェン膜の層数やラマン散乱分光スペクトルの測定時のレーザーの励起波長に依存することが非特許文献(L.M.Malard,M.A.Pimenta,G.Dresselhaus and M.S.Dresselhaus, Physics Reports 473 (2009) 51-87)等で示されている。例えば、励起波長514.5nmのレーザーによる単層グラフェン膜の場合、2Dバンド、Gバンド、Dバンド、およびD´バンドのピーク位置は、2700cm
-1、1582cm
-1、1350cm
-1、1620cm
-1付近である。Gバンドは正常六員環によるもので、2DバンドはDバンドの倍音によるものである。またDバンドは正常六員環の欠陥に起因するピークである。また、D’バンドも欠陥から誘起されるピークであり、数層から数十層程度のグラフェンの端の部分に起因するものと考えられる(G.Cancado, M.A.Pimenta, B.R.A.Neves,M.S.S.Dantas, A.Jorio,Phys.Rev.Lett. 93(2004)pp.247401_1-4.参照)。ラマン散乱分光スペクトルにGバンドと2Dバンドの両方のピークが観測される場合、膜はグラフェンであると同定される(非特許文献3参照)。一般的に、グラフェンの層数が増えると2Dバンドは高波数側にシフトすること、半値幅が広がることが知られている。さらに、レーザーの励起波長が短くなると、2Dバンドは高波数側にシフトする。
【0028】
(ラマン分光測定の2Dバンドのカーブフィッティング)
グラフェンの2Dバンドは、フォノンによる電子の散乱過程で2重共鳴ラマン散乱(double-resonance Raman:DRR)プロセスが起こり、1層グラフェン、2層グラフェン、3層グラフェンなどの線幅が変化することが知られている。例えば、L. M. Malard, M.H.D.Guimaraes, D.L.Mafra, M.S.C.Mazzoni and A. Jorio, Physical Review B 79 (2009) 125426-1-8によれば、単層グラフェンは、1本、2層グラフェンは、4本、3層グラフェンでは、6本のLorentzianカーブでそれぞれフィッティングできることが示されている。
【0029】
(銅箔前処理方法)
市販の銅箔は、薄く塗布された防錆膜(201)と、母材の銅箔(202)により構成されている。
図1は、市販の防錆剤が塗布された銅箔を模式的に示す図である。
本発明においては、母材の銅箔(202)に塗布された防錆膜(201)を希酸により除去した銅箔を基材として用いた。防錆膜としてベンゾトリアゾール(BTA)などの有機膜や亜鉛皮膜などの無機膜などがあり、希酸としては硫酸などがある。処理手順は以下のとおりである。
【0030】
市販の銅箔から防錆膜を除去する方法を説明する。銅箔は厚さ18ミクロンの電解銅箔(JX日鉱日石金属製)であり、BTAに代表される有機物で防錆処理されている。まず銅箔を通電加熱に適した形状に加工した(
図2)。加工後の大きさは、約100mm×8mmである。BTAの除去方法は、特開2002−97587号公報などにも記載されているが、希酸に浸漬することにより、容易に除去できることが知られている。また、その除去の確認はX線光電子分光法を用い、BTAに含まれる窒素の検出有無により確認することができる。本実施例では、濃硫酸(和光純薬工業製、H
2SO
4)5ccを純水で100ccに希釈し、5%希硫酸を作製し、これを防錆処理剤除去液とした。この中に、加工した銅箔基材を30秒浸漬し、表面の防錆材を除去した。純水で十分に洗浄した後、完全に乾燥させ、成膜用の銅箔基材(202)を作製した。
【0031】
(銅箔基材内部に含まれる炭素の検証)
以下に、表面から完全に防錆剤など不純物を除去した電解銅箔基材を熱処理することにより、ある特定の温度領域において、銅箔内部に存在する炭素が銅箔表面でアモルファスカーボンなどの炭素膜を形成することを示す。
電解銅箔の完全な不純物除去には希酸中での電解エッチングを用い、熱処理には、
図3の模式図に示す真空管状加熱炉を用いて、石英管(402)の内部に設けられた石英製試料台(406)上に電解銅箔基材をのせ、周囲に配置されたヒータ(401)により減圧下で加熱することで行った。処理手順は以下のとおりである。
【0032】
銅箔表面の防錆剤などの不純物除去には、5%希硫酸中での電解研磨を行った。これは希酸中に浸漬した電解銅箔基材を陽極。陰極にも銅箔を用い、両極の間に1Vの電位差を設ける。すると陽極として用いた銅箔基材は表面からCuイオンとして溶け出し、時間とともにエッチングが進行する。
図4は希硫酸中で電解研磨した銅箔表面のラマン散乱分光スペクトルの一例である。処理時間0秒は電解研磨未処理のもの。60秒は電解研磨を60秒施したものである。いずれのサンプルからも500〜3500cm
-1において明瞭なピークは見られない。
【0033】
次に、前述の電解研磨60秒を施した電解銅箔基材を、前記真空管状加熱炉内の石英製の試料台(406)にのせ、それを真空加熱管状炉の石英管(402)中央部に設置した。石英管中央部は均一な温度分布が補償されている領域である。管内を、排気管(405)を通してターボ分子ポンプと油回転ポンプにより2×10
-5Pa以下に排気した。その後、石英管(402)の周囲に配置されたヒーター(401)を自動温調装置で制御しながら所定の温度になるまで加熱した。所定の温度に達したことを確認後、さらに30分間の熱処理を行った。温度設定は250、450、600、1000℃の4条件と、加熱処理しない25℃とした。本検証例では、水素ガスは導入せず、10
-5Pa台での真空熱処理を施した。その後、自然冷却を経て石英管から処理済みの電解銅箔基材を取り出した。
【0034】
測定した電解銅箔基材表面のラマン散乱分光スペクトルの例を
図5に示す。防錆剤を除去した未加熱の電解銅箔および、250℃での加熱試料からは500〜3500cm
-1の波数範囲で明瞭なピークは見られない。ところが、450℃になるとGバンドとDバンドが重なったアモルファスカーボン膜特有のスペクトルが現れた。また、グラフェンの生成を示す2Dバンドも勿論見られない。さらに温度を高くして600℃で加熱処理をすると強度は弱いものの、GバンドとDバンドが重なったアモルファスカーボンの生成を示すスペクトルが得られた。熱CVDで一般的に行われている1000℃での加熱においては、アモルファスカーボンを示すブロードなバンドが消失していた。つまり、最適な温度を選べば銅箔に含まれる極微量の炭素がラマン活性な状態に変化するということである。外部からメタンなどの炭素源を加えないと、加熱処理だけではグラフェンは生成しないことも分かる。
【0035】
(プラズマ処理装置)
図6は、本実施例に用いたマイクロ波表面波プラズマ処理装置を模式的に示す図である。
図6に示すとおり、本発明に用いるマイクロ波表面波プラズマ処理装置は、上端が開口した金属製の処理容器(110)と、処理容器(110)の上端部に、金属製基材を支持する支持部材(104)を介して気密に取り付けられたマイクロ波を導入するための石英窓(103)と、その上部に取り付けられたスロット付き矩形マイクロ波導波管(102)と、通電加熱用電源(107)等から構成されている。
以下の実施例においては、処理容器(110)の内部に設けられた、基材通電加熱用電極(106)に、金属基材(105)としてタフピッチ銅箔又は電解銅箔基材を固定し、通電加熱と水素プラズマ処理を行った。
【0036】
(実施例1)
本実施例では、基板加熱の温度について、タフピッチ銅箔(厚さ6.3μm)を用いて、以下の実験を行った。
1)タフピッチ銅箔を5wt%H
2SO
4に1分間浸し、イオン交換水で洗浄後、窒素で乾燥し、XPS測定により、ベンゾトリアゾールなどの防錆剤が取り除かれたことを確認した。
2)燃焼法により、厚さ6.3μm銅箔中に含まれる炭素量の測定を行い、銅箔中の炭素は、31ppm含まれていることが分かった。
3)さらに、Cu基板からの炭素の析出の確認のため、基板の通電加熱により300℃、400℃、600℃、800℃、1000℃の各条件でH
2中、15分間のアニールを行い、室温まで冷却して、ラマン測定を行った。
【0037】
ラマン測定の結果を、
図7に示す。
図に示すとおり、炭素の析出は、室温に戻したとき、400℃、600℃、800℃でアモルファスカーボンが析出した。一方、1000℃、300℃以下で炭素の析出は観測されなかった。1000℃では、温度が高すぎるため、Cu基板の融点近傍で銅基板と一緒に炭素も蒸発したと考えられる。また、300℃以下では、低温であるため十分炭素の析出が行えないことが判明した。
【0038】
(実施例2)
本実施例では、マイクロ波プラズマ処理と通電加熱処理とによるグラフェンの成膜時間とグラフェンの層数の関係を調べるために、以下の成膜実験を行った。
1)タフピッチ銅箔を5wt%H
2SO
4に1分間浸し、イオン交換水で洗浄後、窒素で乾燥した。
2)通電加熱のみで基板を850℃、H
230sccm、5Pa以下で15分間のアニール(加熱)処理を行うことにより、タフピッチ銅箔に、平均表面粗さ(Ra)10nm以下の平坦性を付与するとともに、銅のグレインサイズの増大を図った。
3)引き続き、通電加熱(10〜12W)をしながら基板を850℃に保ち、水素流量30sccmで水素プラズマ処理(4.0kw)により、グラフェンの成膜時間を変化させた後、プラズマと通電加熱を止めて、室温に戻し、それぞれの成膜時間で得られた膜の透過率を可視・紫外分光光度計で測定した。
【0039】
1層グラフェンあたりの透過率2.3%減少するため、層数に比例して、透過率が減少する。(R. R. Nair, P. Blake, A. N. Grigorenko, K. S. Novoselov, T. J. Booth, T. Stauber, et al. Fine Structure Constant Defines Visual Transparency of Graphene. Science 2008, 320, 1308.)
透過率の測定結果から算出したグラフェンの層数と、成膜時間の関係を
図8に示す。
図に示すとおり、5秒以下で1層グラフェン、30秒で2層グラフェン、90秒で3層グラフェンが選択的に合成できることが、分かった。
すなわち、本実施例における透過率測定の結果、成膜時間を選択することによりグラフェンの層数を制御できることが確認できた。
本実施例で用いた厚さ6.3μm銅箔中に含まれる炭素量31ppmと、成膜されたグラフェンの層数から判断して、反応容器内に付着した微量の炭素成分及び/又はプラズマ処理に用いるガスに含まれる微量の炭素成分が、炭素源として関与しているといえる。
【0040】
(実施例3:2層グラフェンの選択的合成)
前実施例における水素プラズマ処理時間を30秒ですべて終了し、成膜後の層数の分布を精密に調べた。
ラマンの2DバンドのFWHM(full width at half maximum)線幅分布及び2DバンドとGバンドの強度比(I2D/IG)比の分布を調べた。12個のサンプルから46点のラマン測定を行い、2Dバンドのカーブフィッティング解析を行った。
その結果、一つは、ABスタッキング2層グラフェン、他方は、配向ツイスト2層グラフェンであり、前者は、非対称の2Dバンド(
図9(a))を有し、かつ4つのローレンツ曲線で近似できる。他方は、単一のローレンツ曲線(
図9(b))で近似でき線幅も狭くなる。
本結果の解析から、2種類の2層グラフェンが成長していることが分かった。これらのすべての点の解析から60%以上がABスタッキング2層グラフェンであることが判明した。残りが、2Dバンドが対称形をした配向ツイスト2層グラフェンであることが判明した。
【0041】
(実施例4:2層グラフェンの透過率測定)
2層グラフェンの透過率を測定したところ、
図10に示すとおり、550nmにおいて透過率は、94.5%を与えた。この結果は、理論値の2層グラフェンに対応している。
【0042】
(実施例5:2層グラフェンの抵抗値とドーピングによる低抵抗分布)
本実施例においては、以下のようにして抵抗測定を行った。
4探針法を用いて測定した。プローブには金合金製の針を使用し、プローブ間隔は300μmとし、測定間隔1mmで測定した。測定範囲は6mm×6mm、測定数は36点とした。
その結果、平均して951Ω/□のシート抵抗を得た。
【0043】
次いで、塩化金ドーピングを実施し、ドーピング後の抵抗分布を、同様にして測定したところ、130±26Ω/□のシート抵抗を得た。
図11は、ドーピング後の抵抗分布を示す図である。
【0044】
(実施例6:2層グラフェンのモビリティー測定)
2層グラフェンの測定は、van der pauw 法を用いたホール効果測定により実施した。
具体的には、L. J. Van Der Pauw , Method of measuring specific resistivity and Hall effect of discs of arbitrary shape. Philips Res. Rep. 1958, 13, 1-9に基づく方法を用いて、1000cm
2/Vsの値を得た。
【0045】
(実施例7)
本実施例においては、金属製基材として、炭素含有量が多い電解銅箔を用い、通電加熱と水素プラズマ処理を行った。
処理手順は以下のとおりである。
【0046】
マイクロ波表面波プラズマ処理容器(110)内のプラズマ発生室(101)に設けられた基材通電加熱用電極(106)に、前記防錆剤を除去した電解銅箔(202)を設置した。次に、排気管(108)を通して反応室内を1×10
-4Pa以下に排気した。
【0047】
石英窓(103)と電解銅箔基材との距離が約8.5cmになるよう試料台の高さを調整した。
次に、処理室に処理用ガス導入管(109)を通して、水素ガスを導入した。水素ガス流量は、30.0sccmであった。反応室内の圧力を排気管(108)に接続した圧力調整バルブを用いて、5Paに保持した。
【0048】
通電加熱用電源出力32.5Wの直流を銅箔基材に印加し、基板加熱を行った。処理中の基材の温度は、観察窓を通して放射温度計により測定した。約5分でおよそ500℃まで上昇した。そのまま水素ガス中で15分間加熱することにより、基材温度の安定化と基板表面のクリーニングを行った。その後、基板を加熱したまま、マイクロ波パワー4kWにてプラズマを発生させ、銅箔基材(202)の水素プラズマ処理を行った。プラズマ処理中の基板の温度は、通電加熱のみの場合と比べて2割ほど高い値を示した。水素プラズマ処理中の基材が高温になると、銅箔が溶融したり、さらには蒸発により消失したりすることがある。したがって、十分注意深く基材の温度管理をすることが肝心である。以上の水素プラズマ処理の結果、銅箔基材上にグラフェンが形成される。プラズマ処理時間としては、30秒である。処理済みの電解銅箔基材は自然冷却の後、プラズマ発生室から取り出した。
図12に、銅箔の上に形成されたグラフェンの模式図を示す。
なお、実施例1と同じ装置を用いているので、本実施例においても、炭素源として、金属基材中に含まれる炭素成分に加えて、反応容器に付着した微量の炭素成分及び/又はプラズマ処理に用いるガスに含まれる微量の炭素成分を含有するといえる。
【0049】
測定したグラフェンのラマン散乱分光スペクトルの例を
図13に示す。Gバンド近傍および2Dバンド近傍を拡大したスペクトルとフィッティング特性を
図14および
図15に示す。グラフェンのラマン散乱分光による評価で重要なバンドは、2Dバンド(2665cm
-1)、Gバンド(1598cm
-1)、Dバンド(1342cm
-1)、およびD’バンド(1625cm
-1)である。ラマン散乱分光スペクトルにGバンドと2Dバンドの両方のピークが観測される場合、膜はグラフェンであると同定される(非特許文献3参照)。
【0050】
図13では、Gバンドと2Dバンドの両方のピークが観測されており、したがって、本発明で形成された膜はグラフェンであることが明らかである。また、バルクの結晶性炭素物質であるグラファイトの場合、2Dバンドは低端数側に肩をもつ形状を示すが、グラフェンの場合は、単層グラフェンでは、左右対称的な形状を示し、2層グラフェンの場合は、ABスタッキング(Bernal)2層グラフェンでは、2Dバンドは、非対称形状を示し、配向(twisted)2層グラフェンの2Dバンドは、対称形状を示し、2種類存在する。(例えば、非特許文献L.Liu et al., ACS Nano 6(2012)8241-8249)
【0051】
2DバンドとGバンドのピークの相対強度を用いてグラフェンの層数を同定することができる(非特許文献3)。図のようにそれぞれのピークを、ローレンツ関数を用いてフィッティングしバックグラウンドを差し引くことによって、それぞれのピークの強度を求めた。ピーク強度はそれぞれ、I(2D)=1139、I(G)=770、I(D’)=108、I(D)=337、であった。Gバンドと2Dバンドの強度の比がI(2D)/I(G)=1.5、2Dの半値全幅(FWHM)が55cm
-1であることから非特許文献L.Liu et al., ACS Nano 6(2012)8241-8249よりABスタッキング2層グラフェンであることが分かる。
【0052】
(比較例1)
本比較例においては、電解銅箔の通電加熱のみを行った。
本比較例においては、
図6に示す処理容器(110)の内部に設けられた、基材通電加熱用電極に電解銅箔基材を固定し、通電加熱のみを行う。処理手順は以下のとおりである。
【0053】
マイクロ波表面波プラズマ処理容器(110)内のプラズマ発生室(101)に設けられた基材通電加熱用電極(106)に、前記防錆剤を除去した電解銅箔(202)を設置した。次に、排気管(108)を通して反応室内を1×10
-4Pa以下に排気した。
【0054】
実施例7と試験条件が同じになるよう、石英窓(103)と電解銅箔基材との距離が約8.5cmになるよう試料台の高さを調整した。
次に、処理室に処理用ガス導入管(109)を通して、水素ガスを導入した。水素ガス流量は、30.0sccmであった。反応室内の圧力を排気管(108)に接続した圧力調整バルブを用いて、5Paに保持した。
【0055】
通電加熱用電源出力32.5Wの直流を銅箔基材に印加し、基板加熱を行った。処理中の基材の温度は、観察窓を通して放射温度計により測定した。約5分でおよそ500℃まで上昇した。そのまま水素ガス中で15分間加熱することにより、基材の加熱処理を行った。実施例1ではこのあとマイクロ波表面波プラズマによる水素プラズマ処理を行ったが、今回は通電加熱のみのためプラズマは点灯させず、自然冷却の後、プラズマ発生室から処理済みの電解銅箔基材を取り出した。
【0056】
通電加熱処理した電解銅箔基材表面のラマン散乱分光スペクトルの例を
図16に示す。
図13のような明瞭なバンドは見られず、
図5に似た、G(1526cm
-1)バンドとDバンド(1358cm
-1)が互いに重なり合ったアモルファスカーボンのスペクトルとなった。つまり、500℃での通電加熱のみではグラフェンは合成されず、アモルファスカーボンになることが分かった。
【0057】
(実施例8)
本実施例においては、
図6に示すマイクロ波表面波プラズマ処理装置を用いて、処理容器(110)の内部に設けられた基材通電加熱用電極に、前述の防錆剤を除去した電解銅箔基材(202)を固定して通電加熱を行い、その後、処理時間を変えて水素プラズマ処理を行った。処理手順は以下のとおりである。
【0058】
マイクロ波表面波プラズマ処理容器(110)内のプラズマ発生室(101)に設けられた基材通電加熱用電極(106)に、前記防錆剤を除去した電解銅箔(202)を設置した。次に、排気管(108)を通して反応室内を1×10
-4Pa以下に排気した。
【0059】
石英窓(103)と電解銅箔基材との距離が約8.5cmになるよう試料台の高さを調整した。
次に、処理室に処理用ガス導入管(109)を通して、水素ガスを導入した。水素ガス流量は、30.0sccmであった。反応室内の圧力を排気管(108)に接続した圧力調整バルブを用いて、5Paに保持した。
【0060】
通電加熱用電源出力32.5Wの直流を銅箔基材に印加し、基板加熱を行った。処理中の基材の温度は、観察窓を通して放射温度計により測定した。約5分でおよそ500℃まで上昇した。そのまま水素ガス中で15分間加熱することにより、基材温度の安定化と表面のクリーニングを行った。その後、基板を加熱したまま、マイクロ波パワー4kWにてプラズマを発生させ、処理時間を変化させて銅箔基材(202)の水素プラズマ処理を行った。プラズマ処理時間は10、15、30秒である。処理済みの電解銅箔基材は自然冷却の後、プラズマ発生室から取り出した。
【0061】
図17は、プラズマ処理時間とグラフェンの層数の関係を示したグラフである。ここで、グラフェンの層数は以下の方法で求めた。まず、グラフェンが合成された銅箔基材に気泡が入らないように気をつけながら微粘着フィルム(日東電工(株)製、DW100)を貼り合わせ、積層体を作製する。この積層体から銅箔のみを塩化第二鉄水溶液で化学エッチングし、十分に水洗することにより、微粘着フィルム上にグラフェンを転写する。次に、グラフェンが転写されていない微粘着フィルムと、グラフェンが転写された微粘着フィルムの透過率(T%)をヘーズメータ(日本電色工業製、NDH5000SP)により測定する。非特許文献3から、グラフェン1層で透過率が2.3%減少することが報告されているので、グラフェンの層数nを次式から求めた。
T(グラフェン付微粘着フィルム)=T(微粘着フィルム)×0.977
n
【0062】
通電加熱と水素プラズマ処理を行った電解銅箔基材は、10秒程度でグラフェン層数の最大値(この実施例の場合、6層)を取り、プラズマ照射時間とともに減少傾向にある。つまり、水素プラズマ処理により、グラフェンの最大層数の状態を形成し、さらに水素プラズマを照射することにより、グラフェンの層数の少ない膜が合成された。
また、基材中に炭素成分が過剰に含有された場合には、プラズマ照射によりグラフェンの層数制御が不均一となるため、基材中の炭素含有量は、4ppm〜10,000ppmが望ましい。