(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6801928
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】圧電素子
(51)【国際特許分類】
H04R 17/02 20060101AFI20201207BHJP
H01L 41/113 20060101ALI20201207BHJP
H01L 41/047 20060101ALI20201207BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
H04R17/02
H01L41/113
H01L41/047
B81B3/00
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-68008(P2017-68008)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-170697(P2018-170697A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2020年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山崎 王義
(72)【発明者】
【氏名】桝本 尚己
(72)【発明者】
【氏名】口地 博行
【審査官】
大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−515214(JP,A)
【文献】
特開2017−022576(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/042316(WO,A1)
【文献】
特開2011−004129(JP,A)
【文献】
特開平09−049856(JP,A)
【文献】
特開2001−013156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 3/00
H01L 41/047
H01L 41/113
H04R 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板に周縁部が支持固定され振動板を構成する圧電膜と、該圧電膜を挟んで配置する一対の電極とを備えた圧電素子において、
前記圧電膜あるいは前記圧電膜および前記電極を貫通するスリットを備え、
前記スリットは、複数のスリットからなる第1のスリット群からなり、
該第1のスリット群のスリットは、前記周縁部から前記振動板の中央側に向かって延出し、相互に交わらず、延長線が1点に収束しないことと、
前記圧電素子の一部は、連結部を構成することを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
請求項1記載の圧電素子において、
前記スリットは、前記第1のスリット群と、複数のスリットからなる第2のスリット群からなり、
該第2のスリット群のスリットは、前記周縁部に沿う方向に延出し、該第2のスリット群のスリットの一つは、前記第1のスリット群のスリットの一つと一端が連結していることを特徴とする圧電素子。
【請求項3】
請求項2記載の圧電素子において、
前記スリットは、前記第1のスリット群と、前記第2のスリット群と、複数のスリットからなる第3のスリット群からなり、
該第3のスリット群のスリットは、前記周縁部方向に延出し、該第3のスリット群のスリットの一つは、前記第1のスリット群のスリットの一つと一端で連結する前記第2のスリット群のスリットの一つの他端と一端が連結し、他端が前記周縁部方向に延出していることを特徴とする圧電素子。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載の圧電素子において、
前記第1のスリット群のスリットは、該スリットの前記周縁部側の端部から前記振動板の中心に向かう線上から同じ方向に傾斜した延長線となるように配置していることを特徴とする圧電素子。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載の圧電素子において、
前記圧電膜を含む振動板は、音響圧力によって振動する膜であることを特徴とする圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電素子に関し、特に、高感度、低雑音の横圧電効果を利用した圧電素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に需要が拡大しているスマートフォンには、小型、薄型で、組立のハンダリフロー工程の高温処理耐性を有するMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いたマイクロフォンが多く使われている。また、MEMSマイクロフォンに限らず、その他のMEMS素子が様々な分野で急速に普及してきている。
【0003】
この種のMEMS素子の多くは、音響圧力等による振動板の振動変位を対向する固定板との容量変化としてとらえ、電気信号に変換して出力する容量素子である。しかし容量素子は、振動板と固定板との間隙の空気の流動によって生じる音響抵抗のために、信号雑音比の改善が限界になりつつある。
【0004】
そこで、圧電材料からなる薄膜(圧電膜)で構成される単一の振動板の歪みにより音響圧力等を電圧変化として取り出すことができる圧電素子が注目されている。
【0005】
図7に、従来の圧電素子の断面図を示す。
図7に示すように、支持基板となるシリコン基板1に、絶縁膜2を介して多層構造の圧電膜3a、3bが支持固定され、圧電膜3aは上下から電極4aと電極4bにより、圧電膜3bは電極4bと電極4cによりそれぞれ挟み込まれた構造となっている。シリコン基板の一部は、例えば円形状に除去された空孔6が形成され、残されたシリコン基板1に圧電膜3a、3bの周縁部が支持固定されている。空孔6上の圧電膜3a、3bが振動板となる。この振動板を構成する圧電膜3a、3bを挟んで配置する電極4a〜4cは、それぞれドーナツ状に配置されている。
【0006】
このような圧電素子では、音響圧力等を受けて圧電膜3aが歪むと、横圧電効果によりその内部に分極が起こり、電極4aに接続する配線電極5aと、電極4bに接続する配線電極5bから電圧信号を取り出すことが可能となる。同様に圧電膜3bが歪むとその内部に分極が起こり、電極4cに接続する配線電極5aと、電極4bに接続する配線電極5bから電圧信号を取り出すことが可能となる。
【0007】
しかし、シリコン基板1に周縁部が支持固定されている構造では、振動板を構成する圧電膜3a、3bの残留効力の影響により、振動板を構成する圧電膜が実効的に固くなり、共振周波数が上がってしまうため、音響圧力信号等を電気信号に変換する変換率(感度)が満足できるレベルには達していないという問題があった。また、圧電膜の残留応力や温度変動が不要な信号として出力され特性を劣化されることが知られている。
【0008】
そこで、圧電膜に生じたエネルギーを有効に活用し、残留応力を開放するため、
図8に示すような圧電素子が提案されている(特許文献1)。
図8に示す圧電素子は、四角形の空孔6を有するシリコン基板1上に、絶縁膜2を介して多層構造の圧電膜3a、3bが支持固定され、圧電膜3aは上下から電極4aと電極4bにより、圧電膜3bは上下から電極4bと電極4cによりそれぞれ挟み込まれた構造となっている。圧電膜はスリットを形成することで長方形の平面構造を有し、一端がシリコン基板1に固定され、他端が自由端となる片持ち梁構造となっている。
【0009】
このような圧電素子では、音響圧力等を受けて圧電膜3aが歪むとその内部に分極が起こり、電極4aに接続する配線電極5aと、電極4bに接続する配線電極5bから電圧信号を取り出すことが可能となる。同様に圧電膜3bが歪むとその内部に分極が起こり、電極4cに接続する配線電極5aと、電極4bに接続する配線電極5bから圧電信号を取り出すことが可能となる。
【0010】
ところで、片持ち梁構造とすることで圧電膜の残留応力は解放されるが、その結果圧電薄膜が反り、隣接する圧電膜の間隙(ギャップG)や圧電膜側面と支持基板の実質的間隙の寸法が広がってしまう。このような設計値以上の間隙の発生は、圧電素子をマイクロフォンとして使用した場合、音響抵抗を低下させ、低周波感度低下等の特性劣化を招いてしまう。
【0011】
そこでこの問題を解消するため、支持基板に正方形の空孔を形成し、
図9に示すようなギャップGを形成することで三角形の圧電膜3に分離した構造の圧電素子が提案されている。このような構造の圧電素子では、4個の三角形のそれぞれの頂点が振動板の中心に位置するような配置とすることで、残留応力によって圧電膜3が反った場合でも、隣接する圧電膜3にも同様の反りが発生し、結果的に隣接する圧電膜3の間隙の寸法を大きく変化させないとする技術が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第5707323号公報
【特許文献2】特表2014−515214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
圧電膜の残留応力に起因する特性劣化を防止するため、従来の圧電素子では振動板の形状を三角形とし、4個の三角形の頂点を中心に集めるように配置することで圧電膜の間隙の寸法を大きく変化させないことを可能とした。しかしながら、各三角形の振動板それぞれの共振周波数を合わせるため、同一形状の三角形を組み合わせる必要があり、圧電素子の外形が正方形に制限され、設計の自由度がないという問題があった。また、製造工程上一つの圧電素子内でも残留応力のばらつきが発生してしまい、4個の三角形の反りの程度がそれぞれ異なり、ギャップGの幅が設計値以上に広がってしまう等、量産レベルでギャップGの幅を制御することは非常に困難であった。そこで本発明は、圧電膜の残留応力の影響を抑制するとともに外形が制限される問題を解消し、高感度で信号雑音比を改善した圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、支持基板に周縁部が支持固定され振動板を構成する圧電膜と、該圧電膜を挟んで配置する一対の電極とを備えた圧電素子において、前記圧電膜あるいは前記圧電膜および前記電極を貫通するスリットを備え、前記スリットは、複数のスリットからなる第1のスリット群からなり、該第1のスリット群のスリットは、前記周縁部から前記振動板の中央側に向かって延出し、相互に交わらず、延長線が1点に収束しないことと、前記圧電素子の一部は、連結部を構成することを特徴とする。
【0015】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載の圧電素子において、前記スリットは、前記第1のスリット群と、複数のスリットからなる第2のスリット群からなり、該第2のスリット群のスリットは、前記周縁部に沿う方向に延出し、該第2のスリット群のスリットの一つは、前記第1のスリット群のスリットの一つと一端が連結していることを特徴とする。
【0016】
本願請求項3に係る発明は、請求項2記載の圧電素子において、前記スリットは、前記第1のスリット群と、前記第2のスリット群と、複数のスリットからなる第3のスリット群からなり、該第3のスリット群のスリットは、前記周縁部方向に延出し、該第3のスリット群のスリットの一つは、前記第1のスリット群のスリットの一つと一端で連結する前記第2のスリット群のスリットの一つの他端と一端が連結し、他端が前記周縁部方向に延出していることを特徴とする。
【0017】
本願請求項4に係る発明は、請求項1乃至3いずれか記載の圧電素子において、前記第1のスリット群のスリットは、該スリットの前記周縁部側の端部から前記振動板の中心に向かう線上から同じ方向に傾斜した延長線となるように配置していることを特徴とする。
【0018】
本願請求項5に係る発明は、請求項1乃至4いずれか記載の圧電素子において、前記圧電膜を含む振動板は、音響圧力によって振動する膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の圧電素子は、振動板を構成する圧電膜が周縁部で支持基板に支持固定され、所定の形状のスリットを備えることで、残留応力を解放することができる。さらに、従来の片持ち梁構造の振動板の一部が相互に連結したような連結部を備えることで、残留応力による反り等を効果的に抑制することができる。その結果、圧電膜に形成されたスリットの間隔(ギャップGの幅)を所定の範囲で制御することが可能となる。
【0020】
特に本発明の圧電素子のスリットは、周縁部から振動板の中央側に向かって延出し、相互に交わらず、延長線が1点に収束しないように配置するとともに、各スリットを所定の方向に傾斜した延長線となるように配置することで、圧縮応力あるいは引張応力が振動板に加わった場合に、残留応力を振動板の中央部分を回転させる回転モーメントとすることで、ギャップGの幅が広がる等の変形を大幅に抑えることが可能となる。
【0021】
そのため本発明の圧電素子を音響トランスデューサとして使用した場合、残留応力による悪影響を緩和し、高感度で高信号雑音比を実現できるとともに、設計通りのギャップGとなり音響抵抗の低下が抑制され低周波ロールオフ周波数が高くなり、低周波領域の感度低下を効果的に抑制することが可能となる。
【0022】
また、本発明の圧電素子は、スリットにより振動板が分離されていないので、振動板の形状を自由に設計することができるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】振動板の変形について概念的に説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の圧電素子は、支持基板に周縁部が支持固定された振動板を構成する圧電膜に、圧電膜を部分的に分断するように所望の形状の複数のスリットを形成する。以下、本発明の圧電素子について詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1および
図2は本発明の第1の実施例の説明図で、
図1は圧電素子の平面図を、
図2は
図1の圧電素子の中央部分の断面図をそれぞれ示している。
図2に示すように本実施例の圧電素子は、従来の圧電素子同様、支持基板となるシリコン基板1に絶縁膜2を介して多層構造の圧電膜3a、3bが支持固定され、各圧電膜は上下から電極4a、4b、4cにより挟まれた形状となっている。
図1に示す圧電素子は、シリコン基板1の一部に正方形に除去された空孔6が形成されており、残されたシリコン基板1に圧電膜3a、3bの周縁部が支持固定されている。
図1および
図2では、配線電極5a、5bの記載は省略している。
【0026】
ここで本発明では、スリット7の形状に大きな特徴を有している。即ち、本発明のスリット7は、周縁部から振動板の中央側に向かって延出し、相互に交わらず、延長線が1点に収束しない構成としている。
図1の示す例では、正方形の振動板の各頂点から、4本のスリット7が振動板の中央方向に向かって延出している。また各スリット7は相互に交わらない。さらにそれぞれの延長線(
図1で破線で示す)が1点に収束しない形状となっている。具体的には、各スリット7は振動板の中心に向かって延出するスリット7が左方向に傾斜する位置に配置され、相互に交わらない長さとなっている。
図1に示すスリットが第1のスリット群に相当する。
【0027】
このようにスリット7が相互に交わらず、その延長線も1点に収束しない構造とすることで、振動板は分離独立することなく、従来例の片持ち梁構造の振動板の一部が相互に連続したような一体構造となる。
図1で丸く囲まれた領域が連結部8となり、振動板を一体構造としている。
【0028】
このような構造の圧電素子では、圧電膜3a、3bの残留応力はスリット7を形成することで解放される。その結果、圧電膜3a、3bは変形するが、連結部8によりその変形は抑制される。また、スリット7の形状を圧電膜の中心から傾いた方向に延出させることで、変形しようとする応力は、振動板の中央部分(
図1の連結部8となる部分)を回転させる回転モーメントとなり、スリットのギャップが広がるような変形が抑制される。その結果、高感度で高信号雑音比を保持するとともに、スリット7の形成による特性劣化を抑制した圧電素子を形成することができる。
【0029】
図3は振動板の変形について概念的に説明する図である。
図3(a)において、10a〜10dは支持基板であるシリコン基板に支持固定された固定部であり、
図1に示す構造の圧電素子の2つのスリット7の間の圧電膜の領域を示している。また11は連結部8に相当する。スリット7の延出方向は、
図1に示すように圧電膜の中心を向かずに傾いている。
【0030】
このように構成とすると、4つの固定部10a〜10dはバネとして働き、残留応力を中央の連結部11に伝え、連結部11を回転変位させることで、残留応力を解放あるいは緩和する。たとえば圧電膜に圧縮応力が残留する場合、
図3(b)に矢印で示す方向に固定部10a〜10dから加わる力は、連結部11を反時計まわりに回転変位させる。このとき、各スリット7に加わる力をみてみると、連結部11の対向する辺に加わる力は相互に反対方向となるから、一方の力がスリットを広げる方向に作用したとしても他方の力はスリットを狭くする方向に作用することになり、結果的にスリット幅を大幅に変化させることはない。
【0031】
同様に圧電膜に引張効力が残留する場合、
図3(c)に矢印で示す方向に固定部10a〜10dから加わる力は、連結部11を時計回りに回転変位させる。このとき、各スリット7に加わる力をみてみると、連結部11の対向する辺に加わる力は相互に反対方向となるから、一方の力がスリットを狭くする方向に作用したとしても他方の力はスリットを広げる方向に作用することになり、結果的にスリット幅を大幅に変化させることはない。
【0032】
さらに振動板は、従来の片持ち梁構造と異なり一体構造となっているため、図面に垂直方向のずれも抑制されることからも、スリット幅を大幅に変化させることはない。
【0033】
なお、固定部10a〜10dのバネの強さは、その長さや幅によって適宜設定可能であり、想定される残留応力の大きさ、振動板の平面寸法、振動板を構成する膜の厚さや弾性率等を考慮し、適宜設定すればよい。そのため、以下のようにスリット形状を変更することも有効な方法となる。以下、スリットの形状等を変更した実施例について以下に詳細に説明する。
【実施例2】
【0034】
図4は本発明の第2の実施例の説明図である。本実施例のスリットは、上述の第1の実施例で説明したスリット7に相当するスリット7aの先端に、スリット7bが連結した形状となっている。スリット7bは、
図4に示すように周縁部に沿う方向に延びている。
図4に示すスリット7aが第1のスリット群に、スリット7bが第2のスリット群に相当する。
【0035】
このような形状とすると、
図1に示す第1の実施例で説明したスリット構造に比べて、スリットの長さが長くなり、圧電膜3a、3bの残留応力を解放する効果が大きくなる。さらに、スリット7bと隣接するスリット7bとの間に残る圧電膜が、
図3で説明した固定部に相当し圧縮応力あるいは引張応力がこの固定部に集中し、連結部に相当する圧電膜の中央部分に対して大きな回転モーメントが加わることになる。
【実施例3】
【0036】
図5は、本発明の第3の実施例の説明図である。本実施例のスリットは、上述の第2の実施例で説明したスリット7bの先端に、スリット7cが連結した形状となっている。スリット7cは、
図5に示すようにスリット7bと平行で、周縁部方向に延びている。
図5に示すスリット7aが第1のスリット群に、スリット7bが第2のスリット群に、スリット7cが第3のスリット群に相当する。
【0037】
このような形状とすると、
図4に示す第2の実施例で説明したスリット構造に比べて、さらにスリットの長さが長くなり、圧電膜3a、3bの残留応力を解放する効果がさらに大きくなる。またスリット7cと隣接するスリット7bとの間に残る圧電膜が、
図3で説明した固定部に相当し、圧縮応力あるいは引張応力がさらに固定部に集中することになり、連結部に相当する圧電膜の中央部分に対して大きな回転モーメントが加わることになる。
【実施例4】
【0038】
図6は、本発明の第4の実施例の説明図である。
図6に示す本実施例は、上記第3の実施例と比較して、支持基板となるシリコン基板に形成する空孔の形状を円形とし、スリットの数も6本に増やした例を示している。さらにスリット7cは、スリット7aと平行で、周縁部方向に延びている。
図6に示すスリット7aが第1のスリット群に、スリット7bが第2のスリット群に、スリット7cが第3のスリット群に相当する。
【0039】
このような形状とすると、
図5に示す第3の実施例で説明したスリット構造に比べて、さらにスリットの長さが長くなり、圧電膜3a、3bの残留応力を解放する効果が大きくなる。さらにスリット7cと隣接するスリット7aとの間に残る圧電膜が、
図3で説明した固定部に相当し圧縮応力あるいは引張応力が固定部に集中することになり、連結部に相当する圧電膜の中央部分に対して大きな回転モーメントを加わることになる。特に本実施例では、連結部分に対し、より回転方向に沿った回転モーメントが加わり効果が大きい。
【0040】
本発明の圧電素子を音響トランスデューサとして構成する場合、シリコン基板1に形成された空洞6から音響圧力が加わる。音響圧力を受けた振動板を構成する圧電膜3a、3bは、上方に湾曲変位する。その結果圧電膜3aは、横圧電効果によりその内部に分極が起こり、図示しない配線電極にそれぞれ接続する電極4aと電極4bから電圧信号を取り出すことが可能となる。同様に圧電膜3bでは、図示しない配線電極にそれぞれ接続する電極4cと電極4bから電圧信号を取り出すことが可能となる。
【0041】
またスリット7を設けることで残留応力が緩和され、スリット幅はほぼ設計値となり、高感度で信号雑音比を保持し、さらにスリットの幅は設計通りとなり、音響抵抗の低下や低周波感度の低下等の特性劣化を招くことのない音響トランスデューサを提供することが可能となる。
【0042】
以上、本発明の実施例について説明した、本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。具体的には空洞の形状やスリットの数、延出方向等は適宜変更可能である。スリットは直線に限らず、曲線で構成することで、不要な応力の集中を緩和することも可能である。さらに固定部に相当する部分のバネ性を変化させるために、圧電膜の膜厚を薄くしたり、貫通孔を形成する等、種々変更可能である。
【符号の説明】
【0043】
1: シリコン基板、2:絶縁膜、3、3a、3b:圧電膜、4、4a、4b:電極、5a、5b:配線電極、6:空孔、7:スリット、8:連結部、
10a〜10d:固定部、11:連結部