【実施例】
【0037】
本発明を以下の実験例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0038】
実験例1
Ndを24.80質量%、Prを6.90質量%、Dyを1.15質量%、Bを0.96質量%、Nbを0.15質量%、Alを0.10質量%含有し、Ga及びCuの含有量を表1に示すようにそれぞれ0.1、0.2、0.3、0.4、0.5質量%及び0.02、0.1、0.2、0.3、0.4質量%の範囲で変更し、残部としてFe及び不可避不純物を含有する25種類の組成の合金をストリップキャスト法により作製した。これらの合金には、不可避不純物としてCoが0.06質量%含有していた。なお、前記Cu含有量は不可避不純物として含まれる0.02質量%のCuを含んだ値である。
【0039】
得られた合金を、5000 ppmの酸素を含んだ窒素ガス中でジェットミル粉砕し、磁場中で圧縮成形し、焼結及び熱処理を行った後、研削加工し、R-TM-B系焼結磁石からなる3 mm×10 mm×40 mmのテストピースを準備した。これらのテストピースを用いて、プレッシャークッカーテスト(120℃100%RH、2気圧、96時間)を行い、テスト前後での重量から腐食減量(mg/cm
2)を求めた。結果を表1に示す。なおこれらの結果は各合金についてn=3でテストした結果の平均値である。
【0040】
【表1】
【0041】
Ga又はGa+Cuの添加によってR-TM-B系焼結磁石の腐食減量が少なくなり、耐食性が大幅に向上していることが分かる。Cuを添加しない(ただし、不可避不純物として0.02質量%のCuを含む)場合、Ga含有量が0.1質量%では腐食減量は著しく大きかったが、Ga含有量を増やすと腐食減量は低下し、耐食性が良好となる結果が得られた。Ga含有量が0.1質量%でCuを添加してゆくと腐食減量は低下し、耐食性が良好となる結果が得られた。
【0042】
本発明者らは、R-TM-B系焼結磁石において120℃100%RH、2気圧及び96時間の条件でプレッシャークッカーテストを行ったときに腐食減量が2 mg/cm
2未満であれば、自動車用(電装用やHV用)に要求される耐食性の規格を満足できることを確認している。
【0043】
従って、Coを実質的に含まなくても前記耐食性の規格を満足できると考えられるCu及びGaの含有量の範囲は、Ga量(質量%)及びCu量(質量%)をそれぞれX軸及びY軸としたXY平面上で、
図1に示すように、点ABCDEを頂点とする五角形で囲まれる領域であることが分かる。
【0044】
実験例2
Ndを24.80質量%、Prを6.90質量%、Dyを1.15質量%、Bを0.96質量%、Nbを0.15質量%、Alを0.10質量%、Gaを0.30質量%及びCuを0.15質量%含有し、残部としてFe及び不可避不純物を含有する合金Aをストリップキャスト法により作製した。この合金Aには、不可避不純物としてCoが0.06質量%含有していた。
【0045】
合金組成を表2に示すように変更した以外は合金Aと同様にして、合金B〜Fを作製した。なお合金A〜Eは本発明のR-TM-B系焼結磁石の組成範囲に含まれるものであり、合金Fは本発明のR-TM-B系焼結磁石の組成範囲に含まれないものである。
【0046】
【表2】
注(1) Coは不可避不純物である。
【0047】
得られた合金A〜Fを、5000 ppmの酸素を含んだ窒素ガス中でジェットミル粉砕し、磁場中で圧縮成形し、焼結及び熱処理を行った後、研削加工し、R-TM-B系焼結磁石からなる3 mm×10 mm×40 mmのテストピースを準備した。これらのテストピースを用いて、残留磁束密度B
r及び保磁力H
cJを測定し、さらにプレッシャークッカーテスト(120℃100%RH、2気圧、96時間)を行い、テスト前後での重量から腐食減量を求めた。結果を表3に示す。なおプレッシャークッカーテストの結果は各合金についてn=3でテストした結果の平均値である。
【0048】
さらに実験例1で作製したテストピースのうち、Ga含有量及びCu含有量が、それぞれ0.1質量%及び0.02質量%の合金1、0.1質量%及び0.4質量%の合金2、0.5質量%及び0.02質量%の合金3及び0.5質量%及び0.4質量%の合金4の残留磁束密度B
r及び保磁力H
cJを測定した。結果を合わせて表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
本発明のR-TM-B系焼結磁石の組成範囲に含まれる合金A〜E及び合金2〜4は、腐食減量が小さく、高い残留磁束密度B
r及び保磁力H
cJを有することが分かる。なお合金FについてはNd、Pr及びDyの合計が本発明で規定する希土類量を超えており、結果として耐食性が悪くなったものと推定している。
【0051】
実験例3
実験例1で得られた、Ga含有量及びCu含有量がそれぞれ0.1質量%及び0.02質量%の合金1と、Ga含有量及びCu含有量がそれぞれ0.5質量%及び0.4質量%の合金4とについて、120℃100%RH、2気圧及び24時間の条件でプレッシャークッカーテストを行い、テスト後の腐食の様子をSEMで観察した。結果を
図2に示す。
【0052】
合金1のサンプル(
図2(a))は深さ方向に腐食(図中矢印で示した部分)が進行していることが確認されたが、合金4のサンプル(
図2(b))については腐食の進行は確認されなかった。
【0053】
実験例4
Co含有量がR-TM-B系焼結磁石の機械的強度に与える影響を評価するため、以下の実験を行った。
【0054】
Ndを24.25質量%、Prを6.75質量%、Dyを2.1質量%、Bを0.96質量%、Nbを0.15質量%、Alを0.06質量%、Gaを0.08質量%含有し、Co含有量を0.0、0.06、0.08及び0.1〜1.0質量%(0.1質量%刻み)の範囲で変更し、残部としてFe及び不可避不純物を含有する13種類の組成の合金をストリップキャスト法により作製した。なお実験には純度の高い金属を使用したが微量の不可避不純物は含まれる。従って、Co含有量が0.0質量%と表記した合金は、実際は測定限界(0.01質量%)以下のCoを含んでいる可能性がある。
【0055】
得られた合金を、5000 ppmの酸素を含んだ窒素ガス中でジェットミル粉砕し微粉を準備した。得られた微粉を用いて、
図3に示す成形装置で磁場中圧縮成形(磁場強度:318 kA/m、圧力:98 MPa)し、R-TM-B系ラジアル異方性リング磁石の成形体(外径41.8 mm×内径32.5 mm×高さ47.2 mm)を得た。各合金について、それぞれ10個の成形体を作製した。
【0056】
R-TM-B系ラジアル異方性リング磁石の成形に用いた成形装置は、円柱状の上下コア40a,40b(パーメンダー製)と、円筒状の外型30(SK3製)と、円筒状の上下パンチ90a,90b(非磁性)とからなる金型と、これらに囲まれた空間によって構成されるキャビティ60と、上コア40a及び下コア40bの外周位置にそれぞれ配置された一対の磁場発生コイル10a,10bとからなる。上コア40aは下コア40bから離脱可能であり、上コア40aと上パンチ90aとは、それぞれ独立に上下動でき、上パンチ90aはキャビティ60から離脱可能である。密着した上コア40a及び下コア40bを通して磁力線70に沿ってキャビティ60にラジアル方向に磁場を印加できる。
【0057】
得られた成形体の内部に外径29.0 mmの円柱体からなる焼結治具(材質SUS403線膨張係数11.4×10
-6)を挿入し、Mo容器内に敷いたMo製耐熱板の上に置き真空中1080℃で2時間焼結した。上記焼結治具は有機溶剤にいれ攪拌したNd
2O
3を外周面に塗布したのち使用した。得られた焼結体の端面、外周面及び内周面を研削加工し、Co含有量の異なる13種のR-TM-B系ラジアル異方性リング磁石401〜413を作製した。得られたR-TM-B系ラジアル異方性リング磁石に割れが発生しているかについて目視により確認した。結果を表4に示す。リング磁石401〜403は、Ga含有量は本発明から外れるが、Co含有量が0.1質量%未満(本発明で規定する範囲内)である参考例であり、リング磁石404〜413はCo含有量が0.1質量%以上(本発明で規定する範囲外)である比較例である。
【0058】
【表4】
【0059】
表4の結果から、Co含有量が0.1質量%以上の場合に、リング磁石の焼結体に割れが発生しており、Co含有量が増加するに従って割れの発生が増加していることが分かる。
【0060】
実験例5
実験例4と同様にして準備した13種類の合金の微粉を用いて、
図4に示す成形装置100で磁場中圧縮成形(圧力:80 MPa、磁場強度については全ての条件で同じ磁場強度(パルス磁場)とした。)し、外周面に8極を有するR-TM-B系極異方性リング磁石の成形体(外径31.5 mm×内径20.3 mm×高さ27.8 mm)を得た。各合金について、それぞれ10個の成形体を作製した。
【0061】
R-TM-B系極異方性リング磁石の成形に用いた磁場中成形装置100は、
図4(a)に示すように、磁性体からなるダイス101と、ダイス101の環状空間内に同心状に配置された円柱状の非磁性体からなるコア102とを有し、ダイス101は支柱111,112により支持され、コア102及び支柱111、112はいずれも下部フレーム108により支持されている。ダイス101とコア102との間の成形空間103内に円筒状の非磁性体からなる上パンチ104と同様に円筒状の非磁性体からなる下パンチ107とがそれぞれ嵌入される。下パンチ107は基板113に固着され、一方上パンチ104は上部フレーム105に固定されている。上部フレーム105及び下部フレーム108はそれぞれ上部シリンダー106及び下部シリンダー109と連結している。
【0062】
図4(b)は
図4(a)のA-A断面を示す。円筒状のダイス101の内面には複数の溝117が形成されており、各溝117には磁場発生コイル115が埋設されている。ダイス101の内面には溝を覆うように環状の非磁性体の環状スリーブ116が設けられている。環状スリーブ116とコア102の間が成形空間103である。
図4(b)において、各溝117内の磁場発生コイル115は、電流が紙面に対して垂直方向に流れるように配置され、周方向に隣り合うコイルの電流の向きが交互に逆向きになるように接続されている。磁場発生コイル115に電流を流すと、成形空間103に矢印Aで示すような磁束の流れが生じ、磁束が環状のスリーブにあたる点(矢印の始点及び終点)に、円周方向に順にS、N、S、N・・・と極性が交互に変わる磁極(図では8極)が形成される。
【0063】
得られた成形体をMo容器内に敷いたMo製耐熱板の上に置き真空中1080℃で2時間焼結した。得られた焼結体の端面、外周面及び内周面を研削加工し、Co含有量の異なる13種のR-TM-B系極異方性リング磁石501〜513を作製した。得られたR-TM-B系極異方性リング磁石に割れが発生しているかについて目視により確認した。結果を表5に示す。リング磁石501〜503は、Ga含有量は本発明から外れるが、Co含有量が0.1質量%未満(本発明で規定する範囲内)である参考例であり、リング磁石504〜513はCo含有量が0.1質量%以上(本発明で規定する範囲外)である比較例である。
【0064】
【表5】
【0065】
表5の結果から、Co含有量が0.1質量%以上の場合に、リング磁石の焼結体に割れが発生しており、Co含有量が増加するに従って割れの発生が増加していることが分かる。
【0066】
実験例6
実験例1と同様にして準備した25種類の合金の微粉を用いた以外、実験例4と同様にして本発明例のラジアル異方性焼結リング磁石を製作した。その結果、これらの25種のラジアル異方性焼結リング磁石は、全て研削加工後の割れが発生しなかった。
【0067】
実験例7
実験例1と同様にして準備した25種類の合金の微粉を用いた以外、実験例5と同様にして本発明例の極異方性焼結リング磁石を製作した。その結果、これらの25種のラジアル異方性焼結リング磁石は、全て研削加工後の割れが発生しなかった。