特許第6801311号(P6801311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6801311樹脂組成物並びにこれよりなるフィルム及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801311
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】樹脂組成物並びにこれよりなるフィルム及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 31/04 20060101AFI20201207BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20201207BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20201207BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20201207BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20201207BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20201207BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   C08L31/04 S
   C08L23/08
   C08L29/04 S
   C08L101/00
   C08K5/053
   B32B17/10
   B32B27/28 101
   B32B27/28 102
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-174327(P2016-174327)
(22)【出願日】2016年9月7日
(65)【公開番号】特開2017-71761(P2017-71761A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2019年8月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-199572(P2015-199572)
(32)【優先日】2015年10月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】逸見 隆史
(72)【発明者】
【氏名】幸田 真吾
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−211450(JP,A)
【文献】 特開2000−143999(JP,A)
【文献】 特開2009−275133(JP,A)
【文献】 特開2017−071697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 31/04
B32B 17/10
B32B 27/28
C08K 5/053
C08L 23/08
C08L 29/04
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル含有率が5〜50重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)50〜99重量%と、エチレン含有率が50モル%未満であるビニルアルコール系重合体(B)50〜1重量%((A)と(B)の合計は100重量%)を含む樹脂組成物であって、25℃におけるエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)とビニルアルコール系重合体(B)の屈折率の差が0〜0.040であり、エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)とビニルアルコール系重合体(B)を含む樹脂組成物100重量部((A)と(B)の合計は100重量部)に対して、さらに脂環構造および/または芳香族環状構造を有するオリゴマー(C)を0.1〜30重量部含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
ビニルアルコール系重合体(B)が、ポリビニルアルコール樹脂またはエチレン・ビニルアルコール共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ビニルアルコール系重合体(B)のガラス転移点が40℃以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)とビニルアルコール系重合体(B)を含む樹脂組成物100重量部((A)と(B)の合計は100重量部)に対して、さらにSP値が9〜18cal1/2・cm−3/2であるビニルアルコール系重合体以外のポリオール(D)を0.1〜10重量部含有することを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含むことを特徴とするフィルム。
【請求項6】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の樹脂組成物が、一対の透明ガラス板および/または透明樹脂板で挟持されてなることを特徴とする積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用環境の温度に応じて光線の透過性が可逆的に変化する、温度感応性調光性能を有した樹脂組成物並びにこれよりなるフィルム及び積層体に関するものである。また本発明は、使用環境の湿度に応じて光線の透過性が可逆的に変化する、湿度感応性調光性能を有した樹脂組成物並びにこれよりなるフィルム及び積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、農業分野においては、作物の安定した収穫を通年で行うために、農業用ハウスが利用されている。農業用ハウスに求められる主な性能は冬場の温度低下を抑制することであり、ハウス用フィルムには透明性とともに保温性の向上が求められている。特に近年は、暖房に必要な燃料の高騰による経済的な負担や化石燃料の燃焼に伴う環境への負荷が問題となっており、フィルムの保温性向上の要求は一層強まっている。
【0003】
一方で、夏場の強い直射日光によって農業用ハウス内の温度が上昇しすぎることにより生じる植物の育成障害が問題となっている。夏場のハウス内の温度上昇を抑制するための対策としては、光線を散乱させる粒子の配合により直達光を減少させるとともに散乱光を増加させて光線量を維持する機能を有するフィルムが使用されている。
【0004】
しかし、前記2つの課題をいずれも解決するためには、夏場と冬場で異なる性能を有するフィルムを張り替える必要がある。フィルムの張り替えは、経済的な負担が非常に大きく、また農業就業人口が減少している現在の状況では作業に要する人手を確保することが困難である場合が多い。
【0005】
この課題を解決する手段として、感温性調光フィルムが提案されている。これは温度によってフィルムの光線透過性が可逆的に変化するフィルムであり、低温では透明性フィルム、高温では光散乱フィルムとなるものである。これによって、冬場の保温と夏場の室内温度上昇抑制をフィルムの張り替えなしに実現することが可能である。
【0006】
例えば、2つの互いに混和性でない成分からなり、2つの成分は屈折率の温度依存性が異なることを特徴とし、温度変化に伴って光線透過率が可逆的に変化する樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし農業用フィルムの材料としてみた場合、保温性が十分であるとはいえない。
【0007】
フィルムの保温性を改善する方法としては、水酸基を含有する無機充填剤を配合することが広く知られており、水酸基を含有する無機充填剤としては、シリカやハイドロタルサイト類などが使用されている。しかし十分な保温性を発揮させるためには、大量の無機充填剤を配合する必要があり、フィルムの透明性を低下させてしまうという問題がある。
【0008】
保温性を改善する別の方法として、ビニルアルコール系重合体の配合が提案されており、ビニルアルコール系重合体は水酸基を含有していることから、高い保温性を発揮することが期待される。
【0009】
例えば、熱可塑性樹脂とビニルアルコール系重合体および防曇剤からなる樹脂組成物および該樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する農業用フィルムが開示されており、該フィルムは保温性に優れる旨が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0010】
しかし、特許文献2のフィルムは感温性調光性能を有しておらず、夏場の温度上昇抑制効果が不十分であると推定される。また特許文献1に記載された感温性調光フィルムにおいてこれに保温性の向上を目的としてさらにビニルアルコール系重合体を配合すると、フィルム物性や透明性の低下および成形加工性の悪化が懸念される。
【0011】
なお、前記の特許文献1において、感温性調光性能を有する樹脂組成物の材料として適する物質が示されているが、ビニルアルコール系重合体は記載されていない。
【0012】
また、湿度制御は生活環境の快適化だけでなく、工業的あるいは農業的な品質管理には不可欠である。そのため、湿度を検出するためのセンサーの開発が古くから盛んに行われており、その方法としては電気抵抗式、毛髪式、乾湿球式などが挙げられ、それらの方法によれば、湿度を良好な精度で把握することができる。
【0013】
一方で環境の湿度を複雑で高価な装置を必要とせずに簡易的かつ視覚的、感覚的に把握したいという要求も存在し、防湿包装や農業用フィルムなどへの活用が考えられる。使用環境の湿度を視覚的に認識することのできる材料としてはこれまでに湿度感応性を有するコバルト化合物や有機色素を含有した湿度インジケーターなどが実用化されているが、これらの材料は最終的に廃棄物となり、特にコバルト化合物などの重金属を使用したものは環境保護の観点からは好ましいとはいえない。
【0014】
使用環境の湿度に応じて光線の透過性が可逆的に変化する、湿度感応性調光性能を有した材料があれば、前記の要求を満たすことができるが、これまでにそのような材料は実用化されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−95957号公報
【特許文献2】特開2000−143999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記のような状況を鑑みなされたものであって、フィルムとして使用した場合に感温性調光性能を有し、さらに保温性が高い樹脂組成物並びにこれよりなるフィルム及び積層体を提供することを目的とするものである。また本発明は、使用環境の湿度に応じて光線の透過性が可逆的に変化する、湿度感応性調光性能を有した樹脂組成物並びにこれよりなるフィルム及び積層体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のエチレン・酢酸ビニル共重合体と特定のビニルアルコール系重合体を特定の比率で配合した場合に、感温性調光性能ならびに湿度感応性調光性能を発現し、さらに保温性が向上した樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち本発明は、酢酸ビニル含有率が5〜50重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)50〜99重量%と、エチレン含有率が50モル%未満であるビニルアルコール系重合体(B)50〜1重量%((A)と(B)の合計は100重量%)を含む樹脂組成物であって、25℃におけるエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)とビニルアルコール系重合体(B)の屈折率の差が0〜0.040であることを特徴とする樹脂組成物に関するものである。
【0019】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の樹脂組成物を構成するエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)は、酢酸ビニル含有率が5〜50重量%であり、好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは15〜35重量%である。酢酸ビニル含有量が5重量%未満だとエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)の屈折率が大きくなるため、ビニルアルコール系重合体(B)の屈折率を上回り、感温性調光性能が不十分になる恐れがある。また酢酸ビニル含有量が50重量%を超えると、樹脂の熱安定性が不十分となり成形加工に支障をきたす恐れがある。
【0021】
エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)は、透明性を大きく損ねない範囲で、上記の樹脂を2種以上混合して使用することができる。
【0022】
また、エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)は、透明性を大きく損ねない範囲で、他の熱可塑性樹脂を混合して使用することができる。他の熱可塑性樹脂としては特に制約はないが、エチレン・酢酸ビニル共重合体との相溶性が高いことからオレフィン系重合体が好ましい。オレフィン系重合体としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体およびポリプロピレンなどが例示できる。
【0023】
本発明の樹脂組成物には、ビニルアルコール系重合体(B)が配合されていることが必要である。ビニルアルコール系重合体(B)はエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)と相溶せずにドメインを形成し、樹脂組成物に入射した光の一部は両者の界面において散乱する。その程度は両者の屈折率の差に応じて変化するが、エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)とビニルアルコール系重合体(B)では屈折率の温度依存性が異なるため、温度が変化すると両者の屈折率差が変化して、散乱光の程度が変わる。
【0024】
なお、本発明の樹脂組成物を構成するビニルアルコール系重合体(B)は、ポリビニルアルコール樹脂またはエチレン・ビニルアルコール共重合体であることが好ましい。エチレン・ビニルアルコール共重合体は、エチレンとビニルアルコール単位を共重合して製造したものであってもよく、エチレン・酢酸ビニル共重合体をケン化して製造したものであってもよい。エチレン・酢酸ビニル共重合体をケン化する場合のケン化度は、30〜100モル%が好ましく、さらに好ましくは60〜100モル%であり、特に好ましくは80〜100モル%である。
【0025】
本発明の樹脂組成物を構成するビニルアルコール系重合体(B)は、エチレン含有率が50モル%未満である。エチレン含有率が50モル%以上になると、組成物の保温性が低下するため好ましくない。
【0026】
また、25℃におけるエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)とビニルアルコール系重合体(B)の屈折率の差は0〜0.040であり、好ましくは0.003〜0.035である。両者の屈折率の差が0.040よりも大きいと、組成物の光線透過性の変化を目視で認識できる温度が大幅に低温側に移動し、成形品の実用温度範囲である0〜40℃において感温性調光性能が発現しない。
【0027】
さらに、本発明の樹脂組成物を構成するビニルアルコール系重合体(B)のガラス転移点は40℃以上であることが好ましい。ガラス転移点が40℃以上であれば、本発明の樹脂組成物の実用想定温度である0〜40℃においてはビニルアルコール系重合体(B)の温度による屈折率の変化は非常に小さくなり、感温性調光性能が発現しやすくなる。
【0028】
本発明の樹脂組成物を構成するビニルアルコール系重合体(B)は、熱可塑性であることが好ましい。熱可塑性とは、熱成形時において著しい劣化やゲル化等の変質をきたさないような成形条件を設定し得るものであって、ビニルアルコール系重合体にグリセリン、その誘導体、ポリエチレングリコール、水等の可塑剤が添加されているものも包含される。
【0029】
本発明の樹脂組成物を構成する各成分の配合比率は、エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)の割合が50〜99重量%、ビニルアルコール系重合体(B)の割合が50〜1重量%である。ビニルアルコール系重合体(B)の配合比率が1重量%未満では感温性調光性能および保温性が不十分になり好ましくない。また50重量%を超えて配合すると、樹脂組成物の成形加工性が不十分になる恐れがある。
【0030】
本発明の樹脂組成物には、脂環構造および/または芳香族環状構造を有するオリゴマー(C)を配合してもよい。このオリゴマー(C)はエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)と相溶して、エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)の屈折率を変化させるため、エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)とビニルアルコール系重合体(B)の屈折率差の調整を容易に行うことができる。また、オリゴマー(C)を配合することで、当該樹脂組成物を他のオレフィン系樹脂との多層フィルムにした場合の層間接着が良好になる。オリゴマーの種類には特に制約はないが、石油樹脂、テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、ロジン系樹脂、キシレン系樹脂、アルキルフェノール系樹脂およびクマロンインデン系樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種類であることが好ましい。
【0031】
前記の脂環構造および/または芳香族環状構造を有するオリゴマー(C)については、水添処理を施したものであることが好ましい。水添処理を施すことにより構造中の不飽和結合が減少するため、臭気の減少、色相の改善、加熱安定性の向上などの効果が期待できる。分子構造中に芳香族環などの二重結合が一部残存している部分水添品であってもかまわない。
【0032】
また、前記の脂環構造および/または芳香族環状構造を有するオリゴマー(C)は、軟化点が100℃以上であることが好ましい。これらのオリゴマーは、一般的に軟化点より40〜50℃低いガラス転移点を有しており、軟化点が100℃以上であれば本発明の樹脂組成物の実用温度域(0〜40℃)よりも高いガラス転移点を有する。よって、実用温度域においてはオリゴマー(C)の性質は変化することがなく、安定した温度感応性を示すことが期待できる。さらに、成形品表面への移動が抑制されてべたつき等の問題が起こりにくくなるため好ましい。
【0033】
前記の脂環構造および/または芳香族環状構造を有するオリゴマー(C)の配合比率については、添加による屈折率調節効果が良好となり樹脂組成物の成形加工性も良好であることから、(A)と(B)の組成物100重量部に対して0.1〜30重量部が好ましく、より好ましくは1〜25重量部であり、さらに好ましくは5〜25重量部である。本発明の樹脂組成物には、エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)とビニルアルコール系重合体(B)の界面の接着性を向上させるために、相溶化剤を配合してもよい。相溶化剤の種類については特に制約はなく、無水マレイン酸変性ポリエチレン、エチレン含有率50モル%以上のエチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物などを例示することができる。
【0034】
本発明の樹脂組成物には、SP値が9〜18cal1/2・cm−3/2のビニルアルコール系重合体以外のポリオール(D)を配合してもよく、SP値が10cal1/2・cm−3/2以上が好ましい。このビニルアルコール系重合体以外のポリオール(D)は、SP値が近いビニルアルコール系重合体(B)(SP値:10〜13cal1/2・cm−3/2)とは相溶しやすいが、一方SP値の離れたエチレン・酢酸ビニル共重合体(A)(SP値:約8cal1/2・cm−3/2)とは相溶しにくいため、ビニルアルコール系重合体(B)にのみ作用してその屈折率が変化させる。その結果、ビニルアルコール系重合体以外のポリオール(D)を配合することで、エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)とビニルアルコール系重合体(B)の屈折率差の調整が容易になる。
【0035】
前記のビニルアルコール系重合体以外のポリオール(D)のSP値の算出は、Fedorsの方法に基づいて行う。Fedorsの方法によるSP値の算出方法は、例えば、非特許文献である「塗装の研究 No.152、41−46p(2010)」に記載されている。
【0036】
前記のビニルアルコール系重合体以外のポリオール(D)の分子量には特に制約はないが、樹脂組成物中での移動速度が速くビニルアルコール系重合体(B)への作用が迅速になることから、5000g/mol以下であることが好ましく、より好ましくは50〜3000g/mol、さらに好ましくは100〜2000g/molである。
【0037】
前記のビニルアルコール系重合体以外のポリオール(D)の種類には特に制約はないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、及びこれらの脂肪酸エステル、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びこれらの脂肪酸エステル、グリセリン、ポリグリセリン、及びこれらの脂肪酸エステル、ソルビトールとその脂肪酸エステル、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリオキシプロピレントリオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどを例示することができる。とりわけ、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコールが好ましい。
【0038】
前記のビニルアルコール系重合体以外のポリオール(D)の配合比率については、添加による屈折率調節効果が良好となり樹脂組成物表面へのブリードアウトが少ないことから、(A)と(B)の組成物100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、より好ましくは1〜6重量部である。
【0039】
本発明の樹脂組成物には、さらに必要に応じて、酸化防止剤、安定剤、耐侯剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロック剤、防曇剤、防霧剤、保温剤、可塑剤など、樹脂に一般的に用いられている添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもかまわない。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、樹脂の混合に通常使用される方法を用いることができ、例えば溶融・混合方法として、単軸押出機や二軸押出機を用いた押出混練、ロール混練など公知の方法を挙げることができ、該方法で溶融混練することにより得ることができる。
【0041】
本発明の樹脂組成物は、成形して該樹脂組成物を少なくとも1層含むフィルムとして使用することができる。その形態については特に制約はなく、単層のフィルム、該樹脂組成物からなる層の片面もしくは両面に透明樹脂層を配した多層フィルムを例示することができる。
【0042】
前記の多層フィルムを構成する透明樹脂層に用いる透明樹脂については特に制約はないが、透明性と成形加工性が良好であることからオレフィン系重合体が好ましい。オレフィン系重合体としては、低密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体およびポリプロピレンなどが例示できる。
【0043】
前記フィルムの厚みについては特に制約はないが、本発明の樹脂組成物からなる層の厚みは、10μm〜5mmであることが好ましく、さらに好ましくは30μm〜2mm、特に好ましくは50μm〜1mmである。なお、フィルムはその厚みによっては、シートと呼ばれることもある。
【0044】
前記フィルムの成形方法には特に制約はなく、公知のフィルム成形方法を使用することができる。成形方法としては、インフレーション成形法、共押出インフレーション成形法、Tダイ成形法、共押出Tダイ成形法、ドライラミネート成形法、押出ラミネート成形法、共押出ラミネート成形法、サンドラミネート成形法、カレンダー成形法、圧縮成形法などを例示できる。
【0045】
また、本発明の樹脂組成物は、一対の透明ガラス板および/または透明樹脂板で挟持した積層体として使用することができる。
【0046】
前記の透明ガラス板および透明樹脂板の材質については特に制約はなく、市販のガラス板、ポリカーボネート樹脂板、アクリル樹脂板などを使用することができる。
【0047】
また、前記積層体の形態としては特に制約はなく、透明ガラス板/樹脂組成物/透明ガラス板、透明樹脂板/樹脂組成物/透明樹脂板、透明ガラス板/樹脂組成物/透明樹脂板などの形態を例示することができる。また、樹脂組成物と透明ガラス板の間および樹脂組成物と透明樹脂板の間には、それ以外の透明樹脂層を設けることもできる。
【0048】
本発明の樹脂組成物は、温度感応性調光材料としては、夏季と冬季で異なった光線透過性能が要求され、さらに高い保温性が必要な農業用フィルムとして最も好適に使用されるが、他にも住居用資材、および自動車用資材などとしても好適に使用することができる。
【0049】
また本発明の樹脂組成物は、湿度感応性調光材料としては、湿度によって内容物の視認性が変化し容器内の湿度を一目で把握することのできる包装容器として使用することができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明の樹脂組成物は、環境の温度によって光線透過性が変化する性質を有し、さらに高い保温性を有するため、これを使用した農業用フィルムや住居用資材、自動車用資材は特に冬場の保温性に優れ、なおかつ夏場においても温度上昇抑制の効果が期待できる。
【0051】
また本発明の樹脂組成物は、湿度によって光線透過性が変化する性質を有するため、これを使用した防湿包装や農業用フィルムとしての利用が期待できる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)物性評価方法
以下に、各物性の評価方法を示す。
(1−1)光線透過性
厚み1mmのプレス板を評価用試料とし、試料は各々の測定条件に設定された恒温恒湿槽で1時間以上状態調整を行った。状態調整は、5℃×20%Rh、25℃×20%Rh、45℃×20%Rh、45℃×50%Rh、45℃×90%Rhの5条件で行った。その後恒温恒湿槽から取り出して直ちに、文字の印刷された紙と試料を間隔が7mmとなるよう平行に配置した。試料を通して紙の文字を目視し、その見え方で光線透過性を判定した。以下にその基準を示す。
【0053】
5:クリアに判読可能
4:判読可能だが、若干かすむ
3:判読可能
2:文字と認識できるが、判読不可
1:文字と認識できない
0:不透明
(1−2)保温性
厚み0.15mmのプレスフィルムを評価用試料とし、パーキン・エルマー社製赤外分光光度計SpectrumOneを用いて赤外吸収スペクトルを測定した。各波長の赤外線吸収率に15℃の黒体放射の輝度を乗じて規格化し、400〜2000cm−1の波長範囲に亘って積算した。得られたエネルギーの黒体放射の輝度の総和に対する百分率を保温指数とし、下記基準に基づいて評価した。
【0054】
○:保温指数 65%以上
△:保温指数 55%以上65%未満
×:保温指数 55%未満
(1−3)成形性
本発明の組成物を用いて成形した厚み1mmのプレス板を目視で観察し、光線透過性にムラが認められた場合は×、ムラがない場合を○とした。
(2)材料
実施例および比較例に用いた材料は、以下のとおりである。
(2−1)エチレン・酢酸ビニル共重合体(A)
A−1:エチレン・酢酸ビニル共重合体(商品名)「ウルトラセン634」(東ソー(株)製) 酢酸ビニル含量26重量%、190℃で測定したメルトフローレート(以下、MFR)4.3g/10分、25℃における屈折率1.489
A−2:エチレン・酢酸ビニル共重合体(商品名)「ウルトラセン626」(東ソー(株)製) 酢酸ビニル含量15重量%、MFR3.0g/10分、25℃における屈折率1.498
なお、屈折率はJIS K7142 A法に準拠し、1−ブロモナフタレンを接触液としてアッベ屈折計NAR−1T(アタゴ社製)を用いて、25℃、50%Rhの条件下で測定した。
各々の材料の性状を、表1にまとめた。
【0055】
【表1】
【0056】
(2−2)ビニルアルコール系重合体(B)およびその他の材料
B−1:ポリビニルアルコール(商品名)「ポバールCP−1000」((株)クラレ製) エチレン含有率0モル%、ガラス転移点55℃、25℃における屈折率1.501
B−2:エチレン・ビニルアルコール共重合体(商品名)「エバールE105B」((株)クラレ製) エチレン含有率44モル%、ガラス転移点53℃、25℃における屈折率1.524
B−3:エチレン・ビニルアルコール共重合体(商品名)「エバールF171B」((株)クラレ製) エチレン含有率32モル%、ガラス転移点57℃、25℃における屈折率1.529
B−4:低密度ポリエチレン(商品名)「ペトロセン203」(東ソー(株)製) エチレン含有率100モル%、ガラス転移点−20℃、25℃における屈折率1.512
B−5:ポリメタクリル酸メチル樹脂(商品名)「パラペット G1000」(クラレ(株)製) ガラス転移点100℃、25℃における屈折率1.493
各々の材料の性状を、表2にまとめた。
【0057】
【表2】
【0058】
(2−3)オリゴマー(C)
C−1:水添石油樹脂(商品名)「アルコンP100」(荒川化学(株)製) 軟化点100℃
C−2:水添テルペン樹脂(商品名)「クリアロンP100」(ヤスハラケミカル(株)製) 軟化点100℃
(2−4)ポリビニルアルコール系重合体以外のポリオール(D)
D−1:トリメチロールプロパン(和光純薬工業(株)製) SP値13.6cal1/2・cm−3/2、分子量134g/mol
D−2:ジエチレングリコール(和光純薬工業(株)製) SP値12.1cal1/2・cm−3/2、分子量106g/mol
〔実施例1〕
A−1 90重量%とB−1 10重量%を、200℃に保持したミキサー((株)東洋精機製作所製 ラボプラストミル30C−150にR−100ミキサーを接続)に投入し、回転数30rpmで10分間混練した。混練後の樹脂組成物は、溶融したまま取り出した後に大気中で冷却した。これを180℃で厚み1mmの板にプレス成形して光線透過性と成形性の評価用試料とした。また、180℃で厚み0.15mmの板にプレス成形して保温性の評価用試料とした。
【0059】
この試料を、(1−1)〜(1−3)に示した方法で性能評価を行った。結果を表3に示す。
【0060】
〔実施例2〕
A−1の代わりにA−2を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試料の調製および評価を行った。結果を表3に示す。
【0061】
〔実施例3〕
A−2の配合比率を70重量%に、B−1の配合比率を30重量%に変更した以外は、実施例2と同様の方法で試料の調製および評価を行った。結果を表3に示す。
【0062】
〔実施例4〕
B−1の代わりにB−2を使用した以外は、実施例2と同様の方法で試料の調製および評価を行った。結果を表3に示す。
【0063】
〔実施例5〕
B−1の代わりにB−3を使用した以外は、実施例2と同様の方法で試料の調製および評価を行った。結果を表3に示す。
【0064】
〔実施例6〕
A−2 90重量%とB−2 10重量%からなる混合物100重量部に対し、C−1を20重量部配合して混練した以外は、実施例1と同様の方法で試料の調製および評価を行った。結果を表3に示す。
【0065】
〔実施例7〕
C−1の代わりにC−2を使用した以外は、実施例6と同様の方法で試料の調製および評価を行った。結果を表3に示す。
【0066】
〔実施例8〕
A−2 90重量%とB−2 10重量%からなる混合物100重量部に対し、D−1を5重量部配合して混練した以外は、実施例1と同様の方法で試料の調製および評価を行った。結果を表3に示す。
【0067】
〔実施例9〕
D−1の代わりにD−2を使用した以外は、実施例8と同様の方法で試料の調製および評価を行った。結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
〔比較例1〕
A−2の配合比率を100重量%とし、B−1を配合しなかった以外は、実施例2と同様の方法で試料の調製および評価を行った。結果を表4に示す。5℃と45℃の光線透過性の差がなく感温性調光性能が認められなかった。また、湿度感応性調光性能も認められなかった。さらに保温性が低かった。
【0070】
〔比較例2〕
A−2の配合比率を30重量%とし、B−1の配合比率を70重量%に変更した以外は、実施例2と同様の方法で試料の調製および評価を行った。結果を表4に示す。成形性が悪化した。
【0071】
〔比較例3〕
B−1の代わりにB−4を使用した以外は、実施例2と同様の方法で試料の調製および評価を行った。結果を表4に示す。5℃と45℃の光線透過性の差がなく、感温性調光性能が認められなかった。また湿度感応性調光性能も認められなかった。さらに保温性が低かった。
【0072】
〔比較例4〕
B−1の代わりにB−5を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試料の調製および評価を行った。結果を表4に示す。保温性が低かった。また25℃以下での感温性調光性能が認められなかった。さらに湿度感応性調光性能も認められなかった。
【0073】
【表4】