特許第6803033号(P6803033)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6803033甘味料、パンまたは焼成食品材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803033
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】甘味料、パンまたは焼成食品材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20201214BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20201214BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20201214BHJP
【FI】
   A21D2/18
   A21D2/36
   A23L27/00 101Z
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-53796(P2019-53796)
(22)【出願日】2019年3月20日
(65)【公開番号】特開2019-170372(P2019-170372A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2019年7月30日
(31)【優先権主張番号】特願2018-58543(P2018-58543)
(32)【優先日】2018年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】518103134
【氏名又は名称】新十津川町
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥西 智哉
(72)【発明者】
【氏名】後木 満男
(72)【発明者】
【氏名】平川 宏之
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−061647(JP,A)
【文献】 特開2004−041014(JP,A)
【文献】 特開昭56−072690(JP,A)
【文献】 特開平10−150908(JP,A)
【文献】 特開2004−275103(JP,A)
【文献】 特公昭31−002098(JP,B1)
【文献】 特開平03−175989(JP,A)
【文献】 特開昭62−146548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
損傷デンプン率が30%以上でありアミロース含量が20%以上である酒米粉を含む酒米原料を、糊化工程を行わずに、35℃以下の温度条件で6〜24時間、米麹を用いて糖化し、得られる酒米粉糖化組成物を甘味料、パンまたは焼成食品材料に調製する、甘味料、パンまたは焼成食品材料の製造方法。
【請求項2】
酒米粉は、白糠である、請求項1に記載の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒米粉発酵組成物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
米は一般の米飯用途向きの米(一般米)と、酒造用の酒米とに分類され得る。一般米は、通常、玄米重量に対し外層10%を占めるアリューロン層(いわゆる糠分)を除去し90%精米として販売および消費される。90%精米(精白米、白米とも称される)の外層部にはタンパク質が比較的多く含まれるが、酒米の場合、このタンパク質は酒造時において“雑味”の原因となり得る。そのため、酒造時には酒質を高めるため、酒米の外層が研削され酒米粉として取り除かれ、より中心部のデンプン割合が高い部分のみが取り出される。その結果少なくとも玄米から70%、時には50%を下回る精米が酒造用精米では行われ、30%以上が除去されることになる。除去される部分は、精白米として利用可能なデンプン部を有する可能性があるが、その有効な利用方法は今のところ提案されていない。
【0003】
特許文献1には、麹と水、蒸米および米の混合物のpHを所定の範囲に調整して得られる酒種を製パン改良剤として用いることが記載されている。特許文献2には、凍結麹と熱水の混合液である麹液の温度を調整してから蒸米および米と混合して得られる酒種を、同様に製パン改良剤として用いることが記載されている。特許文献3には、米とアルコールと酒粕と、更に蒸米を含む混合物を発酵させて得られる酒種が、製パン改良剤として用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−102701号公報
【特許文献2】特開2013−102702号公報
【特許文献3】特開2013−153663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1〜3に記載の技術は、うるち米等の通常の食用の米の用途を提供する技術である。米麹による米澱粉の資化を進めるため、発酵原料として蒸米を用いること、すなわち発酵前の米を炊飯、粥化等の加熱により生澱粉を糊化させることが前提となっている。そのため、これらの技術では、加熱装置を含む製造設備が必要であり、エネルギーコストがかかる等の問題があった。
【0006】
本発明は、酒米粉を原料とする新規な加工品の提供、その製造方法、および用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の発明を提供する。
〔1〕酒米粉を少なくとも含む酒米原料に由来する酒米粉発酵組成物。
〔2〕酒米粉は、白糠である、〔1〕に記載の組成物。
〔3〕〔1〕又は〔2〕に記載の組成物を含む、食品添加剤。
〔4〕甘味料または焼成食品改良剤である、〔3〕に記載の剤。
〔5〕少なくとも酒米粉を含む酒米原料を60℃以下の温度条件で発酵することを含む、酒米粉発酵組成物の製造方法。
〔6〕〔1〕又は〔2〕に記載の組成物、若しくは〔3〕又は〔4〕に記載の剤を含む食品組成物。
〔7〕パンまたは焼成食品材料である、〔6〕に記載の食品組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酒米粉を原料として、食品の食感及び風味を変化させることができ、保存安定性を向上させることのできる、安全性の高い、酒米粉発酵組成物が提供される。本発明によれば、斯かる酒米粉発酵組成物は、糊化処理を経ずに簡単にかつ低コストで生産できることから、従来廃棄されていた酒米粉の有効利用を促進することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、酵素糖化で得られる発酵組成物のグルコース含有量を示す。図中、丸、四角、三角は、それぞれ実施例1(酒米粉)、比較例1(うるち米粉)、比較例2(α化米粉)の結果である。
図2図2は、麹糖化で得られる発酵組成物のグルコース含有量を示す。図中、丸、四角、三角、ひし形は、それぞれ実施例2(酒米粉)、比較例3(うるち米粉)、比較例4(α化米粉)、比較例5(α化もち米粉)の結果である。
図3図3は、常温発酵で得られる発酵組成物のグルコース含有量を示す。図中、丸、四角、三角は、それぞれ実施例3(酒米粉)、比較例6(うるち米粉)、比較例7(α化米粉)の結果である。
図4図4は、低温発酵で得られる発酵組成物のグルコース含有量を示す。図中、丸、四角、三角は、それぞれ実施例4(酒米粉)、比較例8(うるち米粉)、比較例9(α化米粉)の結果である。
図5図5は、パンの比容積を示すグラフである。左から順に、それぞれ比較例10(小麦粉パン)、実施例5(酒米パン)の結果である。
図6図6は、パンの硬さを示すグラフである。左から順に、それぞれ比較例11(小麦粉パン)、実施例6及び7(酒米パン)の結果である。
図7図7は、パンのマルトース含量を示すグラフである。左から順に、それぞれ比較例11(小麦粉パン)、実施例6及び7(酒米パン)の結果である。
図8図8は、パンの比容積を示すグラフである。左から順に、それぞれ比較例11(小麦粉パン)、実施例6及び7(酒米パン)の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.酒米粉発酵組成物)
(1−1.酒米原料)
本発明の酒米粉発酵組成物は、酒米原料に由来する。酒米(酒造米)は、主として日本酒醸造用の原料として使用される米であればよく、その品種、銘柄、産地、収穫年度、及び栽培条件は特に限定されない。酒米原料は、酒米粉を少なくとも含み、酒米粉であることが好ましい。酒米原料が含んでいてもよい酒米粉以外の成分は、酒米の食用部分を構成する成分であればよく、特に限定されない。
【0011】
(1−2.酒米粉)
酒米粉は、酒米の搗精の際に酒米の外層が研削されることにより発生するものであればよく、例えば、赤糠(精米歩合約90%までに発生)、中糠(精米歩合約80〜90%までに発生)、白糠(精米歩合約60〜80%までに発生)、上白糠(精米歩合約60%未満で発生)が挙げられ、白糠が好ましい。
【0012】
酒米粉のアミロース含量は特に限定されないが、通常はうるち米のそれよりは高く、例えば20%以上、23%以上、25%以上または26%以上である。酒米粉のアミロース含量の測定は、アミロース/アミロペクチン測定キット(AMYLOSE/AMYLOPECTIN ASSAY KIT、Megazyme社)を用いて行うことができる。
【0013】
酒米粉の損傷デンプン率は、通常は30%以上、好ましくは35%以上である。酒米粉は搗精の際に受ける力学的作用により、うるち米粉等の他の米粉と比較してデンプンの構造が損傷を受けていることが多い。損傷デンプン率の測定は、0.25M塩酸を用いる酸溶解法により行うことができる。
【0014】
(2.酒米粉発酵組成物の製造方法)
酒米粉発酵組成物は、酒米原料の発酵(糖化)により製造され得る。発酵温度、発酵時間、用いる酵素等の発酵条件は、特に限定されず、酒米原料中の澱粉がグルコースに変換される条件であればよい。好ましい発酵条件は酒米原料の組成、反応規模等の諸条件により異なるため一律に特定するのは難しいが、一例を挙げると以下のとおりである。発酵温度は、通常は70℃以下、好ましくは60℃以下、より好ましくは常温(例えば、15℃以上(好ましくは20℃以上)及び/又は35℃以下(好ましくは30℃以下))またはそれ以下である。発酵を低温で行うことにより、特別な設備を要することなく効率的な製造が可能である。下限は、通常は0℃以上である。発酵時間は、酒米原料、温度条件等の他の発酵条件によって異なるため一概に決めることは困難であるが、常温発酵の場合、通常は2時間以上、好ましくは6時間以上である。上限は通常24時間以下である。発酵に用いる酵素としては、例えば、アミラーゼ、プロテアーゼ等の酵素;米麹等の微生物培養物が挙げられる。米麹としては例えば、アスペルギルス属細菌等麹菌由来の米麹が挙げられ、アスペルギルス・オリザ由来の米麹が好ましい。
【0015】
本発明の酒米粉発酵組成物は、酒米以外の米の発酵組成物を得る際の発酵前の必須工程である糊化工程(加熱工程)を省略して製造できる。これにより、低エネルギーでの製造が可能であり、設備投資も削減できるので経済的である。また、糊化工程によるダマの発生、分散性低下等の問題を抑制できる。本発明者らが酒米糠をSEMで観察したところ、表面に角張った米澱粉の構造が見られなかった。このことから、糊化工程(加熱工程)を省略できる理由として、酒米糠においては、酒米の搗精時に発生する圧力と熱に起因して、通常のうるち米由来の米粉と比較して澱粉がダメージを受け糊化様の変化がある程度進んでいる(澱粉が分解されている)ことが一因ではないかと推測される。
【0016】
発酵後に得られる組成物は、そのまま酒米粉発酵組成物としてもよいし、ろ過、濃縮、乾燥、殺菌等の通常の加工食品の製造の際に適用される処理がなされていてもよい。
【0017】
発酵工程後に得られる組成物は、グルコース、デンプン(未糖化)、アミノ酸、タンパク質等の成分を含むものと推測される。酒米粉発酵組成物は、酒米粉以外の米粉から得られる発酵組成物と比べて、澱粉の分解が進みグルコース含量が多いことが推測される。
【0018】
酒米粉発酵組成物は、任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、食品に用いられ得る成分であればよく、例えば、保存剤、賦形剤、酸化剤、乳化剤、着色剤、増粘剤、粘結剤、香料が挙げられる。任意成分の含有量は、特に限定されない。
【0019】
(3.食品添加剤および食品組成物)
酒米粉発酵組成物は、食品添加剤として利用できる。食品添加剤としては、例えば、甘味料、焼成食品改良剤が挙げられる。酒米粉発酵組成物は甘味を呈するため、砂糖の代替品としての甘味料として有用である。甘味料として用いる場合には、酒米粉発酵組成物をそのまま用いてもよいが、米麹を含む異物を除去する工程(例えば、ろ過、遠心分離)及びその後の濃縮工程(例えば、煮詰め、凍結乾燥(真空凍結乾燥等))を経て得られる結果物(シロップ、粉末、粒状、ペレット等の各種形状の甘味料)を用いることが好ましい。また、酒米粉発酵組成物は、焼成食品の原料として用いることが好ましい。これにより、焼成食品の食感、風味を向上させる(より膨らませる)ことができる。また、製造後時間が経過しても食感、風味を持続できるので、経時変化(老化)を抑制でき、保存安定性を向上させることができる。膨らみ促進が実現するメカニズムはおそらく、焼成食品の原料として通常用いられる小麦粉中のタンパク質の分解を酒米粉発酵組成物が促進することができるためであると推測される。焼成食品改良剤の対象である焼成食品としては、例えば、パン、パウンドケーキ、蒸しパン、ホットケーキ、クッキーが挙げられる。焼成食品改良剤は、好ましくは製パン改良剤である。製パン改良剤は、製パン材料(例えば製パン用ミックス粉、製パン用生地)に添加して用いられる。製パン改良剤の製パン材料への添加量は、例えば、製パン材料中の小麦粉に対する質量割合(ベーカーズパーセント)として、通常は1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上、とりわけ好ましくは5質量%以上である。これらの食品への添加時期、添加方法等の条件は特に限定されず、食品の種類に応じて適宜決定すればよい。
【0020】
酒米粉発酵組成物が添加された食品は、甘味付与、食感改良、風味向上、保存安定性向上等の効果を得ることができる。
【実施例】
【0021】
実施例1および比較例1〜2〔α−アミラーゼを用いた米粉発酵組成物の製造〕
15mLチューブに、酒米粉(平成27年度北海道新十津川町産、アミロース含量26.89%、損傷デンプン率39.22%、白糠)、α−アミラーゼ(Sigma社、Aspergillus Oryzae由来)溶液105U相当、および水7mlを入れ、よく撹拌した後、60℃の恒温振盪機(TOMAS T−12R)中で振盪しながら反応させた。反応開始後1,2,3,5,24時間後にサンプリングし、糖濃度を測定した(実施例1)。
【0022】
酒米粉の代わりにうるち米粉(平成28年度北海道新十津川町産、アミロース含量17.14%、損傷デンプン率14.40%)を用いたほかは実施例1と同様に測定を行った(比較例1)。また、酒米粉の代わりにα化米粉(市販品、損傷デンプン率85.73%)を用いたほかは実施例1と同様に測定を行った(比較例2)。
【0023】
結果を図1に示す。図1から明らかなとおり、比較例1の発酵物と比較して、実施例1では糖化が効率よく進み、比較例2とほぼ同等であった。このことは、酒米粉発酵組成物がうるち米等他の米の発酵組成物よりもグルコースを豊富に含むこと、及び、酒米粉を含む酒米原料を用いることにより、炊飯等の前処理を行わなくとも、α化米粉発酵組成物と同等の効率的な糖化が実現できることを示している。
【0024】
実施例2および比較例3〜5〔米麹を用いた米粉発酵組成物の製造〕
実施例1で用いた酒米粉に、粉砕した米麹(都こうじ、(株)伊勢惣)30gおよび水210gを加え、60℃の高温振盪槽で振盪しながら反応させた。反応開始後15分、30分、1時間、2時間、3時間、6時間、および24時間後にサンプリングし、糖濃度を測定した(実施例2)。
【0025】
酒米粉の代わりに、比較例1および2で用いたうるち米粉およびα化米粉を用いたほかは実施例2と同様に測定を行った(比較例3および4)。また、酒米粉の代わりにもち米粉(平成28年度北海道新十津川町産、アミロース含量1.88%、損傷デンプン率6.92%)を用いたほかは実施例2と同様に測定を行った。
【0026】
結果を図2に示す。図2から明らかなとおり、比較例3の発酵物と比較して、実施例1では糖化が効率よく進み、比較例4および5とほぼ同等であった。このことは、米麹を用いた発酵においても、α−アミラーゼを用いた発酵と同様に、うるち米等他の米の発酵組成物よりもグルコースを豊富に含む酒米粉発酵組成物が得られること、および、酒米粉を含む酒米原料を用いることにより、炊飯等の前処理を行わなくとも、α化米粉発酵組成物と同等の効率的な糖化が実現できることを示している。
【0027】
実施例3〜4および比較例6〜9〔常温または低温発酵による発酵組成物の製造〕
実施例1で用いた酒米粉25gに対して粉砕した米麹(都こうじ、(株)伊勢惣)25g、水400gを加え、20℃または5℃の恒温振盪槽で静置して反応させた。0、0.5、1、2、6および18時間後にサンプリングを行い、グルコース濃度を測定した(実施例3および4)。
【0028】
酒米粉の代わりに、比較例1および2で用いたうるち米粉およびα化米粉を用いたほかは実施例2と同様に測定を行った(比較例6〜9)。
【0029】
常温発酵および低温発酵の結果を、図3および4に示す。図3から明らかなとおり、比較例6の発酵物と比較して、実施例3の発酵物は豊富にグルコースを含んでおり、比較例6のα化米粉の発酵物とほぼ同等であった。図4から明らかなとおり、比較例8の発酵物と比較して、実施例4の発酵物は豊富にグルコースを含んでおり、比較例9のα化米粉の発酵物とほぼ同等であった。このことは、酒米粉を含む酒米原料を用いることにより、常温または低温発酵でもグルコースを豊富に含む発酵物を得ることができることを示している。
【0030】
実施例5および比較例10〔食パンの製造〕
小麦粉220g、上白糖(砂糖)17g、食塩5g、バター10g、ドライイースト2.8gおよび水160gをホームベーカリーにて製パンし、小麦粉パンを得た(比較例10)。
【0031】
実施例1で用いた酒米粉50gに、米麹50gおよび水300mLを加え、20℃の恒温振盪槽で静置して6時間発酵させ、酒米粉発酵組成物を得た。比較例10の製パン材料に得られた発酵組成物10gを加えたほかは同様にして酒米パンを得た(実施例5)。
【0032】
各食パンの比容積(パンの膨らみ指標)を測定した。比容積は、レーザー体積計で測定した体積を重量で除すことで算出した。結果を図5に示す。図5から明らかなとおり、比較例10の小麦粉パンの比容積は4.735であったのに対し、実施例5の酒米パンの比容積は、5.09と高いものであった。このことは、酒米粉発酵組成物がパンの膨らみを改善することができ、製パン改良剤等の食品添加剤として有用であることを示している。
【0033】
実施例6〜7及び比較例11〔食パンの製造〕
小麦粉220g、上白糖(砂糖)17g、食塩5g、バター10g、ドライイースト2.8gおよび水160gをホームベーカリーにて製パンし、小麦粉パンを得た(比較例11)。
【0034】
実施例1で用いた酒米粉50gに、米麹50gおよび水300mLを加え、20℃の恒温振盪槽で静置して6時間発酵させ、酒米粉発酵組成物を得た。比較例11の製パン材料に得られた発酵組成物10g又は50gを加えたほかは同様にして酒米パンを得た(実施例6及び7)。
【0035】
各食パンの硬さ(製造から1日経過後及び3日経過後)、マルトース含量(製造時:しっとり感の指標)を以下の手順で測定した。硬さの測定は、物性測定機(テンシプレッサー)を用いて行い、圧縮率25%時の反発応力をパン硬さとした。マルトース含量の測定は、パンの水抽出をイオンクロマトグラフにより分析し、濃度既知の標準品との面積比からマルトース含量を求めた。また、比容積(パンの膨らみ指標)を実施例5と同様に算出した。
【0036】
パンの硬さ及びマルトース含量をそれぞれ図6及び7に示す。図6から明らかなとおり、比較例11の小麦粉パンは、3日後には1日後よりも約2000Pa増加し硬さが増大していたが、実施例6及び7の酒米パンは約500〜約1000Pa弱程度しか増加せず、硬さの増大が抑制された(図6)。また、比較例11の小麦粉パンと比較して、実施例5及び6の酒米パンの方がマルトースを多く含み、しっとり感を保持していた(図7)。さらに、比較例11の小麦粉パンと比較して、実施例6及び7の酒米パンの比容積が上回っており、膨らみが良かった(図8:比容積の単位cc/g)。これらの結果は、酒米粉発酵組成物がパンの経時変化を抑制し保存安定性を向上できることを示し、酒米粉発酵組成物が製パン改良剤等の食品添加剤として有用であることを示している。
【0037】
実施例8〔甘味料の製造〕
(1)原液の調製
実施例2と同様の粉砕した米麹50gに水500mLを加え、これに実施例1で用いた酒米粉に入れ、水1000mLをさらに加えながら混ぜ合わせた。混ぜ合わせた後、約20℃で6〜24時間放置して発酵させ、原液を得た。
【0038】
(2)米麹及び不純物の除去
(1)で得られた原液を濾過して米麹を除去し、遠心分離(4000rpm、5分)して下層を取り除き、上層を分離採取した。
【0039】
(3−1)シロップの調製
(2)で得られた上層を沸騰温度で約30分間煮詰めた。煮詰める間に生じた灰汁は随時取り除いた。得られたシロップの糖度を測定したところ、60度であった。
(3−2)粉末甘味料の調製
(3−1)で得られたシロップを、真空凍結乾燥処理したところ、粉末状の甘味料が得られた。(2)で得られた上層をそのまま真空凍結乾燥処理しても、粉末状の甘味料が得られる。
これらの結果は、酒米粉発酵組成物が甘味料として利用でき、砂糖等の既存の甘味料の代替品として利用できることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8