特許第6801699号(P6801699)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6801699セメント用速硬性混和材、その製造方法及び速硬性セメント組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801699
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】セメント用速硬性混和材、その製造方法及び速硬性セメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/08 20060101AFI20201207BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20201207BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   C04B22/08 Z
   C04B22/14 B
   C04B28/02
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-183125(P2018-183125)
(22)【出願日】2018年9月28日
(65)【公開番号】特開2020-50557(P2020-50557A)
(43)【公開日】2020年4月2日
【審査請求日】2019年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 恭子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 定人
(72)【発明者】
【氏名】平野 有紀
(72)【発明者】
【氏名】上河内 貴
(72)【発明者】
【氏名】木虎 智子
(72)【発明者】
【氏名】狩野 和弘
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−125431(JP,A)
【文献】 特開平06−032642(JP,A)
【文献】 特開平08−034650(JP,A)
【文献】 特開2005−060154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00−32/02,
C04B40/00−40/06,
C04B103/00−111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が水処理されたカルシウムアルミネート材と、ホウ酸と、石膏とを含有し、ホウ酸は、前記水処理されたカルシウムアルミネート材100質量部に対して1.2〜1.8質量部含まれ、石膏は、前記水処理されたカルシウムアルミネート材に対して質量比で4:6〜6:4の割合で含まれることを特徴とする、セメント用速硬性混和材。
【請求項2】
請求項1記載のセメント用速硬性混和材において、前記表面が水処理されたカルシウムアルミネート材は、カルシウムアルミネート材粉末100質量部に対して、0.25〜2質量部の水で表面処理されていることを特徴とする。セメント用速硬性混和材。
【請求項3】
請求項1又は2記載のセメント用速硬性混和材とセメントとを含有してなることを特徴とする、速硬性セメント組成物。
【請求項4】
カルシウムアルミネート材粉末100質量部に対して、水を0.25〜2質量部噴霧し混合して水処理されたカルシウムアルミネート材粉末を調製する工程、当該水処理されたカルシウムアルミネート材粉末100質量部にホウ酸を1.2〜1.8質量部と、水処理されたカルシムアルミネート粉末と石膏粉末とが質量比で4:6〜6:4になるように石膏粉末とを添加配合して均一に混合する工程とを備えることを特徴とする、セメント用速硬性混和材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント用速硬性混和材、その製造方法及び速硬性セメント組成物に関し、特に、任意のセメントに添加して、セメントに良好な早期強度の発現を付与することができるとともに、十分な可使時間を確保して施工性に優れる、セメント用速硬性混和材、その製造方法及び速硬性セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トンネルや地下空間の建設工事では、モルタルやコンクリート等のセメント混合物を、壁面や露出面に吹き付けてライニングし、壁面や露出面の崩落を防止する吹き付け施工工法が広く実施されている。
かかるコンクリート吹き付け工法においては、コンクリート等を調製し、それを取り扱う際に必要な最低限の可使時間(ハンドリングタイム)を確保するとともに、壁面や露出面に吹き付けた後に、コンクリート等を即時に硬化させる必要がある。
また、止水工事や緊急工事においても、モルタルやコンクリートの可使時間を確保するとともに、即時に硬化させる必要がある。
【0003】
従来、急硬性を有するセメントとして、ジェットセメント等の急硬性セメントを製造している。これらに使用されるクリンカとして、ジェットセメントクリンカ、C4A3を主成分とするアーウィン系クリンカ、CAを主成分とするアルミナセメントクリンカ等がある。
また、急硬性成分であるC12A7を主成分としたクリンカを溶融し、その後これを急冷することによって、非晶質C12A7を得る方法もある。
【0004】
特に、従来のジェットセメントクリンカは、カルシウムシリケート相を主成分とし速硬性成分としてC11A7・CaF2を約20〜30重量%含有するクリンカであり、C11A7CaF2やC4AF等の融液相を生成させてなるものである。従って、急硬性成分であるC12A7の含有量を、上記範囲以上とすると、融液相が多くなりすぎ、クリンカが溶融してしまい、例えば現状設備での製造が非常に困難となる。
【0005】
また、アーウィン系クリンカは、急硬性を有するアーウィン(C4A3)を70重量%以上含有することから急硬性セメント用クリンカとして利用されているが、その急硬性成分の特性により、特に、低温での急硬性に劣るという問題がある。
更に、CAを主成分とするアルミナセメントクリンカは、C12A7を主成分としたクリンカに比べると、急硬性が劣る。
【0006】
特許第3179702号公報(特許文献1)には、急硬性セメント、急結材、速硬性セメント、地盤改良材、マスキング材等に使用されるクリンカ組成物であって、鉱物相として、12CaO・7Al系のカルシウムアルミネートを主成分としたクリンカ原料に、Feを全体の0.1〜9重量%、CaFを全体の0.1〜9重量%含有共存させることによって低温融液相と高温融液相とを生成させ、且つTiOを全体の0.5〜9重量%添加することによって該低温融液相と高温融液相との融液生成開始温度を低下させて焼成してなることを特徴とする急硬性クリンカ組成物が開示されている。
このセメントクリンカは、固相反応を促進させるため、融液相を積極的に生成させる必要があり、融液相が少ないと固相反応が進まずクリンカ鉱物生成がうまく進行しない。一方、融液相の過剰生成は、クリンカ製造上問題となるため、生成される融液相の量を一定の範囲に入るように調整する必要があった。
特に、このクリンカは、C12A7系鉱物含有量をジェットクリンカに比べて増加させたものであり、C12A7系鉱物相を固相反応により生成するものである。このときFeやTiを添加して適量の融液相を生成させてクリンカを得ている。
【0007】
また、モルタルやコンクリートの硬化を促進する急硬性材料として、特開2005−060154号公報(特許文献2)には、(a)水和物で被覆されたカルシウムアルミネート粒子、(b)硫酸カルシウム及び(c)アルミニウム硫酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属炭酸塩の群から選択される1種以上を含有してなる急硬性材料、及びポルトランドセメント又は混合セメントと、該急硬性材料を含有してなる急硬性セメント組成物が開示されている。
【0008】
また、特開2006−182568号公報(特許文献3)には、セメント、モルタル、コンクリート等の水硬性組成物に混和することによって注水後も所望の比較的長い可使時間の確保するために、水和物被覆層を有するカルシウムアルミネート粒子と、生石灰及び/又は消石灰とを含有してなる急硬材が開示されている。
【0009】
しかし、これらの急硬材は、現場での可使時間の確保が十分であるとはいえず、十分な可使時間が確保できるとともに、早期強度発現性に優れる新しい速硬性混和材が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3179702号公報
【特許文献2】特開2005−060154号公報
【特許文献3】特開2006−182568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、セメントに混和する混和材であって、十分な可使時間を確保できるとともに、早期強度発現性を付与することができるセメント用混和材及びその製造方法を提供することである。
更に、本発明の他の目的は、本発明のセメント用混和材を含有するセメント組成物であって、十分な可使時間を確保することができるため施工性に優れ、早期強度発現性に優れるセメント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のセメント用速硬性混和材は、表面が水処理されたカルシウムアルミネート材と、ホウ酸と、石膏とを含有し、ホウ酸は、前記水処理されたカルシウムアルミネート材100質量部に対して1.2〜1.8質量部含まれ、石膏は、前記水処理されたカルシウムアルミネート材に対して質量比で4:6〜6:4の割合で含まれることを特徴とする、セメント用速硬性混和材である。
好適には、本発明のセメント用速硬性混和材は、上記セメント用速硬性混和材において、前記表面が水処理されたカルシウムアルミネート材は、カルシウムアルミネート材粉末100質量部に対して、0.25〜2質量部の水で表面処理されていることを特徴とする、セメント用速硬性混和材である。
【0013】
本発明の速硬性セメント組成物は、上記いずれかのセメント用速硬性混和材とセメントとを含有してなることを特徴とする、速硬性セメント組成物である。
【0014】
本発明のセメント用速硬性混和材の製造方法は、カルシウムアルミネート材粉末100質量部に対して、水を0.25〜2質量部噴霧し混合して水処理されたカルシウムアルミネート材粉末を調製する工程、当該水処理されたカルシウムアルミネート材粉末100質量部にホウ酸を1.2〜1.8質量部と、水処理されたカルシムアルミネート材粉末と石膏とが質量比で4:6〜6:4になるように石膏を添加配合して均一に混合する工程とを備えることを特徴とする、セメント用速硬性混和材の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のセメント用速硬性混和材は、任意のセメントと混合することにより、得られるモルタル等の本発明の速硬性セメント組成物が、十分な可使時間を確保することができ優れた施工性を得ることができるとともに、早期強度発現性、優れた3時間早期強度を示すことができる。
従って、急硬性用途において作業現場等で有効に適用することが可能となり、更に、本発明のセメント用速硬性混和材を所望する初期強度に応じて任意の量で簡便に調整添加することで、所望する急硬性を得る設計を行うことが容易となるとともに、可使時間を十分に確保して施工性を良好とすることが可能となる。
本発明のセメント用速硬性混和材の製造方法は、上記本発明のセメント用速硬性混和材を有効に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を次の形態により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明のセメント用速硬性混和材は、表面が所定量の水で処理された水処理カルシウムアルミネート材と、ホウ酸と、石膏とを含有することを特徴とする、セメント用速硬性混和材である。
好適には、本発明のセメント用速硬性混和材は、上記セメント用速硬性混和材において、前記表面が水処理されたカルシウムアルミネート材は、カルシウムアルミネート材粉末100質量部に対して、0.25〜2質量部の水で表面処理されており、更に好適には、記セメント用速硬性混和材において、ホウ酸は、前記水処理されたカルシウムアルミネート材100質量部に対して1.2〜1.8質量部含まれ、石膏は、前記水処理されたカルシウムアルミネート材に対して、質量比で4:6〜6:4の割合で含まれる、セメント用速硬性混和材である。
【0017】
本発明のセメント用速硬性混和材に用いるカルシウムアルミネート材は、CaOとAlを主要化学成分とする材料であり、水和活性を有するものであれば限定されず、例えば、化学成分としての鉱物組成が12CaO・7Al、CaO・Al、3CaO・Al、11CaO・7Al・CaF、4CaO・3Al・SO等のものを挙げることができ、これらの2種以上が共存するものでも良く、またアルミナセメントでも良い。
【0018】
特に本発明の上記効果を、より有効に発現するために、カルシウムアルミネート材は、C12A7系カルシウムアルミネート材が望ましく、C12A7系鉱物相を70質量%以上、好ましくは83質量%以上含有するC12A7系カルシウムアルミネート材を好適に用いることができる。
上記カルシウムアルミネート材に含まれるC12A7系鉱物相の含有量が70質量%以上であると、より本発明の上記効果を奏することができる。
【0019】
かかる好適なC12A7系カルシウムアルミネート材に含有されるカルシウムアルミネート相には、C12A7やC11A7・CaX(Xは、F、Cl、Br等のハロゲン)が該当し、またこれらの混合相であってもよい。
なお、また、かかる好適なC12A7系カルシウムアルミネート材には実質的にアーウィンは含まれないことが望ましい。
【0020】
かかる好適なC12A7系カルシウムアルミネート材中のC12A7系鉱物相の含有量は、例えば、下記X線回折/リートベルト法にて測定することができる。
【0021】
X線回折により測定したC12A7系鉱物相は、望ましくは結晶子径が150〜500nm、更に望ましくは150〜300nmであることが好ましい。
C12A7系鉱物相の結晶子径がかかる範囲であると、より優れた早期強度発現性及び可使時間を確保でき、良好な流動性等を得ることができる。
前記結晶子径は、粉末X線回折にて測定した値であり、X線回折/リートベルト法(装置:パナリティカル社製X’Pert MPD、解析ソフト:HighScorePlus)を用いて測定した数値である。
管電圧:45kV 管電流:40mA
【0022】
また、C12A7系鉱物は、X線回折により測定したC12A7系鉱物相の格子定数が、望ましくは11.940〜11.975Åのものである。
格子定数をかかる範囲とすることで、可使時間をより有効に確保するとともに、より優れた速硬性を有することができる。
前記格子定数は、粉末X線回折にて測定した値であり、X線回折/リートベルト法(装置:パナリティカル社製X’Pert MPD、解析ソフト:HighScorePlus)を用いて、測定した値である。
管電圧:45kV 管電流:40mA
【0023】
また、好適なC12A7系カルシウムアルミネート材としては、含有されるC2Sは、25質量%以下、好ましくは20質量%以下であり、実質的に含まれないことが望ましく、C3Aは5質量%以下であり、実質的に含まれないことが望ましく、更にCAは10質量%以下、好ましくは5質量%以下であり、実質的に含まれないことが望ましく、C2ASは20質量%以下、好ましくは10質量%以下であり、実質的には含まれないことが望ましい。
上記各鉱物であるC2S、C3A、CA、C2ASが、それぞれ上記各含有範囲を超えて含まれると、前記好適なC12A7系カルシウムアルミネート材中に含まれるC12A7系鉱物の含有量が少なくなってしまい、早期強度発現性を、より強固に有効に発揮することができなくなる場合がある。
ここで、「実質的に含まれない」とは、これらの鉱物相が、原料中に含まれる不純物であるSiやCaリッチ又はAlリッチな原料を用いることにより生成される場合を妨げないという意味であり、積極的に生成して含有させるものではない。
【0024】
また、かかるC12A7系鉱物相を主成分とし、C2S、C3A、CA、C2ASの含有量が一定以下の好適なC12A7系カルシウムアルミネート材は、更に、C4A3を実質的に含まないことが望ましい。
実質的に含まないとは、上記と同様に、原料中に含まれる不純物であるSOにより生成される場合を妨げないという意味であり、積極的に生成して含有させるものではない。
なお、本明細書において、は、SOを意味し、SはSiOを意味するものである。
【0025】
また、好適なC12A7系カルシウムアルミネート材中にはFeは実質的には含まれないことが望ましく、例えば、Feの含有量はFe酸化物換算で5質量%以下、好ましくは1.5質量%以下とし、含有されるC4AFは0.5質量%以下である。実質的にはC4AFはほとんど生成されず含まれない。
【0026】
更に、好適なC12A7系カルシウムアルミネート材は、MgOと、CaOと、上記C2S、C3A、CA及びC2AS以外の鉱物相(残部の鉱物相)との合計含有量が15質量%以下、好ましくは12質量%以下であることが望ましい。
15質量%を超えると、含まれるC12A7系鉱物の含有量が少なくなってしまい好ましくない。
【0027】
また更に好適には、本発明に用いる好適なカルシウムアルミネート材は、下記式を満足する関係とすることにより、本発明の効果を更に有効に発現することができる。
L*≧―3.4×Fe+55
式中、L*は、カルシウムアルミネート材のCIE色差式によって求めた色差値(L*値)を示し、例えば、コニカミノルタジャパン(株)製の色彩色差計(CR−300)を用いて、CIE(国際照明委員会)で規定された明度(L*値)の値であり、Feは、含有されるFe量を酸化物換算したものである。
カルシウムアルミネート材を調製する際の焼成時の還元度が高すぎるとL*値が低下し、C12A7系の活性が低下して初期強度不足となってしまい、また、Fe含有量が、上記した含有範囲を超えて多く含むとL*値が低下するが、上記したFe含有範囲であれば、問題にはならない。
上記式は、Fe含有量によってL*値が低下する要素を取り除き、還元焼成によってL*値が低下する要素について範囲を示したものであり、L*値が上記式を満たすように焼成中の酸素濃度を調整するようにする。
【0028】
更に、好適には、カルシウムアルミネート材は、CIE色差式によって求めたL*値が67〜85である。
L*値が上記範囲内であると、より、早期強度発現性に優れることとなる。また、含有されるFe含有量が、上記した含有範囲を超えて多く含むとL*値は低下するが、上記したFe含有範囲であれば、問題にはならず、L*値が67〜85とすることができる。
【0029】
本発明に用いるカルシウムアルミネート材は、生石灰、消石灰、石灰石等のカルシウム原料、水酸化アルミニウム、アルミナ、ボーキサイトやバンド頁岩等のアルミニウム原料、ドロマイト等のマグネシウム原料、必要に応じて配合する蛍石等のフッ素原料等を混合して粉砕し、または粉砕して混合し、この粉末混合物を成形して成形体を得て、これを電気炉または加熱炉等を用いて焼成し、冷却して、カルシウムアルミネート材を調製する。
なお、好適なカルシウムアルミネート材中に含まれるFeの原料となるもの(例えばベンガラ等)は積極的に配合しない。得られるカルシウムアルミネート材中に含まれるFeは、上記配合原料中に不純物として含有されることにより、結果として含まれる場合もあるもので、積極的に含有させるものではない。
【0030】
例えば、一例として、配合原料を粉末化して混合し、混合粉末を成型して得られた成型体を、例えば1250〜1400℃、好ましくは1300〜1360℃の温度で十分に、例えば0.5〜3時間焼成し、次いで40℃/分以下、好ましくは5〜40℃/分の冷却速度により冷却することで製造することができる。なお、好適なC12A7系カルシウムアルミネート材を調製する際には、C12A7系鉱物を70%以上含有するように原料を配合するようにする。
【0031】
例えばこのように、原料混合粉末を焼成、必要に応じて成型した成型体を焼成して、例えば40℃/分以下、好ましくは5〜40℃/分の冷却速度で冷却する際の、かかる焼成中の酸素濃度を測定するとともに、得られるカルシウムアルミネート材のL*値を測定し、L*≧―3.4×Fe+55を満足できるように、望ましくはL*値が上記67〜85の範囲内となるように、焼成時に空気等を導入して、酸素濃度を調整することが望ましい。
即ち、流動性を良好として可使時間を確保するとともに速硬性を得るためには、上記焼成温度等で焼成し、上記冷却速度で冷却し、酸素濃度を調整することで、好適な本発明に用いるカルシウムアルミネート材を得ることができることとなる。
【0032】
本発明に用いるカルシウムアルミネート材は、粉砕してカルシウムアルミネート材粉末とし、好ましくは、ブレーン比表面積が5000〜7000cm/g以上に粉砕して用いることが望ましい。
また、ブレーン比表面積は、大きくしすぎると流動性に悪影響を及ぼし、粉砕時間を要して生産性が低下しコスト高になるので、5000〜7000cm/gが望ましい。
また、粉砕する際に、粉砕助剤(ジエチレングリコール、トリエタノールアミン等)を添加してもよい。
【0033】
本発明のカルシウムアルミネート材は、水処理されているものであり、例えば、上記任意のC12A7系カルシウムアルミネート材粉末に水を噴霧して、当該カルシウムアルミネート材の表面を水処理することで、本発明に用いる水処理されたカルシウムアルミネート材を得ることができる。
カルシウムアルミネート材粉末100質量部に対して、水を0.25〜2質量部の割合で添加配合することで、上記本発明の効果を奏することが可能となる。
【0034】
カルシウムアルミネート材を水処理することで、カルシウムアルミネート材の表面の少なくとも一部に水和物層が生成されることとなる。生成された水和物層は、例えばCaO・Al・10HO、2CaO・Al・8HO、3CaO・Al・6HO、3CaO・Al・8HO、4CaO・Al・13HO、4CaO・Al・19HO、Al・3HO等の水和物層を例示することができる。
【0035】
また、カルシウムアルミネート材粉末を水処理する方法は、カルシウムアルミネート材水を均一に噴霧できれば特に限定されず、例えば、市販の噴霧装置等を用いて噴霧することができる。
水を噴霧しながら混合撹拌してもよいし、噴霧後に直ちに混合撹拌することでもいずれの方法でもかまわない。
【0036】
本発明のセメント用速硬性混和材にはホウ酸が含まれる。ホウ酸は、水処理したカルシウムアルミネート材100質量部に対して、1.2〜1.8質量部、好ましくは1.4〜1.6質量部で含まれる。
かかる質量比で含まれることにより、早期強度発現性および可使時間を確保でき施工性に優れることが可能となる。
更に、ホウ酸は、カルシウムアルミネート材粉末と同様に、ブレーン比表面積が5000〜7000cm/gの粉末状であることが望ましく、上記本発明の効果を、より有効に奏することが可能である。また、ホウ酸は、粉末状のものに限定されず、液体のものであってもかまわない。
なお、オキシカルボン酸であっても、ホウ酸以外の、クエン酸、酒石酸、コハク酸、乳酸では、本発明の効果を得ることができない。
【0037】
また、本発明のセメント用速硬性混和材には、石膏が含まれる。石膏(硫酸カルシウム)としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏、またはこれらの混合物が例示できる。
かかる石膏は、水処理したカルシウムアルミネート材に対して、石膏が、カルシウムアルミネート材:石膏(質量比)=4:6〜6:4の配合割合、好ましくは5:4〜6:4で含まれる。
かかる質量比で含まれることにより、早期強度発現性および可使時間を確保でき施工性に優れることが可能となる。但し、前記石膏含有量は、すべてCaSO(無水石膏)に換算した合量として算出される量である。
更に、石膏は、ブレーン比表面積が、カルシウムアルミネート材粉末と同様に、ブレーン比表面積が5000〜7000cm/gであることが望ましく、これにより、上記本発明の効果を、より有効に奏することが可能である。
【0038】
なお、本発明のセメント用速硬性混和材には、スラグ、アルカリ金属炭酸塩、アルミニウム硫酸塩、アルカリ金属硫酸塩、生石灰は含まれない。
【0039】
本発明のセメント用速硬性混和材の製造方法は、水処理されたカルシウムアルミネート材粉末を、ホウ酸及び石膏と混合することにより、本発明のセメント用速硬性混和材を調製することができる。
具体的には、カルシウムアルミネート材粉末100質量部に対して、水を0.25〜2質量部噴霧し混合して、水処理されたカルシウムアルミネート材粉末を調製する工程、当該水処理されたカルシウムアルミネート材粉末100質量部にホウ酸を1.2〜1.8質量部と、水処理されたカルシウムアルミネート材粉末と石膏とが質量比で4:6〜6:4になるように石膏を添加配合して均一に混合する工程とを備える方法である
【0040】
例えば、カルシウムアルミネート材をブレーン比表面積を5000〜7000cm/gに、例えばボールミルで粉砕し、このカルシウムアルミネート材粉末に水を噴霧して混合し、その後ホウ酸粉末及び石膏粉末を配合して混合することにより調製することができる。
または、カルシウムアルミネート材粉末とホウ酸とを一緒に、例えばボールミルで粉砕してブレーン比表面積を5000〜7000cm/gとし、かかる混合粉末に水を噴霧して混合し、これに石膏粉末を添加配合して調製することも可能である。
また、ホウ酸は、粉末状のものだけではなく、液状のものであってもかまわない。
なお、カルシウムアルミネート材を粉砕する前に、水処理を施しても、本発明の効果を得ることはできない。
【0041】
このようにして得られた本発明のセメント用速硬性混和材を、任意のセメントと混合することで、本発明の速硬性セメント組成物が得られる。
前記本発明のセメント用速硬性混和材が配合されるセメントとしては、市販されている任意のセメントを適用することができ、例えば、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、シリカセメント等から選ばれる少なくとも1種類を用いることができる。
【0042】
前記本発明のセメント用速硬性混和材、セメント及び水等の混合方法は、特に限定するものではなく、所定の割合に配合したのち、慣用の混合装置を用いて混合すれば良い。
また他に必要に応じて、本発明の効果に影響を与えない範囲で遅延剤(グルコン酸塩や酒石酸及びその塩等)、凝結調整剤(リグニンスルホン酸系、オキシカルボン酸系、糖類等各種有機酸もしくは有機酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)や減水剤(アルキルアリルスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤も含む)等の液状または粉末状の混和剤や、細骨材(川砂、海砂、山砂、砕砂およびこれらの混合物)や、粗骨材(川砂利、海砂利、砕石およびこれらの混合物)等を配合することができる。なお、好ましくは、スラグ、アルカリ金属炭酸塩、アルミニウム硫酸塩、アルカリ金属硫酸塩、生石灰、リンゴ酸、フミン酸、クエン酸は含まない。
【0043】
また、本発明の速硬性セメント組成物を用いて、セメントペースト、モルタル、コンクリート等を調製する際の水との混合方法は、特に限定されるものではなく、所定の割合に配合したのち、慣用の混合装置を用いて混合すればよい。
【0044】
このように本発明のセメント用速硬性添加材は、任意のセメントに添加することで得られる本発明の速硬性セメント組成物が、十分な可使時間を確保することができ、良好な3時間強度発現性を有し、所望する速硬性を現場で得ることができ、施工性を確保しつつ良好な初期強度発現性を得るための設計を極めて容易に操作することが可能となる。
【実施例】
【0045】
本発明を次の実施例、比較例及び試験例に基づき説明する。
1)セメント用速硬性混和材の調製
セメント用速硬性混和材に用いるC12A7系カルシウムアルミネート材(CA材)の目標化学組成が表1となるよう、CaCO、SiO、Al、Fe、MgO、TiO、CaFの各試薬を配合して混合粉砕することにより、C12A7系カルシウムアルミネート材粉末を調製した。
【0046】
なお、ここで、SiO、Fe、TiOは、実際に実機でC12A7系カルシウムアルミネート材を製造する際に、生石灰、消石灰、石灰石等のカルシウム原料、水酸化アルミニウム、アルミナ、ボーキサイトやバンド頁岩等のアルミニウム原料、蛍石等のフッ素原料、必要に応じて配合されるドロマイト等のマグネシウム原料を用いると、不純物としてSiO、Fe、TiOが結果として含まれる場合もあるため(積極的に含有させるものではない)、かかる場合を想定して用いたものである。
【0047】
【表1】
【0048】
上記C12A7系カルシウムアルミネート材粉末を加圧成形し、該成形体を電気炉にて、1340℃で30分間焼成し、次いで表2に示す各冷却速度で冷却して、表2に示すC12A7系カルシウムアルミネート材(CA材)を得た。
【0049】
得られたC12A7系カルシウムアルミネート材を、蛍光X線分析装置(パナリティカル社製;Axios)を用いて、JIS R 5204に準じて分析して、含有されるSiO、Al、TiO、Fe、F成分等の含有割合を測定した。
これらの化学組成の結果を、表2に示す。
【0050】
また、得られたC12A7系カルシウムアルミネート材粉末をX線回折/リートベルト法(装置:パナリティカル社製X’Pert MPD、解析ソフト:HighScorePlus)を用いて、含有されるC12A7系、更にはC3A鉱物の含有割合及びC12A7系鉱物相の結晶の格子定数を測定した。
管電圧:45kV 管電流:40mA
その結果を表2に示す。
ここで、C12A7系鉱物相の結晶の格子定数はC11A7CaFの結晶構造を用いて測定した。
【0051】
また、C12A7系鉱物相の結晶の結晶子径は、C11A7CaF結晶構造を用いて、X線回折/リートベルト法(装置:パナリティカル社製X’Pert MPD、解析ソフト:HighScorePlus)により測定した。
管電圧:45kV 管電流:40mA
その結果も表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
次いで、上記C12A7系カルシウムアルミネート材を粉砕して、ブレーン比表面積5000〜7000cm/gに調整した。
【0054】
(実施例1〜5)
上記ブレーン比表面積5000〜7000cm/gのC12A7系カルシウムアルミネート材粉末2000gに対して、水を表3に示す質量割合で霧吹きにて水を噴霧して、すぐにタンブラーミキサー(株式会社セイワ技研製、型番 TM−36S)で1時間混合して、水処理C12A7系カルシウムアルミネート材粉末を調製した。
【0055】
次いで、得られた水処理C12A7系カルシウムアルミネート材粉末100質量部に対して、ブレーン比表面積が5000〜7000cm/gのホウ酸粉末(試薬、U.S.Borax社製)と無水石膏粉末(ブレーン比表面積6800cm/g)とを表3に示す配合割合で添加して、均一に混合することにより、実施例1〜5の各セメント用速硬性混和材を調製した。
【0056】
(比較例1)
水処理していない上記C12A7系カルシウムアルミネート材粉末と上記無水石膏粉末とを、表3に示す配合割合で添加して、均一に混合することにより、比較例1の速硬性混和材とした。なお、比較例1の速硬性混和材には、ホウ酸等の凝結剤は添加配合していない。
【0057】
(比較例2)
水処理していない上記C12A7系カルシウムアルミネート材粉末と上記無水石膏粉末とを、表3に示す配合割合で添加して、均一に混合することにより、比較例1の速硬性混和材とした。なお、比較例2の速硬性混和材には、ホウ酸等の凝結剤は添加配合していない。
【0058】
(比較例3)
水処理していない上記C12A7系カルシウムアルミネート材粉末と上記ホウ酸粉末と上記無水石膏粉末とを、表3に示す配合割合で添加して、均一に混合することにより、比較例1の速硬性混和材とした。
【0059】
(比較例4)
比較例3のホウ酸粉末のかわりにクエン酸粉末(試薬、キシダ化学(株)製)を用いた以外は、比較例3と同様にして、表3に示す配合割合で添加して、均一に混合することにより、比較例4の速硬性混和材とした。
【0060】
(比較例5)
比較例3のホウ酸粉末のかわりにリンゴ酸粉末(試薬、関東化学(株)製)を用いた以外は、比較例3と同様にして、表3に示す配合割合で添加して、均一に混合することにより、比較例5の速硬性混和材とした。
【0061】
(比較例6)
比較例3のホウ酸粉末のかわりにフミン酸粉末(試薬、和光純薬工業(株)製)を用いた以外は、比較例3と同様にして、表3に示す配合割合で添加して、均一に混合することにより、比較例5の速硬性混和材とした。
【0062】
(比較例7〜比較例10)
水処理していない上記C12A7系カルシウムアルミネート材粉末に対する散水(噴霧)量を表3に示す割合で変化させて得られた水処理C12A7系カルシウムアルミネート材粉末を用い、添加配合する上記ホウ酸粉末の添加配合量を表3に示す割合で変化させた以外は、実施例1と同様にして、比較例7〜10の速硬性混和材を得た。
【0063】
(比較例11〜13)
実施例2において、ホウ酸粉末の代わりに、クエン酸粉末、リンゴ酸粉末、フミン酸粉末をそれぞれ用いた以外は、実施例2と同様にして、比較例11〜13の速硬性混和材を得た。
【0064】
2)モルタルの調製
早強セメント(HC:住友大阪セメント株式会社製)と上記実施例1〜5及び比較例1〜13で得られた各速硬性混和材粉末とを質量比で1:2の割合で混合し、早強セメントと速硬性混和材の合量100質量部に対して下記水溶液を35質量部の割合で、また分散剤(マイティ 150、花王株式会社製)を3質量部の割合で、更に消泡剤(アデカネート B211F、株式会社アデカ製)を0.05質量部配合して均一混合して、各モルタルを調製した。
【0065】
なお、上記水溶液は、予め、酒石酸(試薬、和光純薬工業(株)製)とグルコン酸ナトリウム(試薬、キシダ化学株式会社製)とを溶解させた水溶液である。これらの酒石酸及びグルコン酸ナトリウムの含有割合は、上記早強セメント及び速硬性混和材の合量100質量部に対して、それぞれ0.3質量部添加されているものである。
【0066】
3)試験例
(試験例1)可使時間
上記で得られた各モルタルについて、JIR R 5201(セメントの物理試験方法)に準じて各モルタルの可使時間を測定した。
但し、終結針は直径1インチ高さ2インチの円錐形針を用い、侵入深さが1.5mmになったときの時間を可使時間とした。
その結果を表3に示す。
【0067】
(試験例2)早期(3時間)強度
得られた各モルタルについて、20℃での3時間強度(早期強度)を、旧JIS R 5201に準じて測定した。
その結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
上記試験結果より、実施例のセメント用速硬性混和材を用いたモルタルは、可使時間が50分以上で且つ3時間強度が18N/mm以上の物性を有し、十分な作業時間を確保することができ、施工性に優れることがわかるとともに、早期強度発現性にも優れるものであることがわかる。
【0070】
一方、比較例2の場合には、比較例1の場合より可使時間が少し長くなっているが十分な可使時間ではなく、また、比較例3〜6の水処理していないC12A7系材料を用いた場合には、種々の遅延剤を添加配合した場合であっても十分な可使時間を有することができない。
【0071】
また、C12A7系カルシウムアルミネート材粉末に対する水処理量が本発明の範囲外である比較例7及び8の場合にも、十分な可使時間を有することができず、また、ホウ酸の配合量が本発明の範囲外である比較例9及び10の場合にはそれぞれ、可使時間が十分に確保することができず(比較例9)、早期強度発現性に劣る(比較例10)がわかる。
比較例11〜13のホウ酸のかわりにクエン酸、リンゴ酸やフミン酸を用いたものは、可使時間も十分ではなく、更に早期強度発現性も劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のセメント用速硬性混和材を任意のセメントに添加することで、十分な可視時間を確保することができるとともに、早期強度を発現することができ、トンネルや地下空間の建設工事や土木工事、止水工事、壁面等への吹き付け工事、緊急性を有する道路等の補修工事等、また土壌改良材として、所定のハンドリングタイムを確保しつつ、可使時間経過後には速やかに強度発現することが要求される作業箇所へ有用に適用することが可能となる。