特許第6803478号(P6803478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6803478
(24)【登録日】2020年12月2日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20201214BHJP
【FI】
   H02M7/48 E
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-541372(P2019-541372)
(86)(22)【出願日】2019年3月7日
(86)【国際出願番号】JP2019009163
【審査請求日】2019年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 融真
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 悟司
(72)【発明者】
【氏名】小原 峻介
【審査官】 東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−268922(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/077939(WO,A1)
【文献】 特開2008−236817(JP,A)
【文献】 特開2007−181341(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/087045(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00−1/44
H02M 7/00−7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用半導体素子をスイッチング動作させて電力変換を行う電力変換装置であって、
前記電力用半導体素子のスイッチング動作時に発生するコモンモード電圧を検出する電圧検出手段と、
前記電圧検出手段により検出されたコモンモード電圧をコモンモードトランスを介して前記電力変換装置の出力に重畳させて前記電力用半導体素子をスイッチング動作させる際に発生するスイッチング周波数以上のコモンモード電圧を相殺する電圧重畳手段と、
前記電圧重畳手段により重畳された前記電力変換装置のコモンモード電圧を検出する残留電圧検出手段とを備え、
前記電圧重畳手段は、前記残留電圧検出手段により検出されたコモンモード電圧を加算して前記コモンモードトランスを介して前記電力変換装置の出力に重畳するためのフィードバック手段を含み、
前記電圧検出手段は、第1のチョークコイルと、第1のコンデンサとで構成され、
前記第1のチョークコイルの漏れインダクタンスに基づく共振の影響を低減するための第1のダンパをさらに備え、
前記第1のダンパは、前記電力用半導体素子と前記コモンモードトランスとの間に設けられた第2のチョークコイルと、前記第2のチョークコイルに対して並列に接続された第1の抵抗とを含む、電力変換装置。
【請求項2】
前記第1のダンパは、第2のコンデンサをさらに含み、
前記第1の抵抗と前記第2のコンデンサとで高周波カットフィルタを形成する、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記コモンモードトランスと負荷との間に設けられた第2のダンパをさらに備える、請求項2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第2のダンパは、前記コモンモードトランスと前記負荷との間に設けられた第3のチョークコイルと、前記第3のチョークコイルに対して並列に接続された第2の抵抗とを含む、請求項3記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電圧検出手段は、前記コモンモード電圧の高周波成分を検出する検出高速化回路をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記残留電圧検出手段は、
前記電力変換装置の出力の各相に残留したコモンモード電圧を検出する検出用コンデンサと、
前記検出用コンデンサと直列に接続された検出用抵抗とを含む、請求項1記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置、例えばインバータに代表される電力用半導体素子のスイッチング動作に基づいて電力変換を行う際に発生するコモンモード電圧を相殺する方式に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばモータを負荷として運転制御する電圧形PWMインバータなどの電力変換装置においては、適用範囲の拡大と電力用半導体素子の特性向上に伴って電圧形PWMインバータのキャリア周波数の高周波化が進められている。
【0003】
しかし、かかる電圧形PWMインバータの高周波化が進むにつれて、電圧形PWMインバータが発生する電磁妨害(EMI:electromagnetic interference)が大きな問題となっている。
【0004】
電圧形PWMインバータが発生する電磁妨害の原因は、主として接地線を流れる電流にある。
【0005】
この点で、特開2001−268922号公報においては、コイルを用いてインバータ出力のコモンモード電圧を抑制し、漏れ電流を低減する方式が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−268922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記公報に記載される技術は、コイルの漏れインダクタンスの影響により出力コモンモード電圧の減衰量が低いという課題がある。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解消するためなされたもので、コモンモード電圧の減衰効果を向上する電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のある局面に従う電力用半導体素子をスイッチング動作させて電力変換を行う電力変換装置であって、電力用半導体素子のスイッチング動作時に発生するコモンモード電圧を検出する電圧検出手段と、電圧検出手段により検出されたコモンモード電圧を電力変換装置の出力に重畳させて電力用半導体素子をスイッチング動作させる際に発生するスイッチング周波数以上のコモンモード電圧を相殺する電圧重畳手段と、電圧重畳手段により重畳された電力変換装置のコモンモード電圧を検出する残留電圧検出手段とを備える。電圧重畳手段は、残留電圧検出手段により検出されたコモンモード電圧を加算して電力変換装置の出力に重畳するためのフィードバック手段を含む。電圧検出手段は、第1のチョークコイルと、第1のコンデンサとで構成される。
【0010】
好ましくは、第1のチョークコイルの漏れインダクタンスに基づく共振の影響を低減するためのダンパをさらに備える。
【0011】
好ましくは、ダンパは、第2のチョークコイルと、抵抗とを含む。
好ましくは、ダンパは、第2のコンデンサをさらに含む。抵抗と第2のコンデンサとで高周波カットフィルタを形成する。
【0012】
好ましくは、電圧検出手段は、コモンモード電圧の高周波成分を検出する検出高速化回路をさらに含む。
【0013】
好ましくは、残留電圧検出手段は、電力変換装置の出力の各相に残留したコモンモード電圧を検出する検出用コンデンサと、検出用コンデンサと直列に接続された検出用抵抗とを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電力変換装置は、出力コモンモード電圧の減衰効果を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】比較例に基づくモータ制御システム100の構成を説明する図である。
図2】実施形態1に基づくモータ制御システム1の構成を説明する図である。
図3】実施形態1に基づくコモンモード抑制回路17のコモンモードに対する等価回路を説明する図である。
図4】コモンモード電圧波形について説明する図である。
図5】コモンモード電圧の減衰量を説明する図である。
図6】実施形態1に基づくコモンモード抑制回路17のコモンモードに対する等価回路を説明する別の図である。
図7】一巡伝達関数のゲインおよび位相について説明する図である。
図8】実施形態2に基づくモータ制御システム1#の構成を説明する図である。
図9】実施形態2に基づくダンパ回路の構成を説明する図である。
図10】実施形態2に基づくコモンモード抑制回路17#のコモンモードに対する等価回路を説明する図である。
図11】ダンパ回路25挿入後の共振周波数のゲインおよび位相について説明する図である。
図12】コモンモード電圧検出回路7のコモンモード電圧の検出について説明する図である。
図13】実施形態3に基づくモータ制御システム1#Aの構成を説明する図である。
図14】実施形態3の変形例に基づくモータ制御システム1#Bの構成を説明する図である。
図15】実施形態4に基づく残留コモンモード電圧検出回路について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[比較例]
図1は、比較例に基づくモータ制御システム100の構成を説明する図である。
【0018】
図1を参照して、モータ制御システム100は、交流電動機6と、電力変換装置20とを含む。
【0019】
電力変換装置20は、電圧形PWMインバータ4と、コモンモード電圧を抑制するコモンモード抑制回路70とを含む。
【0020】
電圧形PWMインバータ4(単にインバータとも称する)は、直流電源3と接続され、この直流電圧を電力用半導体素子(IGBT、MOSFET等)のスイッチング動作により三相の交流電圧に変換する。
【0021】
インバータ4により変換された交流電圧は、三相ケーブル5を介して交流電動機(モータ)6に接続され、この交流電動機6のフレームは接地線を介して接地電圧GNDと接続されている。
【0022】
インバータ4と交流電動機(モータ)6との間にコモンモード抑制回路70が設けられる。
【0023】
コモンモード抑制回路70は、インバータ4の三相交流出力端にスター結線されてコモンモード電圧を検出するコモンモード電圧検出回路7と、コモンモード電圧を一次側コイルに入力し、その二次側コイルを三相ケーブル5に設けたコモンモードトランス11と、コンデンサ10A,10Bとを含む。
【0024】
コモンモード電圧検出回路7は、コンデンサ7A〜7Cと、チョークコイル7D〜7Fとを含む。チョークコイル7D〜7Fは、コモンモードトランス11とインバータ4との間の三相ケーブル5に接続される。チョークコイル7D〜7Fは、非零相チョークコイル群を形成する。コンデンサ7A〜7Cは、チョークコイル7D〜7Fとそれぞれ直列に接続される。
【0025】
コンデンサ7A〜7Cは、スター結線されてコモンモードトランス11の一次側コイルの一端側と接続される。
【0026】
コンデンサ10A,10Bは、直流電源3と直列に接続され、その接続ノードNAは、コモンモードトランス11の一次側コイルの他端側と接続される。
【0027】
コモンモード電圧検出回路7の出力端は、コモンモードトランス11の一次側と接続され、コモンモードトランス11の励磁インダクタンスに従ってコモンモード電圧に対して逆相の電圧を重畳する。これによりコモンモード電圧を相殺する方式である。
【0028】
一方で、実際にはコモンモード電圧検出回路7は、チョークコイルで形成されており、漏れインダクタンスが発生する。当該漏れインダクタンスにより、コモンモードトランスの結合率が悪化し、コモンモード電圧の抑制が十分ではない場合がある。
【0029】
[実施形態1]
図2は、実施形態1に基づくモータ制御システム1の構成を説明する図である。
【0030】
図2を参照して、モータ制御システム1は、交流電動機6と、本発明の電力変換装置2とを含む。なお、交流電動機は、誘導モータおよび同期モータのいずれも含む。
【0031】
電力変換装置2は、電圧形PWMインバータ4と、コモンモード電圧を抑制するコモンモード抑制回路17とを含む。
【0032】
電力変換装置2は、電力変換装置20と比較してコモンモード抑制回路70をコモンモード抑制回路17に置換した点が異なる。その他の構成については同様である。
【0033】
コモンモード抑制回路17は、インバータ4の三相交流出力端にスター結線されてコモンモード電圧を検出するコモンモード電圧検出回路7と、コモンモード電圧を一次側コイルに入力し、その二次側コイルを三相ケーブル5に設けたコモンモードトランス11と、残留コモンモード電圧検出回路8と、フィードバック回路9とを含む。
【0034】
コモンモード電圧検出回路7は、コンデンサ7A〜7Cと、チョークコイル7D〜7Fとを含む。チョークコイル7D〜7Fは、コモンモードトランス11とインバータ4との間の三相ケーブル5に接続される。チョークコイル7D〜7Fは、非零相チョークコイル群を形成する。コンデンサ7A〜7Cは、チョークコイル7D〜7Fとそれぞれ直列に接続される。
【0035】
コンデンサ7A〜7Cは、スター結線されてコモンモードトランス11の一次側コイルの一端側と接続される。
【0036】
残留コモンモード電圧検出回路8は、コモンモードトランス11と交流電動機6との間の三相ケーブル5にスター結線されて残留しているコモンモード電圧を検出するコンデンサ8A〜8Cを含む。
【0037】
フィードバック回路9は、演算増幅器CPと、抵抗R0,R1と、電力増幅するコンプリメンタリのトランジスタを用いたプッシュプル形のエミッタフォロワ回路と、コンデンサ10A,10Bと、直流電源3A,3Bとをさらに含む。
【0038】
エミッタフォロワ回路は、直流電源3A,3Bと直列に接続され、そのベースが演算増幅器CPの出力と接続されるバイポーラトランジスタTr3,Tr4を含む。
【0039】
なお、本例においては、演算増幅器CPの出力可能電流を増幅するためにエミッタフォロワ回路(バイポーラトランジスタTr3,Tr4)を設ける構成について説明するが、当該エミッタフォロワ回路を設けない構成とすることも可能である。
【0040】
コンデンサ10A,10Bは、直流電源3と直列に接続され、その接続ノードNAは、演算増幅器CPの一方側(+側)の入力と接続される。また、接続ノードNAは、直流電源3A,3Bとの間の接続ノードとも接続される。
【0041】
演算増幅器CPの他方側(−側)の入力は、抵抗R1を介して残留コモンモード電圧検出回路8と接続される。また、演算増幅器CPの他方側(−側)の入力と、エミッタフォロワ回路の出力との間には抵抗R0が設けられる。
【0042】
図3は、実施形態1に基づくコモンモード抑制回路17のコモンモードに対する等価回路を説明する図である。
【0043】
図3を参照して、容量Cはモータの巻線とフレーム間の浮遊容量、インダクタンスLは経路全体の配線のインダクタンス、抵抗Rは経路全体の配線の抵抗成分を表している。励磁インダクタンスLm、巻線比1:1のトランスは、漏れインダクタンスを無視したコモンモードトランス11である。
【0044】
コモンモード電圧検出回路7は、非零相チョークの漏れインダクタンスLlと、コンデンサ7A,7B,7Cの和である容量C2であらわされる。
【0045】
フィードバック回路9は、電圧Veを入力し、電圧Vceを出力する電圧制御電源A#で表すことができる。
【0046】
電圧Vinvはインバータ出力のコモンモード電圧である。電流Imは、コモンモードトランスの励磁電流である。電流Icは、モータに流れるコモンモード電流である。電圧Voは、コモンモード電圧を抑制した後のコモンモード電圧である。
【0047】
インバータ4の一相がスイッチングした場合、インバータ4が出力するコモンモード電圧Vinvは、ステップ状に変化する。
【0048】
インバータ4がスイッチングされる毎に、インバータ4に出力零相電圧、すなわち、コモンモード電圧がステップ状に変化する。これにより、コモンモード電流Icは交流電動機(モータ)6の巻線とフレーム間の浮遊容量を通して接地線に流れる。
【0049】
コモンモード電圧Vinvには、零相電圧成分Vlowとスイッチング周波数以上の成分の電圧Vhiが含まれる。
【0050】
したがって、次式(1)となる。
Vinv=Vlow+Vhi・・・(1)
励磁インダクタンスLmとコンデンサ10A,10Bの合成容量C4と、コンデンサ7A,7B,7Cの和である合成容量C2とで共振回路が形成される。
【0051】
共振周波数fは、次式(2)で表される。
【0052】
【数1】
【0053】
コモンモード電圧検出回路7によって検出された電圧Vcには、漏れインダクタンスLlに起因する誤差電圧Vdを含み、式(1)を用いると次式(3)で表される。
【0054】
Vc=Vinv+Vd=Vlow+Vhi+Vd・・・(3)
電圧制御電源A#の出力Vceに従って、等価回路においては、次式(4)の関係を満たす。
【0055】
Vt=Vc+Vce-Vcap・・・(4)
電圧制御電源A#の出力Vceが漏れインダクタンスに起因する誤差電圧を補償する電圧となる。
【0056】
コモンモード電圧の大半は電圧Vcによって補償されるため、電圧Vceの振幅は電圧Vcの振幅に比べると十分小さい。よって電圧Vceの影響は無視でき、励磁電流Imは主に電圧Vcによって規定される。
【0057】
このため共振周波数fを、零相電圧周波数とスイッチング周波数の間になるように設定すると、電圧Vcapは零相電圧成分Vlowとなる次式(5)が満たされる。
【0058】
Vcap=Vlow・・・(5)
抑制後のコモンモード電圧Voは、上式(1)、式(3)、式(4)、式(5)により次式(6)で表される。
【0059】
Vo=Vinv-Vt=(Vlow+Vhi)-(Vc+Vce-Vcap)=(Vlow+Vhi)-((Vlow+Vhi+Vd)+Vce-(Vlow))=Vlow-Vd-Vce・・・(6)
電圧制御電源A#の入力Veは、式(5)を用いると次式(7)で表わされる。
【0060】
Ve=Vo-Vcap=Vo-Vlow・・・(7)
つまり、コモンモード電圧Voから零相電圧成分を除いたものとなる。
【0061】
電圧制御電源A#の入出力電圧は、次式(8)で表わされる。
Vce=GVe・・・(8)
ゲインGが十分大きい場合には、イマジナリーショートによりVeは0となる。
【0062】
従って、式(7)より次式(9)が満たされる。
Ve=0=Vo-Vlowより、Vo=Vlow・・・(9)
この時Vceは、式(6)より次式(10)として表わされる。
【0063】
Vo=Vlow=Vlow-Vd-Vceより、Vce=-Vd・・・(10)
コモンモード電圧Voには零相電圧成分のみが残留する。
【0064】
電圧制御電源A#は、零相電圧成分を基準電位として動作し、振幅の小さい残留成分のみを入出力する。
【0065】
励磁インダクタンスLmと、コンデンサ7A,7B,7Cの和である容量C2と、コンデンサ10A,10Bの合成容量C4との共振回路により、電源中点と演算増幅器の増幅基準点であるノードNAの電位は、インバータの零相電圧Vlowと等しくなる。
【0066】
残留コモンモード電圧検出回路8のコンデンサ8A〜8Cで検出された残留しているコモンモード電圧は、演算増幅器CPで反転増幅され、コモンモードトランス11に加算される。
【0067】
これらの動作により、インバータ負荷に印加されるコモンモード電圧が、インバータの零相電圧と等しくなるようにフィードバック制御が行なわれ、インバータ出力のコモンモード電圧のうちスイッチング周波数以上の成分のみがキャンセルされる。
【0068】
フィードバック制御に使用する演算増幅器の動作基準点(グラウンド)をインバータの出力コモンモード電圧の零相電圧とすることで、低耐圧、高速、安価な演算増幅器を使用することができる。
【0069】
[実施例]
上記の比較例および実施形態1のインバータのコモンモード電圧の減衰特性を評価した場合について説明する。
【0070】
インバータの電源電圧を600V、スイッチング周波数を100kHzとした。なお、交流電動機(モータ)6に負荷は接続していない。ゲインGは10に設定している。
【0071】
図4は、コモンモード電圧波形について説明する図である。
図4(A)は、比較例のコモンモード抑制回路70により抑制したコモンモード電圧である。
【0072】
図4(B)は、実施形態1に基づくコモンモード抑制回路17により抑制したコモンモード電圧である。
【0073】
なお、基準電位は、インバータ電源の中性点としている。
当該構成に示されるように、図4(A)で示される5.8V程度の振幅が、図4(B)では、0.6V程度の振幅に低減することが可能である。
【0074】
図5は、コモンモード電圧の減衰量を説明する図である。
図5に示されるように、比較例の構成では、100kHzでの減衰量は、40dBであるが、実施形態1の構成では、60dBに減衰している。20dBの減衰量の向上が見られる。
【0075】
当該図より明らかなように本実施形態1に基づくコモンモード抑制回路を用いた場合には、コモンモード電圧を抑制しコモンモード電流の低減に非常に効果的であることが分かる。
【0076】
[実施形態2]
実施形態2においては、精度の高いコモンモード抑制回路について説明する。
【0077】
上記の実施形態1においては、コモンモード電圧検出回路7のチョークコイルの漏れインダクタンスに起因するコモンモードトランス11の結合率の影響を抑制する方式について説明した。
【0078】
一方で、コモンモード電圧検出回路7の漏れインダクタンスは、交流電動機6との関係で共振周波数を生じさせる可能性もある。
【0079】
図6は、実施形態1に基づくコモンモード抑制回路17のコモンモードに対する等価回路を説明する別の図である。
【0080】
図6に示されるように、等価回路において、コモンモード電圧検出回路7のチョークコイルの漏れインダクタンスLd_leakと、交流電動機(モータ)6のモータコモンモードインダクタンスLmc、モータコモンモードキャパシタンスCmcとが設けられている場合が示されている。
【0081】
これらに基づく共振周波数は、次式(11)により算出される。
【0082】
【数2】
【0083】
図7は、一巡伝達関数のゲインおよび位相について説明する図である。
図7に示されるように、位相が−360°の場合に、ゲインが0dB以上の場合に発振する。本例においては、ゲインが20dB以上であるため発振する可能性がある。
【0084】
当該発振は、フィードバック回路9に対するノイズ源となり、残留コモンモード電圧検出回路8は、残留コモンモード電圧を精度よく検出することが難しくなる可能性がある。
【0085】
図8は、実施形態2に基づくモータ制御システム1#の構成を説明する図である。
図8を参照して、モータ制御システム1#は、モータ制御システム1と比較して電力変換装置2を電力変換装置2#に置換した点が異なる。電力変換装置2#は、電力変換装置2と比較して、コモンモード抑制回路17をコモンモード抑制回路17#に置換した点が異なる。コモンモード抑制回路17#は、コモンモード抑制回路17と比較して、ダンパ回路25をさらに設けた点で異なる。
【0086】
ダンパ回路25は、コモンモードトランス11と交流電動機(モータ)6との間に設けられる。なお、当該ダンパ回路25は、インバータ4とコモンモードトランス11との間に設けるようにしても良い。また、インバータ4の前段に設けることも可能である。
【0087】
図9は、実施形態2に基づくダンパ回路の構成を説明する図である。
図9(A)を参照して、4相コモンモードチョークコイルの例が示されている。4つの巻線比の比率は、1:1:1:1である。第4巻線に対してダンパ抵抗が1つ接続される。チョークコイルのリアクタンスは、Ldumpと、ダンパ抵抗の抵抗値は、Rdumpとする。
【0088】
図9(B)を参照して、3相コモンモードチョークコイルの例が示されている。3つの巻線比の比率は、1:1:1である。巻線に対してダンパ抵抗が1つ設けられ、それぞれの巻線に対してダンパ抵抗が並列に接続される。
【0089】
図10は、実施形態2に基づくコモンモード抑制回路17#のコモンモードに対する等価回路を説明する図である。
【0090】
図10に示されるように、等価回路において、ダンパ回路25によるリアクタンスLdumpと、ダンパ抵抗Rdumpとが互いに並列に接続されて、コモンモードトランス11と交流電動機(モータ)6との間に接続される場合が示されている。
【0091】
図11は、ダンパ回路25挿入後の共振周波数のゲインおよび位相について説明する図である。
【0092】
図11に示されるように、位相が−360°の場合に、ゲインが0d以上の場合に発振する。本例においては、ゲインが0dB未満であるため発振を抑制することが可能である。ダンパ回路25により共振周波数を下げるとともに、共振による位相変化を緩やかにすることが可能である。
【0093】
なお、一例として、ダンパ回路25のリアクタンスLdumpを300μH、ダンパ抵抗Rdumpを1kΩとした。ゲインGは10に設定した。コモンモード電圧検出回路7のチョークコイルの漏れインダクタンスLd_leakを10μH、交流電動機(モータ)6のモータコモンモードインダクタンスLmcを1μH、モータコモンモードキャパシタンスCmcを500pFとしてシミュレーションした。
【0094】
これにより、コモンモード電圧検出回路7の漏れインダクタンスに起因する共振の影響を低減して、精度の高いコモンモード抑制回路を実現することが可能である。
【0095】
[実施形態3]
実施形態3においては、さらに精度の高いコモンモード抑制回路について説明する。
【0096】
上記の実施形態2においては、コモンモード電圧検出回路7の漏れインダクタンスに起因する共振周波数を抑制する方式について説明した。
【0097】
一方で、コモンモード電圧検出回路7は、チョークコイルを用いてコモンモード電圧を検出する。
【0098】
図12は、コモンモード電圧検出回路7のコモンモード電圧の検出について説明する図である。
【0099】
図12に示されるように、コモンモード電圧検出回路7は、インバータ4から出力されるコモンモード電圧を検出する。一方で、インバータ4は高速スイッチングデバイス(一例としてスイッチング時間が100ns程度)である。コモンモード電圧検出回路7のチョークコイルは、急峻な電圧変化に追従することが難しいため当該図に示されるように、残留コモンモード電圧の原因となる可能性がある。
【0100】
図13は、実施形態3に基づくモータ制御システム1#Aの構成を説明する図である。
図13を参照して、実施形態3に基づくモータ制御システム1#Aは、モータ制御システム1#と比較して電力変換装置2#を電力変換装置2#Aに置換した点が異なる。電力変換装置2#Aは、電力変換装置2#と比較して、コモンモード抑制回路17#をコモンモード抑制回路17#Aに置換した点が異なる。コモンモード抑制回路17#Aは、コモンモード抑制回路17#と比較して、インバータ4とコモンモードトランス11との間にフィルタ回路30を設けた点で異なる。
【0101】
フィルタ回路30は、ダンパ回路32と、コンデンサ34,36,38とを含む。
ダンパ回路32は、実施形態2で説明したダンパ回路25と同様である。
【0102】
コンデンサ34,36,38の一旦側は、各相と接続され、他端側はスター結線されて接地側と接続される。
【0103】
フィルタ回路30は、高周波成分を減衰する。具体的には、コモンモード電圧の数100kHz以上の高周波成分のみを減衰させる。コモンモード電圧波形の急峻な変化を抑制し、傾き(dV/dt)を小さくする。
【0104】
これにより、インバータ4から出力される高周波成分のコモンモード電圧を抑制して、コモンモード電圧検出回路7の検出精度を向上させて、残留コモンモード電圧を抑制することが可能である。
【0105】
また、フィルタ回路30は、ダンパ回路を含むため実施形態2で説明したようにコモンモード電圧検出回路7の漏れインダクタンスに起因する共振を低減することが可能である。すなわち、さらに精度の高いコモンモード抑制回路を実現することが可能である。
【0106】
なお、本例においては、ダンパ回路32を設けた構成について説明したが、実施形態2で説明したダンパ回路25をさらに設けた構成としても良い。具体的には、インバータ4とコモンモードトランス11との間に第1のダンパ回路を設け、コモンモードトランス11と交流電動機(モータ)6との間に第2のダンパ回路を設けた構成とすることも可能である。これにより、さらに精度の高いコモンモード抑制回路を実現することが可能である。
【0107】
図14は、実施形態3の変形例に基づくモータ制御システム1#Bの構成を説明する図である。
【0108】
図14を参照して、実施形態3の変形例に基づくモータ制御システム1#Bは、モータ制御システム1#Aと比較して電力変換装置2#Aを電力変換装置2#Bに置換した点が異なる。電力変換装置2#Bは、電力変換装置2#Aと比較して、コモンモード抑制回路17#Aをコモンモード抑制回路17#Bに置換した点が異なる。コモンモード抑制回路17#Bは、コモンモード抑制回路17#Aと比較して、インバータ4とコモンモードトランス11との間に検出高速化回路40を設けた点で異なる。
【0109】
検出高速化回路40は、抵抗42,44,46と、コンデンサ46,48,50とを含む。
【0110】
抵抗42,44,46の一端側は、各相と接続され、他端側はコンデンサ46,48,50とそれぞれ接続される。コンデンサ46,48,50の一旦側は、抵抗42,44,46と直列に接続され、他端側はスター結線される。
【0111】
検出高速化回路40は、コモンモード電圧検出回路7と並列に設けられ、コモンモードトランス11の一次側コイルと接続される。
【0112】
これにより、コモンモード電圧検出回路7と並列に検出高速化回路40を設けることにより、インバータ4から出力されるコモンモード電圧の急峻な変化を検出高速化回路40により検出することが可能となり、残留コモンモード電圧を抑制することが可能である。すなわち、さらに精度の高いコモンモード抑制回路を実現することが可能である。
【0113】
[実施形態4]
図15は、実施形態4に基づく残留コモンモード電圧検出回路について説明する図である。
【0114】
図15を参照して、実施形態4に基づく残留コモンモード電圧検出回路8#は、残留コモンモード電圧検出回路8と比較して、抵抗8D〜8Fをさらに含む点で異なる。
【0115】
抵抗8Dは、コンデンサ8Aと直列に接続される。抵抗8Eは、コンデンサ8Bと直列に接続される。抵抗8Fは、コンデンサ8Cと直列に接続される。
【0116】
実施形態1においては、演算増幅器CPの入力側に抵抗R1を設ける構成について説明したが、当該抵抗を残留コモンモード電圧検出回路8#側に設けた構成である。
【0117】
各相に接続されたコンデンサと直列に抵抗を設けることによりコンデンサに流れる電流を抑制することが可能である。
【0118】
線間電圧変化時に流れる電流を大幅に減少させることが可能である。また、電流を抑制することによりノイズを低減することが可能となり、さらに精度の高いコモンモード抑制回路を実現することが可能である。
【0119】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明による電圧形PWMインバータを含む電力変換装置を交流電動機を運転するモータ制御システムに適用する場合について述べたが、適用機器としては電力用半導体素子のスイッチング時にコモンモード電圧を発生する他の電力変換装置、例えばDC−DCコンバータに対しても同様に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0121】
1,1# モータ制御システム、2,2# 電力変換装置、3,3A,3B 直流電源
4 インバータ、5 三相ケーブル、6 交流電動機、7 コモンモード電圧検出回路、8,8# 残留コモンモード電圧検出回路、17,17#,17#A,17#B コモンモード抑制回路、10,10A,10B コンデンサ、11 コモンモードトランス、25 ダンパ回路。
【要約】
電力変換装置であって、電力用半導体素子のスイッチング動作時に発生するコモンモード電圧を検出する電圧検出手段と、電圧検出手段により検出されたコモンモード電圧を電力変換装置の出力に重畳させて電力用半導体素子をスイッチング動作させる際に発生するスイッチング周波数以上のコモンモード電圧を相殺する電圧重畳手段と、電圧重畳手段により重畳された電力変換装置のコモンモード電圧を検出する残留電圧検出手段とを備える。電圧重畳手段は、残留電圧検出手段により検出されたコモンモード電圧を加算して電力変換装置の出力に重畳するためのフィードバック手段を含む。電圧検出手段は、第1のチョークコイルと、第1のコンデンサとで構成される。
図1
図2
図3
図4
図5
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図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15