特許第6800405号(P6800405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6800405酸化物焼結体、その製造方法及びスパッタリングターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800405
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】酸化物焼結体、その製造方法及びスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/453 20060101AFI20201207BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   C04B35/453
   C23C14/34 A
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-139764(P2016-139764)
(22)【出願日】2016年7月14日
(65)【公開番号】特開2018-8852(P2018-8852A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 謙一
(72)【発明者】
【氏名】原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】原 慎一
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/081885(WO,A1)
【文献】 特開2015−214436(JP,A)
【文献】 特開2013−070010(JP,A)
【文献】 特開2012−151469(JP,A)
【文献】 特開2013−095655(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/105054(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00 − 35/457
C23C 14/34
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素として、亜鉛、ニオブ、インジウム及び酸素を有する酸化物焼結体において、亜鉛、ニオブ及びインジウムの含有量をそれぞれZn、Nb及びInとしたときに、
Nb/(Zn+Nb+In)=0.100以上、0.330以下
In/Nb=1.0以上2.0以下
である酸化物焼結体。
【請求項2】
InNbOの結晶相を有する請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項3】
不可避的な不純物として、Zn、Nb、In以外の金属元素、またはその酸化物を含み、焼結体におけるこれらの不純物の合計含有量が金属元素に換算して、Zn、Nb及びInの合計に対し、0.01以下である請求項1又は2に記載の酸化物焼結体。
【請求項4】
各金属元素の酸化物換算の真密度の加重平均値に対するかさ密度の比が0.99以上である請求項1乃至3いずれか一項に記載の酸化物焼結体。
【請求項5】
平均粒径が3μm以下である請求項1乃至4いずれか一項に記載の酸化物焼結体。
【請求項6】
バルク抵抗値が100Ω・cm以下である請求項1乃至5いずれか一項に記載の酸化物焼結体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の酸化物焼結体をターゲット材として用いることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項8】
酸化亜鉛粉末、酸化ニオブ粉末及び酸化インジウム粉末を原料粉末として、元素の原子比が、亜鉛、ニオブ及びインジウムの含有量をそれぞれZn、Nb及びInとしたときに、
Nb/(Zn+Nb+In)=0.100以上、0.330以下
In/Nb=1.0以上2.0以下
となるように混合する混合工程、混合工程で得られた混合粉末を用いて成形する成形工程、成形工程で得られた成形体を焼成する焼成工程を有する請求項1乃至6いずれか一項に記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項9】
構成元素として、亜鉛、ニオブ、インジウム及び酸素を有する薄膜において、亜鉛、ニオブ及びインジウムの含有量をそれぞれZn、Nb及びInとしたときに、
Nb/(Zn+Nb+In)=0.100以上、0.330以下
In/Nb=1.0以上2.0以下
である薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛、ニオブ、インジウム及び酸素を構成元素とする酸化物焼結体及び当該焼結体を含んでなるスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型ディスプレイや建材ガラスにおいて屈折率調整用として高屈折率膜が採用されている。
【0003】
高屈折率材料として一般的な酸化ニオブターゲットは、常圧焼結法ではDC放電が可能なターゲットの導電性が得られない。そのため、高温、加圧条件下で焼結体を還元することにより、焼結体の導電性を高めている(例えば、特許文献1参照)。また、酸化ニオブに亜鉛を添加することで、抵抗率が下がることも報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、いずれの方法もホットプレス法で製造しなければならないため、大型のターゲットの製造においては巨大なプレス機構が必要となるため、現実的なプロセスではなく、ターゲットサイズは小型品に限定されている。また、ホットプレス法は還元雰囲気下での焼結であるため、ターゲット内の酸素欠損量が多くなる傾向がある。酸素欠損量の多いターゲットでは、高い透過性を得るためにスパッタリング時にスパッタガスとして酸素をより多く導入する必要があり、酸素の導入によって成膜レートが低下するという問題も生じている。
【0005】
また、高屈折率材料として、亜鉛、アルミニウム、チタンよりなる複合酸化物焼結体も報告されている(例えば、特許文献3参照)。このようなチタンを含有した酸化亜鉛系ターゲットを用いてスパッタリングすることで、得られる薄膜は2.0以上の高屈折率を有し、製造工程においてもアーキング発生の少ない、安定なDC放電性能を示すとされている。しかし、チタンは同じ高屈折率材料のニオブと比べると、その成膜レートが半分以下と極端に低いため、チタンを含有するターゲットをスパッタリングに用いるとその生産性が低いという問題があった。
【0006】
他方では、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛に酸化ニオブを添加した薄膜とスパッタリングターゲット(例えば、特許文献4参照)、あるいは酸化インジウム、酸化亜鉛に酸化ニオブを添加した薄膜とスパッタリングターゲットが報告されている(例えば、特許文献5参照)。しかし、いずれのターゲットも、得られる薄膜の用途が透明導電膜であり、屈折率調整用の薄膜ではない。また、固溶を目的とした添加であるため、ニオブの添加量が少なく、高屈折率膜としては不十分な光学特性であった。
【0007】
また、近年では高パワー負荷を投入可能な円筒ターゲットの採用等が進んでおり、従来想定していなかった高パワーを投入した成膜が主流になりつつある。さらに、上記のような高屈折率材料の酸化ニオブや酸化チタンと酸化亜鉛の混合による焼結体は、酸化亜鉛を主体とする導電相と、高屈折率材料及び酸化亜鉛の複合酸化物である絶縁相の混合系でDC放電可能となるが、導電相と絶縁相が共存するため、スパッタ電流が導電相の酸化亜鉛に集中し、酸化亜鉛が還元され低融点の金属亜鉛がスプラッシュし、ターゲット表面に穴が開くとともに、パーティクルとなる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−256175号公報
【特許文献2】特開2005−317093号公報
【特許文献3】特開2009−298649号公報
【特許文献4】特開平11−322413号公報
【特許文献5】特開2013−095657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高パワー成膜時においてもターゲット表面からのスプラッシュがなく、高成膜レートであり、高屈折率の膜を得ることが可能なスパッタリングターゲットに用いられる酸化物焼結体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ZnOとNbから作製される複合酸化物焼結体について鋭意検討を行った。複合酸化物焼結体の結晶相の内、ZnO相は酸素欠損または微量のニオブの固溶置換により導電性を示すが、NbはZnOの一部と反応し導電性の極めて低いZnNb相(単相のバルク抵抗:1011Ω・cm以上)を形成する。本発明者らは、ZnOよりもNbとの反応エネルギーが小さいInを適量添加し、高抵抗のZnNb相の発生を抑制させることにより得られた焼結体をスパッタリングターゲットとして用いることで、スパッタリング中のターゲット表面からのスプラッシュを抑制し、優れた放電特性を実現するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)乃至(9)に存する。
(1) 構成元素として、亜鉛、ニオブ、インジウム及び酸素を有する酸化物焼結体において、亜鉛、ニオブ及びインジウムの含有量をそれぞれZn、Nb及びInとしたときに、
Nb/(Zn+Nb+In)=0.100以上、0.330以下
In/Nb=0.2以上、2.0以下
である酸化物焼結体。
(2) InNbOの結晶相を有する上記(1)に記載の酸化物焼結体。
(3) 不可避的な不純物として、Zn、Nb、In以外の金属元素、またはその酸化物を含み、焼結体におけるこれらの不純物の合計含有量が金属元素に換算して、Zn、Nb及びInの合計に対し、0.01以下である上記(1)又は(2)に記載の酸化物焼結体。
(4) 各金属元素の酸化物換算の真密度の加重平均値に対するかさ密度の比が0.99以上である上記(1)乃至(3)いずれかに記載の酸化物焼結体。
(5) 平均粒径が3μm以下である上記(1)乃至(4)いずれかに記載の酸化物焼結体。
(6) バルク抵抗値が100Ω・cm以下である上記(1)乃至(5)いずれかに記載の酸化物焼結体。
(7) 上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の酸化物焼結体をターゲット材として用いるスパッタリングターゲット。
(8) 酸化亜鉛粉末、酸化ニオブ粉末及び酸化インジウム粉末を原料粉末として、元素の原子比が、亜鉛、ニオブ及びインジウムの含有量をそれぞれZn、Nb及びInとしたときに、
Nb/(Zn+Nb+In)=0.100以上、0.330以下
In/Nb=0.2以上、2.0以下
となるように混合する混合工程、混合工程で得られた混合粉末を用いて成形する成形工程、成形工程で得られた成形体を焼成する焼成工程を有する上記(1)乃至(6)いずれかに記載の酸化物焼結体の製造方法。
(9) 構成元素として、亜鉛、ニオブ、インジウム及び酸素を有する薄膜において、亜鉛、ニオブ及びインジウムの含有量をそれぞれZn、Nb及びInとしたときに、
Nb/(Zn+Nb+In)=0.100以上、0.330以下
In/Nb=0.2以上、2.0以下
である薄膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酸化物焼結体は、スパッタリングターゲットとして使用した場合、高パワー投入時においても、ターゲット表面からのスプラッシュがなく、安定したDC放電が可能で、高成膜レートであり、高屈折率の絶縁膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明は、構成元素として、亜鉛、ニオブ、インジウム及び酸素を有する酸化物焼結体において、亜鉛、ニオブ及びインジウムの含有量をそれぞれZn、Nb及びInとしたときに、
Nb/(Zn+Nb+In)=0.100以上、0.330以下
In/Nb=0.2以上、2.0以下
である酸化物焼結体である。ここで、各元素比はモル比を表す。
【0015】
本発明の酸化物焼結体のNb/(Zn+Nb+In)は0.100以上であり、好ましくは0.120以上、更に好ましくは0.150以上である。これにより、当該焼結体を用いてスパッタリングすることにより得られる膜の屈折率が向上する。本発明の酸化物焼結体のNb/(Zn+Nb+In)は0.330以下であり、好ましくは0.300以下、さらに好ましくは0.250以下である。これにより、酸化物焼結体のバルク抵抗が低くなるとともに、スパッタリングの際の成膜レートも向上する。
【0016】
本発明の酸化物焼結体のIn/Nbは0.2以上であり、好ましくは0.5以上、更に好ましくは1.0以上である。これにより、InとNbが十分に反応し、高抵抗のZnNb相の形成を抑制することができ、酸化物焼結体の抵抗がより低下する。一方、酸化物焼結体のIn/Nbは2.0以下である。
【0017】
本発明の焼結体は、InNbOの結晶相を有することが好ましい。InNbOの結晶相(単相のバルク抵抗10Ω・cm)は、ZnNbの結晶相(単相のバルク抵抗:1011Ω・cm以上)よりも抵抗が低いこと、さらにNbが優先的にInNbOの結晶相を形成し、導電相となるZnOがNbと反応しZnNbのような高抵抗の結晶相を形成することを抑制できることから、焼結体のバルク抵抗を低下させることができる。
【0018】
InNbO相を有することはX線回折測定により確認することができる。InNbOの結晶相は、例えば、Cuを線源とするX線回折測定(以下、「XRD」という。)において検出される回折ピークが、JCPDS(Joint Committee for Powder Diffraction Standards)のカードNo:01−083−1780を参照することで確認可能である。
【0019】
本発明は、構成元素として、亜鉛、ニオブ、インジウム及び酸素からなる酸化物焼結体であることが好ましい。すなわち、亜鉛、ニオブ、インジウム及び酸素以外の元素は、後述する不可避的な不純物を除いて含まないことが好ましい。このことは、組成分析により亜鉛、ニオブ、インジウム及び酸素以外の元素量が1000ppm以下であることにより確認できる。
【0020】
本発明の焼結体は、不可避的な不純物を含んでいてもよい。このような不純物としては、Zn、Nb、In以外の金属元素、またはその酸化物を挙げることができる。焼結体におけるこれらの不純物の合計含有量は、金属元素に換算して、Zn、Nb及びInの合計に対し、好ましくは0.01以下、さらに好ましくは0.005以下、またさらに好ましくは0.001以下である。これにより、本発明の焼結体の導電率がより向上する。ここで、Zn、Nb及びInの合計に対する不純物の比はモル比である。
【0021】
本発明の酸化物焼結体の、各金属元素の酸化物換算の真密度の加重平均値に対するかさ密度の比は0.99以上であることが好ましく、1.00以上であることがより好ましい。これにより、本発明の焼結体を含有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行う場合、アーキングが生じにくくなり、スプラッシュが生じにくい。ここで、本願のかさ密度はアルキメデス法による測定により得ることが例示できる。一方、各金属元素の酸化物換算の真密度の加重平均値は以下の方法で計算可能である。たとえば本願の焼結体がZn、Nb、Inを含む場合、まずその組成比からZnO、Nb、Inの含有量を求め、その和を分子とする。一方、各金属元素の真密度の逆数に当該含有量を乗じて、その和を分母とする。前述の分子/分母を加重平均としたものとする。すなわち、後述の式(2)で計算することができる。
【0022】
ここで、上記加重平均値の計算において用いる焼結体の組成比は、ICP、XRFのような組成分析の結果を用いてもよく、後述の本発明の焼結体を製造する方法における混合工程で用いられる原料となる酸化物粉末の混合割合の値を用いてもよい。また、当該密度の比は一般的に相対密度と呼ばれる値であるが、1.00を超えることから便宜的に密度の比と呼称している。
【0023】
本発明の酸化物焼結体は、平均粒径が3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。これにより、ターゲット表面からのスプラッシュがより抑制される。通常、平均粒径は0.5μm以上である。
【0024】
ここで、平均粒径とは、焼結体中の結晶粒子の直径の平均値を表す。、例えば、まず、焼結体を適当な大きさに切断し、必要に応じて断面をエッチングする。次に、電子顕微鏡により断面の観察像を撮る。電子顕微鏡は、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」という。)または透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」という。)を用いることができる。得られた観察像における粒子の長径を求め、その算術平均を平均粒径とすることができる。
【0025】
本発明の酸化物焼結体のバルク抵抗値は100Ω・cm以下であることが好ましく、50Ω・cm以下であることがより好ましい。これにより、スパッタリングターゲットとして使用する場合、成膜レートの低下がなく安定的にDC放電を行うことができる。
【0026】
ここで、バルク抵抗値は例えば、低電流印加方式、四端子方式による測定方法により測定することができる。
【0027】
スパッタリングの際のターゲットへの投入負荷は、投入電力をターゲット面積で割った電力密度(W/cm)で規格化される。通常生産における一般的な電力密度は1〜4W/cm程度であるが、本発明においては4W/cmを超える高パワー条件においてもアーキング発生の極めて少ない、高品質なターゲット材となる酸化物焼結体が得られる。なお、ターゲット面積とは、平板ターゲットではスパッタリングされる面の焼結体の表面積であるが、円筒ターゲットにおいてはスパッタリングされる円筒状焼結体の外周表面の面積の内、プラズマが発生する部分の面積であり、スパッタリングカソードのマグネット形状から求めるが、ここでは便宜上外周表面の6分の1の面積を用いる。
【0028】
次に、本発明の酸化物焼結体の製造方法について説明する。
【0029】
本発明の酸化物焼結体の製造方法は、酸化亜鉛粉末、酸化ニオブ粉末、及び酸化インジウム粉末を原料粉末として、元素の原子比が、亜鉛、ニオブ及びインジウムの含有量をそれぞれZn、Nb及びInとしたときに、Nb/(Zn+Nb+In)が0.100以上、0.330以下、In/Nbが0.2以上、2.0以下となるように混合する混合工程、混合工程で得られた混合粉末を用いて成形する成形工程、成形工程で得られた成形体を焼成する焼成工程を有する。
【0030】
以下、本発明の酸化物焼結体の製造方法について、工程毎に説明する。
【0031】
(1)混合工程
取り扱い性を考慮すると酸化亜鉛、酸化ニオブ及び酸化インジウム粉末の各酸化物粉末の純度は99.9%以上が好ましく、より好ましくは99.99%以上である。これにより、焼成工程における焼結体中の結晶粒子の異常粒成長を抑制することができる。
【0032】
本工程において、酸化亜鉛粉末、酸化ニオブ粉末及び酸化インジウム粉末を、元素の原子比が亜鉛、ニオブ及びインジウムの含有量をそれぞれZn、Nb及びInとしたときに、Nb/(Zn+Nb+In)が0.100以上、0.330以下、In/Nbが0.2以上、2.0以下となるように混合する。得られる混合物のNb/(Zn+Nb+In)は、0.120以上、更には0.150以上であることが好ましく、0.250以下であることがより好ましい。
【0033】
本発明の酸化物焼結体は、結晶粒子の平均粒径を小さく、かつ焼結体組織を均一にする必要がある。これにより、焼結体を用いてスパッタリングする際に、高い導電性を有するZnOを主相とする結晶粒子への電界集中を抑制できる。したがって、原料である混合粉末において、特にZnO粉末を微細化し、Nb粉末とIn粉末とを均一に混合・粉砕することが重要となる。混合の目安としては、混合前後の混合粉末のBET値の増加量が、2m/g以上となることが好ましく、3m/g以上であることがより好ましい。これにより、混合が十分となり各元素の偏析を抑制することができる。
【0034】
ここで、混合前の混合粉末のBET比表面積は、各原料粉末の混合比から下記計算式による加重平均より求める。使用するZnO粉末のBET値をBZ[m/g]、重量比をWZ[wt%]、Nb粉末のBET値をBN[m/g]、重量比をWN[wt%]、In粉末のBET値をBI[m/g]、重量比をWI[wt%]としたとき、混合粉末のBET値の加重平均は、(BZ×WZ+BN×WN+BI×WI)/100で算出される。
【0035】
さらに、混合後の混合粉末後のBET比表面積は、JIS Z 8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じた測定方法によって測定できる。当該測定は吸着ガスとして窒素を使用し、多点法でBET比表面積を求めることができる。
【0036】
さらに、高密度焼結体を得るために、混合後の混合粉末のBET値は、8m/g以上であることが好ましく、10m/g以上であることがより好ましい。通常、混合粉末のBET値は20m/g以下である。
【0037】
上記粉末の粉砕・混合方法は、十分に粉砕・混合可能であれば、特に限定されるものではないが、ジルコニア、アルミナ、ナイロン樹脂等のボールやビーズを用いた乾式、湿式のメディア撹拌型ミルやメディアレスの容器回転式混合、機械撹拌式混合等の混合方法が例示される。具体的には、ボールミル、ビーズミル、アトライタ、振動ミル、遊星ミル、ジェットミル、V型混合機、パドル式混合機、二軸遊星撹拌式混合機等が挙げられるが、容易に粉砕・混合を行うためには、分散性を高められる湿式法で、比較的粉砕能力が高い、例えば、湿式ビーズミルを用いることが好適である。
【0038】
湿式ビーズミル装置にて粉末を処理する場合、下記の条件で行うことが好ましい。
【0039】
スラリー中の固形分濃度は35wt%以上65wt%以下、より好ましくは50wt%以上60wt%以下とする。固形分濃度が高くなり過ぎると粉砕能力が低下し、所望する粉末物性値が得られない。
【0040】
粉砕メディアは、摩耗による原料への不純物混入防止も考慮し、ジルコニアビーズを用い、ビーズ径は粉砕力が高められるφ0.2mm以上0.5mm以下の範囲内とすることが好ましい。ミルに投入するビーズ量は、ミル容積に対するビーズ充填率として75vol%以上90vol%以下の範囲とすることが好ましい。
【0041】
分散剤の種類は特に問わないが、スラリー粘度の変化を一定以下に抑えることが重要である。処理のバッチによっては同一条件であってもスラリー粘度が何らかの要因によって上昇することがあるが、この場合は分散剤量を適宜調整し、スラリー粘度を常に500mPa・s以上2000mPa・s以下とすることで、安定した粉末物性を得ることが出来るため好ましい。スラリー温度も厳密に管理することが好ましく、ミル入口スラリー温度を12℃以下、好ましくは10℃以下、さらに好ましくは9℃以下に管理すると共に、ミル出口のスラリー温度を18℃以下となるように常時管理することが好ましい。通常、スラリー温度はミル入口、ミル出口ともに5℃以上である。
【0042】
ビーズの回転数は、ビーズ撹拌羽の最外周における周速として6m/sec以上15m/sec以下とする。周速が小さいと粉砕力が弱まり、目的とする粉末物性に到達するまでの処理時間が長くなり生産性が著しく劣る。一方、周速が大きいと粉砕力は強まるが、粉砕に伴う発熱が多くなり、スラリー温度が上昇し運転が困難となるため、好ましくない。
【0043】
上記条件を踏まえ、ビーズミルの運転条件を調整する。高比表面積の原料粉末を用いた場合であっても、原料粉末の分散性を考慮して、少なくともミル内への粉砕パス回数を10回以上の処理回数となる処理時間とすることが好ましい。
【0044】
湿式混合処理を行った後のスラリーは、鋳込み成形等の湿式成形方法では、スラリーをそのまま用いることが可能であるが、乾式で成形する場合には、粉末の流動性が高く成形体密度が均一となる乾燥造粒粉末を用いるのが望ましい。造粒方法については限定しないが、噴霧造粒、流動層造粒、転動造粒、撹拌造粒などが使用できる。特に、操作が容易で、多量に処理できる噴霧造粒を用いることが望ましい。なお、成形処理に際しては、ポリビニルアルコール、アクリル系ポリマー、メチルセルロース、ワックス類、オレイン酸等の成形助剤を原料粉末に添加しても良い。
【0045】
(2)成形工程
成形方法は、混合工程で得られた混合粉末を目的とした形状に成形できる成形方法を適宜選択することが可能であり、特に限定されるものではない。プレス成形法、鋳込み成形法、射出成形法等が例示できる。
【0046】
成形圧力は成形体にクラック等の発生がなく、取り扱いが可能な成形体が得られる圧力であれば特に限定されるものではないが、成形密度は可能な限り高めた方が好ましい。そのために冷間静水圧プレス(CIP)成形等の方法を用いることも可能である。CIP圧力は充分な圧密効果を得るため1ton/cm以上が好ましく、さらに好ましくは2ton/cm以上、とりわけ好ましくは2ton/cm以上3ton/cm以下である。
【0047】
(3)焼成工程
次に、成形工程で得られた成形体を焼成する。焼成は、高密度で均一な焼結体が得られる焼成方法を適宜選択することが可能であり、一般的な抵抗加熱式の電気炉やマイクロ波加熱炉等を使用することができる。
【0048】
焼成条件としては、例えば、焼成保持温度は1150℃以上1300℃以下で、保持時間は0.5時間以上10時間以下が好ましく、より好ましくは1時間以上5時間以下である。焼成温度が低く、保持時間が短い場合、焼結体の密度が低下するため、好ましくない。一方、焼成温度が高く、保持時間が長い場合、結晶粒子が成長し各元素の微視的な偏析の原因となるため、好ましくない。微視的な偏析があると、スパッタリング中にZnOを主相とする導電相への電界集中が顕著となり、導電相中のZnOが還元され低融点の金属Znとなり、ターゲット表面からスプラッシュが発生してしまう。焼成雰囲気は、酸化性雰囲気である大気雰囲気または酸素雰囲気いずれも可能であり、特別な雰囲気制御を必要とせず、大気雰囲気中での焼成が可能である。
【0049】
本発明の製造方法は。必要に応じて以下のターゲット化工程を含んでもよい。
【0050】
(4)ターゲット化工程
焼成工程により得られた焼結体は、平面研削盤、円筒研削盤、旋盤、切断機、マシニングセンター等の機械加工機を用いて、板状、円状、円筒状等の所望の形状に研削加工する。さらに、必要に応じて無酸素銅やチタン等からなるバッキングプレート、バッキングチューブにインジウム半田等を用いて接合(ボンディング)することにより、本発明の焼結体をターゲット材としたスパッタリングターゲットを得ることができる。
【0051】
上述したスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行い成膜することで、構成元素として、亜鉛、ニオブ、インジウム及び酸素を有する薄膜において、亜鉛、ニオブ及びインジウムの含有量をそれぞれZn、Nb及びInとしたときに、
Nb/(Zn+Nb+In)=0.100以上、0.330以下
In/Nb=0.2以上、2.0以下
である薄膜が得られる。このような薄膜は高屈折率であり、絶縁膜として好適に用いることができる。得られる混合物のNb/(Zn+Nb+In)は、0.120以上、更には0.150以上であることが好ましく、0.250以下であることがより好ましい。
【0052】
本発明の薄膜の屈折率は好ましくは2.00以上、さらに好ましくは2.05以上である。これにより、屈折率調整用の膜として好適に使用することができる。通常、本発明の薄膜の屈折率は2.3以下である。ここで、屈折率は例えば、分光エリプソメーターを用いて測定することができる。
【0053】
本発明の薄膜の抵抗率は好ましくは10Ω・cm以上、さらに好ましくは10Ω・cm以上である。これにより、絶縁膜として好適に使用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例における各測定は以下のように行った。
(1)焼結体の密度及び密度比
焼結体の密度比は、JIS R 1634に準拠して、アルキメデス法により測定したかさ密度(以下、「d」という。)を、各金属元素の酸化物換算の真密度の加重平均値(以下、「d」という。)で割って求めた。
【0055】
密度比=d/d ・・・(1)式

は、Zn、Nb、Inを酸化物に換算して、それぞれZnO、Nb、Inとしたときに、それぞれの量a[g]、b[g]、c[g]と、それぞれの真密度5.606[g/cm]、4.542[g/cm]、7.180[g/cm]を用いて、下記式でより算出した。ここで、a、b、cは簡便な方法として、製造工程における粉末混合割合を用いた。
【0056】
=(a+b+c)/((a/5.606)+(b/4.542)+(c/7.180))
・・・(2)式

なお、実際の焼結体では、複合酸化物相の存在や、各元素の固溶などの要因から、本願の焼結体の真密度を求めることは困難である。本願では各金属元素の酸化物の加重平均に対するかさ密度の比として、慣例的な相対密度と同様の方法で求めたのだが、密度比が1.00を超える場合がある。
(2)平均粒径
焼結体を切断し、その断面を鏡面研磨した後、熱処理することでサーマルエッチングした。その後、SEM(製品名:VE−9800、キーエンス社製)で焼結体のエッチング面を観察し、得られたSEM観察像(倍率:×3000倍)から直径法で焼結体断面の粒子の平均粒径を測定した。サンプルは任意の3点以上を観察し、各々100個以上の粒子の測定を行った。
(サーマルエッチング条件)
温度 :900℃
時間 :30min
(3)抵抗率の測定
焼結体表面より1mm以上研削した後の任意の部分より切り出した10サンプルの平均値を測定データとした。
試料サイズ:10mm×20mm×1mm
測定方法 :4端子法
測定装置 :ロレスタHP MCP−T410(三菱油化製)
(4)X線回折試験
鏡面研磨した焼結体試料の2θ=20°以上70°以下の範囲のX線回折パターンを測定した。
走査方法 :ステップスキャン法(FT法)
X線源 :CuKα
パワー :40kV、40mA
ステップ幅:0.01°
(5)BET比表面積
JIS Z 8830に準じた測定により、試料のBET比表面積を求めた。測定には、一般的な比表面積測定装置(商品名:TriStar3000、島津製作所製)を用いた。前処理として試料を200℃(室温から90℃:5℃/分、90℃から200℃:10℃/分)で20分保持した。前処理後の試料についてBET比表面積を測定した。測定条件は以下のとおりである。
【0057】
処理ガス :窒素ガス
測定方法 :多点法
(6)スパッタリング評価
得られた焼結体を101.6mmΦ×6mmtに加工した後、無酸素銅製のバッキングプレートにインジウムハンダによりボンディングしてスパッタリングターゲットとした。このターゲットを用いて下記の条件で、成膜評価した後、DC放電の安定性評価を行なった。
【0058】
成膜評価で得られた薄膜試料の屈折率は、分光エリプソメーター(商品名:M−2000V−Te、J.A.Woollam社製)で測定し、波長550nmの値を用いた。また、成膜レートは、成膜評価のスパッタリング条件で30分間成膜した薄膜試料を作製し、その膜厚を表面形状測定器(商品名:Dektak3030、アルバック社製)で測定し算出した。
(成膜評価のスパッタリング条件)
ガス :アルゴン+酸素(3%)
圧力 :0.6Pa
電源 :DC
投入パワー:200W(2.4W/cm
膜厚 :80nm
基板 :無アルカリガラス(コーニング社製EAGLE XG、厚み0.7mm)
基板温度 :室温
(DC放電安定性評価のスパッタリング条件)
ガス :アルゴン+酸素(3%)
圧力 :0.6Pa
電源 :DC
投入パワー:600W(7.4W/cm
800W(9.9W/cm
放電時間 :30min
評価 :放電後のターゲット表面のスプラッシュの個数(目視)
(実施例1)
BET値3.8m/gの酸化亜鉛粉末(純度99.9%以上)と、BET値5.4m/gの酸化ニオブ粉末(純度99.9%以上)、及びBET値11.5m/gの酸化インジウム粉末(純度99.9%以上)を、Nb/(Zn+Nb+In)で0.207、及びIn/Nbで1.0の割合となるように秤量した。秤量した粉末を純水10kgにてスラリー化し、ポリアクリレート系分散剤を全粉末量に対して0.1wt%入れ、固形分濃度60%のスラリーを調製した。内容積2.5Lのビーズミル装置にφ0.3mmジルコニアビーズを85%充填し、ミル周速7.0m/sec、スラリー供給量2.5L/minにてスラリーをミル内に循環させ、粉砕、混合処理を行った。さらに、スラリー供給タンクの温度を8℃以上9℃以下、スラリー出口温度を14℃以上16℃以下の範囲内で温度管理を行い、ミル内の循環回数(パス回数)は20回とした。その後、得られたスラリーを噴霧乾燥し、乾燥後の粉末を150μmの篩に通し、プレス成形法により300kg/cmの圧力で120mm×120mm×8mmtの成形体を作製後、2ton/cmの圧力でCIP処理した。
【0059】
次にこの成形体をアルミナ製のセッターの上に設置して、抵抗加熱式の電気炉(炉内容積:250mm×250mm×250mm)にて以下の焼成条件で焼成した。得られた焼結体及びスパッタリングターゲットのスパッタリング評価結果を表1に示す。
(焼成条件)
焼成温度:1250℃
保持時間:3時間
昇温速度:950℃〜1250℃ 300℃/hr
その他の温度域 100℃/hr
雰囲気 :大気雰囲気
降温速度:950℃まで 100℃/hr
950℃以降 150℃/hr。
【0060】
(実施例2〜8、比較例1〜3)
組成を表1の内容に変更した以外は実施例1と同様の方法(実施例7と8はビーズミルのパス回数をそれぞれ15回と10回に変更した)で焼結体を作製した。比較例2と3は焼結体のバルク抵抗が高くDC放電が出来なかった。得られた焼結体の評価結果を表1に示す。
【0061】
(薄膜抵抗率の測定)
実施例1〜8で得られた薄膜の抵抗率の測定をロレスタHP MCP−T410(三菱油化製)を用いて4端子法で行った。薄膜抵抗は全て10Ω・cm以上の高抵抗膜であった。
【0062】
(参考例)
101.6mmΦ×6mmtサイズの還元Nbターゲット(豊島製作所社製)を用いて、実施例と同じ成膜評価のスパッタリング条件で成膜を行った。成膜レートは、スパッタガスがアルゴン+酸素(3%)のとき、9.0nm/minであり、薄膜の透過率が酸素ガスに対して飽和するアルゴン+酸素(5%)のとき、7.4nm/minであった。
【0063】
【表1】