(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平均粒径が10μm以下の無機層状化合物50〜99質量%と、防錆剤1〜50質量%と(ただし、前記無機層状化合物の含有量および前記防錆剤の含有量は、これら二つの含有量の合計100質量%に対するものである)、液体媒体と、樹脂成分とを含み、
前記樹脂成分が、水酸基を含む樹脂成分とカルボキシル基を含む樹脂成分とを含有する金属腐食防止用塗料。
平均粒径が10μm以下の無機層状化合物50〜99質量%と、防錆剤1〜50質量%と(ただし、前記無機層状化合物の含有量および前記防錆剤の含有量は、これら二つの含有量の合計100質量%に対するものである)、樹脂成分とを含み、
前記樹脂成分が、水酸基を含む樹脂成分とカルボキシル基を含む樹脂成分とを含有する金属腐食防止用塗膜。
金属腐食防止のための、平均粒径が10μm以下の無機層状化合物50〜99質量%と、防錆剤1〜50質量%と(ただし、前記無機層状化合物の含有量および前記防錆剤の含有量は、これら二つの含有量の合計100質量%に対するものである)、液体媒体と、樹脂成分とを含む塗料の使用であって、
前記樹脂成分が、水酸基を含む樹脂成分とカルボキシル基を含む樹脂成分とを含有する使用。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の塗料に含まれる無機層状化合物とは、単位結晶層が互いに積み重なって層状構造を形成している無機化合物である。層状構造とは、原子が共有結合等によって強く結合して密に配列した面が、ファン・デル・ワールス力等の弱い結合力によってほぼ平行に積み重なった構造である。無機層状化合物として、液体媒体への膨潤性と劈開性とを有する粘土鉱物が好ましい。
【0021】
粘土鉱物は、一般に(i)シリカの四面体層の上部に、アルミニウム又はマグネシウム等を中心金属とした八面体層を有する2層構造を有するタイプと、(ii)シリカの四面体層が、アルミニウム又はマグネシウム等を中心金属とした八面体層を両側から挟んでなる3層構造を有するタイプに分類される。(i)の2層構造タイプの粘土鉱物としては、カオリナイト−蛇紋石族の粘土鉱物等が挙げられる。(ii)の3層構造タイプの粘土鉱物としては、層間カチオンの数によって、タルク−パイロフィライト族、スメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ族、脆雲母族、緑泥石族の粘土鉱物等が挙げられる。
本発明の金属腐食防止用塗料に含まれる粘土鉱物は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0022】
カオリナイト−蛇紋石族としては、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、リザーダイト、アメサイト、バーチェリン、クロンステダイト、ネポーアイト、ケリアイト、フレイポナイト、ブリンドリアイト等が挙げられる。
【0023】
タルク−パイロフィライト族としては、タルク、ウィレムサイト、ケロライト、ピメライト、パイロフィライト、フェリパイロフィライト等が挙げられる。
【0024】
スメクタイト族としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライト、ボルコンスコアイト、スインホルダイト等が挙げられる。
【0025】
バーミキュライト族としては、3八面体型バーミキュライト、2八面体型バーミキュライト等が挙げられる。
【0026】
マイカ族としては、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、金雲母、黒雲母、鉄雲母、イーストナイト、シデロフィライトテトラフェリ鉄雲母、鱗雲母、ポリリシオナイト、セラドン石、鉄セラドン石、鉄アルミノセラドン石、アルミノセラドン石、砥部雲母、パラゴナイト、レピドライト等が挙げられる。
【0027】
脆雲母族としては、ザンソフィライト、クリントナイト、ビテ雲母、アナンダ石、マーガライト等が挙げられる。
【0028】
緑泥石族としては、クリノクロア、シャモサイト、ペナンタイト、ニマイト、ベイリクロア、ドンバサイト、クッケアイト、スドーアイト等が挙げられる。
【0029】
また、前記粘土鉱物を有機物でイオン交換等の処理をし、分散性等を改良したもの(朝倉書店、「粘土の事典」参照;以下、有機修飾粘土鉱物と称する場合もある)も無機層状化合物である。該有機物としては、公知のジメチルジステアリルアンモニウム塩及びトリメチルステアリルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられる。
【0030】
前記粘土鉱物の中でも、(ii)の3層構造タイプの粘土鉱物であるスメクタイト族、バーミキュライト族およびマイカ族の粘土鉱物が好ましい。スメクタイト族としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライトが好ましい。
【0031】
塗膜の透明性および製膜性の観点から、無機層状化合物は、平均粒径が10μm以下である。特に、本発明の金属腐食防止用塗料を用いて得られる塗膜に透明性が求められる場合は、無機層状化合物の平均粒径は5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.8μm以下であることがさらに好ましい。また、無機層状化合物の平均粒径は0.02μm以上が好ましい。なお、該無機層状化合物のアスペクト比および平均粒径とは、無機層状化合物を膨潤かつ劈開させる液体媒体と、無機層状化合物とを含む、無機層状化合物分散液中での値である。
【0032】
無機層状化合物の平均粒径Lとは、液体媒体中の回折/散乱法により求めた粒径(体積基準のメジアン径)である。すなわち、無機層状化合物の分散液に光を通過させたときに得られる回折/散乱パターンから、ミー散乱理論等により、上記回折/散乱パターンに妥当な粒度分布を計算することにより求めることができる。具体的には、粒度分布の測定範囲を適当な区間に分け、それぞれの区間について、代表粒子径を決定し、本来連続的な量である粒度分布を離散的な量に変換させて計算する方法が挙げられる。
【0033】
無機層状化合物のアスペクト比は、塗膜のガスバリア性の観点から、20以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、200以上であることがさらに好ましい。また、膨潤し劈開させやすく、製膜性の観点から、本発明の塗料に含まれる無機層状化合物のアスペクト比は、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、700以下であることが特に好ましい。
【0034】
本発明において、無機層状化合物のアスペクト比(Z)は、式:Z=L/aで定義される。式中、Lは無機層状化合物の平均粒径を、aは無機層状化合物の単位厚さ、即ち、無機層状化合物の単位結晶層の厚みを示し、aは粉末X線回析法(「機器分析の手引き(a)」(1985年、化学同人社発行、塩川二朗監修)69頁参照)により求められる。
【0035】
無機層状化合物の膨潤値は、塗膜のガスバリア性の観点から、5以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。また、無機層状化合物の劈開値は、塗膜のガスバリア性の観点から、5以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。
【0036】
〔膨潤性試験〕
前記膨潤値とは、以下の手順により求められる値である。
100mlメスシリンダーに液体媒体100mlを入れ、これに無機層状化合物2gを徐々に加える。23℃にて24時間静置後、上記メスシリンダー内における無機層状化合物分散層と上澄みとの界面の目盛から無機層状化合物分散層の体積(ml)を読む。この値が膨潤値であり、膨潤値が大きい程、膨潤性が高いことを示す。
【0037】
〔劈開性試験〕
前記劈開値とは、以下の手順により求められる値である。
無機層状化合物30gを液体媒体1500ml中に徐々に加え、分散機にて、周速8.5m/分、23℃で90分間分散させた後、この分散液100mlをメスシリンダーに採取する。60分静置後、上記メスシリンダー内における層状化合物分散層と上澄みとの界面の目盛から無機層状化合物分散層の体積(ml)を読む。この値が劈開値であり、劈開値が大きい程、劈開性が高いことを示す。
【0038】
無機層状化合物が、親水性の膨潤性無機層状化合物の場合、無機層状化合物を膨潤し劈開させる液体媒体として、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられる。特に、水、アルコール類、水−アルコール類混合物が好ましい。親水性の膨潤性無機層状化合物を膨潤し劈開させる前記液体媒体を以下、水系媒体と称する。
【0039】
また、無機層状化合物が有機修飾無機層状化合物の場合、無機層状化合物を膨潤し劈開させる液体媒体として、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、エチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素類、クロロベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類、酢酸エチル、メタクリル酸メチル、フタル酸ジオクチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルセロソルブ、シリコンオイル等が挙げられる。
【0040】
本発明の金属腐食防止用塗料に含まれる防錆剤としては、アゾール類、無機酸、有機酸等が挙げられる。無機酸及び有機酸は、それぞれ塩であってもよい。
アゾール類としては、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
無機酸としては、ホウ酸、亜硝酸、ホスホン酸等が挙げられる。
【0041】
有機酸としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸、アルケニルコハク酸、ザルコシン酸、アルキルカルボン酸、二塩基酸等のカルボン酸、有機スルホン酸、有機チオカルボン酸などが挙げられる。
【0042】
脂肪族カルボン酸としては、カプリル酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リノール酸、オレイン酸、イソ酪酸、2−メチルブタン酸、2−エチルヘキサン酸、トリメチルヘキサン酸、イソノナン酸、イソヘプタン酸、イソオクチル酸、イソデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソステアリン酸、アクリル酸、メタクリル酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、ドデカン二酸、ドデカジエン二酸等のジカルボン酸;イソブタントリカルボン酸;乳酸、ヒドロキシピバリン酸、ジメチロールプロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、グリセリン酸等のヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。
【0043】
芳香族カルボン酸としては、イソプロピル安息香酸、p−ter−ブチル安息香酸、イソオクチル安息香酸、イソノニル安息香酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
【0044】
有機スルホン酸としては、石油スルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ジアルキルナフタレンスルホン酸などが挙げられる。好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸、ジアルキルナフタレンスルホン酸が挙げられる。
【0045】
有機チオカルボン酸としては、2−ベンゾチアゾリルチオ酢酸、4−メチル−2−ベンゾチアゾリルチオ酢酸、6−アミノ−2−ベンゾチアゾリルチオ酢酸、3−(2−ベンゾチアゾリルチオ)−プロピオン酸、3−(4−メチル−2−ベンゾチアゾリルチオ)−プロピオン酸、3−(6−アミノ−2−ベンゾチアゾリルチオ)−プロピオン酸、3−(4,6−ジメチル−2−ベンゾチアゾリルチオ)−プロピオン酸、2−(2−ベンゾチアゾリルチオ)−プロピオン酸、2−(4−メチル−2−ベンゾチアゾリルチオ)−プロピオン酸、5−(2−ベンゾチアゾリルチオ)−吉草酸、3−(2−ベンゾチアゾリルチオ)−吉草酸、5−(4−メチル−2−ベンゾチアゾリルチオ)−吉草酸、3−(2−ベンゾチアゾリルチオ)−アクリル酸、3−(4−メチル−2−ベンゾチアゾリルチオ)−プロピオン酸、4−(2−ベンゾチアゾリルチオ)−酪酸、4−(4−メチル−2−ベンゾチアゾリルチオ)−酪酸、4−(6−アミノ−2−ベンゾチアゾリルチオ)−酪酸、2−(2−ベンゾチアゾリルチオ)−安息香酸、2−(4−メチル−2−ベンゾチアゾリルチオ)−安息香酸等が挙げられる。
【0046】
前記酸の塩としては、前記酸とアミン化合物との塩、金属塩、金属水酸化物塩、金属炭酸塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
前記酸の金属塩としては、前記酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類金属塩などが挙げられ、好ましくは、前記酸のアルカリ金属塩、前記酸のアルカリ土類金属塩である。
【0047】
アミン化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン;メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジn−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族アミン;アニリン、メチルアニリン、エチルアニリン、ドデシルアニリン、メチルベンジルアミン、アルキルジフェニルアミン、アルキルナフチルアミン等の芳香族アミン;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ポリアミン;環式アミンなどが挙げられる。これらの中でも、金属腐食防止性能に優れている点で、アルカノールアミン又は脂肪族アミンが好ましく、アルカノールアミンがより好ましい。
【0048】
有機酸の塩としては、金属腐食防止性能に優れている点で、有機酸とアミン化合物との塩(以下、有機酸アミン塩と称する)が好ましい。有機酸アミン塩の中でもより好ましくは、カルボン酸(特に好ましくは、脂肪族カルボン酸)又は有機スルホン酸と、アルカノールアミン又は脂肪族アミン(特に好ましくは、アルカノールアミン)との塩である。
【0049】
該防錆剤は1種類のみを使用してもよく、2種類以上を使用してもよい。本発明の金属腐食防止用塗料に含まれる防錆剤は気化性防錆剤、または水溶性防錆剤が好ましい。
【0050】
本発明の金属腐食防止用塗料に含まれる前記無機層状化合物の含有量は50〜99質量%であり、防錆剤の含有量は1〜50質量%である(ただし、前記無機層状化合物の含有量および前記防錆剤の含有量は、これら二つの含有量の合計100質量%に対するものである)。前記無機層状化合物の含有量は60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。前記防錆剤の含有量は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
本発明の金属腐食防止用塗料に含まれる液体媒体としては、水、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アルコール類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類、酢酸エチル、メタクリル酸メチル、フタル酸ジオクチル、メチルセロソルブ、シリコンオイル等が挙げられる。
アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。
芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
脂肪族炭化水素類としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン等が挙げられる。
エーテル類としては、エチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
ハロゲン化炭化水素類としては、クロロベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、パークロロエチレン等が挙げられる。
これらの液体媒体は、それぞれ単独でもよく、二種類以上でもよい。本発明において液体媒体とは23℃において液体であるものである。
【0052】
本発明の金属腐食防止用塗料は、さらに樹脂成分を含んでいてもよい。樹脂成分とは1種類の樹脂であってもよく、2種類以上の樹脂であってもよい。該樹脂成分は、水溶性樹脂および水分散性樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含むことが好ましい。水溶性樹脂および水分散性樹脂からなる群より選ばれる樹脂成分とは、下記に定義する液体媒体αのいずれか一種1000gに樹脂成分1gを加え、分散機にて、周速8.5m/分、95℃で90分間攪拌させた後、目視にて溶け残り又は沈殿物が無い樹脂成分を指す。下記液体媒体αの少なくともいずれか一種を用いた場合に前記条件に該当すれば、水溶性樹脂および水分散性樹脂からなる群より選ばれる樹脂成分とする。樹脂成分が2種類以上の樹脂を含むものである場合は、各樹脂が前記条件に該当することが好ましい。
ここで、液体媒体αとは、アルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよびアセトンからなる群より選ばれる1種以上の液体媒体0〜50質量%と水50〜100質量%とからなる液体媒体のことである。
【0053】
水溶性樹脂および水分散性樹脂からなる群より選ばれる樹脂成分としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、カルボキシレート基、クロロ基、シアノ基およびアンモニウム基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を含む樹脂成分が挙げられる。
水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、カルボキシレート基、クロロ基、シアノ基およびアンモニウム基からなる群より選ばれる1種以上の官能基を含む樹脂成分としては、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、多糖類、ポリアクリル酸およびそのエステル類、ウレタン系樹脂が挙げられる。
【0054】
前記樹脂成分としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、カルボキシレート基、クロロ基、シアノ基およびアンモニウム基からなる群より選ばれる2種類以上の官能基を含む樹脂成分であることが好ましい。
前記2種類以上の官能基を含む樹脂成分は、一分子中に2種類以上の官能基を含む樹脂成分であってもよいし、第1の官能基を含む樹脂成分と第2の官能基を含む樹脂成分との混合物であってもよい。
前記2種類以上の官能基を含む樹脂成分は該官能基同士が共有結合、またはイオン結合することが好ましい。
【0055】
金属腐食防止用塗料に含まれる樹脂成分が、一分子中に2種類以上の官能基を含む樹脂成分である場合、前記樹脂成分としては、ビニルアルコール−アクリル酸共重合体、ビニルアルコール−メタアクリル酸共重合体、ビニルアルコール−ビニルアミン共重合体、アクリル酸−ビニルアミン共重合体、メタアクリル酸−ビニルアミン共重合体が挙げられる。
【0056】
金属腐食防止用塗料に含まれる樹脂成分が、第1の官能基を含む樹脂成分と第2の官能基を含む樹脂成分との混合物である場合、前記塗料に含まれる樹脂成分は、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、およびポリビニルアミンからなる群より選ばれる2種類以上の樹脂成分の組み合わせが挙げられる。ここで第1の官能基を含む樹脂成分と第2の官能基を含む樹脂成分はオリゴマー成分であっても構わない。
【0057】
金属腐食防止用塗料に含まれる樹脂成分としては、水系媒体に対する溶解しやすさ、取り扱いの容易さ、塗膜の耐水性、ガスバリア性、耐傷付性の観点から、水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂成分であることが好ましい。ただし、「水酸基」に、カルボキシル基中の「−OH」は含まない。
【0058】
前記水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂成分は、一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂成分であってもよい。一分子中に水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂成分としては、ビニルアルコール−アクリル酸共重合体及びビニルアルコール−メタアクリル酸共重合体等が挙げられる。
【0059】
前記水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂成分としては、水酸基を含む樹脂成分とカルボキシル基を含む樹脂成分とを含有する樹脂成分であってもよい。
水酸基を含む樹脂成分としては、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、多糖類が挙げられる。
【0060】
ポリビニルアルコールとは、ビニルアルコールに由来する単量体単位を主成分として有するポリマーである。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニル、ポリトリフルオロ酢酸ビニル、ポリギ酸ビニル、ポリピバリン酸ビニル等のポリカルボン酸ビニルを加水分解することで、またはポリtert−ブチルビニルエーテル、ポリトリメチルシリルビニルエーテル等のポリビニルエーテルを加水分解することで得られる(ポリビニルアルコールの詳細については、例えば、ポバール会編、「PVAの世界」、1992年、(株)高分子刊行会;長野ら、「ポバール」、1981年、(株)高分子刊行会を参照することができる)。
ポリビニルアルコールのケン化度は、塗膜のガスバリア性の観点から、70モル%以上が好ましく、85モル%以上のものがより好ましく、98モル%以上がさらに好ましい。
該ケン化度は、以下の式で求めることができる。
ケン化度(モル%)={(ポリビニルアルコール中の水酸基の数)/(ポリビニルアルコール中に残存しているエステル結合を有する部位またはエーテル結合を有する部位の数と、水酸基との合計数)}×100・・・(式)
また、ポリビニルアルコールの重合度は、前記金属腐食防止用塗料を用いて塗膜を得る際の製膜性の観点から、100以上5000以下、200以上3000以下であることが好ましい。
エチレン−ビニルアルコール共重合体とは、エチレンに由来する単量体単位とビニルアルコールに由来する単量体単位とを有するポリマーである。
【0061】
また、水酸基又はカルボキシル基以外に、さらに官能基を有するポリビニルアルコール誘導体を用いてもよい。水酸基又はカルボキシル基以外の官能基として、例えば、アミノ基、チオール基、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸イオン基、リン酸イオン基、アンモニウム基、ホスホニウム基、シリル基、シロキシ基、アリル基、フルオロアルキル基、アルコシキ基、カルボニル基、ハロゲン等が挙げられる。ポリビニルアルコール中の水酸基の一部が、1種または2種以上の前記官能基に置き換わっていてもよい。
【0062】
多糖類とは、種々の単糖類の縮重合によって生体系で合成される生体高分子であり、それらをもとに化学修飾したものも含まれる。たとえば、セルロースおよびヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、アミロース、アミロペクチン、プルラン、カードラン、ザンタン、キチン、キトサン等が挙げられる。
【0063】
前記カルボキシル基を含む樹脂成分としては、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリアクリル酸部分中和物、ポリメタアクリル酸部分中和物、アクリル酸−メタアクリル酸共重合体が挙げられる。これらは、単独でもよく、2種類以上でもよい。カルボキシル基を含む樹脂成分の重量平均分子量は、製膜性及び塗膜の耐傷付性の観点から、2000以上10000000以下が好ましく、5000以上10000000以下がより好ましい。
【0064】
ポリアクリル酸部分中和物またはポリメタアクリル酸部分中和物は、ポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸の水溶液に後述のアルカリ金属イオン供与化合物を添加して中和し、カルボキシル基の一部をアルカリ金属塩とすることにより得ることができる。これらは、ポリアクリル酸またはポリメタアクリル酸と、アルカリ金属イオン供与化合物の物質量比を調節することにより、所望の中和度とすることができる。該中和度は以下の式により算出される。
中和度=(A/B)×100
A:ポリアクリル酸部分中和物またはポリメタアクリル酸部分中和物1g中の、中和されて金属塩となったカルボキシル基のモル数
B:ポリアクリル酸部分中和物またはポリメタアクリル酸部分中和物1g中の、カルボキシル基と、中和されて金属塩となったカルボキシル基との合計モル数
【0065】
またポリアクリル酸部分中和物またはポリメタアクリル酸部分中和物は、ポリアクリル酸完全中和物またはポリメタアクリル酸完全中和物の水溶液と、水素イオン型イオン交換樹脂とを接触させることによっても得ることができる。接触させる方法としては、ポリアクリル酸完全中和物またはポリメタアクリル酸完全中和物の水溶液と、水素イオン型イオン交換樹脂とを混合し、攪拌した後に、該水素イオン型イオン交換樹脂の残渣を取り除く方法が挙げられ、該方法ではポリアクリル酸完全中和物またはポリメタアクリル酸完全中和物と水素イオン型イオン交換樹脂との量比、水溶液温度、攪拌時間を調製することにより、所望の中和度とすることができる。またポリアクリル酸完全中和物またはポリメタアクリル酸完全中和物の水溶液を、水素イオン型イオン交換樹脂が充填されたカラム中に通液する方法も挙げられ、該方法ではカラム長、通液速度、水溶液温度を調整することにより、所望の中和度とすることができる。また中和度は以下の式により算出される。
中和度=(C/D)×100
C:ポリアクリル酸部分中和物またはポリメタアクリル酸部分中和物1g中の、金属塩として存在するカルボキシル基のモル数
D:ポリアクリル酸部分中和物またはポリメタアクリル酸部分中和物1g中の、イオン交換により生成したカルボキシル基と、金属塩として存在するカルボキシル基との合計モル数
【0066】
ポリアクリル酸部分中和物およびポリメタアクリル酸部分中和物の中和度は、塗膜の耐水性、透明性の点から、0.1%以上20%以下であることが好ましい。
【0067】
水酸基およびカルボキシル基を含む樹脂成分における水酸基の物質量は、30モル%以上95モル%以下であり、好ましくは、70モル%以上95モル%以下である。水酸基およびカルボキシル基を含む樹脂成分におけるカルボキシル基の物質量は、5モル%以上70モル%以下であり、好ましくは、5モル%以上30モル%以下である。ただし、水酸基およびカルボキシル基を含む樹脂成分に含まれる水酸基の物質量とカルボキシル基の物質量との合計を100モル%とする。
【0068】
水酸基およびカルボキシル基を含む樹脂成分における水酸基の物質量およびカルボキシル基の物質量は、公知のNMR法、IR法等により求めることができる。例えば、IR法であれば、水酸基とカルボキシル基のモル比が既知のサンプルを用い、検量線を求め、算出することができる。水酸基およびカルボキシル基を含む樹脂成分が、ケン化度が98モル%以上のビニルアルコール単独重合体と、アクリル酸単独重合体および/またはメタアクリル酸単独重合体である場合は、それぞれの質量から、水酸基の物質量およびカルボキシル基の物質量を算出することができる。
【0069】
水酸基およびカルボキシル基を含む樹脂成分における水酸基の質量とカルボキシル基の質量の合計は、塗膜の耐水性、ガスバリア性、耐傷付性の観点から、30質量%以上60質量%以下であることが好ましく、35質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。ただし、該水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂成分の質量を100質量%とする。該カルボキシル基とは、中和されて金属塩となった前述のカルボキシル基も含む。
【0070】
水酸基およびカルボキシル基を含む樹脂成分に含まれる水酸基の質量とカルボキシル基の質量の合計は、公知のNMR法、IR法等により求めることができる。例えば、IR法であれば、ポリオールユニット数が既知であるポリオール重合体および、ポリカルボン酸ユニット数が既知であるポリカルボン酸重合体を用いて検量線を求め、算出することができる。ケン化度が98モル%以上のビニルアルコール単独重合体と、アクリル酸単独重合体および/またはメタアクリル酸単独重合体を用いる場合は、それぞれの質量から、水酸基の質量およびカルボキシル基の質量を求め、その合計量を用いることができる。
【0071】
金属腐食防止用塗料に含まれる樹脂成分が、水酸基とカルボキシル基とを含む樹脂成分である場合、得られる塗膜の耐水性、ガスバリア性、耐傷付性の点から、金属腐食防止用塗料は、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含むことが好ましい。
アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオンが挙げられる。
アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンが挙げられる。
樹脂成分と無機層状化合物とを含む金属腐食防止用塗料が、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含む場合、その含有量は、0.2質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以上2質量部以下であることがより好ましい。ただし、該樹脂成分と無機層状化合物とを含む金属腐食防止用塗料に含まれる樹脂成分の質量を100質量部とする。
【0072】
前記アルカリ金属イオンは、アルカリ金属イオン供与化合物に由来し、前記アンモニウムイオンはアンモニウムイオン供与化合物に由来し、前記アルカリ土類金属イオンは、アルカリ土類金属イオン供与化合物に由来する。本発明の金属腐食防止用塗料に含まれる樹脂成分が水酸基およびカルボキシル基を含む樹脂成分である場合、該塗料および/または該塗料を用いて得られる塗膜はアンモニウムイオン供与化合物、アルカリ金属イオン供与化合物またはアルカリ土類金属イオン供与化合物を含むことが好ましい。
アンモニウムイオン供与化合物としては、水酸化アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。
アルカリ金属イオン供与化合物としては、水酸化ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属イオン供与化合物としては、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。
また、金属腐食防止用塗料に含まれる防錆剤がアルカリ金属イオン供与化合物、アルカリ土類金属イオン供与化合物であってもよい。
これらは単独でもよく、2種類以上でもよい。
【0073】
無機層状化合物の一種であるモンモリロナイトは、その層間にナトリウムイオンが含まれているため、アルカリ金属イオン供与化合物としても作用する。したがって、金属腐食防止用塗料に含まれる樹脂成分が、水酸基およびカルボキシル基を含む樹脂成分である場合、塗料に含まれる無機層状化合物は、モンモリロナイトが好ましい。
【0074】
金属腐食防止用塗料は、さらに可塑剤を含んでもよい。該可塑剤を含む金属腐食防止用塗料から、熱成形時の延伸性に優れる塗膜を得ることができる。該可塑剤とは、ヒドロキシ酸、または分子内の連続する2個以上の炭素原子のそれぞれに水酸基が少なくとも1個ずつ結合している化合物(以下、化合物Iとする)である。
ヒドロキシ酸としては、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸等の脂肪族ヒドロキシ酸、サリチル酸、クマル酸等の芳香族ヒドロキシ酸が挙げられる。
前記化合物Iとしては、ポリソルビトール、ポリマンニトール、ポリズルシトール、ポリキシリトール、ポリエリトリトール、ポリグリセリン等の多価アルコールの多量体が挙げられる。前記化合物Iの分子量は、200以上4000以下であり、水への溶解性の点及び熱成形時の延伸性の点から、350以上3000以下であることが好ましく、500以上2500以下であることがより好ましい。
これらの可塑剤は一部がエステル化されているものでもよく、2種類以上を併用してもよい。
水系媒体への溶解性の点及び熱成形時の延伸性の点から、前記可塑剤として、ポリグリセリン、乳酸が好ましい。
【0075】
本発明の金属腐食防止用塗料が樹脂成分を含む場合、前記樹脂成分と前記無機層状化合物との合計量を100質量%としたとき、前記樹脂成分の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが最も好ましい。前記無機層状化合物の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが最も好ましい。
【0076】
本発明の金属腐食防止用塗料は、目的及び用途に応じて、公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、アンチブロッキング剤、着色剤などの添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独でも2種類以上でもよい。特にシリカ、アルミナ、ジルコニア等の無機酸化物の微粒子を含むことで、本発明の金属腐食防止用塗料を用いて得られる塗膜と基材との接着性及び塗膜と後述の樹脂層との接着性が良好となる。該微粒子の平均粒径は、接着性の観点から、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましい。該微粒子の含有量は、金属腐食防止用塗料に含まれる無機層状化合物と防錆剤との体積を100質量部としたとき、接着性の観点から、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることが好ましい。
また本発明の金属腐食防止用塗料は、後述のアンカーコート剤を含んでいてもよい。これにより、基材と塗膜との密着性を向上させることができる。特に該塗料が、水酸基およびカルボキシル基を含む樹脂成分を含む場合、シランカップリング剤、金属アルコキシド、金属キレート、カルボジイミドなどをさらに含むことで、密着性、耐水性に優れた塗膜を得ることができる。
【0077】
本発明の金属腐食防止用塗料の調製方法としては例えば、無機層状化合物、防錆剤をそれぞれ液体媒体に溶解あるいは分散させて2つの液を作り、これらを混合する方法及び無機層状化合物および防錆剤を1つの液体媒体に溶解または分散させる方法等が挙げられる。
本発明の金属腐食防止用塗料が樹脂成分を含む場合は、無機層状化合物、防錆剤、および樹脂成分をそれぞれ液体媒体に溶解あるいは分散させて3つの液を作り、これらを混合する方法及び無機層状化合物、防錆剤、樹脂成分を1つの液体媒体に溶解または分散させる方法等が挙げられる。
【0078】
本発明の金属腐食防止用塗料を製造する場合には、該塗料中の無機層状化合物を液体媒体に十分に膨潤し劈開させるために、高圧分散処理により無機層状化合物を液体媒体に分散させることが好ましい。高圧分散処理とは、無機層状化合物を液体媒体に混合した混合液を1本あるいは複数本の細管中に高速通過させる処理である。また細管を通過した液を合流させて、前記混合液同士あるいは該混合液と細管内壁とを衝突させることにより、混合液に高剪断および/または高圧を付加してもよい。高圧分散処理において、混合液を管径1μm以上1000μm以下の細管中に通過させる際、100kgf/cm
2以上の最大圧力が印加されるように処理することが好ましい。最大圧力は500kgf/cm
2以上であることがより好ましく、1000kgf/cm
2以上であることが特に好ましい。また、混合液が前記細管内を通過する際、該分散液の最高到達速度は100m/s以上であることが好ましく、圧力損失による伝熱速度は100kcal/時間以上であることが好ましい。前記高圧分散処理には、Microfluidics Corporation 社製超高圧ホモジナイザー(商品名:マイクロフルイダイザー)、ナノマイザー社製ナノマイザー、マントンゴーリン型高圧分散装置、イズミフードマシナリ製ホモゲナイザー等の高圧分散装置を用いることができる。
高圧分散処理する混合液には、前記防錆剤又は樹脂成分が含有されていてもよい。
【0079】
本発明の金属腐食防止用塗料は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤を含有する金属腐食防止用塗料を用いて塗膜を得ることにより、該塗膜と、基材との接着性を向上させることができる。界面活性剤の含有量は、通常、0.001質量部以上5質量部以下である(ただし、金属腐食防止用塗料を100質量部とする)。
【0080】
界面活性剤は、接着性の観点から、炭素原子数6以上24以下のアルキル鎖を有するカルボン酸のアルカリ金属塩、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリジメチルシロキサン−ポリオキシエチレン共重合体等のエーテル型の非イオン性界面活性剤(シリコーン系非イオン性界面活性剤)及びパーフルオロアルキルエチレンオキサイド化合物等のフッ素型非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0081】
本発明の金属腐食防止用塗料を、金属層を含む基材へ塗工する場合、金属腐食防止用塗料のpHは、例えば金属層が鉄を含む場合はpHを7以上に設定するなど金属層の金属種に合わせて適宜調整することができる。pHを調整する方法としては、イオン交換樹脂を用いる方法、酸性物質あるいはアルカリ性物質を添加する方法などが挙げられる。
【0082】
本発明の金属腐食防止用塗料を用いて、粒径が10μm以下の無機層状化合物50〜99質量%と防錆剤1〜50質量%と(ただし、塗膜に含まれる前記無機層状化合物の含有量および前記防錆剤の含有量は、塗膜に含まれるこれら二つの含有量の合計100質量%に対するものである)を含む金属腐食防止用塗膜を製造することができる。
本発明の金属腐食防止用塗料が、粒径が10μm以下の無機層状化合物と防錆剤と樹脂成分とを含む場合は、粒径が10μm以下の無機層状化合物50〜99質量%と防錆剤1〜50質量%と(ただし、前記無機層状化合物の含有量および前記防錆剤の含有量は、これら二つの含有量の合計100質量%に対するものである)樹脂成分とを含む金属腐食防止用塗膜を製造することができる。金属腐食防止用塗料が樹脂成分を含む場合、塗膜に含まれる前記樹脂成分と前記無機層状化合物との合計量を100質量%としたとき、前記樹脂成分の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが最も好ましい。前記無機層状化合物の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが最も好ましい。
【0083】
金属腐食防止用塗膜の製造方法としては、本発明の金属腐食防止用塗料を基材へ塗工する塗工工程と、前記塗工工程で塗工された塗料から液体媒体を除去して塗膜を得る乾燥工程とを有する製造方法が挙げられる。
【0084】
[基材]
本発明の金属腐食防止用塗料を塗工する基材を構成する材料としては、金属、樹脂、木材、セラミックス、ガラス等が挙げられる。基材は単層であってもよく、多層であってもよい。基材の形状はフィルム状、シート状、板状であってもよく、不織布又は金属糸を織った布状であってもよく、成形品であってもよい。
基材が金属層を含む場合は、本発明の金属腐食防止用塗料を該基材へ塗工する塗工工程と、前記塗工工程で塗工された塗料から液体媒体を除去して塗膜を得る乾燥工程とを有する製造方法により、前記無機層状化合物と防錆剤とを含む塗膜と基材とを有する多層構造体Aが製造され、前記多層構造体Aの金属層が前記塗膜により腐食防止される。
基材が金属層を含まない場合は、本発明の金属腐食防止用塗料を該基材へ塗工する塗工工程と、前記塗工工程で塗工された塗料から液体媒体を除去して塗膜を得る乾燥工程とを有する製造方法により、前記無機層状化合物と防錆剤とを含む塗膜と基材とを有する多層構造体Bが製造され、前記多層構造体Bから前記塗膜を剥離し、剥離した塗膜を金属板に貼合することにより金属板の腐食を防止することができる。また、前記多層構造体Bを金属板に貼合することにより金属板の腐食を防止することができる。
【0085】
本発明の金属腐食防止用塗料により腐食を防止できる金属としては、鉄鋼および非鉄金属が挙げられる。
鉄鋼としては、炭素鋼、鋳鉄、クロム鋼、ニッケル鋼、ステンレス鋼、高速度鋼、工具鋼などの合金鋼が挙げられる。
非鉄金属としては金、銀、銅、プラチナ、パラジウムといった貴金属類、錫、鉛、ビスマス等の低融点金属、アルミニウム、ニッケルが挙げられる。またナトリウム、リチウム、カリウムといったアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ベリリウム、カドミウムといったアルカリ土類金属、チタン、コバルト、ジルコニウム、クロム、モリブデン、タングステンなども挙げられる。またさらにはこれら鉄鋼と非鉄金属との合金又は、非鉄金属の合金も含まれる。また本発明においては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化チタンなどのセラミックスも金属に含まれるものとする。
【0086】
金属層の形成方法としては、例えば鍛造、プレス、粉末治金、鋳造、スパッタリング、蒸着処理、切りだし、メッキ等が挙げられる。
【0087】
基材を構成するセラミックスとしては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化チタン等が挙げられる。
【0088】
基材を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。
【0089】
[アンカーコート層]
また、基材を構成する樹脂層としてアンカーコート層を設けてもよい。多層構造体Aの基材は、金属層とアンカーコート層とを含む基材でもよい。
アンカーコート層を形成するためのアンカーコート剤としては、ウレタン系アンカーコート剤、シリコーン系アンカーコート剤、シラン系アンカーコート剤、エステル樹脂系アンカーコート剤、1液硬化型エポキシ系アンカーコート剤、アクリル系アンカーコート剤、オレフィン樹脂系アンカーコート剤、フッ素樹脂系アンカーコート剤、ゴム系アンカーコート剤、でんぷん系アンカーコート剤、ユリア樹脂系アンカーコート剤、メラミン樹脂系アンカーコート剤、フェノール樹脂系アンカーコート剤、ポリアロマティック系アンカーコート剤、ポリサルファイド系アンカーコート剤等が挙げられる。
【0090】
ウレタン系アンカーコート剤とは、ウレタン結合を有するアンカーコート剤であり、1液硬化型ウレタン系アンカーコート剤と、2液硬化型ウレタン系アンカーコート剤に分けられる。
【0091】
1液硬化型ウレタン系アンカーコート剤とは、水分又は熱等を加えることで硬化するアンカーコート剤であり、湿気硬化型アンカーコート剤、ブロック型アンカーコート剤、ラッカー型アンカーコート剤に分けられる。
湿気硬化型アンカーコート剤とは、末端にイソシアネート基を有するプレポリマーであり、空気中の水分と反応して硬化する。
ブロック型アンカーコート剤とは、主成分である活性水素を有するポリオール成分と、ポリイソシアネート中のイソシアネート基がブロック剤でマスクされた成分とをあらかじめ混合して1液化されたものであり、ブロック剤が解離する温度(通常140℃〜200℃)まで加熱すると、活性イソシアネート基が再生され、これがポリオール成分と反応して強靭なアンカーコート層を形成する。
ラッカー型アンカーコート剤とは、高分子量化されたポリウレタン溶液であり、溶剤を揮発させるだけでアンカーコート層を得ることができる。
【0092】
2液硬化型ウレタン系アンカーコート剤とは、イソシアネート基を有する化合物と活性水素化合物を含むアンカーコート剤であり、イソシアネート基を有する化合物を含有する液と、活性水素化合物を含有する液とを混合することで硬化するアンカーコート剤である。
【0093】
イソシアネート基を有する化合物としては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。活性水素化合物とは、一分子中に、活性水素基である水酸基を2個以上有し、カルボキシル基を有さない化合物であり、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン等の低分子量ポリオール;ポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオール;ジオールと二塩基酸等の二つのモノマーの反応により生成するポリエステル;ポリ−β−メチル−δ−バレロラクトン、ポリカプロラクトン等のポリエステルポリオール等が挙げられる。
活性水素化合物としては、数平均分子量が300以上100000以下の化合物が好ましい。
【0094】
2液硬化型ウレタン系アンカーコート剤中のイソシアネート化合物と活性水素化合物の混合比は、イソシアネート基と、活性水素化合物に含まれる水酸基(活性水素基)とのモル比により決定することが好ましい。イソシアネート基のモル数をAN、活性水素化合物の活性水素基のモル数をBNとすると、該活性水素基のモル数に対するイソシアネート基のモル数の比R(R=AN/BN)は、アンカーコート層と塗膜との接着性の観点から、0.001以上であることが好ましく、ブロッキング防止の観点から1000以下であることが好ましい。イソシアネート基および活性水素基の各モル数は、
1H−NMR、
13C−NMRにより定量することができる。具体的には、イソシアネート基のモル数は、イソシアネート基のモル数が既知のサンプルを用い、検量線を求め、算出することができる。また活性水素基のモル数は、活性水素基のモル数が既知のサンプルを用い、検量線を求め、算出することができる。
【0095】
2液硬化型ウレタン系アンカーコート剤としては、好ましくは、主鎖にカーボネート骨格を有する2液硬化型ウレタン系アンカーコート剤である。主鎖にカーボネート骨格を有する2液硬化型ウレタン系アンカーコート剤とは、イソシアネート基を有する化合物と、活性水素化合物を含むアンカーコート剤であり、イソシアネート基を有する化合物を含有する液と、カーボネート骨格を有する活性水素化合物を含有する液とを混合することで硬化するアンカーコート剤である。該カーボネート骨格は、環状カーボネート骨格であってもよい。
【0096】
シリコーン系アンカーコート剤とは、オルガノポリシロキサンを主成分とするアンカーコート剤であり、縮合硬化型アンカーコート剤と付加硬化型アンカーコート剤とに分けられる。
縮合硬化型アンカーコート剤とは、末端に水酸基又はエポキシ基を有するオルガノポリシロキサンと、架橋剤とを混合した混合物であり、空気中の水分と反応することで硬化する。前記オルガノポリシロキサンの代わりに、アルキルオキシシラン等のオキシシラン化合物を含有するものであってもよい。
付加反応型アンカーコート剤とは、末端にビニル基を有するポリオルガノシロキサンと、架橋剤とを含む2液型であり、触媒を加えて加熱することで硬化する。末端にメチルジメトキシシリル基を有するポリプロピレンオキサイド等でもよい。
【0097】
シラン系アンカーコート剤とは、有機物反応基と、加水分解してシラノール基を生成するシランアルコキシドユニットとを有する化合物である。前記有機物反応基としては、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基、イソシアネート基等が挙げられる。前記シランアルコキシドユニットとしては、メトキシシラン、エトキシシラン等が挙げられる。
【0098】
エステル樹脂系アンカーコート剤とは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の主鎖にエステル結合を有する樹脂の側鎖に、水酸基および/またはカルボキシル基を有する化合物である。
【0099】
1液硬化型エポキシ系アンカーコート剤とは、エポキシ化合物と、ブロック剤でマスクされたアミンと、ブロック剤でマスクされたカルボン酸とが、あらかじめ混合されて1液化されたものである。ブロック剤が解離する温度(通常140℃〜200℃程度)まで加熱すると、活性アミン及び活性カルボン酸が再生され、これがエポキシ化合物と反応して強靭な塗膜を形成する。
【0100】
アクリル系アンカーコート剤とは、アクリル酸またはアクリル酸誘導体等のアクリルモノマーを主成分とするアンカーコート剤である。アクリルモノマーに加えて、エラストマー、触媒等を含んでいるものが多い。アクリルスチレン系の材料であってもよい。前記アンカーコート剤としては、化学反応が起こらずに硬化するもの及び重合反応によって硬化するものが存在する。重合反応によって硬化するものは、例えば、有機過酸化物等の硬化剤と混合して用いられる。
【0101】
オレフィン樹脂系アンカーコート剤とは、オレフィン樹脂を主成分とするアンカーコート剤であり、水酸化カルシウム等の金属酸化物を含んでいてもよい。該オレフィン樹脂としては、オレフィン単独重合体または2種類以上のオレフィンを重合して得られるオレフィン共重合体が挙げられる。該オレフィンとしては、特に炭素数2〜20のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−ドデカデセン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。
該オレフィン樹脂は、酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルと、前記オレフィンとの共重合体であってもよく、前記オレフィン単独重合体または前記オレフィン共重合体を、不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸誘導体で変性した樹脂であってもよい。
【0102】
フッ素樹脂系アンカーコート剤とは、フッ素樹脂を主成分とするアンカーコート剤である。該フッ素樹脂としては、フッ素化エポキシ化合物及びフッ素化エポキシアクリレートが挙げられる。
【0103】
ゴム系アンカーコート剤とは、ゴムを主成分とするアンカーコート剤であり、クロロプレン系アンカーコート剤、スチレン−ブタジエンゴム系アンカーコート剤、ニトリルゴム系アンカーコート剤に分けられる。該ゴム系アンカーコート剤は、フェノール樹脂又は塩化ビニルを配合したものであってもよい。
クロロプレン系アンカーコート剤としては、クロロプレンゴムとフェノール樹脂とを主成分とするもの、クロロプレンゴムにアルキルフェノール樹脂を添加したもの、クロロプレンゴムにメチルメタクリレートをグラフト重合したものが挙げられる。
スチレン−ブタジエンゴム系アンカーコート剤としては、スチレン−ブタジエン共重合体とスチレン−イソプレン共重合体を含有するものが挙げられる。該共重合は、ランダム共重合であってもよく、ブロック共重合であってよい。
ニトリルゴム系アンカーコート剤とは、ブタジエンとアクリロニトリルとの共重合体からなる樹脂を主成分とするアンカーコート剤である。
【0104】
でんぷん系アンカーコート剤とは、でんぷんを主成分とするアンカーコート剤である。
該でんぷんは、粉体でんぷんを加熱することで得られる焙焼デキストリン、又はでんぷんを酸で処理することで得られる白化デキストリンであってもよく、でんぷんを酸化剤によって酸化し、必要に応じてカルボキシル基等の官能基を導入した酸化でんぷん、又は酵素変性でんぷん等の変性でんぷんであってもよい。また、該でんぷんは、アクリル樹脂等を、ポリイソシアネートを介して間接的にグラフト重合させたものでもよく、アクリル酸及び光硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂をグラフト重合させたものであってもよい。前記アンカーコート剤は、でんぷんまたは変性でんぷんと、およびセルロース誘導体とを組合せたポリマーブレンドであってもよい。また、β−ジケトン類、アセト酢酸エステル類、マロン酸エステル類、β位に水酸基を持つケトン類、β位に水酸基を持つアルデヒド類及びβ位に水酸基を持つエステル類から選ばれる少なくとも一種のブロック剤を含有する硬化型でんぷん組成物であってもよい。
前記でんぷん系アンカーコート剤は、ポリイソシアネート硬化剤、でんぷんを除く植物由来の樹脂、金属錯体等を含んでいるものでもよい。
【0105】
ユリア樹脂系アンカーコート剤とは、尿素樹脂を主成分とするアンカーコート剤であり、尿素とホルムアルデヒドとの縮合反応によって得られるアンカーコート剤である。前記ユリア樹脂系アンカーコート剤は、少量の塩化アンモニウムを添加することで硬化する。
【0106】
メラミン樹脂系アンカーコート剤とは、メラミン(シアヌリル酸アミド)を主成分とするアンカーコート剤であり、メラミンとホルムアルデヒドを縮重合させることで得られるアンカーコート剤である。メラミン樹脂系アンカーコート剤は、前記ユリア樹脂系アンカーコート剤、又は後述のフェノール樹脂系アンカーコート剤と混合してもよい。
【0107】
フェノール樹脂系アンカーコート剤とは、フェノール樹脂を主成分とするアンカーコート剤であり、フェノールとホルムアルデヒドを縮重合させることによって得られるアンカーコート剤である。前記フェノール樹脂系アンカーコート剤は、レゾール型フェノール樹脂を主成分とするものであってもよい。
【0108】
ポリアロマティック系アンカーコート剤とは、芳香族ポリイミド類の低分子ポリマーを主成分とするアンカーコート剤である。
【0109】
ポリサルファイド系アンカーコート剤とは、ポリサルファイドと硬化剤とからなるアンカーコート剤である。
【0110】
各アンカーコート剤のより詳細な説明は、「身の回りの製品に含まれる化学物質シリーズ 接着剤」(独立行政法人 製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター発行)、接着剤読本(日本接着剤工業会発行)、「表面処理技術ハンドブック 接着・塗装から電子材料まで」(株式会社エヌ・ティー・エス発行)、「産業科学シリーズ 接着と接着剤」(大日本図書株式会社発行)に記載されている。
【0111】
アンカーコート剤は、接着性の観点から、好ましくは、2液硬化型ウレタン系アンカーコート剤、オレフィン樹脂系アンカーコート剤、エステル樹脂系アンカーコート剤、シラン系アンカーコート剤である。
【0112】
アンカーコート剤は1種類のみを使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
2種類以上のアンカーコート剤を組み合わせて使用する場合、2液硬化型ウレタン系アンカーコート剤とシラン系アンカーコート剤との組み合わせ、オレフィン樹脂系アンカーコート剤とシラン系アンカーコート剤との組み合わせ、またはゴム系アンカーコート剤とシラン系アンカーコート剤との組み合わせが好ましい。
【0113】
アンカーコート剤は、無溶剤で塗工されてもよく、各種溶剤にて希釈されて塗工されてもよい。
また光硬化型、熱硬化型、常温硬化型のいずれであってもよく、光、熱、温度の組み合わせにより硬化するものであってもよい。また粘着付与剤、可塑剤、充填剤、増粘剤、顔料、酸化防止剤、消泡剤、難燃剤、防腐剤等の添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤、溶剤については、「身の回りの製品に含まれる化学物質シリーズ 接着剤」(独立行政法人 製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター発行)、接着剤読本(日本接着剤工業会発行)、「表面処理技術ハンドブック 接着・塗装から電子材料まで」(株式会社エヌ・ティー・エス発行)、「産業科学シリーズ 接着と接着剤」(大日本図書株式会社発行)に記載されている。
【0114】
[表面処理]
本発明の金属腐食防止用塗料を塗工する基材表面には、表面処理を施しても構わない。該表面処理としては、コロナ処理、オゾン処理、電子線処理、イオン処理、フレーム処理、プラズマ処理、ブラスト処理、レーザー処理等が挙げられる。
【0115】
コロナ処理とは、コロナ処理機から発生する高周波により、放電電極間の空気をイオン化し、電荷のある粒子を発生させ、この粒子を基材に照射し、該基材表面をエッチングすることで、濡れ性の向上、官能基の導入などの効果を付与する処理である。具体的には、特開平1−123835号公報、特開平4−59039号公報等に開示されている処理である。前記コロナ処理における放電量は10W・分/m
2以上が好ましい。該放電量の上限は、特に限定されないが、経済性の観点から通常200W・分/m
2以下が好ましい。
【0116】
オゾン処理とは、空気中等の酸素存在下で、エキシマーレーザー、低圧水銀灯、高圧水銀灯、アーク灯を用いて、紫外線を照射することにより、酸素ラジカル又はオゾンを発生させ、基材表面を酸化させる処理である。具体的には、特開昭57−31937号公報、特開平7−188428号公報等に開示されている処理である。前記オゾン処理には、通常180nmから400nmの紫外線が用いられるが、185nm前後及び254nm前後の紫外線を併用すると酸化処理効果が向上する。
【0117】
電子線処理とは、市販の電子線照射装置を用いて、電子線加速器により発生させた電子線を照射させ、基材表面をエッチングし、酸化させる処理である。電子線処理の処理量は、加速電圧と電子流により調整することができる。通常、加速電圧が10kV以上300kV以下、電子流が5mA以上500mA以下である処理量が好ましい。
【0118】
イオン処理とは、外部電界を用いて発生させたプラズマ中に存在するイオンを、基材の表面部に注入すること、又は外部電界を用いることなく、基材に印加する負の高電圧パルスによる電界のみで発生させたプラズマ中に存在するイオンを、基材の表面部に注入することにより、基材表面を改質する処理である。イオン処理装置としては、必要なイオンだけを取り出す質量分析器、イオンを電気的に加速する加速器、対象物であるターゲットを高真空状態に置くチャンバーから成る。通常、10
16ions/cm
2以下の処理量で処理することが好ましい。
【0119】
フレーム処理とは、空気または酸素と、メタン、プロパン、ブタン等の天然ガスを完全燃焼状態で基材に吹き付ける処理である。基材がフィルム又はシートである場合は、充分冷却したメッキ処理金属ドラム上に基材を通過させ、基材のドラムと接している面の反対側の面に火焔を吹き付けることで、フレーム処理を行うことができる。特開2010−005947号公報等に記載されているように、アルコキシシラン等のガス存在下で処理してもよい。
【0120】
プラズマ処理とは、不活性ガス雰囲気下で放電することで生じたプラズマを、基材上に照射し、該基材表面をエッチングすることで、濡れ性の向上及び官能基の導入などの効果を付与する処理であり、大気圧プラズマ処理及び真空プラズマ処理等が挙げられる。具体的には、特開平3−143930号公報、特開平3−219082号公報、特開2010−227919号公報或いは特開平5−23579号公報に開示されている。
【0121】
ブラスト処理とは、エアコンプレッサー等で、基材表面へ研磨剤を吹き付けることにより、基材表面の粗面化による表面積の増大、および基材表面の清浄化等の効果を付与する処理である。該研磨剤としては通常、アルミナ粒子、チタン粒子等の金属粒子、フッ素樹脂粒子等の樹脂粒子が挙げられる。
【0122】
レーザー処理とは、高エネルギーのレーザー光を基材へ照射することで、基材表面の凹凸の形成及び基材表面の清浄化等の効果を付与する処理である。パルスが短くピークの高いレーザー光を用いることで、基材への熱ダメージを少なくすることができる。
【0123】
[乾燥工程]
金属腐食防止用塗膜の製造方法の乾燥工程において、液体媒体を除去する温度は、通常20℃以上150℃以下であり、該塗膜の製膜性の観点から、好ましくは30℃以上140℃以下であり、より好ましくは40℃以上130℃以下、さらに好ましくは50℃以上120℃以下である。液体媒体を除去する時間は、通常1秒間以上24時間以下である。液体媒体の除去に用いる熱源として、熱ロール接触、空気等の熱媒接触、赤外線加熱、マイクロ波加熱等を適用することができる。
【0124】
[樹脂層]
多層構造体Aは、塗膜上に、さらに樹脂層を有していてもよい。該樹脂層は、更なる樹脂成分を含む層である。更なる樹脂成分としては、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、シラン系樹脂、エステル樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素樹脂、ゴム系樹脂、でんぷん、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アロマティック樹脂、サルファイド樹脂が挙げられる。これらの樹脂の詳細は、前述のアンカーコート剤に用いられる樹脂と同様である。アンカーコート層と樹脂層は同じ樹脂成分であってもよく、異なる樹脂成分であってもよい。また、更なる樹脂成分は、前述の金属腐食防止用塗料に含まれる樹脂成分と同じ樹脂成分であってもよい。
【0125】
前記更なる樹脂成分として、接着性の観点から、好ましくは、2液硬化型ウレタン系樹脂、フッ素樹脂、エポキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、又は金属腐食防止用塗料に含まれる樹脂成分と同じ樹脂成分である。
【0126】
更なる樹脂成分は、1種類のみを使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
2種類以上の樹脂成分を使用する場合、2液硬化型ウレタン系樹脂とシラン系樹脂との組み合わせ、フッ素樹脂とシラン系樹脂との組み合わせ、エポキシ系樹脂とシラン系樹脂との組み合わせ、オレフィン系樹脂とシラン系樹脂との組み合わせ、第1の樹脂成分とシラン系樹脂との組み合わせが好ましい。
【0127】
樹脂層は、前記金属腐食防止用塗料の無機層状化合物、可塑剤、アルカリ金属イオン等を含んでもよい。可塑剤、アルカリ金属イオンの詳細は、前述の可塑剤およびアルカリ金属イオンと同様である。
樹脂層が可塑剤を含有する場合、熱成形時の延伸性の点から、樹脂層に含まれる可塑剤の含有量は、更なる樹脂成分100質量部に対して20質量部以上150質量部以下であることが好ましく、25質量部以上120質量部以下であることがより好ましく、40質量部以上120質量部以下であることがさらに好ましく、60質量部以上110質量部以下であることが最も好ましい。
【0128】
アンカーコート層がアンカーコート塗工液を用いて形成され、前記アンカーコート塗工液が、液体媒体を含む塗工液である場合の調製方法としては、アンカーコート剤の各成分を、溶媒に溶解または分散させて成分ごとの液を作り、これらを混合する方法、及びアンカーコート剤の各成分を1つの溶媒に溶解または分散させる方法等が挙げられる。前記アンカーコート塗工液が、溶媒を含まない塗工液である場合の調製方法としては、アンカーコート剤の各成分を混合する方法が挙げられる。また樹脂層を樹脂塗工液を用いて形成する場合も、アンカーコート塗工液及び金属腐食防止用塗料と同様の方法で調製することができる。
【0129】
前記アンカーコート層、樹脂層の厚みはいずれも、0.05μm以上500μm以下の範囲であることが好ましく、0.1μm以上500μm以下の範囲であることが好ましい。また前記金属腐食防止用塗膜の厚みは、通常0.05μm以上50μm以下の範囲であり、0.1μm以上5μm以下の範囲であることが好ましい。アンカーコート層及び樹脂層の厚みは、金属腐食防止用塗膜の厚みよりも厚いことが好ましい。
【0130】
[多層構造体A]
基材が金属層を含む場合、上記多層構造体Aは例えば以下の構成が挙げられる。
基材/金属腐食防止用塗膜
基材/金属腐食防止用塗膜/樹脂層
基材/金属腐食防止用塗膜/樹脂層/追加層
より具体的には、以下の構成が挙げられる。
金属層(基材)/アンカーコート層(基材)/金属腐食防止用塗膜
金属層(基材)/アンカーコート層(基材)/金属腐食防止用塗膜/樹脂層
金属層(基材)/アンカーコート層(基材)/金属腐食防止用塗膜/樹脂層/追加層
ここで追加層は、それぞれアンカーコート層、樹脂層、金属腐食防止用塗膜と同じ組成であってもよい。また上記アンカーコート層、金属腐食防止用塗膜、樹脂層、追加層は金属層の片面のみに設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。また上記アンカーコート層、金属腐食防止用塗膜、樹脂層、追加層は金属層の全面に設けられていてもよく、一部に設けられていてもよい。
図7に、多層構造体Aの断面図の一例を示す。図中、1は金属層、2はアンカーコート層、3は基材、4は金属腐食防止用塗膜、5は樹脂層、6は追加層、10は多層構造体Aを表す。多層構造体Aは、アンカーコート層2、樹脂層5、追加層6を有していなくてもよい。
【0131】
[乾熱処理体]
金属腐食防止用塗膜が前記2種類以上の官能基を有する樹脂成分を含む場合、金属腐食防止性能の向上のために、該塗膜を乾熱処理して、乾熱処理体とすることが好ましい。塗膜の乾熱処理は、塗膜と基材とを有する多層構造体の状態で行ってもよい。乾熱処理とは、80℃以上300℃以下、水蒸気濃度が50g/m
3未満の雰囲気下で保持する処理である。乾熱処理温度は、好ましくは100℃以上、200℃以下であり、より好ましくは120℃以上、200℃以下であり、さらに好ましくは120℃以上、180℃以下である。乾熱処理する時間は通常1秒間〜1時間である。乾熱処理時の水蒸気濃度は、好ましくは0g/m
3以上40g/m
3以下である。乾熱処理する方法としては、例えば熱ロールと接触する方法、空気等の熱媒と接触する方法、赤外線により加熱する方法、マイクロ波により加熱する方法等が挙げられる。また塗膜と基材とを有する多層構造体を後述の熱成形する際は、熱成形時の加熱処理を該乾熱処理とすることができる。
【0132】
[湿熱処理体]
金属腐食防止用塗膜が前記2種類以上の官能基を有する樹脂成分を含む場合、金属腐食防止性能を向上するために、前記乾熱処理体を湿熱処理して、湿熱処理体とすることが好ましい。乾熱処理体の湿熱処理は、乾熱処理体と基材とを有する多層構造体の状態で行ってもよい。湿熱処理とは、80℃以上の水中で保持する処理、または100℃以上の温度で水蒸気濃度が290g/m
3超の雰囲気下で保持する処理である。湿熱処理する時間は、通常1秒間以上1時間以下である。100℃以上の温度で水蒸気濃度が290g/m
3超の雰囲気下で処理する場合、温度は120℃以上200℃以下が好ましく、水蒸気濃度は500g/m
3以上20000g/m
3以下が好ましい。80℃以上の水中で処理する場合、温度は100℃以上140℃以下が好ましい。前記湿熱処理を施す前に、前記乾熱処理体を、例えば、23℃、湿度50%RH条件下でエージングしてもよい。
【0133】
湿熱処理体に含まれる水分を除去するために、湿熱処理後に乾燥処理を施してもよい。
乾燥処理は、通常、湿度50%RH以下、温度20℃以上100℃以下で、1秒以上24時間以下で行う。
また金属腐食防止用塗膜には、耐水性、濡れ性、耐傷付性等を改良する目的で、電子線照射、紫外線照射等を行ってもよい。
【0134】
金属層およびアンカーコート層を含む基材と前記金属腐食防止用塗膜とを含む多層構造体は、液体媒体とアンカーコート剤とを含むアンカーコート塗工液を金属層表面に塗工し、アンカーコート塗工膜を形成し、次いでアンカーコート塗工膜から前記液体媒体を除去して前記金属層に隣接するアンカーコート層を形成する工程と、次いで本発明にかかる金属腐食防止用塗料をアンカーコート層表面に塗工する塗工工程と、次いで前記塗工工程で塗工された金属腐食防止用塗料から液体媒体を除去して、アンカーコート層に隣接する金属腐食防止用塗膜を得る乾燥工程とを含む製造方法により製造することが好ましい。
【0135】
上記多層構造体を製造する場合、基材を形成する工程と、本発明の金属腐食防止用塗料を基材へ塗工する塗工工程と、前記塗工工程で塗工された金属腐食防止用塗料から液体媒体を除去して金属腐食防止用塗膜を得る乾燥工程を連続して行うことができる。ここで「連続して行う」とは、例えば同一装置内で各工程を行う場合、及び連続した複数の装置において各工程を行う場合が包含される。また、各工程が完了する前に次工程を行うこともできる。またアンカーコート層及び樹脂層を形成する工程も同様に連続して行うことができる。
【0136】
また金属層およびアンカーコート層を含む基材と、前記金属腐食防止用塗膜と、前記樹脂層とを含む多層構造体は、液体媒体とアンカーコート剤とを含むアンカーコート塗工液を金属層表面に塗工し、アンカーコート塗工膜を形成し、次いで前記液体媒体を除去して前記金属層に隣接するアンカーコート層を形成する工程と、次いで本発明にかかる金属腐食防止用塗料をアンカーコート層表面に塗工する塗工工程と、次いで前記塗工工程で塗工された金属腐食防止用塗料から液体媒体を除去して、アンカーコート層に隣接する金属腐食防止用塗膜を得る乾燥工程と、さらに液体媒体と樹脂成分とを含む樹脂塗工液を金属腐食防止用塗膜表面に塗工し、樹脂塗工膜を形成し、次いで樹脂塗工膜から前記液体媒体を除去して前記金属腐食防止用塗膜に隣接する樹脂層を形成する工程と、を含む製造方法により製造することが好ましい。
【0137】
前記金属腐食防止用塗料を塗工する方法としては、ダイレクトグラビア法、リバースグラビア法などのグラビア法;2本ロールビートコート法、ボトムフィード3本リバースコート法などのロールコーティング法;ドクターナイフ法;ダイコート法;バーコーティング法;ディッピング法;スプレーコート法;カーテンコート法;スピンコート法;フレキソコート法;スクリーンコート法;刷毛又は筆を用いて塗工する方法などを適用することができる。容易に塗膜を製造できることからディッピング法、スプレーコート法、グラビア法を採用することが好ましい。なお、金属腐食防止用塗膜は、基材表面の一部に形成してもよく、全面に形成してもよい。金属腐食防止用塗膜は、基材の少なくとも一方の表面上に存在していればよく、基材と必ずしも接触している必要はなく、他の層を介して存在していてもよい。
【0138】
ディッピング法とは、基材を治具で保持し、前記金属腐食防止用塗料中に浸漬し、放置後、引き上げることにより塗工膜を形成する方法である。具体的には、特開2006−239561号公報に記載されている。
基材を金属腐食防止用塗料中に浸漬する際は、平板状の基材であれば、液面に対して垂直に浸漬することが好ましく、容器及びボトル等の立体形状の基材であれば、空気だまりの発生を抑えるため、適宜基材を傾けながら浸漬することが好ましい。浸漬する際の基材の速度は、通常1nm/sec以上1m/sec以下であり、生産性の点から1μm/sec以上1m/sec以下であることが好ましい。
浸漬後に引き上げる際は、平板状の基材であれば液面に対して垂直方向に引き上げることが好ましく、容器及びボトル等の立体形状の基材であれば、塗工膜の厚みにムラが生じないよう、適宜基材を傾けながら引き上げることが好ましい。引き上げる際の基材の速度は、通常1nm/sec以上1m/sec以下であり、生産性の点から1μm/sec以上1m/sec以下であることが好ましい。引き上げ速度、塗工液の比重、濃度、粘性によって、塗工膜の厚みが変化する。
【0139】
アンカーコート塗工液及び樹脂塗工液についても上記金属腐食防止用塗料と同様の方法にて塗工することができる。また前記アンカーコート塗工膜、樹脂塗工膜から、液体媒体を除去する方法としては、前述の金属腐食防止用塗料から液体媒体を除去する方法と同様の方法を用いることができる。
【0140】
本発明における基材および多層構造体の形状としては、フィルム、シート、成形品が挙げられる。金属層を含む基材としては、例えば、樹脂製のシート及び不織布に金属をスパッタリングすることにより光沢をもたせた金属スパッタシート及び不織布、熱交換器の金属製放熱板、電磁石及び電子部品、金属配線等が挙げられる。
本発明の金属腐食防止用塗膜の用途としては、金属基材の腐食防止、金属基材の変色防止が挙げられる。また本発明にかかる金属腐食防止用塗膜は、薄い膜厚で性能を発現するため、鋳物など風合いを重視する用途においても好適に用いることができる。
また従来の防錆塗料からなる層と本発明の金属腐食防止用塗料を用いて得られる塗膜とを含む多層構造体は、金属腐食防止性能がより高い。このような場合は、従来の防錆塗料からなる層の厚みを薄くした場合でも、従来と同様の期間の金属腐食防止効果を発現させることができる。
【実施例】
【0141】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。はじめに、以下の実施例における物性値の測定方法を説明する。
【0142】
〔厚み測定〕
金属層の厚みは、デジタル厚み計(接触式厚み計、商品名:超高精度デシマイクロヘッド MH−15M、日本光学社製)を用いて測定した。後述のアンカーコート層、金属腐食防止用塗膜および樹脂層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察より求めた。
【0143】
〔粒径測定〕
粘土鉱物の粒径をレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA910、堀場製作所(株)製)を用いて測定した。後述する塗工液(1)〜(6)および(11)中の粘土鉱物の平均粒径をペーストセルにて光路長50μmで測定した。さらに該塗工液を200倍程度に希釈した液中の粘土鉱物の平均粒径をフローセルにて光路長4mmで測定した。いずれの場合も平均粒径の値は変わらず、塗工液中で粘土鉱物が充分に膨潤し劈開していることを確認した。塗工液の測定値を、塗膜(1)〜(6)および(11)中の粘土鉱物の平均粒径Lとみなした。
【0144】
〔アスペクト比計算〕
X線回折装置(XD−5A、(株)島津製作所製)を用い、粘土鉱物の回折測定を粉末法により行い、粘土鉱物の単位厚さaを求めた。上述の方法で求めた平均粒径Lを用いて、該粘土鉱物のアスペクト比Zを、Z=L/aの式により算出した。なお塗工液(1)〜(6)および(11)を乾燥したものについてもX線回折測定を行ない、原料の粘土鉱物に比べて、塗工液(1)〜(6)および(11)の乾燥物中の粘土鉱物の面間隔が広がっていたため、樹脂中に粘土鉱物が分散していることを確認した。
【0145】
〔乾熱処理〕
210mm×300mmの多層構造体を、120℃、水蒸気濃度5g/m
3のオーブン中で60分間熱処理した。
【0146】
〔金属腐食性試験1〕
JIS H8502に基づき塩水噴霧試験を、サイクル法にて、後述する多層構造体(1A)〜(12A)について、実施した。塩水噴霧試験は、25℃にて2時間塩水を噴霧し、その後60℃、20〜30%RHにて4時間乾燥放置し、最後に50℃、95%RHにて2時間放置した。これらを1サイクルとし、試験を実施した。試験後のサンプルを目視にて評価した。
○・・・錆発生無し
△・・・一部に錆発生
×・・・全面に錆発生
さらに、塩水噴霧試験後の多層構造体(1A)〜(6A)について、デジタルカメラにて塩水噴霧面の写真を撮影し、画像ソフト(WINROOF)を用いて、塩水噴霧面における錆発生部と錆未発生部とについて画像処理を行い、それぞれの面積を求め、下記式に従い、錆発生率(%)を算出した。
錆発生率(%)=(錆発生部の面積)/(錆発生部の面積+錆未発生部の面積)×100
【0147】
〔金属腐食性試験2〕
後述する多層構造体(13A)〜(16A)を、23℃の5%食塩水に96時間浸漬し、塩水浸漬試験をおこなった。浸漬後の多層構造体について、デジタルカメラにて写真を撮影し、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて、錆発生部と錆未発生部とについて画像処理を行い、それぞれの面積を求め、下記式に従い、錆発生率(%)を算出した。
錆発生率(%)=(錆発生部の面積)/(錆発生部の面積+錆未発生部の面積)×100
【0148】
〔酸素透過度測定〕
JIS K7126に基づき、超高感度酸素透過度測定装置(OX−TRANML、MOCON社製)にて、後述する多層構造体(1B)〜(10B)について23℃、90%RHの条件下にて測定を行った。
【0149】
〔密着性試験〕
23℃、50%RHにて、後述する多層構造体(13A)〜(16A)について、多層構造体の表面から基材に達するまで2mm角で10×10個の切れ目を入れ、四隅よりセロファンテープによる剥離試験を行い、基材に塗膜が残存する目数を評価した。残存する目数が多いほど、基材と塗膜との接着強度が高い。残存する目数が100個のとき、接着強度が非常に良好と判断し、○と評価した。残存する目数が99〜50個のとき、接着強度が良好と判断し、△と評価した。残存する目数が49個以下のとき、接着強度が不良と判断し、×と評価した。
【0150】
〔塗工液の作製〕
(1)塗工液(1)の作製
分散釜(商品名:デスパMH−L、浅田鉄工(株)製)に、イオン交換水(比電気伝導率0.7μs/cm以下)1300gと、ポリビニルアルコール(AQ2117;(株)クラレ製,ケン化度;99.6%、重合度1700)130gとを混合し、低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)で95℃に昇温した。該混合系を同温度で30分間攪拌してポリビニルアルコールを溶解させたのち、60℃に冷却し、ポリビニルアルコール水溶液を得た。該ポリビニルアルコール水溶液(60℃)を前記同様の条件で攪拌しながら、1−ブタノール122g、イソプロパノール122gおよびイオン交換水520gを混合して作製されたアルコール水溶液を5分間かけて滴下した。滴下終了後、高速攪拌(3000rpm、周速度=8.2m/分)に切り替え、該攪拌系に高純度モンモリロナイト(商品名:クニピアG;クニミネ工業(株)製)82gを徐々に加え、添加終了後、60℃で60分間攪拌を続けた。その後、さらにイソプロパノール243gを15分間かけて加え、次いで該混合系を室温まで冷却し、粘土鉱物含有液を得た。この粘土鉱物含有液に対し、非イオン性界面活性剤(ポリジメチルシロキサン−ポリオキシエチレン共重合体、商品名:SH3746、東レ・ダウコーニング(株)製)0.06質量部(後記塗工液の質量を100質量部とする)を低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)において添加し、pHが6となるようにイオン交換樹脂で調整し、粘土鉱物分散液を調製した。
またさらに別の分散釜(商品名:デスパMH−L、浅田鉄工(株)製)に、イオン交換水(比電気伝導率0.7μs/cm以下)1067gと、ポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製、平均分子量1000000)33gとを混合し、常温にて低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)で樹脂(A3)溶液を作製した。
粘土鉱物分散液2519gと樹脂(A3)溶液1100gを、低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)において徐々に混合して混合液とし、さらに該混合液を高圧分散装置(商品名:超高圧ホモジナイザーM110−E/H、Microfluidics Corporation製)を用いて、1100kgf/cm
2の圧力条件で処理することにより、塗工液(1)を得た。
該塗工液(1)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.2156nmであり、アスペクト比Zは460であった。
【0151】
(2)塗工液(2)の作製
塗工液(1)に、防錆剤として、芳香族化合物塩と複素環化合物の混合物(VERZONEグリーンSH−P:大和化成(株)製)6.1gを低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)において徐々に混合して塗工液(2)を得た。該塗工液(2)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.2156nmであり、アスペクト比Zは460であった。また無機層状化合物と防錆剤との合計量を100質量%としたとき、防錆剤は6.9質量%であった。
【0152】
(3)塗工液(3)の作製
塗工液(2)における防錆剤を1,2,3−ベンゾトリアゾール(VERZONE Crystal #120:大和化成(株)製)にしたこと以外は同様にして、塗工液(3)を得た。
該塗工液(3)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.2156nmであり、アスペクト比Zは460であった。また無機層状化合物と防錆剤との合計量を100質量%としたとき、防錆剤は6.9質量%であった。
【0153】
(4)塗工液(4)の作製
塗工液(2)における防錆剤をアミン系カルボン酸塩(BF5−365:タニムラ(株)製)にしたこと以外は同様にして、塗工液(4)を得た。該塗工液(4)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.2156nmであり、アスペクト比Zは460であった。また無機層状化合物と防錆剤との合計量を100質量%としたとき、防錆剤は6.9質量%であった。
【0154】
(5)塗工液(5)の作製
塗工液(2)における防錆剤を有機カルボン酸のトリエタノールアミン塩(サンビットPMT:三新化学工業(株)製)にしたこと以外は同様にして、塗工液(5)を得た。該塗工液(5)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.2156nmであり、アスペクト比Zは460であった。また無機層状化合物と防錆剤との合計量を100質量%としたとき、防錆剤は6.9質量%であった。
【0155】
(6)塗工液(6)の作製
塗工液(2)における防錆剤をアルキル−トリスアクリル酸塩(CeBoLS:東洋薬化学工業(株)製)にし、添加量を40.7gにしたこと以外は同様にして、塗工液(6)を得た。該塗工液(6)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.2156nmであり、アスペクト比Zは460であった。また無機層状化合物と防錆剤との合計量を100質量%としたとき、防錆剤は6.9質量%であった。
【0156】
(7)塗工液(7)の作製
分散釜(商品名:デスパMH−L、浅田鉄工(株)製)に、イオン交換水(比電気伝導率0.7μs/cm以下)1300gと、ポリビニルアルコール(AQ2117;(株)クラレ製,ケン化度;99.6%、重合度1700)130gとを混合し、低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)で95℃に昇温した。該混合系を同温度で30分間攪拌してポリビニルアルコールを溶解させたのち、60℃に冷却し、ポリビニルアルコール水溶液を得た。該ポリビニルアルコール水溶液(60℃)を前記同様の条件で攪拌しながら、1−ブタノール122g、イソプロパノール122gおよびイオン交換水520gを混合して作製されたアルコール水溶液を5分間かけて滴下した。滴下終了後、さらにイソプロパノール243gを15分間かけて加え、次いで該混合系を室温まで冷却し、非イオン性界面活性剤(ポリジメチルシロキサン−ポリオキシエチレン共重合体、商品名:SH3746、東レ・ダウコーニング(株)製)0.06質量部(後記塗工液の質量を100質量部とする)を低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)において添加し、pHが6となるようにイオン交換樹脂で調整し、ポリビニルアルコール混合液を調製した。
またさらに別の分散釜(商品名:デスパMH−L、浅田鉄工(株)製)に、イオン交換水(比電気伝導率0.7μs/cm以下)1067gと、ポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製、平均分子量1000000)33gとを混合し、常温にて低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)で樹脂(A3)溶液を作製した。
ポリビニルアルコール混合液2437gと樹脂(A3)溶液1100gを、低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)において徐々に混合して混合液とし、さらに該混合液を高圧分散装置(商品名:超高圧ホモジナイザーM110−E/H、Microfluidics Corporation 製)を用いて、1100kgf/cm
2の圧力条件で処理することにより、高圧分散液(7)を得た。
該高圧分散液(7)に、防錆剤として、芳香族化合物塩と複素環化合物の混合物(VERZONEグリーンSH−P:大和化成(株)製)6.1gを低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)において徐々に混合して塗工液(7)を得た。
【0157】
(8)塗工液(8)
芳香族化合物塩と複素環化合物の混合物(VERZONEグリーンSH−P:大和化成(株)製)と水とイソプロパノールと1−ブタノールとを、質量比で6.1/2887/365/122で混合し、塗工液(8)を得た。
【0158】
(9)塗工液(9)の作製
2液硬化型ウレタン系コート剤(主剤・・・EL510−1、硬化剤・・・CAT−RT87:いずれも東洋モートン(株)製)の主剤と硬化剤とを、質量比で5/1で混合し、酢酸エチルにて固形分濃度10wt%に調整し、塗工液(9)を得た。
【0159】
(10)塗工液(10)の作製
フッ素系コート剤(ゼッフルGK−570:ダイキン工業(株)製)と架橋剤(デュラネートTPA−100:旭化成ケミカルズ(株)製)とを、質量比で5/0.68で混合し、酢酸ブチルにて固形分濃度を10質量%に調整し、塗工液(10)を得た。
【0160】
(11)塗工液(11)の作製
塗工液(3)3619gにカルボジイミド(カルボジライトV‐02:日清紡ケミカル(株)製)20gを低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)において徐々に混合して塗工液(11)を得た。該塗工液(11)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.2156nmであり、アスペクト比Zは460であった。また無機層状化合物と防錆剤との合計量を100質量%としたとき、防錆剤は6.9質量%であった。
【0161】
〔実施例1〕
金属層として、厚さ3mmの鉄板を用いた。金属層上に、塗工液(9)を、バーコータ(♯28)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、アンカーコート層を形成した。次いで、該アンカーコート層上に、前述の塗工液(2)を、バーコータ(♯8)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、塗膜(1)を形成した。その後、該塗膜(1)上に、塗工液(10)をバーコータ(♯28)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、樹脂層を形成し、金属層/アンカーコート層/塗膜(1)/樹脂層という層構成の多層構造体(1)を得た。該アンカーコート層の厚みは20μm、塗膜(1)の厚みは1μm、樹脂層の厚みは20μmであった。得られた多層構造体(1)を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(1A)を得た。該多層構造体(1A)について塩水噴霧試験を3サイクル実施した。結果を表1に示した。多層構造体(1A)の塩水噴霧試験後の写真を
図1に示した。
【0162】
〔比較例1〕
金属層として、厚さ3mmの鉄板を用いた。金属層上に、塗工液(9)を、バーコータ(♯28)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、アンカーコート層を形成した。次いで、該アンカーコート層上に、塗工液(7)をバーコータ(♯28)を用いて塗工し80℃で20分間乾燥した。
塗工液(7)をバーコータ(♯28)を用いて塗工し80℃で20分間乾燥する、という操作を、さらに14回繰り返し塗膜(2)を形成した。その後、該塗膜(2)上に、塗工液(10)をバーコータ(♯28)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、樹脂層を形成し、金属層/アンカーコート層/塗膜(2)/樹脂層という層構成の多層構造体(2)を得た。該アンカーコート層の厚みは20μm、塗膜(2)の厚みは30μm、樹脂層の厚みは20μmであった。得られた多層構造体(2)を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(2A)を得た。該多層構造体(2A)について塩水噴霧試験を3サイクル実施した。結果を表1に示した。多層構造体(2A)の塩水噴霧試験後の写真を
図2に示した。
【0163】
〔比較例2〕
塗工液(2)の代わりに、塗工液(1)を用いて塗膜(3)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、金属層/アンカーコート層/塗膜(3)/樹脂層という層構成の多層構造体(3)を得た。該アンカーコート層の厚みは20μm、塗膜(3)の厚みは1μm、樹脂層の厚みは20μmであった。得られた多層構造体(3)を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(3A)を得た。該多層構造体(3A)について塩水噴霧試験を3サイクル実施した。結果を表1に示した。多層構造体(3A)の塩水噴霧試験後の写真を
図3に示した。
【0164】
〔比較例3〕
塗工液(2)を用いないこと以外は実施例1と同様にして、金属層/アンカーコート層/樹脂層という層構成の多層構造体(4)を得た。該アンカーコート層の厚みは20μm、樹脂層の厚みは20μmであった。得られた多層構造体(4)を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(4A)を得た。該多層構造体(4A)について塩水噴霧試験を3サイクル実施した。結果を表1に示した。多層構造体(4A)の塩水噴霧試験後の写真を
図4に示した。
【0165】
〔比較例4〕
塗工液(2)の代わりに、塗工液(7)を用いて塗膜(5)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、金属層/アンカーコート層/塗膜(5)/樹脂層という層構成の多層構造体(5)を得た。該アンカーコート層の厚みは20μm、塗膜(5)の厚みは1μm、樹脂層の厚みは20μmであった。得られた多層構造体を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(5A)を得た。該多層構造体(5A)について塩水噴霧試験を3サイクル実施した。結果を表1に示した。多層構造体(5A)の塩水噴霧試験後の写真を
図5に示した。
【0166】
〔比較例5〕
金属層として、厚さ3mmの鉄板を用いた。金属層上に、塗工液(8)をバーコータ(♯8)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、防錆剤層を形成した。次いで該防錆剤層上に、塗工液(9)を、バーコータ(♯28)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、アンカーコート層を形成した。次いで、該アンカーコート層上に、前述の塗工液(1)を、バーコータ(♯8)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、塗膜(6)を形成した。その後、該塗膜(6)上に、塗工液(10)をバーコータ(♯28)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、樹脂層を形成し、金属層/防錆剤層/アンカーコート層/塗膜(6)/樹脂層という層構成の多層構造体(6)を得た。該防錆剤層の厚みは0.1μm以下、該アンカーコート層の厚みは20μm、塗膜(6)の厚みは1μm、樹脂層の厚みは20μmであった。得られた多層構造体(6)を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(6A)を得た。該多層構造体(6A)について塩水噴霧試験を3サイクル実施した。結果を表1に示した。多層構造体(6A)の塩水噴霧試験後の写真を
図6に示した。
【0167】
【表1】
【0168】
〔実施例2〕
金属層として、厚さ2.5mmの銅板を用いた。金属層上に、塗工液(3)を、バーコータ(♯8)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、塗膜(7)を形成し、金属層と塗膜(7)とからなる多層構造体(7)を得た。該塗膜(7)の厚みは1μmであった。得られた多層構造体(7)を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(7A)を得た。該多層構造体(7A)について塩水噴霧試験を1サイクル実施した。結果を表2に示した。
【0169】
〔実施例3〕
塗工液(3)の代わりに、塗工液(4)を用いて塗膜(8)を形成したこと以外は実施例2と同様にして、金属層と塗膜(8)とからなる多層構造体(8)を得た。該塗膜(8)の厚みは1μmであった。得られた多層構造体(8)を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(8A)を得た。該多層構造体(8A)について塩水噴霧試験を1サイクル実施した。結果を表2に示した。
【0170】
〔実施例4〕
塗工液(3)の代わりに、塗工液(5)を用いて塗膜(9)を形成したこと以外は実施例2と同様にして、金属層と塗膜(9)とからなる多層構造体(9)を得た。該塗膜(9)の厚みは1μmであった。得られた多層構造体(9)を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(9A)を得た。該多層構造体(9A)について塩水噴霧試験を1サイクル実施した。結果を表2に示した。
【0171】
〔実施例5〕
塗工液(3)の代わりに、塗工液(6)を用いて塗膜(10)を形成したこと以外は実施例2と同様にして、金属層と塗膜(10)とからなる多層構造体(10)を得た。該塗膜(10)の厚みは1μmであった。得られた多層構造体(10)を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(10A)を得た。該多層構造体(10A)について塩水噴霧試験を1サイクル実施した。結果を表2に示した。
【0172】
〔実施例6〕
金属層として、厚さ2.5mmの銅板を用いた。金属層上に、塗工液(3)を、バーコータ(♯8)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、塗膜(11)を形成し、金属層と塗膜(11)とからなる多層構造体(11)を得た。該塗膜(11)の厚みは1μmであった。得られた多層構造体(11)を、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(11A)を得た。該多層構造体(11A)について塩水噴霧試験を1サイクル実施した。結果を表2に示した。
【0173】
〔実施例7〕
塗工液(3)の代わりに、塗工液(11)を用いて塗膜(12)を形成したこと以外は実施例6と同様にして、多層構造体(12)を得た。該塗膜(12)の厚みは1μmであった。得られた多層構造体を23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(12A)を得た。該多層構造体(12A)について塩水噴霧試験を1サイクル実施した。結果を表2に示した。
【0174】
【表2】
【0175】
〔参考例1〕
厚さ3mmの鉄板の代わりに、厚さ25μmの二軸延伸ナイロンフィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、多層構造体(1B)を得た。該多層構造体(1B)の酸素透過度の測定結果を表3に示した。
【0176】
〔参考例2〕
厚さ3mmの鉄板の代わりに、厚さ25μmの二軸延伸ナイロンフィルムを用いたこと以外は比較例1と同様にして、多層構造体(2B)を得た。該多層構造体(2B)の酸素透過度の測定結果を表3に示した。
【0177】
〔参考例3〕
厚さ3mmの鉄板の代わりに、厚さ25μmの二軸延伸ナイロンフィルムを用いたこと以外は比較例2と同様にして、多層構造体(3B)を得た。該多層構造体(3B)の酸素透過度の測定結果を表3に示した。
【0178】
〔参考例4〕
厚さ3mmの鉄板の代わりに、厚さ25μmの二軸延伸ナイロンフィルムを用いたこと以外は比較例3と同様にして、多層構造体(4B)を得た。該多層構造体(4B)の酸素透過度の測定結果を表3に示した。
【0179】
〔参考例5〕
厚さ3mmの鉄板の代わりに、厚さ25μmの二軸延伸ナイロンフィルムを用いたこと以外は比較例4と同様にして、多層構造体(5B)を得た。該多層構造体(5B)の酸素透過度の測定結果を表3に示した。
【0180】
〔参考例6〕
厚さ3mmの鉄板の代わりに、厚さ25μmの二軸延伸ナイロンフィルムを用いたこと以外は比較例5と同様にして、多層構造体(6B)を得た。該多層構造体(6B)の酸素透過度の測定結果を表3に示した。
【0181】
〔参考例7〕
厚さ2.5mmの銅板の代わりに、厚さ25μmの二軸延伸ナイロンフィルムを用いたこと以外は実施例2と同様にして、多層構造体(7B)を得た。該多層構造体(7B)の酸素透過度の測定結果を表3に示した。
【0182】
〔参考例8〕
厚さ2.5mmの銅板の代わりに、厚さ25μmの二軸延伸ナイロンフィルムを用いたこと以外は実施例3と同様にして、多層構造体(8B)を得た。該多層構造体(8B)の酸素透過度の測定結果を表3に示した。
【0183】
〔参考例9〕
厚さ2.5mmの銅板の代わりに、厚さ25μmの二軸延伸ナイロンフィルムを用いたこと以外は実施例4と同様にして、多層構造体(9B)を得た。該多層構造体(9B)の酸素透過度の測定結果を表3に示した。
【0184】
〔参考例10〕
厚さ2.5mmの銅板の代わりに、厚さ25μmの二軸延伸ナイロンフィルムを用いたこと以外は実施例5と同様にして、多層構造体(10B)を得た。該多層構造体(10B)の酸素透過度の測定結果を表3に示した。
【0185】
【表3】
【0186】
ここで多層構造体の酸素透過度については次式(1)が成立する。
1/Pt=1/Pa+1/Pb 式(1)
Pt:多層構造体の酸素透過度
Pa:層aの酸素透過度
Pb:層bの酸素透過度
基材の二軸延伸ナイロンフィルムの酸素透過度は120cc/m
2・day・atm、防錆剤層、アンカーコート層、樹脂層の酸素透過度はいずれも100cc/m
2・day・atmを超えるため、多層構造体(1B)〜(10B)の酸素透過度は、塗膜の酸素透過度と近似することができる。
【0187】
〔塗工液の作製〕
(13)塗工液(13)の作製
塗工液(1)に、防錆剤として、芳香族化合物塩と複素環化合物の混合物(VERZONEグリーンSH−P:大和化成(株)製)9.2gを低速撹拌下(1500rpm、周速度4.1m/分)において徐々に混合して塗工液(13)を得た。該塗工液(13)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.2156nmであり、アスペクト比Zは460であった。また無機層状化合物と防錆剤との合計量を100質量%としたとき、防錆剤は10質量%であった。
【0188】
(14)塗工液(14)の作製
防錆剤の使用量を54gにしたこと以外は塗工液(13)と同様にして、塗工液(14)を得た。該塗工液(14)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.2156nmであり、アスペクト比Zは460であった。また無機層状化合物と防錆剤との合計量を100質量%としたとき、防錆剤は40質量%であった。
【0189】
(15)塗工液(15)の作製
防錆剤の使用量を82gにしたこと以外は塗工液(13)と同様にして、塗工液(15)を得た。該塗工液(15)中の劈開したモンモリロナイト平均粒径Lは560nm、粉末X線回折から得られるa値は1.2156nmであり、アスペクト比Zは460であった。また無機層状化合物と防錆剤との合計量を100質量%としたとき、防錆剤は50質量%であった。
【0190】
〔実施例8〕
金属層として、厚さ3mmの銅板を用いた。金属層上に、塗工液(9)を、バーコータ(♯28)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、アンカーコート層を形成した。次いで、該アンカーコート層上に、前述の塗工液(13)を、バーコータ(♯8)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、塗膜(13)を形成した。その後、該塗膜(13)上に、塗工液(10)をバーコータ(♯28)を用いて塗工し、80℃で20分間乾燥することで、樹脂層を形成し、金属層/アンカーコート層/塗膜(13)/樹脂層という層構成の多層構造体(13)を得た。該アンカーコート層の厚みは20μm、塗膜(13)の厚みは1μm、樹脂層の厚みは20μmであった。得られた多層構造体(13)を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(13A)を得た。該多層構造体(13A)について、密着性試験及び金属腐食性試験2を実施した。結果を表4に示した。多層構造体(13A)の金属腐食性試験2後の写真を
図8に示した。
【0191】
〔実施例9〕
塗工液(13)のかわりに、塗工液(14)を用いたこと以外は、実施例8と同様にして、金属層/アンカーコート層/塗膜(14)/樹脂層という層構成の多層構造体(14)を得た。該アンカーコート層の厚みは20μm、塗膜(14)の厚みは1μm、樹脂層の厚みは20μmであった。得られた多層構造体(14)を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(14A)を得た。該多層構造体(14A)について金属腐食性試験2および密着性試験を実施した。結果を表4に示した。多層構造体(14A)の金属腐食性試験2後の写真を
図9に示した。
【0192】
〔実施例10〕
塗工液(13)のかわりに、塗工液(15)を用いたこと以外は、実施例8と同様にして、金属層/アンカーコート層/塗膜(15)/樹脂層という層構成の多層構造体(15)を得た。該アンカーコート層の厚みは20μm、塗膜(14)の厚みは1μm、樹脂層の厚みは20μmであった。得られた多層構造体(15)を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(15A)を得た。該多層構造体(15A)について金属腐食性試験2および密着性試験を実施した。結果を表4に示した。多層構造体(15A)の金属腐食性試験2後の写真を
図10に示した。
【0193】
〔比較例6〕
塗工液(13)のかわりに、塗工液(1)を用いて塗膜(16)を形成したこと以外は、実施例8と同様にして、金属層/アンカーコート層/塗膜(16)/樹脂層という層構成の多層構造体(16)を得た。該アンカーコート層の厚みは20μm、塗膜(16)の厚みは1μm、樹脂層の厚みは20μmであった。得られた多層構造体(16)を乾熱処理した後、23℃、50%RH雰囲気下で24時間エージングして、多層構造体(16A)を得た。該多層構造体(16A)について金属腐食性試験2および密着性試験を実施した。結果を表4に示した。多層構造体(16A)の金属腐食性試験2後の写真を
図11に示した。
【0194】
【表4】