特許第6806064号(P6806064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806064
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】樹脂光導波路
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/122 20060101AFI20201221BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   G02B6/122
   G02B6/12 371
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-533060(P2017-533060)
(86)(22)【出願日】2016年8月1日
(86)【国際出願番号】JP2016072526
(87)【国際公開番号】WO2017022719
(87)【国際公開日】20170209
【審査請求日】2019年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-154011(P2015-154011)
(32)【優先日】2015年8月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】大原 盛輝
(72)【発明者】
【氏名】武信 省太郎
【審査官】 奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−081586(JP,A)
【文献】 特開2010−072463(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0127021(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0191931(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0005132(US,A1)
【文献】 特開2006−119659(JP,A)
【文献】 米国特許第08724937(US,B2)
【文献】 特開平06−034838(JP,A)
【文献】 特開2002−122750(JP,A)
【文献】 特開2013−058300(JP,A)
【文献】 ROGER DANGEL et al.,Polymer waveguides for electro-optical integration in data centers and high-performance computers,OPTICS EXPRESS,米国,OSA,2015年 2月23日,vol.23, no.4,p.4736-p.4750
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12− 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア、ならびに、該コアよりも屈折率が低いアンダークラッド、および、オーバークラッドを備える樹脂光導波路であって、
前記樹脂光導波路の一端側に、オーバークラッドが存在せずコアおよび該コア周辺のアンダークラッドが露出したコア露出部が設けられており、
前記アンダークラッドのうち、前記コア露出部に該当する部位が、下記(1)、(2)を満たし、かつ下記(3)、(4)のうち少なくとも一方を満たすコア近傍領域を有する、ことを特徴とする樹脂光導波路。
(1)前記コア近傍領域は、前記コアからの距離がx以内の領域であり、該xは5μm以上20μm以下である。
(2)前記コア近傍領域は、前記コアとの界面側から、該コアとの界面に対し遠位側に向けて、屈折率が連続的に低くなる屈折率分布を有する
(3)前記コア近傍領域における前記アンダークラッドの屈折率の最大値nmaxと最小値nminと、の差(nmax−nmin)が0.0015以上である。
(4)前記コア近傍領域の屈折率分布が1.50×10−4/μm以上である。
【請求項2】
前記コア露出部の光伝搬方向の長さが100μm以上である請求項1記載の樹脂光導波路。
【請求項3】
前記コアにおける屈折率の最大値n’maxと、前記コア近傍領域における前記アンダークラッドの屈折率の最大値nmaxと、の差(n’max−nmax)が0.008〜0.02である、請求項1または2に記載の樹脂光導波路。
【請求項4】
前記アンダークラッドの前記コア露出部に該当する部位のうち、前記コア近傍領域以外の部位の屈折率は、前記コア近傍領域における前記アンダークラッドの屈折率の最小値nmin以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂光導波路。
【請求項5】
前記樹脂光導波路が、波長1310nmおよび波長1550nmの少なくても一方において、シングルモード光導波路である、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂光導波路。
【請求項6】
前記樹脂光導波路のコアサイズが1〜10μmである、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂光導波路。
【請求項7】
前記樹脂光導波路のコアがフッ素を含む樹脂からなることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂光導波路。
【請求項8】
コア、ならびに、該コアよりも屈折率が低いアンダークラッド、および、オーバークラッドを備える樹脂光導波路であって、
前記樹脂光導波路の一端側に、オーバークラッドが存在せずコアおよび該コア周辺のアンダークラッドが露出したコア露出部が設けられており、樹脂光導波路の光伝搬方向における該コア露出部の長さが500μm以上であり、
前記アンダークラッドのうち、前記コア露出部に該当する部位が、下記(1)、(2)を満たし、かつ下記(3)、(4)のうち少なくとも一方を満たすコア近傍領域を有する、ことを特徴とする樹脂光導波路。
(1)前記コア近傍領域は、前記コアからの距離がx以内の領域であり、該xは10μm以上20μm以下である。
(2)前記コア近傍領域は、前記コアとの界面側から、該コアとの界面に対し遠位側に向けて、屈折率が連続的に低くなる屈折率分布を有する
(3)前記コア近傍領域における前記アンダークラッドの屈折率の最大値maxと最小値nminと、の差(nmax−nmin)が0.0015以上である。
(4)前記コア近傍領域の屈折率分布が1.50×10−4/μm以上である。
【請求項9】
前記コア露出部において、シリコン光導波路と接続される、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂光導波路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1,2や、特許文献1では、シリコン光導波路と、樹脂光導波路と、を低損失、かつ、低コストで接続するシリコンフォトニクスインターフェースが提案されている。本明細書におけるシリコン光導波路とは、シリコンチップ上に(シングルモード)光導波路として機能するコアクラッド構造を形成したものである。
図3は、このようなシリコンフォトニクスインターフェースの一構成例を示した斜視図であり、図4はその側面図である。
図3、4に示す樹脂光導波路チップ300には、樹脂光導波路310が1本、もしく複数本が形成されている。樹脂光導波路チップ300の一端側では、樹脂光導波路310と、シリコン光導波路チップ200上に形成されたシリコン光導波路(図示せず)と、が接続されている。樹脂光導波路チップ300の他端側は、コネクタ100内に収容されている。
【0003】
図5は、上記の目的で使用される樹脂光導波路の一構成例を示した斜視図である。
図5に示す樹脂光導波路310は、コア320の周囲にアンダークラッド330およびオーバークラッド340が配されている。但し、図3、4において、シリコン光導波路チップ200上に形成されたシリコン光導波路(図示せず)と接続される側の先端は、オーバークラッド340が配されておらず、コア320が外部に露出したコア露出部350になっている。
【0004】
図6は、図3、4に示すシリコンフォトニクスインターフェースにおいて、シリコン光導波路210と、樹脂光導波路310と、の接続部を示した断面図であり、樹脂光導波路310は図5に示す樹脂光導波路310である。図6において、シリコン光導波路210と、樹脂光導波路310と、が、シリコン光導波路210に対し樹脂光導波路310のコア320が面した状態で、エポキシ樹脂を用いて接続されている。
【0005】
図7は、図3、4に示すシリコンフォトニクスインターフェースにおける光の伝搬を説明するための模式図である。図7において、シリコン光導波路210のコア220から、樹脂光導波路310先端で露出しているコア320へとアディアバティックカップリングにより光が伝搬する。そして、樹脂光導波路310のコア320から光ファイバ130のコア140へと光が伝搬する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jie Shu, Ciyuan Qiu,Xuezhi Zhang,and Qianfan Xu,“Efficient coupler between chip−level and board−level optical waveguides”, OPTICS LETTERS, Vol.36, No.18,pp3614−3616(2011)
【非特許文献2】Tymon Barwics,and Yoichi Taira,“Low−Cost Interfacing of Fibers to Nanophotonic Waveguides: Design for Fabrication and Assembly Toleranes”, IEEE Photonics Journal, Vol.6, No.4,August、660818( 2014)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第8,724,937号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図5に示す樹脂光導波路310は、図3、4に示すシリコンフォトニクスインターフェースに実装する前に、従来の樹脂光導波路と同様の手順で性能評価が実施される。樹脂光導波路の性能評価では、樹脂光導波路の先端にシングルモード光ファイバを接続する。図8は、図5に示す樹脂光導波路310の先端に、シングルモード光ファイバを接続した際の光の伝播を説明するための模式図である。図5に示す樹脂光導波路310、シングルモード光ファイバ400と、の接続では、樹脂光導波路310先端のコア320が露出した部位から一部の光が放射して伝搬されず、また、接続損失が生じる問題がある。この接続損失は、図3、4に示すシリコンフォトニクスインターフェースに実装した際には発生せず、性能評価の結果に対する信頼性を低下させる。
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、シリコン光導波路と、樹脂光導波路と、を低損失、かつ、低コストで接続するシリコンフォトニクスインターフェースでの使用に好適であり、かつ、シングルモード光ファイバを用いた性能評価の信頼性が高い、樹脂光導波路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明は、コア、ならびに、該コアよりも屈折率が低いアンダークラッド、および、オーバークラッドを備える樹脂光導波路であって、
前記樹脂光導波路の一端側に、オーバークラッドが存在せずコアが露出したコア露出部が設けられており、
前記アンダークラッドのうち、前記コア露出部に該当する部位が、下記(1)、(2)を満たすコア近傍領域を有する、ことを特徴とする樹脂光導波路、を提供する。
(1)前記コア近傍領域は、前記コアからの距離がx以内の領域であり、該xは5μm以上20μm以下である。
(2)前記コア近傍領域は、前記コアとの界面側の屈折率が高く、該コアとの界面に対し遠位側の屈折率が低くなる屈折率分布を有する。
【0011】
本発明の樹脂光導波路において、前記コア露出部の光伝搬方向における長さが100μm以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の樹脂光導波路において、前記コア近傍領域の屈折率分布が0.00004/μm以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の樹脂光導波路において、前記コア近傍領域における前記アンダークラッドの屈折率の最大値nmaxと最小値nminとの差(nmax−nmin)が0.0001以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の樹脂光導波路において、前記コアにおける屈折率の最大値n’maxと、前記コア近傍領域における前記アンダークラッドの屈折率の最大値nmaxと、の差(n’max−nmax)が0.008〜0.02であることが好ましい。
【0015】
本発明の樹脂光導波路において、前記アンダークラッドの前記コア露出部に該当する部位のうち、前記コア近傍領域以外の部位の屈折率は、前記コア近傍領域における前記アンダークラッドの屈折率の最小値nmin以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の樹脂光導波路において、前記アンダークラッドの厚さが10μm以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の樹脂光導波路は、波長1310nmおよび波長1550nmの少なくとも一方において、シングルモード光導波路であることが好ましい。
【0018】
本発明の樹脂光導波路において、前記樹脂光導波路のコアサイズが1〜10μmであることが好ましい。
【0019】
本発明の樹脂光導波路において、前記樹脂光導波路のコアはフッ素を含む樹脂からなることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、コア、ならびに、該コアよりも屈折率が低いアンダークラッド、および、オーバークラッドを備える樹脂光導波路であって、
前記樹脂光導波路の一端側に、オーバークラッドが存在せずコアおよび該コアに隣接するアンダークラッドが露出したコア露出部が設けられており、樹脂光導波路の光伝搬方向における該コア露出部の長さが500μm以上であり、
前記アンダークラッドのうち、前記コア露出部に該当する部位が、下記(1)〜(3)を満たすコア近傍領域を有する、ことを特徴とする樹脂光導波路を提供する。
(1)前記コア近傍領域は、前記コアからの距離がx以内の領域であり、xは10μm以上20μm以下である。
(2)前記コア近傍領域は、前記コアとの界面側の屈折率が高く、該コアとの界面に対し遠位側の屈折率が低くなる屈折率分布を有する。
(3)前記コア近傍領域における前記アンダークラッドの屈折率の最大値nmaxと最小値nminの差(nmax−nmin)が0.001以上である。
【0021】
本発明の樹脂光導波路は、前記コア露出部において、シリコン光導波路と接続されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の樹脂光導波路は、シリコン光導波路と、樹脂光導波路と、を低損失、かつ、低コストで接続するシリコンフォトニクスインターフェースでの使用に好適である。
本発明の樹脂光導波路は、シングルモード光ファイバを用いた性能評価時の接続損失が少なく、性能評価の信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の樹脂光導波路の一構成例を示した斜視図である。
図2図2は、実施例での樹脂光導波路と、シングルモード光ファイバとの接続部を示した模式図である。
図3図3は、シリコンフォトニクスインターフェースの一構成例を示した斜視図である。
図4図4は、図3のシリコンフォトニクスインターフェースの側面図である。
図5図5は、図3、4のシリコンフォトニクスインターフェースで使用される樹脂光導波路の一構成例を示した斜視図である。
図6図6は、図3、4に示すシリコンフォトニクスインターフェースにおいて、シリコン光導波路チップ200上に形成されたシリコン光導波路と樹脂光導波路310と、の接続部を示した断面図である。
図7図7は、図3、4に示すシリコンフォトニクスインターフェースにおける光の伝搬を説明するための模式図である。
図8図8は、図5に示す樹脂光導波路310の先端に、シングルモード光ファイバを接続した際の光の伝播を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
図1は、本発明の樹脂光導波路の一構成例を示した斜視図である。図1に示す樹脂光導波路10は、コア11、ならびに、該コア11よりも屈折率が低いアンダークラッド12、および、オーバークラッド13を備えている。コア11の下方には、アンダークラッド12が配されており、コア11の上方には、オーバークラッド13が配されている。但し、樹脂光導波路10の一端側には、オーバークラッド13が存在せずコア11が露出したコア露出部14が設けられている。
なお、本発明の樹脂光導波路では、コアの周囲に配されるアンダークラッド、および、オーバークラッドのうち、コア露出部には存在しない側をオーバークラッドとする。したがって、コアの上方にアンダークラッドが配され、コアの下方にオーバークラッドが配されていてもよい。
【0025】
このコア露出部14は、樹脂光導波路10をシリコンフォトニクスインターフェースとして用いる際に、シリコン光導波路との接続部位となる。そのため、コア露出部14は、シリコン光導波路との接続部位として使用するのに十分な長さを有していることが求められる。本発明の樹脂光導波路10は、樹脂光導波路の光伝搬方向におけるコア露出部14の長さが100μm以上であることが好ましく、これはシリコン光導波路との接続部位として使用するのに十分な長さである。なお、樹脂光導波路の光伝搬方向とは、コア11の長軸方向である。
コア露出部14は、樹脂光導波路の光伝搬方向における長さが、300μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることがさらに好ましく、1000μm以上であることがよりさらにより好ましい。
但し、樹脂光導波路の光伝搬方向におけるコア露出部14の長さが長すぎると、シリコン光導波路と接着剤(例えば、エポキシ樹脂)を使って接続する際に、接着剤の吸収により接続損失が大きくなるおそれがある。そのため、樹脂光導波路の光伝搬方向におけるコア露出部14の長さは、10000μm以下であることが好ましく、5000μm以下であることがより好ましく、3000μm以下であることがさらに好ましい。
【0026】
樹脂光導波路10において、コア11よりもアンダークラッド12、および、オーバークラッド13の屈折率を低くするのは、コア11を伝播する光が、アンダークラッド12側、若しくは、オーバークラッド13側に放射するのを防止するためである。
上述したように、図8に示すように、コア露出部を有する樹脂光導波路310と、シングルモード光ファイバ400と、を接続した際には、オーバークラッド340が存在しないコア露出部において、コア320が露出した状態になる。樹脂光導波路310の性能評価は、コア露出部が空気中、または、水中に存在する状態で実施されるため、コア320の露出面は空気または水と接するが、空気や水は、樹脂光導波路310のコア320材料やアンダークラッド330材料よりも屈折率が小さい。その結果、コア320を伝搬する光の一部がアンダークラッド330側に放射するのが接続損失の原因である。
本発明の樹脂光導波路10は、アンダークラッド12のうち、コア露出部14に該当する部位が下記(1)、(2)を満たすコア近傍領域を有することにより、シングルモード光ファイバとの接続時の接続損失が抑制される。
(1)コア近傍領域は、コア11からの距離がx以内の領域であり、xは5μm以上20μm以下である。
(2)コア近傍領域は、コア11との界面側の屈折率が高く、該コア11との界面に対し遠位側の屈折率が低くなる屈折率分布を有する。
コア近傍領域にコア11近位側の屈折率が高く、コア11遠位側の屈折率が低くなる屈折率分布を設けることにより、コア露出部14において、コア11を伝搬する光のアンダークラッド12側への放射が抑制され、シングルモード光ファイバとの接続時の接続損失が抑制される。なお、上記(2)における屈折率分布は、コア11との界面側から、該コア11との界面に対し遠位側に向けて、屈折率が連続的に低くなることで生じる。
【0027】
ここでコア近傍領域をコア11からの距離がx以内の領域であり、xは5μm以上とすることにより、コア露出部14において、コア11を伝搬する光のアンダークラッド12側への放射が抑制される。なお、xの上限を20μmとするのは、コア11からの距離が20μm以上の領域に上述した屈折率分布を設けても、上述したシングルモード光ファイバとの接続時の接続損失を抑制する効果への寄与が少ないためである。
【0028】
本発明の樹脂光導波路10において、コア近傍領域の屈折率分布は0.00004/μm以上であることが、上述したシングルモード光ファイバとの接続時の接続損失を抑制する効果という点で好ましい。
コア近傍領域における屈折率分布は0.00007/μm以上であることが好ましく、0.000075/μm以上であることがより好ましく、0.0001/μm以上であることがさらに好ましく、0.0002/μm以上であることが特に好ましい。
なお、屈折率分布の上限値は特に限定されるものではないが、例えば後述する製造方法等に起因して0.00035とすることができる。
【0029】
コア近傍領域におけるアンダークラッド12の屈折率は、コア11に対し近位側の屈折率が最大値nmaxとなり、コア11に対し遠位側の屈折率が最小値nminとなる。コア近傍領域におけるアンダークラッド12の屈折率の最大値nmaxと最小値nminとの差(nmax−nmin)が0.0001以上であることが、シングルモード光ファイバとの接続時の接続損失の抑制という点で好ましく、0.0002以上であることがより好ましく、0.0004以上であることがさらに好ましく、特に0.0008以上であることが好ましい。
なお、屈折率の最大値nmaxと最小値nminとの差の上限値は特に限定されるものではないが、例えば後述する製造方法等に起因して0.0035とすることができる。
【0030】
シリコン光導波路との接続損失の抑制、および、シングルモード光ファイバとの接続時の接続損失の抑制の両立という点では、コア11における屈折率の最大値n’maxと、コア近傍領域におけるアンダークラッド12の屈折率の最大値nmaxと、の差(n’max−nmax)が0.008〜0.02であることが好ましい。ここで、コア11における屈折率の最大値n’maxとしているのは、コア11にも屈折率分布が存在する場合を考慮しているからである。
n’max−nmaxが0.010〜0.015であることがより好ましい。
【0031】
本発明の樹脂光導波路において、アンダークラッド12のコア露出部に該当する部位のうち、コア近傍領域以外の部位の屈折率は、コア近傍領域におけるアンダークラッド12の屈折率の最小値nmin以下であることが、シングルモード光ファイバとの接続時の接続損失の抑制という点で好ましい。当該コア近傍領域以外の、アンダークラッド12の屈折率は最小値nmin以下である限り特に限定されない。したがって、前記コア近傍領域以外の部位の屈折率がすべて同一の数値であってもよいし、コア近傍領域の場合と同様に、コア11に対し遠位側に向けて屈折率がさらに低くなる屈折率分布を有していてもよい。
また、本発明の樹脂光導波路において、アンダークラッド12の厚さによっては、アンダークラッド12のコア露出部に該当する部位全体が、上記(1)、(2)、好ましくは上記(1)〜(3)を満たすコア近傍領域であってもよい。この場合、アンダークラッド12の厚みは上記xと一致する。
【0032】
また、本発明の樹脂光導波路において、コア11の上下にオーバークラッド13およびアンダークラッド12が配された部位のアンダークラッド12の屈折率は、コア近傍領域を含む全ての領域が、コア11の屈折率よりも低い数値であれば特に限定されない。したがって、例えば当該部位のアンダークラッド12は、屈折率がすべて同一の数値であってもよいし、コア11に対し遠位側に向けて屈折率が低くなる屈折率分布を有していてもよい。また、上記(1)〜(3)を満たした、コア近傍領域と同様の領域を有していてもよい。
【0033】
本発明の樹脂光導波路についてさらに記載する。
(コア11)
図1に示す樹脂光導波路10では、コア11の断面形状が矩形であるが、これに限られず、例えば台形、円形、楕円形であってもよい。コア11の断面形状が多角形である場合は、その角が丸みを帯びていてもよい。
【0034】
コアサイズは特に限定されず、光源または受光素子との結合効率等を考慮して適宜設計できる。結合効率はコア径と開口数(NA)に依存する。例えばコア11のコアサイズ(図1に示すコア11のように、コア11の断面形状が矩形の場合は、該矩形の幅および高さ)は、シリコンフォトニクスインターフェースとして用いる際に接続するシリコン光導波路との結合効率を考えると1〜10μmであることが好ましい。1.5〜8μmであることがより好ましく、2〜7μmであることがさらに好ましい。ここで、矩形の幅は、高さの中央の位置での幅の長さであり、矩形の高さは、幅の中央の位置での高さの長さである。なお、コアサイズは、樹脂光導波路の光伝搬方向に沿ってテーパー状に変化していてもよい。
【0035】
コア11は、コアの中心に対し遠位側に向けて屈折率が低くなる屈折率分布を有していてもよい。また、オーバークラッド側の屈折率が高くてアンダークラッド側の屈折率が低くなる屈折率分布を有していてもよいし、オーバークラッド側の屈折率が低くてアンダークラッド側の屈折率が高くなる屈折率分布を有していてもよい。
【0036】
(オーバークラッド13)
オーバークラッド13の屈折率は、コア11の屈折率よりも数値が低い限り特に限定されない。したがって、例えばオーバークラッド13は、屈折率がすべて同一の数値であってもよいし、コア11に対し遠位側に向けて屈折率が低くなる構成であってもよく、コア11に対し遠位側に向けて屈折率が高くなる構成であってもよい。
オーバークラッド13の厚さは特に限定されないが、本発明の樹脂光導波路10がシングルモード光導波路の場合、コア11の中心から10μm程度の範囲内にあるクラッド部分にも伝搬する光が漏れ出ることがある。したがってシングルモード光導波路の場合は、光の伝搬損失を少なくするという観点から、10μm以上であることが好ましい。また、アンダークラッド12およびオーバークラッド13の合計厚さが20〜90μmであることが好ましく、30〜70μmであることがより好ましい。
【0037】
本発明の樹脂光導波路において、コア11、アンダークラッド12、および、オーバークラッド13の構成材料は、樹脂光導波路としての要求特性を満たす限り特に限定されない。コア11を伝搬する光の損失抑制という観点では、コア11の構成材料はフッ素を含む樹脂であることが好ましい。
また、コア11、アンダークラッド12、および、オーバークラッド13の構成材料、ならびに、樹脂光導波路の製造手順については、例えば、下記文献の記載を参考にすることができる。
国際公開第2010/107005号
日本国特開2013−120338号公報
日本国特開2012−63620号公報
【0038】
上記文献を参考にして、図1に示す本発明の樹脂光導波路10を製造する場合、樹脂光導波路の10のコア露出部14は以下の手順で形成することができる。
アンダークラッドを形成し、フォトリソグラフィプロセスを用いて、アンダークラッド上にコアを形成した後、アンダークラッドおよびコア上に硬化物組成物を塗布し、加熱および/または光照射により硬化性樹脂組成物硬化させ、オーバークラッドを形成する。オーバークラッド層を形成する際に、フォトリソグラフィプロセスを用いて、オーバークラッドを有する領域と、オーバークラッドが無くコアが露出した領域(すなわち、コア露出部)と、を形成することができる。
【0039】
また、上記(1)、(2)を満たすコア近傍領域を有するアンダークラッド12は以下の手順で形成することができる。
上記、アンダークラッドを形成する際の、加熱温度や加熱時間を調整することにより、および/または、光の照射強度や照射時間を調整することにより、上記(1)、(2)、好ましくは上記(1)〜(3)を満たすコア近傍領域を有するアンダークラッド12を形成できる。または、屈折率を調整するためのドーパントを添加することにより、調整することにより、および/または、光の照射強度や照射時間を調整することにより、上記(1)、(2)、好ましくは上記(1)〜(3)を満たすコア近傍領域を有するアンダークラッド12を形成できる。
なお、ドーパント添加によって、屈折率を調整する場合は、当該屈折率は、アンダークラッドを構成する材料とドーパントの種類とに依存するので、目的とする屈折率を得るために、アンダークラッドを構成する材料に応じて当該ドーパントを適宜選択する。
【0040】
本発明の樹脂光導波路は、シリコン光導波路と、光ファイバと、を低損失、かつ、低コストで接続するシリコンフォトニクスインターフェースに使用されるため、シングルモード光導波路であることが、光信号を高密度化できるため好ましい。この場合、波長1310nmおよび1550nmの少なくとも一方において、シングルモード光導波路であることが、シリコン光導波路やシングルモード光ファイバに対しても低損失で光を伝搬できるため好ましい。
【0041】
本発明の樹脂光導波路をシリコンフォトニクスインターフェースに用いる場合、樹脂光導波路のコア露出部において、シリコン光導波路と接続される。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
以下に示す実施例では、樹脂光導波路とシングルモード光ファイバの構造(サイズと屈折率)をRSoft Design Group株式会社製のRSoft CADで定義し、シミュレーション・エンジンであるRSoft Design Group株式会社製のBeamProp(有限差分ビーム伝搬法)で光伝搬のシミュレーションを行った。
図2は、実施例での樹脂光導波路と、シングルモード光ファイバとの接続部を示した模式図である。
【0044】
(例1〜52)
例1〜52のうち、例〜5、〜11、例21〜52は実施例、例6、例12が比較例、例1、7、13〜20は参考例である。
樹脂光導波路とシングルモード光ファイバの構造を、以下に示すように、RSoft CADにより定義した。
【0045】
(シングルモード光ファイバ400)
コア410
コア径 8.4μm
屈折率 1.47
クラッド420
クラッド径 80μm
屈折率 1.4652
【0046】
(樹脂光導波路10)
シングルモード光導波路
コア11
コアサイズ 幅方向5.9μm、縦方向2.3μm
屈折率 1.534
アンダークラッド12
厚み 40μm
コア11との界面における屈折率 1.52
コア11からの距離が10μm以内のコア近傍領域に、コア11との界面側の屈折率が高く、コア11との界面に対し遠位側の屈折率が低くなる屈折率分布(0×10-4〜3.5×10-4/μm)を有する。
オーバークラッド13
厚み 40μm
屈折率 1.52
コア露出部14
コア露出部14を水(屈折率1.32)もしくは空気(屈折率1.00)で満たした状態について、波長1.55μmにおける接続損失をBeamPropにより計算により求めた。結果を下記表に示す。なお、表中、アンダークラッド12の屈折率のうち、コア11との界面側の屈折率をn2、コア11との界面からの距離が10μmの位置での屈折率をn1とする。なお、n2はコア近傍領域におけるアンダークラッド12の屈折率の最大値nmaxであり、n1はコア近傍領域におけるアンダークラッド12の屈折率の最小値nminであり、また、光導波路10のコア11と、シングルモード光ファイバ400のコア410と、のオフセットYは、図2に示す通りである。また、表中の指標は下記表に示す通りである。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
上記表1〜表6は、コア露出部14の光伝搬方向の長さを2000μmとした実施例であるが、表7および表8にはコア露出部14の長さを500μm、1000μm、1500μmおよび3000μmとしたものの結果を示す。
【0054】
【表7】
【0055】
【表8】
【0056】
表から明らかなように、コア露出部に該当するコア近傍領域が屈折率分布を有していない例6、12は接続損失が大きかった。これに対し、コア露出部に該当するコア近傍領域における屈折率分布が0.00004μm以上の例1〜5、例7〜11、例13〜例52は接続損失が小さかった。
また、表4〜6に示すように、コア露出部14を水で満たした状態、もしくは空気で満たした状態のいずれの場合も、コア近傍領域における屈折率分布が0.00004μm以上であれば、屈折率分布の大きさによらず、また、光導波路10のコア14と、シングルモード光ファイバ400のコア410と、のオフセットYによる影響が少ない。
【0057】
(例53、例54)
例53は実施例であり、例54は比較例である。例53として、コアの屈折率が1.53でコア幅が6.0μm、コア高さが2.49μmであり、オーバークラッドの厚みが24μm、アンダークラッドの厚みが50μmの樹脂光導波路を作製した。アンダークラッドのコア界面側の屈折率は1.516であり、コアの界面から離れるに伴って屈折率が低くなる屈折率分布0.00008/μmを有する。アンダークラッドの屈折率分布は、オーバークラッドを有する領域も、オーバークラッドを有しない領域も同様の屈折率分布を有する。コア露出部14の光伝搬方向の長さは1750μmであり、コア露出部の状態は水である。この実施例53の樹脂光導波路とシングルモード光ファイバとの接続損失は、7.0dBであり、接続損失の指標は「4」であった。
例54として、アンダークラッドの屈折率が厚さ方向に亘って一定とした以外は、実施例53と同じ構造の光ファイバを作製した。アンダークラッドの屈折率は1.516で一定である。この例54の樹脂光導波路とシングルモード光ファイバとの接続損失は、20dB超であり接続損失の指標は「1」であった。
【0058】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2015年8月4日出願の日本特許出願(特願2015−154011号)、に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0059】
10:樹脂光導波路
11:コア
12:アンダークラッド
13:オーバークラッド
14:コア露出部
100:コネクタ
200:シリコン光導波路チップ
210:シリコン光導波路
220:コア
230:被覆
300:樹脂光導波路チップ
310:樹脂光導波路
320:コア
330:アンダークラッド
340:オーバークラッド
350:コア露出部
400:シングルモード光ファイバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8