特許第6803728号(P6803728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6803728
(24)【登録日】2020年12月3日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】残留応力算出方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/00 20060101AFI20201214BHJP
【FI】
   G01L1/00 D
   G01L1/00 B
【請求項の数】15
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-222945(P2016-222945)
(22)【出願日】2016年11月16日
(65)【公開番号】特開2017-111122(P2017-111122A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2019年11月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-243991(P2015-243991)
(32)【優先日】2015年12月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】藤井 靖久
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 修幸
【審査官】 森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5356894(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0219444(US,A1)
【文献】 特許第5109285(JP,B2)
【文献】 特許第6276682(JP,B2)
【文献】 特許第3241658(JP,B2)
【文献】 特許第3824522(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L1
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品の所定の位置を所定の方向にレーザ光を用いたアブレーションにより穿孔したときの表面の歪み量の変化を測定することで、前記樹脂成形品の内部の前記所定の方向における所定の位置での残留応力を算出することを特徴とする残留応力算出方法。
【請求項2】
前記所定の位置は、前記樹脂成形品の表面において外部からレーザ光が到達可能な位置であることを特徴とする請求項1に記載の残留応力算出方法。
【請求項3】
前記所定の位置は、ドリルを含む機械的手段による穿孔が困難な機械穿孔困難部位にあることを特徴とする請求項2に記載の残留応力算出方法。
【請求項4】
前記機械穿孔困難部位は、前記樹脂成形品の表面に含まれる複数の平面が交わる稜又は頂点であることを特徴とする請求項3に記載の残留応力算出方法。
【請求項5】
前記機械穿孔困難部位は、前記機械的手段が到達できない位置であることを特徴とする請求項3に記載の残留応力算出方法。
【請求項6】
前記樹脂成形品は、ドリルによる穿孔が困難なサイズであることを特徴とする請求項2に記載の残留応力算出方法。
【請求項7】
前記樹脂成形品は、前記所定の位置における肉厚が1mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の残留応力算出方法。
【請求項8】
前記樹脂成形品に穿孔した径が100μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の残留応力算出方法。
【請求項9】
前記レーザ光は、パルス幅が10ピコ秒以下のパルスレーザであることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の残留応力算出方法。
【請求項10】
前記樹脂成形品は、着色剤を含まない樹脂によって成形されたことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の残留応力算出方法。
【請求項11】
前記所定の位置に前記所定の方向に第一穿孔深さの穿孔部を有する前記樹脂成形品に発生する第一応力を取得する工程と、
前記所定の位置に前記所定の方向にレーザ光を用いて前記穿孔部を前記第一穿孔深さから第二穿孔深さまで穿孔し、前記第二穿孔深さを有する前記樹脂成形品の表面の第二歪み量を測定し、前記第二歪み量から前記樹脂成形品に発生する第二応力を測定する工程と、
前記第二応力から前記第一応力を差し引くことにより得られる差分を、前記第一穿孔深さと前記第二穿孔深さとの中間深さにおける残留応力として算出する残留応力算出工程と、
を備えることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の残留応力算出方法。
【請求項12】
前記第一応力を取得する工程は、前記樹脂成形品の表面の第一歪み量を測定し、前記第一歪み量から前記樹脂成形品に発生する前記第一応力を測定することを特徴とする請求項11に記載の残留応力算出方法。
【請求項13】
前記第一歪み量及び/又は前記第二歪み量は、歪みゲージによって測定することを特徴とする請求項12に記載の残留応力算出方法。
【請求項14】
前記第一穿孔深さは、0以上であることを特徴とする請求項11から13のいずれか一項に記載の残留応力算出方法。
【請求項15】
前記歪み量の測定を、前記樹脂成形品の表面の変形をもとにした画像解析により行うことを特徴とする請求項11から14のいずれか一項に記載の残留応力算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いて樹脂成形品の内部の残留応力を算出する残留応力算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体内部の残留応力を測定する技術が提供されている。例えば、表面の注目点で物体の深さ方向に素材を除去して物体内部の応力をX線で測定するとともに、注目点の近傍表面の素材除去をしていない近傍点において素材除去に起因する応力変化量をX線で測定して開放された内部力を推定し、推定された内部力に因る応力値を物体内部の測定値に加算することにより残留応力値を得る技術が提供されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、樹脂成形品の表面に穿孔部と歪み測定部とを設け、ドリルで穿孔部を第一穿孔深さに穿孔したときに歪み測定部で第一応力を測定し、ドリルで穿孔部を第二穿孔深さまでさらに穿孔したときに歪み測定部で第二応力を測定し、第二応力から第一応力を差し引いた差分を第一深さと第二深さの中間の深さにおける残留応力として算出する技術が提供されている(特許文献2参照)。
【0004】
一方、従来、レーザパルスビームを利用して材料をアブレーションにより加工する技術が提供されている。例えば、10フェムト秒から10ピコ秒の範囲にあるパルス幅で1つ以上のパルスからなるビームを用い、控えめなエネルギー量で高い強度とし、スポットサイズを小さくすることにより、隣接部域の損傷を低減する技術が提供されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−264777号公報
【特許文献2】特開2010−243335号公報
【特許文献3】特開2002−205179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術を用いて樹脂成形品の内部残留応力を測定しようとすると、前記特許文献1の技術では物体内部の応力をX線で測定できるように深さ方向に所定の大きさで素材を除去する必要があり、前記特許文献2の技術ではドリルを用いて穿孔する必要があった。このため、樹脂成形品の形状や部位あるいはサイズによっては、物体の内部の応力をX線で測定することが困難であったり、穿孔部にドリルで穿孔することが困難であったりすることがあった。
【0007】
この発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、樹脂成形品の表面における所望の位置で所望の方向に内部の残留応力を算出することができるような残留応力算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、この出願に係る残留応力算出方法は、樹脂成形品の所定の位置を所定の方向にレーザ光を用いて穿孔したときの表面の歪み量の変化を測定することで、前記樹脂成形品の内部の前記所定の方向における所定の位置での残留応力を算出する。前記所定の位置は、前記樹脂成形品の表面において外部からレーザ光が到達可能な位置であることが好ましい。
【0009】
前記所定の位置は、ドリルを含む機械的手段による穿孔が困難な機械穿孔困難部位にあることが好ましい。前記機械穿孔困難部位は、前記樹脂成形品の表面に含まれる複数の平面が交わる稜又は頂点であることが好ましい。前記機械穿孔困難部位は、前記機械的手段が到達できない位置であることが好ましい。
【0010】
前記樹脂成形品は、ドリルによる穿孔が困難なサイズであることが好ましい。前記樹脂成形品は、前記所定の位置における肉厚が1mm以下であることが好ましい。前記樹脂成形品に穿孔した径が100μm以下であることが好ましい。
【0011】
前記レーザ光は、パルス幅が10ピコ秒以下のパルスレーザであることが好ましい。前記樹脂成形品は、着色剤を含まない樹脂によって成形されたことが好ましい。
【0012】
前記所定の位置に前記所定の方向に第一穿孔深さの穿孔部を有する前記樹脂成形品に発生する第一応力を取得する工程と、前記所定の位置に前記所定の方向にレーザ光を用いて前記穿孔部を前記第一穿孔深さから第二穿孔深さまで穿孔し、前記第二穿孔深さを有する前記樹脂成形品の表面の第二歪み量を測定し、前記第二歪み量から前記樹脂成形品に発生する第二応力を測定する工程と、前記第二応力から前記第一応力を差し引くことにより得られる差分を、前記第一穿孔深さと前記第二穿孔深さとの中間深さにおける残留応力として算出する残留応力算出工程と、を備えることが好ましい。
【0013】
前記第一応力を取得する工程は、前記樹脂成形品の表面の第一歪み量を測定し、前記第一歪み量から前記樹脂成形品に発生する前記第一応力を測定することが好ましい。前記第一歪み量及び/又は前記第二歪み量は、歪みゲージによって測定することが好ましい。
【0014】
前記第一穿孔深さは、0以上であることが好ましい。前記歪み量の測定を、前記樹脂成形品の表面の変形をもとにした画像解析により行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、樹脂成形品の形状や部位あるいはサイズにかかわらず、樹脂成形品の表面における所望の位置で所望の方向の内部の残留応力を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、z方向に延びる所定の厚みを有する樹脂成形品において、残留応力を測定する方向に垂直な面を示す平面図である。
図2図2は、第一残留応力を導出するまでを示す樹脂成形品の側面断面図である。
図3図3は、第二残留応力測定後から第三残留応力導出までを示す樹脂成形品の側面断面図である。
図4図4は、第(n−1)残留応力測定後から第(n−1)残留応力導出までを示す樹脂成形品の側面断面図である。
図5図5は、第一の残留応力から第(n−1)の残留応力までの測定結果をもとに作成した残留応力分布を示す図である。
図6図6は、第一変形例の樹脂成形品を示す斜視図である。
図7図7は、第二変形例の樹脂成形品を示す斜視図である。
図8図8は、レーザ光により樹脂に形成した穿孔を示す写真である。
図9図9は、レーザ光のパルス幅を変えて樹脂を加工した結果を示す写真である。
図10図10は、実施例3の樹脂成型品を示す図である。
図11図11は、レーザ光の照射による穿孔の深さと歪みとの関係を示すグラフである。
図12図12は、ドリルにより形成した穿孔の深さと歪みとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
本実施の形態では、樹脂成形品をレーザ光で穿孔することで生じる、成形品表面の歪み変化を測定することで、樹脂成形品内部の所定の位置での残留応力を算出する。また、複数の位置での残留応力を算出することで残留応力分布を導出する。以下では、先ず、穿孔に用いるレーザ光と樹脂成形品とについて説明する。
【0019】
<レーザ光>
本実施の形態のレーザ光は、樹脂成形品に所定径の穿孔を形成することができるものであればよいが、樹脂成形品の残留応力を正確に測定するために、穿孔による熱影響を低減することが望ましい。このため、本実施の形態では、アブレーションによる物理的な剥離によって穿孔を形成することができる短パルスレーザ光を使用している。
【0020】
本実施の形態では、短パルスレーザ光のパルス幅は、10フェムト秒(fs)から10ピコ秒(ps)の範囲とすることができる。パルスエネルギーは、10nJから1mJの範囲とすることができる。波長は、200nmから2μmの範囲とすることができる。ビーム径は、100μm以下とすることができる。レーザ発生源には、チタン添加サファイア結晶、ネオジウム添加イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶、イッテルビウム添加イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶、イッテルビウム添加カリウム・ガドリニウム・タングステン結晶、イッテルビウム添加カリウム・イットリウム・タングステン結晶、エルビウム添加光ファイバ、または、イッテルビウム添加ファイバなどをレーザ媒体として使用することができる。
【0021】
このようなレーザ光を使用することにより、樹脂成形品において、外部からレーザ光が到達することができる表面において、所望の位置に所望の方向に穿孔を形成することができる。したがって、樹脂加工品においてドリルや旋盤などの従来の機械的手段によっては穿孔が困難であった部位(以下、機械穿孔困難部位という)であっても、レーザ光を照射することによって容易に加工することができる。
【0022】
この機械穿孔困難部位には、樹脂成形品の表面に含まれる複数の平面が交わる稜又は頂点、樹脂成形品において機械的手段が到達できない部位、穿孔部において肉厚が小さい樹脂成形品の部位が含まれる。また、レーザ光により、機械的手段による穿孔が困難なサイズの樹脂成形品、穿孔部の径が小さい樹脂成形品なども容易に加工することができる。
【0023】
また、本実施の形態では、レーザ光のアブレーションにより穿孔を形成するために、対象とする材料に関わらず高い精度で穿孔を形成することができる。また、肉厚が小さい樹脂成形品に対しても、段階的な穿孔深さで穿孔を形成することができる。
【0024】
さらに、短パルスのレーザ光を使用することにより、例えば、着色剤を含まない無着色の樹脂成形品に対しても、穿孔を形成することができる。
【0025】
<樹脂成形品>
本実施の形態の樹脂成形品は、レーザ光を用いて表面の穿孔部に穿孔を形成できるように、ビーム径より実質的に大きなサイズを有し、レーザ光により穿孔が形成できるような性質を有する材料で形成されていればよい。また、樹脂成形品は、表面において穿孔による応力の変化が測定できるように、少なくとも穿孔部の近傍で画定した表面を有するものであればよい。
【0026】
以下では、説明の便宜上、樹脂成形品は、所定の厚みを有し、厚み方向に垂直な面に樹脂成形品をレーザ光で厚み方向に穿孔するための穿孔部と、この穿孔によって樹脂成形品内部の応力が開放されることにより生じる歪みを測定するための歪み測定部とを設けるものとする。
【0027】
本実施の形態は、樹脂成形品が結晶性熱可塑性樹脂の射出成形品の場合において特に効果的である。射出成形品の成形の際には、一般に成形品表面付近では冷却が速く進み、内部では比較的冷却がゆっくり進むため、金型内に注入された溶融樹脂の固化が不均一に進行する。その結果、内部では表層に引っ張られるため引張応力が発生し、表層では内部に引っ張られるため圧縮応力が発生する。実際の樹脂成形品における応力分布は、成形品の形状や成形条件等によって応力分布は必ずしもはっきりした圧縮−引張の関係になるわけではない。本実施の形態では、応力の種類や分布状態がどのようになっているのか、樹脂成形品内部の所定の領域での残留応力分布、ならびに樹脂成形品内部の所定の位置での残留応力を求めることができる。
【0028】
本実施の形態に用いる樹脂成形品は、所定の厚みを有する。本実施の形態は、樹脂成形品内部の上記所定の厚みの方向での所定の位置での残留応力、及び厚み方向での所定の領域での残留応力分布を求める。どのような樹脂成形品であっても、全ての方向に所定の厚みを持つが、厚みの方向の決め方は特に限定されず、樹脂成形品内の所望の方向を上記厚み方向に設定することができる。
【0029】
図1は、z方向に延びる所定の厚みを有する樹脂成形品の、残留応力を測定する方向に垂直な面を示す平面図である。本発明に用いる樹脂成形品は、図1(a)に示すように、厚み方向に垂直な面に、樹脂成形品をレーザ光で厚み方向に穿孔するための穿孔部と、穿孔したときにこの厚み方向に垂直な面に発生する歪みを測定するための歪み測定部とを設ける。
【0030】
穿孔部は、上記垂直な面の中央部に設けられている。穿孔部は、穿孔部を有する上記垂直な面から厚み方向(z方向)に穿孔される。穿孔部は、図1に円で表しているが、特に目印となるような模様等をつける必要はない。また、穿孔部は、上記垂直な面の中央部に設ける必要はなく、所望の位置に設けることができる。
【0031】
歪み測定部は、上記穿孔部の周囲に三箇所設けられている。上記穿孔部が、レーザ光で厚み方向に穿孔された際に、穿孔によって開放される応力により発生する歪みの量を測定する。また、歪み測定部の数は特に限定されず、単数の歪み測定部であってもよいし、複数の歪み測定部を設けてもよい。穿孔部と歪み測定部との位置関係は、特に限定されないが異方的な残留応力を定量的に、最大主応力の値と方向、及び最小主応力の値と方向を評価できるという理由から、穿孔部を3箇所の歪み測定部で囲うことが好ましい。
【0032】
樹脂成形品の所定の厚みは後述する通り、穿孔径の1.2倍以下であることが好ましい。得られる残留応力がより正確になるからである。また、従来の方法では、厚みが3軸ロゼットタイプ歪みゲージ半径の1.2倍以下のような薄い樹脂成形品の厚み方向の残留応力を測定することはASTMでの保障範囲外であり、実質上困難であった。本実施の形態によれば、上記のような非常に薄い厚みの樹脂成形品であっても、厚み方向の残留応力を算出できる。
【0033】
後述する通り、樹脂成形品の厚みを所定の厚み以下にすることで、得られる残留応力の値は、より正確なものになる。厚み方向(z方向)に対称な形状を有し、厚み方向の長さがLzの樹脂成形品であれば、(1/2)Lzまでの残留応力分布を求めれば、Lzまでの残留応力分布を求めることができる。樹脂成形品が厚み方向(z方向)に対称な形状であれば、残留応力分布もz方向に対称になるためである。
【0034】
本実施の形態で使用する樹脂成形品に含まれる樹脂は、特に限定されず、従来公知の一般的な樹脂を用いることができる。また、樹脂成形品には、複数の樹脂が含まれていてもよい。また、樹脂成形品には、ガラスファイバー等の強化材、タルク等の無機フィラー、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した組成物を成形してなる樹脂成形品も含まれる。このように、本実施の形態は、樹脂材料の種類によらず適用することができるため、候補となる複数の樹脂材料の中から適切な材料を選択する場合に好ましく用いることができる。また、樹脂材料によらず同じ方法で残留応力を算出し比較することで、残留応力の使用材料による程度の差をより正確に評価することができる。
【0035】
樹脂成形品は、どのような成形法で成形されていても、どのような使用履歴のものであっても良いが、残留応力が発生しやすい射出成形法により成形されたものにおいて、特に効果的である。また、本発明に用いる樹脂成形品は、所望の条件で成形することができる。
【0036】
表面に穿孔部と歪みを測定できるところがあれば、単一の樹脂で作成されたものでも、複数の樹脂もしくは樹脂と他材質とで積層されていても複合化されていても構わない。平面状、湾曲状、屈折状等が組み合わさったどのような形状であっても構わない。
【0037】
<残留応力算出方法>
本実施の形態の残留応力算出方法は、穿孔部をレーザ光で厚み方向に、所定の第一穿孔深さまで穿孔したときの、樹脂成形品の歪み量を測定し、得られた歪み量から上記穿孔により樹脂成形品に発生する第一応力を測定する第一応力測定工程と、穿孔部を厚み方向に、所定の第二穿孔深さまで穿孔したときの、樹脂成形品の歪み量を測定し、得られた歪み量からこの穿孔により樹脂成形品に発生する第二応力を測定する第二応力測定工程と、第二応力から第一応力を差し引くことにより得られる差分を、第一穿孔深さと第二穿孔深さとの中間深さにおける残留応力として算出する残留応力算出工程と、を備えている。
【0038】
[第一応力測定工程]
第一応力測定工程は、全く穿孔しない場合も含む。全く穿孔しない場合には、第一穿孔深さは0になる。すなわち、第一穿孔深さは0以上である。全く穿孔しない場合には、歪み量(δr1)も0になり、穿孔により樹脂成形品から開放される応力も0になるので、第一応力は0になる。以下、第一穿孔深さzが0の場合について説明する。なお、第一穿孔深さzが0でない場合には、以下の第二応力測定工程のようにして得られる応力が第一応力になる。
【0039】
[第二応力測定工程]
第二応力測定工程では、穿孔部を厚み方向に、所定の第二穿孔深さまで穿孔したときの、樹脂成形品の歪み量を歪み測定部で測定し、得られた歪み量から上記穿孔により樹脂成形品に発生する第二応力を測定する。以下、図を用いて第二応力測定工程を詳細に説明する。
【0040】
図2(a)には、穿孔前の樹脂成形品を示す。樹脂成形品1はz方向に長さLz、x−y断面が半径Rの円柱状の場合である。樹脂成形品1の上端面11は、図1(b)に示すようになっている。上端面11は、図1に示すように半径Rの円形になっている。また、上端面11には穿孔部111と歪みゲージ112、112、112が設けられている。
【0041】
穿孔部111は、図1(b)に示すように、半径rの円形であり、上端面11の中央部に設けられる。穿孔部111は、後述する通り、厚み方向(z方向)に穿孔される部分である。穿孔部111の径は、穿孔を形成するレーザ光のビーム径によって規定される。なお、穿孔部111は、このレーザ光を用いて所望の形状、大きさに適宜変更して実施することもできる。
【0042】
歪みゲージ112、112、112は、図1(b)に示すように、穿孔部111の周囲に90°、135°、135°の間隔で設けられる。歪みゲージ112、112、112は、上記穿孔部111をレーザ光で厚み方向(z方向)に穿孔した際に生じる、上端面11の穿孔部111を除いた部分((R−r)の部分)の歪み量を測定するための部位である((R−r)を「歪み量を測定する部分」という場合がある)。歪みゲージ112、112、112は、実施形態において歪み測定部にあたる。歪み測定部は、上記のような歪みゲージに限定されず、穿孔部111を穿孔した際に生じる上端面11の歪み量を測定できるものであればよい。例えば、樹脂成形品表面の変形を画像解析することにより歪み量を算出するコリレーションシステム等を用いる間接的に歪み量を測定する方法であってもよい。また、歪み量を測定する位置が平坦でない場合には、歪み量の測定を従来公知の三次元画像解析方法により行うことができる。例えばコリレーションシステムでは、2台の撮像装置を組み合わせることで、3次元測定が可能である。
【0043】
図2(b)には、所定の第二穿孔深さまで穿孔したときの樹脂成形品の断面図を示す。図2(b)に示すように穿孔部111をレーザ光で厚み方向(z方向)に深さzだけ穿孔する。
【0044】
この穿孔により、歪み量を測定する部分(R−r)は、図2(b)に示すように(R−r+δr2)になりδr2だけ歪む。この歪み量は、上記歪みゲージ112、112、112を用いて測定する。ここで、測定した歪み量は従来公知の方法で応力に変換することができる。即ち、穿孔部111を厚み方向(z方向)に深さz穿孔した際に、樹脂成形品から開放される樹脂成形品の内部応力を求めることができる。ここで得られる応力が第二応力である。
【0045】
[残留応力算出工程]
残留応力算出工程では、上記第二応力から0(上記第一応力)を差し引くことにより得られる差分を、上記穿孔部と上記第一穿孔深さとの中間深さにおける残留応力として算出する。ここでの残留応力を第一の残留応力という場合がある。
【0046】
本実施の形態によれば、第一穿孔深さと第二穿孔深さとを調整することで所望の深さにおける残留応力を求めることができる。即ち、樹脂成形品内の所望の位置での残留応力を求めることができる。また、同じ深さにおける残留応力を求める場合であっても、第一穿孔深さと第二穿孔深さとの間の距離を調整することで、求まる残留応力の精度を調整することができる。また、第一穿孔深さと第二穿孔深さとの距離が短い方が、求まる残留応力の正確性が高まる。例えば、zを調整することで、所望の位置での残留応力を求めることができる。また、zが短い方が、第二穿孔深さと第一穿孔深さの差が小さくなり、求まる残留応力の正確性が高まる。特に本実施の形態の残留応力算出方法は、樹脂成形品1の厚み方向の長さLzが短い方が、厚み方向(z方向)全ての位置で、より正確に残留応力を測定することができる。厚みが薄ければ、穿孔される部分と歪み量測定部との位置が近く、正確に歪み量を測定でき、その歪み量から得られる応力もより正確になるからである。即ち、本実施の形態の残留応力算出方法は、残留応力の測定方向の厚みが薄いものに適用することが好ましい。具体的には、厚み方向(z方向)の長さLzは、穿孔する孔径の1.2倍以下であることが好ましい。
【0047】
また、厚みが、大きいものであっても樹脂成形品が厚み方向(z方向)に対称な形状であれば、得られる残留応力の算出結果は、より正確な結果になる。上述の通り、樹脂成形品が厚み方向(z方向)に対称な形状であれば、残留応力分布も厚み方向(z方向)に対称になるためである。
【0048】
<残留応力分布導出方法>
本実施の形態の残留応力分布導出方法は、上記残留応力算出方法に続けて行う発明である。そこで、本実施の形態の残留応力分布導出方法について、上記残留応力算出方法での説明に続けて、以下詳細に説明する。
【0049】
本実施の形態の残留応力分布導出方法は、上記残留応力算出方法により得られる第一残留応力を算出した後に、上記第二穿孔深さzから所定の第三穿孔深さzまでレーザ光でさらに穿孔し、上記残留応力算出方法での第二応力測定工程と同様にして、上記樹脂成形品に発生する第三応力を測定する第三応力測定工程と、上記第三応力から上記第二応力を差し引くことにより得られる差分を、第二穿孔深さzと第三穿孔深さzとの中間深さにおける第二残留応力として算出する第二残留応力算出工程と、を備えている。さらに、第三残留応力以降は、符号nを4以上の自然数として、第(n−1)穿孔深さから所定の第n穿孔深さzまでさらにレーザ光で穿孔し、上記第二応力測定工程と同様にして、上記樹脂成形品に発生する第n応力を測定する第n応力測定工程と、第n応力から第(n−1)応力を差し引くことにより得られる差分を、第(n−1)穿孔深さz(n−1)と前記第n穿孔深さzとの中間深さにおける第(n−1)残留応力として算出する第n残留応力算出工程を備えている。なお、第一残留応力算出工程から第(n−1)残留応力算出工程を順次行う。
【0050】
[第三応力測定工程]
第三応力測定工程では、上記第二応力測定工程後に、上記第二穿孔深さzから所定の第三穿孔深さまでさらにレーザ光で穿孔し、第二応力測定工程と同様にして、樹脂成形品に発生する第三応力を測定する。以下に図を用いて第三応力測定工程について詳細に説明する。
【0051】
第三応力測定工程では、図3(a)に示すように深さzまで穿孔した部分をさらに厚み方向(z方向)に所定の深さまでレーザ光で穿孔する。穿孔後の穿孔深さが第三穿孔深さであり、図3(a)に示すように、第三穿孔深さをzとする。
【0052】
図3(a)に示すように、この第三応力測定工程における穿孔により、第二応力を測定する際の歪み量δr2に加えて、さらにδr3だけ歪む。歪み量の測定は、第二応力測定工程と同様の方法で行うことができる。さらに、第二応力測定工程と同様の方法で、この第三応力測定工程での穿孔によって樹脂成形品から開放される応力を測定することができる。ここで得られる応力が第三応力である。
【0053】
[第二残留応力算出工程]
第二残留応力算出工程では、上記第三応力から上記第二応力を差し引くことにより得られる差分を、第二穿孔深さzと第三穿孔深さzとの中間深さにおける残留応力(第二残留応力)として算出する。上記第一残留応力は、厚み方向(z方向)の深さz/2での残留応力であり、第二残留応力は、厚み方向(z方向)の深さ(z+(z−z)/2)での残留応力である。第二残留応力は、上記残留応力と同様にz、zの深さを調整することにより所望の位置での残留応力として求めることができる。このように、本実施の形態の残留応力算出方法を用いることで、樹脂成形品1の厚み方向(z方向)の所望の2箇所での残留応力が求まる結果、厚み方向の残留応力の分布を得ることができる。後述するように二箇所以上の点で残留応力を求めることにより、さらに詳細な残留応力分布を導出することができる。
【0054】
[第n応力測定工程]
第n応力測定工程とは、第四応力以降を測定する工程であり、符号nを4以上の自然数として、第(n−1)穿孔深さz(n−1)から所定の第n穿孔深さzまでさらにレーザ光で穿孔し、上記第二応力測定工程と同様にして、上記樹脂成形品から開放される第n応力を測定する工程である。
【0055】
第n応力測定工程について、具体例を用いて説明する。符号n=4の場合を考えると、第n応力測定工程は、第四応力測定工程になる。この場合、第(n−1)穿孔深さz(n−1)は、第三穿孔深さzになり、第n穿孔深さzは第四穿孔深さzになる。即ち、第四応力測定工程では、上記残留応力算出方法により得られる第二残留応力を算出した後に、上記第三穿孔深さzから所定の第四穿孔深さzまでさらにレーザ光で穿孔し、上記残留応力算出方法での第二応力測定工程と同様にして、上記樹脂成形品から開放される第四応力を測定する。第二残留応力の算出の後、樹脂成形品1は図3(a)に示すようになっている。図3(b)に示すように、深さzまで穿孔した部分をさらに厚み方向(z方向)に所定の深さまでレーザ光で穿孔する。穿孔後の穿孔深さが第四穿孔深さであり、図3(b)に示すように、第四穿孔深さをzとする。
【0056】
図3(b)に示すように、この第四応力測定工程における穿孔により、第三応力を測定する際の歪み量δr2+δr3に加えて、さらにδr4だけ歪む。この歪み量の測定は、第二応力測定工程と同様の方法で行うことができる。さらに、第二応力測定工程と同様の方法で、この第四応力測定工程での穿孔によって樹脂成形品1に発生する応力を測定することができる。ここで得られる応力が第四応力である。
【0057】
次いで、第n応力測定工程について、自然数nの場合について説明する。図4(a)には、樹脂成形品1を厚み方向に第(n−1)穿孔深さz(n−1)までレーザ光で穿孔し、第(n−2)残留応力を求めたときの樹脂成形品1の断面図を示す。本工程では、図4(a)に示す深さz(n−1)まで穿孔した部分をさらに厚み方向(z方向)に所定の深さまで穿孔する。図4(b)に示すように、穿孔後の穿孔深さが第n穿孔深さzである。
【0058】
図4(b)に示すように、この第n応力測定工程における穿孔により、第(n−1)応力を測定後の図4(a)に示す総歪み量に加えて、さらにδrnだけ歪む。この歪み量の測定は、第二応力測定工程と同様の方法で行うことができる。さらに、第二応力測定工程と同様の方法で、この第n応力測定工程での穿孔によって樹脂成形品1に発生する応力を測定することができる。ここで得られる応力が第n応力である。
【0059】
[第(n−1)残留応力算出工程]
第(n−1)残留応力算出工程では、第三残留応力以降の残留応力を求める工程である。より具体的には、符号nを4以上の自然数として、第n応力から第(n−1)応力を差し引くことにより得られる差分を、第(n−1)穿孔深さz(n−1)と第n穿孔深さzとの間の中間深さにおける残留応力として第(n−1)残留応力を算出する。
【0060】
第(n−1)残留応力算出工程について、具体例を用いて説明する。符号nが4の場合を考えると、第(n−1)残留応力算出工程は、第三残留応力算出工程になる。この場合、第(n−1)応力は第三応力になり、第n応力は第四応力になる。また、第(n−1)穿孔深さz(n−1)は第三穿孔深さzになり、第n穿孔深さzは第四穿孔深さzになる。したがって、第四応力から第三応力を差し引くことにより得られる差分を、第三穿孔深さzと第四穿孔深さzとの間の中間深さにおける第三残留応力として算出することができる。
【0061】
次いで、第(n−1)残留応力算出工程について、符号nが自然数nの場合について説明する。本工程で算出される第(n−1)残留応力は、第n応力と第(n−1)応力を差し引くことにより得られる差分として求めることができる。この差分が、第(n−1)穿孔深さz(n−1)と第n穿孔深さzとの間の中間深さにおける残留応力である。図4(b)に示すように、「第(n−1)穿孔深さz(n−1)と第n穿孔深さzとの間の中間の位置」とは、((z−z(n−1))/2+z(n−1))である。このように最初の残留応力算出工程から第(n−1)残留応力算出工程までを順次行うことで、樹脂成形品の厚み方向(z方向)の詳細な残留応力分布を得ることができる。
【0062】
図5に第一残留応力から第(n−1)残留応力までの測定結果をもとに作成した残留応力分布を示す。図5中において、第一応力を0、第二応力をF、第三応力をF、第(n−1)応力をF(n−1)、第n応力をFとし、最初の残留応力をσ、第二残留応力をσ、第三残留応力をσ、第(n−1)残留応力をσ(n−1)とする。
【0063】
図5に示すように、樹脂成形品1が射出成形品の場合には、表層付近の残留応力σは、圧縮応力になり、樹脂成形品の内部の残留応力であるσ、σ、σ(n−1)は、引張応力である。より適切な残留応力分布をより容易に得るためには残留応力を、厚み方向に等しい間隔で導出することが好ましい。また、適切な残留応力分布を求めるために必要となる残留応力の数は、特に限定されず、樹脂成形品の形状、使用材料等により異なるが、一般的には、所定の厚み方向に5箇所以上の残留応力を求めることで、正確な所定の厚み方向の残留応力分布を得ることができる。
【0064】
樹脂成形品の形状が厚み方向に対称な形状であれば、Lz/2までの残留応力分布を導出することで、厚み方向(z方向)全体の残留応力分布を導出することができる。樹脂成形品が厚み方向(z方向)に対称な形状であれば、残留応力分布もz方向に対称になるためである。
【0065】
<成形材料の検討>
実施形態発明の残留応力分布算出方法により導出される残留応力分布を用いれば、任意の樹脂材料を成形してなる樹脂成形品において、樹脂成形品内の所定の領域での残留応力分布を導出できる。さらに異方性のある材料を成形してなる樹脂成形品においても3方向の歪みを算出することで、残留応力の異方性を定量的に評価できる。樹脂成形品は、着色剤を含む着色品であっても、着色剤を含まない無着色品であってもよい。
【0066】
<成形条件の検討>
本実施の形態の残留応力分布導出方法により導出される残留応力分布を用いれば、好ましい射出成形の条件を容易に決定することができる。即ち、実施形態発明を用いることで残留応力の少ない成形条件を容易に決定することができる。検討する成形条件は、樹脂成形品内部の残留応力に影響を与えるものが好ましい。樹脂成形品内部の残留応力に影響を与える成形条件としては、射出速度、金型温度等が挙げられる。
【0067】
<成形品の形状の検討>
射出成形は、複雑な形状の成形品を作製する際に好適な成形方法である。このため、複雑な形状の射出成形品は多く存在する。複雑な形状を持つ場合、複雑な形状の部分は、他の部分と残留応力分布が異なる。本実施の形態は、残留応力分布の測定方向を様々な方向に設定することができるため、複雑な形状の部分と、それ以外の部分とを分けて残留応力分布を導出したり、成形品厚みによる残留応力分布の差を求めたりすることができる。したがって、本実施の形態は成形品の設計等の形状を検討する段階でも有用で、上記射出成形条件の検討と併せて、所望の材料のデータを組み合わせることで残留応力の予測技術としての利用が可能である。既存の成形品に関しても、残留応力の小さい樹脂成形品を容易に作製することができるとともに、成形品の故障解析における活用も可能である。
【0068】
ここでいう二次加工とは、樹脂成形品内部の残留応力を緩和するための加工である。樹脂成形品内部の残留応力を緩和するための方法として、アニーリング処理が挙げられる。従来、このアニーリング処理の効果の有用性を定量的に評価することができなかった。しかし、本実施の形態を用いて、アニーリング処理前後の樹脂成形品内部の残留応力分布を導出することで、アニーリング処理による残留応力の変化を確認することができる。その結果、本実施の形態によれば、アニーリング処理の効果の有用性を定量的に評価することができ、さらに、アニーリング処理の際の好ましい処理条件も容易に決定することができる。このように本実施の形態によれば、二次加工の有用性を定量的に評価することができる。
【0069】
残留応力が、樹脂成形品を使用するにあたり問題にならない、もしくは極力小さくなるように、使用する材料、形状、成形条件、成形品の二次加工等の樹脂成形品にかかわる設定を行うといった製品設計を精度良く行うことが可能となる。また、製品を使用するにあたり、製品の残留応力をもとに短期もしくは長期破壊解析を行うことにより、精度良く故障を未然に防ぐことが可能となる。
【0070】
<樹脂成形品の変形例>
上記の本実施の形態では、所定の厚みを有する樹脂成形品の厚み方向の残留応力を算出する例について説明したが、これに限らず他の形状を有する樹脂成形品の所定の位置の所定の方向に適用して残留応力を算出することもできる。以下では、これらに適用する場合を変形例として説明する。
【0071】
[第一変形例]
図6は、第一変形例の樹脂成形品2の斜視図である。第一変形例の樹脂成形品2は、略直方体の形状を有している。樹脂成形品2の表面には第一面21、第二面22、第三面23の三つの平面が含まれ、これら第一面21、第二面22、第三面23は互いに直角に交わり頂点24を形成している。
【0072】
樹脂成形品2の頂点24には穿孔部211が設けられ、穿孔部211は頂点24を通る三回回転対称軸215の方向にレーザ光を用いて穿孔される。本実施の形態では、前述のように短パルスレーザ光により穿孔を形成しているので、穿孔の形状や深さを高い精度で制御することができる。また、短パルスレーザ光によるアブレーションを用いて穿孔を形成しているため、穿孔部の周囲に及ぶ熱影響は小さく、残留応力を高い精度で算出することができる。
【0073】
樹脂成形品2の第一面21、第二面22、第三面23には、それぞれ一つの歪みゲージ212が穿孔部211を取り囲むように設けられている。樹脂成形品2の頂点24の位置における三回回転対称軸215の方向の内部の残留応力は、上述の本実施の形態の残留応力算出方法によって得られる。
【0074】
なお、樹脂成形品2の頂点から三回回転対称軸215の方向に穿孔したが、樹脂成形品2の内部であれば所望の方向に穿孔して残留応力を得ることができる。また、樹脂成形品2の頂点24では第一面21、第二面22、第三面23が互いに直角に交わったが、それぞれ鋭角又は鈍角で交わる場合、三つ以上の平面が交わって頂点を形成する場合も同様である。歪みゲージ212を設けずに、第一面21、第二面22、第三面23における変形を三次元画像解析などで画像解析することで歪み量を測定してもよい。
【0075】
ここで、樹脂成形品2における頂点24の位置は、従来公知のドリルのような機械的手段によっては穿孔が困難であった部位(機械穿孔困難部位)に該当する。これは、頂点24が尖っているために、ドリルなどの刃を頂点24に正確に位置決めし、安定に保持して穿孔するのが困難なためである。本実施の形態では、樹脂成形品2の表面であって、レーザ光を照射できるような位置であれば、頂点24のような機械穿孔困難部位にかかわらず穿孔部として所望の方向に穿孔することができる。
【0076】
[第二変形例]
図7は、第二変形例の樹脂成形品3の斜視図である。第2変形例の樹脂成形品3は、略プリズム状の形状を有している。樹脂成形品3の表面には、第一面31、第二面32が含まれ、これら第一面31、第二面32は互いに鋭角をなして交わり稜33を形成している。
【0077】
樹脂成形品3の稜33には穿孔部311が設けられ、穿孔部311は稜33を通る二回回転対称軸315の方向にレーザ光を用いて穿孔される。第一面31には二つの歪みゲージ312が、第二面32には一つの歪みゲージ312が、それぞれ穿孔部311を取り囲むように設けられている。樹脂成形品3の稜33の位置における二回回転対称軸315の方向の内部の残留応力は、上述の本実施の形態の残留応力算出方法によって得られる。
【0078】
なお、樹脂成形品3の頂点から二回回転対称軸315の方向に穿孔したが、樹脂成形品2の内部であれば所望の方向に穿孔して残留応力を得ることができる。また、樹脂成形品2の稜33では第一面31、第二面32が鋭角をなして交わったが、直角または鈍角をなして交わる場合も同様である。歪みゲージ312を設けずに、第一面31、第二面32における変形を三次元画像解析などで画像解析することで歪み量を測定してもよい。
【0079】
ここで、樹脂成形品3における稜33の位置は、機械穿孔困難部位に該当する。これは、稜33が尖っているために、ドリルなどの刃を稜33に正確に位置決めし、安定に保持して穿孔するのが困難なためである。本実施の形態では、樹脂成形品3の表面であって、レーザ光を照射できるような位置であれば、稜33のような機械穿孔困難部位にかかわらず穿孔部として所望の方向に穿孔することができる。
【0080】
[第三変形例]
第段変形例では、樹脂成形品の形状の特性により、ドリルなどの機械的手段が穿孔部に到達することが困難である。例えば、樹脂成形品が箱型で高い壁がある場合等では、底面に対し垂直に穿孔しようとすると、底面の壁とのL字コーナー部付近では、穿孔器具が成形品の壁と当たり、穿孔が困難であることがある。また、機械的手段の長さと比べて高い壁を有する樹脂成形品の底面に穿孔しようとすると、機械的手段が高い壁に妨げられて底面に到達できないことがある。
【0081】
これらの部位は、機械穿孔困難部位に該当する。この第三変形例では、このような穿孔が困難であったり、機械的手段が到達できなかったりする機械穿孔困難部位についても、レーザ光が到達できる位置であれば所望の方向に穿孔することができる。内部の残留応力は、上述の本実施の形態の残留応力算出方法によって得られる。
【0082】
[第四変形例]
第四変形例では、樹脂成形品の穿孔部における肉厚が小さく、例えばフィルム状の形状を有している。成形部における肉厚は、例えば1μmから1mmの範囲にあってもよいし、10μmから100μmの範囲にあってもよい。本実施の形態では、例えばパルス幅が10ピコ秒以下の短パルスレーザ光により穿孔を形成している。したがって、穿孔深さを高い精度で制御することができ、穿孔部における肉厚が小さい場合にも所定の穿孔深さで段階的に穿孔することができる。
【0083】
この第四変形例においても、樹脂成形品の穿孔部の周囲に歪みゲージを設けて歪み量を測定し、穿孔深さの方向の内部の残留応力は、本実施の形態の残留応力算出方法によって得られる。また、樹脂成形品の表面における変形を画像解析することで歪み量を測定してもよい。
【0084】
ここで、第四変形例の樹脂成形品の穿孔部は、機械穿孔困難部位に該当する。これは、穿孔部における肉厚が小さいため、ドリルなどによって所定深さの穿孔を形成するのが困難なためである。本実施の形態では、樹脂成形品の表面であって、レーザ光を照射できるような位置であれば、肉厚の小さい機械穿孔困難部位にかかわらず穿孔部として所望の方向に穿孔することができる。内部の残留応力は、上述の本実施の形態の残留応力算出方法によって得られる。
【0085】
[第五変形例]
第五変形例では、樹脂成形品の全体又は測定を行う部分を特徴付けるサイズが小さい。例えば、このサイズは10μmから10mm範囲にあってもよいし、100μmから1mmの範囲にあってもよい。この場合、穿孔部に形成する穿孔の径は、例えば1μmから1mmの範囲にあってもよいし、10μmから100μmの範囲にあってもよい。
【0086】
本実施の形態では、レーザ光を用いているため、ビーム径は光学的な集束手段を用いて高い精度で制御することができる。例えば、ビーム径は1μmから1mmの範囲にすることができ、10μmから100μmの範囲にすることもできる。これにより、穿孔の径を高い精度で制御することができる。また、本実施の形態では、短パルスレーザ光を使用しているため、穿孔深さをも高い精度で制御することができる。
【0087】
この第五変形例において、サイズが小さいために樹脂成形品の穿孔部の周囲に歪みゲージを設けることが困難な場合には、樹脂成形品の表面おける変形を画像解析することで歪み量を測定してもよい。穿孔深さの方向の内部の残留応力は、上述の本実施の形態の残留応力算出方法によって得られる。
【0088】
ここで、第五変形例の樹脂成形品の穿孔部は、機械穿孔困難部位に該当する。これは、穿孔部を含む樹脂成形品のサイズが小さいため、ドリルなどによって所定深さの穿孔を形成するのが困難なためである。本実施の形態では、樹脂成形品の表面であって、レーザ光を照射して穿孔できるような位置であれば、樹脂成形品の全体や測定を行う部分のサイズにかかわらず穿孔部として所望の方向に穿孔することができる。
【0089】
[第六変形例]
第六変形例では、樹脂成形品は着色剤を含まず無着色である。このような無着色の樹脂成形品は、所定の範囲の波長を有する光を透過するためにレーザ光による穿孔が困難であることがある。本実施の形態では短パルスレーザ光を使用しているため、このような無着色の樹脂成形品に対してもアブレーションによる加工により穿孔を形成することができる。したがって、例えば無着色の樹脂成形品にも高い精度で穿孔を形成することができる。なお、無着色の樹脂成形品を透過しないような適切な波長のレーザ光を使用することもできる。
【0090】
この第六変形例においても、樹脂成形品の穿孔部の周囲に歪みゲージを設けて歪み量を測定し、穿孔深さの方向の内部の残留応力は、上述の本実施の形態の残留応力算出方法によって得られる。また、樹脂成形品の表面おける変形を画像解析することで歪み量を測定してもよい。ここで、無着色の樹脂成形品の表面を容易に認識できるように、特定の波長を選択して画像解析を行ってもよい。
【実施例】
【0091】
以下、実施例及び比較例を示し、本実施の形態を具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0092】
樹脂成形品の穿孔に用いる短パルスレーザ光としては、表1に示すような二種類のレーザ発生器を用意した。
【表1】
【0093】
〔実施例1〕
レーザ光で加工する樹脂成形品には、ポリプラスチックス社製のポリアセタール樹脂DURACON(登録商標)M90−44にカーボンブラック5%を添加して着色したものを材料として、標準的な成形条件にて射出成形を行い略板状の形状に成形したものを使用した。
【0094】
表1に示した浜松ホトニクス製のレーザ発生器L11590を用い、繰返し周波数50kHz、照射パルス数100、出力0.1W、パルス幅1.5ps、スポット径30μmのレーザ光を前記樹脂成形品の表面に深さ方向に照射した。
【0095】
このレーザ光の照射の結果、樹脂成形品の表面には、図8(a)に示すような穿孔が形成された。図中の符号Aには、比較のためにレーザ光の30μmのスポット径も示されている。形成された穿孔は、穿孔深さが93μmであり、熱影響幅が64μmであった。熱影響幅/スポット径は、2.1であった。
【0096】
同様に、表1に示したTRUMPF製のレーザ発生器TruMicro5250を用い、繰返し周波数50kHz、照射パルス数100、出力0.1W、パルス幅6ps、スポット径15μmのレーザ光を前記樹脂成形品の表面に深さ方向に照射した。
【0097】
このレーザ光の照射の結果、樹脂成形品の表面には、図8(b)に示すような穿孔が形成された。図中の符号Aには、比較のためレーザ光の15μmのスポット径も示されている。形成された穿孔は、穿孔深さが83μmであり、熱影響幅が45μmであった。熱影響幅/スポット径は、3.0であった。
【0098】
この実施例1によると、本実施の形態の短パルスレーザ光を使用することにより、樹脂成形品に穿孔を形成する結果が得られた。また、スポット径に対する熱影響幅は比較的小さく抑えられている。ここで、パルス幅1.5psの浜松ホトニクス製のレーザ発生器L11590では熱影響幅/スポット径が2.1であったのに対し、パルス幅6psのTRUMPF製のレーザ発生器TruMicro5250では熱影響幅/スポット径が3.0であったことから、短パルスであるほど熱影響幅が小さく、有利であることが明らかになった。
【0099】
〔実施例2〕
レーザ光で加工する樹脂成形品には、ポリプラスチックス社製のポリアセタール樹脂DURACON(登録商標)M90−44に着色剤を添加しない無着色品を材料として、標準的な成形条件にて射出成形を行い略板状の形状に成形したものを使用した。この樹脂成形品は、無着色のために乳白色の外観であり、レーザ光による穿孔が比較的困難である。
【0100】
表1に示した浜松ホトニクス製のレーザ発生器L11590を用い、繰返し周波数50kHz、パルス幅1.5ps、平均出力0.5W、照射時間3sでレーザ光を前記樹脂成形品の表面に深さ方向に照射した。図9(a)に示すように、このレーザ光の照射の結果、樹脂成形品の表面に穿孔が形成された。
【0101】
〔比較例1〕
実施例2と同様の樹脂成形品に対し、表2に示すミヤチ製のレーザ発生器ML−7350DLを用い、繰返し周波数50kHz、パルス幅150ns、平均出力40W、照射時間3sでレーザ光を前記樹脂成形品の表面に深さ方向に照射した。図9(b)に示すように、このレーザ光の照射にかかわらず樹脂成形品の表面には穿孔が形成されなかった。
【0102】
【表2】
【0103】
実施例2と比較すると、レーザ光による穿孔が比較的困難な無着色品に対しては、同じ周波数で同じ時間照射し、平均出力が80倍である(照射時間が同じなので、照射されたエネルギー量が80倍となる)にもかかわらず、穿孔がされていない。このことから、実施例2のような短パルスレーザによるレーザ光が無着色品への穿孔の形成に有効なことが明らかになった。
【0104】
〔実施例3〕
図10(a)に示すように、レーザ光で加工する樹脂成形品4には、ポリプラスチックス社製のポリアセタール樹脂DURACON(登録商標)M90−44にカーボンブラック5%を添加して着色したものを材料として、標準的な成形条件にて射出成形を行い縦49mm、横68mm、厚さ3mmの略板状の形状に成形したものを使用した。
【0105】
表2に示したミヤチ製のレーザ発生器ML−7350DLを用い、繰返し周波数50kHz、スキャン速度160mm/s、平均出力0.1W、パルス幅150ns、スポット径58μmのレーザ光を樹脂成形品4の表面41で右辺から34mm、下辺から24mmの位置において深さ方向に照射し、図10(b)に示すような径1.5mmの0.2mmクロスメッシュを形成して穿孔411を形成した。樹脂成形品4の表面41において穿孔411の中心から1.5mm離間するように、穿孔411の左側に歪みゲージ412を設けた。なお、2つの樹脂成形品4について同様の試験を行った。
【0106】
このレーザ光の照射の結果、樹脂成形品4の表面41に形成された穿孔411の深さと歪みゲージ412で測定した歪みとの関係を図11に折線a、bで示す。図11に示すように、折線a、bのいずれの場合も、測定された歪みは穿孔411の深さに応じて単調に増加している。また、折線a、bに対応する2つの樹脂成形品4について、いずれもほぼ同等の結果であり、高い再現性が確認された。したがって、レーザ光による穿孔においては、優れた測定精度を得られることが明らかになった。
【0107】
〔比較例2〕
実施例3と同様の2つの樹脂成形品4に対し、レーザ光に代わってドリルを用いて表面41に穿孔411を形成した。この場合、穿孔411の深さと歪みゲージ412で測定した歪みとの関係を図12に折線a、bで示す。図12に示すように、折線a、bのいずれの場合も、測定された歪みは穿孔411の深さに応じて階段状に概ね増加しているが単調増加ではない。また、折線a、bに対応する2つの樹脂成形品4の結果の差も大きいことが確認された。したがって、ドリルによる穿孔においては、レーザ光による穿孔に比べ、測定精度が劣るものと考えられる。
【符号の説明】
【0108】
1、2、3、4 樹脂成形品
111、211、311、411 穿孔部
112、212、312、412 歪みゲージ
図1
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図10
図11
図12