【文献】
EVAL RESIN & FILM,日本,株式会社クラレ,2011年 1月31日,第8頁,[平成29年7月14日検索],インターネット,,URL,http://www.eval.jp/media/56951/eval_general_btochure__jp__20110131.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係るフィルム、その製造方法、及び成形体について詳説する。
【0025】
<フィルム>
本発明の一実施形態に係るフィルムは、ガラス転移温度(以下、「Tg」ともいう。)が70℃以下のガスバリア樹脂と、エラストマーとを含む。また、本実施形態に係るフィルムは、酸素透過係数が200mL/(m
2・day・atm)以下であり、20℃においてMD方向に張力を付与することにより2倍の延伸倍率で延伸した状態を30秒維持し、上記張力を解放した後のMD方向の長さをL
2、上記張力の付与前のMD方向の長さをL
1としたとき、MD方向の長さの比L
2/L
1が1.5以下である。本実施形態に係るフィルムは、上記構成を有することにより使用に伴うガスバリア性の低下を抑制することができる。
【0026】
本実施形態に係るフィルムは、上記構成を有する限り、その構造については限定されず、例えばガスバリア樹脂にエラストマー粒子が分散された樹脂組成物により形成された単層のフィルムであってもよいが、ガスバリア樹脂を含むポリマーから形成される少なくとも1層のガスバリア層(A)(以下、「A層」ともいう。)と、エラストマーを含むポリマーから形成される少なくとも1層のエラストマー層(B)(以下、「B層」ともいう。)とを有する積層フィルムであることが好ましい。上記積層フィルムとすることにより、ガスバリア性を維持しつつ延伸性を高めることができる。
【0027】
[ガスバリア樹脂]
上記ガスバリア樹脂はA層の主成分となるポリマーである。A層(A層形成材料)におけるガスバリア樹脂の含有量の下限としては、例えば60質量%であり、90質量%が好ましく、95質量%がより好ましく、99質量%がさらに好ましいこともあり、99.9質量%がさらに好ましいこともある。上記ガスバリア樹脂は、気体の透過を防止する機能を有し、かつTgが70℃以下の樹脂である。上記「気体の透過を防止する機能を有する樹脂」とは、例えばこの樹脂により形成された平均厚み20μmのフィルムの酸素透過係数が200mL/(m
2・day・atm)以下となる樹脂であり、150mL/(m
2・day・atm)以下となる樹脂が好ましく、100mL/(m
2・day・atm)以下となる樹脂がより好ましく、50mL/(m
2・day・atm)以下となる樹脂がさらに好ましく、10mL/(m
2・day・atm)以下となる樹脂が特に好ましい。
【0028】
このようなガスバリア樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」ともいう。)、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール等の樹脂の中から、Tgが70℃以下のものを選択することができる。なお、Tgは、樹脂を形成するモノマーの組成、タクティシティー、連鎖構造、樹脂の分子量等を調整することにより制御できる。
【0029】
上記ガスバリア樹脂のTgの上限としては、70℃であり、65℃が好ましく、60℃がより好ましい。上記Tgを上記好ましい上限以下とすることにより、延伸時におけるガスバリア樹脂のクラック発生をより抑制できるため、使用に伴うガスバリア性の低下をより抑制できる。一方、上記ガスバリア樹脂のTgの下限としては、特に限定されないが、成形性の観点から30℃が好ましく、40℃がより好ましい。
【0030】
これらのガスバリア樹脂の中でも、ガスバリア性の観点から、ポリアミド、ポリエステル及びEVOHが好ましく、ガスバリア性に加え、溶融成形性、及び上記積層フィルムとした場合のA層とB層との接着性を向上させる観点からEVOHがより好ましい。
【0031】
(ポリアミド)
ポリアミドは、アミド結合を有する重合体であり、ラクタムの開環重合、アミノカルボン酸の重縮合、ジアミンとジカルボン酸との重縮合等によって得ることができる。
【0032】
具体的なポリアミドとしては、例えばポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリラウロラクタム(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンジアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ナイロン69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ナイロン46、ナイロン6/66、ナイロン6/12、11−アミノウンデカン酸の縮合生成物(ナイロン11)等の脂肪族系ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ナイロン6I)、メタキシリレンジアミン/アジピン酸共重合体(ナイロンMXD6)、メタキシリレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸共重合体等の芳香族系ポリアミドなどを挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を混合して用いることができる。これらのポリアミドの中でも、優れたガスバリア性を有するため、ナイロン6及び芳香族系ポリアミドが好ましく、ナイロンMXD6がより好ましい。
【0033】
(ポリエステル)
ポリエステルは、エステル結合を有する重合体であり、多価カルボン酸とポリオールとの重縮合等によって得ることができる。具体的なポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、全芳香族系液晶ポリエステル等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。これらのポリエステルの中でも、ガスバリア性の高さの点から、PGA、PLA及び全芳香族系液晶ポリエステルが好ましく、PGAがより好ましい。
【0034】
(EVOH)
EVOHは、主構造単位として、エチレン単位及びビニルアルコール単位を有する重合体である。なお、このEVOHとしては、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外に、他の構造単位を1種類又は複数種含んでいてもよい。
【0035】
このEVOHは、通常、エチレンとビニルエステルとを重合し、得られるエチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して得られる。
【0036】
EVOHのエチレン単位含有量(すなわち、EVOH中の単量体単位の総数に対するエチレン単位の数の割合)の下限としては、3モル%が好ましく、10モル%がより好ましく、20モル%がさらに好ましく、25モル%が特に好ましい。一方、EVOHのエチレン単位含有量の上限としては、70モル%が好ましく、60モル%がより好ましく、55モル%がさらに好ましく、50モル%が特に好ましい。EVOHのエチレン単位含有量が上記下限より小さいと、当該フィルムの高湿度下でのガスバリア性等が低下するおそれや、溶融成形性が悪化するおそれがある。逆に、EVOHのエチレン単位含有量が上記上限を超えると、当該フィルムのガスバリア性が低下するおそれがある。
【0037】
EVOHのケン化度(すなわち、EVOH中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合)の下限としては、80モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、99モル%が特に好ましい。一方、EVOHのケン化度の上限としては99.99モル%が好ましい。EVOHのケン化度が上記下限より小さいと、溶融成形性が低下するおそれがあり、加えて当該フィルムのガスバリア性が低下するおそれや、耐着色性や耐湿性が不満足なものとなるおそれがある。逆に、EVOHのケン化度が上記上限を超えると、EVOHの製造コストの増加に対するガスバリア性等の上昇もそれほど期待できない。かかるEVOHは単独で用いることも可能であるが、ケン化度が99モル%を超えるEVOHとブレンドして用いる実施形態も好適である。
【0038】
EVOHは、下記式(I)で表される構造単位(I)、下記式(II)で表される構造単位(II)、及び下記式(III)で表される構造単位(III)の少なくともいずれか一種を有することが好ましい。EVOHがこのような構造単位を有することで、得られる積層体の耐屈曲性等をより高めることができる。
【0040】
上記式(I)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R
1、R
2及びR
3のうちの一対は、結合していてもよい。また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、カルボキシル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0041】
上記式(II)中、R
4、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R
4とR
5とは、又はR
6とR
7とは、結合していてもよい。また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0042】
上記式(III)中、R
8、R
9、R
10及びR
11は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基及び炭素数6〜10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。R
12及びR
13は、それぞれ独立して、水素原子、ホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基を表す。
【0043】
上記構造単位(I)、(II)又は(III)の全構造単位に対する含有量の下限としては、0.5モル%が好ましく、1モル%がより好ましく、1.5モル%がさらに好ましい。一方上記構造単位(I)、(II)又は(III)の含有量の上限としては、30モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましい。EVOHが上記(I)、(II)又は(III)に示す構造単位を上記範囲の割合で有することによって、A層を形成するポリマーの柔軟性及び加工特性が向上する結果、当該フィルムの延伸性及び熱成形性等を向上することができる。
【0044】
上記構造単位(I)、(II)又は(III)において、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基等が挙げられ、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基等が挙げられる。
【0045】
上記構造単位(I)において、上記R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、水酸基、ヒドロキシメチル基及びヒドロキシエチル基であることが好ましく、これらの中でも、それぞれ独立に水素原子、メチル基、水酸基及びヒドロキシメチル基であることがさらに好ましい。そのようなR
1、R
2及びR
3であることによって、当該フィルムの延伸性及び熱成形性をさらに向上させることができる。
【0046】
EVOH中に上記構造単位(I)を含有させる方法については、特に限定されないが、例えば、上記エチレンとビニルエステルとの重合において、構造単位(I)に誘導されるモノマーを共重合させる方法などが挙げられる。この構造単位(I)に誘導されるモノマーとしては、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセンなどのアルケン;3−ヒドロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−ヒドロキシ−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4−アシロキシ−1−ペンテン、5−アシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、4−ヒドロキシ−1−ヘキセン、5−ヒドロキシ−1−ヘキセン、6−ヒドロキシ−1−ヘキセン、4−アシロキシ−1−ヘキセン、5−アシロキシ−1−ヘキセン、6−アシロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセンなどの水酸基やエステル基を有するアルケンが挙げられる。その中で、共重合反応性、及び得られる積層体のガスバリア性の観点からは、プロピレン、3−アセトキシ−1−プロペン、3−アセトキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−1−ブテン及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましい。エステルを有するアルケンの場合は、ケン化反応の際に、上記構造単位(I)に誘導される。
【0047】
上記構造単位(II)において、R
4及びR
5は共に水素原子であることが好ましい。特に、R
4及びR
5が共に水素原子であり、上記R
6及びR
7のうちの一方が炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、他方が水素原子であることがより好ましい。この脂肪族炭化水素基は、アルキル基及びアルケニル基が好ましい。当該フィルムのガスバリア性を特に重視する観点からは、R
6及びR
7のうちの一方がメチル基又はエチル基、他方が水素原子であることが特に好ましい。また上記R
6及びR
7のうちの一方が(CH
2)
hOHで表される置換基(但し、hは1〜8の整数)、他方が水素原子であることも特に好ましい。この(CH
2)
hOHで表される置換基において、hは、1〜4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0048】
EVOH中に上記構造単位(II)を含有させる方法については、特に限定されないが、ケン化反応によって得られたEVOHに一価エポキシ化合物を反応させることにより含有させる方法などが用いられる。一価エポキシ化合物としては、下記式(IV)〜(X)で示される化合物が好適に用いられる。
【0050】
上記式(IV)〜(X)中、R
14、R
15、R
16、R
17及びR
18は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基など)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基など)又は炭素数6〜10の脂肪族炭化水素基(フェニル基など)を表す。また、i、j、k、p及びqは、それぞれ独立して、1〜8の整数を表す。
【0051】
上記式(IV)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばエポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、3−メチル−1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、3−メチル−1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、2,3−エポキシヘキサン、3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、2,3−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、2,3−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1−フェニル−1,2−プロパン、3−フェニル−1,2−エポキシプロパン等が挙げられる。
【0052】
上記式(V)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルキルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0053】
上記式(VI)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルキレングリコールモノグリシジルエーテルが挙げられる。
【0054】
上記式(VII)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルケニルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0055】
上記式(VIII)で表される一価エポキシ化合物としては、グリシドール等の各種エポキシアルカノールが挙げられる。
【0056】
上記式(IX)で表される一価エポキシ化合物としては、各種エポキシシクロアルカンが挙げられる。
【0057】
上記式(X)で表される一価エポキシ化合物としては、各種エポキシシクロアルケンが挙げられる。
【0058】
上記一価エポキシ化合物の中では炭素数が2〜8のエポキシ化合物が好ましい。特に、化合物の取り扱いの容易さ、及び反応性の観点から、一価エポキシ化合物の炭素数としては、2〜6がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。また一価エポキシ化合物は上記式のうち式(IV)で表される化合物及び(V)で表される化合物であることが特に好ましい。具体的には、EVOHとの反応性及び得られる積層体のガスバリア性等の観点からは、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン及びグリシドールが好ましく、その中でもエポキシプロパン及びグリシドールが特に好ましい。
【0059】
上記構造単位(III)において、R
8、R
9、R
10及びR
11は水素原子及び炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。特に、上記脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基及びペンチル基が好ましい。
【0060】
EVOH中に上記構造単位(III)を含有させる方法については、特に限定されないが、例えば、特開2014−034647に記載の方法で製造できる。
【0061】
本実施形態に係るフィルムの構造として上記積層フィルムを採用する場合、A層を形成するポリマー(A層形成材料)には、リン酸化合物、カルボン酸、ホウ素化合物、金属塩等の1種又は複数種の添加物を添加することができる。これらの添加物をA層のポリマーに添加することによって、積層フィルムの各種性能を向上させることができる。
【0062】
A層を形成するポリマーは、ガスバリア樹脂のみから構成されていてもよいし、ガスバリア樹脂以外の他の樹脂を含んでいてもよい。また、A層(A層形成材料)は、上記ポリマー以外に、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラーなど種々の成分を含んでいてもよい。
【0063】
[エラストマー]
上記エラストマーはB層の主成分となるポリマーである。B層(B層形成材料)におけるエラストマーの含有量の下限としては、例えば60質量%であり、90質量%が好ましく、95質量%がより好ましく、97質量%がさらに好ましく、99質量%がさらに好ましいこともあり、99.9質量%がさらに好ましいこともある。上記エラストマーは、常温付近で弾性を有する樹脂であり、延伸性を付与する成分である。具体的には、20℃において、2倍に伸ばし、その状態で1分間保持した後、張力を解放して1分以内に元の長さの1.5倍未満に収縮する性質を有する樹脂をいう。エラストマーは、構造的には、通常、重合体鎖中にハードセグメントとソフトセグメントとを有する重合体である。また、エラストマーは、通常、熱可塑性である。
【0064】
エラストマーとしては、例えば炭化水素系エラストマー(スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー等)、塩化ビニル系エラストマー、塩素化ポリエチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素樹脂系エラストマー等を挙げることができる。
【0065】
本実施形態に係るフィルムの構造として上記積層フィルムを採用する場合、この積層フィルムが、B層として炭化水素系エラストマーを含むポリマーから形成される1又は複数のエラストマー層(B1)(以下、「B1層」ともいう。)を有し、このB1層の少なくとも1層が最外層(外側エラストマー層)として積層されていることが好ましい。この構成により、積層フィルムの成形時において最外層であるエラストマー層(B1)と搬送ロールとの密着を抑制できるため、成形時における積層フィルムの過剰な延伸を抑制できる。これにより、上記張力付与前後のMD方向の長さ比L
2/L
1をより適切な範囲に制御できる。
【0066】
上記炭化水素系エラストマーとは、炭化水素を主たる単量体単位とするエラストマーをいい、例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー等を挙げることができ、これらの中でもスチレン系エラストマー及びオレフィン系エラストマーが好ましく、スチレン系エラストマーがより好ましい。このような炭化水素系エラストマーは極性が低いなどの理由から搬送ロールとの密着性を抑制できるため、成形時における積層フィルムの過剰な延伸を抑制することができる。
【0067】
(スチレン系エラストマー)
上記スチレン系エラストマーは、通常、芳香族ビニル系重合体ブロック(ハードセグメント)と、ゴムブロック(ソフトセグメント)とを有し、芳香族ビニル系重合体部分が物理架橋を形成して橋かけ点となり、一方、ゴムブロックがゴム弾性を付与する。
【0068】
上記スチレン系エラストマーとしては、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、これらの共重合体を変性した重合体等を挙げることができる。このうち、二重結合を有するスチレン系エラストマーが好ましく、SBS、SIS、SEBS及びこれらの組み合わせがより好ましく、SBS、SIS及びこれらの組み合わせがさらに好ましい。例えば積層フィルムと膜状のゴム材料とを貼り合わせて空気入りタイヤのインナーライナー、アキュムレーターの内袋等に適用する際、最外層に積層されるB1層のポリマーのスチレン系エラストマーとして上記特定のエラストマーを用いることにより、B1層とゴム材料とを加硫等により架橋反応させることができるため、エラストマー層(B1)とゴム材料との接着性を向上させることができる。
【0069】
また、スチレン系エラストマーは、他の層(A層や後述するB2層)に含まれる基と結合反応する官能基(以下、「官能基I」ともいう。)を有することが好ましい。これにより、B1層と他の層との層間接着性を向上できる。他の層に含まれる基としては、例えばEVOHの有する水酸基や、ポリウレタン系エラストマー等の他のエラストマーが有する基(例えばカーバメート基やイソシアネート基)等を挙げることができる。上記官能基Iとしては、カルボキシ基、エポキシ基、アミノ基等を挙げることができ、カルボキシ基及びエポキシ基が好ましく、エポキシ基がより好ましい。さらには、スチレン系エラストマーが主鎖中にエポキシ基を有することが好ましい。主鎖中にエポキシ基を有するとは、主鎖中に環状エーテル構造を有することを言い、主鎖中に三員環の環状エーテル構造を有することが好ましい。
【0070】
カルボキシ基を有するスチレン系エラストマー(カルボン酸変性スチレン系エラストマー)は、(1)スチレン系エラストマーに不飽和カルボン酸又はその無水物を、付加反応やグラフト反応により化学的に結合させる方法、(2)ビニル芳香族化合物と、共役ジエン化合物又はその水素添加物と、不飽和カルボン酸又はその無水物とを共重合させる方法等によって得ることができる。上記不飽和カルボン酸及びその無水物としては、マレイン酸及び無水マレイン酸等を挙げることができる。
【0071】
主鎖中にエポキシ基を有するスチレン系エラストマー(エポキシ変性スチレン系エラストマー)は、スチレン系エラストマー又は部分水添スチレン系エラストマーに、不活性溶媒中でエポキシ化剤を反応させること等により得ることができる。エポキシ化剤との反応により、ゴムブロック(ソフトセグメント)が有する炭素−炭素二重結合がエポキシ化される。
【0072】
上記エポキシ化剤としては、例えば過酸類、ハイドロパーオキサイド類等を挙げることができる。過酸類としては、例えば過蟻酸、過酢酸、過安息香酸、トリフルオロ過酢酸等を挙げることができる。ハイドロパーオキサイド類としては、例えば過酸化水素、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等を挙げることができる。
【0073】
(オレフィン系エラストマー)
オレフィン系エラストマーとしては、ハードセグメントとして、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン部を、ソフトセグメントとして、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム部などを有する熱可塑性エラストマーを挙げることができる。また、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン−1共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体、ハロゲン化ブチル系ゴム、変性ポリプロピレン、変性ポリエチレンなども挙げることができる。
【0074】
(ジエン系エラストマー)
ジエン系エラストマーとしては、1,2−ポリブタジエン系エラストマー、トランス−1,4−ポリイソプレン系エラストマー、水添共役ジエン系エラストマー、エポキシ化天然ゴム、これらの無水マレイン酸変性物等を挙げることができる。
【0075】
上記積層フィルムが複数のB層を有する場合、上記B層がB1層のみから構成されていても、B1層とは異なるエラストマー層のみから構成されていても、B1層及びB1層とは異なるエラストマー層から構成されていてもよい。上記B1層とは異なるエラストマー層としては、上記炭化水素系エラストマーを含むポリマー以外のポリマーから形成されるエラストマー層(B2)(以下、「B2層」ともいう。)が挙げられ、上記積層フィルムは1又は複数のB2層を有してもよい。特に、上記積層フィルムが最外層以外のエラストマー層(内側エラストマー層)として1又は複数のB2層を有することにより延伸性をより高めることができる。
【0076】
上記B2層のポリマーに使用されるエラストマーとしては、例えば塩化ビニル系エラストマー、塩素化ポリエチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素樹脂系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等を挙げることができる。これらの中でも、ポリウレタン系エラストマーが好ましい。ポリウレタン系エラストマーを用いることで、延伸性をさらに高めることができる。これらのエラストマーは、一種を単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。
【0077】
(塩化ビニル系エラストマー)
塩化ビニル系エラストマーとしては、一般に、下記の3種のタイプのものが挙げられる。なお、この塩化ビニル系エラストマーは、無水マレイン酸変性エラストマー等の変性物を用いることもできる。
(1)高分子量ポリビニル(PVC)/可塑化PVCブレンド型
(2)部分架橋PVC/可塑化PVCブレンド型
(3)PVC/エラストマーアロイ型
【0078】
(塩素化ポリエチレン系エラストマー)
塩素化ポリエチレン系エラストマーは、ポリエチレンを水性懸濁液として、あるいは四塩化炭素等の溶媒中で、塩素ガスと反応させて得られる軟質樹脂である。塩素化ポリエチレン系エラストマーは、ハードセグメントとして結晶性ポリエチレン部を有し、ソフトセグメントとして塩素化ポリエチレン部を有する。
【0079】
(ポリエステル系エラストマー)
ポリエステル系エラストマーは、分子中のハードセグメントとしてポリエステル部を有し、ソフトセグメントとしてガラス転移温度(Tg)の低いポリエーテル部又はポリエステル部を有するマルチブロックコポリマーである。
【0080】
(ポリアミド系エラストマー)
ポリアミド系エラストマーは、ハードセグメントとしてポリアミド部を有し、ソフトセグメントとしてTgの低いポリエーテル部やポリエステル部を有するマルチブロックコポリマーである。ポリアミド成分は、ナイロン6、66、610、11、12などから選択され、ナイロン6又はナイロン12が一般的である。ソフトセグメントの構成成分には、ポリエーテルジオール又はポリエステルジオールの長鎖ポリオールが用いられる。ポリエーテルとしては、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)、ポリ(オキシプロピレン)グリコール等を挙げることができる。ポリエステルジオールとしては、ポリ(エチレンアジペート)グリコール、ポリ(ブチレン−1,4−アジペート)グリコール等を挙げることができる。
【0081】
(フッ素樹脂系エラストマー)
フッ素樹脂系エラストマーは、ハードセグメントとしてのフッ素樹脂部と、ソフトセグメントとしてのフッ素ゴム部とからなるABA型ブロックコポリマーである。ハードセグメントのフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合ポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が用いられる。ソフトセグメントのフッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合ポリマー等が用いられる。
【0082】
(ポリウレタン系エラストマー)
ポリウレタン系エラストマー(熱可塑性ポリウレタン系エラストマー:TPU)は、(1)ハードセグメントとして短鎖グリコール(低分子ポリオール)とイソシアネートの反応で得られるポリウレタン部と、(2)ソフトセグメントとして長鎖グリコール(高分子ポリオール)とイソシアネートの反応で得られるポリウレタン部との、直鎖状のマルチブロックコポリマー等である。ここでポリウレタンとは、イソシアネート(−NCO)とアルコール(−OH)の重付加反応(ウレタン化反応)で得られる、ウレタン結合(−NHCOO−)を有する化合物の総称である。
【0083】
B2層を形成するポリマーにポリウレタン系エラストマーを用いると、延伸性及び熱成形性等を向上することができるため好ましい。また、当該積層体においては、このB2層と上記A層との高い層間接着性などから、良好な耐屈曲性等を発現することができる。
【0084】
TPUは、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、鎖伸長剤等から構成される。この高分子ポリオールは、複数の水酸基を有する物質であり、重縮合、付加重合(例えば開環重合)、重付加などによって得られる。高分子ポリオールとしては、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール又はこれらの共縮合物(例えば、ポリエステル−エーテル−ポリオール)などが挙げられる。これらの高分子ポリオールは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中で、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールが好ましく、ポリエステルポリオールが特に好ましい。
【0085】
上記ポリエステルポリオールは、例えば、常法に従い、ジカルボン酸、そのエステル、その無水物等のエステル形成性誘導体と低分子ポリオールとを直接エステル化反応若しくはエステル交換反応によって縮合させるか、又はラクトンを開環重合することにより製造することができる。
【0086】
上記ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレン)グリコールなどが挙げられる。これらのポリエーテルポリオールは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。この中でもポリテトラメチレングリコールが好ましい。
【0087】
上記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオールなどの炭素数2〜12の脂肪族ジオール又はこれらの混合物に炭酸ジフェニル若しくはホスゲンなどを作用させて縮重合して得られるものが好適に用いられる。
【0088】
上記高分子ポリオールの数平均分子量の下限としては、500が好ましく、600がより好ましく、700がさらに好ましい。一方、高分子ポリオールの数平均分子量の上限としては、8,000が好ましく、5,000がより好ましく、3,000がさらに好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量が上記下限より小さいと、有機ポリイソシアネートとの相溶性が良すぎて得られるTPUの弾性が乏しくなるため、得られる積層体の延伸性などの力学的特性や熱成形性が低下するおそれがある。逆に、高分子ポリオールの数平均分子量が上記上限を超えると、有機ポリイソシアネートとの相溶性が低下して、重合過程での混合が困難になり、その結果、ゲル状物の塊の発生等により安定したTPUが得られなくなるおそれがある。なお、高分子ポリオールの数平均分子量は、JIS K 1577に準拠して測定し、水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
【0089】
有機ポリイソシアネートとしては、特に限定されるものではなく、TPUの製造に一般的に使用される公知の有機ジイソシアネートが用いられる。この有機ジイソシアネートとしては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート(脂環族ジイソシアネートを含む)などを挙げることができる。この中でも、得られる積層体の強度、耐屈曲性が向上できる点で、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。これらの有機ジイソシアネートは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
鎖伸長剤としては、TPUの製造に一般的に使用される鎖伸長剤が使用され、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物が好適に使用される。鎖伸長剤としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオールなどが挙げられる。この中でも、得られる積層体の延伸性及び熱成形性がさらに良好になる点で、炭素数2〜10の脂肪族ジオールが好ましく、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。これらの鎖伸長剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0091】
TPUの製造方法としては、上記高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤を使用し、公知のウレタン化反応技術を利用して製造され、プレポリマー法及びワンショット法のいずれを用いても製造することができる。その中でも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いる連続溶融重合することが好ましい。
【0092】
B層を形成するポリマーは、エラストマーのみから構成されていてもよいし、エラストマー以外の他のポリマーを含んでいてもよい。また、B層(B層形成材料)は、上記ポリマー以外に、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラー等の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0093】
[積層フィルムの層構成]
本実施形態に係るフィルムの構造として上記積層フィルムを採用する場合、上記積層フィルムの層構成としては、1又は複数のA層と1又は複数のB層とを有する限り特に限定されず、A層及びB層以外の樹脂層等を有していてもよい。
【0094】
A層及びB層の積層数の合計の下限としては、3層が好ましく、5層がより好ましく、7層がさらに好ましく、9層が特に好ましく、15層がさらに特に好ましい。一方、A層及びB層の積層数の合計の上限は、300層が好ましく、200層がより好ましく、100層がさらに好ましく、50層が特に好ましい。積層フィルムの総層数も上記範囲が好ましい。積層数を上記範囲とすることにより、屈曲させた際等にピンホール、割れ等の欠陥が連続して発生することを抑制できるため、耐久性を高めることができる。この場合、A層とB層とが交互に積層された積層構造(交互積層構造)を有し、この交互積層構造の積層数が7層以上であることが好ましい。この構成により、ピンホール、割れ等の欠陥が連続して発生することをより抑制できるため、耐久性をより高めることができる。なお、A層の層数としては、2層以上が好ましく、5層以上がより好ましく、10層以上がさらに好ましい。B層の層数としては、3層以上が好ましく、6層以上がより好ましく、10層以上がより好ましい。
【0095】
A層の全層及びB層の全層の合計厚みの下限としては、10μmが好ましく、15μmがより好ましく、30μmがさらに好ましい。一方、この上限としては、500μmが好ましく、300μmがより好ましく、100μmがさらに好ましい。A層の全層及びB層の全層の合計厚みが上記下限未満の場合、強度、耐屈曲性、耐久性、ガスバリア性等が低下するおそれがある。逆に、この合計厚みが上記上限を超える場合、柔軟性、成形性等が低下し、耐屈曲性の低下や、製造コストの上昇を招来するおそれがある。ここで、全層の合計厚みとは、各層の平均厚みの合計をいう。各層の平均厚みは、任意に選ばれた10点での断面の厚みの平均値とする。
【0096】
A層の1層の平均厚みの下限としては、0.1μmが好ましく、0.2μmがより好ましく、0.3μmがさらに好ましい。一方、この上限としては、15μmが好ましく、5μmがより好ましく、3μmがさらに好ましく、2μmがさらに好ましく、1μmがさらに好ましく、0.5μmが特に好ましい。A層1層の平均厚みが上記下限より小さいと、均一な厚みで成形することが困難になり、ガスバリア性や耐久性等が低下するおそれがある。逆に、A層1層の平均厚みが上記上限を超えると、柔軟性等が低下し、その結果、耐久性等も低下するおそれがある。
【0097】
B層(B1層及び/又はB2層)の1層の平均厚みの下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがさらに好ましく、2.5μmが特に好ましい。一方、この上限としては、30μmが好ましく、15μmがより好ましく、10μmがさらに好ましく、8μmがさらに好ましく、6μmが特に好ましい。B層1層の平均厚みが上記下限より小さいと、均一な厚みで成形することが困難になり、耐久性が低下するおそれがある。また、十分な柔軟性が発現されないおそれもある。逆に、B層1層の平均厚みが上記上限を超えると、層間接着性や、ガスバリア性が低下するおそれがある。
【0098】
特に、最外層として積層されるB1層の平均厚みの下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがさらに好ましく、3μmが特に好ましい。一方、この上限としては、20μmが好ましく、8μmがより好ましく、6μmがさらに好ましい。このように、最外層として積層されるB1層の平均厚みを上記範囲とすることにより、例えばB1層がスチレン系エラストマーを含むポリマーから形成されている場合などにおいて、ゴム材料との接着性を高めることができる。
【0099】
本実施形態における好ましい層構造を有する積層フィルムとしては、
図1(a)に示す積層フィルム10、及び
図1(b)に示す積層フィルム20を挙げることができる。
図1(a)に示す積層フィルム10は、複数のA層1、一対のB1層2、及び複数のB2層3から構成されている。積層フィルム10は、A層1とB2層3との交互積層構造の両外面(B2層3の表面)にそれぞれB1層2が積層されている。
図1(b)に示す積層フィルム20は、複数のA層1及び複数のB1層2から構成されている。積層フィルム20は、B1層2を両最外層とするA層1とB1層2との交互積層構造を有する。
【0100】
積層フィルム10及び積層フィルム20は、いずれも両最外層にB1層2が配置されている。両最外層にB1層2を配置することで、積層フィルムの成形時において両最外層と搬送ロールとの密着を抑制できるため、成形時における積層フィルムの過剰な延伸を抑制できる。また、積層フィルム10及び積層フィルム20は、対称な層構造となっている。対称構造とすることで、共押出によって各層を効率的に成形することができる。なお、B1層2は、両側の最外層として積層されていなくてもよく、片方の最外層としてのみ積層されていてもよい。
【0101】
[フィルムの酸素透過係数]
本実施形態に係るフィルムの酸素透過係数の上限としては、200mL/(m
2・day・atm)であり、170mL/(m
2・day・atm)が好ましく、150mL/(m
2・day・atm)がより好ましく、100mL/(m
2・day・atm)がさらに好ましく、50mL/(m
2・day・atm)が特に好ましい。上記酸素透過係数を上記好ましい上限以下とすることにより、ガスバリア性をより向上できる。一方、上記酸素透過係数の下限としては、特に限定されないが、製造コストの低減の観点から0.1mL/(m
2・day・atm)が好ましい。フィルムの酸素透過係数は、使用するガスバリア樹脂の種類、積層フィルムとする場合のA層の厚み及び積層数等を調整することにより制御できる。
【0102】
[フィルムの張力付与前後のMD方向の長さ比]
本実施形態に係るフィルムの上記張力付与前後のMD方向の長さ比L
2/L
1の上限としては、1.5であり、1.4が好ましく、1.3がより好ましく、1.28がさらに好ましく、1.25が特に好ましい。上記長さ比L
2/L
1を上記好ましい上限以下とすることにより、使用に伴うガスバリア性の低下をより抑制できる。一方、上記長さ比L
2/L
1の下限としては、特に限定されないが、繰り返し使用時の寸法安定性の観点から、0.7が好ましく、0.8がより好ましく、1.0が特に好ましい。フィルムの上記長さ比L
2/L
1は、使用するガスバリア樹脂及びエラストマーの種類、積層フィルムとする場合の各層の厚み及び積層数、後述するフィルム成形時のエアースリットの圧力及びドロー比等を調整することにより制御できる。
【0103】
[フィルムの破断伸度比]
本実施形態に係るフィルムのMD方向及びTD方向の破断伸度をそれぞれE
MD及びE
TDとしたとき、破断伸度の比E
TD/E
MDの下限としては、0.9が好ましく、1.0がより好ましく、1.1がさらに好ましく、1.2が特に好ましく、1.3が最も好ましい。また、上記破断伸度比E
TD/E
MDの上限としては、1.7が好ましく、1.6がより好ましい。上記破断伸度比E
TD/E
MDを上記範囲内とすることにより耐衝撃性を向上させつつ、使用に伴うガスバリア性の低下をより抑制できる。フィルムの上記破断伸度比E
TD/E
MDは、使用するガスバリア樹脂及びエラストマーの種類、積層フィルムとする場合の各層の厚み及び積層数、後述するフィルム成形時のエアースリットの圧力及びドロー比等を調整することにより制御できる。なお、本実施形態に係るフィルムのE
MDは、例えば200%以上800%以下である。また、本実施形態に係るフィルムのE
TDは、例えば200%以上800%以下である。
【0104】
[用途等]
本実施形態のフィルムは、ガスバリア樹脂とエラストマーとを有するため、ガスバリア性、延伸性等に優れる。よって、本実施形態のフィルムはストレッチフィルムに好適である。特に、本実施形態のフィルムは、使用に伴うガスバリア性の低下を抑制できるため、繰り返し使用されるストレッチフィルムとして好適である。また、本実施形態のフィルムは、外面に保護層、エンボス加工層、ゴム層等を設けた成形体として、養生シート等の各種シート材、空気入りタイヤのインナーライナー、サイレージフィルム、ガスケット、アキュムレーターの内袋、空気入りボール、空気ばね等に好適に用いられる。
【0105】
<フィルムの製造方法>
本発明の一実施形態に係るフィルムの製造方法として、上述したA層及びB層を有する積層フィルムの製造方法について説明する。
【0106】
上記積層フィルムの製造方法は、A層とB層とが良好に積層及び接着される方法であれば特に限定されるものではなく、例えば共押出、貼り合わせ、コーティング、ボンディング、付着等の公知の方法を採用することができる。
【0107】
上記積層フィルムの製造方法としては、A層を形成するポリマー(A層形成材料)と、B層を形成するポリマー(B層形成材料)とを共押出する工程を備える製造方法が好ましい。この製造方法によれば、A層及びB層を同時に成形することができるため、上記特性を備えた積層フィルムを容易かつ確実に製造できる。
【0108】
多層共押出法においては、A層を形成するポリマーとB層を形成するポリマーとが加熱溶融され、異なる押出機やポンプからそれぞれの流路を通って押出ダイに供給され、押出ダイから多層の状態で押し出されて上記積層フィルムが形成される。この押出ダイとしては、例えばマルチマニホールドダイ、フィールドブロック、スタティックミキサー等を用いることができる。
【0109】
なお、A層及びB層を形成する各ポリマーの粘度の関係に関し、以下の溶融粘度比であることが好ましい。すなわち、温度210℃、剪断速度1,000/秒でのA層のポリマーの溶融粘度(η
A)とB層のポリマーの溶融粘度(η
B)との比(η
B/η
A)の下限としては、0.3が好ましく、0.5がより好ましい。一方、この溶融粘度比(η
B/η
A)の上限としては、2が好ましく、1.5がより好ましい。溶融粘度比(η
B/η
A)を上記範囲とすることによって、上記積層フィルムの外観が良好となり、また、A層とB層との間の接着が良好となって上記積層フィルムの耐久性等を向上させることができる。
【0110】
上記積層フィルムの製造方法は、共押出により得られた構造体(積層体)に電子線を照射する工程を備えることが好ましい。電子線照射により、層間の架橋反応が生じ、得られる積層フィルムの層間接着力を高めることができる。電子線源としては、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を使用できる。
【0111】
本実施形態における好ましい製造方法の具体例として、A層の両面にB層が積層された三層構造の積層フィルムを製造する例について
図2を参照しながら説明する。
図2に示す製膜装置は、ポリマー(ポリマー60/ポリマー50/ポリマー60)を押し出す押出ダイ70と、押出ダイ70から押し出された上記ポリマーからなる積層体100を搬送する第1搬送ロール80及び第2搬送ロール90と、積層体100の第1搬送ロール80とは反対側に配設されるエアースリット110とを備える。この製膜装置により、A層を形成するポリマー50とB層を形成するポリマー60とを押出ダイ70から共押出し、この押出ダイ70から押し出された上記ポリマーからなる積層体100を第1搬送ロール80及び第2搬送ロール90等により搬送させながら延伸することにより、積層フィルムが得られる。なお、
図2において、押出ダイ70、第1搬送ロール80、第2搬送ロール90及びエアースリット110については、断面構造を示すハッチングを省略している。
【0112】
積層体100を搬送する際、第1搬送ロール80の回転速度をR
1とし、第2搬送ロール90の回転速度をR
2としたとき、回転速度比(R
2/R
1)(以下、「ドロー比」ともいう。)を大きくするほど、ポリマー50に含まれるガスバリア樹脂の高分子結晶のMD方向への配向を促進させることができる。ドロー比の下限としては、1.0が好ましく、1.05がより好ましい。ドロー比の上限としては、1.5が好ましく、1.4がより好ましい。ドロー比を上記範囲内とすることにより、積層フィルムのMD方向への配向を適度に調整できる。また、エアースリット110から積層体100へエアーAを吹き付けて積層体100と第1搬送ロール80との接触を早めると、延伸工程時間が長くなるため、この方法によっても積層フィルムのMD方向への配向を促進させることができる。この際、エアースリット110に導入するエアーの圧力を調整することにより、延伸工程時間を制御できる。エアースリット110に導入するエアーの圧力の下限としては、0.01MPaが好ましく、0.05MPaがより好ましい。エアーAの圧力の上限としては、0.5MPaが好ましく、0.4MPaがより好ましい。エアースリット110に導入する際の圧力を上記範囲内とすることにより、積層フィルムのMD方向への配向を適度に調整できる。なお、積層フィルムのMD方向への配向が促進されるほど、積層フィルムの上記MD方向の長さ比L
2/L
1及び破断伸度比E
TD/E
MDは大きくなる傾向がある。
【0113】
<成形体>
本発明の一実施形態に係る成形体は、上述した本発明の一実施形態に係るフィルムを備える。本実施形態の成形体は、例えば上記フィルムの外面に保護層、エンボス加工層、ゴム層等を設けることによって得られる。この成形体は、上述したように養生シート等の各種シート材などに好適に用いられる。本実施形態の成形体によれば、上記フィルムを備えるため、例えば成形体を成形する際にフィルムに張力をかけて延伸したり、使用の際に繰り返し張力がかけられたりしてもフィルムのガスバリア性を維持できる。
【0114】
本実施形態の成形体は、上記フィルムの外面に積層されるジエン系ゴム層(C)(以下、「C層」ともいう。)をさらに備えることが好ましい。この構成により、例えば空気入りタイヤのインナーライナー、アキュムレーターの内袋、空気入りボール、空気ばね等に適用することができる。
【0115】
好ましい構造を有する成形体としては、
図3(a)に示す成形体30、及び
図3(b)に示す成形体40を挙げることができる。
図3(a)に示す成形体30は、
図1(a)の積層フィルム10の一方の外面にC層4を積層したものである。
図3(b)に示す成形体40は、
図1(b)の積層フィルム20の一方の外面にC層4を積層したものである。
【0116】
なお、本実施形態の成形体においては、C層は、フィルムの両外面に積層されていてもよい。また、本実施形態の成形体は、A層、B層及びC層以外の他の樹脂層等を有していてもよい。
【0117】
本実施形態の成形体において、A層及びB層(B1層及びB2層)は、上述した積層フィルムと同様である。
【0118】
C層は、ジエン系ゴムを含むゴム材料から形成されている。ジエン系ゴムとは、主鎖中に炭素−炭素二重結合を有するゴムをいう。ジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、シス−1,4−ポリブタジエン(BR)、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン(1,2BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられる。これらのジエン系ゴムは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0119】
なお、C層は、ジエン系ゴムのみから形成されていてもよいが、本発明の効果を阻害しない範囲で、ジエン系ゴム以外の成分が含有されていてもよい。他の成分としては、例えば軟化剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、充填剤等を挙げることができる。
【0120】
C層の1層の平均厚みとしては、特に限定されないが、下限としては10μmが好ましく、100μmがより好ましい。一方、この上限としては、5mmが好ましく、1mmがより好ましい。
【0121】
図3(a)及び(b)において、C層4と、C層4に隣接するB1層2とは、例えば架橋反応(加硫反応)により界面で結合している。特に、B1層2が二重結合を含むスチレン系エラストマーを含有するポリマーから形成されている場合、上記架橋反応を容易に行うことができる。
【実施例】
【0122】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって限定されるものではない。
【0123】
[ペレットの製造]
冷却装置及び攪拌機を有する重合槽に酢酸ビニル85.1質量部、メタノール26.4質量部、重合開始剤として2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)をメタノール中に2.0g/Lで溶解したメタノール溶液を0.56質量部仕込み、攪拌しながら窒素置換後、温度60℃、圧力3.7MPaでエチレンを導入し、上記重合開始剤のメタノール溶液と同じ組成の溶液を1.7質量部/hrの速度で添加しながら、その温度及び圧力を保持して4時間攪拌することにより重合させた。次いで、ソルビン酸0.0426質量部(仕込み酢酸ビニルに対して0.05質量%)をメタノールに溶解し、1.5質量%溶液にして添加した。重合率は、仕込み酢酸ビニルに対して40%であった。この共重合反応液を分離塔に供給し、塔下部からのメタノール蒸気の導入により未反応酢酸ビニルを塔頂より除去した後、この共重合体の40質量%メタノール溶液を得た。
【0124】
得られた共重合体のメタノール溶液をケン化反応器に導入し、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(85g/L)を共重合体中の酢酸ビニル成分に対して0.5当量となるように添加し、さらにメタノールを添加して共重合体濃度が15質量%になるように調整した。反応器内温度を60℃に昇温し、反応器内に窒素ガスを吹き込みながら5時間反応させた。その後、酢酸で中和し反応を停止させて内容物を反応器より取り出し、常温に放置することにより粒子状に析出させた。析出後の粒子を遠心分離機で脱液し、さらに大量の水を加えて脱液する操作を繰り返し、エチレン単位含有量32.0モル%、ケン化度99.5%のEVOHを得た。
【0125】
得られたEVOHを、酢酸水溶液(酢酸濃度0.5g/L)を用いて、浴比20(酢酸水溶液/EVOHの質量比が20)で処理し、乾燥後、押出機にてペレット化し、EVOHペレット(A−1)を得た。ペレット(A−1)のメルトフローレート(MFR)は5.8g/10分(温度190℃、荷重2160g)であり、酢酸含有量は400質量ppmであった。また、ペレット(A−1)のTgを、JIS K 7121(2012年)に準じ、TA Instrument社のDSC装置「Q2000」により測定した結果、57℃であった。なお、以下で説明するガスバリア層に用いた樹脂のTgについても上記と同様に測定した。
【0126】
上記で得られたペレット(A−1)を用い、東芝機械社の二軸押出機「TEM−35BS」(スクリュー径(D)37mm、スクリュー長さ(L)/スクリュー径(D)=52.5)を使用し、下記押出条件にて触媒添加下でEVOHに1,2−エポキシブタンを反応させ、未反応の1,2−エポキシブタンをベントより除去し、次いで触媒失活剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム水和物8.0質量%水溶液を添加し、ペレット化を行った後、乾燥を行い、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(II)として下記の構造を有する1,2−エポキシブタン変性のEVOHを含むペレット(A−2)を得た。
【0127】
【化3】
【0128】
(押出条件)
シリンダー、ダイ温度設定:樹脂フィード口/シリンダー部入口/アダプター/ダイ=160℃/200℃/240℃/240℃
スクリュー回転数:400rpm
エチレン−ビニルアルコール共重合体フィード量:15kg/hr
1,2−エポキシブタンフィード量:2.8kg/hr(フィード時の圧力6MPa)
触媒溶液フィード量:0.32kg/hr
触媒調製方法:亜鉛アセチルアセトナート一水和物28質量部を、1,2−ジメトキシエタン957質量部と混合し、混合溶液を得た。得られた混合溶液に、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸15質量部を添加し、触媒溶液を得た。すなわち、亜鉛アセチルアセトナート一水和物1モルに対して、トリフルオロメタンスルホン酸1モルを混合した溶液を調製した。
触媒失活剤水溶液フィード量:0.15kg/hr
【0129】
得られたペレット(A−2)のMFRは3.5g/10分(温度190℃、荷重2160g)であった。また、ペレット(A−2)の酢酸含有量は420質量ppm、亜鉛イオン含有量は140質量ppm、ナトリウム含有量は140質量ppm、リン酸化合物含有量はリン酸根換算で20質量ppm、トリフルオロメタンスルホン酸イオン含有量は290質量ppmであった。また、ペレット(A−2)を構成するEVOHの構造単位(II)の導入量(1,2−エポキシブタン変性量)は
1H−NMR(内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:d
6−DMSO)により得られた値として6.7モル%であった。
【0130】
また、ペレット(A−1)を用いてペレット(A−2)を得る過程において、エポキシブタンの代わりにエポキシプロパンを使用した以外は同様の条件でペレットの製造を行い、エチレン単位含有量32.0モル%、エポキシプロパン変性量6.7モル%のEVOHを含むペレット(A−3)を得た。
【0131】
以下、上述した(A−1)、(A−2)及び(A−3)以外に実施例のガスバリア層に用いた樹脂の詳細を示す。
(A−4)クラレ社のEVOH「EVAL L171」;エチレン単位含有量27モル%
(A−5)クラレ社のEVOH「EVAL E171」;エチレン単位含有量44モル%
(A−6)東レ社のナイロン6「アミランCM1021FS」
(A−7)ネイチャーワークスジャパン社のポリ乳酸(PLA)「PLA6201D」
【0132】
[ポリメタアリルアルコール(A−8)の製造]
攪拌機及び採取管が取り付けられたオートクレーブ内を窒素で置換した後、精製されたメタクリル酸メチル100質量部、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.0052質量部、及びn−オクチルメルカプタン0.28質量部を入れ、撹拌して、原料液を得た。かかる原料液中に窒素を送り込み、原料液中の溶存酸素を除去した。オートクレーブと配管で接続された槽型反応器に容量の2/3まで上記原料液を入れた。温度を140℃に維持して先ずバッチ方式で重合反応を開始させた。重合転化率が55%になったところで、平均滞留時間150分となる流量で、上記原料液をオートクレーブから槽型反応器に供給し、且つ原料液の供給流量に相当する流量で、反応液を槽型反応器から抜き出して、温度140℃に維持し、連続流通方式の重合反応に切り替えた。切り替え後、定常状態における重合転化率は55%であった。
【0133】
定常状態になった槽型反応器から抜き出される反応液を、平均滞留時間2分間となる流量で内温230℃の多管式熱交換器に供給して加温した。次いで加温された反応液を断熱フラッシュ蒸発器に導入し、未反応モノマーを主成分とする揮発分を除去して溶融樹脂を得た。揮発分が除去された溶融樹脂を内温260℃の二軸押出機に供給してストランド状に吐出し、ペレタイザーでカットして、Tgが120℃、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の割合が100質量%であるペレット状のメタクリル樹脂を得た。
【0134】
次いで、冷却器付き反応容器に水素化リチウムアルミニウム250質量部を仕込み、窒素置換し、N−メチルモルホリン3,000質量部を添加した後、130℃に加熱し還流させた。これに上記で合成したメタクリル樹脂600質量部とN−メチルモルホリン24kg(6,000質量部)からなる溶液を添加し、滴下終了後さらに4時間還流させた。その後、酢酸エチル1,000質量部を滴下して未反応の水素化物を失活させ、さらに50質量%リン酸水溶液5,000質量部を滴下した。冷却後、遠心分離により上澄みと固形分に分離した。得られた上澄みを蒸留水に加え重合体1を析出させた。また、得られた固形分に10,000質量部のエタノールを加え、60℃、1時間加熱溶解した後、グラスフィルターで濾過し、得られた濾液をエバポレーターにより濃縮し、蒸留水に加え重合体2を析出させた。析出によって得られた重合体1及び2を合わせて、100℃の蒸留水に加え、煮沸することにより十分洗浄した。洗浄後、濾過し、熱風乾燥機中80℃で3時間、引き続き120℃で24時間乾燥し、樹脂(A−8)としてポリメタアリルアルコールを得た。
【0135】
[TPUペレット(B2−1)の製造]
20質量ppmのジブチルスズジアセテートを含むポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱化学社の「PTMG2000」)74.2質量%、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート21.4質量%、1,4−ブタンジオール3.9質量%及び3−メチル−1,5−ペンタンジオール0.6質量%の割合で、加熱下、液状状態で一括して定量ポンプによって2軸押出機(L/D=30)に連続供給し、260℃で重合を行った。次いでペレット化してTPUペレット(B2−1)を製造した。
【0136】
[TPUペレット(B2−2)の製造]
1,4−ブタンジオールとアジピン酸とを反応させることによって得られた1分子あたりの水酸基数が2.0モルであり、数平均分子量が1,000であるポリエステルジオール68.8質量%、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート27.5質量%、及び1,4−ブタンジオール3.7質量%の混合物を、多軸スクリュー型押出機(ダイス温度260℃)で20分間溶融混練することによって、TPU(JIS B 7727(2000年)に準拠するショアーA硬度:85)を製造した。次いでペレット化してTPUペレット(B2−2)を得た。
【0137】
以下、上述した(B2−1)及び(B2−2)以外に実施例及び比較例の内側エラストマー層に用いたエラストマーの詳細を示す。
(B2−3)クラレ社のエーテル型TPU「クラミロン9180」
(B2−4)DAICEL EVONIK社のポリアミド系エラストマーペレット「E40−S1」
(B2−5)宇部興産社のポリアミド12エラストマーペレット「UBESTA XPA」
(B2−6)三井化学社の無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体エラストマーペレット「タフマーMH7010」
(B2−7)三井化学社の無水マレイン酸変性エチレンープロピレン共重合体エラストマーペレット「タフマーMP0610」
【0138】
以下、実施例及び比較例の外側エラストマー層に用いたエラストマーの詳細を示す。
(B1−1)ダイセル社のエポキシ変性SBS「エポフレンドAT501」
(B1−2)ダイセル社のエポキシ変性SBS「エポフレンドCT310」
(B1−3)旭化成ケミカルズ社の無水マレイン酸変性SBS「タフプレン912」
(B1−4)旭化成ケミカルズ社の未変性SBS(スチレン/ブタジエン比40/60)「タフプレンA」
(B1−5)JSR社のSIS(スチレン/イソプレン比20/80)「SIS5250」
(B1−6)日本ゼオン社のSIS(スチレン/イソプレン比48/52)「クインタック3390」
(B1−7)クレイトンポリマージャパン社の無水マレイン酸変性水素化SBS「FG1901」
(B1−8)三菱化学社のオレフィン系熱可塑性エラストマー「サーモラン3755B/N」
【0139】
[実施例1]
EVOHペレット(A−2)、TPUペレット(B2−1)及びSBSペレット(B1−1)を用い、交互にガスバリア層(EVOHペレット(A−2))が17層及び内側エラストマー層(TPUペレット(B2−1))が18層積層され、両最外層として外側エラストマー層(SBSペレット(B1−1))が積層される積層フィルムが得られるように、35層(ガスバリア層+内側エラストマー層)+2層(外側エラストマー層)の計37層用フィードブロックにて、各ポリマーを共押出機に185℃の溶融状態で供給した。次いで共押出することにより各ポリマーを合流させ、多層の積層体とした。この際、フィードブロック内にて各層を形成するポリマーの流路を表層側から中央側に向かうにつれ徐々に厚くなるように変化させることにより、押出された積層体の各層の厚みが均一になるようにした。このようにして得られた計37層からなる積層体を、表面温度30℃に保たれたキャスティングロール(
図2の第1搬送ロール80に相当)上に押出した。また、キャスティングロールから高さ3cmの場所にエアー噴出し口の隙間が0.3mmのエアースリットを配設し、キャスティングロールの回転速度R
1と冷却ロール(
図2の第2搬送ロール90に相当)の回転速度R
2との速度比をコントロールできるようにし、ドロー比(R
2/R
1)=1.0とした。そして、エアースリットからのエアー圧力を0.2MPaにコントロールし、エアーを吹き付けることでキャスティングロール上に積層体を接触させ、冷却ロールで巻き取ることにより実施例1の積層フィルムを得た。なお、EVOHペレット(A−2)、TPUペレット(B2−1)及びSBSペレット(B1−1)の溶融物が合流してからキャスティングロール上で急冷固化されるまでの時間が約4分となるように流路形状及び総吐出量を設定した。
【0140】
上記のようにして得られた積層フィルムは、キーエンス社の形状測定レーザマイクロスコープ「VK−X200」にて断面観察を行い、ランダムに選択された10点で各層の1層の平均厚みを測定した結果、ガスバリア層、内側エラストマー層及び外側エラストマー層のそれぞれの1層の平均厚みが0.3μm、2.9μm及び5.0μmであった。また、全層の合計厚みは、67.3μmであった。
【0141】
[実施例2〜32及び比較例1、4、5]
各層のポリマー(樹脂材料)の種類、層数、1層の平均厚み、エアースリットのエアー圧力、及びドロー比を表1及び表2に示すように変更したこと以外は、上記実施例1と同様にして実施例2〜32及び比較例1、4、5の積層フィルムを得た。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
【0144】
[物性評価]
得られた積層フィルムについて、以下に記載の方法により各種物性を評価した。結果を表3及び表4に示す。
【0145】
(酸素透過係数OTR
1)
得られた積層フィルムについて、MODERN CONTROLS INC.社の酸素透過係数測定装置「MOCONOX−TRAN2/20型」を用いて、温度20℃、相対湿度65%の条件下で、JIS K 7126−2(2006年)(等圧法)に記載の方法に準じて酸素透過係数を測定し、この測定で得られた酸素透過係数をOTR
1とした。
【0146】
(張力付与前後のMD方向の長さ比L
2/L
1)
積層フィルムをMD方向20cm×TD方向20cmにカットしたサンプルの中央部に、MD方向10cm×TD方向10cmの正方形を記し、この正方形の重心を通りMD方向に延びる直線が上記正方形に切り取られる線分の長さをL
1とした。そして、20℃の環境下、このサンプルのMD方向の両端部を掴んで張力を付与し、MD方向に2倍の延伸倍率で延伸させた。この延伸状態を30秒間維持し、その後10秒かけて張力を解放した。張力解放後の上記L
1の測定箇所に対応する箇所のMD方向の長さを測定し、その長さをL
2とした。そして、L
2をL
1で除し、張力を付与する前後でのMD方向の長さ比L
2/L
1を算出した。
【0147】
(破断伸度比E
TD/E
MD)
温度23℃、相対湿度50%の条件下で、ISO527−2に準じて積層フィルムのMD方向の破断伸度(E
MD)及びTD方向の破断伸度(E
TD)を測定し、その比E
TD/E
MDを求めた。
【0148】
(張力付与前後の酸素透過係数比OTR
2/OTR
1)
上記MD方向の長さ比L
2/L
1を測定した後の積層フィルムについて、MODERN CONTROLS INC.社の酸素透過係数測定装置「MOCONOX−TRAN2/20型」を用いて、温度20℃、相対湿度65%の条件下で、JIS K 7126−2(2006年)(等圧法)に記載の方法に準じて酸素透過係数を測定し、この測定で得られた酸素透過係数をOTR
2とした。そして、このOTR
2を上記で測定したOTR
1で除し、酸素透過係数比OTR
2/OTR
1を算出した。この数値が1.5以下である場合、使用に伴って張力がかかった後のガスバリア性の低下を抑制できると判断した。
【0149】
(耐衝撃性)
東洋精機製作所社の「フィルムインパクトテスター」により、直径1/2inchの半球状衝撃頭を用い、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下において衝撃強度の測定を行った。測定は1水準につき10回行い、10回の測定の平均値を求めた。以下の評価基準に基づいてフィルムの耐衝撃性を評価した。
A:衝撃強度20J以上
B:衝撃強度18J以上20J未満
C:衝撃強度16J以上18J未満
D:衝撃強度14J以上16J未満
E:衝撃強度14J未満
【0150】
【表3】
【0151】
【表4】
【0152】
表3及び表4から明らかなように、実施例はいずれも酸素透過係数比OTR
2/OTR
1が1.5以下であった。これに対し比較例はいずれも酸素透過係数比OTR
2/OTR
1が1.5を超えていた。この結果から、本発明によれば、使用に伴うガスバリア性の低下を抑制できることが分かる。
【0153】
なお、各実施例間を比較すると、破断伸度比E
TD/E
MDが1.1以上の実施例1〜5、9、11及び16は、破断伸度比E
TD/E
MDが1.1未満の他の実施例に比べ、耐衝撃性が良好(A評価又はB評価)であった。この結果から、破断伸度比E
TD/E
MDを1.1以上とすることにより、耐衝撃性を向上できることが分かる。