特許第6806075号(P6806075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806075
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】ガラス−樹脂複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/32 20060101AFI20201221BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20201221BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20201221BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20201221BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20201221BHJP
   G03F 1/60 20120101ALI20201221BHJP
【FI】
   C03C17/32 C
   C03C17/34 A
   C03C21/00 101
   C03C3/087
   B32B17/10
   G03F1/60
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-546542(P2017-546542)
(86)(22)【出願日】2016年10月17日
(86)【国際出願番号】JP2016080725
(87)【国際公開番号】WO2017069090
(87)【国際公開日】20170427
【審査請求日】2019年8月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-206528(P2015-206528)
(32)【優先日】2015年10月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 章夫
(72)【発明者】
【氏名】▲角▼田 純一
(72)【発明者】
【氏名】林 英明
【審査官】 宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−022901(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/047679(WO,A1)
【文献】 特表2001−520950(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/190014(WO,A1)
【文献】 特開2011−121320(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/057552(WO,A2)
【文献】 特開2013−078925(JP,A)
【文献】 特開2013−022902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C15/00−23/00
B32B1/00−43/00
G03F1/00−1/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板及び樹脂フィルムを含むガラス−樹脂複合体であって、
前記ガラス板の主面上の全面に前記樹脂フィルムが設けられ、
前記ガラス板が、主面及び端面のすべての表層に圧縮応力層を有する化学強化ガラスであり、
前記ガラス板の板厚t1が0.05〜0.25mmであり、かつ
前記板厚t1、前記樹脂フィルムの厚みt2及び前記樹脂フィルムの降伏応力Pが{t1(mm)×4(N/mm)<t2(mm)×P(N/mm)}の関係を満たすことを特徴とするガラス−樹脂複合体。
【請求項2】
前記ガラス板の主面の形状が、縦方向の長さに対して横方向の長さが10倍未満の略矩形である請求項1に記載のガラス−樹脂複合体。
【請求項3】
前記樹脂フィルムの形状が、縦方向の長さに対して横方向の長さが10倍以上の略矩形である請求項1または2に記載のガラス−樹脂複合体。
【請求項4】
前記樹脂フィルムが前記ガラス板の輪郭線の少なくとも一部から食み出し、前記食み出した部分の最長の長さが10mm以上である請求項1〜のいずれか1項に記載のガラス−樹脂複合体。
【請求項5】
前記樹脂フィルムの前記ガラス板とは反対側の主面上に感光性材料を含む層を有する請求項1〜のいずれか1項に記載のガラス−樹脂複合体。
【請求項6】
前記樹脂フィルムが、粘着性材料を含む層を介して前記ガラス板の少なくとも一方の主面上の全面に設けられ、
前記粘着性材料を含む層の90°引きはがし粘着力が0.01N/25mm以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラス−樹脂複合体。
【請求項7】
複合体の総厚みが0.3mm以下である請求項1〜のいずれか1項に記載のガラス−樹脂複合体。
【請求項8】
前記ガラス板が、酸化物基準の質量百分率でSiO:65〜75%、Al:0.1〜8.6%、MgO:2〜10%、CaO:1〜10%、NaO:10〜18%、KO:0〜8%およびZrO:0〜4%含有し、NaO+KO:10〜18%であるガラスである請求項1〜のいずれか1項に記載のガラス−樹脂複合体。
【請求項9】
板厚t1が0.05mm〜0.25mmのガラス板を化学強化する工程、
前記ガラス板の少なくとも一方の主面上の全面に、厚みt2及び降伏応力Pがt1(mm)×4(N/mm)<t2(mm)×P(N/mm)の関係を満たす樹脂フィルムを設ける工程、及び
感光性材料を含む層を前記樹脂フィルムの前記ガラス板とは反対側の主面上に設ける工程
をこの順に有するガラス−樹脂複合体の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂フィルムを設ける工程において、前記樹脂フィルムが前記ガラス板の輪郭線の少なくとも一部から食み出し、前記食み出した部分の最長の長さが10mm以上となるように前記樹脂フィルムを前記ガラス板上に設ける請求項に記載のガラス−樹脂複合体の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂フィルムを設ける工程において、90°引きはがし粘着力が0.01N/25mm以上である粘着性材料を含む層を介して、前記樹脂フィルムを前記ガラス板の少なくとも一方の主面上の全面に設ける請求項9又は10に記載のガラス−樹脂複合体の製造方法。
【請求項12】
前記感光性材料を含む層を設けた後、さらに露光する工程を有する請求項9〜11のいずれか1項に記載のガラス−樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板及び樹脂フィルムを含むガラス−樹脂複合体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フォトマスク基板やLCD画像マスク基板などの材料としては、ロールプロセスに対応可能なPETなどの樹脂フィルムが用いられている。しかしながら、樹脂フィルムは熱膨張係数や湿度膨張係数が大きく、温度や湿度により寸法変化してしまうことから、より精密さが求められる用途へ適用するのは困難である。
【0003】
そこで、フォトマスク基板やLCD画像マスク基板などの材料として、温度や湿度により寸法変化しにくい石英ガラスなども用いられている。
【0004】
特許文献1には、薄肉化したガラスフィルムを剥離可能なプラスチックフィルムに付着した状態で所望の箇所に貼着した後、前記プラスチックフィルムを剥離除去することで、取扱い時に破損し難くなるガラスフィルムの取扱い方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、支持シート、ガラスフィルム、及び保護シートがこの順で積層されたガラスフィルム積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2001−97733号公報
【特許文献2】日本国特開2010−228166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フィルムマスクは露光時や現像時にプロッターや自動現像機といった装置内に挿入され、ロールプロセスで曲げられながら自動搬送される。そこでフィルムマスクにガラスを用いる場合、装置内でロールに沿って曲げられても割れないことが求められる。
ロールに沿わせられる可撓性(フレキシビリティ)を満たすためにはガラスの板厚を薄くする方法が考えられる。しかしながら板厚が薄くなるとその分ガラスの機械的強度が弱くなり、取り扱い性も悪くなる。また、該ガラス板が破損した場合には、ガラスが飛散し得る。
【0008】
特許文献1に記載されたガラスフィルムは、ガラスフィルムの縁部からクラックが入り、欠けや割れが生じやすい。なお、該縁部は微細な傷が残存しており、該微細な傷を起点として、割れや欠けが生じることとなる。また、特許文献1に記載されたガラス積層体の製造方法では、ガラスの端面の全ての表層に強化処理を行うことができず、ガラスの機械的強度を十分向上させることができない。
【0009】
特許文献2に記載されたガラスフィルム積層体は、アルカリ成分が実質的に含まれていないガラスが用いられており、化学強化処理を行うことができない。このようなガラスは機械的強度が弱く、取扱い性も悪い。また、ガラスフィルムに保護シートが剥離可能に積層されており、ガラスの飛散を十分に防止できない。
【0010】
そこで本発明は、可撓性に優れかつ機械的強度にも優れたガラス板と樹脂フィルムとを含むガラス−樹脂複合体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下のとおりである。
[1] ガラス板及び樹脂フィルムを含むガラス−樹脂複合体であって、
前記ガラス板の少なくとも一方の主面上の全面に前記樹脂フィルムが設けられ、
前記ガラス板が、主面及び端面のすべての表層に圧縮応力層を有する化学強化ガラスであり、
前記ガラス板の板厚t1が0.05〜0.25mmであり、かつ
前記板厚t1、前記樹脂フィルムの厚みt2及び前記樹脂フィルムの降伏応力Pが{t1(mm)×4(N/mm)<t2(mm)×P(N/mm)}の関係を満たすことを特徴とするガラス−樹脂複合体。
[2] 前記ガラス板の主面の形状が、縦方向の長さに対して横方向の長さが10倍未満の略矩形である前記[1]に記載のガラス−樹脂複合体。
[3] 前記樹脂フィルムの形状が、縦方向の長さに対して横方向の長さが10倍以上の略矩形である[1]または[2]に記載のガラス−樹脂複合体。
[4] 前記ガラス板の両主面上の全面に前記樹脂フィルムを有する前記[1]〜[3]のいずれか1に記載のガラス−樹脂複合体。
[5] 前記樹脂フィルムが前記ガラス板の輪郭線の少なくとも一部から食み出し、前記食み出した部分の最長の長さが10mm以上である前記[1]〜[4]のいずれか1に記載のガラス−樹脂複合体。
[6] 前記樹脂フィルムの前記ガラス板とは反対側の主面上に感光性材料を含む層を有する前記[1]〜[5]のいずれか1に記載のガラス−樹脂複合体。
[7] 前記樹脂フィルムが、粘着性材料を含む層を介して前記ガラス板の少なくとも一方の主面上の全面に設けられ、前記粘着性材料を含む層の90°引きはがし粘着力が0.01N/25mm以上である前記[1]〜[6]のいずれか1に記載のガラス−樹脂複合体。
[8] 複合体の総厚みが0.3mm以下である前記[1]〜[7]のいずれか1に記載のガラス−樹脂複合体。
[9] 前記ガラス板が、酸化物基準の質量百分率でSiO:65〜75%、Al:0.1〜8.6%、MgO:2〜10%、CaO:1〜10%、NaO:10〜18%、KO:0〜8%およびZrO:0〜4%含有し、NaO+KO:10〜18%であるガラスである前記[1]〜[8]のいずれか1に記載のガラス−樹脂複合体。
[10] 板厚t1が0.05mm〜0.25mmのガラス板を化学強化する工程、
前記ガラス板の少なくとも一方の主面上の全面に、厚みt2及び降伏応力Pがt1(mm)×4(N/mm)<t2(mm)×P(N/mm)の関係を満たす樹脂フィルムを設ける工程をこの順に有するガラス−樹脂複合体の製造方法。
[11] 板厚t1が0.05mm〜0.25mmのガラス板を化学強化する工程、
前記ガラス板の少なくとも一方の主面上の全面に、厚みt2及び降伏応力Pがt1(mm)×4(N/mm)<t2(mm)×P(N/mm)の関係を満たす樹脂フィルムを設ける工程、及び
感光性材料を含む層を前記樹脂フィルムの前記ガラス板とは反対側の主面上に設ける工程をこの順に有するガラス−樹脂複合体の製造方法。
[12] 前記樹脂フィルムを設ける工程において、前記樹脂フィルムが前記ガラス板の輪郭線の少なくとも一部から食み出し、前記食み出した部分の最長の長さが10mm以上となるように前記樹脂フィルムを前記ガラス板上に設ける前記[10]又は[11]に記載のガラス−樹脂複合体の製造方法。
[13] 前記樹脂フィルムを設ける工程において、90°引きはがし粘着力が0.01N/25mm以上である粘着性材料を含む層を介して、前記樹脂フィルムを前記ガラス板の少なくとも一方の主面上の全面に設ける前記[10]〜[12]のいずれか1に記載のガラス−樹脂複合体の製造方法。
[14] 前記感光性材料を含む層を設けた後、さらに露光する工程を有する前記[11]〜[13]のいずれか1に記載のガラス−樹脂複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るガラス−樹脂複合体におけるガラス板は寸法変化が少なく、また、割れることなく曲げることができる可撓性を有する。また高強度であり、取扱い性に優れる。さらに、樹脂フィルムと複合化されているので、ガラスが割れたとしても飛散を防止できる。
【0013】
そのため、本発明に係るガラス−樹脂複合体はフィルムマスク等の精密な用途にも好適に用いることができる。さらには露光時や現像時にプロッターや自動現像機といった装置内においてロールプロセスで曲げられながら自動搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例2において、ガラス板の一方の主面上の全面に樹脂フィルムを有する場合の、ガラス−樹脂複合体の断面図である。
図2図2は、実施例3において、ガラス板の両主面上の全面に樹脂フィルムを有する場合の、ガラス−樹脂複合体の断面図である。
図3図3は、比較例4において、ガラス板の一方の主面上の端部にのみ樹脂フィルムを有する場合の、ガラス−樹脂複合体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
また本明細書において数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0016】
<ガラス−樹脂複合体>
本発明の実施形態に係るガラス−樹脂複合体は、ガラス板及び樹脂フィルムを含み、前記ガラス板の少なくとも一方の主面上の全面に前記樹脂フィルムが設けられ、前記ガラス板が、主面及び端面のすべての表層に圧縮応力層を有する化学強化ガラスであり、前記ガラス板の板厚t1が0.05〜0.25mmであり、かつ前記板厚t1、前記樹脂フィルムの厚みt2及び前記樹脂フィルムの降伏応力Pが{t1(mm)×4(N/mm)<t2(mm)×P(N/mm)}の関係を満たすことを特徴とする。
【0017】
(ガラス板)
ガラス板を用いることにより、湿度変化による膨張(寸法変化)を防ぐことができることから好ましい。
ガラス板を曲げる際には、その曲率半径Rに応じて曲げ応力σが発生する。この曲率半径Rと曲げ応力σの関係は以下の式で表すことができる。
σ=Ed/2(1−ν)R
上記式において各記号は以下の意味を表す
σ:曲げ応力
E:ヤング率
d:板厚
ν:ポアソン比
R:曲率半径
【0018】
例えばガラスのヤング率を72GPa、ガラスのポアソン比を0.23とした場合、ガラスの板厚を0.15mm、曲率半径を25.2mmとした時には、ガラスには約230MPaの曲げ応力がかかる。ガラス板の表面圧縮応力(CS;compressive stress)の値が該曲げ応力の値以下であれば、その曲率半径で曲げようとすると割れが生じ、一方、圧縮応力値が該曲げ応力の値より高ければ、その曲率半径に曲げることができる。
【0019】
曲率半径が小さいほど曲げ応力は大きくなり、その分ガラス板の高強度が求められる。本発明の実施形態におけるガラス板は曲率半径が25mm以下でも割れない強度を有することが好ましく、23mmでも割れない強度を有することがより好ましい。
具体的には、ガラス板のCSは250MPa以上であることが好ましく、300MPa以上がより好ましく、400MPa以上がさらに好ましい。CSが大きいほど可撓性に優れると言える。また、CSは1000MPa以下であると、内部引張応力(CT;Central Tension)が過度に大きくなることを防げることから好ましく、900MPa以下がより好ましい。
なお、ガラス表面に圧縮応力層を形成すれば、そのCSの分だけ破壊強度を高めることができる。
【0020】
圧縮応力層はガラス板を化学強化処理することで形成でき、上記CS値を達成することが好ましい。すなわち、イオン交換法によりガラス板の主面及び端面のすべての表層に圧縮応力層を形成させる。これにより形成された圧縮応力層におけるガラス組成は、ガラス内部におけるガラス組成と異なっている。一般的に圧縮応力層はガラス内部と比較してイオン半径の大きなアルカリ金属イオンをより多く含有する。例えば、硝酸カリウム溶融塩浴によりイオン交換を行った場合、圧縮応力層はガラス内部よりKOを多く含有する。
化学強化処理の具体的な方法については後述するが、イオン交換を行うための溶融塩中の塩濃度や強化時間、溶融塩の温度等により所望のCSの値に調整することができる。
【0021】
化学強化処理により形成された圧縮応力層の深さ(DOL;depth of layer)は特に制限はないが、6μm以上であると、微小なクラックが内部引張応力層に到達しにくくなることから好ましく、8μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましく、12μm以上が特に好ましい。また、25μm以下であると、内部引張応力CTが過度に大きくなることを防げるため好ましく、20μm以下がより好ましい。
DOLの値はイオン交換を行うための溶融塩中の塩濃度や強化時間、溶融塩の温度等により調整することができる。
なお、CS及びDOLの値は表面応力計により測定することができる。
【0022】
また、化学強化ガラスの内部引張応力CTは250MPa以下であると、ガラスが粉々に破砕することを抑制できることから好ましく、200MPa以下がより好ましく、180MPa以下がさらに好ましい。また、内部引張応力CTが小さいと、化学強化の効能を得にくくなることから、下限は15MPa以上が好ましく、30MPa以上がより好ましく、50MPa以上であることがさらに好ましい。
なお、CS及びDOLとCTとの関係はガラス板の板厚t1を用いて下記の式により近似的に求めることができる。
CT(MPa)=[CS(MPa)×DOL(μm)/{t1(μm)−2×DOL(μm)}]
【0023】
ガラス板の板厚を薄くすることによってもガラス板の可撓性を向上することができる。すなわち、小さい曲率半径でもガラスを割らずに曲げることができるようになる。一方で、ガラスの板厚は薄くなるほど機械的強度が下がり、取扱い性が悪化する。また内部引張応力が過度に大きくならないようにガラスの表層に圧縮応力層を設けるのが困難となる。そのため本発明の実施形態におけるガラス板の板厚t1の下限は0.05mmであり、0.06mm以上がより好ましく、0.08mm以上がさらに好ましく、0.10mm以上が特に好ましい。一方、ガラス板の板厚が厚すぎるとガラスの可撓性が低くなることから、上限は0.25mmであり、0.23mm以下がより好ましく、0.21mm以下がさらに好ましく、0.19mm以下が特に好ましい。
なお、ガラス板の板厚t1とはガラス板の一方の主面と他方の主面との距離の平均板厚であり、マイクロメータにより測定できる。
【0024】
ガラス板の板厚の最大値と最小値の差は、ガラス板を曲げた際に主面内に発生する引張応力の分布を小さくし、主面内で破壊しやすい領域が生じないようにするために、0.03mm以下が好ましく、0.02mm以下がより好ましい。
【0025】
ガラス板の主面の形状は特に限定されず、ガラス−樹脂複合体の用途によって選択することができる。
例えば本発明の実施形態に係るガラス−樹脂複合体をフォトマスクに用いる場合には、ロール状ではなく枚葉の略矩形であることが好ましい。すなわち、縦方向の長さに対して横方向の長さが10倍未満の略矩形であることが好ましく、2倍未満の略矩形であることがより好ましい。中でも一辺の長さが400〜1000mmの略矩形がより好ましい。
ガラス板が枚葉であれば、化学強化処理により主面及び端面のすべての表層に圧縮応力層が形成されたガラス板を用いて、ガラス−樹脂複合体を作製することができる。一方、ロール状のガラスを用いると、その長さ故に化学強化処理をすることが難しい。またロール状のガラスに化学強化処理を行っても、該処理後に所望の大きさにカットして用いた際、該カットした端面は圧縮応力層が未形成である。
また、ガラス−樹脂複合体の用途によってはガラス板の主面の形状が縦方向の長さに対して横方向の長さが10倍以上の略矩形であってもよい。この場合のガラス板は枚葉ではなく、ロール状とすることが好ましい。また樹脂フィルムもロール状であると、ガラス−樹脂複合体をロール状とすることができ、連続プロセスに適用しやすく、高い製造効率が望める。
【0026】
なお、本明細書においてガラス板の「端面」とは、対向した2つの主面を接続する面を意味する。また「略矩形」とは、製造工程の誤差範囲により厳密な長方形でなくともよいことを意味し、頂点の角度がいずれも90°±5°の四角形を意味する。また「略矩形」とは実質的に略矩形であればよく、ガラス板の角部が直線状又は曲線状に面取り(C面取り又はR面取り)されていてもよい。
【0027】
ガラス板の組成は、イオン交換が可能なものであれば特に制限されない。例えばソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス等を用いることができる。中でも、両主面の圧縮応力層深さ(DOL)が過度に大きくならないため、ソーダライムガラス又はソーダシリケートガラスが好ましく、ソーダライムガラスがより好ましい。
【0028】
好ましいガラスの組成としては、以下のガラスの組成が挙げられる。
(i)質量%で表示した組成で、SiOを65〜75%、Alを0.1〜8.6%、MgOを2〜10%、CaOを1〜10%、NaOを10〜18%、KOを0〜8%、ZrOを0〜4%含有し、NaO+KOが10〜18%であるガラス。(ii)質量%で表示した組成で、SiOを65〜72%、Alを3.4〜8.6%、MgOを3.3〜6%、CaOを6.5〜9%、NaOを13〜16%、KOを0〜1%、TiOを0〜0.2%、Feを0.005〜0.15%、SOを0.02〜0.4%含有し、(NaO+KO)/Alが1.8〜5.0であるガラス。(iii)モル%で表示した組成で、SiOを60〜75%、Alを0.8〜4.5%、NaOを10〜19%及びCaOを0.1〜15%含有するガラス。(iv)モル%で表示した組成で、SiOを65〜72%、Alを0.8〜4.5%、MgOを5〜13.5%、CaOを0.8〜9%、NaOを12〜17%、KOを0〜3%含有し、RO/(RO+RO)が0.410以上、0.52以下(式中、ROとはアルカリ土類金属酸化物、ROはアルカリ金属酸化物を示す。)であるガラス。
【0029】
以下、各成分の含有量について、質量%表示で示す。
SiOはガラスの骨格を構成する成分である。また、ガラス表面に傷(圧痕)がついた時のクラックの発生を低減させる、または化学強化後に圧痕をつけた時の破壊率を小さくする成分であり、熱膨張係数を小さくする成分でもある。SiOの含有量は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上、特に好ましくは66%以上である。SiOの含有量が50%以上であることによって、ガラスとしての安定性や耐酸性、耐候性またはチッピング耐性の低下を回避できる。一方、SiOの含有量は、好ましくは75%以下、より好ましくは73%以下、さらに好ましくは70%以下である。SiOの含有量が75%以下であることによって、ガラスの粘性の増大による溶融性の低下を回避することができる。
【0030】
Alは、イオン交換性能およびチッピング耐性を向上させるために有効な成分であり、または表面圧縮応力を大きくする成分であり、ガラス転移点以上での熱膨張係数を大きくなりにくくする成分でもある。Alの含有量は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3.4%以上である。Alの含有量は、好ましくは12%以下、より好ましくは8.6%以下、さらに好ましくは6%以下である。一方、Alの含有量が12%以下であることによって、ガラスの溶融性が良好になる。
【0031】
MgOは、ガラスを安定化させる成分であり、熱膨張係数を適度に維持するために必要な成分でもある。MgOの含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、特に好ましくは3.3%以上である。また、MgOの含有量は、好ましくは12%以下であり、より好ましくは11%以下、さらに好ましくは10%以下、よりさらに好ましくは9%以下、ことさらに好ましくは8%以下、特に好ましくは6%以下である。MgOの含有量が1%以上であると、高温での熔解性が良好になる。一方、MgOの含有量が12%以下であると、失透が起こりにくく、また充分なイオン交換速度が得られる。
【0032】
CaOは、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、熱膨張係数を適度に維持するために有効な成分でもある。CaOの含有量は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは4%以上、特に好ましくは6.5%以上である。一方、CaOの含有量は、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは9%以下、特に好ましくは8%以下である。CaOの含有量が0.1%以上であることによって、溶融性を向上させることができ、CaOの含有量が15%以下であることによって、表面圧縮応力層を深くすることができる。
【0033】
SrOは、ガラスの高温での溶解性と熱膨張係数を調整するために有効な成分である。SrOの含有量は好ましくは10%以下であり、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下である。SrOの含有量が10%以下であれば、ガラスの密度が小さくなり、ガラスの重量が小さくなる。SrOを含有させる場合、1%以上が好ましく、より好ましくは1.5%以上である。
【0034】
BaOは、ガラスの高温での溶解性と熱膨張係数を調整するために有効な成分である。BaOの含有量は好ましくは3%以下であり、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。BaOの含有量が3%以下であれば、ガラスの密度が小さくなることから、ガラスの重量が小さくなりやすい。また、傷つきやすくなることを抑制できる。
【0035】
NaOはイオン交換により表面圧縮応力層を形成させ、またガラスの溶融性を向上させる成分である。NaOの含有量は、好ましくは10%以上、より好ましくは11%以上、さらに好ましくは12%以上、特に好ましくは13%以上である。一方、NaOの含有量は、好ましくは19%以下、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下、特に好ましくは15%以下である。NaOの含有量が10%以上であることによって、イオン交換により所望の表面圧縮応力層を形成することができ、NaOの含有量が19%以下であることによって、耐候性または耐酸性の低下または圧痕からのクラックの発生を回避できる。
【0036】
Oは、必要に応じて含有させることができるが、その含有量は0.1%以上が好ましい。KOの含有量が0.1%以上の場合、ガラスの高温での溶解性と適度な熱膨張係数を維持できる。KOの含有量は、より好ましくは0.5%以上、特に好ましくは1%以上である。KOの含有量は、8%以下であることが好ましい。KOの含有量が8%以下であれば、ガラスの密度が小さくなり、ガラスの重量が小さくなる。KOの含有量は、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下、よりさらに好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。
【0037】
Feは、ガラスの溶融性を向上させる成分である。Feは、熱線を吸収する成分であることから、溶融ガラスの熱対流を促してガラスの均質性を向上させ、また溶融窯の底煉瓦の高温化を防ぐことで窯寿命を延ばす等の効果があり、大型窯を用いる板ガラスの溶融プロセスでは組成中に含まれていることが好ましい。Feの含有量は好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.03%以上、特に好ましくは0.06%以上である。一方、過度に含有するとFeによる着色が問題となるため、Feの含有量は0.2%以下が好ましく、0.15%以下がより好ましく、0.12%以下がさらに好ましく、0.095%以下が特に好ましい。
【0038】
ガラスのヤング率及びポアソン比は材料固有の値であり、ガラスの組成等によって異なるが、一般的なガラスのヤング率は65〜80GPaである。また一般的なガラスのポアソン比は0.21〜0.24である。
ガラスのヤング率、ポアソン比は超音波パルス法や曲げ共振法などの周知の方法により測定することができる。
【0039】
(樹脂フィルム)
本発明の実施形態に係るガラス−樹脂複合体において、樹脂フィルムはガラス板の少なくとも一方の主面上の全面に設けられ、保護層としての役割を担う。すなわち、ガラス板屈撓時に、樹脂フィルムも変形することなくガラスに沿って共に曲がり、またガラス破損時にガラス破片が複合体外に飛散することを防止する。なお、ここでの変形とは、裂けたり、伸びたりすることを意味し、樹脂フィルムの降伏応力超の応力がかかることを意味する。
樹脂フィルムはガラス板の両主面上の全面に設けられることが、ガラス破損時のガラス破片飛散防止効果がより顕著であることからより好ましい。
【0040】
ガラス板の板厚をt1、樹脂フィルムの厚みをt2、樹脂フィルムの降伏応力をPとした時、{t1(mm)×4(N/mm)<t2(mm)×P(N/mm)}の関係を満たす。かかる関係式は、ガラス板屈撓時に生じる弾性応力よりも、樹脂フィルムの降伏応力の方が高く、ガラスが曲がった場合でも樹脂フィルムが裂けたり伸びたりせずに、ガラスに沿って共に曲がることを意味する。かかる関係式を満たすことにより、板厚t1のガラス板を曲げるのに必要な張力を与えても不可逆変形しない高い降伏応力を有する樹脂フィルムであると言うことができる。
【0041】
樹脂フィルムの厚みt2が厚すぎると、ガラス板を用いたことによる寸法精度の向上効果が小さくなる。t2が薄すぎるとガラス板が破損した際の飛散防止能が低くなったり、樹脂フィルム自身が変形しやすくなる。
また樹脂フィルムの降伏応力Pが低すぎると、ガラス板を曲げた際に、樹脂フィルムが変形しやすくなる。
【0042】
樹脂フィルムの厚みt2及び降伏応力Pは{t1(mm)×4(N/mm)<t2(mm)×P(N/mm)}の関係を満たせば特に制限されないが、{t2(mm)×P(N/mm)}の値が{t1(mm)×5(N/mm)}以上であることがより好ましく、{t2(mm)×P(N/mm)}の値が{t1(mm)×6(N/mm)}以上であることがさらに好ましく、{t2(mm)×P(N/mm)}の値が{t1(mm)×7(N/mm)}以上であることが特に好ましい。
t2は一般的に6〜250μmであり、10μm以上が好ましく、20μm以下が好ましい。またPは一般的に20N/mm以上であればよく、50N/mm以上が好ましい。
樹脂フィルムの厚みはデジタルマイクロメータによって、降伏応力はJIS K 7127(1999年)によってそれぞれ測定することができる。
【0043】
樹脂フィルムの形状は特に限定されず、ガラス−樹脂複合体の用途によって選択することができる。
ガラス−樹脂複合体をフォトマスクに用いる場合の樹脂フィルムは、ガラス板の形状と同様に、ロール状ではなく、縦方向の長さに対して横方向の長さが10倍未満の枚葉の略矩形が好ましい。
また、ガラス−樹脂複合体の用途によっては樹脂フィルムの形状が縦方向の長さに対して横方向の長さが10倍以上の略矩形でもよい。この場合、樹脂フィルムはロール状が好ましい。またこの場合、ガラス板は枚葉であってもロール状であってもよい。樹脂フィルムがロール状であれば、連続プロセスに適用でき、樹脂フィルムがベルトコンベアのような役割を果たし、製造効率を高くすることができる。
本複合体は、ガラス板の厚さ、樹脂フィルムの厚さ、降伏応力を適切に組み合わせることで、ガラス板が曲がってもガラス板が割れにくく、また、ガラスが割れた場合でも樹脂フィルムが破れてガラスが飛び出すことが防止できる。
【0044】
樹脂フィルムはガラス板の両主面の全面に設けられていることが、樹脂フィルムの効果がより発揮されることから好ましい。特にガラス破損時のガラス破片の飛散をより効果的に防止することができる。
【0045】
樹脂フィルムは上記条件を満たすものであれば制限されないが、ガラス板と樹脂フィルムの熱膨張係数が近い方が、感光材塗布後の変形が少ない点から好ましい。樹脂フィルムは、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、エポキシ(EP)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルホン(PES)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、アクリル樹脂(PMMA)、ウレタン樹脂(PU)、液晶ポリマー(LCP)等が挙げられ、PETがより好ましい。
【0046】
樹脂フィルムは粘着性材料によりガラス板上に貼着されても、圧着等により貼着されてもよい。またガラス板上で重合して樹脂フィルムを形成してもよい。
粘着性材料を含む層を介して樹脂フィルムがガラス板上に設けられる場合、粘着性材料を含む層の90°引きはがし粘着力が0.01N/25mm以上であることが好ましく、0.1N/25mm以上がより好ましい。
90°引きはがし粘着力はJIS Z 0237(2009)の90°引きはがし粘着力試験に準拠する方法により測定することができる。
【0047】
粘着性材料として、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられ、中でも耐熱性や透明性に優れるアクリル樹脂やシリコーン樹脂が好ましい。
粘着性材料を含む層が厚すぎると、樹脂フィルムが自由に動ける可能性が高くなり、ガラス板による寸法精度の向上効果が小さくなることから、50μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましい。
【0048】
ガラス板と樹脂フィルムとを積層する方法は特に制限されず、種々の方法を採用することができる。
例えば、常圧環境下で樹脂フィルムの表面上にガラス板を重ねる方法を使用することができる。なお、必要に応じて、樹脂フィルムの表面にガラス板を重ねた後、ロールやプレスを用いて樹脂フィルムにガラス板を圧着させることが好ましい。ロールまたはプレスによる圧着により、樹脂フィルムとガラス板との間に混入している気泡が容易に除去される。
【0049】
真空ラミネート法や真空プレス法による圧着は、気泡の混入の抑制や良好な密着の確保が行われるため、より好ましい。真空下で圧着することにより、微小な気泡が残存した場合でも、加熱により気泡が成長することがなく、ガラス基板のゆがみ欠陥につながりにくいという利点もある。また、真空加熱下で圧着することで、より気泡が残存しにくくなる。
【0050】
樹脂フィルムとガラス板とを積層する際には、樹脂フィルムに接触するガラス板の表面を十分に洗浄し、JIS B 9920(2002)に準拠する清浄度クラスにおいてクラス1〜7の環境で積層することが好ましい。これにより、1m中の0.1μm以上の粒子数が少なく、ガラス−樹脂複合体の平坦性が良好となる。
【0051】
樹脂フィルムはガラス板の主面上の全面を覆っていればよく、ガラス板の輪郭線の一部または全部から食み出していてもよい。ガラス−樹脂複合体をフィルムマスクに用いる場合、ガラス板の輪郭線の少なくとも一部から食み出し、前記食み出した部分の最長の長さが10mm以上であると、露光時や現像時にプロッターや自動現像機といった装置内にガラス−樹脂複合体を挿入する際に、該食み出した部分をガイドフィルムとして、装置内のロールに巻きつかせ、ガラス−樹脂複合体を装置内に導くことができることから好ましい。
食み出した部分の最長の長さは、食み出した部分の幅が15mm以上あると、ガイドフィルムとして装置内に咬ませやすいことからより好ましく、30mm以上がさらに好ましく、50mm以上が特に好ましい。
【0052】
また、樹脂フィルムはガラス板の輪郭線の全部分において食み出していることが、ガラス破損時のガラス破片飛散防止の点からより好ましい。
なお、図1には、ガラス板の一方の主面上の全面に樹脂フィルムが粘着性材料を含む層を介して設けられている場合の模式図(断面図)を示し、図2に、ガラス板の両主面上の全面に樹脂フィルムが粘着性材料を含む層を介して設けられている場合の模式図(断面図)を示すが、図1及び図2において、ガラス板の幅よりも外に食み出している部分がガイドフィルムとしての役割を果たす。
【0053】
(感光性材料)
本発明の実施形態に係るガラス−樹脂複合体がフォトマスク等に用いられる場合、樹脂フィルムのガラス板側と反対側の主面上に感光性材料を含む層を有することが好ましい。感光性材料は樹脂フィルムを介して存在するガラス板の全面を覆うことがより好ましい。
感光性材料として銀塩乳剤を含ませることができる。銀塩乳剤はゼラチン及び高分子合成ポリマーの膠質物質の中にハロゲン化銀の微結晶を分散させたものを指す。主面上には感光性材料を含む層以外に、加傷防止のための保護層、乳剤と基材の界面に基材との密着を向上させるための下地層が設けられてもよい。ガラス板の感光性材料を含む層が設けられる主面と反対側の主面にも樹脂フィルムが設けられる場合は、感光性材料を含む層の表面にハレーション防止層が設けられてもよい。
【0054】
感光性材料を含む層の厚みは1〜20μmであればよく、3μm以上が好ましく、10μm以下が好ましい。
【0055】
(ガラス−樹脂複合体)
ガラス−樹脂複合体の総厚みは用いるガラス板や樹脂フィルム等によっても異なるが、0.4mm以下であることが可撓性向上の点から好ましく、0.3mm以下がより好ましく、0.25mm以下がさらに好ましく、0.2mm以下が特に好ましい。また複合体の剛性の点から0.1mm以上が好ましく、0.12mm以上がより好ましく、0.15mm以上が特に好ましい。
【0056】
本発明の実施形態に係るガラス−樹脂複合体の用途は特段限定されないが、例えばフォトマスク等の基板へ適用に好適である。中でも本発明の実施形態に係るガラス−樹脂複合体をプリント配線基板(PCB)の基板作製用のフィルムフォトマスク代替として使用し、プロッター露光により高速描写し、次いで自動現像機にて現像、定着及び水洗に供されることがより好ましい。また、インクジェットプリンターなどにおいて移動量を制御するためのエンコーダーフィルムとして用いられることがより好ましい。また、携帯端末や車載ディスプレイなどのディスプレイカバーガラスとして用いてもよい。本発明では、ガラスの適切な板厚、樹脂フィルムの適切な厚み、及び適切な降伏応力を有しているため、ガラスが割れたとしても飛散を防止できる。
【0057】
<ガラス−樹脂複合体の製造方法>
本発明の実施形態に係るガラス−樹脂複合体の製造方法は、下記工程をこの順に有することを特徴とする。(i)板厚t1が0.05mm〜0.25mmのガラス板を化学強化する工程、(ii)前記ガラス板の少なくとも一方の主面上の全面に、厚みt2及び降伏応力Pがt1(mm)×4(N/mm)<t2(mm)×P(N/mm)の関係を満たす樹脂フィルムを設ける工程。また好ましくは、本発明の実施形態に係るガラス−樹脂複合体の製造方法は、下記工程をこの順に有することを特徴とする。(i)板厚t1が0.05mm〜0.25mmのガラス板を化学強化する工程、(ii)前記ガラス板の少なくとも一方の主面上の全面に、厚みt2及び降伏応力Pがt1(mm)×4(N/mm)<t2(mm)×P(N/mm)の関係を満たす樹脂フィルムを設ける工程、(iii)感光性材料を含む層を前記樹脂フィルムの前記ガラス板とは反対側の主面上に設ける工程。
【0058】
(工程i:化学強化する工程)
化学強化する工程では、製造されたガラスを板厚t1が0.05mm〜0.25mmの所望のサイズに切断してガラス板にした後に化学強化処理を行う。ガラスの好ましい態様については先の(ガラス板)の項目で述べたとおりであるが、化学強化処理の前に、用途に応じた形状加工、例えば、切断、端面加工および孔あけ加工などの機械的加工や面取りなどの研磨加工等を行ってもよい。
化学強化とは、ガラス板表面付近のイオンを、イオン半径の大きいイオンに置換することであり、それにより、ガラス板表面に圧縮応力層が形成され、ガラスの強度が向上する。
【0059】
具体的には、ガラス板表面のLiイオンをNaイオン及び/またはKイオンに置換したり、ガラス板表面のNaイオンをKイオンに置換することで圧縮応力層が形成される。
NaイオンをKイオンに置換する場合、例えば硝酸カリウムを含む無機溶融塩に、ナトリウムを含むガラス板を接触させる。前記無機溶融塩はKCO、NaCO、KHCO、NaHCO、KOH及びNaOHからなる群より選ばれる少なくとも一種の塩を含むことが好ましい。その後、ガラス板を洗浄する工程、酸及び/またはアルカリで処理する工程、乾燥する工程等を含んでいてもよい。
【0060】
化学強化ガラスのCSやDOLの調整は、イオン交換に用いる溶融塩中のイオン濃度や強化時間、溶融塩の温度を調整すること等により可能である。例えばNaイオンをKイオンに置換する場合において、より高いCSを得るためには、溶融硝酸カリウム塩中のNa濃度を低減することで達成できる。またより深いDOLを得るためには、溶融塩の温度を上げることで達成できる。
【0061】
(工程ii:樹脂フィルムを設ける工程)
工程iで得られた化学強化ガラス板に対し、少なくとも一方の主面上の全面に、厚みt2及び降伏応力Pがt1(mm)×4(N/mm)<t2(mm)×P(N/mm)の関係を満たす樹脂フィルムを設ける。
【0062】
樹脂フィルムをガラス板上へ設ける方法や好ましい態様は先の(樹脂フィルム)の項目に述べたとおりであるが、中でも90°引きはがし粘着力が0.01N/25mm以上である粘着性材料を含む層を介して、前記樹脂フィルムを前記ガラス板の少なくとも一方の主面上の全面に設けることが好ましい。また、前記ガラス板の輪郭線の少なくとも一部から食み出し、前記食み出した部分の最長の長さが30mm以上となるように前記樹脂フィルムを前記ガラス板上に設けることが好ましい。
【0063】
(工程iii:感光性材料を含む層を設ける工程)
本発明の実施形態に係るガラス−樹脂複合体をフォトマスクに用いる場合、工程iiで設けられた樹脂フィルムの、ガラス板とは反対側の主面上に感光性材料を含む層を設ける。感光性材料の種類や好ましい態様は、先の(感光性材料)の項目に述べたとおりである。
感光性材料は、直接フィルムに塗布せず、バッファ層や、別の機能膜の上に塗布してもよい。また、塗布後、その上にさらにオーバーコートを施してもよい。
現行のフィルムフォトマスク製造工程を流用するため、感光性材料が塗布されたフィルムをガラスの上に貼ることによって、感光性材料を含む層を設けてもよい。
【0064】
(工程iv:露光する工程)
フォトマスク用途においては、工程iiiに次いで、さらにパターンを露光する工程を有することが好ましい。露光条件は特に制限されず、従来一般的に用いられる条件を用いることができる。レーザー光を使用してパターン露光することが好ましく、レーザープロッターを用いて、曲げられた状態で露光されることが好ましい。
【0065】
(工程v:現像、定着する工程)
フォトマスク用途においては、工程ivに次いで、現像、定着することで、フォトマスクとすることができる。パターンを露光後、現像液に浸漬して現像し、定着液に浸漬して定着し、水洗してフォトマスクを得ることが好ましい。現像及び定着の工程は、曲げられた状態にて、現像液、定着液に触れることが好ましい。自動現像機にて現像、定着されることがより好ましい。
【0066】
また、上記工程iの前にガラスを製造する工程を有するが、その製造方法は特に限定されず、所望のガラス組成となるように調整したガラス原料を好ましくは1500〜1650℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
【0067】
なお、ガラスの成形には種々の方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法及びリドロー法等)、フロート法、ロールアウト法およびプレス法等の様々な成形方法を採用することができる。
【0068】
また、上記工程の前後や間に、ガラスの熱処理、表面処理、研磨、エッチング等の処理を行ってもよい。板厚を薄くするためには、化学エッチングにより薄くすることが好ましく、HFを含む薬液にてエッチングすることが好ましい。エッチングは主面だけでなく、端面も含めてエッチングされていることがより好ましい。主面のエッチングによる除去量は0.01mm以上であることが好ましく、0.05mm以上であることがより好ましく、0.1mm以上であることが特に好ましい。これにより、強度を改善することができる。主面のエッチングによる除去量は0.3mm以下であることが好ましく、0.2mm以下であることが好ましい。これにより、板厚の最大値と最小値の差を小さくすることができる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0070】
<実施例1>(化学強化ガラス板の作製)
酸化物基準のモル百分率表示で、SiOが68.8%、Alが3.0%、MgOが6.2%、NaOが14.2%、KOが0.2%、及びCaOが7.8%の組成(質量百分率表示で、SiOが68.5%、Alが5.0%、MgOが4.1%、NaOが12.8%、KOが0.3%、及びCaOが7.2%の組成)のソーダライムガラスとなるように一般的に使用されているガラス原料を選択し、フロート窯にてフロート法にてガラス板を作製した。得られたガラス板を切断、研磨し、30mm×30mm、板厚0.15mmの矩形状のガラス板を得た。なお、ガラス板の板厚はデジタルマイクロメータで測定した。
得られたガラス板の組成は蛍光X線法により同定を行い、所望の組成となっていることを確認した。
【0071】
次いで、ガラス板をNa濃度が0.5%で温度が430℃の溶融硝酸カリウム塩に5時間浸漬することで化学強化処理を行った。その後室温まで自然冷却し、洗浄、乾燥を行った。得られた化学強化ガラス板のCS及びDOLを表面応力計(折原製作所社製、FSM−6000)にて測定したところ、CSは600MPa、DOLは14μmであった。
【0072】
(ガラス−樹脂複合体の作製)
上記で得られた化学強化ガラス板の一方の主面を20cm×5cmの樹脂フィルム上の真ん中に配置した。このとき、ガラス板の対角線が樹脂フィルムの長手方向に対して平行となるように斜めに配置した。樹脂フィルムには粘着性材料付きポリエチレンテレフタレートフィルム(スミロン社製、TG−1100)を用い、粘着性材料がガラス板に当接するよう、ガラス板を樹脂フィルムに貼着した。
上記で得られたガラス−樹脂複合体の樹脂フィルムの厚みは25μm、粘着性材料を含む層の厚みは3μmであり、ガラス−樹脂複合体の総厚みは0.178mmであった。また{ガラス板厚t1(mm)×4(N/mm)}と{樹脂フィルムの厚みt2(mm)×降伏応力P(N/mm)}の値を表1に示す。
【0073】
<比較例1>
ガラス板の板厚を0.3mmとした以外は実施例1と同様にしてガラス−樹脂複合体を作製した。
<比較例2>
粘着性材料付きポリエチレンテレフタレートフィルム(きもと社製、プロセーブ6CBF2)を用い、樹脂フィルムの厚みを6μmとし、粘着性材料を含む層の厚みを4μmとした以外は実施例1と同様にしてガラス−樹脂複合体を作製した。
<比較例3>
樹脂フィルムを厚み0.050mmのポリエチレンフィルム(スミロン社製、EC625)とし、粘着性材料を含む層の厚みを10μmとした以外は実施例1と同様にしてガラス−樹脂複合体を作製した。
比較例1〜3の各物性を表1に示す。
【0074】
<曲げ試験>
実施例1及び比較例1〜3で得られたガラス−樹脂複合体の樹脂フィルム部分を万能試験機(島津製作所社製、AG−20kN)で引っ張り、ガラス−樹脂複合体を半径15mmの円柱に沿わせ、ガラス板の可撓性(R15mm追従性)及び樹脂フィルムの変形(裂けや伸び)の有無(フィルム降伏応力)についての評価を行った。
なお、ガラス板の対角線が樹脂フィルムの長手方向に対して平行となるように斜めに配置したのは、ガラス板の角部に応力が集中するようにするためであり、ガラスの可撓性及び樹脂フィルムの変形の有無の評価において強調試験となるようにするためである。
【0075】
曲げ試験の結果を表1に示す。
実施例1のガラス−樹脂複合体は半径15mmの円柱に沿って曲げることができ、また樹脂フィルムが変形することもなかったため、表1中の「R15mm追従性」及び「フィルム変形」を共に「○」とした。
比較例1のガラス−樹脂複合体はガラス板が厚く、抵抗が強すぎて屈撓しなかったことから表1中の「R15mm追従性」を「×」とした。「フィルム変形」は「−」としているが、ガラス板が曲がらなかったので、樹脂フィルムの裂けや伸びについての試験はできなかった。
比較例2及び3のガラス−樹脂複合体は、ガラス板を半径15mmの円柱に沿って曲げようとしたところ、ガラスが曲がる前に樹脂フィルムが裂けてしまった。
【0076】
【表1】
【0077】
<実施例2>
化学強化ガラスの表面に粒度400のサンドペーパー(日本研紙社製、WTCC−S)により傷をつけて強度を低下させ、該化学強化ガラス板の一方の主面を樹脂フィルム上に配置する際、ガラス板の対向する2辺が樹脂フィルムの長手方向に対して平行となるように配置した(ガラス板の残る対向する2辺は樹脂フィルムの長手方向に対して垂直となるように配置した)以外は実施例1と同様にしてガラス−樹脂複合体を得る。次いで、樹脂フィルムのガラス板とは反対側の主面上に感光性材料である銀塩乳剤を厚さ5μmとなるように塗布する。
得られるガラス−樹脂複合体の断面図を図1に示す。ガラス−樹脂複合体の樹脂フィルムの厚みは25μm、粘着性材料を含む層の厚みは3μmであり、ガラス−樹脂複合体の総厚みは0.183mmである。
【0078】
<実施例3>
実施例2において、さらに化学強化ガラス板の反対側の主面上の全面にも同様にして粘着性材料を含む層を介して樹脂フィルムを貼着させた以外は実施例2と同様にしてガラス−樹脂複合体を得る。なお感光性材料は一方の樹脂フィルム上にのみ塗布する。
得られるガラス−樹脂複合体の断面図を図2に示す。ガラス−樹脂複合体の樹脂フィルムの厚みは各々25μm、粘着性材料を含む層の厚みは各々10μmであり、ガラス−樹脂複合体の総厚みは0.225mmである。
【0079】
<比較例4>
実施例2で得られる化学強化ガラス板の一方の主面上の一対の対向する端部からそれぞれ10mmの部分にのみ粘着性材料を含む層を介して樹脂フィルムを貼着させた。化学強化ガラス板の他方の主面上に実施例2と同様に感光性材料を塗布する。
得られるガラス−樹脂複合体の断面図を図3に示す。ガラス−樹脂複合体の樹脂フィルムの厚みは25μm、粘着性材料を含む層の厚みは10μmである。
【0080】
<飛散防止試験>
実施例2、3及び比較例4のガラス−樹脂複合体について、半径25mmのロールによるロールプロセスに供することによりガラス板を破壊する。試験前後での重量減少分から、ガラス−樹脂複合体内に止まらずに飛散したガラス量を定量する。
なお、化学強化ガラス板の表面に傷をつけてガラス強度を低くしたことにより、実際よりも少ない力で容易にガラスは破壊される。
結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表1及び表2の結果から、ガラス板の良好な可撓性を得るためにはガラス板の板厚t1の好ましい上限があることが分かる。また、{ガラス板厚t1(mm)×4(N/mm)}<{樹脂フィルムの厚みt2(mm)×降伏応力P(N/mm)}の関係を満たすことにより、ガラスを曲げた際のガラス板の弾性力よりも樹脂フィルムの降伏応力の方が勝り、樹脂フィルムが変形(裂けや伸び)することなく、ガラス板に沿って共に屈撓できることが分かる。さらには、ガラス板の少なくとも一方の主面上の全面を樹脂フィルムで覆うことで、ガラス破損時のガラス破片飛散防止効果が得られる。その効果はガラス板の両主面上の全面を樹脂フィルムで覆うことでより効果的になる。
【0083】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2015年10月20日出願の日本特許出願(特願2015−206528)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係るガラス−樹脂複合体は湿度膨張係数が小さいことからフィルムマスク等の精密な用途にも好適に用いることができる。またガラス板の可撓性、樹脂フィルムの降伏応力等の特性を有することから、プロッターや自動現像機等のロールプロセスで自動搬送される装置内に挿入しても、樹脂フィルムを変形させることなくガラス−樹脂複合体が一体となって装置内のロール外周に沿わせて曲げることができる。さらには、ガラスが破損した場合でも、ガラスの破片が装置内部に飛散することを防止することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 ガラス板
2 樹脂フィルム
3 乳剤(感光性材料)
4 粘着性材料
図1
図2
図3