(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803584
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】石炭灰造粒物の製造方法及び水底改良方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20201214BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20201214BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20201214BHJP
C09K 17/10 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
E02D3/12 103
B09B3/00 301M
B09B3/00ZAB
B09B3/00 301F
B09B3/00 301S
C09K17/02 P
C09K17/10 P
E02D3/12 102
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-143005(P2016-143005)
(22)【出願日】2016年7月21日
(65)【公開番号】特開2018-12973(P2018-12973A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 勝
(72)【発明者】
【氏名】及川 隆仁
(72)【発明者】
【氏名】中本 健二
(72)【発明者】
【氏名】杉原 聡
(72)【発明者】
【氏名】日比野 忠史
【審査官】
荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−012349(JP,A)
【文献】
特開2008−182898(JP,A)
【文献】
特開平10−025475(JP,A)
【文献】
特開2006−282866(JP,A)
【文献】
特開2004−113885(JP,A)
【文献】
特開2014−047121(JP,A)
【文献】
特開2002−020145(JP,A)
【文献】
特開2004−155918(JP,A)
【文献】
特開2015−175175(JP,A)
【文献】
特開2005−272160(JP,A)
【文献】
特開2005−104804(JP,A)
【文献】
特開平06−200249(JP,A)
【文献】
特開昭62−291316(JP,A)
【文献】
特開平10−297981(JP,A)
【文献】
特開2005−169379(JP,A)
【文献】
特開平03−252375(JP,A)
【文献】
特開2007−014872(JP,A)
【文献】
特開2012−223733(JP,A)
【文献】
特開2008−121263(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0108788(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
E02D 1/00−3/115
B09B 1/00−5/00
B09C 1/00−1/10
C09K 17/00−17/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰とセメントとを配合し、それらの混合物に加水し、加水された混合物を造粒し、その造粒物の硬化後に気中で前記造粒物を養生し、気中養生後に前記造粒物を海水に浸漬して養生する石炭灰造粒物の製造方法。
【請求項2】
前記石炭灰及び前記セメントに対して更にスラグ粉末を配合する請求項1に記載の石炭灰造粒物の製造方法。
【請求項3】
石炭灰とセメントとを配合し、それらの混合物に加水し、加水された混合物を造粒し、その造粒物の硬化後に気中で前記造粒物を養生し、気中養生後に前記造粒物を海水に浸漬して養生し、その後前記造粒物を水底に設置する水底改良方法。
【請求項4】
前記石炭灰及び前記セメントに対して更にスラグ粉末を配合する請求項3に記載の水底改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭灰造粒物の製造方法に関するとともに、その石炭灰造粒物を用いた水底改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、石炭灰とセメントと製鋼スラグとを混合し、その混合物に散水しながら造粒し、その造粒物を湿空養生することによって、透水性のある石炭灰造粒物を製造する方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、石炭灰と高炉セメントとスラグを混合して造粒することによって、養生することなく石炭灰造粒物を製造する方法が開示されている。この石炭灰造粒物は地盤材料として利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−252375号公報
【特許文献2】特開2005−169379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、石炭灰造粒物を地盤材料として用いる場合、土圧等によって石炭灰造粒物が破砕されるのを防止するべく、石炭灰造粒物の強度が要求される。
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、石炭灰造粒物の強度向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための主たる発明は、石炭灰とセメントとを配合し、それらの混合物に加水し、加水された混合物を造粒し、その造粒物の硬化後に
気中で前記造粒物を養生し、気中養生後に前記造粒物を海水に浸漬して養生する石炭灰造粒物の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、石炭灰造粒物が海水中で養生されたものであるから、石炭灰造粒物の強度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、石炭灰造粒物の製造工程を示したフローチャートである。
【
図2】
図2は、石炭灰造粒物の製造に利用するパン型造粒機を示した図面である。
【
図3】
図3は、海水中養生した石炭灰造粒物の圧縮強度と、気中養生した石炭灰造粒物の圧縮強度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているので、本発明の範囲を以下の実施形態に限定するものではない。
【0010】
1. 石炭灰造粒物
石炭灰造粒物は、石炭灰と、この石炭灰を結合したセメント水和物とを含有した混合物からなり、その混合物は粒状に形成された多孔質材料である。必要に応じてスラグ(例えば、鉄鋼スラグ、非鉄金属スラグ)が混合物に含まれてもよいが、その場合、石炭灰及びスラグがセメント水和物によって結合されている。
【0011】
この石炭灰造粒物は、石炭灰(粉体)とセメント(粉体)との混合物(この混合物には、必要に応じて、粉砕された鉄鋼スラグ粉末が混合されている。)に加水して、その加水した混合物を造粒し、その造粒物を硬化・養生して得られるものである。石炭灰造粒物の養生は、少なくとも海水中で行われる。
鉄鋼スラグ粉末を配合しない場合には、石炭灰はセメントよりも配合比が高く、鉄鋼スラグ粉末を配合する場合には、石炭灰、セメント及び鉄鋼スラグ粉末の中で石炭灰の配合比が最も高い。石炭灰の配合比が高いので、石炭灰造粒物が多孔質となる。
【0012】
1−1. 石炭灰
石炭灰造粒物に含まれる石炭灰は、石炭を燃料として用いる火力発電所において石炭の燃焼により生成されたフライアッシュである。フライアッシュは、全体の70〜80%を占めるシリカ(SiO
2)及びアルミナ(Al
2O
3)を主成分とし、その他の成分としてFe
2O
3、CaO、MgO、SO
3、Na
2O、K
2O等の酸化物を含有する。
【0013】
1−2. セメント水和物
石炭灰造粒物に含まれるセメント水和物は、セメントと水が化合することによって得られたものである。そのセメント水和物に利用されるセメントは高炉セメントであり、より具体的には、JIS R 5211によって規格されたB種高炉セメントである。なお、A種又はC種の高炉セメントが利用されてもよいし、他の種類のセメントが利用されてもよい。
ここで、JIS R 5211の規格によると、高炉セメントはA種(高炉スラグの分量が5 [質量%]を超え30[質量%]以下)とB種(高炉スラグの分量が30 [質量%]を超え60 [質量%]以下)とC種(高炉スラグの分量が60 [質量%]を超え70 [質量%]以下)に分類される。
【0014】
石炭灰造粒物にはフライアッシュが含まれていることから、フライアッシュのポゾラン反応による水和物がセメント水和物に含まれている。
【0015】
1−3. スラグ
石炭灰造粒物に含まれるスラグは鉄鋼スラグ(例えば、高炉スラグ、製鋼スラグ)であり、より具体的には脱炭スラグである。
【0016】
ここで、高炉スラグは、徐冷スラグと水冷スラグに分類され、製鋼スラグは、転炉スラグと電炉スラグと溶鉄予備処理スラグと二次精錬スラグとスロッピングスラグと鋳造スラグと混銑炉スラグに分類される。転炉スラグは、転炉で銑鉄を精錬して鋼を製造する際に生じるスラグである。電炉スラグは、電気炉でスクラップを主原料として鋼を製造する工程で生じるスラグである。溶鉄予備処理スラグは、溶鉄の各種処理(脱珪処理、脱リン処理、脱硫処理、脱硫処理、脱炭処理)をする際に生じるスラグであって、脱珪スラグと脱リンスラグと脱硫スラグと脱炭スラグに分類される。二次精錬スラグは、転炉等から出鋼した溶鋼に脱硫、脱燐、脱ガス等の処理をする場合があり、その際に生じるスラグである。スロッピングスラグは、転炉連吹錬中に炉内から飛び出し、炉下に落下したスラグである。鋳造スラグは、溶鋼を鋳型又は連続鋳造機に注入した後、溶鋼鍋に残留したスラグである。混銑炉スラグは、混銑炉から排出されたスラグである。以上に挙げた各種のスラグが、石炭灰造粒物に添加される鉄鋼スラグに利用されてもよい。
【0017】
鉄鋼スラグを配合したのは、セメントの配合比を減らして、セメントの使用量低減を図るためである。
なお、鉄鋼スラグに代えて、非鉄金属スラグ(例えば銅スラグ、フェロニッケルスラグ)が配合されてもよい。
【0018】
2. 石炭灰造粒物の製造方法
図1のフローチャートを参照して、石炭灰造粒物の製造方法について説明する。
まず、粉末状の石炭灰及びセメントを造粒機に投入するとともに、必要に応じて鉄鋼スラグの粉末も造粒機に投入する(ステップS1)。造粒機を運転させながら、更に水を造粒機に投入することによってその混合物に加水し(ステップ2)、加水された混合物を造粒する(ステップS3)。
【0019】
ステップS3の造粒工程では、造粒機の中でもパン型造粒機を用いるとよい。
図2に示すパン型造粒機1は、傾斜したパン(皿)2と、そのパン2を回転駆動する駆動機(モータ)3とを有するものである。パン型造粒機1を用いて石炭灰造粒物を製造するには、回転するパン2に石炭灰とセメントを供給し、必要に応じて鉄鋼スラグの粉末をパン2に供給し、更に水を供給する。そうすると、水の添加により核が生成され、それら核の転動によって核が成長するので、造粒物(核の成長物)が生成される。
【0020】
生成した造粒物を気中で所定期間(例えば1〜2日間)乾燥して、造粒物を硬化させる(ステップS4)。造粒物にはセメントと水が含まれていることから、セメントの水和反応が進行し、更にフライアッシュも添加されることから、セメントの水和反応の進行とともにフライアッシュのポゾラン反応も進行する。
【0021】
その後、硬化した造粒物に散水する(ステップS5)。
散水後、所定期間(例えば8〜9日間)、造粒物を気中で養生して(ステップS6)、ステップS3の造粒工程から例えば10日後に気中養生を終了する。
【0022】
気中養生後、造粒物及び海水を浴槽に投入して、造粒物を海水に浸漬する。そして、海水中で造粒物を所定期間(例えば、2〜3週間)養生し(ステップS7)、ステップS3の造粒工程から例えば4週間後に海水中養生を終了する。海水中で造粒物を養生することによって、造粒物の強度が向上する。
以上により石炭灰造粒物が完成する。
【0023】
3. 石炭灰造粒物の用途
完成した石炭灰造粒物は、水底改良材(例えば、覆砂材)として利用される。
具体的には、石炭灰造粒物を水底(例えば、湖、沼、地中海等の閉鎖性水域の水底)に被覆(覆砂)し、或いは石炭灰造粒物を水底の土砂・泥に混合し、或いは石炭灰造粒物を水底に埋設する。この方法によって閉鎖性水域の硫化水素濃度を低減させて、閉鎖性水域の水質環境を改善する。水底に設置した石炭灰造粒物は、海水中養生により高強度となっているので、破砕されにくい。
【0024】
石炭灰造粒物を水底に設置して用いることで、水中及び汚泥中の硫化物イオンが石炭灰造粒物に吸着されるとともに、石炭灰造粒物によって硫化水素が酸化され、硫黄単体が生成される。特に、石炭灰造粒物が多孔質材料であってその比表面積が大きいので、石炭灰造粒物への硫化物イオンの吸着量が多量となる。よって、水中及び汚泥中の硫化水素が低減し、長期間に渡って硫化水素濃度の上昇を抑制することができる。
【0025】
また、水底にある石炭灰造粒物の上に有機物等が堆積し、その堆積物が嫌気性の環境に晒されると、硫酸還元菌によって硫化水素が生じやすくなる。有機物等の堆積物中で生じる硫化水素も石炭灰造粒物の持つ硫化物イオン吸着性能と硫化水素の酸化性能によって除去される。よって、水中の硫化水素濃度の上昇を抑制することができる。
【0026】
なお、石炭灰造粒物を敷砂材等の地盤材料として利用してもよい。例えば、水底の浚渫により地上(特に堤防近傍)に堆積された浚渫土層上に石炭灰造粒物を敷設し、浚渫土層を石炭灰造粒物層によって被覆してもよい。或いは、埋立地に石炭灰造粒物層を敷設してもよい。
【実施例1】
【0027】
以下、実施例を参照して、海水中で養生された石炭灰造粒物が気中で養生された石炭灰造粒物よりも高強度であることについて説明する。
【0028】
試料A〜Fを作製した。具体的には、以下の表1に示す配合比の粉体に加水して、その混合物を造粒機によって造粒した。実施例の試料A,C,Eについては、気中で1〜2日間硬化させた後、それに散水した上で気中において養生し、造粒工程から10日後に海水に浸漬し、造粒工程から4週間後に海水から取り出して、海水中養生を終了した。比較例の試料B,D,Fについては、気中で1〜2日間硬化させた後、それに散水した上で気中において養生し、その養生期間中、造粒工程から10日後及び20日後に散水し、造粒工程から4週間後に養生を終了した。
【0029】
【表1】
【0030】
作製した試料A〜Fの圧縮試験を行い、試料A〜Fの圧縮強度を測定した。その測定結果を表2及び
図3に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
試料Aと試料Bは同じ配合比でありながら、海水中で養生した試料Aは海水中で養生しなかった試料Bよりも強度が高いことが分かる。同様に、海水中で養生した試料C,Eは海水中で養生しなかった試料D,Fよりも強度が高い。
【0033】
また、試料C〜Fは脱炭スラグを配合したものであるが、脱炭スラグを配合していない試料A、Bと比較すると、海水中で養生した試料C,Eは試料Aよりも圧縮強度が低いが、従来から水底改良材として使用された試料Bと同程度の圧縮強度を有することが分かる。また、海水中で養生しなかった試料D,Fは、試料A,Bよりも圧縮強度が低いことがわかる。よって、脱炭スラグの配合によって石炭灰造粒物のセメント配合比を減らすことができるが、圧縮強度も低下してしまうところ、その低下分を海水中養生によって補うことができる。
【符号の説明】
【0034】
1…パン型造粒機, 2…パン, 3…駆動機