(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光量取得部により、前記光量を取得するタイミング毎に、前記タイミングの近傍において前記光検出素子により検出された複数の光量データの平均値を算出する平均化部を有し、
前記演算部は、
前記光量データの平均値のデータ列に基づき、前記リボン素子に入力される光の各々の
波長における強度を算出する、請求項5記載のスペクトル測定器。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第一の実施形態)
以下に図面を参照して、第一の実施形態について説明する。
図1は、第一の実施形態の分光装置を説明する図である。
【0012】
本実施形態の分光装置100は、スペクトル測定器110と、光源120と、を有する。
本実施形態の分光装置100では、光源120から被測定物1に照射され、被測定物1によって反射された光がスペクトル測定器110に入射される。
【0013】
本実施形態のスペクトル測定器110は、分光部130と、制御部140と、を有する。
【0014】
分光部130は、第一の基板131と第二の基板132により形成されている。第一の基板131には、第一の基板131の一方の面から他方の面を貫通する光入射部133、光出射部134が設けられており、第一の基板131の一方の面には、光入射部133と光出射部134との間に、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)リボン素子200が設けられている。以下の説明では、MEMSリボン素子200を、リボン素子200と呼ぶ。
【0015】
第二の基板132には、一方の面に、第一の凹面光反射部135と第二の凹面光反射部136が設けられている。
【0016】
光出射部134における第一の基板131の他方の面の側には、光検出素子137が設置されている。光検出素子137は、Si、Ge、InGaAs等により形成された単画素のフォトダイオードチップである。言い換えれば、光検出素子137は、単一受光面により、光を検出する光検出素子である。光検出素子137は、検出した光の光量と対応する電圧データを出力する。
【0017】
図1では、破線矢印Y1はある波長の光路の一例を示している。本実施形態の分光部130では、光入射部133から入射した入射光は、第一の凹面光反射部135で反射されてリボン素子200へ導かれる。リボン素子200に導かれた入射光は、リボン素子200によって波長分散されると共に、第二の凹面光反射部136で反射され、光出射部134に結像される。尚、
図1では、リボン素子200の長手方向がY方向であり、短手方向がX方向であり、X方向及びY方向に垂直な方向がZ方向である。
【0018】
本実施形態のリボン素子200は、複数のリボンを有する。本実施形態では、この複数のリボンの一部をZ方向に並進運動させることで、反射型の回折格子として機能させる。
【0019】
本実施形態の分光部130では、特定の回折光成分が光検出素子137に導かれるように、第二の凹面光反射部136と、光出射部134とが形成され、リボン素子200が配置される。
【0020】
尚、
図1では、第一の基板131にリボン素子200が実装された例を示しているが、これに限定されない。リボン素子200は、例えば、第一の基板131と一体化させて形成されても良い。言い換えれば、リボン素子200は、第一の基板131の一部として形成されても良い。この場合、第一の基板131は、シリコン等で形成されても良い。リボン素子200の詳細は後述する。
【0021】
本実施形態の制御部140は、リボン素子200が有する複数のリボンの一部を並進運動させて格子パターンを変える制御を行う。また、本実施形態の制御部140は、光検出素子137が受光した光量から、回折パターンとの組み合わせを元に逆演算をすることで各波長の光強度を算出する演算等を行う。制御部140の詳細は後述する。
【0022】
次に、
図2乃至
図4を参照して、本実施形態のリボン素子200について説明する。
図2は、第一の実施形態のリボン素子の一例を示す図である。
図2では、リボン素子200の構成を模式的に示している。
【0023】
本実施形態のリボン素子200は、例えば、静電方式、電磁方式、圧電方式の何れかで駆動することができる。本実施形態では、リボン素子200は、圧電方式によって駆動されるものとして説明する。圧電方式は、小さい駆動電圧で大きな変位を得ることができるため、小型化を目指す分光装置100にとって好ましい。
【0024】
本実施形態のリボン素子200は、固定枠210、駆動枠220、カンチレバー230、240、可動リボン250、固定リボン260を有する。
【0025】
本実施形態のリボン素子200では、固定枠210にミアンダ構造のカンチレバー230、240が互いに対向するように形成されている。そして、カンチレバー230、240の間に、可動リボン250を連結した駆動枠220が形成されている。
【0026】
また、カンチレバー230の上には、圧電体231が、カンチレバー240の上には圧電体241が形成されている。圧電体231、241は、それぞれが、圧電体231、241とほぼ同形状の1対の電極薄膜で挟まれ、カンチレバー230、240上に装荷されている。
【0027】
1対の電極薄膜とは、圧電体231、241のそれぞれの上部に形成された上部電極と、圧電体231、241のそれぞれの下部に形成された下部電極と、を含み、これらの上部電極と下部電極とは、互いに電気的に連結されている。本実施形態では、全ての圧電体231、241に対し、制御部140から供給される駆動信号(電圧)が同位相で印加される。
【0028】
圧電体231、241に対して駆動信号が供給されると、圧電体231、241は、印加される電圧に応じて収縮し、カンチレバー230、240がZ方向に曲げられる。
【0029】
本実施形態では、
図2に示すように、カンチレバー230、240を折り返してミアンダ状にすることで、カンチレバー230、240を駆動させた際に、曲げによる先端のY軸に対する回転方向の変位は相殺され、Z方向の並進運動成分のみが残る。
【0030】
カンチレバー230、240のZ方向の並進運動が開始されると、可動リボン250を連結した駆動枠220も、カンチレバー230、240の並進運動に追従してZ方向に並進運動する。このため、駆動枠220に連結された可動リボン250は、全て同じ変位量を保ってZ方向に並進運動する。一方で、本実施形態の固定リボン260は、常に静止している。
【0031】
本実施形態では、このようにして、可動リボン250が有する可動反射面と、固定リボン260が有する固定反射面との間に、Z方向の変位に差を生じさせる。
【0032】
次に、
図3を参照し、本実施形態の可動リボンと固定リボンについて説明する。
図3は、第一の実施形態の可動リボンと固定リボンについて説明する図である。
図3では、リボン素子200のX−Z断面の概略を示している。
【0033】
本実施形態のリボン素子200において、可動リボン250と固定リボン260とは、互いに隣接しており、所定のリボンピッチdで並んでいる。本実施形態のリボンピッチdは、入射光の波長と同程度の20umとしているが、これに限定されない。リボンピッチdは、入射光の波長よりも極端に広くなければ良く、入射光の波長程度から波長の100倍程度の範囲であれば良い。
【0034】
可動リボン250は、支持部材251と、支持部材251の上に設けられた反射面252と、を有する。本実施形態では、可動リボン250が有する反射面252が、可動反射面252である。本実施形態では、全ての可動リボン250のZ方向の並進運動によって、可動反射面252が、Z方向に上下する。言い換えれば、可動反射面252は、可動リボン250の並進運動によって、面外方向に並進運動する。尚、本実施形態のリボン素子200の有する全ての可動リボン250の可動反射面252のZ方向の変位量は、同じである。
【0035】
固定リボン260は、支持部材261と、支持部材261の上に設けられた反射面262と、を有する。本実施形態では、固定リボン260が有する反射面262が、固定反射面262である。
【0036】
本実施形態の支持部材251、261は、例えば、シリコンで形成され、可動反射面252、固定反射面262は、支持部材251、261の上に、AlやAu等の金属薄膜を成膜して形成される。
【0037】
本実施形態では、可動リボン250における支持部材251の厚さt2と、固定リボン260の支持部材261の厚さt4は同じであり、可動リボン250における可動反射面252の厚さt1と、固定リボン260の固定反射面262の厚さt3は同じである。言い換えれば、可動反射面252と固定反射面262は、それぞれが面外方向において、同じ位置にある。
【0038】
本実施形態では、例えば、厚さt1、t3は、0.1〜1.0μm程度であり、厚さt2、t4は、10〜100μm程度であれば良い。
【0039】
また、本実施形態のリボン素子200における可動リボン250と固定リボン260の数は、例えば、可動反射面252の面積と固定反射面262の面積の合計が、光照射領域の面積よりも大きくなる数であれば良い。光照射領域とは、リボン素子200における入射光が照射される領域である。
【0040】
ここで、可動反射面252と固定反射面262のZ方向の変位量の差を、リボン深さDと定義する。本実施形態のリボン素子200は、リボン深さDがゼロでない場合に、反射型の回折格子として機能する。すなわち、本実施形態の分光装置100では、リボン深さDがゼロでない場合に、リボン素子200に入射され、リボン素子200によって反射された反射光が、波長に応じた回折角及び回折効率をもつ反射回折光に分解される。
【0041】
このとき、入射角αでリボン素子200に入射した光に対する反射光の出射角βは、以下の式(1)で与えられる。尚、以下の式(1)において、λは光の波長であり、mは回折次数であり、dはリボンピッチである。
【0042】
【数1】
ところで、近年では、リボン素子におけるリボン深さを変化させると、波長及び回折次数における回折効率が変化することが知られている。
【0043】
そこで、本実施形態では、この点に着目し、本実施形態のリボン素子200について、リボン深さDにおける−1次回折による反射回折光の回折効率を計算した。
図4にその結果を示す。
【0044】
図4は、第一の実施形態におけるリボン深さ毎の、−1次回折光の回折効率と波長の関係を示す図である。
【0045】
図4では、リボン深さDを1.4um〜2.0umの範囲で変化させたときに、反射回折光の回折効率がピークとなる波長が変化していく様子が示されている。
図4によれば、反射回折光の回折効率がピークとなる波長は、リボン深さDの値が大きくなるほど長くなっていくような特徴を有する。
【0046】
そこで、本実施形態の分光装置100では、−1次の反射回折光のみを受光する範囲に光検出素子137を配置した。本実施形態では、この配置により、入射光が有する波長スペクトルと、反射回折光の波長毎の回折効率の積と、を波長軸上で積分した光量が、光検出素子137によって検出される。
【0047】
また、本実施形態のリボン素子200では、圧電体231、241に印加する電圧を制御してリボン深さDを変化させ、光検出素子137によって検出される反射回折光の波長を変化させることができる。
【0048】
尚、リボン素子200を反射型回折格子として機能させるためには、リボン深さDを分光する光の波長程度以上にすることが望ましく、近赤外分光へ適用する際には1μm程度よりも大きくすることが望ましい。
【0049】
そこで、本実施形態の分光装置100では、制御部140の制御により、リボン深さDが1μm程度よりも大きくなったときに、光検出素子137が検出した光量を取得する。
【0050】
尚、本実施形態の分光方式において、取得する反射回折光の次数は特に制限はないが、光検出素子137で検出する反射回折光は、0次以外の回折次数成分が好ましい。
【0051】
0次回折による反射回折光は、リボン素子200による反射光が入射光に対して正反射する方向であるため、リボン250、260の近傍の領域からの反射光が回折光成分に重畳されやすく、信号の検出精度が低下する虞があるからである。
【0052】
また、本実施形態では、複数の回折次数の反射回折光を一括して取得しても良い。この場合、各々の回折次数に対する反射回折光の光量の総和が検出されるため、全体的に検出される光量が増加する。このため、複数の回折次数の反射回折光を一括して取得する場合には、光検出素子137の電気ノイズに対してSN比を向上させることができる。
【0053】
以下に、
図5を参照して、本実施形態の制御部140の機能について説明する。
図5は、第一の実施形態の制御部の機能を説明する図である。
【0054】
本実施形態の制御部140は、演算処理装置と記憶装置とを有するCPU(Central Processing Unit)等によって実現される。また、以下に説明する制御部140の各部は、記憶装置に格納されたプログラムが演算処理装置によって読み出されて実行されることで実現される。
【0055】
本実施形態の制御部140は、駆動制御部141、光量取得部142、データ保持部143、演算部144、出力部145を有する。
【0056】
本実施形態の駆動制御部141は、リボン素子200の圧電体231、241を駆動させるための駆動電圧を、各圧電体の上部電極及び下部電極に供給する。具体的には、本実施形態の駆動制御部141は、各圧電体の上部電極及び下部電極の何れか一方に対しては、駆動電圧を、三角波状の駆動信号として供給する。
【0057】
本実施形態の光量取得部142は、光検出素子137から出力される電圧データを取得する。
【0058】
具体的には、本実施形態の光量取得部142は、リボン深さDが、所定範囲内であるときに、光検出素子137から出力される電圧データを所定の間隔でサンプリングする。光量取得部142は、例えば、A/Dコンバータ等により実現されても良い。
【0059】
尚、光検出素子137から出力される電圧データは、光検出素子137が検出した光量と対応しており、光量を示す光量データとも言える。
【0060】
リボン深さDの所定範囲とは、リボン素子200が反射型回折格子として機能し、且つ、回折効率がピークとなる波長の変化が顕著に現れる範囲である。本実施形態では、例えば、リボン深さDの所定範囲を1.4μm〜2.0μmとしている。光量取得部142による光量の検出の処理の詳細は後述する。
【0061】
データ保持部143は、光量取得部142により取得された電圧データを保持する。
【0062】
本実施形態の演算部144は、データ保持部143に保持された電圧データから、反射回折光の強度を算出する。演算部144による演算の詳細は後述する。
【0063】
出力部145は、演算部144による演算の結果を出力する。本実施形態の出力部145は、例えば、演算結果を分光装置100が有するディスプレイ等に表示させても良いし、分光装置100と接続された記憶媒体や外部装置等に演算結果を出力しても良い。
【0064】
次に、
図6を参照して、本実施形態の光量取得部142による光量の検出について説明する。
図6は、第一の実施形態の光量取得部による光量の検出を説明する図である。
【0065】
図6に示すグラフは、横軸を時間とし、縦軸をリボン深さとし、時間に対するリボン深さDの変化を表している。
【0066】
本実施形態では、駆動制御部141により、圧電体231、241に三角波状の駆動信号を供給し、可動リボン250の可動反射面252をZ方向に並進運動をさせると、リボン深さDは、
図6のグラフに示すように、時間に対して三角波状に変化する。つまり、時間に対するリボン深さDは、リボン素子200に供給される駆動信号の変化に対応して変化する。言い換えれば、リボン深さDの変化の周波数は駆動信号の周波数と一致し、リボン深さDは、駆動信号の周波数で変化する。
【0067】
図6の例では、リボン深さDは、可動リボン250の並進運動に応じて、Dp1からDp2まで変化する。したがって、時間に対するリボン深さDの最大変位量は、リボン深さDp1とリボン深さDp2との差分の絶対値であるArとなる。以下の説明では、リボン深さDの最大変位量をリボン振幅Arと呼ぶ。また、
図6の例では、時間に対するリボン深さDの変化の周期はFrである。以下の説明では、リボン深さDの変化の周期Frをリボン変位周期Frと呼ぶ。
【0068】
このリボン振幅Arとリボン変位周期Frから、リボン素子200には、周期がFrであり、振幅がリボン振幅Arと対応する電圧である三角波状の駆動信号が供給されていることがわかる。
【0069】
また、
図6の例では、タイミングT1からタイミングT2の間と、タイミングT3からタイミングT4までの間において、光検出素子137が検出した電圧データの取得がされる。つまり、タイミングT1からタイミングT2までの期間K1と、タイミングT3からタイミングT4までの期間K2が、リボン深さDtが所定範囲となる期間である。以下の説明では、期間K1、K2を光量保持期間K1、K2と呼ぶ。
【0070】
したがって、本実施形態の光量取得部142は、光量保持期間K1、K2において、電圧データを取得する間隔Ks毎に、光検出素子137が検出した電圧データを取得する。尚、光量検出期間K1、K2を示すタイミングは、予め光量取得部142に保持されていても良い。
【0071】
尚、
図6では、光量保持期間を、リボン深さDの変位の1周期につき1回設けた例を示したが、これに限定されない。光量保持期間は、リボン深さDが所定範囲となる期間であれば、どの期間であっても良い。したがって、例えば、リボン深さDの変位の1周期につき、リボン深さDの値が増加していく上り側の光量保持期間K1、K2に加え、リボン深さDの値が減少していく下り側において、リボン深さDが所定範囲となる期間を光量保持期間としても良い。
【0072】
本実施形態では、光量保持期間K1、K2において、光量取得部142によって取得された電圧データの列を、演算部144による演算用のデータとして、データ保持部143に保持させる。本実施形態では、光量保持期間K1、K2において取得された電圧データの列のみを保持することで、有意な回折効率のピークの変化が得られるリボン深さDの時間領域における電圧データの例を演算に用いることができる。
【0073】
本実施形態では、データ保持部143に保持された電圧データ群V1〜Vnと、入射光に含まれる波長成分λ1〜λnの光強度は、式(2)のような行列式で関連付けられる。
【0074】
【数2】
式(2)において、Iλkは、入射光に含まれる波長λkの光強度である。また、式(2)において、行列成分akkは、既知のスペクトル特性を有する参照光源についての電圧データVkと光強度Iλkの関係から予め定めておいた係数である。尚、式(2)と、各係数は、演算部144に保持されていても良い。
【0075】
本実施形態の演算部144は、データ保持部143により保持された電圧データ群を用いて式(2)をIλkについて解くことで、分光装置100の入射光について、波長領域をn分割したときのスペクトル特性を得ることができる。
【0076】
異なる時間において得られた電圧データVk及び予め設定された係数akk(k=1〜n)から、式(2)をIλkに解くことは、式(2)の行列の積を求めることに等しい。
【0077】
このため、本実施形態によれば、フーリエ変換が必要となるフーリエ変換赤外分光法と比べて、計算の負荷を大幅に軽減することができる。
【0078】
ここで、分光装置100による測定時間と、光量取得部142による電圧データのサンプリング周波数の関係について説明する。
【0079】
以下の例では、分光装置100が1秒当たりS回の電圧データを出力し、電圧データを1回出力する間にリボン素子200がM周期だけ並進運動した場合について説明する。
【0080】
このとき、リボン素子200の駆動周波数はS・M[Hz]である。尚、リボン素子200の駆動周波数とは、駆動制御部141からリボン素子200に供給される駆動信号の周波数である。
【0081】
また、入射光の波長成分における波長分割数をnとすると、式(2)の演算を行うためには、分光装置100は、n個以上の電圧データを得る必要がある。
【0082】
リボン素子200の並進運動1周期のうち、電圧データV1〜Vnを取得するために使用する時間比率をηとすると、電圧データのサンプリング周波数fsは、以下の式(3)により示される。
【0083】
【数3】
例えば、式(3)において、S=10回/秒、M=10回、n=100点、η=25%とすると、電圧データのサンプリング周波数はfs=40kHzとなる。つまり、本実施形態の光量取得部142は、光量保持期間K1、K2において、40kHzの周期で光検出素子137が検出した電圧データを取得できれば良い。この機能は、例えば、安価なA/D(デジタル/アナログ)コンバータ等によって、容易に実現することができ、制御部140の構成を簡易且つ安価なものにすることができる。
【0084】
次に、
図7を参照して、本実施形態の制御部140の動作について説明する。
図7は、第一の実施形態の制御部の動作を説明するフローチャートである。
【0085】
本実施形態の制御部140は、分光装置100の電源がオンされ、入射光が検出されると、駆動制御部141により、リボン素子200を一定周期で駆動させる(ステップS701)。言い換えれば、制御部140は、駆動制御部141により、一定周期の駆動信号をリボン素子200へ供給し、可動リボン250を可動させて、可動反射面252と固定反射面262との高さを変え、リボン深さDを発生させる。
【0086】
続いて、制御部140は、光量取得部142により、光量保持期間となったか否かを判定する(ステップS702)。尚、本実施形態の光量取得部142は、例えば、光量保持期間K1、K2が開始されるタイミングT1、T3における駆動電圧の値を保持しており、駆動信号の値が保持している駆動電圧となったとき、光量保持期間が開始されたことを検出しても良い。
【0087】
ステップS702において、光量保持期間となっていない場合、制御部140は、光量保持期間となるまで待機する。ステップS702において、光量保持期間となった場合、光量取得部142は、所定のサンプリング周波数に基づき、光検出素子137から出力される電圧データを取得し、データ保持部143により保持する(ステップS703)。尚、サンプリング周波数は、予め光量取得部142に設定されていても良い。
【0088】
続いて、光量取得部142は、光量保持期間が終了したか否かを判定する(ステップS704)。尚、本実施形態の光量取得部142は、例えば、光量保持期間K1、K2が終了するタイミングT2、T4における駆動電圧の値を保持しており、駆動信号の値が保持している駆動電圧となったとき、光量保持期間が終了したことを検出しても良い。
【0089】
ステップS704において、光量保持期間が終了していない場合、光量取得部142は、ステップS703に戻る。ステップS704において、光量保持期間が終了した場合、制御部140は、演算部144により、データ保持部143に保持された電圧データ群と、式(2)と、に基づき、リボン素子200に入射される入射光のスペクトル特性を導出する(ステップS705)。
【0090】
続いて、制御部140は、出力部145により、導出されたスペクトル特性を出力する(ステップS706)。続いて、制御部140は、データ保持部143に保持さたれ電圧データを削除してデータ保持部143を開放する(ステップS707)。
【0091】
続いて、制御部140は、分光装置100の電源オフの指示を受け付けたか否かを判定する(ステップS708)。ステップS708において、電源オフの指示を受け付けていない場合、制御部140は、ステップS702へ戻る。ステップS708において、電源オフの指示を受け付けた場合、制御部140は、処理を終了する。
【0092】
以上のように、本実施形態によれば、フーリエ変換等の演算が不要となり、演算部144における処理の負荷を軽減できる。また、本実施形態によれば、光検出素子137からの電圧データを所定間隔毎に取得する機能を簡易な構成で実現できる。したがって、本実施形態によれば、制御部140の構成を簡素化することができ、コストの削減に貢献できる。
【0093】
また、本実施形態では、リボン素子200における可動リボン250を変位させてリボン深さDを変化させることにより、リボン素子200を反射型回折格子として機能させ、光検出素子137によって検出される反射回折光の波長を変化させることができる。
【0094】
このため、本実施形態によれば、光の出射方向を変化させる偏向ミラー等の構成は不要であり、分光部130の構成を簡素化できる。
【0095】
したがって、本実施形態によれば、安価な構成で安定したスペクトルの測定を行うことができる。
【0096】
(第二の実施形態)
以下に図面を参照して、第二の実施形態について説明する。第二の実施形態は、可動リボンの支持部材の厚さと、固定リボンの支持部材の厚さと、を異ならせた点が第一の実施形態と相違する。よって、以下の第二の実施形態の説明では、第一の実施形態との相違点についてのみ説明し、第一の実施形態と同様の機能構成を有するものには、第一の実施形態の説明で用いた符号を付与し、その説明を省略する。
【0097】
図8は、第二の実施形態の可動リボンと固定リボンについて説明する図である。
図8では、第二の実施形態のリボン素子200のX−Z断面の概略を示している。また、
図8は、リボン素子200に対して駆動信号が供給されていない状態を示している。
【0098】
本実施形態では、可動リボン250Aの支持部材251Aの厚さt21と、固定リボン260の支持部材261Aの厚さt41を異ならせ、可動反射面252と固定反射面262の高さを予め異ならせる。言い換えれば、本実施形態では、予め、支持部材251Aの厚さt21と、支持部材261Aの厚さt41の差分となるリボン深さDを設けておくことで、可動反射面252と固定反射面262とが面外方向において異なる位置にあるようにする。
【0099】
具体的には、可動リボン250A、固定リボン260Aにおいて、金属薄膜を成膜する前に、可動反射面252又は固定反射面262と対応する支持部材をRIE(Reactive Ion Etching)等によってエッチングすることで、2つの支持部材の厚さを異ならせることができる。
【0100】
本実施形態では、これにより、リボン素子200に駆動信号を供給した場合において、反射回折光の回折効率がピークとなる波長の変化が顕著に現れる時間帯を拡大できる。言い換えれば、本実施形態によれば、駆動信号を供給した場合において、光量保持期間を第一の実施形態と比較して長い時間とすることができる。これは、式(3)における時間比率ηを拡大することと同じである。
【0101】
したがって、本実施形態では、例えば、光量取得部142を実現するA/Dコンバータを、サンプリング周波数の低いものとすることができ、分光装置100のコストの削減に貢献できる。
【0102】
また、本実施形態によれば、光量保持期間を第一の実施形態と比較して長くできるため、取得する電圧データの数が多くなり、分光装置100の波長分解能を向上させることができる。
【0103】
また、本実施形態では、第一の実施形態のリボン素子200に供給される駆動電圧よりも低い電圧で、第一の実施形態と同等のリボン深さDを発生させることができる。したがって、本実施形態によれば、第一の実施形態よりも低い駆動電圧で、第一の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0104】
(第三の実施形態)
以下に、図面を参照して第三の実施形態について説明する。第三の実施形態は、光量取得部が取得した電圧データを平均化した結果を演算部による演算で用いる点が、第一の実施形態と相違する。よって、以下の第三の実施形態の説明では、第一の実施形態との相違点についてのみ説明し、第一の実施形態と同様の機能構成を有するものには、第一の実施形態の説明で用いた符号を付与し、その説明を省略する。
【0105】
図9は、第三の実施形態の制御部の機能を説明する図である。本実施形態の制御部140Aは、駆動制御部141、光量取得部142、データ保持部143、演算部144、出力部145、平均化部146を有する。
【0106】
本実施形態の平均化部146は、光量取得部142が取得した電圧データの平均値を算出する。尚、
図9の例では、平均化部146は、演算部144とは別の機能として、制御部140Aに設けられたものとしたが、これに限定されない。平均化部146の処理は、演算部144により行われても良い。
【0107】
以下に、平均化部146による平均化の処理について説明する。
図10は、第三の実施形態における電圧データの平均化を説明する図である。
【0108】
本実施形態の平均化部146は、分光装置100の性能に対して必要とされる電圧データのサンプリング周波数fsよりもサンプリング周波数を高くすることができる場合に、取得した電圧データを平均化する。分光装置100の性能に対して必要とされる電圧データのサンプリング周波数fsは、式(3)によって与えられる。
【0109】
サンプリング周波数を、式(3)で与えられるサンプリング周波数fsよりも高くできる場合とは、例えば、光量取得部142を実現するA/Dコンバータの性能によって、サンプリング周波数をサンプリング周波数fsよりも高く設定できる場合等である。
【0110】
図10では、サンプリング周波数fsに基づく電圧データの取得の間隔をKsとし、サンプリング周波数fsよりも高いサンプリング周波数に基づく電圧データの取得の間隔をKs1としている。
【0111】
この場合、間隔Ks1は、間隔Ksより短いため、間隔Ksの間に複数の電圧データが取得される。よって、本実施形態の平均化部146は、これらの複数の電圧データを平均化する。
【0112】
具体的には、例えば、平均化部146は、タイミングT11からタイミングT12までの間隔Ks1において取得された複数の電圧データの平均を求め、その結果をタイミングT12の電圧データとしても良い。また、平均化部146は、例えば、タイミングT12を中心とし、タイミングT12の前後において取得された複数の電圧データの平均を求め、その結果をタイミングT12の電圧データとしても良い。
【0113】
つまり、本実施形態の平均化部146は、サンプリング周波数fsに基づき電圧データを取得するタイミング(時刻)の近傍に取得された電圧データを平均化すれば良い。
【0114】
以下に、
図11を参照して、本実施形態の制御部140Aの動作について説明する。
図11は、第三の実施形態の制御部の動作を説明するフローチャートである。
【0115】
図11のステップS1101からステップS1104までの処理は、
図7のステップS701からステップS704までの処理と同様であるから、説明を省略する。
【0116】
ステップS1104において、光量保持期間が終了すると、制御部140Aは、平均化部146により、データ保持部143に保持された電圧データを平均化する処理を行う。
【0117】
本実施形態の平均化部146は、式(3)で得られるサンプリング周波数fsに基づき電圧データが取得されるタイミングを求める。そして、平均化部146は、求めたタイミングにおける電圧データとして、このタイミングの近傍で取得された電圧データを平均化した値をデータ保持部143に保持させ(ステップS1105)、ステップS1106へ進む。
【0118】
具体的には、平均化部146は、例えば、間隔Ksに基づくタイミングT11、T12、T13等を求める(
図10参照)。そして、平均化部146は、間隔Ks1毎に取得された電圧データの平均値を算出し、タイミングT11、T12、T13のそれぞれについて、算出された平均値をデータ保持部143に保持させる。
【0119】
尚、サンプリング周波数fsは、予め求められて平均化部146に保持されていても良いし、式(3)によって算出されても良い。
【0120】
ステップS1106からステップS1109までの処理は、
図7のステップS705からステップS708までの処理と同様であるから、説明を省略する。
【0121】
本実施形態では、このように、平均化された電圧データを用いることにより、電圧データのばらつきの発生やノイズ成分による影響を抑制し、信頼性の高いスペクトルの測定を行うことができる。
【0122】
(第四の実施形態)
以下に図面を参照して第四の実施形態について説明する。第四の実施形態は、リボン素子200の駆動信号を正弦波信号とした点が、第一の実施形態と相違する。よって、以下の第四の実施形態の説明では、第一の実施形態との相違点についてのみ説明し、第一の実施形態と同様の機能構成を有するものには、第一の実施形態の説明で用いた符号を付与し、その説明を省略する。
【0123】
図12は、第四の実施形態における光量の検出を説明する図である。
図12では、駆動制御部141により、圧電体231、241に正弦波状の駆動信号を供給し、可動リボン250の可動反射面252をZ方向に並進運動をさせた場合の時間に対するリボン深さDの変化を示している。
【0124】
本実施形態の可動反射面252は、駆動制御部141により供給される駆動信号に応じて変化するため、時間に対するリボン深さDの変化を示す波形も、
図12に示すように、正弦波状となる。
【0125】
リボン素子200は、特定の周波数の信号に対して振動が大きくなるような共振モードを有している。
【0126】
本実施形態では、予め、リボン素子200の共振周波数を把握している場合には、駆動信号を正弦波信号とすることで、意図せずにリボン素子200の共振モードを励起することを抑制できる。
【0127】
駆動信号を正弦波形とした場合、駆動信号には、リボン深さDの変位を示す周波数に相当する周波数成分のみが存在する。本実施形態では、リボン深さDの変位を示す周波数を、リボン素子200の共振周波数と異ならせることで、リボン深さDに駆動信号波形を反映させ、時間に対して正弦波状に変化させることができる。
【0128】
これに対し、駆動信号を三角波状の波形又は鋸波の波形とした場合には、高周波帯域まで駆動信号成分が存在することになり、リボン素子200の共振モードを意図せず励起する可能性がある。共振モードが励起された場合、リボン深さDは、リボン素子200の共振周波数近傍の高周波振動が重畳され、時間に対して直線状に変化しない。このため、リボン深さDの変位の制御が難しくなることがある。
【0129】
本実施形態では、駆動信号を正弦波状の信号とすることで、共振モードの励起を抑制することができる。
【0130】
また、駆動信号を正弦波状の信号とすることで、リボン素子200の共振を積極的に活用することもできる。
【0131】
本実施形態では、例えば、リボン素子200の可動反射面252がZ軸方向に並進運動するような共振モードを備え、かつ、そのときの共振周波数が既知である場合には、駆動信号を、リボン素子200の共振周波数の近傍の周波数をもつ正弦波信号とすれば良い。本実施形態では、駆動信号をこのような正弦波信号とすることで、極めて微小な駆動電圧で、リボン深さDにおける所定範囲の変化を得ることができる。
【0132】
(第五の実施形態)
以下に図面を参照して、第五の実施形態について説明する。第五の実施形態は、制御部における演算を、外部装置で実行する点が第一の実施形態と相違する。よって、以下の第五の実施形態の説明では、第一の実施形態との相違点についてのみ説明し、第一の実施形態と同様の機能構成を有するものには、第一の実施形態の説明で用いた符号を付与し、その説明を省略する。
【0133】
図13は、第五の実施形態の分光システムの一例を示す図である。本実施形態の分光システム300は、分光装置100Aと、サーバ400と、を有する。本実施形態の分光システム300では、分光装置100Aが取得した電圧データがサーバ400へ送信され、サーバ400において、各種の演算が行われる。
【0134】
本実施形態の分光装置100Aは、光源120、分光部130、制御部140Bを有する。
【0135】
本実施形態の制御部140Bは、駆動制御部141、光量取得部142、データ保持部143、通信部147を有する。通信部147は、データ保持部143に保持された電圧データをサーバ400へ送信する。
【0136】
本実施形態の通信部147は、例えば、光量保持期間が終了すると、データ保持部143に保持された電圧データ群をサーバ400へ送信しても良い。また、本実施形態の通信部147は、リボン素子200に対する入射光が検出されなくなったとき、データ保持部143に保持された電圧データ群をサーバ400へ送信しても良い。
【0137】
本実施形態のサーバ400は、演算処理装置とメモリ装置を有する一般的なコンピュータである。
【0138】
サーバ400は、演算部144と出力部145を有する。演算部144は、分光装置100Aから電圧データ群を受信すると、式(2)に基づき、波長成分λ1〜λnの光強度を算出し、波長領域をn分割したときのスペクトル特性を得る。
【0139】
出力部145は、演算部144により得られた結果を、サーバ400の有するディスプレイ等に出力しても良い。また、出力部145は、演算部144により得られた結果を、サーバ400と接続される端末装置等に出力させても良い。
【0140】
以上のように、本実施形態では、演算部144をサーバ400側に設けたため、分光装置100A側の制御部140Bの処理の負荷を低減させることができ、分光装置100Aの安価な構成で安定性の高いスペクトルの測定を行うことができる。
【0141】
(第六の実施形態)
以下に図面を参照して、第六の実施形態について説明する。第六の実施形態は、分光装置を可搬型とした点が第一の実施形態と相違する。よって、以下の第六の実施形態の説明では、第一の実施形態との相違点についてのみ説明し、第一の実施形態と同様の機能構成を有するものには、第一の実施形態の説明で用いた符号を付与し、その説明を省略する。
【0142】
図14は、第六の実施形態の分光装置を説明する図である。本実施形態の分光装置100Bは、スペクトル測定器110、光源120、上位制御部150、バッテリ160を有する。
【0143】
上位制御部150は、分光装置100Bに対する操作を受け付けて、スペクトル測定器110と光源120の動作を制御する。また、上位制御部150は、スペクトル測定器110から出力されたスペクトル特性を、分光装置100Bのユーザ等に対して出力する制御を行う。
【0144】
バッテリ160は、スペクトル測定器110、光源120、上位制御部150等の動力源である。
【0145】
本実施形態の分光装置100Bでは、光源120から出射された出射光121は被測定物1に照射され、被測定物1内における分子に衝突しながら拡散反射する。この拡散反射された光122はスペクトル測定器110に入射し、スペクトル測定器110に設けられた光検出素子137により検出される。これにより、本実施形態の分光装置100Bでは、被測定物1の分子構造に特徴的な波長スペクトルを得ることができる。
【0146】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【0147】
尚、本実施形態のリボン素子200は、特許請求の範囲に記載のリボン素子の一例であり、可動リボン250は第一の光反射部の一例であり、可動反射面252は第一の光反射面の一例であり、固定リボン260は第二の光反射部の一例であり、固定反射面262は第二の光反射面の一例である。
【0148】
また、本実施形態の駆動制御部141は、特許請求の範囲に記載の駆動制御部の一例であり、光検出素子137は光検出素子の一例であり、光量取得部142は光量取得部の一例であり、圧電体231、241は圧電体の一例である。