特許第6800401号(P6800401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800401
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】グラフェン透明導電膜の製造用電解銅箔
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/184 20170101AFI20201207BHJP
   C25D 1/04 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   C01B32/184
   C25D1/04 311
【請求項の数】1
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-168740(P2018-168740)
(22)【出願日】2018年9月10日
(62)【分割の表示】特願2014-117973(P2014-117973)の分割
【原出願日】2014年6月6日
(65)【公開番号】特開2019-14650(P2019-14650A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2018年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-120761(P2013-120761)
(32)【優先日】2013年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低炭素社会を実現する革新的カーボンナノチューブ複合材料開発プロジェクト(グラフェン基盤研究開発)/高性能フレキシブルグラフェン部材研究開発/グラフェン透明導電フィルムと高熱伝導性多層グラフェン放熱材の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雅考
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆一
(72)【発明者】
【氏名】津川 和夫
(72)【発明者】
【氏名】石原 正統
(72)【発明者】
【氏名】沖川 侑揮
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴壽
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−014484(JP,A)
【文献】 特開2010−103006(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/070589(WO,A1)
【文献】 特開2010−089996(JP,A)
【文献】 特開2012−094254(JP,A)
【文献】 長谷川雅考 他,プラズマを利用した高品質グラフェン合成と透明導電フィルム応用,第61回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,日本,応用物理学会,2014年 3月 3日,18p-D9-5
【文献】 HU, Baoshan, et al.,On the nucleation of graphene by chemical vapor deposition,New Journal of Chemistry,英国,The Royal Society of Chemistry,2011年10月10日,Vol. 36,pp. 73-77
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
C25D 1/00−3/66
Scopus
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧下で加熱された上で2〜50Paの圧力領域でマイクロ波表面波プラズマ処理されて炭素含有ガスを用いずにその表面にグラフェンを生成させる電解銅箔であって、前記表面を電解研磨し、450℃及び600℃にそれぞれ加熱処理後、室温に戻したとき、アモルファスカーボンを電解研磨表面に生成するように炭素を含んでいることを特徴とするグラフェン透明導電膜の製造用電解銅箔
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜などに利用するためのグラフェンの製造方法及び該方法により製造されたグラフェン透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
SP2結合した炭素原子による導電性の平面状結晶は「グラフェン」と呼ばれている。グラフェンについては非特許文献1に詳述されている。グラフェンは様々な形態の結晶性炭素膜の基本単位である。グラフェンによる結晶性炭素膜の例としては、一層のグラフェンによる単層グラフェン、ナノメートルサイズのグラフェンの数層から十層程度の積層体であるナノグラフェン、さらに数層から数十層程度のグラフェン積層体が基材面に対して垂直に近い角度で配向するカーボンナノウォール(非特許文献2参照)などがある。
【0003】
グラフェンによる結晶性炭素膜は、その高い光透過率と電気伝導性のため、透明導電膜や透明電極としての利用が期待されている。さらにグラフェン中の電子およびホールのキャリア移動度は室温でシリコンの100倍も高い最大20万cm2/Vsになる可能性がある。このグラフェンの特性を生かしてテラヘルツ(THz)動作を目指した超高速トランジスタの開発も進められている。
グラフェン透明導電膜の製造方法については、これまで、天然黒鉛からの剥離法、炭化ケイ素の高温熱処理によるケイ素の脱離法、さらにさまざまな金属表面への形成法などが開発されているが、グラフェンによる結晶性炭素膜を用いた透明導電性炭素膜は多岐にわたる工業的な利用が検討されており、そのため、高いスループットで大面積の成膜法が望まれている。
銅箔表面への化学気相合成法(CVD)によるグラフェン透明導電膜の形成法が開発された(非特許文献3、4参照)。この銅箔を基材とするグラフェン成膜手法は、熱CVD法によるものであって、原料ガスであるメタンガスを約1000℃程度で熱的に分解し、銅箔表面に1層のグラフェンを形成するものである。
【0004】
また上記CVDによるグラフェン製法は、基本的にメタンガスなど気体状の原料を用いる。ガスを原料とするCVDでは、基材のある特定の部分にグラフェンを作製しパターンを形成することは困難であり、そのため、基材上にグラフェンを作製した後にパターンを形成するための加工を行う必要があった。これらの課題を解決するため、最近、銅箔にポリメタクリル酸メチル(polymethylmethacrylate、PMMA)膜を塗布により形成し、それを水素とアルゴンの混合ガス雰囲気中で800℃〜1000℃で加熱する樹脂炭化法により、グラフェンを形成する手法が開発された(非特許文献5参照)。
【0005】
最近、量産に適したグラフェン透明導電膜の製造方法とその製造装置が開発された。この技術のグラフェン透明導電膜の製造方法は、導電性を有するフレキシブルな成膜対象物の表面に炭素源物質を接触させる。グラフェンは、成膜対象物に電流を印加して成膜対象物をグラフェンの生成温度以上に加熱することによって成膜対象物の表面において前記炭素源物質から生成される。つまり、銅箔を通電加熱により900〜1000℃に加熱し、メタンガスを炭素源として含むアルゴンと水素の混合ガス中に晒すことにより、銅箔表面にグラフェンを合成する熱CVDの手法である。この手法でも温室効果ガスのメタンガスを使用し、銅箔基材を融点近くまで加熱する必要が有るほか、電気伝導性に優れた多層グラフェンを層数制御のもとに合成することが難しい(特許文献1参照)。
【0006】
また、従来の熱CVD法および樹脂炭化法によるグラフェン成膜の課題である、高温プロセスであり、かつプロセス時間が長いという問題を解決し、より低温で短時間にグラフェンを形成する新たなグラフェン合成法が開発された。これは、PMMAやベンゾトリアゾールなどの有機物質を銅箔などの金属製基材に薄く塗布し、500℃以下の条件で水素を含むガス中でマイクロ波表面波プラズマを照射するものである。これにより、金属基材上にグラフェンを合成することが可能である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−14484号公報
【特許文献2】国際公開2012/108526号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】山田久美、化学と工業、61(2008)pp.1123-1127.
【非特許文献2】Y.Wu,P.Qiao, T.Chong, Z.Shen, Adv. Mater. 14(2002)pp.64-67.
【非特許文献3】Alfonso Reina, Xiaoting Jia, John Ho, Daniel Nezich, Hyungbin Son, Vladimir Bulovic, Mildred S. Dresselhaus, Jing Kong, Nanoletters, 9(2009)pp.30-35.
【非特許文献4】Xuesong Li, Yanwu Zhu, Weiwei Cai, Mark Borysiak, Boyang Han, David Chen, Richard D. Piner, Luigi Colombo, Rodney S. Ruoff, Nano Letters, 9(2009)pp.4359-4363.
【非特許文献5】Zhengzong Sun, Zheng Yan, Jun Yao, Elvira Beitler, Yu Zhu, James M. Tour, NATURE, doi:10.1038/nature09579.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の銅箔を基材とするグラフェンの熱CVD法および樹脂炭化法による形成手法は、グラフェン透明導電膜の工業的な製造方法として有望と考えられる。
これらの手法は銅の融点1080℃に近い高温でのプロセスであるため、グラフェン成膜中の銅の蒸発や再結晶化による銅箔表面の形状変化が生じるという問題があることが判明した。
また、層数の制御には原料ガスや樹脂に含まれる炭素の量や、その分解のし易さなどを正確に制御しなくてはならない。しかしながら、高温、高速成膜の環境ではこれらの制御は難しく、さらに装置内壁や金属基材表面からの炭素を含む不純物抑制の必要もある。
【0010】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、従来の熱CVDおよび樹脂炭化法によるグラフェン成膜の課題である、温室効果ガスのメタンガスを使用し、高温プロセスであり、かつプロセス時間が長い、かつグラフェン層数の制御が難しいという問題を解決し、メタンガスなどの炭素含有ガスを使用することなく、より低温で短時間にグラフェンを形成し、かつ層数を制御する手法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、炭素源として、メタンガスなどの炭素含有ガスを使用することなく、炭素が溶けにくい金属である、銅、イリジウム又は白金、あるいはこれらの金属のいずれかとの炭素アロイのいずれかからなる金属製基材に含まれている炭素成分と、反応容器内に付着した微量の炭素成分及び/又はプラズマ処理に用いるガス中に含まれる微量の炭素成分とを用いることにより、より低温で短時間にグラフェンを形成し、かつ層数を制御する新たな手法を見出し、これにより、従来技術における上記課題を解決しうることが判明した。
【0012】
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものであり、以下のとおりのものである。
<1>グラフェンを製造するための通電加熱用の電解銅箔であって、電解銅箔は、炭素源を備え、前記炭素源は、450℃から800℃加熱後、室温に戻したとき、アモルファスカーボンが電解銅箔上に出現し、該銅箔を300℃以下に加熱後、また1000℃以上に加熱後、室温に戻したとき、アモルファスカーボンが出現しない炭素含有量を電解銅箔中に備える電解銅箔。
<2>前記炭素源は、反応容器内に付着した炭素成分及び又はプラズマ処理に用いられるガスに含まれる炭素成分を備える電解銅箔。
<3>前記炭素源は、厚さ6.3μmの前記銅箔中に含まれる炭素量31ppmを備えることを特徴とする請求項1記載の電解銅箔。
なお、本発明の特徴は、次のように整理することもできる。
[1]炭素源として、炭素が溶けにくい金属製基材と、反応容器内に付着した微量の炭素成分及び/又はプラズマ処理に用いるガスに含まれる微量の炭素成分とを用い、該金属製基材を加熱することにより該基材内部に含まれる炭素を基材表面に析出させ、さらに加熱した状態のまま減圧下において水素ガスを用いたプラズマ処理を行うことにより、該基材表面にグラフェンを成長させることを特徴とするグラフェン透明導電膜の製造方法。
[2]前記加熱が、通電加熱による加熱であることを特徴とする[1]に記載のグラフェン透明導電膜の製造方法。
[3]前記プラズマ処理の時間の経過にしたがって基板上に成長するグラフェン層数の制御を行うことを特徴とする[1]又は[2]に記載のグラフェン透明導電膜の製造方法。
[4]前記プラズマ処理の時間の経過にしたがって基板上に成長するグラフェン層数を最大にした後、さらに該プラズマ処理を継続させてグラフェン層数を減少させ、制御することを特徴とする[1]又は[2]に記載のグラフェン透明導電膜の製造方法。
[5]前記プラズマ処理は、マイクロ波表面波プラズマ処理、マイクロ波プラズマ処理、高周波誘導結合プラズマ処理、容量結合高周波プラズマ処理又は直流プラズマ処理のいずれかであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のグラフェン透明導電膜の製造方法。
[6]前記プラズマ処理は2〜50Paの圧力領域でおこなうことを特徴とする[5]に記載のグラフェン透明導電膜の製造方法。
[7]前記金属製基材は、銅、イリジウム又は白金、あるいはこれらの金属のいずれかとの炭素アロイのいずれかからなることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載のグラフェン透明導電膜の製造方法。
[8][1]〜[7]のいずれかに記載のグラフェン透明導電膜の製造方法で得られたグラフェン透明導電膜。
[9][1]〜[7]のいずれかに記載のグラフェン透明導電膜の製造方法に用いられる金属製基材であって、金属製基材内部に含まれる微量の炭素が、金属にとけにくく、かつ加熱により基材表面に析出することを特徴とする金属製基材。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、従来の熱CVD法や樹脂炭化法によるグラフェン成膜の課題である、温室効果ガスのメタンガスを使用し、高温プロセスであり、かつプロセス時間が長い、かつグラフェン層数の制御が難しいという問題を解決し、メタンガスなどの炭素含有ガスを使用することなく、より低温で短時間にグラフェン透明導電膜を形成できる。そして、本発明の方法によりグラフェンの層数を制御した高品質のグラフェン透明導電膜が合成できるため、タッチパネル用途等の透明導電膜、トランジスタや集積回路等の半導体デバイスまたは電子デバイス、広面積を必要とする透明電極や電気化学電極、バイオデバイスなどへの応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】市販の銅箔の断面構造を示す模式図
図2】グラフェン透明導電膜製造用基材の加工形状の模式図
図3】熱処理に用いた真空管状加熱炉の模式図
図4】希硫酸中で電解研磨した銅箔表面のラマン分光スペクトル
図5】真空中で加熱した電解銅箔基材表面のラマン分光スペクトル
図6】マイクロ波表面波プラズマ装置の模式図
図7】通電加熱によりアニール処理したタフピッチ銅箔のラマン測定結果を示す図
図8】成膜時間と透過率測定の結果から得られたグラフェンの層数との関係を示す図
図9】2層グラフェンの2Dバンドのカーブフィッティング解析の結果を示す図
図10】2層グラフェンの透過率の測定結果を示す図
図11】ドーピング後の2層グラフェンの抵抗分布を示す図
図12】銅箔上に形成されたグラフェン透明導電膜の模式図
図13】グラフェンのラマン分光スペクトルの一例
図14】グラフェンのラマン分光スペクトルをフィッティングした図
図15】グラフェンのラマン分光スペクトルをフィッティングした図
図16】通電加熱のみの銅箔基材の代表的なラマン分光スペクトル
図17】プラズマ処理時間とグラフェンの層数の関係の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のグラフェン透明導電膜の製造方法は、基板加熱を施しながら、プラズマにより生成された荷電粒子や電子のエネルギーにより基板中の炭素成分を活性化するとともに、基板に含まれた炭素源を用いてグラフェンを生成する。炭素源としては、炭素が溶けにくい金属である、銅、イリジウム又は白金、あるいはこれらの金属のいずれかとの炭素アロイのいずれかからなる金属製基材に含まれている炭素成分と、反応容器内に付着した微量の炭素成分及び/又はプラズマ処理に用いるガス中に含まれる微量の炭素成分とを用いるものである。
本発明の方法によれば、従来の熱CVD法や樹脂炭化法と比較して、より短時間でグラフェン形成が可能である。
【0016】
さらに、本発明のグラフェン透明導電膜の製造方法は、通電加熱とプラズマ処理の時間の制御により、1層グラフェンから6層グラフェンを選択的に合成でき、かつグラフェンの最大層数を形成し、さらに通電加熱とプラズマ処理を続けることにより、層数を数層から1層あるいは0層まで減少させる、層数制御技術を提供するものである。
【0017】
本発明のグラフェン透明導電膜は、主として特定の製造条件を採用することにより得ることができる。すなわち、そのグラフェン透明導電膜を作製するには、減圧下で極微量の炭素を含む金属製基材を加熱し、さらに加熱した状態のまま、減圧下において水素を含有するガスを用いたプラズマ処理を行うことで、より低温で短時間にグラフェン透明導電膜を形成することが可能となる。
基材に微量の炭素を含む金属製基材を用いること、及び該基材を加熱しさらに加熱した状態のまま前記のプラズマ処理を行うことで、メタンガスなどの炭素系ガスの供給なく、大面積のグラフェン膜を形成することができる。
【0018】
また、本発明によりグラフェンを成長させて、金属製基材にグラフェンが積層した積層体を形成した後、該金属製基材からグラフェン積層体を剥離することで、グラフェン透明導電膜を得ることもできる。さらにこれをポリエチレンテレフタレート(PET)などの透明フィルムに転写することにより、透明導電フィルムを得ることもできる。
【0019】
本発明のグラフェン透明導電膜の製造方法に用いる金属製基材としては、金属に炭素が溶けにくい銅、イリジウム又は白金、あるいはこれらの金属のいずれかとの炭素アロイ等が用いられる。これらの金属製基材としては、微量の炭素を含有する金属箔又は金属板などを用いてもよい。微量の炭素を含有する金属箔として、例えば有機物を含む電解液から電析した電解銅箔や、炭素がわずかに固溶もしくは圧延油が不純物として取り込まれた圧延銅箔などが望ましい。
これらの炭素含有量は、4〜10000ppm以下であることが望ましい。
なお、銅基板への炭素の溶解は、約4ppm〜10ppmであるとの報告(G.A.Lopez and E.J.Mittemeijer, Scripta Materialia 51(2004)1-5)があり、また、銅と10%炭素のアロイの報告(M.T.Marques et al., Scripta Materialia 50(2004)963-967)がある。
また、本発明のグラフェン透明導電膜の製造方法に用いる金属製基材は、平滑であることが望ましく、平均表面粗さRaが、200〜0.095nmであることが望ましい。
【0020】
本発明で用いる基材加熱の条件としては、基板温度を850℃以下とすることが好ましい。銅箔を基材に用いる場合、基材の軟化による表面形状の変化を抑えるために、加熱はゆっくりと行うのが望ましい。例えば、30℃/分くらいで昇温すると基材の損傷は抑えられる。しかしながら、グラフェンが合成される昇温速度はこの限りでない。
また、金属製基材の酸化を防ぐために、減圧下で加熱するか、水素もしくは水素と不活性ガスの混合ガスを含む減圧下で加熱することが重要である。圧力は、10Pa以下であることが望ましい。不活性ガスとしてはヘリウム、ネオン、アルゴン等が包含される。
加熱方法は、特に限定されないが、加熱温度の制御が容易であることから通電加熱が好ましい。
【0021】
本発明のグラフェン透明導電膜の製造方法に用いるプラズマ処理は、減圧下において水素ガスを用いたプラズマ処理であればよく、マイクロ波表面波プラズマ処理、マイクロ波プラズマ処理、高周波誘導結合プラズマ処理、容量結合高周波プラズマ処理又は直流プラズマ処理などを用いることができる。
【0022】
金属製基材の表面形状を変化することなく、かつ、金属の蒸発を生じることなくグラフェン透明導電膜を形成するためには、金属の融点より十分低い温度になるように基材に加熱を施すと共に、プラズマ処理を行う必要がある。例えば、銅箔基材の場合、銅の融点(1080℃)より十分低温において処理することが必要である。
【0023】
通常のマイクロ波プラズマ処理は、圧力2×103〜1×104Paで行われる。この圧力ではプラズマが拡散しにくく、プラズマが狭い領域に集中するため、プラズマ内の中性ガスの温度が1000℃以上になる。そのため、銅箔基板の温度が局所的に高温となり、銅箔表面からの銅の蒸発が大きくなり、グラフェンの作製に適用できない。また、プラズマ領域を均一に広げるには限界があり、大面積に均一性の高いグラフェンの形成が困難である。
したがって、成膜中の銅箔基板の温度を低く保ち、かつ大面積に均一性の高いグラフェン透明導電膜を形成するには、より低圧でのプラズマ処理が必要であり、プラズマ処理の条件として、圧力は50Pa以下であり、好ましくは2〜50Pa、さらに好ましくは3〜10Paが用いられる。
【0024】
本発明では、好ましくは、102Pa以下でも安定にプラズマを発生・維持することが可能なマイクロ波プラズマ処理が用いられる。
【0025】
本発明において、プラズマ処理時間は、特に限定されないが、1秒〜30分程度、好ましくは1秒〜5分程度である。この程度の処理時間によれば、グラフェンが得られる。
また、本発明において、プラズマ処理に用いるガスは、水素、または水素と不活性ガスの混合ガスである。不活性ガスとしてはヘリウム、ネオン、アルゴン等が包含される。水素ガスには100ppm以下の炭素が含まれる場合もある。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0027】
(ラマン分光測定方法)
以下に記載する検証例及び実施例においては、ラマン散乱分光スペクトルの測定を行った。測定装置は(株)堀場製作所製XploRA型機であり、励起用レーザーの波長は638nm、レーザービームのスポットサイズは直径1μm、分光器のグレーティングは600本、レーザー源の出力は9.8mWで、減光器は使用しなかった。アパーチャーは300μm、スリットは100μm、対物レンズは100倍とした。露光時間は5秒間で5回の測定を積算してスペクトルを得た。
2Dバンド、Gバンド、Dバンド、およびD’バンドのピーク位置は、グラフェン膜の層数やラマン散乱分光スペクトルの測定時のレーザーの励起波長に依存することが非特許文献(L.M.Malard,M.A.Pimenta,G.Dresselhaus and M.S.Dresselhaus, Physics Reports 473 (2009) 51-87)等で示されている。例えば、励起波長514.5nmのレーザーによる単層グラフェン膜の場合、2Dバンド、Gバンド、Dバンド、およびD´バンドのピーク位置は、2700cm-1、1582cm-1、1350cm-1、1620cm-1付近である。Gバンドは正常六員環によるもので、2DバンドはDバンドの倍音によるものである。またDバンドは正常六員環の欠陥に起因するピークである。また、D’バンドも欠陥から誘起されるピークであり、数層から数十層程度のグラフェンの端の部分に起因するものと考えられる(G.Cancado, M.A.Pimenta, B.R.A.Neves,M.S.S.Dantas, A.Jorio,Phys.Rev.Lett. 93(2004)pp.247401_1-4.参照)。ラマン散乱分光スペクトルにGバンドと2Dバンドの両方のピークが観測される場合、膜はグラフェンであると同定される(非特許文献3参照)。一般的に、グラフェンの層数が増えると2Dバンドは高波数側にシフトすること、半値幅が広がることが知られている。さらに、レーザーの励起波長が短くなると、2Dバンドは高波数側にシフトする。
【0028】
(ラマン分光測定の2Dバンドのカーブフィッティング)
グラフェンの2Dバンドは、フォノンによる電子の散乱過程で2重共鳴ラマン散乱(double-resonance Raman:DRR)プロセスが起こり、1層グラフェン、2層グラフェン、3層グラフェンなどの線幅が変化することが知られている。例えば、L. M. Malard, M.H.D.Guimaraes, D.L.Mafra, M.S.C.Mazzoni and A. Jorio, Physical Review B 79 (2009) 125426-1-8によれば、単層グラフェンは、1本、2層グラフェンは、4本、3層グラフェンでは、6本のLorentzianカーブでそれぞれフィッティングできることが示されている。
【0029】
(銅箔前処理方法)
市販の銅箔は、薄く塗布された防錆膜(201)と、母材の銅箔(202)により構成されている。図1は、市販の防錆剤が塗布された銅箔を模式的に示す図である。
本発明においては、母材の銅箔(202)に塗布された防錆膜(201)を希酸により除去した銅箔を基材として用いた。防錆膜としてベンゾトリアゾール(BTA)などの有機膜や亜鉛皮膜などの無機膜などがあり、希酸としては硫酸などがある。処理手順は以下のとおりである。
【0030】
市販の銅箔から防錆膜を除去する方法を説明する。銅箔は厚さ18ミクロンの電解銅箔(JX日鉱日石金属製)であり、BTAに代表される有機物で防錆処理されている。まず銅箔を通電加熱に適した形状に加工した(図2)。加工後の大きさは、約100mm×8mmである。BTAの除去方法は、特開2002−97587号公報などにも記載されているが、希酸に浸漬することにより、容易に除去できることが知られている。また、その除去の確認はX線光電子分光法を用い、BTAに含まれる窒素の検出有無により確認することができる。本実施例では、濃硫酸(和光純薬工業製、H2SO4)5ccを純水で100ccに希釈し、5%希硫酸を作製し、これを防錆処理剤除去液とした。この中に、加工した銅箔基材を30秒浸漬し、表面の防錆材を除去した。純水で十分に洗浄した後、完全に乾燥させ、成膜用の銅箔基材(202)を作製した。
【0031】
(銅箔基材内部に含まれる炭素の検証)
以下に、表面から完全に防錆剤など不純物を除去した電解銅箔基材を熱処理することにより、ある特定の温度領域において、銅箔内部に存在する炭素が銅箔表面でアモルファスカーボンなどの炭素膜を形成することを示す。
電解銅箔の完全な不純物除去には希酸中での電解エッチングを用い、熱処理には、図3の模式図に示す真空管状加熱炉を用いて、石英管(402)の内部に設けられた石英製試料台(406)上に電解銅箔基材をのせ、周囲に配置されたヒータ(401)により減圧下で加熱することで行った。処理手順は以下のとおりである。
【0032】
銅箔表面の防錆剤などの不純物除去には、5%希硫酸中での電解研磨を行った。これは希酸中に浸漬した電解銅箔基材を陽極。陰極にも銅箔を用い、両極の間に1Vの電位差を設ける。すると陽極として用いた銅箔基材は表面からCuイオンとして溶け出し、時間とともにエッチングが進行する。図4は希硫酸中で電解研磨した銅箔表面のラマン散乱分光スペクトルの一例である。処理時間0秒は電解研磨未処理のもの。60秒は電解研磨を60秒施したものである。いずれのサンプルからも500〜3500cm-1において明瞭なピークは見られない。
【0033】
次に、前述の電解研磨60秒を施した電解銅箔基材を、前記真空管状加熱炉内の石英製の試料台(406)にのせ、それを真空加熱管状炉の石英管(402)中央部に設置した。石英管中央部は均一な温度分布が補償されている領域である。管内を、排気管(405)を通してターボ分子ポンプと油回転ポンプにより2×10-5Pa以下に排気した。その後、石英管(402)の周囲に配置されたヒーター(401)を自動温調装置で制御しながら所定の温度になるまで加熱した。所定の温度に達したことを確認後、さらに30分間の熱処理を行った。温度設定は250、450、600、1000℃の4条件と、加熱処理しない25℃とした。本検証例では、水素ガスは導入せず、10-5Pa台での真空熱処理を施した。その後、自然冷却を経て石英管から処理済みの電解銅箔基材を取り出した。
【0034】
測定した電解銅箔基材表面のラマン散乱分光スペクトルの例を図5に示す。防錆剤を除去した未加熱の電解銅箔および、250℃での加熱試料からは500〜3500cm-1の波数範囲で明瞭なピークは見られない。ところが、450℃になるとGバンドとDバンドが重なったアモルファスカーボン膜特有のスペクトルが現れた。また、グラフェンの生成を示す2Dバンドも勿論見られない。さらに温度を高くして600℃で加熱処理をすると強度は弱いものの、GバンドとDバンドが重なったアモルファスカーボンの生成を示すスペクトルが得られた。熱CVDで一般的に行われている1000℃での加熱においては、アモルファスカーボンを示すブロードなバンドが消失していた。つまり、最適な温度を選べば銅箔に含まれる極微量の炭素がラマン活性な状態に変化するということである。外部からメタンなどの炭素源を加えないと、加熱処理だけではグラフェンは生成しないことも分かる。
【0035】
(プラズマ処理装置)
図6は、本実施例に用いたマイクロ波表面波プラズマ処理装置を模式的に示す図である。
図6に示すとおり、本発明に用いるマイクロ波表面波プラズマ処理装置は、上端が開口した金属製の処理容器(110)と、処理容器(110)の上端部に、金属製基材を支持する支持部材(104)を介して気密に取り付けられたマイクロ波を導入するための石英窓(103)と、その上部に取り付けられたスロット付き矩形マイクロ波導波管(102)と、通電加熱用電源(107)等から構成されている。
以下の実施例においては、処理容器(110)の内部に設けられた、基材通電加熱用電極(106)に、金属基材(105)としてタフピッチ銅箔又は電解銅箔基材を固定し、通電加熱と水素プラズマ処理を行った。
【0036】
(実施例1)
本実施例では、基板加熱の温度について、タフピッチ銅箔(厚さ6.3μm)を用いて、以下の実験を行った。
1)タフピッチ銅箔を5wt%H2SO4に1分間浸し、イオン交換水で洗浄後、窒素で乾燥し、XPS測定により、ベンゾトリアゾールなどの防錆剤が取り除かれたことを確認した。
2)燃焼法により、厚さ6.3μm銅箔中に含まれる炭素量の測定を行い、銅箔中の炭素は、31ppm含まれていることが分かった。
3)さらに、Cu基板からの炭素の析出の確認のため、基板の通電加熱により300℃、400℃、600℃、800℃、1000℃の各条件でH2中、15分間のアニールを行い、室温まで冷却して、ラマン測定を行った。
【0037】
ラマン測定の結果を、図7に示す。
図に示すとおり、炭素の析出は、室温に戻したとき、400℃、600℃、800℃でアモルファスカーボンが析出した。一方、1000℃、300℃以下で炭素の析出は観測されなかった。1000℃では、温度が高すぎるため、Cu基板の融点近傍で銅基板と一緒に炭素も蒸発したと考えられる。また、300℃以下では、低温であるため十分炭素の析出が行えないことが判明した。
【0038】
(実施例2)
本実施例では、マイクロ波プラズマ処理と通電加熱処理とによるグラフェンの成膜時間とグラフェンの層数の関係を調べるために、以下の成膜実験を行った。
1)タフピッチ銅箔を5wt%H2SO4に1分間浸し、イオン交換水で洗浄後、窒素で乾燥した。
2)通電加熱のみで基板を850℃、H230sccm、5Pa以下で15分間のアニール(加熱)処理を行うことにより、タフピッチ銅箔に、平均表面粗さ(Ra)10nm以下の平坦性を付与するとともに、銅のグレインサイズの増大を図った。
3)引き続き、通電加熱(10〜12W)をしながら基板を850℃に保ち、水素流量30sccmで水素プラズマ処理(4.0kw)により、グラフェンの成膜時間を変化させた後、プラズマと通電加熱を止めて、室温に戻し、それぞれの成膜時間で得られた膜の透過率を可視・紫外分光光度計で測定した。
【0039】
1層グラフェンあたりの透過率2.3%減少するため、層数に比例して、透過率が減少する。(R. R. Nair, P. Blake, A. N. Grigorenko, K. S. Novoselov, T. J. Booth, T. Stauber, et al. Fine Structure Constant Defines Visual Transparency of Graphene. Science 2008, 320, 1308.)
透過率の測定結果から算出したグラフェンの層数と、成膜時間の関係を図8に示す。
図に示すとおり、5秒以下で1層グラフェン、30秒で2層グラフェン、90秒で3層グラフェンが選択的に合成できることが、分かった。
すなわち、本実施例における透過率測定の結果、成膜時間を選択することによりグラフェンの層数を制御できることが確認できた。
本実施例で用いた厚さ6.3μm銅箔中に含まれる炭素量31ppmと、成膜されたグラフェンの層数から判断して、反応容器内に付着した微量の炭素成分及び/又はプラズマ処理に用いるガスに含まれる微量の炭素成分が、炭素源として関与しているといえる。
【0040】
(実施例3:2層グラフェンの選択的合成)
前実施例における水素プラズマ処理時間を30秒ですべて終了し、成膜後の層数の分布を精密に調べた。
ラマンの2DバンドのFWHM(full width at half maximum)線幅分布及び2DバンドとGバンドの強度比(I2D/IG)比の分布を調べた。12個のサンプルから46点のラマン測定を行い、2Dバンドのカーブフィッティング解析を行った。
その結果、一つは、ABスタッキング2層グラフェン、他方は、配向ツイスト2層グラフェンであり、前者は、非対称の2Dバンド(図9(a))を有し、かつ4つのローレンツ曲線で近似できる。他方は、単一のローレンツ曲線(図9(b))で近似でき線幅も狭くなる。
本結果の解析から、2種類の2層グラフェンが成長していることが分かった。これらのすべての点の解析から60%以上がABスタッキング2層グラフェンであることが判明した。残りが、2Dバンドが対称形をした配向ツイスト2層グラフェンであることが判明した。
【0041】
(実施例4:2層グラフェンの透過率測定)
2層グラフェンの透過率を測定したところ、図10に示すとおり、550nmにおいて透過率は、94.5%を与えた。この結果は、理論値の2層グラフェンに対応している。
【0042】
(実施例5:2層グラフェンの抵抗値とドーピングによる低抵抗分布)
本実施例においては、以下のようにして抵抗測定を行った。
4探針法を用いて測定した。プローブには金合金製の針を使用し、プローブ間隔は300μmとし、測定間隔1mmで測定した。測定範囲は6mm×6mm、測定数は36点とした。
その結果、平均して951Ω/□のシート抵抗を得た。
【0043】
次いで、塩化金ドーピングを実施し、ドーピング後の抵抗分布を、同様にして測定したところ、130±26Ω/□のシート抵抗を得た。
図11は、ドーピング後の抵抗分布を示す図である。
【0044】
(実施例6:2層グラフェンのモビリティー測定)
2層グラフェンの測定は、van der pauw 法を用いたホール効果測定により実施した。
具体的には、L. J. Van Der Pauw , Method of measuring specific resistivity and Hall effect of discs of arbitrary shape. Philips Res. Rep. 1958, 13, 1-9に基づく方法を用いて、1000cm2/Vsの値を得た。
【0045】
(実施例7)
本実施例においては、金属製基材として、炭素含有量が多い電解銅箔を用い、通電加熱と水素プラズマ処理を行った。
処理手順は以下のとおりである。
【0046】
マイクロ波表面波プラズマ処理容器(110)内のプラズマ発生室(101)に設けられた基材通電加熱用電極(106)に、前記防錆剤を除去した電解銅箔(202)を設置した。次に、排気管(108)を通して反応室内を1×10-4Pa以下に排気した。
【0047】
石英窓(103)と電解銅箔基材との距離が約8.5cmになるよう試料台の高さを調整した。
次に、処理室に処理用ガス導入管(109)を通して、水素ガスを導入した。水素ガス流量は、30.0sccmであった。反応室内の圧力を排気管(108)に接続した圧力調整バルブを用いて、5Paに保持した。
【0048】
通電加熱用電源出力32.5Wの直流を銅箔基材に印加し、基板加熱を行った。処理中の基材の温度は、観察窓を通して放射温度計により測定した。約5分でおよそ500℃まで上昇した。そのまま水素ガス中で15分間加熱することにより、基材温度の安定化と基板表面のクリーニングを行った。その後、基板を加熱したまま、マイクロ波パワー4kWにてプラズマを発生させ、銅箔基材(202)の水素プラズマ処理を行った。プラズマ処理中の基板の温度は、通電加熱のみの場合と比べて2割ほど高い値を示した。水素プラズマ処理中の基材が高温になると、銅箔が溶融したり、さらには蒸発により消失したりすることがある。したがって、十分注意深く基材の温度管理をすることが肝心である。以上の水素プラズマ処理の結果、銅箔基材上にグラフェンが形成される。プラズマ処理時間としては、30秒である。処理済みの電解銅箔基材は自然冷却の後、プラズマ発生室から取り出した。
図12に、銅箔の上に形成されたグラフェンの模式図を示す。
なお、実施例1と同じ装置を用いているので、本実施例においても、炭素源として、金属基材中に含まれる炭素成分に加えて、反応容器に付着した微量の炭素成分及び/又はプラズマ処理に用いるガスに含まれる微量の炭素成分を含有するといえる。
【0049】
測定したグラフェンのラマン散乱分光スペクトルの例を図13に示す。Gバンド近傍および2Dバンド近傍を拡大したスペクトルとフィッティング特性を図14および図15に示す。グラフェンのラマン散乱分光による評価で重要なバンドは、2Dバンド(2665cm-1)、Gバンド(1598cm-1)、Dバンド(1342cm-1)、およびD’バンド(1625cm-1)である。ラマン散乱分光スペクトルにGバンドと2Dバンドの両方のピークが観測される場合、膜はグラフェンであると同定される(非特許文献3参照)。
【0050】
図13では、Gバンドと2Dバンドの両方のピークが観測されており、したがって、本発明で形成された膜はグラフェンであることが明らかである。また、バルクの結晶性炭素物質であるグラファイトの場合、2Dバンドは低端数側に肩をもつ形状を示すが、グラフェンの場合は、単層グラフェンでは、左右対称的な形状を示し、2層グラフェンの場合は、ABスタッキング(Bernal)2層グラフェンでは、2Dバンドは、非対称形状を示し、配向(twisted)2層グラフェンの2Dバンドは、対称形状を示し、2種類存在する。(例えば、非特許文献L.Liu et al., ACS Nano 6(2012)8241-8249)
【0051】
2DバンドとGバンドのピークの相対強度を用いてグラフェンの層数を同定することができる(非特許文献3)。図のようにそれぞれのピークを、ローレンツ関数を用いてフィッティングしバックグラウンドを差し引くことによって、それぞれのピークの強度を求めた。ピーク強度はそれぞれ、I(2D)=1139、I(G)=770、I(D’)=108、I(D)=337、であった。Gバンドと2Dバンドの強度の比がI(2D)/I(G)=1.5、2Dの半値全幅(FWHM)が55cm-1であることから非特許文献L.Liu et al., ACS Nano 6(2012)8241-8249よりABスタッキング2層グラフェンであることが分かる。
【0052】
(比較例1)
本比較例においては、電解銅箔の通電加熱のみを行った。
本比較例においては、図6に示す処理容器(110)の内部に設けられた、基材通電加熱用電極に電解銅箔基材を固定し、通電加熱のみを行う。処理手順は以下のとおりである。
【0053】
マイクロ波表面波プラズマ処理容器(110)内のプラズマ発生室(101)に設けられた基材通電加熱用電極(106)に、前記防錆剤を除去した電解銅箔(202)を設置した。次に、排気管(108)を通して反応室内を1×10-4Pa以下に排気した。
【0054】
実施例7と試験条件が同じになるよう、石英窓(103)と電解銅箔基材との距離が約8.5cmになるよう試料台の高さを調整した。
次に、処理室に処理用ガス導入管(109)を通して、水素ガスを導入した。水素ガス流量は、30.0sccmであった。反応室内の圧力を排気管(108)に接続した圧力調整バルブを用いて、5Paに保持した。
【0055】
通電加熱用電源出力32.5Wの直流を銅箔基材に印加し、基板加熱を行った。処理中の基材の温度は、観察窓を通して放射温度計により測定した。約5分でおよそ500℃まで上昇した。そのまま水素ガス中で15分間加熱することにより、基材の加熱処理を行った。実施例1ではこのあとマイクロ波表面波プラズマによる水素プラズマ処理を行ったが、今回は通電加熱のみのためプラズマは点灯させず、自然冷却の後、プラズマ発生室から処理済みの電解銅箔基材を取り出した。
【0056】
通電加熱処理した電解銅箔基材表面のラマン散乱分光スペクトルの例を図16に示す。図13のような明瞭なバンドは見られず、図5に似た、G(1526cm-1)バンドとDバンド(1358cm-1)が互いに重なり合ったアモルファスカーボンのスペクトルとなった。つまり、500℃での通電加熱のみではグラフェンは合成されず、アモルファスカーボンになることが分かった。
【0057】
(実施例8)
本実施例においては、図6に示すマイクロ波表面波プラズマ処理装置を用いて、処理容器(110)の内部に設けられた基材通電加熱用電極に、前述の防錆剤を除去した電解銅箔基材(202)を固定して通電加熱を行い、その後、処理時間を変えて水素プラズマ処理を行った。処理手順は以下のとおりである。
【0058】
マイクロ波表面波プラズマ処理容器(110)内のプラズマ発生室(101)に設けられた基材通電加熱用電極(106)に、前記防錆剤を除去した電解銅箔(202)を設置した。次に、排気管(108)を通して反応室内を1×10-4Pa以下に排気した。
【0059】
石英窓(103)と電解銅箔基材との距離が約8.5cmになるよう試料台の高さを調整した。
次に、処理室に処理用ガス導入管(109)を通して、水素ガスを導入した。水素ガス流量は、30.0sccmであった。反応室内の圧力を排気管(108)に接続した圧力調整バルブを用いて、5Paに保持した。
【0060】
通電加熱用電源出力32.5Wの直流を銅箔基材に印加し、基板加熱を行った。処理中の基材の温度は、観察窓を通して放射温度計により測定した。約5分でおよそ500℃まで上昇した。そのまま水素ガス中で15分間加熱することにより、基材温度の安定化と表面のクリーニングを行った。その後、基板を加熱したまま、マイクロ波パワー4kWにてプラズマを発生させ、処理時間を変化させて銅箔基材(202)の水素プラズマ処理を行った。プラズマ処理時間は10、15、30秒である。処理済みの電解銅箔基材は自然冷却の後、プラズマ発生室から取り出した。
【0061】
図17は、プラズマ処理時間とグラフェンの層数の関係を示したグラフである。ここで、グラフェンの層数は以下の方法で求めた。まず、グラフェンが合成された銅箔基材に気泡が入らないように気をつけながら微粘着フィルム(日東電工(株)製、DW100)を貼り合わせ、積層体を作製する。この積層体から銅箔のみを塩化第二鉄水溶液で化学エッチングし、十分に水洗することにより、微粘着フィルム上にグラフェンを転写する。次に、グラフェンが転写されていない微粘着フィルムと、グラフェンが転写された微粘着フィルムの透過率(T%)をヘーズメータ(日本電色工業製、NDH5000SP)により測定する。非特許文献3から、グラフェン1層で透過率が2.3%減少することが報告されているので、グラフェンの層数nを次式から求めた。
T(グラフェン付微粘着フィルム)=T(微粘着フィルム)×0.977n
【0062】
通電加熱と水素プラズマ処理を行った電解銅箔基材は、10秒程度でグラフェン層数の最大値(この実施例の場合、6層)を取り、プラズマ照射時間とともに減少傾向にある。つまり、水素プラズマ処理により、グラフェンの最大層数の状態を形成し、さらに水素プラズマを照射することにより、グラフェンの層数の少ない膜が合成された。
また、基材中に炭素成分が過剰に含有された場合には、プラズマ照射によりグラフェンの層数制御が不均一となるため、基材中の炭素含有量は、4ppm〜10,000ppmが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のグラフェン透明導電膜の製造方法およびグラフェン透明導電膜は、低温で短時間に形成し、かつ層数を制御することができるため、タッチパネル用途等の透明導電膜、トランジスタや集積回路等の半導体デバイスまたは電子デバイス、広面積を必要とする透明電極や電気化学電極、バイオデバイスなどのグラフェンを用いるあらゆるデバイスや機器、応用製品への利用が可能であり、非常に重要な技術である。
【符号の説明】
【0064】
101:プラズマ発生室
102:スロット付き矩型マイクロ波導波管
103:マイクロ波を導入するための石英窓
104:石英窓を支持する金属製支持部材
105:金属基材
106:基材通電加熱用電極
107:通電加熱用電源
108:排気管
109:プラズマ処理用ガス導入管
110:処理容器
111:電流導入端子
201:防錆剤
202:銅箔
301:グラフェン
401:ヒーター
402:石英管
403:金属製フランジ
404:ガス導入管
405:排気管
406:石英試料台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17