【実施例】
【0012】
(実施例1)
  本例は、道路に敷設される磁気マーカ1の作製方法に関する例である。この内容について、
図1〜
図9を参照して説明する。
  
図1及び
図2の磁気マーカ1は、例えば、車両5が走行する車線530の中央に沿って敷設される。このように路面53に敷設された磁気マーカ1の磁気は、例えば車両5の底面50に取り付けた磁気センサ2等により検出できる。磁気センサ2の検出信号は、例えば車両5側の図示しないECU等に入力され、車線維持のための自動操舵制御や車線逸脱警報などの運転支援制御や、自動走行のための制御など各種の制御に利用される。
【0013】
  磁気マーカ1は、
図3のごとく、直径100mm、厚さ1.5mmの扁平な円形シート状のマーカである。磁気マーカ1は、磁気を発生する磁性層11に対して、その表裏両面に樹脂材料による保護層12を積層した3層構造を有している。磁性層11は、基材であるゴムの中に酸化鉄の粉末である磁粉を分散させた等方性フェライトラバーマグネットの層である。本例では、最大エネルギー積(BHmax)=6.4kJ/m
3の等方性フェライトラバーマグネットを採用している。
【0014】
  ここで、作製する磁気マーカ1の仕様の一部を表1に示す。
【表1】
【0015】
  有限要素法を用いた軸対称3次元静磁場解析によるコンピュータシミュレーションを利用すると、表面磁束密度Gsが1mTで直径100mmの磁気マーカ1が作用する鉛直方向の磁界分布が
図4のように求まる。同図は、鉛直方向に作用する磁気の磁束密度の対数目盛を縦軸に設定し、磁気マーカ1の表面を基準とした鉛直方向の高さ(マーカ表面からの高さ)を横軸に設定した片対数グラフとなっている。同図によれば、車両5側の磁気センサ2の取り付け高さとして想定される250mmの位置について、磁気マーカ1が作用する磁束密度が8マイクロテスラ(0.08×10
-4テスラ)となることを把握できる。なお、利用したコンピュータシミュレーションについては、発明者らが実証実験により精度を予め確認済みである。
【0016】
  例えば、磁束密度の測定レンジが±0.6ミリテスラであって、測定レンジ内の磁束分解能が0.02マイクロテスラの高感度のマグネトインピーダンス(MI:Magneto Impedance)センサを採用すれば、磁気マーカ1が作用する8マイクロテスラの磁界を確実性高く検出できる。ここで、MIセンサは、外部磁界に応じてインピーダンスが変化する感磁体を含むマグネトインピーダンス素子を利用した磁気センサである。マグネトインピーダンス素子(MI素子)は、パルス電流あるいは高周波電流等が感磁体を流れるときに表皮層の電流密度が高くなる表皮効果に起因し、外部磁界によって表皮層の深さ(厚さ)が変動して感磁体のインピーダンスが敏感に変化するというマグネトインピーダンス効果(MI効果)を利用して磁気を検出する素子である。このようなMI効果を利用するMI素子によれば、高感度な磁気計測が可能である。なお、MI素子を利用したMIセンサについては多数の出願がなされており、例えば、WO2005/19851号公報、WO2009/119081号公報、特許4655247号公報などに詳細な記載がある。
【0017】
  次に、以上のような構成の磁気マーカ1の作製方法について、
図5〜
図7を用いて説明する。この作製方法は、磁性層11をなす磁性シート104Aを作製した後、その表裏両面に保護層12をなす層を積層した打抜き(切り出し)用の中間シート104Bを中間加工品として得、さらに、この中間シート104Bから着磁前の磁気マーカ1を打ち抜いて(切り出して)着磁する方法である。
【0018】
  磁性シート104Aを作製するに当たっては、まず、基材となる流動状態のゴムの中に磁粉111(本例では酸化鉄の粉末)を混練したスラリー113を生成する(
図5(a))。このスラリー113を所定形状に成型したペレット101(
図5(b))を乾燥させた後、圧延ローラ102によりシート状に薄く引き延ばす。これにより、シート状の磁性シート104Aを作製できる(
図5(c))。
【0019】
  図5(d)の中間シート104Bは、磁性シート104Aの表裏両面に、樹脂材料よりなる保護層12を積層したシート体である。保護層12は、例えば硬化剤を混ぜたプラスチック樹脂を磁性シート104Aの表面に塗布して形成できる。中間シート104Bの断面構造は、磁性層11をなす第1の層の表裏両面に保護層12をなす第2の層が積層された3層構造(図示略)となっている。
【0020】
  中間シート104Bは、破線円で打ち抜き予定位置を示す通り(
図5(d))、複数の磁気マーカ1を打ち抜き可能な大判のシートである。磁気マーカ1を打ち抜くに当たっては、
図6のごとく、打ち抜いた磁気マーカ1を収容可能な円筒状の打抜き型3が用いられる。この打抜き型3は、図示しない油圧シリンダに従動して上下にストロークするトムソンホルダ32と、先端に円形状の刃先を有する略円筒状のトムソン型31と、トムソン型31に内挿配置された状態で筒方向に摺動可能な吸着ユニット33と、を含めて構成されている。
【0021】
  図6の吸着ユニット33は、図示しないエアポンプから延設されたチューブを接続する吸入ポート330を備え、この吸入ポート330が空圧回路を介して先端面の吸引口332に連通している。この吸着ユニット33は、同図のごとく、中間シート104Bから打ち抜いた磁気マーカ1を吸着すると共に、新たに磁気マーカ1を打ち抜く毎にその厚さ分だけ後退することで、トムソン型31内において打ち抜いた磁気マーカ1を順次積層する。
【0022】
  このような構成の打抜き型3を用い、中間シート104Bの位置を順次ずらしながら打ち抜き加工を連続的に施せば、複数の磁気マーカ1を重ね合わせた積層体100を形成できる。打ち抜き加工を連続的に実施する途中で、中間シート104Bを取り替えることも良い。中間シート104Bを途中で取り替えれば、より多くの枚数の磁気マーカ1が積層された積層体100が得られる。
【0023】
  所定回数の打ち抜きを実施した後、打抜き型3内から積層体100を取り出し、この積層体100を構成する磁気マーカ1を一括して着磁する工程を実施する。
図7に例示するこの工程は、電線350を巻回した円筒状のコイル35を備える着磁装置を用いて実施される。
【0024】
  コイル35は、積層体100を内挿配置可能なように形成されている。積層体100を内挿配置した状態でコイル35に電力を供給すれば、コイル35から発生する磁界を積層体100に作用できる。このように積層体100に磁界を作用すれば、この積層体100を構成する各磁気マーカ1の磁性層11を構成する磁粉を磁化でき、これにより磁気マーカ1を着磁できる。特に、上記のように積層体100よりも筒方法に長い円筒状のコイル35を利用すれば、この積層体100を構成する各磁気マーカ1に均一性高く磁界を作用でき、磁気的な特性のばらつきが少ない高品質の磁気マーカ1を作製できる。
【0025】
  磁気マーカ1の敷設の際には、着磁済みの積層体100から取り外した磁気マーカ1を、予め接着材を塗布した路面53に配置する。そして、接着材の硬化により接合が完了した後、例えばポリアミド樹脂材料の中に砂等の骨材を混ぜた粉体塗料を磁気マーカ1の表面に塗布している。
【0026】
  このような施工手順を実行すると、
図8のごとく、磁気マーカ1と路面53との間隙に接合層16が形成されていると共に、ポリアミド樹脂材料の中に骨材が混ざった防滑層15が表面側に形成された敷設状態を実現できる。ここで、磁気マーカ1の厚さは1.5mmであり、路面53にプリントされる白線や制限速度表示等の路面標識よりも薄いため、車両走行の妨げとなるおそれが少ない。また、骨材を混ぜた防滑層15が表面側に積層されているため、車両タイヤのスリップ等が起こる可能性が少なくなっている。なお、
図8は、磁気マーカ1の外周部の断面構造を例示している。同図に例示するように磁気マーカ1の外周側面は、打ち抜きによる切断加工面により形成されているが、この切断加工面を覆うように骨材を混ぜたポリアミド樹脂材料を塗布することも良い。
【0027】
  以上の磁気マーカの作製方法によれば、打ち抜きにより効率良く磁気マーカ1を作製できる。特に、中間シート104Bは複数の磁気マーカ1を打ち抜き可能な大判シートであるので、打ち抜き箇所をずらしながら連続的に打ち抜くことで、磁気マーカ1の生産効率を向上できる。さらに、例示した打抜き型3であれば、打ち抜いた磁気マーカ1を型内に取り込み、積層体100を形成できる。積層体100として複数の磁気マーカ1を積層した状態であれば、複数の磁気マーカ1を一括して取り扱うことができ、利便性が高くなる。
【0028】
  例えば着磁済みの積層体100を施工現場までそのままの状態で運搬し、現場作業にて積層体100から磁気マーカ1を取り外しながら敷設作業を実施することも良い。また、例えば
図9のごとく積層体100を収容すると共に取り出し口340から磁気マーカ1を1枚ずつ供給するホルダー34を装備した作業車両を採用し、判子を押すように磁気マーカ1を1枚ずつ路面53に貼り付けるように敷設することも良い。
【0029】
  ホルダー34は、例えば、付勢部材342により押し出し方向に付勢されたサポート板341を有している。このサポート板341により押し出し方向に付勢された積層体100は、内径がわずかに絞られた取り出し口340に対して端面が面一をなすように位置する。この状態で判子を押すようにホルダー34を路面53に押し付ければ、積層体100の端面に位置する磁気マーカ1を1枚、路面53に移載できる。そうすると、サポート板341により付勢された積層体100が取り出し口340と面一になるまで押し出されて1枚の厚さ分だけ前進し、次の磁気マーカ1を路面53に移載できる状態となる。
【0030】
  磁気マーカ1の磁性層11を形成する磁粉として酸化鉄を採用しているが、この酸化鉄は、打ち抜きによる磁気マーカ1の作製に適している。酸化鉄は、酸化による性能劣化のおそれが少ないため、磁気マーカ1の外周側面に現れる打ち抜き断面のコーティング等の処理が不要であったり、簡便な処理を適用できるからである。
【0031】
  さらに、本例の作製方法では、磁気マーカ1を複数積層した積層体100に対して磁界を作用することで、この積層体100を構成する各磁気マーカ1を効率良く着磁している。このように効率良く磁気マーカ1の着磁を実行できれば、磁気マーカ1の生産効率を高めることができ、生産コストを抑えて低コストを実現できる。そして、低コストな磁気マーカ1を採用すれば、敷設区間が長かったり車線の数が多いために磁気マーカ1の敷設個数が非常に多くなる施工であっても施工コストの上昇を抑制できる。
【0032】
  なお、本例では、磁気マーカ1を打ち抜き、打抜き型3内で積層して積層体100を生成する手順を説明したが、これに代えて、磁気マーカ1を打ち抜く毎に型から取り外し、1枚ずつ積層することも良い。さらに、磁気マーカ1は、打ち抜き加工によらずに作製されたものであっても良い。
【0033】
  磁気マーカ1を検出する磁気センサとしてMIセンサを例示したが、これに代えて、例えばフラックスゲートセンサやTMR型センサなど他の原理を採用する高感度センサを組み合わせても良い。フラックスゲートセンサは、軟磁性コアに周期電流を流したときのコア磁束の飽和タイミングが外部磁界に応じて変化することを利用し、飽和のタイミングから磁気強度を計測する高感度な磁気センサである。なお、フラックスゲートセンサについては多数の出願がなされており、例えば、WO2011/155527号公報、特開2012−154786号公報などに詳細な記載がある。
  TMR(Tunneling Magneto Resistive)型センサは、強磁性層の間に膜厚1nm程度の絶縁体層を挟み込む構造をもち、膜面に対して垂直に電圧を印加するとトンネル効果によって絶縁体層に電流が流れ、その際の電気抵抗が外部磁界に応じて大きく変化するトンネル磁気抵抗(TMR)効果を利用した高感度な磁気センサである。なお、TMR型センサについては多数の出願がなされており、例えば、WO2009/078296号公報、特開2013−242299号公報などに詳細な記載がある。
【0034】
  磁気マーカ1を構成する磁性層11をなす基材として本例では高分子材料であるゴムを例示している。これに代えて、高分子材料であるアスファルトやプラスチック等の樹脂材料を基材として採用しても良い。ゴムを基材にすればラバーマグネットとなり、プラスチックを基材とすればプラスチックマグネットとなる。アスファルトやゴムや樹脂材料などの高分子材料を基材として磁粉を分散させたマグネットの多くは柔軟性を備え、例えば焼結磁石等のマグネットに比べて割れが生じにくいという利点がある。柔軟性の高い磁気マーカ1であれば、施工時の路面53の凹凸に対応できるので施工不良を抑制できる。また、運用中の路面の変形等にも対応できるので、長期に渡る使用期間における不良の発生を抑制できる。さらに、アスファルト等の高分子材料を基材とした磁性シートは比較的低コストで高精度に成形可能であるため、生産コストを抑制しながら高品質の磁気マーカ1を提供できる。
【0035】
  磁粉111をなす磁性材料は、本例の酸化鉄には限定されず、ネオジウム、サマリウムコバルト等の様々な材料を採用できる。基材をなす材料や磁粉111をなす磁性材料については、磁気マーカ1に要求される磁気的仕様や環境仕様等に応じて、適切な磁性材料を選択的に決定するのが良い。すでに金属が酸化した状態の酸化鉄は、錆等による性能劣化が少なく、長期に渡って初期性能を維持できるという利点がある。
【0036】
  なお、本例では、車線に沿って連続的に配置された磁気マーカを例示しているが、例えば、分岐路や交差点等への接近情報を報知するために分岐路等の手前に配置される磁気マーカであっても良い。
  磁気マーカ1を路面53に接合した後で、防滑層15を形成する施工を例示したが、これに代えて、中間シート104Bに防滑層15となる層を予め積層しておくことも良い。
【0037】
  以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。