特許第6801856号(P6801856)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801856
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】把持具
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20201207BHJP
   G01N 3/04 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   C12M1/34 A
   G01N3/04 D
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-113949(P2016-113949)
(22)【出願日】2016年6月7日
(65)【公開番号】特開2017-216940(P2017-216940A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年5月31日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2016年2月1日に発行された「日本再生医療学会雑誌 再生医療」第15巻増刊号にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2016年3月17日から2016年3月19日大阪国際会議場(大阪府大阪市北区中之島5丁目3−51)において開催された第15回日本再生医療学会総会で発表(公開日は2016年3月19日)
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上杉 薫
(72)【発明者】
【氏名】森島 圭祐
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−192700(JP,A)
【文献】 特開2005−074606(JP,A)
【文献】 特表2015−527576(JP,A)
【文献】 上杉薫 ほか,"3次元積層細胞の引張試験のためのマイクロバキュームチャックの開発",ロボティクス・メカトロニクス講演会2015講演論文集,2015年 5月16日,1P1-P05,pp. 1-3
【文献】 上杉薫 ほか,"マイクロバキュームチャックを用いた引張試験によるiPS心筋細胞3次元積層組織の引張力測定",第33回日本ロボット学会学術講演会講演概要集,2015年 9月 3日,RSJ2015AC1F1-04,pp. 1-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12Q 1/00−3/00
G01N 3/00−3/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織又は培養細胞集合体で構成された試料の端部を把持する把持具であって、
前記試料の端部に対向する表面を含む立体形状を有する一対の把持具本体と、
前記各把持具本体の前記表面に設けられる少なくとも2つの開口と、
前記各把持具本体の内部に設けられ、前記開口から、前記各把持具本体の前記開口から離間した表面まで延びる流路と、
前記各把持具本体の前記開口から離間した表面に設けられ、前記流路に対して流体を出入させるための少なくとも1つの流体出入口と、
を備え
前記少なくとも2つの開口は、各開口が一辺の長さが5000μmの正方形の枠より小さく形成されており、かつ隣り合う開口の間隔が2000μm以下に形成されている、
把持具。
【請求項2】
前記少なくとも2つの開口は、隣り合う開口の間隔が50μm以上に形成されている、
請求項1に記載の把持具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の把持具と、
前記一対の把持具本体を、互いに離間する方向に移動させる駆動部と、
前記把持具に把持された前記試料にかかる引張力を測定する測定部と、を備える測定装置。
【請求項4】
前記流体出入口には、流体を出入させるためのチューブが取り付けられ、
前記チューブは、前記把持具本体の移動方向に対して直交して延びる請求項3に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元構造を有する試料の端部を把持する把持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生体外で培養された細胞を再構築した組織(以下、「再生組織」という)を、再生医療、創薬等に用いることが試みられている。特に再生組織を再生医療に用いる場合、再生組織の機械的特性が生体内の移植部位に影響を与える可能性があるため、再生組織の機械的特性を評価することが必要とされている。
【0003】
再生組織の機械的特性は、再生組織に対して引張試験を行うことで測定している。引張試験を行うためには、再生組織を把持する必要があり、クランプ、接着、縫い付け、引っ掛け等の把持手段が取られている。しかしながら、クランプまたは引っ掛けによって再生組織を把持する場合には、把持部に応力集中が生じ、再生組織が破損するという問題があった。また、接着剤を用いて再生組織を把持する場合には、再生組織に化学的な負荷が生じるという問題があった。また、縫い付けにより再生組織を把持する場合には、試験者に再生試料と把持手段とを縫い付ける技術を要し、誰もが容易に引張試験を行うことができないという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1に示すような、化学変化や特殊な技術を要さない引っ掛けを用いた再生組織の把持手段において、応力集中が生じにくい状態で再生組織を把持できる治具が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−74867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の治具は、二次元構造であるシート状の再生組織を把持するには適しているが、厚みのある三次元構造の再生組織では、再生組織が大きな弾性率を持つため、把持部に応力が集中し、再生組織が破損して正確な引張試験、延いては、正確な機械的特性の測定ができないという問題が生じていた。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、三次元構造の試料(再生組織等)を、応力集中を生じさせずに把持することができる把持具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、三次元構造を有する試料の端部を把持する把持具であって、立体形状を有する一対の把持具本体と、各把持具本体の表面に設けられる少なくとも2つの開口と、各把持具本体の内部に設けられ、開口から、各把持具本体の開口から離間した表面まで延びる流路と、各把持具本体の開口から離間した表面に設けられ、流路に対して流体を出入させるための少なくとも1つの流体出入口とを備える。
【0009】
本発明の把持具は、把持具本体に開口と流体出入口とが流路で連通されて設けられており、流体出入口には流体が出入されるようになっている。流体出入口から流体(流路内の空気)を吸い出すことで、流路を介して開口に、流体(空気)を吸い込む力(吸引力)を発生させることができる。また、流体出入口に流体(空気)を流入することで、流路を介して開口に、流体(空気)を吐き出す力(吐出力)を発生させることができる。このように、開口に吸引力を発生させることができる把持具本体で試料を挟み、試料の両端部を一対の把持具本体の開口に引きつけて保持することで、試料の両側の端部の表面を均一に吸引して把持することができる。これにより、厚みのある三次元構造を有する試料であっても、局所に応力が集中することなく試料を把持することができる。また、このようにして把持した試料は、流路に流体を流入させ、開口に吐出力を発生させることで、簡単に把持具から離すことができる。
【0010】
本発明において、前記三次元構造を有する試料の形状は、本発明の把持具によって保持することができる形状であれば、特に限定されず、例えば、平面状、又はシート状であってもよい。
本発明において、前記三次元構造を有する試料の例は、細胞から構成される試料を包含する。
本発明において、前記三次元構造を有する試料の好適な例は、2層以上(好ましくは、例えば、2層〜50層、5層〜40層、10〜30層)の細胞層から構成される試料を含む。
本発明において、細胞から構成される、前記三次元構造を有する試料は、本発明の把持具によって保持することができる形状であればよく、細胞の層が観察されない試料であってもよい。
本発明において、細胞から構成される、前記三次元構造を有する試料は、細胞以外の物質(例:細胞外マトリックス、細胞由来繊維、基底膜)を含有してもよい。
当該細胞以外の物質は、例えば、前記三次元構造を有する試料の三次元構造を保持する機能を有する物質であることができる。
このことから理解される通り、本発明において、細胞から構成される試料は、細胞を含有する試料、細胞から実質的になる試料、及び細胞からなる試料を包含する。
本発明において、細胞から構成される、前記三次元構造を有する試料の例は、生体組織(又はその切片)、及び培養細胞集合体(又はその切片)を包含する。
このような培養細胞集合体の例は、細胞集積技術等の公知の方法によって作成された培養細胞集合体を包含する。
当該培養細胞集合体は、例えば、三次元生体組織モデルであることができる。
前記細胞の例は、心筋細胞、線維芽細胞、筋芽細胞(例:骨格筋芽細胞)、脳細胞、滑膜細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、歯根膜細胞、皮膚細胞、これらに完全に分化していない細胞、幹細胞(例:胚性幹細胞[ES細胞]、人工多能性幹細胞[iPS細胞])、生体細胞に由来する培養細胞、前記幹細胞(例:人工多能性幹細胞[iPS細胞])を分化させた細胞(例:iPS由来心筋細胞)並びにこれらの2種以上の組み合わせを包含する。
【0011】
本発明の保持具は、細胞から構成される試料のような物理的に脆弱な試料を、物理的に損壊させずに、且つ強固に保持することができ、更に、細胞から構成される試料のなかでも特に物理的に脆弱な試料でさえも、これを物理的に損壊させずに、且つ強固に保持することができる。また、細胞から再構築されていないが、脳組織のように非常に柔らかくネイティブな組織も、これを物理的に損壊させずに、且つ強固に保持することができる。
【0012】
好ましい実施形態の把持具においては、試料は、心筋細胞から構成される試料であり、各開口は、一辺の長さが0.7μmの正方形の枠より大きく、一辺の長さが5000μmの枠より小さい。
【0013】
また、本発明に係る測定装置は、上記把持具と、一対の把持具本体を、互いに離間する方向に移動させる駆動部と、把持具に把持された試料にかかる引張力を測定する測定部とを備える。
【0014】
測定装置に、上記したように応力集中を生じさせずに試料を把持することができる把持具を用いることで、試料の局所に応力が集中することなく、正確な引張試験、延いては機械的特性の測定を行うことができる。
【0015】
好ましい実施形態の測定装置においては、流体出入口には、流体を出入させるためのチューブが取り付けられ、チューブは、把持具本体の移動方向に対して直交して延びる。
【0016】
このような構成とすることで、測定装置が試料を引っ張る際に、チューブが駆動部に絡まらず、スムーズかつ正確に試料の引張試験、延いては機械的特性の測定を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の把持具によると、三次元構造の試料を、応力集中を生じさせずに把持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る測定装置の一実施形態を示す斜視図である。
図2】本発明に係る把持具の一実施形態を示す斜視図である。
図3図2の把持具本体を作製する過程を示す正面図である。
図4】試料を培養している状態を示す斜視図である。
図5】試料を成形している状態を示す平面図である。
図6】成形治具を示す斜視図である。
図7図1の測定装置の試料および把持具の平面図である。
図8図7の右側部の拡大図である。
図9】本発明に係る把持具の他の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る把持具10及び測定装置1の一実施形態について、添付図面を参照して説明する。なお、把持具10及び測定装置1が設置される面を水平面とし、水平面と平行な方向を水平方向、水平方向に直交する方向を垂直方向と定義する。
【0020】
本実施形態の測定装置1は、心筋細胞から構成される試料等の三次元構造を有する試料Sを把持具10で把持して一軸方向(水平方向)に引っ張り、このときの張力を測定することで試料Sの機械的特性の測定を行うものである。なお、試料Sは、心筋細胞から構成される試料等に限られず、上記した任意の試料Sを用いることができる。
【0021】
図1に示すように、測定装置1は、一対の把持具本体11を有する把持具10と、一方の把持具本体11に取り付けられる測定部20と、他方の把持具本体11に取り付けられる駆動部30とを備えている。
【0022】
測定部20は、測定装置1の設置面から立設された支柱(図示せず)に取り付けられる支持体21と、支持体21に取り付けられる張力トランスデューサ22と、張力トランスデューサ22から垂下して設けられるアーム23とを備えている。アーム23は、金属板の両端を互いに反対方向に垂直に折り曲げて形成されており、一端側が張力トランスデューサ22の下面に取り付けられ、他端側に一方の把持具本体11が取り付けられている。張力トランスデューサ22は、既知の任意の張力トランスデューサを用いることができる。
【0023】
駆動部30は、支持体21が取り付けられる支柱と離間して測定装置1の設置面から立設された支柱(図示せず)に取り付けられる支持体31と、支持体31に取り付けられる駆動機構32と、駆動機構32から延びるアーム33とを備えている。駆動機構32は、モータ321による回転力を、ボールねじ322を介して可動片323に伝え、可動片323を一軸方向に移動させるものである。アーム33は、L字状板状部材331と、L字状板状部材331の一端側の側辺と接合されるI字状板状部材332とからなる。L字状板状部材331の他端に他方の把持具本体11が取り付けられており、I字状板状部材332の他端側が可動片323に取り付けられている。
【0024】
把持具10は、三次元構造を有する試料Sの端部を把持するものである。図2に示すように、一対の把持具本体11は、立体形状、本実施形態では、直方体形状を有している。各把持具本体11の表面11a、本実施形態では、側面には、水平方向に一列に7個の開口12が設けられている。開口12は、一辺の長さが0.7μmの正方形の枠より大きく、一辺の長さが5000μmの正方形の枠より小さいことが好ましい。開口12は、一辺の長さが35μmの正方形の枠より大きく、一辺の長さが1000μmの正方形の枠より小さいことがより好ましく、一辺の長さが50μmの正方形の枠より大きく、一辺の長さが500μmの正方形の枠より小さいことがさらに好ましく、一辺の長さが100μmの正方形の枠より大きく、一辺の長さが200μmの正方形の枠より小さいことが最も好ましい。本実施形態では、開口12は、一辺の長さが100μm〜200μmの正方形状を呈している。後述するように、開口12には吸引力が発生するが、開口12の大きさが小さすぎると、試料Sを引き込む力が弱くなり、試料Sを吸引して把持することができなくなる。一方、開口12の大きさが大きすぎると、試料Sを引き込み過ぎてしまい、試料Sに応力集中が生じたり、試料Sの長さが変化して正確な測定ができなくなったりする。
【0025】
把持具本体11の内部には、開口12から、把持具本体11の開口12から離間した表面11b、本実施形態では上面まで延びる流路13が設けられている。本実施形態では、流路13は、把持具本体11の中央付近までは、開口12から直線状に延び、把持具本体11の中央で一本の流路13となっている。把持具本体11の上面には、流路13に流体を出入させるための流体出入口14が形成されており、一本となった流路13は、流体出入口14まで延びている。
【0026】
上記した把持具本体11は、図3に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いて作製される。まず、図3(a)に示すように、シリコンウエハ111上にフォトレジスト112を塗布する。そして、図3(b)に示すように、フォトレジスト112の上に、流路13の形状を描いたマスク113を載せ、露光し、現像することで、フォトレジスト112を流路13の形状にする(図3(c))。次に、図3(d)に示すように、シリコンウエハ111上に、生体適合性のあるシリコンゴム114を塗布し、120℃でベイクして硬化させる。その後、シリコンウエハ111およびフォトレジスト112を除去し(図3(e))、シリコンゴム114にカバーガラス115を接着させることで、内部に微細な大きさの流路13を有する把持具本体11が作製される。
【0027】
把持具本体11は、上記のようにして作製されるため、互いに隣接する開口12の間隔は、50μm以上設けられていることが好ましい。互いに隣接する開口12の間隔は、50μm〜2000μmであることがより好ましく、100μm〜200μmであることがさらに好ましい。互いに隣接する開口12の間隔が50μm以下であると、シリコンゴム114とカバーガラス115とを接着させる際に、十分な接着が行えなくなる。
【0028】
図1および図2に示すように、流体出入口14には、流体を出入させるためのポンプ(図示せず)へと繋がるチューブ40が取り付けられている。チューブ40は、把持具本体11の移動方向、つまり水平方向に対して直交、つまり垂直方向に延びている。測定部20側のチューブ40は、支持体21に設けられたチューブ固定具(図示せず)によって、把持具本体11と直交するように固定されている。これにより、チューブ40の、チューブ固定具との接続部が固定端となり、把持具本体11との接続部が把持具本体11の移動に伴って移動可能な自由端となる。このような構造とすることで、チューブ40が、一方が固定端で、他方が自由端のはり構造となるため、チューブ40の伸展方向(垂直方向)に対して直交する力(水平方向の力つまり試料Sに対する引張力)が小さくても、チューブ40は大きな変位を得ることができる。すなわち、張力トランスデューサ22の感度を必要以上に下げることなく、張力トランスデューサ22へチューブ40を接続することができる。チューブ40には圧力センサ41が取り付けられており、圧力センサ41によって、チューブ40内の流体の圧力を測定している。
【0029】
次に、図4および図5を参照して、試料Sの作製について説明する。試料Sは、交互積層法を用いてナノメートルオーダーの細胞外マトリックス薄膜をコートした細胞Cを積層して三次元構造の積層細胞を構築する細胞集積法を用いて作製されている。具体的には、試料Sとして、心筋由来の繊維芽細胞、あるいは心筋細胞Cを用いている。培養容器50内に10層分の数の細胞を播種し、2日間培養する。培養した積層組織を、培養容器50から取り出し、後述する成形治具60によって所定の幅に切断する。切断された積層組織が試料Sとなる。あるいは、細胞Cを培養容器50に1層分敷き詰め、敷き詰めた表面を細胞外マトリックスでコートする。これを9回繰り返すことで、10層分の積層組織を作製する。その積層組織を2日間培養し、回収して、成形治具60によって切断することでも試料Sは得られる。
【0030】
図6に示すように、成形治具60は、2枚の剃刃61と、剃刃61の間隔を決めるスペーサ62とからなる。剃刃61およびスペーサ62には、ボルト63を指し通すための孔が開いており、孔にボルト63を指し通し、ナットで固定することで一体化されている。スペーサ62は、複数の厚みのものが用意されており、スペーサ62の厚みを変えることで、剃刃61の間隔を変えられる。このような成形治具60を用いることで、細胞Cの集まりである積層組織を、所望の幅(スペーサ62の厚み)で一度に切断でき、同じ幅を持つ試料Sを精度よく作製することができる。切断時、ゴムのようなある程度の弾性を持ったシートを下敷きにすることで、剃刃61の刃の全面が積層組織にフィットし、確実に切断できる。
【0031】
次に、図1図7および図8を用いて、把持具10を用いた試料Sの把持方法、および、測定装置1を用いた試料Sの引張試験の方法について説明する。なお、図7および図8は、図を分かり易くするために、把持具本体11の内部に設けられる流路13が表面に現れる状態で示している。
【0032】
図1に示すようにディッシュ2内に上記のようにして作製した試料Sを載置し、試料Sを挟んで試料Sの両端側に一対の把持具本体11を位置させる。このとき、一対の把持具本体11は、互いに1mm以上の間隔、好ましくは、1mm〜30mmの間隔、より好ましくは、2mm〜10mmの間隔、さらに好ましくは、3mm〜6mmの間隔を開けて配置される。ポンプを駆動させてチューブ40および流路13内の流体を吸い出す。これにより、試料Sの両端部が把持具本体11に吸引され、試料Sは把持具10によって把持される。このとき、開口12にかかる吸引圧が、0.1kPa〜40kPa、好ましくは、1kPa〜20kPa、より好ましくは、3kPa〜4kPaとなるように、ポンプによる流体の吸引力を調整している。
【0033】
把持具10によって把持された試料Sは、駆動部30において可動片323が図1の矢印Aの方向に水平方向に移動することで、駆動部30に取り付けられた把持具本体11が他方の把持具本体11から離間する方向に移動し、引っ張られる。試料Sが引っ張られることで、アーム23が撓み、張力トランスデューサ22が、アーム23に生じたひずみを電気抵抗に変換して測定することで、把持具10に把持された試料Sにかかる引張力が測定される。この電気抵抗を得ることで、試料Sの機械的特性を測定している。
【0034】
また、ディッシュ2の下方には、ミラー3が設けられ、ミラー3で反射した画像を記録できる位置にビデオカメラ4が設けられている。そのため、ミラー3を介してビデオカメラ4で引張試験の状況を撮影することで、張力トランスデューサ22から電気抵抗として得られた数値データと共に、測定時の画像を記録することができる。これにより、例えば、数値と画像とを突き合わせて測定結果を検証することができる。
【0035】
以上のように、本実施形態では、把持具10は、把持具本体11に開口12と流体出入口14とが流路13で連通されて設けられており、流体出入口14には流体が出入されるようになっている。ポンプによって流体出入口14から流体(流路13内の空気)を吸い出すことで、流路13を介して開口12に、流体(空気)を吸い込む力(吸引力)を発生させることができる。また、ポンプによって流体出入口14に流体(空気)を流入することで、流路13を介して開口12に、流体(空気)を吐き出す力(吐出力)を発生させることができる。このように、開口12に吸引力を発生させることができる把持具本体11で試料Sを挟み、試料Sの両端部を一対の把持具本体11の開口12に引きつけて保持することで、試料Sの両側の端部の表面を均一に吸引して把持することができる。これにより、厚みのある三次元構造を有する試料Sであっても、局所に応力が集中することなく試料Sを把持することができる。また、試料Sを吸引するだけであるため、把持に接着剤を用いる場合のような化学的な負荷もなく、把持に縫い付けを用いる場合のような高度な技術も必要なく、細胞(例、心筋細胞)から構成される試料のような柔らかい三次元構造を有する試料Sを把持することができる。また、このようにして把持した試料Sは、流路13に流体を流入させ、開口12に吐出力を発生させることで、簡単に把持具10から離すことができる。
【0036】
また、本実施形態では、各把持具本体11に複数の開口12を設けている。このように、各把持具本体11に複数の開口12を設けることで、開口が1個の把持具本体と比べると、試料Sを吸い込まない程度の吸引圧を作用させた場合に、開口12の総面積が大きくなるため、試料Sに対して大きな吸引力を働かせることができる。そのため、引張試験において、十分試験に耐え得るだけの力で試料Sを把持することができる。また、複数の開口12を設けることで、開口12を設ける領域を広げることができ、開口が1個の場合のように試料Sの角部を中央の開口で吸引することもなくなるため、試料Sの変形が抑制され、試料Sに応力集中が生じにくくなる。
【0037】
また、開口が1個の把持具本体では、引張試験に耐え得るだけの吸引力を得ようとすると、開口の面積を大きくするか、吸引圧をさらに高くして吸引力を大きくしなければならない。しかしながら、開口の面積や吸引力を大きくすると試料Sが開口内に引き込まれてしまい、試料Sが開口に引き込まれることで変形した試料Sの端部に大きな応力集中が発生するという問題や、試料Sが開口に過度に引き込まることで試料Sの長さが変わるという問題が生じていた。しかしながら、本実施形態のように把持具本体11に複数の開口12を設けることで、図8の矢印Bで示すように、試料Sの1点から2箇所の開口12へと引き込まれることとなる。そのため、試料Sが開口12に過度に引き込まれることがなく、試料Sが開口12に引き込まれることによる応力集中および試料Sの変形を抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態のようにして把持具10を作製することで、シリコンゴムおよびカバーガラスに透明なものを用いることができ、把持具10を透明にすることができる。これにより、把持具10に吸引されている試料Sの状態を観察することができる。その結果、試料Sの過度な吸い込みがある場合には吸引圧を調整することもでき、より応力集中を生じさせずに試料Sを把持することができる。
【0039】
また、測定装置1に、本実施形態のような応力集中を生じさせずに試料Sを把持することができる把持具10を用いることで、試料Sの局所に応力が集中することなく、正確な引張試験、延いては機械的特性の測定を行うことができる。さらに、流体出入口14に流体を出入させるためのチューブ40が把持具本体11の移動方向に対して直交して延びるため、測定装置1が試料Sを引っ張る際に、チューブ40が駆動部30に絡まらず、スムーズかつ正確に試料Sの引張試験、延いては機械的特性の測定を行うことができる。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態では、各把持具本体11に開口12が7個設けられているが、開口12の数は、少なくとも2個、好ましくは3個以上であれば任意の個数を取り得る。また、開口12は、水平方向に一列に並んで設けられる必要はなく、水平方向及び垂直方向に複数列設けられてもよい。また、例えば管腔構造の試料Sを把持する把持具10においては、複数の開口12を管状に配置してもよい。その他、複数の開口12は、試料Sの形状に合わせて適宜配置することができる。
【0042】
また、上記実施形態では、開口12は正方形状を呈しているが、開口12の形状は正方形に限られず、長方形、六角形等の任意の多角形、円形または楕円形でもよい。この場合も、開口12の大きさは、一辺の長さが、0.7μm、好ましくは35μm、より好ましくは50μm、さらに好ましくは100μmの正方形の枠よりも大きく、一辺の長さが、5000μm、好ましくは1000μm、より好ましくは500μm、さらに好ましくは200μmの正方形の枠より小さければよい。また、円形の開口12を有する把持具本体11は、例えば、図9のように、複数本(図9では2本)のチューブ16を連結させて作製されることもできる。
【0043】
また、上記実施形態では、複数の開口12から延びる複数の流路13は途中で1本の流路13となっているが、流路13は必ずしも1本になる必要はない。例えば、複数の流路13がそのまま把持具本体11の開口12から離間した表面11bまで延びてもよいし、複数の流路13が2本、3本等の任意の本数で合流し、合わさってできた2本、3本等の任意の数の流路13が把持具本体11の開口12から離間した表面11bまで延びてもよい。この場合、流体出入口14は、複数個設けられることとなる。また、流体出入口14を設けられる場所は、把持具本体11の上面11bに限られず、開口12を設けた側面11a以外であれば、任意の表面に設けることができる。
【0044】
また、上記実施形態では、測定部20に張力トランスデューサ22を用いる構成としたが、試料Sを引っ張ったときに試料Sにかかる張力を測定できれば、任意の手段を取り得る。同様に、上記実施形態では、駆動部30にボールねじ322を用いてモータ321の回転を可動片323に一軸方向へ往復移動する構成としているが、試料Sを引っ張ることができれば、任意の態様を取り得る。
【0045】
また、上記実施形態では、把持具10は、引張試験を行うための測定装置1に用いているが、把持具10の用途は引張試験用に限られない。例えば、試料Sを生体内に移植するときに試料Sを移動させるために把持するというように、試料Sを把持する把持装置として把持具10を用いることもできる。
【実施例】
【0046】
実施例1
試料S:iPS由来心筋線維芽細胞積層組織(細胞層:10層、サイズ:3.5mm×6mm×100〜300μm、3.5mmの辺を把持)
把持具本体11:図2の形態の把持具本体、開口12の形状は正方形状、開口12の一辺の長さは100μm、開口12の数は7個
吸引圧:3〜4kPa
【0047】
実施例2
試料S:線維芽細胞シート(細胞層:1層、サイズ:20mm×10mm、10mmの辺を把持)
把持具本体11:図2の形態の把持具本体、開口12の形状は正方形状、開口12の一辺の長さは200μm、開口12の数は7個
吸引圧:0.4〜1kPa
【0048】
実施例3
試料S:iPS由来心筋細胞積層組織(凝集)(心筋細胞:線維芽細胞=3:1)(細胞層:10層、サイズ(円形):直径2mm前後×100〜300μm)
把持具本体11:図9の形態の把持具本体、開口12の形状は円形状、開口12の直径は200μm、開口12の数は2個
吸引圧:13〜14kPa
【0049】
上記実施例1〜3に記載した条件で、各試料Sを把持具10によって把持したところ、各試料Sの損壊無しに、しっかりと把持することができた。
また、上記実施例1では、把持具10で把持した状態で、測定装置1で引張試験を行ったところ、測定装置1で、試料Sの損壊無しに、吸引圧3〜4[kPa]での引張試験を実現できた。
【符号の説明】
【0050】
1 測定装置
10 把持具
11 把持具本体
12 開口
13 流路
14 流体出入口
20 測定部
30 駆動部
40 チューブ
S 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9