特許第6804520号(P6804520)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許68045205−ブロモメチル−1−ベンゾチオフェンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804520
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】5−ブロモメチル−1−ベンゾチオフェンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 333/54 20060101AFI20201214BHJP
【FI】
   C07D333/54
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-509430(P2018-509430)
(86)(22)【出願日】2017年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2017013206
(87)【国際公開番号】WO2017170850
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2020年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2016-71574(P2016-71574)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「創薬基盤推進研究事業」「技術供与のため、光フローハロゲン化技術の高度化実用化を目指した研究」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000149837
【氏名又は名称】富士フイルム富山化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】荒井 強
【審査官】 高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−532727(JP,A)
【文献】 特表2003−523994(JP,A)
【文献】 特表2001−523658(JP,A)
【文献】 特開2013−121923(JP,A)
【文献】 国際公開第03/101983(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/104088(WO,A1)
【文献】 特表2009−538303(JP,A)
【文献】 特表2000−515193(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/125911(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0093526(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)5−メチル−1−ベンゾチオフェン、臭素化剤および溶媒を反応装置に導入する工程、
(2)反応装置の中へ、波長領域200〜780nmの光を照射する工程、ならびに、
(3)5−ブロモメチル−1−ベンゾチオフェンを反応装置から回収する工程、
を含む、5−ブロモメチル−1−ベンゾチオフェンの製造方法であって、
反応装置が、フロー式光化学反応装置であり、
溶媒が、エステル類から選ばれる一種または二種以上である、製造方法。
【請求項2】
臭素化剤が、臭素、N−ブロモカプロラクタム、N−ブロモスクシンイミド、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、臭素−ピリジン錯体および臭化銅(II)から選ばれる一種または二種以上である、請求項1に記載の、製造方法。
【請求項3】
臭素化剤が、N−ブロモスクシンイミドおよび1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインから選ばれる一種または二種である、請求項1に記載の、製造方法。
【請求項4】
臭素化剤が、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインである、請求項1に記載の、製造方法。
【請求項5】
溶媒が、酢酸メチルおよび酢酸エチルから選ばれる一種または二種である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の、製造方法。
【請求項6】
反応温度が、5〜70℃である、請求項1〜のいずれか一項に記載の、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の製造中間体として有用な、5−ブロモメチル−1−ベンゾチオフェンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1−(3−(2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)エトキシ)プロピル)アゼチジン−3−オールは、中枢および末梢神経の疾病の治療薬として有用な化合物である。この化合物は、たとえば、1−ベンゾチオフェン−5−酢酸から製造される(特許文献1)。また、1−ベンゾチオフェン−5−酢酸は、たとえば、5−ブロモメチル−1−ベンゾチオフェン(以下、「化合物A」と称することがある。)から製造される(非特許文献1)。
化合物Aは、医薬の中間体として、有用な化合物である。
一方、化合物Aの製造方法として、5−メチル−1−ベンゾチオフェン(以下、「化合物B」と称することがある。)を臭素化する方法が知られている(特許文献2〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2006/104088号パンフレット
【特許文献2】国際公開2008/073142号パンフレット
【特許文献3】特開2006−111553号公報
【特許文献4】国際公開2005/092885号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・メディシナル・ケミストリー(J.Med.Chem.)、1997年、第40巻、1049−1062頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2〜4に記載の、化合物Aの製造法は、以下の欠点を有する。(1)四塩化炭素は有毒である。(2)そのため、四塩化炭素は使用が禁止されている。(3)副生成物として5−ジブロモメチル−1−ベンゾチオフェンが生成する。(4)そのため、煩雑な精製工程が必要である。
本発明の課題は、化合物Aの人体に影響がなく、簡便な化合物Aの工業的製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような状況下、本発明者らは鋭意研究を行った結果、化合物Bの臭素化工程において、従来のバッチ式反応をフロー式反応に変換することにより、簡便な操作で、化合物Aを製造できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下を提供する。
【0007】
[1] (1)5−メチル−1−ベンゾチオフェン、臭素化剤および溶媒を反応装置に導入する工程、(2)反応装置の中へ、波長領域200〜780nmの光を照射する工程、ならびに、(3)5−ブロモメチル−1−ベンゾチオフェンを反応装置から回収する工程、を含む、5−ブロモメチル−1−ベンゾチオフェンの製造方法であって、反応装置が、フロー式光化学反応装置であり、溶媒が、エステル類およびハロゲン化炭化水素類から選ばれる一種または二種以上である、製造方法。
【0008】
[2] 臭素化剤が、臭素、N−ブロモカプロラクタム、N−ブロモスクシンイミド、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、臭素−ピリジン錯体および臭化銅(II)から選ばれる一種または二種以上である、[1]に記載の、製造方法。
[3] 臭素化剤が、N−ブロモスクシンイミドおよび1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインから選ばれる一種または二種である、[1]に記載の、製造方法。
[4] 臭素化剤が、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインである、[1]に記載の、製造方法。
【0009】
[5] 溶媒が、エステル類から選ばれる一種または二種以上である、[1]〜[4]のいずれか一に記載の、製造方法。
[6] 溶媒が、酢酸メチルおよび酢酸エチルから選ばれる一種または二種である、[1]〜[4]のいずれか一に記載の、製造方法。
[7] 反応温度が、5〜70℃である、[1]〜[6]のいずれか一に記載の、製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法は、簡便な操作で、化合物Bから化合物Aを製造する方法である。本発明の製造方法は、以下の利点を有する。(1)四塩化炭素を使用しない。(2)そのため、人体に対して安全である。(3)副生成物である5−ジブロモメチル−1−ベンゾチオフェンが生成しにくい。(3)そのため、煩雑な精製工程を必要としない。(5)収率が高い。(6)化合物Aの純度が高い。
本発明の製造方法は、化合物Aの工業的製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に使用されるフロー式光化学反応装置の一態様を示す図である。
図2】本発明に使用されるフロー式光化学反応装置の別の一態様を示す図である。
【符号の説明】
【0012】
1 外筒
2 内筒
3 光源
4 導入部
5 回収部
6 反応管
7 筒
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について以下に詳述する。
本明細書中に使用される%は、特に断りのない限り、質量%を意味する。
【0014】
ハロゲン化炭化水素類とは、たとえば、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエチレンまたはテトラクロロエチレンなどを意味する。
エステル類とは、たとえば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルまたは酢酸イソアミルなどを意味する。
【0015】
次に本発明の製造方法について説明する。
【0016】
[製造方法1]
【0017】
化合物Aは、光の照射下、化合物Bに臭素化剤を反応させることにより、製造することができる。
この反応は、フロー式光化学反応装置を用いて行われる。本発明の製造方法は、次の3つの工程を含む。
【0018】
<工程1>化合物B、臭素化剤および溶媒を反応装置に導入する工程
この工程は、化合物B、臭素化剤および溶媒を反応装置に導入する工程である。
この工程としては、たとえば、
(工程1A)化合物Bおよび溶媒を含む混合物ならびに臭素化剤および溶媒を含む混合物を反応装置に別々に導入しながら、反応装置内で混合する工程、
(工程1B)化合物B、臭素化剤および溶媒を含む混合物を調製した後、反応装置に導入する工程、
が挙げられる。
好ましい工程としては、(工程1B)が挙げられる。
より好ましい工程としては、
(a)化合物Bおよび溶媒を含む混合物を調製する工程、
(b)臭素化剤および溶媒を含む混合物を調製する工程、
(c)(a)および(b)で得られた混合物を混合する工程、
(d)(c)で得られた混合物を反応装置に導入する工程、
を含む工程が挙げられる。
化合物Bおよび溶媒を含む混合物は、化合物Bおよび溶媒を含む溶液であることが好ましい。
臭素化剤および溶媒を含む混合物は、臭素化剤および溶媒を含む溶液であることが好ましい。
化合物B、臭素化剤および溶媒を含む混合物は、化合物B、臭素化剤および溶媒を含む溶液であることが好ましい。
(a)および(b)で得られた混合物は、(a)および(b)で得られた溶液であることが好ましい。
(c)で得られた混合物は、(c)で得られた溶液であることが好ましい。
(c)の工程は、(d)の工程の直前で行うことが好ましい。
【0019】
この反応に使用される溶媒としては、反応に影響を与えない溶媒であれば、特に限定されないが、好ましい溶媒としては、エステル類およびハロゲン化炭化水素類から選ばれる一種または二種以上が挙げられ、エステル類から選ばれる一種または二種以上がより好ましく、酢酸メチルおよび酢酸エチルから選ばれる一種または二種がさらに好ましい。
【0020】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、化合物Bに対して、1〜200倍量(v/w)であればよく、1〜5倍量(v/w)が好ましい。
化合物Bは、溶解していることが好ましい。
【0021】
この反応に使用される臭素化剤としては、臭素、N−ブロモカプロラクタム、N−ブロモスクシンイミド(以下、「NBS」と称することもある。)、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン(以下、「DBH」と称することもある。)、N−ブロモアセトアミド、N−ブロモフタルイミド、N−ブロモマレイミド、N−ブロモベンゼンスルホンアミド、臭素−ピリジン錯体および臭化銅(II)から選ばれる一種または二種以上が挙げられ、N−ブロモスクシンイミドおよび1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインから選ばれる一種または二種が好ましく、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインがより好ましい。
臭素化剤の使用量は、臭素化剤の種類によって異なる。
たとえば、NBSを用いる場合、NBSの使用量は、化合物Bに対して、0.7〜1.3等量であればよく、0.8〜1.2等量が好ましく、0.9〜1.2等量がより好ましく、1.0〜1.2等量がさらに好ましい。
たとえば、DBHを用いる場合、化合物Bに対して、0.35〜0.65等量であればよく、0.40〜0.60等量が好ましく、0.45〜0.60等量がより好ましく、0.50〜0.60等量がさらに好ましい。
【0022】
臭素化剤および溶媒を含む混合物を調製する場合、好ましい溶媒は上記と同様である。
溶媒の使用量は、特に限定されないが、臭素化剤に対して、5〜200倍量(v/w)であればよく、10〜50倍量(v/w)が好ましい。
臭素化剤は、溶解していることが好ましい。
臭素化剤の使用量が、化合物Bに対して、上記の値になるように、臭素化剤の濃度を調整することが好ましい。
【0023】
<工程2>反応装置の中へ、波長領域200〜780nmの光を照射する工程
この工程は、光の照射下、反応装置に導入される化合物Bに臭素化剤を反応させる工程である。
化合物Bおよび臭素化剤を含む混合物に、光を照射する。光の照射には、光源を使用することが好ましい。
光源としては、キセノンランプ、太陽光、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプおよびLED(発光ダイオード)などが挙げられ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプおよびLEDが好ましい。
照射する光は、波長領域200〜780nmの光であればよく、波長領域250〜500nmの光が好ましく、波長領域300〜450nmの光がより好ましい。
反応温度は、5〜70℃であればよく、20〜60℃が好ましい。
反応時間は、0.5〜30分であればよく、0.7〜15分が好ましく、1〜5分がより好ましい。フロー式光化学反応装置を用いて行われるため、反応時間とは、反応装置内を通過する時間である。反応時間が上記の値になるように、導入速度を調整することが好ましい。
反応時間は、たとえば、反応が行われる空間容積と導入速度から求めることができる。
【0024】
<工程3>化合物Aを反応装置から回収する工程
この工程は、反応によって生成した化合物Aを反応装置から回収する工程である。
化合物Aは、濃縮、留去、抽出、晶出および/またはカラムクロマトグラフィーなどの常法に従って、化合物Aを含む混合物から単離することができる。
化合物Aを用いて、さらに次の反応を行う場合、化合物Aは、単離することもできるが、単離せずに、そのまま次の工程に用いてもよい。
【0025】
本発明の製造方法は、フロー式光化学反応装置を用いて行われる。
本発明に使用されるフロー式光化学反応装置の一態様を図1に示す。
本発明に使用されるフロー式光化学反応装置は、たとえば、外筒、内筒および光源を含む。
外筒は、円筒形であることが好ましく、導入部および回収部を含む。
内筒は、光が透過できるように、透明な円筒形であることが好ましく、その内側に光源を含む。
外筒および内筒によって区画された間隙は、閉鎖され、この閉鎖された間隙で反応が行われる。
化合物Bおよび臭素化剤を含む混合物を外筒の導入部から反応装置に導入し、光を照射して反応を行い、化合物Aを含む混合物を回収部から回収する。光源から照射された光を効率よく反応に寄与させるため、外筒の材質に光反射効率の高いもの(たとえば、アルミニウム)を選択してもよい。また、外筒の外側に光反射材を設けてもよい。
外筒および内筒の大きさは、特に制限されない。反応温度、反応時間および導入速度などを考慮して設定すればよい。
【0026】
本発明に使用されるフロー式光化学反応装置の別の一態様を図2に示す。
本発明に使用されるフロー式光化学反応装置は、たとえば、反応管、筒および光源を含む。
反応管は、筒に巻き付けられたチューブであり、光が透過できるように、透明であることが好ましい。反応管の一方が導入部であり、他方が回収部である。
筒は、光が透過できるように、透明な円筒形であることが好ましく、その内側に光源を含む。
化合物Bおよび臭素化剤を含む混合物を反応管に導入し、光を照射して反応を行い、化合物Aを含む混合物を回収する。
反応管および筒の大きさは、特に制限されない。反応温度、反応時間および導入速度などを考慮して設定すればよい。
【0027】
本発明に使用されるフロー式光化学反応装置のさらに別の一態様として、たとえば、マイクロリアクターを挙げることもできる。
【0028】
次に、本発明の製造方法を試験例、参考例、実施例、比較例および製造例で説明するが、本発明はこれらにより、限定されるものではない。
【0029】
略号は、以下の意味を有する。
Ac:アセチル
AcOEt:酢酸エチル
AcOMe:酢酸メチル
DBH:1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン
eq:等量
Et:エチル
FEP:テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
LED:発光ダイオード
Me:メチル
NBS:N−ブロモスクシンイミド
THF:テトラヒドロフラン
【0030】
特に記載のない場合、HPLC測定条件は、以下のとおりである。
検出器:紫外吸光光度計
測定波長:230nm
カラム:Symmetry C18 5μm、内径4.6×長さ150mm
カラム温度:40℃
移動相:50%アセトニトリル緩衝溶液(0.05mol/Lリン酸緩衝溶液(pH7.0))
流量:1mL/分
【0031】
NMRスペクトルは、内部基準としてテトラメチルシランを用い、JNM−AL400型(JEOL社製)を用いて測定し、全δ値をppmで示した。
【0032】
試験例1
バッチ式反応を用いて化合物Bから化合物Aを製造した。反応混合物をHPLCで分析し、各化合物のピーク面積比を求めた。結果を以下に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
比較例1〜3は、ラジカル発生剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)を使用し、光を使用しないバッチ式反応である。
比較例4は、高圧水銀ランプを使用したバッチ式反応である。
【0035】
反応溶媒としてベンゼンを用いた場合(比較例1)、多量の化合物Cが生成した。
反応溶媒としてアセトニトリルを用いた場合(比較例2)、多量の化合物Dが生成した。
反応溶媒として酢酸エチルを用いた場合(比較例3)、化合物Aのピーク面積比は78%であり、副生物が少なかった。
反応溶媒として酢酸エチルを用いて、高圧水銀ランプを使用したバッチ式反応の場合(比較例4)、ラジカル発生剤を必要とせず、反応温度を低下させることが可能になった。また、化合物Aのピーク面積比は71%であり、副生物が少なかった。
これまで、化合物Aを製造する方法において、反応溶媒として四塩化炭素が用いられてきたが、エステル類を用いても反応が進行することが見出された。さらに、高圧水銀ランプを使用した場合、ラジカル発生剤が必要でないこと、反応温度を低下させることができること、副生物が少ないことが見出された。
【0036】
試験例2
フロー式反応を用いて化合物Bから化合物Aを製造した。反応混合物をHPLCで分析し、各化合物のピーク面積比を求めた。結果を以下に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
実施例1は、反応溶媒として酢酸エチルを、臭素化剤としてNBSを用いた反応である。
実施例2〜7は、反応溶媒として酢酸エチルまたは酢酸メチルを、臭素化剤としてDBHを用いた反応である。
比較例5は、反応溶媒としてTHFを、臭素化剤としてDBHを用いた反応である。
これらは、いずれも高圧水銀ランプを用いたフロー式光化学反応である。
【0039】
反応溶媒としてTHFを用いた場合(比較例5)、反応は進行しなかった。
一方、実施例1〜7の反応では、化合物Aのピーク面積比は80%以上であり、副生物が少なかった。また、バッチ式反応(比較例1〜4)に比べ、反応温度を低下させることができ、反応時間を大幅に短縮させることが可能になった。
フロー式光化学反応は、化合物Aの工業的製造方法として優れていた。
【0040】
試験例3
フロー式反応を用いて化合物Bから化合物Aを製造した。反応混合物をHPLCで分析し、各化合物のピーク面積比を求めた。結果を以下に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
実施例8〜10は、光源としてLEDを用いたフロー式光化学反応である。
いずれも、化合物Aのピーク面積比は79%以上であり、副生物が少なかった。
フロー式光化学反応は、化合物Aの工業的製造方法として優れていた。
【0043】
実施例1

5−メチル−1−ベンゾチオフェン(化合物B)1.1gの酢酸エチル3.3mL溶液を調製した(溶液I)。別途、NBS0.66gの酢酸エチル25mL溶液を調製した(溶液II)。溶液Iおよび溶液IIを、NBSが化合物Bに対して1.1等量となるように流量を調整し、それぞれシリンジポンプにて、内径0.5mmのFEP製チューブが接続したインラインミキサーに送液した。インラインミキサーで混合した後、FEP製チューブに高圧水銀ランプ(ウシオ電機製UM―102)を照射した。なお、高圧水銀ランプに照射されている区間を通過する平均滞留時間を2分間とした。また、これらインラインミキサーおよび反応管を巻き付けた高圧水銀ランプをウォーターバスに浸漬させ、水温を30℃に保持させた。得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は90%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表2に示す。
【0044】
実施例2

5−メチル−1−ベンゾチオフェン(化合物B)2.00gの酢酸エチル6mL溶液を調製した(溶液I)。別途、DBH3.18gの酢酸エチル90mL溶液を調製した(溶液II)。溶液Iおよび溶液IIを、DBHが化合物Bに対して0.55等量となるように流量を調整し、それぞれシリンジポンプにて、内径0.5mmのFEP製チューブが接続したインラインミキサーに送液した。インラインミキサーで混合した後、FEP製チューブに高圧水銀ランプ(ウシオ電機製UM―102)を照射した。なお、高圧水銀ランプに照射されている区間を通過する平均滞留時間を1分間とした。また、これらインラインミキサーおよび反応管を巻き付けた高圧水銀ランプをウォーターバスに浸漬させ、水温を10℃に保持させた。得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は80%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表2に示す。
【0045】
実施例3
平均滞留時間を2分間とし、ウォーターバスの水温を30℃に保持させた以外は、実施例2と同様にして、反応を行った。
得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は88%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表2に示す。
【0046】
実施例4
ウォーターバスの水温を40℃に保持させた以外は、実施例2と同様にして、反応を行った。
得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は86%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表2に示す。
【0047】
実施例5
5−メチル−1−ベンゾチオフェン(化合物B)3.00gの酢酸メチル4.5mL溶液を調製した(溶液I)。別途、DBH1.06gの酢酸メチル14mL溶液を調製した(溶液II)。溶液Iおよび溶液IIを、DBHが化合物Bに対して0.55等量となるように流量を調整し、それぞれシリンジポンプにて内径0.5mmのFEP製チューブが接続したインラインミキサーに送液した。インラインミキサーで混合した後、FEP製チューブに高圧水銀ランプ(ウシオ電機製UM―102)を照射した。なお、高圧水銀ランプに照射されている区間を通過する平均滞留時間を2分間とした。また、これらインラインミキサーおよび反応管を巻き付けた高圧水銀ランプをウォーターバスに浸漬させ、水温を30℃に保持させた。得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は85%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表2に示す。
【0048】
実施例6
平均滞留時間を1分間とし、ウォーターバスの水温を40℃に保持させた以外は、実施例5と同様にして、反応を行った。
得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は85%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表2に示す。
【0049】
実施例7
5−メチル−1−ベンゾチオフェン(化合物B)0.50gの塩化メチレン1.5mL溶液を調製した(溶液I)。別途、DBH0.53gの塩化メチレン15mL溶液を調製した(溶液II)。溶液Iおよび溶液IIを、DBHが化合物Bに対して0.55等量となるように流量を調整し、それぞれシリンジポンプにて内径0.5mmのFEP製チューブが接続したインラインミキサーに送液した。インラインミキサーで混合した後、FEP製チューブに高圧水銀ランプ(ウシオ電機製UM―102)を照射した。なお、高圧水銀ランプに照射されている区間を通過する平均滞留時間を1分間とした。また、これらインラインミキサーおよび反応管を巻き付けた高圧水銀ランプをウォーターバスに浸漬させ、水温を30℃に保持させた。得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は81%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表2に示す。
【0050】
実施例8
5−メチル−1−ベンゾチオフェン0.40gおよびDBH0.42gの酢酸エチル13mL溶液を調製した。得られた溶液をシリンジポンプにて、深さ1.0mm、幅1.0mmの矩形流路を形成した石英流路プレートに送液した。石英流路プレートに、室温で、LEDランプ(日機装製300nmLED3x3アレイ)を用いて波長300nmの光を照射した。なお、LEDランプに照射されている区間を通過する平均滞留時間を1分間とした。得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は79%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表3に示す。
【0051】
実施例9
光源としてLEDランプ(IntegrationTechnology製MZeroLED)を用いて波長365nmの光を照射した以外は、実施例8と同様にして、反応を行った。
得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は84%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表3に示す。
【0052】
実施例10
光源としてLEDランプ(松尾産業製233A)を用いて波長405nmの光を照射した以外は、実施例8と同様にして、反応を行った。
得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は86%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表3に示す。
【0053】
比較例1
NBS2.04gおよび2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)22mgのベンゼン15mL混合物に、80℃で5−メチル−1−ベンゾチオフェン1.00gおよび2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)22mgのベンゼン9mL溶液を30分間かけて滴下し、同温度下で30分間撹拌した。得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は、60%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表1に示す。
【0054】
比較例2
NBS410mgおよび2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)4mgのアセトニトリル3mL混合物に、80℃で5−メチル−1−ベンゾチオフェン200mgおよび2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)4mgのアセトニトリル3.6mL溶液を30分間かけて滴下し、同温度で30分間撹拌した。得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は、0.2%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表1に示す。
【0055】
比較例3
5−メチル−1−ベンゾチオフェン200mgおよびNBS410mgの酢酸エチル10mL混合物に、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)9mgを加え、還流下で30分間撹拌した。得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は、78%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表1に示す。
【0056】
比較例4
5−メチル−1−ベンゾチオフェン100mgおよびNBS200mgの酢酸エチル10mL混合物に、40〜45℃で高圧水銀ランプ(ウシオ電機製UM―102)を照射しながら60分間撹拌した。得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は71%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表1に示す。
【0057】
比較例5
5−メチル−1−ベンゾチオフェン600mgおよびDBH640mgのTHF6mL溶液を調製した。得られた溶液をシリンジポンプにて、内径0.5mmのFEP製チューブに送液し、高圧水銀ランプ(ウシオ電機製UM―102)を照射した。なお、高圧水銀ランプに照射されている区間を通過する平均滞留時間を1分間とした。また、反応管を巻き付けた高圧水銀ランプをウォーターバスに浸漬させ、水温を15〜20℃に保持させた。得られた反応液のHPLC測定を行ったところ、化合物Aのピーク面積比は2%であった。化合物B、化合物Cおよび化合物Dのピーク面積比を、表2に示す。
【0058】
参考例1

国際公開2012/073888号パンフレットに記載の方法を用いて、3−ブロモ−5−メチル−1−ベンゾチオフェンを得た。
【0059】
参考例2

比較例1と同様な方法で得られた化合物Aと化合物Cの混合物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製分離し、赤褐色固体の5−ジブロモメチル−1−ベンゾチオフェンを得た。
1H-NMR(CDCl3)δ値:7.45-7.52(2H,m),7.58(1H,d,J=8.3Hz),7.87(1H,d,J=8.5Hz),8.01(1H,d,J=5.6Hz),8.32(1H,s)
【0060】
製造例1

実施例6と同様な方法で、5−メチル−1−ベンゾチオフェン10.0gから化合物Aを製造した。得られた反応液を減圧下で溶媒を留去し、トルエンおよび水を加えた。有機層を分取し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を分取し、減圧下で溶媒を留去した。得られた残留物に、水25mL、トルエン25mL、炭酸カリウム5.59g、シアンカリウム5.27gおよびテトラブチルアンモニウムブロミド650mgを加え、60℃で90分間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、有機層を分取し、水で洗浄した。有機層を分取し、減圧下で溶媒を留去し、(1−ベンゾチオフェン−5−イル)アセトニトリルを得た。
【0061】
製造例2

製造例1で得られた(1−ベンゾチオフェン−5−イル)アセトニトリルに水15mL、プロピレングリコール10mLおよび水酸化ナトリウム6.48gを加え、90℃で3時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、水を加え、水層を分取した。得られた水層をトルエンで洗浄し、活性炭素0.5gを加え、50℃で10分間撹拌した。不溶物を濾去し、残渣を水で洗浄した。濾液と洗液を併せ、エタノール40mL、酢酸エチル6mL、水15mLおよび塩酸14mLを加えた。混合物を50℃まで加温した後、5℃まで冷却した。得られた混合物に、水を加え、固形物を濾取し、淡黄白色固体の(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸9.34gを得た。
1H-NMR(CDCl3)δ値:3.77(2H,s),7.24-7.32(1H,m),7.30(1H,d,J=5.5Hz),7.44(1H,d,J=5.5Hz),7.72-7.75(1H,m),7.84(1H,d,J=8.3Hz)
【0062】
製造例3

特開2012-046499号公報および国際公開2006/104088号パンフレットに記載の方法に従って、1−ベンゾチオフェン−5−酢酸を用いて、1−(3−(2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)エトキシ)プロピル)アゼチジン−3−オールを得た。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の製造方法は、医薬の製造中間体として有用な、5−ブロモメチル−1−ベンゾチオフェンの工業的製造方法として有用である。
図1
図2