特許第6805170号(P6805170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805170
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】固結防止剤を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20201214BHJP
   C08K 5/375 20060101ALI20201214BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K5/375
   C08K3/36
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-555063(P2017-555063)
(86)(22)【出願日】2016年12月6日
(86)【国際出願番号】JP2016086134
(87)【国際公開番号】WO2017099046
(87)【国際公開日】20170615
【審査請求日】2019年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-238934(P2015-238934)
(32)【優先日】2015年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 勝己
(72)【発明者】
【氏名】竹内 剛
(72)【発明者】
【氏名】白石 浩之
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−183057(JP,A)
【文献】 特開昭59−193939(JP,A)
【文献】 特開昭60−215663(JP,A)
【文献】 特開平07−196600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。)で表されるジスルフィド化合物と、固結防止剤とを含み、
前記固結防止剤がシリカであり、
前記ジスルフィド化合物100質量部に対し前記シリカを0.01質量部〜5質量部含む組成物。
【請求項2】
下記一般式(1):
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。)で表されるジスルフィド化合物と、固結防止剤とを含み、
前記固結防止剤がポリフェニレンスルファイドであり、
前記ジスルフィド化合物100質量部に対し前記ポリフェニレンスルファイドを1質量部〜100質量部含む組成物。
【請求項3】
前記ジスルフィド化合物が、式(1a):
【化3】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。)
で表される化合物である、項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ジスルフィド化合物がジフェニルジスルフィドである請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
シリカを、式(1):
【化4】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す)で表されるジスルフィド化合物と混合する工程を含
前記ジスルフィド化合物100質量部に対し前記シリカを0.01質量部〜5質量部混合する
前記ジスルフィド化合物の固結防止方法。
【請求項6】
ポリフェニレンスルファイドを、式(1):
【化5】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す)で表されるジスルフィド化合物と混合する工程を含み、
前記ジスルフィド化合物100質量部に対し前記ポリフェニレンスルファイドを1質量部〜100質量部混合する、
前記ジスルフィド化合物の固結防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジスルフィド化合物及びその固結防止剤を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジスルフィド化合物は、種々の樹脂に添加することで金属と樹脂との密着性を向上させたり、樹脂の性能を向上させることが広く知られている。
例えば、ポリフェニレンスルファイド(以下PPSと略す)樹脂の製造工程にジスルフィド化合物を添加することで、PPS樹脂中のナトリウム含有量や共有結合塩素含有量を大幅に低減させることが報告されている(特許文献1)。
【0003】
また、PPS樹脂にジスルフィド化合物を添加することにより、高エネルギー下で溶融混錬を行っても、粘度の変化を少なくし、かつ粘度をコントロールすることができ、加熱時に硫黄系ガスの発生が少ない、機械物性の良い加工性の良い成形品が得られるなどの効果を有することが報告されている。(特許文献2)。
【0004】
さらに、ポリアリーレンスルフィドに、芳香族ポリエステルとジスルフィド化合物を添加し混錬することで、ガラス転移温度の高いポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることが報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−241961号公報
【特許文献2】特開平2−286746号公報
【特許文献3】特開2004−182754号公報
【特許文献4】特開平05−246910号公報
【特許文献5】特開平04−045836号公報
【特許文献6】特開昭57−203039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ジスルフィド化合物は、固結しやすく、作業効率を悪化させるという問題があった。
【0007】
一般的に固結しやすい化合物としては、パラジクロルベンゼンやトリエチレンジアミン等が知られている。これら固結しやすい化合物は、通常昇華性や吸湿性を有するために、固結性が高くなっており、供給や貯蔵工程において固結が生じた場合、破砕する作業が必要であり、作業効率を著しく悪化させる。
【0008】
昇華性や吸湿性を有するために固結性が高い化合物の固結防止方法としては、添加剤を加える方法が代表的である。例えば、パラジクロルベンゼンにジエチルフタレートなどの有機化合物を添加する方法(特許文献4)や、水溶性セルロースを添加する方法(特許文献5)やトリエチレンジアミンにシリカ粉末を添加する方法(特許文献6)が提案されている。特許文献4及び5に記載されている添加剤は、有機化合物に分類され、用途によっては使用できない場合がある。また、有機化合物による固結防止方法は、長期間にわたり固結防止できるものでなく効果的でない。
【0009】
一方で、ジスルフィド化合物は、固結しやすいが昇華性や吸湿性は高くはない。ジスルフィド化合物は、低融点であることから、結晶間で融着することにより固結しやすいと考えられる。その高い固結性のため、作業効率を著しく悪化させることがあるが、その改善方法はいまだに提案されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究した結果、下記式(1)で表されるジスルフィド化合物100質量部に対し、固結防止剤を0.01質量部以上含む組成物を用いることにより、供給、貯蔵工程等での固結防止が可能となり、作業効率を向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、例えば以下の主題を包含する。
項1.
下記式(1):
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に(すなわち、同一又は異なって)、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す)で表されるジスルフィド化合物100質量部に対し固結防止剤を0.01質量部以上含む組成物。
項2.
前記固結防止剤がシリカ、熱可塑性樹脂、及び水溶性無機塩からなる群より選択される少なくとも1種である項1に記載の組成物。
項3.
前記固結防止剤が、熱可塑性樹脂、及び水溶性無機塩からなる群より選択される少なくとも1種である項1に記載の組成物。
項4.
前記固結防止剤が、熱可塑性樹脂である項1に記載の組成物。
項5−1.
前記シリカが、粒子径100nm以下、且つ比表面積が、30m/g以上のシリカである、項2に記載の組成物。
項5−2.
前記熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)からなる群より選択される少なくとも1種である、項2、3、4、又は5−1に記載の組成物。
項6.
前記ジスルフィド化合物が、式(1a):
【0013】
【化2】
【0014】
(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、メチル基、又はエチル基を示す)
で表される化合物である、項1、2、3、4、5−1、又は5−2に記載の組成物。
項7.
前記ジスルフィド化合物がジフェニルジスルフィドである、項6に記載の組成物。
項A.
シリカ、熱可塑性樹脂、及び水溶性無機塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、式(1):
【0015】
【化3】
【0016】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す)で表されるジスルフィド化合物のための固結防止剤。
項B.
シリカ、熱可塑性樹脂、及び水溶性無機塩からなる群より選択される少なくとも1種を、式(1):
【0017】
【化4】
【0018】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す)で表されるジスルフィド化合物と混合する工程を含む、
前記ジスルフィド化合物の固結防止方法。
(当該固結防止方法においては、当該ジスルフィド化合物100質量部に対して、シリカ、熱可塑性樹脂、及び水溶性無機塩からなる群より選択される少なくとも1種を0.01質量部以上混合することが好ましい。)
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ジスルフィド化合物の供給、貯蔵工程等での固結防止が可能となり、作業効率を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明にかかるジスルフィド化合物は式(1)で表される。
【0021】
【化5】
【0022】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアミノ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す)で表される。
【0023】
前記炭素数1〜20のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がさらに好ましい。当該アルキル基は、直鎖又は分岐鎖状であってもよく、直鎖状であることがより好ましい。より具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等が挙げられ、これらのなかでも、メチル基、エチル基、イソプロピル基がより好ましく、メチル基及びエチル基がさらに好ましい。
【0024】
前記炭素数1〜20のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜6のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1〜4のアルコキシ基がさらに好ましい。当該アルコキシ基は、直鎖又は分岐鎖状であってもよく、直鎖状であることがより好ましい。より具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等が好ましく挙げられ、これらのなかでも、メトキシ基がより好ましい。
【0025】
前記置換又は非置換のアミノ基としては、例えばアミノ基、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アセチルアミノ基等が挙げられ、これらのなかでも、アミノ基(つまり非置換アミノ基)、アセチルアミノ基が好ましい。
【0026】
前記ハロゲン原子としては、例えば塩素原子、フッ素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、これらのなかでも、塩素原子、フッ素原子が好ましい。
【0027】
前記R及びRとしては、水素原子、メチル基、非置換アミノ基、アセチルアミノ基、ニトロ基、又はヒドロキシ基が特に好ましく例示される。
【0028】
及びRは、前記の通りそれぞれ独立である。言い換えれば、同一又は異なってよい。好ましくは、R及びRは同一である。
【0029】
また、R及びRは、好ましくはそれぞれ4位及び4’位の置換基である。つまり、本発明に係るジスルフィド化合物は、好ましくは、式(1a)で表される。
【0030】
【化6】
【0031】
(式中、R及びRは、前記に同じ)
【0032】
本発明に係るジスルフィド化合物のなかで、特に好ましい化合物としては、例えば、式(1a)において、R及びRが同一の置換基であって、水素原子、メチル基、非置換アミノ基、アセチルアミノ基、ニトロ基、又は水酸基である化合物が挙げられる。具体的には、例えば、ジフェニルジスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルジスルフィド、4,4’−ジメチルジフェニルジスルフィド、4,4’−ジアセチルアミノジフェニルジスルフィド、4,4’−ジニトロジフェニルジスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルジスルフィドが挙げられる。より好ましくは、ジフェニルジスルフィドである。
【0033】
前記固結防止剤としては、シリカ、熱可塑性樹脂および水溶性無機塩等が挙げられる。製造した樹脂中の不純物となることなく固結を防止する観点から、より好ましくは、熱可塑性樹脂または水溶性無機塩であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂である。これら固結防止剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
前記シリカとしては、粒子径が小さいものが好ましい。例えば、粒子径が100nm以下のものが好ましく、50nm以下のものがより好ましい。なお、粒子径の下限は特に制限されないが、例えば5nm以上のものが挙げられる。ここでの粒子径は一次粒子径であり、平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡観察によりシリカ粒子の粒度分布を測定して平均粒子径を算出するものである。また、特にシリカとしてAerosilシリーズ(エボニック社)やReorosil(トクヤマ社製)等の市販品を用いる場合には、カタログ値をここでの粒子径とする。
【0035】
また、前記シリカとしては、比表面積が大きいものが好ましい。例えば、比表面積が、30m/g以上のものが好ましく、40m/g以上のものがより好ましく、50m/g以上のものがさらに好ましい。なお、比表面積の上限は特に制限されないが、例えば500m/g以下のものが挙げられる。ここでの比表面積はBET吸着法による比表面積測定値(JIS Z8830に準じる)である。
【0036】
シリカとしては、例えば乾式法シリカである燃焼法シリカ、湿式法シリカである沈降法シリカまたはゲル法シリカ等が挙げられる。より具体的には、燃焼法シリカとしては、例えばAerosil(エボニック社製)、CAB−O−SIL(キャボット社製)、HDK(旭化成(株)製)、Reolosil(トクヤマ社製)等が挙げられる。沈降法シリカとしては、例えばNipsil(日本シリカ工業)、Ultrasil(エボニック社製)、Tokusil(トクヤマ社製)等が挙げられる。ゲル法シリカとしては、例えばSylysia(富士シリシア社製)、Syloid(WRグレイス社製)、Nipgel(日本シリカ工業社製)等が挙げられる。なかでも、燃焼法シリカは、粒子径が5〜50nmと非常に小さく、比表面積が50〜400m/gと非常に大きく、流動性が良好であるため、少量の添加によりジスルフィド化合物の表面を被覆し、ジスルフィド化合物の固結を防止することが期待されるため、燃焼法シリカであるAerosil(登録商標)やReorosil(登録商標)等が好ましい。なお、前記シリカは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
前記固結防止剤としてシリカを用いた場合の固結防止剤の含有量はジスルフィド化合物100質量部に対し、0.01質量部以上であり、好ましくは0.01〜5質量部である。好ましい下限は0.05質量部である。より好ましい上限は5質量部であり、さらに好ましい上限は3質量部、よりさらに好ましい上限は1質量部である。また、より好ましくは0.05〜5質量部、さらに好ましくは0.05〜3質量部、よりさらに好ましくは0.05〜1質量部である。
【0038】
前記熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ABS樹脂(ABS)、ポリアミド(PA)、フェノール樹脂(PF)、メラミン樹脂(MF)、エポキシ樹脂(EP)、ポリスルホン(PSU)等が例示できる。これらのなかでも、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)が好ましい。また、末端にハロゲン基を有する熱可塑性樹脂からハロゲン基を除去するための樹脂添加剤として前記ジスルフィド化合物を用いることができる観点から、末端にハロゲン基を有する熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。前記ハロゲン基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が例示でき、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基が好ましく、フルオロ基、クロロ基がより好ましい。固結防止剤として末端にハロゲン基を有する熱可塑性樹脂を含む前記ジスルフィド化合物を含む組成物は、そのままハロゲン基除去行程に用いることができる点で、好ましい。
【0039】
例えば、フィリップス・ペトローリアム法は、アミド系の極性触媒溶媒中で、p−ジクロロベンゼンと硫化ナトリウムを200〜290℃程度の高温高圧下で重縮合させ、ポリフェニレンスルファイドを合成する方法であるが、この方法で得られるポリフェニレンスルファイドの末端には理論上クロロ基が存在しており、当該クロロ基除去のため前記ジスルフィド化合物を用いることができるので、好ましい。
【0040】
なお、ポリフェニレンスルファイド(PPS)としては、特にポリ(パラフェニレンスルフィド)〔Poly(1,4−phenylene sulfide)〕が好ましい。また、前記熱可塑性樹脂は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0041】
また、前記ジスルフィド化合物のための固結防止剤として前記熱可塑性樹脂を用いる場合であって、例えば、当該固結防止剤入りジスルフィド化合物をPPS樹脂の性能向上用の樹脂添加剤として用いる場合には、当該固結防止剤としてPPS樹脂を用いることが好ましい。
【0042】
このように、ジスルフィド化合物に加える固結防止剤として熱可塑性樹脂を用いる場合においては、ジスルフィド化合物を加えて性能を改良することを目的とした樹脂を固結防止剤として用いることが好ましい。当該樹脂をジスルフィド化合物に混合することで、ジスルフィド化合物の固結を防止できるうえ、当該固結が防止されたジスルフィド化合物を樹脂の製造時に加えて樹脂性能を改良することができ、この場合、固結防止剤として用いた樹脂と性能改良目的樹脂が同一であるため、固結防止剤が不純物とならない樹脂組成物を提供することができる。(すなわち、「固結防止剤及びジスルフィド化合物を含む組成物」を、樹脂性能の改良のため樹脂に混合する場合、当該「固結防止剤」と「性能改良したい樹脂」とが同一であることが好ましい。)
【0043】
前記固結防止剤として熱可塑性樹脂を用いる場合の固結防止剤の含有量は、ジスルフィド化合物100質量部に対し、0.01質量部以上である。好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1〜100質量部、よりさらに好ましくは3〜50質量部であり、なかでも好ましくは3〜30質量部である。
【0044】
前記水溶性無機塩としては、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、臭化ナトリウム(NaBr)、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、塩化アンモニウム(NHCl)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、炭酸水素カリウム(KHCO)等が挙げられる。これらのなかでも、添加後に系外へ除去すること(つまり、ジスルフィド化合物と分離すること)が容易であることから、NaCl、KCl、NaSOが好ましい。なお、水溶性無機塩は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
前記固結防止剤として水溶性無機塩を用いた場合の固結防止剤の含有量はジスルフィド化合物100質量部に対し、0.01質量部以上である。好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1.0質量部以上、よりさらに好ましくは2.0質量部以上である。上限は特に制限されないが、例えば50質量部以下が好ましく(つまり、0.01〜50質量部が好ましく)、10質量部以下がより好ましい。
【0046】
上記の通り、ジスルフィド化合物は、各種樹脂の性能を向上させるため樹脂添加剤として用いられる場合があるが、ジスルフィド化合物の固結防止剤としてシリカを用いた場合、ジスルフィド化合物を添加した樹脂中でシリカが不純物となるおそれがあることから、本発明にかかる固結防止剤としては、熱可塑性樹脂、または、水溶性無機塩が好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0047】
本発明にかかる組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、ジスルフィド化合物と固結防止剤をエバポレーターで乾燥しながら攪拌する方法、コニカルドライヤー、ナウタードライヤー、振動流動乾燥機などの乾燥機で攪拌する方法、タンブラーミキサーやドラムミキサーなどの粉体混合機で混合する方法等が挙げられる。
【0048】
なお、本発明は、例えば上記項Aに記載のように、特定のジスルフィド化合物のための固結防止剤をも包含する。また、例えば上記項Bに記載のように、特定のジスルフィド化合物の固結防止方法をも包含する。これら固結防止剤、固結防止方法において用いられるジスルフィド化合物、シリカ、熱可塑性樹脂、水溶性無機塩、さらにはこれらの使用比率等は、上記の内容と同じである。
【実施例】
【0049】
実施例1
ジフェニルジスルフィド20g、Aerosil200(一次粒子径:12nm、比表面積:200±25m/g)を0.2g、なす型(洋なし型)フラスコに秤量し、エバポレーターで1時間回転攪拌した。得られたサンプルを50mlのサンプル瓶に移し変え、25℃で保管した。1週間後、サンプル瓶を横に倒すとジフェニルジスルフィドが流動し固結していないことを確認した。
【0050】
実施例2
ジフェニルジスルフィド20g、Aerosil200を0.02g、なす型(洋なし型)フラスコに秤量し、エバポレーターで1時間回転攪拌した。得られたサンプルを50mlのサンプル瓶に移し変え、25℃で保管した。1週間後、サンプル瓶を横に倒すとジフェニルジスルフィドが流動し固結していないことを確認した。
【0051】
実施例3
ジフェニルジスルフィド20g、Aerosil200を0.01g、なす型(洋なし型)フラスコに秤量し、エバポレーターで1時間回転攪拌した。得られたサンプルを50mlのサンプル瓶に移し変え、25℃で保管した。1週間後、サンプル瓶を横に倒すとジフェニルジスルフィドが流動したが、一部が固結して塊状物となっていることを確認した。圧縮試験機により当該塊状物が崩壊する力を測定したところ0.26kg/cmで崩壊することを確認した。
【0052】
実施例4
固結防止剤をAerosil R972(一次粒子径:16nm、比表面積:110±20m/g)とし、0.06g添加した以外は、実施例1と同様に実施した。
25℃で保管し、1週間後、サンプル瓶を横に倒すとジフェニルジスルフィドが流動し固結していないことを確認した。
【0053】
実施例5
固結防止剤をAerosil RX50(一次粒子径:30nm、比表面積:35±10m/g)とし、0.06g添加した以外は、実施例1と同様に実施した。
25℃で保管し、1週間後、サンプル瓶を横に倒すとジフェニルジスルフィドが流動し固結していないことを確認した。
【0054】
実施例6
固結防止剤をAerosil RY300(一次粒子径:7nm、比表面積:125±15m/g)とし、0.06g添加した以外は、実施例1と同様に実施した。
25℃で保管し、1週間後、サンプル瓶を横に倒すとジフェニルジスルフィドが流動し固結していないことを確認した。
【0055】
実施例7
ジフェニルジスルフィド20g、PPS樹脂(Poly(1,4−phenylene sulfide)アルドリッチ社カタログNo.182354、一次粒子径:11000nm、)を4.0g、なす型(洋なし型)フラスコに秤量し、エバポレーターで1時間回転攪拌した。得られたサンプルを50mlのサンプル瓶に移し変え、25℃で保管した。1週間後に確認したところ、サンプル瓶を横に倒すとジフェニルジスルフィドが流動し固結していないことを確認した。
【0056】
実施例8
ジフェニルジスルフィド20g、PPS樹脂(実施例7と同じ)を2.0g、なす型(洋なし型)フラスコに秤量し、エバポレーターで1時間回転攪拌した。得られたサンプルを50mlのサンプル瓶に移し変え、25℃で保管した。1週間後に確認したところ、サンプル瓶を横に倒すとジフェニルジスルフィドが流動し固結していないことを確認した。
【0057】
実施例9
ジフェニルジスルフィド20g、PPS樹脂(実施例7と同じ)を0.2g、なす型(洋なし型)フラスコに秤量し、エバポレーターで1時間回転攪拌した。得られたサンプルを50mlのサンプル瓶に移し変え、25℃で保管した。1週間後に確認したところ、サンプル瓶を横に倒すとジフェニルジスルフィドが流動したが、一部固結して塊状物となっていることを確認した。圧縮試験機により当該塊状物の固結強度を確認したところ、0.1kg/cmであった。
【0058】
比較例1(DPDSのみで固結)
ジフェニルジスルフィド(DPDS)20gを50mlのサンプル瓶に秤量した後、25℃で保管した。4時間後にジフェニルジスルフィドは固結しており、サンプル瓶を横に倒しても、逆さにひっくり返しても最初の状態を維持しており、固結していた。固結した塊状物を圧縮試験機により固結強度を確認したところ、0.5kg/cmであった。
【0059】
【表1】
【0060】
<評価基準>
○:固結なし(流動性あり)
△:一部固結あり、塊状物は0.5kg/cm未満の力で崩壊
×:全体的に固結もしくは生成した塊状物の崩壊には0.5kg/cm以上の力が必要