(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸素供給物質水溶液塗布工程では、前記無機繊維成形体の前記有機バインダー液の塗布面に前記酸素供給物質水溶液を塗布する、請求項1に記載の有機バインダー含有無機繊維成形体の製造方法。
前記有機バインダー液の塗布方法が、前記無機繊維成形体に前記有機バインダー液を非接触塗布する非接触塗布方式である、請求項1又は2に記載の有機バインダー含有無機繊維成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の有機バインダー含有無機繊維成形体の製造方法について詳細に説明する。
【0014】
本発明の有機バインダー含有無機繊維成形体の製造方法は、無機繊維成形体に有機バインダー液を塗布する有機バインダー液塗布工程と、上記有機バインダー液が塗布された上記無機繊維成形体に、酸素供給物質水溶液を塗布する酸素供給物質水溶液塗布工程とを有することを特徴とする方法である。
【0015】
本発明の有機バインダー含有無機繊維成形体の製造方法について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1(a)〜(e)は本発明の有機バインダー含有無機繊維成形体の製造方法の一例を示す工程図である。まず、
図1(a)に示すようにシート状の無機繊維成形体1を準備し、
図1(b)に示すように無機繊維成形体1の片面に有機バインダー液2を塗布する。次に、
図1(c)に示すように無機繊維成形体1の有機バインダー液2の塗布面に酸素供給物質水溶液3を噴霧し、無機繊維成形体1に酸素供給物質水溶液3を含浸させる。この際、バインダー液による酸素供給物質水溶液の消費を抑制しつつ、無機繊維成形体内部まで含浸することができる。また、無機繊維成形体1の有機バインダー液2の塗布面4aとその反対側の面4bとで有機バインダーの濃度勾配が生じるため、有機バインダーが有機バインダー液2の塗布面4aからその反対側の面4bに移動する。
【0017】
その後、
図1(d)に示すように有機バインダー液2および酸素供給物質水溶液3が塗布された無機繊維成形体1を乾燥する。これにより、
図1(e)に示すように無機繊維成形体1に有機バインダー5が含有された有機バインダー含有無機繊維成形体6が得られる。
【0018】
なお、
図1(c)では、無機繊維成形体1の有機バインダー液2の塗布面4aに酸素供給物質水溶液3を塗布しているが、図示しないが、無機繊維成形体1の有機バインダー液2の塗布面4aとは反対側の面4bに液体3を塗布する場合においても、無機繊維成形体1に酸素供給物質水溶液3を塗布して含浸させると、濃度勾配によって、有機バインダーが有機バインダー液2の塗布面4aからその反対側の面4bに移動する。
【0019】
また、図示しないが、無機繊維成形体1の両面に有機バインダー液2を塗布する場合には、無機繊維成形体1に酸素供給物質水溶液3を塗布して含浸させると、濃度勾配によって、有機バインダーが無機繊維成形体1の両側の有機バインダー液2の塗布面から内部に移動する。
【0020】
このように本発明においては、有機バインダー液が塗布された無機繊維成形体に酸素供給物質水溶液を塗布して無機繊維成形体に酸素供給物質水溶液を含浸させることにより、バインダー液含浸後に、酸素供給物質水溶液を塗布することで、無機繊維成形体内部まで浸透することができるという効果がある。一方、バインダー液と酸素供給物質水溶液を混合して噴霧する方法は、水溶液中でバインダー液と酸素供給物質が反応してしまうことで酸素供給物質が消費されやすくなるため、乾燥時に酸素供給物質によりバインダーを一部分解し高温時に効果的に有機バインダーを燃焼しやすくするという効果は生じにくくなる。
【0021】
また、有機バインダーを無機繊維成形体の有機バインダー液の塗布面から反対側の面または内部へ移動させることができる。そのため、有機バインダーの局在化を抑制し、均一化を図ることができる。さらに、無機繊維成形体の有機バインダー液の塗布面に酸素供給物質水溶液を塗布する場合には、無機繊維成形体の有機バインダー液の塗布面において有機バインダー濃度を低下させることができ、その結果、乾燥工程にて無機繊維成形体の表面への有機バインダーの偏析を抑制することができる。したがって、剪断強度が高く、金属製のケーシングに対して摩擦抵抗が小さい有機バインダー含有無機繊維成形体を安定して製造することができる。よって、例えば本発明における有機バインダー含有無機繊維成形体を排ガス浄化装置用保持材として使用する場合には、組み付け性に優れており、圧入時の有機バインダー含有無機繊維成形体および触媒担体または粒子フィルタのずれを抑制し、有機バインダー含有無機繊維成形体の保持力を高めることができる。
【0022】
図2は本発明の有機バインダー含有無機繊維成形体の製造方法の他の例を示す模式図である。この例は、長尺の無機繊維成形体1を用いたロールツーロール方式の製造方法である。まず、ロール状に巻回された無機繊維成形体1を巻出ロール11から繰り出し、噴霧装置13に搬送する。
【0023】
噴霧装置13は、有機バインダー液2を噴霧するスプレーノズル14と、無機繊維成形体1の有機バインダー液2の塗布面とは反対側の面に配置され、噴霧された余剰の有機バインダー液2を回収する液受けパン15とを有しており、無機繊維成形体1の片面にスプレーノズル14にて有機バインダー液2を噴霧する。
【0024】
次いで、有機バインダー液2が塗布された無機繊維成形体1を噴霧装置18に搬送する。噴霧装置18は、酸素供給物質水溶液3を噴霧するスプレーノズル19と、無機繊維成形体1の酸素供給物質水溶液3の塗布面とは反対側の面から酸素供給物質水溶液3を吸引する吸引装置20とを有しており、無機繊維成形体1の有機バインダー液2の塗布面にスプレーノズル19にて酸素供給物質水溶液3を噴霧する。この際、吸引装置20により、噴霧された酸素供給物質水溶液3を無機繊維成形体1の内部に移動させることができる。
【0025】
続いて、有機バインダー液2および酸素供給物質水溶液3が塗布された無機繊維成形体1をガイドロール12aにて乾燥装置21に搬送し、無機繊維成形体1を乾燥させる。これにより、無機繊維成形体1に有機バインダー5が含有された有機バインダー含有無機繊維成形体6が得られる。その後、有機バインダー含有無機繊維成形体6を、ガイドロール12bにて搬送し、巻取ロール22にて巻き取る。
【0026】
以下、本発明の有機バインダー含有無機繊維成形体の製造方法における各工程について説明する。
【0027】
1.無機繊維成形体
本発明において、無機繊維成形体は無機繊維の不織布状の集合体であり、例えばマット、ブランケットまたはブロック等と称されるものである。
【0028】
無機繊維成形体を構成する無機繊維としては、特に限定されるものではなく、例えばシリカ、アルミナ/シリカ、これらを含むジルコニア、スピネル、チタニア等の単独、または複合繊維が挙げられる。中でもアルミナ/シリカ系繊維が好ましく、特に結晶質アルミナ/シリカ系繊維が好ましい。アルミナ/シリカ系繊維のアルミナ/シリカの組成比(質量比)は60〜98/40〜2の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは70〜74/30〜26の範囲内である。
【0029】
無機繊維の平均繊維径は3μm〜8μmの範囲内、特に5μm〜7μmの範囲内であることが好ましい。無機繊維の平均繊維径が大きすぎると無機繊維成形体の反発力が失われ、小さすぎると空気中に浮遊する発塵量が多くなるおそれがある。
【0030】
無機繊維成形体の製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知の任意の方法を採用することができる。中でも、無機繊維成形体は、ニードリング処理が施されたものであることが好ましい。ニードリング処理によって、無機繊維成形体を構成する無機繊維同士が絡んだ強固な無機繊維成形体となるだけでなく、無機繊維成形体の厚みを調整することができる。
【0031】
無機繊維成形体の厚みとしては、特に限定されるものではなく、用途等に応じて適宜選択される。例えば無機繊維成形体の厚みは2mm〜50mm程度とすることができる。
【0032】
無機繊維成形体は、枚葉であってもよく長尺であってもよい。長尺の無機繊維成形体の場合には、ロールツーロール方式で有機バインダー含有無機繊維成形体を製造することができ、生産性を向上させることができる。
【0033】
2.有機バインダー液塗布工程
本発明においては、無機繊維成形体に有機バインダー液を塗布する有機バインダー液塗布工程を行う。
【0034】
有機バインダー含有無機繊維成形体の使用時に有機バインダーを加熱により分解除去することで、無機繊維成形体の反発力を復元することができ、有機バインダー含有無機繊維成形体を例えば排ガス浄化装置用保持材として好適に使用することができる。
【0035】
有機バインダーとしては、加熱により分解除去できるものであれば特段の制限はないが、例えば各種のゴム、水溶性高分子化合物、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を使用することができる。中でも、アクリルゴム、ニトリルゴム等の合成ゴム;カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物;またはアクリル樹脂が好ましい。特に、アクリルゴム、ニトリルゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリルゴムに含まれないアクリル樹脂が好ましい。これらの有機バインダーは、有機バインダー液の調製または入手が容易であり、また無機繊維成形体への塗布操作も簡単であり、比較的低含有量としても十分な厚み拘束力を発揮し、得られる成形体が柔軟で強度に優れ、使用温度条件下で容易に分解または焼失されることから好適に使用することができる。有機バインダーは、1種単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
有機バインダー液に含まれる溶媒や分散媒としては、有機バインダーや有機バインダー液の種類に応じて適宜選択されるものであり、例えば水、有機溶媒等が挙げられる。溶媒や分散媒は1種単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
有機バインダー液としては、上記有機バインダーを含む水溶液、水分散型のエマルション、ラテックス、または有機溶媒溶液を用いることができる。これらは市販されており、これらの有機バインダー液は、そのまま又は水等で希釈して用いることができ、無機繊維成形体に有機バインダー液を塗布するのに好適に使用することができる。特にエマルションが好ましい。なお、有機バインダー液には、アルミナ、スピネル、ジルコニア、マグネシア、チタニア及びカルシア等の無機酸化物を有する無機バインダーが含有されていてもよい。
【0038】
有機バインダー液中の有機バインダー濃度としては、無機繊維成形体に有機バインダー液を均一に塗布することができる程度であればよく、有機バインダーの種類や塗布方法に応じて適宜調整される。例えば、有機バインダー液中の有機バインダー濃度は3質量%〜50質量%の範囲内であることが好ましい。有機バインダー濃度が低すぎると、有機バインダー含有無機繊維成形体中の有機バインダーの含有量を所望の範囲にすることが困難になる。また、有機バインダー濃度が高すぎると、有機バインダーが無機繊維成形体に含浸しにくくなり、作業性や有機バインダー含有無機繊維成形体の熱特性、強度等の諸物性が劣化するおそれがある。
【0039】
有機バインダー液の塗布方法としては、無機繊維成形体に有機バインダー液を均一に塗布することができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えばキスコート法、スプレー法、浸漬法、ロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法、カーテンコート法等、一般的な塗布方法から適宜選択することができる。有機バインダー液の塗布は複数回繰り返し行ってもよい。
【0040】
中でも、塗布方法は、無機繊維成形体に有機バインダー液を接触塗布する接触塗布方式または無機繊維成形体に有機バインダー液を非接触塗布する非接触塗布方式であることが好ましく、特に非接触塗布方式が好ましい。
【0041】
接触塗布方式は、例えば有機バインダー液が供給された塗布ロール等の塗布部材が無機繊維成形体の表面に接触することで有機バインダー液を塗布する方法である。接触塗布方式では、有機バインダー液の粘度が低いと塗布ムラが生じる場合があるため、ある程度の粘度を有する有機バインダー液が用いられる。そのため、有機バインダー液が無機繊維成形体に浸透しにくい場合がある。
【0042】
また、非接触塗布方式は、例えばノズル等の塗布部材を無機繊維成形体に接触させない方法である。スプレー法等の非接触塗布方式では、有機バインダー液を無機繊維成形体の内部にまで浸透させることは、接触塗布方式と比較してもより困難である。
【0043】
これに対し本発明においては、後述の酸素供給物質水溶液塗布工程にて無機繊維成形体に酸素供給物質水溶液を塗布して含浸させることで、有機バインダーを無機繊維成形体の有機バインダー液の塗布面から反対側の面または内部へ移動させることができる。したがって、接触塗布方式および非接触塗布方式を適用する場合に本発明は有用である。
【0044】
接触塗布方式としては、例えばキスコート法、ロールコート法、グラビアコート法等が挙げられる。中でも、キスコート法が好ましい。キスロールを滑らせて塗布することができ、無機繊維成形体のライン速度に対するローラーの表面速度との比によって容易に有機バインダー液の塗布量を制御することができるからである。
【0045】
また、非接触塗布方式としては、例えばスプレー法、ダイコート法、カーテンコート法等が挙げられる。中でも、スプレー法が好ましい。ロールツーロール方式で無機繊維成形体に有機バインダー液を塗布する際に、無機繊維成形体の搬送速度や張力を制御しなくとも、有機バインダー液の塗布量を制御することができるからである。
【0046】
無機繊維成形体に有機バインダー液を塗布する際には、有機バインダー液を無機繊維成形体の片面に塗布してもよく両面に塗布してもよいが、中でも片面のみに塗布することが好ましい。有機バインダー液を無機繊維成形体の片面のみに塗布した場合には、後述の脱液工程にて無機繊維成形体の有機バインダー液の塗布面とは反対側の面から酸素供給物質水溶液を吸引することで、無機繊維成形体の有機バインダー液の塗布面からその反対側の面に有機バインダー液を移動させることができ、有機バインダーが無機繊維成形体の有機バインダー液の塗布面に局在するのをさらに抑制することができる。また、後述の乾燥工程にて無機繊維成形体の有機バインダー液の塗布面から熱風を通過させることで、乾燥時の有機バインダーのマイグレーションを抑制することができる。
【0047】
無機繊維成形体への有機バインダー液の塗布量としては、無機繊維や有機バインダー液の種類、有機バインダー液中の有機バインダー濃度、有機バインダー含有無機繊維成形体の厚み、用途等に応じて適宜選択されるものであり、後述する無機繊維成形体中の無機繊維に対する有機バインダー固形分量が所望の範囲となるように適宜調整される。
【0048】
3.酸素供給物質水溶液塗布工程
本発明においては、上記バインダー液が塗布された上記無機繊維成形体に、酸素供給物質水溶液を塗布する酸素供給物質水溶液塗布工程を行う。
【0049】
本発明に係る酸素供給物質は、特段の制限はないが、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロキシパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、ブチルパーオキシジメチルヘキサン及びジクミルパーオキサイドが挙げられる。なかでも、過酸化水素、過酸化ベンゾイル及びクメンヒドロキシパーオキサイドは、使用時(室温、後述記載の濃度領域)に水溶液中で固形分が析出しない点で好ましく、特に過酸化水素は使用濃度領域において比較的安定的に使用できる点で好ましい。
【0050】
本発明に係る酸素供給物質水溶液中の酸素供給物質濃度は、特段の制限はないが、通常0.1〜6重量%、好ましくは1〜4重量%である。酸素供給物質水溶液中の酸素供給物質濃度が上記範囲にあることにより、比較的安定的に使用できる点で好ましい。
【0051】
酸素供給物質水溶液の沸点は、120℃未満であり、好ましくは60℃〜110℃の範囲内である。沸点が上記範囲であることにより、後述の乾燥工程にて酸素供給物質水溶液を容易に除去することができる。一方、沸点が高すぎると、後述の乾燥工程にて酸素供給物質水溶液を完全に除去するのが困難になる。また、沸点が低すぎると、酸素供給物質水溶液の蒸発速度が速くなり、酸素供給物質水溶液を無機繊維成形体に十分に浸透させることが困難になり、その結果、有機バインダーを無機繊維成形体の内部に含有させるのが困難になるおそれがある。
【0052】
また、酸素供給物質水溶液の室温(25℃)での蒸気圧は低いことが好ましく、具体的には5kPa以下であることが好ましい。蒸気圧が高すぎると、酸素供給物質水溶液の蒸発速度が速くなり、酸素供給物質水溶液を無機繊維成形体に十分に浸透させることが困難になり、その結果、有機バインダーを無機繊維成形体の内部に含有させるのが困難になるおそれがある。
【0053】
酸素供給物質水溶液の粘度は、有機バインダー液の粘度よりも低いことが好ましく、具体的には、3.5mPa・s以下であることが好ましく、中でも3.0mPa・s〜0.5mPa・sの範囲内、特に2.0mPa・s〜0.5mPa・sの範囲内であることが好ましい。酸素供給物質水溶液の粘度が有機バインダー液の粘度よりも低ければ、酸素供給物質水溶液は有機バインダー液よりも無機繊維成形体に含浸しやすくなるため、無機繊維成形体に酸素供給物質水溶液を塗布した際に、有機バインダーを移動させやすくなる。一方、酸素供給物質水溶液の粘度が高すぎると、酸素供給物質水溶液を無機繊維成形体に十分に浸透させることが困難になり、その結果、有機バインダーを無機繊維成形体の内部に含有させるのが困難になるおそれがある。また、酸素供給物質水溶液の粘度が低すぎると、無機繊維成形体から酸素供給物質水溶液が抜けてしまうおそれがある。
【0054】
ここで、粘度は、20℃における粘度を指し、JIS Z8803(液体の粘度測定方法)に準拠して、回転粘度計を用いて測定された値である。
【0055】
酸素供給物質水溶液には、無機繊維成形体に浸透し、かつ酸素供給物質の効果を減じるものでなければ、水以外の溶媒(例えば、エタノール等の低級アルコール)を添加するものを妨げるものではない。
【0056】
また、酸素供給物質水溶液に含まれる不純物は極力少ないことが好ましく、酸素供給物質水溶液は不純物を含まないことがより好ましい。酸素供給物質水溶液は後述の乾燥工程にて完全に除去され、得られる有機バインダー含有無機繊維成形体には残存しないことが好ましいことから、不純物が含まれないことが好ましいのである。
【0057】
ここで、酸素供給物質水溶液が不純物を含まないとは、酸素供給物質水溶液に含まれる不純物濃度が0.1質量%以下であることをいう。
【0058】
酸素供給物質水溶液の塗布方法としては、無機繊維成形体に酸素供給物質水溶液を均一に塗布することができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えばスプレー法、カーテンコート法、ダイコート法、刷毛塗り法等が挙げられる。中でも、酸素供給物質水溶液の塗布方法は非接触塗布方式であることが好ましい。酸素供給物質水溶液の塗布は複数回繰り返し行ってもよい。
【0059】
また、無機繊維成形体に酸素供給物質水溶液を塗布する際には、酸素供給物質水溶液を無機繊維成形体の片面に塗布してもよく両面に塗布してもよい。中でも、無機繊維成形体の有機バインダー液の塗布面に酸素供給物質水溶液を塗布することが好ましい。この場合、無機繊維成形体の有機バインダー液の塗布面において有機バインダー濃度を低下させることができ、その結果、乾燥工程にて無機繊維成形体の表面への有機バインダーの偏析を抑制することができる。
【0060】
酸素供給物質水溶液が無機繊維成形体の有機バインダー液の塗布面から内部に浸透するのに伴って、有機バインダー液も無機繊維成形体の内部に浸透させることができ、無機繊維成形体の厚み方向全体に有機バインダーを均一に含有させることができる。さらに、有機バインダーと酸素供給物質が均一に存在し、乾燥時に有機バインダーを一部分解や変性させ、高温時に効果的に有機バインダーが燃焼できる。
【0061】
また、無機繊維成形体の片面に酸素供給物質水溶液を塗布する際には、塗布と同時に、無機繊維成形体の酸素供給物質水溶液の塗布面とは反対側の面から酸素供給物質水溶液を吸引することが好ましく、中でも、無機繊維成形体の有機バインダー液の塗布面に酸素供給物質水溶液を塗布すると同時に、無機繊維成形体の有機バインダー液および酸素供給物質水溶液の塗布面とは反対側の面から酸素供給物質水溶液を吸引することが好ましい。酸素供給物質水溶液の浸透速度を速めることができる。
【0062】
酸素供給物質水溶液が無機繊維成形体の有機バインダー液および酸素供給物質水溶液の塗布面から反対側の面に移動するのに伴って、有機バインダー液も移動させることができ、有機バインダーの均一化を図ることができる。その結果、有機バインダーと酸素供給物質が均一に存在し、乾燥時に有機バインダーを一部分解や変性させ、高温時に効果的に有機バインダーが燃焼できると考える。
【0063】
酸素供給物質水溶液の塗布量としては、有機バインダーを無機繊維成形体の厚み方向全体に移動させることができる程度であれば特に限定されるものではなく、無機繊維、有機バインダー液および酸素供給物質水溶液の種類、有機バインダー含有無機繊維成形体の厚み、用途等に応じて適宜選択される。例えば、酸素供給物質水溶液の塗布量は、無機繊維成形体の有機バインダー液の塗布面における有機バインダー固形分量に対して、0.1〜10の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.0〜5.0の範囲内である。酸素供給物質量が上記範囲にある場合には有機バインダーが早期焼失するに必要な酸素を充分供給でき,早期に焼失する目的が達成され、過剰な酸素供給により異常発熱の懸念もない点で好ましい。
【0064】
4.脱液工程
本発明においては、上記酸素供給物質水溶液塗布工程後、後述の乾燥工程前に、有機バインダー液および酸素供給物質水溶液が塗布された無機繊維成形体から有機バインダー液および酸素供給物質水溶液の溶媒を除去する脱液工程を行うことが好ましい。後述の乾燥工程にて有機バインダー液の溶媒や分散媒および酸素供給物質水溶液を除去しやすくなり、乾燥時間を短縮することができるからである。
脱液方法としては、例えば吸引、加圧、圧縮等が挙げられる。
【0065】
中でも、吸引脱液が好ましく、有機バインダー液および酸素供給物質水溶液をそれぞれ無機繊維成形体の同じ片面に塗布し、無機繊維成形体の有機バインダー液および酸素供給物質水溶液の塗布面とは反対側の面から有機バインダー液および酸素供給物質水溶液の溶媒を吸引することが好ましい。有機バインダー液および酸素供給物質水溶液の溶媒が無機繊維成形体の有機バインダー液および酸素供給物質水溶液の塗布面から反対側の面に移動するのに伴って、有機バインダー液も移動させることができ、有機バインダー及び酸素供給物質の均一化を図ることができるからである。
【0066】
吸引脱液の方法としては、有機バインダー液および酸素供給物質水溶液の溶媒を吸引できる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば無機繊維成形体の酸素供給物質水溶液の塗布面とは反対側の面を減圧する方法が挙げられる。
【0067】
また、加圧脱液の場合には、無機繊維成形体の酸素供給物質水溶液の塗布面を加圧してもよい。酸素供給物質水溶液が無機繊維成形体の酸素供給物質水溶液の塗布面から反対側の面に移動するのに伴って、有機バインダー液も移動させることができるからである。
【0068】
脱液時の圧力、脱液時間等の脱液条件は、無機繊維成形体中の有機バインダー及び酸素供給物質が除去されないように適宜調整される。
【0069】
5.乾燥工程
本発明においては、通常、上記酸素供給物質水溶液塗布工程後に、有機バインダー液および酸素供給物質水溶液が塗布された無機繊維成形体を乾燥する乾燥工程が行われる。当該工程において、酸素供給物質により有機バインダーが一部分解や変性されることで、高温時に効果的に有機バインダーが燃焼できる点で好ましい。
【0070】
乾燥方法としては、特段の制限はないが、例えば加熱乾燥、通気乾燥、減圧乾燥、遠心乾燥、吸引乾燥、加圧乾燥、自然乾燥等が挙げられる。
【0071】
乾燥温度としては、乾燥方法や、有機バインダー液および酸素供給物質水溶液の種類等に応じて適宜選択される。例えば加熱乾燥や通気乾燥の場合、乾燥温度は酸素供給物質水溶液の沸点以上であればよく、具体的には80℃〜160℃の範囲内であることが好ましく、特に好ましくは120℃〜160℃の範囲内である。乾燥温度が低すぎると十分に乾燥することができず、又、有機バインダーの架橋が不充分となるおそれがあり、一方、乾燥温度が高すぎると有機バインダーが変質したり、有機バインダー液の溶媒や分散媒の急激な蒸発が起こりマイグレーションが発生したり、酸素供給物質が過剰に反応するおそれがある。
【0072】
乾燥時の乾燥時間等、他の乾燥条件は、無機繊維成形体から酸素供給物質水溶液を除去することができ、かつ、有機バインダー液中の有機バインダーが除去されないように適宜調整される。例えば、乾燥時間は10秒〜60分程度とすることができる。
【0073】
6.有機バインダー含有無機繊維成形体
本発明においては、無機繊維成形体と、上記無機繊維成形体に含有される有機バインダーとを有する有機バインダー含有無機繊維成形体を得ることができる。
【0074】
有機バインダー含有無機繊維成形体中の有機バインダーの含有量としては、特に限定されるものではなく、無機繊維や有機バインダーの種類、有機バインダー含有無機繊維成形体の厚み、用途等に応じて適宜選択される。例えば有機バインダー含有無機繊維成形体中の有機バインダー固形分量は、無機繊維成形体中の無機繊維100質量部に対して、0.5質量部〜10.0質量部の範囲内であることが好ましい。上記有機バインダー固形分量が少なすぎると有機バインダー含有無機繊維成形体の所望の厚みが得られないおそれがあり、多すぎるとコスト高になる。また、有機バインダーの場合、上記の有機バインダー固形分量が多いと、有機バインダーが分解されにくくなったり、有機バインダーの分解によって生じるガスにより作業環境が悪化したりするおそれがある。また、無機バインダーの場合、上記の無機バインダー固形分量が多いとクッション性が損なわれるおそれがある。
【0075】
有機バインダー含有無機繊維成形体は、例えば断熱材、耐火材、クッション材(保持材)、シール材等に適用することができる。中でも、有機バインダー含有無機繊維成形体は、排ガス浄化装置用の保持材として好適である。本発明において、有機バインダー含有無機繊維成形体は剪断強度が高く、ケーシングに対する摩擦力が小さいため、組み付け性に優れており、圧入時の有機バインダー含有無機繊維成形体および触媒担体または粒子フィルタのずれを抑制し、有機バインダー含有無機繊維成形体の保持力を高めることができる。
【0076】
排ガス浄化装置は、例えば触媒担体または粒子フィルタと、触媒担体または粒子フィルタを収容する金属製のケーシングと、触媒担体または粒子フィルタおよびケーシングの間に介装された保持材とを備えるものである。具体的には、触媒コンバータやディーゼルパティキュラーフィルタ(DPF)が挙げられる。
【0077】
排ガス浄化装置の構成は特に限定されるものではなく、本発明における有機バインダー含有無機繊維成形体は、上記の構成を備える一般的な排ガス浄化装置に適用することが可能である。
【0078】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0079】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0080】
[評価]
(昇温時反発力測定)
バインダーおよび酸素供給物質を添着させた無機繊維成形体を50mm×50mmサイズに型抜き、所定のGBD(0.35g/cm3)まで圧縮した後、1時間保持後、800℃まで昇温させた際の反発力を測定した。測定後、1時間保持後の反発力(A)および昇温中の最低面圧値(B)を読み取り、面圧低下度合い((A-B)/A×100)を算出した。
【0081】
[実施例1]
アルミナ繊維成形体原反ロール(商品名:マフテック(登録商標)、三菱樹脂株式会社製、坪量1200g/m
2)を用いて、有機バインダー液塗布工程において、アクリレート系ラテックス(商品名:Nipol(登録商標)、日本ゼオン製、濃度10%)をスプレーにより、有機バインダー固形分添着量が無機繊維成形体中の無機繊維当たりの質量に対して4.0%となるように噴霧した。
【0082】
次に、酸素供給物質水溶液塗布工程において、酸素供給物質である過酸化水素溶液11g(濃度30wt%)とイオン交換水100gを均一に溶解する様に混合し、2時間放置した過酸化水素溶液をラテックスの塗工面からスプレーにより、酸素供給物質水溶液である過酸化水素の塗布量が無機繊維成形体中の有機バインダー固形分当たりの質量に対して3.0%となるように噴霧した。
【0083】
その後、静置乾燥による乾燥工程(160℃、45分)を行い、有機バインダー含有無機繊維成形体を作製した。作製後に回収し、所定の大きさに切断し、上記評価を行ったところ、面圧低下度合いは16.6%であった。
【0084】
[比較例1]
アルミナ繊維成形体原反ロール(商品名:マフテック(登録商標)、三菱樹脂株式会社製、坪量1200g/m
2)を用いて、アクリレート系ラテックス(商品名:Nipol(登録商標)、日本ゼオン製、濃度10%)と過酸化水素水溶液を均一になるように混合し、2時間放置した有機バインダー及び過酸化水素水混合液を、実施例1と同様に有機バインダー固形分添着量が無機繊維成形体中の有機バインダー当たりの質量に対して4.0%、酸素供給物質水溶液である過酸化水素の塗布量が無機繊維成形体中の有機バインダー固形分当たりの質量に対して3.0%になるように噴霧した。
【0085】
その後、静置乾燥による乾燥工程(160℃、45分)を行い、有機バインダー含有無機繊維成形体を作製した。作製後に回収し、所定の大きさに切断し、上記評価を行ったところ、面圧低下度合いは17.5%であった。
【0086】
[考察]
以上の結果から、本実施例は、比較例と比べると、昇温時の面圧低下度合いが小さくなっている。ここで、面圧低下度合いとは、直前面圧値から昇温時の最低面圧値を引き、昇温直前面圧値で除した値であることから、本発明の有機バインダー含有無機繊維成形体は面圧の急激な低下が抑制されることで、ボーディネスエフェクト由来による排ガス処理装置内の触媒担持体が所定の位置からずれるリスクが低減されることが判る。