特許第6800470号(P6800470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アイシーエレクトロニクスの特許一覧 ▶ 学校法人日本大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

特許6800470miRNAをマーカーとする歯周炎検査キット、及び検査方法
<>
  • 特許6800470-miRNAをマーカーとする歯周炎検査キット、及び検査方法 図000008
  • 特許6800470-miRNAをマーカーとする歯周炎検査キット、及び検査方法 図000009
  • 特許6800470-miRNAをマーカーとする歯周炎検査キット、及び検査方法 図000010
  • 特許6800470-miRNAをマーカーとする歯周炎検査キット、及び検査方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800470
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】miRNAをマーカーとする歯周炎検査キット、及び検査方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6809 20180101AFI20201207BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20201207BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20201207BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20201207BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20201207BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20201207BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   C12Q1/6809 Z
   C12Q1/6837 Z
   C12N15/113 Z
   G01N33/50 G
   G01N33/50 P
   G01N37/00 102
   C12N15/09 200
   C12M1/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-516243(P2018-516243)
(86)(22)【出願日】2016年5月10日
(86)【国際出願番号】JP2016063846
(87)【国際公開番号】WO2017195268
(87)【国際公開日】20171116
【審査請求日】2019年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】515080179
【氏名又は名称】株式会社アイシーエレクトロニクス
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【弁理士】
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】大島 光宏
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋子
(72)【発明者】
【氏名】堀江 真史
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 朗
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 隆英
(72)【発明者】
【氏名】岩本 久美
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−206483(JP,A)
【文献】 特開2010−256190(JP,A)
【文献】 特開2004−129584(JP,A)
【文献】 OGATA, Y. et al.,"MicroRNA expression in inflamed and noninflamed gingival tissues from Japanese patients.",J. ORAL SCI.,2014年12月,Vol.56, No.4,pp.253-260,ISSN 1343-4934
【文献】 XIE, Y.F. et al.,"Comparison of microRNA profiles of human periodontal diseased and healthy gingival tissues.",INT. J. ORAL SCI.,2011年 7月,Vol.3, No.3,pp.125-134,ISSN 1674-2818
【文献】 STOECKLIN-WASMER, C. et al.,"MicroRNAs and their target genes in gingival tissues.",J. DENT. RES.,2012年10月,Vol.91, No.10,pp.934-940,ISSN 0022-0345
【文献】 PERRI, R. et al.,"MicroRNA modulation in obesity and periodontitis.",J. DENT. RES.,2012年 1月,Vol.91, No.1,pp.33-38,ISSN 0022-0345
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 3/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯周炎の診断を補助する方法であって、
歯毎に採取された歯肉溝滲出液からmiRNAを抽出し、
得られた試料中の歯周炎患者で発現増強するmiRNAとしてhsa−miR−223−3p、及び歯周炎患者で発現減少するmiRNAとしてhsa−miR−200c−3pのmiRNA量と、
hsa−miR−101−3p、hsa−miR−374a−5p、hsa−miR−582−5p、hsa−miR−145−5p、hsa−miR−20a−3p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−26b−5p、hsa−miR−301a−3p、hsa−miR−140−5p、hsa−miR−590−5p、hsa−miR−30e−5p、hsa−miR−19a−3p、hsa−miR−338−3p、hsa−miR−126−5p、hsa−miR−144−5p、hsa−miR−144−3p、hsa−miR−30e−3p、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−16−5p、hsa−miR−19b−3p、hsa−miR−15a−5p、hsa−miR−142−5p、hsa−miR−143−3p、hsa−miR−106b−5pからなる歯周炎患者で発現増強するmiRNA群から選択される少なくとも1つ、
及びhsa−miR−31−3p、hsa−miR−181b−5p、hsa−miR−203a、hsa−miR−200c−5p、hsa−miR−187−3p、hsa−miR−200b−5p、hsa−miR−99a−5p、hsa−miR−320a、hsa−miR−210−3p、hsa−miR−125a−5p、hsa−let−7i−5p、hsa−miR−100−5p、hsa−miR−155−5p、hsa−miR−21−3p、hsa−miR−200a−5p、hsa−miR−200b−3p、hsa−let−7e−5p、hsa−miR−222−3p、hsa−miR−125b−5p、hsa−miR−205−5p、hsa−let−7b−5p、hsa−miR−193b−3p、hsa−miR−221−3p、hsa−miR−365a−3p、hsa−miR−22−3pからなる歯周炎患者で発現減少するmiRNA群から選択される少なくとも1つのmiRNA量を検出し、
参照標準として、hsa−miR−324−5p、hsa−miR−29c−5p、hsa−miR−107、hsa−miR−324−3p、hsa−miR−30d−5pの少なくとも1つ以上を用い、
参照標準に対して比較解析することを特徴とする検査方法。
【請求項2】
歯周炎の診断を補助する方法であって、
歯毎に採取された歯肉溝滲出液からmiRNAを抽出し、
hsa−miR−223−3p、hsa−miR−101−3p、hsa−miR−374a−5p、hsa−miR−582−5p、hsa−miR−145−5p、hsa−miR−20a−3p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−26b−5p、hsa−miR−301a−3p、hsa−miR−140−5p、hsa−miR−590−5p、hsa−miR−30e−5p、hsa−miR−19a−3p、hsa−miR−338−3p、hsa−miR−126−5p、hsa−miR−144−5p、hsa−miR−144−3p、hsa−miR−30e−3p、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−200c−3p、hsa−miR−31−3p、hsa−miR−181b−5p、hsa−miR−203a、hsa−miR−200c−5p、hsa−miR−187−3p、hsa−miR−200b−5p、hsa−miR−99a−5p、hsa−miR−320a、hsa−miR−210−3p、hsa−miR−125a−5p、hsa−let−7i−5p、hsa−miR−100−5p、hsa−miR−155−5p、hsa−miR−21−3p、hsa−miR−200a−5p、hsa−miR−200b−3p、hsa−let−7e−5p、hsa−miR−222−3p、hsa−miR−125b−5p、hsa−miR−205−5pからなるmiRNA量を検出し、
参照標準として、hsa−miR−324−5p、hsa−miR−29c−5p、hsa−miR−107、hsa−miR−324−3p、hsa−miR−30d−5pからなるmiRNAを用い、
健常者、歯周炎患者のmiRNA発現パターン、及び参照標準に対して比較解析することを特徴とする検査方法。
【請求項3】
hsa−miR−223−3p、hsa−miR−101−3p、hsa−miR−374a−5p、hsa−miR−582−5p、hsa−miR−145−5p、hsa−miR−20a−3p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−26b−5p、hsa−miR−301a−3p、hsa−miR−140−5p、hsa−miR−590−5p、hsa−miR−30e−5p、hsa−miR−19a−3p、hsa−miR−338−3p、hsa−miR−126−5p、hsa−miR−144−5p、hsa−miR−144−3p、hsa−miR−30e−3p、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−16−5p、hsa−miR−19b−3p、hsa−miR−15a−5p、hsa−miR−142−5p、hsa−miR−143−3p、hsa−miR−106b−5pからなる歯周炎患者で発現増強するmiRNA群から選択される少なくとも1つ、
及びhsa−miR−200c−3p、hsa−miR−31−3p、hsa−miR−181b−5p、hsa−miR−203a、hsa−miR−200c−5p、hsa−miR−187−3p、hsa−miR−200b−5p、hsa−miR−99a−5p、hsa−miR−320a、hsa−miR−210−3p、hsa−miR−125a−5p、hsa−let−7i−5p、hsa−miR−100−5p、hsa−miR−155−5p、hsa−miR−21−3p、hsa−miR−200a−5p、hsa−miR−200b−3p、hsa−let−7e−5p、hsa−miR−222−3p、hsa−miR−125b−5p、hsa−miR−205−5p、hsa−let−7b−5p、hsa−miR−193b−3p、hsa−miR−221−3p、hsa−miR−365a−3p、hsa−miR−22−3pからなる歯周炎患者で発現減少するmiRNA群から選択される少なくとも1つ、
及び参照標準として、hsa−miR−324−5p、hsa−miR−29c−5p、hsa−miR−107、hsa−miR−324−3p、hsa−miR−30d−5pの少なくとも1つのmiRNAの発現量を検出するための配列を有する核酸を固定したアレイを含む歯周炎検査キット。
【請求項4】
前記アレイが少なくともhsa−miR−223−3p、及びhsa−miR−200c−3pの発現量を検出するための配列を有する核酸を固定したものであることを特徴とする請求項3記載の歯周炎検査キット。
【請求項5】
前記アレイが、
少なくともhsa−miR−223−3p、hsa−miR−101−3p、hsa−miR−374a−5p、hsa−miR−582−5p、hsa−miR−145−5p、hsa−miR−20a−3p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−26b−5p、hsa−miR−301a−3p、hsa−miR−140−5p、hsa−miR−590−5p、hsa−miR−30e−5p、hsa−miR−19a−3p、hsa−miR−338−3p、hsa−miR−126−5p、hsa−miR−144−5p、hsa−miR−144−3p、hsa−miR−30e−3p、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−200c−3p、hsa−miR−31−3p、hsa−miR−181b−5p、hsa−miR−203a、hsa−miR−200c−5p、hsa−miR−187−3p、hsa−miR−200b−5p、hsa−miR−99a−5p、hsa−miR−320a、hsa−miR−210−3p、hsa−miR−125a−5p、hsa−let−7i−5p、hsa−miR−100−5p、hsa−miR−155−5p、hsa−miR−21−3p、hsa−miR−200a−5p、hsa−miR−200b−3p、hsa−let−7e−5p、hsa−miR−222−3p、hsa−miR−125b−5p、hsa−miR−205−5pの発現量を検出するための配列を有する核酸と、
参照標準として、hsa−miR−324−5p、hsa−miR−29c−5p、hsa−miR−107、hsa−miR−324−3p、hsa−miR−30d−5pを固定したアレイであることを特徴とする請求項3又は4記載の歯周炎検査キット。
【請求項6】
歯肉溝滲出液採取用ペーパーストリップ、
miRNA抽出試薬、
miRNA検出試薬を含むことを特徴とする請求項3〜5いずれか1項記載の歯周炎検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の分子マーカーを用いた歯周炎検査キット、及び検査方法に関する。特に、歯肉溝滲出液(Gingival Crevicular Fluid、以下GCFと記載することもある。)からmiRNAを抽出し、miRNAをマーカーとする検査キット、及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病はう蝕とともに、歯の二大疾患である。歯周病は歯肉炎と歯周炎とに分けられるが、最終的な歯の喪失に至るのは、いわゆる歯槽膿漏といわれる歯周炎である。歯周病は世界で最も多い疾患の一つであるともいわれ、成人の約半数が罹患していると言われている(非特許文献1)。
【0003】
歯周炎は、歯根と歯槽骨間の歯根膜組織に影響を及ぼす慢性炎症性疾患である。進行した歯周炎では、歯と歯肉間の隙間である歯周ポケットが深くなり、歯を支持している結合組織である歯根膜線維や歯槽骨の破壊が生じ、歯がぐらつくようになり、最終的には歯が抜けてしまう。
【0004】
高齢者では、生活の質を損なうような重度の歯周炎に罹患する傾向がある。歯周炎は、メタボリック・シンドローム、冠動脈疾患、糖尿病のような全身性疾患と関連性があることも指摘されており(非特許文献2〜4)、歯周炎の治療と予防は歯科分野だけではなく、一般的な健康状態に関わる問題ともなる。したがって、歯周炎の早期発見は、全身の健康状態を維持するうえでも重要である。
【0005】
現在のところ、歯周炎の検査は、プロービング、X線写真、歯肉炎指数、プラークの付着状態、動揺度の検査などによって行われている。これらの検査は、歯科医の主観が入り込みやすい非定量的な検査であり、歯科医の経験による部分が大きかった。そのため、歯周炎の治療法に関しても、プラークコントロールを中心とした画一的なものとなっていた。したがって、より客観的に歯周組織の状態を捉え、歯周炎の検査を行うことのできる方法が必要とされていた。
【0006】
従来から歯周炎を含む歯周病に関して客観的なデータを得ることができる検査方法として様々な方法が提案されている。特許文献1には、歯肉溝滲出液及び/又は唾液サンプル中のタンパク質バイオマーカーをプロテオーム分析により歯周疾患の状態を診断する方法が記載されている。特許文献2には、遺伝子多型を検出することにより侵襲性歯周炎を検査する方法が開示されている。特許文献3〜5には、歯肉溝滲出液や唾液中のタンパク質を免疫学的に検出することにより歯周病を検査する方法が開示されている。
【0007】
また、近年、様々な疾患においてmiRNAによって診断や治療を行う方法が開示されている。miRNAは、鎖長21〜25ntの短いRNAであり、標的mRNAの3´-UTRに結合して遺伝子の発現を調節する機能を担っている。最近の研究によって、miRNAは、細胞の分化のような生物学的過程、あるいは癌化のような病理学的過程を調節することが明らかとなってきている(非特許文献5、6)。特に血液や尿などの体液からmiRNAを抽出し、検出することにより診断を行ったり、miRNAを治療に用いる方法が開示されている(例えば、特許文献6、7)。歯周疾患でもmiRNAを用いた検査、診断方法が開示されている(非特許文献7〜9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2015−529333号公報
【特許文献2】国際公開第2004/042054号
【特許文献3】特開2016−031306号公報
【特許文献4】特開2013−257312号公報
【特許文献5】特開2009−052945号公報
【特許文献6】特開2015−231376号公報
【特許文献7】特表2014−527807号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Eke, P.I. et al., 2015, J Periodontol.Vol.86(5), pp.611-622.
【非特許文献2】Kaye, E.K. et al., 2016, J Dent Res.,. pii:0022034516641053.
【非特許文献3】Ryden, L., et al., 2016, Circulation. Vol.133(6),pp.576-583.
【非特許文献4】Gurav, A. & Jadhav, V. 2011, J.Diabetes. Vol.3(1), pp.21-28.
【非特許文献5】Gregory, P.A. et al., 2008, Nat. Cell Biol.Vol.10(5), pp.593-601.
【非特許文献6】Johnson, S.M. et al., 2005, Cell.Vol.120(5), pp.635-647.
【非特許文献7】Stoecklin-Wasmer C.et al., 2012, J. Dent. Res. Vol.91(10), pp.934-940.
【非特許文献8】Xie Y.F. et al., 2011, Int. J. Oral. Sci. Vol.3(3), pp.125-134.
【非特許文献9】Ogata Y. et al., 2014, J. Oral Sci. Vol.56(4), pp.253-260.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1〜5に記載のいずれの方法も、臨床的に実用化されていない。特許文献1に記載の方法は、正確な診断を行えると考えられるが、プロテオーム解析を行う必要があるため、大掛かりな機械と複雑な解析方法が必要である。特許文献2に記載の方法は、SNPs解析であることから、現在の歯周炎の状態を把握するものではない。特許文献3〜5に記載の方法は、試験紙を用いる方法であることから歯科クリニックでも行うことが可能な方法ではあるが、従来から行われているプロービング等の診断方法に比べて、より正確に診断を行うことができるというわけではなく、さほど普及していないのが現状である。また、非特許文献7〜9に開示されている方法は、患者の歯周組織を用いて行う必要があるため、一般的な歯周炎の検査として普及するにはいたっていない。
【0011】
本発明は、歯周炎の客観的なデータが得られるだけではなく、歯肉滲出液(GCF)を用いた非侵襲的検査方法、及び検査キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の検査方法、バイオマーカー、及び検査キットに関する。
(1)歯毎に採取された歯肉溝滲出液からmiRNAを抽出し、得られた試料中のhsa−miR−223−3p、及びhsa−miR−200c−3pのmiRNA量と、hsa−miR−101−3p、hsa−miR−374a−5p、hsa−miR−582−5p、hsa−miR−145−5p、hsa−miR−20a−3p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−26b−5p、hsa−miR−301a−3p、hsa−miR−140−5p、hsa−miR−590−5p、hsa−miR−30e−5p、hsa−miR−19a−3p、hsa−miR−338−3p、hsa−miR−126−5p、hsa−miR−144−5p、hsa−miR−144−3p、hsa−miR−30e−3p、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−16−5p、hsa−miR−19b−3p、hsa−miR−15a−5p、hsa−miR−142−5p、hsa−miR−143−3p、hsa−miR−106b−5pからなる群から選択される少なくとも1つ、及びhsa−miR−31−3p、hsa−miR−181b−5p、hsa−miR−203a、hsa−miR−200c−5p、hsa−miR−187−3p、hsa−miR−200b−5p、hsa−miR−99a−5p、hsa−miR−320a、hsa−miR−210−3p、hsa−miR−125a−5p、hsa−let−7i−5p、hsa−miR−100−5p、hsa−miR−155−5p、hsa−miR−21−3p、hsa−miR−200a−5p、hsa−miR−200b−3p、hsa−let−7e−5p、hsa−miR−222−3p、hsa−miR−125b−5p、hsa−miR−205−5p、hsa−let−7b−5p、hsa−miR−193b−3p、hsa−miR−221−3p、hsa−miR−365a−3p、hsa−miR−22−3pからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNA量を検出し、参照標準に対して比較解析することを特徴とする歯周炎の検査方法。
(2)歯毎に採取された歯肉溝滲出液からmiRNAを抽出し、hsa−miR−223−3p、hsa−miR−101−3p、hsa−miR−374a−5p、hsa−miR−582−5p、hsa−miR−145−5p、hsa−miR−20a−3p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−26b−5p、hsa−miR−301a−3p、hsa−miR−140−5p、hsa−miR−590−5p、hsa−miR−30e−5p、hsa−miR−19a−3p、hsa−miR−338−3p、hsa−miR−126−5p、hsa−miR−144−5p、hsa−miR−144−3p、hsa−miR−30e−3p、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−200c−3p、hsa−miR−31−3p、hsa−miR−181b−5p、hsa−miR−203a、hsa−miR−200c−5p、hsa−miR−187−3p、hsa−miR−200b−5p、hsa−miR−99a−5p、hsa−miR−320a、hsa−miR−210−3p、hsa−miR−125a−5p、hsa−let−7i−5p、hsa−miR−100−5p、hsa−miR−155−5p、hsa−miR−21−3p、hsa−miR−200a−5p、hsa−miR−200b−3p、hsa−let−7e−5p、hsa−miR−222−3p、hsa−miR−125b−5p、hsa−miR−205−5pからなるmiRNA量を検出し、参照標準に対して比較解析することを特徴とする歯周炎の検査方法。
(3)前記参照標準として、hsa−miR−324−5p、hsa−miR−29c−5p、hsa−miR−107、hsa−miR−324−3p、hsa−miR−30d−5pの少なくとも1つ以上を用いることを特徴とする(1)又は(2)に記載の検査方法。
(4)hsa−miR−223−3p、hsa−miR−101−3p、hsa−miR−374a−5p、hsa−miR−582−5p、hsa−miR−145−5p、hsa−miR−20a−3p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−26b−5p、hsa−miR−301a−3p、hsa−miR−140−5p、hsa−miR−590−5p、hsa−miR−30e−5p、hsa−miR−19a−3p、hsa−miR−338−3p、hsa−miR−126−5p、hsa−miR−144−5p、hsa−miR−144−3p、hsa−miR−30e−3p、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−16−5p、hsa−miR−19b−3p、hsa−miR−15a−5p、hsa−miR−142−5p、hsa−miR−143−3p、hsa−miR−106b−5pからなる群から選択される少なくとも1つ、及びhsa−miR−200c−3p、hsa−miR−31−3p、hsa−miR−181b−5p、hsa−miR−203a、hsa−miR−200c−5p、hsa−miR−187−3p、hsa−miR−200b−5p、hsa−miR−99a−5p、hsa−miR−320a、hsa−miR−210−3p、hsa−miR−125a−5p、hsa−let−7i−5p、hsa−miR−100−5p、hsa−miR−155−5p、hsa−miR−21−3p、hsa−miR−200a−5p、hsa−miR−200b−3p、hsa−let−7e−5p、hsa−miR−222−3p、hsa−miR−125b−5p、hsa−miR−205−5p、hsa−let−7b−5p、hsa−miR−193b−3p、hsa−miR−221−3p、hsa−miR−365a−3p、hsa−miR−22−3pからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAを含む歯周炎バイオマーカー。
(5)少なくともhsa−miR−223−3p、及びhsa−miR−200c−3pを含むことを特徴とする(4)記載の歯周炎バイオマーカー。
(6)hsa−miR−223−3p、hsa−miR−101−3p、hsa−miR−374a−5p、hsa−miR−582−5p、hsa−miR−145−5p、hsa−miR−20a−3p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−26b−5p、hsa−miR−301a−3p、hsa−miR−140−5p、hsa−miR−590−5p、hsa−miR−30e−5p、hsa−miR−19a−3p、hsa−miR−338−3p、hsa−miR−126−5p、hsa−miR−144−5p、hsa−miR−144−3p、hsa−miR−30e−3p、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−200c−3p、hsa−miR−31−3p、hsa−miR−181b−5p、hsa−miR−203a、hsa−miR−200c−5p、hsa−miR−187−3p、hsa−miR−200b−5p、hsa−miR−99a−5p、hsa−miR−320a、hsa−miR−210−3p、hsa−miR−125a−5p、hsa−let−7i−5p、hsa−miR−100−5p、hsa−miR−155−5p、hsa−miR−21−3p、hsa−miR−200a−5p、hsa−miR−200b−3p、hsa−let−7e−5p、hsa−miR−222−3p、hsa−miR−125b−5p、hsa−miR−205−5pからなるmiRNAであることを特徴とする(4)又は(5)記載の歯周炎バイオマーカー。
(7)参照標準として、hsa−miR−324−5p、hsa−miR−29c−5p、hsa−miR−107、hsa−miR−324−3p、hsa−miR−30d−5pの少なくとも1つ以上を含むことを特徴とする(4)〜(6)のいずれか1つ記載の歯周炎バイオマーカー。
(8)hsa−miR−223−3p、hsa−miR−101−3p、hsa−miR−374a−5p、hsa−miR−582−5p、hsa−miR−145−5p、hsa−miR−20a−3p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−26b−5p、hsa−miR−301a−3p、hsa−miR−140−5p、hsa−miR−590−5p、hsa−miR−30e−5p、hsa−miR−19a−3p、hsa−miR−338−3p、hsa−miR−126−5p、hsa−miR−144−5p、hsa−miR−144−3p、hsa−miR−30e−3p、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−16−5p、hsa−miR−19b−3p、hsa−miR−15a−5p、hsa−miR−142−5p、hsa−miR−143−3p、hsa−miR−106b−5pからなる群から選択される少なくとも1つ、及びhsa−miR−200c−3p、hsa−miR−31−3p、hsa−miR−181b−5p、hsa−miR−203a、hsa−miR−200c−5p、hsa−miR−187−3p、hsa−miR−200b−5p、hsa−miR−99a−5p、hsa−miR−320a、hsa−miR−210−3p、hsa−miR−125a−5p、hsa−let−7i−5p、hsa−miR−100−5p、hsa−miR−155−5p、hsa−miR−21−3p、hsa−miR−200a−5p、hsa−miR−200b−3p、hsa−let−7e−5p、hsa−miR−222−3p、hsa−miR−125b−5p、hsa−miR−205−5p、hsa−let−7b−5p、hsa−miR−193b−3p、hsa−miR−221−3p、hsa−miR−365a−3p、hsa−miR−22−3pからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAの発現量を検出するための配列を有する核酸を固定したアレイを含む歯周炎検査キット。
(9)前記アレイが少なくともhsa−miR−223−3p、及びhsa−miR−200c−3pの発現量を検出するための配列を有する核酸を固定したものであることを特徴とする(8)記載の歯周炎検査キット。
(10)前記アレイが、少なくともhsa−miR−223−3p、hsa−miR−101−3p、hsa−miR−374a−5p、hsa−miR−582−5p、hsa−miR−145−5p、hsa−miR−20a−3p、hsa−miR−194−5p、hsa−miR−26b−5p、hsa−miR−301a−3p、hsa−miR−140−5p、hsa−miR−590−5p、hsa−miR−30e−5p、hsa−miR−19a−3p、hsa−miR−338−3p、hsa−miR−126−5p、hsa−miR−144−5p、hsa−miR−144−3p、hsa−miR−30e−3p、hsa−miR−20a−5p、hsa−miR−200c−3p、hsa−miR−31−3p、hsa−miR−181b−5p、hsa−miR−203a、hsa−miR−200c−5p、hsa−miR−187−3p、hsa−miR−200b−5p、hsa−miR−99a−5p、hsa−miR−320a、hsa−miR−210−3p、hsa−miR−125a−5p、hsa−let−7i−5p、hsa−miR−100−5p、hsa−miR−155−5p、hsa−miR−21−3p、hsa−miR−200a−5p、hsa−miR−200b−3p、hsa−let−7e−5p、hsa−miR−222−3p、hsa−miR−125b−5p、hsa−miR−205−5pの発現量を検出するための配列を有する核酸を固定したアレイであることを特徴とする(8)又は(9)記載の歯周炎検査キット。
(11)参照標準として、hsa−miR−324−5p、hsa−miR−29c−5p、hsa−miR−107、hsa−miR−324−3p、hsa−miR−30d−5pの少なくとも1つ以上をアレイに含むことを特徴とする(8)〜(10)のいずれか1つ記載の歯周炎検査キット。
(12)歯肉溝滲出液採取用ペーパーストリップ、miRNA抽出試薬、miRNA検出試薬を含むことを特徴とする(8)〜(11)いずれか1項記載の歯周炎検査キット。
(13)歯毎に採取された歯肉溝滲出液からmiRNAを抽出し、表3〜表6に記載されるmiRNAの群から選択される少なくとも1つ以上のmiRNA量を検出することを特徴とする歯周炎の検査方法。
【発明の効果】
【0013】
GCFを用い、正確に歯周炎の診断を行うことのできる検査方法、及び検査キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】歯肉溝滲出液から抽出したmiRNAの電気泳動図。
図2】歯肉溝滲出液試料セット#1のmiRNA解析を示す図。図2Aは主成分分析結果を、図2Bは、Volcanoプロットを示す図。
図3】歯肉溝滲出液試料セット#2のmiRNA解析を示す図。図3Aは、健常者、歯周炎患者のmiRNA発現の2D hierarchial clustering解析の結果を示す図。図3Bは、Volcanoプロットを示す図。図3Cは、各RNAの発現レベルをBoxプロットで表した図。
図4】2つの異なる試料セットの比較を示した図。図4Aは、40個のmiRNAの発現の比(-ΔΔCq値)の試料セット#1、セット#2間の相関を示した図。図4Bは、40個のmiRNAの発現レベルをBoxプロットで表した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明はGCFからRNAを単離して、miRNAを解析することを特徴としている。これまでのmiRNAによる歯周炎の検査は、歯肉組織を用いて行われていた。本発明の検査方法はGCFからmiRNAを単離して検査する非侵襲的な検査であり、患者の負担が少ない。また、歯周炎が疑われる歯ごとにGCFを採取することができるため、唾液を用いた検査では行うことができなかった、歯周炎に罹患している歯を特定し、歯毎に歯周炎の状態を客観的に判断することが可能となった。
【0016】
本発明では歯周炎患者で特異的に発現の変化が見られるmiRNAを開示し、特に40のmiRNAをパネルとして用いることにより、正確な検査が行えることを開示している。ただし、簡便な検査では、ここで示した歯周炎に特異的なmiRNAの発現量を求めることができればいいので、参照となるmiRNA量と、歯周炎で変化が見られたmiRNA量を1つ以上選択して測定すればよい。また、歯周炎患者で発現増強が確認されたmiRNAと、減少が確認されたmiRNAを組み合わせて検査に用いれば、より正確に診断を行うことができることから好ましい。
【0017】
また、miRNAの定量はここでは定量的PCR法によって行ったが、miRNA量を定量することができれば、どのような方法を用いてもよい。
【0018】
また、以下で示すパネルとして用いる40のmiRNAは、そのうちのいくつかを選択して用いてもよいし、本発明で開示している他のmiRNAと入れ替えて検査に用いてもよい。以下、解析結果を挙げながら本発明を詳細に説明する。
【0019】
≪対象者≫
以下にデータを示す試料は、東京医科歯科大学の倫理委員会で承認された研究に基づき、インフォームドコンセントを得たうえで患者、及び健常者のボランティアから得られたものである。歯周炎の診断は、歯周ポケットの深さ、プロービングの際の出血によって行った。なお、GCFの採取は、診断に先立って行っている。また、歯周炎患者の一人が、軽度の糖尿病を併発していた他は、全身性疾患を伴っていたものはいない。なお、糖尿病を併発していた歯周炎患者の糖尿病も軽度であり投薬治療は受けてはいない。
【0020】
解析を行った対象は、以下の表1、表2に示す健常者、歯周炎患者から得たものである。表1で示す8名の対象は、健常者5名、歯周炎患者3名であり、平均年齢は夫々38歳、53歳である。また、表2で示す12名の対象者は、健常者6名、歯周炎患者6名であり、平均年齢は夫々28歳、65歳であった。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
表中の符号は以下のとおりである。M:男性、F:女性、H:健常者、CP:慢性歯周炎(chronic periodontitis)、AgP:侵襲性歯周炎(aggressive periodontitis)、PD:歯周ポケット深さ(probing pocket depth)、NS:非喫煙者、S:喫煙者なお、以下に示すデータのH1〜H11は上記表に示す健常者のサンプルであることを示し、P1〜P9は同様に上記表に示す歯周炎患者のサンプルであることを示す。
【0024】
≪歯肉溝滲出液(GCF)の採取≫
GCFを採取する前に、歯肉縁上の歯垢、及び歯の周辺の唾液は綿球で除去し、エアードライヤーによって、GCFを採取する歯の周辺を乾燥させた。コットンロールによって、周辺から隔離した後に、濾紙片(Oralflow社製)を歯周ポケットに穏やか挿入し、GCFを採取した。血液が付着している濾紙片は解析には用いなかった。
複数の濾紙片により、各対象者から約4.8μlのGCFを採取して解析に用いた。濾紙は60μlのリン酸緩衝液を含むチューブに集め、急速凍結し、RNAを単離するまで保存した。
【0025】
≪RNAの単離≫
以下のようにして、GCFからTrizol LS試薬(ライフテクノロジーズ社製)を用いてRNAを抽出した。GCFは、750μlのTrizol LS試薬に溶解し、RNase−free精製水により1mlになるように調整した。次に、0.2mlのクロロホルムを加え、水相を集め、イソプロパノールを加えた。遠心して沈殿を集め、乾燥してエタノールで洗浄後、50μlのnuclease−free精製水に溶解した。RNAの精製度と濃度はNanoDrop(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて測定した。A260/230の比が0.9〜1.6、A260/280の比が1.6〜1.8の試料をmiRNA解析に用いた。
【0026】
total RNA量は、eukaryotic total RNA nano assayを用い、Agilent 2100 BioAnalyzer(アジレント・テクノロジー社製)によって測定した。電気泳動図はいずれの試料もきれいなピークを示した。一例を図1に示す。図1の左パネルは健常者、右パネルは歯周炎患者から得られたRNA試料の電気泳動図を示している。どちらの試料も25〜200ntのsmall RNAのピークが観察される。
【0027】
≪miRNAの発現解析≫
miRNA発現解析は、miRCURY LNA(登録商標) Universal RT microRNA PCR System(Exiqon社製)を用いて解析した。一本鎖cDNAは8μlのRNAからuniversal cDNA Synthesis kit II(Exiqon社製)を用いて合成した。合成したcDNAは希釈し、ExiLET SYBR(登録商標)Green master mixと混合しHuman miRNome microRNA PCR panel(Exiqon社製)に分注し、定量的PCRをLightCycler 480 Real-Time PCR system(ロシュ社製)を用いて行った。
【0028】
参照プローブとして、GCFで発現が安定していたhsa−miR−324−5p、hsa−miR−29c−5p、hsa−miR−107、hsa−miR−324−3p、hsa−miR−30d−5pを正規化に用いた。正規化した値はΔCqと表している。
【0029】
≪解析結果≫
表1に示す5名の健常者、3名の歯周炎患者から採取したGCFのmiRNA(試料セット#1)を解析した。健常者のGCFを採取した部位は、歯周ポケット深さが3mm以下であり、プロービングによる出血は見られなかった。一方、歯周炎患者は歯周ポケット深さが3mmより大きく(ほとんどの歯周ポケット深さは4〜8mm)、多くの患者でプロービングによる出血が観察された。
【0030】
主成分解析(PCA)によるmiRNA発現パターンは健常者、歯周炎患者ではっきりと2つに分かれて分布していた(図2A)。表1に示す5名の健常者(H1〜H5)、3名の歯周炎患者(P1〜P3)から得られたRNA試料を解析した結果は、両者の発現パターンが異なることを示している。X軸は、PCA Component 1(PC1:46.9% variance)、Y軸はPCA Component 2(PC2:15.7% variance)を示す。
【0031】
751のヒトmiRNAのプライマーセットのうち、健常者、歯周炎患者の各群の夫々少なくとも一人から619のmiRNAの発現データを得ることができた。それらのうち、歯周炎患者において332のmiRNAは発現増強が認められ、287のmiRNAは発現減少が認められた(図2B)。X軸は、−ΔΔCq値で表す相対的な発現比を示し、Y軸は2群間でのt-テストから得られた−log10(p−value)を表している。
【0032】
黒丸(●)で示したのは、p値が<0.05、ΔΔCq>1.0、又はΔΔCq<−1.0(図2Bにカットオフとして線で示している。)のmiRNAであり、歯周炎患者で有意に発現増強、又は減少が見られるものを示す。
【0033】
歯周炎患者で、有意に発現減少、又は発現増強が観察されたmiRNAは、夫々63(表3)、55個(表4)あった。これらのmiRNAは歯周炎患者と健常者との間で発現に有意な差が見られたmiRNAであることから、単独で用いても、いくつかを組み合わせて検査に用いてもよい。また、正確な診断を行うためには、複数のmiRNAを組み合わせて検査に用いるのが好ましい。
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
さらに、上記の結果において、ΔCq値が低いほどmiRNAの発現量が多く、検出感度が比較的良いと想定される。したがってΔCq<−2.5、p値が<0.05、ΔΔCq>0.7、又はΔΔCq<−0.7、との基準を満たすmiRNAを歯肉溝滲出液試料セット#1の解析結果から抽出した(表5)。したがって、表5に示すmiRNAは単独、あるいはいくつかを組み合わせて歯周炎の診断マーカーとして好ましく用いることができる。特に、hsa−miR−223−3p、hsa−miR−200c−3p、hsa−miR−205−5p、hsa−miR−16−5pは、感度も再現性も良いことから、マーカーとして好ましく用いることができる。
【0037】
【表5】
【0038】
また、各miRNAの機能により着目して、次の5つの基準に基づいて発現量に変化が見られたmiRNAから40個のmiRNAを抽出した。
(1)健常者、歯周炎患者で有意に差が認められるもの(できればp値が0.05より小さいもの)
(2)初期の発現レベルが高いと考えられるΔCq値が比較的小さいもの
(3)ΔCq値の差(ΔΔCq)が大きいもの
(4)標的遺伝子が機能的に重要であると示唆されているもの、又はこれまでの研究成果により確認されているもの
(5)歯周炎との関連が今までの研究により報告されているもの
【0039】
各miRNAについて上記5つの基準で評価し、表6に示す19の歯周炎患者で発現増強が認められるmiRNA、21の発現減少が認められるmiRNAを抽出した。また、上述のように、hsa−miR−324−5p、hsa−miR−29c−5p、hsa−miR−107、hsa−miR−324−3p、hsa−miR−30d−5pの5つのmiRNAは、すべての試料で安定して発現していたことから、参照miRNA(reference miRNA)として、以後の実験解析に含め、正規化に用いた。なお、表6の分子のうち、表中ハイライトの付してあるhsa−miR−101−3p、hsa−miR−145−5p、hsa−miR−374a−5p、hsa−miR−582−5p、hsa−miR−181b−5p、hsa−miR−187−3p、hsa−miR−200c−3p、hsa−miR−200c−5p、hsa−miR−203a、hsa−miR−31−3pは、今までに歯周炎、歯周病との関連が全く知られていない分子である。
【0040】
【表6】
【0041】
表1の試料を用いて得られた結果を評価するために、次に表2で示した対象から得られた試料を用いて上記で選択した40のmiRNAの発現を測定した。健常者6名、歯周炎患者6名から得られた結果は、両者ではっきりとした差があることが示された(図3A)。なお、hsa−miR−20a−5pはP7の試料で増幅することができなかったため、図3Aでは、これを除いて表示している。
【0042】
選択した40のmiRNAの発現レベルをVolcanoプロットで示す(図3B)。図2Bと同様に、X軸は、−ΔΔCq値で表す相対的な発現比を示し、Y軸は2群間でのt-テストから得られた−log10(p−value)を表している。黒丸(●)で示したのは、p値が<0.05、|ΔΔCq|>1.0のmiRNAを示す。34のmiRNAは発現レベルのp値<0.005であり、17のmiRNAはΔΔCq>1.0、又は<−1.0と有意差があった。
【0043】
さらに、各miRNAの発現レベルをBoxプロットで表した(図3C)。白抜きの四角は、健常者、灰色の四角は歯周炎患者の結果を示す。横棒は各中央値を示している。上段のパネルは19の歯周炎患者で発現増強の見られたmiRNA、下段は発現減少の見られたmiRNAの解析結果である。ΔCq値から判断すると、hsa−miR−223−3p、hsa−miR−203a、hsa−miR−205−5pがGCFでの発現レベルが高いことが明らかとなった。したがって、これらのmiRNAの少なくともいずれかを検出することにより、感度良く測定を行うことができる。
【0044】
次に、表1、表2で示した試料間で、40のmiRNAの発現の比(−ΔΔCq値)に相関があるか解析を行った。図4Aは試料間の値を散布図で示したものである。Spearmanの相関係数(ρ)は0.95であり両者に強い相関があることが示された。
【0045】
さらに、各対象において、歯周炎患者において発現増強が認められた19のmiRNA、発現減少が認められた21のmiRNAに関して、表1、表2の各対象において、ΔCq値の分布を比較した(図4B)。表1、表2、どちらの試料であっても発現増強、発現減少を示すmiRNAの特徴的なパターンは同様であった。これらの結果は選択した40のmiRNAの発現が歯周炎患者の特徴を表す、再現性の良いものであることを示している。
【0046】
以上の結果から、歯周炎の診断を行う検査には、上記表6に選択した40のmiRNAをパネルとして用いれば正確な診断を行うことができる。しかし、これら40のmiRNAをすべて使用する必要はなく、必要に応じて選択して用いることもできる。また、表6の40のmiRNA以外にも、表3〜5に示したmiRNAは歯周炎の患者で特異的に変化が見られることから好ましく用いることができる。特に、hsa−miR−16−5p、hsa−miR−19b−3p、hsa−miR−15a−5p、hsa−miR−142−5p、hsa−miR−143−3p、hsa−miR−106b−5p、hsa−let−7b−5p、hsa−miR−193b−3p、hsa−miR−221−3p、hsa−miR−365a−3p、hsa−miR−22−3pは感度も良く検出を行うことができるので、歯周炎の検査に好ましく用いることができる。
図1
図2
図3
図4