(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリビニルアルコール系フィルムを5重量%のホウ酸水溶液中、56℃で0.5分間浸漬した(初期状態)後、ホウ酸水溶液中で延伸速度70mm/secで初期状態の2.5倍延伸した時の真応力(Xa)と、引き続き延伸を継続しながら、ホウ酸水溶液中で初期状態の3.4倍延伸した時の真応力(Xb)において、下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
1.9≦Xb/Xa≦3.0・・・(3)
ポリビニルアルコール系フィルムを5重量%のホウ酸水溶液中、56℃で0.5分間浸漬した(初期状態)後、延伸を継続しながら、ホウ酸水溶液中で初期状態の3.4倍延伸した時の真応力(Xb)と、更に延伸を継続しながら、ホウ酸水溶液中で初期状態の4.3倍延伸した時の真応力(Xc)において、下記式(4)を満たすことを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
2.0≦Xc/Xb≦3.5・・・(4)
ポリビニルアルコール系フィルムを30℃の水に5分間浸漬し膨潤させた時の面積膨潤度(Y)が130〜170%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の
製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料を製膜してなるポリビニルアルコール系フィルムであり、下記の特性を備えるものである。
【0020】
すなわち、上記ポリビニルアルコール系フィルムを5重量%のホウ酸水溶液中、56℃で0.5分間浸漬する(初期状態)。その後、ホウ酸水溶液中で延伸速度70mm/secにて延伸を継続し、初期状態の2.5倍延伸した時の真応力(Xa)と、引き続き延伸を継続しながら、ホウ酸水溶液中で初期状態の4.3倍延伸した時の真応力(Xc)において、下記式(1)を満たすものである。さらには、上記ポリビニルアルコール系フィルムを5重量%のホウ酸水溶液中、56℃で0.5分間浸漬する(初期状態)。その後、ホウ酸水溶液中で延伸速度70mm/secにて延伸を継続し初期状態の2.5倍延伸した時の真応力(Xa)と、引き続き延伸を継続しながら、ホウ酸水溶液中で初期状態の3.4倍延伸した時の真応力(Xb)と、更に延伸を継続しながら、ホウ酸水溶液中で初期状態の4.3倍延伸した時の真応力(Xc)において、下記式(1)及び(2)を満たすものである。
5.0≦Xc/Xa≦9.0・・・(1)
Xb/Xa≦Xc/Xa・・・(2)
【0021】
そして、本発明の
製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムは、上記特性に加えて、ポリビニルアルコール系フィルムを5重量%のホウ酸水溶液中、56℃で0.5分間浸漬した(初期状態)後、ホウ酸水溶液中で延伸速度70mm/secで初期状態の2.5倍延伸した時の真応力(Xa)と、引き続き延伸を継続しながら、ホウ酸水溶液中で初期状態の3.4倍延伸した時の真応力(Xb)において、下記式(3)を満たすものが好ましい。
1.9≦Xb/Xa≦3.0・・・(3)
【0022】
さらには、本発明の
製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムは、上記特性に加えて、ポリビニルアルコール系フィルムを5重量%のホウ酸水溶液中、56℃で0.5分間浸漬した(初期状態)後、延伸を継続しながら、ホウ酸水溶液中で初期状態の3.4倍延伸した時の真応力(Xb)と、更に延伸を継続しながら、ホウ酸水溶液中で初期状態の4.3倍延伸した時の真応力(Xc)において、下記式(4)を満たすことが好ましい。
2.0≦Xc/Xb≦3.5・・・(4)
【0023】
上記式(1)、(2)、(3)及び(4)における各真応力Xa、Xb及びXcとは、それぞれポリビニルアルコール系フィルムを5重量%のホウ酸水溶液中、56℃で0.5分間浸漬した(これを「初期状態」とする)後、ホウ酸水溶液中で延伸速度70mm/secで延伸を継続しながら、上記初期状態の2.5倍、上記初期状態の3.4倍、及び上記初期状態の4.3倍まで延伸した時のそれぞれの真応力(MPa)をいう。ここで、一般に応力とは工学(公称)応力であり、延伸前の断面積で張力を除した値である。しかし、ポリビニルアルコール系フィルムは延伸とともに幅方向に収縮し、それに伴い断面積も減少するため、延伸前の断面積で上記各延伸倍率における張力を除しても真の応力を算出することはできない。そこで、本発明では応力を真応力とし、以下の測定方法にて測定し、算出されるものを真応力とする。また、上記「延伸を継続しながら」とは、延伸工程を途切れることなく(断続的ではなく)連続的に延伸を続ける状態をいう。
【0024】
<真応力の測定方法>
上記真応力(MPa)は、つぎのようにして測定される。すなわち、ポリビニルアルコール系フィルムを準備し、上記フィルムを幅(TD)方向2cm×機械(MD)方向12.5cmになるように幅方向に対して中央部を切り出し、長辺両側を油性マーカーにて色づけした後、厚みをマイクロメーターにて5点計測する。
【0025】
次に、5重量%ホウ酸水溶液中での延伸は、切り出したフィルムを所定の冶具に短辺側両端部を、つかみ間隔が96mmになるように固定し、56℃の5重量%ホウ酸水溶液中に0.5分間浸漬する(これを「初期状態」とする)。浸漬中、フィルムのたるみを除去するため力がかからない程度につかみ間隔を広げる。その後、70mm/secの延伸速度で機械(MD)方向に連続的に一軸延伸しながら延伸倍率に対する張力を連続的に測定する。そして、連続的に一軸延伸を継続しながら、延伸倍率が2.5倍、3.4倍及び4.3倍のときの張力をそれぞれ読み取る。
【0026】
なお、張力の測定には、引張試験機を用いる。かかる引張試験機の一例として、例えば、底面にガラス窓を備えた水槽に門型のチャックを取り付けてフィルムを水中などで延伸できるようにした構成を備えた試験機があげられる。上記試験機において、フィルムは5重量%ホウ酸水溶液中で片端が固定され、その反対側が稼働できるようになっている。そして、真応力の算出のためには、延伸中のフィルムサンプル幅の計測が必要であり、フィルムサンプル幅計測用のビデオカメラを水槽に設置する。延伸中はMD方向に対するフィルム中央部が延伸に伴い移動するため、フィルムサンプル幅を計測するためのビデオカメラも延伸速度に同期して移動するように設置し、常にフィルム中央部の幅を計測できるようになっている。かかる試験機にて測定された張力を延伸と同時にカメラ撮影した延伸中の幅の変化から算出される幅の変化率を用いて、下記式により算出される値を真応力(MPa)とする。そして、本発明においては、同様の測定を3回行い、その平均値を採用することとする。
【0027】
各真応力(Xa,XbおよびXc)(MPa)=張力(F)/延伸中の断面積(S)
延伸中の断面積(S)=延伸前の試料断面積(S0)×幅の変化率(W/W0)
ここで、Wは延伸中の試料(フィルム)幅、W0は延伸前の試料(フィルム)幅である。
【0028】
前記式(1)において、前述のとおり、Xc/Xaが5.0〜9.0であることが必要であり、好ましくは5.2〜8.5、特に好ましくは5.4〜8.0である。かかる値が上記範囲未満では、延伸時におけるフィルム中の分子鎖の配向が劣り偏光性能が低下することとなり、上記範囲を超えると延伸時においてフィルムの破断が生起する。
【0029】
そして、前記式(1)における真応力(Xa)、すなわち、ポリビニルアルコール系フィルムを5重量%ホウ酸水溶液中で延伸速度70mm/secで連続的に一軸延伸を継続しながら、初期状態の2.5倍延伸した時の真応力(Xa)(MPa)としては、4.0〜7.0MPaであることが好ましく、特には4.4〜6.9MPa、更には4.6〜6.8MPaであることが好ましい。かかる範囲が小さすぎると、フィルム端部での膨潤が進行し作業性が低下する傾向があり、大きすぎると、フィルムの幅(TD)方向への収縮が大きくなり得率が低下する傾向がある。
【0030】
また、前記式(1)における真応力(Xc)、すなわち、ポリビニルアルコール系フィルムを5重量%ホウ酸水溶液中で延伸速度70mm/secで連続的に一軸延伸を継続しながら、初期状態の4.3倍延伸した時の真応力(Xc)(MPa)としては、35.0〜45.0MPaであることが好ましく、特には36.0〜44.0MPa、更には37.0〜43.0MPaであることが好ましい。かかる範囲が小さすぎると、フィルム中の分子鎖の配向の低下により偏光フィルムの性能が低下する傾向にあり、大きすぎると、フィルムが破断する傾向にある。
【0031】
さらに、前記式(1)における真応力(Xb)、すなわち、ポリビニルアルコール系フィルムを5重量%ホウ酸水溶液中で延伸速度70mm/secで連続的に一軸延伸を継続しながら、初期状態の3.4倍延伸した時の真応力(Xb)(MPa)としては、11.0〜15.0MPaであることが好ましく、特には11.5〜14.8MPa、更には12.0〜14.5MPaであることが好ましい。かかる範囲が小さすぎると、延伸ムラによる偏光フィルムの染色ムラが生じる傾向にあり、大きすぎると、延伸性が低下する(所定の延伸倍率まで延伸できない)傾向がある。
【0032】
前記式(2)において、前述のとおり、Xc/Xaの値はXb/Xaの値以上であることが好ましく、更にはXb/Xaの値の2.0〜3.5倍、特には2.5〜3.3倍であることが好ましい。Xc/XaがXb/Xaよりも小さいと、偏光フィルムの偏光性能が著しく低下したり、あるいは偏光フィルムを取得し難いといった傾向がある。
【0033】
前記式(3)において、前述のとおり、Xb/Xaが1.9〜3.0であることが好ましく、更には2.0〜2.8、特には2.1〜2.7であることが好ましい。かかる値が小さすぎると、フィルム延伸時の延伸ムラによる偏光フィルムの染色ムラとなる傾向があり、大きすぎると延伸性の低下が起こる傾向がある。
【0034】
前記式(4)において、前述のとおり、Xc/Xbが2.0〜3.5であることが好ましく、更には2.3〜3.4、特には2.5〜3.3であることが好ましい。かかる値が小さすぎると、フィルム延伸の不足による偏光フィルムの性能低下が起こる傾向があり、その値が大きすぎると偏光フィルムの破断が起こる傾向がある。
【0035】
上記のような特性を備え
たポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料を用いて流延製膜される。
【0036】
<ポリビニルアルコール系樹脂(A)>
上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)としては、通常、未変性のポリビニルアルコール系樹脂、すなわち、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化して製造される樹脂が用いられる。必要に応じて、酢酸ビニルと、少量(例えば、10モル%以下、好ましくは5モル%以下)の酢酸ビニルと共重合可能な成分との共重合体をケン化して得られる樹脂を用いることもできる。酢酸ビニルと共重合可能な成分としては、例えば、不飽和カルボン酸(塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)、炭素数2〜30のオレフィン類(エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテン等)、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩等があげられる。
【0037】
また、ポリビニルアルコール系樹脂(A)として、側鎖に1,2−グリコール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。かかる側鎖に1,2−グリコール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、(i)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(ii)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(iv)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0038】
本発明で用いるポリビニルアルコール系樹脂(A)の平均ケン化度は、通常90モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上、殊に好ましくは99モル%以上、更に好ましくは99.5モル%以上である。平均ケン化度が小さすぎるとポリビニルアルコール系樹脂を偏光フィルムとする場合に充分な光学性能が得られない傾向がある。
ここで、本発明におけるケン化度は、残存酢酸ビニルの加水分解に要するアルカリ消費量で分析することにより得られる。
【0039】
更に、かかるポリビニルアルコール系樹脂(A)の粘度は、20℃にける4重量%水溶液粘度として、通常8〜500mPa・sであることが好ましく、特には20〜400mPa・s、更には40〜400mPa・sが好ましい。4重量%水溶液粘度が小さすぎると偏光フィルム作成時の延伸性が低下する傾向にあり、大きすぎるとフィルムの平面平滑性や透明性が低下する傾向にある。
【0040】
本発明に用いるポリビニルアルコール系樹脂(A)として、上記ポリビニルアルコール系樹脂において、変性種、平均ケン化度、粘度などの異なる2種以上のものを併用してもよい。
【0041】
本発明においては、上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料を用いて、ポリビニルアルコール系フィルムを製造する。フィルム製造に当たっては、例えば、可塑剤(B)や界面活性剤(C)などの公知の配合剤を配合し、製造する。
【0042】
可塑剤(B)は、一般的に、偏光フィルムを製造する際の延伸性に効果的に寄与するものであり、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルキレングリコール類またはポリアルキレングリコール類や、トリメチロールプロパンなどがあげられる。これらの可塑剤(B)は単独または二種以上組み合わせて使用することができる。中でも特に好ましいものとしてはグリセリン単独、もしくはグリセリンとジグリセリンまたは、グリセリンとトリメチロールプロパンの組み合わせ等があげられる。グリセリンとジグリセリンを併用する場合は、通常グリセリン/ジグリセリン(重量比)=20/80〜80/20であり、グリセリンとトリメチロールプロパンを併用する場合は、通常グリセリン/トリメチロールプロパン(重量比)=20/80〜80/20であることが好ましい。
【0043】
かかる可塑剤(B)の含有量としては、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して1〜35重量部であることが好ましく、特には3〜30重量部、更には7〜25重量部であることが好ましい。可塑剤(B)の含有量が少なすぎると偏光フィルムの作成時に延伸性が低下する傾向があり、多すぎると得られるポリビニルアルコール系フィルムの経時安定性が低下する傾向がある。
【0044】
また、界面活性剤(C)は、一般的に、フィルム表面の平滑性や、ロール状に巻き取る際のフィルム同士の付着を抑制する働きがあり、例えば、アニオン系界面活性剤やノニオン系界面活性剤を単独または二種以上組み合わせて使用することができる。特には、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤を併用することが、フィルムの透明性の点で好ましい。
【0045】
かかるアニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪族アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、高級脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩、等があげられ、また、これらのアニオン系界面活性剤の他にも、硫酸化油、高級アルコールエトキシサルフェート、モノグリサルフェート等の硫酸エステル塩や、脂肪酸石鹸、N−アシルアミノ酸及びその塩、ポリオキシエチレンアルキルエステルカルボン酸塩、アシル化ペプチド等のカルボン酸塩型、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸の塩ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸の塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、スルホコハク酸アルキル二塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン塩、ジメチル−5−スルホイソフタレートナトリウム塩等のスルホン酸塩型、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩等のリン酸エステル塩型等のアニオン系界面活性剤、等をあげることもできる。
【0046】
一方、ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級脂肪酸モノ又はジアルカノールアミド、高級脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン高級脂肪酸アミド、アミンオキシド、等があげられる。また、これらのノニオン系界面活性剤の他にも、アルキルフェノールホルマリン縮合物の酸化エチレン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油および硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル等のエーテルエステル型ノニオン系界面活性剤、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル等のエステル型界面活性剤、等をあげることもできる。
【0047】
かかる界面活性剤(C)の含有量としては、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して0.01〜1重量部であることが好ましく、特に好ましくは0.02〜0.5重量部、更に好ましくは0.03〜0.2重量部である。界面活性剤(C)の含有量が少なすぎるとブロッキング防止効果が得難い傾向にあり、多すぎるとフィルムの透明性が低下する傾向にある。
【0048】
また、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤を併用する場合には、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して、アニオン系界面活性剤が0.01〜1重量部、特には0.02〜0.2重量部、更には0.03〜0.1重量部であることが好ましく、ノニオン系界面活性剤が0.01〜1重量部、特には0.02〜0.2重量部、更には0.03〜0.1重量部であることが好ましい。アニオン系界面活性剤が少なすぎると偏光フィルム作成時の染料の分散性が低下し、染色斑が多くなる傾向にあり、多すぎるとポリビニルアルコール系樹脂溶解時の泡立ちが激しく、フィルム中に気泡が混入しやすくなり光学用フィルムとして使用できなくなる傾向にあり、ノニオン系界面活性剤が少なすぎるとブロッキング防止効果が得難く、多すぎるとフィルムの透明性や平面平滑性が低下する傾向にある。
【0049】
また、本発明においては、フィルムの黄変を防止するために、酸化防止剤を配合することも有用であり、フェノール系酸化防止剤等の任意の酸化防止剤が例示され、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が好適である。酸化防止剤はポリビニルアルコール系樹脂(A)に対して2〜100ppm程度の範囲で使用されることが好ましい。
【0050】
かくして本発明では、上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)を用いてフィルム形成材料を調製し、好ましくは上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)に更に、可塑剤(B)及び界面活性剤(C)の少なくとも一方を用いて、フィルム形成材料を調製する。そして、かかるフィルム形成材料を製膜し、ポリビニルアルコール系フィルムを得るのである。
【0051】
<ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法>
以下、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法について具体的に説明する。
【0052】
本発明においては、ポリビニルアルコール系樹脂(A)、好ましくは更に可塑剤(B)及び界面活性剤(C)の少なくとも一方を用いてフィルム形成材料を調製し、フィルム形成材料の水溶液をドラム型ロールまたはエンドレスベルト、好ましくはドラム型ロールに流延して製膜、乾燥した後、熱処理することにより、ポリビニルアルコール系フィルムを製造する。
【0053】
本発明の製造方法において、まず、ポリビニルアルコール系樹脂(A)粉末は、通常樹脂に含有されている酢酸ナトリウムを除去するため、洗浄される。洗浄に当たっては、メタノールあるいは水を用いて洗浄されるが、メタノールで洗浄する方法では溶剤回収などが必要になるため、水で洗浄する方法がより好ましい。
【0054】
次に、洗浄後の含水ポリビニルアルコール系樹脂(A)ウェットケーキを溶解し、ポリビニルアルコール系樹脂(A)水溶液を調製するが、かかる含水ポリビニルアルコール系樹脂(A)ウェットケーキをそのまま水に溶解すると所望する高濃度の水溶液が得られないため、一旦脱水を行うことが好ましい。脱水方法は特に限定されないが、遠心力を利用した方法が一般的である。
【0055】
前記洗浄及び脱水により、含水率50重量%以下、好ましくは30〜45重量%の含水ポリビニルアルコール系樹脂(A)ウェットケーキとすることが好ましい。含水率が多すぎると、所望する水溶液濃度にすることが難しくなる傾向がある。
【0056】
次いで、ポリビニルアルコール系フィルムの製膜に用いられるフィルム形成材料の水溶液は、溶解槽に、水、前述した脱水後の含水ポリビニルアルコール系樹脂(A)ウェットケーキ、可塑剤(B)、界面活性剤(C)などを仕込み、加温し、撹拌して溶解させることにより調製される。本発明の製造方法においては、特に、上下循環流発生型撹拌翼を備えた溶解槽中で水蒸気を吹き込んで含水ポリビニルアルコール系樹脂(A)ウェットケーキを溶解させることが、溶解性の点で好ましい。
【0057】
上下循環流発生型撹拌翼を備えた溶解槽中で水蒸気を吹き込んで含水ポリビニルアルコール系樹脂(A)ウェットケーキを溶解させる際には、水蒸気を吹き込み、樹脂温度が40〜80℃、好ましくは45〜70℃となった時点で、撹拌を開始することが均一溶解できる点で好ましい。樹脂温度が低すぎるとモーターの負荷が大きくなる傾向があり、高すぎるとポリビニルアルコール系樹脂(A)の固まりができて均一な溶解ができなくなる傾向がある。さらに、水蒸気を吹き込み、樹脂温度が通常90〜100℃、好ましくは95〜100℃となった時点で、槽内を加圧することも均一溶解ができる点で好ましい。樹脂温度が小さすぎると未溶解物ができる傾向がある。そして、樹脂温度が130〜150℃となったところで水蒸気の吹き込みを終了し、0.5〜3時間撹拌を続け、溶解が行なわれる。溶解後は、所望する濃度となるように濃度調整が行なわれる。
【0058】
かくして得られるフィルム形成材料の水溶液の濃度は、前記物性(各真応力等)を満足させる等を考慮し
、10
〜40重量%
であり、特に好ましくは20〜30重量%である。濃度が高すぎても低すぎても均一な製膜が困難となり、膜厚斑により延伸時の応力に大小が生じる可能性がある。
【0059】
次に、得られたフィルム形成材料の水溶液は、脱泡処理される。脱泡方法としては、静置脱泡や多軸押出機による脱泡等があげられるが、本発明の製造方法においては、生産性の点で、多軸押出機を用いて脱泡する方法が好ましい。
【0060】
脱泡処理が行なわれたのち、多軸押出機から排出されたフィルム形成材料の水溶液は、一定量ずつT型スリットダイに導入され、ドラム型ロールまたはエンドレスベルトに流延されて、製膜、乾燥、熱処理される。
【0061】
T型スリットダイとしては、通常、細長の矩形を有したT型スリットダイが用いられる。T型スリットダイ出口の樹脂温度は通常、80〜100℃であることが好ましく、より好ましくは85〜98℃である。T型スリットダイ出口の樹脂温度が低すぎると流動不良となる傾向があり、高すぎると発泡する傾向がある。
【0062】
流延に際しては、ドラム型ロールまたはエンドレスベルトで行われるが、幅広化や長尺化、膜厚の均一性などの点からドラム型ロールで行うことが好ましい。
【0063】
上記ドラム型ロールで流延製膜するに際しては、例えば、ドラムの回転速度は5〜30m/分であることが好ましく、特に好ましくは6〜20m/分である。ドラム型ロールの表面温度は50〜99℃であることが好ましく、より好ましくは60〜97℃である。ドラム型ロールの表面温度が低すぎると乾燥不良となる傾向があり、高すぎると発泡する傾向がある。
【0064】
ドラム型ロールで製膜されたポリビニルアルコール系フィルムの乾燥は、フィルムの表面と裏面とを複数の熱ロール群に、交互に通過させることにより行なわれる。熱ロール群の表面温度は、従来に比べて低温に設定することが好ましく、具体的には30〜95℃であることが好ましく、さらには40〜85℃であることが好ましく、特に45〜75℃であることが好ましい。かかる表面温度が低すぎても高すぎても、分子配向がランダムになり、応力が低下する傾向にある。
【0065】
そして、本発明においては、上記乾燥の後、熱処理が行なわれる。
【0066】
熱処理については、
126〜145℃というように熱処理としては比較的高温で行うことが好ましく、さらには
126〜140℃が好ましく、特には
126〜135℃で行うことが好ましい。熱処理温度が低すぎると、フィルム水分および膨潤度が高くなり応力が低下しすぎる傾向にあり、高すぎると、フィルム水分および膨潤度が低くなり応力が高くなりすぎる傾向にある。また、熱処理方法としては、例えば、(1)表面をハードクロムメッキ処理又は鏡面処理した、直径0.2〜2mのロール(1〜30本)を通過させる方法、(2)フローティング型ドライヤー(長さ:2〜30m)にて行う方法等があげられる。
【0067】
かくして、ポリビニルアルコール系フィルムが得られるが、本発明においては、上記の製造方法の中でも特に以下の工程[I]〜[IV]を含むことが本発明の特徴である前記真応力の関係式を満足させることができる点で好ましい。
【0068】
すなわち、ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含有するフィルム形成材料の水溶液を第1熱ロールに流延してフィルム状に製膜する工程[I]と、上記第1熱ロールからフィルムを剥離する工程[II]と、ロール表面温度が30〜95℃の第2熱ロール群に、フィルムの表裏を交互に通過させる工程[III]と、上記第2熱ロール群を通過させたフィルムを
126〜145℃の雰囲気下にて熱処理を行なう工程[IV]を含むものである。
【0069】
前記工程[I]において、第1熱ロールとはドラム型ロールまたはエンドレスベルトのことであり、フィルム形成材料の水溶液を第1熱ロール(ドラム型ロールまたはエンドレスベルト)に流延する。
【0070】
そして、前記工程[II]において、第1熱ロール上で乾燥され、フィルム水分率が好ましくは10〜25%、さらに好ましくは12〜20%の状態で剥離される。かかる水分率が低すぎると剥離時の張力が高くフィルムが伸びやすくなる傾向があり、高すぎると剥離時に幅方向にムラになり易い傾向がある。
【0071】
つぎに、前記工程[III]において、第1熱ロールから剥離されたフィルムは、少なくとも5個以上の第2熱ロール群に、フィルムの表面と裏面とが交互に通過されるように送られる。この際に、少なくとも5個以上の第2熱ロール群の表面温度は、前述のとおり、30〜95℃であることが好ましく、さらに好ましくは40〜85℃であり、特に好ましくは45〜75℃である。
【0072】
さらに、前記工程[IV]において、上記第2熱ロール群を通過させたフィルムは、従来に比べて比較的高温雰囲気下にて熱処理が施される。この際の熱処理条件は、前述のとおり、好ましくは
126〜145℃であり、さらには
126〜140℃であり、特には
126〜135℃である。
【0073】
また、本発明においては、フィルム形成材料を流延し、乾燥、熱処理を経てフィルムが巻き取られるわけであるが、この際のドロー比については、好ましくは0.9〜1.1、特に好ましくは0.95〜1.07、更に好ましくは0.98〜1.05であり、かかるドロー比が低すぎるとフィルム搬送時にフィルムが弛み、皺が入り易くなる傾向があり、高すぎるとリターデーションが高くなる傾向がある。
【0074】
ここでドロー比とは、フィルムの巻き取り速度/第1熱ロールの回転速度で求められる比をいう。なお、ドロー比としては、従来から0.9〜1.1の範囲で行われているが、本発明においては、フィルム幅方向の膨潤ムラ抑制の点から、従来よりも低く設定して行われることが好ましい。
【0076】
このようにして得られ
るポリビニルアルコール系フィルムは、例えば、偏光フィルム用途等を考慮した場合、その厚みは、10〜45μmであり、更には15〜40μmであることが好ましい。
【0077】
また、このようにして得られ
るポリビニルアルコール系フィルムは、幅方向に均一に延伸するという点でリターデーション値が10〜50nm、特には10〜30nm、更には10〜25nmであることが好ましい。
【0078】
また、本発明の
製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムにおいては、30℃での重量膨潤度(W)が190〜240%であることが染料の染色性の点で好ましく、特には190〜230%、更には195〜225%、殊には195〜220%であることが好ましい。かかる重量膨潤度(W)が小さすぎると偏光フィルム作製時における延伸性が低下する傾向があり、大きすぎると延伸性は良くなるが、偏光フィルムの偏光性能が低下する傾向がある。
【0079】
上記の重量膨潤度(W)を上記の範囲にコントロールするには、例えば、次の方法による。ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含むフィルム形成材料をドラム型ロールまたはエンドレスベルト、好ましくはドラム型ロールに流延した後、複数の回転加熱ロール群により表裏を交互に乾燥処理して、水分率が5〜30重量%のポリビニルアルコール系フィルムを連続的に製膜した後、次いで、フローティングドライヤー又は回転加熱ロールの温度を
126〜135℃の範囲で熱処理することにより調整される。フィルム中の水分率が高すぎるとポリビニルアルコール系樹脂(A)の結晶化速度が遅くなるため、熱処理効果が得難く、水分率が低すぎて熱処理を行うと、150℃以上の熱処理が必要となるため、フィルムの重量膨潤度が低くなり過ぎたり、黄変し易くなるなど、品質が低下する傾向にある。
【0080】
但し、これらの方法に限られることなく、同一の熱処理条件であれば、可塑剤の種類や添加量によっても調整することが可能である。一般的に、可塑剤の添加量を多くすればポリビニルアルコール系樹脂(A)の結晶性が低下するため、重量膨潤度(W)は低くなる傾向がある。また、可塑剤の添加量が同じであっても、可塑剤の種類によりポリビニルアルコール系樹脂(A)の結晶化度を調整することが可能であり、ポリビニルアルコール系樹脂(A)と相溶性の良い可塑剤は、結晶性を低下させる効果が高いため、添加量を少なくすることにより重量膨潤度(W)の調整が可能となる。逆に、相溶性の悪い可塑剤は、結晶化度を低下させる効果が低いため、可塑剤の添加量を多くすることで、重量膨潤度(W)が調整できる。
【0081】
さらに、同じ熱処理温度であっても、ポリビニルアルコール系樹脂(A)のケン化度や重合度によっても重量膨潤度(W)は調整することができる。また、フィルム製膜時の乾燥条件、例えば、高温乾燥や低温乾燥、高湿乾燥などフィルム中の水分を乾燥させる条件によっても、重量膨潤度(W)を調整してもよい。中でも、生産性の点において、フィルム製膜時の水分率が5〜30重量%となった後に、熱処理することにより重量膨潤度(W)を調整することが好ましく、可塑剤として主にグリセリンを用い、熱処理温度を
126〜135℃の範囲で重量膨潤度(W)を調整することがさらに好ましい。
【0082】
なお、ここで、重量膨潤度(W)とは、以下のようにして測定されるものである。
すなわち、フィルムを10cm×10cmに切り出し、30℃に調整されたイオン交換水槽に15分間浸漬する。次に、フィルムを取り出し、濾紙(5A)上にフィルムを広げて置き、さらに、濾紙(5A)をフィルムの上に重ね、その上に15cm×15cm×0.4cm(4.4g/cm
2)のSUS板を5秒間載せ、フィルム表面の付着水を除去する。このフィルムを速やかに秤量瓶にいれ、重量を測定し、これを膨潤時のフィルム重量Aとする。上記操作は23℃、50%RHの環境にて行う。
次に、該フィルムを105℃の乾燥機に16時間フィルム放置し、フィルム中の水分の除去を行い、その後フィルムを取り出し、速やかに秤量瓶に入れ、重量を測定し、これを乾燥後のフィルム重量Bとする。そして、膨潤時のフィルム重量Aと乾燥後のフィルム重量Bを基に下式より求める。
重量膨潤度(W)(%)=A/B×100
【0083】
そして、本発明の
製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムにおいては、30℃での面積膨潤度(Y)が130〜170%であることが染料の染色性の点で好ましく、特には135〜165%、更には140〜160%であることが好ましい。かかる面積膨潤度(Y)が小さすぎると延伸時の応力が急激に増加し、破断する傾向があり、大きすぎると延伸時の応力が立ち上がらず、配向が低下する傾向がある。
【0084】
上記の面積膨潤度(Y)を上記の範囲にコントロールするには、例えば、次の方法による。ポリビニルアルコール系樹脂(A)を含むフィルム形成材料をドラム型ロールまたはエンドレスベルト、好ましくはドラム型ロールに流延した後、複数の回転加熱ロール群により表裏を交互に乾燥処理して、水分率が5〜30重量%のポリビニルアルコール系フィルムを連続的に製膜した後、次いで、フローティングドライヤー又は回転加熱ロールの温度を
126〜135℃の範囲で熱処理することにより調整される。フィルム中の水分率が高すぎるとポリビニルアルコール系樹脂(A)の結晶化速度が遅くなるため、熱処理効果が得難く、水分率が低すぎて熱処理を行うと、150℃以上の熱処理が必要となるため、フィルムの面積膨潤度(Y)が低くなり過ぎたり、黄変し易くなるなど、品質が低下する傾向にある。
【0085】
但し、これらの方法に限られることなく、同一の熱処理条件であれば、可塑剤の種類や添加量によっても調整することが可能である。一般的に、可塑剤の添加量を多くすればポリビニルアルコール系樹脂(A)の結晶性が低下するため、面積膨潤度(Y)は低くなる傾向がある。また、可塑剤の添加量が同じであっても、可塑剤の種類によりポリビニルアルコール系樹脂(A)の結晶化度を調整することが可能であり、ポリビニルアルコール系樹脂(A)と相溶性の良い可塑剤は、結晶性を低下させる効果が高いため、添加量を少なくすることにより面積膨潤度(Y)の調整が可能となる。逆に、相溶性の悪い可塑剤は、結晶化度を低下させる効果が低いため、可塑剤の添加量を多くすることで、面積膨潤度(Y)が調整できる。
【0086】
さらに、同じ熱処理温度であっても、ポリビニルアルコール系樹脂(A)のケン化度や重合度によっても面積膨潤度(Y)は調整することができる。また、フィルム製膜時の乾燥条件、例えば、高温乾燥や低温乾燥、高湿乾燥などフィルム中の水分を乾燥させる条件によっても、面積膨潤度(Y)を調整してもよい。中でも、生産性の点において、フィルム製膜時の水分率が5〜30重量%となった後に、熱処理することにより面積膨潤度(Y)を調整することが好ましく、可塑剤として主にグリセリンを用い、熱処理温度を
126〜135℃の範囲で面積膨潤度(Y)を調整することがさらに好ましい。
【0087】
ここで、面積膨潤度(Y)とは、以下のようにして測定されるものである。
すなわち、フィルムを10cm×10cm角に機械(MD)方向、幅(TD)方向と平行になるように切り出し、平坦なガラス板上に載せ、MD方向、およびTD方向の寸法を各々計測する。次に、30℃に調整されたイオン交換水槽に5分間浸漬させた後、フィルムを取り出し、直ちに、平坦なガラス板上に載せ、MD方向、およびTD方向の寸法を各々ノギスにて計測し、下式により求める。なお、上記操作は23℃、50%RHの環境下にて行なう。
MD方向の膨潤度(X
MD)(%)
=(浸漬後のMD方向の寸法/浸漬前のMD方向の寸法)×100
TD方向の膨潤度(X
TD)(%)
=(浸漬後のTD方向の寸法/浸漬前のTD方向の寸法)×100
面積膨潤度(Y)(%)
=(MD方向の膨潤度(X
MD)/100)×(TD方向の膨潤度(X
TD)/100)×100
【0088】
また、本発明においては、ポリビニルアルコール系フィルムのシンジオタクティシティが40〜60%、特には45〜55%、更には50〜54%であることが好ましく、シンジオタクティシティが小さすぎると耐水性が低下し、偏光性能が低くなる傾向があり、大きすぎると延伸性が低下し、破断し易くなる傾向がある。
【0089】
かかるシンジオタクティシティを上記の範囲にコントロールするには、例えば、シンジオタクティシティの高いポリビニルアルコール系樹脂とシンジオタクティシティの低いポリビニルアルコール系樹脂をブレンドする方法や、酢酸ビニルの重合温度を変えたものをケン化する方法、ピバリン酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、トリクロロ酢酸ビニルなどのビニルエステルの重合体をケン化する方法、等がある。
【0090】
なお、ここで、シンジオタクティシティとは、以下のようにして測定されるものである。すなわち、溶媒(D
2O)中のポリビニルアルコール系フィルムを
13C−NMR法により測定したダイアッド(diad)表示による値である。
【0091】
更に、得られるポリビニルアルコール系フィルムは、可視光全域において、光線透過率が90%以上であり、光学用ポリビニルアルコール系フィルムとして非常に有用である。
したがって、本発明の
製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムは、光学フィルムの原反フィルムとして、特に偏光フィルムの原反フィルムとして好ましく用いられる。
【0092】
<偏光フィルム及び偏光板>
以下、本発明の
製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムを用い
た偏光フィルムの製造方法について説明する。
【0093】
上記偏光フィルムは、通常の染色、延伸、ホウ酸架橋および熱処理などの工程を経て製造される。偏光フィルムの製造方法としては、ポリビニルアルコール系フィルムを延伸してヨウ素または二色性染料の溶液に浸漬し染色したのち、ホウ素化合物処理する方法、延伸と染色を同時に行ったのち、ホウ素化合物処理する方法、ヨウ素または二色性染料により染色して延伸したのち、ホウ素化合物処理する方法、染色したのち、ホウ素化合物の溶液中で延伸する方法などがあり、適宜選択して用いることができる。このように、ポリビニルアルコール系フィルム(未延伸フィルム)は、延伸と染色、さらにホウ素化合物処理を別々に行っても同時に行ってもよいが、染色工程、ホウ素化合物処理工程の少なくとも一方の工程中に一軸延伸を実施することが、生産性の点で望ましい。
【0094】
延伸は一軸方向に2.5〜10倍、好ましくは2.8〜7倍延伸することが望ましいが、本発明においては、特に6倍までの延伸であっても光学特性に優れた偏光フィルムとすることができる。この際、延伸方向の直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度、またはそれ以上の延伸)を行っても差し支えない。延伸時の温度は、20〜170℃から選ぶのが望ましい。さらに、延伸倍率は最終的に前記範囲に設定されればよく、延伸操作は一段階のみならず、製造工程の任意の範囲の段階に実施すればよい。
【0095】
フィルムへの染色は、フィルムにヨウ素または二色性染料を含有する液体を接触させることによって行なわれる。通常は、ヨウ素−ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は0.1〜2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は10〜50g/L、ヨウ化カリウム/ヨウ素の重量比は20〜100が適当である。染色時間は30〜500秒程度が実用的である。処理浴の温度は5〜50℃が好ましい。水溶液には、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させても差し支えない。接触手段としては浸漬、塗布、噴霧などの任意の手段が適用できる。
【0096】
染色処理されたフィルムは、ついでホウ素化合物によって処理される。ホウ素化合物としてはホウ酸、ホウ砂が実用的である。ホウ素化合物は水溶液または水−有機溶媒混合液の形で濃度0.3〜2モル/L程度で用いられ、液中には10〜100g/L、ヨウ化カリウムを共存させるのが実用上望ましい。処理法は浸漬法が望ましいが、もちろん塗布法、噴霧法も実施可能である。処理時の温度は20〜60℃程度、処理時間は3〜20分程度が好ましく、また必要に応じて処理中に延伸操作を行ってもよい。
【0097】
このようにして得られ
る偏光フィルムは、その片面または両面に光学的に等方性の高分子フィルムまたはシートを保護フィルムとして積層接着して、偏光板として用いることもできる。
上記偏光板に用いられる保護フィルムとしては、例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ−4−メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイド、シクロ系ないしはノルボルネン系ポリオレフィンなどのフィルムまたはシートがあげられる。
【0098】
また、偏光フィルムには、薄膜化を目的として、上記保護フィルムの代わりに、その片面または両面にウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂などの硬化性樹脂を塗布し、積層させることもできる。
【0099】
偏光フィルム(少なくとも片面に保護フィルムあるいは硬化性樹脂を積層させたものを含む)は、その一方の表面に必要に応じて、透明な感圧性接着剤層が通常知られている方法で形成されて、実用に供される場合もある。感圧性接着剤層としては、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルと、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、クロトン酸などのα−モノオレフィンカルボン酸との共重合物(アクリルニトリル、酢酸ビニル、スチロールのようなビニル単量体を添加したものも含む)を主体とするものが、偏光フィルムの偏光特性を阻害することがないので特に好ましいが、これに限定されることなく、透明性を有する感圧性接着剤であれば使用可能で、例えばポリビニルエーテル系、ゴム系などでもよい。
【0100】
上記偏光フィルムは、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、パソコン、テレビ、携帯情報端末機、自動車や機械類の計器類などの液晶表示装置、サングラス、防目メガネ、立体メガネ、表示素子(CRT、LCDなど)用反射低減層、医療機器、建築材料、玩具などに用いられる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
各物性について、次のようにして測定・算出を行った。
【0102】
(1)ポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度(モル%)
残酢酸ビニル単位の加水分解に要するアルカリ消費で分析を行った。
【0103】
(2)ポリビニルアルコール系樹脂の4%水溶液粘度(mPa・s)
水温を20℃に調整しヘプラー粘度計により測定した。
【0104】
(3)各真応力(Xa、Xb、Xc)および各真応力比(Xc/Xa、Xb/Xa、Xc/Xb)
ポリビニルアルコール系フィルムを準備し、上記フィルムを幅(TD)方向2cm×機械(MD)方向12.5cmになるように幅方向に対して中央部を切り出し、長辺両側を油性マーカーにて色づけした後、厚みをマイクロメーターにて5点計測した。
【0105】
次に、5%ホウ酸水溶液中での延伸は、切り出したフィルムを所定の冶具に短辺側両端部を、つかみ間隔が96mmになるように固定し、56℃の5%ホウ酸水溶液中に0.5分間浸漬した(これを「初期状態」とする)。浸漬中、フィルムのたるみを除去するため力がかからない程度につかみ間隔を広げた。その後、70mm/secの延伸速度で機械(MD)方向に連続的に一軸延伸しながら延伸倍率に対する張力を連続的に測定した。そして、連続的に一軸延伸を継続しながら、延伸倍率が2.5倍、3.4倍及び4.3倍のときの張力をそれぞれ読み取った。
【0106】
なお、張力の測定には、底面にガラス窓を備えた水槽に門型のチャックを取り付けてフィルムを水中などで延伸できるようにした構成を備えた試験機を用いた。上記試験機において、フィルムは5%ホウ酸水溶液中で片端が固定され、その反対側が稼働できるようになっている。そして、真応力の算出のためには、延伸中のフィルムサンプル幅の計測が必要であり、フィルムサンプル幅計測用のビデオカメラを水槽に設置した。延伸中はMD方向に対するフィルム中央部が延伸に伴い移動するため、フィルムサンプル幅を計測するためのビデオカメラも延伸速度に同期して移動するように設置し、常にフィルム中央部の幅を計測できるようになっている。かかる試験機にて測定された張力を延伸と同時にカメラ撮影した延伸後の断面積で除し、下記式により算出される値を真応力(MPa)とする。そして、同様の測定を3回行い、その平均値を採用した。
【0107】
各真応力(Xa,XbおよびXc)(MPa)=張力(F)/延伸後の断面積(S)
延伸後の断面積(S)=延伸前の試料断面積(S0)×幅の変化率(W/W0)
ここで、Wは延伸後の試料(フィルム)幅、W0は延伸前の試料(フィルム)幅である。
Xc/Xa
=4.3倍まで延伸した時の真応力(Xc)/2.5倍まで延伸した時の真応力(Xa)
Xb/Xa
=3.4倍まで延伸した時の真応力(Xb)/2.5倍まで延伸した時の真応力(Xa)
Xc/Xb
=4.3倍まで延伸した時の真応力(Xc)/3.4倍まで延伸した時の真応力(X
b)
【0108】
(4)面積膨潤度(Y)(%)
フィルムを10cm×10cm角に機械(MD)方向、幅(TD)方向と平行になるように切り出し、平坦なガラス板上に載せ、MD方向、およびTD方向の寸法を各々ノギスにて計測した。次に、30℃に調整されたイオン交換水槽に5分間浸漬させた後、フィルムを取り出し、直ちに、平坦なガラス板上に載せ、MD方向、およびTD方向の寸法を各々ノギスにて計測し、下式により算出した。なお、上記操作は23℃、50%RHの環境下で行った。
MD方向の膨潤度(X
MD)(%)
=(浸漬後のMD方向の寸法/浸漬前のMD方向の寸法)×100
TD方向の膨潤度(X
TD)(%)
=(浸漬後のTD方向の寸法/浸漬前のTD方向の寸法)×100
面積膨潤度(Y)(%)
=(MD方向の膨潤度(X
MD)/100)×(TD方向の膨潤度(X
TD)/100)×100
【0109】
(5)重量膨潤度(W)(%)
フィルムを10cm×10cmに切り出し、30℃に調整されたイオン交換水槽に15分間浸漬した。次に、フィルムを取り出し、濾紙(5A)上にフィルムを広げて置き、さらに、濾紙(5A)をフィルムの上に重ね、その上に15cm×15cm×0.4cm(4.4g/cm
2)のSUS板を5秒間載せ、フィルム表面の付着水を除去した。このフィルムを速やかに秤量瓶にいれ、重量を測定し、これを膨潤時のフィルム重量Aとした。上記操作は23℃、50%RHの環境にて行った。
次に、該フィルムを105℃の乾燥機に16時間フィルム放置し、フィルム中の水分の除去を行い、その後フィルムを取り出し、速やかに秤量瓶に入れ、重量を測定し、これを乾燥後のフィルム重量Bとした。そして、膨潤時のフィルム重量Aと乾燥後のフィルム重量Bを基に下式より求めた。
重量膨潤度(W)(%)=A/B×100
【0110】
(6)リターデーション値(nm)
リターデーション測定装置(「KOBRA−WFD」王子計測機器社製 測定波長:590nm)を用いて、ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向の中央の部分のリターデーション値を測定した。
【0111】
〔実施例1〕
200Lのタンクに、ポリビニルアルコール系樹脂として、4%水溶液粘度64mPa・s、平均ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂(A)42kg、水100kg、可塑剤(B)としてグリセリン4.2kg、界面活性剤(C)としてドデシルスルホン酸ナトリウム21g、ポリオキシエチレンドデシルアミン8gを入れ、撹拌しながら加圧加熱にて150℃まで昇温して、均一に溶解した後、濃度調整により濃度26%のフィルム形成材料の水溶液を得た。
【0112】
次に、フィルム形成材料の水溶液(液温147℃)を、2軸押出機に供給し、脱泡した。脱泡されたフィルム形成材料の水溶液を、T型スリットダイ(ストレートマニホールドダイ)よりドラム型ロール(熱ロール:R1)に流延して製膜した。
【0113】
上記流延製膜の条件は下記の通りである。
ドラム型ロール(熱ロール:R1)
直径:3200mm、幅:4.3m、回転速度:15m/分、表面温度:75℃、T型スリットダイ出口の樹脂温度:90℃
なお、ドラム型ロールから剥離する際のフィルム水分率を測定したところ17%であった。
【0114】
得られた膜の表面と裏面とを下記の条件にて乾燥ロールに交互に通過させながら乾燥を行った。
・乾燥ロールの1本目〜15本目(熱ロール:R2〜R16)
直径:320mm、幅:4.3m、回転速度:15m/分、表面温度:60℃
なお、乾燥後フィルムをサンプリングし、フィルム水分率を測定したところ7%であった。
【0115】
乾燥後、連続して、この膜を両面から温風を吹き付けるフローティング型ドライヤー(長さ12m)により、130℃で熱処理を行い、幅4m、長さ4000m、フィルム中央部の厚み30μmのポリビニルアルコール系フィルムを得た。
得られたポリビニルアルコール系フィルムの各物性を後記の表1に示す。
【0116】
上記で得られ
たポリビニルアルコール系フィルムを用いて、以下の要領で偏光フィルムを得て、以下の評価を行った。評価結果を後記の表1に示す。
【0117】
得られたポリビニルアルコール系フィルムを、水温30℃の水槽に浸漬しつつ、1.5倍に延伸した。次に、ヨウ素0.2g/L、ヨウ化カリウム15g/Lよりなる染色槽(30℃)にて240秒浸漬しつつ1.3倍に延伸し、さらにホウ酸50g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成のホウ酸処理槽(50℃)に浸漬するとともに、同時に2.8倍に一軸延伸しつつ5分間にわたってホウ酸処理を行った。その後、乾燥して総延伸倍率5.5倍の偏光フィルムを得た。
また、上記ホウ酸処理槽において2.97倍一軸延伸する以外は同様に行うことで、総延伸倍率5.8倍の偏光フィルムを得た。
【0118】
<<偏光フィルムの評価>>
上記で得られた各偏光フィルム(総延伸倍率5.5倍の偏光フィルム、総延伸倍率5.8倍の偏光フィルム)の幅方向の中央部から、偏光フィルムの配向方向に平行に4cm×4cmの正方形のサンプルを採取した。
これらのサンプルについて、日本分光社製の分光光度計V−7070を用いて、得られた偏光フィルムの透過率(%)、偏光度(%)および二色比を測定した。
【0119】
〔実施例2、比較例1〜3〕
実施例1において、フィルム製膜の条件を下記の表1に示す通りに変更した以外は同様に行い、ポリビニルアルコール系フィルムを得、更に、実施例1と同様にして偏光フィルムを得た。
得られたポリビニルアルコール系フィルム、及び、偏光フィルムについて、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を下記の表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
上記実施例及び比較例の結果から、実施例品については、Xc/Xaが所定範囲内であるため、偏光フィルムにおける二色比が低延伸倍率でも高いポリビニルアルコール系フィルムとなっていることがわかる。これに対して、比較例品においては、5.5倍や5.8倍程度の低延伸倍率では光学特性に優れる偏光フィルムが得られなかった。特に、比較例3品においては、フィルムが破断することとなった。
【0122】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。