特許第6802362号(P6802362)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6802362固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802362
(24)【登録日】2020年11月30日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20201207BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20201207BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20201207BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20201207BHJP
【FI】
   H01M4/96 M
   H01M8/10 101
   H01M4/88 C
   B01J32/00
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-509442(P2019-509442)
(86)(22)【出願日】2018年4月2日
(86)【国際出願番号】JP2018014174
(87)【国際公開番号】WO2018182047
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2019年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2017-70830(P2017-70830)
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯島 孝
(72)【発明者】
【氏名】多田 若菜
(72)【発明者】
【氏名】正木 一嘉
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/129597(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/088025(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/141810(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/075264(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86−98
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元的に分岐した3次元樹状構造を有する多孔質炭素材料であって、枝径が81nm以下であり、下記の(A)及び(B)を同時に満たす固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料。
(A)窒素ガス吸着等温線のBET解析により求められるBET比表面積SBETが400〜1500m2/gであること。
(B)水銀ポロシメトリ法により測定される水銀圧力PHg(kPa)と水銀吸収量VHgとの関係において、前記水銀圧力PHgの常用対数LogPHgが4.3から4.8に増加した際に測定される水銀吸収量VHgの増加分ΔVHg:4.3-4.8が0.82〜1.50cc/gであること。
【請求項2】
窒素ガス吸着等温線において、相対圧p/p0が0.4から0.8までの間に吸着された窒素ガス吸着量VN:0.4-0.8が100〜300cc(STP)/gである請求項1に記載の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料。
【請求項3】
ラマン分光スペクトルの1580cm-1近傍に検出されるG-バンドピークの半値全幅ΔGが50〜70cm-1である請求項1又は2に記載の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料。
【請求項4】
前記水銀圧力PHgの常用対数LogPHgが4.3から4.8に増加した際に測定される水銀吸収量VHgの増加分ΔVHg:4.3-4.8が0.85〜1.40cc/gである請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料。
【請求項5】
硝酸銀のアンモニア水溶液からなる反応溶液中にアセチレンガスを吹き込んで銀アセチリドを合成するアセチリド生成工程と、
前記銀アセチリドを40〜80℃の温度で加熱処理して銀粒子内包中間体を作成する第1の加熱処理工程と、
前記銀粒子内包中間体を120〜400℃の温度で自己分解爆発反応させて炭素材料中間体を得る第2の加熱処理工程と、
前記炭素材料中間体を酸と接触させてこの炭素材料中間体を清浄化する洗浄処理工程と、
前記清浄化された炭素材料中間体を真空中又は不活性ガス雰囲気中1400〜2300℃の温度で加熱処理して触媒担体用炭素材料を得る第3の加熱処理工程と、
を有し、
前記アセチリド生成工程において、反応溶液調製時における反応溶液中の硝酸銀濃度を10〜28質量%にすると共に、反応溶液の温度を25〜50℃に加温する固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料の製造方法。
【請求項6】
前記アセチリド生成工程では、反応溶液中へのアセチレンガスの吹込みを複数の吹込み口から行う請求項5に記載の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料の製造方法。
【請求項7】
前記反応溶液中へのアセチレンガスの吹込みを2〜4ヶ所の吹込み口から行う請求項6に記載の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料の製造方法。
【請求項8】
前記反応溶液中にアセチレンガスを吹き込む複数の吹込み口が、反応溶液の液面周縁部に互いに等間隔で配置されている請求項6又は7に記載の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、100℃以下の低温で作動可能な固体高分子形燃料電池が注目され、車両用駆動電源及び定置型発電装置として、開発及び実用化が進められている。そして、一般的な固体高分子形燃料電池の基本構造(単位セル)は、プロトン伝導性の電解質膜を挟んで、その両外側に、それぞれアノード及びカソードとなる触媒層が配置された膜電極接合体(MEA: Membrane Electrode Assembly)と、この膜電極接合体を挟んで、それぞれ触媒層の外側に配置されたガス拡散層と、更にこれらガス拡散層の外側に配置されたセパレーターと、からなる構造を有している。固体高分子形燃料電池は、通常、必要な出力を達成するために、必要な数の単位セルをスタックする構造となっている。
【0003】
そして、このような固体高分子形燃料電池の単位セルにおいては、アノード側とカソード側にそれぞれ配されたセパレーターのガス流路から、カソード側には酸素、空気等の酸化性ガスを、また、アノード側には水素等の燃料をそれぞれ供給する。これら供給された酸化性ガス及び燃料(これらを「反応ガス」ということがある。)を、それぞれガス拡散層を介して触媒層まで供給し、アノードの触媒層で起こる化学反応と、カソードの触媒層で起こる化学反応との間のエネルギー差(電位差)を利用して仕事を取り出している。例えば、燃料として水素ガスが使用され、酸化性ガスとして酸素ガスが使用される場合には、アノードの触媒層で起こる化学反応〔酸化反応:H2→2H++2e-(E0=0V)〕と、カソードの触媒層で起こる化学反応〔還元反応:O2+4H++4e-→2H2O(E0=1.23V)〕とのエネルギー差(電位差)を仕事として取り出している。
【0004】
ここで、上記の触媒層を形成して化学反応を生起させる触媒については、通常、触媒担体として、電子伝導性、化学的安定性、及び電気化学的安定性の観点から、多孔質炭素材料が用いられる。また、触媒金属としては、強酸性環境下での使用が可能であって、酸化反応及び還元反応に対して共に高い反応活性を示す、Pt又はPt合金が主として用いられている。そして、触媒金属については、一般に、上記の酸化反応及び還元反応が、触媒金属上で起きるので、この触媒金属の利用率を高めるためには、質量当りの比表面積を大きくすることが必要になる。そのため、触媒金属は、通常は数nm程度の大きさの粒子が用いられている。
【0005】
このような触媒金属を担持する触媒担体については、担体としての担持能力を高めるために(すなわち、上記の数nm程度の触媒金属を吸着して担持するためのサイトを多くするために)、比表面積の大きな多孔質炭素材料であることが重要である。それと共に、上記の触媒金属を可及的に高分散状態で担持するように、大きなメソ孔容積(細孔直径2〜50nmのメソ孔の容積)を有する多孔質炭素材料であることが求められている。同時に、アノード及びカソードとなる触媒層を形成した際には、この触媒層中に供給された反応ガスを抵抗なく拡散させ、また、この触媒層中で生成した水(生成水)を遅滞なく排出させることが求められる。このために、この触媒層中には、反応ガスの拡散及び生成水の排出に適した微細孔が形成されることが重要である。
【0006】
そこで、従来においては、比較的大きな比表面積及びメソ孔容積を有し、同時に、立体的に枝が発達した樹状構造を持つ多孔質炭素材料として、例えばCABOT社製バルカンXC-72、ライオン社製EC600JD、及びライオン社製EC300が用いられている。また、触媒担体用炭素材料として、より好適な比表面積及びメソ孔容積を有すると共に、より好適な樹状構造を持つ多孔質炭素材料を開発するための試みも行われている。近年、特に注目され始めた多孔質炭素材料として、3次元的に分岐した3次元樹状構造を持つ銀アセチリド等の金属アセチリドが中間体として製造され、この3次元樹状構造を維持した樹状炭素ナノ構造体がある。3次元樹状構造を維持した樹状炭素ナノ構造体は、これまでにも幾つかの提案がされている。
【0007】
例えば、特許文献1には、長期に亘って電流量の低下率が低く、耐久性に優れた固体高分子形燃料電池用の触媒として調製可能な触媒担体用炭素材料が提案されている。具体的には、下記の工程からなる製造方法で調製された多孔質炭素材料が提案されている。
金属又は金属塩を含む溶液を準備する工程と、
前記溶液にアセチレンガスを吹き込んで金属アセチリドからなる樹状の炭素ナノ構造体を生成させる工程と、
この炭素ナノ構造体を60〜80℃で加熱して前記樹状の炭素ナノ構造体中に金属が内包された金属内包樹状炭素ナノ構造物を作製する工程と、
この金属内包樹状炭素ナノ構造物を160〜200℃に加熱して金属を噴出させ、樹状の炭素メソポーラス構造体を作製する工程と、
この炭素メソポーラス構造体を減圧雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で1600〜2200℃に加熱する工程と、からなる。そして、この多孔質炭素材料は、窒素吸着等温線をDollimore-Heal法で解析して求められる細孔径1〜20nm及び積算細孔容積0.2〜1.5cc/gを有すると共に、BET比表面積200〜1300m2/gを有する。
【0008】
また、特許文献2においては、高加湿条件下で高い電池性能を発揮し得る固体高分子形燃料電池用触媒として調製可能な担体炭素材料が提案されている。具体的には、下記の工程からなる製造方法で調製された多孔質炭素材料が提案されている。
金属又は金属塩を含むアンモニア水溶液中にアセチレンガスを吹き込んで金属アセチリドを生成させるアセチリド生成工程と、
前記金属アセチリドを60〜80℃の温度で加熱して金属粒子内包中間体を作成する第1の加熱処理工程と、
前記金属粒子内包中間体を120〜200℃の温度で加熱してこの金属粒子内包中間体から金属粒子を噴出させ、炭素材料中間体を得る第2の加熱処理工程と、
前記炭素材料中間体を熱濃硫酸と接触させてこの炭素材料中間体を清浄化する洗浄処理工程と、
更に清浄化された炭素材料中間体を1000〜2100℃で加熱処理して担体炭素材料を得る第3の加熱処理工程と、からなる。そして、この多孔質炭素材料は、所定の水素含有量を有すると共に、BET比表面積600〜1500m2/g、及びラマン分光スペクトルから得られるD-バンド1200〜1400cm-1の範囲のピーク強度lDとG-バンド1500〜1700cm-1の範囲のピーク強度lGとの相対強度比lD/lG1.0〜2.0を有する。
【0009】
更に、特許文献3においては、高い発電性能を維持しつつ電位変動に対して優れた耐久性を発現し得る固体高分子形燃料電池用触媒として調製可能な触媒担体用炭素材料が提案されている。具体的には、下記の工程を有する製造方法で調製された多孔質炭素材料が提案されている。
金属又は金属塩を含むアンモニア水溶液中にアセチレンガスを吹き込んで金属アセチリドを生成させるアセチリド生成工程と、
前記金属アセチリドを40〜80℃の温度で加熱して金属粒子内包中間体を作成する第1の加熱処理工程と、
前記金属粒子内包中間体を圧密成形し、得られた成形体を毎分100℃以上の昇温速度で400℃以上まで加熱してこの金属粒子内包中間体から金属粒子を噴出させ、炭素材料中間体を得る第2の加熱処理工程と、
前記炭素材料中間体を熱濃硝酸又は熱濃硫酸と接触させてこの炭素材料中間体を清浄化する洗浄処理工程と、
更に清浄化された炭素材料中間体を真空中又は不活性ガス雰囲気中1400〜2100℃で加熱処理して担体炭素材料を得る第3の加熱処理工程と、を有する。そして、この多孔質炭素材料は、下記の特性を有する。
吸着過程の窒素吸着等温線をDollimore-Heal法で解析して求められる細孔直径2〜50nmのメソ孔の比表面積SAが600〜1600m2/gであり、
ラマン分光スペクトルにおけるG’-バンド2650〜2700cm-1の範囲のピーク強度lG’とG-バンド1550〜1650cm-1の範囲のピーク強度lGとの相対強度比lG’/lGが0.8〜2.2であり、
メソ孔の内の細孔直径2nm以上10nm未満のメソ孔の比細孔面積S2-10が400〜1100m2/gであって比細孔容積V2-10が0.4〜1.6cc/gであり、
メソ孔の内の細孔直径10nm以上50nm以下のメソ孔の比細孔面積S10-50が20〜150m2/gであって比細孔容積V2-10が0.4〜1.6cc/gであり、
吸着過程の窒素吸着等温線をHorvath-Kawazoe法で解析して求められる細孔直径2nm未満の細孔の比細孔面積S2が250〜550m2/gである。
【0010】
更にまた、特許文献4においては、起動・停止といった負荷変動の繰り返しに対する耐久性に優れ、また、低加湿時の運転条件下での発電性能に優れている固体高分子形燃料電池用触媒として調製可能な触媒担体用炭素材料が提案されている。具体的には、金属アセチリドを中間体として自己分解爆発反応を経て調製された樹状炭素ナノ構造を有する多孔質炭素材料〔新日鉄住金化学社製商品名:エスカーボン(ESCARBON)(登録商標)-MCND〕を原料として用い、黒鉛化処理を行った後に、更に過酸化水素、硝酸、液中プラズマ装置等を用いた酸化処理を行って得られた触媒担体用炭素材料が提案されている。そして、この触媒担体用炭素材料は、下記の特性を有する。
酸素含有量OICPが0.1〜3.0質量%、
不活性ガス(又は真空)雰囲気中1200℃の熱処理後に残存する酸素残存量O1200℃が0.1〜1.5質量%、
BET比表面積が300〜1500m2/g、
ラマン分光スペクトルの1550〜1650cm-1の範囲に検出されるG-バンドの半値幅ΔGが30〜70cm-1、及び、
不活性ガス(又は真空)雰囲気中1200℃の熱処理後に残存する水素残存量H1200℃が0.005〜0.080質量%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
特許文献1:WO 2014/129597 A1
特許文献2:WO 2015/088025 A1
特許文献3:WO 2015/141810 A1
特許文献4:WO 2016/133132 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の特許文献1〜4に記載された触媒担体用炭素材料は、いずれも固体高分子形燃料電池用触媒を調製する上で、それぞれ所定の発電特性を発揮するものではある。しかしながら、本発明者らが、その発電特性について詳細に検討したところ、耐久性を維持しつつ、大電流時の出力電圧(特に自動車用燃料電池として利用した際に大出力を引き出す上で重要な大電流(重負荷)特性)を高めることにおいて、更に改善の余地があることが判明した。そして、この大電流時の出力電圧を高めるためには、上述したように、触媒担体に対して、触媒金属の白金を十分にかつ高分散状態で担持させる上で比較的大きな比表面積及びメソ孔容積が重要である。加えて、触媒層を形成した際に、この触媒層中に形成される微細孔が、反応ガスの拡散及び生成水の排出に対して、より適切な状態になることが重要である。
【0013】
そこで、本発明者らは、先ず、触媒層の微細孔内での拡散と触媒担体内部の担体細孔内での拡散のどちらが酸素及び水蒸気の拡散により大きな影響を与えるかについて詳細に考察した。具体的には、固体高分子形燃料電池において、発電特性に大きく影響する過電圧に関して、一般に、大電流時の過電圧の原因が、主に触媒層に供給される酸素の拡散と、この触媒層から排出される生成水(水蒸気)の拡散とにあると認められている。このことから、大電流時の過電圧の主な原因となる、これら酸素及び水蒸気の拡散について検討した。そして、本発明者らは、上記の微細孔及び担体細孔の内部で起こると考えられる拡散の機構から考察して、結論として、孔径と拡散長との比(拡散長/孔径)で、律速行程の大まかな目星を付けることが可能ではないかとの考えに至った。この考えの下に、触媒層での酸素及び水蒸気の拡散律速は、触媒担体内部の担体細孔内での拡散にあるのではなく、触媒層の微細孔内での拡散にあると考えた。
【0014】
そして、本発明者らは、大電流時の出力電圧を高めることについて更に検討を進めた。具体的には、触媒層に求められる大電流特性以外の発電特性及び耐久性を低下させることなく、上記の酸素及び水蒸気の拡散律速となる触媒層の微細孔を最適化して、触媒層内での酸素及び水蒸気の拡散を改善し、これによって大電流(重負荷)特性を改善することを検討した。その結果、上記特許文献1〜4で提案された樹状炭素ナノ構造体の3次元樹状構造を、より最適化すること(特に樹状炭素ナノ構造体の製造時に形成される3次元樹状構造の枝径が細くなるように制御すること)により、触媒層を形成した際に、触媒層内に適切な大きさの微細孔が形成されて、大電流(重負荷)特性が改善されるのではないかとの考えに至った。
【0015】
そこで、本発明者らは、先ず、この大電流(重負荷)特性によく相関する多孔質炭素材料の物性を見出した。そして、多孔質炭素材料の物性値により、最適な構造を想定することを検討した。次に、この想定された構造を持つ多孔質炭素材料の合成方法を検討することとした。
そして、前者の検討に際しては、従来のカーボンブラックのアグリゲート構造(樹状構造に対応する呼称)を表す工業的指標として知られている典型的なDBP吸油量法を試みた。しかし、このDBP吸油量法は、樹状炭素ナノ構造体同士の比較のように、細孔構造が概略同じ材料同士の比較には、ある程度有効ではある。一方、比較検討が、ケッチェンブラック、活性炭、樹状炭素ナノ構造体等のように、互いに異なる細孔構造を持つ様々な多孔質炭素材料にまで拡がると、これらの材料の間で樹状構造及び細孔容積が異なっていても、そのことが適切に反映されない。したがって、典型的なDBP吸油量法による材料の比較は適さないことが判明した。また、ガス電極の多孔性を評価する他の代表的な方法として、ガス透過性を測定する方法も知られている。しかし、この方法は、膜状の物質には、好適に適用可能である。一方、この方法は、粉体の物質には適用することができない。また、様々な多孔質炭素材料の測定に適した膜状に成形することが難しい。したがって、この方法も適さないことが判明した。
【0016】
近年、水銀ポロシメトリ法(水銀圧入法)が最高圧力400MPa程度にまで加圧可能になり、理論上は3nm位の細孔まで評価できるようになった。このことに着目し、大電流(重負荷)特性によく相関する多孔質炭素材料の物性を更に検討した。この水銀ポロシメトリ法の適用について鋭意検討した結果、粉体の測定にはあまり適さないとされていたが、粉体を軽く圧密して塊状に成形することにより、再現性良く、且つ、材料の構造を正確に反映する測定値が得られることを見出した。更に、この方法を用いて、水銀吸収量VHgと水銀圧力PHgとの関係を検討した結果、水銀圧力PHgの常用対数LogPHgが4.3から4.8に増加した際に測定される水銀吸収量VHgの増加分ΔVHg:4.3-4.8が、大電流特性を反映する指標に適することを見出し、且つ、最適化された樹状炭素ナノ構造体の3次元樹状構造を定量的に評価できることを見出した。
【0017】
そして、上記の水銀ポロシメトリ法の適用で、想定された構造を持つ多孔質炭素材料の合成方法については、以下の検討を行った。
上記特許文献1〜4で提案された触媒担体用炭素材料の製造方法について詳細に検討した。銀アセチリドを合成するアセチリド生成工程においては、硝酸銀のアンモニア水溶液からなる反応溶液中に、アセチレンガスを吹き込んで、銀アセチリドを合成している。そして、このアセチレンガスの吹込みに際して、反応溶液調製時における反応溶液中の硝酸銀濃度を5質量%程度に調整すると共に、反応溶液の温度を室温(25℃)以下の温度で反応させている。そこで、本発明者らは、このアセチリド生成工程において、次のように考えた。反応溶液調製時の硝酸銀濃度を、従来よりも高くすると共に、反応温度を従来の反応温度と同じ、又はそれ以上にすることで、反応溶液中の硝酸銀と反応溶液中に吹き込まれるアセチレンとの反応性を高める(又は反応点を多くする)。このことにより、平均的に分岐数が増加して、枝径が細くなった3次元樹状構造を持つ銀アセチリドが生成する。この銀アセチリドを用いて調製される樹状炭素ナノ構造体においても、銀アセチリドの枝の分岐数及び枝径がそのまま維持される。そして、このように枝の分岐数が増加して枝径が細くなった3次元樹状構造を持つ樹状炭素ナノ構造体を用いて触媒層を形成すると、形成される触媒層内の微細孔が最適化されて大電流(重負荷)特性が改善される。
【0018】
このような考えのもとに、アセチリド生成工程での銀アセチリド合成に際し、反応溶液中の硝酸銀濃度を大幅に高くすると共に、反応温度を従来の常温(25℃)以上にして3次元樹状構造を有する銀アセチリドを生成させる。そして、得られた銀アセチリドを用いて、これまでと同様に、所定の第1の加熱処理工程、第2の加熱処理工程、洗浄処理工程、及び第3の加熱処理工程を実施して、樹状炭素ナノ構造体を調製する。この調製された樹状炭素ナノ構造体を触媒担体として、従来と同様にした触媒を調製し、また触媒層を調製し、更にMEAを作製して電池性能を調べた。その結果、上記のようにして調製された銀アセチリドを用いて樹状炭素ナノ構造体を調製し、この樹状炭素ナノ構造体を触媒担体として利用することにより、固体高分子形燃料電池の大電流(重負荷)特性を有為に改善できることを突き止めた。
【0019】
本開示は、上述した各知見に基づいて発明されたものであり、その目的とするところは、耐久性を維持しつつ、大電流(重負荷)特性(大電流時の出力電圧)に優れた固体高分子形燃料電池の触媒を製造する上で好適な触媒担体用炭素材料を提供することにある。
また、本開示の他の目的は、このような固体高分子形燃料電池の触媒を製造する上で有用な触媒担体用炭素材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
すなわち、本開示の触媒担体用炭素材料は以下のとおりの態様を含む。
(1)
3次元的に分岐した3次元樹状構造を有する多孔質炭素材料であって、枝径が81nm以下であり、下記の(A)及び(B)を同時に満たす固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料。
(A)窒素ガス吸着等温線のBET解析により求められるBET比表面積SBETが400〜1500m2/gであること。
(B)水銀ポロシメトリ法により測定される水銀圧力PHgと水銀吸収量VHgとの関係において、前記水銀圧力PHgの常用対数LogPHgが4.3から4.8に増加した際に測定される水銀吸収量VHgの増加分ΔVHg:4.3-4.8が0.82〜1.50cc/gであること。
(2)
窒素ガス吸着等温線において、相対圧p/p0が0.4から0.8までの間に吸着された窒素ガス吸着量VN:0.4-0.8が100〜300cc(STP)/gである前記(1)に記載の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料。
(3)
ラマン分光スペクトルの1580cm-1近傍に検出されるG-バンドピークの半値全幅ΔGが50〜70cm-1である前記(1)又は(2)に記載の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料。
(4)
前記水銀圧力PHgの常用対数LogPHgが4.3から4.8に増加した際に測定される水銀吸収量VHgの増加分ΔVHg:4.3-4.8が0.85〜1.40cc/gである前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料。
【0021】
(5)
硝酸銀のアンモニア水溶液からなる反応溶液中にアセチレンガスを吹き込んで銀アセチリドを合成するアセチリド生成工程と、
前記銀アセチリドを40〜80℃の温度で加熱処理して銀粒子内包中間体を作成する第1の加熱処理工程と、
前記銀粒子内包中間体を120〜400℃の温度で自己分解爆発反応させて炭素材料中間体を得る第2の加熱処理工程と、
前記炭素材料中間体を酸と接触させてこの炭素材料中間体を清浄化する洗浄処理工程と、
前記清浄化された炭素材料中間体を真空中又は不活性ガス雰囲気中1400〜2300℃の温度で加熱処理して触媒担体用炭素材料を得る第3の加熱処理工程と、
を有し、
前記アセチリド生成工程において、反応溶液調製時における反応溶液中の硝酸銀濃度を10〜28質量%にすると共に、反応溶液の温度を25〜50℃に加温する固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料の製造方法。
(6)
前記アセチリド生成工程では、反応溶液中へのアセチレンガスの吹込みを複数の吹込み口から行う前記(5)に記載の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料の製造方法。
(7)
前記反応溶液中へのアセチレンガスの吹込みを2〜4ヶ所の吹込み口から行う前記(6)に記載の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料の製造方法。
(8)
前記反応溶液中にアセチレンガスを吹き込む複数の吹込み口が、反応溶液の液面周縁部に互いに等間隔で配置されている前記(6)又は(7)に記載の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本開示の触媒担体用炭素材料によれば、耐久性を維持しつつ、大電流(重負荷)特性が改善されて大電流時の出力電圧の高い固体高分子形燃料電池の触媒を製造する上で好適な触媒担体を提供することができる。
また、本開示の製造方法によれば、耐久性を維持しつつ、大電流(重負荷)特性が改善されて大電流時の出力電圧の高い固体高分子形燃料電池の触媒を製造するのに適した触媒担体用炭素材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の実験例21、並びに、実験例25、27、30、及び31の触媒担体用炭素材料について、水銀ポロシメトリ法で測定された水銀圧力PHg−水銀吸収量VHgの関係を示すグラフ図である。
図2】本開示の触媒担体用炭素材料について、SEM観察した際の枝径を測定するための測定方法を表す写真である。
図3】本開示の触媒担体用炭素材料について、枝径の測定方法を表す説明図である。
図4】本開示のアセチリド生成工程における反応溶液中にアセチレンガスを吹き込む装置の一例を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料及びその製造方法について、好ましい実施形態の一例を詳細に説明する。
本開示の固体高分子形燃料電池の触媒担体用炭素材料は、枝径が81nm以下であり、下記の(A)及び(B)を同時に満たす3次元的に分岐した3次元樹状構造を有する多孔質炭素材料である。
(A)窒素ガス吸着等温線のBET解析により求められるBET比表面積SBETが400〜1500m2/gであること。
(B)水銀ポロシメトリ法により測定される水銀圧力PHgと水銀吸収量VHgとの関係において、前記水銀圧力PHgの常用対数LogPHgが4.3から4.8に増加した際に測定される水銀吸収量VHgの増加分ΔVHg:4.3-4.8が0.82〜1.50cc/gであること。
ここで、本開示において、水銀吸収量VHgの単位はcc/g、及び水銀圧力PHgの単位はkPaである。また、窒素ガス吸着量の単位はcc(STP)/g、BET比表面積SBETの単位はm2/g、枝径の単位はnm、及びG-バンドピークの半値全幅の単位はcm-1である。
【0025】
本開示の触媒担体用炭素材料は、3次元的に分岐した3次元樹状構造を有する多孔質炭素材料であればよい。3次元的に分岐した3次元樹状構造を有する多孔質炭素材料は、好ましくは樹状炭素ナノ構造体からなるものである。具体的には、この樹状炭素ナノ構造体は3次元樹状構造を有する銀アセチリドを中間体として得られるものである。そして、この触媒担体用炭素材料については、BET比表面積SBETが400m2/g以上1500m2/g以下、好ましくは500m2/g以上1400m2/g以下である。このBET比表面積SBETが400m2/g未満であると、細孔内に触媒金属微粒子を高密度に担持し難くなる虞がある。また、1500m2/gを超えて大きくなるようにすると、実質的な結晶性の低下を伴って耐久性が低下し易くなる虞がある。
【0026】
ここで、樹状炭素ナノ構造体とは、枝径が、10nm以上、数100nm以下(例えば、500nm以下、好ましくは200nm以下)である樹状炭素構造体を示す。枝径は、後述する実施例のように、走査型電子顕微鏡(SEM;日立ハイテク社製SU−9000)により、10万倍(2.5μm×2μm)の倍率で5視野のSEM画像を観察し、各視野の画像上でそれぞれ20ヶ所の枝径を計測し、総計100ヶ所の測定値の平均値を枝径の値とする。なお、計測する枝径は、注目する枝について、隣接する2つ分岐点間の中央部(枝分かれしている枝の中間部)での太さを計測して、枝径とするものである(図2参照。図2中、Dは1箇所当たりの枝径を示す)。ここで、図3を参照して、枝径の測定方法を説明する。図3では、1箇所の注目する枝を示している。この注目する枝について、枝分かれする分岐点BP1と分岐点BP2とを特定する。次に、特定した分岐点BP1と分岐点BP2とを結び、分岐点BP1と分岐点BP2とを結んだ垂直二等分線BCとなる位置で、枝の太さ(幅)を計測する。この計測した枝の太さが1箇所当たりの枝径Dである。
【0027】
また、本開示の触媒担体用炭素材料は、水銀ポロシメトリ法により測定される水銀圧力PHgと水銀吸収量VHgとの関係において、水銀圧力PHgの常用対数LogPHgが4.3から4.8に増加した際に測定される水銀吸収量VHgの増加分ΔVHg:4.3-4.8が0.82cc/g以上1.50cc/g以下である。好ましくは0.85cc/g以上1.40cc/g以下である。この水銀吸収量VHgの増加分ΔVHg:4.3-4.8が0.82cc/g未満であると、大電流(重負荷)特性を改善するのが難しくなる。また、1.50cc/gを超えて大きくなると、触媒インク製造時の分散性改善のためのシェア印加工程、及び触媒層をプロトン伝導膜へ接着する際の熱圧着工程において、発達した樹状構造が機械的に破壊して、触媒層中の微細孔が潰れる虞が生じる。
【0028】
また、本開示の触媒担体用炭素材料は、触媒層中に形成される微細孔の内部におけるガス拡散性の観点から、前記窒素ガス吸着等温線において、相対圧p/p0が0.4から0.8までの間に吸着される窒素ガス吸着量VN:0.4-0.8が、100cc(STP)/g以上300cc(STP)/g以下であることが好ましい。より好ましくは120cc(STP)/g以上250cc(STP)/g以下である。更に、結晶性を高めて耐久性を改善するという観点から、ラマン分光スペクトルの1580cm-1に検出されるG-バンドピークの半値全幅ΔGが50cm-1以上70cm-1以下であることが好ましい。より好ましくは50cm-1以上65cm-1以下である。ここで、上記の窒素ガス吸着量VN:0.4-0.8が100cc(STP)/g未満であると、触媒金属微粒子を担持するメソ孔サイズの細孔容積が小さくなり、また、触媒層中に形成される微細孔内のガス拡散性も低下して反応抵抗が大きくなる虞が生じる。反対に、300cc(STP)/gを超えて大きくなると細孔を形成する炭素壁が薄くなり過ぎて、材料の機械的強度が低下し、電極製造工程において材料破壊が生じる虞がある。また、上記のG-バンドピークの半値全幅ΔGが50cm-1未満であると、結晶性が高くなり過ぎて細孔壁の凹凸が減少し、細孔壁への触媒金属微粒子の吸着性が低下する虞がある。反対に、70cm-1を超えて大きくなると、結晶性が低過ぎて耐久性が低下する虞がある。
【0029】
また、本開示の触媒担体用炭素材料は、樹状炭素ナノ構造体である場合、その製造中間体である銀アセチリドについて、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定される枝径が81nm以下である。この枝径は、好ましくは59nm以上81nm以下、より好ましくは63nm以上73nm以下である。この銀アセチリドの枝径については、BET比表面積SBET及び水銀吸収量VHgの増加分ΔVHg:4.3-4.8が損なわれない限り、比較的細いものであることが望ましい。しかし、枝径が59nm未満になると、かえって大電流(重負荷)特性の改善がみられなくなる場合がある。また、枝径が81nmを超えて太くなると、目的とする大電流(重負荷)特性の改善が難しくなる。
【0030】
本開示の触媒担体用炭素材料を製造する方法については、従来とは異なり、枝径が比較的細くて、平均的に分岐数が増加した3次元樹状構造を持つ銀アセチリドの調製が重要である。このような銀アセチリドを合成するためには、アセチリド生成工程において、反応溶液調製時における硝酸銀のアンモニア水溶液からなる反応溶液中の硝酸銀濃度を10質量%以上28質量%以下(好ましくは15質量%以上25質量%以下)にする。それと共に、反応溶液の温度を25℃以上50℃以下(好ましくは35℃以上47℃以下)に加温する。ここで、反応溶液調製時の反応溶液中の硝酸銀濃度が10質量%未満であると、調製される銀アセチリドの枝径を十分に細くすることができない。反対に、28質量%を超えて高くすると、大電流(重負荷)特性の改善が難しくなるだけでなく、BET比表面積についても急速に低下する虞がある。また、反応溶液の温度については、50℃を超えて高くすると、枝径が細くなり過ぎて大電流(重負荷)特性が改善されなくなる虞がある。
【0031】
更に、上記のアセチリド生成工程においては、反応溶液中に吹き込まれるアセチレンを反応溶液中の硝酸銀とできるだけ均一に反応させるために、好ましくは、反応溶液中へのアセチレンガスの吹込みを、これら複数の吹込み口(より好ましくは2〜4ヶ所の吹込み口)から行うのがよい。更には、これら複数の吹込み口が反応溶液の液面周縁部に互いに等間隔で配置されているのがよい。このように複数の吹込み口から反応溶液中にアセチレンガスを吹き込むこと、更には、複数の吹込み口を反応溶液の液面周縁部に互いに等間隔で配置することにより、枝径が比較的細くて平均的に分岐数が増加した、3次元樹状構造を持つ銀アセチリドの調製がより確実になる。
【0032】
ここで、図4を参照して、反応溶液中へのアセチレンガスを吹込む方法について説明する。図4は、アセチリド生成工程における反応溶液中にアセチレンガスを吹き込む装置の一例を示す概略図である。図4に示す反応容器100は、攪拌機51と、反応容器100中に収容された反応溶液11に、アセチレンガスを吹込むための吹込み口31A、31B、31C、及び31Dと、を備えている。図4に示す反応容器100には、反応溶液11が収容されている。反応溶液11は、硝酸銀とアンモニア水溶液とを含んで調製された硝酸銀含有アンモニア水溶液である。吹込み口31A〜31Dの先端は、それぞれ、反応溶液11の液面11Aよりも下方に配置され、反応溶液11の液面11Aの周辺部に配置されている。吹込み口31A〜31Dは、それぞれ、互いに等間隔となるように配置されている。吹込み口31A〜31Dは、吹込み口31A〜31Dの先端から、反応溶液11に対して、アセチレンガスを吹き込むことが可能な構造となっている。反応容器100では、反応容器100に収容された反応溶液11を、攪拌機51で攪拌させながら、反応溶液11に対して、吹込み口31A〜31Dからアセチレンガスを吹き込む。そして、吹込み口31A〜31Dから、アセチレンガスが吹き込まれることによって、反応溶液11中で、枝径が細く、平均的に分岐が増加した、3次元樹状構造を持つ銀アセチリドが調製される。
【0033】
以上、図4を参照して、4本の吹込み口を用いてアセチレンガスを吹込む方法について説明したが、吹込み口は4本に限定されない。本開示の触媒担体用炭素材料が得られるのであれば、吹込み口は1本であってもよく、3本であってもよい。また、吹込み口は5本以上であってもよい。さらに、複数本(図4に示すように、例えば4本)の吹込み口のうち、少なくとも1本の吹込み口からアセチレンガスを吹込んでもよい。
【0034】
なお、上記のアセチリド生成工程において、反応溶液調製時における反応溶液を形成しているアンモニア水溶液のアンモニア濃度は、銀アセチリド生成の反応速度と関係していると考えられる。つまり、銀アセチリドの生成過程において、硝酸アニオンに対して親和性の良好なアンモニウムイオンが、銀イオンを硝酸アニオンから乖離させて、銀アセチリド生成の反応速度を高めていると考えられる。このため、アンモニア水溶液のアンモニア濃度は、硝酸銀の濃度に応じて、適切な濃度に調整されるものであり、特に制限されるものではない。例えば、アンモニア水溶液のアンモニア濃度は、好ましくは反応溶液中の硝酸銀濃度(質量%)の半分以上5倍以下であり、通常は20質量%以下(好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%程度)であることがよい。
【0035】
そして、上記のようにして調製された銀アセチリドを製造中間体とする。製造中間体を得た後、従来の方法と同様の方法を経ることにより、本開示の3次元的に分岐した3次元樹状構造を有する多孔質炭素材料である触媒担体用炭素材料(具体的には、樹状炭素ナノ構造体からなる触媒担体用炭素材料)を調製することができる。
【0036】
すなわち、本開示の触媒担体用炭素材料は、下記の工程を有する製造方法により得られる。
上記の銀アセチリドを40〜80℃(好ましくは60〜80℃)の温度で加熱処理して銀粒子内包中間体を作成する(第1の加熱処理工程)。
得られた銀粒子内包中間体を120〜400℃(好ましくは160〜200℃)の温度で加熱処理して銀粒子を噴出させ、この銀粒子を含む炭素材料中間体を調製する(第2の加熱処理工程)。
次いで得られた銀粒子を含む炭素材料中間体を硝酸、硫酸等の酸と接触させて、この炭素材料中間体中の銀粒子等を除去して清浄化する(洗浄処理工程)。
この清浄化された炭素材料中間体を、空中又は不活性ガス雰囲気中1400〜2300℃(好ましくは1500〜2300℃)で加熱処理する(第3の加熱処理工程)。
【0037】
そして、本開示の触媒担体用炭素材料は、触媒担体として好適な3次元的に分岐した3次元樹状構造を有し、好ましくは樹状炭素ナノ構造体からなる多孔質炭素材料である。従来のこの種の樹状炭素ナノ構造体と比較して、BET比表面積及び耐久性において同等、あるいは、より優れている。本開示の触媒担体用炭素材料は、それだけでなく、3次元樹状構造において、枝径がより細くなっていることから、この炭素材料を触媒担体として調製された触媒層には、反応ガスを抵抗なく拡散させる。また、この触媒層中で生成した水(生成水)を遅滞なく排出させるのに適した微細孔が形成される。そのため、本開示の触媒担体用炭素材料は、固体高分子形燃料電池において、大電流(重負荷)特性を顕著に改善すること(大電流時の出力電圧を有為に高めること)ができる。
【実施例】
【0038】
以下、実験例に基づいて、本開示の触媒担体用炭素材料及びその製造方法を具体的に説明する。
なお、以下の実験例において、調製された触媒担体用炭素材料のBET比表面積SBET、水銀ポロシメトリ法における水銀吸収量の増加分ΔVHg:4.3-4.8、窒素ガス吸着量VN:0.4-0.8、ラマン分光スペクトルの1580cm-1のG-バンドピーク半値全幅ΔG、及び枝径についての測定は、それぞれ以下のようにして実施した。
【0039】
〔BET比表面積、及び窒素ガス吸着量VN:0.4-0.8の測定〕
各実験例で調製され、あるいは、準備された触媒担体用炭素材料について、約30mgを測り採り、120℃で2時間真空乾燥した。その後に、自動比表面積測定装置(マイクロトラックベル社製BELSORP MAX)を用い、窒素ガスを吸着質に用いて、窒素ガス吸着等温線を測定した。吸着時の等温線のp/p0が0.05〜0.15の範囲においてBET解析を実施しBET比表面積を算出した。
また、吸着時の等温線のp/p0が0.8の時の吸着量と0.4の時の吸着量との差を算出し、VN:0.4-0.8の値とした。
【0040】
〔水銀ポロシメトリ法における水銀吸収量の増加分ΔVHg:4.3-4.8の測定〕
各実験例で調製され、あるいは、準備された触媒担体用炭素材料について、50〜100mgを計り取り、これを軽く圧密して塊状に成形し、測定用の試料を調製した。このようにして成形された試料を測定装置(株式会社島津製作所製 オートポアIV9520)のサンプル容器内に装填し、導入初期圧力5kPa及び最高圧入圧力は400MPaの条件で水銀を圧入した。その時の水銀圧力PHgの常用対数LogPHgと水銀吸収量VHgとの関係から水銀吸収量VHgの増加分ΔVHg:4.3-4.8を求めた。
【0041】
〔ラマン分光スペクトルの1580cm-1のG-バンドピーク半値全幅ΔGの測定〕
各実験例で調製され、あるいは、準備された触媒担体用炭素材料について、試料約3mgを測り採った。この試料を、レーザラマン分光光度計(日本分光(株)製NRS-3100型)にセットし、励起レーザー:532nm、レーザーパワー:10mW(試料照射パワー:1.1mW)、顕微配置:Backscattering、スリット:100μm×100μm、対物レンズ:×100倍、スポット径:1μm、露光時間:30sec、観測波数:2000〜300cm-1、及び、積算回数:6回の測定条件で測定した。得られた6個のスペクトルから各々1580cm-1近傍のG-バンドピーク半値全幅ΔGを求め、その平均値を測定値とした。
【0042】
〔枝径(nm)の測定〕
実験例1〜24で調製された触媒担体用炭素材料に関して、試料を走査型電子顕微鏡(SEM;日立ハイテク社製SU−9000)にセットした。そして、10万倍(2.5μm×2μm)の倍率で5視野のSEM画像を観察し、各視野の画像上でそれぞれ20ヶ所の枝径を計測し、総計100ヶ所の測定値の平均値を枝径の値とした。なお、計測する枝径は、注目する枝について、隣接する2つ分岐点間の中央部(枝分かれしている枝の中間部)の太さを計測して、枝径とした。図2を参照すると、図2中、Dが計測する枝径である。
【0043】
≪実験例1〜11≫
(1) 銀アセチリド生成工程
最初に、アンモニア水溶液中に硝酸銀を、表1に示す濃度で溶解した硝酸銀含有アンモニア水溶液からなる反応溶液を調製した。この際に、アンモニア水溶液のアンモニア濃度については、硝酸銀濃度が10質量%までは、この硝酸銀濃度と同じにした。(アンモニア濃度10質量%)また、硝酸銀濃度が10質量%を超えた場合にも10質量%とした。この反応溶液中に、アルゴン、窒素等の不活性ガスを40〜60分間吹き込んで、溶存する酸素を不活性ガスに置換し、この銀アセチリド生成工程で生成した銀アセチリドが分解爆発を起こす危険性を排除した。
このようにして調製された反応溶液中には、反応時間が10分程度となるように、アセチレンガスを吹き込んだ。アセチレンガスは、吹込み量及び吹込み速度を調整しながら、1つの吹込み口から撹拌下に反応温度25℃で吹き込み、反応溶液中からアセチレンガスが泡として放出され始めた時点でアセチレンガスの吹込みを中止した。そして、反応溶液中の硝酸銀とアセチレンとを反応させて銀アセチリドの白い沈殿物を生成させた。
生成した銀アセチリドの沈殿物については、メンブレンフィルターで濾過して沈殿物を回収した。この回収された沈殿物をメタノールに再分散させ、再び濾過して得られた沈殿物をシャーレに取り出し、少量のメタノールを含浸させ、実験例1〜11(実験記号M1〜M11)の銀アセチリドを調製した。
【0044】
(2) 第1の加熱処理工程
上記の銀アセチリド生成工程で得られた各実験例の銀アセチリドについて、メタノールが含浸された状態のまま約0.5gを直径5cmのステンレス製円筒容器内に装入した。これを真空加熱電気炉に入れ、60℃で、約15〜30分間かけて真空乾燥し、各実験例の銀アセチリド由来の銀粒子内包中間体を調製した。
【0045】
(3) 第2の加熱処理工程
次に、上記第1の加熱処理工程で得られた真空乾燥直後の60℃の銀粒子内包中間体を、そのまま更に真空加熱電気炉から取り出すことなく、200℃まで昇温させて加熱した。この過程で、銀アセチリドの自己分解爆発反応を誘発させ、銀と炭素との複合物からなる炭素材料中間体を調製した。
この自己分解爆発反応の過程で、銀のナノサイズの粒子(銀ナノ粒子)が生成する。それと同時に、この銀ナノ粒子を取り巻くように、六角網面の炭素層が形成されて3次元樹状構造の骨格が形成される。更に、生成した銀ナノ粒子が爆発エネルギーにより炭素層の細孔を介して多孔化し、その外部に噴出して銀の集合体(銀粒子)を形成する。
【0046】
(4) 洗浄処理工程
上記第2の加熱処理工程で得られた銀と炭素との複合物からなる炭素材料中間体について、濃度60質量%の濃硝酸による洗浄処理を実施した。この洗浄処理によって、炭素材料中間体の表面に存在する銀粒子及びその他の不安定な炭素化合物を除去し清浄化した。
【0047】
(5) 第3の加熱処理工程
上記洗浄処理工程で清浄化された炭素材料中間体について、不活性ガス雰囲気中で表1に示す加熱温度条件で2時間の加熱処理を実施し、各実験例の触媒担体用炭素材料を得た。この第3の加熱処理工程での熱処理温度は、結晶性の制御のために、これまで一般的に採用されている温度である。そして、この加熱処理により各実験例の銀アセチリド由来の炭素材料の物性変化と電池特性への影響を調べたものである。
【0048】
以上のようにして調製された各実験例1〜11の触媒担体用炭素材料について、BET比表面積SBET、水銀ポロシメトリ法における水銀吸収量の増加分ΔVHg:4.3-4.8、窒素ガス吸着量VN:0.4-0.8、ラマン分光スペクトルの1580cm-1のG-バンドピーク半値全幅ΔG、及び枝径を測定した。
結果を表2に示す。
【0049】
≪実験例12〜17≫
上記の銀アセチリドを合成するアセチリド生成工程において、表1に示すように、硝酸銀濃度を20質量%とし、また、反応温度を25〜50℃の範囲で変化させ、更に、アセチレンガス吹込み時の吹込み口の数を2ヵ所又は4ヵ所とした。これ以外は、実験例1〜11の場合と同様にして、アセチリド生成工程、第1の加熱処理工程、第2の加熱処理工程、洗浄処理工程、及び第3の加熱処理工程を実施し、それぞれ各実験例12〜17(実験記号M12〜M17)の触媒担体用炭素材料を調製した。
【0050】
このようにして調製された各実験例12〜17の触媒担体用炭素材料について、BET比表面積SBET、水銀ポロシメトリ法における水銀吸収量の増加分ΔVHg:4.3-4.8、窒素ガス吸着量VN:0.4-0.8、ラマン分光スペクトルの1580cm-1のG-バンドピーク半値全幅ΔG、及び枝径を測定した。
結果を表2に示す。
【0051】
≪実験例18〜24≫
上記の銀アセチリドを合成するアセチリド生成工程において、硝酸銀濃度を25質量%に固定し、また、反応温度を45℃に固定し、アセチレンガス吹込み時の吹込み口の数を4ヵ所に固定した。更に、第3の加熱処理工程の温度を1600〜2400℃の範囲で変化させた。これ以外は、実験例1〜11の場合と同様にして銀アセチリドを合成した。
このようにして調製された銀アセチリドを用い、実験例1〜11の場合と同様にして第1の加熱処理工程、第2の加熱処理工程、洗浄処理工程、及び第3の加熱処理工程を実施し、それぞれ各実験例18〜24(実験記号M18〜M24)の触媒担体用炭素材料を調製した。
【0052】
このようにして調製された各実験例18〜24の触媒担体用炭素材料について、BET比表面積SBET、水銀ポロシメトリ法における水銀吸収量の増加分ΔVHg:4.3-4.8、窒素ガス吸着量VN:0.4-0.8、ラマン分光スペクトルの1580cm-1のG-バンドピーク半値全幅ΔG、及び枝径を測定した。
結果を表2に示す。
【0053】
≪実験例25〜31≫
また、市販の炭素材料についても実験例25〜31として検討した。
多孔質炭素材料としては、樹状構造を持ち細孔も発達し比表面積が大きい多孔質炭素材料A(ライオン社製ケッチェンブラックEC300)(実験例25)及び多孔質炭素材料B(ライオン社製ケッチェンブラックEC600JD)(実験例26、27、28)と、樹状構造を持たない典型的な多孔質炭素材料として多孔質炭素材料C(東洋炭素社製CNOVEL-MH)(実験例29)と、細孔構造を持たない樹状構造の発達した炭素材料として炭素材料D(デンカ社製アセチレンブラックAB)(実験例30)及び炭素材料E(東海カーボン社製導電グレード#4300)(実験例31)とを使用した。なお、多孔質炭素材料Bは、第3の熱処理温度を、1400℃(多孔質炭素材料B−1)、1800℃(多孔質炭素材料B−2)、及び2000℃(多孔質炭素材料B−3)とした3種類を準備した。
【0054】
これら各実験例25〜31の触媒担体用炭素材料については、BET比表面積SBET、水銀ポロシメトリ法における水銀吸収量の増加分ΔVHg:4.3-4.8、窒素ガス吸着量VN:0.4-0.8、及びラマン分光スペクトルの1580cm-1のG-バンドピーク半値全幅ΔGを測定した。
結果を表2に示す。
【0055】
ここで、上記の実験例21の触媒担体用炭素材料と、実験例25(多孔質炭素材料A)、実験例27(多孔質炭素材料B−2)、実験例30、及び31(炭素材料D及びE)の各炭素材料とについて、上記の水銀ポロシメトリ法において測定された水銀圧力PHg(単位:kPa)と水銀吸収量VHgとの関係を示すPHg−VHgグラフ図を図1に示す。図1に示すグラフにおいて、横軸は、対数スケール(常用対数)で記載している。
なお、図1中では、実験例21において、水銀圧力PHgの常用対数LogPHgが4.3から4.8に増加した際に測定される水銀ポロシメトリ法における水銀吸収量VHgの増加分ΔVHg:4.3-4.8を例示している。
【0056】
≪触媒の調製、触媒層の作製、MEAの作製、燃料電池の組立、及び電池性能の評価≫
次に、以上のようにして調製され、また、準備された触媒担体用炭素材料を用い、以下のようにして触媒金属が担持された固体高分子形燃料電池用触媒を調製した。また、得られた触媒を用いて触媒層インク液を調製し、次いで、この触媒層インク液を用いて触媒層を形成した。更に形成された触媒層を用いて膜電極接合体(MEA: Membrane Electrode Assembly)を作製し、この作製されたMEAを燃料電池セルに組み込み、燃料電池測定装置を用いて発電試験を行った。以下、各部材の調製及び発電試験によるセル評価について詳細に説明する。
【0057】
(1) 固体高分子形燃料電池用触媒(白金担持炭素材料)の作製
上記で作製した触媒担体用炭素材料、或いは、市販の炭素材料を、蒸留水中に分散させた。この分散液にホルムアルデヒドを加え、40℃に設定したウォーターバスにセットし、分散液の温度がバスと同じ40℃になってから、撹拌下に、この分散液中にジニトロジアミンPt錯体硝酸水溶液をゆっくりと注ぎ入れた。その後、約2時間撹拌を続けた後、濾過し、得られた固形物の洗浄を行った。このようにして得られた固形物を90℃で真空乾燥した後、乳鉢で粉砕した。次いで、水素を5体積%含むアルゴン雰囲気中200℃で1時間熱処理をして白金触媒粒子担持炭素材料を作製した。
なお、この白金担持炭素材料の白金担持量については、触媒担体用炭素材料と白金粒子の合計質量に対して40質量%となるように調整し、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES: Inductively Coupled Plasma - Atomic Emission Spectrometry)により測定して確認した。
【0058】
(2) 触媒層の調製
以上のようにして調製された白金担持炭素材料(Pt触媒)を用いた。また、電解質樹脂としてDupont社製ナフィオン(登録商標:Nafion;パースルホン酸系イオン交換樹脂)を用いた。Ar雰囲気下でこれらPt触媒とナフィオンとを白金触媒粒子担持炭素材料の質量に対してナフィオン固形分の質量が1.0倍、非多孔質炭素に対しては0.5倍の割合で配合した。軽く撹拌した後、超音波でPt触媒を解砕した。更にエタノールを加えてPt触媒と電解質樹脂とを合わせた合計の固形分濃度が1.0質量%となるように調整し、Pt触媒と電解質樹脂とが混合した触媒層インク液を調製した。
【0059】
このようにして調製された固形分濃度1.0質量%の各触媒層インク液に、更にエタノールを加え、白金濃度が0.5質量%のスプレー塗布用触媒層インク液を作製した。白金の触媒層単位面積当たりの質量(以下、「白金目付量」という。)が0.2mg/cm2となるようにスプレー条件を調節し、上記スプレー塗布用触媒層インクを、テフロン(登録商標)シート上にスプレーした。その後、アルゴン中120℃で60分間の乾燥処理を行い、触媒層を作製した。
【0060】
(3) MEAの作製
以上のようにして作製した触媒層を用い、以下の方法でMEA(膜電極複合体)を作製した。
ナフィオン膜(Dupont社製NR211)から、一辺6cmの正方形状の電解質膜を切り出した。また、テフロン(登録商標)シート上に塗布された、アノード及びカソードの各触媒層については、それぞれカッターナイフで一辺2.5cmの正方形状に切り出した。
このようにして切り出されたアノード及びカソードの各触媒層の間に、各触媒層が電解質膜の中心部を挟んだ。そして、それぞれ接すると共に、互いにずれが無いように、この電解質膜を挟み込み、120℃、100kg/cm2で10分間プレスした。次いで、室温まで冷却した後、アノード及びカソードの各触媒層から、テフロン(登録商標)シートのみを注意深く剥ぎ取り、アノード及びカソードの各触媒層が電解質膜に定着した、触媒層−電解質膜接合体を調製した。
【0061】
次に、ガス拡散層として、カーボンペーパー(SGLカーボン社製35BC)から一辺2.5cmの大きさで一対の正方形状カーボンペーパーを切り出した。これらのカーボンペーパーの間に、アノード及びカソードの各触媒層が一致してずれが無いように、上記触媒層−電解質膜接合体を挟み、120℃、50kg/cm2で10分間プレスしてMEAを作製した。
なお、作製された各MEAにおける触媒金属成分、炭素材料、及び電解質材料の各成分の目付量については、プレス前の触媒層付テフロン(登録商標)シートの質量とプレス後に剥がしたテフロン(登録商標)シートの質量との差から、ナフィオン膜(電解質膜)に定着させた触媒層の質量を求め、触媒層の組成の質量比より算出した。
【0062】
(4) 燃料電池の性能評価
各実験例で調製され、また、準備された触媒担体用炭素材料を用いて作製したMEAについて、それぞれセルに組み込み、燃料電池測定装置にセットして、次の手順で燃料電池の性能評価を行った。
反応ガスについては、カソード側に空気を、また、アノード側に純水素を、それぞれ利用率が40%と70%となるように、セル下流に設けられた背圧弁で圧力調整し、背圧0.10MPaで供給した。また、セル温度は80℃に設定し、供給する反応ガスについては、カソード及びアノード共に、加湿器中で80℃に保温された蒸留水でバブリングを行い、低加湿状態での発電評価を行った。
【0063】
このような設定のもとに、セルに反応ガスを供給した条件下で、負荷を徐々に増やし、電流密度100mA/cm2及び1000mA/cm2で2時間保持後のセル端子間電圧をそれぞれ各電流時の出力電圧として記録し、燃料電池の発電特性についてその性能を評価した。得られた燃料電池の発電特性の性能について、各電流密度での出力電圧により、下記の4水準のランクA、B、C、及びDに分類した。100mA/cm2及び1000mA/cm2のランクのうち、電流密度100mA/cm2のときは、Bを合格ラインの下限とし、電流密度1000mA/cm2のときは、Cを合格ラインの下限とした。結果を表2に示す。
【0064】
〔ランクの分類法〕
−100mA/cm2における出力電圧−
A:0.86V以上であるもの。
B:0.85V以上、0.86未満であるもの。
C:0.84V以上、0.85未満であるもの。
D:Cに満たないもの。
−1000mA/cm2における出力電圧−
A:0.65V以上であるもの
B:0.62V以上、0.65未満であるもの。
C:0.60V以上、0.62未満であるもの。
D:Cに満たないもの。
【0065】
引き続いて、耐久性評価のために、“セル端子間電圧を0.6Vにして4秒間保持し、次いでセル端子間電圧を1.2Vに上昇させて4秒間保持し、その後にセル端子間電圧を元の0.6Vに戻す”という操作を1回のサイクル操作とし、このサイクル操作を300回繰り返す耐久試験を実施した。
この耐久試験の後に、耐久試験前の初期性能の評価試験の場合と同様に電池性能(耐久試験後の1000mA/cm2における出力電圧)を測定した。
この耐久試験後の出力電圧(V)を耐久試験前の出力電圧から差し引いて出力電圧の低下幅ΔVを求め、この低下幅ΔVを耐久前試験前の出力電圧で除して出力電圧低下率を算出し、算出された出力電圧低下率により、合格ランクのA:10%未満、及びB:10%以上15%未満と、不合格ランクのC:15%以上の基準で評価した。結果を表に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
日本国特許出願2017−070830の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4