【実施例】
【0011】
図1は、本発明の実施例を示すもので、打音発生機構1は、牽引方向(
図1では左方向)前端に設けられた前方ハブ2と、牽引方向後端に設けられた後方ハブ3と、前方に出力軸4aを備え、後方が後方ハブ3に嵌着支持されるモータ4とを備えている。
前方ハブ2と後方ハブ3間は、周方向に均等な角度ごとに弾性バー5により連結されており、
図1では、36°ごとに10本設けられている。これらの弾性バー5は、円弧を形成するように屈曲させた状態で、両端部が前方ハブ2と後方ハブ3に斜めに差し込まれており、弾性バー5の長さを設定することで、各弾性バー5が広がろうとする力が釣り合って、前方ハブ2と後方ハブ3間で湾曲し、最大径が配管径より数ミリ程度大きいケージ部6を形成している。
【0012】
これにより、配管内部においては、湾曲する各弾性バー5の頂点が、配管内壁に対し所定の弾発力で均等に押圧された状態となり、ケージ部6のセンタリングを行う。
なお、この実施例では、弾性バー5は、結束バンドに用いられているインシュロック(登録商標)により形成され、断面が1.7mm(幅)×0.7mm(厚さ)の長方形である。
【0013】
前方ハブ2の前端には、牽引ケーブル7が接続されており、配管の他端外方に設置された電動巻き取り機が打音発生機構1を所定速度で牽引する。
また、後方ハブ3の後方には、電源・音声信号ケーブル8を介して、配管の法線に対し上下方向に指向する2個の集音マイク9が設けられており、その後方には、電源・音声信号ケーブル8が延び、後述するDC電源及び解析装置に接続されている。
【0014】
各弾性バー5の頂点と配管内壁との間に作用する摩擦力は、牽引ケーブル7によるスムースな牽引が可能となるよう、牽引方向(打音発生機構1の中心軸方向)に小さく、一方、後述するハンマー回転部10の回転による反作用により、ケージ部6自体が回転しないよう、周方向に大きくすることが好ましい。このため、弾発力を最適な値に調整したうえで、各弾性バー5の表面に軸方向に延びる溝を設けることにより、あるいは、打音発生機構1の中心軸に直交する断面形状において、厚さを小さくすることにより(上記の例では0.7mm)法線方向の剛性を下げ、幅を大きくすることにより(上記の例では1.7mm)周方向の剛性を高めるようにするとよい。
【0015】
モータ4の出力軸4aには、ハンマー回転部10が取り付けられており、その外周には、先端にベアリングなどの打音部11aを備えた弾性ハンマー11が取り付けられている。
弾性ハンマー11は弾性部材で形成されており、その先端に取り付けられた打音部11aが配管内壁を適度な押圧力で押圧するよう、弾性ハンマー11の形状、長さ、弾性係数が選定されている。
【0016】
図2は、前方ハブ2を牽引方向前方側からみた図であり、この実施例では、弾性ハンマー11はモータ4により時計方向に回転し、弾性ハンマー11は、回転方向に向けて凸となるよう円弧状に湾曲している。
モータ4によりハンマー回転部10が回転すると、その外周に取り付けられた弾性ハンマー11が回転する。この回転に伴い、先端の打音部11aが弾性バー5のひとつを乗り上げると、弾性ハンマー11が屈曲して弾性力を蓄積する。弾性バー5が通過すると、蓄積された弾性力により、弾性ハンマー11先端の打音部11aが配管内壁に向けて弾かれ、このとき打音を発生することになる。この打音は、打音部11aが、次の弾性バー5を通過するたびに発生する。
【0017】
図3は、本実施例の打音発生機構1が、直角に屈曲した配管を通過する際のケージ部6の挙動を示している。(a)のように打音発生機構1が直角屈曲部に近接した後、(b)のように、ケージ部6の弾性バー5の一部が直角屈曲部の内周端に接触する。
さらに牽引されると、弾性バー5と直角屈曲部の内周端との接触部を起点として弾性バー5がたわみ、(c)のように、直角屈曲部の外周側の弾性バー5とともに球形状となり、スムースな通過が可能となる。
【0018】
なお、配管内径とケージ部6の寸法、形状によっては、
図4に示すように、直角屈曲部の内周端側に弾性バー5にへこみが発生し、摩擦抵抗が急増するために、直角屈曲部の通過が不可能になるおそれがある。
そこで、
図5に示すように、弾性バー5を、前方ハブ2側に接続される前方部5aと、後方ハブ3側に接続される後方部5bに2分割し、後方部5bの先端に設けたスライド部5cに前方部5aの先端を差し込み、配管内壁との接触圧に応じて弾性バー5を伸縮可能とし、直角屈曲部の通過時、接触圧が増大する内周側の弾性バー5を収縮させるようにしてもよい。
【0019】
また、
図6に示すように、配管の形態に応じて、打音発生機構1の前方あるいは後方の少なくとも一方に、打音発生機構1のケージ構造と同様の調心機構やマイクポップノイズ低減用ケージ、配管内径と同じ直径のボール形状や円錐形状の調心機構や放射状ブラシを連結することで、牽引時に発生する打音発生機構1のピッチングや、打音以外のノイズを防止して、確実な打音が行われるようにしてもよい。
【0020】
打音発生機構1により発生する打音は、集音マイク9により計測され、その音声信号は、
図7に示すように、電源・音声信号ケーブル8を介して解析ユニット12に入力され、電動巻き取り機13からの巻き取り量信号に基づき、配管の位置に対応させて記録され、音響解析が行われたのち、表示・出力装置14に出力される。弾性ハンマー11をモータ4により駆動するための電流は、DC電源15より電源・音声信号ケーブル8を介して供給される。
【0021】
本実施例の打音発生機構を用いた実験について説明する。打音発生機構は、弾性バー5を60度毎に6本備えたものを用い、配管は、内径25mm、外径35mm(肉厚5mm)、長さ150cmの鉄製配管、牽引ケーブルとしてダイニーマ糸を用いた。
図8に示すように、鉄製配管には、右端から30cm地点に彫り込み深さ1mm、長さ5cmの削り取り部を、以下20cmの間隔を置いて、彫り込み深さ1.5mm、2mm、2.5mm、長さがそれぞれ5cmの削り取り部を設け、彫り込み深さ2.5mmの左方に15cmの間隔を置いて、彫り込み深さ3mm、長さ5cmの削り取り部を設けた。
【0022】
ハンマー回転部10を駆動するモータ4の電圧を10Vとし、電動巻き取り機13による牽引速度を3cm/s(speed 2)、4cm/s(speed 3)、5cm/s(speed 4)、6.5cm/s(speed 5)、7.5cm/s(speed 6)、8.5cm/s(speed 7)でそれぞれ2回ずつ行った。
【0023】
図9は、音響解析の手順を示しており、記録した打音ファイルを入力し、時間・周波数変換を行う。そして、パイプ反響周波数域を検知し、統計処理により以上箇所の検知を行い、状態評価の結果を出力させた。
図10は、これら12回の計測結果であり、上段は左から、牽引速度を3cm/s(speed 2)、4cm/s(speed 3)としたときのそれぞれ2回ずつの計測結果を、中段は左から、牽引速度を5cm/s(speed 4)、6.5cm/s(speed 5)としたときのそれぞれ2回ずつの計測結果を、下段は左から、牽引速度を7.5cm/s(speed 6)、8.5cm/s(speed 7)、としたときのそれぞれ2回ずつの計測結果を示している。
この結果から、牽引速度が速いケースでも削り深さ2mm以上(肉厚5mmに対して40%以上の腐食)に関して、異常を検知できることが確認できた。
【0024】
計測結果には、牽引速度、ハンマー回転部10の回転速度、弾性バー5の厚さ、打音部の材質など、様々な要素が影響するものと考えられ、配管の形状、曲率、内径、材質に応じて最適なものを選択する必要がある。