特許第6803047号(P6803047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6803047ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体、及びそれを用いたオレフィン化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803047
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体、及びそれを用いたオレフィン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/60 20060101AFI20201214BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20201214BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20201214BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20201214BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20201214BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20201214BHJP
   C12P 5/02 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C12N15/60ZNA
   C12N9/88
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P5/02
【請求項の数】15
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2017-533110(P2017-533110)
(86)(22)【出願日】2016年8月3日
(86)【国際出願番号】JP2016072828
(87)【国際公開番号】WO2017022804
(87)【国際公開日】20170209
【審査請求日】2019年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-153471(P2015-153471)
(32)【優先日】2015年8月3日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-255317(P2015-255317)
(32)【優先日】2015年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本農芸化学会2016年度大会、平成28年3月28日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】折下 涼子
(72)【発明者】
【氏名】白井 智量
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和弘
(72)【発明者】
【氏名】日座 操
(72)【発明者】
【氏名】田邊 祐介
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−519083(JP,A)
【文献】 特表2015−501660(JP,A)
【文献】 Appl. Environ. Microbiol., 2010, Vol. 76, No. 24, pp. 8004-8010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12P 5/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが他のアミノ酸に変異しているジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの存在下、下記式(1)で表される化合物とATPとを反応させる工程を含み、
前記ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが変異してなる他のアミノ酸が、アルギニンであり、さらに、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の74位又は該部位に対応するアルギニンが、メチオニン又はヒスチジンに変異している、オレフィン化合物の製造方法
【化1】
[式(1)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基又はハロゲン原子を示す(前記アルキル基及びアルケニル基は、各々独立に、ヒドロキシ基及び/又はカルボキシ基によって任意に置換されていてもよい)]。
【請求項2】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが他のアミノ酸に変異しているジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAを含むベクターが導入された宿主細胞を、培養し、該宿主細胞及び/又はその培養物において生成されたオレフィン化合物を採取する工程を含み、
前記ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが変異してなる他のアミノ酸が、アルギニンであり、さらに、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の74位又は該部位に対応するアルギニンが、メチオニン又はヒスチジンに変異している、オレフィン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記オレフィン化合物がイソプレンである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記オレフィン化合物がブタジエンである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
オレフィン化合物を生成する触媒活性が高められたジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの製造方法であって、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンを他のアミノ酸に変異させる工程を含み、
当該他のアミノ酸がアルギニンであり、かつ
前記ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の74位又は該部位に対応するアルギニンを、メチオニン又はヒスチジンに変異させる工程を含む、製造方法。
【請求項6】
前記オレフィン化合物がイソプレンである請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記オレフィン化合物がブタジエンである請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが他のアミノ酸に変異しており、当該他のアミノ酸がアルギニンであり、かつ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の74位又は該部位に対応するアルギニンが、メチオニン又はヒスチジンに変異している、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ。
【請求項9】
請求項に記載のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼをコードするDNA。
【請求項10】
請求項に記載のDNAを含むベクター。
【請求項11】
請求項に記載のDNA又は請求項10に記載のベクターが導入された宿主細胞。
【請求項12】
請求項11に記載の宿主細胞を培養し、該宿主細胞に発現したタンパク質を採取する工程を含む、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体の製造方法。
【請求項13】
請求項に記載のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ、該ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターを含む、下記式(1)で表される化合物とATPとを反応させ、オレフィン化合物の生成を促進するための剤。
【化2】
[式(1)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基又はハロゲン原子を示す(前記アルキル基及びアルケニル基は、各々独立に、ヒドロキシ基及び/又はカルボキシ基によって任意に置換されていてもよい)]。
【請求項14】
前記オレフィン化合物がイソプレンである請求項13に記載の剤。
【請求項15】
前記オレフィン化合物がブタジエンである請求項13に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体を用いたオレフィン化合物の製造方法に関する。また本発明は、前記変異体、及びその製造方法に関し、さらに、前記変異体をコードするDNA、及び該DNAが挿入されているベクターにも関する。また本発明は、前記DNA又は前記ベクターが導入された宿主細胞を用いたオレフィン化合物の製造方法に関し、さらにまた、前記変異体、前記DNA又は前記ベクターを含む、オレフィン化合物の生成を促進するための剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
イソプレン、イソブテン等のオレフィン化合物は、合成ゴム等の様々な合成ポリマーの原料として極めて有用であり、これら化合物は、石油の分留といった化学的方法によって得ることができる。
【0003】
しかしながら、このような化学的方法においても、その収率は低く、製造コストがかかり、また時間を要する。さらに、昨今の環境問題を考慮するに、化学的方法に代わって、限られた資源を無駄にすることなく環境に優しい持続可能なオレフィン化合物の製造方法の開発が求められている。
【0004】
かかる状況を鑑み、微生物等の代謝経路を利用又は改変して、オレフィン化合物を製造することが試みられている。例えば、メバロン酸経路に関与するジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ等に変異を導入し、当該変異酵素を利用したイソプレン、イソブテン等の製造方法が開示されている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/092567号
【特許文献2】国際公開第2015/004211号
【特許文献3】国際公開第2015/021045号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、オレフィン化合物を高い生産性にて製造することを可能とする酵素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成すべく、先ず、5−ジホスホメバロン酸を基質とし、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼが関与する、イソペンテニル二リン酸の生成(下記式 参照)を、イソプレン等のオレフィン化合物の製造に応用することを着想した。
【0008】
【化1】
【0009】
すなわち、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼのアミノ酸に変異を導入し、当該酵素(ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体)の基質特異性を、元来の5−ジホスホメバロン酸から3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテート等に対するものに変更することで、下記式に示すような反応を経て、イソプレン等を製造することを着想した。
【0010】
【化2】
【0011】
そこで、本発明者らは、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの様々な部位に、アミノ酸置換を伴う変異を導入し、多数のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの変異体を調製した。そして、それら変異体について、5−ジホスホメバロン酸を基質とするイソペンテニル二リン酸の生成に関する触媒活性と、3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートを基質とするイソプレンの生成に関する触媒活性とを評価した。
【0012】
その結果、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいては、変異が導入されることにより、5−ジホスホメバロン酸に対する基質特異性が概して低下することが明らかになった。特に、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの209位のスレオニンが他のアミノ酸(セリン、アルギニン、ヒスチジン等)に置換されたジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼは、イソプレンを生成する触媒活性を有していることが認められた。
【0013】
さらに、74位のアルギニンがヒスチジンに置換され、かつ209位のスレオニンがアルギニンに置換されたジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(R74HT209R)は、群を抜いてイソプレンの生成に関する極めて高い触媒活性を示すことが明らかになった。より具体的には、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにかかる2重変異を導入することにより、イソペンテニル二リン酸の生成に関する触媒活性においては野生型と比して約3分の1となった一方で、イソプレンの生成に関するそれにおいては野生型と比して約60〜80倍に向上した。また、このイソプレンの生成に関する触媒活性は、後述の図3B及び図4Bに示す通り、他の変異体と比較しても顕著に高いものであった。
【0014】
また、R74HT209Rについて、他のオレフィン化合物(イソブテン)の生成に関する触媒活性についても評価した。その結果、イソプレン生成の際同様に、野生型と比して極めて高いイソブテンの生成に関する触媒活性が認められた。
【0015】
また、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、74位及び209位は、各々アルギニン及びスレオニンに限らず、他のアミノ酸(74位においては、メチオニン、ヒスチジン、グルタミン、リシン等、209位においては、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、アラニン等)に置換しても、イソプレン生成における触媒反応において、野生型のそれよりも概して高い触媒活性を示すことも確認された。
【0016】
さらに、イソプレン生成における触媒活性において、上述のR74HT209Rと、74位のアルギニンがメチオニンに置換され、かつ209位のスレオニンがアルギニンに置換されたジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体(R74MT209R)とを比較した結果、R74HT209Rと比しても、R74MT209Rは、なお1.28倍も高い触媒活性を示すことも確認された。
【0017】
さらにまた、イソブテンの生成においてもR74MT209Rは高い触媒活性を示すことも確認された。また、前記イソプレンの生成同様に、R74MT209Rの方がR74HT209Rよりも、イソブテンの生成における触媒活性においても高いことが確認され、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
<1> 配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが他のアミノ酸に変異しているジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの存在下、下記式(1)で表される化合物とATPとを反応させる工程を含む、オレフィン化合物の製造方法
【0018】
【化3】
【0019】
[式(1)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基又はハロゲン原子を示す(前記アルキル基及びアルケニル基は、各々独立に、ヒドロキシ基及び/又はカルボキシ基によって任意に置換されていてもよい)]。
<2> 配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが他のアミノ酸に変異しているジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAを含むベクターが導入された宿主細胞を、培養し、該宿主細胞及び/又はその培養物において生成されたオレフィン化合物を採取する工程を含む、オレフィン化合物の製造方法。
<3> 前記ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが変異してなる他のアミノ酸が、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、アラニン、セリン又はヒスチジンである、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4> 前記ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼが、更に配列番号:2に記載のアミノ酸配列の74位又は該部位に対応するアルギニンが他のアミノ酸に変異しているジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼである、<1>〜<3>のうちのいずれか一に記載の製造方法。
<5> 前記ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが変異してなる他のアミノ酸が、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン又はアラニンであり、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列の74位又は該部位に対応するアルギニンが変異してなる他のアミノ酸が、メチオニン、ヒスチジン、グルタミン又はリシンである、<4>に記載の製造方法。
<6> 前記オレフィン化合物がイソプレンである、<1>〜<5>のうちのいずれか一に記載の製造方法。
<7> 前記オレフィン化合物がブタジエンである、<1>〜<5>のうちのいずれか一に記載の製造方法。
<8> オレフィン化合物を生成する触媒活性が高められたジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの製造方法であって、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンを他のアミノ酸に変異させる工程を含む、製造方法。
<9> 前記ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが変異してなる他のアミノ酸が、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、アラニン、セリン又はヒスチジンである、<8>に記載の製造方法。
<10> 前記ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の74位又は該部位に対応するアルギニンを他のアミノ酸に変異させる工程を更に含む、<8>又は<9>に記載の製造方法。
<11> 前記ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが変異してなる他のアミノ酸が、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン又はアラニンであり、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列の74位又は該部位に対応するアルギニンが変異してなる他のアミノ酸が、メチオニン、ヒスチジン、グルタミン又はリシンである、<10>に記載の製造方法。
<12> 前記オレフィン化合物がイソプレンである、<8>〜<11>のうちのいずれか一に記載の製造方法。
<13> 前記オレフィン化合物がブタジエンである、<8>〜<11>のうちのいずれか一に記載の製造方法。
<14> 配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが他のアミノ酸に変異している、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ。
<15> 配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが変異してなる他のアミノ酸が、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、アラニン、セリン又はヒスチジンである、<14>に記載のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ。
<16> 配列番号:2に記載のアミノ酸配列の74位又は該部位に対応するアルギニンが他のアミノ酸に更に変異している、<14>又は<15>に記載のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ。
<17> 配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが変異してなる他のアミノ酸が、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン又はアラニンであり、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列の74位又は該部位に対応するアルギニンが変異してなる他のアミノ酸が、メチオニン、ヒスチジン、グルタミン又はリシンである、<16>に記載のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ。
<18> <14>〜<17>のうちのいずれか一に記載のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼをコードするDNA。
<19> <18>に記載のDNAを含むベクター。
<20> <18>に記載のDNA又は<19>に記載のベクターが導入された宿主細胞。
<21> <20>に記載の宿主細胞を培養し、該宿主細胞に発現したタンパク質を採取する工程を含む、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体の製造方法。
<22> <14>〜<17>のうちのいずれか一に記載のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ、該ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターを含む、下記式(1)で表される化合物とATPとを反応させ、オレフィン化合物の生成を促進するための剤。
【0020】
【化4】
【0021】
[式(1)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基又はハロゲン原子を示す(前記アルキル基及びアルケニル基は、各々独立に、ヒドロキシ基及び/又はカルボキシ基によって任意に置換されていてもよい)]。
<23> 前記オレフィン化合物がイソプレンである、<22>に記載の剤。
<24> 前記オレフィン化合物がブタジエンである、<22>に記載の剤。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、オレフィン化合物を高い生産性にて製造することを可能とする酵素、並びに当該酵素を用いたオレフィン化合物の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(図中「Wt」にて示す)と、その変異体とについて、5−ジホスホメバロン酸を基質とするイソペンテニル二リン酸の生成に関する酵素活性(図中、縦軸に示す)及び3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートを基質とするイソプレンの生成に関する酵素活性(図中、横軸に示す)を解析した結果を示すプロット図である。なお、図中「T209H」等は、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの各変異体を示し、数字は当該酵素においてアミノ酸置換を伴う変異が導入された部位(209位等)を表し、数字の左側のアルファベットは置換される前のアミノ酸(T/スレオニン等)を表し、数字の右側のアルファベットは置換された後のアミノ酸(H/ヒスチジン等)を表す。
図2】ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼを強制的に発現する大腸菌(図中「Wt」にて示す)と、209位のスレオニンがアルギニンに置換されたジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼを強制的に発現する大腸菌(図中「T209R」にて示す)とを培養し、各々において生成されたイソプレンの量を測定した結果を示すグラフである。
図3A】ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(図中「Wt」にて示す)と、その変異体とについて、5−ジホスホメバロン酸を基質とするイソペンテニル二リン酸の生成に関する酵素活性(図中、縦軸に示す)及び3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートを基質とするイソプレンの生成に関する酵素活性(図中、横軸に示す)を解析した結果を、横軸に関しては1400μg/L迄示したプロット図である。なお、図3A及び以下の図面において「T209R,I145F」等は、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの各アミノ酸置換体の解析結果を示し、数字は当該酵素においてアミノ酸置換を伴う変異が導入された部位(145位、209位等)を表し、数字の左側のアルファベットは置換される前のアミノ酸(T/スレオニン、I/イソロイシン等)を表し、数字の右側のアルファベットは置換された後のアミノ酸(R/アルギニン、F/フェニルアラニン等)を表す。また、図中、縦軸と横軸との交点付近に密集している点群(図中、楕円にて囲んでいる点群)は、S120C、T46D、S121C、S153A、T209C、T209Q、T209E、T209A、T209Y、T209D、T75I、T209N、N28R、N28E、S153C、N28W、S108T、N28H、L63Q、G154I、G154L、S108C、S108D、N110M、N110Q、S108N、N110I、G154M、G154W、K22Y、T46C、R74W、L61E、L63E、R74Y、L63N、N110E、T48S、T46V、G154F、A119C、A122C、G154E、K22F、A123S、K22R、K22Wのアミノ酸置換体の解析結果を示すものである。
図3B】ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼと、その変異体とについて、5−ジホスホメバロン酸を基質とするイソペンテニル二リン酸の生成に関する酵素活性(図中、縦軸に示す)及び3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートを基質とするイソプレンの生成に関する酵素活性(図中、横軸に示す)を解析した結果を、横軸に関しては25000μg/L迄示したプロット図である。
図4A】ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼと、その変異体とについて、3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートを基質とするイソプレンの生成に関する酵素活性を解析した結果を、1500μg/L迄示したグラフである。なお、図4A及びBにおいて、「超純水」は、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの代わりにmilliQ(登録商標)水を用いて解析した結果(陰性対照)を示す。
図4B】ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼと、その変異体とについて、3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートを基質とするイソプレンの生成に関する酵素活性を解析した結果を、30000μg/L迄示したグラフである。
図5】ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼを強制的に発現する大腸菌と、その変異体を各々強制的に発現する大腸菌とを培養し、各々において生成されたイソプレンの量を測定した結果を示すグラフである。なお、図中「LB2菌なし」は、陰性対照実験として、LB培地、基質及びIPTGのみからなるサンプルを解析した結果を示す。
図6A】74位のアルギニンがヒスチジンに置換され、かつ209位のスレオニンがアルギニンに置換されたジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(図中「R74HT209R」にて示す)と、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼとについて、各々の存在下におけるイソプレン合成量の経時変化を示すグラフである。縦軸は合成されたイソプレン量を示し、横軸は反応時間を示す。
図6B図6Aにおける縦軸を対数表示に変換したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<オレフィン化合物の製造方法 1>
後述の実施例において示すように、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの209位のスレオニンを他のアミノ酸に置換することによって、該酵素の元来の基質である5−ジホスホメバロン酸に対する基質特異性が低減される。また、かかるジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの変異体は、オレフィン化合物を生成する下記反応を促進する触媒活性(「オレフィン化合物を生成する触媒活性」とも称する)を有していることを見出した。
【0025】
【化5】
【0026】
したがって、本発明は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニン(以下、単に「209位のスレオニン」とも称する)が他のアミノ酸に変異している、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(以下、「ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体」とも称する)の存在下、前記式(1)で表される化合物とATP(アデノシン三リン酸)とを反応させる工程を含む、オレフィン化合物の製造方法を提供する。
【0027】
本発明において「オレフィン化合物」は、炭素間二重結合を少なくとも1つ有する炭化水素化合物を意味し、またヒドロキシ基及び/又はカルボキシ基等の置換基、ハロゲン原子等の原子が導入されているものであってもよい。このような化合物としては、例えば、イソブテン、エテン、プロペン、2−メチル−1−ブテン、イソプレノール、3−ヒドロキシ−3−メチル−4−ペンテン酸等のモノオレフィン化合物、イソプレン、ブタジエン(1,3−ブタジエン)、ピペリレン、2,3−ジメチルブタジエン、1,3−ヘキサジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、クロロプレン、3−メチル−2,4−ペンタジエン酸といった共役ジエン化合物等のジオレフィン化合物が挙げられる。
【0028】
本発明においてオレフィン化合物を製造するための原料となる下記式(1)で表される化合物において、R及びRについては特に制限はなく、各々独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基又はハロゲン原子を示す(前記アルキル基及びアルケニル基は、各々独立に、ヒドロキシ基及び/又はカルボキシ基によって任意に置換されていてもよい)。
【0029】
【化6】
【0030】
また、本発明において、共役ジエン化合物を製造する場合には、以下の反応式に示すように、上記式(1)で表される化合物のより具体的な態様として、下記式(4)で表される化合物が好適に用いられる。
【0031】
【化7】
【0032】
前記式(4)で表される化合物において、R、R及びRについては特に制限はなく、各々独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数2〜15のアルケニル基及び炭素数6〜20のアリール基からなる群より選択される置換基を示す。
【0033】
また本発明において、炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−デシル基、(シクロヘキシル)メチル基、(1−メチルシクロヘキシル)メチル基、(1−メチルシクロペンチル)メチル基、(1−エチルシクロヘキシル)メチル基が挙げられる。また、炭素数2〜15のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、3−ブテニル基、5−ヘキセニル基、7−オクテニル基が挙げられ、炭素数6〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アセナフチル基、フェナントリル基、アントリル基が挙げられる。また、ハロゲン原子は、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子を示す。
【0034】
このような前記式(1)で表される化合物は、後述の実施例において示すように、市販の製品として購入することができる。また、当業者であれば、公知の合成方法(例えば、Tetrahedron Letters、1988年、20巻、15号、1763〜1766ページに記載の方法)を適宜参酌しながら、合成することもできる。
【0035】
後述のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体の存在下、前記式(1)で表される化合物とATPとの反応の条件については、当該反応が促進され、オレフィン化合物が生成される条件であればよく、当業者であれば、反応液の組成、反応液のpH、反応温度、反応時間等を適宜調整し、設定することができる。
【0036】
例えば、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体と、その基質である前記式(1)で表される化合物及びATPとが添加される反応液においては、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの補因子であるマグネシウムイオンが、通常1〜50mM、好ましくは5〜20mM含まれていればよく、その他の組成、pHについては前述の通り、前記反応を妨げない限り、特に制限はないが、好ましくはpH7〜8の緩衝液であり、より好ましくはpH7〜8のトリス塩酸緩衝液である。
【0037】
また、反応温度としても、前記反応を妨げない限り、特に制限はないが、通常20〜40℃であり、好ましくは25〜37℃である。さらに、反応時間としては、オレフィン化合物が生成し得る時間であればよく、特に制限はないが、通常30分〜7日であり、好ましくは12時間〜2日である。
【0038】
また、このような条件にて生成されるオレフィン化合物は、大概気化し易いため、揮発性ガスの公知の回収、精製方法により採取することができる。かかる採取方法としては、ガスストリッピング、分留、吸着、脱着、パーベーパレーション、固相に吸着させたイソプレンの熱若しくは真空による固相からの脱着、溶媒による抽出、又はクロマトグラフィー(例えば、ガスクロマトグラフィー)等が挙げられる。また、生成されるオレフィン化合物が液体である場合にも、公知の回収、精製方法(蒸留、クロマトグラフィー等)を適宜利用し、採取することができる。さらに、これらの方法は単独にて行ってもよく、また適宜組み合わせて多段階的に実施し得る。
【0039】
<オレフィン化合物の製造方法 2>
また、後述の実施例において示す通り、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが他のアミノ酸に変異している、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼを発現するように形質転換された宿主細胞を、培養することにより、オレフィン化合物を生産性高く製造することができる。したがって、本発明においては、後述のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体をコードするDNA又はベクターが導入された宿主細胞を培養し、該宿主細胞及び/又はその培養物において生成されたオレフィン化合物を採取する工程を含む、オレフィン化合物の製造方法も提供される。
【0040】
宿主細胞の培養条件については、後述の通りであるが、培地には、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの基質である前記(1)式にて表される化合物、補因子であるマグネシウムイオンが添加されていることが好ましく、これら化合物全てが添加されていることがより好ましい。また、培養温度は、用いる宿主細胞の種類に合わせて適宜設計変更し得るが、通常20〜40℃であり、好ましくは25〜37℃である。
【0041】
また、本発明において、「培養物」とは、宿主細胞を培地で培養することによって得られる、増殖した宿主細胞、該宿主細胞の分泌産物及び該宿主細胞の代謝産物等を含有する培地のことであり、それらの希釈物、濃縮物を含む。
【0042】
このような宿主細胞及び/又は培養物からのオレフィン化合物の採取についても、特に制限はなく、上述の公知の回収、精製方法を用いて行うことができる。また、採取の時期としては、用いる宿主細胞の種類に合わせて適宜調整され、オレフィン化合物が生成し得る時間であればよいが、通常30分〜7日であり、好ましくは12時間〜2日である。
【0043】
<ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体>
次に、上述の本発明のオレフィン化合物の製造方法において用いられる、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体について説明する。本発明において「ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ」とは、MVD(Diphosphomevalonate decarboxylase)とも称され、またEC番号:4.1.1.33として登録されている酵素であり、5−ジホスホメバロン酸及びATPからイソペンテニル二リン酸、ADP、リン酸及び二酸化炭素を生成する、下記反応を触媒とするカルボキシリアーゼの一種である。
【0044】
【化8】
【0045】
本発明において、後述の変異が導入されるジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼとしては、特に制限はなく、様々な生物由来のものを用いることができる。このような酵素としては、例えば、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のMVD(配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)、出芽酵母(YJM7株)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:A6ZSB7にて特定されるタンパク質)、出芽酵母(RM11−1a株)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:B3LPK0にて特定されるタンパク質)、カンジダ酵母(Candida dubliniensis)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:B9W6G7にて特定されるタンパク質)、ピキア酵母(Pichia pastoris)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:C4QX63にて特定されるタンパク質)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:O139363にて特定されるタンパク質)、アシュビア(Ashbya gossypii)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:Q751D8にて特定されるタンパク質)、デバリオマイセス ハンセニ(Debaryomyces hanseni)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:Q6BY07にて特定されるタンパク質)、キイロタマホコリカビ(Dictyostelium discoideum)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:Q54YQ9にて特定されるタンパク質)、コウジカビ(Aspergillus oryzae)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:Q2UGF4にて特定されるタンパク質)、エンセファリトゾーン・クニクリ(Encephalitozoon cuniculi)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:Q8SRR7にて特定されるタンパク質)、フェオダクチラム(Phaeodactylum tricornutum)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:B7S422にて特定されるタンパク質)、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:A9ZN03にて特定されるタンパク質)、タバコ(Nicotiana langsdorffii x Nicotiana sanderae)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:B3F8H5にて特定されるタンパク質)、ムラサキ(Arnebia euchroma)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:Q09RL4にて特定されるタンパク質)、ジャポニカ米(Oryza sativa subsp.japonica)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:Q6ETS8にて特定されるタンパク質)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:Q8LB37にて特定されるタンパク質)、トマト(Solanum lycopersicum)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:A8WBX7にて特定されるタンパク質)、カイコ(Bombyx mori)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:A5A7A2にて特定されるタンパク質)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:Q5U403にて特定されるタンパク質)、マウス(Mus musculus)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:Q99JF5又はQ3UYC1にて特定されるタンパク質)、ドブネズミ(Rattus norvegicus)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:Q62967にて特定されるタンパク質)、ウシ(Bos taurus)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:Q0P570にて特定されるタンパク質)、ヒト(Homo sapiens)由来のMVD(UniProtアクセッション番号:P53602にて特定されるタンパク質)が挙げられる。これらの中では、出芽酵母由来のMVDが好ましく、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質がより好ましい。また、自然界においてヌクレオチド配列が変異することにより、タンパク質のアミノ酸配列の変化が生じ得ることは理解されたい。
【0046】
さらに、本発明の「ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ」は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位のスレオニン以外に、人工的に変異が導入されているものであってもよい。すなわち、本発明の「ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ」には、「ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列(配列番号:2に記載のアミノ酸配列等)の209位以外において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質」も含まれる。ここで「複数」とは、特に制限はないが、通常1〜80個、好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個(例えば、1〜8個、1〜4個、1〜2個)である。
【0047】
また、本発明の「ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ」において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニン以外に、変異が導入される部位としては、オレフィン化合物を生成する触媒活性を有する限り特に制限はないが、後述の実施例に示す通り、当該活性がより高くなる傾向にあるという観点から、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の74位又は該部位に対応するアルギニン(以下、単に「74位のアルギニン」とも称する)であることが好ましい。
【0048】
本発明において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが変異してなる「他のアミノ酸」とは、特に制限はないが、後述の実施例に示す通り、オレフィン化合物の生成において高い触媒活性を発揮し易いという観点から、好ましくは、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、アラニン、セリン又はヒスチジンである。
【0049】
また、後述の実施例に示す通り、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、変異が導入される部位が、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンのみである場合には、野生型のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼよりも、5−ジホスホメバロン酸に対する基質特異性が低く、かつオレフィン化合物を生成する触媒活性を有するという観点から、好ましくはヒスチジン、セリン、アルギニンであり、更に、野生型のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼよりもオレフィン化合物を生成する触媒活性が高いという観点から、より好ましくはヒスチジンである。
【0050】
また、後述の実施例に示す通り、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、変異が導入される部位が、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンに加え、少なくとも配列番号:2に記載のアミノ酸配列の74位又は該部位に対応するアルギニンである場合には、オレフィン化合物の生成においてより高い触媒活性を有し易いという観点から、209位のスレオニンが変異してなる他のアミノ酸は、好ましくは、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン又はアラニンであり、より好ましくはアルギニンである。さらに、かかる場合、74位のアルギニンが変異してなる他のアミノ酸は、好ましくは、メチオニン、ヒスチジン、グルタミン又はリシンであり、より好ましくは、メチオニン又はヒスチジンである。
【0051】
なお、本発明において、「対応する部位」とは、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェア(GENETYX−MAC、Sequencher等)やBLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を利用し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と、他品種に由来するMVD等のアミノ酸配列とを整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における74位又は209位と同列になる部位のことである。
【0052】
また「野生型のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ」は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位のスレオニンにおける変異、さらには前述の人工的な変異が導入される前のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼであり、例えば、前記出芽酵母等の様々な生物由来のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ及びその天然の変異体が挙げられる。
【0053】
さらに、野生型のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼよりも「5−ジホスホメバロン酸に対する基質特異性」が低いかどうかは、例えば、後述の実施例に示す通り、5−ジホスホメバロン酸を基質とするイソペンテニル二リン酸の合成において生じる遊離リン酸量を、比色検出試薬(製品名:Biomol(登録商標)Green試薬、Enzo Life Sciences社製)を用いて測定し、その量を野生型のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼとそのアミノ酸変異体とで比較することで判定することができる。なお、5−ジホスホメバロン酸に対する基質特異性に関し、例えば、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体において生じる遊離リン酸量が、野生型のそれの70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることがより好ましく、1%以下であることが特に好ましい。
【0054】
また、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体が、オレフィン化合物を生成する触媒活性を有するか否かは、例えば、後述の実施例に示す通り、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)にて、直接オレフィン化合物の量を測定することにより判定することができ、さらに野生型のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおける量と比較することで、野生型のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼよりもオレフィン化合物を生成する触媒活性が高いか否かも判定することができる。
【0055】
本発明において、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体は、オレフィン化合物を生成する触媒活性において、野生型のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼに対し、2倍以上(例えば、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上)であることが好ましく、10倍以上(例えば、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上)であることがより好ましく、60倍以上であることがさらに好ましく、70倍以上であることがよりに好ましく、80倍以上(例えば、90倍以上、100倍以上)であることが特に好ましい。
【0056】
本発明において、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体は、後述の実施例に示すGC−MS分析の結果、当該酵素1mgあたり、37℃、12時間のインキュベーションにて、0.5mg/L以上のイソプレンを生産し得る触媒活性を有していることが好ましく、5mg/L以上のイソプレンを生産し得る触媒活性を有していることがより好ましく、10mg/L以上のイソプレンを生産し得る触媒活性を有していることがさらに好ましく、50mg/L以上のイソプレンを生産し得る触媒活性を有していることがより好ましい。
【0057】
なお、本発明においては上述の通り、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体は野生型のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼよりもオレフィン化合物を生成する触媒活性が高いことが好ましい。しかしながら、当該活性が野生型よりも低くとも、後述の実施例において示す通り、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体は、オレフィン化合物の生合成において、元来の基質である5−ジホスホメバロン酸に対する活性が低下しているため、結果としてオレフィン化合物の製造量は、野生型のそれよりも多くなり得る。
【0058】
さらに、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体は、他の化合物が直接又は間接的に付加されていてもよい。かかる付加としては特に制限はなく、遺伝子レベルでの付加であってもよく、化学的な付加であってもよい。また付加される部位についても特に制限はなく、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体のアミノ末端(以下「N末端」とも称する)及びカルボキシル末端(以下「C末端」とも称する)のいずれかであってもよく、その両方であってもよい。遺伝子レベルでの付加は、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体をコードするDNAに、他のタンパク質をコードするDNAを読み枠を合わせて付加させたものを用いることにより達成される。このようにして付加される「他のタンパク質」としては特に制限はなく、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体の精製を容易にする目的の場合には、ポリヒスチジン(His−)タグ(tag)タンパク質、FLAG−タグタンパク質(登録商標、Sigma−Aldrich社)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)等の精製用タグタンパク質が好適に用いられ、またジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体の検出を容易にする目的の場合には、GFP等の蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ等の化学発光タンパク質等の検出用タグタンパク質が好適に用いられる。化学的な付加は、共有結合であってもよく、非共有結合であってもよい。「共有結合」としては特に制限はなく、例えば、アミノ基とカルボキシル基とのアミド結合、アミノ基とアルキルハライド基とのアルキルアミン結合、チオールどうし間のジスルフィド結合、チオール基とマレイミド基又はアルキルハライド基とのチオエーテル結合が挙げられる。「非共有結合」としては、例えば、ビオチン−アビジン間結合が挙げられる。また、このようにして化学的に付加される「他の化合物」としては、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体の検出を容易にする目的の場合には、例えば、Cy3、ローダミン等の蛍光色素が好適に用いられる。
【0059】
また、本発明のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体は、他の成分と混合して用いてもよい。他の成分としては特に制限はなく、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、プロテアーゼ阻害剤、保存剤が挙げられる。
【0060】
<ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの変異体をコードするDNA、及び該DNAを有するベクター>
次に、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体をコードするDNA等について説明する。後述の実施例において示す通り、かかるDNAを導入することによって、宿主細胞の形質を転換し、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体を当該細胞において製造させること、ひいてはオレフィン化合物を製造させることが可能となる。
【0061】
本発明のDNAは、天然のDNAに人為的に変異が導入されたDNAであってもよく、人工的に設計されたヌクレオチド配列からなるDNAであってもよい。さらに、その形態について特に制限はなく、cDNAの他、ゲノムDNA、及び化学合成DNAが含まれる。これらDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、出芽酵母等からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作製し、これを展開して、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ遺伝子のヌクレオチド配列(例えば、配列番号:1に記載のヌクレオチド配列)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ遺伝子に特異的なプライマーを作製し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、出芽酵母から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作製し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0062】
そして、このように調製したDNAに、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位のスレオニンを他のアミノ酸に置換する変異を導入することは、当業者であれば、公知の部異特異的変異導入法を利用することで行うことができる。部異特異的変異導入法としては、例えば、Kunkel法(Kunkel,T.A.、Proc Natl Acad Sci USA、1985年、82巻、2号、488〜492ページ)、SOE(splicing−by−overlap−extention)−PCR法(Ho,S.N.,Hunt,H.D.,Horton,R.M.,Pullen,J.K.,and Pease,L.R.、Gene、1989年、77巻、51〜59ページ)が挙げられる。
【0063】
また、当業者であれば、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの209位のスレオニンを他のアミノ酸に置換してあるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を人工的に設計し、該配列情報に基づき、自動核酸合成機を用いて、本発明のDNAを化学的に合成することもできる。
【0064】
無論、これらの方法によれば、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、209位のスレオニン以外(例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の74位)のアルギニンも、人工的に他のアミノ酸に置換することができる。
【0065】
さらに、本発明のDNAは、コードするジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体の発現効率を後述の宿主細胞においてより向上させるという観点から、当該宿主細胞の種類に合わせて、コドンを最適化したジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体をコードするDNAの態様もとり得る。
【0066】
また、本発明においては、前述のDNAを宿主細胞内において複製することができるよう、当該DNAが挿入されているベクターも提供される。
【0067】
本発明において「ベクター」は、自己複製ベクター、すなわち、染色体外の独立体として存在し、その複製が染色体の複製に依存しない、例えば、プラスミドを基本に構築することができる。また、ベクターは、宿主細胞に導入されたとき、その宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであってもよい。
【0068】
このようなベクターとしては、例えば、プラスミド、ファージDNAが挙げられる。また、プラスミドとしては、大腸菌由来のプラスミド(pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19等)、酵母由来のプラスミド(YEp13、YEp24、YCp50等)、枯草菌由来のプラスミド(pUB110、pTP5等)が挙げられる。ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、宿主細胞が昆虫由来であれば、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクターを、植物由来であればT−DNA等、動物由来であればレトロウイルス、アデノウイルスベクター等の動物ウイルスベクターも、本発明のベクターとして用いることもできる。また、本発明のベクター構築の手順及び方法は、遺伝子工学の分野で慣用されているものを用いることができる。例えば、本発明のDNAをベクターに挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法等が採用される。
【0069】
また、本発明のベクターは、前記DNAがコードするジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体を宿主細胞内にて発現可能な状態で含んでなる発現ベクターの形態であってもよい。本発明にかかる「発現ベクター」は、これを宿主細胞に導入してジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体を発現させるために、前記DNAの他に、その発現を制御するDNA配列や形質転換された宿主細胞を選択するための遺伝子マーカー等を含んでいるのが望ましい。発現を制御するDNA配列としては、プロモーター、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)及びターミネーター等がこれに含まれる。プロモーターは宿主細胞において転写活性を示すものであれば特に限定されず、宿主細胞と同種若しくは異種のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子の発現を制御するDNA配列として得ることができる。また、前記発現を制御するDNA配列以外に発現を誘導するDNA配列を含んでいても良い。かかる発現を誘導するDNA配列としては、宿主細胞が細菌である場合には、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加により、下流に配置された遺伝子の発現を誘導することのできるラクトースオペロンが挙げられる。本発明における遺伝子マーカーは、形質転換された宿主細胞の選択の方法に応じて適宜選択されてよいが、例えば薬剤耐性をコードする遺伝子、栄養要求性を相補する遺伝子を利用することができる。
【0070】
また、本発明のDNA又はベクターは、他の成分と混合して用いてもよい。他の成分としては特に制限はなく、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、DNase阻害剤、保存剤が挙げられる。
【0071】
<オレフィン化合物の生成を促進するための剤>
上述の通り、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体、該変異体をコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターを用いることにより、下記式(1)で表される化合物とATPとを反応させ、オレフィン化合物の生成を促進することが可能となる。したがって、本発明は、少なくとも配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンが他のアミノ酸に変異しているジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ、該ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターを含む、下記式(1)で表される化合物とATPとを反応させ、オレフィン化合物の生成を促進するための剤も提供する。
【0072】
【化9】
【0073】
[式(1)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基又はハロゲン原子を示す(前記アルキル基及びアルケニル基は、各々独立に、ヒドロキシ基及び/又はカルボキシ基によって任意に置換されていてもよい)]。
【0074】
このような剤としては、上述のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体等を含むものであれば良いが、他の成分と混合していても用いてもよい。かかる他の成分としては特に制限はなく、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、プロテアーゼ阻害剤、DNase阻害剤、保存剤が挙げられる。
【0075】
また、本発明は、このような剤を含むキットをも提供することができる。本発明のキットにおいて、上記剤は、本発明のDNA等が導入され、形質転換された、後述の宿主細胞の態様にて含まれていてもよい。さらに、このような剤の他、前記式(1)で表される化合物、本発明のDNA等を導入するための宿主細胞、該宿主細胞を培養するための培地、及びそれらの使用説明書等が、本発明のキットに含まれていてもよい。また、このような使用説明書は、本発明の剤等を上述のオレフィン化合物の製造方法に利用するための説明書である。説明書は、例えば、本発明の製造方法の実験手法や実験条件、及び本発明の剤等に関する情報(例えば、ベクターのヌクレオチド配列等が示されているベクターマップ等の情報、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体の配列情報、宿主細胞の由来、性質、当該宿主細胞の培養条件等の情報)を含むことができる。
【0076】
<ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体をコードするDNA等が導入された宿主細胞>
次に、本発明のDNA又はベクターが導入された宿主細胞について説明する。後述の実施例に示す通り、前述のDNA又はベクターの導入によって形質転換された宿主細胞を用いれば、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体を製造することが可能となり、ひいてはオレフィン化合物を製造させることも可能となる。
【0077】
本発明のDNA又はベクターが導入される宿主細胞は特に限定されず、例えば、微生物(大腸菌、出芽酵母、分裂酵母、枯草菌、放線菌、糸状菌等)、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞が挙げられるが、比較的安価な培地にて、短時間にて高い増殖性を示し、ひいては生産性高いオレフィン化合物の製造に寄与し得るという観点から、微生物を宿主細胞として利用することが好ましく、大腸菌を利用することがより好ましい。
【0078】
また、本発明のDNA又はベクターの導入も、この分野で慣用されている方法に従い実施することができる。例えば、大腸菌等の微生物への導入方法としては、ヒートショック法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法が挙げられ、植物細胞への導入方法としては、アグロバクテリウムを用いる方法やパーティクルガン法が挙げられ、昆虫細胞への導入方法としては、バキュロウィルスを用いる方法やエレクトロポレーション法が挙げられ、動物細胞への導入方法としては、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法が挙げられる。
【0079】
このようにして宿主細胞内に導入されたDNA等は、宿主細胞内において、そのゲノムDNAにランダムに挿入されることによって保持されてもよく、相同組み換えによって保持されてもよく、またベクターであれば、そのゲノムDNA外の独立体として複製され保持し得る。
【0080】
<ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体の製造方法>
後述の実施例に示す通り、本発明のDNA等が導入された宿主細胞を培養することにより、該宿主細胞内にてジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体を製造することができる。したがって、本発明は、前述の宿主細胞を培養し、該宿主細胞に発現したタンパク質を採取する工程を含む、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体の製造方法をも提供することができる。
【0081】
本発明において、「宿主細胞を培養する」条件は、前記宿主細胞がジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体を製造できる条件であればよく、当業者であれば、宿主細胞の種類、用いる培地等に合わせて、温度、空気の添加の有無、酸素の濃度、二酸化炭素の濃度、培地のpH、培養温度、培養時間、湿度等を適宜調整し、設定することができる。
【0082】
かかる培地としては、宿主細胞が資化し得るものが含有されていればよく、炭素源、窒素源、硫黄源、無機塩類、金属、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、カゼイン加水分解物、血清等が含有物として挙げられる。また、かかる培地には、例えば、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体をコードするDNAの発現を誘導するためのIPTGや、本発明にかかるベクターがコードし得る薬剤耐性遺伝子に対応する抗生物質(例えば、アンピシリン)や、本発明にかかるベクターがコードし得る栄養要求性を相補する遺伝子に対応する栄養物(例えば、アルギニン、ヒスチジン)を添加してもよい。
【0083】
そして、このようにして培養した宿主細胞から、「該細胞に発現したタンパク質を採取する」方法としては、例えば、宿主細胞を濾過、遠心分離等により培地から回収し、回収した宿主細胞を、細胞溶解、磨砕処理又は加圧破砕等によって処理し、さらに、限外濾過処理、塩析、硫安沈殿等の溶媒沈殿、クロマトグラフィー(例えば、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー)等によって、宿主細胞において発現したタンパク質を精製、濃縮する方法が挙げられる。また、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体に、前述の精製タグタンパク質が付加されている場合には、該タグタンパク質が吸着する基質を用いて精製し、採取することもできる。さらに、これらの精製、濃縮方法は単独にて行ってもよく、また適宜組み合わせて多段階的に実施し得る。
【0084】
また、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体は、上記生物学的合成に限定されることなく、本発明のDNA等及び無細胞タンパク質合成系を用いても製造することができる。かかる無細胞タンパク質合成系としては特に制限はないが、例えば、コムギ胚芽由来、大腸菌由来、ウサギ網状赤血球由来、昆虫細胞由来の合成系が挙げられる。さらに、当業者であれば、市販のペプチド合成機等を用い、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体を化学的に合成することもできる。
【0085】
また、本発明は、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、少なくとも配列番号:2に記載のアミノ酸配列の209位又は該部位に対応するスレオニンを他のアミノ酸に変異させる工程を含む、オレフィン化合物を生成する触媒活性が高められたジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの製造方法をも提供することができる。
【0086】
「オレフィン化合物を生成する触媒活性が高められたジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ」とは、209位のスレオニン等に変異が導入されることにより、その導入前と比較してオレフィン化合物を生成する触媒活性が高いジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼを意味し、その比較対象は通常、上記出芽酵母等の様々な生物由来のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ及びその天然の変異体である。
【0087】
ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおける「他のアミノ酸の変異」導入は、コードするDNAの改変によって行うことができる。「DNAの改変」は、このようなDNAの改変は、上記の通り、当業者においては公知の方法、例えば、部位特異的変異誘発法、改変された配列情報に基づくDNAの化学的合成法を用いて、適宜実施することが可能である。また、「他のアミノ酸の変異」導入は、上記の通り、ペプチドの化学的合成法を用いても行うことができる。
【0088】
また、このような変異導入によって、オレフィン化合物を生成する触媒活性が高められたかどうかは、上記の通り、GC−MS分析等により評価することができる。
【実施例】
【0089】
<ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体の作製及び評価1>
本発明者らは、オレフィン化合物を高い生産性にて製造することを可能とすべく、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(以下「MVD」とも称する)のアミノ酸に変異を導入し、当該酵素(ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体)の基質特異性を、元来の5−ジホスホメバロン酸から3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテート等に対するものに変更することで、下記式に示すような反応を経て、イソプレン等を製造することを着想した。
【0090】
【化10】
【0091】
そこで、本発明者らは、以下に示す方法等にて、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの様々な部位に、アミノ酸置換を伴う変異を導入し、多数のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの変異体を調製した。そして、それら変異体について、5−ジホスホメバロン酸を基質とするイソペンテニル二リン酸の生成に関する触媒活性と、3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートを基質とするイソプレンの生成に関する触媒活性とを評価した。
【0092】
<プラスミドベクターの調製>
先ず、出芽酵母由来のMVD(scMVD、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質)を大腸菌にて効率良く発現させるために、それをコードする野生型ヌクレオチド配列(配列番号:1に記載のヌクレオチド配列)を、大腸菌におけるコドンの使用頻度を考慮して改変した。次いで、かかる改変ヌクレオチド配列(配列番号:3に記載のヌクレオチド配列)からなるDNAを常法に沿って化学合成した。そして、このようにして調製したDNAを、pET−22b(+)ベクター(Novagen社製)のマルチクローニングサイト(NdeI認識サイトとBamHI認識サイトとの間)に挿入することにより、当該野生型のscMVDを、ポリヒスチジンタグをそのN末端に融合させた形態にて、大腸菌において発現可能なプラスミドベクター(scMVDベクター)を調製した。
【0093】
次に、下記表1に示す通り、各部位におけるアミノ酸置換を伴う変異をscMVDに導入すべく、各変異が導入されたアミノ酸配列をコードするプライマーを設計し、合成した。
【0094】
【表1】
【0095】
そして、前記scMVDベクターを鋳型として、このようなプライマーと部位特異的突然変異誘発キット(製品名:site−Direct Mutagenesis Kit、Agilent社製)とを用い、そのキット添付のプロトコルに従って、各変異が導入されたscMVDを、ポリヒスチジンタグをそのN末端に融合させた形態にて、大腸菌において発現可能なプラスミドベクターを調製した。
【0096】
<酵素溶液の調製>
前記の通り調製したプラスミドベクターを各々、大腸菌(BL21)に、ヒートショック法により導入し、野生型のscMVD又は各scMVD変異体を発現する形質転換体を調製した。次いで、これら形質転換体を各々、0.4mMのIPTGとアンピシリンとを添加したLB培地にて一晩培養した。当該培養後の形質転換体を遠心分離により集菌し、DNaseIを添加したタンパク質抽出試薬(製品名:B−PER、Thermo Fisher Scientific社製)を加え、溶菌した。このようにして得られた各溶菌液に遠心分離を施し、得られた各上清をポリヒスチジン精製用カラム(製品名:TALON(登録商標)カラム、Clontech社製)に添加した。次いで、各カラムに溶出液(20mM Tris−HCl(pH7.4)、300mM NaCl、150mM イミダゾール)を添加し、各ポリヒスチジンタグが融合しているscMVDを溶出させた。そして、各溶出液を緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.4)、100mM NaCl)にて透析した後、限外ろ過スピンカラム(製品名:アミコンウルトラ、ミリポア社製)によって濃縮し、酵素溶液を調製した。また、このようにして調製した溶液中の酵素(ポリヒスチジンタグが融合している、scMVD又はその変異体)の濃度を、タンパク質定量キット(製品名:BCAアッセイキット、TaKaRa社製)を用い、添付のプロトコールに沿って測定した。
【0097】
<酵素活性の測定1>
5−ジホスホメバロン酸を基質とするイソペンテニル二リン酸の合成における、各酵素活性を以下のようにして測定した。
【0098】
先ず、緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.5)、10mM MgCl,100mM KCl)に、25μM (R)−メバロン酸5−ピロリン酸 四リチウム塩(シグマ社製)と、25μM ATPとを添加し、酵素反応液を調製した。
【0099】
そして、この反応液を37℃に保温した上で、その100μLに対し、前記にて調製した各酵素溶液(酵素含有量:50〜100ng)を添加し、酵素反応を開始した。次いで、当該反応を開始してから3分後に、酵素反応液中の遊離リン酸量を測定し、各酵素活性を算出した。なお、遊離リン酸量の測定は、酵素反応液に等量の比色検出試薬(製品名:Biomol(登録商標)Green試薬、Enzo Life Sciences社製)を添加し、室温にて20分間反応させた後 波長620nmにおける吸光度の測定を介して行った。また、このようにして測定した遊離リン酸量(単位:μmol)に基づき、各酵素1mgあたり、1分間に生成される反応産物量を、各酵素の活性として算出した。得られた結果の一部を図1の縦軸に示す。
【0100】
<酵素活性の測定2>
3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートを基質とするイソプレンの合成における、各酵素活性を以下のようにして測定した。
【0101】
先ず、緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.5)、10mM MgCl、100mM KCl)に、0.5mM 3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテート(カタログ番号:EN300−181938、3−hydroxy−3−methylpent−4−enoic acid、Enamine Building Blocks社製)と、5mM ATPとを添加した。
【0102】
なお、本実施例において行ってはいないが、イソプレンの合成において生じるADPを、NADHの酸化を介して、酵素活性として検出することも可能にすべく、0.4mM NADH、1mM ホスホエノールピルビン酸、3U/ml 乳酸脱水素酵素及び1.5U/ml ピルビン酸キナーゼをも添加し、酵素反応液を調製した。すなわち、当該酵素反応液によれば、先ず、イソプレン合成において生じたADPとホスホエノールピルビン酸とを基質とし、ピルビン酸キナーゼによって、ピルビン酸とATPとが生成される。さらに、生じたピルビン酸とNADHとを基質とし、乳酸脱水素酵素によって、乳酸とNADが生成される。そのため、波長340nmにおけるNADHに由来する吸光度の減少を測定することにより、酵素活性を検出することも可能となる。
【0103】
そして、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)用の10mlバイアルに、この反応液2.5mlと、10mgの前記酵素とを添加し、その直後にバイアルのキャップを閉め、酵素反応を開始した。当該酵素反応は37℃にて行い、反応を開始してから数日後(約2日後)にバイアルのヘッドスペース中に生成されたイソプレン量を、GC−MS(製品名:GCMS−QP2010 Ultra、島津製作所社製)によって測定した。得られた測定値に基づき、各酵素1mgあたり生成される反応産物量(単位:μg/L)を、各酵素の活性として算出した。得られた結果の一部を図1の横軸に示す。
【0104】
<大腸菌培養液中のイソプレン量の測定>
ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの209位のスレオニンがアルギニンに置換された酵素(以下「T209R」とも称する)を発現する形質転換体に関しては、アンピシリンを添加したLB培地、37℃にて培養した。次いで、波長600nmにおけるODが0.4〜0.6に達した培養液2.5mlを、GC−MS用の10mlバイアルに移し、IPTGをその最終濃度が0.4mMになるよう、さらに3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートをその最終濃度が0.5mMになるように添加してキャップを閉め、25℃にて培養した。その培養を開始してから反応を開始してから数日後(約2日後)に、バイアルのヘッドスペース中のイソプレン量をGC−MSによって直接測定した。得られた結果を図2に示す。
【0105】
図1に示した結果から明らかなように、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼは、変異が導入されることにより、5−ジホスホメバロン酸に対する基質特異性が、野生型のそれと比較し、概して低下することが明らかになった。さらに、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの209位のスレオニンが他のアミノ酸(セリン、アルギニン、ヒスチジン等)に置換された酵素(ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体)は、イソプレンの生成に関する触媒活性を有していることが認められた。
【0106】
また図1に示す通り、T209Rは、イソプレンの生成に関する触媒活性自体は野生型のそれよりも低い。しかしながら、図2に示す通り、図1において示される5−ジホスホメバロン酸に対する基質特異性の低さを反映してか、T209Rを発現する大腸菌から産生されるイソプレンの量は、野生型のそれよりも多かった。
【0107】
すなわち、このような結果となった理由は必ずしも定かではないが、野生型のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼに関しては、基質間(5−ジホスホメバロン酸と3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートとの間)で当該酵素の取り込まれにおいて拮抗が生じたのに対し、T209Rでは、5−ジホスホメバロン酸の取り込みが低下しているため、かかる拮抗が抑えられ、当該酵素に3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートの方が基質としてより多く取り込まれたことが想定される。そして、その結果、T209Rのイソプレンの生成に関する触媒活性自体は野生型のそれよりも低いにも関わらず、大腸菌が生産するイソプレンの量としては、野生型よりも多くなったと推察されえる。
【0108】
<ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体の作製及び評価2>
上記<プラスミドベクターの調製>及び<酵素溶液の調製>に記載の方法にて、下記表2及び3に示す、更なるジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体を調製し、上記<酵素活性の測定1>に記載の方法にて解析した。得られた結果の一部を図3A及びBの縦軸に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
なお、表中の記載に関し、例えば、「R74HI145FT209H」は、scMVDの74位のアルギニンをヒスチジンに置換し、145位のイソロイシンをフェニルアラニンに置換し、209位のスレオニンをヒスチジンに置換したジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの変異体であることを示す。また、例えば、「dR23−L27」は、scMVDにおいて23位のアルギニンから27位のロイシンが欠失しているジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼの変異体であることを示す。
【0112】
また、表2及び3に示す、更なるジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体については、3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートを基質とするイソプレンの合成における酵素活性を、以下の方法を用いて測定した。
【0113】
<酵素活性の測定3>
先ず、緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.5)、10mM MgCl、100mM KCl)に、0.5mM 3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートと、5mM ATPとを添加した。
【0114】
そして、GC−MS用の10mlバイアルに、この反応液2.5mlと、0.5mgの前記酵素とを添加し、その直後にバイアルのキャップを閉め、酵素反応を開始した。当該酵素反応は37℃にて行い、反応を開始してから一晩(12時間)後にバイアルのヘッドスペース中に生成されたイソプレン量を、サンプル平衡化のために50℃にて30分間加熱した後、GC−MSによって測定した。得られた測定値に基づき、各酵素反応液1Lあたり生成される反応産物量(単位:μg/L)を、各酵素の活性として算出した。得られた結果の一部を図3A及びBの横軸、並びに図4A及びBに示す。
【0115】
さらに、表2及び3に示す、更なるジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体を産生する形質転換体の一部については、上記<大腸菌培養液中のイソプレン量の測定>に記載の方法も用い解析した。得られた結果を図5に示す。
【0116】
また、scMVDと、その74位のアルギニンをヒスチジンに置換し、さらに209位のスレオニンをアルギニンに置換したジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体(以下、「R74HT209R」)とについて、イソプレンの合成量の経時変化を、以下に記載の方法にて測定した。
【0117】
<酵素活性の測定4>
酵素反応及びGC−MSによる測定は、上記<酵素活性の測定3>同様に行ったが、イソプレンの合成量の経時変化を測定するために、各測定時点において酵素反応液が入ったバイアル瓶ごと液体窒素につけ凍結させることで酵素反応を中断させた。そして、上記同様にサンプル平衡化処理を施した後に、バイアルのヘッドスペース中に生成されたイソプレン量を測定した。得られた結果を図6A及びBに示す。
【0118】
なお、図中において、scMVD(図中においては「wt」)及びR74HT209Rのいずれにおいても、測定開始時点からイソプレンが検出されているが、これは前記の通り、サンプル平衡化処理(50℃にて30分間)によって、酵素反応が進んでしまったことによる。
【0119】
図3A及びBの横軸に示した結果から明らかなように、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼは、変異が導入されることにより、5−ジホスホメバロン酸に対する基質特異性が、野生型のそれと比較し、概して低下することが明らかになった。
【0120】
一方、3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートを基質として得られるイソプレンの合成量は、作製した変異体の殆どにおいて1400μg/L以下であったのに対し、74位のアルギニンがヒスチジンに置換され、かつ209位のスレオニンがアルギニンに置換されたジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体(R74HT209R)が、唯一群を抜いてイソプレンの生成に関する極めて高い触媒活性(イソプレンの合成量:約20000μg/L)を有していることが明らかになった。
【0121】
さらに、図4Bに示す通り、さらに145位のイソロイシンをフェニルアラニンに置換したジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体(R74HI145FT209R)は、当該置換がされていないもの(R74HT209R)よりも、イソプレンの合成量において劣るものの、74位のアルギニンがヒスチジンに置換され、かつ209位のスレオニンがアルギニンに置換されたジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体はいずれも、他の多数の変異体に比べイソプレンの生成に関する極めて高い触媒活性を有していることも明らかになった。
【0122】
また、図5に示す通り、上述のイソプレンの生成に関する極めて高い触媒活性を反映し、R74HT209Rを発現する大腸菌から産生されるイソプレンの量は、他のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体を発現する大腸菌から産生されるそれよりも顕著に多いものであった。
【0123】
さらに、図6A及びBに示す通り、R74HT209Rと野生型のジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼとにおいて、産生されるイソプレン量の経時変化を測定した結果、上述のイソプレンの生成に関する極めて高い触媒活性を反映し、R74HT209Rによって産生されるイソプレンと野生型のそれとの量差は時間を経るごとに一層顕著になっていった。また、反応開始から24時間目に関しては、8回測定して比較した結果、いずれの測定回においてもR74HT209Rによって産生されるイソプレン量は野生型のそれの60〜80倍であり、上記同様、R74HT209Rは、イソプレンの生成に関する極めて高い触媒活性を有していることが確認された。
【0124】
また、特許文献3(国際公開第2015/021045号)において、イソプレンの製造を可能とする酵素として、M3K(EC2.7.1.158)が開示されている。そこで、イソプレンへの変換率(イソプレン生産量/(基質量・酵素量))に関して比較したところ、R74HT209RのそれはM3Kの1.2×10倍であり、公知の酵素と比較してもイソプレンの生成に関する極めて高い触媒活性を有していることが明らかになった。
【0125】
なお、R74HT209Rによって産生されるイソプレン量は、上述の通り、野生型のそれの約70倍(60〜80倍)である。また、このイソプレン量を得るのに供したR74HT209Rの量は4.5μMであり、基質量は0.5mMであった。一方、特許文献3の図14等によれば、M3Kによって産生されるイソプレン量は野生型のそれの約50倍となっている。また、このイソプレン量を得るのに供したM3Kの量は200μMであり、基質量は10mMとなっている。そこで、これら数値に基づき、上記の通り、R74HT209Rのイソプレンへの変換率は、M3Kのそれの1.2×10倍であると評価した。
【0126】
<酵素活性の測定5>
次に、本発明者らは、イソプレン生成において極めて高い触媒活性を示した上述のR74HT209Rに関し、他のオレフィン化合物の生成でも利用できることを確認した。すなわち、β−ヒドロキシイソ吉草酸を基質とするイソブテンの合成(下記式に示す反応)における、各酵素活性を以下のようにして評価した。
【0127】
【化11】
【0128】
先ず、緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.5)、10mM MgCl、100mM KCl)に、0.5mM β−ヒドロキシイソ吉草酸(東京化成工業株式会社製、製品コード:H0701、β−Hydroxyisovaleric Acid)と、5mM ATPとを添加した。
【0129】
そして、GC−MS用の10mlバイアルに、この反応液2.5mlと、10mgの前記酵素とを添加し、その直後にバイアルのキャップを閉め、酵素反応を開始した。当該酵素反応は37℃にて行い、反応を開始してから数日後(約2日後)にバイアルのヘッドスペース中に生成されたイソブテン量を、サンプル平衡化のために50℃にて30分間加熱した後、GC−MS(製品名:GCMS−QP2010 Ultra、島津製作所社製)によって測定した。次いで、得られたイソブテンに由来するピークの面積値を算出した。なお、対照としてR74HT209Rの代わりにscMVDを用いて前記同様に面積値を算出した。また、陰性対照として酵素の代わりに超純水(milliQ水)を用いて前記同様に面積値を算出した。得られた結果を表4に示す。
【0130】
さらに、β−ヒドロキシイソ吉草酸の代わりに、3−ヒドロキシ−3−メチルペント−4−エノテートを用い、イソプレンの合成における各酵素活性も、前記イソブテン同様に評価した。得られた結果を表4に示す。
【0131】
【表4】
【0132】
表4に示した結果から明らかなように、上記イソプレン生成同様に、イソブテンのそれにおいてもR74HT209Rは高い触媒活性を示すことが確認された。
【0133】
<ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体の作製及び評価3>
上記<プラスミドベクターの調製>及び<酵素溶液の調製>に記載の方法にて、下記表5に示す、更なるジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体を調製し、上記<酵素活性の測定3>に記載の方法にて解析した。得られた結果も表5に示す。なお、表5においては、各ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体によるイソプレン生成量を、野生型によるそれに対する相対的な比率を示す。また表中「―」は変異を導入していない(209位がスレオニンのままである)ことを示す。
【0134】
【表5】
【0135】
表5に示した結果から明らかなように、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼにおいて、74位及び209位は、各々アルギニン及びスレオニンに限らず、他のアミノ酸に置換しても、イソプレン生成における触媒反応において、野生型のそれよりも概して高い触媒活性を示すことが確認された。
【0136】
さらに、74位のアルギニンがメチオニンに置換され、かつ209位のスレオニンがアルギニンに置換されたジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体(R74MT209R)を上記<プラスミドベクターの調製>及び<酵素溶液の調製>に記載の方法にて調製した。そして、上記<酵素活性の測定3>に記載の方法にて解析し、イソプレン生成における触媒活性において、上述のR74HT209Rと比較した。その結果、R74MT209Rは、R74HT209Rと比してもなお1.28倍も高い触媒活性を示すことも確認された。
【0137】
次に、イソプレン生成において極めて高い触媒活性を示すこれらジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ変異体(R74HT209R、R74MT209R)について、上記<酵素活性の測定5>に記載の方法にて、イソブテンの生成における触媒活性を評価した。得られた結果を表6に示す。
【0138】
【表6】
【0139】
表6に示した結果から明らかなように、イソブテンの生成においてもR74MT209Rは高い触媒活性を示すことが確認された。また、前記イソプレンの生成同様に、R74MT209Rの方がR74HT209Rよりも、イソブテンの生成における触媒活性において高いことも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0140】
以上説明したように、本発明によれば、オレフィン化合物を高い生産性にて製造することを可能とする酵素、並びに当該酵素を用いたオレフィン化合物の製造方法を提供することが可能となる。また、本発明によれば、化学合成によらず、生合成によってオレフィン化合物を製造できるため、環境への負荷が少ない。したがって、本発明は、イソプレンやイソブテンといった、合成ゴム等の様々な合成ポリマーの原料の製造において極めて有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0141】
配列番号:3
<223> 大腸菌における発現のためにコドンが最適化された配列
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]