特許第6800580号(P6800580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6800580Fe−Co基合金スパッタリングターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6800580
(24)【登録日】2020年11月27日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】Fe−Co基合金スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20201207BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20201207BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20201207BHJP
   B22F 1/00 20060101ALN20201207BHJP
   B22F 3/00 20060101ALN20201207BHJP
   B22F 3/15 20060101ALN20201207BHJP
   H01F 41/18 20060101ALN20201207BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C22C38/00 303Z
   C22C19/07 C
   !B22F1/00 Y
   !B22F3/00 E
   !B22F3/15 M
   !H01F41/18
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-249534(P2015-249534)
(22)【出願日】2015年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-39994(P2017-39994A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-164229(P2015-164229)
(32)【優先日】2015年8月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】荒川 篤俊
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−530925(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0045809(US,A1)
【文献】 特開2007−161540(JP,A)
【文献】 特開2004−346423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C22C 19/07
C22C 38/00
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 3/15
H01F 41/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを5〜95at%含有し、残余がCoからなる組成を有し、ターゲットの組織において、Fe−Co相と直径50μm以上のCo粒子が存在し、前記Co粒子は、該Co粒子の中心付近のCo濃度が90wt.%以上であり、最大透磁率が200未満であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
最大透磁率が150未満であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
最大透磁率が120未満であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記ターゲットの組織において、直径70μm以上のCo粒子が存在し、前記Co粒子は、該Co粒子の中心付近のCo濃度が90wt.%以上である、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記ターゲットの組織において、直径80μm以上のCo粒子が存在し、前記Co粒子は、該Co粒子の中心付近のCo濃度が90wt.%以上である、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
ターゲットの厚みが1.5mm以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタに好適な磁性材スパッタリングターゲットに関し、特に、漏洩磁束密度が大きく、成膜速度を向上させることが可能なFe−Co基合金スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ヘッド、MRAMには、高い磁気抵抗効果を有するトンネル磁気抵抗(TMR)素子が採用されており、この素子を構成する層としてFe−Co系磁性膜が用いられている。この磁性膜は、通常、Fe−Co系磁性材スパッタリングターゲットをスパッタリングして作製される。そして、このような磁性膜の成膜では、生産性の高さからDC電源を備えたマグネトロンスパッタ装置が用いられている。
【0003】
マグネトロンスパッタリングは、ターゲットの裏側に磁石をセットして、ターゲットの表面(スパッタ面)に磁束を漏洩させて、その漏洩磁束領域にプラズマを収束させることにより、高速成膜を可能にするという特徴を有している。ところが、ターゲットが磁性材である場合には、透磁率が高いため、漏洩磁束密度が小さく、プラズマの収束が十分でなく、成膜速度が低下して、スパッタリング効率が低下するという問題がある。特に近年では、ターゲットの使用効率を高めるために、ターゲットの厚みが厚くなる傾向にあり、この問題が顕著になっている。
【0004】
このような問題に対して、先行特許では、いくつかの提案がなされている。例えば、特許文献1には、TMR素子等に用いられる軟磁性膜を成膜するためのFe−Co−B系合金ターゲットであって、ホウ化物相を均一に分散させることで、ターゲット材の透磁率を低減させることが開示されている。
【0005】
特許文献2には、軟磁性薄膜を形成するためのFeCo系ターゲット材において、Fe20〜80CoをCoの混合粉末を使用し、さらに、Nb、Zr、Ta、Hfを添加することで、透磁率の低下を可能とすることが開示されている。また、特許文献3にはFeCo系ターゲット材において、主構成元素であるFeとCoを一定の比率にするとともに、AlまたはCrの添加することで、耐候性を向上させることが開示されている。
【0006】
しかし、上記特許文献のように、FeとCoの組成比を調整したり、他の元素を添加したりすることによって、透磁率の低下や耐候性の向上を図るものであるが、組成比や他の元素の添加は、素子(デバイス)特性をも変化させてしまうことがあるため、デバイスの仕様に適用できないことがある。このようなことから、ターゲット材の成分組成等を調整することなく透磁率を低下させて、スパッタリング特性のみを向上させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−346423号公報
【特許文献2】特開2007−297688号公報
【特許文献3】特開2008−121071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マグネトロンスパッタリングに好適な磁性材スパッタリングターゲットを提供するものであり、特に、透磁率が小さく(漏洩磁束密度が大きく)、スパッタ時のプラズマを収束させることで高速成膜が可能となり、これにより、生産性を向上することが可能となるFe−Co基合金スパッタリングターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意研究を行った結果、ターゲットのミクロ組織を改質することで、ターゲットの透磁率が著しく低下することを見出した。本発明者はこの知見に基づき、以下の発明を提供する。
1)Feを5〜95at%含有し、残余Coからなる組成を有し、最大透磁率が200未満であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
2)さらにBを10〜26at%含有し、最大透磁率が50未満であることを特徴とする上記1)記載のスパッタリングターゲット
3)ターゲットの組織において、直径50μm以上のCo粒子が存在していることを特徴とする上記1)又は2)に記載のスパッタリングターゲット。
4)ターゲットの厚みが1.5mm以上であることを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一に記載のスパッタリングターゲット。
【発明の効果】
【0010】
本発明のFe−Co基合金スパッタリングターゲットは、ターゲットのミクロ組織を改質することにより、磁性材ターゲットの透磁率が著しく低減し、マグネトロンスパッタリングにおいて、漏洩磁束密度を大きくすることが可能となり、高速成膜が可能で、生産性を向上できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1のスパッタリングターゲットの表面(研磨面)の顕微鏡写真である。
図2図1のスパッタリングターゲットの組織写真をトレースした図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のスパッタリングターゲットはFe−Co基合金からなるが、Fe−Co合金はいわゆる強磁性体であり、透磁率が大きいという性質を有する。このFe−Co合金は原料粉を焼結あるいは原料を溶解することで作製することができ、このとき、FeとCoが相互に固溶して単一のFe−Co相を形成しやすい。しかし、ここで、意図的にCoをFeにあまり固溶させずに、Co粒としてターゲットの組織に残存させることにより、ターゲットの最大透磁率を低下させることができる。また、Co粒が残存しない場合であっても、熱処理を行うことによりミクロ組織にCo粒と類似の状態を作り込むことができ、透磁率を低下させることができる。
【0013】
本発明において、Fe−Co基合金スパッタリングターゲットの最大透磁率を200未満とすることができる。Co粒のサイズを調整すること等により、最大透磁率150未満、さらには120未満を達成することができる。最大透磁率のさらなる低下により、スパッタリングターゲットがより厚い場合であっても、高い漏洩磁束密度を維持することが可能となり、高速成膜を維持することができる。
【0014】
本発明において、Fe−Co基合金スパッタリングターゲットの組織に存在するCo粒子は、直径が50μm以上とすることが好ましい。より好ましくは70μm以上、さらに好ましくは80μm以上とする。これにより、透磁率を従来に比べて著しく低下させることができ、マグネトロンスパッタリングにおける漏洩磁束密度を大きくすることが可能となり、成膜速度を高め、生産性を上げることができる。なお、Co粒子の形状が楕円のように真円から変形している場合には、外周2点を直線で結んだ最長径を、その粒子の直径とする。
【0015】
ターゲット組織におけるCo粒子は、ターゲット表面(研磨面)を顕微鏡で観察することにより識別が可能である。図1に、後述する実施例1におけるターゲットの顕微鏡写真を示す。白色球状部分(薄く白っぽく見える領域)がCo粒子に相当する。本発明において、Co粒子が存在するとは、ターゲット表面(スパッタ面)の任意の場所を顕微鏡で観察し、その顕微鏡視野[0.8mm(1000μm×800μm)]においてCo粒子が常に1個以上観察できることを意味する。
【0016】
但し、Co粒子の外周付近は拡散によってFe濃度が増えた状態となっているので、Co粒子の中心付近のCo濃度が90wt.%以上であれば、Co粒子とする。好ましくは95wt.%以上である。また、Co粒子の直径が50μm未満であると、透磁率低減の効果が十分に得られない。透磁率低減の効果において、Co粒子のサイズの上限に特に制限はないが、あまり粗大であると、形成した薄膜の組成が不均一になることがあるので、その場合は、直径400μm以下とすることが好ましい。
【0017】
本発明のFe−Co基合金スパッタリングターゲットの組成は、Feを5at%以上95at%以下含有し、残余Coとする。前記の組成は、磁性薄膜として十分な磁気特性を得ることができれば、上記の範囲において適宜組成を調整することができる。なお、スパッタリングターゲットに不可避的に混入している不純物は透磁率に対して有意な変化を生じさせることはない。したがって、スパッタリングターゲットが本発明の組成範囲を満たすかどうかは、このような不可避的不純物については除外することができる。
【0018】
また、本発明のFe−Co基合金スパッタリングターゲットは、前記の組成にさらにBを10at%以上26at%以下含有させることができる。B(硼素)を10at%以上26at%以下含有させることにより、磁性薄膜としての磁気特性を向上させることができる。この組成からなるターゲットの場合、透磁率を、さらに低下させることができ、最大透磁率50未満、さらには40未満を達成することが可能となる。
【0019】
上記の通り、本発明のスパッタリングターゲットは、ターゲットのミクロ組織を改質することで、その透磁率を低減することを可能にするものであるが、ターゲットの厚みが1.5mm以上のときに、特に透磁率低減の効果がある。一般に、使用効率を向上させるためにターゲットの厚みを厚くすることが要求されているが、ターゲットの厚みを厚くすると、ターゲットの表面に必要な漏洩磁束を形成することが困難となる。本発明のターゲットは、このような厚みの厚い(特に2.5mm以上)のターゲットの場合に特に有効である。
【0020】
次に、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法について説明する。但し、下記に示す製造方法は一例であって、本発明がこの製造方法に限定されないことは言うまでもない。本発明は、ターゲットの組織に粗大なCo粒を残存させることにより、ターゲットの透磁率を著しく低減させるものであり、このような組織を実現するために、他の製造方法を用いることも可能である。
【0021】
まず、Co原料をガスアトマイズ法などの溶湯急冷法を用いてCo粉末を作製する。具体的には、Co原料をアトマイズ処理用の坩堝に投入し、これを溶解させた後、坩堝の底に付けたノズル先端にアルゴンガスを吹き付けながら噴射してアトマイズ粉末を作製する。Fe原料についても、Coと同様に、溶湯急冷法を用いてFe粉末を作製する。ガスアトマイズ法を用いることで、酸素不純物の増加を抑えることができる。またFe粉末やCo粉末に限らず、Fe−Co粉末を用いてもよい。B粉末を添加する場合には、B粉末に加えて、Fe−B、Co−B、Fe−Co−Bの合金粉末を用いることができる。アトマイズ粉末を作製する場合、原料Bのみを溶湯にするのは容易ではないため、Fe−B、Co−B、Co−Fe−B合金アトマイズ粉末が適している。
【0022】
次に、この粉末を窒素雰囲気のグローブボックス内で篩分けして、粒径50〜300μmとなるように粒径調整を行う。篩分けは、ターゲット組織中にCo粒子を均一に分散させるために有効である。粒径を50μm未満とすると、透磁率低減効果が十分には得られない。一方、粒径を400μm超のような粗大であると、形成した薄膜の組成が不均一になることがある。また、原料粉末の粒度を揃えることで、焼結性を高めて高密度なターゲットを安定して得ることができる。その後、粒径調整したCo粉末とFe粉末、必要に応じて、B粉末、Fe−B、Co−B、Co−Fe−Bからなる合金粉末を所望のターゲット組成となるように所定の比率で秤量、混合する。
【0023】
次に、混合粉末を、熱間等方圧加圧(HIP)法を用いて、温度:600〜1200℃、加圧力:800〜2000kgf/cm、保持時間:1〜3時間の条件下で、焼結して焼結体を作製する。焼結法には、熱間等方加圧法(HIP法)に限らず、ホットプレス法やプラズマ放電焼結法が知られているが、Co粒をターゲット組織内に存在させるため、比較的低温で必要な焼結密度が得られるHIP法が望ましい。このようにして得られた焼結体は旋盤や平面研削などの機械加工により、所望のサイズや形状に加工することで、Fe−Co基合金スパッタリングターゲットを作製することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0025】
(実施例1)
Co原料とFe原料を別々にガスアトマイズ処理して、焼結用の原料粉末を作製し、この粉末を、Arフローのグローブボックス内にて粒径53〜300μmに調整した。その後、Co原料とFe原料を、ターゲットの組成が27Fe−73Co(at%)となるように秤量し、混合した。次に、この混合粉末をHIP法にて、650℃×3時間、1600kgf/cmの条件で焼結し、27Fe−73Coの焼結体を作製した。これを旋盤で切削加工及び平面研磨加工で仕上げて直径164mm、厚さ5mmの円盤状ターゲットを得た。
【0026】
このターゲット表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果を図1に示す。図1に示すように、直径50μm以上のCo粒子が多数存在することを確認した。また、直径50μm以上のCo粒子の中には、直径60μm以上のもの、さらには直径80μm以上のCo粒子も存在しているのを確認した。次に、焼結体の端材からサンプルを採取して長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作成し、透磁率を測定した。透磁率の測定にはB−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は80であった。
【0027】
(実施例2)
Co原料とFe原料を別々にガスアトマイズ処理して、焼結用の原料粉末を作製し、この粉末を、Arフローのグローブボックス内にて粒径53〜300μmに調整した。その後、Co原料とFe原料を、ターゲットの組成が73Fe−27Co(at%)となるように秤量し、混合した。次に、この混合粉末をHIP法にて、650℃×3時間、1600kgf/cmの条件で焼結し、73Fe−27Coの焼結体を作製した。これを旋盤で切削加工及び平面研磨加工で仕上げて直径164mm、厚さ5mmの円盤状ターゲットを得た。
【0028】
このターゲット表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果、直径50μm以上のCo粒子が多数存在することを確認した。直径50μm以上のCo粒子の中には、直径70μm以上のもの、さらには直径80μm以上のCo粒子も存在しているのを確認した。次に焼結体の端材からサンプルを採取して長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作成し、透磁率を測定した。透磁率の測定にはB−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は110であった。
【0029】
(実施例3)
Co原料をガスアトマイズ処理してCo原料粉末を、Fe原料とCo原料とをガスアトマイズ処理して90Fe−10Co(at%)の原料粉末を作製した。この粉末を、Arフローのグローブボックス内にて粒径53〜300μmに調整した。その後、Co原料とFe−10Co原料を、ターゲットの組成が50Fe−50Co(at%)となるように秤量し、混合した。次に、この混合粉末をHIP法にて、650℃×3時間、1600kgf/cmの条件で焼結し、50Fe−50Coの焼結体を作製した。これを旋盤で切削加工及び平面研磨加工で仕上げて直径164mm、厚さ5mmの円盤状ターゲットを得た。
【0030】
このターゲット表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果、直径50μm以上のCo粒子が多数存在することを確認した。直径50μm以上のCo粒子の中には、直径70μm以上のもの、さらには直径80μm以上のCo粒子も存在しているのを確認した。次に焼結体の端材からサンプルを採取して長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作成し、透磁率を測定した。透磁率の測定にはB−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は95であった。
【0031】
(実施例4)
Co原料とFe原料を別々にガスアトマイズ処理して、焼結用の原料粉末を作製し、この粉末を、Arフローのグローブボックス内にて粒径53〜300μmに調整した。その後、Co原料とFe原料を、ターゲットの組成が27Fe−73Co(at%)となるように秤量し、混合した。次に、この混合粉末を放電プラズマ焼結法にて、950℃×1時間、1600kgf/cmの条件で焼結し、27Fe−73Coの焼結体を作製した。これを旋盤で切削加工及び平面研磨加工で仕上げて直径164mm、厚さ5mmの円盤状ターゲットを得た。
【0032】
このターゲット表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果、直径50μm以上のCo粒子が多数存在することを確認した。直径50μm以上のCo粒子の中には、直径70μm以上のCo粒子も存在しているのを確認した。次に焼結体の端材からサンプルを採取して長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作成し、透磁率を測定した。透磁率の測定にはB−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は145であった。
【0033】
(実施例5)
Co原料とFe原料をアルミナルツボに充填し、真空溶解炉内にて、溶解、鋳造して73Fe−27Coインゴットを得た。次に、このインゴットを圧延、熱処理した後、その板材を旋盤で加工して、直径175mm、厚さ6mmのターゲット材を得た。その後、このターゲット材を、アルゴン雰囲気中で360℃、80時間熱処理した。その後、旋盤で切削加工及び平面研磨加工で仕上げて、直径164mm、厚さ5mmの円盤状ターゲットを得た。
【0034】
このターゲット表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果、直径50μm以上のCo粒子の存在を確認できなかった。また、SEM−EDSを用いて、構成元素状態を観察した結果、結晶粒はFe−Coとなっていることを確認した。
次に、このターゲットの端からサンプルを採取して、長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作製し、透磁率を測定した。透磁率の測定には、B−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は、188であった。
なお、結晶粒はFe−Coであり、Co粒は観察されなかったが、所定の条件での熱処理により結晶組織の微小な変化が生じ、Co粒の効果ほどではないもののCo粒と類似の理由の透磁率低減効果が出たものと考えられる。
【0035】
(実施例6)
実施例5と同様の方法で、65Fe−35Coのインゴットを得た。次に、このインゴットを圧延、熱処理した後、その板材を旋盤で加工して、直径175mm、厚さ6mmのターゲット材を得た。その後、このターゲット材を、アルゴン雰囲気中で420℃、40時間熱処理した。その後、旋盤で切削加工及び平面研磨加工で仕上げて、直径164mm、厚さ5mmの円盤状ターゲットを得た。
このターゲット表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果、直径50μm以上のCo粒子の存在を確認できなかった。また、SEM−EDSを用いて、構成元素状態を観察した結果、結晶粒はFe−Coとなっていることを確認した。
次に、このターゲットの端からサンプルを採取して、長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作成し、透磁率を測定した。透磁率の測定には、B−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は、155であった。
【0036】
(実施例7)
Co原料とFe原料とFe−25B(at.%)原料を、別々にガスアトマイズ処理して、焼結用の原料粉末を作製し、この粉末を、Arフローのグローブボックス内にて粒径53〜300μmに調整した。その後、Co原料とFe原料とFe−25B(at.%)原料を、ターゲットの組成が56Fe−24Co−20B(at%)となるように秤量し、混合した。次に、この混合粉末をHIP法にて、650℃×3時間、1600kgf/cmの条件で焼結し、56Fe−24Co−20B(at%)の焼結体を作製した。これを旋盤で切削加工及び平面研磨加工で仕上げて、直径164mm、厚さ5mmの円盤状ターゲットを得た。
【0037】
このターゲット表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果、直径50μm以上のCo粒子が多数存在することを確認した。直径50μm以上のCo粒子の中には、直径70μm以上のもの、さらには直径80μm以上のCo粒子も存在しているのを確認した。
次に、焼結体の端材からサンプルを採取して、長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作成し、透磁率を測定した。透磁率の測定には、B−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は34であった。
なお、Fe−CoにB(硼素)を添加することにより、透磁率低減になることは自明であるが、本発明を適用することで、更なる透磁率低減が実現でき、最大透磁率を50未満に、さらには40未満にすることが可能となる。
【0038】
(実施例8)
Co原料、Fe原料、B原料をアルミナルツボに充填し、真空溶解炉内にて、溶解、鋳造して56Fe−24Co−20B(at%)インゴットを得た。次に、このインゴットを旋盤で加工し、直径175mm、厚さ7mmの円盤状ターゲット材を得た。その後、このターゲット材を、大気中で400℃、48時間熱処理した。その後、旋盤で切削加工及び平面研磨加工で仕上げて、直径164mm、厚さ5mmの円盤状ターゲットを得た。
【0039】
このターゲット表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果、直径50μm以上のCo粒子の存在を確認できなかった。また、SEM−EDSを用いて、構成元素状態を観察した結果、結晶粒は、Bが過剰なFe−Co−B相(Bリッチ相)と、Bが不足したFe−Co−B相(Bプア相)となっていることを確認した。
次に、このターゲットの端からサンプルを採取して、長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作成し、透磁率を測定した。透磁率の測定には、B−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は、39であった。
なお、結晶粒はFe−Co−Bであり、Co粒は観察されなかったが、所定の条件での熱処理により結晶組織の微小な変化が生じ、Co粒の効果ほどではないものの、Co粒と類似の理由の透磁率低減効果が出たものと考えられる。
【0040】
(比較例1)
Co原料とFe原料をアルミナルツボに充填し、真空溶解炉内にて溶解、鋳造して27Fe−73Coインゴットを得た。次に、このインゴットを圧延した板材を旋盤で切削加工及び平面研磨加工で仕上げて直径164mm、厚さ5mmの円盤状ターゲットを得た。
このターゲット表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果、直径50μm以上のCo粒子の存在を確認できなかった。また、SEM−EDSを用いて、構成元素状態を観察した結果、結晶粒はFe−Coとなっていることを確認した。次に、圧延板の端材からサンプルを採取して長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作成し、透磁率を測定した。透磁率の測定にはB−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は、320であった。
【0041】
(比較例2)
Co原料とFe原料を別々にガスアトマイズ処理して、焼結用の原料粉末を作製し、この粉末を、Arフローのグローブボックス内にて粒径20〜38μmに調整した。その後、Co原料とFe原料を、ターゲットの組成が73Fe−27Co(at%)となるように秤量し、混合した。次に、この混合粉末をHIP法にて、650℃×3時間、1600kgf/cmの条件で焼結し、73Fe−27Coの焼結体を作製した。これを旋盤で切削加工及び平面研磨加工で仕上げて直径164mm、厚さ5mmの円盤状ターゲットを得た。
【0042】
このターゲット表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果、Co粒子の直径は最大でも40μmであった。次に焼結体の端材からサンプルを採取して、長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作成し、透磁率を測定した。透磁率の測定にはB−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は250であり、比較例1よりは透磁率の低下がみられたが、大きな効果では無かった。
【0043】
(比較例3)
Co原料とFe原料をアルミナルツボに充填し、真空溶解炉内にて、溶解、鋳造して50Fe−50Coインゴットを得た。次に、このインゴットを旋盤加工で仕上げて直径164mm、厚さ5mmの円盤状ターゲットを得た。
このターゲット表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果、直径50μm以上のCo粒子の存在を確認できなかった。また、SEM−EDSを用いて、構成元素状態を観察した結果、結晶粒はFe−Coとなっていることを確認した。次に、圧延板の端材からサンプルを採取して長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作成し、透磁率を測定した。透磁率の測定にはB−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は、220であった。
【0044】
(比較例4)
比較例3と同様の方法で73Fe−27Coの円盤状ターゲットを得た。このターゲット表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果、直径50μm以上のCo粒子の存在を確認できなかった。また、SEM−EDSを用いて、構成元素状態を観察した結果、結晶粒はFe−Coとなっていることを確認した。
次に、圧延板の端材からサンプルを採取して、長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作成し、透磁率を測定した。透磁率の測定には、B−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は、265であった。
【0045】
(比較例5)
比較例3と同様の方法で65Fe−35Coの円盤状ターゲットを得た。このターゲット表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果、直径50μm以上のCo粒子の存在を確認できなかった。また、SEM−EDSを用いて、構成元素状態を観察した結果、結晶粒はFe−Coとなっていることを確認した。
次に、圧延板の端材からサンプルを採取して、長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作成し、透磁率を測定した。透磁率の測定には、B−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は、230であった。
【0046】
(比較例6)
Co原料、Fe原料、B原料をアルミナルツボに充填し、真空溶解炉内にて、溶解、鋳造して56Fe−24Co−20B(at%)インゴットを得た。次に、このインゴットを旋盤で切削加工及び平面研磨加工で仕上げて、直径164mm、厚さ5mmのターゲット材を得た。
このターゲット材の表面をアルミナ砥粒で研磨して鏡面にし、顕微鏡を用いてターゲットの中心部の組織(1000μm×800μmの範囲)を観察した。その結果、直径50μm以上のCo粒子の存在を確認できなかった。また、SEM−EDSを用いて、構成元素状態を観察した結果、結晶粒は、Bが過剰なFe−Co−B相(Bリッチ相)と、Bが不足したFe−Co−B相(Bプア相)となっていることを確認した。
次に、このターゲットの端からサンプルを採取して、長さ5mm、幅5mm、高さ12mmの試験片を作成し、透磁率を測定した。透磁率の測定には、B−Hカーブトレーサー(理研製)を用い、印加磁場を1KOeとした。その結果、最大透磁率は、61であった。
【0047】
以上の結果をまとめたものを表1に示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のFe−Co基合金からなる磁性材スパッタリングターゲットは、透磁率が低いので、マグネトロンスパッタリングの際の漏洩磁束密度を高めることができる。そしてそれにより。成膜速度を速めることができ、薄膜作製の生産性を向上することができるという優れた効果を有する。特にターゲットの厚みが厚い場合に、本発明による透磁率低減の効果が有効である。TMR素子などの磁気デバイスの磁性薄膜形成用として有用である。
図1
図2