(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1,2の研究では、眼内閃光が視野の広範囲に白色のフラッシュとして起こる現象を示したもので、眼内閃光を制御する手法に関しては何等確立されていない。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、少なくとも眼内閃光の発生位置を制御することで、種々の視覚情報を提示可能にする眼内閃光発生装置及び眼内閃光発生方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る眼内閃光発生装置は、予め設定された電流信号を出力する信号出力部と、眼球周囲の皮膚上に分散設置される複数の電極と、前記信号出力部からの電流信号を前記複数の電極のうちの選択された少なくとも2個の電極からなる電極組に出力する切替部とを備えたものである。
【0007】
また、本発明に係る眼内閃光発生方法は、眼球周囲の皮膚上に複数の電極を分散設置するステップと、前記複数の電極のうち少なくとも2個の電極からなる電極組を選択ステップと、選択された前記電極組に予め設定された電流信号を出力するステップとを含む眼内閃光発生方法。
【0008】
本発明によれば、複数の電極が人体の眼球周囲の皮膚上に設置される。複数の電極の設置位置は、例えば眼球の周囲の上下左右の4部位でもよい。あるいは用途等に応じて、上下2個のみ、左右2個のみ、また周囲に3個、あるいは周囲に5個以上の個数を設置する態様でもよい。また、電極の設置位置をその都度変える態様であってもよい。複数の電極は、顔面の左右対称位置に配置されることが好ましい。複数の電極は、小形、例えば金属製円板からなり、直接皮膚に貼着する構成、あるいは眼鏡型やゴーグル等の頭部装着具に設けられ、装着によって眼球周辺の皮膚上に当接する態様でもよい。
【0009】
複数の電極が皮膚上に当接された状態で、電源部から電流信号が出力される。切替部は、電流信号が印加される電極組を選択する。電流信号は、選択された電極組の一方の電極から眼球、網膜、視神経を経由して流れ、他方の電極に抜け出る。眼球内面には、全体に亘って網膜上に視細胞が曲面状に並んでいる。ここに電流が印加された場合、すなわち電流レベルが変化する時に網膜や視神経上に形成された電流密度分布に対応した領域の神経が発火すると考えられる。すなわち、電源部からの電流は、選択された電極組の近傍、かつ電流の向きに対応する側の網膜の視神経を刺激して強い発火である眼内閃光を生成する。そこで、電極組を切り替え、あるいは電極組の眼球周辺での位置を変えることで、眼内閃光が惹起される位置が変化すると考えられる。このとき、眼内閃光が知覚される位置、時間(時間、周期(周波数)等)、波形及び極性を制御することで、光学的な視覚刺激に代わる新たな視覚情報提示手法の構築が可能になると期待される。なお、選択される電極組は一対(電極対)に限らず、例えば、入力側1個で出力側が複数個、あるいはその逆のような選択態様でもよい。
【0010】
網膜電気刺激GRSは、軽量な装置のみでの視覚提示が可能であることや、惹起される眼内閃光は非常に明るいなどの特徴を有している。また、網膜上の視細胞を広範囲に刺激することによって、光学的な手法では提示できない、下眼瞼の裏側などの位置へ視覚提示を行うことができる可能性がある。これらの特徴から、GRSは、VR(Virtual Reality)やAR(Augmented Reality)などの用途での視覚ディスプレイにも適用可能となる。
【0011】
また、前記切替部は、前記信号出力部と前記複数の電極との間に介設され、前記複数の電極のうち、選択された前記電極組を前記電源部と接続するものである。この構成によれば、複数の電極を皮膚に当接したままで、選択した電極組の電極に電流が印加される。
【0012】
また、前記信号出力部は、直流電流を出力する。この構成によれば、眼内閃光の光源が1つ発生される。
【0013】
また、前記電流信号は、方形波である。この構成によれば、電流レベルの変化時に眼内閃光が発生される。
【0014】
また、前記電流信号は、一次関数波であることを特徴とするこの構成によれば、白色以外の色、例えば青色の眼内閃光が発生される。
【0015】
また、前記切替部は、予め設定した複数の電極組を順番に所定速度で選択する。この構成によれば、眼内閃光の光源を移動させることが可能となる。
【0016】
また、前記切替部は、予め設定した複数の電極組を所定周期で繰り返し選択する。この構成によれば、眼内閃光の光源の移動が所定周期で繰り返されることで、図形乃至はパターンとして視認され得る。
【0017】
また、本発明は、前記複数の電極が設置された眼鏡型の頭部装着具を備える。この構成によれば、電極の設置が容易となる。
【0018】
また、前記複数の電極は、前記眼球周囲のうち上下左右の4部位に対応して設置される。この構成によれば、眼内閃光を眼球に対する基本的な位置に対して発生させることが可能となる。
【0019】
また、本発明は、眼球から離れた側頭部及び後頭部の一方の部位に当接する共通電極を備え、前記切替部は、複数の電極の少なくとも1個の電極と前記共通電極とを選択することを特徴とする。この構成によれば、光学的な視覚情報の提示手法では実現できない、奥行き方向に対しても眼内閃光が可能となる。また、左右の電極と対応する共通電極とを利用して左右に位置ずれ状態で眼内閃光を発生させると、眼内閃光の光源を立体的に視覚提示することが可能になると考えられる。さらに、複数の電極と共通電極との間に電流を印加する場合に電気刺激の周波数が100Hz以上にすると、視野が暗くなって瞳孔を開くように制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、光学的な手法に代えて、電気刺激によって視野内に種々の視野情報を提示することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、眼球周囲の皮膚上に設置される複数の電極の設置位置を概念的に示す頭部正面図である。
図1において、人の頭部10のうち顔面域には、所定数の電極Eが、例えば7個の電極E(E1〜E7)が直接貼着して、あるいは後述する頭部装着具等を介して当接される。複数の電極Eは、鼻部11の左右の眼球をそれぞれ囲むように分散して配置されている。本実施形態では、右眼球12Rの周囲の上下左右について、上部から反時計回りに電極E1,E2,E3,E4が配置され、左眼球12Lの周囲の上下左右について、上部から反時計回りに電極E7,E4,E5,E6が配置されている。本実施形態では、電極E4は左右側で兼用されている。また、
図1中に示す各矢印は、各電極間に印加される電流の方向を示している。各電極に印加される電流は、
図1のように交流でもよいし、直流でもよい。
【0023】
図2は、眼球の縦断面構造を示している。
図2において、眼球12は、球体で多層構造を有する。眼球12は、外側の強膜121、その内側の脈絡膜を挟んだ視神経122、及び視神経の先端側の視細胞を備える網膜123を少なくとも有する。なお、眼球12の前方側には、外光を網膜上に導く水晶体124を有する。網膜123には、全域に亘って視細胞が曲面状に並んでいる。網膜123の視細胞を電流が刺激することで当該部位に発火を生じさせ、眼内閃光を惹起する。
【0024】
図1、
図2において、例えば電極E1,E2間に電流が印加された場合を考える。電極E1,E2間には、皮膚表面から眼球を経由する電流抵抗回路が形成されている。すなわち、印加電流の一部は、電極E1から網膜123側に流入し、また網膜123から流出して電極E2に流出する(また、逆極性期間では前記と反対方向に流れる。)。
【0025】
前記したように、網膜電気刺激GRSは、侵襲性の低い経皮電気刺激により眼内閃光と呼ばれる視野全体への白色なフラッシュを惹起する手法である。この手法は軽量安価な電気刺激装置のみで視覚を提示可能であり、HMD(Head Mounted Display)と併用した視覚提示や現実の映像に視覚情報を重畳するAR(Augmented Reality)デバイスとしての活用が期待されている。従来のGRSで惹起される眼内閃光は視野全体への白色のフラッシュのみであったため、提示できる情報が大きく限定されていた。今日までのGRSの研究では、眼内閃光を任意に移動させる着想はなく、実現もできておらず、従って、提示できる視覚情報において位置や方向の情報が大きく不足していた。ここで、眼内閃光の任意の移動等を可能とする手法を確立することができれば、GRSが提示する視覚情報に位置や方向の情報を付与することが可能となり、GRSは軽量かつ広視野な視覚情報提示ディスプレイとして、AR用途におけるHMDの代替装置としての利用や、VR用途においてHMDと併用することにより、高い没入感を実現するなどの使用目的での活用が期待される。
【0026】
ところで、末梢神経への経皮電気刺激においては、電極の位置と電流の空間的な方向や電流の強度が、惹起される感覚の特徴を大きく決定する。例えば、前庭電気刺激による加速度や角加速度感覚の生起においては、前庭感覚器に印加する電流の方向や電流の強度によって、惹起される前庭感覚の方向や強さが変化する。これは、感覚器上での電流の方向または電流密度分布に対して、特定の方向の前庭感覚を受容する神経細胞が選択的に発火しているためであると考えられる。これらのことから、GRSにおいても、印加電流の網膜での電流の方向や電流密度分布によって、視覚を受容する神経細胞を選択的に発火させることが可能であると考えられる。かかる観点から、光学的刺激に依存しない、軽量かつ広視野な視覚情報提示の手法としてGRSにおいて位置、方向等の視覚情報の提示を可能とするために電気刺激による眼内閃光発生手法を提案し、その効果の検証のための実験を行った(
図3〜
図12)。
【0027】
図3は、眼内閃光発生の実験装置の一例を示す構成図である。
図3において、眼内閃光発生実験装置20は、予め設定された電流信号を出力する電流発生回路21、電流信号が印加される電極部22、電流発生回路21と電極部22との間に介設される切替回路23、電流発生回路21及び切替回路23の動作を制御する制御回路24、及び制御回路24に指示を与える指示部25を備えている。なお、眼内閃光発生実験装置20は、眼内閃光発生装置として適用することもできる。また、眼内閃光発生実験装置20のうち、電極部22を除く構成部分で回路部200が構成されている。
【0028】
電流発生回路21は、刺激用電流の波形として、例えば
図4に示す交流波形信号を出力する。交流波形信号は、周波数、振幅及び継続時間に対して適宜の状態値が設定されて決定される。本実験例では、周波数は数Hz、例えば5Hzに設定され、振幅は安全レベルである0.1〜3mAの範囲のうち例えば0.3mAに設定された交流方形波信号である。電流信号は、方形波に限定されず、また50%デューティでなくてもよい。さらに、本実験では、電流発生回路21は、電流波形を所定時間、例えば数秒間、より具体的には4秒間継続して出力する。
【0029】
電極部22は、
図1に示した複数の電極E1〜E7の7個から構成される。7個の電極E1〜E7は、導電性の接着剤を用いて皮膚に直接貼着され、あるいは眼鏡(メガネ)型やゴーグルのような頭部装着具に取り付けられ、装着状態で顔面に当接させる態様でもよい。
【0030】
切替回路23は、電流発生回路21と電極部22との間に介設されるもので、電流発生回路21の出力側を、電極E1〜E7のうちから選択された電極組の電極と接続させる。なお、電極組は、本実験においては後述するように1対としているが、電極組としては、例えば入力側に1個の電極が、出力側に複数個の電極(あるいはその逆)が選択される態様でもよい。制御回路24は、指示部25の指示に基づいて、電流発生回路21への電流指令値や動作制御、また切替回路23への電極組の設定のため信号の出力制御を行う。また、制御回路24は、実験での計測情報を収集、保管し、必要に応じて実験結果を集計処理して出力する機能部を備えてもよい。
【0031】
3次元位置計測センサ31は、実験空間の上部に設置され、被験者(後述)が把持する光学的に視認可能なマーカ32の3次元位置を観測すると共に、観測した3次元位置情報を制御回路24に送信する。本実験では、3次元位置計測センサ31として、3次元モーションキャプチャシステムV120Duo(Optitrack社製)を用いた。なお、3次元位置計測センサ31は、3次元磁気センサ方式による位置測定や撮像カメラで撮像した画像の解析方法を利用して構成されたものでもよい。
【0032】
(1)実験方法
(1.1)実験目的
本実験では、複数の電極を備えた多電極GRSにより、眼内閃光の発生位置の制御が可能であるかを明らかにすることを目的に、
図4に示す刺激用の電流信号の印加位置(電極組)を変化させた時に惹起される眼内閃光の位置との関係を検証する。
【0033】
(1.2)実験設備
被験者は健常な成人男性5人であった。実験前に全ての被験者はインフォームド・コンセントを行い実験へ参加した。実験は静かな暗室内で行い、
図1に示すように被験者の眼球12R,12Lの周辺部にゲル電極クリアローデ(登録商標)(フクダ電子社製)電極を設置した。被験者は、暗室内で椅子に座った状態で、顎台と額当てを用いて頭部を固定した。被験者は、手に持ったマーカ32を用い、各電極Eと左右の目尻、鼻尖の位置を計測した。その後、前方を向いて目を閉じ、実験者の合図の後に刺激が開始された。刺激終了後に被験者には自身が知覚した眼内閃光の光源の位置にマーカ32を保持させ、その時のマーカ32の位置を眼内閃光の光源の位置として計測した。この時、眼内閃光が複数知覚される場合には、眼内閃光の光量の強い順にマーカ32を保持させた。なお、電極Eと目尻、鼻尖およびマーカ32の位置は、3次元モーションキャプチャシステムV120Duo(Optitrack社製)を用いて計測した。
【0034】
(1.3)刺激条件
電流刺激条件は、
図1、
図4に示す通り、電流値0.3mA,周波数5Hz、刺激時間4秒の方形波交流電流とした。刺激条件は、電極組としての、電極E1−E3,電極E2−E4,電極E4−E5,電極E5−E7,電極E1−E7,電極E3−E5,電極E2−E6の間への刺激の7条件とした。これらは全て、選択された電極組となる両電極を結ぶ直線上(あるいは、電極E1−E7,電極E3−E5を含めるように、ほぼ直線上)に少なくとも一つ以上の眼球がある刺激である。この7条件の刺激を4回ずつの28試行の実験を行った。
【0035】
なお、本実験では、視覚の視神系上での電流密度分布の及ぼす眼内閃光の知覚位置への影響を検証するために、皮膚触覚を惹起しないレベルの電流値を刺激電流として使用した。
【0036】
(2)結果
図5〜
図11は、被験者5名分の各刺激条件に対して知覚された眼内閃光の光源の位置を俯瞰図と背面図とで示している。
図5は、電極E1−E3が電極組の場合、
図6は、電極E2−E4が電極組の場合、
図7は、電極E4−E5が電極組の場合、
図8は、電極E5−E7が電極組の場合、
図9は、電極E1−E7が電極組の場合、
図10は、電極E3−E5が電極組の場合、
図11は電極E2−E6が電極組の場合である。なお、
図5〜
図11において、被験者ごとに計測した両目尻と鼻尖の3点の重心位置を原点としたとき、原点を通り目尻を結ぶ線と平行な線が左右軸となり、原点を通り原点と鼻尖部を繋ぐ線と平行な線が前後軸となり、原点を通り目尻を結ぶ線と垂直な線が上下軸となるように座標変換を行った。また、各図中の大きい2個の楕円は、眼球12R,12Lの位置を示し、計測した各被験者の両目尻の点から原点に対して短辺:長辺=3:4の楕円を描画してある。
【0037】
また、
図5〜
図11における「×」マーカは鼻尖位置を示している。白抜きの小さい楕円は、電極E1〜E7の位置を示している。黒く塗りつぶされている小さい2個の楕円は、刺激電流を印加した電極組(電極対)を示している。各図中の黒ドットは、各被験者が知覚した眼内閃光の光源の位置を示している。
図5〜
図11から、被験者は刺激電極の周辺に眼内閃光を知覚していることが分かり、この傾向は全ての被験者、条件においても確認することができた。
【0038】
図12は、各被験者が知覚した眼内閃光の光源の位置と被験者の電極の位置とから、各電極が、眼内閃光の光源の位置から最も近い電極になる確率の平均値を示す。この確率は、各被験者が知覚した、条件ごとの眼内閃光の総数で、各電極が、知覚された眼内閃光の光源の位置から最も近い電極になる個数を正規化したものである。また、図中の*は、分散分析(ANOVA:analysis of valiance)と多重比較によって認められた有意差を示している(p<0.05)。
図12から、刺激電極が眼内閃光の光源の位置から最も近い電極として選択される確率が有意に高いことが分かる。
【0039】
(3)考察
本実験の結果より、電極組である刺激電極が知覚された眼内閃光の光源の位置に最も近い電極となる確率が有意に高いことから、多電極GRSは眼内閃光の発生位置を変化させることができ、かつその眼内閃光の光源の位置は刺激電極の周辺であることが示された。また、
図5〜
図12から、GRSは、非常に広範囲かつ選択的な位置に再現性良く眼内閃光を提示可能であることが分かる。よって多電極GRS手法によって眼内閃光の発生位置の移動を実現したこととなり、GRSによる位置や方向などの情報提示が可能な視覚ディスプレイの実現が達成された。これにより、視野共有システム(米村朋子,橋本悠希,近藤大祐,丹羽真隆,飯塚博幸,安藤英由樹,前田太郎、「視野共有システムを用いた心肺蘇生法の訓練効果」、日本バーチャルリアリティ学会論文誌,Vol.16,No.4,pp.623-632 (2011))のような、HMDをARデバイスとして用いる用途において、眼内閃光によって仮現運動やベクションを誘発させ、GRSを視線誘導用のマーカとして用いることが可能であれば、特に視覚情報提示装置が軽量であることが求められるAR用途において高い効果を発揮すると考えられる。
【0040】
また、本実験では、眼球周辺で選択された2個の電極の極性が入れ替わる交流刺激を行っている。この刺激の印加中に、被験者は高確率で2つ以上の眼内閃光を知覚した(
図5〜
図11の黒ドットの位置参照)。また、複数の光源を知覚する場合には、それらの眼内閃光の光源の白色領域間には必ず黒色領域が残存するという回答が得られた。これは実験に参加した全ての被験者において確認された。このことから、むしろ黒色領域に着目して、複数の光源の知覚位置を高速で切り替えるなどすることで、黒色領域の移動、黒色領域による簡単な図形等の描画ができる可能性がある。
【0041】
本実験結果から、皮膚触覚が生起しない0.3mAの電流値において、被験者は眼内閃光の光源の位置を刺激電極周辺に知覚することが示された。このことから、GRSによる眼内閃光の移動の機序として、網膜もしくは視神経上での電流密度分布が変化することにより眼内閃光が移動すると考えられる。また、GRSは、視野を覆う視覚提示系を必要とせず、広視野かつ光学的な視覚提示では提示不可能な視野領域にも視覚提示が可能であるため、特に前述のARデバイスとしての用途を想定した場合に高い効果を発揮すると期待される。
【0042】
また、本実験では、網膜電気刺激をHMDなどの視覚情報提示手法としても適用するために、眼内閃光の発生位置を変化させることができる多電極網膜電気刺激手法を実証した。また、この手法を使用して刺激電流の印加位置を変化させることで、眼内閃光の発生位置が刺激電流の印加位置の周辺に移動することを実証した。
【0043】
次に、
図13は、眼内閃光による視覚情報の提示例を示す図である。
図13(a)は、視野13と視野13内に対応すると想定された電極E1〜E7の配置位置とを概略的に示している。
図13(b)〜
図13(f)のように、眼内閃光の惹起を繰り返すことで、
図13(g)のように、あたかも光源が移動、この例では旋回移動しているように見える。なお、
図13(b)は、電極E2と電極E1とで電極組とされ、
図13(c)は、電極E1と電極E4とで電極組とされ、
図13(d)は、電極E4と電極E3とで電極組とされ、
図13(e)は、電極E3と電極E2とで電極組とされている。
【0044】
この場合の切替周波数としては、数Hz〜数十Hz、例えば5〜20Hz程度で、光源の移動提示が実現できる。また、切替周波数をより高速に、例えば数十Hz以上、具体的には20〜100Hz程度で、十字状乃至はリング状の、すなわち図形乃至はパターンとして認識可能となる。なお、電極組の選択や刺激順を制御することで、眼内閃光を任意に移動操作することが可能となり、また、種々の図形乃至はパターンを表現することができる。従って、眼内閃光による光源の移動、また図形乃至はパターンの形状の意味を予め決めておくことで、電気刺激を通じての情報伝授が可能となる。
【0045】
図14は、眼内閃光を惹起する電流信号の他の波形図である。前記実施形態では、刺激用の電流信号として方形波の交流信号を使用したが、これに限定されず、
図14(a)に示すように、直流方形波(パルス波形)でもよい。また、
図14(b)のように、一次関数の波形、例えばのこぎり波でもよい。のこぎり波の場合、白色フラッシュに代えて、青色フラッシュが惹起されるため、眼内閃光の色に対しても制御が可能となる。また、電流信号の波形は、一次関数的として三角波、過渡的な波形を含めてもよく、あるいは正弦波等でもよい。
【0046】
ところで、近年、ウェアラブルデバイスの普及に伴い、頭部に固定して視覚情報を提示するHMD(Head Mounted Display)等を用いた一人称視野映像提示や現実世界と重畳して文字等の情報提示が可能な機器が販売されている。HMDの利用法としてはゲームなどで、本人視線による一人称視野を提示することで高い没入感を持ったシステムを構築すること等が挙げられる。このような利用においては広視野角で軽量なHMDが求められている。これは、HMDの視野の広さはバーチャル空間やゲームなどへの没入感を向上させ、軽量さはHMDを利用した際の首や顔面の疲れや、痛みを誘発しにくくさせるためである。しかしながら、HMDの映像提示系を大きくすると、重量が増えるため、視野角の広さと軽量さはトレードオフの関係にある。さらに、現在市販されているHMDでは最も視野角の広いHMDの一つとされているOculus VR社製のDK2で、最大110度程度であり、その重量は約400gである。また、視野角に関しても眼球を動かすことで画面の縁が見えてしまうと、没入感を損ねる虞がある。さらに、HMDは自身の視野に重畳して視覚情報を提示するAR(Augmented Reality)デバイスとしても利用されている。ARデバイスとしての利用では、HMDを装着しながら移動等を行うため、特に軽量であることが望まれている。このARデバイスとしての利用を目指して、商品化されたものに、Google Glass(登録商標)が知られている。Google Glass(登録商標)は、重さが約50gと軽量であるが、視覚情報を提示できる範囲が14度内であり、また提示できる視覚情報の提示輝度が必ずしも高くない。
【0047】
図15は、眼内閃光発生装置に適用される電極部を設けた頭部装着具の一実施形態を示す概略構成図である。頭部装着具40は、眼鏡形状を有し、両目の周囲に対面する左右一対の環状リム部401、左右の環状リム部401を中間で連結するブリッジ部402、及び左右の環状リム部401の外側から後方に延びる耳賭け部(頭部固定部)に相当するテンプル部403を備えている。右側の環状リム部401の裏面側の上部、右部、下部及び左部には、電極E1,E2,E3,E4Rが取付けられている。同様に、左側の環状リム部401の裏面側の上部、右部、下部及び左部には、電極E7,E4L,E5,E6が取付けられている。また、必要に応じて、左右のテンプル部403の先端対向面側には、共通電極としての電極E11,E12が取付けられている。電極E11,E12は、耳の直ぐ後部乃至は首筋に当接する。かかる電極E1〜E7,E11,E12は、頭部装着具40を装着した状態で、皮膚に所要圧で当接するように、例えば適宜の嵩(厚み)を有するように形成されている。電極E1,E2,E3,E4R、及び電極E7,E4L,E5,E6は、
図1の電極E1〜E7に対応する。なお、電極E4R,E4Lは、
図1の電極E4を左右で分けたものである。回路部200は、電極Eに刺激用の電流信号を出力する。
【0048】
電極E11,E12を眼球12から離れた位置に設けることで、電極E1〜E4Rと電極E11との間、電極E4L〜E7と電極E12との間に電流を印加することで、網膜123全体に電流が流れるようになって、視野全体に眼内閃光を惹起させるような視覚情報の提示が可能となる。また、電極E1〜E4Rのいずれかと電極E11との間、電極E4L〜E7のいずれかと電極E12との間に電流を印加すると、眼球の内側乃至は眼球の後方位置に閃光が惹起されたかの感覚を生じる。従って、奥行き方向に対しても眼内閃光が可能となる。このような現象は、光学的な視覚情報の提示手法では実現できない。さらに、左右の電極と対応する共通電極とを利用して左右に位置ずれ状態で眼内閃光を発生させると、眼内閃光の光源を立体的に視覚提示することが可能になると考えられる。これらの場合、電流信号は交流の他、直流であってもよい。
【0049】
さらに、多数の電極に、例えば電極E1〜E4Rと電極E11との間、電極E4L〜E7と電極E12との間に電流を印加する場合において、電気刺激の周波数が100Hz以上の高い場合、視細胞の発火時間が充分に確保できなくなり、視野が暗くなることが分かった。視野が暗くなると、その分、瞳孔がより開くことから、例えば、急に暗空間に入るような場合に、高い周波数での電気刺激を与えて、予め瞳孔を開くように制御することで、暗空間での視覚が確保可能となる。
【0050】
電極E11,E12の位置は、耳の直ぐ後ろ乃至は首筋に限定されず、眼球12からある程度離れた身体位置、例えば後頭部に対応する位置でもよい。
【0051】
頭部装着具40は、それ自身で、視野内の眼内閃光の位置、移動、図形乃至はパターン、色、及び視野全体での閃光等を組み合わせて利用することで、電気刺激による視覚情報の提示が可能となるため、例えば、感光の点以外で網膜及び視神経が正常であれば、視覚障害者に視覚情報を提供することが可能となる。
【0052】
また、頭部装着具40は、眼鏡型の他、HMDのようなゴーグル型にも同様に適用可能であり、かかる頭部装着具40を利用することで、例えばゲーム装置への適用が可能となる。
【0053】
図16は、HMDにも適用可能なゲーム装置に眼内閃光による視覚情報の提示技術を応用したものである。
図16(a)において、ゲーム装置60は、制御部61を備え、制御部61に、画像を表示するモニタ62及びプレーヤからの操作を受け付ける操作部63が接続されている。制御部61は、マイクロコンピュータで構成され、記憶部610と接続されている。記憶部610は、ゲームプログラム、ゲームに必要な画像その他のデータを記憶するメモリエリアとワークエリアとを備えている。制御部61は、ゲームプログラムを実行することで、ゲーム画像表示制御部611、ゲーム進行制御部612及び眼内閃光制御部613として機能する。電極部41は、例えば
図15に示す頭部装着具40を使用することができる。プレーヤは、電極部41を装着してゲームを行う。
【0054】
ゲーム画像表示制御部611は、例えば一人称視点のゲーム画像を生成し、生成したゲーム画像をモニタ62に出力する。ゲーム進行制御部612は、操作部63からの操作内容を受け付けて、ゲームプログラムに従ってゲームを進行する処理を行う。本ゲームは、例えばプレーヤが搭乗するバイクによるレースゲームを想定したもので、モニタ62には、一人称視点のゲーム画像が表示され、走行路が表示されている。眼内閃光制御部613は、例えば走行路の所定の位置に達した時点で次に曲がる方向を提示したり、あるいは走行路のランダムな位置で障害物が飛び出すなどの危険な方向を提示したりするために用いられる。眼内閃光制御部613は、ゲーム進行制御部612からのゲーム進行に伴って生成される提示指示を受けると、回路部200に、対応する電極組を選択する指示信号及び刺激のための電流出力指示信号を出力して電極部41を動作させる。プレーヤは、視覚内に眼内閃光を感知することで、ゲームを進めることができる。ゲーム状況に応じた種々の眼内閃光の光源を種々の態様で惹起させるようにすれば、ゲームに種々の情報を多元的に盛り込むことが可能となる。
【0055】
また、
図16に破線で示すように、モニタ62及び電極部41に代えて、HMD64を用いてもよい。HMD64は、顔面にモニタ641を備え、さらに装着状態で顔面に当接する、電極部41に相当する電極部642を備えている。
図16(b)はプレーヤの視野13を示し、モニタ641からの光学的なゲーム画面上に、所定位置ここでは右側に眼内閃光14が惹起されている。HMD64を採用する態様では、同一視野に対して光学的な画像情報と電気刺激による眼内閃光とが提示される。
【0056】
図17は、眼内閃光発生装置が適用される情報提示装置の構成を示す図である。情報提示装置70としては携帯式の情報処理装置であるタブレット及びスマートフォンを想定している。情報提示装置70は、GPS(Global Positioning System)等を介して取得した位置情報を利用することで種々のサービス、例えば地図表示、行き先案内等を提供する。情報提示装置70は、マイクロコンピュータから構成される制御部71を備え、制御部71には、画像を表示する表示部72、ユーザの操作を受付ける操作部73、図外の外部データサーバ等から地図情報を受信するための通信部74、及び測位センサ75が接続されている。測位センサ75は、公知のように、GPS及び方位センサ(必要に応じて俯仰角が計測可能な加速度センサ)を含み、情報提示装置70の位置情報及び向き(方位)を計測する。また、制御部71には、制御プログラムを記憶する記憶部710、及び
図15に示すような頭部装着具40を用いた電極部42が接続されている。
【0057】
制御部71は、制御プログラムを実行することで、地図情報取得部711、位置向き情報取得部712、地図画像表示制御部713及び眼内閃光指示部714を備えている。
【0058】
地図情報取得部711は、通信部74を介してネットワーク上にある外部データサーバ等から地図情報を取得する。位置向き情報取得部712は、測位センサ75からの位置情報及び向きの情報を取得する。地図画像表示制御部713は、地図情報及び位置向き情報から自己の現在位置を含む地図画像を作成し、表示部72に出力する。眼内閃光指示部714は、行き先情報が操作部73を介して入力された場合に、回路部200に、現在の向きを基準にして行き先方向に対応する電極組を選択する指示信号及び刺激のための電流出力指示信号を出力して電極部42を動作させる。なお、ユーザの向きは、情報提示装置70の向きと一致した向きとして予め対応付けておけば取得することができるので、行き先に対応した位置(左右前後など)への眼内閃光が実現可能となる。
【0059】
なお、
図17に代えて、眼内閃光指示部714、表示部72及び電極部52を備えるHMDを採用し、HMDの視野内に地図情報と電気刺激による視覚情報とを表示する態様としてもよい。また、HMDには地図画像を表示せず、シースルー型のHMD、あるいは眼鏡型の電極部42で、実像の視野内に電気刺激による視覚情報を表示する態様としてもよい。
【0060】
また、情報提示装置70は、以下のような利用態様が考えられる。例えば、GPSを搭載している車両が、周辺に自車の車両位置情報を連続的に発信している交通システムに適用できる。この場合、情報提示装置70は、前記車両からの車両位置情報を受信する受信部を備え、車両からの車両位置情報を受信した場合、情報提示装置70の現在位置情報と受信した車両位置情報とから、情報提示装置70すなわちユーザに対して車両が近づいてくる方向に眼内閃光を起こさせるようにして、危険予測の注意喚起を図る。
【0061】
また、多数の電極に、例えば電極E1〜E4Rと電極E11との間、電極E4L〜E7と電極E12との間に電流を印加する場合において、網膜電気刺激の刺激周波数を高くしていくと、前述したように、100Hz程度から眼内閃光は見えにくくなり、視野が通常よりも暗くなって行くように見える。このような暗い視野を呈示したときに、人は反射的に瞳孔を収縮させる瞳孔反射が誘発されると考えられる。このような瞳孔反射を利用した応用例として、車載のGPSと網膜電気刺激を連動させておくことで、位置情報と地図情報とからトンネルに入る時点を予測し、トンネルに入る前に予め瞳孔を収縮させておいて暗順応に要する時間を事前に確保し得るシステム等に適用することができる。
【0062】
次に、電気刺激による他の態様である、涙などの漿液分泌を促す手法について説明する。涙などの漿液分泌を促す手法として、従来、外科手術を行い涙腺に電極を埋め込むインプラント方式の涙分泌促進デバイスが提案されている(US Patent Application forIMPLANTABLE NASAL STIMULATOR SYSTEMS AND METHODS Patent Application (Application #20160114163))。これは、眼球の水分が少なくなり、霞目や目の痛みが伴うドライアイ患者のためのデバイスである。このデバイスは体内に埋め込むインプラント方式であるため、外科手術が必要であるほか、電源の供給や感染症の予防など実用化するためには解決すべき課題が少なくない。
【0063】
一方、以下に説明する電気刺激手法は、皮膚上に設置した電極から電気刺激を行うことで涙分泌を促進させるものである。このため、従来手法と比較して簡易、安全かつ安価に利用することが可能である。また、本手法では、涙腺のある眉尻の下方に電極を設置し、さらに、対となる電極を顔面神経の走査に沿って設置する。涙腺の神経支配をしている顔面神経上に電極を設置して電流を印加することにより、涙腺からの漿液(涙液)の分泌を促進する。この電極配置によって電流を印加し、その時に眼球を動かせば被験者の涙分泌がより促進され得る。
【0064】
類似の、神経束への刺激としては尺骨神経への電気刺激が挙げられる。尺骨神経は腕にある神経束であり、この神経束の走査に沿って電極を設置して電流を印加することで感覚が手に感覚が惹起する。この尺骨神経への電気刺激と同様に、涙の分泌を促進する電気刺激は涙腺へと繋がる神経束である顔面神経上に片方の電極を配置して電流を印加する。また一方の電極は涙腺上にある。これらのことから、涙腺電気刺激は顔面神経を発火させることで涙腺の働きを促進していると考えられる。
【0065】
一方で、涙腺に繋がる神経には眼窩裂から眼窩内に入り、涙腺へと接続する涙腺神経がある。この涙腺神経は三叉神経の枝であり、涙腺や結膜等を支配する神経である。
図18(a)(b)において、眼球12の外側斜め上部には、眼窩部の涙腺151があり、涙腺151から眼球12に向かって排出管152が複数本ある。一方、眼球12の鼻側には上下の涙小管153があり、その出口側に鼻涙管154がある。涙は、涙腺151から流れ出て、眼球12の表面を洗って、涙小管153、鼻涙管154を経て流れる。顔面側部には三叉神経155があり、そこからの一つの枝として顔面側部を経て涙腺151まで伸びる顔面神経である涙腺神経156がある。
【0066】
目に異物が入ったとき等は、この涙腺神経156を含めた三叉神経155が異物等を検知し、涙の分泌を促進する。涙腺電気刺激により、電流を印加すると眼窩内に電流が流れる。この電流に対して眼球を、好ましくは上下方向に動かすことで、眼窩内に流れる電流の密度が高い位置に、涙腺神経156を効果的に動かすことができると考えられる。これにより、神経系は、電流を目に入った異物の情報、あるいは涙を分泌する指令と錯覚し、涙の分泌を促進するものと考えられる。
【0067】
図19は、電極の設置位置を示している。右の眼球12に対する2個の電極E31,E32は、涙腺神経156の走査に沿って適宜の間隔を置いて設置されている。設置は接着材で直接貼着する方法でもよいし、
図20に示す頭部装着具80を利用して当接可能にしてもよい。
【0068】
図20に示す頭部装着具80は、
図15に示す頭部装着具40に類似する構成である。頭部装着具80は、眼鏡形状を有し、両目の周囲に対面する、左右一対の環状リム部401、左右の環状リム部401を中央で連結するブリッジ部402、及び左右の環状リム部401の外側から後方に延びる耳賭け部に相当するテンプル部403を備えている。右側の環状リム部401の上縁であって、正面から外側にずらした位置に電極E21が、テンプル部403の付け根側に電極E22が取付けられている。同様に、左側の環状リム部401の上縁であって、正面から外側にずらした位置に電極E31が、テンプル部403の付け根側に電極E32が取付けられている。なお、電極E21,E31もテンプル部403に設けてもよい。これによって、電極E21,E22及び電極E31,E32は、涙腺神経156の走査に沿って適宜の間隔を置いて設置される。各電極E21,E22,E31,E32は、電気刺激装置90に電気的に接続され、本実施形態では、眼球側すなわち電極E21,E31が負極となる向きで、刺激用の電流信号が入力されるようになっている。なお、涙液電気刺激のための電流信号は、0.数mA〜数mAの電流値、例えば3.0mAであり、直流方形波が使用される。印加される方形波電流は、連続的でもよいし、間欠的でもよいが、実験では、3.0mAの条件で、刺激開始から涙液の分泌が目視で確認できるまでに約20秒程度を要したことから、同様な時間印加すればよい。
【0069】
また、刺激用の電流信号は、前記とは逆向きに流してもよく、あるいは交流信号でもよい。さらに、電流信号の波形は、方形波の他、のこぎり波や三角波等でもよい。
【0070】
涙は、眼窩に侵入した異物や汚れを洗い流す効果があり、眼球を湿潤な状態にしておくことで眼球を保護している。さらに、激しい感情の変化は涙の分泌を伴い、この涙を流すことはストレスの軽減効果があるとされている。また、近年では、ドライアイと言われる涙の分泌不足による眼球の渇きが目の疲労や痛み、霞目などを引き起こすことが知られており、電気刺激は、このドライアイの対策として非常に有効に働くと考えられる。
【0071】
さらに、この涙を流すことはある種のエンタテイメント的な側面を持っており、映画では感動を呼ぶ作品は根強い人気があり、昨今のゲームでは、ユーザに感動をもたらす(感涙を促す)ことを目的としたものも存在する。これらのゲームや映画などに、この電気刺激技術を適用することでユーザの感情をより強く揺さぶることも可能であると考えられる。また、本技術は、軽量安価な電気刺激装置のみで涙を分泌可能にすることから、社会への普及に対して課題であると考えられる、導入コストや安全性に対する課題をクリアしているといえる。よって、医療用にも家庭用にも導入が容易である。
【0072】
このように、本技術は、電極Eを直接皮膚に貼着する態様、
図20のような眼鏡型、さらにHMDを利用した態様でよく、ドライアイ対策用デバイス、ゲーム装置、携帯端末、映画鑑賞補助器等に適用することが可能である。例えば電気刺激装置90に操作部を設け、マニュアル指示で刺激用電流信号を出力するようにしてもよく、あるいは、
図16に示した装置において、予め設定されたタイミングで刺激用電流信号を出力するようにしてもよい。
【0073】
以上のように、涙腺電気刺激装置は、顔面の涙腺神経の神経束の走査に沿って所定間隔を置いて皮膚上に設置される一対の電極と、予め設定された電流信号を前記一対の電極間に印加する信号出力部とを備えたものである。これにより、涙腺からの漿液(涙液)の分泌が促進される。また、電流印加時に、眼球を、好ましくは上下に動かせば涙分泌がより促進され得る。さらに、涙腺電気刺激装置をゲーム状況や映画内容と連動させることで、ショックな場面、悲しい場面等で涙を流させる演出が可能となる。また、涙腺電気刺激装置は、左右の涙腺のうち、少なくとも一方に設置することも可能である。