特許第6805086号(P6805086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805086
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】導波路解析装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/23 20200101AFI20201214BHJP
   G02B 6/13 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   G06F17/50 612H
   G02B6/13
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-115679(P2017-115679)
(22)【出願日】2017年6月13日
(65)【公開番号】特開2019-3302(P2019-3302A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2019年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 武志
(72)【発明者】
【氏名】新家 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】谷山 秀昭
【審査官】 堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−131182(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0150512(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0093071(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F30/00−30/398
G02B6/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路を含む空間領域の電磁界分布を算出する導波路解析装置であって、
前記光導波路の光軸方向の電磁界分布を計算する導波モード解析部と、
前記光導波路の光軸と交差する複数の抽出面の面内に分布する導波モードを抽出するモード抽出部と、
前記光導波路の固有モードを計算する固有モード解析部と、
前記固有モードと前記複数の抽出面の各々の面内に分布する導波モードとの差分を数値化し、前記複数の抽出面の各々の座標成分と前記差分との関係を定式化するモード比較部と、
前記モード比較部が定式化した前記関係から、所定の導波モードが得られる導波路長を算出する導波路長設定部と、
前記導波路長設定部が算出した前記導波路長を有する前記光導波路を介して出射される電界を算出する出射電界解析部と
を備えることを特徴とする導波路解析装置。
【請求項2】
請求項1記載の導波路解析装置において、
前記モード比較部は、
前記差分の数値化を、統計学的検定法を用いて行い、
前記関係の定式化を、近似方法を用いて行う
ことを特徴とする導波路解析装置。
【請求項3】
請求項2記載の導波路解析装置において、
前記モード比較部は、
前記差分の数値化を、カイ二乗検定を用いて行い、
前記関係の定式化を、最小二乗法を用いて行う
ことを特徴とする導波路解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路を介する空間および時間領域における電磁界分布を計算する導波路解析装置に関する
【背景技術】
【0002】
通信の大容量化に伴い光通信機器を構成する光モジュールの小型化・高密度化が要求されている。このため、モジュールの構成要素である半導体レーザ、変調器、フォトダイオードなどの光素子や、レンズ、ファイバ、アイソレータなどの光部品を、モジュール内に搭載する光実装設計技術が一層重要となっている。光素子と光部品は、光導波路やレンズを介して光学的に結合するが、これらが配置される領域の電磁界分布を的確に計算することが、小型・高密度な光実装設計を行う上で重要である。
【0003】
光実装設計において結像特性を解析する場合、光線追跡法がよく用いられるが、波長サイズに近い領域や回折現象を考慮する場合、波動光学をベースにした方法が採られる。特に、光通信用の半導体レーザから出射される光強度分布を解析する場合、半導体レーザの導波路構造を反映して、電磁界分布を数値的に計算する方法が有効である(特許文献1参照)。
【0004】
例えば、図12に示す装置を用い、導波路長設定部401に、半導体レーザにおける光導波路の全領域を設定し、出射電界解析部402において、例えばマクスウェル方程式の直接的解法である時間領域有限差分(FDTD)法を用いて電界を計算する。これによれば、端面反射等、出射面境界領域の特性を反映した電界を、厳密に計算することが可能である。FDTD法を用いた導波路解析では、光導波路の固有モードを算出し、そのモードを光源として設定する方法がよく用いられ、導波モードへの収束性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3798025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、FDTD法は、解析領域の規模が大きくなるに従って、計算時間を長く要するため、半導体レーザの導波路長全体を設定すると解析時間が長くなるという問題がある。また、光導波路内部の光源として固有モードを設定する場合、固有モード計算方法に依存した数値計算上の誤差が伝搬距離に応じて発生し、光導波路を伝搬した後の導波モードへの収束性に影響を及ぼすという問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、光導波路を伝搬した後における端面のモードと固有モードとの差分が抑制された状態で、光導波路における電磁界分布の計算時間が短縮できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る導波路解析装置は、光導波路を含む空間領域の電磁界分布を算出する導波路解析装置であって、光導波路の光軸方向の電磁界分布を計算する導波モード解析部と、光導波路の光軸と交差する複数の抽出面の面内に分布する導波モードを抽出するモード抽出部と、光導波路の固有モードを計算する固有モード解析部と、固有モードと複数の抽出面の各々の面内に分布する導波モードとの差分を数値化し、複数の抽出面の各々の座標成分と差分との関係を定式化するモード比較部と、モード比較部が定式化した関係から、所定の導波モードが得られる導波路長を算出する導波路長設定部と、導波路長設定部が算出した導波路長を有する光導波路を介して出射される電界を算出する出射電界解析部とを備える。
【0009】
上記導波路解析装置において、モード比較部は、差分の数値化を、統計学的検定法を用いて行い、関係の定式化を、近似方法を用いて行う。例えば、モード比較部は、差分の数値化を、カイ二乗検定を用いて行い、関係の定式化を、最小二乗法を用いて行う。
【0010】
波路解析方法は、光導波路を含む空間領域の電磁界分布を算出する導波路解析方法であって、光導波路の光軸方向の電磁界分布を計算する第1ステップと、光導波路の光軸と交差する複数の抽出面の面内に分布する導波モードを抽出する第2ステップと、光導波路の固有モードを計算する第3ステップと、固有モードと複数の抽出面の各々の面内に分布する導波モードとの差分を数値化し、複数の抽出面の各々の座標成分と差分との関係を定式化する第4ステップと、第4ステップで定式化した関係から、所定の導波モードが得られる導波路長を算出する第5ステップと、第5ステップで算出した導波路長を有する光導波路を介して出射される電界を算出する第6ステップとを備える。
【0011】
上記導波路解析方法において、第4ステップでは、差分の数値化を、統計学的検定法を用いて行い、関係の定式化を、近似方法を用いて行う。例えば、第4ステップでは、差分の数値化を、カイ二乗検定を用いて行い、関係の定式化を、最小二乗法を用いて行う。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したことにより、本発明によれば、光導波路を伝搬した後における端面のモードと固有モードとの差分が抑制された状態で、光導波路における電磁界分布の計算時間が短縮できるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施の形態における導波路解析装置の構成を示す構成図である。
図2図2は、本発明の実施の形態における導波路解析方法を説明するためのフローチャートである。
図3図3は、電磁界分布の算出対象となる半導体レーザの光導波路201の構成を示す構成図である。
図4図4は、導波モード解析部101が計算した電磁界分布を導波モード強度分布Wとしてyz面で可視化した分布図である。
図5図5は、モード抽出部102が、対象とする光導波路の解析領域内に3つの抽出面S0,抽出面S1,抽出面S2を設定した状態を例示する説明図である。
図6図6は、固有モード解析部103が、対象とする光導波路の固有モード(0次固有モード)を計算した結果を示す特性図である。
図7図7は、モード比較部104の動作を説明するための説明図である。
図8図8は、モード比較部104が定式化した抽出面座標と偏差との関係を例示する特性図である。
図9図9は、出射電界解析部106が算出する出射電界の解析領域を説明するための説明図である。
図10図10は、出射領域の空間の媒質を空気とした場合の、出射電界解析部106による出射電界算出結果を示す特性図である。
図11図11は、本発明における導波路解析装置のハードウエア構成を示す構成図である。
図12図12は、光導波路の電磁界分布を数値的に計算する装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態における導波路解析装置ついて図1を参照して説明する。この導波路解析装置は、導波モード解析部101、モード抽出部102、固有モード解析部103、モード比較部104、導波路長算出部105、出射電界解析部106を備える。導波路解析装置は、光導波路を含む空間領域の電磁界分布を算出する。
【0015】
導波モード解析部101は、対象とする光導波路の電磁界分布を計算する。モード抽出部102は、光導波路の光軸と交差(例えば直交)する任意の複数の抽出面の面内に分布する導波モードを抽出する。固有モード解析部103は、光導波路の固有モードを計算する。モード比較部104は、固有モードと各抽出面の面内に分布する導波モードとの差分を数値化し、抽出面の座標成分と差分との関係を定式化する。
【0016】
導波路長算出部105は、モード比較部104が定式化した抽出面の座標成分と差分との関係から、所定の導波モードが得られる導波路長を算出する。出射電界解析部106は、導波路長算出部105が設定した導波路長を有する光導波路を介して出射される電界を算出する。対象とする光導波路は、半導体、絶縁体、導体、磁性体から成るいずれか1つ以上の材料、あるいはそれらの複合材料から構成されている。
【0017】
次に、本発明の実施の形態における導波路解析装置の動作例(導波路解析方法)について、図2を参照して説明する。なお、以下では、図3に示す半導体レーザの光導波路201における電磁界分布を算出して解析する場合を例に説明する。この光導波路201は、コア層202と、コア層202を挾むクラッド層203とを備える。コア層202は、活性層211と、活性層211を挾むガイド層212とから構成されている。
【0018】
活性層211は、例えば、化合物半導体から構成された量子井戸層であり、ガイド層212は、活性層211よりバンドギャップエネルギーが大きく、クラッド層203より屈折率の大きい化合物半導体から構成されている。また、クラッド層203は、例えば、InPから構成されている。この半導体レーザは、よく知られた分離閉じ込めヘテロ構造とされている。なお、図3において、y軸は、各層の積層方向である。またz軸は、光導波路201の導波方向(光軸方向)である。光導波路201は、光軸方向に対しては誘電率の変化が無い構造とする。
【0019】
まず、ステップS101で、導波モード解析部101が、光導波路201の光源設定面を左端とし、FDTD法を用いて光導波路201内の電磁界分布を計算する。図4に、導波モード解析部101が計算した電磁界分布を導波モード強度分布Wとし、yz面で可視化した結果を示す。
【0020】
次に、ステップS102で、モード抽出部102が、対象とする光導波路の解析領域内に、例えば、3つの抽出面S0,抽出面S1,抽出面S2を設定する。この状態について、図5に示す。各抽出面は、光軸に垂直とされている。抽出面S0の座標p0のz成分を、z0とする。抽出面S1の座標p1のz成分を、z1とする。抽出面S2の座標p2のz成分を、z2とする。モード抽出部102は、導波モード強度分布Wを参照し、抽出面S0,S1,S2の面内のモード分布M0,M1,M2を出力する。なお、ここでは、抽出するモードの数を3つとしているが、これに限らない。抽出するモードの数は、2つでもよく、4つでもよく、抽出数は任意で構わない。
【0021】
次に、ステップS103で、固有モード解析部103が、光導波路201の固有モードを計算し、0次のモードを選択して出力する。固有モード解析部103は、例えば、図6に例示するように、0次固有モードEGを出力する。
【0022】
次に、ステップS104で、モード比較部104が、0次固有モードEGと、モード分布M0,モード分布M1,モード分布M2をそれぞれ比較し、差分を数値化する。この状態を図7に例示する。図7に示すように、モード比較部104は、各モード分布において、実線で示す固有モードEGと、点線で示すモード分布M0,モード分布M1,モード分布M2のそれぞれにおいて、差分を数値化する。差分の数値化は、例えば、カイ二乗検定等の統計学的検定法によって行う。
【0023】
また、モード比較部104は、数値化された差分をそれぞれ、偏差e0,偏差e1,偏差e2とし、これらに対応する抽出面座標のz成分z0,z成分z1,z成分z2を用い、抽出面座標と偏差の関係を最小二乗法などの近似方法によって定式化する。定式化した抽出面座標と偏差との関係は、図8に例示するグラフのようになる。
【0024】
次に、ステップS105で、導波路長算出部105が、出射電界を計算するための導波路長Lを算出する。導波路長算出部105は、例えば、目標偏差をetとし、etに相当する抽出面座標をztとして導波路長Lを算出する。光源設定面の座標のz成分をzsとすると、導波路長Lは、L=zt−zsに設定される。ここでは、直交座標系を用いているが、曲線座標でも構わない。また、光導波路は、直線導波路に限らず、任意の曲線導波路を対象とする領域に設定しても構わない。
【0025】
次に、ステップS106で、出射電界解析部106が、導波路長算出部105で設定された導波路長を適用して出射電界を算出する。出射電界の解析領域について、図9を用いて説明する。光導波路201の導波路長Lは、モード比較部104が決定した値に設定され、層構造は、導波モード解析部101が用いた光導波路と同じ構造で設定されなければならない。光導波路201からの光が出射される空間204の媒体を設定し、光源を領域の左端に設定し、FDTD法を用いて、出射電界を計算する。図10に、出射領域の空間204の媒質を空気とした場合の、出射電界解析部106による出射電界解析(算出)結果を示す。
【0026】
なお、導波路解析装置は、図11に示すように、記憶部301と演算部302と入力部303と表示部304となどを備えたコンピュータ機器であり、記憶部301に展開されたプログラムにより演算部302が動作することで、上述した各機能が実現される。
【0027】
記憶部301には、まず、導波モード解析部の機能を実現するための導波モード解析プログラム311が記憶されている。また、記憶部301には、モード抽出部の機能を実現するためのモード抽出プログラム312が記憶されている。また、記憶部301には、固有モード解析部の機能を実現するための固有モード解析プログラム313が記憶されている。また、記憶部301には、モード比較部の機能を実現するためのモード比較プログラム314が記憶されている。また、記憶部301には、導波路長設定部の機能を実現するための導波路長設定プログラム315が記憶されている。また、記憶部301には、出射電界解析部の機能を実現するための出射電界解析プログラム316が記憶されている。
【0028】
演算部302は、パーソナルコンピュータまたはスーパーコンピュータなどの汎用コンピュータ、または専用コンピュータに内蔵されたCPUである。記憶部301は、コンピュータに内蔵されたハードディスク、RAM等の記憶媒体、またはコンピュータ外部のハードディスク、光ディスク、フラッシュメモリなどの記憶媒体である。
【0029】
入力部303は、データと制御信号をコンピュータに入力するキーボードまたはマウスやタッチパッドなどのポインティングデバイス、または音声信号を入力する音声入力装置、または映像信号を入力する映像入力装置、またはそれらの複合装置である。表示部304は、文字や図形を表示するディスプレイ装置またはプリンタ装置である。
【0030】
以上に説明したように、本発明では、モード抽出部で光導波路の光軸と交差する複数の抽出面の面内に分布する導波モードを抽出し、固有モード解析部で光導波路の固有モードを計算し、モード比較部で、固有モードと複数の抽出面の各々の面内に分布する導波モードとの差分を数値化し、複数の抽出面の各々の座標成分と差分との関係を定式化し、定式化した抽出面の座標成分と差分との関係から、導波路長算出部が、所定の導波モードが得られる導波路長を算出するようにした。
【0031】
この結果、本発明によれば、光導波路を伝搬した後における端面のモードと固有モードとの差分が抑制された状態で、導波路における電磁界分布の計算時間が短縮できるようになる。本発明によれば、導波路長を最小限に留めて解析時間を短縮しながらも、端面反射等、境界領域の特性を反映した出射電界を厳密に解析できる。
【0032】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0033】
101…導波モード解析部、102…モード抽出部、103…固有モード解析部、104…モード比較部、105…導波路長算出部、106…出射電界解析部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12