特許第6800448号(P6800448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800448
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】回転駆動式打音機構
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20201207BHJP
   G01N 29/265 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   G01N29/04
   G01N29/265
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-71903(P2017-71903)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-173354(P2018-173354A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2019年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】神村 明哉
【審査官】 村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−300958(JP,A)
【文献】 特開2014−115202(JP,A)
【文献】 特開平04−043989(JP,A)
【文献】 特開2003−333719(JP,A)
【文献】 実開昭62−035258(JP,U)
【文献】 実開昭63−073668(JP,U)
【文献】 米国特許第05329824(US,A)
【文献】 特開昭60−249049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引ケーブルにより牽引される前方ハブと、後方ハブと、両端が両ハブのそれぞれに連結され、円周方向にわたり一定間隔に配置され、かつ、円弧状に湾曲するよう連結された複数の弾性バーとからなるケージ部と、
前記前方ハブと前記後方ハブの一方に固定されるモータと、このモータにより駆動され、前記ケージ部に対し回転されるハンマー回転部と、
前記ハンマー回転部に取り付けられ、先端に打音部を備えた弾性ハンマーとからなり、
前記ケージ部が配管内部に挿入されたとき、前記弾性バーの頂点を配管内壁に対し弾圧させることにより、前記弾性バーのそれぞれが、前記ハンマー回転部の中心軸を配管の中心軸と一致するようセンタリングを行うとともに、
前記ハンマー回転部の回転により、前記弾性ハンマーの打音部が前記弾性バーを乗り越える際に蓄えられた弾発力により、その次の弾性バーとの間で配管内壁を叩き、打音を行うようにしたことを特徴とする回転駆動式打音機構。
【請求項2】
前記弾性バーの両端部が前記前方ハブと前記後方ハブのそれぞれに斜めに差し込まれており、前記弾性バーの長さを設定することにより、前記弾性バーのそれぞれが広がろうとする力を均衡させ、前記弾性バーが前記前方ハブと前記後方ハブ間で湾曲して、最大径が配管径よりわずかに大きい前記ケージ部を形成することを特徴とする請求項1に記載された回転駆動式打音機構。
【請求項3】
前記弾性バーを前記前方ハブ側に接続される前方部と、前記後方ハブ側に接続される後方部とに2分割し、両者を互いにスライド可能に接続することにより、配管内壁との接触圧に応じて前記弾性バーを伸縮可能としたことを特徴とする請求項1または2に記載された回転駆動式打音機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、化学プラントにおける配管検査に用いる、回転駆動式打音機構に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラント等においては、多くの配管が施設内に敷設されており、万一漏洩事故が発生すると火災、有害ガスの発生など、深刻な事態を招くおそれがある。
特に、配管内部の腐食や、保温材下の配管外面腐食(CUI)は、目視検査では腐食の進行を確認することができない。
このため、従来から、AE法(アコースティックエミッション)による検査や、CCDカメラユニット、渦電流探傷ユニット等の検査ユニットを配管内部に挿通して行う検査が採用されている。
【0003】
特許文献1には、検査用の連結車両にCCDカメラユニットや渦電流探傷ユニットを搭載した配管検査装置が記載されている。
また、特許文献2には検査装置ヘッドに接続される回転駆動部に、剛性の異なるケーブルを多段に連結した配管検査機構が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−241474号公報
【特許文献2】特開平11−125385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、AE法による配管検査では、機器が高価であるばかりか、設置が煩雑で、電磁ノイズの影響で検査精度の悪化を招くおそれがある。
また、特許文献1、2に開示される配管検査装置も機構が煩雑で、特に屈曲した細管等では、配管内部をスムースに移動できず、屈曲角度が大きいところでは検査装置がロックしてしまい、検査が不能になる、さらには、取り出すこと自体不可能になるといった問題があった。
【0006】
そこで本発明の目的は、配管内部の形状に合わせて柔軟に屈曲することで、スムースな通過を可能にするとともに、モータにより回転駆動される弾性ハンマーにより、全管路長にわたって、腐食の進行度などの正確な検査、診断を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するため、本発明の回転駆動式打音機構では、牽引ケーブルにより牽引される前方ハブと、後方ハブと、両端が両ハブのそれぞれに連結され、円周方向にわたり一定間隔に配置され、かつ、円弧状に湾曲するよう連結された複数の弾性バーとからなるケージ部と、前方ハブと後方ボスの一方に固定されるモータと、このモータにより駆動され、ケージ部に対し回転されるハンマー回転部と、ハンマー回転部に取り付けられ、先端に打音部を備えた弾性ハンマーとからなり、ケージ部が配管内部に挿入されたとき、弾性バーの頂点を配管内壁に対し弾圧させることにより、弾性バーがハンマー回転部の中心軸を配管の中心軸と一致するようセンタリングを行うとともに、ハンマー回転部の回転により、弾性ハンマーの打音部が弾性バーを乗り越える際に蓄えられた弾発力により、その次の弾性バーとの間で配管内壁を叩き、打音するようにした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ケージ部が配管内部の形状に合わせて柔軟に屈曲することで、スムースな通過を可能にするとともに、モータにより回転駆動される弾性ハンマーにより、周期的に打音を発生させることができ、この打音を音響解析することで、配管検査装置の小型軽量化、低コスト化を実現し、屈曲部を有する細管であっても、全管路長にわたって、腐食の進行度などの正確な検査、診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例の全体構成を示す図である。
図2図2は、前方ハブ2を牽引方向前方側からみた図である。
図3図3は、直角に屈曲した配管を通過する際のケージ部6の挙動を示す図である。
図4図4は、配管直角屈曲部で弾性バー5にへこみが発生する様子を示す図である。
図5図5は、弾性バー5の長さを可変にした変形例を示す図である。
図6図6は、打音発生機構1の前後に調心機構、マイクポップノイズ低減用ケージを設けた変形例を示す図である。
図7図7は、本実施例を用いた配管検査装置のシステム図である。
図8図8は、実験に用いた腐食模擬配管を示す図である。
図9図9は、打音発生機構1により得られた打音の音響解析の手順を示す図である。
図10図10は、音響解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の実施例を示すもので、打音発生機構1は、牽引方向(図1では左方向)前端に設けられた前方ハブ2と、牽引方向後端に設けられた後方ハブ3と、前方に出力軸4aを備え、後方が後方ハブ3に嵌着支持されるモータ4とを備えている。
前方ハブ2と後方ハブ3間は、周方向に均等な角度ごとに弾性バー5により連結されており、図1では、36°ごとに10本設けられている。これらの弾性バー5は、円弧を形成するように屈曲させた状態で、両端部が前方ハブ2と後方ハブ3に斜めに差し込まれており、弾性バー5の長さを設定することで、各弾性バー5が広がろうとする力が釣り合って、前方ハブ2と後方ハブ3間で湾曲し、最大径が配管径より数ミリ程度大きいケージ部6を形成している。
【0012】
これにより、配管内部においては、湾曲する各弾性バー5の頂点が、配管内壁に対し所定の弾発力で均等に押圧された状態となり、ケージ部6のセンタリングを行う。
なお、この実施例では、弾性バー5は、結束バンドに用いられているインシュロック(登録商標)により形成され、断面が1.7mm(幅)×0.7mm(厚さ)の長方形である。
【0013】
前方ハブ2の前端には、牽引ケーブル7が接続されており、配管の他端外方に設置された電動巻き取り機が打音発生機構1を所定速度で牽引する。
また、後方ハブ3の後方には、電源・音声信号ケーブル8を介して、配管の法線に対し上下方向に指向する2個の集音マイク9が設けられており、その後方には、電源・音声信号ケーブル8が延び、後述するDC電源及び解析装置に接続されている。
【0014】
各弾性バー5の頂点と配管内壁との間に作用する摩擦力は、牽引ケーブル7によるスムースな牽引が可能となるよう、牽引方向(打音発生機構1の中心軸方向)に小さく、一方、後述するハンマー回転部10の回転による反作用により、ケージ部6自体が回転しないよう、周方向に大きくすることが好ましい。このため、弾発力を最適な値に調整したうえで、各弾性バー5の表面に軸方向に延びる溝を設けることにより、あるいは、打音発生機構1の中心軸に直交する断面形状において、厚さを小さくすることにより(上記の例では0.7mm)法線方向の剛性を下げ、幅を大きくすることにより(上記の例では1.7mm)周方向の剛性を高めるようにするとよい。
【0015】
モータ4の出力軸4aには、ハンマー回転部10が取り付けられており、その外周には、先端にベアリングなどの打音部11aを備えた弾性ハンマー11が取り付けられている。
弾性ハンマー11は弾性部材で形成されており、その先端に取り付けられた打音部11aが配管内壁を適度な押圧力で押圧するよう、弾性ハンマー11の形状、長さ、弾性係数が選定されている。
【0016】
図2は、前方ハブ2を牽引方向前方側からみた図であり、この実施例では、弾性ハンマー11はモータ4により時計方向に回転し、弾性ハンマー11は、回転方向に向けて凸となるよう円弧状に湾曲している。
モータ4によりハンマー回転部10が回転すると、その外周に取り付けられた弾性ハンマー11が回転する。この回転に伴い、先端の打音部11aが弾性バー5のひとつを乗り上げると、弾性ハンマー11が屈曲して弾性力を蓄積する。弾性バー5が通過すると、蓄積された弾性力により、弾性ハンマー11先端の打音部11aが配管内壁に向けて弾かれ、このとき打音を発生することになる。この打音は、打音部11aが、次の弾性バー5を通過するたびに発生する。
【0017】
図3は、本実施例の打音発生機構1が、直角に屈曲した配管を通過する際のケージ部6の挙動を示している。(a)のように打音発生機構1が直角屈曲部に近接した後、(b)のように、ケージ部6の弾性バー5の一部が直角屈曲部の内周端に接触する。
さらに牽引されると、弾性バー5と直角屈曲部の内周端との接触部を起点として弾性バー5がたわみ、(c)のように、直角屈曲部の外周側の弾性バー5とともに球形状となり、スムースな通過が可能となる。
【0018】
なお、配管内径とケージ部6の寸法、形状によっては、図4に示すように、直角屈曲部の内周端側に弾性バー5にへこみが発生し、摩擦抵抗が急増するために、直角屈曲部の通過が不可能になるおそれがある。
そこで、図5に示すように、弾性バー5を、前方ハブ2側に接続される前方部5aと、後方ハブ3側に接続される後方部5bに2分割し、後方部5bの先端に設けたスライド部5cに前方部5aの先端を差し込み、配管内壁との接触圧に応じて弾性バー5を伸縮可能とし、直角屈曲部の通過時、接触圧が増大する内周側の弾性バー5を収縮させるようにしてもよい。
【0019】
また、図6に示すように、配管の形態に応じて、打音発生機構1の前方あるいは後方の少なくとも一方に、打音発生機構1のケージ構造と同様の調心機構やマイクポップノイズ低減用ケージ、配管内径と同じ直径のボール形状や円錐形状の調心機構や放射状ブラシを連結することで、牽引時に発生する打音発生機構1のピッチングや、打音以外のノイズを防止して、確実な打音が行われるようにしてもよい。
【0020】
打音発生機構1により発生する打音は、集音マイク9により計測され、その音声信号は、図7に示すように、電源・音声信号ケーブル8を介して解析ユニット12に入力され、電動巻き取り機13からの巻き取り量信号に基づき、配管の位置に対応させて記録され、音響解析が行われたのち、表示・出力装置14に出力される。弾性ハンマー11をモータ4により駆動するための電流は、DC電源15より電源・音声信号ケーブル8を介して供給される。
【0021】
本実施例の打音発生機構を用いた実験について説明する。打音発生機構は、弾性バー5を60度毎に6本備えたものを用い、配管は、内径25mm、外径35mm(肉厚5mm)、長さ150cmの鉄製配管、牽引ケーブルとしてダイニーマ糸を用いた。
図8に示すように、鉄製配管には、右端から30cm地点に彫り込み深さ1mm、長さ5cmの削り取り部を、以下20cmの間隔を置いて、彫り込み深さ1.5mm、2mm、2.5mm、長さがそれぞれ5cmの削り取り部を設け、彫り込み深さ2.5mmの左方に15cmの間隔を置いて、彫り込み深さ3mm、長さ5cmの削り取り部を設けた。
【0022】
ハンマー回転部10を駆動するモータ4の電圧を10Vとし、電動巻き取り機13による牽引速度を3cm/s(speed 2)、4cm/s(speed 3)、5cm/s(speed 4)、6.5cm/s(speed 5)、7.5cm/s(speed 6)、8.5cm/s(speed 7)でそれぞれ2回ずつ行った。
【0023】
図9は、音響解析の手順を示しており、記録した打音ファイルを入力し、時間・周波数変換を行う。そして、パイプ反響周波数域を検知し、統計処理により以上箇所の検知を行い、状態評価の結果を出力させた。
図10は、これら12回の計測結果であり、上段は左から、牽引速度を3cm/s(speed 2)、4cm/s(speed 3)としたときのそれぞれ2回ずつの計測結果を、中段は左から、牽引速度を5cm/s(speed 4)、6.5cm/s(speed 5)としたときのそれぞれ2回ずつの計測結果を、下段は左から、牽引速度を7.5cm/s(speed 6)、8.5cm/s(speed 7)、としたときのそれぞれ2回ずつの計測結果を示している。
この結果から、牽引速度が速いケースでも削り深さ2mm以上(肉厚5mmに対して40%以上の腐食)に関して、異常を検知できることが確認できた。
【0024】
計測結果には、牽引速度、ハンマー回転部10の回転速度、弾性バー5の厚さ、打音部の材質など、様々な要素が影響するものと考えられ、配管の形状、曲率、内径、材質に応じて最適なものを選択する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、配管検査装置の小型軽量化、低コスト化が可能となり、屈曲部を有する細管であっても、全管路長にわたって、腐食の進行度などの正確な検査、診断を行うことができるので、 化学プラント等における各種配管の検査装置として広く採用されることが期待できる。
【符号の説明】
【0026】
1・・・打音発生機構
2・・・前方ハブ
3・・・後方ハブ
4・・・モータ
5・・・弾性バー
6・・・ケージ部
7・・・牽引ケーブル
8・・・電源・音声信号ケーブル
9・・・集音マイク
10・・・ハンマー回転部
11・・・弾性ハンマー
11a・・打音部
12・・・解析ユニット
13・・・電動巻き取り機
14・・・表示・出力装置
15・・・DC電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10