(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
まず、本実施形態の熱サイクルシステムに使用される作動媒体について説明する。
<作動媒体>
(ハイドロフルオロオレフィン(HFO))
本実施形態で用いる作動媒体はハイドロフルオレフィン(HFO)を含む。HFOは、分子構造中に炭素−炭素二重結合を有するHFCとも言うことができ、このHFOとしては、1,1,2−トリフルオロエチレン(HFO−1123)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132)、2−フルオロプロペン(HFO−1261yf)、1,1,2−トリフルオロプロペン(HFO−1243yc)、トランス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(E))、シス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(Z))、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(E))、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(Z))、3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)等が挙げられる。HFOとしては、HFO−1123、HFO−1234yf、HFO−1234ze(E)又はHFO−1234ze(Z)を含むことが好ましく、HFO−1123又はHFO−1234yfを含むことがより好ましく、HFO−1123を含むことが特に好ましい。
本実施形態で用いる作動媒体は、HFOを含み、さらに、必要に応じて、後述する任意成分を含んでいてもよい。作動媒体の100質量%に対するHFOの含有量は、10質量%以上が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、40〜80質量%が一層好ましく、40〜60質量%がさらに好ましい。
さらに、本実施形態で用いる作動媒体は、HFO−1123を含むことが好ましい。作動媒体の100質量%に対するHFO−1123の含有量は、10質量%以上が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、40〜80質量%が一層好ましく、40〜60質量%がさらに好ましい。
【0016】
(HFO−1123)
HFO−1123の作動媒体としての特性を、特に、R410A(HFC−32とHFC−125の質量比1:1の擬似共沸混合作動媒体)との相対比較において表1に示す。サイクル性能は、後述する方法で求められる成績係数と冷凍能力で示される。HFO−1123の成績係数と冷凍能力は、R410Aを基準(1.000)とした相対値(以下、それぞれ「相対成績係数」、「相対冷凍能力」という)で示す。地球温暖化係数(GWP)は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(2007年)に示される、または該方法に準じて測定された100年の値である。本明細書において、GWPは特に断りのない限りこの値をいう。作動媒体が混合物からなる場合、後述するとおり温度勾配は、作動媒体を評価する上で重要なファクターとなり、値は小さい方が好ましい。
【0018】
本実施形態で用いる作動媒体は、上記のようにHFO−1123を含むことが好ましく、さらに、本発明の効果を損なわない範囲でHFO−1123以外に、通常作動媒体として用いられる化合物を含有してもよい。このようなHFO−1123と組合わせる化合物としては、例えば、HFC、HFO−1123以外のHFO、これら以外のHFO−1123とともに気化、液化する他の成分等が挙げられ、HFC、HFO−1123以外のHFOが好ましい。
【0019】
併用する成分としては、例えばHFO−1123と組み合わせて熱サイクルに用いた際に、上記相対成績係数、相対冷凍能力をより高める作用を有しながら、GWPや温度勾配を許容の範囲にとどめられる化合物が好ましい。作動媒体がHFO−1123との組合せにおいてこのような化合物を含むと、GWPを低く維持しながら、より良好なサイクル性能が得られるとともに、温度勾配による影響も少ない。
【0020】
(温度勾配)
作動媒体として混合物を用いる場合、通常、共沸またはR410Aのような擬似共沸の混合物が好ましく用いられる。非共沸組成物は、圧力容器から冷凍空調機器へ充てんされる際に組成変化を生じる問題点を有している。さらに、冷凍空調機器からの作動媒体の漏えいが生じた場合、冷凍空調機器内の作動媒体組成が変化する可能性が極めて大きく、初期状態への作動媒体組成の復元が困難である。一方、共沸または擬似共沸の混合物であれば上記問題が回避できる。
【0021】
混合物の作動媒体における使用可能性をはかる指標として、一般に「温度勾配」が用いられる。温度勾配は、熱交換器、例えば、低圧側熱交換器における蒸発の、または高圧側熱交換器における凝縮の、開始温度と終了温度が異なる性質、と定義される。共沸混合物においては、温度勾配は0であり、擬似共沸混合物では、例えばR410Aの温度勾配が0.2であるように、温度勾配は極めて0に近い。
【0022】
温度勾配が大きいと、例えば、低圧側熱交換器における入口温度が低下することで着霜の可能性が大きくなり問題である。さらに、熱サイクルシステムにおいては、熱交換効率の向上をはかるために熱交換器を流れる作動媒体と水や空気等の熱源流体を対向流にすることが一般的であり、安定運転状態においては該熱源流体の温度差が小さい。このことから、温度勾配の大きい非共沸混合媒体の場合、エネルギー効率のよい熱サイクルシステムを得ることが困難である。このため、混合物を作動媒体として使用する場合は適切な温度勾配を有する作動媒体が望まれる。
【0023】
作動媒体が、例えばHFO−1123と他の作動媒体を含有する場合、HFO−1123と他の作動媒体が共沸組成である場合を除いて比較的大きな温度勾配を有する傾向にある。作動媒体の温度勾配は、併用する他の作動媒体の種類およびHFO−1123と他の作動媒体との混合割合により異なるため、適切な範囲に収まるように常に注意する。
【0024】
(HFC)
任意成分のHFCとしては、上記観点から選択されることが好ましい。ここで、HFCは、HFO−1123に比べてGWPが高いことが知られている。したがって、HFO−1123と組合せるHFCとしては、上記作動媒体としてのサイクル性能を向上させ、かつ温度勾配を適切な範囲にとどめることに加えて、特にGWPを許容の範囲にとどめる観点から、適宜選択されることが好ましい。
【0025】
オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さいHFCとして具体的には炭素数1〜5のHFCが好ましい。HFCは、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、環状であってもよい。
【0026】
HFCとしては、HFC−32、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、HFC−125、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等が挙げられる。
【0027】
なかでも、HFCとしては、オゾン層への影響が少なく、かつ熱サイクル特性が優れる点から、HFC−32、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、およびHFC−125が好ましく、HFC−32、HFC−152a、HFC−134a、およびHFC−125がより好ましい。
HFCは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
作動媒体(100質量%)中のHFCの含有量は、作動媒体の要求特性に応じ任意に選択可能である。例えば、HFO−1123とHFC−32からなる作動媒体の場合、HFC−32の含有量が1〜99質量%の範囲で成績係数および冷凍能力が向上する。HFO−1123とHFC−134aからなる作動媒体の場合、HFC−134aの含有量が1〜99質量%の範囲で成績係数が向上する。
【0029】
また、上記好ましいHFCのGWPは、HFC−32については675であり、HFC−134aについては1430であり、HFC−125については3500である。得られる作動媒体のGWPを低く抑える観点から、任意成分のHFCとしては、HFC−32が最も好ましい。
【0030】
また、HFO−1123とHFC−32とは、質量比で99:1〜1:99の組成範囲で共沸に近い擬似共沸混合物を形成可能であり、両者の混合物はほぼ組成範囲を選ばずに温度勾配が0に近い。この点においてもHFO−1123と組合せるHFCとしてはHFC−32が有利である。
【0031】
本実施形態に用いる作動媒体において、HFO−1123とともにHFC−32を用いる場合、作動媒体の100質量%に対するHFC−32の含有量は、具体的には、20質量%以上が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、40〜60質量%がさらに好ましい。
【0032】
本実施形態に用いる作動媒体において、例えば、HFO−1123を含む場合は、HFO−1123以外のHFOとしては、高い臨界温度を有し、耐久性、成績係数が優れる点から、HFO−1234yf(GWP=4)、HFO−1234ze(E)、HFO−1234ze(Z)((E)体、(Z)体共にGWP=6)が好ましく、HFO−1234yf、HFO−1234ze(E)がより好ましい。HFO−1123以外のHFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。作動媒体(100質量%)中のHFO−1123以外のHFOの含有量は、作動媒体の要求特性に応じ任意に選択可能である。例えば、HFO−1123とHFO−1234yfまたはHFO−1234zeとからなる作動媒体の場合、HFO−1234yfまたはHFO−1234zeの含有量が1〜99質量%の範囲で成績係数が向上する。
【0033】
本実施形態に用いる作動媒体が、HFO−1123およびHFO−1234yfを含む場合の、好ましい組成範囲を組成範囲(S)として以下に示す。
なお、組成範囲(S)を示す各式において、各化合物の略称は、HFO−1123とHFO−1234yfとその他の成分(HFC−32等)の合計量に対する当該化合物の割合(質量%)を示す。
【0034】
<組成範囲(S)>
HFO−1123+HFO−1234yf≧70質量%
95質量%≧HFO−1123/(HFO−1123+HFO−1234yf)≧35質量%
【0035】
組成範囲(S)の作動媒体は、GWPが極めて低く、温度勾配が小さい。また、成績係数、冷凍能力および臨界温度の観点からも従来のR410Aに代替し得る熱サイクル性能を発現できる。
【0036】
組成範囲(S)の作動媒体において、HFO−1123とHFO−1234yfの合計量に対するHFO−1123の割合は、40〜95質量%がより好ましく、50〜90質量%がさらに好ましく、50〜85質量%が特に好ましく、60〜85質量%がもっとも好ましい。
【0037】
また、作動媒体100質量%中のHFO−1123とHFO−1234yfの合計の含有量は、80〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%がさらに好ましく、95〜100質量%が特に好ましい。
【0038】
また、本実施形態に用いる作動媒体は、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234yfを含むことが好ましく、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32を含有する場合の好ましい組成範囲(P)を以下に示す。
なお、組成範囲(P)を示す各式において、各化合物の略称は、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対する当該化合物の割合(質量%)を示す。組成範囲(R)、組成範囲(L)、組成範囲(M)においても同様である。また、以下に記載の組成範囲では、具体的に記載したHFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量が、熱サイクル用作動媒体全量に対して90質量%を超え100質量%以下であることが好ましい。
【0039】
<組成範囲(P)>
70質量%≦HFO−1123+HFO−1234yf
30質量%≦HFO−1123≦80質量%
0質量%<HFO−1234yf≦40質量%
0質量%<HFC−32≦30質量%
HFO−1123/HFO−1234yf≦95/5質量%
【0040】
上記組成を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性がバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、この作動媒体は、GWPが極めて低く抑えられ、熱サイクルに用いた際に、温度勾配が小さく、一定の能力と効率を有することで良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。ここで、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対する、HFO−1123とHFO−1234yfの合計量は70質量%以上であることが好ましい。
【0041】
また、本実施形態に用いる作動媒体のより好ましい組成としては、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対して、HFO−1123を30〜70質量%、HFO−1234yfを4〜40質量%、およびHFC−32を0〜30質量%の割合で含有し、かつ、作動媒体全量に対するHFO−1123の含有量が70モル%以下である組成が挙げられる。前記範囲の作動媒体は、上記の効果が高まるのに加え、HFO−1123の自己分解反応が抑制され、耐久性の高い作動媒体である。相対成績係数の観点からは、HFC−32の含有量は5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましい。
【0042】
また、本実施形態に用いる作動媒体がHFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32を含む場合の、別の好ましい組成を示すが、作動媒体全量に対するHFO−1123の含有量が70モル%以下であれば、HFO−1123の自己分解反応が抑制され、耐久性の高い作動媒体が得られる。
さらに好ましい組成範囲(R)を、以下に示す。
<組成範囲(R)>
10質量%≦HFO−1123<70質量%
0質量%<HFO−1234yf≦50質量%
30質量%<HFC−32≦75質量%
【0043】
上記組成を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性がバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、GWPが低く抑えられ、耐久性が確保されたうえで、熱サイクルに用いた際に、温度勾配が小さく、高い能力と効率を有することで良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。
【0044】
上記組成範囲(R)を有する本実施形態の作動媒体において、好ましい範囲を、以下に示す。
20質量%≦HFO−1123<70質量%
0質量%<HFO−1234yf≦40質量%
30質量%<HFC−32≦75質量%
【0045】
上記組成を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性が特にバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、GWPが低く抑えられ、耐久性が確保されたうえで、熱サイクルに用いた際に、温度勾配がより小さく、より高い能力と効率を有することで良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。
【0046】
上記組成範囲(R)を有する本実施形態の作動媒体において、より好ましい組成範囲(L)を、以下に示す。組成範囲(M)がさらに好ましい。
<組成範囲(L)>
10質量%≦HFO−1123<70質量%
0質量%<HFO−1234yf≦50質量%
30質量%<HFC−32≦44質量%
【0047】
<組成範囲(M)>
20質量%≦HFO−1123<70質量%
5質量%≦HFO−1234yf≦40質量%
30質量%<HFC−32≦44質量%
【0048】
上記組成範囲(M)を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性が特にバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、この作動媒体は、GWPの上限が300以下に低く抑えられ、耐久性が確保されたうえで、熱サイクルに用いた際に、温度勾配が5.8未満と小さく、相対成績係数および相対冷凍能力が1に近く良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。
この範囲にあると温度勾配の上限が下がり、相対成績係数×相対冷凍能力の下限が上がる。相対成績係数が大きい点から8質量%≦HFO−1234yfがより好ましい。また、相対冷凍能力が大きい点からHFO−1234yf≦35質量%がより好ましい。
【0049】
また、本実施形態に用いる別の作動媒体は、HFO−1123とHFC−134aとHFC−125とHFO−1234yfを含むことが好ましく、この組成により作動媒体の燃焼性が抑えられる。
さらに好ましくは、HFO−1123とHFC−134aとHFC−125とHFO−1234yfとを含み、作動媒体全量に対するHFO−1123とHFC−134aとHFC−125とHFO−1234yfとの合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下であり、HFO−1123とHFC−134aとHFC−125とHFO−1234yfとの合計量に対する、HFO−1123の割合が3質量%以上35質量%以下、HFC−134aの割合が10質量%以上53質量%以下、HFC−125の割合が4質量%以上50質量%以下、HFO−1234yfの割合が5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。このような作動媒体とすることにより、作動媒体が不燃性であり、かつ安全性に優れ、オゾン層および地球温暖化への影響をより少なくし、熱サイクルシステムに用いた際により優れたサイクル性能を有する作動媒体とすることができる。
最も好ましくは、HFO−1123とHFC−134aとHFC−125とHFO−1234yfとを含み、作動媒体全量に対するHFO−1123とHFC−134aとHFC−125とHFO−1234yfとの合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下であり、HFO−1123とHFC−134aとHFC−125とHFO−1234yfとの合計量に対する、HFO−1123の割合が6質量%以上25質量%以下、HFC−134aの割合が20質量%以上35質量%以下、HFC−125の割合が8質量%以上30質量%以下、HFO−1234yfの割合が20質量%以上50質量%以下であることがより一層好ましい。このような作動媒体とすることにより、作動媒体が不燃性であり、かつ安全性により一層優れ、オゾン層および地球温暖化への影響をより一層少なくし、熱サイクルシステムに用いた際により一層優れたサイクル性能を有する作動媒体とすることができる。
【0050】
(その他の任意成分)
本実施形態の熱サイクルシステム用組成物に用いる作動媒体は、上記任意成分以外に、二酸化炭素、炭化水素、クロロフルオロオレフィン(CFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)等を含有してもよい。その他の任意成分としてはオゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい成分が好ましい。
【0051】
炭化水素としては、プロパン、プロピレン、シクロプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン等が挙げられる。
炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
上記作動媒体が炭化水素を含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%未満であり、1〜5質量%が好ましく、3〜5質量%がさらに好ましい。炭化水素が下限値以上であれば、作動媒体への鉱物系冷凍機油の溶解性がより良好になる。
【0053】
CFOとしては、クロロフルオロプロペン、クロロフルオロエチレン等が挙げられる。作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、CFOとしては、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214ya)、1,3−ジクロロ−1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214yb)、1,2−ジクロロ−1,2−ジフルオロエチレン(CFO−1112)が好ましい。
CFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
作動媒体がCFOを含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%未満であり、1〜8質量%が好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。CFOの含有量が下限値以上であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。CFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0055】
HCFOとしては、ヒドロクロロフルオロプロペン、ヒドロクロロフルオロエチレン等が挙げられる。作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、HCFOとしては、1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd)、1−クロロ−1,2−ジフルオロエチレン(HCFO−1122)が好ましい。
HCFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
上記作動媒体がHCFOを含む場合、作動媒体100質量%中のHCFOの含有量は、10質量%未満であり、1〜8質量%が好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。HCFOの含有量が下限値以上であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。HCFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0057】
本実施形態に用いる作動媒体が上記のようなその他の任意成分を含有する場合、作動媒体におけるその他の任意成分の合計含有量は、作動媒体100質量%に対して10質量%未満であり、8質量%以下が好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0058】
<熱サイクルシステムの構成>
次に、本実施の形態にかかる熱サイクルシステムの概略構成について説明する。
図1は、本実施の形態にかかる熱サイクルシステム1の概略構成を示す図である。熱サイクルシステム1は、圧縮機10と、高圧側熱交換器12と、膨張機構13と、低圧側熱交換器14と、を備えている。圧縮機10は、作動媒体(蒸気)を圧縮する。高圧側熱交換器12は、圧縮機10から排出された作動媒体の蒸気を冷却し液体とする。膨張機構13は、高圧側熱交換器12から排出された作動媒体(液体)を膨張させる。低圧側熱交換器14は、膨張機構13から排出された作動媒体(液体)を加熱して蒸気とする。低圧側熱交換器14および高圧側熱交換器12は、作動媒体と対向または並行して流れる熱源流体との間で熱交換を行うように構成されている。熱サイクルシステム1は、低圧側熱交換器14に水や空気などの熱源流体Eを供給する流体供給手段15と、高圧側熱交換器12に水や空気などの熱源流体Fを供給する流体供給手段16と、を備えている。さらに、熱サイクルシステム1では、圧縮機10と高圧側熱交換器12を接続する配管である吐出配管21に、熱サイクル内において作動媒体の分解により発生した酸を検知する酸検知手段40を設けている。酸検知手段40の詳細については後述する。
【0059】
熱サイクルシステム1では、以下の熱サイクルが繰り返される。まず、低圧側熱交換器14から排出された作動媒体蒸気Aを圧縮機10にて圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする。そして、圧縮機10から排出された作動媒体蒸気Bを高圧側熱交換器12にて流体Fによって冷却し、液化して作動媒体液Cとする。この際、流体Fは加熱されて流体F’となり、高圧側熱交換器12から排出される。続いて、高圧側熱交換器12から排出された作動媒体液Cを膨張機構13にて膨張させて低温低圧の作動媒体液Dとする。続いて、膨張機構13から排出された作動媒体液Dを低圧側熱交換器14にて流体Eによって加熱して作動媒体蒸気Aとする。この際、流体Eは冷却されて流体E’となり、低圧側熱交換器14から排出される。
【0060】
図2は、熱サイクルシステム1の作動媒体の状態変化を示す圧力−エンタルピ線図である。
図2に示すように、AからBへの状態変化の過程では、圧縮機10で断熱圧縮を行い、低温低圧の作動媒体蒸気Aを高温高圧の作動媒体蒸気Bとする。BからCへの状態変化の過程では、高圧側熱交換器12で等圧冷却を行い、作動媒体蒸気Bを作動媒体Cとする。CからDへの状態変化の過程では、膨張機構13で等エンタルピ膨張を行い、高温高圧の作動媒体Cを低温低圧の作動媒体Dとする。DからAへの状態変化の過程では、低圧側熱交換器14で等圧加熱を行い、作動媒体Dを作動媒体蒸気Aに戻す。
【0061】
次に、作動媒体としてHFOを含む作動媒体を用いる場合に問題となる、HFOの分解について説明する。なお、以下の説明では、
図1を適宜参照する。
HFOは、高温高圧環境下にさらされたり、空気および水が混入したりすることで分解されてフッ化水素(HF)、蟻酸、酢酸などの酸やカーボンといった分解生成物を生じる可能性が高くなる。HFOの分解により発生した酸は、熱サイクル内の金属部品を腐食し、金属塩の無機性スラッジとなり、それ自体がHFOの分解を促進する触媒となる。また、熱サイクル内において、スラッジが発生すると、スラッジが減圧機構部(膨張機構13)を詰まらせ、圧縮機10で圧縮された後の作動媒体の圧力を上昇させる(高圧縮比運転)ので、圧縮機10の信頼性が損なわれる。
【0062】
さらに、熱サイクルシステム1において、例えば、HFOの一つであるHFO−1123を含む作動媒体を用いる場合、HFO−1123の分解によって発生したスラッジで膨張機構13に詰まりが生じて吐出圧力が上昇し高圧縮比運転になると、HFO−1123の不均化反応が生じるおそれが高まる。不均化反応とは、高温または高圧下において局所的なエネルギーが加わった場合に起こる、発熱を伴う連鎖的な化学反応である。
【0063】
こういったことから、熱サイクルシステム1においてHFOを作動媒体として用いる場合、熱サイクル内において作動媒体の分解が起きたことを適切に検知する必要がある。
【0064】
ここで、酸検知手段40の詳細について説明する。
上述したように、作動媒体であるHFOが分解されるとHFなどの酸が発生する。
図1に示す熱サイクルシステム1において、作動媒体の分解が起こりやすいと考えられる箇所は、運転中に作動媒体が最も高温・高圧になる圧縮機10である。そこで、熱サイクルシステム1では、作動媒体の分解により発生するHFなどの酸を検知する酸検知手段40を圧縮機10の直近である吐出配管21に設けている。なお、吐出配管21がトラップ部を有する場合、酸検知手段40を吐出配管21のトラップ部に設けてもよい。トラップ部では作動媒体の分解により発生する分解生成物が捕捉されるので、酸検知手段40を吐出配管21のトラップ部に設けることで熱サイクル内において作動媒体の分解が起きたことをより適切に検知することができる。
【0065】
本実施形態において、酸検知手段40は、配管路内を導通している作動媒体の流通や停止、流速、流量等の作動媒体の状態を目視可能にするサイトグラスである。
図3は、酸検知手段40の概略構成を示す平面図である。
図4は、
図3のIV−IV線に沿う断面図である。なお、図中矢印Sは作動媒体の流れ方向を示す。
図3および
図4に示すように、酸検知手段40は、本体40aと、覗窓40bと、配管部40cと、を有している。本体40aは、中空状で、内部に作動媒体が通過する流路を有する。覗窓40bは、吐出配管21内を通過する作動媒体を観察するためのものである。すなわち、覗窓40bは、本体40aの一部に設けられ、本体40aの内部を目視可能にする。配管部40cは、吐出配管21と本体40aとを接続するためのものである。
【0066】
本体40aは、例えば、金属材料で構成されている。覗窓40bは、酸の存在により着色を生じる透明材料、例えば、ガラス等で形成されている。
図3および
図4において、覗窓40bの形状は円板状であるが、平板状であればこれに限るものではなく、例えば、長方形等の多角形の板であってもよい。配管部40cは、例えば金属材料により形成される。配管部40cは、本体40aと一体的に構成されていてもよく、別体として構成されていてもよい。配管部40cと吐出配管21(
図1参照)とは内部が密閉構造となるように接続できればよく、フレアによって接続してもロウ付けによって接続してもよい。
【0067】
図5は、作動媒体の分解が起こったときの酸検知手段40の状態を示す断面図である。
図5に示すように、作動媒体の分解が起こり、作動媒体中にHFなどの酸が含まれていると、覗窓40bの作動媒体と接触している部分40bAが腐食されて変色する。従って、覗窓40bを目視することにより、熱サイクル内において作動媒体の分解が起きたことを容易に確認することができる。これにより、HFOを含む作動媒体を用いる場合に、熱サイクル内に作動媒体の分解が起きたことを適切に検知することができる。
【0068】
上述したように、
図1に示す熱サイクルシステム1において、作動媒体の分解が起こりやすいと考えられる箇所は、作動媒体が高温・高圧になる吐出配管21である。作動媒体の分解が起こった場合、作動媒体中に含まれる酸の濃度は作動媒体の分解が起こった箇所において最も高くなる。このため、例えば、熱サイクルシステム1において低温・低圧の箇所に酸検知手段40を設けても作動媒体の分解が起きたことを適切に検知することができない。また、圧縮機10の内部は、作動媒体が高温・高圧になり作動媒体の分解が起こりやすいと考えられるが、設置スペースの問題などで酸検知手段40を設けるのが難しい。よって、作動媒体の分解が起きたことを適切に検知するためには酸検知手段40を吐出配管21に設けるのがよい。
【0069】
図4に示す覗窓40bの厚さ(板厚)dは、耐圧性能を保つために必要な厚さd1よりも厚くするのが好ましい(d>d1)。覗窓40bの厚さdが、耐圧性能を保つために必要十分な厚さd1である場合(d=d1)、覗窓40bの作動媒体と接触している部分が分解により発生したHFなどの酸によって腐食されると耐圧性能が不十分になるおそれがある。覗窓40bの厚さdを耐圧性能を保つために必要十分な厚さd1よりも厚くすることで、覗窓40bの作動媒体と接触している部分が腐食されても耐圧性能を十分に保つことができる。
【0070】
なお、この覗窓40bを観察するカメラと、該カメラにより撮影される覗窓40bの画像から着色度合いを判定する判定手段を設けることにより、作動媒体の分解状態を自動的に検知することもできる。この場合、覗窓40の画像から得られる着色度合いと予め定められた閾値(着色閾値)とを比較することによって熱サイクルシステム内において作動媒体の分解が起きたか否かの判断を行うことができる。すなわち、検出された着色度合いが、着色閾値を超えた場合には作動媒体の分解による酸の発生が起こったと判断し、着色閾値以下である場合には作動媒体の分解による酸の発生は起こっていないと判断する。
【0071】
[変形例]
図6は、酸検知手段40の変形例を示す断面図である。
図6に示すように、覗窓240bは、作動媒体と接触する側の表面240dがガラスで形成され、作動媒体と接触する側と反対側の表面240eが耐酸性の透明部材で形成されていてもよい。耐酸性の透明部材240eは、例えばアクリル樹脂である。このように、覗窓240bをガラスと耐酸性の透明部材との二重構造にすることで、覗窓240bの作動媒体と接触している部分が腐食されても、耐酸性の透明部材240eにより腐食の進行を所定の部分よりも進行させないようにできる。この耐酸性の透明部材240eは、それ単独で耐圧性能を十分に保つように設けることで、安全性も十分に確保することができる。
【0072】
参考形態
以下、図面を参照して本実施形態に関連する参考形態について説明する。なお、上記実施の形態と実質的に同一の要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0073】
本参考形態に係る熱サイクルシステムに使用される作動媒体は、上記実施の形態で説明したHFOを含む作動媒体である。本参考形態に係る熱サイクルシステムの概略構成は、上記実施の形態において
図1を用いて説明したものと基本的には同じである。
図7は、本参考形態にかかる熱サイクルシステム101の概略構成を示す図である。
図7に示すように、本参考形態に係る熱サイクルシステム101は、酸検知手段40(
図1参照)に代えて、吐出温度センサ31と、判定部32と、表示部33と、を含む。
【0074】
吐出温度センサ31は、圧縮機10から吐出された作動媒体の温度(吐出温度)を検出するためのもので、吐出配管21に設けられている。熱サイクルシステム1において作動媒体の分解が起こると、吐出温度が急激に上昇することが分かっている。このため、吐出温度センサ31により検出された吐出温度に基づいて熱サイクル内において作動媒体の分解が起き、間接的に酸が発生したことを検知することができる。
【0075】
判定部32は、吐出温度センサ31により検出された吐出温度に基づいて熱サイクル内において作動媒体の分解が起きたか否かの判断を行う。具体的には、判定部32は、吐出温度センサ31により検出された吐出温度と予め定められた閾値(吐出温度閾値)とを比較することによって熱サイクル内において作動媒体の分解が起きたか否かの判断を行う。すなわち、吐出温度センサ31により検出された吐出温度が、吐出温度閾値を超えた場合には判定部32が熱サイクル内において作動媒体の分解が起きたと判断し、吐出温度閾値以下である場合には判定部32が熱サイクル内において作動媒体の分解が起きていないと判断する。吐出温度閾値は、例えば、定常運転時の吐出温度に所定の温度(例えば50℃)をプラスした温度に設定してもよく、E種絶縁の巻線許容値210℃に設定してもよい。
【0076】
表示部33は、判定部32により熱サイクル内において作動媒体の分解が起きたと判断された場合にその旨を表示させるためのものである。なお、表示部33は、熱サイクルシステム1の運転操作を行う操作手段などに設けたり、運転状況を確認するモニターそのもの又はその一部として設けてもよい。
【0077】
熱サイクルシステム1において作動媒体の分解が起こると、吐出温度とともに、圧縮機10から吐出された作動媒体の圧力(吐出圧力)も急激に上昇することが分かっている。
したがって、判定部32を、検出された吐出圧力に基づいて熱サイクル内において作動媒体の分解が起きたことを検知するように構成することで、圧力による判断を行うこともできる。具体的には、判定部32は、検出された吐出圧力と予め定められた閾値(吐出圧力閾値)とを比較することによって作動媒体の分解による酸の発生が起こったか否かの判断を行う。すなわち、検出された吐出圧力が、吐出圧力閾値を超えた場合には判定部32は作動媒体の分解による酸の発生が起こったと判断し、吐出圧力閾値以下である場合には判定部32は作動媒体の分解による酸の発生は起こっていないと判断する。吐出圧力は、吐出温度センサ31の検出した温度または各部温度から推算することにより検出してもよいし、吐出配管21に吐出圧力センサを設けて直接検出してもよい。
【0078】
以上で説明したように、本参考形態によっても、HFOを含む作動媒体を用いる場合に、熱サイクル内に作動媒体の分解が起きたことを適切に検知することができる。
【0079】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。