特許第6807318号(P6807318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807318
(24)【登録日】2020年12月9日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】多孔質膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20201221BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20201221BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20201221BHJP
   H01M 50/409 20210101ALN20201221BHJP
【FI】
   C08J9/26 101
   C08J9/26CFG
   B01D71/64
   B01D69/00
   !H01M2/16 P
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-538087(P2017-538087)
(86)(22)【出願日】2016年8月31日
(86)【国際出願番号】JP2016075571
(87)【国際公開番号】WO2017038898
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2018年2月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-174532(P2015-174532)
(32)【優先日】2015年9月4日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】菅原 司
【審査官】 石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−052107(JP,A)
【文献】 特開2012−107144(JP,A)
【文献】 特表2015−505725(JP,A)
【文献】 特表2002−528561(JP,A)
【文献】 特開2008−229612(JP,A)
【文献】 特開平11−086828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
B01D 61/00−71/82
H01M 2/14−2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータ用又はフィルタ用の、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドの多孔質膜であって、
前記セパレータにおける電極に接する面又は前記フィルタにおける支持体に接する面の表面粗さRaであって、製造時に基板に面していた面と反対側の面における表面粗さRaが3万Å以下であり、前記接する面の表面における開口直径が10nm〜5000nmであり、前記多孔質膜における孔が球状孔であり、前記球状孔の孔部を規定する面が曲面であり、前記曲面により真球状又は略真球状の空孔が規定される、多孔質膜(ただし、構造的に誘導されるドリップオフ効果を有する疎水性又は疎油性の多孔質高分子膜であって、該高分子膜の少なくとも一方の主表面が粗面化されており、水に対する前記主表面の接触角が少なくとも125度であり、前記「構造的に誘導されるドリップオフ効果」とは、前記主表面が粗面化されることにより、撥液特性を前記高分子膜に与えることをいう、高分子膜を除く。)。
【請求項2】
前記多孔質膜がポリイミドの多孔質膜である、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記球状孔が相互に連通した構造を含み、
前記接する面の表面の開口部が形成する凹みよりも深いうねりがない、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
微粒子と、ポリエーテルスルホン、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体及びポリアミドイミドよりなる群から選択される少なくとも1つの樹脂とを含有するワニスを混練する工程であって、前記ワニスは、25℃における粘度が0.1〜3Pa・s、固形分濃度が10〜50質量%、前記微粒子は金属酸化物を含む微粒子であり、前記微粒子の平均粒子径が10〜5000nmであり、かつ前記混練は2分〜10時間行う、混錬工程、
前記ワニスを用いて未焼成複合膜を基板上に形成する未焼成複合膜形成工程、
前記未焼成複合膜を焼成して樹脂−微粒子複合膜を得る焼成工程、及び
前記樹脂−微粒子複合膜から微粒子を取り除く微粒子除去工程を含む、セパレータ用又はフィルタ用の、ポリエーテルスルホン、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドの多孔質膜の製造方法であって、前記セパレータにおける電極に接する面又は前記フィルタにおける支持体に接する面の表面粗さRaであって、前記基板に面していた面と反対側の面における表面粗さRaが3万Å以下である、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の多孔質膜がフィルタ等の用途で使用されている。また、近年、多孔質膜は、リチウム電池等の二次電池用のセパレータ用途への応用も進んでいる。
【0003】
例えば、ポリイミドの多孔質膜の製造方法として、ポリアミド酸やポリイミドの溶液中にシリカ粒子を分散させたワニスを基板上に塗布した後、必要に応じて塗布膜を加熱してシリカ粒子を含むポリイミド膜を得、次いで、ポリイミド膜中のシリカをフッ化水素水で溶出除去し、多孔質化させる方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5605566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した多孔質膜として、表面が平滑な多孔質膜が要求されている。例えば二次電池のセパレータの用途においては、セパレータと電極とを良好に密着性させることで、電池性能が向上する。セパレータとして使用さえる多孔質膜の表面が平滑であれば、セパレータと電極とが良好に密着する。
また、ガス又は液体の分離用膜であるフィルタにおいては、多孔質膜とこれを支持する支持体とを良好に密着性させることが望まれている。多孔質膜と支持体とが良好に密着すれば、フィルタの分離性能及び取扱性が向上する。多孔質膜の表面が平滑であれば、多孔質膜の透過性(通液性)が向上し、取り扱いも良好である。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、表面の平滑性に優れた多孔質膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、多孔質膜を製造する際に用いるワニスの製造条件について、混錬時間等の条件を調節することにより、表面の平滑性に優れた多孔質膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の第一の態様は、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドの多孔質膜であって、表面粗さRaが3万Å以下である、多孔質膜である。
【0009】
本発明の第二の態様は、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドの多孔質膜であって、
球状孔が相互に連通した構造を含み、
表面の開口部が形成する凹みよりも深いうねりがなく、
開口部の直径が100nm〜5000nmである、多孔質膜である。
【0010】
本発明の第三の態様は、微粒子とポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体及びポリアミドイミドよりなる群から選択される少なくとも1つの樹脂とを含有する未焼成複合膜の表面粗さRaが3万Å以下となるように、微粒子と樹脂とを含有するワニスを混練する工程を含む、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドの多孔質膜の製造方法である。
【0011】
本発明の第四の態様は、微粒子とポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体及びポリアミドイミドよりなる群から選択される少なくとも1つの樹脂とを含有するワニスを混練する工程を含む、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドの多孔質膜の製造方法であって、
ワニスは、25℃における粘度が0.1〜3Pa・s、固形分濃度が10〜50質量%、微粒子の平均粒子径が10〜5000nmであり、
混練は2分〜10時間行う、多孔質膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面の平滑性に優れた多孔質膜及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られた多孔質膜の電子顕微鏡像を示す図である。
図2】比較例1で得られた多孔質膜の電子顕微鏡像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態様に何ら限定されず、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
≪ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドの多孔質膜≫
多孔質膜は、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドからなる。多孔質膜の表面粗さRaは3万Å以下であり、好ましくは10000Å以下であり、より好ましくは5000Å以下であり、さらに好ましくは3500Å以下である。このため、多孔質膜は平滑性に優れる。
【0016】
多孔質膜の表面粗さRaが3万Å超である場合、微粒子と樹脂とを含む未焼成複合膜中において対流が生じ、これにより未焼成複合膜の表面粗さの値が高くなっている場合が多い。
未焼成複合膜中で対流が生じると、未焼成複合膜中で微粒子の分布にむらが生じやすい。例えば、未焼成複合膜中の膜厚の薄い谷の部分で微粒子が密である一方で膜厚の厚い山の部分で微粒子が疎であったり、山の部分で微粒子が疎である一方で谷の部分で微粒子が密であったりする。
この場合、未焼成複合膜から微粒子を除去して多孔質膜を形成した結果、開口の分布にばらつきのある多孔質膜が得られることになる。
対して、多孔質膜の表面粗さが3万Å以下である場合、微粒子と樹脂とを含む未焼成副膜中で対流が起きていないか、穏やかな対流しか生じていない場合が多い。その結果、多孔質膜の表面粗さが3万Å以下である場合、表面における開口の分布が均一である多孔質膜を得やすい。
【0017】
また、表面粗さRaが上記範囲内であると、多孔質膜を電池のセパレータとして用いる場合に、多孔質膜が電極と良好に密着する。
さらに、表面粗さRaが上記範囲内であることにより、多孔質膜をフィルタとして用いる場合に、多孔質膜の透過性が向上する。フィルタである多孔質膜が支持体と密着すると、フィルタリングを行う際のフィルタの支持体からの剥離が抑制され、これに伴い、フィルタの破れ等の破損も抑制され、取扱も良好である。
【0018】
本出願の特許請求の範囲及び明細書において、表面粗さRaは、触針式表面粗さ計を用いて下記の条件に従って測定される値である。触針式表面粗さ計としてはアスバック社製Dektak150を用いることができる。
触針半径:12.5μm
測定距離:10000μm
測定時間:120秒
水平分解能:0.278μm/sample
触針圧:5.00mg
【0019】
また、多孔質膜は、球状孔が相互に連通した構造(以下、連通孔と略称する)を含む。なお、この多孔質膜は、後述するように、基板上に成膜されて製造される。多孔質膜の表面とは、製造時に基板に面している面と反対側の面である。
多孔質膜における開口部とは、多孔質膜の表面において上記の連通孔が開口する部分である。
多孔質膜は、その表面において好ましくはうねりを有さない。うねりとは、表面粗さが測定される面における、「開口部が形成する凹みよりも深い凹部」を言う。開口部が形成する凹みとは、多孔質膜を製造する際に膜の表面に形成される球状孔に相当し、当該球状孔の膜表面からの深さよりも深い凹部が、うねりに相当する。
【0020】
孔の形状に関する球状は、真球状を含む概念であるが、必ずしも真球のみに限定されない。球状とは、実質的に真球状であればよく、孔部の拡大像を目視により確認した場合に略真球状と認識できる形状も、球状に含まれる。
具体的には球状孔では、孔部を規定する面が曲面であり、当該曲面により真球状又は略真球上の空孔が規定されていればよい。
【0021】
個々の球状孔は、典型的には、後述する樹脂−微粒子複合膜中に存在する個々の微粒子が後工程で除去されることにより形成される孔である。また、連通孔は、後述する多孔質膜の製造方法において、樹脂―微粒子複合膜中にそれぞれ接して存在する複数の微粒子が、後工程で除去されることにより形成される。連通孔における球状孔が連通する箇所は、除去される前の複数の微粒子が互いに接触する箇所に由来する。
【0022】
多孔質膜の開口部の直径は、例えば、100nm〜5000nmの範囲で、多孔質膜の使用用途に応じ適宜変更すればよい。セパレータ用途の場合、100〜2000nmが好ましく、200〜1000nmがより好ましく、300〜900nmがさらに好ましい。
開口部の直径は、連通孔を構成する球状孔の直径と同等又は略同等である。かかる直径の球状孔が連なって構成される連通孔は、多孔質膜内において、流体を良好に通過させる。
多孔質膜は、多孔質膜を厚さ方向に貫通する、連通孔を流体の流路として内部に有する。これにより流体は、多孔質膜の一方の主面から、他方の主面へと透過できる。
また、積層体をフィルタとして用いる場合、流体は個々の球状孔を規定する曲面に接触しながら多孔質膜の内部を通過する。多孔質膜の内部における流体の接触面積は、球状孔からなる連通孔を備えることに起因してかなり広い。このため、流体を多孔質膜を含む積層体を通過させると、多孔質膜内の球状孔に、流体内に存在する微小な物質が吸着しやすいと考えられる。
【0023】
≪多孔質膜製造用ワニス≫
前述の多孔質膜の製造には、それぞれ所定の微粒子と、樹脂と、溶剤とを含有し、樹脂が溶剤に溶解している多孔質膜製造用ワニス(以下、単に「ワニス」とも記載する。)を用いる。
ワニスは、典型的には。微粒子を溶剤に分散させる、微粒子分散液調製工程と、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体となるポリアミド酸、及びポリアミドイミドよりなる群から選択される少なくとも1つの樹脂を含む樹脂溶液を調製する工程と、これら微粒子分散液と樹脂溶液とを合わせて混錬し濃度調製を行う混錬工程とにより製造される。
【0024】
ワニスについて、25℃における粘度が0.1〜3Pa・s以上、固形分濃度が10〜50質量%、微粒子の平均粒径が10〜5000nmであるのが好ましい。ワニスは、好ましくは2分〜10時間、より好ましくは2〜60分間混練して製造される。
なお、ワニスの粘度はE型粘度計により測定される。
ワニスの混錬には、自転・公転ミキサー(商品名:あわとり錬太郎、(株)シンキー製)、プラネタリミキサー、ビーズミル等を用いることができる。
多孔質膜用製造用ワニスの粘度、及び固形分濃度を、上記範囲に調製すると、所望する平滑性を有する多孔質膜を形成しやすい。
ワニスが適切な範囲内の時間混練されると、ワニスを用いて平滑な多孔質膜を形成しやすい。混錬時間が2分以上であると、ワニスを用いて形成される多孔質膜について、表面粗さRaが3万Å以下の所望する平滑性を達成しやすい。スループットの観点からワニスの混練時間は10時間を超えないことが好ましい。
また、上記範囲内の平均粒径を有する微粒子を用いることにより、多孔質膜の表面に、所望の大きさの開口部を形成でき、多孔質膜の内部に、所望の大記載の球状孔が連なった連通孔を形成することができる。
【0025】
〔樹脂〕
前述の通り、ワニスは、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド前駆体、及びポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む。以下、これらの樹脂について説明する。
【0026】
[ポリフッ化ビニリデン]
ポリフッ化ビニリデンとしては、ワニス形成に用いられる溶剤に可溶なものであれば特に限定されない。ポリフッ化ビニリデンとしては、ホモポリマーであってもよいし、コポリマー(共重合体)であってもよい。共重合する構成単位としては、エチレン、三フッ化塩化エチレン、四フッ化エチレン又は六フッ化プロピレン等が挙げられ、質量平均分子量は、例えば1万〜500万程度である。
【0027】
[ポリエーテルスルホン]
ポリエーテルスルホンとしては、ワニス形成に用いられる溶剤に可溶なものであれば特に限定されない。ポリエーテルスルホンとしては、製造する多孔質膜の用途に応じて適宜選択することができ、親水性でも疎水性であってもよい。また脂肪族ポリエーテルスルホンであっても芳香族ポリエーテルスルホンであってもよい。質量平均分子量は、例えば、5000〜1,000,000であり、好ましくは10,000〜300,000である。
【0028】
[ポリアミド酸]
ポリアミド酸としては、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合して得られる生成物が、特に限定されることなく使用できる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50〜1.50モル用いるのが好ましく、0.60〜1.30モル用いるのがより好ましく、0.70〜1.20モル用いるのが特に好ましい。
【0029】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス無水フタル酸フルオレン、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は1種類を単独で又は二種以上混合して用いることもできる。
【0031】
ジアミンは、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。ジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。これらのジアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2〜10個程度が結合したジアミノ化合物を挙げることができる。具体的には、フェニレンジアミン及びその誘導体、ジアミノビフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノジフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノナフタレン及びその誘導体、アミノフェニルアミノインダン及びその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物及びその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体である。
【0033】
フェニレンジアミンはm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン等であり、フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4−ジアミノトルエン、2,4−トリフェニレンジアミン等である。
【0034】
ジアミノビフェニル化合物では、2つのアミノフェニル基同士が結合している。例えば、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等である。
【0035】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合した化合物である。結合はエーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン又はその誘導体基による結合、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等である。アルキレン結合の炭素原子数は1〜6程度である。アルキレン基の誘導体基は、1以上のハロゲン原子等で置換されたアルキレン基である。
【0036】
ジアミノジフェニル化合物の例としては、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(p−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−1−ペンテン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−2−ペンテン、イミノジアニリン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)ペンタン、ビス(p−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノアゾベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニル尿素、4,4’−ジアミノジフェニルアミド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0037】
これらの中では、価格、入手容易性等から、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0038】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基がいずれも他の基を介して結合した化合物である。他の基は、ジアミノジフェニル化合物と同様の基が選ばれる。ジアミノトリフェニル化合物の例としては、1,3−ビス(m−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン等を挙げることができる。
【0039】
ジアミノナフタレンの例としては、1,5−ジアミノナフタレン及び2,6−ジアミノナフタレンを挙げることができる。
【0040】
アミノフェニルアミノインダンの例としては、5又は6−アミノ−1−(p−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダンを挙げることができる。
【0041】
ジアミノテトラフェニル化合物の例としては、4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(m−アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0042】
カルド型フルオレンジアミン誘導体は、9,9−ビスアニリンフルオレン等が挙げられる。
【0043】
脂肪族ジアミンの炭素原子数は、例えば、2〜15程度がよい。脂肪族ジアミンの具体例としては、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0044】
なお、これらのジアミンの水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基等の群より選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物であってもよい。
【0045】
ポリアミド酸を製造する手段に特に制限はなく、例えば、溶剤中で酸、ジアミン成分を反応させる方法等の公知の手法を用いることができる。
【0046】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しない溶剤であれば特に限定されない。溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤の例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類、キシレン系混合溶媒等のフェノール系溶剤が挙げられる。
これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミド酸の含有量が5〜50質量%とするのが望ましい。
【0048】
これらの溶剤の中では、生成するポリアミド酸の溶解性から、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。
【0049】
重合温度は一般的には−10〜120℃、好ましくは5〜30℃である。重合時間は使用する原料組成により異なるが、通常は3〜24Hr(時間)である。
ポリアミド酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
[ポリイミド]
ポリイミドは、その構造や分子量が限定されることはなく、公知のものが使用できる。ポリイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。また、ワニスが溶剤を含有する場合、使用する溶剤に溶解可能な可溶性ポリイミドが好ましい。
【0051】
溶剤に可溶なポリイミドとするために、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2−メチル−1,4−フェニレンジアミン、o−トリジン、m−トリジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物等の使用が有効である。また、溶剤への溶解性を向上する官能基を有するモノマーの使用、例えば、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンを使用することも有効である。さらに、上記ポリイミドの溶解性を向上するためのモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の欄に記したモノマーと同じモノマーを併用することもできる。
ポリイミド及びそのモノマーの各々は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
ポリイミドを製造する手段に特に制限はない。例えば、ポリアミド酸を化学イミド化又は加熱イミド化させる方法等の公知の手法を用いることができる。そのようなポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、芳香族ポリイミド等を挙げることができ、芳香族ポリイミドが好ましい。芳香族ポリイミドとしては、式(1)で示す繰り返し単位を有するポリアミド酸を熱又は化学的な手段で閉環反応させることによって取得したもの、若しくは式(2)で示す繰り返し単位を有するポリイミド等が挙げられる。式中、Arはアリール基を示す。ワニスが溶剤を含有する場合、これらのポリイミドは、次いで、使用する溶剤に溶解させるとよい。
【化1】
【化2】
【0053】
[ポリアミドイミド及びポリアミドイミド前駆体]
ポリアミドイミドは、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリアミドイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。また、ワニスが溶剤を含有する場合、使用する溶剤に溶解可能な可溶性ポリアミドイミドが好ましい。
【0054】
ポリアミドイミドは、通常、(i)無水トリメリット酸等の1分子中にカルボキシル基と酸無水物基とを有する酸とジイソシアネートとを反応させて得られる樹脂、(ii)無水トリメリット酸クロライド等の上記酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマー(ポリアミドイミド前駆体)をイミド化して得られる樹脂等を特に限定されることなく使用できる。
【0055】
上記酸又はその反応性誘導体としては、例えば、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド等の無水トリメリット酸ハロゲン化物、無水トリメリット酸エステル等が挙げられる。
【0056】
上記任意のジアミンとしては、前述のポリアミド酸の説明において例示したジアミンが挙げられる。また、ジアミノピリジン系化合物も用いることができる。
【0057】
上記任意のジイソシアネートとしては、特に限定されず、例えば、上記任意のジアミンに対応するジイソシアネート化合物等が挙げられ、具体的には、メタフェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、o−トリジンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、4,4’−オキシビス(フェニルイソシアネート)、4,4’−ジイソシアネートジフェニルメタン、ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2′−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジエチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0058】
ポリアミドイミドの原料モノマーとしては、上記以外にも、特開昭63−283705号公報、特開平2−198619号公報に一般式として記載されている化合物を使用することもできる。また、上記(ii)の方法におけるイミド化は熱イミド化及び化学イミド化のいずれであってもよい。化学イミド化としては、ポリアミドイミド前駆体等を含むワニスを用いて形成した未焼成複合膜を、無水酢酸、あるいは無水酢酸とイソキノリンの混合溶媒に浸す等の方法を用いることができる。なお、ポリアミドイミド前駆体は、イミド化前の前駆体という観点では、ポリイミド前駆体ともいえる。
【0059】
ワニスに含有させるポリアミドイミドとしては、上述の(1)無水トリメリット酸等の酸とジイソシアネートとを反応させて得られるポリマー、(2)無水トリメリット酸クロライド等の上記酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマーをイミド化して得られるポリマー等であってよい。本明細書及び本特許請求の範囲において、「ポリアミドイミド前駆体」は、イミド化前のポリマー(前駆体ポリマー)を意味する。
ポリアミドイミド及びポリアミドイミド前駆体の各々は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ポリアミドイミドについて、上記ポリマー、原料モノマー、及びオリゴマーの各々は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
[微粒子]
微粒子の材質は、ワニスに含まれる溶剤に不溶で、後に樹脂−微粒子複合膜から除去可能であれば、特に限定されることなく公知の材質を採用可能である。例えば、無機材料としては、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al)等の金属酸化物、有機材料としては、高分子量オレフィン(ポリプロピレン,ポリエチレン等)、ポリスチレン、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル等の有機高分子微粒子が挙げられる。
【0061】
具体的に微粒子としては、例えば、コロイダルシリカが挙げられる。中でも単分散球状シリカ粒子を選択する場合、均一な孔を形成できるために好ましい。
【0062】
また、微粒子について、真球率が高く、粒径分布指数が小さいのが好ましい。これらの条件を備えた微粒子は、ワニス中での分散性に優れ、互いに凝集しない状態で使用することができる。使用する微粒子の平均粒径は、例えば、100〜5000nmであることが好ましい。これらの条件を満たすことで、微粒子を取り除いて得られる多孔質膜の孔径を揃えることができる。セパレータの場合、100〜2000nmの平均粒径の微粒子を用いると、得られる多孔質膜に印加される電界を均一化でき好ましい。
微粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
[溶剤]
溶剤は、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂を溶解することができ、微粒子を溶解しなければ、特に限定されない。溶剤の例としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる溶剤として例示した溶剤が挙げられる。溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリフッ化ビニリデンの場合、溶剤としては、上記含窒素極性溶剤の他、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン等の低級アルキルケトンや、リン酸トリメチル等が挙げられる。
ポリエーテルスルホンの場合、溶剤としては、上記含窒素極性溶剤の他、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ベンゾフェノン、テトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の極性溶媒が挙げられる。
【0064】
[分散剤]
ワニス中の微粒子を均一に分散することを目的に、微粒子とともにさらに分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することにより、微粒子をワニス中に一層均一に混合でき、さらには、ワニスを成膜した膜中で、微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られる多孔質膜の表面に稠密な開口を設け、かつ、表裏面を効率よく連通させることが可能となり、多孔質膜の透気度が向上する。さらに、分散剤を添加することにより、ワニスの乾燥性が向上しやすく、また、形成された未焼成複合膜の基板等からの剥離性が向上しやすい。
【0065】
分散剤は、特に限定されることなく、公知のものを使用することができる。例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキサイド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等、ポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテルのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等のその他のポリオキアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記分散剤は、2種以上を混合して使用することもできる。
【0066】
ワニスにおいて、分散剤の含有量は、例えば、成膜性の点で、上記微粒子の質量に対し0.01〜5質量%であることが好ましく、0.05〜1質量%であることがより好ましく、0.1〜0.5質量%であることがさらにより好ましい。
【0067】
≪多孔質膜の製造方法≫
多孔質膜の典型的な製造方法は、ワニスを用いて、未焼成複合膜を成膜する未焼成複合膜成膜工程と、上記未焼成複合膜を焼成して樹脂−微粒子複合膜を得る焼成工程と、上記樹脂−微粒子複合膜から微粒子を取り除く微粒子除去工程と、を有する。
【0068】
<未焼成複合膜の製造(未焼成複合膜成膜工程)>
以下、未焼成複合膜の成膜方法について説明する。未焼成複合膜成膜工程においては、ワニスを用いて、未焼成複合膜を成膜する。その際、未焼成複合膜は、基板上に直接成膜してもよいし、上記未焼成複合膜とは異なる下層膜上に成膜してもよい。また、前述のワニス(多孔質膜製造用組成物)を用いて、未焼成複合膜を成膜した後に、さらに上層に上記未焼成複合膜とは異なる上層膜を成膜してもよい。なお、本出願において、基板上に下層膜を設ける方法も、前述のワニスを用いて、未焼成複合膜を成膜した後に、さらに上層に上記未焼成複合膜とは異なる上層膜を成膜する方法も、基板上に未焼成複合膜を形成する方法に含める。ただし、前述のワニスに含まれる樹脂成分が、ポリアミド酸又はポリアミドイミド前駆体であって、上層膜に焼成工程不要の材料を用いる場合は、焼成後の樹脂−微粒子複合膜に対し、上層膜を形成してもよい。
表面粗さの小さい平滑な表面を備える多孔質膜を形成しやすいことから、前述のワニスからなる未焼成複合膜は、基板上に単層の膜として形成されるか、下層膜上に上層膜として形成されるのが好ましい。
未焼成複合膜は、例えば、基板上又は上記下層膜上に、ワニスを塗布し、常圧又は真空下で0〜100℃、好ましくは常圧10〜100℃で乾燥することにより、形成することができる。
基板としては、例えば、PETフィルム、SUS基板、ガラス基板等が挙げられる。
【0069】
上記下層膜(又は上層膜)としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド酸及び/又はポリイミドからなる樹脂と、微粒子と、溶剤とを含有し、上記微粒子の含有量が上記樹脂と上記微粒子との合計に対して40体積%超81体積%以下である下層(又は上層)膜用ワニスを用いて成膜した下層(又は上層)未焼成複合膜が挙げられる。下層(又は上層)未焼成複合膜は、基板上に形成されたものであってもよい。上記微粒子の含有量が40体積%超であると、粒子が均一に分散し、また、上記微粒子の含有量が81体積%以下であると、粒子同士が凝集することもなく分散するため、多孔質膜において孔を均一に形成することができる。また、上記微粒子の含有量が上記範囲内であれば、下層(又は上層)未焼成複合膜を基板上に形成する場合、上記基板に予め離型層を設けていなくても、成膜後の離型性を確保しやすい。
【0070】
なお、下層(又は上層)膜用ワニスに用いる微粒子と、多孔質膜製造用ワニスに用いる微粒子とは、同じであってもよいし、互いに異なってもよい。下層(又は上層)未焼成複合膜における孔をより稠密にするには、下層(又は上層)膜用ワニスに用いる微粒子は、多孔質膜製造用ワニスに用いる微粒子よりも粒径分布指数が小さいか同じであることが好ましい。あるいは、下層(又は上層)膜用ワニスに用いる微粒子は、多孔質膜製造用ワニスに用いる微粒子よりも真球率が小さいか同じであることが好ましい。
【0071】
また、下層(又は上層)膜用ワニスに用いる微粒子の平均粒径は、多孔質膜製造用ワニスの微粒子の平均粒径と同じであってもよいし、異なっていてもよい。平均粒径は、10〜5000nmの範囲で用途に応じ、適宜設定すればよい。本発明においては、下層(又は上層)膜用ワニスを用いる場合、本発明に係る多孔質膜製造用ワニスを上層とし、微粒子の平均粒径又は粒径分布指数等の異なる下層膜用ワニスを組み合わせて用いることが好ましい。
【0072】
また、下層(又は上層)膜形成用ワニスにおける微粒子の含有量は、前述のワニスよりも多くてもよいし少なくてもよい。下層(又は上層)膜形成用ワニスに含まれる、樹脂成分、微粒子、及び溶剤等の成分の好適な例は、前述のワニスと同様である。下層(又は上層)膜形成用ワニスは、前述のワニスと同様の方法により調製することができる。下層未焼成複合膜は、例えば、基板上に、上記下層膜形成用ワニスを塗布し、常圧又は真空下で0〜100℃、好ましくは常圧10〜100℃で乾燥することにより、形成することができる。上層未焼成複合膜の成膜条件も同様である。
【0073】
また、上記下層(又は上層)膜としては、例えば、セルロース系樹脂、不織布(例えば、ポリイミド製不織布等。繊維径は、例えば、約50nm〜約3000nmである。)等の繊維系材料からなる下層膜や、ポリイミドフィルムも挙げられる。
【0074】
さらに、上記未焼成複合膜又は上記未焼成複合膜と上記下層(又は上層)膜との積層膜を焼成してポリイミド−微粒子複合膜を得る焼成工程に入る。上記未焼成複合膜又は上記下層未焼成複合膜を基板上に成膜した場合、そのまま焼成してもよいし、焼成工程に入る前に上記未焼成複合膜又は上記未焼成複合膜と上記下層未焼成複合膜との積層膜を基板から剥離してもよい。
【0075】
なお、積層膜における上記下層(又は上層)膜が、下層(又は上層)膜用ワニスを用いて成膜した下層(又は上層)未焼成複合膜であり、かつ、下層(又は上層)膜用ワニスの組成が、上記未焼成複合膜の成膜に用いられる多孔質膜製造用ワニスの組成と同じである場合は、上記未焼成複合膜と上記下層(又は上層)膜との積層膜は実質1層(単層)となるが、本明細書においては積層膜と言う。
【0076】
未焼成複合膜又は未焼成複合膜と下層(又は上層)未焼成複合膜との積層膜を基板から剥離する場合、膜の剥離性をさらに高めるために、予め離型層を設けた基板を使用することもできる。基板に予め離型層を設ける場合は、ワニスの塗布の前に、基板上に離型剤を塗布して乾燥あるいは焼き付けを行う。ここで使用される離型剤は、アルキルリン酸アンモニウム塩系、フッ素系又はシリコン等の公知の離型剤が特に制限なく使用可能である。上記乾燥した未焼成複合膜を基板から剥離する際、未焼成複合膜の剥離面にわずかながら離型剤が残存するため、焼成中の変色や電気特性への悪影響の原因ともなるので、極力取り除くことが好ましい。離型剤を取り除くことを目的として、基板より剥離した未焼成複合膜又は未焼成複合膜と下層未焼成複合膜との積層膜を、有機溶剤を用いて洗浄する洗浄工程を導入してもよい。
【0077】
一方、未焼成複合膜又は下層未焼成複合膜の成膜に、離型層を設けず基板をそのまま使用する場合は、上記離型層形成の工程や上記洗浄工程を省くことができる。また、未焼成複合膜の製造において、後述の焼成工程の前に、水を含む溶剤への浸漬工程、プレス工程、当該浸漬工程後の乾燥工程をそれぞれ任意の工程として設けてもよい。
【0078】
[樹脂−微粒子複合膜の製造(焼成工程)]
ワニスに含まれる樹脂成分が、ポリアミド酸又はポリアミドイミド前駆体の場合、上記未焼成複合膜に加熱による後処理(焼成)を行って、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドからなる樹脂と、微粒子と、からなる複合膜(樹脂−微粒子複合膜)とする。
なお、ワニスに含まれる樹脂成分が、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリエーテルスルホンである場合は、焼成工程を省いてもよい。上記未焼成複合膜成膜工程において、上記未焼成複合膜とは異なる下層膜上に上記未焼成複合膜を成膜した場合には、焼成工程において、上記未焼成複合膜とともに上記下層膜も焼成する。焼成工程における焼成温度は、未焼成複合膜及び下層膜の構造や縮合剤の有無によっても異なるが、120〜450℃であることが好ましく、さらに好ましくは150〜400℃である。また、微粒子に、有機材料を使用するときは、その熱分解温度よりも低い温度に設定する必要がある。ワニスに含まれる樹脂成分が、ポリアミド酸の場合、焼成工程においてはイミド化を完結させることが好ましい。
【0079】
焼成条件は、例えば、室温〜400℃までを3時間で昇温させた後、400℃で20分間保持させる方法や室温から50℃刻みで段階的に400℃まで昇温(各ステップ20分保持)し、最終的に400℃で20分保持させる等の段階的な乾燥−熱イミド化法を用いることもできる。基板上に未焼成複合膜を成膜し、上記基板から上記未焼成複合膜を一旦剥離する場合は、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定し変形を防ぐ方法を採ることもできる。
【0080】
できあがった樹脂−微粒子複合膜の膜厚は、例えばマイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。どのような平均膜厚が好ましいかは、多孔質膜の用途によって異なるが、例えば、セパレータ等に使用する場合は、5〜500μmであることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましく、15〜30μmであることがさらに好ましい。フィルター等に使用する場合は、5〜500μmであることが好ましく、10〜300μmであることがより好ましく、20〜150μmであることがさらに好ましい。
【0081】
[樹脂−微粒子複合膜の多孔化(微粒子除去工程)]
樹脂−微粒子複合膜から、微粒子を適切な方法を選択して除去することにより、多孔質膜を再現性よく製造することができる。
【0082】
微粒子の材質として、例えば、シリカを採用した場合、樹脂−微粒子複合膜を低濃度のフッ化水素水等により処理して、シリカを溶解除去することが可能である。
【0083】
微粒子の材質として、有機材料を選択することもできる。有機材料としては、樹脂−微粒子複合膜に含まれる樹脂よりも低温で分解するものであれば、特に限定されることなく使用できる。例えば、線状ポリマーや公知の解重合性ポリマーからなる樹脂微粒子を挙げることができる。通常の線状ポリマーは、熱分解時にポリマーの分子鎖がランダムに切断され、解重合性ポリマーは、熱分解時にポリマーが単量体に分解するポリマーである。いずれも、低分子量体、あるいは、COまで分解することによって、多孔質膜内から消失する。使用される樹脂微粒子の分解温度は200〜320℃であることが好ましく、230〜260℃であることがさらに好ましい。分解温度が200℃以上であれば、ワニスに高沸点溶剤を使用した場合も成膜を行うことができ、樹脂−微粒子複合膜の焼成条件の選択の幅が広くなる。また、分解温度が320℃未満であれば、樹脂−微粒子複合膜に含まれる樹脂に熱的なダメージを与えることなく樹脂微粒子のみを消失させることができる。
【0084】
多孔質膜の全体の膜厚は特に限定されるものではないが、例えば、セパレータ等に使用する場合は、5〜500μmであることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましく、15〜30μmであることがさらに好ましい。フィルター等に使用する場合は、5〜500μmであることが好ましく、10〜300μmであることがより好ましく、20〜150μmであることがさらに好ましい。上記の膜厚は、樹脂−微粒子複合膜の測定時と同様、例えばマイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。
【0085】
多孔質膜が、2種以上の多孔質膜製造用組成物から形成される場合や、本発明に係る製法とは異なる調製方法による他の多孔質膜製造用組成物による層との組み合わせにより製造される場合、各多孔質膜製造用組成物により形成される領域の厚さ方向の比率は、多孔質膜の用途に応じて適宜設定すればよい。本発明に係る多孔質膜製造組成物による層(I)と、本発明に係る製法とは異なる調製方法による他の多孔質膜製造用組成物による層(II)の2つの領域を有する多孔質膜の場合、各領域の厚み方向の比率((I):(II))は、例えば、1:99〜99:1であり、好ましくは5:95〜95:5の範囲で調製すればよい。各層の厚さは、多孔質膜断面の複数箇所を、走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察して平均して算出することができる。
【0086】
[樹脂除去工程]
多孔質膜の製造方法は、微粒子除去工程前に、樹脂−微粒子複合膜の樹脂部分の少なくとも一部を除去するか、又は、微粒子除去工程後に多孔質膜の少なくとも一部を除去する樹脂除去工程を有していてもよい。微粒子除去工程前に、樹脂−微粒子複合膜の樹脂部分の少なくとも一部を除去することにより、続く微粒子除去工程で微粒子が取り除かれ空孔が形成された場合に、上記樹脂部分の少なくとも一部を除去しないものに比べて、最終製品の多孔質膜の開孔率及び表面平滑性を向上させることが可能となる。また、微粒子除去工程後に多孔質膜の少なくとも一部を除去することにより、上記多孔質膜の少なくとも一部を除去しないものに比べて、最終製品の多孔質膜の開孔率を向上させることが可能となる。
【0087】
上記の樹脂部分の少なくとも一部を除去する工程、あるいは、多孔質膜の少なくとも一部を除去する工程は、通常のケミカルエッチング法若しくは物理的除去方法、又は、これらを組み合わせた方法により行うことができる。
【0088】
ケミカルエッチング法としては、無機アルカリ溶液又は有機アルカリ溶液等のケミカルエッチング液による処理が挙げられる。無機アルカリ溶液が好ましい。無機アルカリ溶液として、例えば、ヒドラジンヒドラートとエチレンジアミンを含むヒドラジン溶液、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の溶液、アンモニア溶液、水酸化アルカリとヒドラジンと1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを主成分とするエッチング液等が挙げられる。有機アルカリ溶液としては、エチルアミン、n−プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピヘリジン等の環状アミン類等のアルカリ性溶液が挙げられる。
【0089】
上記の各溶液の溶媒については、純水、アルコール類を適宜選択できる。また界面活性剤を適当量添加したものを使用することもできる。アルカリ濃度は、例えば0.01〜20質量%である。
【0090】
また、物理的な方法としては、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチング、研磨剤(例えば、アルミナ(硬度9)等)を液体に分散し、これを膜の表面に30〜100m/sの速度で照射することで表面処理する方法等が使用できる。
【0091】
上記した方法は、微粒子除去工程前又は微粒子除去工程後のいずれの樹脂除去工程にも適用可能であるので好ましい。
【0092】
一方、微粒子除去工程後に行う樹脂除去工程にのみ適用可能な物理的方法として、対象表面を液体で濡らした台紙フィルム(例えばPETフィルム等のポリエステルフィルム)に圧着後、乾燥しないで又は乾燥した後、多孔質膜を台紙フィルムから引きはがす方法を採用することもできる。液体の表面張力あるいは静電付着力に起因して、多孔質膜の表面層のみが台紙フィルム上に残された状態で、多孔質膜が台紙フィルムから引きはがされる。
【0093】
≪多孔質膜の用途≫
以上説明した多孔質膜は、リチウムイオン電池のセパレータや燃料電池電解質膜、ガス又は液体の分離用膜、低誘電率材料として使用することが可能である。上記多孔質膜は、ニッケルカドミウム、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池等の二次電池用セパレータとして使用することが可能であるが、リチウムイオン二次電池用多孔質セパレータとして使用することが特に好ましい。特に、リチウムイオン電池のセパレータとして使用する場合、上記未焼成複合膜成膜工程において、上記未焼成複合膜とは異なる下層膜上に上記未焼成複合膜を成膜し、上記下層膜として、上記下層膜用ワニスを用いて成膜したものを用い、上記下層膜側の面をリチウムイオン電池の負極面側とすることにより、電池性能を向上させることができる。
【0094】
<二次電池>
二次電池では、負極と正極との間に、電解液と前述の多孔質膜からなるセパレータとが配置される。
二次電池の種類や構成は、何ら限定されるものではない。正極とセパレータと負極とが順に上記条件を満たすように積層された電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となった構成であれば、ニッケルカドミウム、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池等の公知の二次電池に、特に限定されることなく使用することができる。
【0095】
二次電池の負極は、負極活物質、導電助剤及びバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造をとることができる。例えば、負極活物質として、ニッケルカドミウム電池の場合は水酸化カドミウムを、ニッケル水素電池の場合は水素吸蔵合金を、それぞれ用いることができる。また、リチウムイオン二次電池の場合は、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が採用できる。このような、活物質として、例えば、炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金等が挙げられる。
【0096】
負極を構成する導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えば、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。集電体には、銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等を用いることが可能である。
【0097】
また、正極は、正極活物質、導電助剤及びバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造とすることができる。例えば、正極活物質としては、ニッケルカドミウム電池の場合は水酸化ニッケルを、ニッケル水素電池の場合は水酸化ニッケルやオキシ水酸化ニッケルを、それぞれ用いることができる。他方、リチウムイオン二次電池の場合、正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。導電助剤はアセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。集電体にはアルミ箔、ステンレス箔、チタン箔等を用いることが可能である。
【0098】
電解液としては、例えば、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池の場合には、水酸化カリウム水溶液が使用される。リチウムイオン二次電池の電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した構成とされる。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO等が挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネート等が挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0099】
外装材は、金属缶又はアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、前述の多孔質膜からなるセパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0100】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0101】
〔実施例1及び比較例1〕
ポリアミド酸溶液に、ポリアミド酸の質量とシリカの質量との合計に対して、ポリアミド酸の量が20質量%であり、シリカの質量が80質量%であるように、シリカ分散液(シリカに対し0.5質量%の分散剤を含む)を添加した。さらに有機溶剤(1)及び(2)を最終組成物全体における溶剤組成が有機溶剤(1):有機溶剤(2)=90:10となるようにそれぞれ追加した。自転・公転ミキサー(商品名:あわとり練太郎(株)シンキー製)に加えた後、実施例1では回転数2000rpmで5分間、比較例1では回転数2000rpmで1分間混練し、固形分濃度30質量%の多孔質膜製造用ワニスを調製した。なお、得られたワニス組成物におけるポリアミド酸とシリカとの比率(ポリアミド酸:シリカ)は体積比として28:72、質量比として20:80であった。
なお、以下に示すポリアミド酸溶液、有機溶剤、分散剤、及び微粒子を用いた。
・ポリアミド酸溶液:ピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの反応物(固形分20質量%(有機溶剤:N,N−ジメチルアセトアミド))
・有機溶剤(1):N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)
・有機溶剤(2):ガンマブチロラクトン
・分散剤:ポリオキシエチレン二級アルキルエーテル系分散剤
・微粒子:シリカ:平均粒径700nmのシリカ
【0102】
得られた多孔質膜製造用ワニスを、基材であるポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム上にアプリケーターを用いて塗布し、未焼成複合膜を形成した。この未焼成複合膜をオーブンの中に入れ、380℃で15分間焼成して、イミド化を完結させて樹脂−微粒子複合膜を得た。その後、基材からこの樹脂−微粒子複合膜を剥離した。樹脂−微粒子複合膜をフッ化水素(HF)中に10分間浸漬することで、膜中に含まれるシリカ微粒子を除去した後、水洗・乾燥して、それぞれ膜厚40μmである、実施例1及び比較例1のポリイミド多孔質膜を得た。
【0103】
得られた実施例1及び比較例1のポリイミド多孔質膜の表面粗さを以下の方法に従って測定した。
まず、多孔質膜のPETフィルムと接触していた側の面がガラス基板と接するように、水で濡れた多孔質膜を平坦なガラス基板上に広げた。その際、PETフィルムを用いて、ガラス基板と多孔質膜との間の空気を抜くことにより、多孔質膜に生じた皺を伸ばした。次いで、ガラス基板上の多孔質膜を70℃で2分間加熱した。
このようにして、ガラス基板上に平たく敷かれた多孔質フィルムについて表面粗さの測定を行った。
表面粗さの測定は、アスバック社製の触針式表面粗さ計Dektak150を用い、下記の条件に従って行った。
触針半径:12.5μm
測定距離:10000μm
測定時間:120秒
水平分解能:0.278μm/sample
触針圧:5.00mg
【0104】
触針式表面粗さ計による測定の結果、実施例1のポリイミド多孔質膜の表面粗さRaが3069Åであり、比較例1のポリイミド多孔質膜は、表面粗さRaが30454Åであった。
また、多孔質膜表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した結果を図1及び図2に示す。図1と表面粗さの測定結果とから、実施例1のポリイミド多孔質膜の表面では縞状のうねりが観察されず実施例1のポリイミド多孔質膜が表面の平滑性に優れていることが分かる。
これに対し、図2と、表面粗さの測定結果とから、比較例1のポリイミド多孔質膜の表面では高低差が大きく、縞状のうねりが観察されることが分かる。
【0105】
〔実施例2〜4〕
ポリアミド酸をポリエーテルスルホンに変更することと、ワニスの固形分濃度を30質量%から42質量%に変更することと、シリカ分散液中にさらにシリカに対し5質量%のリン酸系分散剤を添加したことと、有機溶剤としてDMAcのみを用いることと、得られたワニスにおける樹脂とシリカとの比率(樹脂:シリカ)を、質量比として20:80から、30:70に変更することとの他は、実施例1と同様にして、多孔質膜製造用ワニスを調製した。
【0106】
得られた多孔質膜製造用ワニスを、基材であるポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム上にアプリケーターを用いて塗布した後、塗布膜を50℃で5分間ベークして樹脂−微粒子複合膜を形成した。樹脂−微粒子複合膜を、3分間水に浸漬させた。その後、基材からこの樹脂−微粒子複合膜を剥離した。樹脂−微粒子複合膜をフッ化水素(HF)中に10分間浸漬することで、膜中に含まれるシリカ微粒子を除去した後、水洗・乾燥して、膜厚40μmである実施例2のポリエーテルスルホン多孔質膜を得た。
また、塗布膜のベーク温度を50℃から70℃(実施例3)、90℃(実施例4)にそれぞれ変更した場合のポリエーテルスルホン多孔質膜を得た。
【0107】
得られた実施例2のポリエーテルスルホン多孔質膜の表面粗さを、実施例1と同様に測定した。
触針式表面粗さ計による測定の結果、実施例2のポリエーテルスルホン多孔質膜の表面粗さRaは11000Åであった。実施例3、4のポリエーテルスルホン多孔質膜の表面粗さRaも同等の値であった。
【0108】
〔実施例5〕
ポリアミド酸をポリエーテルスルホンに変更することと、ワニスの固形分濃度を30質量%から35質量%に変更することと、シリカ分散液中にさらにシリカに対し5質量%のリン酸系分散剤を添加したことと、有機溶剤としてDMAcのみを用いることと、得られたワニスにおける樹脂とシリカとの比率(樹脂:シリカ)を、質量比として20:80から、30:70に変更することとの他は、実施例1と同様にして、多孔質膜製造用ワニスを調製した。
【0109】
得られた多孔質膜製造用ワニスを用いて、実施例2と同様にして、膜厚40μmである実施例5のポリエーテルスルホン多孔質膜を得た。
得られた実施例5のポリエーテルスルホン多孔質膜の表面粗さを、実施例1と同様に測定した。
触針式表面粗さ計による測定の結果、実施例5のポリエーテルスルホン多孔質膜の表面粗さRaは8000Åであった。
図1
図2