特許第6806089号(P6806089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806089
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】ジアミンおよびその利用
(51)【国際特許分類】
   C07C 219/34 20060101AFI20201221BHJP
   C07C 213/02 20060101ALI20201221BHJP
   C07C 233/62 20060101ALI20201221BHJP
   C07C 231/12 20060101ALI20201221BHJP
   C07C 205/42 20060101ALI20201221BHJP
   C07C 233/59 20060101ALI20201221BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20201221BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20201221BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C07C219/34CSP
   C07C213/02
   C07C233/62
   C07C231/12
   C07C205/42
   C07C233/59
   C08G73/10
   C09D179/08 A
   H05K1/03 610N
【請求項の数】17
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2017-561161(P2017-561161)
(86)(22)【出願日】2017年1月12日
(86)【国際出願番号】JP2017000843
(87)【国際公開番号】WO2017122730
(87)【国際公開日】20170720
【審査請求日】2019年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-5264(P2016-5264)
(32)【優先日】2016年1月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-190091(P2016-190091)
(32)【優先日】2016年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】何 邦慶
(72)【発明者】
【氏名】葉 鎮嘉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 光正
【審査官】 奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/153064(WO,A1)
【文献】 特開2007−308452(JP,A)
【文献】 特開平3−279350(JP,A)
【文献】 米国特許第3542734(US,A)
【文献】 国際公開第2008/056808(WO,A1)
【文献】 特開2011−257527(JP,A)
【文献】 HSIAO,S. et al,Triptycene poly(ether-imide)s with high solubility and optical transparency,Journal of Polymer Research,2012年,Vol.19, No.1,p.1-12
【文献】 HOFFMEISTER,E. et al,Triptycene polymers,Journal of Polymer Science, Part A-1: Polymer Chemistry,1969年,Vol.7, No.1,p.55-72,特に、70頁の化合物Ij
【文献】 HSIAO,S. et al.,Synthesis and Properties of Novel Triptycene-Based Polyimides,Journal of Polymer Science Part A:Polymer Chemistry,2011年,Vol.49, No.14,pp3109-3120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 219/34
C07C 205/42
C07C 213/02
C07C 231/12
C07C 233/59
C07C 233/62
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1−1)で表されることを特徴とするジアミン。
【化1】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表し、
Yはハロゲン原子、炭素原子数1乃至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のハロアルキル基又は炭素原子数1乃至5のアルキル基を表し、
nは0〜4の整数を表す。)
【請求項2】
式(1−2)で表されるジアミンである、請求項1に記載のジアミン。
【化2】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表す。)
【請求項3】
式(1−3)で表されるジアミンである、請求項2に記載のジアミン。
【化3】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表す。)
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載のジアミンを含むジアミン成分と、酸二無水物成分とを反応させることで得られるポリアミック酸。
【請求項5】
前記ジアミン成分が、式(A1)で表されるジアミンをさらに含む、請求項4に記載のポリアミック酸。
【化4】
(式中、Bは、式(Y−1)〜(Y−34)からなる群から選ばれる2価の基を表す。)
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
(式中、*は結合手を表す。)
【請求項6】
前記酸二無水物成分が、式(C1)で表される酸二無水物を含む、請求項4又は請求項5に記載のポリアミック酸。
【化10】
〔式中、Bは、式(X−1)〜(X−12)からなる群から選ばれる4価の基を表す。
【化11】
(式中、複数のRは、互いに独立して、水素原子またはメチル基を表し、*は結合手を表す。)〕
【請求項7】
請求項4乃至請求項6のうちいずれか一項に記載のポリアミック酸と、有機溶媒とを含む、ポリアミック酸含有膜形成用組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のポリアミック酸含有膜形成用組成物から形成された膜。
【請求項9】
請求項7に記載のポリアミック酸含有膜形成用組成物から形成された膜からなるフレキシブルデバイス用基板。
【請求項10】
請求項4乃至請求項6のうちいずれか一項に記載のポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミド。
【請求項11】
請求項10に記載のポリイミドと、有機溶媒とを含む膜形成用組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の膜形成用組成物から形成された膜。
【請求項13】
請求項11に記載の膜形成用組成物から形成された膜からなるフレキシブルデバイス用基板。
【請求項14】
式(2−1)で表されることを特徴とするジニトロ化合物。
【化12】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表し、
Yはハロゲン原子、炭素原子数1乃至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のハロアルキル基又は炭素原子数1乃至5のアルキル基を表し、
nは0〜4の整数を表す。)
【請求項15】
式(2−2)で表されるジニトロ化合物である、請求項14に記載のジニトロ化合物。
【化13】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表す。)
【請求項16】
式(2−3)で表されるジニトロ化合物である、請求項15に記載のジニトロ化合物。
【化14】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表す。)
【請求項17】
式(1−1)で表されるジアミンを製造する方法であって、
【化15】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表し、
Yはハロゲン原子、炭素原子数1乃至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のハロアルキル基又は炭素原子数1乃至5のアルキル基を表し、
nは0〜4の整数を表す。)
式(2−1)で表されるジニトロ化合物のニトロ基を還元して式(1−1)で表されるジアミンを得る段階を含む、製造方法。
【化16】
(式中、X、Y及びnは上記と同じ意味を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアミンおよびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイや有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等のエレクトロニクスの急速な進歩に伴い、デバイスの薄型化や軽量化、更には、フレキシブル化が要求されるようになってきた。
これらのデバイスにおいては、ガラス基板上に様々な電子素子、例えば、薄膜トランジスタや透明電極等が形成されているが、このガラス材料を柔軟かつ軽量な樹脂材料に替えることで、デバイス自体の薄型化や軽量化、フレキシブル化を図ることが期待される。
このような事情の下、ガラスの代替材料としてポリイミドが注目を集めている。そして、当該用途向けのポリイミドには、柔軟性だけでなく、大抵の場合、ガラスと同様の透明性が要求されることとなる。これらの特性を実現するために、原料に脂環式ジアミン成分や脂環式無水物成分を用いて得られる半脂環式ポリイミドや全脂環式ポリイミドが報告されている(例えば特許文献1、2参照)。
一方、芳香族ポリイミドを与えることとなる酸二無水物やジアミンの中でも、3つのベンゼン環を含むトリプチセン骨格を有する酸二無水物やジアミンは、ポリイミドに透明性を付与し得る原料化合物として報告されている(非特許文献1、2参照)。このようなトリプチセン骨格を含む化合物は、その特徴的な構造に起因して特異な物性が発現する可能性が期待されることから、新しい芳香族ポリイミドを創出する原料化合物として魅力的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−147599号公報
【特許文献2】特開2014−114429号公報
【特許文献3】国際公開2011/149018号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry, Vol. 49, No. 14, p.p. 3109-3120, 2011
【非特許文献2】Journal of Polymer Research, Vol. 19, No. 1, article 9757, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ポリイミド樹脂材料をディスプレイの基板として用いるとき、その樹脂材料が透明性に優れるだけでなく、要求性能の一つとしてリタデーション(Retardation)が低い材料であることが望ましい。
すなわち、リタデーション(位相差)とは、複屈折(直交する2つの屈折率の差)と膜厚との積をいうが、この数値、特に厚さ方向のリタデーションは視野角特性に影響する重要な数値であり、大きなリタデーション値は、ディスプレイの表示品質の低下を招く原因となり得ることから(例えば特許文献3参照)、フレキシブルディスプレイ基板にあっても、高い柔軟性(可撓性)以外に、これらの特性も求められている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、柔軟性及び透明性に優れるだけでなく、リタデーションが低いという特徴をも有する膜を与えるジアミンを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、下記式(1−1)で表されるジアミン化合物を、特に2,2’−ジ(トリフルオロメチル)ベンジジン等の含フッ素原子芳香族ジアミンとともに、テトラシクロブタン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物と共重合させることで、有機溶媒に可溶なポリイミドが得られること、及び当該ポリイミドを有機溶媒に溶解させることで得られる組成物から、柔軟性及び透明性に優れるだけでなく、リタデーションが低いという特徴をも有する膜が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、第1観点として、式(1−1)で表されることを特徴とするジアミンに関する。
【化1】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表し、
Yはハロゲン原子、炭素原子数1乃至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のハロアルキル基又は炭素原子数1乃至5のアルキル基を表し、
nは0〜4の整数を表す。)
第2観点として、式(1−2)で表されるジアミンである、第1観点に記載のジアミンに関する。
【化2】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表す。)
第3観点として、式(1−3)で表されるジアミンである、第2観点に記載のジアミンに関する。
【化3】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表す。)
第4観点として、第1観点乃至第3観点のうちいずれか一項に記載のジアミンを含むジアミン成分と、酸二無水物成分とを反応させることで得られるポリアミック酸に関する。
第5観点として、前記ジアミン成分が、式(A1)で表されるジアミンをさらに含む、第4観点に記載のポリアミック酸に関する。
【化4】
(式中、Bは、式(Y−1)〜(Y−34)からなる群から選ばれる2価の基を表す。)
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
(式中、*は結合手を表す。)
第6観点として、前記酸二無水物成分が、式(C1)で表される酸二無水物を含む、第4観点又は第5観点に記載のポリアミック酸に関する。
【化10】
〔式中、Bは、式(X−1)〜(X−12)からなる群から選ばれる4価の基を表す。
【化11】
(式中、複数のRは、互いに独立して、水素原子またはメチル基を表し、*は結合手を表す。)〕
第7観点として、第4観点乃至第6観点のうちいずれか一項に記載のポリアミック酸と、有機溶媒とを含む、ポリアミック酸含有膜形成用組成物に関する。
第8観点として、第7観点に記載のポリアミック酸含有膜形成用組成物から形成された膜に関する。
第9観点として、第7観点に記載のポリアミック酸含有膜形成用組成物から形成された膜からなるフレキシブルデバイス用基板に関する。
第10観点として、第4観点乃至第6観点のうちいずれか一項に記載のポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミドに関する。
第11観点として、第10観点に記載のポリイミドと、有機溶媒とを含む膜形成用組成物に関する。
第12観点として、第11観点に記載の膜形成用組成物から形成された膜に関する。
第13観点として、第11観点に記載の膜形成用組成物から形成された膜からなるフレキシブルデバイス用基板に関する。
第14観点として、式(2−1)で表されることを特徴とするジニトロ化合物に関する。
【化12】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表し、
Yはハロゲン原子、炭素原子数1乃至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のハロアルキル基又は炭素原子数1乃至5のアルキル基を表し、
nは0〜4の整数を表す。)
第15観点として、式(2−2)で表されるジニトロ化合物である、第14観点に記載のジニトロ化合物に関する。
【化13】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表す。)
第16観点として、式(2−3)で表されるジニトロ化合物である、第15観点に記載のジニトロ化合物に関する。
【化14】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表す。)
第17観点として、式(1−1)で表されるジアミンを製造する方法であって、
【化15】
(式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表し、
Yはハロゲン原子、炭素原子数1乃至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のハロアルキル基又は炭素原子数1乃至5のアルキル基を表し、
nは0〜4の整数を表す。)
式(2−1)で表されるジニトロ化合物のニトロ基を還元して式(1−1)で表されるジアミンを得る段階を含む、製造方法。
【化16】
(式中、X、Y及びnは上記と同じ意味を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の新規ジアミン化合物は、とりわけ従来既知の含フッ素原子芳香族ジアミンとともに、脂環式テトラカルボン酸二無水物と共重合させることで、有機溶媒に可溶なポリイミドを得ることができる。
また本発明のジアミン化合物から得られるポリイミドは、柔軟性及び透明性に優れ、さらに低いリタデーションを実現できる膜を形成できる。
さらに本発明のポリイミドを含む膜形成用組成物より得られる膜は、柔軟性及び透明性に優れることに加え、特に低いリタデーションを示すことから、該膜についてもフレキシブルデバイス、特にフレキシブルディスプレイの基板として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ジアミン化合物]
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るジアミンは、式(1−1)で表されるジアミンであり、特に式(1−2)で表されるジアミンが好ましく、中でも、柔軟性及び透明性に優れ、低リタデーションの膜を再現性よく得ることを考慮すると、好ましくは式(1−3)で表されるジアミンである。
【化17】
(上記式中、Xは酸素原子又は−NH−基を表し、
Yはハロゲン原子、炭素原子数1乃至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のハロアルキル基又は炭素原子数1乃至5のアルキル基を表し、
nは0〜4の整数を表す。)
【0011】
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
上記炭素原子数1乃至5のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソアミル基、ネオペンチル基、tert−アミル基、sec−イソアミル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
上記炭素原子数1乃至5のハロアルキル基としては、上記炭素原子数1乃至5のアルキル基における任意の位置にある任意の数の水素原子が上記ハロゲン原子に置換された基が挙げられる。
また炭素原子数1乃至5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペントキシ基、イソペントキシ基、ネオペントキシ基、tert−ペントキシ基等が挙げられる。
【0012】
本発明の上記式(1−1)〜(1−3)で表されるジアミンは、それぞれ下記式(2−1)〜(2−3)で表されるジニトロ化合物のニトロ基を還元して得ることができる。
【化18】
(式中、X、Y及びnは上記と同じ意味を表す。)
【0013】
具体的には、上記式(1−1)で表されるジアミンは、一例として、JOURNAL OF POLYMER SCIENCE:PART A−1 vol.6,2955−2965(1968)記載の方法にて、9,10−[1,2]ベンゼノアントラセン−9,10−ジカルボン酸化合物(以下、ベンゼノアントラセンジカルボン酸化合物ともいう。)を合成した後、下記スキームで示されるように、有機溶媒中、ベンゼノアントラセンジカルボン酸化合物をベンゼノアントラセンジカルボン酸クロリド化合物とし(第1段階)、該酸クロリド化合物にニトロフェノール化合物類もしくは、ニトロア二リン化合物類を反応させて中間体(式(2−1)で表される化合物))を得(第2段階)、この中間体のニトロ基を還元する(第3段階)ことで得ることができる。なお中間体である上記式(2−1)〜(2−3)で表されるジニトロ化合物も本発明の対象である。
【化19】
(式中、X、Y及びnは上記と同じ意味を表す。)
【0014】
第1段階の反応において、ベンゼノアントラセンジカルボン酸化合物を酸クロリド化合物にする方法としては、公知の方法を採用すればよく、特に制限はないが、例えば、ベンゼノアントラセンジカルボン酸化合物を過剰の塩化チオニル存在下、還流条件にて撹拌する方法が挙げられる。なお、この反応の際、有機溶媒はあってもなくてもよく、該有機溶媒を使用した場合には、反応後に塩化チオニルの留去と同時に有機溶媒を留去すればよい。また、前記酸クロリド化合物は、有機溶媒中、ベンゼノアントラセンジカルボン酸化合物に2当量以上の塩化オキサリルを添加、撹拌することでも得ることができる。この時、反応促進を目的として触媒を添加してもよい。
第1段階の反応に使用する有機溶媒としては、反応に影響を及ぼさない溶媒であれば特に限定されるものではないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、等の芳香族炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFという)、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcという)、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという)等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類、2−ブタノン、4−メチル−2−ペンタノンなどのケトン類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOという)、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;などを用いることができる。これらの溶媒は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、溶媒中に水分が多く含まれると、酸クロリドの加水分解が起こることから、溶媒は脱水溶媒を使用する、もしくは、脱水してから使用することが好ましい。
反応温度は、使用溶媒の沸点以下の温度であればよく、0〜200℃程度とすることができるが、0〜150℃が好ましく、さらに好ましくは、0〜80℃が好ましい。
使用する触媒としては、反応を促進するものであれば特に限定されないが、例えば、DMF、ジメチルアミノピリジン、ピリジンなどが挙げられる。また、使用量としては、特に限定されないが、ベンゼノアントラセンジカルボン酸クロリド化合物に対して通常0.01モル%から50モル%、好ましくは0.1モル%から20モル%である。
反応後は、溶媒を留去し、粗生成物のまま、あるいは精製して次工程に用いる。精製法は任意であり、再結晶、蒸留、シリカゲルカラムクロマトグラフィ等公知の手法から適宜選択すればよい。
【0015】
第2段階の反応において、ベンゼノアントラセンジカルボン酸クロリド化合物を中間体(式(2−1)で表される化合物)にする方法としては、特に制限はないが、例えば有機溶媒中、塩基存在下、ニトロフェノール化合物類もしくは、ニトロア二リン化合物類とベンゼノアントラセンジカルボン酸クロリド化合物を反応させる(撹拌する)方法が挙げられる。
第2段階の反応に使用する有機溶媒としては、反応に影響を及ぼさない溶媒であれば特に限定されるものではないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、等の芳香族炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFという)、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAcという)、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという)等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類、2−ブタノン、4−メチル−2−ペンタノンなどのケトン類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOという)、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;などを用いることができる。これらの溶媒は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、溶媒中に水分が多く含まれると、酸クロリドの加水分解が起こることから、溶媒は脱水溶媒を使用する、もしくは、脱水してから使用することが好ましい。
反応温度は、溶媒の沸点以下であればよく、0〜200℃程度とすることができるが、0〜100℃が好ましく、さらに好ましくは0〜50℃が好ましい。
使用する塩基は、副生する酸を捕捉できるものであれば特に限定されないが、例えば、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。
反応後は、溶媒を留去し、粗生成物のまま、あるいは精製して次工程に用いる。精製法は任意であり、再結晶、蒸留、シリカゲルカラムクロマトグラフィ等公知の手法から適宜選択すればよい。
【0016】
第3段階の反応において、中間体のニトロ基をアミノ基へ還元する方法としては、公知の方法を採用すればよく、特に制限はないが、例えば、パラジウム−炭素、酸化白金、ラネーニッケル、白金−炭素、ロジウム−アルミナ、硫化白金炭素、還元鉄、塩化鉄、スズ、塩化スズ、亜鉛などを触媒として用い、水素ガス、ヒドラジン、塩化水素、塩化アンモニウムなどによって行う方法がある。特に、中間体のエステル部位に起因する副反応を起こしにくく、容易に目的物を得ることができることから、接触水素化が好ましい。
接触水素化の水素原子源としては、水素ガスやヒドラジン、塩化水素、塩化アンモニウム、ギ酸アンモニウム等が挙げられる。
接触水素化に用いる触媒としては、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、鉄、亜鉛、スズ等の金属の粉末が挙げられ、金属の粉末が活性体に担持されたものであってもよい。触媒の種類は、水素源の種類や反応条件に応じて適宜決定されるため、特に限定されないが、ニトロ基のみを還元できる触媒であればよく、好ましくは、パラジウム−炭素、酸化白金、ラネーニッケル、白金−炭素、ロジウム−アルミナ、硫化白金炭素等が挙げられる。また、触媒の使用量は、水素源の種類や反応条件に応じて適宜決定されるため、特に限定されないが、原料のジニトロ体(中間体)に対して金属換算で通常0.01モル%から50モル%、好ましくは0.1モル%から20モル%である。
反応溶媒としては、反応に影響を及ぼさない溶媒を用いることができる。例えば、酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒、2−ブタノン、4−メチル−2−ペンタノンなどのケトン系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒、水などが挙げられる。これらの溶媒は、単独、又は、2種類以上混合して使用することができる。
反応温度は、原料や生成物が分解することなく、用いる溶媒の沸点以下であれば、反応が効率よく進行する温度で行なうことができる。具体的には、−78℃から溶媒の沸点以下の温度が好ましく、合成の簡便性の観点から、0℃から溶媒の沸点以下の温度がより好ましく、さらに好ましくは0〜100℃、さらにより好ましくは10〜50℃である。
また、接触水素化は、反応速度の向上並びに低温での反応を可能にする等の観点から、オートクレーブを用いる等して、加圧条件の下で行ってもよい。
反応後は、溶媒を留去後、再結晶、蒸留、シリカゲルカラムクロマトグラフィ等公知の手法を用いて精製し、目的物のジアミンを得ることができる。なお、溶媒中に酸素が多く含まれると、生成したジアミン化合物の着色が起こる場合があるため、反応および精製に使用する溶媒は脱気してから使用することが好ましい。また、より着色を防ぐために、反応後の溶媒留去前、溶媒留去後の反応液も脱気することが好ましい。
【0017】
また、本発明で用いるベンゼノアントラセンジカルボン酸化合物は、前述したとおり、JOURNAL OF POLYMER SCIENCE:PART A−1 vol.6,2955−2965(1968)記載の方法にて得ることができる。
【0018】
[ポリアミック酸及びポリイミド]
以上説明した本発明のジアミンを含むジアミン成分は、酸二無水物成分との重縮合反応によりポリアミック酸とした後、熱または触媒を用いた脱水閉環反応により、対応するポリイミドとすることができる。該ポリアミック酸及びポリイミドともに本発明の対象である。なお本発明のポリアミック酸は、前記本発明のジアミンを含むジアミン成分と酸二無水物成分との反応生成物であり、また、本発明のポリイミドは前記ポリアミック酸のイミド化物である。
【0019】
柔軟性及び透明性に優れるだけでなく、リタデーションが低いという特徴をも有する膜を与えるポリアミック酸及びポリイミドを再現性よく得る観点から、本発明のポリアミック酸の製造に用いるジアミン成分は、本発明の上記式(1−1)で表されるジアミンに加え、好ましくは含フッ素原子芳香族ジアミンを、より好ましくは下記式(A1)で表されるジアミンを含む。
【化20】
(式中、Bは、式(Y−1)〜(Y−34)からなる群から選ばれる2価の基を表す。)
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
(式中、*は結合手を表す。)
【0020】
上記式(A1)で表されるジアミンの中でも、式中のBが前記式(Y−12)、(Y−13)、(Y−14)、(Y−15)、(Y−18)、(Y−27)、(Y−28)、(Y−30)、(Y−33)で表されるジアミンが好ましく、前記Bが前記式(Y−12)、(Y−13)、(Y−14)、(Y−15)、(Y−33)で表されるジアミンが特に好ましい。
また、本発明の効果を損なわない範囲において、前記ジアミン成分には、上記式(1−1)で表されるジアミン、上記式(A1)で表されるジアミン以外の、その他のジアミン化合物を用いてもよい。
【0021】
上記ジアミン成分において、本発明の上記式(1−1)で表されるジアミンとともに含フッ素原子芳香族ジアミンを用いる場合における、上記式(1−1)で表されるジアミンと含フッ素原子芳香族ジアミンとのモル比率は、通常、上記式(1−1)で表されるジアミン:含フッ素原子芳香族ジアミン=1:1〜1:10である。このような範囲とすることで、膜の脆弱化を抑制でき、また低線膨張係数の膜を再現性よく得ることができる。
【0022】
柔軟性及び透明性に優れるだけでなく、リタデーションが低いという特徴をも有する膜を与えるポリアミック酸及びポリイミドを再現性よく得る観点から、本発明のポリアミック酸の製造に用いる酸二無水物成分は、好ましくは脂環式テトラカルボン酸二無水物を、より好ましくは下記式(C1)で表される酸二無水物を含む。
【化26】
〔式中、Bは、式(X−1)〜(X−12)からなる群から選ばれる4価の基を表す。
【化27】
(式中、複数のRは、互いに独立して、水素原子またはメチル基を表し、*は結合手を表す。)〕
【0023】
上記式(C1)で表される酸二無水物の中でも、式中のBが前記式(X−1)、(X−2)、(X−4)、(X−5)、(X−6)、(X−7)、(X−8)、(X−9)、(X−11)、(X−12)で表される酸二無水物が好ましく、前記Bが前記式(X−1)、(X−2)、(X−4)、(X−6)、(X−7)、(X−11)、(X−12)で表される酸二無水物が特に好ましい。
中でも(C1)で表される酸二無水物を二種以上使用することが好ましい。
【0024】
高柔軟性、高透明性、低リタデーションの膜を与えるポリアミック酸及びポリイミドを再現性よく得る観点から、本発明のポリアミック酸の製造に用いる酸二無水物成分中の脂環式テトラカルボン酸二無水物の含有量は、好ましくは50mol%以上、より好ましくは60mol%以上、より一層好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、さらに一層好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。
【0025】
なお、上記ジアミン成分として上記式(1−1)で表されるジアミンと上記式(A1)で表されるジアミンとを用い、上記酸二無水物成分として上記(C1)で表される酸二無水物を用いた場合、ポリアミック酸は下記式(4−1)で表されるモノマー単位と、下記式(4−2)で表されるモノマー単位とを有するものとなる。
【化28】
(式中、X、Y、n、B及びBは、上記と同じ意味を表す。)
【0026】
本発明のポリアミック酸を得る方法は特に限定されるものではなく、前述の酸二無水物成分とジアミン成分とを公知の手法によって反応、重合させればよい。
ポリアミック酸を合成する際の酸二無水物成分のモル数とジアミン成分のモル数との比は、酸二無水物成分/ジアミン成分=0.8〜1.2である。
【0027】
ポリアミック酸合成に用いられる溶媒としては、例えば、m−クレゾール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これらは、単独で使用しても、混合して使用してもよい。さらに、ポリアミック酸を溶解しない溶媒であっても、均一な溶液が得られる範囲内で上記溶媒に加えて使用してもよい。
重縮合反応の温度は、−20〜150℃、好ましくは−5〜100℃の任意の温度を選択することができる。
【0028】
上述したポリアミック酸の重合反応により得られたポリアミック酸含有溶液は、そのまま、あるいは希釈もしくは濃縮した後、後述するポリイミドの膜を形成するためのポリアミック酸含有膜形成用組成物として使用することができる。また該ポリアミック酸含有溶液に、メタノール、エタノールなどの貧溶媒を加えてポリイミドを沈殿させてポリアミック酸を単離し、その単離したポリアミック酸を適当な溶媒に再溶解させ、これを後述するポリアミック酸含有膜形成用組成物として使用することもできる。
ポリアミック酸含有溶液の希釈用溶媒並びに単離したポリアミック酸の再溶解用溶媒は、得られたポリアミック酸を溶解させるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、m−クレゾール、2−ピロリドン、NMP、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、DMAc、DMF、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0029】
また、単独ではポリアミック酸を溶解しない溶媒であっても、ポリアミック酸が析出しない範囲であれば上記溶媒に加えて使用することができる。その具体例としては、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル−2−アセテート、ジプロピレングリコール、2−(2−エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n−プロピルエステル、乳酸n−ブチルエステル、乳酸イソアミルエステルなどが挙げられる。
【0030】
本発明のポリイミドは、上記説明したポリアミック酸を、加熱により脱水閉環(熱イミド化)、または公知の脱水閉環触媒を使用して化学的に閉環して得ることができる。
加熱による方法は、100〜300℃、好ましくは120〜250℃の任意の温度で行うことができる。
化学的に閉環する方法は、例えば、ピリジンやトリエチルアミン、1−エチルピペリジンなどと、無水酢酸などとの存在下で行うことができ、この際の温度は、−20〜200℃の任意の温度を選択することができる。
【0031】
こうして得られる上記式(4−1)で表されるモノマー単位と上記記式(4−2)で表されるモノマー単位とを有するポリアミック酸から得られるポリイミドは、下記式(5−1)で表されるモノマー単位と下記式(5−2)で表されるモノマー単位とを有するものである。
【化29】
(式中、X、Y、n、B及びBは、上記と同じ意味を表す。)
【0032】
上述したポリアミック酸の閉環反応により得られたポリイミド溶液は、そのまま、あるいは希釈もしくは濃縮した後、後述する膜形成用組成物として使用することができる。また該ポリイミド溶液に、メタノール、エタノールなどの貧溶媒を加えてポリイミドを沈殿させてポリイミドを単離し、その単離したポリイミドを適当な溶媒に再溶解させ、これを後述する膜形成用組成物として使用することができる。
再溶解用溶媒は、得られたポリイミドを溶解させるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、m−クレゾール、2−ピロリドン、NMP、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、DMAc、DMF、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0033】
また、単独ではポリイミドを溶解しない溶媒であっても、ポリイミドが析出しない範囲であれば上記溶媒に加えて使用することができる。その具体例としては、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル−2−アセテート、ジプロピレングリコール、2−(2−エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n−プロピルエステル、乳酸n−ブチルエステル、乳酸イソアミルエステルなどが挙げられる。
【0034】
本発明において、ポリアミック酸(ポリイミド)の数平均分子量は、得られる膜の柔軟性、強度等を向上させるという観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、より一層好ましくは15,000以上であり、得られるポリイミドの溶解性を確保するという観点から、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下、より一層好ましくは、50,000以下である。なお本明細書において、数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)装置によって測定し、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド換算値として算出される値である。
【0035】
[膜形成用組成物・ポリアミック酸含有膜形成用組成物]
上述の本発明のポリイミドと、有機溶媒を含む膜形成用組成物、並びに、本発明のポリアミック酸と、有機溶媒を含むポリアミック酸含有膜形成用組成物も本発明の対象である。ここで本発明の膜形成用組成物及びポリアミック酸含有膜形成用組成物は、均一なものであって、相分離は認められないものである。
【0036】
<有機溶媒>
本発明の膜形成用組成物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物は、前記ポリイミド又はポリアミック酸に加えて、有機溶媒を含む。該有機溶媒は、特に限定されるものではなく、例えば、上記ポリアミック酸及びポリイミドの調製時に用いた反応溶媒の具体例と同様のものが挙げられる。より具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、平坦性の高い膜を再現性よく得ることを考慮すると、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトンが好ましい。
【0037】
本発明の膜形成用組成物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物における固形分量の配合量は、通常0.5〜30質量%程度、好ましくは5〜25質量%程度である。固形分濃度が0.5質量%未満であると膜を作製する上において製膜効率が低くなり、また膜形成用組成物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物の粘度が低くなるため、表面が均一な塗膜を得られにくい。また固形分濃度が30質量%を超えると、膜形成用組成物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物の粘度が高くなりすぎて、やはり成膜効率の悪化や塗膜の表面均一性に欠ける虞がある。なおここでいう固形分量とは、有機溶媒以外の成分の総質量を意味し、液状のモノマー等であっても固形分として重量に含めるものとする。
なお膜形成用組成物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物の粘度は、作製する膜の厚み等を勘案し適宜設定するものではあるが、特に5〜50μm程度の厚さの膜を再現性よく得ること目的とする場合、通常、25℃で500〜50,000mPa・s程度、好ましくは1,000〜20,000mPa・s程度である。
【0038】
本発明の膜形成用組成物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物には、加工特性や各種機能性を付与するために、その他に様々な有機又は無機の低分子又は高分子化合物を配合してもよい。例えば、触媒、消泡剤、レベリング剤、界面活性剤、染料、可塑剤、微粒子、カップリング剤、増感剤等を用いることができる。例えば触媒は膜のリタデーションや線膨張係数を低下させる目的で添加され得る。なお、前記ポリイミド又はポリアミック酸及び有機溶媒に加え、さらに、二酸化ケイ素粒子や触媒を含む膜形成用組成物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物も本発明の対象とすることができる。
なおその他成分を含む場合も含め、本発明の膜形成用組成物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物の固形分量において、上記ポリイミド又はポリアミック酸の割合は70〜100質量%とすることができる。
本発明の膜形成用組成物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物は、上述の方法で得られたポリイミド又はポリアミック酸を上述の有機溶媒に溶解して得ることができるし、ポリイミド又はポリアミック酸の調製後の反応溶液に、所望により前記有機溶媒を更に加えたものとしてもよい。
【0039】
[膜]
以上説明した本発明の膜形成用組成物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物を基材に塗布して乾燥・加熱することで有機溶媒を除去し、高い耐熱性と、高い透明性と、適度な柔軟性と、適度な線膨張係数とを有し、しかもリタデーションの小さい膜を得ることができる。
すなわち、基材上に塗布した上記ポリアミック酸含有膜形成用組成物(ポリアミック酸含有溶液)を加熱し、溶媒を蒸発させつつイミド化反応をさせることで、ポリイミドを含む本発明の膜を得ることができ、該膜は上記ポリアミック酸含有膜形成用組成物の固形分からなり、該固形分中のポリアミック酸のイミド化物を含むものである。
あるいは、基材上に塗布した上記膜形成用組成物(ポリイミド含有溶液、ポリイミド溶液とも称する)を加熱し、溶媒を蒸発させることで、ポリイミドを含む本発明の膜を得ることができ、該膜は、上記膜形成組成物の固形分からなるものである。
そして上記膜、すなわち上記ポリイミドを含有する膜(薄膜)も本発明の対象である。
【0040】
膜の製造に用いる基材としては、例えば、プラスチック(ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ、メラミン、トリアセチルセルロース、ABS、AS、ノルボルネン系樹脂等)、金属、ステンレス鋼(SUS)、木材、紙、ガラス、シリコンウェハ、スレート等が挙げられる。
特に、電子デバイスの基板材料として適用する場合においては、既存設備を利用することができるという観点から、適用する基材がガラス、シリコンウェハであることが好ましく、また得られる膜が良好な剥離性を示すことからガラスであることがさらに好ましい。なお、適用する基材の線膨張係数としては塗工後の基材の反りの観点から、好ましくは35ppm/℃以下、より好ましくは30ppm/℃以下、より一層好ましくは25ppm/℃以下、さらに好ましくは、20ppm/℃以下である。
【0041】
基材への膜形成用組成物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物の塗布法は、特に限定されるものではないが、例えば、キャストコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等)等が挙げられ、目的に応じてこれらを適宜用いることができる。
【0042】
加熱温度は、通常40〜500℃程度であるが、300℃以下が好ましい。300℃を超えると、得られる膜が脆くなり、特にディスプレイ基板用途に適した膜を得ることができない場合がある。
また、得られる膜の耐熱性と線膨張係数特性を考慮すると、塗布した膜形成用組成物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物を40℃〜100℃で5分間〜2時間加熱した後に、そのまま段階的に加熱温度を上昇させ、最終的に175℃超〜280℃で30分〜2時間加熱することが望ましい。このように、溶媒を乾燥させる段階と分子配向を促進する段階の2段階以上の温度で加熱することにより、低熱膨張特性を発現させることができる。
特に、塗布した膜形成用組成物は、40℃〜100℃で5分間〜2時間加熱した後に、100℃超〜175℃で5分間〜2時間、次いで、175℃超〜280℃で5分〜2時間加熱することが好ましい。
加熱に用いる器具は、例えばホットプレート、オーブン等が挙げられる。加熱雰囲気は、空気下であっても窒素等の不活性ガス下であってもよく、また、常圧下であっても減圧下であってもよく、また加熱の各段階において異なる圧力を適用してもよい。
【0043】
膜の厚さは、特にフレキシブルディスプレイ用の基板として用いる場合、通常1〜60μm程度、好ましくは5〜50μm程度であり、加熱前の塗膜の厚さを調整して所望の厚さの膜を形成する。
なおこのようにして形成された膜を基材から剥離する方法としては特に限定はなく、該膜を基材ごと冷却し、膜に切れ目を入れ剥離する方法やロールを介して張力を与えて剥離する方法等が挙げられる。
【0044】
そして、前記膜形成用組成物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物から形成された膜からなるフレキシブルデバイス用基板、すなわち、前記膜形成用組成物の硬化物又はポリアミック酸含有膜形成用組成物の硬化物からなる、フレキシブルデバイス用基板も、本発明の対象である。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、使用した試薬の略語並びに使用した装置及びその条件は、以下の通りである。
【0046】
DCT:Dicarboxyl Triptycene
DCTCl:Triptycene Dicarbonyl Chloride
DCTDNB:Dicarboxyl Triptycene Dinitrobenzoate
DCTDAB:Dicarboxyl Triptycene Diaminobenzoate
DCTDNBA:Dicarboxyl Triptycene Dinitrobenzamide
DCTDABA:Dicarboxyl Triptycene Diaminobenzamide
【0047】
<HPLC分析>
カラム:Inertsil ODS−3、5μm、4.6×250mm
オーブン:40℃、 検出波長:217nm、254nm、 流速:1.0mL/分
溶離液:
DCT:アセトニトリル/0.5%リン酸水溶液=50/50 サンプル注入量:10μL
DCTCl:アセトニトリル/0.5%リン酸水溶液=50/50 サンプル注入量:10μL
DCTDNB:アセトニトリル/0.5%リン酸水溶液=70/30 サンプル注入量:10μL
DCTDAB:アセトニトリル/0.5%リン酸水溶液=40/60 サンプル注入量:10μL
DCTDNBA:アセトニトリル/0.5%リン酸水溶液=70/30 サンプル注入量:10μL
DCTDABA:アセトニトリル/水=70/30 サンプル注入量:10μL
H NMR分析>
装置:フーリエ変感型超伝導核磁気共鳴装置(FT−NMR)(INOVA−400(Varian社)400MHz
溶媒:DMSO−d6、CDCl
内標準物質:テトラメチルシラン(TMS)
<数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定>
装置:昭和電工(株)製、Showdex GPC−101
カラム:KD803およびKD805
カラム温度:50℃
溶出溶媒:DMF、流量:1.5ml/分
検量線:標準ポリスチレン
【0048】
[1]DCTDAB及びDCTDABAの合成
[合成例1−1:DCTDNBの合成]
窒素雰囲気下、DCT(14.0g)、N,N−ジメチルホルムアミド(1.4g)をクロロホルム(210g)に加え、ここに塩化チオニル(48.8g)を15分かけて滴下した後、還流条件下(61℃)で3.5時間撹拌した。HPLCで反応の終了を確認後、N,N−ジメチルホルムアミド、クロロホルム、塩化チオニルを減圧留去し、DCTClの粗物を得た。
室温、窒素雰囲気下、DCTCl粗物をN,N−ジメチルホルムアミド(311g)に溶解し、ここに4−ニトロフェノール(12.6g)、トリエチルアミン(12.5g)、N,N−ジメチルホルムアミド(62.2g)の混合溶液を30分かけて滴下した後、室温にて16時間撹拌した。反応液に水(351g)を加え、30分撹拌後、析出物をろ過により回収し、水(150g)で2回、メタノール(150g)で2回洗浄した。ろ取物(29.9g)を50℃で減圧乾燥しDCTDNB粗物を21.5g得た。
次にこのDCTDNB粗物(20.5g)をテトラヒドロフラン(205g)に加え、50℃で1時間撹拌後ろ過し、ろ取物をテトラヒドロフラン(20g)で2回洗浄した。この操作を再度行い、得られたろ取物(22.5g)を50℃にて減圧乾燥し、DCTDNBの結晶を18.5g得た(収率;77.0%、HPLC面百値(保持時間;30.9min);99.5%)。HNMR分析結果より、該結晶がDCTDNBであることを確認した。
HNMR(DMSO−d6、δppm):8.5(m、4H)、8.0(m,4H)、8.0(m,6H)、7.3(m,6H).
【0049】
[実施例1−1:DCTDABの合成]
反応容器内に、合成例1−1で得たDCTDNB(6.1g)、5%Pd−C(STDタイプ、wet品、エヌ・イー ケムキャット(株)製、0.61g)、N,N−ジメチルホルムアミド(91.7g)を仕込み、反応容器内を水素置換した後、水素圧0.8MPaの条件下、室温にて21時間撹拌した。同じ操作をDCTDNB(6.1g)スケールで2度実施した。
反応完了をHPLCにて確認し、反応液を合一後、ろ過によって反応混合物からPd−Cを取り除き、このPd−CをN,N−ジメチルホルムアミド(37g)で2回洗浄し、洗浄に用いたN,N−ジメチルホルムアミドをろ液とともに回収した。このろ液に水(361.8g)を滴下後、析出物をろ過によって回収し、ろ取物を水(37g)で3回洗浄した。このろ取物(21.0g)を50℃にて減圧乾燥することでDCTDABろ物を15.9g得た。このDCTDABろ物をN,N−ジメチルホルムアミド(191g)に加え、50℃に昇温させて溶解させた後、5℃に冷却した。この後、イソプロピルアルコール(382g)を滴下し、1時間撹拌後、析出物をろ過によって回収し、イソプロピルアルコール(37g)で2回洗浄した。ろ取物(17.5g)を50℃にて減圧乾燥することでDCTDABの結晶を12.7g得た(収率;75.2%、HPLC面百値(保持時間;6.1min);99.3%)。HNMR分析結果より、該結晶がDCTDABであることを確認した。
HNMR(DMSO−d6、δppm):8.0(m,6H)、7.3(m,4H )、7.2(m,6H)、6.8(m,4H)、5.3(s,4H).
【化30】
【0050】
[合成例1−2:DCTDNBAの合成]
窒素雰囲気下、DCT(16.2g)、N,N−ジメチルホルムアミド(1.6g)をクロロホルム(292g)に加え、ここに塩化チオニル(56.4g)を15分かけて滴下した後、還流条件下(61℃)で3.5時間撹拌した。HPLCで反応の終了を確認後、N,N−ジメチルホルムアミド、クロロホルム、塩化チオニルを減圧留去し、DCTClの粗物を得た。
窒素雰囲気下、DCTCl粗物をテトラヒドロフラン(126g)に加え5℃に冷却後、ここに4−ニトロアニリン(14.4g)、トリエチルアミン(10.6g)、テトラヒドロフラン(143.8g)の混合溶液を30分かけて滴下した後、室温へ昇温し20時間撹拌した。反応液に水(539g)を加え、30分撹拌後、析出物をろ過により回収し、水(90g)で2回、メタノール(90g)で2回洗浄した。ろ取物(36.3g)を70℃で減圧乾燥しDCTDNBA粗物を25.0g得た。
次にこのDCTDNBA粗物(25.0g)をN,N−ジメチルホルムアミド(250g)に加え、80℃で溶解後、室温に冷却した。メタノール(750g)を滴下し、1時間撹拌後ろ過し、ろ取物をメタノール(54g)で3回洗浄した。得られたろ取物(29.4g)を70℃にて減圧乾燥し、DCTDNBAの結晶を21.6g得た(収率;77.8%、HPLC面百値(保持時間;20.7min);99.8%)。HNMR分析結果より、該結晶がDCTDNBAであることを確認した。
HNMR(DMSO−d6、δppm):11.0(s、2H)、8.3(m、4H)、8.2(m,4H)、8.0(m,6H)、7.2(m,6H).
【0051】
[実施例1−2:DCTDABAの合成]
反応容器内に、合成例1−2で得たDCTDNBA(7.2g)、5%Pd−C(STDタイプ、wet品、エヌ・イー ケムキャット(株)製、0.61g)、N,N−ジメチルホルムアミド(72g)を仕込み、反応容器内を水素置換した後、水素圧0.8MPaの条件下、室温にて23時間撹拌した。同じ操作をDCTDNBA(7.2g)スケールで2度実施した。
反応完了をHPLCにて確認し、反応液を合一後、ろ過によって反応混合物からPd−Cを取り除くき、このPd−CをN,N−ジメチルホルムアミド(43g)で2回洗浄し、洗浄に用いたN,N−ジメチルホルムアミドをろ液とともに回収した。このろ液にヒドラジン1滴を添加後、水(1250g)を滴下した。析出物をろ過後、ろ取物を水(43g)で2回洗浄した。このろ取物を70℃にて減圧乾燥することでDCTDABAの結晶を18.6g得た(収率;96.1%、HPLC面百値(保持時間;4.5min);99.6%)。HNMR分析結果より、該結晶がDCTDABAであることを確認した。
HNMR(DMSO−d6、δppm):9.8(s,2H)、8.0(m,6H )、7.5(m,4H)、7.1(m,6H)、6.6(m,4H)、5.0(s,4H).
【化31】
【0052】
[2]ポリイミドの合成
[実施例2−1]
窒素置換したフラスコ内に、2,2’−ジ(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)2.478g(0.0077mol)及びDCTDAB 0.4511g(0.00085mol)を入れた。そこへN−メチル−2−ピロリドン(NMP) 9.47gを加え、撹拌してTFMB及びDCTDABが溶解したことを確認した。更に2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸−1,4:2,3−二無水物(TCA)0.9639g(0.0043mol)及びNMP 3.789gを加えた。そして、得られた混合物を窒素雰囲気下、90℃で4時間撹拌し、反応混合物を50℃まで冷却した後、更に1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA) 0.8432g(0.0043mol)及びNMP 5.684gを加え、そのまま一晩撹拌した。
その後、固形物濃度が8質量%となるようにNMPを用いて反応混合物を希釈し、希釈した反応混合物に無水酢酸 3.512g(0.0344mol)およびピリジン 2.04g(0.0258mol)を加えた後、窒素雰囲気下、90℃で4時間撹拌した。
次いで、得られた反応混合物を350gのメタノール中に滴下して30分間撹拌し、ろ過によって析出物を回収した。この操作を3回繰り返した。
最後に、得られたろ物を減圧下、150℃で8時間乾燥し、ポリイミド(I)を得た(3.26g 収率:73.6%)。
【0053】
[実施例2−2]
窒素置換したフラスコ内に、2,2’−ジ(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)1.838g(0.0057mol)及びDCTDAB 1.2904g(0.0025mol)を入れた。そこへN−メチル−2−ピロリドン(NMP) 9.703gを加え、撹拌してTFMB及びDCTDABが溶解したことを確認した。更に2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸−1,4:2,3−二無水物(TCA)0.919g(0.0041mol)及びNMP 3.881gを加えた。そして、得られた混合物を窒素雰囲気下、90℃で4時間撹拌し、反応混合物を50℃まで冷却した後、更に1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA) 0.804g(0.0041mol)及びNMP 5.822gを加え、そのまま一晩撹拌した。
その後、固形物濃度が8質量%となるようにNMPを用いて反応混合物を希釈し、希釈した反応混合物に無水酢酸 3.348g(0.0328mol)およびピリジン 1.946g(0.0246mol)を加えた後、窒素雰囲気下、90℃で4時間撹拌した。
次いで、得られた反応混合物を350gのメタノール中に滴下して30分間撹拌し、ろ過によって析出物を回収した。この操作を3回繰り返した。
最後に、得られたろ物を減圧下、150℃で8時間乾燥し、ポリイミド(II)を得た(3.12g 収率:68.4%)。
【0054】
[実施例2−3]
窒素置換したフラスコ内に、2,2’−ジ(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)2.882g(0.009mol)及びDCTDAB 0.5245g(0.001mol)を入れた。そこへN−メチル−2−ピロリドン(NMP)15.78gを加え、撹拌してTFMB及びDCTDABが溶解したことを確認した。更にビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物(BODA)1.251g(0.005mol)及びNMP 3.38gを加えた。そして、得られた混合物を窒素雰囲気下、90℃で4時間撹拌し、反応混合物を50℃まで冷却した後、更に1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA) 0.9805g(0.005mol)及びNMP 3.38gを加え、そのまま一晩撹拌した。
その後、固形物濃度が8質量%となるようにNMPを用いて反応混合物を希釈し、希釈した反応混合物に無水酢酸 4.08g(0.04mol)およびピリジン 2.373g(0.03mol)を加えた後、窒素雰囲気下、100℃で4時間撹拌した。
次いで、得られた反応混合物を100gのメタノール中に滴下して30分間撹拌し、ろ過によって析出物を回収した。この操作を3回繰り返した。
最後に、得られたろ物を減圧下、150℃で8時間乾燥し、ポリイミド(III)を得た(4.91g 収率:87.0%)。
【0055】
[実施例2−4]
窒素置換したフラスコ内に、2,2’−ジ(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)8.64g(0.027mol)及びDCTDAB 1.573g(0.003mol)を入れた。そこへN−メチル−2−ピロリドン(NMP)52.99gを加え、撹拌してTFMB及びDCTDABが溶解したことを確認した。更にノルボルナン−2−スピロ−α−シクロペンタノン−α’−スピロ−2”−ノルボルナン−5,5”,6,6”−テトラカルボン酸二無水物(CpODA)5.765g(0.015mol)及びNMP 11.35gを加えた。そして、得られた混合物を窒素雰囲気下、90℃で10分間撹拌し、更に1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA) 2.942g(0.015mol)及びNMP 11.35gを加え、その後、180℃で7時間撹拌した。
その後、室温にて、反応混合物を350gのメタノール中に滴下して30分間撹拌し、ろ過によって析出物を回収した。この操作を3回繰り返した。
最後に、得られたろ物を減圧下、150℃で8時間乾燥し、ポリイミド(IV)を得た(16.08g 収率:85.0%)。
【0056】
[実施例2−5]
窒素置換したフラスコ内に、2,2’−ジ(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)5.764g(0.018mol)及びDCTDAB 1.049g(0.002mol)を入れた。そこへγ−ブチロラクトン(GBL)31.57gを加え、撹拌してTFMB及びDCTDABが溶解したことを確認した。更にビシクロ[2,2,2]オクタン−2,3:5,6−テトラカルボン酸二無水物(BODAxx)2.5g(0.01mol)、γ−ブチロラクトン(GBL)6.84g、及び1−エチルピペリジン0.23gを加えた。そして、得られた混合物を窒素雰囲気下、140℃で3時間撹拌し、更に1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)1.9611g(0.01mol)、γ−ブチロラクトン(GBL)6.84g、1−エチルピペリジン0.23gを加え、その後、180℃で7時間撹拌した。
その後、室温にて、反応混合物を350gのメタノール中に滴下して30分間撹拌し、ろ過によって析出物を回収した。この操作を3回繰り返した。
最後に、得られたろ物を減圧下、150℃で8時間乾燥し、ポリイミド(V)を得た(9.696g 収率:86.0%)。
【0057】
[実施例2−6]
窒素注入/排出口を有しメカニカルスターラーが取り付けられた100mL三口反応フラスコ内に、2,2’−ジ(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)1.457g(0.00455mol)及びDCTDABA 1.019g(0.00195mol)を入れた。そこへγ−ブチロラクトン(GBL)13.13gを加え、撹拌してTFMB及びDCTDABAが溶解したことを確認した。
更に2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸−1,4:2,3−二無水物(TCA)0.7285g(0.00325mol)及びγ−ブチロラクトン(GBL)2.813gを加えた。そして、得られた混合物を窒素雰囲気下、90℃で7時間撹拌し、
反応混合物を50℃まで冷却した後、更に1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA) 0.637g(0.00325mol)及びGBL 2.813gを加え、そのまま窒素雰囲気下で一晩撹拌した。 その後、固形物濃度が10質量%となるようにGBLを用いて反応混合物を希釈し、希釈した反応混合物に無水酢酸 2.654g(0.026mol)およびピリジン 1.542g(0.0195mol)を加えた後、100℃で4時間撹拌した。
次いで、得られた反応混合物を250gのメタノール中に滴下して30分間撹拌し、ろ過によって析出物を回収した。この操作を3回繰り返した。
最後に、得られたろ物を減圧下、120℃で8時間乾燥し、ポリイミド(VI)を得た(3.53g 収率:92%)。
【0058】
[3]ポリイミド溶液(ワニス)の調製
[実施例3−1]
実施例2−1で得られたポリイミド(I)を、濃度が12質量%となるようにNMPに溶解させ、ポリイミド溶液(I)を得た。
[実施例3−2]
実施例2−1で得られたポリイミド(I)の代わりに、実施例2−2で得られたポリイミド(II)を用いた以外は、実施例3−1と同様の方法でポリイミド溶液(II)を得た。
[実施例3−3]
実施例2−1で得られたポリイミド(I)の代わりに、実施例2−3で得られたポリイミド(III)を用いた以外は、実施例3−1と同様の方法でポリイミド溶液(III)を得た。
[実施例3−4]
実施例2−1で得られたポリイミド(I)の代わりに、実施例2−4で得られたポリイミド(IV)を用いた以外は、実施例3−1と同様の方法でポリイミド溶液(IV)を得た。
[実施例3−5]
実施例2−5で得られたポリイミド(V)を、濃度が12質量%となるようにGBLに溶解させ、ポリイミド溶液(V)を得た。
[実施例3−6]
実施例2−6で得られたポリイミド(VI)を、濃度が12質量%となるようにGBLに溶解させ、ポリイミド溶液(VI)を得た。
【0059】
[4]ポリイミドの膜の作製
[実施例4−1]
まず、実施例3−1で得られたポリイミド溶液(I)を、5μmのフィルターを用いて加圧ろ過した。
その後、大気下で、ろ過したポリイミド溶液(I)をガラス基板上に塗布し、50℃で30分間、140℃で30分間、200℃で60分間、順次加熱し、ポリイミドの膜を得た。そして、得られたポリイミドの膜に四角形の切込みを入れて膜を剥がし、評価試料とした。
[実施例4−2]
実施例3−1で得られたポリイミド溶液(I)の代わりに、実施例3−2で得られたポリイミド溶液(II)を用いた以外は、実施例4−1と同様の手順・方法でポリイミドの膜を得た。そして、得られたポリイミドの膜に四角形の切込みを入れて膜を剥がし、評価試料とした。
[実施例4−3]
実施例3−1で得られたポリイミド溶液(I)の代わりに、実施例3−3で得られたポリイミド溶液(III)を用いた以外は、実施例4−1と同様の手順・方法でポリイミドの膜を得た。そして、得られたポリイミドの膜に四角形の切込みを入れて膜を剥がし、評価試料とした。
[実施例4−4]
実施例3−1で得られたポリイミド溶液(I)の代わりに、実施例3−4で得られたポリイミド溶液(IV)を用いた以外は、実施例4−1と同様の手順・方法でポリイミドの膜を得た。そして、得られたポリイミドの膜に四角形の切込みを入れて膜を剥がし、評価試料とした。
[実施例4−5]
実施例3−1で得られたポリイミド溶液(I)の代わりに、実施例3−5で得られたポリイミド溶液(V)を用いた以外は、実施例4−1と同様の手順・方法でポリイミドの膜を得た。そして、得られたポリイミドの膜に四角形の切込みを入れて膜を剥がし、評価試料とした。
[実施例4−6]
実施例3−6で得られたポリイミド溶液(VI)を、5μmのフィルターを用いて加圧ろ過した。
その後、ろ過したポリイミド溶液(VI)をガラス基板上に塗布し、大気下で、50℃で30分間、140℃で30分間、200℃で60分間、順次加熱し、透明のポリイミドの膜を得た。そして、得られたポリイミドの膜を機械的切断にて剥がし、評価試料とした。
【0060】
[5]ポリイミドの膜及び膜の評価
上述の手順にて作製した各膜(評価試料)の耐熱性及び光学特性、すなわち、50℃乃至200℃における線膨張係数(CTE)、5%重量減少温度(Td5%)、光線透過率(T400nm、T550nm)及びCIE b値(黄色評価)、リタデーション(Rth、R)並びに複屈折(Δn)に関して、下記手順に従いそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
1)線膨張係数(CTE)
<実施例4−1〜4−5 試料>
TAインスツルメンツ社製 TMA Q400を用いて、膜を幅5mm、長さ16mmのサイズにカットし、まず10℃/minで昇温して50乃至300℃まで加熱(第一加熱)し、次いで10℃/minで降温して50℃まで冷却した後に、10℃/minで昇温して50乃至420℃まで加熱(第二加熱)した際の、第二加熱の50℃乃至200℃における線膨張係数(CTE[ppm/℃])の値を測定することで求めた。なお、第一加熱、冷却および第二加熱を通じて、荷重0.05Nを加えた。
<実施例4−6 試料>
各評価試料を幅5mm、長さ16mmのサイズにカットし、これをTAインスツルメンツ社製 TMA Q400を用いて、まず10℃/minで昇温して50乃至300℃まで加熱(第一加熱)し、次いで10℃/minで降温して30℃まで冷却した後に、10℃/minで昇温して30乃至410℃まで加熱(第二加熱)した際の、第二加熱の50℃乃至200℃、並びに200℃乃至250℃における線膨張係数(CTE[ppm/℃])の値を測定することで求めた。なお、第一加熱、冷却および第二加熱を通じて、荷重0.05Nを加えた。
2)5%重量減少温度(Td5%
<実施例4−1〜4−5 試料>
5%重量減少温度(Td5%[℃])は、TAインスツルメンツ社製 TGA Q500を用い、窒素中、膜約5乃至10mgを50乃至800℃まで10℃/minで昇温して測定することで求めた。
<実施例4−6 試料>
5%重量減少温度(Td5%[℃])は、TAインスツルメンツ社製 TGA Q500を用い、窒素中、膜約5乃至10mgを50乃至800℃まで10℃/minで昇温して測定することで求めた。なお、150℃における重量を重量減少0%とした。
3)光線透過率(透明性)(T400nm、T550nm)及びCIE b値(CIE b
<実施例4−1〜4−5 試料>
波長400nm及び550nmの光線透過率(T400nm、T550nm[%])及びCIE b値(CIE b)は、日本電色工業(株)製 SA4000スペクトロメーターを用いて、室温にて、リファレンスを空気として、測定を行った。
<実施例4−6 試料>
波長400nm及び550nmの光線透過率(T400nm、T550nm[%])は、(株)島津製作所 紫外可視分光光度計 UV−Visible 3600を用い、室温にて、リファレンスを空気として、測定を行った。
CIE b値(CIE b)は、日本電色工業(株)製 SA4000スペクトロメーターを用いて、室温にて、リファレンスを空気として、測定を行った。
4)リタデーション(Rth、R
厚さ方向リタデーション(Rth)及び面内リタデーション(R)を、王子計測機器(株)製、KOBURA 2100ADHを用いて、室温にて測定した。
なお、厚さ方向リタデーション(Rth)及び面内リタデーション(R)は以下の式にて算出される。
=(Nx−Ny)×d=ΔNxy×d
th=[(Nx+Ny)/2−Nz]×d=[(ΔNxz×d)+(ΔNyz×d)/2
Nx、Ny:面内の直交する2つの屈折率(Nx>Ny、Nxを遅相軸、Nyを進相軸とも称する)
Nz:面に対して厚さ(垂直)方向(垂直)の屈折率
d:膜厚
ΔNxy:面内の2つの屈折率の差(Nx−Ny)(複屈折)
ΔNxz:面内の屈折率Nxと厚さ方向の屈折率Nzの差(複屈折)
ΔNyz:面内の屈折率Nyと厚さ方向の屈折率Nzの差(複屈折)
5)膜厚(d)
得られた膜の膜厚は、(株)テクロック製 シックネスゲージにて測定した。
6)複屈折(Δn)
前述の<4)リタデーション>により得られた厚さ方向リタデーション(Rth)の値を用い、以下の式にて算出した。
ΔN=[Rth/d(フィルム膜厚)]/1000
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示される通り、本発明のジアミンを用いて製造した膜(実施例4−1〜実施例4−5)は、非常に柔軟性であり、また特に波長550nmにおける透過率(T550nm)がおよそ90%と高いという結果となった。また該膜の面内リタデーションRは2.2nm〜9.8nm、厚さ方向のリタデーションRthに関しても440nm〜1022nmという低い値となった。
このように、本発明のジアミンを用いて製造した膜は、高い柔軟性と透明性、低いリタデーションという特性を有し、すなわちフレキシブルディスプレイ基板のベースフィルムとして必要な要件を満たすものであり、フレキシブルディスプレイ基板のベースフィルムとして特に好適に用いることができることが期待できる。