(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワイパーブレードが当接する液体吐出ヘッドの液体吐出面に形成された撥液膜材料と前記当接部との静止摩擦係数μ1と、前記撥液膜材料と弾性ゴムからなる基体との静止摩擦係数μ2との関係がμ1<μ2である請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド用ワイパーブレード。
液体吐出ユニットには、さらに、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する供給機構及び前記液体吐出ヘッドを主走査方向に移動させる主走査移動機構の少なくとも一つが含まれている請求項8又は9に記載の液体吐出ユニット。
液体吐出ユニットの液体吐出ヘッドは、液体吐出面に撥液膜が形成されており、該撥液膜は、エーテル結合を有する含フッ素ヘテロ環状構造をPTFE骨格にもつフッ素樹脂を含有する膜である請求項8乃至10のいずれかに記載の液体吐出ユニット。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[液体吐出ヘッド用ワイパーブレード]
液体吐出ヘッド用ワイパーブレード(以下、「ワイパーブレード」という)は液体吐出面に付着した液体を除去し吐出安定性の維持に寄与する重要部品である。
図1に液体吐出ヘッド404とワイピングユニット50とを示す。液体吐出ヘッド404は、ノズル板10とノズル板10の表面に形成された撥液膜40とを備えている。また、ワイピングユニット50はワイパーブレード51とワイパーブレード51を支持するワイパーブレード支持部材52とから構成される。
【0011】
従来、ワイパーブレードとしては弾性ゴム部材や樹脂フィルムが用いられているが、次のような課題があった。すなわち弾性ゴムワイパーは液体吐出ヘッドとの摺擦により容易に摩耗し初期においては直角であった先端稜線部が早期に丸みを帯びてしまうことで、設計上の当接圧力を長期に渡って維持できず、液体払拭性能の低下を招く。つまり液体の拭き残しが発生し吐出安定性を低下させる。一方、樹脂フィルムワイパーの場合、液体吐出ヘッドの液体吐出面に設けられる撥液膜より硬すぎるため撥液膜を早期に摩耗させてしまい、やはり吐出安定性を低下させる。
【0012】
そこで、本発明においては、弾性ゴムからなる基体の液体吐出面に当接する先端稜線部を含む当接部を、弾性ゴムと硬化性組成物の硬化物との複合材料を形成することによって改質し、該複合材料のマルテンス硬さを弾性ゴムのマルテンス硬さよりも高くした。
【0013】
ワイパーブレードの先端稜線部を含む当接部を複合材料化するという構成が好適な理由として、ゴムが本来もつ弾性を残しながら、先端稜線部を含む当接部の弾性を低減することで、撥液膜表面の微細凹凸への追随性の維持と、見かけ上のゴムの架橋密度向上による耐摩耗性向上を両立可能であることが挙げられる。
弾性ゴムと硬化性組成物の硬化物との複合材料部分(以下、改質部分ともいう)は樹脂に近い性質を持つようになるため摺擦で受けるエネルギーによるヒステリシスロスが大きくなり摩耗しやすくなるが、ワイパーブレードの大部分を改質しないまま残すことで、発生したエネルギーをゴム弾性の振動(スティックスリップ運動)として弾性ゴムからなる基体部分より発散することが可能となる。これにより単一な構成のゴムよりも耐摩耗性が高く、樹脂フィルムよりも追随性が高いものとなる。
【0014】
ワイパーブレードの先端稜線部を含む当接部を複合材料化して改質する方法としては、弾性ゴムより硬い材料となる硬化性組成物を弾性ゴムに含浸させ、次いで硬化性組成物を硬化させる方法が好ましい。
【0015】
以下、本発明のワイパーブレードの構成について
図2を参照して説明する。
図2(a)は本発明のワイパーブレードの製造方法の一例を示す図であり、
図2(b)は本発明のワイパーブレードのマルテンス硬さの分布状態を示す図であり、マルテンス硬さが高い程、色が濃く表示されている。
【0016】
本発明のワイパーブレードの製造方法の一例を挙げると以下の通りである。
図2(a)に示すように、含浸処方液5として、その硬化物がワイパーブレードの弾性ゴムの硬度よりも高い硬度を有する硬化性組成物をディッピング槽6に収容する。
次いで、弾性ゴムからなる基体2を、ディッピング槽6に浸漬して、ワイパーブレードの先端稜線部3を含む当接部に硬化性組成物を含浸させる。
次いで、硬化性組成物を含浸した弾性ゴムからなる基体2に紫外線を照射して含浸部を前記基体と硬化性組成物の硬化物との複合材料からなる複合材料層領域4とする。
図2(b)はワイパーブレードの先端稜線部を含む当接部におけるマルテンス硬さの分布状態を示した図であり、高硬度の部分が濃く表示されている。マルテンス硬さはワイパーブレードの表面から内部に向かって硬度が減少している。
【0017】
(基体)
基体の弾性ゴムとしては、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)やクロロプレンゴム(CR)などのジエン系ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)やウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)などの非ジエン系ゴムなど、いずれも使用することができるが、ゴム中の配合剤(可塑剤や難燃剤など)がブリードアウト、あるいは液体成分により抽出される恐れの少ないEPDMやU、FKMなどが好適である。
【0018】
<基体のマルテンス硬さ>
前記断面のマルテンス硬さ(HM)は、フィッシャー・インストルメンツ社製、微小硬度計 HM−2000を用い、ビッカース圧子を1.0mNの力で10秒間押し込み、5秒間保持し、1.0[mN]の力で10秒間抜いて、測定することができる。
【0019】
<基体のJIS−A硬度>
基体の弾性ゴム硬度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25℃におけるJIS−A硬度が70°前後のものが好ましい。85°以上に硬くなると撥水膜を削り易くなり、またブレードエッジ自身にチッピング(欠け)が起こりワイピング機能が低下する。また、50°以下に柔らかくなるとブレードが摩耗しやすくなり、ワイピング機能が低下する。
JIS−A硬度は、「タイプAデュロメータ」で測定される値であり、例えば、高分子計器株式会社製 マイクロゴム硬度計 MD−1などを用いてJIS K6253に準じて測定することができる。
【0020】
<基体の反発弾性率>
基体の弾性ゴムのJIS K6255規格に準拠した反発弾性率は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ここで、基体の反発弾性係数は、例えば、JIS K6255規格に準拠し、23℃において、株式会社東洋精機製作所製No.221レジリエンステスタを用いて測定することができる。
【0021】
(含浸材料)
含浸させる材料としては、機能向上、生産性、コストを満足するものとして、アクリル/メタクリル樹脂、またはイソシアネートが適しているが、これに限定されるものではない。
また含浸させるアクリル/メタクリルモノマーとしては、特に制限はないが、直鎖式の2官能アクリレート/メタクリレートが好適である。官能基数が1だとゴム中で高分子化されないため硬度上昇せず、また官能基数3以上だとゴムに含浸しにくいが、いずれもゴムとの相溶性によっては含浸させることが可能であり、適宜組合せて用いることができる。
【0022】
直鎖式2官能アクリレート/メタクリレートの一例としては、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,7−ヘプタンジオールジアクリレート、1,8−オクタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、1,11−ウンデカンジオールジアクリレート、1,18−オクタデカンジオールジアクリレート、オクチル/デシルアクリレート、メトキシポリエチレングリコール400アクリレート、メトキシポリエチレングリコール550アクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、トリメチレングリコールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、PEG200ジアクリレート、PEG400ジアクリレート、PEG600ジアクリレート、PEG800ジアクリレート、PEG1000ジアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレートなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0023】
また含浸させるイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの単量体やその多量体(ポリメリックMDI:商品名ミリオネートMR−400 東ソー社製)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0024】
(含浸方法)
先端稜線部に短時間で適度な含浸を行う方法として、上記材料を原液で、あるいは有機溶剤で希釈し、ディッピング、スプレー塗工、スクリーン印刷、ロールコーターなどで先端部分に接触させる方法が適する。とくに生産性、コスト、安全性の面から有機溶剤希釈液へのディッピングが好ましい。
【0025】
含浸は材料を原液で用いても行うことができるが、有機溶剤で希釈することで、より短時間で行うことができる。これはゴムが有機溶剤で膨潤し、そこに含浸材料が入りこんで置き換わるためと考えられる。処理後に残留する有機溶剤はワイパーブレードを真空加熱するなどで除去できる。
【0026】
本発明では、基体となる弾性ゴムと含浸材料とを適宜選択し、
図2の(a)に示すように有機溶剤に希釈した含浸材料に弾性ゴムの先端稜線部を含む部分を所定時間ディッピングし、表面残渣を払拭除去した後、紫外線照射または加熱により硬化させて、先端稜線部のマルテンス硬さが傾斜性をもつよう改質された弾性ゴムワイパーブレードを得る。なお、表面残渣を払拭しないと、硬化させる際にワイパー表面に非常に硬いコート膜が不均一に散在する状態となってしまい、これが撥液膜に当接すると瞬時に撥液膜を傷つけ、液体吐出安定性が損なわれる。
【0027】
ワイパーブレードの改質範囲は先端稜線部を含む部分から5mm以内、好ましくは2mm以内とすると良い。これより大きい範囲を改質してしまうとゴム弾性が必要以上に損なわれ、ワイパーブレードがノズルプレートの表面凹凸に追随せず液体拭き残しを生じたり、硬すぎて撥液膜の摩耗を促進してしまうためである。
【0028】
先端稜線部を含む部分に弾性ゴムよりも硬い材料を含浸・硬化させると、見かけ上は基体の弾性ゴムの架橋密度が上昇したような状態となる。これは含浸した材料自身がネットワークを形成することで、仮に基体の弾性ゴムと化学架橋しない材料であっても、架橋構造として振舞うからである。
この点については下記参考文献を参照のこと。
古川睦久(2009)「含フッ素ポリメタクリレートとのIPN化によるポリウレタンの表面改質」日本ゴム協会誌 vol.74、No.9、p.363
【0029】
弾性ゴムは一般的に架橋密度が高いほどスティックスリップ運動が小さくなり、タック性が失われることで、表面の摩擦係数が小さくなる。したがって改質された部分はノズルプレート表面(液体吐出面)と摺擦する際の摩擦力が低減され、ワイパーブレード、撥液膜双方の摩耗進行を抑制する効果が得られる。
【0030】
次にワイパーブレードの先端稜線部を含む部分の改質度を評価する方法、すなわちマルテンス硬さについて説明する。先述したように、先端稜線部が改質された弾性ゴムワイパーブレードは、マルテンス硬さが
図2の(b)に示すように表面から内部に向かって傾斜性を持つが、これは含浸材料がゴム内部ほど染み込み難いためである。二酸化炭素を用いた超臨界状態などではより内部まで含浸させることが可能であるが、硬度を上げすぎると撥液膜を摩耗させやすくなるため、適度に含浸改質することが好ましい。マルテンス硬さは、例えば、フィッシャー・インストルメンツ社製の微小硬さ計、ピコデンターHM−500で確認することができる。
【0031】
ここで、微小硬さの測定方法について
図3及び
図4を参照して説明する。
微小硬さの測定は、
図3に示す形状のビッカース圧子を使用する。そして、
図4(a)に示すように、圧子800を所定の速度でサンプル801(ノズル基材20上の撥液膜40)に対して降下させ、
図4(b)に示すように、撥液膜40の所定の深さまで押し込んで所定時間保持し、
図4(c)に示すように、一定の速度で上昇させる。
例えば、ビッカース圧子800を9.8[mN]の力で、例えば10秒で押し込み、5秒保持し、一定の力で、10秒間で抜く動作を行う。
【0032】
これにより、例えば
図5に示すように、ビッカース圧子を押し込むときの積算応力Wplast、試験荷重除荷時の積算応力Welastのプロファイルが得られるので、このプロファイルからマルテンス硬さを算出する。
この場合、マルテンス硬さは、Fmax/(26.43×(hmax)
2)である。
【0033】
表面のマルテンス硬さは5N/mm
2以下、先端稜線部から基体内部方向に向かって500μmの位置におけるマルテンス硬さは1N/mm
2以下とすることで、液体吐出ヘッドとの摺擦においても摩耗しがたく、かつ撥液膜を摩耗させがたいワイパーブレードとなる。先端稜線部からの距離は、ワイパーブレードをクライオミクロトーム法で切断し、先端稜線部から切断面の中点に向かう方向における所定位置までの距離である。
【0034】
ワイパーブレードが当接する液体吐出ヘッドの液体吐出面に形成された撥液膜材料と前記当接部との静止摩擦係数をμ1とし、前記撥液膜材料と弾性ゴムからなる基体との静止摩擦係数をμ2としたとき、μ1とμ2との関係がμ1<μ2であることが好ましい。
撥液膜とワイパーブレードとの摺動ストレスが低減されることで、双方の摩耗が抑制され、ノズル孔のメニスカス位置が長期に渡って変化しないことで吐出安定性が維持される。
【0035】
−ワイパーブレードの製造例−
次に、本発明に係るワイパーブレードの製造方法の具体例について説明する。
まず先端稜線部を含む部分の改質を行う方法について説明する。
長さ15mm、幅20mm、厚さ1.2mmの平板状ゴム材の先端稜線部を含む部分を、下記表1に記載した含浸処方から選択される含浸処方液に10分間ディッピングし、引き上げた後、残渣をBEMCOTにて払拭した。アクリル/メタクリル樹脂を含浸させたものは紫外線を積算光量2kJ/cm
2となるよう照射し、さらに100度で30分加熱し、イソシアネートを含浸させたものは100度で2時間加熱することで硬化させ、先端稜線部を含む部分が改質されたワイパーブレードを得た。
【0037】
[ノズルプレートの撥液膜]
次に前記液体吐出ヘッド用ワイパーブレードと組み合わせて使用される液体吐出ヘッドのノズルプレートにおける撥液膜について述べる。
次にノズルプレートの撥液膜について
図6と
図7を用いて説明する。
ノズル板1は、液体を吐出するノズル11となる孔(以下、「ノズル孔」という。)21が形成されたノズル基材20と、ノズル基材20の表面に形成された中間層30と、液体吐出面側表面に形成された撥液膜40とを有している。
【0038】
ノズル基材20は、例えば金属製平板状部材である。ノズル基材20としてはステンレス鋼の金属製平板状部材を使用しているが、これに限るものではない。ノズル基材20のノズル孔21は、本実施形態では、液体吐出面側の円筒状部分21aと、液体吐出面側と反対側の円錐台形状部分21bとで構成されている。
【0039】
中間層30は、下地層となる例えばSiO
2層、シランカップリング剤の層などの1又は複数の層で構成している。
【0040】
撥液膜40には、ノズル11の外周部分において、ノズル11のエッジ11a側に向かって膜厚が薄くなる方向に傾斜している斜面41aが形成された斜面領域41がある。なお、斜面領域41の斜面41aは、断面形状で直線状に斜めになっていてもよく、あるいは、曲線状に斜めになっていてもよい。
なお、撥液膜40の斜面領域41を除く斜面領域以外の領域42は膜厚がほぼ一定で平坦である。
【0041】
このように、ノズル11の外周部分において撥液膜40に斜面領域41が設けられていることで、ワイパーブレードによってワイピングするとき、ワイパーブレードが撥液膜40のエッジに引っ掛かることによる撥液膜40の剥離を低減、防止できる。
【0042】
また、中間層30は、撥液膜40の下地となる層がアミノ基を有するシランカップリング剤層であることが好ましい。
これにより、アミノ基と撥液材料が相互作用することで高い密着性が得られる。
【0043】
ここで、撥液膜40の膜厚について
図8も参照して説明する。
図8は同説明に供するノズル孔部分の平面説明図である。
【0044】
図8に示すように、ノズル11のエッジ11aからエッジ11aの法線上にノズル中心11oとは反対方向に5μm離れた円周CC上における20点で膜厚を測定し、次の(1)式で求める膜厚の母集団の相加平均を平均膜厚mとする。
【0046】
そして、次の(2)式で得られる量を分散と定義し、この分散の正の平方根σを、母集団(膜厚)の標準偏差とする。
【0048】
ここで、変動係数である「膜厚標準偏差σ/平均膜厚m」が小さいほど、膜厚に対する膜厚ばらつきが小さく平坦であることを意味する。
円周CC上における平均膜厚aは、円周CCを等間隔にφ10μmのスポット径でエリプソメータにより測定した。
【0049】
このσ/mを変えたときのワイピング後の表面の液体拭き残しの有無を評価したところ、σ/m=0.03:無し、σ/m=0.06:無し、σ/m=0.09:無しであったが、σ/m=0.12:有り、σ/m=0.15:有りとなった。液体の拭き残しがない場合には、吐出される液体の噴射曲がりが発生しない。
したがって、σ/m<0.1、とすることで、噴射曲りを低減できる。
【0050】
次にノズル板の他の実施形態を
図9に示したノズル部分の拡大断面図に基づいて説明する。
ノズル板1は、ノズル基材20のノズル孔21の内壁面にも中間層30を形成し、ノズル11の内壁面に撥液膜40を形成している。
【0051】
ここで、ノズル11の内壁面(ノズル基材20のノズル孔21の壁面に相当する。)の撥液膜40bの膜厚t2は、撥液膜40aの領域42の膜厚t1の1/10以下(t2/t1<0.1)とすることが好ましい。
【0052】
ノズル11の内壁面における撥液膜40aの膜厚t2は、膜厚が厚くなるとノズル径のバラつきが多くなるので、安定した吐出を実現させるためには薄いほうが好ましい。一方、液体吐出面側における撥液膜40aの膜厚t1は一般的に厚いほど耐久性が向上する。
これら相反する膜厚を有する撥液膜40は、例えば、気相法を用いて成膜することで得られる。
なお、膜厚の測定はイオンポリッシュによりノズル断面を出し、SEM観察することで測定可能である。
【0053】
このノズル11の内壁面の撥液膜40bの膜厚t2と撥液膜40aの領域42の膜厚t1との関係について評価した。なお、t2/t1の比率が0.1を超えるものは、撥水膜をディップ工法で成膜し、その後、ノズル内に送風することでノズル内に流入したディップ液を飛ばし開口させた状態で乾燥させることでサンプルを得た。
【0054】
この結果、噴射曲がりの有無は、t2/t1<0.05:無し、t2/t1<0.10:無し、t2/t1≧0.3:有り、となった。このことから、t2/t1<0.10であれば噴射曲りを低減ないし防止できる。
【0055】
撥液膜40は、エーテル結合を有する含フッ素ヘテロ環状構造をPTFE骨格にもつフッ素樹脂(以下、単に「フッ素樹脂」ともいう)を含有する膜である。フッ素樹脂は、常温以上のガラス転移点Tgを有することが好ましい。
【0056】
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)骨格は、下記構造式(1)で表されるTFE(テトラフルオロエチレン)の構造単位を繰り返す主鎖である。
【化1】
【0057】
エーテル結合を有する含フッ素ヘテロ環状構造とは、化学構造式でヘテロ原子として酸素を1〜2個含む5〜8員環の有機化合物の構造である。
【0058】
フッ素樹脂は、撥液(接触角)の面から、フッ素の含有率が50質量%以上のものを用いることが好ましい。また、主鎖における環構造の割合は、目的とする被膜の強さや溶媒への溶解性、あるいは、ノズル基材との密着性等の面から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であることが好ましい。
【0059】
フッ素樹脂のうち、特に非晶質フッ素樹脂を用いることが好ましい。非晶質フッ素樹脂は、膜強度、基材への密着性、膜の均一性等が優れているために本発明の効果をより一層発揮することができる。
【0060】
エーテル結合を有する含フッ素ヘテロ環状構造を有する構造単位としては、例えば以下の構造式(2)〜(6)で示されるものがある。
【0066】
PTFE骨格に上記構造式(5)で表される構造単位のエーテル結合を有する含フッ素ヘテロ環状構造を持つフッ素樹脂は、テフロン(登録商標)AFという商品名でデュポン社より出されている。テフロン(登録商標)AFは、テトラフルオロエチレン構造と、パーフルオロアルキル基を有するジオキソール構造を有するコポリマー[TFE/PDD:テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマー]であり、種々の液体に対する撥液性の面で優れ好ましい。
【0067】
上記テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマーは、非晶性フッ素樹脂であり、透明な樹脂である。テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマーとしては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0068】
テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)成分に対して、パーフルオロイジオキソールコポリマー(PDD)成分の比率が高くなるにつれて、
図20に示すようにガラス転移点が上昇する。市販されているのはガラス転移点が160℃のテフロン(登録商標)AF1600、240℃のテフロン(登録商標)AF2400のものである。
【0069】
また、PTFE骨格に上記構造式(2)で表される構造単位のエーテル結合を有する含フッ素ヘテロ環状構造を持つフッ素樹脂は、ハイフロンという商品名でソルベイ社より出されている。
【0070】
また、PTFE骨格に上記構造式(6)で表される構造単位のエーテル結合を有する含フッ素ヘテロ環状構造を持つフッ素樹脂は、サイトップCTX−105又はサイトップCTX−805という商品名で旭硝子株式会社より出されている。
【0071】
撥液膜40の平均厚みは、前述したように、好ましくは1μm〜3μmである。
ノズル基材20に設けた凹凸が撥液膜40表面に影響することなく平滑な表面を得るためには、1μm以上の膜厚が必要であり、また、ノズル11の形状やノズル径を維持する観点からは薄い方が好ましい。撥液膜40の平均厚みを1μm〜3μmの範囲とすると、ワイピング耐久性の観点からも、ノズル11の形状の観点からも好ましい。平均厚みは、例えば断面SEMにより測定することができる。
【0072】
撥液膜40の算術平均粗さRaは、1.0nm以下であることが好ましい。平均粗さRaが1.0nm以下であると、ノズル面は極めて平滑になり、ワイピングによる拭き残しが少なくなり、耐摩耗性も優れる。
【0073】
算術平均粗さRaは、次のように定義される。長さlの区間において粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、抜き取られた部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取る。粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、次の式(3)によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
【0075】
図10(a)の基材準備工程では、ノズル基材20となる金属製平板状部材に対して鏡面研磨工程、洗浄工程の前工程を行う。
なお、ノズル基材20は、例えば、長さ30mm、幅15mm、厚み0.05mmの金属製平板状部材にプレス加工でノズル孔21を開口したものである。
【0076】
金属製平板状部材としては、鉄基合金の代表例としてのステンレス鋼を使用できる。「ステンレス鋼」とはJIS G0203:2000の番号4201に記載されるように、Cr含有量が10.5%以上の鋼であり、種々の鋼種を使用できる。
【0077】
オーステナイト系であれば、Cr:10.5〜35質量%、好ましくは、11〜30質量%、Ni:5〜30質量%程度、フェライト系であれば、Cr:10.5〜35質量%程度、好ましくは15〜30質量%程度の鋼種を採用することができる。例えば、JIS G4305:2005や、JIS G4312−1991に規定される鋼種を例示することができる。あるいは、これらの規格鋼種などをベースとして他の合金元素を添加し、各種特性の改善を図ったステンレス鋼も使用できる。
【0078】
ニッケル基合金としては、Cr:12〜27質量%、Fe:5〜18質量%を含有する
高耐食性Ni−Cr−Fe合金を使用できる。この種の合金は「インコネル合金」として知られている。
【0079】
そして、金属製平板状部材に、吐出面と反対側からパンチによる孔開け加工を行い、孔開け加工により生じるバリは、研磨または化学的なエッチングにより除去する。
【0080】
次いで、
図10(b)の中間層形成工程では、中間層30として、ノズル基材20の表面にスパッタ法などでSIO
2膜31を成膜し、液体吐出面側と反対側の面にテープ60を貼り付けた後、SIO
2膜31の表面にシランカップリング剤層32を成膜して形成する。
【0081】
ここで、シランカップリング剤としては、アミノシラン系のカップリング剤が好ましく、特に、3−アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。具体的には、KBE−903(信越化学)、A1100(モメンティブパフォーマンスマテリアル)などが挙げられる。シランカップリング剤層32の形成は、ディッピング法、スピンコート法、又はスプレー法などいずれの方法を用いても良い。
【0082】
アミノシラン系のカップリング剤は、フッ素樹脂の分子中におけるヘテロ環のエーテル部とアミノ基の親和性が良いことから、アミノ基をもつシランカップリング剤をシリカ層の上に一層設けることでフッ素樹脂の定着性が大きく向上する。
【0083】
その後、
図10(c)に示す撥液膜40となる蒸着膜44の成膜工程を行い、蒸着工法によって、ノズル基材20上に、撥液材料(AFと表記)を蒸着した蒸着膜44を成膜する。このとき、撥液膜40となる蒸着膜44はノズル基材20上であるシランカップリング剤層32の表面(中間層30の表面)に成膜される
【0084】
上記撥液材料は、1.5〜8.0×10
−3Paの高真空下で、350〜420℃に加熱し、蒸着膜の厚さが蒸着源に対向したノズル基材20上の厚みが1〜3μm程度になるまで真空蒸着する。真空蒸着は、例えば、
図11に示すように、真空槽500内に、蒸着源501とノズル基材20とを対向配置して行う。
その後、
図10(d)に示すように、アニーリングによる平坦化工程を行う。
【0085】
ノズル基材20を特に加熱せず、成り行きの温度で蒸着することで得られた膜を、撥液材料のガラス転移温度以上の温度でベークする(アニーリング)加熱処理を行う。
ベークは、対流式乾燥炉、循環送風式乾燥炉、フラッシュアニール装置、ハロゲンランプヒータ、真空乾燥機など、いずれの方法でもよいが、窒素雰囲気下で実施するのが好ましい。
【0086】
撥液材料のガラス転移温度以上の温度でベーク(アニール)することにより、緻密で、表面が平滑で、ノズル11へ近づくに従って膜厚が薄くなる斜面領域41を有する撥液膜40となる。
例えば、ベーク前は、
図12に示すように、膜内部には細孔600が存在し、膜表面は純水に対する接触角が129°、Ra=8nmであるのに対して、ベーク後は、
図13に示すように、膜内部には空洞がなくなり、膜表面は純水に対する接触角が114°、Raは1nm以下となる。
また、撥液膜の表面は、ノズル11のエッジ11aから40nmの範囲内でテーパ形状(斜面形状)となり、40nmの周囲より外側では平坦な面となった。
【0087】
なお、ノズル基材20に撥液材料を蒸着する蒸着処理を行うときに、ガラス転移温度未満の温度でノズル基材20を加熱しながら蒸着することによっても、上記蒸着後にベークを行った場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0088】
また、得られた膜は、後述するように、接着剤を硬化させるのに一般的に必要な150℃以上の温度においても流動しないことから、蒸着後高温環境下に晒しても成膜領域以外の領域を撥液材料で汚すこともなく、その結果、吐出信頼性の高いノズル板を得ることができる。
【0089】
[液体吐出ヘッド]
次に、本発明に係る液体吐出ヘッドの一例について
図15及び
図16を参照して説明する。
図15は同ヘッドのノズル配列方向と直交する方向(液室長手方向)の断面説明図、
図16は同ヘッドのノズル配列方向(液室短手方向)の断面説明図である。
【0090】
この液体吐出ヘッドは、本発明に係るノズル板101と、流路板102と、壁面部材としての薄膜部材からなる振動板部材103とを積層接合している。そして、振動板部材103を変位させる圧電アクチュエータ111と、共通液室部材としてのフレーム部材120とを備えている。
【0091】
ノズル板101、流路板102及び振動板部材103によって、液体を吐出する複数のノズル104が通じる個別液室106と、個別液室106に液体を供給する流体抵抗部107と、流体抵抗部107に通じる液導入部108とを構成している。
そして、フレーム部材120の共通流路としての共通液室110から振動板部材103に形成した供給口109を通じて、液導入部108、流体抵抗部107を経て個別液室106に液体が供給される。なお、供給口109にはフィルタが設けられても良い。
【0092】
振動板部材103は、流路板102の個別液室106の壁面を形成する壁面部材である。この振動板部材103は3層構造とし、流路板102側の1層で個別液室106に対応する部分に変形可能な振動領域(振動板)130を形成している。
そして、この振動板部材103の個別液室106とは反対側に、振動板部材103の振動領域130を変形させるアクチュエータ手段、圧力発生手段としての電気機械変換素子を含む圧電アクチュエータ111を配置している。
【0093】
この圧電アクチュエータ111は、ベース部材113上に接着剤接合した複数の積層型圧電部材112を有し、圧電部材112にはハーフカットダイシングによって溝加工して1つの圧電部材112に対して所要数の柱状の圧電素子(圧電柱)112A、112Bを所定の間隔で櫛歯状に形成している。
【0094】
圧電部材112の圧電素子112A、112Bは、同じものであるが、駆動波形を与えて駆動させる圧電素子112Aと、駆動波形を与えないで単なる支柱として使用する圧電素子112Bとしている。
そして、圧電素子112Aを振動板部材103の振動領域130に形成した島状の厚肉部である凸部130aに接合している。また、圧電素子112Bを振動板部材103の厚肉部である凸部130bに接合している。
この圧電部材112は、圧電層と内部電極とを交互に積層したものであり、内部電極がそれぞれ端面に引き出されて外部電極が設けられ、圧電素子112Aの外部電極に駆動信号を与えるためのフレキシブル配線部材としてのFPC(フレキシブルプリント配線板)115が接続されている。
【0095】
フレーム部材120は、例えばエポキシ系樹脂或いは熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイト等で射出成形により形成し、ヘッドタンクや液体カートリッジから液体が供給される共通液室110が形成されている。
【0096】
この液体吐出ヘッドにおいては、例えば圧電素子112Aに印加する電圧を基準電位から下げることによって圧電素子112Aが収縮し、振動板部材103の振動領域130が引かれて個別液室106の容積が膨張することで、個別液室106内に液体が流入する。
【0097】
その後、圧電素子112Aに印加する電圧を上げて圧電素子112Aを積層方向に伸長させ、振動板部材103の振動領域130をノズル104方向に変形させて個別液室106の容積を収縮させる。これにより、個別液室106内の液体が加圧され、ノズル104から液体が吐出(噴射)される。
【0098】
そして、圧電素子112Aに印加する電圧を基準電位に戻すことによって振動板部材103の振動領域130が初期位置に復元し、個別液室106が膨張して負圧が発生するので、このとき、共通液室110から個別液室106内に液体が充填される。そこで、ノズル104のメニスカス面の振動が減衰して安定した後、次の液滴吐出のための動作に移行する。
なお、このヘッドの駆動方法については上記の例(引き−押し打ち)に限るものではなく、駆動波形の与えた方によって引き打ちや押し打ちなどを行なうこともできる。
【0099】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について
図17及び
図18を参照して説明する。
図17は同装置の要部平面説明図、
図18は同装置の要部側面説明図である。
【0100】
この装置は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0101】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッド404を搭載している。液体吐出ヘッド404は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド404は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。
【0102】
液体吐出ヘッド404の外部に貯留されている液体を液体吐出ヘッド404に供給するための供給機構494により、液体吐出ヘッド404上に搭載されたヘッドタンク441には、液体カートリッジ450に貯留されている液体が供給される。
【0103】
供給機構494は、液体カートリッジ450を装着する充填部であるカートリッジホルダ451、チューブ456、送液ポンプを含む送液ユニット452等で構成される。液体カートリッジ450はカートリッジホルダ451に着脱可能に装着される。ヘッドタンク441には、チューブ456を介して送液ユニット452によって、液体カートリッジ450から液体が送液される。
【0104】
この装置は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。
搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド404に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。
そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0105】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド404の維持回復を行う維持回復ユニット420が配置されている。
維持回復ユニット420は、本発明に係るワイパーブレードと、例えば液体吐出ヘッド404のノズル面(液体吐出面)をキャッピングするキャップ部材421などで構成されている。
主走査移動機構493、供給機構494、維持回復ユニット420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0106】
このように構成したこの装置においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。
そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド404を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
このように、この装置では、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、高画質画像を安定して形成することができる。
【0107】
次に、本発明に係る液体吐出ユニット例について
図19を参照して説明する。
図19は同ユニットの要部平面説明図である。
液体吐出ユニットは、少なくとも液体吐出ヘッドと本発明に係るワイパーブレードを含んで構成され、
図19で示す液体吐出ユニットでは、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、維持回復ユニット420と、液体吐出ヘッド404とで構成されている。なお、
図19で示す液体吐出ユニットに、供給機構494を更に取付けることもできる。
【0108】
本願において、「液体を吐出する装置」は、少なくとも液体吐出ヘッドと本発明に係るワイパーブレードとを含む液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0109】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
例えば、「液体を吐出する装置」として、液体を吐出させて媒体に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0110】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0111】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0112】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0113】
また、「液体」は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0114】
また、「液体を吐出する装置」には、特に限定しない限り、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置のいずれも含まれる。
【0115】
また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0116】
また、「液体吐出ヘッド」は、使用する圧力発生手段が限定されるものではない。例えば、上記実施形態で説明したような圧電アクチュエータ(積層型圧電素子を使用するものでもよい。)以外にも、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものでもよい。
【0117】
また、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【実施例】
【0118】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記実施例に何ら限定されるものではない。
また、以下では液体吐出ヘッドから吐出する液体としてインクを用いた場合について説明する。
【0119】
[ワイパーブレード]
ワイパー形状に加工済みの、長さ16mm、幅16mm、厚み1.2mmの平板状基体ゴムを用意する。これを下記表2から選ばれる含浸処方液に、2mmの深さまで浸漬して5分間浸漬させた後、表面残渣をBEMCOTで拭き取る。含浸処方液がアクリル/メタクリル樹脂のものは、スポットUV照射装置(スポットキュアSP−11 ウシオ社製)で積算光量2J/cm
2となるまで紫外線照射して硬化させた後、100度で1時間加熱し有機溶媒除去とアフターキュアを行った。含浸処方液がイソシアネート樹脂のものは、100度で2時間加熱し有機溶媒除去と硬化を行ってワイパーブレードを得た。
【0120】
[ノズル基材]
長さ30mm、幅15mm、厚み0.05mmのSUS316Lからなる金属製平板状部材に対し、液体吐出面と反対側からパンチによって孔開け加工を行った。孔開け加工に用いたパンチは、円筒状の先端部分を長さ10μm、直径20μmとする。液体吐出面側に生じたバリは研磨により除去した。
これにより、液体吐出面側の円筒状部分21aの直径が20μm、液体吐出面と反対側の面の円錐台形状部分21bの開口の直径が40μm、円筒状部分21aの高さが10μmのノズル孔21を384個形成したノズル基材20を得た。
【0121】
[撥液膜]
上記ノズル基材20の液体吐出面側に、テトラフルオロエチレンパーフルオロジオキソールコポリマー(テフロン(登録商標)AF2400:デュポン社製)を、1.5〜8.0×10
−3Paの高真空下で、350〜420℃に加熱し、蒸着膜の厚さが蒸着源に対向した部分で1〜3μm程度になるまで真空蒸着した。
得られた蒸着膜44は、テフロン(登録商標)AF2400のガラス転移温度(240℃)以上の温度でベークすることにより、緻密で表面が平滑な撥液膜40となった。
【0122】
[基体及び複合材料のマルテンス硬さの評価]
マルテンス硬さ(HM)は、フィッシャー・インストルメンツ社製、微小硬度計 HM−2000を用い、ビッカース圧子を1.0mNの力で10秒間押し込み、5秒間保持し、1.0[mN]の力で10秒間抜いて、測定した。
【0123】
[基体のJIS−A硬度の評価]
ゴムのJIS−A硬度は高分子計器株式会社製マイクロゴム硬度計MD−1を用い、JIS K6253に準じて測定した(23℃)。
【0124】
[基体の反発弾性の評価]
弾性ゴムの反発弾性率は、23℃で、株式会社東洋精機製作所製No.221レジリエンステスタを用い、JIS K6255に準じて測定した。
【0125】
[ワイピング耐久性の評価]
図14に示す評価装置を使用したワイピング耐久性を評価した。具体的には、インク610を収容した容器601内に、ノズル板1を固定治具602で固定し、ワイパーブレード611を固定治具612に固定して、ノズル板1の撥液膜40表面に対するワイピング(払拭)動作を行った。
インク610としては、株式会社リコー製のRICOH GX−3000用のインクジェット用インクである、GXカートリッジブラック GC21Kを使用した。
【0126】
<インク付着/噴射曲り評価>
実施例1〜5、比較例1〜2のノズル板1を備える液体吐出ヘッドを構成して、株式会社リコー製IPSiO G515に搭載して、ワイピング後のインク付着残り、および噴射曲りの評価を行った。評価は1万回のワイピング耐久試験を実施した後の状態(耐久試験後)のノズル板1表面へのインク付着有無と、ノズルチェックパターンを印刷し印刷されたノズルチェックパターンを目視観察することにより噴射曲がりの有無により評価した。
【0127】
この評価結果を表3に示している。表3中、「△」は実使用上問題のない程度に収まっていることを、「×」は実使用に耐えない程度のインク付着と曲りが生じていることを意味する。「○」は「△」よりもインク付着と噴射曲りが少なく、更に、「◎」は「○」よりもインク付着と噴射曲りが少ないことを意味している。
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
実施例1のワイパーブレードの基体のマルテンス硬さは1.5N/mm
2、実施例2のワイパーブレードの基体のマルテンス硬さは1.0N/mm
2、実施例3のワイパーブレードの基体のマルテンス硬さは1.2N/mm
2、実施例4のワイパーブレードの基体のマルテンス硬さは0.8N/mm
2、実施例5のワイパーブレードの基体のマルテンス硬さは0.6N/mm
2である。
各実施例のワイパーブレードにおいて、弾性ゴム(基体)と硬化物との複合材料に相当する箇所は、表3で示される「先端稜線部からの距離」が、0μm(ワイパーブレードの表面)、100μm、250μmの位置である。つまり、表3より、各実施例のワイパーブレードは、複合材料部分のマルテンス硬さが、その基体である弾性ゴムのマルテンス硬さよりも高いことが分かる。
【0131】
実施例1から5のいずれも耐久試験後のワイパーブレード先端稜線部の摩耗が小さく、またインク付着と噴射曲りを抑えることができる。
一方、比較例1、2は耐久試験後、実使用上使用に耐えない吐出面のインク付着または噴射曲りを生じている。
比較例1は硬いゴムの単一構成としたため、ワイパーブレードの早期摩耗を生じるとともに撥液膜を損耗してしまった。
比較例2はゴム単一構成で硬度も反発弾性も適切ではあり、ワイパーブレードの摩耗は小さく、吐出面のインク付着も使用可能な状態ではあるが、撥液膜の摩耗が実施例よりも進んでおり噴射曲がりが起きた。
【0132】
本発明の態様としては、例えば、以下に記載する態様がある。
(1)液体吐出ヘッドの液体吐出面に付着した付着物を除去するワイパーブレードであって、該ワイパーブレードは弾性ゴムからなる基体であり、前記基体の前記液体吐出面に当接する先端稜線部を含む当接部は、弾性ゴムと硬化性組成物の硬化物との複合材料からなっており、該複合材料のマルテンス硬さは前記弾性ゴムのマルテンス硬さよりも高いことを特徴とする液体吐出ヘッド用ワイパーブレード。
(2)ワイパーブレードが当接する液体吐出ヘッドの液体吐出面に形成された撥液膜材料と前記当接部との静止摩擦係数μ1と、前記撥液膜材料と弾性ゴムからなる基体との静止摩擦係数μ2との関係がμ1<μ2である上記(1)に記載の液体吐出ヘッド用ワイパーブレード。
(3)ワイパーブレードの先端稜線部を含む先端から5mm以内の部分が弾性ゴムと、アクリル/メタクリル樹脂またはポリイソシアネートとの複合材料層となっている上記(1)又は(2)に記載の液体吐出ヘッド用ワイパーブレード。
(4)先端稜線部から厚みの1/2の内部までマルテンス硬さが連続的に変化していく上記(3)に記載の液体吐出ヘッド用ワイパーブレード。
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用ワイパーブレードを備える維持回復ユニット。
(6)上記(5)に記載の維持回復ユニットと液体吐出ヘッドとを含む液体吐出ユニット。
(7)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のワイパーブレードと液体吐出ヘッドとを含む液体吐出ユニット。
(8)液体吐出ユニットには、さらに、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する供給機構及び前記液体吐出ヘッドを主走査方向に移動させる主走査移動機構の少なくとも一つが含まれている上記(6)又は(7)に記載の液体吐出ユニット。
(9)液体吐出ユニットの液体吐出ヘッドは、液体吐出面に撥液膜が形成されており、該撥液膜は、エーテル結合を有する含フッ素ヘテロ環状構造をPTFE骨格にもつフッ素樹脂を含有する膜である上記(6)乃至(8)のいずれかに記載の液体吐出ユニット。
(10)上記(6)乃至(9)のいずれかに記載の液体吐出ユニットを備えている液体を吐出する装置。