【実施例】
【0021】
実施例1および比較例1〜2〔α−アミラーゼを用いた米粉発酵組成物の製造〕
15mLチューブに、酒米粉(平成27年度北海道新十津川町産、アミロース含量26.89%、損傷デンプン率39.22%、白糠)、α−アミラーゼ(Sigma社、Aspergillus Oryzae由来)溶液105U相当、および水7mlを入れ、よく撹拌した後、60℃の恒温振盪機(TOMAS T−12R)中で振盪しながら反応させた。反応開始後1,2,3,5,24時間後にサンプリングし、糖濃度を測定した(実施例1)。
【0022】
酒米粉の代わりにうるち米粉(平成28年度北海道新十津川町産、アミロース含量17.14%、損傷デンプン率14.40%)を用いたほかは実施例1と同様に測定を行った(比較例1)。また、酒米粉の代わりにα化米粉(市販品、損傷デンプン率85.73%)を用いたほかは実施例1と同様に測定を行った(比較例2)。
【0023】
結果を
図1に示す。
図1から明らかなとおり、比較例1の発酵物と比較して、実施例1では糖化が効率よく進み、比較例2とほぼ同等であった。このことは、酒米粉発酵組成物がうるち米等他の米の発酵組成物よりもグルコースを豊富に含むこと、及び、酒米粉を含む酒米原料を用いることにより、炊飯等の前処理を行わなくとも、α化米粉発酵組成物と同等の効率的な糖化が実現できることを示している。
【0024】
実施例2および比較例3〜5〔米麹を用いた米粉発酵組成物の製造〕
実施例1で用いた酒米粉に、粉砕した米麹(都こうじ、(株)伊勢惣)30gおよび水210gを加え、60℃の高温振盪槽で振盪しながら反応させた。反応開始後15分、30分、1時間、2時間、3時間、6時間、および24時間後にサンプリングし、糖濃度を測定した(実施例2)。
【0025】
酒米粉の代わりに、比較例1および2で用いたうるち米粉およびα化米粉を用いたほかは実施例2と同様に測定を行った(比較例3および4)。また、酒米粉の代わりにもち米粉(平成28年度北海道新十津川町産、アミロース含量1.88%、損傷デンプン率6.92%)を用いたほかは実施例2と同様に測定を行った。
【0026】
結果を
図2に示す。
図2から明らかなとおり、比較例3の発酵物と比較して、実施例1では糖化が効率よく進み、比較例4および5とほぼ同等であった。このことは、米麹を用いた発酵においても、α−アミラーゼを用いた発酵と同様に、うるち米等他の米の発酵組成物よりもグルコースを豊富に含む酒米粉発酵組成物が得られること、および、酒米粉を含む酒米原料を用いることにより、炊飯等の前処理を行わなくとも、α化米粉発酵組成物と同等の効率的な糖化が実現できることを示している。
【0027】
実施例3〜4および比較例6〜9〔常温または低温発酵による発酵組成物の製造〕
実施例1で用いた酒米粉25gに対して粉砕した米麹(都こうじ、(株)伊勢惣)25g、水400gを加え、20℃または5℃の恒温振盪槽で静置して反応させた。0、0.5、1、2、6および18時間後にサンプリングを行い、グルコース濃度を測定した(実施例3および4)。
【0028】
酒米粉の代わりに、比較例1および2で用いたうるち米粉およびα化米粉を用いたほかは実施例2と同様に測定を行った(比較例6〜9)。
【0029】
常温発酵および低温発酵の結果を、
図3および4に示す。
図3から明らかなとおり、比較例6の発酵物と比較して、実施例3の発酵物は豊富にグルコースを含んでおり、比較例6のα化米粉の発酵物とほぼ同等であった。
図4から明らかなとおり、比較例8の発酵物と比較して、実施例4の発酵物は豊富にグルコースを含んでおり、比較例9のα化米粉の発酵物とほぼ同等であった。このことは、酒米粉を含む酒米原料を用いることにより、常温または低温発酵でもグルコースを豊富に含む発酵物を得ることができることを示している。
【0030】
実施例5および比較例10〔食パンの製造〕
小麦粉220g、上白糖(砂糖)17g、食塩5g、バター10g、ドライイースト2.8gおよび水160gをホームベーカリーにて製パンし、小麦粉パンを得た(比較例10)。
【0031】
実施例1で用いた酒米粉50gに、米麹50gおよび水300mLを加え、20℃の恒温振盪槽で静置して6時間発酵させ、酒米粉発酵組成物を得た。比較例10の製パン材料に得られた発酵組成物10gを加えたほかは同様にして酒米パンを得た(実施例5)。
【0032】
各食パンの比容積(パンの膨らみ指標)を測定した。比容積は、レーザー体積計で測定した体積を重量で除すことで算出した。結果を
図5に示す。
図5から明らかなとおり、比較例10の小麦粉パンの比容積は4.735であったのに対し、実施例5の酒米パンの比容積は、5.09と高いものであった。このことは、酒米粉発酵組成物がパンの膨らみを改善することができ、製パン改良剤等の食品添加剤として有用であることを示している。
【0033】
実施例6〜7及び比較例11〔食パンの製造〕
小麦粉220g、上白糖(砂糖)17g、食塩5g、バター10g、ドライイースト2.8gおよび水160gをホームベーカリーにて製パンし、小麦粉パンを得た(比較例11)。
【0034】
実施例1で用いた酒米粉50gに、米麹50gおよび水300mLを加え、20℃の恒温振盪槽で静置して6時間発酵させ、酒米粉発酵組成物を得た。比較例11の製パン材料に得られた発酵組成物10g又は50gを加えたほかは同様にして酒米パンを得た(実施例6及び7)。
【0035】
各食パンの硬さ(製造から1日経過後及び3日経過後)、マルトース含量(製造時:しっとり感の指標)を以下の手順で測定した。硬さの測定は、物性測定機(テンシプレッサー)を用いて行い、圧縮率25%時の反発応力をパン硬さとした。マルトース含量の測定は、パンの水抽出をイオンクロマトグラフにより分析し、濃度既知の標準品との面積比からマルトース含量を求めた。また、比容積(パンの膨らみ指標)を実施例5と同様に算出した。
【0036】
パンの硬さ及びマルトース含量をそれぞれ
図6及び7に示す。
図6から明らかなとおり、比較例11の小麦粉パンは、3日後には1日後よりも約2000Pa増加し硬さが増大していたが、実施例6及び7の酒米パンは約500〜約1000Pa弱程度しか増加せず、硬さの増大が抑制された(
図6)。また、比較例11の小麦粉パンと比較して、実施例5及び6の酒米パンの方がマルトースを多く含み、しっとり感を保持していた(
図7)。さらに、比較例11の小麦粉パンと比較して、実施例6及び7の酒米パンの比容積が上回っており、膨らみが良かった(
図8:比容積の単位cc/g)。これらの結果は、酒米粉発酵組成物がパンの経時変化を抑制し保存安定性を向上できることを示し、酒米粉発酵組成物が製パン改良剤等の食品添加剤として有用であることを示している。
【0037】
実施例8〔甘味料の製造〕
(1)原液の調製
実施例2と同様の粉砕した米麹50gに水500mLを加え、これに実施例1で用いた酒米粉に入れ、水1000mLをさらに加えながら混ぜ合わせた。混ぜ合わせた後、約20℃で6〜24時間放置して発酵させ、原液を得た。
【0038】
(2)米麹及び不純物の除去
(1)で得られた原液を濾過して米麹を除去し、遠心分離(4000rpm、5分)して下層を取り除き、上層を分離採取した。
【0039】
(3−1)シロップの調製
(2)で得られた上層を沸騰温度で約30分間煮詰めた。煮詰める間に生じた灰汁は随時取り除いた。得られたシロップの糖度を測定したところ、60度であった。
(3−2)粉末甘味料の調製
(3−1)で得られたシロップを、真空凍結乾燥処理したところ、粉末状の甘味料が得られた。(2)で得られた上層をそのまま真空凍結乾燥処理しても、粉末状の甘味料が得られる。
これらの結果は、酒米粉発酵組成物が甘味料として利用でき、砂糖等の既存の甘味料の代替品として利用できることを示している。