【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
(FT−IR測定方法)
FT−IRのピーク強度比は、Varian UMA600を用い、赤外全反射吸収スペクトル法(ATR法)により測定した。尚、測定は、60℃のエタノール80%水溶液に4時間浸漬し洗浄した多孔質膜表面について行った。
【0030】
(表面開孔率測定方法)
表面開孔率及び平均表面孔径は、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、製品名:JSM−6340F)により観察された膜表面について、Image Proによる画像解析により算出した値である。
【0031】
(透水量測定方法)
多孔質膜の片端をウレタン樹脂(日本ポリウレタン(株)、コロネート4403、ニッポラン4221)によりポッティングし、圧力タンクにつないだホースにポッティングしていない側から入れた。圧力タンクに100kPa、10kPaの圧力をかけ、ポッティング側から出てきた水の量を測定した。その水の量を、有効膜面積、測定時間、測定圧力で除すことで透水量を算出した。
【0032】
(Mn、Mw/Mnの測定方法)
両親媒性共重合体(B)のMn及びMw/Mnは、GPC(東ソー(株)製、「HLC−8220」(商品名))を使用して以下の条件で求めた。
カラム:TSK GUARD COLUMN SUPER HZ−L(4.6×35mm)と2本のTSK−GEL SUPER HZM−N(6.0×150mm)を直列に接続
溶離液:クロロホルム、DMF又はTHF
測定温度:40℃
流速:0.6mL/分
尚、Mw及びMnは、Polymer Laboratories製のポリメタクリル酸メチル(Mp(ピークトップ分子量)が141,500、55,600、10,290及び1,590の4種)を用いて作成した検量線を使用して求めた。
【0033】
(合成例1;コバルト連鎖移動剤CoBF−1の合成)
撹拌装置を備えた反応装置中に、窒素雰囲気下で、酢酸コバルト(II)四水和物(和光純薬(株)製、和光特級)1.00g、ジフェニルグリオキシム(東京化成(株)製、EPグレード)1.93g及び予め窒素バブリングにより脱酸素したジエチルエーテル(関東化学(株)製、特級)80mlを入れ、室温で30分間攪拌した。次いで、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(東京化成(株)製、EPグレード)10mlを加え、更に6時間攪拌した。混合物をろ過し、固体をジエチルエーテル(関東化学(株)製、特級)で洗浄し、15時間真空乾燥して、赤褐色固体であるコバルト連鎖移動剤CoBF−1を2.12g得た。
【0034】
(合成例2;分散剤1の合成)
撹拌機、冷却管及び温度計を備えた反応装置中に、17%水酸化カリウム水溶液61.6wt%、メタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)19.1wt%及び脱イオン水19.3wt%を仕込んだ。次いで、反応装置内の液を室温にて撹拌し、発熱ピークを確認した後、更に4時間撹拌した。この後、反応装置中の反応液を室温まで冷却してメタクリル酸カリウム水溶液を得た。
次いで、撹拌機、冷却管及び温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水900wt%、42%メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム水溶液(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルSEM−Na)70wt%、上記のメタクリル酸カリウム水溶液16wt%及びメタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)7wt%を入れて撹拌し、重合装置内を窒素置換しながら、50℃に昇温した。その中に、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(和光純薬工業(株)製、商品名:V−50)0.053wt%を添加し、更に60℃に昇温した。重合開始剤の投入後、15分毎にメタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)1.4wt%を計5回、分割添加した。この後、重合装置内の液を撹拌しながら60℃で6時間保持した後、室温に冷却して、透明な水溶液である固形分8%の分散剤1を得た。
【0035】
(合成例3;疎水性モノマー(b1)の合成)
冷却管付フラスコに、メタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)100wt%、脱イオン水150wt%、硫酸ナトリウム1.39wt%、分散剤1、1.53wt%、CoBF−1、0.00075wt%を仕込んだ。フラスコ内の液を70℃に加温した状態で、CoBF−1を溶解させ、窒素バブリングにより内wt%を窒素置換した。次いで、AIBN、1質量wt%を加えた後、内温を70℃に保った状態で、6時間保持し、重合を完結させた。この後、重合反応物を室温まで冷却し、更にろ過して重合体を回収した。得られた重合体を水洗後、50℃で一晩真空乾燥することにより疎水性モノマー(b1)を得た。疎水性モノマー(b1)のMnは7,000、Mw/Mnは3.0であった。疎水性モノマー(b1)の末端二重結合の導入率はほぼ100%であった。疎水性モノマー(b1)は、前記の式(1)において、Rはメチル基であった。
【0036】
(合成例4;両親媒性共重合体(B−1)の合成)
冷却管付フラスコに、疎水性モノマーとしてメタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製)(65wt%)、親水性モノマー(b2)としてHEA(アクリル酸2−ヒドロキシエチル(和光純薬(株)製、和光一級))35wt%及び溶剤としてDMAc(N,N−ジメチルアセトアミド、和光純薬(株)製、和光特級)150wt%を含有するモノマー組成物を投入し、窒素バブリングにより内wt%を窒素置換した。次いで、モノマー組成物を加温して内温を70℃に保った状態で、ラジカル重合開始剤としてAIBN0.1wt%(和光純薬(株)、和光特級)をモノマー組成物に加えた後、4時間保持し、次いで80℃に昇温して30分間保持し、重合を完結させ、重合反応物を得た。この後、重合反応物を室温まで冷却し、脱イオン水で再沈殿させた。再沈殿によって析出したポリマーを回収し、50℃及び50mmHg(6.67kPa)以下の条件で一晩真空乾燥して、グラフト共重合体である両親媒性共重合体(B−1)(PMMA−g−PHEA)を得た。得られた両親媒性共重合体(B−1)の収率は、ほぼ100%であった。両親媒性共重合体(B−1)のMnは71,000であり、Mw/Mnは3.0であった。
【0037】
(合成例5;両親媒性共重合体(B’−1)の合成)
疎水性モノマー(b1)としてメタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)50wt%、親水性モノマー(b2)としてHEA(アクリル酸2−ヒドロキシエチル(和光純薬(株)製、和光一級))50wt%、トルエン(和光純薬(株)製、試薬特級)150wt%の条件で、ランダム共重合体である両親媒性共重合体(B’−1)(PMMA−r−PHEA)を得た。両親媒性共重合体(B’−1)のMnは89,000であり、Mw/Mnは6.8であった。
【0038】
(合成例6;両親媒性共重合体(B’−2)の合成)
疎水性モノマー(b1)としてメタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)70wt%、親水性モノマー(b2)としてHEMA(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(三菱レイヨン(株)製)30wt%を使用する以外は合成例5と同様にランダム共重合体である両親媒性共重合体(B’−2)(PMMA−r−HEMA)を得た。両親媒性共重合体(B’−1)のMnは105,000であり、Mw/Mnは3.0であった。
【0039】
(合成例7;両親媒性共重合体(B’−3)の合成)
疎水性モノマー(b1)(メタクリル酸メチル)70wt%、親水性モノマー(b2)としてHEA(アクリル酸2−ヒドロキシエチル(和光純薬(株)製、和光一級))30wt%を使用する以外は合成例4と同様に、グラフト共重合体である両親媒性共重合体(B’−3)(PMMA−g−HEMA)を得た。両親媒性共重合体(B’−3)のMnは20,000であり、Mw/Mnは1.7であった。
【0040】
(合成例8;両親媒性共重合体(B−2)の合成)
疎水性モノマー(b1)としてメタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)50wt%、親水性モノマー(b2)としてHEMA(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(三菱レイヨン(株)製)50wt%を使用する以外は合成例5と同様にランダム共重合体である両親媒性共重合体(
B−2)(PMMA−r−HEMA)を得た。両親媒性共重合体(
B−2)のMnは260,000であり、Mw/Mnは4.2であった。
【0041】
(合成例9;両親媒性共重合体(B’−4)の合成)
疎水性モノマー(b1)としてメタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)50wt%、親水性モノマー(b2)としてHEMA(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(三菱レイヨン(株)製)50wt%を使用する以外は合成例5と同様にランダム共重合体である両親媒性共重合体(B’−
4)(PMMA−r−HEMA)を得た。両親媒性共重合体(B’−
4)のMnは129,000であり、Mw/Mnは3.2であった。
【0042】
表中の略号は以下の化合物を示す。
MMA:メタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルM)
HEA:アクリル酸2−ヒドロキシエチル(和光純薬(株)製、和光一級)
HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(三菱レイヨン(株)製、商品名:亜クリエステルHOMA)
PME−400(日本油脂(株)製、ブレンマーPME−400(商品名))
【0043】
[実施例1]
膜形成ポリマー(A)としてKynar761A(アルケマ社製、PVDFホモポリマー、商品名、Mw=550,000)を15wt%、両親媒性共重合体(B)として前記共重合体(B−1)を10wt%、溶剤としてNMP(関東化学(株)製、特級)を75wt%含むポリマー溶液を、75℃に加温した状態で編み紐上に塗布し、常温の純水中に浸漬し、中空状多孔質膜を作製した。
得られた中空状多孔質膜について、FT−IR、表面開孔率、表面平均孔径及び透水量を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2]
両親媒性共重合体(B)として前記共重合体(B−2)を使用する以外は、実施例1と同様に中空状多孔質膜を作製した。
得られた中空状多孔質膜について、FT−IR、表面開孔率、表面平均孔径及び透水量を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
両親媒性共重合体(B)として前記共重合体(B’−1)を使用する以外は、実施例1と同様に中空状多孔質膜を作製した。
得られた中空状多孔質膜について、FT−IR、表面開孔率、表面平均孔径及び透水量を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
[比較例2]
両親媒性共重合体(B)として前記共重合体(B’−2)を使用する以外は、実施例1と同様に中空状多孔質膜を作製した。
得られた中空状多孔質膜について、FT−IR、表面開孔率、表面平均孔径及び透水量を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
[比較例3]
両親媒性共重合体(B)として前記共重合体(B’−3)を使用する以外は、実施例1と同様に中空状多孔質膜を作製した。
得られた中空状多孔質膜について、FT−IR、表面開孔率、表面平均孔径及び透水量を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
[比較例4]
両親媒性共重合体(B)として前記共重合体(B’−4)を使用する以外は、実施例1と同様に中空状多孔質膜を作製した。
得られた中空状多孔質膜について、FT−IR、表面開孔率、表面平均孔径及び透水量を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1より、多孔質膜表面のFT−IRのピーク強度比(1726〜1730cm
−1に現れるピークの強度/1398〜1402cm
−1に現れるピークの強度)が0.4以上10以下である多孔質膜であり、かつ、表面開孔率が20%以上50%以下である実施例1、2は、測定圧力100kPa、10kPaともに高い透水性能を発現した。多孔質膜の実使用圧力である3〜30kPaにおいても、実施例1及び2は十分な透水量を示した。
一方、前記ピーク強度比が前記範囲外の比較例1、2及び4、並びに、表面開孔率が前記範囲外の比較例3は、測定圧力100kPa、10kPaでの透水性量が低く、特に10kPaでの透水性能が低かった。