【実施例】
【0028】
採精に使用する雄ブタを、それぞれ個々の豚房で別々に飼育し、朝、夕の2回、計2.5kgの種ブタ用飼料を給餌した。ブタには、日本脳炎・ブタパルボウイルス感染症ワクチンの接種を行った。本検討には、ブタ繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)、オーエスキー病に対して抗体陰性のブタを選択した。採精は、1週間間隔をあけて行った。採精前は、餌食い、病気の兆候等を確認し、良好なブタであることを確認し、ブタを興奮させないように採精を行った。
【0029】
疑牝台を雄ブタの豚房に入れ、雄ブタを台にのせ、ペニス及び包皮内を生理食塩水で洗浄し、尿を除去した。採精は手圧法で行い、予め滅菌したカップにガーゼをかぶせ、精液と共に出るゼリー状の物質である膠様物を除去しながら、精液をカップに入れた。精液は、はじめの50〜100mLの濃厚部(全精液量の約8割の精子が存在する)のみを採取し、採精後遠心分離によって精漿を精液から即座に除去した。
【0030】
その後、前処理液(0.33Mグルコース、12.8mMクエン酸ナトリウム、14.3mM炭酸水素ナトリウム、9.9mM EDTA−2Na、1,000(IU/mL)のペニシリン、及び、1mg/mLストレプトマイシンを含有する溶液)を用い、沈殿精子を懸濁し、上記と同様に遠心分離し、上澄みを除去して完全に精漿を除去した。
【0031】
その後、前処理液を加えて精子を希釈し、2.5時間かけて15℃にした。そして、遠心分離による上清除去後、浸透圧400mOsm/kgの高張液中に約1.5時間維持しながら、4〜5℃まで冷却した。なお、用いた高張液は、NSF(Niwa and Sasaki freezing extender;80%(v/v), 0.31mol Lactose monohydrate, 20%(v/v) egg yolk, 1000U/ml penicillin G potassium, 1mg/ml streptomycin sulfate)を超純水にて、浸透圧400mOsm/kgに調製した溶液である。
【0032】
次に耐凍剤及び添加剤を添加した。耐凍剤は、グリセロール(終濃度2vol%)である。また、添加剤としてSDS(sodium lauryl sulfate)を用い、終濃度が0.035vol%、0.175vol%、0.35vol%となるようそれぞれ添加した。
【0033】
また、二次希釈液を等量添加した。この場合の精子濃度を1×10
9細胞/mlにした。耐凍剤の添加後、30分程度、4〜5℃に保ち、その後、凍結した。凍結には、液体窒素を用いた。ストローに精漿を除去した精子を充填後、液体窒素表面から4cm程度離したところで、液体窒素蒸気中で10分間凍結し、その後、液体窒素中で凍結保存した。
【0034】
上記のようにして凍結保存しておいたブタの凍結精子を、融解した。凍結精子の融解は、60℃で8秒間融解して、融解時用の希釈液(モデナ液にEGTA(6mM)を添加した溶液)を加えて培養した。
【0035】
そして、融解直後の精子について、運動性解析装置(computer-assisted perm motility analysis(CASA)system)を用い、精子運動率を算出した。38℃に温まったプレートの上に培養後の培地5μlを載せて、コンピュータで動いている精子の割合を解析した。
【0036】
また、添加剤としてTLS(triethanol amine lauryl sulfate)を用いる以外、上記と同様に精子の凍結、融解、精子運動率の測定を行った。なお、TLSの終濃度は0.2vol%、0.4vol%、0.6vol%とした。
【0037】
また、添加剤としてOEP(終濃度:0.15vol%)を用いる以外、上記と同様に行った。
【0038】
なお、SDS、TLSを用いたのは、OEPの分析データによると主成分がSDSとTLSであることに基づく。
【0039】
図1、
図2にそれぞれ精子運動率の測定結果を示す。SDS添加区では、0.175vol%添加区で添加効果がプラトーになり、このときの運動性は、既存のOEP添加区よりも著しく低い値であった。
一方、TLS添加区では、いずれの濃度においてもOEP添加区との間に有意な差は認められなかった。
【0040】
続いて、SDSとTLSの併用による添加効果を検証した。添加剤としてSDS及びTLS(それぞれ終濃度0.35vol%、0.4vol%)を用い、上記と同様にブタ精子の凍結、融解、精子運動率の測定を行った。
【0041】
その結果を
図3に示す。SDS及びTLSを添加した場合、OEP添加区と比較して有意差はなく、低下する傾向を示した。SDSとTLSは、ともにイオン系界面活性剤(陰イオン系界面活性剤)であることから、両者の同時添加による相乗効果は発揮されなかったものと考えられる。
【0042】
続いて、非イオン系界面活性剤であるDEAの添加効果について検証した。添加剤としてDEAを用いる以外、上記と同様に精子の凍結、融解、並びに、融解直後、及び、融解1時間後の精子運動率の測定を行った。なお、DEAの終濃度を0.2vol%、0.4vol%、0.6vol%として、それぞれ行った。
【0043】
その結果を
図4、
図5に示す。融解直後の精子運動率は、DEA添加区の低濃度処理区でOEP添加区とほぼ同程度の値であり、添加量依存的に精子運動率は低下した。しかしながら、融解1時間後の精子運動率においては、OEP添加区と比較して0.2%添加区で有意に高い値を示した。
【0044】
また、融解1時間後については、精子活力スコアを求めた。
図6に示すように、DEA0.2%添加区では、OEP添加区と比較して、精子活力(直進運動性)も有意に高い値を示した。なお、精子活力スコアは良好な直進運動性を示す精子を3、運動性を有するが緩慢である精子を2、運動性がほとんどない精子を1として、平均値を求めたものである。
【0045】
続いて、DEAとTLSの複合添加による効果を検証した。添加剤としてTLS(終濃度0.4vol%)、DEA(終濃度0.2vol%)、TLS(終濃度0.4vol%)+DEA(終濃度0.20vol%)として、それぞれ上記と同様に精子の凍結、融解、融解直後の精子運動率を測定した。
【0046】
その結果を
図7に示す。DEA及びTLSの複合添加区の精子運動率はTLS単独添加区と差がなく、DEA単独添加区よりも低い値を示した。
【0047】
更に、他の非イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤について、添加効果の検証を行った。非イオン系界面活性剤としてソルビタントリオレエート、オクチルグルコシド、陰イオン系界面活性剤としてラウリン酸ナトリウム、陽イオン系界面活性剤として塩化ベンゼトニウムを用いた。添加剤としてそれぞれの界面活性剤を用いる以外、上記と同様にして精子の凍結、融解を行い、精子運動率を測定した。なお、それぞれの界面活性剤の添加濃度は、いずれも終濃度0.2vol%である。
【0048】
その結果を
図8に示す。非イオン系界面活性剤であるソルビタントリオレエートの添加について、OEPコントロールと同程度の精子運動率を示し、遜色はなかった。また、オクチルグルコシド、陰イオン系界面活性剤であるラウリン酸ナトリウムの添加について、OEPコントロールに比べてやや劣るものの、ある程度の効果が認められた。一方で、陽イオン系界面活性である塩化ベンゼトニウムの添加については、精子運動率が非常に低い結果であった。
【0049】
これらの結果から、添加する界面活性剤として、非イオン系界面活性剤が好ましく、これらを添加することで良好な凍結精子、人工精液を作製できることがわかった。
【0050】
非イオン系界面活性化剤であるDEAを用いて作製した凍結精子について、計5射精分の凍結精液を作製し、人工授精試験を行った結果、全てで受胎に至った。したがって、非イオン系界面活性剤は、ブタ精子を凍結するのに有効であることを確認した。