(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
≪多孔質膜の製造方法≫
多孔質膜の製造方法は、微粒子と、樹脂成分とを含有する多孔質膜製造用組成物(以下、単にワニスと略称することがある)の調製工程において、微粒子を含むスラリーをせん断力と、圧縮力又は衝撃力とにより分散させる分散工程を含む。樹脂成分としては、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体、ポリアミドイミド及びポリエーテルスルホンよりなる群から選択される1種以上が使用される。
以下、多孔質膜製造用組成物の調製工程について説明する。
【0015】
<多孔質膜製造用組成物の調製工程>
前述の通り、多孔質膜製造用組成物の調製工程は、微粒子を含むスラリーをせん断力と、圧縮力又は衝撃力とにより分散させる分散工程を含む。
上記分散工程において、せん断力と圧縮力とによりスラリーを分散させる装置としては、例えば三本ロールミル等の高せん断分散装置が好ましく用いられる。
せん断力と衝撃力とによりスラリー中の微粒子を分散させる装置しては、ビーズミル等の装置が好ましく用いられる。
一方、プラネタリーミキサー等の装置は、平均粒子径が比較的大きな微粒子を分散させるには十分であるが、せん断力のみで混錬するため、平均粒子径が200nm以下である粒径の小さい微粒子を分散させるには不十分である。
せん断力と、圧縮力又は衝撃力とによりスラリー中の微粒子を分散させることにより、平均粒子径が小さな微粒子を分散させる場合でも、分散された微粒子の再凝集を抑制しつつ、微粒子を均一に分散させることができる。
【0016】
微粒子の平均粒子径は、200nm以下が好ましく、160nm以下がより好ましい。平均粒子径が200nm以下である微粒子を用いることで、所望の孔径の微細孔を有し、除粒効果に優れる多孔質膜を形成しやすい。
なお、多孔質膜内に形成される、微粒子に由来する孔部のサイズは、微粒子の平均粒子径と同一であるか近い。このため、多孔質膜をフィルターとして用いる場合の流体の透過性等の点から、微粒子の平均粒子径は、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。
また、微粒子は、真球率が高く、粒径分布指数の小さいものが好ましい。これらの条件を備えた微粒子は、ワニス中での分散性に優れ、互いに凝集しない状態で使用することができる。
【0017】
スラリー中の微粒子の含有量は、例えば、スラリーの質量に対して5〜95質量%であり、20〜90質量%が好ましく、30〜85質量%がより好ましい。微粒子の含有量が上記範囲であると、ワニス中で微粒子同士が凝集しにくく、表面にひび割れ等を生じさせることなく多孔質膜を形成しやすいため、フィルター性能の良好な多孔質膜を安定して製造することができる。
【0018】
次に、多孔質膜製造用組成物の調製工程について具体的に説明する。
[第一の実施形態]
多孔質膜製造用組成物の調製工程は、微粒子と溶剤とを含むスラリー(1)を調製する工程、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体、ポリアミドイミド及びポリエーテルスルホンよりなる群から選択される少なくとも1つの樹脂成分と溶剤とを含むワニス(1)を調製する工程、スラリー(1)とワニス(1)とを混練しスラリー(2)を調製する工程、及びスラリー(2)をせん断力と、圧縮力又は衝撃力とにより分散させる工程を有してよい。
スラリー(2)をせん断力と圧縮力とにより分散させる場合、スラリー(2)の固形分濃度は、特に限定されないが例えば、10質量%以上であり、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上がより好ましく、上限は例えば60質量%以下である。
スラリー(2)をせん断力と衝撃力とにより分散させる場合、スラリー(2)の固形分濃度は、特に限定されないが例えば、1質量%以上であり、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上がより好ましく、上限は例えば60質量%以下である。
【0019】
上記調製工程は、スラリー(2)をせん断力と、圧縮力又は衝撃力とにより分散させる工程の前工程として、スラリー(2)を自転・公転ミキサーで混錬する等、遠心力により混錬する工程を有してよい。
また、上記調製工程は、スラリー(2)をせん断力と、圧縮力又は衝撃力とにより分散させる工程の前工程として、スラリー(2)をプラネタリーミキサーで混錬する等、せん断力のみにより混錬する工程を有してよい。
【0020】
[第二の実施形態]
多孔質膜製造用組成物の調製工程は、微粒子と溶剤とを含むスラリー(1)を調製する工程、スラリー(1)をせん断力と、圧縮力又は衝撃力とにより分散させる工程、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体、ポリアミドイミド及びポリエーテルスルホンよりなる群から選択される少なくとも1つの樹脂成分と、溶剤とを含むワニス(1)を調製する工程、及び分散工程を経たスラリー(1)とワニス(1)とを混練する工程を有してよい。
スラリー(1)をせん断力と圧縮力とにより分散させる場合、スラリー(2)の固形分濃度は、特に限定されないが例えば、10質量%以上であり、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上がより好ましく、上限は例えば90質量%以下である。
スラリー(1)をせん断力と衝撃力とにより分散させる場合、スラリー(2)の固形分濃度は、特に限定されないが例えば、1質量%以上であり、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上がより好ましく、上限は例えば90質量%以下である。
【0021】
上記調製工程は、スラリー(1)をせん断力と、圧縮力又は衝撃力とにより分散させる工程の前工程として、スラリー(1)をホモジナイザーで分散させる等、衝撃力により分散させる工程を有してよい。
調製工程は、分散工程を経たスラリー(1)とワニス(1)とを混練する工程の前工程として、スラリー(1)とワニス(1)とを自転・公転ミキサーで混錬する等、遠心力によりスラリーを混錬する工程を有してよい。
分散工程を経たスラリー(1)とワニス(1)とを混練する際には、微粒子の再凝集が起きやすい。このことから、調製工程は、分散工程を経たスラリー(1)とワニス(1)とを混練する工程の後工程として、再度、せん断力と、圧縮力又は衝撃力とにより分散させる工程を有してよい。
【0022】
[第三の実施形態]
多孔質膜製造用組成物の調製工程は、例えば、微粒子と、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体、ポリアミドイミド及びポリエーテルスルホンよりなる群から選択される少なくとも1つの樹脂成分とを含有するスラリー(3)を調製し、スラリー(3)をせん断力、及び圧縮力又は衝撃力により分散させる工程、及び分散工程を経たスラリー(3)に溶剤を添加し、スラリー(3)の粘度を下げる粘度調製工程を有してよい。
粘度調製工程では、スラリー(3)の粘度が5Pa・s以下に調製されるのが好ましい。第三の実施形態において、分散工程時のスラリー(3)は、粘度が高い状態、例えば、5Pa・sを超えているため、せん断力、及び圧縮力又は衝撃力により微粒子がより効率よく分散されやすくなると考えられる。
スラリー(3)をせん断力と圧縮力とにより分散させる場合、スラリー(3)の固形分濃度は、特に限定されないが例えば、10質量%以上であり、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上がより好ましく、上限は例えば60質量%以下である。
スラリー(3)をせん断力と衝撃力とにより分散させる場合、スラリー(2)の固形分濃度は、特に限定されないが例えば、1質量%以上であり、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上がより好ましく、上限は例えば60質量%以下である。
【0023】
<多孔質膜製造用組成物>
以下、多孔質膜製造用組成物(ワニス)の調製工程で使用される、ワニスの必須又は任意の成分について説明する。
【0024】
〔樹脂成分〕
ワニスは、樹脂成分として、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体、ポリアミドイミド及びポリエーテルスルホンよりなる群から選択される少なくとも1つを含有する。以下、ポリアミド酸と、ポリイミドと、ポリアミドイミド及びポリアミドイミド前駆体と、ポリエーテルスルホンとについて順に説明する。
【0025】
[ポリアミド酸]
ポリアミド酸としては、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合して得られる生成物が、特に限定されることなく使用できる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50〜1.50モル用いるのが好ましく、0.60〜1.30モル用いるのがより好ましく、0.70〜1.20モル用いるのが特に好ましい。
【0026】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス無水フタル酸フルオレン、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は1種類を単独で又は二種以上混合して用いることもできる。
【0028】
ジアミンは、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。ジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。これらのジアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2〜10個程度が結合したジアミノ化合物を挙げることができる。具体的には、フェニレンジアミン及びその誘導体、ジアミノビフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノジフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノナフタレン及びその誘導体、アミノフェニルアミノインダン及びその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物及びその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体である。
【0030】
フェニレンジアミンはm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン等であり、フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4−ジアミノトルエン、2,4−トリフェニレンジアミン等である。
【0031】
ジアミノビフェニル化合物では、2つのアミノフェニル基同士が結合している。例えば、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等である。
【0032】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合した化合物である。結合はエーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン又はその誘導体基による結合、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等である。アルキレン結合の炭素原子数は1〜6程度である。アルキレン基の誘導体基は、1以上のハロゲン原子等で置換されたアルキレン基である。
【0033】
ジアミノジフェニル化合物の例としては、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(p−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−1−ペンテン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−2−ペンテン、イミノジアニリン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)ペンタン、ビス(p−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノアゾベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニル尿素、4,4’−ジアミノジフェニルアミド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0034】
これらの中では、価格、入手容易性等から、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0035】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基がいずれも他の基を介して結合した化合物である。他の基は、ジアミノジフェニル化合物と同様の基が選ばれる。ジアミノトリフェニル化合物の例としては、1,3−ビス(m−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン等を挙げることができる。
【0036】
ジアミノナフタレンの例としては、1,5−ジアミノナフタレン及び2,6−ジアミノナフタレンを挙げることができる。
【0037】
アミノフェニルアミノインダンの例としては、5又は6−アミノ−1−(p−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダンを挙げることができる。
【0038】
ジアミノテトラフェニル化合物の例としては、4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(m−アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0039】
カルド型フルオレンジアミン誘導体は、9,9−ビスアニリンフルオレン等が挙げられる。
【0040】
脂肪族ジアミンの炭素原子数は、例えば、2〜15程度がよい。脂肪族ジアミンの具体例としては、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0041】
なお、これらのジアミンの水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基等の群より選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物であってもよい。
【0042】
ポリアミド酸を製造する手段に特に制限はなく、例えば、溶剤中で酸、ジアミン成分を反応させる方法等の公知の手法を用いることができる。
【0043】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しない溶剤であれば特に限定されない。溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤の例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類、キシレン系混合溶媒等のフェノール系溶剤が挙げられる。
これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミド酸の含有量が5〜50質量%とするのが望ましい。
【0045】
これらの溶剤の中では、生成するポリアミド酸の溶解性から、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。
【0046】
重合温度は一般的には−10〜120℃、好ましくは5〜30℃である。重合時間は使用する原料組成により異なるが、通常は3〜24Hr(時間)である。
ポリアミド酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
[ポリイミド]
ポリイミドは、その構造や分子量が限定されることはなく、公知のものが使用できる。ポリイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。また、多孔質膜製造用組成物が溶剤を含有する場合、使用する溶剤に溶解可能な可溶性ポリイミドが好ましい。
【0048】
溶剤に可溶なポリイミドとするために、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2−メチル−1,4−フェニレンジアミン、o−トリジン、m−トリジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物等の使用が有効である。また、溶剤への溶解性を向上する官能基を有するモノマーの使用、例えば、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンを使用することも有効である。更に、上記ポリイミドの溶解性を向上するためのモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の欄に記したモノマーと同じモノマーを併用することもできる。
ポリイミド及びそのモノマーの各々は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
ポリイミドを製造する手段に特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸を化学イミド化又は加熱イミド化させる方法等の公知の手法を用いることができる。そのようなポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、芳香族ポリイミド等を挙げることができ、芳香族ポリイミドが好ましい。芳香族ポリイミドとしては、式(1)で示す繰り返し単位を有するポリアミド酸を熱又は化学的な手段で閉環反応させることによって取得したもの、若しくは式(2)で示す繰り返し単位を有するポリイミド等が挙げられる。式中、Arはアリール基を示す。多孔質膜製造用組成物が溶剤を含有するものである場合、これらのポリイミドは、次いで、使用する溶剤に溶解させるとよい。
【化1】
【化2】
【0050】
[ポリアミドイミド及びポリアミドイミド前駆体]
ポリアミドイミドは、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリアミドイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。また、多孔質膜製造用組成物が溶剤を含有する場合、使用する溶剤に溶解可能な可溶性ポリアミドイミドが好ましい。
【0051】
ポリアミドイミドは、通常、(i)無水トリメリット酸等の1分子中にカルボキシル基と酸無水物基とを有する酸とジイソシアネートとを反応させて得られる樹脂、(ii)無水トリメリット酸クロライド等の上記酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマー(ポリアミドイミド前駆体)をイミド化して得られる樹脂等を特に限定されることなく使用できる。
【0052】
上記酸又はその反応性誘導体としては、例えば、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド等の無水トリメリット酸ハロゲン化物、無水トリメリット酸エステル等が挙げられる。
【0053】
上記任意のジアミンとしては、前述のポリアミド酸の説明において例示したジアミンが挙げられ、また、ジアミノピリジン系化合物も用いることができる。
【0054】
上記任意のジイソシアネートとしては、特に限定されず、例えば、上記任意のジアミンに対応するジイソシアネート化合物等が挙げられ、具体的には、メタフェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、o−トリジンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、4,4’−オキシビス(フェニルイソシアネート)、4,4’−ジイソシアネートジフェニルメタン、ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2′−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジエチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0055】
ポリアミドイミドの原料モノマーとしては、上記以外にも、特開昭63−283705号公報、特開平2−198619号公報に一般式として記載されている化合物を使用することもできる。また、上記(ii)の方法におけるイミド化は熱イミド化及び化学イミド化のいずれであってもよい。化学イミド化としては、ポリアミドイミド前駆体等を含む多孔質膜製造用組成物を用いて形成した未焼成複合膜を、無水酢酸、あるいは無水酢酸とイソキノリンの混合溶媒に浸す等の方法を用いることができる。なお、ポリアミドイミド前駆体は、イミド化前の前駆体という観点では、ポリイミド前駆体ともいえる。
【0056】
ワニスに含有させるポリアミドイミドとしては、上述の(1)無水トリメリット酸等の酸とジイソシアネートとを反応させて得られるポリマー、(2)無水トリメリット酸クロライド等の上記酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマーをイミド化して得られるポリマー等であってよい。本明細書及び本特許請求の範囲において、「ポリアミドイミド前駆体」は、イミド化前のポリマー(前駆体ポリマー)を意味する。
ポリアミドイミド及びポリアミドイミド前駆体の各々は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ポリアミドイミドについて、上記ポリマー、原料モノマー、及びオリゴマーの各々は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
[ポリエーテルスルホン]
ワニスに含有させるポリエーテルスルホンとしては、製造する多孔質膜の用途に応じて適宜選択することができ、親水性でも疎水性であってもよい。また脂肪族ポリエーテルスルホンであっても芳香族ポリエーテルスルホンであってもよい。質量平均分子量は、例えば、5000〜1,000,000であり、好ましくは10,000〜300,000である。
【0058】
[微粒子]
微粒子の材質は、ワニスに含まれる溶剤に不溶で、後に樹脂−微粒子複合膜から除去可能なであれば、特に限定されることなく公知の材質を採用可能である。例えば、無機材料としては、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al
2O
3)等の金属酸化物、有機材料としては、高分子量オレフィン(ポリプロピレン,ポリエチレン等)、ポリスチレン、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル等の有機高分子微粒子が挙げられる。微粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
具体的に微粒子としては、例えば、コロイダルシリカが挙げられる。中でも単分散球状シリカ粒子を選択する場合、均一な孔を形成できるために好ましい。
【0060】
[溶剤]
溶剤としては、ワニスに含まれる樹脂成分を溶解することができ、微粒子を溶解しないものであれば、特に限定されず、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤として例示したものが挙げられる。また、ワニスにポリエーテルスルホンを含有させる場合の溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤の他、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ベンゾフェノン、テトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の極性溶媒が挙げられる。溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
[分散剤]
ワニス中の微粒子を均一に分散させることを目的に、微粒子とともに更に分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することにより、樹脂成分と微粒子とを一層均一に混合でき、更には、成形又は成膜した膜中の微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られる多孔質膜の表面に稠密な開口を設け、かつ、表裏面を効率よく連通させることが可能となり、多孔質膜の透気度が向上する。更に、分散剤を添加することにより、ワニスの乾燥性が向上しやすくなり、また、形成された未焼成複合膜の基板等からの剥離性が向上しやすくなる。
【0062】
分散剤は、特に限定されることなく、公知のものを使用することができる。例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキサイド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等、ポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテルのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等のその他のポリオキアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記分散剤は、2種以上を混合して使用することもできる。
【0063】
ワニスにおける分散剤の含有量は、例えば、成膜性の点で、上記微粒子に対し0.01〜5質量%であることが好ましく、0.05〜1質量%であることがより好ましく、0.1〜0.5質量%であることが更により好ましい。
【0064】
<多孔質膜の製造方法>
多孔質膜の製造方法は、上述したワニスを用いて、未焼成複合膜を成膜する未焼成複合膜成膜工程と、上記未焼成複合膜を焼成して樹脂−微粒子複合膜を得る焼成工程と、上記樹脂−微粒子複合膜から微粒子を取り除く微粒子除去工程と、を有する。
【0065】
[未焼成複合膜の製造(未焼成複合膜成膜工程)]
以下、未焼成複合膜の成膜方法について説明する。未焼成複合膜成膜工程においては、前述のワニスを用いて、未焼成複合膜を成膜する。その際、未焼成複合膜は、基板上に直接成膜してもよいし、上記未焼成複合膜とは異なる下層膜上に成膜してもよい。また、前述のワニス(多孔質膜製造用組成物)を用いて、未焼成複合膜を成膜した後に、更に上層に上記未焼成複合膜とは異なる上層膜を成膜してもよい。なお、本出願において、基板上に下層膜を設ける方法も、前述のワニスを用いて、未焼成複合膜を成膜した後に、更に上層に上記未焼成複合膜とは異なる上層膜を成膜する方法も、基板上に未焼成複合膜を形成する方法に含める。ただし、前述のワニスに含まれる樹脂成分が、ポリアミド酸又はポリアミドイミド前駆体であって、上層膜に焼成工程不要の材料を用いる場合は、焼成後の樹脂−微粒子複合膜に対し、上層膜を形成してもよい。
未焼成複合膜は、例えば、基板上又は上記下層膜上に、前述のワニスを塗布し、常圧又は真空下で0〜100℃、好ましくは常圧10〜100℃で乾燥することにより、形成することができる。
基板としては、例えば、PETフィルム、SUS基板、ガラス基板等が挙げられる。
【0066】
上記下層膜(又は上層膜)としては、例えば、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体、ポリアミドイミド及びポリエーテルスルホンからなる樹脂と、微粒子と、溶剤とを含有し、上記微粒子の含有量が上記樹脂と上記微粒子との合計に対して40体積%超81体積%以下である下層膜(又は上層膜)形成用ワニスを用いて成膜した下層(又は上層)未焼成複合膜が挙げられる。下層未焼成複合膜は、基板上に形成されたものであってもよい。上記微粒子の含有量が40体積%超であると、粒子が均一に分散し、また、上記微粒子の含有量が81体積%以下であると、粒子同士が凝集することもなく分散するため、多孔質膜において孔を均一に形成することができる。また、上記微粒子の含有量が上記範囲内であれば、下層未焼成複合膜を基板上に形成する場合、上記基板に予め離型層を設けていなくても、成膜後の離型性を確保しやすい。
【0067】
なお、下層(又は上層)膜形成用ワニスに用いる微粒子と、前述のワニスに用いる微粒子とは、同じであってもよいし、互いに異なってもよい。下層(又は上層)未焼成複合膜における孔をより稠密にするには、下層(又は上層)膜形成用ワニスに用いる微粒子は、前述のワニスに用いる微粒子よりも粒径分布指数が小さいか同じであることが好ましい。あるいは、下層(又は上層)膜形成用ワニスに用いる微粒子は、前述のワニスに用いる微粒子よりも真球率が小さいか同じであることが好ましい。
【0068】
また、下層(又は上層)膜形成用ワニスに用いる微粒子の平均粒子径は、5〜1000nmが好ましく、10〜600nmがより好ましい。
【0069】
また、下層(又は上層)膜形成用ワニスにおける微粒子の含有量は、前述のワニスよりも多くてもよいし少なくてもよい。下層(又は上層)膜形成用ワニスに含まれる、樹脂成分、微粒子、及び溶剤等の成分の好適な例は、前述のワニスと同様である。下層(又は上層)膜形成用ワニスは、前述のワニスと同様の方法により調製することができる。下層未焼成複合膜は、例えば、基板上に、上記下層膜形成用ワニスを塗布し、常圧又は真空下で0〜100℃、好ましくは常圧10〜100℃で乾燥することにより、形成することができる。上層未焼成複合膜の成膜条件も同様である。
【0070】
また、上記下層(又は上層)膜としては、例えば、セルロース系樹脂、不織布(例えば、ポリイミド製不織布等(繊維径は、例えば、約50nm〜約3000nmである。)等の繊維系材料からなる膜や、ポリイミドフィルムも挙げられる。
【0071】
更に、上記未焼成複合膜又は上記未焼成複合膜と上記下層(又は上層)膜との積層膜を焼成して樹脂−微粒子複合膜を得る焼成工程に入る。上記未焼成複合膜又は上記下層未焼成複合膜を基板上に成膜した場合、そのまま焼成してもよいし、焼成工程に入る前に上記未焼成複合膜又は上記未焼成複合膜と上記下層未焼成複合膜との積層膜を基板から剥離してもよい。
【0072】
なお、上記下層(又は上層)膜が、下層(又は上層)膜形成用ワニスを用いて成膜した下層(又は上層)未焼成複合膜であり、かつ、下層(又は上層)膜形成用ワニスの組成が、上記未焼成複合膜の成膜に用いられるワニスの組成と同じである場合は、上記未焼成複合膜と上記下層(又は上層)膜との積層膜は実質1層(単層)である。
【0073】
未焼成複合膜又は未焼成複合膜と下層(又は上層)未焼成複合膜との積層膜を基板から剥離する場合、膜の剥離性を更に高めるために、予め離型層を設けた基板を使用することもできる。基板に予め離型層を設ける場合は、多孔質膜製造用組成物の塗布の前に、基板上に離型剤を塗布して乾燥あるいは焼き付けを行う。ここで使用される離型剤は、アルキルリン酸アンモニウム塩系、フッ素系又はシリコーン等の公知の離型剤が特に制限なく使用可能である。上記乾燥した未焼成複合膜を基板から剥離する際、未焼成複合膜の剥離面にわずかながら離型剤が残存するため、焼成中の変色や電気特性への悪影響の原因ともなるので、極力取り除くことが好ましい。離型剤を取り除くことを目的として、基板より剥離した未焼成複合膜又は未焼成複合膜と下層未焼成複合膜との積層膜を、有機溶剤を用いて洗浄する洗浄工程を導入してもよい。
【0074】
一方、未焼成複合膜又は下層未焼成複合膜の成膜に、離型層を設けず基板をそのまま使用する場合は、上記離型層形成の工程や上記洗浄工程を省くことができる。また、未焼成複合膜の製造方法において、後述の焼成工程の前に、水を含む溶剤への浸漬工程、プレス工程、当該浸漬工程後の乾燥工程をそれぞれ任意の工程として設けてもよい。
【0075】
[樹脂−微粒子複合膜の製造(焼成工程)]
ワニスに含まれる樹脂成分が、ポリアミド酸又はポリアミドイミド前駆体の場合、上記未焼成複合膜に加熱による後処理(焼成)を行って、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドからなる樹脂と、微粒子と、からなる複合膜(樹脂−微粒子複合膜)とする。なお、ワニスに含まれる樹脂成分が、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリエーテルスルホンである場合は、焼成工程を省いてもよい。上記未焼成複合膜成膜工程において、上記未焼成複合膜とは異なる下層膜上に上記未焼成複合膜を成膜した場合には、焼成工程において、上記未焼成複合膜とともに上記下層膜も焼成する。焼成工程における焼成温度は、未焼成複合膜及び下層膜の構造や縮合剤の有無によっても異なるが、120〜450℃であることが好ましく、更に好ましくは150〜400℃である。また、微粒子に、有機材料を使用するときは、その熱分解温度よりも低い温度に設定する必要がある。ワニスに含まれる樹脂成分が、ポリアミド酸の場合、焼成工程においてはイミド化を完結させることが好ましい。
【0076】
焼成条件は、例えば、室温〜400℃までを3時間で昇温させた後、400℃で20分間保持させる方法や室温から50℃刻みで段階的に400℃まで昇温(各ステップ20分保持)し、最終的に400℃で20分保持させる等の段階的な乾燥−熱イミド化法を用いることもできる。基板上に未焼成複合膜を成膜し、上記基板から上記未焼成複合膜を一旦剥離する場合は、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定し変形を防ぐ方法を採ることもできる。
【0077】
できあがった樹脂−微粒子複合膜の膜厚は、例えばマイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。どのような平均膜厚が好ましいかは、多孔質膜の用途によって異なるが、例えば、セパレータ等に使用する場合は、5〜500μmであることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましく、15〜30μmであることが更に好ましい。フィルター等に使用する場合は、5〜500μmであることが好ましく、10〜300μmであることがより好ましく、20〜150μmであることが更に好ましい。
【0078】
[樹脂−微粒子複合膜の多孔化(微粒子除去工程)]
樹脂−微粒子複合膜から、微粒子を適切な方法を選択して除去することにより、多孔質膜を再現性よく製造することができる。
【0079】
微粒子の材質として、例えば、シリカを採用した場合、樹脂−微粒子複合膜を低濃度のフッ化水素水等により処理して、シリカを溶解除去することが可能である。
【0080】
また、微粒子の材質として、有機材料を選択することもできる。有機材料としては、樹脂−微粒子複合膜に含まれる樹脂よりも低温で分解するものであれば、特に限定されることなく使用できる。例えば、線状ポリマーや公知の解重合性ポリマーからなる樹脂微粒子を挙げることができる。通常の線状ポリマーは、熱分解時にポリマーの分子鎖がランダムに切断され、解重合性ポリマーは、熱分解時にポリマーが単量体に分解するポリマーである。いずれも、低分子量体、あるいは、CO
2まで分解することによって、樹脂−微粒子複合膜から消失する。使用される樹脂微粒子の分解温度は200〜320℃であることが好ましく、230〜260℃であることが更に好ましい。分解温度が200℃以上であれば、多孔質膜製造用組成物に高沸点溶剤を使用した場合も成膜を行うことができ、ポリイミドの焼成条件の選択の幅が広くなる。また、分解温度が320℃未満であれば、ポリイミドに熱的なダメージを与えることなく樹脂微粒子のみを消失させることができる。
【0081】
多孔質膜の全体の膜厚は特に限定されるものではないが、例えば、セパレータ等に使用する場合は、5〜500μmであることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましく、15〜30μmであることが更に好ましい。フィルター等に使用する場合は、5〜500μmであることが好ましく、10〜300μmであることがより好ましく、20〜150μmであることが更に好ましい。上記の膜厚は、樹脂−微粒子複合膜の測定時と同様、例えばマイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。
【0082】
多孔質膜が、2種以上の多孔質膜製造用組成物から形成される場合や、本発明に係る製法とは異なる調製方法による他の多孔質膜製造用組成物による層との組み合わせにより製造される場合、各多孔質膜製造用組成物により形成される領域の厚さ方向の比率は、多孔質膜の用途に応じて適宜設定すればよい。本発明に係る多孔質膜製造組成物による層(I)と、本発明に係る製法とは異なる調製方法による他の多孔質膜製造用組成物による層(II)の2つの領域を有する多孔質膜の場合、各領域の厚み方向の比率((I):(II))は、例えば、1:99〜99:1であり、好ましくは5:95〜95:5の範囲で調製すればよい。各層の厚さは、多孔質膜断面の複数箇所を、走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察して平均して算出することができる。
【0083】
[樹脂除去工程]
多孔質膜の製造方法は、微粒子除去工程前に、樹脂−微粒子複合膜の樹脂部分の少なくとも一部を除去するか、又は、微粒子除去工程後に多孔質膜の少なくとも一部を除去する樹脂除去工程を有していてもよい。微粒子除去工程前に、樹脂−微粒子複合膜の樹脂部分の少なくとも一部を除去することにより、続く微粒子除去工程で微粒子が取り除かれ空孔が形成された場合に、上記樹脂部分の少なくとも一部を除去しないものに比べて、最終製品の多孔質膜の開孔率を向上させることが可能となる。また、微粒子除去工程後に多孔質膜の少なくとも一部を除去することにより、上記多孔質膜の少なくとも一部を除去しないものに比べて、最終製品の多孔質膜の開孔率を向上させることが可能となる。
【0084】
上記の樹脂部分の少なくとも一部を除去する工程、あるいは、多孔質膜の少なくとも一部を除去する工程は、通常のケミカルエッチング法若しくは物理的除去方法、又は、これらを組み合わせた方法により行うことができる。
【0085】
ケミカルエッチング法としては、無機アルカリ溶液又は有機アルカリ溶液等のケミカルエッチング液による処理が挙げられる。無機アルカリ溶液が好ましい。無機アルカリ溶液として、例えば、ヒドラジンヒドラートとエチレンジアミンを含むヒドラジン溶液、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の溶液、アンモニア溶液、水酸化アルカリとヒドラジンと1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを主成分とするエッチング液等が挙げられる。有機アルカリ溶液としては、エチルアミン、n−プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピヘリジン等の環状アミン類等のアルカリ性溶液が挙げられる。
【0086】
上記の各溶液の溶媒については、純水、アルコール類を適宜選択できる。また界面活性剤を適当量添加したものを使用することもできる。アルカリ濃度は、例えば0.01〜20質量%である。
【0087】
また、物理的な方法としては、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチング、研磨剤(例えば、アルミナ(硬度9)等)を液体に分散し、これを膜の表面に30〜100m/sの速度で照射することで表面処理する方法等が使用できる。
【0088】
上記した方法は、微粒子除去工程前又は微粒子除去工程後のいずれの樹脂除去工程にも適用可能であるので好ましい。
【0089】
一方、微粒子除去工程後に行う樹脂除去工程にのみ適用可能な物理的方法として、対象表面を液体で濡らした台紙フィルム(例えばPETフィルム等のポリエステルフィルム)に圧着後、乾燥しないで又は乾燥した後、多孔質膜を台紙フィルムから引きはがす方法を採用することもできる。液体の表面張力あるいは静電付着力に起因して、多孔質膜の表面層のみが台紙フィルム上に残された状態で、多孔質膜が台紙フィルムから引きはがされる。
【0090】
以下、実施例を基に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これに限定されるものではない。
【0091】
[実施例1]
下記成分からなるスラリー(3−a)を3本ロールミルにて分散させた後、ジメチルアセトアミドとガンマブチロラクトンを固形分濃度が30質量%(最終溶剤組成の質量比はジメチルアセトアミド:ガンマブチロラクトン=90:10)となるように加え多孔質膜製造用組成物を調製した。多孔質膜製造用組成物を基板上に塗布した後、90℃で300秒間加熱して溶剤を除去して膜厚約40μmの塗布膜を形成した。形成された塗布膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。得られたSEM画像を
図1に示す。
<スラリー(3−a)の成分>
樹脂:ポリアミド酸(ジメチルアセトアミド20質量%溶液)30質量部(ポリアミド酸の固形分量)
微粒子:シリカ(平均粒子径150nm)70質量部(シリカに対し、0.5質量%の分散剤を含む)
【0092】
[比較例1]
下記成分からなるスラリー(1−a)とポリアミド酸の濃度が14.3質量%であるワニス(1−a)とを自転・公転ミキサー(商品名:あわとり練太郎(株)シンキー製)にて、ジメチルアセトアミドとガンマブチロラクトンとを最終組成物の固形分濃度が30質量%(最終溶剤組成の質量比はジメチルアセトアミド:ガンマブチロラクトン=90:10)となるように加えながら、分散・混錬し、多孔質膜製造用組成物を調製した(最終組成物におけるポリアミド酸:シリカの質量比は30:70)。多孔質膜製造用組成物を基板上に塗布した後、90℃で300秒間加熱して溶剤を除去して塗布膜を形成した。形成された塗布膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。得られたSEM画像を
図2(a)、及び
図2(b)に示す。
図2(b)に示されるのは、
図2(a)よりも高倍率での観察像である。
<スラリー(1−a)の成分>
溶剤:ジメチルアセトアミド50質量部
微粒子:シリカ(平均粒子径150nm)50質量部(シリカに対し、0.5質量%の分散剤を含む)
<ワニス(1−a)の成分>
樹脂:ポリアミド酸(ジメチルアセトアミド20質量%溶液)
溶剤:ジメチルアセトアミド
【0093】
[実施例2]
比較例1と同様に、分散・混錬し、多孔質膜製造用組成物を調製した(最終組成物におけるポリアミド酸:シリカの質量比は30:70)後、更にビーズミル(ジルコニアビーズ0.3mm、周速11、1時間(浅田鉄工(株) PICO MILL))にて、処理した後。多孔質膜製造用組成物を得た。基板上に塗布した後、90℃で300秒間加熱して溶剤を除去して塗布膜を形成した。SEMにより観察したところ、実施例1と同様の良好な塗布膜が得られた。
【0094】
図1から、せん断力と圧縮力により分散を行う3本ロールミル又はせん断力と衝撃力により分散を行うビーズミルを用いて調製した多孔質膜製造用組成物においては、平均粒子径150nmと小さいシリカ微粒子でも、均一に分散されていることが分かる。
これに対し、
図2(a)(b)から、遠心力により分散を行う自転・公転ミキサーを用いて調製した多孔質膜製造用組成物においては、シリカ微粒子の凝集が部分的に観察されることが分かる。
【0095】
[焼成工程]
良好な塗布膜(未焼成複合膜)が得られた実施例1及び実施例2について、380℃で15分間加熱処理(焼成)することにより、イミド化させ、樹脂−微粒子複合膜を得た。
【0096】
[微粒子除去工程]
得られた各樹脂−微粒子複合膜について、10%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去した。微粒子の除去後、水洗及び乾燥を行い、多孔質膜を得た。得られた膜をSEMにより観察したところ、実施例2の多孔質膜の方が、表面の開口率が高かった。
【0097】
(透気度)
実施例1及び実施例2で得られた多孔質膜について、各々を5cm角に切り出して、透気度測定用のサンプルとした。ガーレー式デンソメーター(東洋精機製)を用いて、JIS P 8117に準じて、100mlの空気が上記サンプルを通過する時間を測定した。その結果、実施例1よりも実施例2の方が約100秒早いことが確認できた。実施例2の方が、分散状態が良好な多孔質膜製造用組成物が得られたため、多孔質膜の透気度が早くなったものと考えられる。
【0098】
実施例2で得られた多孔質膜を用いて、水、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、イソプロパノール、及びフォトレジスト組成物について、ろ過圧力0.1MPa又は0.08MPaでの通液性を評価した。なお、通液性の評価は、ハウジングセットした直径47mmの円形の多孔質膜の面に対して試験液を通液させて行った。
通液性の評価結果を以下表1に記す。
【表1】
【0099】
<それぞれ平均粒子径の異なる微粒子を含む2種類の多孔質膜製造用組成物を用いた多孔質膜の製造方法>
・下層膜用の多孔質膜製造用組成物1:実施例2と同様に調整した。
・上層膜用の多孔質膜製造用組成物1:下記参考例1により調整した。
・上層膜用の多孔質膜製造用組成物2:下記参考例2により調整した。
【0100】
[参考例1]
下記成分からなるスラリー(1−a)とポリアミド酸の濃度が14.3質量%であるワニス(1−b)とを自転・公転ミキサー(商品名:あわとり練太郎(株)シンキー製)にて、ジメチルアセトアミドとガンマブチロラクトンとを最終組成物の固形分濃度が30質量%(最終溶剤組成の質量比はジメチルアセトアミド:ガンマブチロラクトン=90:10)となるように加えながら、分散・混錬し、多孔質膜製造用組成物を調製した(最終組成物におけるポリアミド酸:シリカの質量比は30:70、(およその体積比は40:60))。
<スラリー(1−a)の成分>
溶剤:ジメチルアセトアミド50質量部
微粒子:シリカ(平均粒子径700nm)50質量部(シリカに対し、0.5質量%の分<ワニス(1−b)の成分>
樹脂:ポリアミド酸(ジメチルアセトアミド20質量%溶液)
溶剤:ジメチルアセトアミド
散剤を含む)
【0101】
[参考例2]
最終組成物におけるポリアミド酸:シリカの質量比が20:80(およその体積比は28:72)となるようにした他は、参考例1と同様にして多孔質膜製造用組成物を調製した。
【0102】
・多孔質膜の製造
[実施例3]
PETフィルム上に、下層膜用の多孔質膜製造用組成物1を、アプリケーターで膜厚約2μmとなるように成膜し、下層膜を形成した。続いて、上層膜用の多孔質膜製造用組成物1を、前記下層膜上にアプリケーターを用い成膜し、90℃で5分間プリベークして、それぞれ平均粒子径の異なる微粒子を含む下層膜と上層膜からなる膜厚約25μmの未焼成複合膜を得た。未焼成複合膜を水に3分間浸漬した後に2本のロール間に通してプレスした。その際、ロール抑え圧は3.0kg/cm
2、ロール温度は80℃、未焼成複合膜の移動速度は0.5m/minであった。プレス処理後の基体から剥離された未焼成複合膜について、400℃で15分間熱処理を施し、膜厚約25μmのポリイミド−微粒子複合膜を形成した。次いで、ポリイミド−微粒子複合膜を、10%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去した後水洗及び乾燥を行い、それぞれ異なる平均空孔径を有する下層膜と上層膜からなる膜厚約25μmの多孔質膜を得た。上記と同様にして測定した透気度は、299秒であった。
【0103】
[実施例4]
下層膜用の多孔質膜製造用組成物1を下層膜用の多孔質膜製造用組成物2に変えた他は、実施例3と同様にして、それぞれ異なる平均空孔径を有する下層膜と上層膜からなる膜厚約24μmの多孔質膜を得た。上記と同様にして測定した透気度は、92秒であった。
【0104】
得られた膜について、下層膜側(PET面側)の表面をSEMにより観察したところ、いずれの膜も、1つのシリカ微粒子が1つの孔となって表れていることが確認できた。また、断面についてもSEMにより観察したところ、下層膜用の多孔質膜製造用組成物1による領域と、上層膜用の多孔質膜製造用組成物1又は2による領域がそれぞれ形成されていることが確認できた。
【0105】
[実施例5]
下記成分からなるスラリー(3−b)を3本ロールミルにて分散させた。次いで、ジメチルアセトアミドを固形分濃度が42質量%となるように加えながら、スラリー(3−b)を、自転・公転ミキサー(商品名:あわとり練太郎(株)シンキー製)による、分散・混錬を2回行って、多孔質膜製造用組成物を調製した。
多孔質膜製造用組成物を基板上に塗布した後、90℃で300秒間加熱して溶剤を除去して塗布膜を形成した。
<スラリー(3−b)の成分>
樹脂:ポリエーテルスルホン(ジメチルアセトアミド35質量%溶液)57質量部(ポリエーテルスルホンの固形分量:20質量部)
微粒子:シリカ(平均粒子径100nm)80質量部(シリカに対し、0.5質量%の分散剤を含む)
【0106】
得られた塗布膜(樹脂−微粒子複合膜)について、10%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去した。微粒子の除去後、水洗及び乾燥を行い、膜厚約40μmの多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。得られたSEM画像を
図3に示す。
図3から、せん断力と圧縮力により分散を行う3本ロールミルを用いて調製した実施例5の多孔質膜製造用組成物を用いて形成された多孔質膜では、平均粒子径100nmと小さいシリカ微粒子でも、均一に分散されて多孔化されていることが分かる。
【0107】
[比較例2]
下記成分をホモジナイザーにより混練して得たスラリー(1−c)と、下記成分を自転・公転ミキサー(商品名:あわとり練太郎(株)シンキー製)により混練して得た、ワニス(1−d)とを、自転・公転ミキサー(商品名:あわとり練太郎(株)シンキー製)にて、ジメチルアセトアミドとガンマブチロラクトンとを最終組成物の固形分濃度が42質量%となるように加えながら、分散・混錬し、多孔質膜製造用組成物を調製した(最終組成物におけるポリエーテルスルホン:シリカの質量比は20:80)。
<スラリー(1−c)の成分>
溶剤:ジメチルアセトアミド80質量部
微粒子:シリカ(平均粒子径100nm)80質量部(シリカに対し、0.5質量%の分散剤を含む)
<ワニス(1−d)の成分>
樹脂:ポリエーテルスルホン(ジメチルアセトアミド30質量%溶液)67質量部(ポリエーテルスルホンの固形分量:20質量部)
【0108】
多孔質膜製造用組成物を基板上に塗布した後、90℃で300秒間加熱して溶剤を除去して塗布膜を形成した後、実施例5と同様にして膜厚約40μmのポリエーテルスルホン多孔質膜を得た。形成された多孔質膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。得られたSEM画像を
図4に示す。
図4から、遠心力により分散を行う自転・公転ミキサーを用いて調製した多孔質膜製造用組成物においては、シリカ微粒子の凝集が部分的に発生し、多孔化した際も樹脂膜の不均一性が残って観察されることが分かる。