特許第6802644号(P6802644)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6802644
(24)【登録日】2020年12月1日
(45)【発行日】2020年12月16日
(54)【発明の名称】安定化電源回路
(51)【国際特許分類】
   G05F 1/56 20060101AFI20201207BHJP
【FI】
   G05F1/56 310F
   G05F1/56 310Q
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-99615(P2016-99615)
(22)【出願日】2016年5月18日
(65)【公開番号】特開2017-207902(P2017-207902A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮島 一之
【審査官】 白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−079653(JP,A)
【文献】 特開平03−158912(JP,A)
【文献】 特開2012−073799(JP,A)
【文献】 特開2001−034351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05F 1/46− 1/656
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照電圧に応じて所定の電圧を出力端子から出力する安定化電源回路であって、
ソースが相互に接続された第1のトランジスタ及び第2のトランジスタと、
前記出力端子へ電流を供給する第3のトランジスタと、
前記第1のトランジスタ及び前記第2のトランジスタを含み、前記第1のトランジスタ及び前記第2のトランジスタのドレイン電流の差により、前記第3のトランジスタのゲート電圧を制御する差動増幅部と、
前記第1のトランジスタ及び前記第2のトランジスタのソース電流を前記第3のトランジスタのドレイン電流に応じて変化させる第1の電流源と、
前記第2のトランジスタのドレインに接続され、前記第1の電流源の電流に比例した電流れる第2の電流源と、を備え、
前記第1のトランジスタのゲートに前記参照電圧が印加され、
前記第2のトランジスタのゲートが前記出力端子の電圧に比例した電圧を生成する電圧検出部に接続され、
更に、前記第1の電流源及び前記第2の電流源の電流値が一定値以上にならないように制限する電流制限部を備えた、
安定化電源回路。
【請求項2】
請求項1に記載の安定化電源回路であって、
前記第2のトランジスタのドレインに接続され、前記第2の電流源の電流と相殺される方向に一定の電流れる第3の電流源を備えた、
安定化電源回路。
【請求項3】
請求項2に記載の安定化電源回路であって、
前記第2のトランジスタのドレインと前記第3の電流源の間に第4のトランジスタからなる電流減少部を備え、
前記電流減少部は、該安定化電源回路の出力電流が少ない場合に、前記第3の電流源の電流値を、前記第2のトランジスタのドレインにゲートとドレインが接続された第5のトランジスタと前記第4のトランジスタのゲートアスペクト比により決まる電流値に制限する、
安定化電源回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化された出力電圧を供給可能な安定化電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
安定化電源回路において、負荷に供給する電流が小さい場合に、安定化電源回路の消費電流を低減することは、バッテリー駆動機器などの稼働時間を延ばすためにも重要な要素となる。消費電流の低減を図った安定化電源回路として、例えば特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
図5は、特許文献1に記載された従来の安定化電源回路100の構成を示す回路図である。同図において、安定化電源回路100には、第1の電圧源V1より動作用の電源電圧VDDが供給される。また、安定化電源回路100内では、第2の電圧源V2より参照電圧VREFが供給される。安定化電源回路100の出力電圧VOUTは、VOUT端子から出力される。安定化電源回路100を構成するトランジスタMN1〜MN6は、それぞれNチャネル型のMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor・Field−Effect−Transistor)である。また、安定化電源回路100を構成するトランジスタMP1〜MP4は、それぞれPチャネル型のMOSFETである。
【0004】
トランジスタMP1は、第1の電圧源V1とVOUT端子間に挿入されて、VOUT端子に供給する電流を制御する。トランジスタMN1,MN2とトランジスタMP3,MP4は差動増幅部DAMPを構成し、この差動増幅部DAMPの一方の入力素子であるトランジスタMN1のゲートに第2の電圧源V2の参照電圧VREFが印加され、他方の入力素子であるトランジスタMN2のゲートにはVOUT端子における出力電圧VOUTを抵抗素子R1,R2の抵抗値比で分圧された電圧が印加される。抵抗素子R1,R2の接続点とVOUT端子間には位相補償用のコンデンサC2が接続される。
【0005】
差動増幅部DAMPを構成するトランジスタMN1のドレインとトランジスタMP4のドレインの接続点が差動増幅部DAMPの出力にあたり、トランジスタMP1のゲート電圧を制御する。差動増幅部DAMPを介した負帰還作用により、出力電圧VOUTは式(1)で表される電圧に制御される。
【0006】
【数1】
【0007】
R1:抵抗素子R1の抵抗値
R2:抵抗素子R2の抵抗値
VOUT:VOUT端子における出力電圧
VREF:第2の電圧源V2の参照電圧
【0008】
トランジスタMN4は、差動増幅部DAMPのテール電流を制御するための素子であり、トランジスタMN3と共にカレントミラー回路を構成して電流源IB1に比例した電流をトランジスタMN1,MN2からシンクする。また、トランジスタMN4のドレイン電流に加え、トランジスタMP2のドレイン電流に比例したドレイン電流を流すトランジスタMN6のドレインがトランジスタMN1,MN2それぞれのソースに接続されている。
【0009】
また、差動増幅部DAMPのテール電流であるトランジスタMN6のドレイン電流を負荷電流に比例して増減させることにより、負荷電流が小さい場合に、安定化電源回路100の消費電流が低減し、負荷に多くの電流を供給する状況においては、差動増幅部DAMPのテール電流を増加させることにより、トランジスタMP1のゲート電圧を駆動するための電流を増やして、負荷電流の急激な変動においても出力電圧を素早く一定値に制御することが可能である。
【0010】
ところで、このような回路構成の安定化電源回路100における特有の課題として、回路の位相補償の問題がある。通常、こうした回路の負帰還の経路は、トランジスタMP1のドレイン電流がVOUT端子における出力電圧VOUTを上昇させ、その出力電圧VOUTが抵抗素子R1,R2で分圧されて、差動増幅部DAMPの入力素子であるトランジスタMN2のゲート電圧としてトランジスタMN2のゲートに印加される。トランジスタMN2のゲート電圧が上昇すると、トランジスタMN2のドレイン電流が増加して、このドレイン電流が差動増幅部DAMPでカレントミラー回路を構成するトランジスタMP3,MP4でミラーされ、トランジスタMP1のゲート電圧を引き上げることで出力電流を減らし、出力電圧を制御する。
【0011】
こうした負帰還の経路に加え、テール電流を増加させるタイプの安定化電源回路100においては、差動増幅部DAMPのテール電流が、出力電流を制御するトランジスタMP1のドレイン電流に応じて増加することにより、トランジスタMN5のドレイン電流がトランジスタMN1,MN2のドレイン電流を増加させ、トランジスタMP1のゲートのノード電圧に作用する帰還の経路が形成される。この経路の帰還は、トランジスタMN1,MN2のドレイン電流が全く同じ比率で増加すれば問題はないが、差がある場合は負帰還にも正帰還にもなり得る。
【0012】
テール電流を増加させる経路の帰還によるゲインは通常、VOUT端子からの帰還のゲインに比較して小さいため、出力電圧VOUTを制御する上で問題にはならない。しかしながら、トランジスタMN6,MN5のカレントミラー回路での電流増幅率を大きく取るなどした場合や、トランジスタMN1,MN2のトランスコンダクタンスの差異が大きい場合には、安定化電源回路100の出力電圧VOUTの制御に影響を与える。
【0013】
通常、図5に示すような安定化電源回路100は、負荷電流の変化による出力電圧の変動を平滑化したり、出力電圧VOUTが発振することを防止したりするための位相補償を目的としてVOUT端子とGND間に数μF程度のコンデンサCLを付加する。このコンデンサCLを付加することにより、VOUT端子を経由した帰還のゲインは図6に示すように、式(2)のfp1の周波数を境に減衰する。
【0014】
【数2】
【0015】
fp1:VOUT端子で発生する極の周波数
RL:負荷抵抗RLの抵抗値
CL:コンデンサCLの容量値
【0016】
この周波数fp1は、安定化電源回路100のコンデンサCLの容量値CLと負荷抵抗RLの抵抗値RLが大きいほど低くなる。このため、図6に示すゲイン(利得)の周波数特性図において点線で示すように、コンデンサCLの容量値CLを大きくしていくと、ある周波数fx以上でテール電流による帰還量が出力電圧VOUTからの帰還量を上回る領域が発生する。テール電流による帰還が負帰還として動作している場合は、この周波数領域以上でも特に問題は無いが、正帰還の状態の場合、差動増幅部DAMPの入力素子であるトランジスタMN1,MN2の特性上のばらつきなどで、この周波数において安定化電源回路100全体での帰還の位相が大きく変動し、正帰還として動作し、出力電圧VOUTに発振又はリンギングが発生する。
【0017】
この課題を解決するために、特許文献2に記載された方法が考案されている。図7は、特許文献2に記載された安定化電源回路110の構成を示す回路図である。同図に示すように、トランジスタMN5,MN6のゲート間に抵抗素子R3とコンデンサC1を追加したことで、高い周波数でテール電流による帰還量を減衰させ、出力電圧VOUTからの帰還量を上回ることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平3−158912号公報
【特許文献2】特許第4527592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、特許文献2に記載された安定化電源回路110も、コンデンサCLの容量値CLをさらに大きくした場合、コンデンサC1の容量値C1も増加させる必要があり、半導体集積回路のチップ上にこのコンデンサC1を形成する場合、非常に大きな面積を要するなどの課題があった。
【0020】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、出力電流に応じて差動増幅部のテール電流を変化させる機能を持つ安定化電源回路の位相補償の問題を、コンデンサを用いない方法で解決し、従来の低消費電流の安定化電源回路よりも、より小さいチップ面積で実現できる安定化電源回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、参照電圧に応じて所定の電圧を出力端子から出力する安定化電源回路であって、ソースが相互に接続された第1のトランジスタ及び第2のトランジスタと、前記出力端子へ電流を供給する第3のトランジスタと、前記第1のトランジスタ及び前記第2のトランジスタを含み、前記第1のトランジスタ及び前記第2のトランジスタのドレイン電流の差により、前記第3のトランジスタのゲート電圧を制御する差動増幅部と、前記第1のトランジスタ及び前記第2のトランジスタのソース電流を前記第3のトランジスタのドレイン電流に応じて変化させる第1の電流源と、前記第2のトランジスタのドレインに接続され、前記第1の電流源の電流に比例した電流れる第2の電流源と、を備え、前記第1のトランジスタのゲートに前記参照電圧が印加され、前記第2のトランジスタのゲートが前記出力端子の電圧に比例した電圧を生成する電圧検出部に接続され、更に、前記第1の電流源及び前記第2の電流源の電流値が一定値以上にならないように制限する電流制限部を備えた、安定化電源回路を提供する。
【0023】
また、本発明は、上記の安定化電源回路であって、前記第2のトランジスタのドレインに接続され、前記第2の電流源の電流と相殺される方向に一定の電流れる第3の電流源を備えた、安定化電源回路を提供する。
【0024】
また、本発明は、上記の安定化電源回路であって、前記第2のトランジスタのドレインと前記第3の電流源の間に第4のトランジスタからなる電流減少部を備え、前記電流減少部は、該安定化電源回路の出力電流が少ない場合に、前記第3の電流源の電流値を、前記第2のトランジスタのドレインにゲートとドレインが接続された第5のトランジスタと前記第4のトランジスタのゲートアスペクト比により決まる電流値に制限する、安定化電源回路を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、出力電流に応じて差動増幅部のテール電流を変化させる機能を持つ安定化電源回路の位相補償の問題を、コンデンサを用いない方法で解決し、従来の低消費電流の安定化電源回路よりも、より小さいチップ面積で実現できる安定化電源回路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1の実施形態に係る安定化電源回路の構成を示す回路図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係る安定化電源回路の構成を示す回路図である。
図3】本発明の第3の実施形態に係る安定化電源回路の構成を示す回路図である。
図4】本発明の第3の実施形態に係る安定化電源回路の出力電流と出力電圧の関係を示す図である。
図5】従来の安定化電源回路の構成を示す回路図である。
図6】従来の安定化電源回路のゲインの周波数特性を示す図である。
図7】高い周波数でテール電流による帰還量を減衰させるためのコンデンサを用いた従来の安定化電源回路の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る安定化電源回路を具体的に開示した実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る安定化電源回路について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る安定化電源回路1の構成を示す回路図である。なお、図1において前述した図5に示した従来の安定化電源回路100と共通する素子については同一の符号を付している。
【0029】
第1の実施形態に係る安定化電源回路1は、Nチャネル型のMOSFETであるトランジスタMN1〜MN7と、Pチャネル型のMOSFETであるトランジスタMP1〜MP6と、電源電圧VDDを出力する第1の電圧源V1と、参照電圧VREFを出力する第2の電圧源V2と、出力電圧VOUTを取り出すためのVOUT端子(出力端子)と、一定値の電流を流すための電流源IB1と、電圧検出用の抵抗素子R1,R2と、出力電圧VOUTの安定化のためのコンデンサCLと、を備える。この安定化電源回路1のVOUT端子とグランド(GND)間には負荷抵抗RLが接続されている。
【0030】
なお、トランジスタMN1は第1のトランジスタに対応し、トランジスタMN2は第2のトランジスタに対応し、トランジスタMP1は第3のトランジスタに対応する。また、トランジスタMN6は第1の電流源に対応し、トランジスタMN7は第2の電流源に対応し、トランジスタMP6は電流制限部に対応する。また、トランジスタMN1,MN2,MP3及びMP4は差動増幅部DAMPを構成し、抵抗素子R1,R2は電圧検出部VDETを構成する。
【0031】
第1の実施形態に係る安定化電源回路1を構成する各素子間の結線は次のようになっている。
ゲートとドレインが接続されたトランジスタMP5のゲートとドレインには、トランジスタMP6のゲートが接続されるとともに、電流源IB1の一端が接続される。また、トランジスタMP5のソースには、第1の電圧源V1の正極が接続されるとともに、ソースが共通接続されたトランジスタMP4、トランジスタMP3、トランジスタMP6及びトランジスタMP1の各ソースが接続される。第1の電圧源V1の負極はグランドに接続される。電流源IB1の他端には、ゲートとドレインが接続されたトランジスタMN3のゲーとドレインが接続される。電流源IB1では、図示のように矢印方向(トランジスタMP5からトランジスタMN3に向かう方向)に電流が流れる。
【0032】
トランジスタMN3のソースはグランドに接続される。トランジスタMN4のゲートには、トランジスタMN3のゲートとドレインが接続される。トランジスタMN4のドレインには、ソースが共通接続されたトランジスタMN1とトランジスタMN2の各ソースが接続されるとともに、トランジスタMN6のドレインが接続される。トランジスタMN4のソースはグランドに接続される。
【0033】
トランジスタMN1のゲートには、第2の電圧源V2の正極が接続される。第2の電圧源V2の負極はグランドに接続される。トランジスタMP4のゲートには、ゲートとドレインが接続されたトランジスタMP3のゲートとドレインが接続される。また、トランジスタMP4のドレインには、トランジスタMN1のドレインが接続されるとともに、ゲートが共通接続されたトランジスタMP2とトランジスタMP1の各ゲートが接続される。トランジスタMP3のゲートとドレインには、ドレインが共通接続されたトランジスタMN2とトランジスタMN7の各ドレインが接続される。トランジスタMN2のゲートには、抵抗素子R1と抵抗素子R2の各一端が接続される。トランジスタMP3,MP4はカレントミラー回路を構成している。また、上述したように、トランジスタMP3,MP4はトランジスタMN1,MN2とともに、トランジスタMP1のドレインのノードを出力とする差動増幅部DAMPを構成している。
【0034】
トランジスタMN6のゲートには、トランジスタMN7のゲートが接続されるとともに、ゲートとドレインが接続されたトランジスタMN5のゲートとドレインが接続される。トランジスタMN6,MN7の各ソースはグランドに接続される。トランジスタMN6,MN7はカレントミラー回路を構成している。トランジスタMN5のゲートとドレインには、トランジスタMP2のドレインが接続される。トランジスタMN5のソースはグランドに接続される。
【0035】
トランジスタMP2のソースには、トランジスタMP6のドレインが接続される。トランジスタMP1のドレインには、VOUT端子が接続されるとともに、抵抗素子R2の他端が接続される。抵抗素子R1の他端はグランドに接続される。VOUT端子とグランド間に安定用のコンデンサCLが接続される。上述したように、抵抗素子R1,R2は、電圧検出部VDETを構成している。
【0036】
第1の実施形態に係る安定化電源回路1を構成する各素子間の結線は以上のようになっている。トランジスタMP1は、VOUT端子へ電流を供給する。差動増幅部DAMPは、トランジスタMN1及びトランジスタMN2のドレイン電流の差により、トランジスタMP1のゲート電圧を制御する。第1の電流源であるトランジスタMN6は、トランジスタMN1及びトランジスタMN2のソース電流をトランジスタMP1のドレイン電流に応じて変化させる。第2の電流源であるトランジスタMN7のドレインは、トランジスタMN2のドレインに接続されトランジスタMN7にはトランジスタMN6に流れる電流に比例した電流れる。抵抗素子R1,R2で構成される電圧検出部VDETは、参照電圧VREFに応じてVOUT端子から出力される所定の電圧に比例した電圧を生成する。この電圧は、トランジスタMN2のゲートに印加される。電流制限部であるトランジスタMP6は、第1の電流源であるトランジスタMN6及び第2の電流源であるトランジスタMN7の電流値が一定値以上にならないように制限する。
【0037】
トランジスタMP2は、ゲートがトランジスタMP1と共通になっているので、トランジスタMP1のゲート−ソース間の電位差が増加するに比例して、ドレイン電流が増加する。このドレイン電流は、ゲートとドレインが接続されたトランジスタMN5のドレインに流れる。トランジスタMN5のドレインに流れるドレイン電流と、カレントミラー回路を構成するトランジスタMN6,MN7のドレイン電流が制御される。即ち、VOUT端子に供給する電流に比例した電流が、第1の電流源であるトランジスタMN6と第2の電流源であるトランジスタMN7に流れる。
【0038】
トランジスタMP2のソースと第1の電圧源V1間に挿入されたトランジスタMP6を流れるドレイン電流は、トランジスタMP5のゲート−ソース間の電圧により電流源IB1に比例した電流に制御される。これにより、トランジスタMP2のソースに流れる電流が一定値以下に制限され、トランジスタMP6は電流制限部として機能する。
【0039】
VOUT端子とグランド間に、負荷となる抵抗等が無い状態においては、トランジスタMP3のドレイン電流は帰還抵抗である抵抗素子R1,R2に流れる電流のみである。また、トランジスタMP2に対してトランジスタMP1のゲートアスペクト比が十分小さい場合、トランジスタMP2のドレイン電流は略0となっている。この場合、トランジスタMN3とカレントミラー回路を構成し、電流源IB1に比例した定電流をシンクするトランジスタMN4のドレイン電流が、差動増幅部DAMPのテール電流の略全てとなっている。この状態ではトランジスタMN7のドレイン電流も略0であり、トランジスタMN1,MN2に等しい電流が流れる。
【0040】
VOUT端子とグランド間に負荷となる抵抗等が入って電流が増加すると、負帰還作用によりトランジスタMP1,MP2のドレイン電流が増加する。それに伴い、トランジスタMN6,MN7もドレイン電流を流し始める。この状態になると、トランジスタMN2のドレイン電流にトランジスタMN7のドレイン電流が加算されることになり、トランジスタMN1とトランジスタMN2のドレイン電流は以下の式のようになる。
【0041】
ここで、ゲート接地回路におけるMOSFETのソースからの入力インピーダンスZinは、以下のようになる。
【0042】
【数3】
【0043】
gm:MOSFETのトランスコンダクタンス
β:利得係数
Id:ドレイン電流
【0044】
【数4】
【0045】
Idn1:トランジスタMN1のドレイン電流
Idn2:トランジスタMN2のドレイン電流
Idn4:トランジスタMN4のドレイン電流
Idn6:トランジスタMN6のドレイン電流
Idn7:トランジスタMN7のドレイン電流
M:トランジスタMN6とトランジスタMN7のゲートアスペクト比
(Wn6/Ln6):(Wn7/Ln7)=1:M
Wn6:トランジスタMN6のゲート幅
Ln6:トランジスタMN6ゲート長
Wn7:トランジスタMN7のゲート幅
Ln7:トランジスタMN7のゲート長
M<1
上式より
【0046】
【数5】
【0047】
【数6】
【0048】
トランジスタMN6及びMN7のゲート−ソース間に小信号viが入力された場合、トランジスタMN1とトランジスタMN2の小信号viにおけるドレイン電流の変化idn1,idn2は以下のようになる。
【0049】
【数7】
【0050】
【数8】
【0051】
gmn1:トランジスタMN1のトランスコンダクタンス
gmn2:トランジスタMN2のトランスコンダクタンス
gmn6:トランジスタMN6のトランスコンダクタンス
【0052】
各トランジスタのgmは、それぞれのドレイン電流で決まるため、トランジスタMN1とトランジスタMN2の利得係数が同じ場合、上式(9),(10)は以下のようになる。
【0053】
【数9】
【0054】
【数10】
【0055】
gmn1,2:トランジスタMN1及びMN2のトランスコンダクタンス
gmn6,7:トランジスタMN6及びMN7のトランスコンダクタンス
【0056】
トランジスタMN2のドレイン電流にはトランジスタMN7の電流が加算されて、これがトランジスタMP3,MP4からなるカレントミラー回路にて折り返され、トランジスタMN1のドレイン電流との差分にてトランジスタMP1のゲート電圧を制御する。
【0057】
【数11】
【0058】
M<<1の場合、以下のように近似できる。
【0059】
【数12】
【0060】
上式よりidn1−idp4は、トランジスタMN6のドレイン電流に関わらず負になる。すなわち、idn4>idn1となるため、テール電流による帰還はトランジスタMP1とトランジスタMP2の電流を減少させる方向に動作し、負帰還として作用する。
【0061】
式(14)より、安定化電源回路1の出力電流の増加に伴い、トランジスタMN6のドレイン電流は増加するため、出力電流が増えるに従い、トランジスタMN1,MN2のドレイン電流の差も増大する。これが、差動増幅部DAMPの入力オフセット電圧となり、安定化電源回路1の出力電圧は出力電流が増加するに伴い低下する。このため、安定化電源回路1においては、トランジスタMP2のソースに電流に制限を掛けるための素子であるトランジスタMP6を有している。これにより、トランジスタMP1のゲートとソース間の電位差が増大しても、トランジスタMP2のソース電流は一定値で制限され、結果としてトランジスタMP6,MP7のドレイン電流も一定値で制限され、差動増幅部DAMPのオフセット電圧も一定値以下に制限される。
【0062】
このように、第1の実施形態に係る安定化電源回路1では、出力電流が小さい場合に差動増幅部DAMPのテール電流を減少させるので、安定化電源回路1自体が消費する電流を削減できる。また、出力電流が大きく、高速な過渡応答が必要な状況においては、差動増幅部DAMPのテール電流を増加させることにより、出力電流を制御するトランジスタMP1のゲート電圧を素早く駆動することが可能となる。また、テール電流における帰還の経路は常に負帰還として動作するため、図7に示すようなコンデンサC1を安定化電源回路1内に内蔵する必要は無く、従来の低消費電流の安定化電源回路よりも、より小さいチップ面積で実現できる。
【0063】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る安定化電源回路について説明する。
図2は、本発明の第2の実施形態に係る安定化電源回路2の構成を示す回路図である。図2において、第2の実施形態に係る安定化電源回路2は、第3の電流源として、ゲートとソース間を一定の電圧でバイアスしたPチャネル型のMOSFETであるトランジスタMP7を有している。このトランジスタMP7は、ソースが第1の電圧源V1の正極に接続され、ドレインがトランジスタMN2のドレインに接続される。また、トランジスタMP7のゲートは、トランジスタMP5,MP6の各ゲートに接続される。第3の電流源としてのトランジスタMP7を追加したことにより、トランジスタMN2のドレイン電流が、第1の実施形態に係る安定化電源回路1における場合よりも増加する。即ち、トランジスタMP7は、トランジスタMN2のドレイン電流をトランジスタMN1のドレイン電流よりも多くする効果を持つ。その結果、トランジスタMN2のトランスコンダクタンスは、第1の実施形態に係る安定化電源回路1における場合よりも増加することになり、テール電流による帰還を負帰還方向に働かせる方向に寄与する。
【0064】
また、トランジスタMP7を通して第1の電圧源V1からトランジスタMN2のドレインにソースされる電流は、トランジスタMN7のドレイン電流としてトランジスタMN2のドレインからシンクされる電流と相殺されるため、トランジスタMP7のドレイン電流をトランジスタMN7の電流制限値に合わせることにより、出力電流が増え、トランジスタMN6,MN7のドレイン電流の増加が止まった状況においては、トランジスタMN7のドレイン電流によるトランジスタMN1,MN2のドレイン電流の差異を縮小させる働きになる。この結果として、差動増幅部DAMPの入力オフセット電圧が減少する。
【0065】
このように、第2の実施形態に係る安定化電源回路2は、第1の実施形態に係る安定化電源回路1に比べて、負荷電流が一定値以上の場合における出力電圧の設定値に対する誤差を緩和することができる。
【0066】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る安定化電源回路について説明する。
図3は、本発明の第3の実施形態に係る安定化電源回路3の構成を示す回路図である。図3において、第3の実施形態に係る安定化電源回路3は、第2の実施形態に係る安定化電源回路2に、トランジスタMP7の電流値を制限する電流減少部として、Pチャネル型のMOSFETであるトランジスタMP8を有している。このトランジスタMP8は、ソースがトランジスタMP7のドレインに接続され、ゲートとドレインがトランジスタMN2のドレインに接続される。
【0067】
ここで、トランジスタMN6,MN7のドレイン電流が0の状態で、トランジスタMP8のドレイン電流が飽和電流値にならないように、トランジスタMP8とトランジスタMP3のゲートアスペクト比を設定する。
【0068】
安定化電源回路3の出力電流が0で、トランジスタMN6とトランジスタMN7のドレイン電流が略0の状態においては、トランジスタMP7を経てトランジスタMN2のドレインに流れる電流は、トランジスタMP8とトランジスタMP3のゲートアスペクト比により決まる電流値に制限される。安定化電源回路3の出力電流が増えると、トランジスタMN6,MN7のドレイン電流が流れ始め、トランジスタMP3のゲートとソース間電位差も増加する。これにより、トランジスタMP7のドレインとソース間の電位差が大きくなり、トランジスタMP7のドレイン電流も増加する。しかしながら、トランジスタMP7は、ゲートとソース間の電位差が一定値にバイアスされているため、ドレインとソース間の電位差が広がるとその電流値の増加は飽和する。
【0069】
前述した第2の実施形態に係る安定化電源回路2において、トランジスタMN1,MN2のドレイン電流は以下のようになる。
【0070】
【数13】
【0071】
【数14】
【0072】
Idp7:トランジスタMP7のドレイン電流
【0073】
上式より、トランジスタMN6のドレイン電流が少ない状態では、トランジスタMN7のドレイン電流の割合が増加するため、トランジスタMN1とトランジスタMN2のドレイン電流の比率が変化し、それがトランジスタMN1とトランジスタMN2のゲートとソース間の電位差の差となり、図4の出力電流と出力電圧の関係を示す図に示すように、出力電圧が設定値に対して増加特性となる。これに対し、第3の実施形態に係る安定化電源回路3は、トランジスタMP8が追加されたことにより、トランジスタMP7のドレイン電流を減少させる。このため、特に安定化電源が無負荷の状態から、100μA以下の少ない出力電流での動作において、図4の点線で示したように出力電圧の変動を改善することが可能となる。
【0074】
このように、第3の実施形態に係る安定化電源回路3は、トランジスタMN2のドレイン電流が少ない場合に、第3の電流源であるトランジスタMP7の電流値を制限することにより、特に、出力電流が小さい又は負荷となる抵抗等が設けられていない状態で、トランジスタMN1,MN2のドレイン電流の差を縮小して、差動増幅部DAMPのオフセット電圧の増加を防ぎ、出力電圧VOUTの変化を緩和する。したがって、第2の実施形態に係る安定化電源回路2に比較し、出力電流が少ない動作状態における出力電圧の変動を抑制して、より広範囲な出力電流で出力電圧の変動が少ない安定化電源を実現することが可能である。
【0075】
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、低消費電流の安定化電源回路に有用である。
【符号の説明】
【0077】
1〜3:安定化電源回路
MN1〜MN7:Nチャネル型のトランジスタ
MP1〜MP8:Pチャネル型のトランジスタ
V1:第1の電圧源
V2:第2の電圧源
IB1:電流源
DAMP:差動増幅部
VDET:電圧検出部
R1,R2:抵抗素子
CL:コンデンサ
RL:負荷抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7