特許第6802093号(P6802093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6802093レーザー加工方法およびレーザー加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802093
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】レーザー加工方法およびレーザー加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/062 20140101AFI20201207BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20201207BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20201207BHJP
【FI】
   B23K26/062
   H01L21/78 B
   B23K26/53
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-47589(P2017-47589)
(22)【出願日】2017年3月13日
(65)【公開番号】特開2018-149571(P2018-149571A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2020年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】森數 洋司
(72)【発明者】
【氏名】武田 昇
【審査官】 山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−539911(JP,A)
【文献】 特開2012−240082(JP,A)
【文献】 特開2010−142862(JP,A)
【文献】 特開2016−072273(JP,A)
【文献】 特開2016−002569(JP,A)
【文献】 特開2013−035048(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/193786(WO,A1)
【文献】 特表2008−504964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
H01L 21/78 − 21/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物にレーザー光線を照射して加工を施すレーザー加工方法であって、
被加工物にレーザー光線を照射することによって生じる電子励起の時間より短いパルス幅を有する第一のレーザー光線を照射する第一の照射工程と、
該電子励起時間内に次の第二のレーザー光線を照射する第二の照射工程と、
を少なくとも含み、
該第一の照射工程と該第二の照射工程とを実施した後、被加工物に生じる熱が放出する時間以上の時間を空けて次の該第一の照射工程と該第二の照射工程とを実施するレーザー加工方法。
【請求項2】
被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、を含むレーザー加工装置であって、
該レーザー光線照射手段は、被加工物にレーザー光線を照射することによって生じる電子励起の時間よりも短いパルス幅を有するパルスレーザー光線を発振する発振器を備え、被加工物に第一のレーザー光線を照射して発生する電子励起の時間内に次の第二のレーザー光線を照射し、
該第一のレーザー光線と該第二のレーザー光線を照射した後、被加工物に生じる熱が放出する時間以上の時間を空けて次の該第一のレーザー光線と該第二のレーザー光線を照射するレーザー加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工品質の向上が図られるレーザー加工方法およびレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハは、レーザー加工装置によって個々のデバイスに分割され、分割された各デバイスは携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
レーザー加工装置は下記(1)ないし(3)のタイプのものが存在し、被加工物の種類、加工条件を考慮して適正なレーザー加工装置が選択される。
(1)被加工物に対して吸収性を有する波長のパルスレーザー光線を照射してアブレーション加工を施し分割予定ラインに溝を形成して個々のデバイスに分割するタイプ(たとえば特許文献1参照。)
(2)被加工物に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線の集光点を分割予定ラインの内部に位置づけてパルスレーザー光線をウエーハに照射して分割予定ラインの内部に改質層を形成して個々のデバイスに分割するタイプ(たとえば特許文献2参照。)
(3)被加工物に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線の集光点を分割予定ラインに位置づけてパルスレーザー光線をウエーハに照射して分割予定ラインの表面から裏面に至る細孔と細孔を囲繞する非晶質を形成し個々のデバイスに分割するタイプ(たとえば特許文献3参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−305420号公報
【特許文献2】特許第3408805号公報
【特許文献3】特開2014−221483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザー加工の品質は、発振器が発振するレーザー光線の出力、繰り返し周波数、パルス幅、スポット径、に加え被加工物の送り速度を含む各加工要素に依存しており、各加工要素が適宜調整され加工条件が設定される。しかし、レーザー加工の品質の更なる向上を図るためには、前記した加工要素の従来の調整では限界がある。
【0006】
上記事実に鑑みてなされた本発明の課題は、レーザー加工の品質の更なる向上が図られるレーザー加工方法およびレーザー加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の第一の局面が提供するのは以下のレーザー加工方法である。すなわち、被加工物にレーザー光線を照射して加工を施すレーザー加工方法であって、被加工物にレーザー光線を照射することによって生じる電子励起の時間より短いパルス幅を有する第一のレーザー光線を照射する第一の照射工程と、該電子励起時間内に次の第二のレーザー光線を照射する第二の照射工程と、を少なくとも含み、該第一の照射工程と該第二の照射工程とを実施した後、被加工物に生じる熱が放出する時間以上の時間を空けて次の該第一の照射工程と該第二の照射工程とを実施するレーザー加工方法である。
【0009】
本発明の第二の局面が提供するのは以下のレーザー加工装置である。すなわち、被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、を含むレーザー加工装置であって、該レーザー光線照射手段は、被加工物にレーザー光線を照射することによって生じる電子励起の時間よりも短いパルス幅を有するパルスレーザー光線を発振する発振器を備え、被加工物に第一のレーザー光線を照射して発生する電子励起の時間内に次の第二のレーザー光線を照射し、該第一のレーザー光線と該第二のレーザー光線を照射した後、被加工物に生じる熱が放出する時間以上の時間を空けて次の該第一のレーザー光線と該第二のレーザー光線を照射するレーザー加工装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第一の局面に係るレーザー加工方法は、被加工物にレーザー光線を照射することによって生じる電子励起の時間より短いパルス幅を有する第一のレーザー光線を照射する第一の照射工程と、該電子励起時間内に次の第二のレーザー光線を照射する第二の照射工程と、を少なくとも含み、該第一の照射工程と該第二の照射工程とを実施した後、被加工物に生じる熱が放出する時間以上の時間を空けて次の該第一の照射工程と該第二の照射工程とを実施するので、被加工物を構成する原子を取り巻く電子が第一のレーザー光線で活性化された状態で次の第二のレーザー光線が照射され加工が促進してレーザー加工の品質の向上が図られる。
【0012】
本発明の第二の局面に係るレーザー加工装置は、被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、を含むレーザー加工装置であって、該レーザー光線照射手段は、被加工物にレーザー光線を照射することによって生じる電子励起の時間よりも短いパルス幅を有するパルスレーザー光線を発振する発振器を備え、被加工物に第一のレーザー光線を照射して発生する電子励起の時間内に次の第二のレーザー光線を照射し、該第一のレーザー光線と該第二のレーザー光線を照射した後、被加工物に生じる熱が放出する時間以上の時間を空けて次の該第一のレーザー光線と該第二のレーザー光線を照射するので、被加工物を構成する原子を取り巻く電子が第一のレーザー光線で活性化された状態で次の第二のレーザー光線が照射され加工が促進してレーザー加工の品質の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図。
図2】第一の実施形態に係るレーザー光線照射手段のブロック図。
図3】ウエーハの斜視図。
図4】第二の実施形態に係るレーザー光線照射手段のブロック図。
図5】第三の実施形態に係るレーザー光線照射手段のブロック図。
図6】第四の実施形態に係るレーザー光線照射手段のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の第一の実施形態及びこのレーザー加工装置を用いるレーザー加工方法について図1ないし図3を参照しつつ説明する。
【0015】
図1に示すレーザー加工装置2は、基台4と、被加工物を保持する保持手段6と、保持手段6を移動させる移動手段8と、保持手段6に保持された被加工物にパルスレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段10と、保持手段6に保持された被加工物を撮像する撮像手段12とを備える。
【0016】
図1に示すとおり、保持手段6は、X方向において移動自在に基台4に搭載された矩形状のX方向可動板14と、Y方向において移動自在にX方向可動板14に搭載された矩形状のY方向可動板16と、Y方向可動板16の上面に固定された円筒状の支柱18と、支柱18の上端に固定された矩形状のカバー板20とを含む。カバー板20にはY方向に延びる長穴20aが形成され、長穴20aを通って上方に延びる円形状のチャックテーブル22が支柱18の上端に回転自在に搭載されている。チャックテーブル22の上面には、多孔質材料から形成され実質上水平に延在する円形状の吸着チャック24が配置され、吸着チャック24は流路によって吸引手段(図示していない。)に接続されている。そして、チャックテーブル22においては、吸引手段によって吸着チャック24の上面に吸引力を生成することにより、吸着チャック24の上面に載置された被加工物を吸着して保持することができる。また、チャックテーブル22の周縁には、周方向に間隔をおいて複数個のクランプ26が配置されている。なお、X方向は図1に矢印Xで示す方向であり、Y方向は図1に矢印Yで示す方向であってX方向に直交する方向である。X方向及びY方向が規定する平面は実質上水平である。
【0017】
移動手段8は、チャックテーブル22をX方向に移動させるX方向移動手段28と、チャックテーブル22をY方向に移動させるY方向移動手段30と、上下方向に延びる軸線を中心としてチャックテーブル22を回転させる回転手段(図示していない。)とを含む。X方向移動手段28は、基台4上においてX方向に延びるボールねじ32と、ボールねじ32の片端部に連結されたモータ34とを有する。ボールねじ32のナット部(図示していない。)は、X方向可動板14の下面に固定されている。そしてX方向移動手段28は、ボールねじ32によりモータ34の回転運動を直線運動に変換してX方向可動板14に伝達し、基台4上の案内レール4aに沿ってX方向可動板14をX方向に進退させ、これによってチャックテーブル22をX方向に進退させる。Y方向移動手段30は、X方向可動板14上においてY方向に延びるボールねじ36と、ボールねじ36の片端部に連結されたモータ38とを有する。ボールねじ36のナット部(図示していない。)は、Y方向可動板16の下面に固定されている。そしてY方向移動手段30は、ボールねじ36によりモータ38の回転運動を直線運動に変換してY方向可動板16に伝達し、X方向可動板14上の案内レール14aに沿ってY方向可動板16をY方向に進退させ、これによってチャックテーブル22をY方向に進退させる。回転手段は、支柱18に内蔵されたモータ(図示していない。)を有し、上下方向に延びる軸線を中心として支柱18に対してチャックテーブル22を回転させる。
【0018】
レーザー光線照射手段10は、基台4の上面から上方に延び次いで実質上水平に延びる枠体40と、枠体40の先端下面に配置された集光器42と、集光点位置調整手段(図示していない。)とを含む。集光器42には、保持手段6のチャックテーブル22に保持された被加工物にレーザー光線を集光して照射するための集光レンズ42aが内蔵されている。また、撮像手段12は、集光器42とX方向に間隔をおいて枠体40の先端下面に付設されている。
【0019】
図2を参照して説明すると、レーザー光線照射手段10は、ウエーハ等の被加工物にレーザー光線を照射することによって生じる電子励起の時間(以下「電子励起時間」という。)よりも短いパルス幅を有するパルスレーザー光線LBを発振する発振器44と、発振器44が発振したパルスレーザー光線LBを分岐して第一の光路46に第一のパルスレーザー光線LB1を導くと共に第二の光路48に第二のパルスレーザー光線LB2を導く第一のビームスプリッター50と、第二の光路48に配設され、電子励起時間に満たない時間だけ第一のパルスレーザー光線LB1に対して第二のパルスレーザー光線LB2を遅延させる光遅延光学体52と、第一の光路46と第二の光路48とを合流させる第二のビームスプリッター54とを含む。第一の実施形態では図2に示すとおり、レーザー光線照射手段10は、更に、発振器44が発振したパルスレーザー光線LBの出力を調整するアッテネーター56と、発振器44と第一のビームスプリッター50との間(図示の実施形態ではアッテネーター56と第一のビームスプリッター50との間)に配設された1/2波長板58と、第一の光路46を直角に曲げて第二のビームスプリッター54に第一のパルスレーザー光線LB1を導く第一のミラー60と、第二の光路48を直角に曲げて第二のビームスプリッター54に第二のパルスレーザー光線LB2を導く第二のミラー62とを含む。
【0020】
発振器44が発振するパルスレーザー光線LBのパルス幅は、電子励起時間より短く、たとえば、電子励起時間が約8ps(8×10−12秒)であるサファイア(Al)が被加工物である場合には約1psに設定されるのが好ましい。発振器44が発振するパルスレーザー光線LBの波長は、355nm、1064nm等、加工の種類に応じて適宜決定される。発振器44が発振したパルスレーザー光線LBは、加工の種類に応じた適宜の出力にアッテネーター56によって調整されて1/2波長板58に入射する。1/2波長板58に入射したパルスレーザー光線LBは、第一のビームスプリッター50に対して偏光面がP偏光であるP偏光成分の光量と、第一のビームスプリッター50に対して偏光面がS偏光であるS偏光成分の光量とが1/2波長板58により適宜(たとえば均等に)調整される。第一のビームスプリッター50は、入射したパルスレーザー光線LBのうちP偏光成分を透過させて第一の光路46に第一のパルスレーザー光線LB1を導き、入射したパルスレーザー光線LBのうちS偏光成分を反射して第二の光路48に第二のパルスレーザー光線LB2を導くようになっている。第一の光路46に導かれた第一のパルスレーザー光線LB1は、第一のミラー60で反射して第二のビームスプリッター54に入射する。一方、第二の光路48に導かれた第二のパルスレーザー光線LB2は、第二のミラー62で反射して光遅延光学体52に入射する。光遅延光学体52は、たとえば、第二の光路48の進行方向において所定長さを有するガラス片から構成され得る。第二の光路48の進行方向における光遅延光学体52の長さは、電子励起時間に満たない時間だけ第一のパルスレーザー光線LB1に対して第二のパルスレーザー光線LB2を光遅延光学体52が遅延させる遅延時間と、光遅延光学体52の屈折率とから決定される。たとえば、電子励起時間が約8psであるサファイアが被加工物であるとき遅延時間は約4psに設定されるのが好適であり、屈折率1.5のガラス片から光遅延光学体52が形成される場合に4psの遅延時間を生じさせるためには、第二の光路48の進行方向における光遅延光学体52の長さは約2.5mmとなる。そして、光遅延光学体52を透過した第二のパルスレーザー光線LB2は、第一のパルスレーザー光線LB1に対して電子励起時間に満たない所定遅延時間だけ遅延して第二のビームスプリッター54に入射する。なお、光遅延光学体52は、第一のパルスレーザー光線LB1と第二のパルスレーザー光線LB2との一方に対して、第一のパルスレーザー光線LB1と第二のパルスレーザー光線LB2との他方を相対的に遅延させればよいので、第一の経路46に配設され、電子励起時間に満たない所定遅延時間だけ第二のパルスレーザー光線LB2に対して第一のパルスレーザー光線LB1を遅延させるようにしてもよい。
【0021】
図示の実施形態における第二のビームスプリッター54は、入射したパルスレーザー光線LBのうちP偏光成分を透過させると共に、入射したパルスレーザー光線LBのうちS偏光成分を反射して光路を変換するようになっている。第二のビームスプリッター54に対しても偏光面がP偏光である第一のパルスレーザー光線LB1は第二のビームスプリッター54を透過し、第二のビームスプリッター54に対しても偏光面がS偏光である第二のパルスレーザー光線LB2は第二のビームスプリッター54で反射して光路が変換され、したがって第二のビームスプリッター54によって第一の光路46と第二の光路48とが合流される。そして、第一のパルスレーザー光線LB1が集光レンズ42aで集光されて被加工物に照射されると共に、第一のパルスレーザー光線LB1に対して電子励起時間に満たない所定遅延時間だけ遅延して第二のパルスレーザー光線LB2が集光レンズ42aで集光されて被加工物に照射される。すなわち、レーザー光線照射手段10は、被加工物に第一のパルスレーザー光線LB1を照射して発生する電子励起の時間内に次の第二のパルスレーザー光線LB2を被加工物に照射可能になっている。
【0022】
発振器44が発振するパルスレーザー光線LBの繰り返し周波数は、第一のパルスレーザー光線LB1と第二のパルスレーザー光線LB2とを被加工物に照射した後に被加工物に生じる熱が放出する時間で1秒を除した値以下に設定されるのが好都合である。たとえば、レーザー光線の照射によって被加工物に生じる熱が放出する時間(以下「熱放出時間」という。)が約1μs(1×10−6秒)であるサファイアが被加工物である場合、サファイアの熱放出時間1μsで1秒を除した値は1×10となるため、発振器44が発振するパルスレーザー光線LBの繰り返し周波数は1MHz(1×10Hz)以下に設定されるのが好ましい。このように繰り返し周波数が設定されることで、レーザー光線照射手段10は、第一のパルスレーザー光線LB1と第二のパルスレーザー光線LB2とを被加工物に照射した後、熱放出時間以上の時間を空けて次の第一のパルスレーザー光線LB1と第二のパルスレーザー光線LB2を被加工物に照射することになる。これによって、レーザー加工による熱影響を被加工物に与えることが抑制され、レーザー加工の品質の向上が図られる。
【0023】
図3に示す円盤状のウエーハ70の表面70aは、格子状の分割予定ライン72によって複数の矩形領域に区画され、複数の矩形領域のそれぞれにはIC、LSI等のデバイス74が形成されている。図示の実施形態では、周縁が環状フレーム76に固定された粘着テープ78にウエーハ70の裏面が貼り付けられている。なお、ウエーハ70の表面70aが粘着テープ78に貼り付けられていてもよい。
【0024】
レーザー加工装置2を用いてウエーハ70にレーザー加工を施す際は、まず、ウエーハ70の表面70aを上に向けてチャックテーブル22の上面にウエーハ70を保持させると共に、環状フレーム76の外周縁部を複数のクランプ26で固定するウエーハ保持工程を実施する。次いで、撮像手段12で上方からウエーハ70を撮像し、撮像手段12で撮像したウエーハ70の画像に基づいて、移動手段8でチャックテーブル22を移動及び回転させることにより格子状の分割予定ライン72をX方向及びY方向に整合させるアライメント工程を実施する。次いで、X方向に整合させた分割予定ライン72の片端部の上方に集光器42を位置づけ、集光点位置調整手段で集光器42を昇降させることにより集光点の上下方向位置を調整する集光点位置調整工程を実施する。なお、集光点の直径は、φ1〜20μm等、加工の種類に応じて適宜決定される。
【0025】
次いで、ウエーハ70にレーザー光線を照射することによって生じる電子励起の時間より短いパルス幅を有する第一のパルスレーザー光線LB1を照射する第一の照射工程と、ウエーハ70の電子励起時間内に次の第二のパルスレーザー光線LB2を照射する第二の照射工程とを実施する。上述のとおりレーザー加工装置2においては、発振器44が発振するパルスレーザー光線LBのパルス幅が被加工物の電子励起時間よりも短く設定されていると共に、被加工物に第一のパルスレーザー光線LB1を照射して発生する電子励起の時間内に次の第二のパルスレーザー光線LB2を被加工物に照射可能になっているので、レーザー加工装置2を用いることにより第一の照射工程と第二の照射工程とを実施することができる。第一の照射工程と第二の照射工程とを実施することで、ウエーハ70を構成する原子を取り巻く電子が第一のパルスレーザー光線LB1で活性化された状態で次の第二のパルスレーザー光線LB2が照射され加工が促進してレーザー加工の品質の向上が図られる。たとえば、ウエーハ70に対して透過性を有するレーザー光線を照射して分割予定ライン72の内部に改質層を形成する改質層形成加工を行う場合において、第一の照射工程と第二の照射工程とを実施することによりレーザー光線の入射方向において分割予定ライン72の内部に比較的長い改質層を形成することができる。最初の第一の照射工程と第二の照射工程とを実施した後は、図3に示すとおり、集光点に対してチャックテーブル22を所定の加工送り速度(たとえば500mm/sでよいが、繰り返し周波数を考慮して適宜決定される。)でX方向移動手段28によってX方向に加工送りしながら、第一の照射工程と第二の照射工程とを交互に繰り返す分割加工を分割予定ライン72に沿って実施する。分割加工は、分割予定ライン72の間隔の分だけ集光点に対してチャックテーブル22をY方向移動手段30によってY方向にインデックス送りしつつ、X方向に整合させた分割予定ライン72のすべてに施す。また、回転手段によってチャックテーブル22を90度回転させた上で、インデックス送りしつつ分割加工を行い、先に分割加工を施した分割予定ライン72と直交する分割予定ライン72のすべてにも分割加工を施す。これによって、加工品質が向上したレーザー加工によってウエーハ70を個々のデバイス74に分割することができる。
【0026】
分割加工を施す際は、発振器44が発振するパルスレーザー光線LBの繰り返し周波数を、第一のパルスレーザー光線LB1と第二のパルスレーザー光線LB2とをウエーハ70に照射した後にウエーハ70に生じる熱が放出する時間で1秒を除した値以下に設定することによって、第一の照射工程と第二の照射工程とを実施した後、ウエーハ70に生じる熱が放出する時間以上の時間を空けて次の第一の照射工程と第二の照射工程とを実施するのが好都合である。これによって、レーザー加工による熱影響をウエーハ70に与えることが抑制され、レーザー加工の品質の向上が図られる。
【0027】
次に、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の第二の実施形態及びこのレーザー加工装置を用いるレーザー加工方法について図3及び図4を参照しつつ説明する。なお、第二の実施形態では、第一の実施形態と同一の構成要素に同一符号を付しその説明を省略する。
【0028】
図4に示すとおり、レーザー加工装置80のレーザー光線照射手段82は、発振器44と、第一のビームスプリッター50と、第二のビームスプリッター54とを含み、発振器44から発振されたパルスレーザー光線LBが第一のビームスプリッター50によって分岐されて第一のパルスレーザー光線LB1が導かれる第一の光路84と、発振器44から発振されたパルスレーザー光線LBが第一のビームスプリッター50によって分岐されて第二のパルスレーザー光線LB2が導かれる第二の光路86とが同材質の光ファイバーから形成されている。レーザー光線照射手段82では、第二の光路86の光路長が第一の光路84の光路長よりも所定長さだけ長く形成されており、第一のパルスレーザー光線LB1が第一の光路84を通過すると共に第二のパルスレーザー光線LB2が第二の光路86を通過すると、電子励起時間に満たない所定遅延時間だけ第一のパルスレーザー光線LB1に対して第二のパルスレーザー光線LB2が遅延するようになっている。したがって第二の実施形態では、第一の光路84よりも所定長さだけ長く形成された第二の光路86により光遅延光学体が構成されている。第一の光路84と第二の光路86との光路長差は遅延時間により決定される。たとえば、電子励起時間が約8psであるサファイアが被加工物であるとき遅延時間は約4psに設定されるのが好適であり、4psの遅延時間を生じさせるためには、光ファイバーの屈折率が1.5の場合、第一の光路84と第二の光路86との光路長差は約2.5mmとなる。なお、電子励起時間に満たない所定遅延時間だけ第二のパルスレーザー光線LB2に対して第一のパルスレーザー光線LB1を遅延させるように、第一の光路84が第二の光路86よりも所定長さだけ長く形成されていてもよい。また、第二の実施形態では図4に示すとおり、レーザー光線照射手段82は、更に、アッテネーター56と、1/2波長板58と、コリメートレンズ88と、ミラー90とを含む。
【0029】
第一のパルスレーザー光線LB1は、第一の光路84及び第二のビームスプリッター54を通過した後、コリメートレンズ88で平行光に変換され、次いでミラー90で光路が変換され、そして集光レンズ42aで集光されて被加工物に照射される。また、第二のパルスレーザー光線LB2は、第二の光路86を通過し、第一のパルスレーザー光線LB1に対して電子励起時間に満たない所定遅延時間だけ遅延して第二のビームスプリッター54を通過した後、コリメートレンズ88で平行光に変換され、次いでミラー90で光路が変換され、そして集光レンズ42aで集光されて被加工物に照射される。すなわち、レーザー光線照射手段82は、被加工物に第一のパルスレーザー光線LB1を照射して発生する電子励起の時間内に次の第二のパルスレーザー光線LB2を被加工物に照射可能になっている。
【0030】
レーザー加工装置80を用いてウエーハ70にレーザー加工を施す際は、第一の実施形態と同様に、まずウエーハ保持工程を実施し、次いでアライメント工程を実施した後、集光点位置調整工程を実施する。次いで、ウエーハ70にレーザー光線を照射することによって生じる電子励起の時間より短いパルス幅を有する第一のパルスレーザー光線LB1を照射する第一の照射工程と、ウエーハ70の電子励起時間内に次の第二のパルスレーザー光線LB2を照射する第二の照射工程とを実施する。上述のとおりレーザー加工装置80においては、発振器44が発振するパルスレーザー光線LBのパルス幅が被加工物の電子励起時間よりも短く設定されていると共に、被加工物に第一のパルスレーザー光線LB1を照射して発生する電子励起の時間内に次の第二のパルスレーザー光線LB2を被加工物に照射可能になっているので、レーザー加工装置80を用いることにより第一の照射工程と第二の照射工程とを実施することができる。第一の照射工程と第二の照射工程とを実施することで、ウエーハ70を構成する原子を取り巻く電子が第一のパルスレーザー光線LB1で活性化された状態で次の第二のパルスレーザー光線LB2が照射され加工が促進してレーザー加工の品質の向上が図られる。最初の第一の照射工程と第二の照射工程とを実施した後は、図3に示すとおり、集光点に対してチャックテーブル22を所定の加工送り速度(たとえば500mm/sでよいが、繰り返し周波数を考慮して適宜決定される。)でX方向移動手段28によってX方向に加工送りしながら、第一の照射工程と第二の照射工程とを交互に繰り返す分割加工を分割予定ライン72に沿って実施する。分割加工は、分割予定ライン72の間隔の分だけ集光点に対してチャックテーブル22をY方向移動手段30によってY方向にインデックス送りしつつ、X方向に整合させた分割予定ライン72のすべてに施す。また、回転手段によってチャックテーブル22を90度回転させた上で、インデックス送りしつつ分割加工を行い、先に分割加工を施した分割予定ライン72と直交する分割予定ライン72のすべてにも分割加工を施す。これによって、加工品質が向上したレーザー加工によってウエーハ70を個々のデバイス74に分割することができる。
【0031】
第二の実施形態においても、分割加工を施す際は、発振器44が発振するパルスレーザー光線LBの繰り返し周波数を、第一のパルスレーザー光線LB1と第二のパルスレーザー光線LB2とをウエーハ70に照射した後にウエーハ70に生じる熱が放出する時間で1秒を除した値以下に設定することによって、第一の照射工程と第二の照射工程とを実施した後、ウエーハ70に生じる熱が放出する時間以上の時間を空けて次の第一の照射工程と第二の照射工程とを実施するのが好都合である。これによって、レーザー加工による熱影響をウエーハ70に与えることが抑制され、レーザー加工の品質の向上が図られる。
【0032】
次に、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の第三の実施形態及びこのレーザー加工装置を用いるレーザー加工方法について図3及び図5を参照しつつ説明する。なお、第三の実施形態では、第一の実施形態と同一の構成要素に同一符号を付しその説明を省略する。
【0033】
図5に示すとおり、レーザー加工装置100のレーザー光線照射手段102は、電子励起時間よりも短いパルス幅を有するパルスレーザー光線LB’を発振すると共に電子励起時間内に少なくとも2個のパルスレーザー光線LB’を発振するように繰り返し周波数が設定された発振器104と、発振器104と集光器42の集光レンズ42aとの間に配設されパルスレーザー光線LB’を所定の周期で間引き捨てることで加工に必要なパルスレーザー光線LB’を集光器42の集光レンズ42aに導く間引き手段106と、間引き手段106と集光器42の集光レンズ42aとの間に配設され加工に必要なパルスレーザー光線LB’の出力を増大させる増幅器108と、増幅器108で増幅されたパルスレーザー光線LB’の光路を変換して集光器42の集光レンズ42aにパルスレーザー光線LB’を導くミラー110とを含む。
【0034】
発振器104が発振するパルスレーザー光線LB’のパルス幅は、電子励起時間より短く、たとえば、電子励起時間が約8ps(8×10−12秒)であるサファイア(Al)が被加工物である場合には約1psに設定されるのが好ましい。発振器104が発振するパルスレーザー光線LB’の波長は、355nm、1064nm等、加工の種類に応じて適宜決定される。また、発振器104が発振するパルスレーザー光線LB’の繰り返し周波数は、電子励起時間内に少なくとも2個のパルスレーザー光線LB’を発振するように設定され、たとえば、電子励起時間が約8psであるサファイアが被加工物である場合には250GHz(250×10Hz)に設定されるのが好都合であり、これによってパルスレーザー光線LB’の発振間隔が4psとなり、発振器104はサファイアの電子励起時間内に少なくとも2個のパルスレーザー光線LB’を発振可能となる。このように発振器104においては、電子励起時間よりも短いパルス幅を有するパルスレーザー光線LB’を発振すると共に電子励起時間内に少なくとも2個のパルスレーザー光線LB’を発振するように繰り返し周波数が設定されているので、レーザー光線照射手段102は、被加工物に第一のパルスレーザー光線LB1’を照射して発生する電子励起の時間内に次の第二のパルスレーザー光線LB2’を被加工物に照射可能になっている。
【0035】
図示の実施形態では図5に示すとおり、間引き手段106は、印加される電圧信号に応じて光軸角度を変更するAOD(音響光学素子)112と、光軸角度が変更されたパルスレーザー光線LB’を吸収するダンパー114とから構成されている。AOD112は、電圧信号が印加されていないと発振器104が発振したパルスレーザー光線LB’を増幅器108に導き、所定の電圧信号が印加されると発振器104が発振したパルスレーザー光線LB’をダンパー114に導くようになっている。間引き手段106は、少なくとも2個のパルスレーザー光線LB’を被加工物に照射してから次の少なくとも2個のパルスレーザー光線LB’を被加工物に照射するまでの時間が、前の少なくとも2個のパルスレーザー光線LB’を被加工物に照射した後に被加工物に生じる熱が放出する時間以上となるようにパルスレーザー光線LB’を間引くのが好ましい。これによって、レーザー加工による熱影響を被加工物に与えることが抑制され、レーザー加工の品質の向上が図られる。たとえば、熱放出時間が約1μs(1×10−6秒)であるサファイアが被加工物である場合、図5に示すとおり、第一のパルスレーザー光線LB1’及び第二のパルスレーザー光線LB2’を被加工物に照射してから、次の第一のパルスレーザー光線LB1’及び第二のパルスレーザー光線LB2’を被加工物に照射するまでの時間が、サファイアの熱放出時間(約1μs)以上となるように間引き手段106によってパルスレーザー光線LB’を間引くのが好適である。図5には間引き手段106によって間引かれたパルスレーザー光線LB’が点線で示されている。また、図示の実施形態では、発振器104が発振するパルスレーザー光線LB’の大部分が間引き手段106によって間引かれるところ、間引き手段106と集光レンズ42aとの間にパルスレーザー光線LB’の出力を増大させる増幅器108が配設されていることから、発振器104が発振するパルスレーザー光線LB’の出力は比較的小さくてよく、したがってエネルギー効率の低下が抑制されている。
【0036】
レーザー加工装置100を用いてウエーハ70にレーザー加工を施す際は、第一・第二の実施形態と同様に、まずウエーハ保持工程を実施し、次いでアライメント工程を実施した後、集光点位置調整工程を実施する。次いで、ウエーハ70にレーザー光線を照射することによって生じる電子励起の時間より短いパルス幅を有する第一のパルスレーザー光線LB1’を照射する第一の照射工程と、ウエーハ70の電子励起時間内に次の第二のパルスレーザー光線LB2’を照射する第二の照射工程とを実施する。上述のとおりレーザー加工装置100においては、発振器104が発振するパルスレーザー光線LB’のパルス幅が被加工物の電子励起時間よりも短く設定されていると共に、被加工物に第一のパルスレーザー光線LB1’を照射して発生する電子励起の時間内に次の第二のパルスレーザー光線LB2’を被加工物に照射可能になっているので、レーザー加工装置100を用いることにより第一の照射工程と第二の照射工程とを実施することができる。第一の照射工程と第二の照射工程とを実施することで、ウエーハ70を構成する原子を取り巻く電子が第一のパルスレーザー光線LB1’で活性化された状態で次の第二のパルスレーザー光線LB2’が照射され加工が促進してレーザー加工の品質の向上が図られる。最初の第一の照射工程と第二の照射工程とを実施した後は、図3に示すとおり、集光点に対してチャックテーブル22を所定の加工送り速度(たとえば500mm/sでよいが、繰り返し周波数を考慮して適宜決定される。)でX方向移動手段28によってX方向に加工送りしながら、第一の照射工程と第二の照射工程とを交互に繰り返す分割加工を分割予定ライン72に沿って実施する。分割加工は、分割予定ライン72の間隔の分だけ集光点に対してチャックテーブル22をY方向移動手段30によってY方向にインデックス送りしつつ、X方向に整合させた分割予定ライン72のすべてに施す。また、回転手段によってチャックテーブル22を90度回転させた上で、インデックス送りしつつ分割加工を行い、先に分割加工を施した分割予定ライン72と直交する分割予定ライン72のすべてにも分割加工を施す。これによって、加工品質が向上したレーザー加工によってウエーハ70を個々のデバイス74に分割することができる。
【0037】
分割加工を施す際は、第一のパルスレーザー光線LB1’及び第二のパルスレーザー光線LB2’をウエーハ70に照射してから、次の第一のパルスレーザー光線LB1’及び第二のパルスレーザー光線LB2’をウエーハ70に照射するまでの時間が、前の第一のパルスレーザー光線LB1’及び第二のパルスレーザー光線LB2’をウエーハ70に照射した後にウエーハ70に生じる熱が放出する時間以上となるようにパルスレーザー光線LB’を間引き手段106により間引くのが好都合である。これによって、レーザー加工による熱影響をウエーハ70に与えることが抑制され、レーザー加工の品質の向上が図られる。
【0038】
次に、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の第四の実施形態及びこのレーザー加工装置を用いるレーザー加工方法について図3及び図6を参照しつつ説明する。なお、第四の実施形態では、第一の実施形態と同一の構成要素に同一符号を付しその説明を省略する。
【0039】
図6に示すとおり、レーザー加工装置120のレーザー光線照射手段122は、電子励起時間よりも短いパルス幅を有するパルスレーザー光線LB”を発振する発振器124と、発振器124が発振したパルスレーザー光線LB”を分岐して第一の光路126にS偏光の第一のパルスレーザー光線LB1”を導くと共に第二の光路128にP偏光の第二のパルスレーザー光線LB2”を導くビームスプリッター130とを含む。第一の光路126には、S偏光の第一のパルスレーザー光線LB1”を円偏光に変換する第一の1/4波長板132と、第一の1/4波長板132を通過した円偏光の第一のパルスレーザー光線LB1”を反射して回転方向を逆転させ第一の1/4波長板132を逆行させてP偏光に変換する第一のミラー134とが配設されている。第二の光路128には、P偏光の第二のパルスレーザー光線LB2”を円偏光に変換する第二の1/4波長板136と、第二の1/4波長板136を通過した円偏光の第二のパルスレーザー光線LB2”を反射して回転方向を逆転させ第二の1/4波長板136を逆行させてS偏光に変換する第二のミラー138とが配設されている。図示の実施形態では、第二のミラー138には、ビームスプリッター130に対して第二のミラー138を進退させ、第一の光路126と第二の光路128とに光路長差を設ける進退手段140が装着されている。図示の実施形態における進退手段140は、第二の光路128と平行に延びるボールねじ142と、ボールねじ142の片端部に連結されたモータ144とを有する。ボールねじ142のナット部146は、第二のミラー138に固定されている。そして進退手段140は、ボールねじ142によりモータ144の回転運動を直線運動に変換して第二のミラー138に伝達し、第二の光路128と平行に延びる案内レール(図示していない。)に沿って第二のミラー138を進退させる。なお、進退手段140は、第一のミラー134に装着されていてもよい。また、進退手段140のボールねじ142に対しては、モータ144の代わりに手動で回転運動を付与するようにしてもよい。図示の実施形態では図6に示すとおり、レーザー光線照射手段122は、更に、発振器124が発振したパルスレーザー光線LB”の出力を調整するアッテネーター148と、発振器124とビームスプリッター130との間(図示の実施形態ではアッテネーター148とビームスプリッター130との間)に配設された1/2波長板150とを含む。
【0040】
第一の光路126と第二の光路128との光路長差は、第一のパルスレーザー光線LB1”と第二のパルスレーザー光線LB2”との被加工物に照射される時間間隔が電子励起時間内に入るように設定される。たとえば、電子励起時間が約8ps(8×10−12秒)であるサファイア(Al)が被加工物である場合、第一のパルスレーザー光線LB1”と第二のパルスレーザー光線LB2”との被加工物に照射される時間間隔は約4psに設定されるのが好適であり、このためには第一の光路126と第二の光路128との光路長差は約1.2mmとなる。図6に示すとおり、第二のパルスレーザー光線LB2”は第二の光路128を往復するため、第一の光路126と第二の光路128との光路長差を1.2mmに設定するには、ビームスプリッター130から第一のミラー134までの距離よりも、ビームスプリッター130から第二のミラー138までの距離が0.6mm長くなるように、進退手段140によって第二のミラー138を移動させればよい。なお、図示の実施形態では、第一の1/4波長板132及び第二の1/4波長板136は同一の材質から同一の光軸方向厚さに形成されている。
【0041】
発振器124が発振するパルスレーザー光線LB”のパルス幅は、電子励起時間より短く、たとえば、電子励起時間が約8psであるサファイアが被加工物である場合には約1psに設定されるのが好ましい。発振器124が発振するパルスレーザー光線LB”の波長は、355nm、1064nm等、加工の種類に応じて適宜決定される。発振器124が発振したパルスレーザー光線LB”は、加工の種類に応じた適宜の出力にアッテネーター148によって調整されて1/2波長板150に入射する。1/2波長板150に入射したパルスレーザー光線LB”は、ビームスプリッター130に対して偏光面がP偏光であるP偏光成分の光量と、ビームスプリッター130に対して偏光面がS偏光であるS偏光成分の光量とが1/2波長板150により適宜(たとえば均等に)調整される。ビームスプリッター130は、入射したパルスレーザー光線LB”のうちS偏光成分を反射して第一の光路126に第一のパルスレーザー光線LB1”を導き、入射したパルスレーザー光線LB”のうちP偏光成分を透過させて第二の光路128に第二のパルスレーザー光線LB2”を導くようになっている。第一の光路126に導かれた第一のパルスレーザー光線LB1”は、第一の1/4波長板132でS偏光から円偏光に変換され、次いで第一のミラー134で反射して回転方向が逆転され、次いで第一の光路126を逆行して第一の1/4波長板132でP偏光に変換される。P偏光に変換された第一のパルスレーザー光線LB1”は、ビームスプリッター130を透過し、集光器42の集光レンズ42aで集光されて被加工物に照射される。一方、第二の光路128に導かれた第二のパルスレーザー光線LB2”は、第二の1/4波長板136でP偏光から円偏光に変換され、次いで第二のミラー138で反射して回転方向が逆転され、次いで第二の光路128を逆行して第二の1/4波長板136でS偏光に変換される。S偏光に変換された第二のパルスレーザー光線LB2”は、ビームスプリッター130で反射して光路が変換され、集光器42の集光レンズ42aで集光されて被加工物に照射される。第一のパルスレーザー光線LB1”と第二のパルスレーザー光線LB2”はビームスプリッター130で合流するところ、上記のとおり、所定光路長差だけ長い第二の光路128を通る第二のパルスレーザー光線LB2”は、第一のパルスレーザー光線LB1”に対して電子励起時間に満たない所定時間だけ遅延して被加工物に照射される。このようにレーザー光線照射手段122においては、被加工物に第一のパルスレーザー光線LB1”を照射して発生する電子励起の時間内に次の第二のパルスレーザー光線LB2”を被加工物に照射可能になっている。
【0042】
発振器124が発振するパルスレーザー光線LB”の繰り返し周波数は、第一のパルスレーザー光線LB1”と第二のパルスレーザー光線LB2”とを被加工物に照射した後に被加工物に生じる熱が放出する時間で1秒を除した値以下に設定されるのが好都合である。たとえば、熱放出時間が約1μs(1×10−6秒)であるサファイアが被加工物である場合、サファイアの熱放出時間1μsで1秒を除した値は1×10となるため、発振器124が発振するパルスレーザー光線LB”の繰り返し周波数は1MHz(1×10Hz)以下に設定されるのが好ましい。このように繰り返し周波数が設定されることで、レーザー光線照射手段122は、第一のパルスレーザー光線LB1”と第二のパルスレーザー光線LB2”を被加工物に照射した後、熱放出時間以上の時間を空けて次の第一のパルスレーザー光線LB1”と第二のパルスレーザー光線LB2”を被加工物に照射することになる。これによって、レーザー加工による熱影響を被加工物に与えることが抑制され、レーザー加工の品質の向上が図られる。
【0043】
レーザー加工装置120を用いてウエーハ70にレーザー加工を施す際は、第一ないし第三の実施形態と同様に、まずウエーハ保持工程を実施し、次いでアライメント工程を実施した後、集光点位置調整工程を実施する。次いで、ウエーハ70にレーザー光線を照射することによって生じる電子励起の時間より短いパルス幅を有する第一のパルスレーザー光線LB1”を照射する第一の照射工程と、ウエーハ70の電子励起時間内に次の第二のパルスレーザー光線LB2”を照射する第二の照射工程とを実施する。上述のとおりレーザー加工装置120においては、発振器124が発振するパルスレーザー光線LB”のパルス幅が被加工物の電子励起時間よりも短く設定されていると共に、被加工物に第一のパルスレーザー光線LB1”を照射して発生する電子励起の時間内に次の第二のパルスレーザー光線LB2”を被加工物に照射可能になっているので、レーザー加工装置120を用いることにより第一の照射工程と第二の照射工程とを実施することができる。第一の照射工程と第二の照射工程とを実施することで、ウエーハ70を構成する原子を取り巻く電子が第一のパルスレーザー光線LB1”で活性化された状態で次の第二のパルスレーザー光線LB2”が照射され加工が促進してレーザー加工の品質の向上が図られる。最初の第一の照射工程と第二の照射工程とを実施した後は、図3に示すとおり、集光点に対してチャックテーブル22を所定の加工送り速度(たとえば500mm/sでよいが、繰り返し周波数を考慮して適宜決定される。)でX方向移動手段28によってX方向に加工送りしながら、第一の照射工程と第二の照射工程とを交互に繰り返す分割加工を分割予定ライン72に沿って実施する。分割加工は、分割予定ライン72の間隔の分だけ集光点に対してチャックテーブル22をY方向移動手段30によってY方向にインデックス送りしつつ、X方向に整合させた分割予定ライン72のすべてに施す。また、回転手段によってチャックテーブル22を90度回転させた上で、インデックス送りしつつ分割加工を行い、先に分割加工を施した分割予定ライン72と直交する分割予定ライン72のすべてにも分割加工を施す。これによって、加工品質が向上したレーザー加工によってウエーハ70を個々のデバイス74に分割することができる。
【0044】
分割加工を施す際は、発振器124が発振するパルスレーザー光線LB”の繰り返し周波数を、第一のパルスレーザー光線LB1”と第二のパルスレーザー光線LB2”とをウエーハ70に照射した後にウエーハ70に生じる熱が放出する時間で1秒を除した値以下に設定することによって、第一の照射工程と第二の照射工程とを実施した後、ウエーハ70に生じる熱が放出する時間以上の時間を空けて次の第一の照射工程と第二の照射工程とを実施するのが好都合である。これによって、レーザー加工による熱影響をウエーハ70に与えることが抑制され、レーザー加工の品質の向上が図られる。
【0045】
なお、電子励起時間及び熱放出時間は被加工物によって異なり、たとえば、サファイア(Al)、シリコン(Si)、リチウムタンタレート(LiTaO)、リチウムナイオベート(LiNbO)及び銅(Cu)のそれぞれの電子励起時間及び熱放出時間は以下のとおりである。
被加工物 電子励起時間 熱放出時間
サファイア 8ps 1μs
シリコン 20ps 5μs
リチウムタンタレート 50ps 50μs
リチウムナイオベート 50ps 50μs
銅 20ps 5μs
【符号の説明】
【0046】
2:レーザー加工装置
6:保持手段
10:レーザー光線照射手段(第一の実施形態)
44:発振器
LB:パルスレーザー光線
LB1:第一のパルスレーザー光線
LB2:第二のパルスレーザー光線
80:レーザー加工装置(第二の実施形態)
82:レーザー光線照射手段
100:レーザー加工装置(第三の実施形態)
102:レーザー光線照射手段
104:発振器
LB’:パルスレーザー光線
LB1’:第一のパルスレーザー光線
LB2’:第二のパルスレーザー光線
120:レーザー加工装置(第四の実施形態)
122:レーザー光線照射手段
124:発振器
LB”:パルスレーザー光線
LB1”:第一のパルスレーザー光線
LB2”:第二のパルスレーザー光線
図1
図2
図3
図4
図5
図6