(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に従う実施形態の説明に先立ち、以下の点について予め説明する。まず、本明細書においてAl組成比を明示せずに単に「AlGaN」と表記する場合は、III族元素(Al,Gaの合計)とNとの化学組成比が1:1であり、III族元素AlとGaとの比率は不定の任意の化合物を意味するものとする。この場合、III族元素であるInについての表記がなくとも、III族元素としてのAlとGaに対して5%以内の量のInを含んでいてもよいこととする。また、単に「AlN」または「GaN」と表記する場合は、それぞれGaおよびAlは組成比に含まないことを意味するが、単に「AlGaN」と表記することによって、AlNまたはGaNのいずれかであることを排除するものではない。なお、Al組成比の値は、フォトルミネッセンス測定およびX線回折測定などによって測定することができる。
【0018】
また、本明細書において、電気的にp型として機能する層をp型層と称し、電気的にn型として機能する層をn型層と称する。一方、MgやSi等の特定の不純物を意図的には添加しておらず、電気的にp型またはn型として機能しない場合、「i型」または「アンドープ」と言う。アンドープの層には、製造過程における不可避的な不純物の混入はあってよく、具体的には、キャリア密度が小さい(例えば4×10
16/cm
3未満)場合に「アンドープ」である、と本明細書において称する。また、MgやSi等の不純物濃度の値は、SIMS分析によるものとする。
【0019】
また、エピタキシャル成長により形成される各層の厚み全体は、光干渉式膜厚測定器を用いて測定することができる。さらに、各層の厚みのそれぞれは、隣接する各層の組成が十分異なる場合(例えばAl組成比が、0.01以上異なる場合)、透過型電子顕微鏡による成長層の断面観察から算出できる。また、隣接する層のうち、Al組成比が同一であるか、または、ほぼ等しい(例えば0.01未満)ものの、不純物濃度の異なる層の境界および厚みについては、両者の境界ならびに各層の厚みは、TEM−EDSに基づく測定によるものとする。そして、両者の不純物濃度は、SIMS分析により測定できる。また、超格子構造のように各層の厚みが薄い場合にはTEM−EDSを用いて厚みを測定することができる。
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、重複する説明を省略する。また、各図において、説明の便宜上、基板および各層の縦横の比率を実際の比率から誇張して示している。
【0021】
(深紫外発光素子100)
本発明の一実施形態に従う深紫外発光素子100は、
図1に示すように、基板10上に、n型半導体層30、発光層40およびp型半導体層60を順次有し、さらに随意に他の構成を有するものである。そして、深紫外発光素子100における発光層40の発光ピーク波長は200nm以上350nm以下の範囲内の深紫外光である。本実施形態を、中心発光波長が265nm以上310nm以下である深紫外発光素子に供するとさらに効果的である。
【0022】
また、
図1に示すように、本実施形態に従う深紫外発光素子100は、基板10上に、必要によりバッファ層20を介してもよく、n型半導体層30の一部上のn側電極90と、p型半導体層60上のp側電極80とをさらに有することができる。こうした深紫外発光素子100は、発光層40からn型半導体層30に向かう方向の光を取り出す方式の発光素子であり、例えばフリップチップ型と呼ばれる形態とすることができる。
【0023】
以下、
図1を参照しつつ、本実施形態に従う深紫外発光素子100の特徴的な構成の一つであるp型半導体層60のうち、p型コンタクト層60Bの詳細について本発明の技術的意義と共に説明する。
【0024】
<p型半導体層>
本実施形態に従うp型半導体層60は、p型第1層60Aと、p型第1層60A上においてp型第1層60Aに接するp型コンタクト層60Bとを有する。なお、p型半導体層60は、発光層40とp型第1層60Aとの間であれば、p型第1層60Aおよびp型コンタクト層60B以外のp型層をさらに有していてもよい。ここで、p型第1層は、発光層40において深紫外光を放出する層のAl組成比よりも高いAl組成比xを有するp型Al
xGa
1−xN(0<x≦1)からなり、このp型第1層60Aは通常、電子ブロック層またはp型クラッド層、またはその一部として機能する。p型第1層60Aの具体的態様については後述する。
【0025】
<p型コンタクト層>
本実施形態に従うp型コンタクト層60Bは、窒化物以外のp型のIII-V族半導体材料、またはp型のIV族半導体材料からなり、発光層40からの深紫外光を反射する反射層として機能し、かつ、p型第1層60Aからp型コンタクト層60Bへ入射する波長280nmの光における反射率が10%以上である。
【0026】
窒化物以外のp型のIII-V族半導体材料として、III族元素であるAl、Ga、Inと、窒素以外のV族元素であるP、As、Sbとの化合物半導体であって、p型化しているものを用いることができる。こうしたIII-V族半導体材料として、GaAs、GaP、InP、InSbなどの二元系化合物半導体材料、InGaAs,AlGaAsなどの三元系化合物半導体材料、InGaAsP、AlInAsPなどの四元系化合物半導体材料を例示することができる。また、IV族半導体材料として、Si単体もしくはGe単体、またはSiGe混晶であり、p型化しているものを用いることができる。なお、SiおよびGeはIII族窒化物層に対してn型キャリアとなり、隣接するp型第1層60Aに影響を及ぼすため、p型コンタクト層60Bは窒化物以外のIII-V族半導体材料からなることがより望ましい。
【0027】
ここで、本明細書では、深紫外域(波長200nm〜350nm)の中間波長である波長280nmの光における反射率を用いることとする。p型第1層60Aからp型コンタクト層60Bへ入射する波長280nmの光における反射率は、p型第1層の屈折率(n
1)および消衰係数(k
1)の値と、p型コンタクト層における屈折率(n
c)および消衰係数(k
c)の値とを用いると、下記式(1)に従い計算される。
【数1】
なお、記号||は絶対値記号である。
【0028】
各材料の屈折率n
1,n
cおよび消衰係数k
1,k
cの値は、紫外可視分光光度計を使用し、対象となる材料の単結晶基板や、値が既知の基板上に形成した厚膜を用いて測定することができ、当該測定値を用いて反射率を定めることとする。ただし、FILMETRICS社のホームページや文献等に開示される値を参照して、当該値を近似値として扱ってもよい。
【0029】
また、p型第1層60A(Al
xGa
1−xN)の屈折率n
1の値が不明の場合はべガード則を適用し、AlNの屈折率およびGaNの屈折率を用いてAl組成比xに比例した両者の中間の値を用いて、近似値として扱ってもよい。
【0030】
これに対して、p型第1層60A(Al
xGa
1−xN)の消衰係数k
1の値が不明の場合、以下のとおりにして消衰係数k
1の値を近似値として扱ってもよい。
[1]p型第1層のAl組成比xが0.45より高いAl組成比の場合、波長280nmの深紫外光に対してp型第1層60Aは透明であるため、消衰係数k
1としてAlNの消衰係数である0.001を用いてもよい。
[2]ただし、p型第1層のAl組成比xが0.45以下の場合、p型第1層60Aの消衰係数k
1の値は実際に測定することとする。
【0031】
なお、バンドギャップの視点からすると、上述したp型コンタクト層60Bを構成する半導体材料は、p型のGaNよりもさらに狭いバンドギャップを持つため、一般的には深紫外光を吸収(または2次発光)するものとして認識される。しかしながら、p型第1層60Aおよびp型コンタクト層60Bの屈折率を考慮すると、AlGaNとGaNとの界面での反射率は1%程度であるところ、AlGaNとAlGaAsとの界面や、AlGaNとInAs、GaInSbなどとの界面の反射率は、GaNとの界面での反射率(1%程度)よりも遙かに大きい。そこで、波長280nmの光に対して10%以上の反射率、結晶性や平坦性の影響を加味してより好ましくは15%以上の反射率となる半導体材料をp型コンタクト層60Bとして用いることで、p型コンタクト層60Bを深紫外光の反射層として用いることが可能であることが判明した。
【0032】
そして、本発明者は上記p型コンタクト層60Bに使用できる材料の可能性について以下の観点で検討した。
<1>p型Al
xGa
1−xNからなるp型第1層60Aとの界面において屈折率に起因する反射率が大きい。
<2>界面抵抗が大きくない。
<3>GaNに比べてp型化が容易でバルク抵抗が小さい。
<4>p型Al
xGa
1−xNへの不純物拡散の悪影響が少ない。
<5>コンタクト抵抗が小さいp側電極材料がある。
<6>p側電極の形成方法が実用的である。
これら<1>〜<6>の観点で、本実施形態による窒化物以外のp型のIII−V族半導体材料、またはp型のIV族半導体材料をp型コンタクト層60Bに用いることの総合的な優位性を見出し、本発明に至ったのである。こうして、本実施形態に従う深紫外発光素子100は、従来のp型GaNコンタクト層を使用した深紫外発光素子よりも発光出力を高くすることができ、かつ、発光出力の経時変化が少ない。このように、本発明に従うp型コンタクト層60Bを用いることにより、本発明により高い発光出力および優れた信頼性を両立した深紫外発光素子を実現することができる。
【0033】
なお、上述したIII−V族半導体材料、またはIV族半導体材料を用いてp型コンタクト層60Bを形成することで、分布ブラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)のような高抵抗となる構造を形成しなくても、p型コンタクト層60Bそれ自体に反射層としての機能を付与することができる。すなわち、p型コンタクト層60Bは、コンタクト機能に加えて、深紫外光を反射する反射層としての機能を兼ねることができる。
【0034】
また、上述したGaAsなどのp型コンタクト層60Bに用いる上記の半導体材料は、深紫外領域での反射率は高いものの、青色や紫色などの可視光領域(400nm以上)では反射率が非常に低くなる。そのため、深紫外の波長領域であるからこそ、本実施形態によるp型コンタクト層60Bは反射層としての機能を兼ねることができるのである。
【0035】
なお、p型コンタクト層60Bは単結晶および多結晶のいずれでもよいが、単結晶であることが好ましい。p型コンタクト層60Bが単結晶であれば、多結晶体に比べて、反射の効果が大きくなると考えられるためである。
【0036】
ここで、p型コンタクト層60Bの厚さは10nm以上3000nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることがより好ましい。p型コンタクト層60Bの厚さが10nm未満では、p型コンタクト層60Bによる反射効果が望めなくなる。一方、p型コンタクト層60Bの厚さは大きくても構わず、上限値は特に限定されるものではないが、p型コンタクト層60Bによる反射効果は一定厚を超えると飽和する。そこで、p型コンタクト層60Bの厚さは、製造コストや電流拡散などを勘案の上、適宜設定すればよい。本実施形態によるp型コンタクト層60Bはp型のGaNに比べてバルク抵抗が小さく、また、印加電流がp型コンタクト層60B中で水平方向へ広がりやすくなる。したがって、従来のp型GaNコンタクト層に比べてp型コンタクト層60Bの厚さを大きくしても順方向電圧の上昇を抑制でき、また、p型コンタクト層60Bでの電流拡散も期待できる。
【0037】
ただし、
図2Aに示すように、p型コンタクト層60B上に金属反射層70が設けられ、当該金属反射層70がp型コンタクト層60Bと共に反射の役割を担うのであれば、上記に関わらず、窒化物以外のp型のIII−V族半導体材料、またはp型のIV族半導体材料からなるp型コンタクト層60Bの厚さを1nm以上10nm未満とすることができる。p型コンタクト層60Bの厚さが1nm以上10nm未満であれば、窒化物以外のp型のIII−V族半導体材料、またはp型のIV族半導体材料による光吸収を抑制しつつ、コンタクト抵抗を下げることができる。そのため、p型コンタクト層60Bと金属反射層70との組み合わせによって、深紫外領域での反射率を確保することができる。
【0038】
こうした金属反射層70としては、波長280nmの深紫外光を反射することのできるAl、Rhなどを用いることができる。金属反射層70が、p型コンタクト層60Bを介さずにp型第1層60Aと直接接触した場合、p型第1層60Aの広いバンドギャップにより、コンタクト抵抗が高くなってしまう。一方、金属反射層70とp型第1層60Aとの間に、バンドギャップの狭いp型コンタクト層60Bが介在することにより、コンタクト抵抗を低減することができる。この場合、
図2Aに示すように、金属反射層70はp型コンタクト層60Bの全面を被覆してもよい。また、金属反射層70は、
図2Bに示すように、p型コンタクト層60B上に所定のパターンで設けられてもよい。なお、
図2Bでは、等間隔のパターンで金属反射層70を設けた例を示すが、金属反射層70を任意のパターンで設けてもよいことは勿論である。
【0039】
金属反射層70は、蒸着法およびスパッタ法などの公知の薄膜成長方法により、p型コンタクト層60B上に形成することができる。また、金属反射層70の厚さは任意であり、例えば10nm以上500nm以下とすればよい。
【0040】
なお、p型コンタクト層60Bが数十μm〜数百μmの厚さとなると、p型コンタクト層60Bの下地となるp型Al
xGa
1−xNとの格子定数差や熱膨張係数差から、発光層やその周辺に加わる歪が増加するため、信頼性が低下する虞がある。
【0041】
p型コンタクト層60Bは単層構造としてもよいし、複数層構造としてもよい。また、p型コンタクト層60BをIII-V族化合物またはIV族化合物の混晶の組成比を結晶成長方向に傾斜させた組成傾斜層としてもよい。反射層としての機能を期待する発光層40側と、p側電極80とのコンタクト抵抗の低減を期待するp側電極80の側とで、それぞれの役割に適した材料、組成やドーパント濃度を持つようにすることができる。すなわち、p型第1層60Aとp型コンタクト層60Bとの界面での反射率と、p側電極80とのコンタクト抵抗の低抵抗化により本発明の効果が確保できるのであれば、p型のIII-V族またはIV族の半導体材料を複数層あるいは組成を傾斜させながら積層してもよい。なお、p型コンタクト層60Bを複数層構造、あるいは組成傾斜層とする場合、p型第1層60Aからp型コンタクト層60Bに入射する波長280nmの光における反射率の算出にあたっては、p型コンタクト層60B内のp型第1層と接している部分(界面から50nmの範囲)の屈折率(n
c)および消衰係数(k
c)の値を用いるものとする。組成傾斜の場合は、界面での屈折率および消衰係数の値と、界面から50nmの位置での屈折率および消衰係数の値とでそれぞれ平均値を求め、この平均値をp型コンタクト層60Bの屈折率および消衰係数として扱う。
また、p型コンタクト層60Bが複数層構造である場合、窒化物以外のp型のIII−V族半導体材料、またはp型のIV族半導体材料上に金属反射層70が形成されて、金属反射層70も反射の役割を担うのであれば、窒化物以外のp型のIII−V族半導体材料、またはp型のIV族半導体材料の厚さを1nm以上10nm未満とすることができる。
【0042】
p型コンタクト層のp型ドーパントとして、炭素(C)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)を用いることができ、これら複数の元素を用いてもよい。なお、深紫外発光素子における発光出力の低下要因の一つとして、p型AlGaNからドーパントであるMgの発光層への拡散が考えられている。従来技術において、p型GaNコンタクト層を使用する場合には抵抗を下げるためにMgを高濃度でドープしており、p型AlGaNを介してMgが発光層に拡散し信頼性への悪影響の懸念があった。しかしながら、本実施形態に従うp型コンタクト層60Bを使用する場合には、GaNを用いる場合に比べてドーパントの活性化が容易なため、p型コンタクト層60Bのドーパント濃度を抑制することができ、p型コンタクト層の低抵抗化と信頼性の両立できる副次的効果も期待できる。
【0043】
ここで、
図3Aに示すように、p型コンタクト層60Bとp型第1層60Aとの間に形成される界面は、平坦面として形成されることが通常である。ただし、
図3Bに示すように、p型コンタクト層60Bの形成に先立ち、p型第1層60Aの一部に凹凸を形成した構造としてもよい。また、
図3Cに示すように、当該界面の一部にパターン化されたSiO
2や空隙などの絶縁領域60Cを配置した構成としてもよい。上述した凹凸や絶縁領域を設けることで、電流の流れる道を分散させる効果が期待できる。
【0044】
なお、p型コンタクト層60B上に形成されるp側電極80としては、p型コンタクト層60Bに用いる前述の材料上に形成される公知の電極材料を使用することができる。例えば、p型コンタクト層60Bがp型のGaAsである場合は、AuZnを含む合金やTi/Pt/Auなどを用いることができる。
【0045】
また、上述したp型コンタクト層60B以外の深紫外発光素子の構成は、従来公知の深紫外発光素子と同様の構成を使用することができる。以下、本実施形態に適用可能な基板10からp型第1層60Aまでの構成の具体的態様を説明するが、以下に例示するものに限らず、任意の構成とすることができる。
【0046】
<基板>
基板10としては、発光層40による発光を透過して基板側から深紫外光を取り出すことのできる基板を用いることが好ましく、例えばサファイア基板またはAlN単結晶基板などを用いることができる。また、基板10として、サファイア基板の表面にアンドープのAlN層をエピタキシャル成長させたAlNテンプレート基板を用いてもよい。
【0047】
<バッファ層>
基板10上には、バッファ層20を設けることも好ましい。基板10と、n型半導体層30との格子不整合を緩和するためである。バッファ層20としてアンドープのIII族窒化物半導体層を用いることができ、バッファ層20を超格子構造とすることも好ましい。
【0048】
<n型半導体層>
n型半導体層30は必要によりバッファ層20を介し、基板10上に設けられる。n型半導体層30を基板10上に直接設けてもよい。n型半導体層30は、一般的なn型層とすることができ、例えばAlGaNよりなることができる。n型半導体層30には、n型のドーパントがドープされることでn型層として機能し、n型ドーパントの具体例として、シリコン(Si),ゲルマニウム(Ge),錫(Sn),硫黄(S),酸素(O),チタン(Ti),ジルコニウム(Zr)等を挙げることができる。n型ドーパントのドーパント濃度は、n型として機能することのできるドーパント濃度であれば特に限定されず、例えば1.0×10
18atoms/cm
3〜1.0×10
20atoms/cm
3とすることができる。また、n型半導体層30のバンドギャップは、発光層40(量子井戸構造とする場合は井戸層41)のバンドギャップよりも広く、発光する深紫外光に対し透過性を有することが好ましい。また、n型半導体層30を単層構造や複数層からなる構造の他、III族元素の組成比を結晶成長方向に組成傾斜させた組成傾斜層や超格子構造を含む構成することもできる。n型半導体層30は、n型電極とのコンタクト部を形成するだけでなく、基板から発光層に至るまでに結晶性を高める機能を兼ねる。
【0049】
<発光層>
発光層40はn型半導体層30上に設けられる。また、本実施形態における発光層40は、当該発光層40による発光の中心発光波長が深紫外光の200〜350nmとなるよう設けられる。265nm以上310nm以下となるように設けることがより好ましい。
【0050】
発光層40は、単層構造により構成してもよいが、Al組成比の異なるAlGaNよりなる井戸層41および障壁層42を繰り返し形成した多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造で構成することが好ましい。なお、深紫外光を放出する層は、単層構造の場合は発光層それ自体であり、多重量子井戸構造の場合は井戸層41である。
【0051】
深紫外光を放出する層のAl組成比wは、深紫外光の200〜350nmとなるよう、または、中心発光波長が265nm以上310nm以下となるよう設定する。このようなAl組成比wは、例えば0.3〜0.6の範囲内とすることができる。多重量子井戸構造の場合、障壁層42のAl組成比bは、井戸層41のAl組成比wよりも高くする。例えば、b>wの条件の下、障壁層42のAl組成比bを0.40〜0.95とすることができる。また、井戸層41および障壁層42の繰り返し回数は、特に制限されず、例えば1〜10回とすることができる。発光層40の厚み方向の両端側(すなわち最初と最後)を障壁層とすることが好ましく、井戸層41および障壁層42の繰り返し回数をnとすると、この場合は「n.5組の井戸層および障壁層」と表記することとする。また、井戸層41の厚みを0.5nm〜5nm、障壁層42の厚みを3nm〜30nmとすることができる。
【0052】
<p型第1層>
発光層40上に設けられるp型半導体層60は
図4A,
図4Bに示す態様が例示される。
図4Aに示すように、p型半導体層60は発光層40上に、p型電子ブロック層61、p型クラッド層63、p型コンタクト層60Bの順に形成することができる。また、
図4Bに示すように、
図4Aと異なりp型クラッド層63を省略して、発光層40上にp型電子ブロック層61、p型コンタクト層60Bの順に形成することもできる。
【0053】
図4Aに示す態様ではp型クラッド層63が本実施形態におけるp型第1層60Aとなる。発光層40から放出された深紫外光L
0は、p型第1層60Aとp型コンタクト層60Bとの界面、すなわちp型クラッド層63とp型コンタクト層60Bとの界面で反射し、反射光L
1が発光層40側(したがって、基板10側)に進む。また、反射しきれなかった光L
2はp型コンタクト層60B側に進み、透過および吸収される。
【0054】
一方、
図4Bに示す態様ではp型電子ブロック層61が本実施形態におけるp型第1層60Aとなる。発光層40から放出された深紫外光L
0は、p型第1層60Aとp型コンタクト層60Bとの界面、すなわちp型電子ブロック層61とp型コンタクト層60Bとの界面で反射し、反射光L
1が発光層40側(したがって、基板10側)に進む。また、反射しきれなかった光L
2はp型コンタクト層60B側に進み、透過および吸収される。
【0055】
いずれの場合も、p型コンタクト層60Bと接する層が発光層40において深紫外光を放出する層のAl組成比より高いAl組成比xを有するp型Al
xGa
1−xNからなるp型第1層60Aである。なお、
図5に示すように、p型コンタクト層60Bが、例えばp型第1コンタクト層65およびp型第2コンタクト層67をこの順に含むような複数層構造の場合も、深紫外光L
0はp型第1層60Aとp型コンタクト層60Bとの界面で反射する。p型コンタクト層60B内のp型第1コンタクト層65とp型第2コンタクト層67界面においてさらに反射させるように各材料とその厚さを組み合わせても良い。
【0056】
さて、p型電子ブロック層61は電子を堰止めし、電子を発光層40(多重量子井戸構造の場合には井戸層41)内に注入して、電子の注入効率を高めるための層として用いられる。この目的のため、p型電子ブロック層61のAl組成比zを、0.5≦z≦1とすることが好ましい。なお、Al組成比zが0.5以上であれば、p型電子ブロック層61はIII族元素としてのAlとGaに対して5%以内の量のInを含んでいてもよい。ここで、発光層40が前述の障壁層42を有する多重量子井戸構造である場合、Al組成比zは上記条件を満足しつつ、障壁層42のAl組成比bよりも高くすることが好ましい。すなわち、z>bである。このp型電子ブロック層61がp型コンタクト層60Bと接する場合(すなわち、p型クラッド層がない場合)には、p型電子ブロック層61の最もp型コンタクト層60B側であり、p型コンタクト層60Bと接する層のAl組成比を、Al組成比xを有するAl
xGa
1−xNからなるp型第1層60Aであるとする。(換言すれば、この場合はAl組成比zをAl組成比xとして扱う。)
【0057】
p型電子ブロック層61の厚みは特に制限されないが、例えば10nm〜80nmとすることが好ましい。p型電子ブロック層61の厚みがこの範囲であれば、高い発光出力を確実に得ることができる。なお、p型電子ブロック層61の厚みは、障壁層42の厚みよりは厚いことが好ましい。また、p型電子ブロック層61にドープするp型ドーパントとしては、マグネシウム(Mg),亜鉛(Zn),カルシウム(Ca),ベリリウム(Be),マンガン(Mn)等を例示することができ、Mgを用いることが一般的である。p型電子ブロック層61のドーパント濃度は、p型の半導体層として機能することのできるドーパント濃度であれば特に限定されず、例えば1.0×10
18atoms/cm
3〜5.0×10
21atoms/cm
3とすることができる。
【0058】
また、p型クラッド層63は、発光層40における深紫外光を放出する層のAl組成比より高く、一方、p型電子ブロック層61のAl組成比zより低いAl組成比を持つ層である。つまり、p型電子ブロック層61とp型クラッド層63は、いずれも深紫外光を放出する層のAl組成比より高いAl組成比を持つ層であり、発光層40から発光された深紫外光を実質的に透過する層である。
【0059】
このp型クラッド層63がp型コンタクト層60Bと接する場合には、p型クラッド層63の最もp型コンタクト層60B側であり、p型コンタクト層60Bと接する層のAl組成比を、Al組成比xを有するAl
xGa
1−xNからなるp型第1層60Aであるとする。なお、p型クラッド層63は、単層構造でも複数層構造でも組成傾斜層でもよい。p型クラッド層63が超格子積層体構造を有する場合はAl組成比と厚さの積の和を合計厚さで割ることから計算される平均組成比を当該超格子積層体のAl組成比とする。
【0060】
なお、p型第1層60A内において、局所的にSi等の異種ドーパントを混在させたり、局所的にアンドープ領域を混在させたりすることによりp型ドーパントの発光層40への移動を制御することを行っても良い。
【0061】
<n側電極>
n側電極90は、n型半導体層30の露出面上に設けることができる。n側電極90として、例えばTi含有膜およびこのTi含有膜上に形成されたAl含有膜を有する金属複合膜とすることができる。なお、
図1に示す深紫外発光素子100では、発光層40、p型半導体層60部がエッチング等により除去され、露出したn型半導体層30上にn側電極90が設けられたものである。
【0062】
<p側電極>
p側電極80は、既述のとおりp型コンタクト層60Bに用いる前述の材料上に形成される公知の電極材料を使用することができる。
【0063】
(深紫外発光素子の製造方法)
上述した深紫外発光素子100は、
図6のステップA〜ステップDに示すように、基板10上に、n型半導体層30を形成する工程と、n型半導体層30上に発光層40を形成する工程と、発光層40上にp型半導体層60を形成する工程と、を具える。
【0064】
p型半導体層60を形成する工程は、発光層40において深紫外光を放出する層のAl組成比より高いAl組成比xを有するp型Al
xGa
1−xN(0<x≦1)からなるp型第1層60Aを形成する第1工程(
図6ステップB)と、p型第1層60A上に、窒化物以外のp型のIII−V族半導体材料、またはp型のIV族半導体材料からなるp型コンタクト層60BをMOCVD法により形成する第2工程(
図6ステップC)とを有する。
【0065】
深紫外発光素子100の実施形態に既述のとおり、p型コンタクト層60Bは深紫外光を反射する反射層として機能する。そして、p型第1層60Aからp型コンタクト層60Bへ入射する波長280nmの光における反射率が10%以上である。
【0066】
こうして、高い発光出力および優れた信頼性を両立した深紫外発光素子100を製造することができる。
【0067】
ここで、各工程においては、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法や分子線エピタキシ(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、HVPE法、スパッタ法などの公知の薄膜成長方法により形成することができ、例えばMOCVD法を用いて形成するのが好ましい。p型コンタクト層60Bの形成にあたっては、既述の半導体材料をMOCVD法によりエピタキシャル成長させる際の一般的な成長条件を利用することができる。
【0068】
なお、
図6ステップAに示すように、基板10を用意する際には、前述のとおり、サファイア基板またはAlN単結晶基板などを用意すればよいし、AlNテンプレート基板を用意してもよい。また、
図6ステップDに示すように、バッファ層20、p側電極80、n側電極90を一般的な手法を用いて形成することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
(発明例1)
まず、サファイア基板(直径2インチ、厚さ:430μm、面方位:(0001))上に、MOCVD法により、中心膜厚0.60μm(平均膜厚0.61μm)のAlN層を成長させ、AlNテンプレート基板とした。膜厚については、光干渉式膜厚測定機(ナノスペックM6100A;ナノメトリックス社製)を用いて、ウェハー面内の中心を含む、等間隔に分散させた計25箇所の膜厚を測定した。
【0071】
次いで、上記AlNテンプレート基板を熱処理炉に導入し、炉内を窒素ガス雰囲気とした後に、炉内の温度を昇温してAlNテンプレート基板に対して熱処理を施した。その際、加熱温度は1650℃、加熱時間は4時間とした。
【0072】
続いて、MOCVD法により、アンドープのAl
0.78Ga
0.22NからAl
0.68Ga
0.32Nに組成を傾斜させた層からなり、厚み1.0μmのバッファ層を形成した。次に、Al
0.65Ga
0.35Nからなり、Siドープした厚み1.6μmのn型半導体層を上記バッファ層上に形成した。なお、SIMS分析の結果、n型半導体層のSi濃度は2.0×10
19atoms/cm
3であった。
【0073】
続いて、n型半導体層上に、Al
0.65Ga
0.35Nからなる厚み7nmの障壁層およびAl
0.45Ga
0.55Nからなる厚み3nmの井戸層を交互に3組繰り返して積層した量子井戸構造を形成し、さらにAlNからなる1nmの層を形成し、発光層とした。Al組成比bは0.65であり、Al組成比wは0.45である。井戸層より放出される深紫外光の発光ピーク波長は280nmである。障壁層の形成にあたってはSiドープも行った。
【0074】
その後、発光層上に、水素ガスをキャリアガスとして、Al
0.68Ga
0.32Nからなる厚み40nmのp型電子ブロック層およびAl
0.55Ga
0.45Nからなる厚み40nmのp型クラッド層を形成した。Al組成比zは0.68であり、Al組成比xは0.55である。なお、p型電子ブロック層およびp型クラッド層の形成にあたり、Mg源としてCP
2Mgガスをチャンバに供給してMgをドープした。SIMS分析の結果、p型電子ブロック層、p型クラッド層のMg濃度は、それぞれ2.0×10
18atoms/cm
3、2.0×10
19atoms/cm
3であった。
【0075】
続いて、p型クラッド層上にp型コンタクト層を形成した。本発明例1では、p型クラッド層がp型第1層に相当する。具体的には、p型クラッド層上に、MOCVD法により、Cドープのp型GaAs単結晶層を形成し、その厚みを1μmとした。Al
0.55Ga
0.45N(n
1=2.46、k
1=0.001)からGaAs(n
c=4.02、k
c=2.56)に入射する280nmの光の反射率は、前述の式(1)に従い18.5%と計算される。
【0076】
なお、SIMS分析の結果、p型コンタクト層のC濃度は5×10
18atoms/cm
3であった。
【0077】
その後、n型半導体層の一部をドライエッチングにより露出させ、p型半導体層部分とn型半導体層の層露出部分に直径300μmのInボールを押し当て、両Inボールに電流を通電することにより、発明例1の深紫外発光素子の発光出力を評価した。発明例1の層構造を表1に示す。
【0078】
【表1】
※1:サファイア基板上のAlN層側のAl組成比を78%(Al
0.78Ga
0.22N)として、成長方向に向けてAl組成比を漸減させて、n層側表面ではAl組成比を68%(Al
0.68Ga
0.32N)とした。
【0079】
(比較例1)
p型コンタクト層を、Mgドープしたp型GaN(Mg濃度2×10
19atoms/cm
3、厚さ0.3μm)とした以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る深紫外発光素子を作製した。
【0080】
(比較例2)
p型コンタクト層を設けなかった以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る深紫外発光素子を作製した。
【0081】
(評価1:初期の発光出力)
発明例1および比較例1,2について、Inボールを介して電流を100mA通電し、サファイア面側に配置したフォトディテクターにより発光出力を測定した。その結果、p型コンタクト層がp型GaNである比較例1の発光出力を1とすると、p型コンタクト層を設けなかった比較例2の発光出力は2であった。比較例2における発光出力の向上は、比較例1に比べて発光層からサファイア基板と反対側の方向に向けた光(In電極やp型クラッド層と空気との界面においてサファイア基板側へ向けて反射された光)と、発光層からサファイア基板側に向けた光との合計と考えられる。したがって、比較例1のp型GaNは、発光層からp型コンタクト層に向かって放出された光を反射せず、ほぼ100%を吸収していると考えられる。
【0082】
一方、発明例1では、p型GaAsをp型コンタクト層としている。この場合の発光出力は、比較例1の発光出力を1とすると、1.1であった。すなわち、比較例1に比べて10%向上している。これは、上記比較例1,2を対比した考察を踏まえると、p型GaAsが、発光層からp型コンタクト層に向かって放出された光のうち10%程度を反射した結果と考えることができる。なお、反射されなかった光については、p型GaAs層で吸収されてしまうと考えられる。結果を表2に示す。
【0083】
(評価2:発光出力の経時変化)
発明例1および比較例1,2のそれぞれについて、1分間100mAを通電する測定をウェハー内5点について行った。発明例1および比較例1の場合は、5点すべてで1分後の発光出力の変動はなかったが、比較例2(コンタクト層なし)においては、3点では不点灯が観察され、残る2点で1分後の発光出力が通電直後に比べ20%程度減少することが観察された。結果を表2に示す。
【0084】
比較例2においては、Inボールを押し当てたp型クラッド層のAl組成比が高いため正孔密度が低く、p側電極とのコンタクトが劣化したか、あるいは部分的な電流集中が発生して、劣化が発生したと推測される。
【0085】
【表2】
※2:p型クラッド層にInボールを直接押し当てた。