(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805923
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】光変調器
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20201214BHJP
G01R 31/28 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
G02F1/01 F
G01R31/28 U
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-59287(P2017-59287)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-163215(P2018-163215A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2019年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】片岡 利夫
(72)【発明者】
【氏名】原 徳隆
【審査官】
奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−200652(JP,A)
【文献】
特開平02−238377(JP,A)
【文献】
特開平04−277688(JP,A)
【文献】
特開2015−172683(JP,A)
【文献】
特開2014−199302(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0095737(US,A1)
【文献】
坂巻亮、堀部雅弘,平面回路評価の高精度化を実現するプローブの制御技術,電子情報通信学会論文誌C,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2019年 6月 1日,Vol.J102-C No.6,p.212-p.217
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00− 1/125
G02F 1/21− 7/00
G01R 31/28−31/30
JDreamIII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、該筐体内に配置された光変調素子と、該筐体外に配置された基板とを備えた光変調器において、
該基板には、該光変調素子が有する電極に接続された電気伝送線路の少なくとも一部が形成され、
該基板に形成された該電気伝送線路の表面の一部に、該電気伝送線路を貫通しない凹部が形成され、
該基板に形成された該電気伝送線路は、マイクロストリップ線路とコプレーナ線路とを接続して構成され、
該コプレーナ線路は、外部回路と電気的に接続するための端子として用いられ、
該凹部は、該コプレーナ線路に形成され、且つ、該マイクロストリップ線路と該コプレーナ線路との境界から100μm以下の位置に配置されたことを特徴とする光変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の光変調器において、
該基板は、フレキシブル基板であることを特徴とする光変調器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光変調器において、
該凹部には、電気測定用のプローブがコンタクトされることを特徴とする光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器に関し、特に、フレキシブル基板を電気インターフェース部に持つ光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野において、光変調器を用いた送受信機が利用されている。近年、光伝送システムの小型化要求により、光送受信機モジュール(トランスポンダ)に内蔵される光変調器の電気インターフェース部であるRFインターフェース接続についても、短尺化する傾向になっている。
【0003】
電気インターフェース部の具体例としては、リードピンや、フレキシブル基板(FPC;Flexible Printed Circuits)などが、面実装用のインターフェース部として用いられている。これらのインターフェース部は、プッシュオンタイプの同軸コネクタ等の同軸ケーブルに比べ安価であり、トランスポンダ内基板の電気回路へ直接接続できる利点がある。
【0004】
図1は、光送受信機モジュールを構成する回路基板2上に光変調器1を配置した様子を示している。
図1では、短尺化を実現する手段として、フレキシブル基板3が用いられている。
図2は、
図1の一点鎖線A−A’における断面を示す図である。光変調器1は、光変調素子4を金属製の筐体10内に収容し、蓋11で閉じて気密封止されている。光変調素子4に形成された電極(信号電極及び接地電極)41は、筐体10の貫通孔に配置されたリードピン5と、フレキシブル基板3に形成された電気伝送線路(信号電極及び接地電極)31とを介して、回路基板2の電気回路と電気的に接続される。
図2では、フレキシブル基板3上の電気伝送線路31とリードピン5とは、半田等で直接接続されている。また、リードピン5と光変調素子4上の電極41とは、金線等でワイヤーボンディング(6)されている。
【0005】
フレキシブル基板は表面実装構造であるため、RF特性測定を行う場合は、フレキシブル基板に高周波信号を供給するための高周波プローブを、フレキシブル基板上の電気伝送線路を構成する信号電極及び接地電極へ安定的にコンタクトさせる必要がある。また、高周波プローブのコンタクト時には、プローブを故障させないために、フレキシブル基板の電気伝送線路の位置とドライブ量(プローブを電極にコンタクトさせてからのプローブの加圧量)を厳密に調整する必要がある。
【0006】
一方、フレキシブル基板上の電気伝送線路は、マイクロストリップ線路(Microstrip Line)とコプレーナ線路(Coplanar Waveguide)とを混在させた伝送路構造が多く用いられている。
図3A〜
図3Cには、従来例に係る光変調器において、フレキシブル基板3上に形成された電気伝送線路31の一部を示してある。
図3Aは、マイクロストリップ線路(MSL)とコプレーナ線路(CPW)とを接続して構成された電気伝送線路を示す平面図である。
図3Bは、
図3Aの電気伝送線路におけるCPW部に高周波プローブ7をコンタクトさせた様子を示す平面図である。
図3Cは、
図3Bの一点鎖線B−B’における断面を示す図である。
【0007】
CPW部は、外部回路(例えば、トランスポンダ内基板等の回路基板2上の電気回路)と電気的に接続するための端子として用いられる。外部回路と半田接続されるCPW部は、半田の実装性を考慮し、信号電極S2と接地電極G2との間をあえて離間させており、その特性インピーダンスは例えば70Ω以上となる。なお、フレキシブル基板のCPW線路における特性インピーダンスを例えば50Ωとした場合の線路条件では、信号電極と接地電極との間隔が狭くなり、外部回路との半田接続時に電極間ショートが発生する恐れがある。
【0008】
フレキシブル基板上のCPW部に高周波プローブをコンタクトさせる場合、そのコンタクト位置での反射成分とフレキシブル基板上の電極端面での反射成分とが測定値に影響する。また、高周波プローブ及びCPW部の特性インピーダンスがそれぞれ50Ω、70Ωと異なっている場合、特性インピーダンスのミスマッチが重畳され、測定精度を欠くなどの課題がある。
図4は、高周波プローブのコンタクト位置による電気反射特性を示す図である。
図4では、CPW部における高周波プローブのコンタクト位置をMSL部とCPW部の境界から100μmの位置、200μmの位置、及び300μmの位置として、それぞれ測定した電気反射特性を示してある。同図より、高周波プローブのコンタクト位置によって電気反射特性の測定結果が異なることが理解できる。
【0009】
フレキシブル基板上のCPW部に対するコンタクト位置は、高周波プローブをCPW部にコンタクトさせてからのプローブの加圧量であるドライブ量によって変化する。しかも、フレキシブル基板は一般に柔軟性があるため、高周波プローブの押し込みによるフレキシブル基板の変形に伴って、コンタクト位置がずれる懸念もある。このため、正確な位置で測定を行うことは難しく、電気反射特性の測定は再現性を欠くものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016−200652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、フレキシブル基板を電気インタフェース部に持つ光変調器の測定や検査工程において、高周波プローブを安定的にコンタクトさせることが可能な光変調器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の光変調器は、以下のような技術的特徴を備える。
(1) 筐体と、該筐体内に配置された光変調素子と、該筐体外に配置された基板とを備えた光変調器において、該基板には、該光変調素子が有する電極に接続された電気伝送線路の少なくとも一部が形成され、該基板に形成された該電気伝送線路の表面の一部に、該電気伝送線路を貫通しない凹部が形成され
、該基板に形成された該電気伝送線路は、マイクロストリップ線路とコプレーナ線路とを接続して構成され、該コプレーナ線路は、外部回路と電気的に接続するための端子として用いられ、該凹部は、該コプレーナ線路に形成され、且つ、該マイクロストリップ線路と該コプレーナ線路との境界から100μm以下の位置に配置されたことを特徴とする。
【0015】
(2) 上記
(1)に記載の光変調器において、該基板は、フレキシブル基板であることを特徴とする。
【0016】
(3) 上記
(1)又は(2)に記載の光変調器において、該凹部には、電気測定用のプローブがコンタクトされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フレキシブル基板を電気インタフェース部に持つ光変調器の測定及び検査において、高周波プローブを安定的にコンタクトさせることが可能な光変調器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】外部回路基板上に光変調器を配置した様子を示す図である。
【
図2】
図1の一点鎖線A−A’における断面を示す図である。
【
図3A】従来例に係るフレキシブル基板に形成された電気伝送線路の一部を示す平面図である。
【
図3B】
図3Aの電気伝送線路におけるCPW部に高周波プローブをコンタクトさせた様子を示す平面図である。
【
図3C】
図3Bの一点鎖線B−B’における断面を示す図である。
【
図4】高周波プローブのコンタクト位置による電気反射特性を示す図である。
【
図5A】本発明の一実施形態に係るフレキシブル基板に形成された電気伝送線路の一部を示す平面図である。
【
図5B】
図5Aの電気伝送線路におけるCPW部に高周波プローブをコンタクトさせた様子を示す平面図である。
【
図5C】
図5Bの一点鎖線C−C’における断面を示す図である。
【
図6A】複数の接触端子を互いに平行に有する高周波プローブを用いる場合を想定した凹部の形状を示す図である。
【
図6B】複数の接触端子を放射状に有する高周波プローブを用いる場合を想定した凹部の形状を示す図である。
【
図7A】形状が三角形を成す凹部の例を示す図である。
【
図7B】形状が台形を成す凹部の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る光変調器について詳細に説明する。
図5A〜
図5Cには、本発明の一実施形態に係る光変調器において、フレキシブル基板3上に形成された電気伝送線路31の一部を示してある。
図5Aは、マイクロストリップ線路(MSL)とコプレーナ線路(CPW)とを接続して構成された電気伝送線路を示す平面図である。
図5Bは、
図5Aの電気伝送線路におけるCPW部に高周波プローブ7をコンタクトさせた様子を示す平面図である。
図5Cは、
図5Bの一点鎖線C−C’における断面を示す図である。
【0020】
本発明に係る光変調器1は、筐体10と、筐体10内に配置された光変調素子4と、筐体10外に配置されたフレキシブル基板3とを備え、フレキシブル基板3には、光変調素子4が有する電極41に接続された電気伝送線路31の少なくとも一部が形成される。そして、フレキシブル基板3に形成された電気伝送線路31の表面の一部に、電気伝送線路31を貫通しない凹部R2が形成されたことを特徴とする。
【0021】
フレキシブル基板3に形成された電気伝送線路31は、MSL部とCPW部とを有する。MSL部には、基板下面に信号電極S1が形成されると共に、基板上面に接地電極G1が形成されている。CPW部には、基板下面に信号電極S2が形成され、これを挟み込むように2つの接地電極G2が形成されると共に、基板上面にも同様の信号電極S2及び接地電極G2が形成されている。基板上面の信号電極S2及び接地電極G2と基板下面の信号電極S2及び接地電極G2とは、基板を貫通するビアホールH2と基板端面に形成されたキャスタレーションC2とで電気的に接続される。ビアホールH2及びキャスタレーションC2は、その表面に導体をメッキして導体層を形成してある。
【0022】
MSL部は、光変調器1内部の光変調素子4が有する電極(信号電極及び接地電極)41に対し、リードピン5等を介して電気的に接続される。CPW部は、外部回路(例えば、トランスポンダ内基板等の回路基板2上の回路)と電気的に接続するための端子として用いられる。
CPW部には、高周波プローブ7のコンタクト先となる凹部R2が形成されている。凹部R2は、種々の方法により形成することができる。例えば、ポンチ具の押圧や、レーザトリミング、機械的な削り込み、エッチングなどにより形成することができる。
【0023】
高周波プローブ7を用いて光変調器1の電気測定を行う際は、高周波プローブ7が有する接触端子71の先端部分を凹部R2に潜り込ませることで、コンタクト位置が一意に決まる。このため、高周波プローブ7のコンタクト位置が安定し、フレキシブル基板3のインピーダンスのミスマッチを最小限に抑えることが可能となる。また、フレキシブル基板3に対する高周波プローブ7のコンタクト位置が精度よく決まるので、測定の再現性が向上する。
【0024】
ここで、フレキシブル基板3のCPW部に設けた凹部R2は、外部回路との半田付け時において過剰な半田が塗布された場合に半田溜まりとしても機能する。このため、CPW部の信号電極S2と接地電極G2の間における電極間のショートを低減させることができる。
また、凹部R2を形成することで、CPW部の熱容量が減少する。このため、半田を効率的に加熱することができ、半田付けの時間を短縮することができる。
また、フレキシブル基板3のCPW部に設けた凹部R2は、フレキシブル基板3を実装する際の目印としても使用することができる。このため、フレキシブル基板3を正確な位置に実装する作業が容易となる。
【0025】
なお、電気測定の精度を向上させるには、凹部R2を、CPW部のMSL部側に限りなく近い位置に設けることが好ましい。それは、特性インピーダンスが50Ωである高周波プローブ7を特性インピーダンスが70ΩであるCPW部ではなく特性インピーダンスが50ΩのMSL部側に近付けた方がインピーダンスのミスマッチが少なく、測定結果への影響が少ないからである。より具体的には、凹部R2を、MSL部とCPW部との境界からの距離dが100μm以下の位置に設けることが好ましい。ただし、高周波プローブ7がMSL部の表面に形成されるカバーレイ(保護膜)に引っ掛からない程度の間隔を設ける必要がある。
本例では、CPW部における基板下面の信号電極S2及び接地電極G2に凹部R2を設けたが、上面側に凹部R2を設けてもよく、両面に凹部R2を設けてもよい。また、CPW部をグランド付きコプレーナ線路とするなど、他の種別の電気伝送線路を用いた構成としてもよい。
【0026】
凹部R2は、高周波プローブ7をコンタクトさせて加圧する際に接触端子71の先端部分が移動する方向又はそれに直交する方向の少なくともいずれかが接触端子71の先端部分の外径より大きいことが好ましい。また、接触端子71の先端部分が移動する方向に関係なく、凹部R2の任意の一部の方向の外径が接触端子71の先端部分の外径より大きくてもよい。また、凹部R2は、接触端子71の先端部分の全てが収まる外径でもよい。
【0027】
図6Aは、互いに平行な複数の接触端子71を有する高周波プローブ7を用いる場合を想定した凹部R2の形状を示す図である。
図6Bは、放射状に配置された複数の接触端子71を高周波プローブ7を用いる場合を想定した凹部R2の形状を示す図である。接触端子71の先端径φは約150μmであるため、一例として、凹部R2に約300μmの幅を設けることが考えられる。
【0028】
図6A、
図6Bのいずれにおいても、凹部R2は、接触端子71の先端部分が移動する方向に沿って、或る程度の幅を持たせた形状となっている。これにより、接触端子71の先端部分は、凹部R2にコンタクトさせた後に加圧することで移動するが、少し移動するだけで凹部R2の端面に当接して移動が規制される。したがって、高周波プローブ7をコンタクトさせる位置が若干ずれても、適切な位置に補正されることになる。
【0029】
なお、本例においては凹部R2を矩形形状とした例で説明したが、凹部R2の形状はこれに限定されることはなく、円形、楕円形、正方形、長方形、台形など様々な形状とすることができる。特に、凹部R2の形状を、
図7Aや
図7Bに示すように、高周波プローブ7をコンタクトさせて加圧する際に接触端子71の先端部分が移動する方向に沿って幅が狭まる形状である三角形や台形とした場合、高周波プローブをより安定的にコンタクトすることができる。
【0030】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した内容に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、フレキシブル基板を電気インタフェース部に持つ光変調器の検査において、高周波プローブを安定的にコンタクトさせることが可能な光変調器を提供することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 光変調器
2 回路基板
3 フレキシブル基板
4 光変調素子
5 リードピン
6 ワイヤボンディング
7 高周波プローブ
10 筐体
11 蓋
31 電気伝送線路
41 電極
71 接触端子
S1,S2 信号電極
G1,G2 接地電極
H2 ビアホール
C2 キャスタレーション
R2 凹部
MSL マイクロストリップ線路
CPW コプレーナ線路