特許第6804060号(P6804060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6804060ブタ精子凍結希釈液用添加剤及びブタ精子の凍結保存方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804060
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】ブタ精子凍結希釈液用添加剤及びブタ精子の凍結保存方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/04 20060101AFI20201214BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20201214BHJP
   A01N 1/02 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C12N1/04
   C12N1/00 G
   A01N1/02
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-8241(P2017-8241)
(22)【出願日】2017年1月20日
(65)【公開番号】特開2018-113936(P2018-113936A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年12月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、農林水産省、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591224788
【氏名又は名称】大分県
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌之
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 哲司
(72)【発明者】
【氏名】後藤 雅昭
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/147194(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0196872(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン系界面活性剤から構成され、
前記非イオン系界面活性剤がアルカノールアミド型非界面活性剤或いはポリオキシエチレンエーテル型非イオン系界面活性剤である、
ことを特徴とするブタ精子凍結希釈液用添加剤。
【請求項2】
前記アルカノールアミド型非界面活性剤がN,N−ジエタノールラウリン酸アミドである、
ことを特徴とする請求項に記載のブタ精子凍結希釈液用添加剤。
【請求項3】
前記ポリオキシエチレンエーテル型非イオン系界面活性剤がオクチルグルコシドである、
ことを特徴とする請求項に記載のブタ精子凍結希釈液用添加剤。
【請求項4】
精液から精漿を除去して得られた精子を14〜16℃まで冷却し、
前記精子を浸透圧が100〜1000mOsm/kgの高張液に加えて4〜6℃まで冷却し、
更に、耐凍剤及び請求項1乃至のいずれか一項に記載のブタ精子凍結希釈液用添加剤を添加した後、前記精子を凍結する、
ことを特徴とするブタ精子の凍結保存方法。
【請求項5】
前記ブタ精子凍結希釈液用添加剤を0.1〜0.4vol%添加する、
ことを特徴とする請求項に記載のブタ精子の凍結保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブタ精子凍結希釈液用添加剤及びブタ精子の凍結保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工授精法は畜産分野において、重要な技術である。これまで家畜の人工授精は、ウシを中心に進められてきた。しかしながら、その受胎率には未だ改善の余地があり、更に、ウシ以外の家畜については、人工授精技術が十分に確立していない状況である。
【0003】
例えば、日本の養豚産業では主に自然交配が行われており、種雄ブタを飼育する必要があるため経費がかかる。また、種雄ブタは体重が300kg以上になり、作業にも危険が生じる。更に、自然交配には多大な労力を必要とすることから、交配による優良種の育成(例えば、肉質、産子数に優れる品種の改良)の効率的な進展が妨げられている。
【0004】
一方で、ブタの人工授精に関し、例えば、非特許文献1、2、特許文献1などの手法が提案されており、凍結精子を用いた人工授精法を行う例も増えてきている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】岡崎哲司 外2名、「ブタ凍結融解精子の運動性・着床率に及ぼす希釈液の浸透圧とGlycerol濃度の影響」、日本畜産学会第107回大会 一般講演V29−29
【非特許文献2】豚凍結精液利用技術マニュアル(丹羽太左衛門 監修 1989)、社団法人 日本家畜人工授精師協会
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/147194号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1、2、特許文献1では、ブタ精子を凍結保存する際の希釈液に、OEP(Oruvas ES paste)が添加されている。OEPとは、複数の界面活性剤が混合された主に皮のなめしに用いられている添加剤であり、その主成分は分析データによると、SDS(sodium lauryl sulfate)とTLS(triethanol amine lauryl sulfate)の界面活性剤とされている。しかしながら、現在ではOEPの製造が中止されており、今後、OEPの調達が困難になることが予想される。これに伴い、ブタ精子の凍結保存ができなくなり、ブタの人工授精ができなくなるおそれがある。
【0008】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的はOEPを要さないブタ精子凍結希釈液用添加剤及びブタ精子の凍結保存方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に係るブタ精子凍結希釈液用添加剤は、
非イオン系界面活性剤から構成され、
前記非イオン系界面活性剤がアルカノールアミド型非界面活性剤或いはポリオキシエチレンエーテル型非イオン系界面活性剤である、
ことを特徴とする。
【0011】
また、前記アルカノールアミド型非界面活性剤がN,N−ジエタノールラウリン酸アミドであることが好ましい。
【0014】
また、前記ポリオキシエチレンエーテル型非イオン系界面活性剤がオクチルグルコシドであることが好ましい。
【0015】
本発明の第2の態様に係るブタ精子の凍結保存方法は、
精液から精漿を除去して得られた精子を14〜16℃まで冷却し、
前記精子を浸透圧が100〜1000mOsm/kgの高張液に加えて4〜6℃まで冷却し、
更に、耐凍剤及び第1の態様に係るブタ精子凍結希釈液用添加剤を添加した後、前記精子を凍結する、
ことを特徴とする。
【0016】
また、前記ブタ精子凍結希釈液用添加剤を0.1〜0.4vol%添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るブタ精子凍結希釈液用添加剤及びブタ精子の凍結保存方法では、OEPを要さずにブタ精子の凍結保存が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】SDSを添加して凍結させたブタ精子の融解直後の精子運動率を示すグラフである。
図2】TLSを添加して凍結させたブタ精子の融解直後の精子運動率を示すグラフである。
図3】SDS及びTLSを添加して凍結させたブタ精子の融解直後の精子運動率を示すグラフである。
図4】DEAを添加して凍結させたブタ精子の融解直後の精子運動率を示すグラフである。
図5】DEAを添加して凍結させたブタ精子の融解1時間後の精子運動率を示すグラフである。
図6】DEAを添加して凍結させたブタ精子の融解直後の精子活力を示すグラフである。
図7】DEA及びTLSを添加して凍結させたブタ精子の融解直後の精子運動率を示すグラフである。
図8】種々の非イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤を添加して凍結させたブタ精子の融解直後の精子運動率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(ブタ精子凍結希釈液用添加剤)
ブタ精子凍結希釈液用添加剤(以下、単に添加剤とも記す)は、非イオン系界面活性剤及から構成される。この添加剤は、後述するように、ブタ精子の凍結工程において、グリセロール等の耐凍剤とともに添加されて用いられる。
【0020】
非イオン系界面活性剤として、アルカノールアミド型、エステル型、ポリオキシエチレンエーテル型の非イオン系界面活性剤が挙げられる。アルカノールアミド型非イオン系界面活性剤として、ラウリン酸ジエタノールアミド(N,N−ジエタノールラウリン酸アミド(以下、DEA))やオレイン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミドなどが挙げられる。また、エステル型非イオン系界面活性剤として、ラウリン酸グリセリンやモノステアリン酸グリセリン、ソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。また、ポリオキシエチレンエーテル型非イオン系界面活性剤としてオクチルグルコシドなどが挙げられる。
【0021】
(ブタ精子の凍結保存方法)
ブタ精子の凍結保存方法は、以下のようにして行うことができる。
【0022】
まず、採精したブタの精液から精漿を除去し、分離した精子を14℃〜16℃、好ましくは15℃まで冷却する。冷却は2〜3時間かけてゆっくり冷却することが好ましい。また、細菌感染による精子の機能性低下を抑制するために、採精直後にPMB(Polymyxin B:商品名)等の抗菌剤を含有する添加液を加え、遠心分離によって精漿を除去した後に冷却することが好ましい。
【0023】
14〜16℃まで冷却した後、浸透圧が100〜1000mOsm/kgの高張液を加え、3〜6℃、好ましくは4〜5℃まで冷却する。冷却は1〜2時間かけて行うことが好ましい。高張液に精子を介在させることにより、精子は適度に脱水される。高張液として、ラクトース、卵黄、ペニシリン及びストレプトマイシンを含有する溶液が挙げられる。
【0024】
3〜6℃まで冷却した後、更に、耐凍剤及び上述した添加剤を添加する。耐凍剤として、グリセロールが挙げられ、終濃度が1〜20vol%、好ましくは1〜3vol%、好ましくは0.15〜0.25vol%、より好ましくは0.2vol%になるよう添加するとよい。添加剤は、終濃度が0.1〜0.4vol%、より好ましくは0.15〜0.3vol%、更に好ましくは0.15〜0.25vol%になるよう添加するとよい。耐凍剤及び添加剤を添加した後、30分間程度(20〜40分間)3〜6℃に維持しておく。
【0025】
上記の工程を経た後、凍結する。凍結には、液体窒素またはプログラムフリーザーを用いることができる。液体窒素を用いる凍結法は、ストローに精子を充填後、液体窒素表面から数cm(例えば、4cm程度)離したところに置いて液体窒素蒸気中で10分間程度の予備凍結を行い、その後、液体窒素中に入れて凍結保存する。
【0026】
以上のようにして凍結保存しておいた精子は、融解し、融解時の希釈液を加えて人工精液とし、人工授精に用いられる。融解時の希釈液としては、例えば、国際公開2010/147194号に開示されているEGTA(ethylene glycol tetraacetic acid)及びEDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)を含有する希釈液が用いられる。
【0027】
このようにして凍結保存した凍結精子では、融解後においても高い精子運動性を示すことから、OEPを要さずにブタ精子の凍結保存が可能になるため、OEPが製造中止になっても、ブタ精子の凍結保存を継続でき、ブタの人工授精が可能である。更に、非イオン系界面活性剤の種類によっては、既存技術より良好な凍結精液の作成も可能である。
【実施例】
【0028】
採精に使用する雄ブタを、それぞれ個々の豚房で別々に飼育し、朝、夕の2回、計2.5kgの種ブタ用飼料を給餌した。ブタには、日本脳炎・ブタパルボウイルス感染症ワクチンの接種を行った。本検討には、ブタ繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)、オーエスキー病に対して抗体陰性のブタを選択した。採精は、1週間間隔をあけて行った。採精前は、餌食い、病気の兆候等を確認し、良好なブタであることを確認し、ブタを興奮させないように採精を行った。
【0029】
疑牝台を雄ブタの豚房に入れ、雄ブタを台にのせ、ペニス及び包皮内を生理食塩水で洗浄し、尿を除去した。採精は手圧法で行い、予め滅菌したカップにガーゼをかぶせ、精液と共に出るゼリー状の物質である膠様物を除去しながら、精液をカップに入れた。精液は、はじめの50〜100mLの濃厚部(全精液量の約8割の精子が存在する)のみを採取し、採精後遠心分離によって精漿を精液から即座に除去した。
【0030】
その後、前処理液(0.33Mグルコース、12.8mMクエン酸ナトリウム、14.3mM炭酸水素ナトリウム、9.9mM EDTA−2Na、1,000(IU/mL)のペニシリン、及び、1mg/mLストレプトマイシンを含有する溶液)を用い、沈殿精子を懸濁し、上記と同様に遠心分離し、上澄みを除去して完全に精漿を除去した。
【0031】
その後、前処理液を加えて精子を希釈し、2.5時間かけて15℃にした。そして、遠心分離による上清除去後、浸透圧400mOsm/kgの高張液中に約1.5時間維持しながら、4〜5℃まで冷却した。なお、用いた高張液は、NSF(Niwa and Sasaki freezing extender;80%(v/v), 0.31mol Lactose monohydrate, 20%(v/v) egg yolk, 1000U/ml penicillin G potassium, 1mg/ml streptomycin sulfate)を超純水にて、浸透圧400mOsm/kgに調製した溶液である。
【0032】
次に耐凍剤及び添加剤を添加した。耐凍剤は、グリセロール(終濃度2vol%)である。また、添加剤としてSDS(sodium lauryl sulfate)を用い、終濃度が0.035vol%、0.175vol%、0.35vol%となるようそれぞれ添加した。
【0033】
また、二次希釈液を等量添加した。この場合の精子濃度を1×10細胞/mlにした。耐凍剤の添加後、30分程度、4〜5℃に保ち、その後、凍結した。凍結には、液体窒素を用いた。ストローに精漿を除去した精子を充填後、液体窒素表面から4cm程度離したところで、液体窒素蒸気中で10分間凍結し、その後、液体窒素中で凍結保存した。
【0034】
上記のようにして凍結保存しておいたブタの凍結精子を、融解した。凍結精子の融解は、60℃で8秒間融解して、融解時用の希釈液(モデナ液にEGTA(6mM)を添加した溶液)を加えて培養した。
【0035】
そして、融解直後の精子について、運動性解析装置(computer-assisted perm motility analysis(CASA)system)を用い、精子運動率を算出した。38℃に温まったプレートの上に培養後の培地5μlを載せて、コンピュータで動いている精子の割合を解析した。
【0036】
また、添加剤としてTLS(triethanol amine lauryl sulfate)を用いる以外、上記と同様に精子の凍結、融解、精子運動率の測定を行った。なお、TLSの終濃度は0.2vol%、0.4vol%、0.6vol%とした。
【0037】
また、添加剤としてOEP(終濃度:0.15vol%)を用いる以外、上記と同様に行った。
【0038】
なお、SDS、TLSを用いたのは、OEPの分析データによると主成分がSDSとTLSであることに基づく。
【0039】
図1図2にそれぞれ精子運動率の測定結果を示す。SDS添加区では、0.175vol%添加区で添加効果がプラトーになり、このときの運動性は、既存のOEP添加区よりも著しく低い値であった。
一方、TLS添加区では、いずれの濃度においてもOEP添加区との間に有意な差は認められなかった。
【0040】
続いて、SDSとTLSの併用による添加効果を検証した。添加剤としてSDS及びTLS(それぞれ終濃度0.35vol%、0.4vol%)を用い、上記と同様にブタ精子の凍結、融解、精子運動率の測定を行った。
【0041】
その結果を図3に示す。SDS及びTLSを添加した場合、OEP添加区と比較して有意差はなく、低下する傾向を示した。SDSとTLSは、ともにイオン系界面活性剤(陰イオン系界面活性剤)であることから、両者の同時添加による相乗効果は発揮されなかったものと考えられる。
【0042】
続いて、非イオン系界面活性剤であるDEAの添加効果について検証した。添加剤としてDEAを用いる以外、上記と同様に精子の凍結、融解、並びに、融解直後、及び、融解1時間後の精子運動率の測定を行った。なお、DEAの終濃度を0.2vol%、0.4vol%、0.6vol%として、それぞれ行った。
【0043】
その結果を図4図5に示す。融解直後の精子運動率は、DEA添加区の低濃度処理区でOEP添加区とほぼ同程度の値であり、添加量依存的に精子運動率は低下した。しかしながら、融解1時間後の精子運動率においては、OEP添加区と比較して0.2%添加区で有意に高い値を示した。
【0044】
また、融解1時間後については、精子活力スコアを求めた。図6に示すように、DEA0.2%添加区では、OEP添加区と比較して、精子活力(直進運動性)も有意に高い値を示した。なお、精子活力スコアは良好な直進運動性を示す精子を3、運動性を有するが緩慢である精子を2、運動性がほとんどない精子を1として、平均値を求めたものである。
【0045】
続いて、DEAとTLSの複合添加による効果を検証した。添加剤としてTLS(終濃度0.4vol%)、DEA(終濃度0.2vol%)、TLS(終濃度0.4vol%)+DEA(終濃度0.20vol%)として、それぞれ上記と同様に精子の凍結、融解、融解直後の精子運動率を測定した。
【0046】
その結果を図7に示す。DEA及びTLSの複合添加区の精子運動率はTLS単独添加区と差がなく、DEA単独添加区よりも低い値を示した。
【0047】
更に、他の非イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤について、添加効果の検証を行った。非イオン系界面活性剤としてソルビタントリオレエート、オクチルグルコシド、陰イオン系界面活性剤としてラウリン酸ナトリウム、陽イオン系界面活性剤として塩化ベンゼトニウムを用いた。添加剤としてそれぞれの界面活性剤を用いる以外、上記と同様にして精子の凍結、融解を行い、精子運動率を測定した。なお、それぞれの界面活性剤の添加濃度は、いずれも終濃度0.2vol%である。
【0048】
その結果を図8に示す。非イオン系界面活性剤であるソルビタントリオレエートの添加について、OEPコントロールと同程度の精子運動率を示し、遜色はなかった。また、オクチルグルコシド、陰イオン系界面活性剤であるラウリン酸ナトリウムの添加について、OEPコントロールに比べてやや劣るものの、ある程度の効果が認められた。一方で、陽イオン系界面活性である塩化ベンゼトニウムの添加については、精子運動率が非常に低い結果であった。
【0049】
これらの結果から、添加する界面活性剤として、非イオン系界面活性剤が好ましく、これらを添加することで良好な凍結精子、人工精液を作製できることがわかった。
【0050】
非イオン系界面活性化剤であるDEAを用いて作製した凍結精子について、計5射精分の凍結精液を作製し、人工授精試験を行った結果、全てで受胎に至った。したがって、非イオン系界面活性剤は、ブタ精子を凍結するのに有効であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
凍結精子を利用した人工授精を行う養豚業に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8