(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を、図面に基づいて、説明する。
【0011】
〈本実施形態の表示装置の構成〉
図1は、本実施形態の表示装置100を示す断面図である。
表示装置100としては、例えば、スマートフォン、タブレット端末などの表示装置;カーナビゲーション装置、リアシートの乗員が映像等を視聴するためのRSE(リアシートエンターテインメント)装置などの車載表示装置;冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなどの家電製品の開閉扉に取り付けられる表示装置;等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
表示装置100は、表示パネル104およびカバー部材11を有し、表示パネル104とカバー部材11とが粘着層14を介して貼合されている。
表示装置100は、各部を収納する筐体106を有し、筐体106には開口部が形成されている。筐体106の中には、前記表示パネル104とバックライトユニット102が載置されている。
図1に示すように、筐体106の底板である筐体底板107上にバックライトユニット102が載置され、バックライトユニット102上に表示パネル104が載置されている。本実施形態においては、表示パネル104は液晶パネルである。筐体106の内部であって、表示パネル104の外側には、表示パネル104に接続する配線141が配置されている。
【0013】
バックライトユニット102および表示パネル104の構成は、特に限定されず、公知の構成を採用できる。筐体106(筐体底板107を含む)の材質等についても、同様に、特に限定されない。
【0014】
表示装置100としては、表示パネル104として液晶パネルを有する表示装置に限定されず、例えば、有機ELパネル、PDP、電子インク型パネル等を有する表示装置であってもよい。表示装置100は、表示パネル104の種類によっては、バックライトユニット102を有さない場合もある。表示装置100は、タッチパネル等を有していてもよい。タッチパネルとしては、静電容量式のタッチパネルや、抵抗膜方式のタッチパネル等が挙げられる。
【0015】
表示装置100の一部を構成するカバー部材11は、透明基体12を有する。透明基体12は、粘着層14によって、表示パネル104に貼合される。こうして、透明基体12は、表示パネル104を覆うカバー部材として機能する。
本実施形態では、透明基体12の端部は、接着層131によって、筐体106に接着されている。
【0016】
図2は、カバー部材11、粘着層14および表示パネル104を拡大して示す断面図である。
カバー部材11を構成する透明基体12は、主面を有する。すなわち、透明基体12は、被カバー部材としての表示パネル104と対向する第1主面12a、および、第1主面12aとは反対側の、表示パネル104と対向しない第2主面12bを有する。本実施形態では、被カバー部材として表示パネル104を挙げて説明するが、被カバー部材は表示パネルに限定されない。
【0017】
透明基体12においては、後述するように、第1主面12aにF原子を含む化合物が付着しており、かつ、第1主面12aの接触角が50°以下である。
【0018】
本実施形態では、透明基体12における第1主面12aの縁に、第2主面12b側から配線141(
図1参照)を視認できないように隠蔽する額縁部132が枠状に形成されている。
額縁部132が形成された透明基体12の第1主面12aは、粘着層14によって、表示パネル104の表示面104aに貼合される。
【0019】
粘着層14は、透明基体12と同じく透明であって、透明基体12と粘着層14との屈折率差は小さいことが好ましい。
粘着層14としては、例えば、液状の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる透明樹脂からなる層が挙げられるほか、光学粘着フィルムまたは光学粘着テープであってもよい。
粘着層14の厚さは、例えば5〜1000μmであり、50〜500μmが好ましい。
【0020】
〈従来のカバー部材〉
図3は、従来のカバー部材511を粘着層14によって表示パネル104に貼合した状態を拡大して示す断面図である。
図1および
図2に基づいて説明した本実施形態と同じ部分には同じ符号を用い、説明を省略する。
従来のカバー部材511を構成する透明基体512は、粘着層14を用いて、表示パネル104の表示面104aに貼合される。
【0021】
このとき、
図3に示すように、透明基体512と粘着層14との間に空気等のガスが入り込み、気泡551が発生することがある。とりわけ、透明基体512の表示パネル104側の第1主面512aに額縁部132が印刷されている場合には、額縁部132によって形成される段差部分561に気泡551が生じやすい。
気泡551は、透明基体512越しに表示パネル104を見た際に、表示面104aに表示される画像(表示画像)の視認性を劣化させる。
このため、気泡551が多く発生した場合には、オートクレーブを用いて気泡551を消失させる作業が必要になる等、非常に煩雑である
【0022】
〈本実施形態のカバー部材の構成〉
図4は、本実施形態のカバー部材11を示す断面図である。
カバー部材11は、第1主面12aおよび第2主面12bを有する透明基体12を有する。カバー部材11は、必要に応じて、透明基体12の第1主面12aに額縁部132を有し、第1主面12aまたは第2主面12bに図示しない機能層を有する。
以下に、カバー部材11を構成する各部について、より詳細に説明する。
【0023】
《透明基体》
透明基体12は、第1主面12aにF原子を含む化合物が付着しており、かつ、第1主面12aの接触角が50°以下である。
これにより、透明基体12の第1主面12aを、粘着層14を用いて、表示パネル104の表示面104aに貼合した際に、透明基体12と粘着層14との間に気泡が発生することを抑制できる。
【0024】
上記効果が得られる理由は、明らかではないが、次のように推測される。
透明基体12の第1主面12aの接触角を50°以下にすることにより、第1主面12aと粘着層14とが濡れやすくなり、密着性を高めることができる。
更に、透明基体12(例えば、Siを含むガラス板)の第1主面12a上に、F原子を含む化合物が付着している。これにより、第1主面12aに微小な撥水部が形成される。そして、撥水部どうしが形成するパスを通じて、透明基体12と粘着層14との間から、気泡となるガスが抜け出る。このため、気泡の発生が抑制されると推測される。
【0025】
気泡の発生がより抑制されるという理由から、透明基体12の第1主面12aの接触角は、25〜45°が好ましく、28〜40°がより好ましく、30〜38°が更に好ましい。
【0026】
透明基体12の第1主面12aの接触角は、次のように求める。
まず、透明基体12の第1主面12a(額縁部132が枠状に印刷されている場合は、額縁部132が印刷されていない領域)を4×4等分する。等分する際に引いた線(3本+3本)どうしの交点(合計9点)における水の接触角を測定する。具体的には、測定温度23℃にて、純水5μLを滴下してから5秒後の接触角を、接触角計(共和界面化学社製、PCA−11)を用いて測定する。測定した合計9点の接触角の平均値を、透明基体12の第1主面12aの接触角とする。
【0027】
透明基体12(例えば、Siを含むガラス板)の第1主面12aにおけるSi原子の数に対するF原子の数の比(F/Si)(以下、「原子比(F/Si)」ともいう)は、気泡の発生がより抑制されるという理由から、0.005〜0.13が好ましく、0.015〜0.1がより好ましく、0.02〜0.08が更に好ましい。
【0028】
透明基体12の第1主面12aの原子比(F/Si)が0超であれば、透明基体12(例えば、Siを含むガラス板)の第1主面12a上に、F原子を含む化合物が付着しているとみなすことができる。
【0029】
透明基体12の第1主面12aの原子比(F/Si)は、次のように求める。
まず、透明基体12の第1主面12a(額縁部132が枠状に印刷されている場合は、額縁部132が印刷されていない領域)について、X線光電子分光装置(日本電子社製、JPS−9000MC)を用いて、F原子濃度(単位:原子%)およびSi原子濃度(単位:原子%)を求める。求めたF原子濃度とSi原子濃度との比を、透明基体12の第1主面12aの原子比(F/Si)とする。
より詳細には、X線の線源はMgKα線、加速電圧12kV、25mAの条件で測定する。スポット径は6mmφで測定する。試料の傾斜はなし。パスエネルギーは50eV、測定ステップは0.5eV、Dwell Timeは100msec、スキャン数は30回で測定する。測定の結果、得られた結合エネルギーピークについて、シャーリー法によりバックグラウンドを除去した後、F1sピーク強度と、Si2p3/2のピーク強度とから、F/Siの原子濃度比を算出する。
【0030】
透明基体12は、透明な材料からなるものであれば、特に限定されず、例えば、ガラス、または、ガラスと樹脂との組み合わせ(複合材料、積層材料等)からなるもの等が好ましく使用される。透明基体12の形状についても特に限定されず、例えば、剛性を有する板状が挙げられる。
【0031】
透明基体12として用いられるガラス板としては、二酸化ケイ素を主成分とする一般的なガラス、例えば、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラスからなるガラス板が挙げられる。
【0032】
透明基体12としてガラス板を用いる場合、ガラスの組成は、成形や化学強化処理による強化が可能な組成が好ましく、ナトリウムを含んでいることが好ましい。
【0033】
ガラスの組成は特に限定されず、種々の組成を有するガラスを利用できる。例えば、酸化物基準のモル%表記で、以下の組成を有するアルミノシリケートガラスが挙げられる。
(i)SiO
2を50〜80%、Al
2O
3を2〜25%、Li
2Oを0〜10%、Na
2Oを0〜18%、K
2Oを0〜10%、MgOを0〜15%、CaOを0〜5%およびZrO
2を0〜5%含むガラス
(ii)SiO
2を50〜74%、Al
2O
3を1〜10%、Na
2Oを6〜14%、K
2Oを3〜11%、MgOを2〜15%、CaOを0〜6%およびZrO
2を0〜5%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が75%以下、Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計が12〜25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7〜15%であるガラス
(iii)SiO
2を68〜80%、Al
2O
3を4〜10%、Na
2Oを5〜15%、K
2Oを0〜1%、MgOを4〜15%およびZrO
2を0〜1%含有するガラス
(iv)SiO
2を67〜75%、Al
2O
3を0〜4%、Na
2Oを7〜15%、K
2Oを1〜9%、MgOを6〜14%およびZrO
2を0〜1.5%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が71〜75%、Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計が12〜20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス
【0034】
透明基体12として、ガラス板が好ましい。
ガラス板の製造方法は特に限定されない。所望のガラス原料を溶融炉に投入し、1500〜1600℃で加熱溶融し清澄した後、成形装置に供給して溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造できる。
ガラス板の成形方法は特に限定されず、例えば、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等を利用可能である。
【0035】
透明基体12としてガラス板を用いる場合には、強度を高めるために、ガラス板に化学強化処理または物理強化処理を施すことが好ましい。
【0036】
化学強化処理方法は特に限定されず、ガラス板の主面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層を形成する。具体的には、ガラス転移点以下の温度で、ガラス板の主面近傍のガラスに含まれるイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径がより大きなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。これにより、ガラス板の主面に圧縮応力が残留し、ガラス板の強度が向上する。
【0037】
透明基体12としてのガラス板は、以下に示す条件を満たすことが好ましい。上述した化学強化処理をすることによって、このような条件を満足させることができる。
ガラス板の表面圧縮応力(以下、「CS」という)は、400MPa以上1200MPa以下が好ましく、700MPa以上900MPa以下がより好ましい。CSが400Pa以上であれば、実用上の強度として十分である。一方、CSが1200MPa以下であれば、自身の圧縮応力に耐えることができ、自然に破壊してしまう懸念がない。
ガラス板の応力層の深さ(以下、「DOL」という)は、15〜50μmが好ましく、20〜40μmがより好ましい。DOLが15μm以上であれば、ガラスカッター等の鋭利な冶具を使用しても、容易にキズがついて破壊される懸念がない。一方、DOLが40μm以下であれば、自身の圧縮応力に耐えることができ、自然に破壊してしまう懸念がない。
【0038】
透明基体12の厚さは、用途に応じて適宜選択できる。例えば、ガラス板の場合には、厚さは0.1〜5mmが好ましく、0.2〜2mmがより好ましい。
透明基体12としてガラス板を用い、上記化学強化処理をする場合は、これをより有効にするため、ガラス板の厚さは通常5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。
透明基体12の寸法は、用途に応じて適宜選択できる。
【0039】
《額縁部》
額縁部132は、着色インクを透明基体12に印刷して形成される。額縁部132は、透明基体12の第1主面12aの周縁部に形成されることが好ましい。
印刷法としては、例えば、バーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ロールコート法、スクリーン法等があるが、簡便に印刷できる、種々の透明基体額縁部に印刷できる、透明基体額縁部のサイズに合わせて印刷可能である等の理由から、スクリーン印刷法が好ましい。
【0040】
着色インクとしては、特に限定されず、例えば、セラミックス焼成体などを含む無機系インク;染料または顔料などの色料と有機樹脂とを含む有機系インク;等が使用できる。額縁部132の形成に使用される着色インクは、黒色または白色であることが多いが、その色は特に限定されない。
【0041】
無機系インクに含有されるセラミックスとしては、例えば、酸化クロム、酸化鉄などの酸化物;炭化クロム、炭化タングステンなどの炭化物;カーボンブラック;雲母;等がある。
【0042】
有機系インクは、染料または顔料と有機樹脂とを含む組成物である。染料または顔料は、特に限定なく使用できる。
有機樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリカーボネート、透明ABS樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニル、ポリビニルブチラール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミドなどのホモポリマー;これらの樹脂のモノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマー;等が挙げられる。
【0043】
無機系インクと有機系インクとでは、焼成温度が低いことから、有機系インクの使用が好ましく、耐薬品性の観点から、顔料を含む有機系インクがより好ましい。
【0044】
《機能層》
カバー部材11は、透明基体12の第1主面12aまたは第2主面12bに、図示しない機能層を有することが好ましく、特に、透明基体12の第2主面12bに機能層を有することがより好ましい。
機能層は、透明基体12に備わらない特性を発現させる層である。機能層としては、例えば、防眩層、反射防止層、防汚層などが挙げられる。
【0045】
(防眩層)
カバー部材11は、透明基体12の第1主面12aまたは第2主面12bに、防眩層を有することが好ましい。防眩層を設けることにより、周囲の光の映り込みを低減できて、表示画像の視認性が低下することを防止できる。特に、透明基体12の第2主面12bに防眩層を設けることがより好ましい。
【0046】
防眩層は、透明基体12の第1主面12aまたは第2主面12bに凹凸形状を設ける処理、いわゆる防眩処理をすることにより形成できる。
防眩処理としては、公知の方法を適用可能であり、例えば、透明基体12としてガラス板を用いる場合、ガラス板の主面に化学的または物理的に表面処理を施し、所望の表面粗さの凹凸形状を形成する方法や、ウェットコート等を利用できる。
【0047】
化学的に防眩処理をする方法として、具体的には、フロスト処理を施す方法が挙げられる。フロスト処理は、例えば、フッ化水素とフッ化アンモニウムの混合溶液に、被処理体であるガラス板を浸漬することで実施可能である。
【0048】
物理的に防眩処理をする方法としては、例えば、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を加圧空気でガラス板の主面に吹きつける、いわゆるサンドブラスト処理や、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を付着させたブラシを水で湿らせたものを用いて擦る方法等を利用できる。
【0049】
これらのうち、フロスト処理は、被処理体表面におけるマイクロクラックが生じ難く、機械的強度の低下が生じにくいため、ガラス板に防眩処理をする方法として好ましい。
【0050】
このようにして化学的または物理的に防眩処理を施したガラス板の主面は、表面形状を整えるため、エッチング処理をすることが好ましい。エッチング処理としては、例えば、ガラス板を、フッ化水素の水溶液であるエッチング溶液に浸漬して、化学的にエッチングする方法を利用できる。エッチング溶液は、フッ化水素以外にも、塩酸、硝酸、クエン酸等の酸を含有してもよい。これらの酸を含有することで、ガラス板に含有されるNaイオン、Kイオン等の陽イオンとフッ化水素との反応による、析出物の局所的な発生を抑制できるうえに、エッチングを処理面内で均一に進行させることができる。
【0051】
エッチング処理する場合、エッチング溶液の濃度や、エッチング溶液へのガラス板の浸漬時間等を調節することで、エッチング量を調節し、これによりガラス板の防眩処理面のヘイズ値を所望の値に調整できる。防眩処理として、サンドブラスト等の物理的表面処理をした場合、クラックが生じることがあるが、エッチング処理によってこのようなクラックを除去できる。エッチング処理により、ギラツキを抑えるという効果も得ることができる。
【0052】
防眩処理およびエッチング処理後のガラス板の主面は、表面粗さ(二乗平均粗さ、RMS)が0.01〜0.5μmであることが好ましい。表面粗さ(RMS)は、0.01〜0.3μmがより好ましく、0.01〜0.2μmが更に好ましい。表面粗さ(RMS)を上記範囲とすることで、防眩処理後のガラス板のヘイズ値を1〜30%に調整することができる。ヘイズ値は、JIS K 7136で規定される値である。
【0053】
表面粗さ(RMS)は、JIS B 0601:(2001)で規定される方法に準拠して測定可能である。具体的には、レーザー顕微鏡(商品名:VK−9700、キーエンス社製)により、試料である防眩処理後のガラス板の測定面に対して、300μm×200μmの視野範囲を設定し、ガラス板の高さ情報を測定する。測定値に対して、カットオフ補正し、得られた高さの二乗平均を求めることで表面粗さ(RMS)を算出することができる。カットオフ値としては、0.08mmを使用することが好ましい。
【0054】
防眩処理およびエッチング処理が施された後のガラス板の表面は、凹凸形状を有しており、それをガラス板表面の上方から観察すると、円形状の孔にみえる。このように観察される円形状の孔の大きさ(直径)は、1μm以上10μm以下が好ましい。この範囲にあることで、ギラツキの防止と防眩性とを両立できる。
【0055】
(反射防止層)
透明基体12の主面に機能層として反射防止層を設けると、外光の映り込みを低減できて、表示画像の視認性が低下することを防止できる。透明基体12の主面に防眩層が設けられている場合、防眩層の上に反射防止層を設けることが好ましい。
【0056】
反射防止層の構成としては、光の反射を所定範囲に抑制できる構成であれば特に限定されず、例えば、高屈折率層と低屈折率層とを積層した構成とすることができる。ここで、高屈折率層は、例えば、波長550nmの光の屈折率が1.9以上の層をいい、低屈折率層は、波長550nmの光の屈折率が1.6以下の層をいう。
【0057】
反射防止層における高屈折率層と低屈折率層との層数は、それぞれを1層ずつ含む態様であってもよく、それぞれを2層以上含む構成であってもよい。高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ1層含む構成の場合は、透明基体12の主面に高屈折率層、低屈折率層の順に積層したものが好ましい。高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ2層以上含む構成の場合は、高屈折率層、低屈折率層の順に交互に積層した態様が好ましい。
【0058】
反射防止性能を高めるため、反射防止層は、複数の層が積層された積層体であることが好ましい。この積層体は、例えば、全体で2層以上8層以下の層が積層されたものが好ましく、2層以上6層以下の層が積層されたものがより好ましく、2層以上4層以下の層が積層されたものが更に好ましい。ここでの積層体は、上記のように、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層したものが好ましい。高屈折率層と低屈折率層との層数の合計は、上記範囲内であることが好ましい。光学特性を損なわない範囲で層を追加してもよい。例えば、ガラス基体からのNa拡散を防ぐために、ガラスと第1層との間にSiO
2層を挿入してもよい。
【0059】
高屈折率層の層厚および低屈折率層の層厚は、適宜調整される。
【0060】
高屈折率層、低屈折率層を構成する材料は、特に限定されず、要求される反射防止性能の程度や生産性等を考慮して選択できる。
高屈折率層を構成する材料としては、例えば、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化チタン(TiO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化タンタル(Ta
2O
5)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、窒化ケイ素(Si
3N
4)等が挙げられる。これらの材料から選択される1種以上を好ましく使用できる。
低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(特に、二酸化ケイ素SiO
2)、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料、SiとAlとの混合酸化物を含む材料等が挙げられる。これらの材料から選択される1種以上を好ましく使用できる。
【0061】
生産性や屈折率の観点から、高屈折率層が、酸化ニオブ、酸化タンタル、窒化ケイ素から選択される1種からなり、低屈折率層が酸化ケイ素からなる層である構成が好ましい。
【0062】
反射防止層を構成する各層を形成する方法は特に限定されず、各種方法を用いることが可能である。例えば、真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレート法、スパッタリング法、プラズマCVD法等を用いることができる。これらの方法のなかで、スパッタリング法を用いることで、緻密で耐久性の高い層を形成できるので好ましい。特に、パルススパッタリング法、ACスパッタリング法、デジタルスパッタリング法等のスパッタリング法が好ましい。
【0063】
例えば、パルススパッタリング法の場合は、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気のチャンバ内に、ガラス板などの透明基体12を配置し、所望の組成となるようにターゲットを選択する。このとき、チャンバ内の不活性ガスのガス種は特に限定されず、アルゴンやヘリウム等、各種不活性ガスを使用できる。
【0064】
不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力は、特に限定されないが、0.5Pa以下の範囲とすることにより、形成される層の表面粗さを好ましい範囲とすることが容易となる。
不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.1Pa以上が好ましい。
【0065】
パルススパッタリング法により高屈折率層および低屈折率層を形成する場合、各層の層厚の調整は、例えば、放電電力の調整や各層を形成する時間の調整等により可能である。
【0066】
(防汚層)
透明基体12の主面に機能層として防汚層を設けることが好ましい。防汚層を設けると、透明基体12に付着した汚れ(ヒトの指紋等)を落としやすくなる。防汚層は、その機能を十分に発揮するために、機能層の最表面を構成する層であることが好ましい。
防汚層の形成方法としては、真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレート法、スパッタ法、プラズマCVD法等の乾式法、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、スリットコート法、スプレー法等の湿式法のどちらも使用できる。耐擦傷性の観点から、乾式法を用いることが好ましい。
【0067】
防汚層の構成材料は、防汚性、撥水性、撥油性を付与できる材料から適宜選択できる。具体的には、含フッ素有機ケイ素化合物が挙げられる。含フッ素有機ケイ素化合物は、防汚性、撥水性および撥油性を付与できれば、特に限定されず使用できる。
【0068】
含フッ素有機ケイ素化合物としては、例えば、ポリフルオロポリエーテル基、ポリフルオロアルキレン基、およびポリフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有する有機ケイ素化合物を、好ましく使用できる。ポリフルオロポリエーテル基とは、ポリフルオロアルキレン基とエーテル性酸素原子とが交互に結合した構造を有する2価の基のことである。
【0069】
ポリフルオロポリエーテル基、ポリフルオロアルキレン基、およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物の市販品としては、例えば、KP−801、KY178、KY−130、KY185(いずれも商品名、信越化学社製)、オプツ−ルDSXおよびオプツールAES(いずれも商品名、ダイキン社製)、S550(商品名、旭硝子社製)等が好ましく使用できる。
【0070】
含フッ素有機ケイ素化合物は、大気中の水分との反応による劣化抑制等のために、フッ素系等の溶媒と混合して保存されているのが一般的であるが、これらの溶媒を含んだまま使用されると、得られる防汚層の耐久性等に悪影響を及ぶことがある。
そのため、後述する手順に従って、真空蒸着法により防汚層を形成する場合は、加熱容器で加熱する前に、予め溶媒除去処理したフッ素含有有機ケイ素化合物を用いることが好ましい。
【0071】
ここで、上記含フッ素有機ケイ素化合物を保存する際に用いられている溶媒としては、例えば、ポリフルオロヘキサン、メタキシレンヘキサフルオライド(C
6H
4(CF
3)
2)、ハイドロフロオロポリエーテル、HFE7200/7100(商品名、住友スリーエム社製、HFE7200は、式:C
4F
9C
2H
5で表わされ、HFE7100は、式:C
4F
9CH
3で表わされる。)等が挙げられる。例えば、含フッ素有機ケイ素化合物の溶液中に含まれる溶媒の濃度は、1mol%以下が好ましく、0.2mol%以下がより好ましい。溶媒を含まない含フッ素有機ケイ素化合物を用いることが、特に好ましい。
【0072】
上記フッ素系溶媒を含む含フッ素有機ケイ素化合物の溶液からの溶媒の除去処理は、例えば、含フッ素有機ケイ素化合物の溶液を入れた容器を、真空排気することにより実施可能である。真空排気する時間は、排気ライン、真空ポンプ等の排気能力、溶液の量等により変化するため、限定されないが、例えば、10時間以上真空排気すればよい。
【0073】
上記した含フッ素有機ケイ素化合物からなる防汚層を形成する場合、真空蒸着法の使用が好ましい。真空蒸着法を使用する場合、上記溶媒の除去処理は、防汚層の形成に使用する成膜装置の加熱容器に、含フッ素有機ケイ素化合物の溶液を導入後、昇温する前に、室温で加熱容器内を真空排気することによってもできる。加熱容器に導入する前に、予めエバポレータ等により溶媒除去しておくこともできる。
【0074】
上記溶媒の含有量が少ない、または溶媒を含まない含フッ素有機ケイ素化合物は、溶媒を含んでいるものと比較して、大気と接触することにより劣化しやすい。そのため、溶媒含有量の少ない(または含まない)含フッ素有機ケイ素化合物の保管容器は、容器中を窒素等の不活性ガスで置換、密閉したものを使用し、取り扱う際には大気への暴露時間が短くなるようにすることが好ましい。
【0075】
具体的には、保管容器を開封後は、直ちに、成膜装置の加熱容器に、含フッ素有機ケイ素化合物を導入することが好ましい。そして、導入後は、加熱容器内を真空にするか、窒素、希ガス等の不活性ガスにより置換し、加熱容器内に含まれる大気(空気)を除去することが好ましい。大気と接触することなく保管容器(貯蔵容器)から成膜装置の加熱容器に導入できるように、例えば、保管容器と加熱容器とがバルブ付きの配管により接続されていることがより好ましい。
そして、加熱容器に含フッ素有機ケイ素化合物を導入後、容器内を真空または不活性ガスで置換した後には、直ちに成膜のための加熱を開始することが好ましい。
【0076】
防汚層の厚さは、一般的には、2〜20nmが好ましく、2〜15nmがより好ましく、2〜10nmが更に好ましい。
【0077】
〈カバー部材の製造方法〉
カバー部材11の製造方法は、特に限定されないが、例えば、第1主面12aおよび第2主面12bを有する透明基体12を準備し、含フッ素化合物(図示せず)が一面に付着した転写用基体(図示せず)を準備し、透明基体12の第1主面12aと転写用基体における含フッ素化合物が付着した面(以下、「転写面」ともいう)とを接触させて、含フッ素化合物を透明基体12の第1主面12aに転写し、この転写によって、第1主面12aにF原子を含む化合物を付着させ、第1主面12aの接触角を50°以下にする方法が挙げられる。
カバー部材11の製造方法としては、透明基体12の第1主面12aと、転写用基体上の含フッ素化合物層の表面とを、所定距離(例えば、1〜10mm)だけ離間した状態で対面させ、1〜48時間静置する方法なども挙げられる。
第1主面12aの接触角の値の調整、および、含フッ素化合物の付着量を制御しやすい点で、カバー部材11の製造方法は、上述した転写による方法が好ましい。
【0078】
透明基体12の第1主面12aおよび/または第2主面12bには、必要に応じて、上述した額縁部132および/または機能層を形成する。
【0079】
透明基体12がガラス板である場合には、転写用基体もガラス板であることが好ましい。転写用基体の厚さは特に限定されないが、転写用基体の寸法は、透明基体12と同じ、または、透明基体12よりも大きいことが好ましい。
【0080】
転写用基体の転写面に付着した含フッ素化合物は、ある程度の厚みを持った層状であることが好ましい。
層状の含フッ素化合物(以下、「転写用含フッ素化合物層」ともいう)は、単分子の厚みよりも十分に多い量で、転写用基体上に形成された状態であることが好ましい。
転写用含フッ素化合物層は、カバー部材11の防汚層と同様の手順に従って形成される。ただし、転写用含フッ素化合物層の厚さは、カバー部材11の防汚層よりも厚くすることが好ましく、具体的には、例えば、50〜180nmであり、60〜170nmが好ましい。
転写用含フッ素化合物層は、転写用基体の主面方向に連続した連続層でなくてもよく、不連続層(間欠層)であってもよい。
【0081】
転写用含フッ素化合物層を構成する含フッ素化合物(例:含フッ素有機ケイ素化合物)のうち、ガラス板などの透明基体12と反応(例:シランカップリング反応)によって強固に化学結合するのは、一般的に、ガラス板などの透明基体12と接する分子だけである。このため、透明基体12と接する分子の上に存在する分子(フッ素鎖)は、物理的に凝集しているに過ぎず、容易に遊離し、他の部材に転写できる。
【0082】
透明基体12の第1主面12a(額縁部132が形成されていてもよい)と、転写用基体の転写面とを接触させ、所定時間の経過後に、両者を剥離する。こうして、透明基体12の第1主面12aに、転写用基体に付着した含フッ素化合物(転写用含フッ素化合物層)を転写する。
【0083】
このとき、透明基体12と転写用基体との接触時間(「転写時間」ともいう)は、0.5分間以上60分間未満が好ましく、0.5分間以上30分間以下がより好ましく、0.5分間以上15分間以下が更に好ましい。
【実施例】
【0084】
以下に、実施例等により本発明の実施形態を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の例に限定されない。例1〜6が実施例で、例7〜8が比較例である。
【0085】
〈例1〉
以下に説明するようにして、例1のカバー部材を作製した。
【0086】
《透明基体(ガラス板)の準備》
各例では、カバー部材となる透明基体として、ガラス板を用いた。
より詳細には、まず、化学強化用ガラス板であるドラゴントレイル(商品名、旭硝子社製、厚さ1.3mm)を準備した。
これを、100mm×100mmの寸法に裁断した後、化学強化処理した。すなわち、化学強化用ガラス板を、450℃に加熱し溶融させた硝酸カリウム(溶融塩)に2時間浸漬した後、溶融塩から引き上げ、室温まで1時間で徐冷した。こうして、表面圧縮応力(CS)が730MPa、応力層の深さ(DOL)が30μmの化学強化処理が施されたガラス板を得た。
【0087】
《額縁部の形成》
カバー部材となるガラス板の第1主面の外側周辺部に、スクリーン印刷により、外枠状の額縁部を形成した。
具体的には、以下の手順で、ガラス板の第1主面の外側周辺部の四辺に、10mm幅の黒枠状に印刷を施し、額縁部を形成した。
まず、スクリーン印刷機により、黒色インクを5μmの厚さに塗布した後、150℃で10分間保持して乾燥させ、第1の印刷層を形成した。次いで、第1の印刷層の上に、上と同じ手順で、黒色インクを5μmの厚さに塗布した後、150℃で40分間保持して乾燥させ、第2の印刷層を形成した。こうして、第1の印刷層と第2の印刷層とが積層された額縁部を形成した。
黒色インクとしては、HFGV3RX01(商品名、セイコー社製)を用いた。
【0088】
《防汚層の形成》
カバー部材となるガラス板の第2主面上に、以下の手順で防汚層を形成した。
まず、防汚層の材料として、含フッ素有機ケイ素化合物の溶液を、加熱容器内に導入した。その後、加熱容器内を真空ポンプで10時間以上脱気して溶液中の溶媒を除去し、これを、防汚層形成用組成物とした。
例1では、防汚層の材料として、KY185(商品名、信越化学社製)を用いた。
次いで、防汚層形成用組成物が入った加熱容器を、270℃まで加熱し、270℃に到達後は、温度が安定するまで10分間その状態を保持した。次に、ガラス板を真空チャンバ内に設置した後、防汚層形成用組成物が入った加熱容器と接続されたノズルから、ガラス板の第2主面に向けて防汚層形成用組成物を供給し、防汚層を形成した。
防汚層は、真空チャンバ内に設置した水晶振動子モニタにより防汚層の厚さを測定しながら、防汚層の厚さが4nmになるまで形成した。
次いで、真空チャンバから取り出されたガラス板を、防汚層を上向きにしてホットプレートに設置し、大気中150℃で60分間加熱処理した。
こうして、ガラス板の第2主面上の全面に、防汚層を形成した。
【0089】
《転写》
カバー部材となるガラス板の第1主面(額縁部が形成されている側の主面)に、転写用基体を用いて、転写用含フッ素化合物層を転写した。
具体的には、まず、カバー部材となるガラス板と同じガラス板を、同じ寸法(100mm×100mm)でもう1枚準備し、これを転写用基体とした。転写用基体の一方の主面(転写面)上に、上記「防汚層の形成」に記載した手順と同じ手順に従って、転写用含フッ素化合物層を形成した。転写用含フッ素化合物層の厚さは、70nmとした。
次いで、カバー部材となるガラス板の第1主面(額縁部が形成されている側の主面)と、転写用基体上に形成された転写用含フッ素化合物層の表面(転写用基体側の面とは反対側の面)とを接触させた。この接触の時間(転写時間)は、10分間とした。転写後、両者を剥離した。
【0090】
〈例2〉
カバー部材となるガラス板の第2主面上に反射防止層を形成し、この反射防止層上に防汚層を形成したこと、および、転写用含フッ素化合物層の厚さを70nmから150nmに変更したこと以外は、例1と同様の手順に従い、例2のカバー部材を作製した。
【0091】
《反射防止層の形成》
ガラス板の第2主面の全面に、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された構造の反射防止層を形成した。
より詳細には、例2では、酸化ニオブからなる高屈折率層と、酸化ケイ素からなる低屈折率層とを順に形成し、積層数が2層となる反射防止層を形成した。各層の厚さは、1層目の高屈折率層を13nm、2層目の低屈折率層を120nmとした。
以下に、高屈折率層および低屈折率層の形成方法を、それぞれ記載する。
【0092】
(高屈折率層の形成)
真空チャンバ内で、アルゴンガスに酸素ガスを10体積%となるように混合した混合ガスを導入しながら、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm
2、反転パルス幅5μsecの条件で、酸化ニオブターゲット(商品名:NBOターゲット、AGCセラミックス株式会社製)を用いてパルススパッタリングし、ガラス板の高屈折率層を形成すべき面の全面に、酸化ニオブからなる高屈折率層を形成した。
【0093】
(低屈折率層の形成)
真空チャンバ内で、アルゴンガスに酸素ガスを40体積%となるように混合した混合ガスを導入しながら、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm
2、反転パルス幅5μsecの条件で、シリコンターゲットを用いてパルススパッタリングし、低屈折率層を形成すべき面の全面に、酸化ケイ素からなる低屈折率層を形成した。
【0094】
〈例3〉
カバー部材となるガラス板の第2主面上に反射防止層を形成し、この反射防止層上に防汚層を形成したこと、防汚層および転写用含フッ素化合物層の材料を、KY185からオプツ−ルDSX(商品名、ダイキン社製)に変更したこと、および、転写時間を10分間から1分間に変更したこと以外は、例1と同様の手順に従い、例3のカバー部材を作製した。反射防止層は、例2と同様の手順に従って形成した。
【0095】
〈例4〉
カバー部材となるガラス板の第2主面上に反射防止層を形成し、この反射防止層上に防汚層を形成したこと、防汚層および転写用含フッ素化合物層の材料を、KY185からS550(商品名、旭硝子社製)に変更したこと、および、転写時間を10分間から1分間に変更したこと以外は、例1と同様の手順に従い、例4のカバー部材を作製した。反射防止層は、例2と同様の手順に従って形成した。
【0096】
〈例5〉
カバー部材となるガラス板の第1主面に、転写用含フッ素化合物層を転写しなかったこと以外は、例1と同様の手順に従い、例5のカバー部材を作製した。
具体的には、例5では、まず、例1と同様にして、転写用基体の転写面上に、転写用含フッ素化合物層(厚さ:70nm)を形成した。次いで、カバー部材となるガラス板の第1主面(額縁部が形成されている側の主面)と、転写用基体上に形成された転写用含フッ素化合物層の表面(転写用基体側の面とは反対側の面)とを、5mm離間した状態で対面させ、24時間静置した。
【0097】
〈例6〉
カバー部材となるガラス板の第2主面上に反射防止層を形成し、この反射防止層上に防汚層を形成したこと、および、転写時間を10分間から60分間に変更したこと以外は、例1と同様の手順に従い、例6のカバー部材を作製した。反射防止層は、例2と同様の手順に従って形成した。
【0098】
〈例7〉
転写用含フッ素化合物層の厚さを70nmから200nmに変更したこと、および、転写時間を10分間から60分間に変更したこと以外は、例1と同様の手順に従い、例7のカバー部材を作製した。
【0099】
〈例8〉
カバー部材となるガラス板の第1主面に、転写用含フッ素化合物層を転写しなかった。その代わりに、カバー部材となるガラス板の第1主面に、シリコーン系粘着剤が塗布されたポリイミドテープ(カプトンテープ650S、寺岡製作所製)を貼り、その後すぐに剥がした。これ以外は、例1と同様の手順に従い、例8のカバー部材を作製した。
【0100】
〈接触角〉
ガラス板の第1主面の接触角は、次のように求めた。
まず、ガラス板の第1主面における枠状の額縁部が印刷されていない領域を4×4等分した。等分する際に引いた線(3本+3本)どうしの交点(合計9点)における水の接触角を測定した。具体的には、測定温度23℃にて、純水5μLを滴下してから5秒後の接触角を、接触角計(共和界面化学社製、PCA−11)を用いて測定した。測定した合計9点の接触角の平均値を、ガラス板の第1主面の接触角とした。
【0101】
〈原子比(F/Si)〉
ガラス板の第1主面の原子比(F/Si)は、次のように求めた。
まず、ガラス板の第1主面における枠状の額縁部が印刷されていない領域について、X線光電子分光装置(日本電子社製、JPS−9000MC)を用いて、F原子濃度(単位:原子%)およびSi原子濃度(単位:原子%)を求めた。求めたF原子濃度とSi原子濃度との比を、ガラス板の第1主面におけるSi原子の数に対するF原子の数の比(F/Si)とした。
より詳細には、X線の線源はMgKα線、加速電圧12kV、25mAの条件で測定した。スポット径は6mmφで測定した。試料の傾斜は、なしとした。パスエネルギーは50eV、測定ステップは0.5eV、Dwell Timeは100msec、スキャン数は30回で測定した。測定の結果、得られた結合エネルギーピークについて、シャーリー法によりバックグラウンドを除去した後、F1sピーク強度と、Si2p3/2のピーク強度とから、F/Siの原子濃度比を算出した。
【0102】
〈評価〉
各例のカバー部材について、以下のようにして、評価した。
【0103】
《試験体の作製》
ソーダライムガラス(板厚:0.7mm、寸法:100mm×100mm)を準備し、これを表示パネル代替品とした。
各例におけるカバー部材のガラス板の第1主面(額縁部を含む)を、粘着層(巴川製紙所社製、MK64)を用いて、表示パネル代替品の一方の主面に貼り合わせた。こうして、試験体を作製した。貼り合わせには、貼合装置(クライムプロダクツ社製)を用いた。
各例で、300個の試験体を作製した。
【0104】
《気泡発泡率》
各試験体において、ガラス板と粘着層との間に、30μm以上の大きさの気泡が発生しているか否かを確認した。
各例で、全試験体の個数(300個)に対する30μm以上の気泡が発生している試験体の個数の割合(%)を求めた。
この割合が小さいほど、ガラス板と粘着層との間の気泡発生が抑制できているものとして評価でき、6%以下が好ましい。
【0105】
以上の結果について、下記表1にまとめた。下記表1中の「防汚層の材料」は、「転写用含フッ素化合物層の材料」も意味する。
【0106】
【表1】
【0107】
上記表1に示すように、ガラス板の第1主面にF原子を含む化合物が付着しており(原子比(F/Si)が0超であり)、かつ、第1主面の接触角が50°以下である例1〜6は、これらの条件を満たさない例7〜8よりも、ガラス板と粘着層との間の気泡発生が抑制されていた。
【0108】
原子比(F/Si)が0.005〜0.13の範囲内である例1〜4は、この範囲外である例5〜6よりも、ガラス板と粘着層との間の気泡発生が抑制されていた。
【0109】
例1〜4を対比すると、ガラス板の第1主面の原子比(F/Si)が0.012である例3よりも、この原子比(F/Si)が0.023〜0.075である例1,2および4の方が、気泡発生が更に抑制されていた。