(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ホウ素が含有されたアモルファスカーボン膜を有するマスクを用いてプラズマエッチングした後、プラズマを用いてシリコン窒化膜、シリコン酸化膜またはタングステン膜に対して前記アモルファスカーボン膜を選択的に除去するプラズマ処理方法において、
O2ガスとCH3Fガスの混合ガスにより生成されたプラズマを用いて前記アモルファスカーボン膜を除去する除去工程を有し、
前記ホウ素の含有率は、50%以上であり、
前記除去工程は、前記アモルファスカーボン膜が除去される試料が載置される試料台の温度を80〜120℃の温度にして行われることを特徴とするプラズマ処理方法。
ホウ素が含有されたアモルファスカーボン膜を有するマスクを用いてプラズマエッチングした後、プラズマを用いてシリコン窒化膜、またはシリコン酸化膜に対して前記アモルファスカーボン膜を選択的に除去するプラズマ処理方法において、
O2ガスとCH2F2ガスの混合ガスにより生成されたプラズマを用いて前記アモルファスカーボン膜を除去する除去工程を有し、
前記ホウ素の含有率は、50%以上であり、
前記除去工程は、前記アモルファスカーボン膜が除去される試料が載置される試料台の温度を20〜100℃の温度にして行われることを特徴とするプラズマ処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施形態1]
図1は、本実施形態で使用する、ダウンフロータイプの誘導結合型プラズマ源を搭載したプラズマアッシング装置を示す概略図である。真空処理室は、ガス供給プレート101と石英製チャンバ102とチャンバ103で構成されている。ガス供給機構であるガス供給プレート101には、不図示のガス源から処理ガスを導入するためのガス供給口が配置され、更にガス供給口の直下には、処理ガスを石英製チャンバ102内にガスを効率良く外周へ分散するため、分散板104を設けている。
【0016】
石英製チャンバ102は、円筒形の石英のチャンバであり、その外周を誘導コイル105が等間隔に巻回されている。高周波電源109から27.12MHzの周波数の電流が誘導コイル105に供給され、誘導コイル105は誘導磁場を発生させる。高周波電源109と誘導コイル105の間には、高周波整合器110が配置されている。この高周波整合器110により、ガス系や処理材料が変更した場合でもプラズマを効率よく発生させることができる。本実施形態では、27.12MHzの高周波電流が誘導コイル105に流れているが、高周波整合器110とセットで適切なものを選択することにより、他の周波数帯、例えば13.56MHzの高周波電流を供給することも可能である。
【0017】
処理室であるチャンバ103内に供給された処理ガスは、フィードバック機能付きの圧力調整バルブ111及びドライポンプ(図示せず)により、チャンバ103内の圧力(処理圧力という)が所定の圧力となるように排気される。石英製チャンバ102にて生成されたプラズマにより、温度調整器108が接続された試料台106に載置されたウエハ107はアッシングされる。
【0018】
アッシング中は、試料であるウエハ107と処理ガスから放出された反応生成物の発光の強度の時間変化を分光器112によりモニターすることによって、マスク材料の除去の終点を検知することができる。本実施形態では、装置コスト低減のため、アルミ製のチャンバ103を用いたが、腐食性ガスを用いる場合は、腐食に強い材料、例えば、アルマイト表面を持つアルミ製のチャンバを用いた方が望ましい。
【0019】
アッシングにより発生した処理ガスと反応生成物は、排気口113からドライポンプ(図示せず)によって排気される。また、チャンバ103の内側に脱着式のカバー114を備えており、チャンバ103の内側への反応生成物の付着を防止している。このため、本プラズマアッシング装置のメンテンナンス時は、カバー114を交換し、取り外したカバーを洗浄に出すという運用により、本プラズマアッシング装置のダウンタイムを低減することが可能となる。
【0020】
また、ドライポンプ(図示せず)の後段には燃焼式の除害装置を備えており、大量の可燃性ガスを使用しても安全に可燃性ガスを除害することができる。さらに本プラズマアッシング装置は、可燃性ガスの爆発限界を超えないように、処理圧力が1000Paを上限とする所定圧力以下であることを検知する圧力スイッチ115を備えている。このため、何かしらの異常により圧力スイッチ115が所定圧力を超えた場合には、ガスバルブ116及び高周波電源109等を緊急遮断するようなソフト的、ハード的なインターロック(遮断機構)を備えている。このような機能を備えることにより、支燃性ガスである酸素ガスと可燃性ガスとの混合ガスを用いたプラズマアッシング処理を安全に実施することが可能となる。
【0021】
次に
図2(a)に示すホウ素含有アモルファスカーボン膜204をマスクとしてエッチングされた、シリコン酸化膜203とシリコン窒化膜202が交互に積層された積層膜(96層以上)を有するウエハを、上述した本プラズマアッシング装置を用いてプラズマアッシングする方法について説明する。尚、
図2(a)に示すように当該積層膜(96層以上)は、シリコン201に配置されている。また、ホウ素含有アモルファスカーボン膜204のホウ素の含有率は、エッチング工程での選択比向上のため50%以上とした。
【0023】
最初に、表1に示す従来条件により、
図2(a)に示すウエハのホウ素含有アモルファスカーボン膜204をアッシングした場合の形状を、
図2(b)に示す。表1の従来条件は、
図2(a)に示すウエハを試料台106に載置し、試料台に載置されたウエハの温度を安定化させるステップ1(処理時間25秒)と、ホウ素含有アモルファスカーボン膜をアッシングするステップ2(処理時間310秒)とから構成されている。尚、表1の「B−ACL」は、「ホウ素含有アモルファスカーボン膜」を指す。
【0024】
図2(b)に示すように、従来条件に基づくアッシングでは、トレンチ側壁層のシリコン窒化膜202に対しサイドエッチング205が2nm発生した。サイドエッチング205が発生する要因として、SiN膜ウエハのアッシング速度に対する、ホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度の比である対SiN選択比が不足しているためと考えられる。一方、シリコン酸化膜203は、シリコン窒化膜202に比べてFラジカルによってエッチングされ難いため、対SiO
2選択比が十分となり、サイドエッチングは発生していない。尚、対SiO
2選択比とは、SiO
2膜ウエハのアッシング速度に対する、ホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度の比のことである。
【0025】
このようなことから、シリコン窒化膜のサイドエッチングを抑制するためには、対SiN選択比を高くする必要がある。表1に示す従来条件または特許文献1記載の対SiN選択比は約300程度であるため、シリコン酸化膜203とシリコン窒化膜202が交互に積層された96層以上の積層膜上のホウ素含有アモルファスカーボン膜204をアッシングするためには、300以上の選択比が必要といえる。しかし、アッシング速度を増加させるために酸素ガスによるプラズマに添加したF系ガスは、SiN選択比を一般的に低下させるため、表1に示す従来条件では、300以上の対SiN選択比と、500nm/min以上のホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度を両立させることが困難だった。
【0027】
次に、本実施形態のプラズマ処理方法に係る表2の条件を用いて、
図2(a)のホウ素含有アモルファスカーボン膜204をアッシングした場合の形状を、
図2(c)に示す。
図2(c)に示すように、トレンチ側壁層のSiN202及びSiO
2203のサイドエッチング量を0nmにできた。
【0028】
尚、表2に示す本実施形態のプラズマ処理方法は、
図2(a)に示すウエハを試料台106に載置し、試料台に載置されたウエハの温度を安定化させるステップ1(処理時間25秒)と、ホウ素含有アモルファスカーボン膜をアッシングするステップ2(処理時間420秒)とを含む。また、表2の「B−ACL」は、ホウ素含有アモルファスカーボン膜を指す。
【0029】
図2(c)に示すように、表2に示すプラズマ処理条件により、トレンチ側壁層のSiN202及びSiO
2203のサイドエッチング量を0nmにできた理由は、表2に示す条件の対SiN選択比が629であったためと考えられる。このような結果から96層以上の積層膜のSiN202のサイドエッチングを抑制するために必要な対SiN選択比の目安としては、約600以上であることがわかる。
【0030】
次に量産処理において、本実施形態のプラズマ処理方法の安定性を確保するためのフローを、
図3に示す。最初にウエハのアッシング処理前に、チャンバ103内においてArガス雰囲気で300〜600s放電することにより、温度安定化工程(S301)を実行する。次にウエハをチャンバ103内に搬送して試料台106の上に載置することにより、ウエハ搬入工程(S302)を実行し、更に試料台106に載置されたウエハの温度の安定化させるため、処理時間25sでウエハ温度安定化工程(S303)を実行する。
【0031】
その後、ホウ素含有アモルファスカーボン膜204をアッシングしてアッシング処理の終点を判定する第1のアッシング工程(S304)と、ホウ素含有アモルファスカーボン膜204の追加アッシングする第2のアッシング工程(S305)とを実行する。さらにアッシングが終了したウエハをチャンバ103から搬出することにより、ウエハ搬出工程(S306)を実行する。また、ウエハを連続してアッシング処理を行う場合は、連続処理工程(S307)を実行すべく、フローをウエハ搬入工程(S302)に戻して新たなウエハを搬送する。
【0032】
第1のアッシング工程と第2のアッシング工程とで除去工程を構成する。また、除去工程前、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスを、チャンバ内に供給しながら試料台の温度を除去工程と同じ温度にして行われる温度安定化工程(安定化工程)が実行される。安定化工程ではプラズマを生成しない。
【0033】
図3に示すフローを実行することによって、温度安定化工程(S301)により石英製チャンバ102を温めることができ、連続処理中のアッシング速度の経時変化を抑制することができる。さらに第2のアッシング工程における安定したマスク材料のアッシング処理の終点の検知が可能となる。
【0034】
また、第1のアッシング工程(S304)における処理の終点判定は、分光器112の検知に基づく発光強度比の時間変化を用いて行った。
図4(a)に一例を示す発光強度変化は、反応生成物CO(451nm)の発光強度に対するOH(309nm)の発光強度の比の時間変化を示すものである。ここで、
図4(a)中の符号401は、Cell部の終点を示し、
図4(a)中の符号402は、周辺部の終点を示す。
【0035】
第1のアッシング工程(S304)における処理の終点(アモルファスカーボン膜の除去の終了)判定として、
図4(a)に示すような発光強度比の時間変化を用いることにより、OHのみの発光強度の時間変化(
図4(b))を用いる場合に比べて、Cell内と周辺回路部分の変化が強調されるため、第1のアッシング工程(S304)の処理の終点を判定する判定精度を向上することができる。
【0036】
また、これにより成膜条件や前工程のエッチングの処理バラツキを吸収でき、装置自体の経時変化や機差に対しても安定的したボロン含有アモルファスカーボン膜の除去性能を実現することが可能となる。尚、本実施形態による
図2(c)に示す形状は、周辺部の終点402に対してオーバーアッシング率を100%としてアッシング処理した結果である。
【0037】
次にボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング処理条件のマージン調査の結果を以下に示す。CF
4ガスとCH
3Fガスの違いを調査するため、表1に示す従来条件に対し、CF
4ガスからCH
3Fガスに変更した条件及び結果を表3に示す。
【0039】
表3の条件によるアッシング処理では、対SiN選択比が124であり、表1の条件における対SiN選択比よりも数値が低いにも関わらず、シリコン窒化膜202へのサイドエッチング量が1nmと、表1の条件にてアッシング処理した場合よりシリコン窒化膜202のサイドエッチング量が小さい。この結果は、ホウ素含有アモルファスカーボン膜とCH
3Fガスの反応生成物であるCH系デポがトレンチ側壁層に付着するため、トレンチ側壁層のシリコン窒化膜202のアッシング速度が抑制されたためと考えられる。
【0040】
以上の結果から、シリコン窒化膜へのサイドエッチングを抑制しながらホウ素含有アモルファスカーボン膜をアッシングするためには、O
2ガスに添加するフッ素含有ガスとして、ボロンのエッチャントであるFラジカルと共にCHxデポを発生させるCHxFyガスのうち、F比が少なく水素比が大きいガスであるCH
3Fガスが、選択比の観点で最も適したガスであることが分かった。また、このようなガスとしてCH
2F
2ガスを用いても同様の効果が得られる。
【0041】
次に表2に示すガス系における、アッシング速度と選択比に対する試料台106の温度の依存性を調べた結果を、
図5に示す。アッシング処理条件は、O
2ガスを10L/min、CH
3Fガスを0.75L/min、処理圧力を450Pa、高周波電源の出力を4500Wとした。
【0042】
図5に示すように、ボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度(符号501で示す)は、試料台106の温度が20〜120℃の範囲で単調に増加し、試料台温度が80〜120℃の範囲で飽和して試料台温度が120℃で極大値となり、試料台106の温度が120〜150℃の範囲で低下する傾向であった。同様に対SiO
2選択比(符号502で示す)と、対SiN選択比(符号503で示す)も、試料台106の温度が20〜120℃の範囲で増加し、試料台温度が80〜120℃の範囲で飽和して試料台温度が120℃で極大値となり、試料台106の温度が120〜150℃の範囲で低下する傾向となった。
【0043】
このようにホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度が試料台106の温度が20〜120℃の範囲で増加する傾向が生じるのは、ウエハ温度を上げた場合、ホウ素含有アモルファスカーボン膜表面のカーボンの酸化とボロンのフッ化が進むことによってホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシングが進行するためと考えられる。また、ホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度が、試料台106の温度が120〜150℃の範囲で低下する傾向が生じる理由は、ホウ素の酸化が優勢となり、Fラジカルとの反応が抑制されたためと考えられる。
【0044】
また、対SiO
2選択比(符号502で示す)と対SiN選択比(符号503で示す)が、試料台106の温度が20〜120℃の範囲で増加する傾向が生じる理由は、ウエハ温度の上昇に従ってSiO
2またはSiNの表面の酸化が促進されて、Fラジカルによるシリコン酸化膜及びシリコン窒化膜のアッシングの抑制、及び試料台106の当該温度範囲(20〜120℃)でのホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度増加が生じるためと考えられる。
【0045】
さらに試料台106の温度が20〜150℃の場合、表1に示す従来条件の混合ガスよりO
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスの方がSiN表面の酸素濃度が高くなる。このため、SiNウエハ表面の酸化の促進には、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスの方が従来の混合ガスより有効と考えられる。
【0046】
以上のようなことから、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスによるプラズマを用いたホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシングにおいて、アッシング速度の向上及び選択比向上の観点で試料台106の温度を80〜120℃にするのが望ましい。
【0047】
一般的にプラズマアッシング装置には、価格低減のため、試料台106にエッチング装置のような静電吸着機構など使用していない場合が多く、試料台106の設定温度とウエハ上の温度が異なる。一例として、試料台106の設定温度に対するウエハ温度の関係を調べた結果を
図6に示す。ウエハ温度は、温度センサを複数埋め込んだウエハにて測定した。
【0048】
この測定の結果、
図6に示すように試料台106の設定温度が80〜120℃の範囲の時のウエハ温度は121〜182℃であった。従ってウエハ温度が121〜182℃の範囲であれば、アッシング速度の向上及び選択比向上の観点から、試料台106の設定温度が80〜120℃の範囲の時と同じ効果が得られると考える。
【0049】
また、このウエハ温度は、プラズマからの入熱と試料台106へ流れる熱流速によって変化するため、ウエハ温度を指標としたプラズマ条件、試料台106の熱接触構造に応じて試料台106の設定温度を適切に調整する必要がある。特にウエハを試料台106に静電吸着させてHe等をウエハと試料台の間に充填させる方式の試料台を用いる場合は、ウエハ温度121〜182℃を目安にすると良い。
【0050】
次に
図7は、試料台106の温度を20℃、O
2ガスの流量を10L/min、CH
3Fガスの流量を0.3〜1.5L/min、処理圧力を250Pa、高周波電源の出力を4500Wとした場合における、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスの総ガス流量に対するCH
3Fガスの添加量のボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度と選択比の関係を示す図である。
【0051】
図7に示すように、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスの総ガス流量に対するCH
3Fガスの添加量が5〜12%の範囲において、ボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度(符号701で示す)は増加し、CH
3Fガスの添加量が12〜15%の範囲において、ボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度(符号701で示す)は、低下する結果となった。また、対SiO
2選択比(符号702で示す)及び対SiN選択比(符号703で示す)は、CH
3Fガスの添加量が5〜12%の範囲において、増加する結果となった。
【0052】
CH
3Fガスの添加量が5〜12%の範囲において、ボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度が増加した要因は、ボロンのエッチャントであるFラジカルの増加により反応が促進されてアッシングが進行したためと考えられる。一方、ボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシングレートがCH
3Fガスの添加量が12〜15%の範囲において低下した要因は、CHxが増加してアッシングが抑制されたためと考えられる。
【0053】
また、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜のアッシング速度は、CH
3Fガスの添加量を増加するとCHxが増加してアッシング速度は低下するが、CH
3Fガスの添加量が12〜15%の範囲では、ボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度が低下するため選択比が低下すると考えられる。このため、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスの総ガス流量に対するCH
3Fガスの添加量は、5〜12%が望ましく、この時のホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度は、135〜145nm/minでシリコン窒化膜選択比は約168〜186となる。
【0054】
次に
図8は、試料台106の温度を20℃、O
2ガスの流量を10L/min、CH
3Fガスの流量を0.75L/min、処理圧力を250〜650Pa、高周波電源の出力を4500Wとした場合における、処理圧力に対するホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度と選択比の関係を示す図である。
【0055】
図8に示すようにボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度(符号801で示す)は、処理圧力が250〜550Paの範囲において増加し、650Paで低下した。また、対SiO
2選択比(符号802で示す)と対SiN選択比(符号803で示す)は、処理圧力が250〜550Paの範囲において増加する結果となった。
【0056】
ボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度が増加した要因は、処理圧力が250〜550Paの範囲においてホウ素含有アモルファスカーボン膜とエッチャントであるFラジカルの増加により反応が促進されてアッシングが進行したためと考えられる。一方、処理圧力650Paにおいて、ボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度が低下した要因は、プラズマ解離が処理圧力に対して不足したことによるものと考えられる。また、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜のアッシング速度は、処理圧力を増加するとCHxが増加してアッシング速度は低下するが、処理圧力が650Paにおいては、ボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度が低下するため、選択比も低下したと考えられる。
【0057】
従って、処理圧力については、4500W程度の高周波電力を用いる場合、250〜450Paが望ましい。この時のホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度は、142〜192nm/min、シリコン窒化膜選択比は、約175〜230となる。尚、プラズマ生成用高周波電力を増加させた場合は、処理圧力の増加に伴い、アッシングレートも増加するが、本実施形態のような可燃ガスと支燃ガスの混合ガスを用いる場合は、可燃性ガスの爆発限界以下の処理圧力に制御する必要がある。
【0058】
次に
図9は、試料台106の温度が100℃、O
2ガスの流量を20L/min、CH
3Fガスの流量を1.5L/min、処理圧力を450Pa、高周波電源の出力を4500Wとした場合(表4)における、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスの流量に対するアッシング速度と選択比の関係を示す図である。
【0059】
図9に示すようにボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度(符号901で示す)は、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスの流量を増加すると521nm/min以上となり、同様に対SiO
2選択比(符号902で示す)及び対SiN選択比(符号903で示す)もO
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスの流量の増加と共に増加する。尚、
図9における「総ガス流量」は、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスの流量のことである。
【0060】
表4に示す条件における対SiN選択比は、1303と比較的高い。したがって、トレンチ側壁層のシリコン窒化膜202のサイドエッチングが発生しないこと及び上述した
図9に示す特性により、96層以上のSiO
2とSiNの積層膜のエッチングが求められる次世代のマスクのホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシングには、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスの総ガス流量を21.5L/min以上とした方が良い。
【0062】
次に
図10は、対SiN選択比に対するボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度とシリコン窒化膜のサイドエッチング量の関係を示す図である。
図10に示すようにO
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスにおいて、対SiN選択比が600以上の場合、シリコン窒化膜のサイドエッチング量(符号1002で示す)が0nmとなり、さらに対SiN選択比が980以上であれば、ボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度(符号1001で示す)が500nm/min以上となる。このため、対SiN選択比が980以上の場合、ボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度が500nm/min以上となり、かつ、サイドエッチングの抑制ができる。
【0063】
また、試料台106の温度が80〜120℃の範囲の場合、処理圧力を250〜1000Pa、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスに対するCH
3Fガスの流量比を5%〜12%、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスの流量を21.5L/min以上とする条件において、対SiN選択比が980以上となるため、当該条件でもボロン含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度が500nm/min以上となり、かつ、サイドエッチングの抑制ができる。
【0064】
図11は、O
2ガスの流量を20L/min、CH
3Fガスの流量を1.5L/min、処理圧力を450Pa、高周波電源の出力を4500Wとした場合における、試料台106の温度に対するホウ素含有アモルファスカーボン膜及びタングステン膜のアッシング速度と選択比の関係を示す図である。
【0065】
図11に示すように、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスでは、試料台106の温度が20〜150℃の範囲において、ホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度(符号1101で示す)に対してタングステン膜のアッシング速度(符号1102で示す)は、0.1nm/min以下である。このため、タングステン膜のアッシング速度に対するホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシング速度の比である対タングステン膜(W)選択比(符号1103で示す)は、2180〜5280と高い。
【0066】
よって、トレンチ側壁層や下地にタングステン膜が用いられたウエハのホウ素含有アモルファスカーボン膜を、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスによるプラズマを用いてアッシング処理することにより、タングステン膜に対して高い選択比でホウ素含有アモルファスカーボン膜をアッシングすることができる。
【0067】
本実施形態においては、トレンチ側壁層にSiN膜とSiO
2膜、下地にSiを有する積層構造におけるマスクのホウ素含有アモルファスカーボン膜のアッシング処理について説明したが、トレンチ側壁層や下地にどれか一つの膜でも有していれば、同様の効果を得ることができる。
【0068】
また、本実施形態では、誘導結合型プラズマ源のアッシング装置を用いた例を説明したが、マイクロ波により生成されたプラズマ等の他のプラズマ源を用いたアッシング装置で実施しても同様の効果を得ることができる。
【0069】
以上、本発明により、ホウ素含有アモルファスカーボン膜をプラズマにより除去するプラズマアッシング方法において、ホウ素含有アモルファスカーボン膜の除去速度の向上とトレンチ側壁層のサイドエッチング抑制を両立し、量産処理を安定的に行うことができる。
【0070】
また、O
2ガスとCH
3Fガスの混合ガスによるプラズマを用いてホウ素含有アモルファスカーボン膜をアッシングすることにより、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜またはタングステン膜に対して高い選択比でホウ素含有アモルファスカーボン膜をアッシングすることができる。
【0071】
[実施形態2]
以下、実施形態2について説明する。本実施形態では、O
2ガスとCH
2F
2ガスを
図1のプラズマアッシング装置に供給しつつ、
図2(a)に示す積層膜(96層以上)を有するウエハに対し、
図3のフローに従ってアッシング処理を行うものとする。ホウ素含有アモルファスカーボン膜204のホウ素の含有率は、エッチング工程での選択比向上のため50%以上とした。特に示さない限り、上述した実施の形態と同様な構成及び処理を用いるものとし、重複する説明を省略する。
【0072】
図12は、試料台106の温度が100℃で、O
2ガスを20L/min、CH
2F
2ガスを1.5L/min、処理圧力を450Pa、高周波電源により2500〜4500W印加した時の高周波電源に対するB−ACLのアッシング速度と選択比の関係を示す図である。
【0073】
図12に示すように、B−ACLのアッシング速度(符号1201で示す)と対SiO
2選択比(符号1202で示す)は、高周波電源の出力2500〜4500Wの範囲で増加した。一方、対SiN選択比(符号1203で示す)は、高周波電源の出力2500〜3500Wの範囲で増加し、高周波電源の出力4000〜4500Wの範囲で低下した。
【0074】
B−ACLのアッシング速度が向上した要因は、高周波電源については出力2500〜4500Wの範囲では、B−ACL膜とエッチャントであるFラジカルの増加により反応が促進されたことが理由と考えられる。
【0075】
一方、シリコン窒化膜が、高周波電源の出力4000〜4500Wの範囲で低下した要因として、エッチャントであるFラジカルの増加により反応が促進されてアッシング速度が増加しているが、B−ACL膜に比べると高周波電力増加によるFラジカル増加の影響が大きいことが理由と考える。したがって、高周波電力の出力については、2500〜3500Wの範囲とすることが望ましい。この時のB−ACL膜のアッシング速度は、444〜627nm/minで、シリコン窒化膜選択比は約987〜1063である。
【0076】
図13は、試料台106の温度が20℃で、O
2ガスを20L/min、CH
2F
2ガスを1.0〜2.0L/min、処理圧力を450Pa、高周波電源により3500W印加した時のO
2ガスとCH
2F
2ガスの混合ガスの総ガス流量に対するCH
2F
2ガスの添加量のB−ACLのアッシング速度と選択比の関係を示す図である。
【0077】
CH
2F
2ガスの添加量が5〜7.5%の範囲でB−ACLアッシング速度(符号1301で示す)は増加し、7.5〜10%で低下した。対SiO
2選択比(符号1302で示す)と対SiN選択比(符号1303で示す)も、CH
2F
2ガスの添加量が5〜7.5%の範囲で増加する結果となった。
【0078】
アッシング速度が増加した要因は、CH
2F
2ガスの添加量が5〜7.5%の範囲ではボロンのエッチャントであるFラジカルの増加により反応が促進されアッシングが進み、CH
2F
2ガスの添加量が7.5〜10%ではCHxが増加してアッシングが抑制されたためと考える。
【0079】
一方、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜のアッシング速度は、CH
2F
2ガスの添加量を増加するとCHxが増加してアッシング速度は低下するが、CH
2F
2ガスの添加量が7.5〜10%ではB−ACLのアッシング速度が低下するため選択比は低下すると考えられる。したがって、CH
3Fガスの添加量は、5〜7.5%が望ましく、この時のB−ACL膜のアッシング速度は608〜627nm/minで、シリコン窒化膜選択比は約1031〜1045である。
【0080】
図14は、試料台106の温度が100℃で、O
2ガスを20L/min、CH
2F
2ガスを1.5L/min、処理圧力を250〜650Pa、高周波電源により3500W印加した時の処理圧力に対するB−ACLのアッシング速度と選択比の関係を示す図である。B−ACLアッシング速度(符号1401で示す)は、処理圧力が250〜550Paの範囲では増加し、処理圧力が650Paで低下した。
【0081】
一方、対SiO
2選択比(符号1402で示す)と対SiN選択比(符号1403で示す)も処理圧力が250〜550Paの範囲で増加し、処理圧力が650Paで低下する結果となった。アッシング速度が向上した要因は、処理圧力については250〜550Paの範囲ではB−ACL膜とエッチャントであるFラジカルの増加により反応が促進されアッシングが進み、処理圧力650Paでは、プラズマ解離が処理圧力に対して不足するためアッシングレートが低下したと考えられる。
【0082】
また、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜のアッシング速度は処理圧力を増加すると、CHxが増加してアッシング速度は低下するが、処理圧力が650PaではB−ACLアッシングアッシング速度が低下するため選択比も低下したものと考えられる。
【0083】
したがって、3500W程度の高周波電力を供給する場合、処理圧力は250〜550Paとすることが望ましい。この時のB−ACL膜のアッシング速度は492〜746nm/minで、シリコン窒化膜選択比は約946〜1066である。
【0085】
表5に示す条件は対SiN選択比が1066と高く、トレンチ側壁層のシリコン窒化膜202のサイドエッチングは発生しないため、次世代のB−ACL膜アッシングにはO
2ガスとCH
2F
2ガスの混合ガスの総ガス流量は、21.5L/min以上が有効と考えられる。